(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】車両用灯具システム
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/14 20060101AFI20250902BHJP
B60Q 1/16 20060101ALI20250902BHJP
B60Q 1/24 20060101ALI20250902BHJP
F21V 23/00 20150101ALI20250902BHJP
【FI】
B60Q1/14 Z
B60Q1/16
B60Q1/24 B
F21V23/00 110
(21)【出願番号】P 2022105693
(22)【出願日】2022-06-30
【審査請求日】2025-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】神戸 祐人
(72)【発明者】
【氏名】中島 航
(72)【発明者】
【氏名】神原 健
【審査官】河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032803(JP,A)
【文献】特開2018-034758(JP,A)
【文献】特開2019-199224(JP,A)
【文献】特開2013-086596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 1/00-1/56
F21V 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変に設定される配光パターンの照射光を車両前方へ照射可能な車両用灯具システムであって、
前記車両前部の左側に配置された第1灯具と右側に配置された第2灯具を含み、
前記車両の存在する位置が悪天候である場合
であって、
前方車両が存在しない場合、前記車両との距離が所定の閾値以上である先行車両が存在する場合又は前記車両の前方に対向車両が存在する場合に前記車両からの前方視での水平線より上方について、前記第1灯具の照射可能範囲のうち前記車両の前方中央から前方左側の
所定範囲を第1光照射範囲に設定するとともに前記第2灯具の照射可能範囲について減光範囲ないし非照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
車両用灯具システム。
【請求項2】
前記第1光照射範囲は、前記車両の左路肩側へ偏った範囲に設定される、
請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項3】
前記水平線よりも下方について、前記第1灯具及び前記第2灯具のうち少なくとも1つによって光が照射される、
請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項4】
前記水平線よりも上方について、前記第2灯具の照射可能範囲のうち前記車両の対向車線の路肩側へ偏った範囲を第2光照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項5】
前記第2光照射範囲は、前記対向車線の路肩側へ近づくほど上方へ拡大する、
請求項4に記載の車両用灯具システム。
【請求項6】
前記第2光照射範囲は、前記車両の前方右側へ3.6°以上偏った範囲である、
請求項5に記載の車両用灯具システム。
【請求項7】
前記第1灯具及び前記第2灯具の動作制御を行うコントローラを更に含む、
請求項1に記載の車両用灯具システム。
【請求項8】
前記悪天候は、雨天、降雪又は霧発生を含む、
請求項1に記載の車両用灯具システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用灯具システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6032248号公報(特許文献1)には、車両前方が視界不良となる天候状態が検出された場合に、走行路推定部により推定された道路形状に対応する車両前方の路面部分を減光して照射するように前照灯を制御する車両用照明装置が記載されている。この車両用照明装置では、例えば車両前方の路面として推定された部分が減光して照射され、他の部分が通常の照射光で照射されるので、車両前方の走行路の視認性が向上する。しかし、悪天候時において路側帯や歩道など道路脇に存在する歩行者や自転車搭乗者などの視認性については検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示に係る具体的態様は、雨天時等の悪天候時における車両前方の視認性をより向上させることが可能な技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る一態様の車両用灯具システムは、
可変に設定される配光パターンの照射光を車両前方へ照射可能な車両用灯具システムであって、
前記車両前部の左側に配置された第1灯具と右側に配置された第2灯具を含み、
前記車両の存在する位置が悪天候である場合であって、前方車両が存在しない場合、前記車両との距離が所定の閾値以上である先行車両が存在する場合又は前記車両の前方に対向車両が存在する場合に前記車両からの前方視での水平線より上方について、前記第1灯具の照射可能範囲のうち前記車両の前方中央から前方左側の所定範囲を第1光照射範囲に設定するとともに前記第2灯具の照射可能範囲について減光範囲ないし非照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
車両用灯具システムである。
【0006】
上記構成によれば、雨天時等の悪天候時における車両前方の視認性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、コンピュータシステムの構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、雨天時における光幕現象の発生範囲を説明するための図である。
【
図4】
図4は、各ランプユニットによる光の照射可能範囲を説明するための図である。
【
図5】
図5(A)及び
図5(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の一例(照射態様1)を説明するための図である。
【
図6】
図6(A)は、上記した照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。
図6(B)は、比較例1の照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。
図6(C)は、比較例2の照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。
【
図7】
図7(A)及び
図7(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様2)を説明するための図である。
【
図8】
図8(A)及び
図8(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様3)を説明するための図である。
【
図9】
図9(A)及び
図9(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様4)を説明するための図である。
【
図10】
図10は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、一実施形態の車両用灯具システムの構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用灯具システム1は、コントローラ10、カメラ11、雨滴センサ12、車速センサ13、一対のランプユニット(第1灯具/第2灯具)30L、30Rを含んで構成されている。
【0009】
コントローラ10は、各前照灯ユニット30L、30Rによる光照射を制御するものである。このコントローラ10は、例えばプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の記憶デバイス、入出力インターフェースなどを備えたコンピュータシステムを用いて構成することができる。本実施形態のコントローラ10は、予め記憶デバイス(あるいはROM)に記憶されたプログラムがプロセッサによって読み出されて実行されることにより、所定の機能を発揮できる状態となる。
【0010】
カメラ11は、自車両前方の空間を撮影して画像データを生成する機能と、生成した画像データに対して画像認識処理を行うことにより前方車両(先行車両または対向車両)の位置や自車両との距離、歩行者など自車両前方の状況を検出する機能を有する。画像処理機能はコントローラ10側に設けられていてもよい。
【0011】
雨滴センサ12は、自車両の存在する場所における降雨量を検出し、降雨量に応じた変化を示す信号(又はデータ)を出力する。雨滴センサ12としては公知の種々のものを用いることが可能である。一例を挙げると、特開2006-29807号公報に記載されるような、自車両のフロントガラスの内側に設置されて当該ガラスの外面に付着する雨滴を光学的手法によって検出するセンサを用いることができる。
【0012】
車速センサ13は、自車両の車速を検出して車速信号(車速パルス)を出力する。なお、他の用途などで予め自車両に備わっている車速センサがある場合にはそれを車速センサ13として用いてもよい。
【0013】
上記したコントローラ10は、プログラム実行によって実現される機能ブロックとしての前方車両検出部20、天候検出部21、配光制御部22を含んで構成されている。
【0014】
前方車両検出部20は、カメラ11から出力されるデータに基づいて、前方車両の有無、前方車両の位置、自車両との距離、前方車両の種別(対向車両/先行車両)などを検出する。
【0015】
天候検出部21は、雨滴センサ13の出力に基づいて天候状態、具体的には雨量を検出する。天候検出部21は、雨量が所定値を超えた場合にはその旨(雨天であること)を配光制御部22へ出力する。
【0016】
配光制御部22は、前方車両検出部20によって検出される前方車両の有無、前方車両の位置、自車両との距離、前方車両の種別(対向車両/先行車両)や天候検出部21によって検出される天候状態などに基づいて、各ランプユニット30L、30Rによるハイビームの照射範囲内における配光パターンを設定し、当該配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する。
【0017】
一対のランプユニット30L、30Rは、自車両前部の左右の所定位置に搭載されており、コントローラ10から与えられる制御信号に応じて動作して自車両前方へ所望の配光パターンによる光を照射する。各ランプユニット30L、30Rは、ドライバ31と、このドライバ31によって駆動されるLEDアレイ32を備える。LEDアレイ32は、二方向に配列された複数のLED(Light Emitting Diode)を有しており、各LEDの点灯状態がドライバ31によって個別に制御されることで配光パターンを可変に設定することができる。
【0018】
なお、ランプユニット30L等の構成はこれに限定されず公知の種々の構成を採用することができる。例えば、光源バルブと反射鏡や遮蔽板を組み合わせた構成のランプユニットを用いてもよい。また、光源と液晶素子などを備え、液晶素子の各画素の光透過状態を個別に制御可能なランプユニットを用いてもよい。また、レーザダイオードなどの発光素子と、この発光素子から出射する光を走査するミラーデバイス等の走査素子などを備え、発光素子の点消灯のタイミングと走査素子による走査タイミングを制御可能なランプユニットを用いてもよい。さらに、ランプユニット30L等の中に複数の個別ランプユニットを有するように構成し、各個別ランプユニットはそれぞれが異なる固定配光を照射できるものとし、これらの個別ランプユニットの切り替えでランプユニット30L等としての配光パターンを変えるものとしても良い。また、ランプユニット30L自体を複数のランプユニットにより構成し、この切り替えにより配光パターンを切り替えることも可能である。
【0019】
図2は、コンピュータシステムの構成例を示す図である。上記したコントローラ10は、例えば図示のようなコンピュータシステムを用いて構成することが可能である。CPU(中央演算ユニット)201は、記憶デバイス204に格納されたプログラム207を読み出してこれを実行することにより情報処理を行う。ROM(読み出し専用メモリ)202は、CPU201の動作に必要な基本制御プログラムなどを格納する。RAM(一時記憶メモリ)203は、CPU201の情報処理に必要なデータを一時記憶する。記憶デバイス204は、データを記憶するための大容量記憶装置であり、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどで構成される。通信デバイス205は、外部の他装置との間でのデータ通信に係る処理を行う。入出力部206は、外部装置との接続を図るインターフェースであり、本実施形態ではカメラ11、雨滴センサ12、車速センサ13、各ランプユニット30L、30Rとの間の接続に用いられる。CPU201等の相互間はバスにより相互に通信可能に接続されている。
【0020】
図3は、雨天時における光幕現象の発生範囲を説明するための図である。自車両の運転者の視点位置をPとする。右ハンドルの車両を想定し、視点位置Pは自車両の前後方向中心から右側へ偏った位置にあるとする。また、自車両において視点位置Pよりも前側の左右に各ランプユニット30L、30Rが配置されているとする。
図3ではこれらの位置を上から見た位置関係が模式的に示されている。雨天時には、平面視において運転者の視点位置Pと各ランプユニット30L、30Rの位置を結んだ線によって囲まれる範囲Qにおいて光幕現象が発生し得る。本実施形態における光幕現象とは、車両前方の空間に存在する雨滴に強い光が当たることによって光が散乱して靄状になる現象をいう。この光幕現象が生じた際には、道路脇(路肩や歩道)に存在する歩行者の輝度と背景輝度のコントラスト(輝度差)が小さくなり、自車両の視点位置Pから見た歩行者の視認性が低下する可能性がある。また、車両前方に靄が生じることで運転者が煩わしさを感じる可能性がある。
【0021】
図4は、各ランプユニットによる光の照射可能範囲を説明するための図である。
図4では自車両から前方道路を見た様子が模式的に示されている。図中、H線は水平方向を示す仮想線(水平線)であり、V線は車両の前方中央の鉛直方向を示す仮想線(鉛直線)である。H線は、鉛直方向0°の位置を左右方向に延びている。V線は、水平方向0°の位置(自車両の正面の中心位置)を鉛直方向に延びている。点線で例示するように、ロービーム41は、一般にその大部分がこのH線よりも下側に照射される。なお、ロービーム41は、各ランプユニット30L、30Rに含まれる図示しないロービーム用光源によって照射されるものとする。
【0022】
図中に実線で示す略楕円状の範囲は、ランプユニット30Lによって照射されるハイビーム40Lの照射可能範囲である。このハイビーム40Lは、V線に対して相対的に左側へ偏った範囲で照射可能であり、自車両のほぼ前方から自車両左側の道路脇にかけて照射可能である。また、ハイビーム40Lは、鉛直方向についてはH線を基準に上側から下側にかけて照射可能である。図中に一点鎖線で示す略楕円状の範囲は、ランプユニット30Rによって照射されるハイビーム40Rの照射可能範囲である。このハイビーム40Rは、V線に対して相対的に右側へ偏った範囲で照射可能であり、自車両のほぼ前方から自車両右側の路肩にかけて照射可能である。また、ハイビーム40Rは、鉛直方向についてはH線を基準に上側から下側にかけて照射可能である。
【0023】
図示のように、ハイビーム40Lの照射可能範囲とハイビーム40Rの照射可能範囲とは自車両の前方において部分的に重なっている。また、ハイビーム40L、40Rの各々の照射可能範囲の下側は部分的にロービーム41と重なっている。各ハイビーム40L、40Rは、それぞれの照射可能範囲内の任意の部分を選択的に減光範囲(または非照射範囲。以下において同様。)とすることができる。各ハイビーム40L、40Rによる照射可能範囲を合わせたハイビーム全体としての照射可能範囲は、少なくとも、左右方向についてV線を基準に±12°の範囲、鉛直方向についてH線を基準に上方向に2°以上かつ下方向に0°以下の範囲を含むことが好ましい。
【0024】
図5(A)及び
図5(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の一例(照射態様1)を説明するための図である。
図5(A)では自車両から前方道路を見た様子が模式的に示されており、
図5(B)では自車両を上から見た様子が模式的に示されている。各図に示すように、本実施形態の車両用灯具システムでは、雨天時には自車両50の各ランプユニット30L、30Rのうち、ランプユニット30Lについては相対的に左側のみを選択的に照射するようにハイビーム40Lの光照射範囲を狭めて光照射が行われる。
図5(A)ではハイビーム40Lにおける光照射範囲を斜線模様により示している。ハイビーム40Lのうち斜線模様の付されていない部分は減光範囲である。
【0025】
一例として、ハイビーム40Lの光照射範囲の右端は0°(V線位置)以上(V線位置より左側)とすることが好ましい。また、ハイビーム40Lの光照射範囲は、1°以上左側として自車両の左の道路脇側へ偏るようにすることがより好ましい。また、ハイビーム40Lの光照射範囲の下端は0°(H線位置)とすることが好ましいが、下側0.05°程度までであり、これより下側までとなるようにしてもよい。
【0026】
また、ランプユニット30Rについては消灯させるように制御される。すなわち、ハイビーム40Rはその全体が減光範囲に設定される。なお、本実施形態における「消灯」の概念には、僅かに点灯させる等の実質的な消灯も含まれる。また、ロービーム41については特に変化なく通常通りに照射される。
【0027】
上記のような照射態様によれば、主に自車両50に対して左側の道路脇方向へ狭い幅で光照射が行われるので、歩行者42に対しては光が照射され、歩行者42よりも右側には光が照射されない状態となる。それにより、歩行者42の輝度と背景輝度とのコントラストを大きくし、歩行者42の視認性を向上させることができる。また、道路脇方向以外の車両正面や車両左方向での背景輝度が低下するので、光幕による煩わしさが軽減される。
【0028】
なお、ハイビーム40Lの光照射範囲のうち、歩行者42に対応する所定範囲の照度がより大きくなるようにランプユニット30Lを制御してもよい。また、ハイビーム40Lの光照射範囲の大きさ(左右方向幅)は、カメラ11からの画像データを用いた画像認識処理によって検出される道路形状や車速センサ13によって検出される自車両50の車速などに応じて可変に設定してもよい。例えば、車速が大きくなるほど光照射範囲の幅を狭めるといった態様が考えられる。
【0029】
図6(A)は、上記した照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。また、
図6(B)は、比較例1の照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。この比較例は、雨天時においてハイビーム40L、40Rの全体を光照射範囲とした場合のコントラストを示している。また、
図6(C)は、比較例2の照射態様による歩行者の輝度と背景輝度のコントラストについて説明するための図である。この比較例は、晴天時においてハイビーム40L、40Rの全体を光照射範囲とした場合のコントラストを示している。各図において縦軸は輝度を示し、横軸は左右方向位置を示している。本実施形態の照射態様(
図6(A))と比較例1(
図6(B))を対比すると、本実施形態のほうが歩行者の位置での輝度とその右側の背景輝度との差がより大きくなり、コントラストが大きくなることが分かる。本実施形態の照射態様による歩行者の輝度とその右側の背景輝度との関係は、比較例2(
図6(C))に示すような晴天時における関係と近いものになる。従って、雨天時における歩行者の視認性が向上する。
【0030】
図7(A)及び
図7(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様2)を説明するための図である。なお、
図5(A)、
図5(B)と共通する要素については同符号を用いた上で詳細な説明を適宜省略する。この照射態様2では、上記した照射態様1でのハイビーム40Lの光照射範囲に加えてH線以下の範囲も光照射範囲としている。それにより、光幕となりにくいH線以下の範囲の照度が大きくなり自車線の視認性がより向上する。
【0031】
図8(A)及び
図8(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様3)を説明するための図である。なお、
図5(A)、
図5(B)と共通する要素については同符号を用いた上で詳細な説明を適宜省略する。この照射態様3では、上記した照射態様2でのハイビーム40Lの光照射範囲に加え、ハイビーム40RについてもH線以下の範囲を光照射範囲としている。それにより、光幕となりにくいH線以下の範囲の照度がさらに大きくなり自車線の視認性がより向上する。
【0032】
図9(A)及び
図9(B)は、雨天時におけるハイビームの照射態様の他の例(照射態様4)を説明するための図である。なお、
図5(A)、
図5(B)と共通する要素については同符号を用いた上で詳細な説明を適宜省略する。この照射態様4では、上記した照射態様
3でのハイビーム40L、40Rのそれぞれの光照射範囲に加え、ハイビーム40Rについて右3.6°以上の範囲も光照射範囲としている。図示の例では右3.6°の位置から右の道路脇へ近づくほど光照射範囲がより上側へ拡大しており、途中からH線を越えている。それにより、光幕となりにくいH線以下の範囲の照度がさらに大きくなり自車線の視認性がより向上するとともに、右の道路脇に存在する歩行者の視認性も向上する。
【0033】
図10は、車両用灯具システムの動作手順を示すフローチャートである。ここに示す動作手順は、一定時間ごとに繰り返し実行されるものとする。なお、各処理の順番については制御結果に不整合を生じない限りにおいて入れ替えることも可能であり、また説明しない他の処理が追加されてもよく、それらの態様も排除されない。
【0034】
天候検出部21により雨天であることが検出され(ステップS11;YES)、前方車両検出部20により前方車両が検出され(ステップS12;YES)、かつ当該前方車両の種別が対向車両ではなく先行車両等と検出されている場合において(ステップS13;NO)、前方車両検出部20により検出される自車両と前方車両との距離が所定の閾値以上である場合に(ステップS14;YES)、配光制御部22は、雨天時に対応した配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する(ステップS15)。これにより、上記した照射態様1~4の何れかによるハイビーム40L、40Rが自車両前方に照射される。何れの照射態様とするかは予め設定されているものとする(以下において同様)。
【0035】
ここで、ステップS14における自車両と先行車両等との距離に関する閾値は、一例として30mとすることができる。この閾値は、以下のような仮定に基づいて得られる。例えば、自車両の走行する車線(自車線)の道幅が3.5mであり、自車両の前を走行する先行車両の車幅が1.8mであって車両の左右方向中心は自車両とほぼ揃っており、歩行者の位置は自車両の前方60mであって自車線の左端から0.5mの位置であり、自車両の運転者の視点位置(
図3参照)は自車両の左右方向中心から右へ0.5mの位置であるという条件を想定する。この場合、先行車両と自車両との距離が30.5mより小さくなると運転者の視点位置から歩行者へ至る視界が先行車両によって遮られる。従って、多少の余裕を考慮して閾値を30mとすることができる。これにより、先行車両と自車両との距離が閾値より小さい場合には雨天時の照射態様が停止され、通常配光が実行される。
【0036】
また、前方車両検出部20により前方車両が検出されていない場合にも(ステップS12;NO)、配光制御部22は、雨天時に対応した配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する(ステップS15)。これにより、上記した照射態様1~4の何れかによるハイビーム40L、40Rが自車両前方に照射される。
【0037】
また、前方車両検出部20により検出された前方車両の種別が対向車両の場合には(ステップS13;YES)、配光制御部22は、雨天時に対応した配光パターンであって対向車線側の少なくともH線の上側は消灯された配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する(ステップS16)。この場合には、上記した照射態様1~3の何れかによるハイビーム40L、40Rが自車両前方に照射される。
【0038】
他方で、雨天ではない場合には(ステップS11;NO)、配光制御部22は、通常(晴天時)に対応した配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する(ステップS17)。また、前方車両が先行車両であって自車両との距離が閾値より小さい場合にも(ステップS14;NO)、配光制御部22は、通常(晴天時)に対応した配光パターンを実現するための制御信号を生成して各ランプユニット30L、30Rへ出力する(ステップS18)。本実施形態での通常の配光パターンとは、ハイビーム40L、40Rについて、前方車両の位置を含む所定範囲を減光範囲としてそれ以外の範囲を光照射範囲とした配光パターンである。このような配光パターンによるハイビームは、ADB(Adaptive Driving Beam)と称される。
【0039】
以上のような実施形態によれば、光幕現象による影響を抑え、雨天時における車両前方の視認性をより向上させることが可能となる。
【0040】
なお、本開示は上記した実施形態の内容に限定されるものではなく、本開示の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。例えば、上記した実施形態において示した数値等の条件はあくまで一例であってこれに限定されない。また、上記した実施形態では道路脇に存在する対象体として歩行者を例示していたが対象体は自転車搭乗者などであってもよい。
【0041】
また、上記した実施形態では雨滴センサ12の出力に基づいて天候検出部21により雨天であることを検出していたが、ワイパースイッチの作動状態に基づいてワイパーが稼働している場合に雨天であることを検出してもよいし、雨天時動作を行わせるためのスイッチを設け、このスイッチを運転者が手動にて切り替えた場合に雨天であることを検出してもよい。さらに、通信を介して得られる天候情報に基づいて雨天であることを検出してもよい。なお、上記した実施形態では悪天候の一例として雨天を挙げていたが降雪や霧発生などを悪天候として検出してもよい。
【0042】
また、上記した実施形態ではカメラ11による画像データを用いた画像処理によって前方車両の有無、種別、位置、相互間距離などを検出していたが、LiDARなどの各種センサを用いて前方車両の有無等を検出してもよい。
【0043】
また、上記した実施形態では四輪車両に搭載される車両用灯具システムを例示していたが本開示の適用範囲はこれに限定されず、四輪車両以外の車両(二輪車両など)も適用範囲に含まれる。
【0044】
また、上記した実施形態では法規上、車両が左側通行と規定されている場合を前提として説明を行っていたが、車両が右側通行と規定されている場合には上記した実施形態における各ランプユニット30L、30Rの動作を左右で入れ替えて反転することで同様にして悪天候時の光照射を行うことができる。
【0045】
本開示は、以下に付記する特徴を有する。
(付記1)
可変に設定される配光パターンの照射光を車両前方へ照射可能な車両用灯具システムであって、
前記車両前部の左側に配置された第1灯具と右側に配置された第2灯具を含み、
前記車両の存在する位置が悪天候である場合に、前記車両からの前方視での水平線より上方について、前記第1灯具の照射可能範囲のうち前記車両の前方中央から前方左側の範囲を第1光照射範囲に設定するとともに前記第2灯具の照射可能範囲について減光範囲ないし非照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
車両用灯具システム。
(付記2)
前記第1光照射範囲は、前記車両の左の道路脇側へ偏った範囲に設定される、
付記1に記載の車両用灯具システム。
(付記3)
前記水平線よりも下方について、前記第1灯具及び前記第2灯具のうち少なくとも1つによって光が照射される、
付記1又は2に記載の車両用灯具システム。
(付記4)
前記車両の前方に先行車両が存在する場合であって当該先行車両と前記車両との距離が所定の閾値以上である場合に前記配光パターンの光が照射される、
付記1~3の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記5)
前記水平線よりも上方について、前記第2灯具の照射可能範囲のうち前記車両の対向車線の道路脇側へ偏った範囲を第2光照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
付記1~4の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記6)
前記第2光照射範囲は、前記対向車線の道路脇側へ近づくほど上方へ拡大する、
付記5に記載の車両用灯具システム。
(付記7)
前記第2光照射範囲は、前記車両の前方右側へ3.6°以上偏った範囲である、
付記6に記載の車両用灯具システム。
(付記8)
前記第1灯具及び前記第2灯具の動作制御を行うコントローラを更に含む、
付記1~7の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記9)
前記悪天候は、雨天、降雪又は霧発生を含む、
付記1~8の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記10)
可変に設定される配光パターンの照射光を車両前方へ照射可能な車両用灯具システムであって、
前記車両前部の右側に配置された第1灯具と左側に配置された第2灯具を含み、
前記車両の存在する位置が悪天候である場合に、前記車両からの前方視での水平線より上方について、前記第1灯具の照射可能範囲のうち前記車両の前方中央から前方右側の範囲を第1光照射範囲に設定するとともに前記第2灯具の照射可能範囲について減光範囲ないし非照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
車両用灯具システム。
(付記11)
前記第1光照射範囲は、前記車両の右の道路脇側へ偏った範囲に設定される、
付記10に記載の車両用灯具システム。
(付記12)
前記水平線よりも下方について、前記第1灯具及び前記第2灯具のうち少なくとも1つによって光が照射される、
付記10又は11に記載の車両用灯具システム。
(付記13)
前記車両の前方に先行車両が存在する場合であって当該先行車両と前記車両との距離が所定の閾値以上である場合に前記配光パターンの光が照射される、
付記10~12の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記14)
前記水平線よりも上方について、前記第2灯具の照射可能範囲のうち前記車両の対向車線の道路脇側へ偏った範囲を第2光照射範囲に設定した前記配光パターンの光が照射される、
付記10~13の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記15)
前記第2光照射範囲は、前記対向車線の道路脇側へ近づくほど上方へ拡大する、
付記14に記載の車両用灯具システム。
(付記16)
前記第2光照射範囲は、前記車両の前方左側へ3.6°以上偏った範囲である、
付記15に記載の車両用灯具システム。
(付記17)
前記第1灯具及び前記第2灯具の動作制御を行うコントローラを更に含む、
付記10~16の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
(付記18)
前記悪天候は、雨天、降雪又は霧発生を含む、
付記10~17の何れか1つに記載の車両用灯具システム。
【符号の説明】
【0046】
1:車両用灯具システム、10:コントローラ、11:カメラ、12:雨滴センサ、13:車速センサ、20:前方車両検出部、21:天候検出部、22:配光制御部、30L、30R:ランプユニット、31:ドライバ、32:LEDアレイ、40L、40R:ハイビーム、41:ロービーム、42:歩行者、50:自車両