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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-01
(45)【発行日】2025-09-09
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   B62M 1/10 20100101AFI20250902BHJP
   F16D 55/22 20060101ALI20250902BHJP
   F16D 41/08 20060101ALI20250902BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20250902BHJP
   B62M 1/26 20130101ALI20250902BHJP
【FI】
B62M1/10 A
F16D55/22 Z
F16D41/08 Z
F16H19/04 Z
B62M1/26
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023141688
(22)【出願日】2023-08-31
(65)【公開番号】P2025034975
(43)【公開日】2025-03-13
【審査請求日】2024-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000215785
【氏名又は名称】TPR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 昌美
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕詞
【審査官】澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平3-132493(JP,A)
【文献】特開2001-341687(JP,A)
【文献】特開2005-349953(JP,A)
【文献】米国特許第6053830(US,A)
【文献】特開2000-229595(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 1/10
F16D 55/22
F16D 41/08
F16H 19/04
B62M 1/26
B60K 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力を動力とする乗物に適用される駆動装置であって、
第1方向への回転と前記第1方向とは逆方向の第2方向への回転とのうち前記第1方向への回転のみが従動軸に伝達されるように設けられる、駆動軸と、
前記駆動軸が前記第2方向に回転することで、前記駆動軸を前記第1方向へ回転させるためのエネルギーを蓄積する、蓄力部と、
前記駆動軸を前記第2方向へ回転させるために操作される操作部と、
前記駆動軸に取り付けられたローター部と、
前記ローター部に対する前記駆動軸の前記第2方向への回転を許容し且つ前記ローター部に対する前記駆動軸の前記第1方向への回転を規制する、クラッチ部と、
前記ローター部の前記第1方向への回転の抑制と前記抑制の解除とを切り替え可能な、回転抑制部と、を備える、
駆動装置。
【請求項2】
前記蓄力部は、前記駆動軸の前記第2方向への回転により巻き上げられることで前記エネルギーを蓄積する、ゼンマイばねを有する、
請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記ローター部は、前記駆動軸の径方向外側へ張り出した円盤状のプレート部を有し、
前記回転抑制部は、前記プレート部を駆動軸の軸方向から挟持することで前記ローター部の前記第1方向への回転を抑制する、
請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記駆動軸に取り付けられ、前記駆動軸の動力を前記従動軸に伝達するためのプーリーを更に備える、
請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記駆動軸に取り付けられ、前記駆動軸の動力を前記従動軸に伝達するための歯車機構を更に備える、
請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記操作部は、
前記第1方向への回転と前記第2方向への回転とのうち前記第2方向への回転のみが前記駆動軸に伝達するように前記駆動軸に取り付けられた、ピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤに噛み合う係合歯が上下に配列され、踏み込み操作により下降することで前記ピニオンギヤを前記第2方向へ回転させる、ラックギヤと、
前記踏み込み操作により下降した前記ラックギヤを上方へ付勢することで元の位置に復帰させる、付勢部と、を有する、
請求項1又は2に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械を作動させるための動力源として、ゼンマイ式の駆動装置が知られている。ゼンマイ式の駆動装置は、内蔵されたゼンマイばねを巻き上げることでエネルギー(付勢力)を蓄積し、ゼンマイばねのエネルギーを解放することで回転トルクを生み出すように、構成されている。これに関連して、例えば、特許文献1には、自転車に搭載され、ブレーキ時にエネルギーを蓄積するゼンマイ式の駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-229595号公報
【文献】特開2020-029893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゼンマイばねは蓄積できるエネルギー量が少ないため、機械を継続的に作動させるためには、巻き上げ作業を頻繁に行ってエネルギーを蓄積する必要があるが、従来のゼンマイ式の駆動装置は、エネルギーを蓄積することができるのはブレーキ時であり、走行中にエネルギーを蓄積できるものではなかった。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、人力を動力とする乗物に適用される駆動装置において、任意のタイミングでエネルギーの蓄積や解放を行うことができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る駆動装置は、
第1方向への回転と前記第1方向とは逆方向の第2方向への回転とのうち前記第1方向への回転のみが従動軸に伝達されるように設けられる、駆動軸と、
前記駆動軸が前記第2方向に回転することで、前記駆動軸を前記第1方向へ回転させるためのエネルギーを蓄積する、蓄力部と、
前記駆動軸を前記第2方向へ回転させるために操作される操作部と、
前記駆動軸に取り付けられたローター部と、
前記ローター部に対する前記駆動軸の前記第2方向への回転を許容し且つ前記ローター部に対する前記駆動軸の前記第1方向への回転を規制する、クラッチ部と、
前記ローター部の前記第1方向への回転の抑制と前記抑制の解除とを切り替え可能な、回転抑制部と、を備える。
【0007】
本発明において、
前記蓄力部は、前記駆動軸の前記第2方向への回転により巻き上げられることで前記エネルギーを蓄積する、ゼンマイばねを有してもよい。
【0008】
本発明において、
前記ローター部は、前記駆動軸の径方向外側へ張り出した円盤状のプレート部を有し、
前記回転抑制部は、前記プレート部を駆動軸の軸方向から挟持することで前記ローター部の前記第1方向への回転を抑制してもよい。
【0009】
本発明に係る駆動装置は、
前記駆動軸に取り付けられ、前記駆動軸の動力を前記従動軸に伝達するためのプーリーを更に備えてもよい。
【0010】
本発明に係る駆動装置は、
前記駆動軸に取り付けられ、前記駆動軸の動力を前記従動軸に伝達するための歯車機構を更に備えてもよい。
【0011】
本発明において、
前記操作部は、
前記第1方向への回転と前記第2方向への回転とのうち前記第2方向への回転のみが前記駆動軸に伝達するように前記駆動軸に取り付けられた、ピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤに噛み合う係合歯が上下に配列され、踏み込み操作により下降することで前記ピニオンギヤを前記第2方向へ回転させる、ラックギヤと、
前記踏み込み操作により下降した前記ラックギヤを上方へ付勢することで元の位置に復帰させる、付勢部と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人力を動力とする乗物に適用される駆動装置において、任意のタイミングでエネルギーの蓄積や解放を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1に係る駆動装置の構成を説明するための概略図である。
図2図2は、実施形態1に係る駆動装置の左側面図である。
図3図3は、実施形態1に係る駆動装置の上面図である。
図4図4は、実施形態1に係る駆動装置を搭載した自転車の左側面図である。
図5図5は、実施形態2に係る駆動装置の構成を説明するための概略図である。
図6図6は、実施形態3に係る駆動装置の構成を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、及び、その相対配置等は、特に記載がない限りは本発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0015】
なお、本発明に係る駆動装置の適用対象となる乗物は、人力を動力として利用するものであれば、特に限定されず、車両であってもよいし、船舶であってもよい。本発明の適用対象となる乗物は、例えば、自転車やキックスケーター等に例示される陸上移動用の乗物であってもよいし、足漕ぎボート、フロートボート等に例示される水上移動用の乗物であってもよい。また、本発明の適用対象となる乗物は、人力以外の力も動力として利用するものであってもよく、例えば、電力を利用してもよい。また、「人力を動力として利用する」とは、本発明に係る駆動装置を人力により作動させて補助動力として利用する場合も含み、主たるの動力として人力以外の力を利用してもよい。このような乗物としては、電力を主たる動力とする電動式バイクを例示することができる。
【0016】
また、本明細書において、ワンウェイクラッチの方式は特に限定されず、スプラグ式やカム式などを採用することができる。
【0017】
<実施形態1>
[概略構成]
図1は、実施形態1に係る駆動装置100の構成を説明するための概略図である。図1では、駆動装置100を模式的に図示している。また、図1に、駆動装置100の「前後方向」、「上下方向」、及び「左右方向」を示す。これらの各方向は、駆動装置100を乗物に適用した場合における当該乗物の「前後方向」、「上下方向」、及び「左右方向」に対応している。但し、これらの各方向は、本実施形態の各構成要素の相対的な位置関係を示すものに過ぎない。図2は、実施形態1に係る駆動装置100の左側面図である。図3は、実施形態1に係る駆動装置100の上面図である。
【0018】
実施形態1に係る駆動装置100は、人力を動力とする乗物の一例として、自転車に適用することができる。図1には、駆動装置100の適用対象である自転車200(図2参照)の構成である、後輪20、従動プーリー60、チェーン70、従動軸80、及びワンウェイクラッチ201が図示されている。従動軸80は、左右方向に沿って延在する軸部材であり、軸線A2回りに回転可能である。後輪20は、従動軸80と一体的に回転するように設けれられている。ここで、従動軸80の軸線A2回りの回転方向について、乗物(本例では自転車200)が前進するときの回転方向を前転方向R3とし、乗物が後退するときの回転方向を後転方向R4とする。駆動装置100は、従動軸80に動力を伝達することで従動軸80を前転方向R3へ回転させるように、構成されている。また、図2及び図3の符号10は、自転車200の本体部を示す。本明細書において、「乗物の本体部」とは、乗物の主たる構造体のことを指す。乗物が車両である場合には車体が本体部であり、乗物が船舶である場合には船体が本体部となる。本実施形態における本体部10は、具体的には、自転車200の車体を構成するフレームである。駆動装置100は、本体部10に取り付けられる。
【0019】
図1に示すように、駆動装置100は、駆動軸1、蓄力部2、操作部3、ブレーキローター4(本発明に係る「ローター部」の一例)、ワンウェイクラッチ5(本発明に係る「クラッチ部」の一例)、ブレーキキャリパー6(本発明に係る「回転抑制部」の一例)、及び駆動プーリー7を備える。以下、図1図3を参照して、駆動装置100の各構成について説明する。
【0020】
[駆動軸1]
駆動軸1は、左右方向に沿って延在する軸部材である。駆動軸1は、軸線A1回りの第1方向R1及び第1方向R1とは逆方向の第2方向R2へ回転可能である。詳細については後述するが、駆動軸1は、第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち、第1方向R1への回転のみが従動軸80に伝達されるように設けられている。なお、以下の説明において、「軸方向」とは、特に指定がない限り、駆動軸1の延在方向(つまり、本例では左右方向)のことを指すものとする。駆動軸1は、自転車200の本体部10に回転可能に軸支されている。駆動軸1の両端部は、本体部10から延出している。
【0021】
[蓄力部2]
蓄力部2は、駆動軸1が第2方向R2へ回転すると、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギー(付勢力)を蓄積する装置である。蓄力部2は、一例として、所謂ゼンマイモータとして構成されている。具体的には、蓄力部2は、駆動軸1に取り付けられたゼンマイばね21と、ゼンマイばね21を収容するケース22と、を有する。
【0022】
ゼンマイばね21は、板状の弾性部材が駆動軸1回りに渦巻き状に巻回されることで形成されており、その中心側の端部が駆動軸1に固定されている。ゼンマイばね21は、駆動軸1が第2方向R2へ回転すると、巻き上げられ、弾性変形することで、駆動軸1への付勢力となるエネルギーを蓄積する。このエネルギーは、具体的には、ゼンマイばね21の弾性エネルギーである。ゼンマイばね21が巻き上げられた状態で駆動軸1の第1方向R1への回転が許容されると、ゼンマイばね21が弾性復帰することで、蓄積されていた
エネルギーが解放(放出)される。これにより、解放されたエネルギーを動力として、駆動軸1が第1方向R1へ回転する。
【0023】
また、蓄力部2は、駆動軸1の第1方向R1への回転によりゼンマイばね21が巻き戻されて巻き数がゼロになったときに、ゼンマイばね21が逆側に巻かれることを防止する、逆巻き防止機構(不図示)を有する。逆巻き防止機構には、公知の技術を用いることができる。
【0024】
ケース22は、ゼンマイばね21が収容される筐体であり、図3に示すように、乗物の本体部10に固定される。
【0025】
[操作部3]
操作部3は、駆動軸1を第2方向R2へ回転させるために使用者(例えば乗物の運転者)によって操作される装置である。図2に示すように、操作部3は、ピニオンギヤ31、ラックギヤ32、付勢部33、ペダル34、ワンウェイクラッチ35、レール部材36、及びスライド部材37を有する。
【0026】
ピニオンギヤ31は、ワンウェイクラッチ35を介して駆動軸1に取り付けられた平歯車であり、駆動軸1回りに回転可能である。ワンウェイクラッチ35は、駆動軸1とピニオンギヤ31との間に介装されている。ワンウェイクラッチ35は、駆動軸1に対するピニオンギヤ31の第1方向R1への回転(空転)を許容し、且つ、駆動軸1に対するピニオンギヤ31の第2方向R2への回転を規制する。これにより、ピニオンギヤ31は、第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち第2方向R2への回転のみが駆動軸1に伝達されるように、駆動軸1に取り付けられている。そのため、ピニオンギヤ31の第2方向R2への回転は駆動軸1に伝達され、ピニオンギヤ31と駆動軸1とが一体的に回転し、ピニオンギヤ31の第1方向R1への回転は駆動軸1に伝達されず、ピニオンギヤ31が空転する。また、ワンウェイクラッチ35は、駆動軸1側に内蔵されてもよいし、ピニオンギヤ31側に内蔵されてもよい。
【0027】
レール部材36は、上下方向に沿って延在する棒状部材であり、蓄力部2のケース22に固定される。スライド部材37は、レール部材36に取り付けられ、レール部材36に沿って上下方向にスライド可能な部材である。
【0028】
ペダル34は、左右方向に延在する棒状部材であり、スライド部材37に固定され、スライド部材37と一体的に上下移動する。ペダル34は、側方(本例では左側)に延出しており、使用者によって踏み込み操作可能となっている。ペダル34が踏み込み操作されることで、スライド部材37が下方にスライドする。
【0029】
ラックギヤ32は、上下方向に沿って延在し、ピニオンギヤ31と噛合い可能な部材である。ピニオンギヤ31及びラックギヤ32によって、ラックピニオン機構が構成されている。ラックギヤ32は、スライド部材37に固定され、スライド部材37と一体的に上下移動する。ラックギヤ32の側面には、ピニオンギヤ31に噛み合う係合歯32aが上下に配列されている。ラックギヤ32は、ピニオンギヤ31に噛み合った状態でペダル34に対する踏み込み操作によりスライド部材37と共に下降することで、ピニオンギヤ31を第2方向R2へ回転させる。
【0030】
付勢部33は、レール部材36とスライド部材37との間に介装され、上下方向に伸縮可能な弾性部材である。付勢部33は、一例として、上下方向に延在するスプリングにより形成されている。付勢部33は、踏み込み操作によりペダル34が下降すると弾性変形することで上下方向に圧縮され、踏み込み操作が解除されると弾性復帰することでスライ
ド部材37を介してラックギヤ32を上方へ付勢する。これにより、付勢部33は、踏み込み操作により下降したラックギヤ32を元の位置(図3に示す初期位置)に復帰させる。
【0031】
[ブレーキローター4]
図1に示すように、ブレーキローター4は、ワンウェイクラッチ5を介して駆動軸1に取り付けられた部材であり、駆動軸1回りに回転可能である。ブレーキローター4は、駆動軸1の径方向外側へ張り出した円盤状のプレート部41を有する。
【0032】
[ワンウェイクラッチ5]
ワンウェイクラッチ5は、駆動軸1とブレーキローター4との間に介装されている。ワンウェイクラッチ5は、ブレーキローター4に対する駆動軸1の第2方向R2への回転(空転)を許容し、且つ、ブレーキローター4に対する駆動軸1の第1方向R1への回転を規制する。これにより、ブレーキローター4は、駆動軸1の第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち第1方向R1への回転のみがブレーキローター4に伝達するように、駆動軸1に取り付けられている。そのため、駆動軸1の第1方向R1への回転はブレーキローター4に伝達され、駆動軸1とブレーキローター4が一体的に回転し、駆動軸1の第2方向R2への回転はブレーキローター4に伝達されず、駆動軸1が空転する。また、ワンウェイクラッチ5は、駆動軸1側に内蔵されてもよいし、ブレーキローター4側に内蔵されてもよい。
【0033】
[ブレーキキャリパー6]
ブレーキキャリパー6は、乗物の本体部10に固定されており、ブレーキローター4と共にブレーキ機構を構成する。図3に示すように、ブレーキキャリパー6は、ブレーキローター4のプレート部41に対して軸方向の両側に配置された、一対のブレーキパッド61,61を有する。ブレーキキャリパー6は、例えば、自転車200のワイヤ202を介してハンドル40(図4参照)と接続されており、使用者によるハンドル40の操作に応じて、ブレーキパッド61,61によるプレート部41の挟持と解放とを切り替え可能である。以下、ブレーキキャリパー6が作動し、ブレーキパッド61,61によってプレート部41が挟持された状態を「ブレーキ作動状態」と称する。また、ブレーキキャリパー6が作動しておらず、ブレーキパッド61,61がプレート部41を解放した状態を「ブレーキ解除状態」と称する。ブレーキ作動状態では、プレート部41が軸方向からブレーキパッド61,61によって挟持されることで、ブレーキパッド61,61とプレート部41との間の摩擦により、ブレーキローター4の回転が抑制される。また、ブレーキ解除状態では、ブレーキローター4が回転可能となる。これにより、ブレーキキャリパー6は、ブレーキローター4の第1方向R1への回転の抑制と抑制の解除とを切り替え可能である。駆動軸1とブレーキローター4とが一体的になって第1方向R1へ回転している状態でブレーキ解除状態からブレーキ作動状態へと切り替わることで、駆動軸1の回転が制動される。
【0034】
[駆動プーリー7]
図1に示すように、駆動プーリー7は、駆動軸1の動力を従動軸80に伝達するために駆動軸1に取り付けられ、駆動軸1の径方向外側へ張り出した円盤状の部材である。駆動プーリー7は、駆動軸1に固定されており、駆動軸1と一体的に回転する。駆動プーリー7には、例えば、自転車200のチェーン70が掛けられ、チェーン70を介して駆動プーリー7と自転車200の従動プーリー60とが連結される。
【0035】
[基本操作]
次に、駆動装置100の基本的な操作について説明する。駆動装置100の主な動作としては、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーを蓄積する、蓄力操作と
、蓄積されたエネルギーを解放することで駆動軸1を第1方向R1へ回転させる、解放操作と、が挙げられる。
【0036】
[蓄力操作]
蓄力操作は、人力による操作部3に対する1回以上の踏み込み操作によって行われる。操作部3に対する踏み込み操作が行われていない状態では、スライド部材37が付勢部33により支持されることで、ラックギヤ32は、図3に示す初期位置に保持される。初期位置は、ラックギヤ32とピニオンギヤ31とが噛み合わないように、ピニオンギヤ31よりも上方の位置となっている。付勢部33の弾性力に抗して操作部3のペダル34が踏み込み操作されると、スライド部材37と共にラックギヤ32が下降し、付勢部33が上下方向に圧縮される。そして、ラックギヤ32が下降することで、ピニオンギヤ31が第2方向R2へ回転する。ワンウェイクラッチ35により、ピニオンギヤ31の第2方向R2への回転が駆動軸1に伝達されることで、駆動軸1がピニオンギヤ31と共に第2方向R2へ回転する。駆動軸1が第2方向R2に回転することで、蓄力部2のゼンマイばね21が巻き上げられ、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーが蓄積される。
【0037】
ここで、1回の踏み込み操作が完了し、踏み込み操作が解除されると、付勢部33が弾性復帰することで、踏み込み操作により下降したラックギヤ32が上昇して初期位置に復帰する。このとき、ピニオンギヤ31は、ラックギヤ32との噛み合いにより、第1方向R1へ回転することとなる。しかしながら、ワンウェイクラッチ35により、ピニオンギヤ31の第1方向R1への回転は駆動軸1に伝達されないため、ピニオンギヤ31が駆動軸1に対して第1方向R1へ回転(空転)する。これにより、ラックギヤ32が初期位置に復帰する際のピニオンギヤ31の回転により駆動軸1が第1方向R1へ回転することが抑制される。つまり、ゼンマイばね21が巻き戻されてエネルギーが解放されることが抑制される。そのため、1回の踏み込み操作ごとにゼンマイばね21にエネルギーを蓄積することができる。
【0038】
踏み込み操作を複数回繰り返して行うことで、ゼンマイばね21の巻き上げ量を増加し、蓄力部2に蓄積されるエネルギーを増大させることができる。
【0039】
ここで、ゼンマイばね21が巻き上げられてエネルギーが蓄積された状態では、ゼンマイばね21の弾性により、第1方向R1へ回転させようとする付勢力が駆動軸1に作用する。このとき、蓄力操作によりゼンマイばね21に蓄積されたエネルギーは、ブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態としておくことで、ゼンマイばね21に保持しておくことができる。詳細には、ブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態とすることで、ブレーキローター4の第1方向R1への回転が抑制される。そして、上述のように、ワンウェイクラッチ5により、ブレーキローター4に対する駆動軸1の第1方向R1への回転は規制されているため、駆動軸1の第1方向R1への回転も抑制される。これにより、ゼンマイばね21の付勢力により駆動軸1が第1方向R1へ回転することが抑制される。その結果、ゼンマイばね21が巻き戻されてエネルギーが解放されることが抑制され、エネルギーを保持しておくことができる。なお、ブレーキ作動状態で蓄力操作を行ってもよいし、ブレーキ解除状態で蓄力操作を行って蓄力操作の完了後にブレーキ作動状態に切り替えてもよい。ブレーキ作動状態で蓄力操作を行う場合には、ワンウェイクラッチ5により、ブレーキローター4に対する駆動軸1の第1方向R1への回転は規制される一方で第2方向R2への回転は許容されるため、駆動軸1の第1方向R1への回転を抑制しながらも蓄力操作を行うことができる。
【0040】
[解放操作]
解放操作は、ゼンマイばね21にエネルギーが蓄積された状態でブレーキキャリパー6
をブレーキ作動状態からブレーキ解除状態へと切り替えることで、行われる。ハンドル40の操作により、ブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態からブレーキ解除状態へと切り替えると、ブレーキローター4の第1方向R1への回転が可能となる。これにより、ブレーキローター4を介してブレーキキャリパー6により抑制されていた駆動軸1の第1方向R1への回転が許容される。その結果、ゼンマイばね21に蓄積されたエネルギーが解放され、駆動軸1が第1方向R1へ回転する。
【0041】
[自転車200]
次に、実施形態1に係る駆動装置100を自転車200に適用した例について説明する。図4は、実施形態1に係る駆動装置100を搭載した自転車200の左側面図である。図1に示すように、自転車200は、車体である本体部10、駆動輪である後輪20、操舵輪である前輪30、運転操作のためのハンドル40、自転車200の運転者が着座するサドル50、及びハンドル40のブレーキ操作を駆動装置100のブレーキキャリパー6に伝達するワイヤ202を備える。また、図1に示すように、自転車200は、従動プーリー60、チェーン70、従動軸80、及びワンウェイクラッチ201を備える。
【0042】
図1に示すように、後輪20は、従動軸80に固定されており、従動軸80と一体的に回転する。従動プーリー60は、ワンウェイクラッチ201を介して従動軸80に取り付けられた円盤状の部材であり、チェーン70を介して駆動装置100の駆動プーリー7と連結される。チェーン70は、駆動装置100の動力を従動プーリー60に伝達する。
【0043】
駆動軸1が第1方向R1へ回転すると、従動プーリー60が前転方向R3へ回転し、駆動軸1が第2方向R2へ回転すると、従動プーリー60が後転方向R4へ回転する。ここで、従動軸80と従動プーリー60との間に介装されたワンウェイクラッチ201は、従動軸80に対する従動プーリー60の後転方向R4への回転(空転)を許容し、且つ、従動軸80に対する従動プーリー60の前転方向R3への回転を規制する。これにより、従動プーリー60は、従動プーリー60の前転方向R3への回転と後転方向R4への回転とのうち前転方向R3への回転のみが従動軸80に伝達するように、従動軸80に取り付けられている。その結果、駆動軸1の第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち、第1方向R1への回転のみが従動軸80に伝達される。そのため、駆動軸1が第1方向R1へ回転すると、従動プーリー60と従動軸80とが一体的に前転方向R3へ回転する。一方、駆動軸1の第2方向R2への回転は従動軸80に伝達されず、従動プーリー60が後転方向R4へ空転する。
【0044】
[運転操作]
以下に、駆動装置100を搭載した自転車200の運転操作について、図1図4を参照して説明する。但し、以下に説明する運転操作は、一例であり、本発明を適用した乗物の運転操作は、以下に限定されない。
【0045】
先ず、運転を開始する前の自転車200が停止した状態(以下、走行停止状態)では、蓄力部2のゼンマイばね21には巻き上げによるエネルギーは蓄積されておらず、操作部3のラックギヤ32は、ピニオンギヤ31とは噛み合わないように、図3に示す初期位置に維持されている。また、ブレーキキャリパー6は、ブレーキ解除状態となっている。
【0046】
次に、運転者が自転車200に乗り(詳細には、サドル50に着座し)、上述の蓄力操作を行うことで、蓄力部2のゼンマイばね21にエネルギーを蓄積させる。蓄力操作では、踏み込み操作によるラックギヤ32の下降動作に伴って駆動軸1が第2方向R2へ回転することで、ゼンマイばね21が巻き上げられ、エネルギーが蓄積される。駆動軸1の第2方向R2への回転が駆動プーリー7及びチェーン70を介して自転車200の従動プーリー60に伝達されることで、従動プーリー60は後転方向R4へ回転する。しかしなが
ら、上述のように、ワンウェイクラッチ201により、従動プーリー60の後転方向R4への回転は従動軸80には伝達されないため、従動プーリー60は空転する。このように、駆動軸1の第2方向R2への回転は従動軸80には伝達されないため、蓄力操作によって従動軸80が後転方向R4に回転して自転車200が後退することが抑制されている。また、走行停止状態における蓄力操作中は、ブレーキキャリパー6をブレーキ解除状態のままとしてもよいし、ブレーキ作動状態としてもよい。複数回の踏み込み操作を繰り返すことで、蓄積されるエネルギーを増大することができる。
【0047】
少なくとも蓄力操作の完了後にブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態とすることで、駆動軸1の第1方向R1への回転が抑制され、ゼンマイばね21にエネルギーが蓄積された状態が保持される。これにより、上述の解放操作により自転車200を走行可能な状態となる。
【0048】
次に、ゼンマイばね21にエネルギーが蓄積された状態で解放操作を行うことで、蓄積されたエネルギーを解放させ、自転車200を走行させる(前進させる)。解放操作では、ハンドル40の操作によりブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態からブレーキ解除状態へと切り替える。これにより、ゼンマイばね21に蓄積されたエネルギーが解放され、駆動軸1が第1方向R1へ回転する。駆動軸1の第1方向R1への回転が駆動プーリー7及びチェーン70を介して自転車200の従動プーリー60に伝達されることで、従動プーリー60が前転方向R3へ回転する。上述のように、ワンウェイクラッチ201により、従動プーリー60の前転方向R3への回転は従動軸80に伝達される。そのため、従動プーリー60と従動軸80と後輪20とが一体的に前転方向R3へ回転し、自転車200が前進する。このようにして、駆動装置100の動力による自転車200の走行(駆動走行)が開始される。駆動走行中、ピニオンギヤ31は駆動軸1と一体的に第1方向R1へ回転しており、ラックギヤ32は初期位置に待機している。
【0049】
駆動走行を続けることでゼンマイばね21が巻き戻され、蓄積されたエネルギーが尽きると、自転車200は、慣性により前進を続ける慣性走行に移行する。慣性走行時では、駆動軸1の回転は停止しており、後輪20は自転車200に作用する慣性により前転方向R3へ回転する。このとき、後輪20と共に従動軸80も前転方向R3へ回転するが、ワンウェイクラッチ201により、従動軸80が従動プーリー60に対して空転するため、従動軸80の前転方向R3への回転は駆動軸1に伝達されない。
【0050】
慣性走行の継続に伴い慣性が失われることで、自転車200は徐々に失速する。慣性走行中に自転車200に動力を付与し、加速させるためには、上述の蓄力操作を行うことで駆動走行に移行すればよい。慣性走行中における蓄力操作は、駆動軸1の第1方向R1への回転を抑制するために、ブレーキキャリパー6をブレーキ作動状態にした状態で行う。蓄力操作の完了後、ブレーキキャリパー6をブレーキ解除状態へと切り替えることで、蓄力操作によりゼンマイばね21に蓄積されたエネルギーを解放し、駆動走行へと移行する。
【0051】
なお、蓄力操作は、駆動走行中、慣性走行に移行する前に行ってもよい。駆動走行中におけるゼンマイばね21のエネルギーの解放が継続している状態で、蓄力操作によりエネルギーを追加的に蓄積することで、自転車200に動力を継続的に付与することができる。これにより、駆動走行を継続させ、航続距離を長くすることができる。駆動走行中における蓄力操作は、駆動軸1の第1方向R1への回転を許容して駆動走行を継続するために、ブレーキキャリパー6をブレーキ解除状態にして行う。
【0052】
以上のように、駆動装置100を搭載した自転車200の運転では、任意のタイミングでエネルギーの蓄積と解放とを行うことができる。必要なタイミングでエネルギーの蓄積
及び解放を行うことで、駆動走行を継続させることができ、長距離の駆動走行が可能となる。なお、自転車200の走行を停止するには、自転車200に別途設けられた走行停止用のブレーキ機構(不図示)を作動させることで、自転車200を制動する。これにより、自転車200が走行停止状態となる。
【0053】
[作用・効果]
以上のように、実施形態1に係る駆動装置100は、駆動軸1、蓄力部2、操作部3、ブレーキローター4、ワンウェイクラッチ5、及びブレーキキャリパー6を備える。駆動軸1は、第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち第1方向R1への回転のみが従動軸80に伝達されるように設けられている。蓄力部2は、駆動軸1が第2方向R2に回転することで、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーを蓄積する。操作部3は、駆動軸1を第2方向R2へ回転させるために操作される。ワンウェイクラッチ5は、ブレーキローター4に対する駆動軸1の第2方向R2への回転(空転)を許容し且つ第1方向R1への回転を規制する。そして、ブレーキキャリパー6は、ブレーキローター4の第1方向R1への回転の抑制と抑制の解除とを切り替え可能である。
【0054】
このような駆動装置100によると、駆動軸1の第1方向R1への回転をブレーキキャリパー6によって抑制した状態で、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーを蓄力部2に蓄積させることができる。また、蓄力部2にエネルギーが蓄積された状態でブレーキキャリパー6による駆動軸1の第1方向R1への回転の抑制を解除することで、エネルギーを解放することができる。これによると、操作部3の操作により、乗物の停止中や走行中にエネルギーの蓄積や解放を行うことができる。つまり、駆動装置100によると、任意のタイミングでエネルギーの蓄積や解放を行うことが可能となる。その結果、乗物を継続的に駆動させることが可能となる。
【0055】
なお、上述の実施形態では、駆動軸1の第1方向R1への回転により従動軸80が前転方向R3に回転するように構成されていたが、駆動軸1の第1方向R1への回転により従動軸80が後転方向R4に回転するように構成されてもよい。つまり、駆動軸1の第1方向R1への回転により、乗物が後退してもよい。
【0056】
また、本実施形態に係る蓄力部2は、駆動軸1の第2方向R2への回転により巻き上げられることでエネルギーを蓄積する、ゼンマイばね21を有する。これにより、駆動軸1を第2方向R2へ回転させることで、エネルギーを蓄積することができる。なお、本発明に係る蓄力部がエネルギーを蓄積する手段は、ゼンマイばねに限定されない。
【0057】
また、本実施形態に係るブレーキローター4は、駆動軸1の径方向外側へ張り出した円盤状のプレート部41を有し、ブレーキキャリパー6は、プレート部41を駆動軸1の軸方向から挟持可能である。これにより、ブレーキローター4の第1方向R1への回転を抑制することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る駆動装置100は、駆動軸1に取り付けられた駆動プーリー7を更に備える。これにより、駆動軸1の動力を従動軸80に伝達することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る操作部3は、ピニオンギヤ31とラックギヤ32と付勢部33とを備える。ピニオンギヤ31は、第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち第2方向R2への回転のみが駆動軸1に伝達するように駆動軸1に取り付けられる。ラックギヤ32は、ピニオンギヤ31に噛み合う係合歯32aが上下に配列され、踏み込み操作により下降することでピニオンギヤ31を第2方向R2へ回転させる。付勢部33は、踏み込み操作により下降したラックギヤ32を上方へ付勢することで初期位置(元の位置)に復帰させる。操作部3を上記のように構成することで、操作部3に対する踏み込み
操作によって、駆動軸1を第2方向R2へ回転させることができる。また、付勢部33によってラックギヤ32が初期位置に復帰するため、踏み込み操作を複数回繰り返し行うことが可能となる。踏み込み操作を複数回繰り返し行うことで、蓄力部2に蓄積されるエネルギーを増大させることができる。
【0060】
<実施形態2>
図5は、実施形態2に係る駆動装置100Aの構成を説明するための概略図である。図5では、駆動装置100Aを模式的に図示している。以下、実施形態2に係る駆動装置100Aについて、実施形態1に係る駆動装置100との相違点を主に説明し、駆動装置100と同様の点については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0061】
実施形態2に係る駆動装置100Aは、人力を動力とする乗物の一例として、水車を推進器として用いる船舶に適用することができる。水車を推進器として用いる船舶としては、例えば、外車船が例示される。
【0062】
図5に示すように、駆動装置100Aは、駆動プーリー7に代えて水車8及びワンウェイクラッチ9を備える点で、上述の駆動装置100と相違する。水車8は、ワンウェイクラッチ9を介して駆動軸1に取り付けられており、駆動軸1回りに回転可能である。水車8は、駆動軸1に取り付けられる軸部81と軸部81の外周に設けられた羽根82とを有する。軸部81は、本発明に係る「従動軸」に相当する。軸部81は駆動軸1と同軸に配置されているため、実施形態2では、第1方向R1が実施形態1における前転方向R3に対応し、第2方向R2が実施形態1における後転方向R4に対応する。ワンウェイクラッチ9は、駆動軸1と水車8の軸部81との間に介装されている。ワンウェイクラッチ9は、水車8に対する駆動軸1の第2方向R2への回転(空転)を許容し、且つ、水車8に対する駆動軸1の第1方向R1への回転を規制する。これにより、駆動軸1の第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち、第1方向R1への回転のみが水車8に伝達する。そのため、駆動軸1が第1方向R1へ回転すると、水車8が駆動軸1と一体的に第1方向R1へ回転する。一方、駆動軸1の第2方向R2への回転は水車8に伝達されず、駆動軸1が空転する。
【0063】
駆動装置100Aの蓄力操作では、ペダル34の踏み込み操作により駆動軸1が第2方向R2に回転することで、蓄力部2のゼンマイばね21が巻き上げられ、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーが蓄積される。このとき、ワンウェイクラッチ9により、駆動軸1が水車8に対して空転するため、駆動軸1の第2方向R2への回転は水車8に伝達されない。そのため、蓄力操作中に水車8が第2方向R2へ回転して船舶が後退することが抑制されている。
【0064】
ゼンマイばね21にエネルギーが蓄積された状態で解放操作を行うことで、蓄積されたエネルギーを解放させ、駆動軸1を第1方向R1へ回転させる。このとき、ワンウェイクラッチ9により、駆動軸1の第1方向R1への回転が水車8に伝達されるため、駆動軸1と水車8とが一体的に第1方向R1へ回転する。これにより、水車8の羽根82によって前方への推力が発生し、船舶が前進する。
【0065】
なお、駆動装置100Aは、ワンウェイクラッチ9の規制方向を切り替えるクラッチ切替機構と、外部の動力により水車8を回転操作するための外部動力伝達機構と、を備えてもよい。クラッチ切替機構は、例えばスイッチ操作により、駆動軸1の第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち、第1方向R1への回転のみが水車8に伝達する状態(正転状態)と、第2方向R2への回転のみが水車8に伝達する状態(逆転状態)と、を切り替え可能とする。外部動力伝達機構は、例えば、手動により水車8を回転させるためのハンドルを含んでもよい。クラッチ切替機構によりワンウェイクラッチ9を逆転状態
とし、外部動力伝達機構により人力で水車8を第2方向R2へ回転操作することで、船舶を後退させることができる。
【0066】
<実施形態3>
図6は、実施形態3に係る駆動装置100Bの構成を説明するための概略図である。図6では、駆動装置100Bを模式的に図示している。以下、実施形態3に係る駆動装置100Bについて、実施形態1に係る駆動装置100との相違点を主に説明し、駆動装置100と同様の点については同一の符号を付すことにより詳細な説明は割愛する。
【0067】
実施形態3に係る駆動装置100Bは、人力を動力とする乗物の一例として、インペラーを推進器として用いる船舶に適用することができる。図6には、実施形態3の適用対象である船舶の構成である、従動軸80及びインペラー90が図示されている。実施形態3の従動軸80は、前後方向に延在しており、駆動装置100の駆動軸1に対して直交している。インペラー90は、従動軸80の後端部に固定されており、従動軸80と一体的に回転する。インペラー90が前転方向R3へ回転することで船舶が前進し、後転方向R4へ回転することで船舶が後退する。
【0068】
図6に示すように、駆動装置100Bは、駆動プーリー7に代えて歯車機構101及びワンウェイクラッチ102を備える点で、上述の駆動装置100と相違する。歯車機構101は、駆動軸1の動力を従動軸80に伝達するための機構である。歯車機構101は、駆動軸1に取り付けられる第1傘歯車101aと、従動軸80に取り付けられる第2傘歯車101bと、を備える。第1傘歯車101a及び第2傘歯車101bは、互いの軸が直交するように配置されており、駆動軸1と従動軸80との間で回転を伝達する。第1傘歯車101aは、ワンウェイクラッチ102を介して駆動軸1に取り付けられており、駆動軸1回りに回転可能である。第2傘歯車101bは、従動軸80と一体的に回転する。ワンウェイクラッチ102は、駆動軸1と第1傘歯車101aとの間に介装されている。ワンウェイクラッチ102は、第1傘歯車101aに対する駆動軸1の第2方向R2への回転(空転)を許容し、且つ、第1傘歯車101aに対する駆動軸1の第1方向R1への回転を規制する。これにより、駆動軸1の第1方向R1への回転と第2方向R2への回転とのうち、第1方向R1への回転のみが第1傘歯車101aに伝達する。そのため、駆動軸1が第1方向R1へ回転すると、第1傘歯車101aが駆動軸1と一体的に第1方向R1へ回転する。一方、駆動軸1の第2方向R2への回転は第1傘歯車101aに伝達されず、駆動軸1は空転する。
【0069】
駆動装置100Bの蓄力操作では、ペダル34の踏み込み操作により駆動軸1が第2方向R2に回転することで、蓄力部2のゼンマイばね21が巻き上げられ、駆動軸1を第1方向R1へ回転させるためのエネルギーが蓄積される。このとき、ワンウェイクラッチ102により、駆動軸1が第1傘歯車101aに対して空転するため、駆動軸1の第2方向R2への回転はインペラー90に伝達されない。そのため、蓄力操作中にインペラー90が後転方向R4へ回転して船舶が後退することが抑制されている。
【0070】
ゼンマイばね21にエネルギーが蓄積された状態で解放操作を行うことで、蓄積されたエネルギーを解放させ、駆動軸1を第1方向R1へ回転させる。このとき、ワンウェイクラッチ102により、駆動軸1の第1方向R1への回転が第1傘歯車101aに伝達されるため、駆動軸1と第1傘歯車101aとが一体的に第1方向R1へ回転する。第1傘歯車101aの第1方向R1への回転が第2傘歯車101bを介して従動軸80に伝達されることで、従動軸80とインペラー90とが一体的に前転方向R3へ回転する。その結果、インペラー90によって前方への推力が発生し、船舶が前進する。
【0071】
また、駆動装置100Bは、従動軸80と第2傘歯車101bとの間に介装されるワン
ウェイクラッチと、当該ワンウェイクラッチのクラッチ切替機構と、外部の動力によりインペラー90を回転操作するための外部動力伝達機構と、を備えてもよい。このクラッチ切替機構は、例えばスイッチ操作により、第2傘歯車101bの前転方向R3への回転と後転方向R4への回転とのうち、前転方向R3への回転のみが従動軸80に伝達する状態(正転状態)と、後転方向R4への回転のみが従動軸80に伝達する状態(逆転状態)と、を切り替え可能とする。外部動力伝達機構は、例えば、手動によりインペラー90を回転させるためのハンドルを含んでもよい。クラッチ切替機構によりワンウェイクラッチを逆転状態とし、外部動力伝達機構により人力で従動軸80を後転方向R4へ回転操作することで、船舶を後退させることができる。
【0072】
<その他>
なお、本発明に係る駆動装置は、自転車や船舶等の乗物の運転終了時、つまり乗物の停止状態において、蓄力部に蓄積されたエネルギーが余っていた場合に、停止状態のままエネルギーを解放することが可能であってもよい。即ち、駆動装置は、乗物を停止状態に維持したまま蓄力部の残留エネルギーを解放する機構(残留エネルギー解放機構)を備えてもよい。残留エネルギー解放機構は、例えば、ワンウェイクラッチにより駆動軸を空転させることで残留エネルギーを解放してもよい。残留エネルギー解放機構の設置箇所は特に限定されず、例えば、駆動軸、蓄力部、又は従動軸に設置することができる。
【0073】
以上、本開示に係る駆動装置の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0074】
1・・・駆動軸
2・・・蓄力部
3・・・操作部
4・・・ブレーキローター(ロータ部の一例)
5・・・ワンウェイクラッチ(クラッチ部の一例)
6・・・ブレーキキャリパー(回転抑制部の一例)
80,81・・・従動軸
100・・駆動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6