(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】心拍間隔測定装置、心拍間隔測定装置のためのコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0245 20060101AFI20250902BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20250902BHJP
A61B 5/08 20060101ALI20250902BHJP
【FI】
A61B5/0245 100E
A61B5/02 350
A61B5/08
A61B5/02 B
(21)【出願番号】P 2022105774
(22)【出願日】2022-06-30
【審査請求日】2024-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】程 帆
(72)【発明者】
【氏名】安野 裕貴
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-297106(JP,A)
【文献】特開2020-075136(JP,A)
【文献】特表2021-536287(JP,A)
【文献】特表2010-524564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 - 5/03
A61B 5/06 - 5/22
A61B 5/24 - 5/398
A61B 7/00 - 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心拍間隔測定装置(10)であって、
心音波形データと、前記心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部(12)と、
前記生体データの特徴量に基づいて、前記心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部(14)と、
選定された前記心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部(16)と、を備えて
おり、
前記生体データが、呼吸波形データであり、
前記呼吸波形データの特徴量が、呼吸波形の傾き又は位相である、心拍間隔測定装置。
【請求項2】
前記データ取得部は、
周波数帯域に基づいて、同一のセンサから取得されたセンサ信号から前記心音波形データと前記呼吸波形データを抽出する、ように構成されている、請求項
1に記載の心拍間隔測定装置。
【請求項3】
前記心拍ピーク選定部は、
前記生体データの特徴量に基づいて決定される所定のルールに従って前記心音波形データの前記心拍ピークを選定する、ように構成されている、請求項
1又は2に記載の心拍間隔測定装置。
【請求項4】
前記心拍ピーク選定部は、
前記生体データに対して時系列的に対応付けられた複数種類のサンプル心音波形データを用意し、
測定対象の前記心音波形データを測定したときの前記生体データの特徴量に基づいて、前記複数種類のサンプル心音波形データから対応するサンプル心音波形データを選択し、
選択した前記サンプル心音波形データと測定対象の前記心音波形データの相関関数のピークを測定対象の前記心音波形データの前記心拍ピークとして選定する、ように構成されている、請求項
1又は2に記載の心拍間隔測定装置。
【請求項5】
前記心拍ピーク選定部はさらに、
測定対象の前記心音波形データを前記サンプル心音波形データとして蓄積及び/又は更新する、ように構成されている、請求項
4に記載の心拍間隔測定装置。
【請求項6】
前記心拍ピーク選定部は、
前記生体データと前記心音波形データを入力
とし、前記心音波形データの前記心拍ピークを出力とする教師データを用いて学習させた学習済みモデルに、測定対象の前記生体データと前記心音波形データと、を入力して前記心音波形データの前記心拍ピークを選定する、ように構成されている、請求項
1又は2に記載の心拍間隔測定装置。
【請求項7】
心拍間隔測定装置(10)のためのコンピュータプログラムであって、前記心拍間隔測定装置を以下の各部、即ち、
心音波形データと、前記心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部(12)と、
前記生体データの特徴量に基づいて、前記心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部(14)と、
選定された前記心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部(16)と、として機能させ
るものであり、
前記生体データが、呼吸波形データであり、
前記呼吸波形データの特徴量が、呼吸波形の傾き又は位相である、コンピュータプログラム。
【請求項8】
前記心拍ピーク選定部は、
前記生体データと前記心音波形データを入力とし、前記心音波形データの前記心拍ピークを出力とする教師データを用いて学習させた学習済みモデルに、測定対象の前記生体データと前記心音波形データと、を入力して前記心音波形データの前記心拍ピークを選定する、ように構成されている、請求項7に記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、心拍間隔測定装置、心拍間隔測定装置のためのコンピュータプログラム及び学習モデルの生成方法に関する。
【0002】
特許文献1及び特許文献2には、心拍間隔の変動からユーザの心理的又は肉体的な状態を監視するための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-124014号公報
【文献】特開2020-075136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
心音波形データを利用して心拍間隔を測定すれば、簡易な装置で心拍間隔を測定することができる。心音波形データを利用して心拍間隔を測定するためには、心音波形データから心拍ピークを正確に抽出し、その心拍ピークから心拍間隔を算出する必要がある。本明細書は、心音波形データから心拍ピークを正確に抽出することにより、心拍間隔を正確に測定することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する心拍間隔測定装置(10)は、心音波形データと、心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部(12)と、生体データの特徴量に基づいて、心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部(14)と、選定された心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部(16)と、を備えていてもよい。この心拍間隔測定装置によると、心音波形データを測定したときの生体データが考慮されるので、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、本明細書が開示する心拍間隔測定装置は、心拍間隔を正確に測定することができる。
【0006】
本明細書が開示する心拍間隔測定装置(10)のためのコンピュータプログラムは、心拍間隔測定装置を以下の各部、即ち、心音波形データと、心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部(12)と、生体データの特徴量に基づいて、心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部(14)と、選定された心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部(16)と、として機能させてもよい。このコンピュータプログラムによると、心音波形データを測定したときの生体データが考慮されるので、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、本明細書が開示する心拍間隔測定装置のためのコンピュータプログラムは、心拍間隔を正確に測定することができる。
【0007】
本明細書が開示する学習モデルを生成する方法は、生体データと心音波形データと心拍ピークを含む複数の教師データを取得し、生体データと心音波形データを入力し、心音波形データの心拍ピークを出力とする学習モデルを生成してもよい。このように生成された学習済みモデルを利用すると、心音波形データを測定したときの生体データが考慮されるので、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、本明細書が開示する生成方法で生成された学習済みモデルを利用すると、心拍間隔を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】心拍間隔測定システムの機能ブロック図の概略を示す。
【
図2】1周期の呼吸における呼吸波形データと心音波形データの一例を示す。
【
図3】呼吸波形データの特徴量に基づいて決定される所定のルールに従って心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【
図5】サンプル心音波形データを利用して心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【
図7】学習済みモデルを利用して心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照してユーザの心拍間隔を測定するためのシステムについて説明する。このシステムで測定されたユーザの心拍間隔の変動を監視することで、ユーザの心理的又は肉体的な状態を推定することができる。例えば、ユーザの心拍間隔の変動を監視することで、ユーザの眠気を推定することができる。このようなシステムは、車両に搭載されてドライバーの眠気を検知するために利用されてもよい。
【0010】
図1に示すように、心拍間隔測定システム1は、心拍間隔測定装置10と、センサ20と、を備えている。心拍間隔測定装置10は、コンピュータによって構成されており、データ取得部12と、心拍ピーク選定部14と、心拍間隔算出部16と、を有している。コンピュータは、CPUと記憶装置と入出力装置を有しており、記憶装置に記憶されているプログラムをCPUで実行することにより、CPUをデータ取得部12と心拍ピーク選定部14と心拍間隔算出部16として機能させ、以下で説明する各種処理を実行することができる。センサ20は、ユーザの心音を検出可能なセンサであり、特に限定されるものではないが、例えばマイクロフォンであってもよい。マイクロフォンであるセンサ20は、ユーザが発する音(後述するように、心音と呼吸音の両方を含む音)を入力し、電気信号であるセンサ信号に変換して心拍間隔測定装置10に出力する。
【0011】
心拍間隔測定装置10のデータ取得部12は、センサ20から出力されたセンサ信号を受信する。データ取得部12はさらに、受信したセンサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。この例では、センサ20が1つのマイクロフォンで構成されているので、データ取得部12は、周波数帯域に基づいて、センサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。この例に代えて、センサ20が2つのセンサ、即ち、心音波形データを選択的に取得するセンサと、呼吸波形データを選択的に取得するセンサと、で構成されていてもよい。この場合、データ取得部12は、一方のセンサから心音波形データを受信し、他方のセンサから呼吸波形データを受信する。
【0012】
図2に、抽出された心音波形データと呼吸波形データを例示する。
図2の(A)が呼吸波形データであり、
図2の(B)が心音波形データである。
図2に示されるように、データ取得部12は、低周波数域を通過させるバンドパスフィルタを利用してセンサ信号から呼吸波形データを抽出し、高周波数域を通過させるバンドパスフィルタを利用してセンサ信号から心音波形データを抽出する。この例では、一周期の呼吸の中に6拍分の心音波形データが現れている。
【0013】
図2の(A)の縦軸が正のとき、呼吸が「吐き」の状態であることを示す。
図2の(A)の縦軸が負のとき、呼吸が「吸い」の状態であることを示す。
図2のT1~T6の各々は、1つの心拍において、その心拍に対して時系列的に対応した呼吸波形データと心音波形データを示す。「T1」は、呼吸の「吸い」が最も強くなった直後の一拍分の呼吸波形データと心音波形データを示している。「T2」は、呼吸の「吸い」から「吐き」に変化するときの一拍分の呼吸波形データと心音波形データを示している。「T3」は、呼吸の吐きが最も強くなったときの呼吸波形データと心音波形データを示している。「T4」は、呼吸の吐きが最も強くなった直後の呼吸波形データと心音波形データを示している。「T5」は、呼吸の「吐き」から「吸い」に変化するときの一拍分の呼吸波形データと心音波形データを示している。「T6」は、呼吸の吸いが最も強くなったときの一拍分の呼吸波形データと心音波形データを示している。
図2のT1~T6に示すように、一拍分の心音波形データは、そのときの呼吸の状態に依存して様々な形状となる。このことから、心拍間隔を測定するために選定すべき心音波形データの心拍ピークは、呼吸の状態を考慮することにより、より正確に選定できることが示唆される。以下で説明するように、心拍間隔測定システム1は、呼吸の状態を考慮して心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている。
【0014】
心拍間隔測定装置10の心拍ピーク選定部14は、データ取得部12から呼吸波形データと心音波形データを受信する。心拍ピーク選定部14はさらに、心音波形データに含まれる一拍分の心音波形データの各々について心拍ピークを選定する。より詳細には、心拍ピーク選定部14は、一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定するときに、その一拍分の心音波形データに対して時系列的に対応付けられた呼吸波形データの特徴量を算出し、その特徴量に基づいて、その一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定する。呼吸波形データの特徴量は、特に限定されるものではないが、例えば呼吸波形の傾き又は位相であってもよい。
【0015】
上記したように、一拍分の心音波形データは、そのときの呼吸の状態に依存して様々な形状となる。このため、一拍分の心音波形データの心拍ピークとすべきタイミングは、そのときの呼吸の状態に影響を受ける。心拍ピーク選定部14は、呼吸波形データの特徴量に基づいて一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定することができるので、より正確に心拍ピークを選定することができる。
【0016】
心拍間隔測定装置10の心拍間隔算出部16は、心拍ピーク選定部14から心音波形データの心拍ピークを受信する。心拍間隔算出部16はさらに、時系列的に隣り合う心拍ピークの間隔、即ち、心拍間隔を算出する。正確な心拍ピークが抽出されているので、算出される心拍間隔も正確なものとなる。心拍間隔測定システム1は、算出された心拍間隔の変動を監視することで、ユーザの心理的又は肉体的な状態を推定することができる。
【0017】
以下、呼吸波形データの特徴量から心音波形データの心拍ピークを選定するいくつかの具体例を例示する。説明するいくつかの具体例は一例であり、他の様々な手法を採用することにより、呼吸波形データの特徴量から心音波形データの心拍ピークを選定することができる。また、以下ではリアルタイム処理で心拍間隔を算出する例を説明するが、この例に代えて、バッチ処理で心拍間隔を算出してもよい。
【0018】
(所定のルールに従った心拍ピークの選定)
図3に、呼吸波形データの特徴量に基づいて決定される所定のルールに従って心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【0019】
まず、ステップS1において、データ取得部12は、センサ20から測定対象のセンサ信号を受信する。
【0020】
次に、ステップS2において、データ取得部12は、周波数帯域に基づいて、センサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。
【0021】
次に、ステップS3において、心拍ピーク選定部14は、呼吸波形データの特徴量に基づいて決められたルールに従って、心音波形データの心拍ピークを選定する。この例では、
図4に示されるように、心拍ピーク選定部14は、一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定するときに、その一拍分の心音波形データに対して時系列的に対応付けられた呼吸波形データが負の場合、心音波形データの最大値(円形で示される)を心拍ピークとして選定する。心拍ピーク選定部14はさらに、一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定するときに、その一拍分の心音波形データに対して時系列的に対応付けられた呼吸波形データが正の場合、心音波形データの最小値(四角形で示される)の次のタイミングの極大値(三角形で示される)を心拍ピークとして選定する。このように、心拍ピーク選定部14は、呼吸波形データの正負(即ち、位相)に基づいて、心音波形の中の所定のピークを心音ピークとする所定のルールに従って、心音波形データの心拍ピークを選定する。このようなルールは一例である。心拍ピークを選定するルールは、例えば、心拍間隔測定システム1が用いられる環境及び/又は心拍間隔測定システム1を使用するユーザに応じて適宜設定されてもよい。
【0022】
ステップS4において、心拍間隔算出部16は、選定された心拍ピークから心拍間隔を算出する。
【0023】
ステップS5において、測定を継続する場合はステップS1に戻り、測定を継続しない場合は終了となる。
【0024】
この方法によると、心拍ピーク選定部14は、呼吸波形データの正負、即ち、呼吸波形データの位相に基づいて決定される所定のルールに従って心音波形データの心拍ピークを選定する。このようなルールは、心拍間隔測定システム1が用いられる環境(例えば、使用用途を含む)に応じて試行錯誤的に設定されてもよい。このように、心拍ピーク選定部14は、呼吸の状態を考慮することにより、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、心拍間隔測定装置10は、心拍間隔を正確に測定することができる。
【0025】
(サンプル心音波形データを利用した心拍ピークの選定)
図5に、サンプル心音波形データを利用して心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【0026】
まず、ステップS11において、データ取得部12は、センサ20からサンプル用のセンサ信号を受信する。
【0027】
次に、ステップS12において、データ取得部12は、周波数帯域に基づいて、サンプル用のセンサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。
【0028】
次に、ステップS13において、心拍ピーク選定部14は、呼吸波形データに対して時系列的に対応付けられた複数種類のサンプル心音波形データを記録する。より詳細には、心拍ピーク選定部14は、1周期の呼吸のうちの特徴的な呼吸の状態に対して時系列的に対応付けられた複数種類のサンプル心音波形データを記録する。この例では、
図2に示されるように、心拍ピーク選定部14は、1周期の呼吸のうちの「T1」~「T6」で示される6拍分のサンプル心音波形データを記録する。心拍ピーク選定部14は、1周期の呼吸のみをサンプリングし、その中に含まれる複数拍分のサンプル心音波形データを記録してもよいし、複数周期の呼吸をサンプリングし、その中から適切な複数拍分のサンプル心音波形データを記録してもよい。また、心拍ピーク選定部14は、6拍分よりも少ないサンプル心音波形データを記録してもよく、6拍分よりも多いサンプル心音波形データを記録してもよい。このように、この例では、測定に先立ってサンプル用のセンサ信号から複数種類のサンプル心音波形データを用意する。この例に代えて、任意のユーザに汎用的に適用可能な標準的な複数種類のサンプル心音波形データが予め用意されていてもよい。
【0029】
次に、ステップS14において、データ取得部12は、センサ20から測定対象のセンサ信号を受信する。
【0030】
次に、ステップS15において、データ取得部12は、周波数帯域に基づいて、測定対象のセンサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。
【0031】
次に、ステップS16において、心拍ピーク選定部14は、測定対象の呼吸波形データの特徴量(呼吸波形の傾き又は位相)に基づいて、複数種類のサンプル心音波形データから対応するサンプル心音波形データを選択する。具体的には、心拍ピーク選定部14は、測定対象の一拍分の心音波形データの心拍ピークを選定するときに、その一拍分の心音波形データに対して時系列的に対応付けられた呼吸波形データの特徴量を算出する。心拍ピーク選定部14はさらに、算出された特徴量に最も近い特徴量を有するサンプル用の呼吸波形データに対応付けられたサンプル心音波形データを選択する。
図2の例を参照すると、心拍ピーク選定部14は、測定対象の呼吸波形の傾きが正であり、且つ、大きければ、その特徴量に最も近い特徴量を有する「T2」に対応したサンプル心音波形データを選択する。
【0032】
次に、ステップS17において、心拍ピーク選定部14は、選択したサンプル心音波形データと測定対象の心音波形データの相関関数のピークを測定対象の心音波形データの心拍ピークとして選定する。
【0033】
ステップS18において、心拍間隔算出部16は、選定された心拍ピークから心拍間隔を算出する。
【0034】
ステップS19において、測定を継続する場合はステップS14に戻り、測定を継続しない場合は終了となる。
【0035】
この方法によると、心拍ピーク選定部14は、サンプル心音波形データと測定対象の心音波形データの相関関数のピークを測定対象の心音波形データの心拍ピークとして選定する。サンプル心音波形データと測定対象の心音波形データは、呼吸の状態が類似したときに得られたデータであることから、その相関関数のピークは心拍ピークをより正確に反映することができる。このように、心拍ピーク選定部14は、呼吸の状態を考慮することにより、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、心拍間隔測定装置10は、心拍間隔を正確に測定することができる。
【0036】
上記例の複数種類のサンプル心音波形データは、測定が継続する限り、同一のものが利用されていた。この例に代えて、心拍ピーク選定部14は、測定が継続される場合、ステップS19からステップS14へ戻るときに、測定対象の心音波形データをサンプル心音波形データとして蓄積してもよい。サンプル心音波形データを蓄積することにより、より細分化されたサンプル心音波形データを用意することができるので、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。また、心拍ピーク選定部14は、測定が継続される場合、ステップS19からステップS14へ戻るときに、測定対象の心音波形データをサンプル心音波形データとして更新してもよい。更新は、1周期の呼吸単位で実行されてもよい。また、更新は、1周期の呼吸毎に実行されてもよく、複数周期の呼吸が経過した後に定期的に実行されてもよい。サンプル心音波形データを更新することにより、最新のサンプル心音波形データを利用することができ、ユーザ及び装置の状態変化に追随することができるので、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。
【0037】
(学習済みモデルを利用した心拍ピークの選定)
図6に、心拍間隔測定装置10の心拍ピーク選定部14が利用する学習済みモデルの概略を示す。この学習済みモデルは、呼吸波形データの特徴量と心音波形データを入力し、心音波形データの心拍ピークを出力する機械学習モデルである。学習済みモデルは、例えば、入力層、中間層及び出力層を備えたニューラルネットワークに機械学習させることによって生成されてもよい。学習済みモデルは、ディープラーニングの手法を用いて生成された、複数の中間層を備えた機械学習モデルであってもよい。
【0038】
学習済みモデルは、例えば、ニューラルネットワークに対して、教師あり学習の手法を適用することで生成することができる。この例では、教師データの入力の1つである呼吸波形データの特徴量は、一拍分の呼吸波形の傾きと位相の少なくとも1つを含む。教師データの入力の1つである心音波形データは、一拍分の心音波形データを含む。教師データの出力である心音波形データの心拍ピークは、真値として設定される。機械学習モデルの生成は、心拍間隔測定装置10(
図1参照)が実行してもよく、心拍間隔測定装置10とは別の装置で実行してもよい。学習済みモデルは、心拍間隔測定装置10の記憶部に記憶される。
【0039】
図7に、学習済みモデルを利用して心音波形データの心拍ピークを選定する方法の処理フローを示す。
【0040】
まず、ステップS21において、データ取得部12は、センサ20から測定対象のセンサ信号を受信する。
【0041】
次に、ステップS22において、データ取得部12は、周波数帯域に基づいて、センサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する。
【0042】
次に、ステップS23において、心拍ピーク選定部14は、学習済みモデルに呼吸波形データの特徴量と心音波形データを入力し、心音波形データの心拍ピークを選定する。
【0043】
ステップS24において、心拍間隔算出部16は、選定された心拍ピークから心拍間隔を算出する。
【0044】
ステップS25において、測定を継続する場合はステップS21に戻り、測定を継続しない場合は終了となる。
【0045】
この方法によると、心拍ピーク選定部14は、学習済みモデルを利用して心音波形データの心拍ピークを選定する。学習済みモデルは、呼吸波形データの特徴量を考慮して心音波形データの心拍ピークを選定する。このように、心拍ピーク選定部14は、呼吸の状態を考慮することにより、心音波形データの心拍ピークをより正確に選定することができる。このため、心拍間隔測定装置10は、心拍間隔を正確に測定することができる。
【0046】
上記の各例では、心拍間隔を測定するために、生体データとして呼吸波形データを利用する例を説明した。この例は一例であり、他の生体データ、例えば、ユーザの姿勢を示すデータ、ユーザの発声や飲料等を咀嚼しているときに体内から生じる振動データを利用することもできる。
【0047】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0048】
(特徴1)
心拍間隔測定装置であって、心音波形データと、前記心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部と、前記生体データの特徴量に基づいて、前記心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部と、選定された前記心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部と、を備える心拍間隔測定装置。
【0049】
(特徴2)
生体データが、呼吸波形データである、特徴1に記載の心拍間隔測定装置。
【0050】
(特徴3)
データ取得部は、周波数帯域に基づいて、同一のセンサから取得されたセンサ信号から心音波形データと呼吸波形データを抽出する、ように構成されている、特徴2に記載の心拍間隔測定装置。
【0051】
(特徴4)
呼吸波形データの特徴量が、呼吸波形の傾き又は位相である、特徴2又は3に記載の心拍間隔測定装置。
【0052】
(特徴5)
心拍ピーク選定部は、生体データの特徴量に基づいて決定される所定のルールに従って心音波形データの心拍ピークを選定する、ように構成されている、特徴1~4のいずれか一項に記載の心拍間隔測定装置。
【0053】
(特徴6)
心拍ピーク選定部は、生体データに対して時系列的に対応付けられた複数種類のサンプル心音波形データを用意し、測定対象の心音波形データを測定したときの生体データの特徴量に基づいて、複数種類のサンプル心音波形データから対応するサンプル心音波形データを選択し、選択したサンプル心音波形データと測定対象の心音波形データの相関関数のピークを測定対象の心音波形データの心拍ピークとして選定する、ように構成されている、特徴1~4のいずれか一項に記載の心拍間隔測定装置。
【0054】
(特徴7)
心拍ピーク選定部はさらに、測定対象の心音波形データをサンプル心音波形データとして蓄積及び/又は更新する、ように構成されている、特徴6に記載の心拍間隔測定装置。
【0055】
(特徴8)
心拍ピーク選定部は、生体データと心音波形データを入力し、心音波形データの心拍ピークを出力とする教師データを用いて学習させた学習済みモデルに、測定対象の生体データと心音波形データと、を入力して心音波形データの心拍ピークを選定する、ように構成されている、特徴1~4のいずれか一項に記載の心拍間隔測定装置。
【0056】
(特徴9)
生体データが、ユーザの姿勢である、特徴1に記載の心拍間隔測定装置。
【0057】
(特徴10)
心拍間隔測定装置のためのコンピュータプログラムであって、心拍間隔測定装置を以下の各部、即ち、心音波形データと、前記心音波形データとは異なる生体データと、を取得するように構成されているデータ取得部と、前記生体データの特徴量に基づいて、前記心音波形データの心拍ピークを選定するように構成されている心拍ピーク選定部と、選定された前記心拍ピークから心拍間隔を算出するように構成されている心拍間隔算出部と、として機能させる、コンピュータプログラム。
【0058】
(特徴11)
学習モデルを生成する方法であって、生体データと心音波形データと心拍ピークを含む複数の教師データを取得し、生体データと心音波形データを入力し、心音波形データの心拍ピークを出力とする学習モデルを生成する方法。
【0059】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
1:心拍間隔測定システム、 10:心拍間隔測定装置、 12:データ取得部、 14:心拍ピーク選定部、 16:心拍間隔算出部、 20:センサ