(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-02
(45)【発行日】2025-09-10
(54)【発明の名称】冷凍回路
(51)【国際特許分類】
F25B 39/02 20060101AFI20250903BHJP
F28D 7/02 20060101ALI20250903BHJP
A61N 2/04 20060101ALN20250903BHJP
H01F 27/10 20060101ALN20250903BHJP
【FI】
F25B39/02 Z
F28D7/02
F25B39/02 V
A61N2/04
H01F27/10 150
(21)【出願番号】P 2023508433
(86)(22)【出願日】2021-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2021028510
(87)【国際公開番号】W WO2022201574
(87)【国際公開日】2022-09-29
【審査請求日】2024-07-19
(31)【優先権主張番号】P 2021047929
(32)【優先日】2021-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392032443
【氏名又は名称】株式会社アドテックス
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】向山 洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘男
【審査官】庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110975152(CN,A)
【文献】特開平09-055322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00-49/04
F28D 1/047
H01F 1/00-41/34
A61N 2/00- 2/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒配管を介して接続された圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器を具備し、
前記蒸発器は、冷媒を流す複数の貫通孔が形成されたコイル基材がソレノイド状に巻かれたコイルから形成されており、
前記コイルは、磁界を発生する
ものであり、
前記コイル基材は、断面が矩形状であり前記断面の長辺が前記コイルの巻き径方向を向き前記断面の短辺が円筒に沿うよう円筒螺旋状に巻かれており、
前記貫通孔は、前記断面において前記コイルの巻き径方向に並んでいることを特徴とする冷凍回路。
【請求項2】
前記コイルは、絶縁材料で被覆されていることを特徴とする
請求項1に記載の冷凍回路。
【請求項3】
前記コイルの入口側及び出口側に接続され交番電流を流す高周波電流発生器を具備することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の冷凍回路。
【請求項4】
前記コイルの入口側及び出口側の継手は、絶縁材を介して前記冷媒配管に接続されていることを特徴とする請求項1ないし
請求項3の何れか1項に記載の冷凍回路。
【請求項5】
前記冷媒としてハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素またはこれらの混合冷媒が用いられることを特徴とする請求項1ないし
請求項4の何れか1項に記載の冷凍回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍回路に関し、特に、長時間安定的に磁界を発生することができる冷凍回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交番磁界による加熱を利用して腫瘍細胞を死滅させる交番磁界治療が知られている(例えば、特許文献1)。Induction Heaterのような誘導加熱の原理を利用したコイルは、大電流が流されることにより自ら発熱する。そこでコイルの内部に冷却水を流して冷却することが知られている。
【0003】
図11は、従来技術の冷却システム501を示す図である。
図11を参照して、冷却システム501は、従来技術のコイル502を冷却水で冷却する構成である。コイル502としては、パイプをコイル状に成型されたものが用いられている。コイル502のパイプ内部には、水を流すことができる。コイル502には、高周波電流発生器503が接続されている。
【0004】
冷却システム501には、コイル502に対して冷却水を流すための経路504が構成されている。経路504には、冷却水を貯めるタンク505と、タンク505から冷却水を送って経路504を循環させるポンプ506と、経路504を循環する冷却水を冷却する放熱器507と、が設けられている。経路504を流れる冷却水は、コイル502のパイプ内部を流れる。これにより、コイル502が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁界を発生させるためにコイルに通電するとコイルの電気抵抗からジュール熱が生じることは避けられない。例えば100(A)程度の大電流を高周波の交番電流で流す場合、抵抗成分が大きくなる。
【0007】
そのため、例えば抵抗値が1(Ω)となるような場合、1(Ω)×100(A)×100(A)=10000(W)もの発熱となってしまう。これを水で冷却する場合、冷却水の昇温幅を10(℃)で抑えるには、10(kW)=4.18(J/kg・℃)×10(℃)×質量流量M(kg/s)を満たす必要がある。即ち、これを満たす質量流量Mを体積流量に換算すれば、14(L/min)の循環水を送水する必要がある。
【0008】
しかし一方で、強力な磁界を発生させるためのコイルは、コイルピッチを極めて詰める必要がある。そのため、前述のように水を循環することによる圧力損失が膨大になり、冷却用の送水ポンプが大掛かりなものになる。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされた。本発明の目的は、有用な冷却方法によってコイルを効率良く冷却することができ、長時間安定的に強い磁界を発生させることができる磁界発生装置の冷凍回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の冷凍回路は、冷媒配管を介して接続された圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器を具備し、前記蒸発器は、冷媒を流す複数の貫通孔が形成されたコイル基材がソレノイド状に巻かれたコイルから形成されており、前記コイルは、磁界を発生するものであり、前記コイル基材は、断面が矩形状であり前記断面の長辺が前記コイルの巻き径方向を向き前記断面の短辺が円筒に沿うよう円筒螺旋状に巻かれており、前記貫通孔は、前記断面において前記コイルの巻き径方向に並んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の冷凍回路によれば、冷媒配管を介して接続された圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器を具備する。そして、蒸発器は、冷媒を流す複数の貫通孔が形成されたコイル基材がソレノイド状に巻かれたコイルから形成されている。このような構成により、コイルを冷凍回路の蒸発器として冷媒で効率良く冷却することができる。そして、本発明の冷凍回路は、コイルから磁界を発生させる。よって、冷却されたコイルから長時間安定的に強い磁界を発生させることができる。
【0012】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記貫通孔は、前記コイル基材の断面において前記コイルの巻き径方向に並んでいても良い。これにより、コイルの巻き軸方向の長さを短くすることができ、コンパクトなコイルで強い磁界を高性能に発生することができる。
【0013】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記コイル基材は、断面が矩形状であり前記断面の長辺が前記コイルの巻き径方向を向くよう巻かれていても良い。これにより、コイルの巻き軸方向の長さを短くすることができ、コンパクトなコイルで強い磁界を高性能に発生することができる。
【0014】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記コイルは、絶縁材料で被覆されていても良い。これにより、蒸発する冷媒で効率良くコイルを冷却することができる。
【0015】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記コイルの入口側及び出口側に接続され交番電流を流す高周波電流発生器を具備しても良い。このような構成により、冷却されたコイルからの高効率な磁界の発生が実現する。
【0016】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記コイルの入口側及び出口側の継手は、絶縁材を介して前記冷媒配管に接続されても良い。これにより、コイルから冷媒配管への漏電を防止することができる。よって、冷却されたコイルに高電流を安全に流すことが可能となり、安全に高性能な磁界を発生させることができる。
【0017】
また、本発明の冷凍回路によれば、前記冷媒としてハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素またはこれらの混合冷媒が用いられても良い。これにより、冷媒の蒸発を利用して高効率にコイルを冷却し、長時間安定的に強い磁界を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る冷凍回路を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る冷凍回路のコイルを示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る冷凍回路でコイルを冷却する状態を示すp-h線図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る冷凍回路におけるコイルの端部近傍の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係る冷凍回路のコイルを示す(A)平面図、(B)断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る冷凍回路のコイル基材の断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の他の実施形態に係る冷凍回路のコイル基材の断面図である。
【
図8】
図8は、本発明の他の実施形態に係る冷凍回路のコイル基材の断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の他の実施形態に係る冷凍回路のコイル基材の断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の他の実施形態に係る冷凍回路のコイル基材の断面図である。
【
図11】
図11は、従来技術の冷却システムの回路構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の実施形態に係る冷凍回路を詳細に説明する。なお、図示された態様は本発明を限定するものではなく、あくまでも本発明を例示したものである。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る冷凍回路1の概略構成を示す図である。
図1を参照して、冷凍回路1は、磁界を発生するコイル14を有すると共に、コイル14を冷媒で冷却する基本回路構成を有する。冷凍回路1は、コイル14から長時間安定的に強い磁界を発生させることができる磁界発生装置を構成する。
【0021】
コイル14は、例えば、人体の頭部程度のコンパクトなサイズである。冷凍回路1は、コイル14に大電流を流して強力な磁界を発生させたい場合に特に有用である。冷凍回路1は、例えば、脳腫瘍、乳癌等、従来の手術が困難または不可能である場所の治療に適している。
【0022】
具体的には、冷凍回路1は、冷媒配管10を介して接続された圧縮機11、凝縮器12、膨張弁13及び蒸発器としてのコイル14を具備し、冷媒の蒸発によりコイル14を冷却する蒸気圧縮式の冷凍サイクル回路を構成する。
【0023】
圧縮機11は、冷媒を圧縮して凝縮器12に送る装置である。圧縮機11としては、ロータリー式、スクロール式、レシプロ式、スクリュー式その他各種形式の圧縮装置を採用することができる。
【0024】
特にロータリー式の圧縮機11は、冷却能力の小さいコンパクトな冷凍回路1を構成する際に好適である。また、圧縮機11は、2段圧縮式でも良い。圧縮機11として2段圧縮式を採用することは、高圧になる二酸化炭素冷媒の圧縮に適している。
【0025】
凝縮器12は、例えば、冷媒と熱交換する空気が送風ファンによって送られる空冷式の熱交換器である。例えば凝縮器12は、図示を省略するが、フィンアンドチューブ式の熱交換器でも良い。即ち、凝縮器12は、冷媒が流れる複数の銅管等のチューブと、それぞれ平行に設けられた複数のアルミニウム製のフィンと、を有し、チューブは、フィンに形成された孔に挿入されている。
【0026】
なお、凝縮器12は、水冷式の熱交換器であっても良い。また、凝縮器12としては、プレート式、シェルアンドチューブ式、二重管式その他各種形式の熱交換器を採用することができる。特にプレート式の熱交換器は、熱交換効率が高く凝縮器12をコンパクトにできるので好ましい。
【0027】
膨張弁13は、凝縮器12を通過した冷媒液を減圧する。また、膨張弁13は、冷媒の流れを調整する機能を有する。膨張弁13としては、電子膨張弁、温度自動膨張弁、キャピラリーチューブその他各種形式を採用することができる。膨張弁13として電子膨張弁を採用することにより、コイル14の冷却を高性能に制御することができ、磁界発生性能を向上させることができる。
【0028】
コイル14は、例えば矢印Bで示すような交番磁界を発生させるための部材であると共に、冷凍サイクルの蒸発器としての機能を有する。コイル14は、蒸発器であることにより、冷媒によって冷却される。これにより、コイル14は、高電流が流れても高温度にならず、長時間安定的に強い磁界を発生することができる。コイル14の詳細については後述する。
【0029】
冷凍回路1は、コイル14を動作させるための電気回路を有する。その電気回路には、高周波電流発生器35が設けられている。高周波電流発生器35は、配線38を介してコイル14の入口側22に接続されると共に、配線39を介してコイル14の出口側23に接続され、コイル14に交番電流を流す。このような構成により、冷却されたコイル14から高効率に磁界を発生させることができる。
【0030】
図1には、冷媒配管10で形成された冷凍サイクル回路の冷媒経路、即ち冷媒の循環経路、が示されている。冷媒は、冷媒配管10内をA方向に流れて冷媒経路を循環する。具体的には、圧縮機11で圧縮された冷媒は、冷媒配管10を経由して凝縮器12に送られ、凝縮器12で冷却される。
【0031】
凝縮器12で冷却された冷媒は、冷媒配管10を経由して膨張弁13に流れ、膨張弁13で減圧される。そして冷媒は、膨張弁13で減圧され低温の気液混合流体となって、冷媒配管10を介して、コイル14に導入される。
【0032】
コイル14に送られた冷媒は、コイル14の電流による発熱を蒸発潜熱として利用して気化する。即ち、冷媒は、コイル14の内部で蒸発して、コイル14から熱を除去する。
【0033】
次いで、コイル14で蒸発した冷媒は、冷媒配管10を経由して、圧縮機11に戻って再び圧縮される。そして、上述の工程が繰り返される。即ち、圧縮機11、凝縮器12、膨張弁13及び蒸発器としてのコイル14を順次経由してコイル14を冷却する冷媒の循環流れが形成される。
【0034】
冷凍回路1で用いられる冷媒は、例えば、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン、二酸化炭素またはこれらの混合冷媒である。これにより、冷媒の蒸発潜熱を利用して高効率にコイル14を冷却し、長時間安定的に強い磁界を発生させることができる。
【0035】
なお、凝縮器12は、冷媒の凝縮が明確でないガスクーラでも良い。即ち、代表的な冷媒HFC-32、HFC-404A等のフルオロカーボン系の冷媒は、通常の凝縮器12の動作環境である-20(℃)~42(℃)程度であれば、凝縮性を持つ。しかし、二酸化炭素冷媒の場合は、超臨界域で動作することになるので、凝縮器12はガスクーラと呼称される。凝縮器12がガスクーラであっても冷媒を冷却する機構であることに相違はない。
【0036】
図2は、冷凍回路1のコイル14の概略構成を示す図である。
図2を参照して、コイル14は、電流の流れによって磁界を発生する部材であり、ソレノイド状に巻かれている。また、前述のとおり、コイル14は、冷凍サイクルの蒸発器を構成する。
【0037】
具体的には、コイル14は、銀、アルミニウム、銅、銅合金等の良導体からなる長尺の平板等がコイル状に巻かれることによって形成されている。詳しくは、コイル14は、その素材となる平板の横断面が略矩形状の形態であり、その横断面の長辺方向がコイル14の巻き径方向、短辺方向がコイル14の巻き軸方向となるように略螺旋状に巻かれている。換言すれば、コイル14は、略矩形状の横断面の短辺が略円筒に沿うように巻き上げられている。
【0038】
コイル14は、微細な貫通孔21、即ちマイクロチャンネル、が複数貫通している構造を有しており、貫通孔21に冷媒を流すことができる。具体的には、コイル14の素材となる平板には、平板の長手方向に貫通する複数の微細な貫通孔21が形成されている。即ち、コイル14には、冷媒が流れる流路となる複数の貫通孔21が形成されている。なお、コイル14は、誘導コイルであっても良い。
【0039】
図1を参照して、コイル14の駆動電源の電圧は、例えば、12(V)から440(V)が好ましく、更に望ましくは、12(V)から100(V)である。これにより治療部位に応じた好適な磁界を発生させることができる。例えば、コイル14に、実効値で50(V)の電圧をかけて100(A)の電流を流す例を示すと、コイル14の直流抵抗成分は、0.5(Ω)であり、5(kW)の発熱がある。
【0040】
図3は、冷凍回路1でコイル14を冷却する状態を示すp-h線図(圧力-比エンタルピ線図)である。
図1及び
図3を参照して、冷媒は、圧縮過程S1において圧縮機11で圧縮され高圧になり、放熱過程S2において凝縮器12で冷却される。次いで冷媒は、膨張過程S3において膨張弁13で減圧され、蒸発過程S4においてコイル14で蒸発してコイル14を冷却する。
【0041】
例えばエアコンで一般に使用されているハイドロフルオロカーボン系の冷媒HFC-32で、コイル14内部の温度を15(℃)で冷媒を蒸発、凝縮器12では内部の温度を35(℃)で冷媒を凝縮させる冷凍サイクルが構成される。即ち、蒸発過程S4における冷媒の蒸発温度T1を15(℃)、放熱過程S2における冷媒の凝縮温度T2を35(℃)とする冷凍サイクルが構成される。
【0042】
この時、表1に示すように、冷媒の循環量は、0.01861(kg/s)で冷却が可能である。この冷媒の循環量を得るためには、50(Hz)の商用電源で回転する圧縮機11の排除容積としては、10.6(cc)であれば良く、小型のコンプレッサで実現可能である。
【0043】
【0044】
図1を参照して、コイル14には、冷媒が流され、同時に電流も流される。冷凍回路1では、コイル14に電流を流すために、コイル14の2か所の端部近傍、即ち入口側22及び出口側23に、電極36、37が設けられている。
【0045】
高周波電流発生器35は、一方の出力端子が配線38を介してコイル14の入口側22の電極36に接続され、他方の出力端子が配線39を介してコイル14の出口側23の電極37に接続されている。
【0046】
なお、冷媒が流れる冷媒経路を構成する冷媒配管10は、例えば銅管や鋼管から形成されている。冷媒配管10は極めて導電性が高い銅や鉄系等の材料から形成されているので、コイル14の電流が冷媒配管10から構成された冷媒経路に流れてしまう恐れがある。その場合、圧縮機11及び膨張弁13等の駆動装置や、冷凍回路1の外部への漏電が問題となる。
【0047】
図4は、冷凍回路1におけるコイル14の端部近傍の構成を示す図である。上述の漏電の問題を解決するため、
図4に示すように、冷凍回路1では、コイル14と冷媒配管10との接続部25が絶縁材31を介して接続されている。
【0048】
具体的には、コイル側継手26のフランジ部であるコイル側フランジ27と、配管側継手28のフランジ部である配管側フランジ29との間には、絶縁材31が設けられている。即ち、コイル側フランジ27と、配管側フランジ29とは、絶縁材31を介して接続されている。
【0049】
絶縁材31は、例えば、絶縁性に優れたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の合成樹脂等から形成されている。絶縁材31は、紙、布、その他各種合成繊維等の基材を含んでも良い。また、絶縁材31は、絶縁性塗料でも良い。このようにコイル側フランジ27と配管側フランジ29との間に絶縁材31が設けられることにより、コイル側フランジ27と配管側フランジ29の接触による漏電を防止することができる。
【0050】
また、コイル側継手26と配管側継手28とは、ボルト及びナット等の支持部材33によって固定されている。そのため、支持部材33を通ってコイル14から冷媒配管10に電流が流れることを阻止する必要がある。
【0051】
そこで、コイル側フランジ27と支持部材33との間には、コイル側絶縁材30が設けられ、配管側フランジ29と支持部材33との間には、配管側絶縁材32が設けられている。
【0052】
コイル側絶縁材30及び配管側絶縁材32は、絶縁性に優れた合成樹脂等から形成されている。また、コイル側絶縁材30及び配管側絶縁材32は、紙、布等の基材を含んでも良い。このようにコイル側絶縁材30及び配管側絶縁材32が設けられることにより、支持部材33を介した漏電を防止することができる。
【0053】
このように冷凍回路1は、コイル14から冷媒配管10を介した電流が外部等に流れ出ることを防止することができる。よって、冷却されたコイル14に高電流を安全に流すことができ、高性能な磁界を安全に発生させることができる。
【0054】
なお、冷媒として利用されるハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロオレフィン及び二酸化炭素は、良い絶縁性を持つ。特に二酸化炭素は無極性分子であるので、本用途には極めて有用な冷媒である。
【0055】
図5は、冷凍回路1のコイル14の概略構成を示す図である。
図5(A)は平面図であり、
図5(B)は
図5(A)に示すC-C線断面図である。
図5に示すように、コイル14は、コイル基材20部分の略全体が絶縁材料24で覆われている。
【0056】
絶縁材料24は、例えば、ABS(アクリロニトリル ブタジエン スチレン)、PP(ポリプロピレン)等の合成樹脂材料等からモールド成形されている。また、絶縁材料24の素材としては、セラミック系材料等が用いられても良い。また、絶縁材料24は、絶縁性塗料を用いた塗装によって形成されても良い。
このようにコイル14の略全体が絶縁材料24で覆われることにより、人体や周囲の構造物にコイル14から電流が漏れることを防止することができる。
【0057】
なお、前述のとおり、コイル14は、冷凍サイクルの蒸発器としての役割を有する。即ち、冷媒がコイル14の内部を流れる過程で蒸発することで、コイル14を冷却する。一般的な従来技術の蒸発器は、冷熱を生成する役割を持つ構造である。言い換えれば、一般的な蒸発器は、例えばエアコンのように冷風を作ったり、冷蔵庫のように製氷したりするために存在する。そのため従来技術の蒸発器は、本実施形態に係るコイル14のように全面が覆われてしまうと、その役割を果たせない。
【0058】
しかし、本実施形態に係る蒸発器としてのコイル14は、コイル14が自ら発熱する熱を冷媒が除去すれば良く、外部を冷却する必要はない。そのため、コイル14の略全面が絶縁材料24で覆われても何ら問題がなく、コイル14は、人体や周囲の構造物に対して、絶縁性と断熱性を適切に設計できる有用な構造である。これにより、蒸発する冷媒で効率良くコイル14を冷却することができ、安定的に磁力を発生させることができる。
【0059】
図6は、冷凍回路1のコイル14を示す断面図である。詳しくは、
図6は、コイル14のコイル基材20の横断面を示している。
図6に示すように、コイル14の断面、即ちコイル基材20の横断面は、略矩形状である。換言すれば、コイル14は、板状のコイル基材20から形成されている。なお、コイル14の断面の短辺は、例えば略円弧状である等、曲線状に形成されても良い。
【0060】
コイル14は、
図2に示すように矩形断面の短辺を略円筒に沿って巻き上げるようにして形成されている。これにより磁界を発生させるソレノイドが構成される。ソレノイドのような略螺旋巻きの構造において強い磁界を生成するためには、単位長さ辺りの巻き数が多いことが望ましい。そのためには、
図6に示すように、コイル14は、略矩形状の断面を有し、断面の短辺の長さ、即ちコイル基材20の厚みt1、が小さく形成されている。
【0061】
例えば
図6の例では、コイル基材20の厚みt1は、約1~10(mm)、好ましくは、約3(mm)である。このように薄い帯状の矩形断面を持つコイル14に形成される冷媒の流路、即ち貫通孔21は、内径d1が約1(mm)の略円形状の微細な孔である。
【0062】
一般的にこのような微細孔に水を流そうとしても、流動抵抗が極めて高くなる。また、若干でもコンタミネーションや異物が流れ込めば孔が詰まり、局部的に冷却不良を起こす。最悪の場合、溶断に至る危険性がある。強い磁界を発生させるコンパクトに成形されたコイル14では、貫通孔21が微細であって、従来のように水で冷却することは不可能である。
【0063】
一方、冷媒は水に比べて粘度が極めて低く、一般的に内径d1が1(mm)程度の孔は容易に流動可能である。よって、コイル14は、冷凍サイクルの蒸発器として機能して冷媒の蒸発潜熱を利用するので、微細な貫通孔21が形成されたコンパクトな形態でありながら、高性能な冷却性能が得られ、その結果、高性能な磁界発生能力が得られる。
【0064】
なお、前述のとおり、コイル14は、銀、アルミニウム、銅、銅合金等の良導体から形成されている。コイル14の素材としては、銅あるいは銅合金が最も望ましい。これにより、電気抵抗が小さく高電流を流すことができ、且つ熱伝導率が高く冷媒の蒸発で好適に冷却されるので、強い磁界を長時間安定的に発生させることができる。
【0065】
次に、
図7ないし
図10を参照して、実施形態を変形した例として、コイル基材20の形態を変更したコイル基材120、220、320、420について詳細に説明する。なお、
図7ないし
図10において変形例を示すコイル基材120、220、320、420以外の構成要素については、既に説明した実施形態と同一若しくは同様であるのでその説明を省略する。
【0066】
図7は、本発明の他の実施形態に係るコイル14のコイル基材120を示す断面図であり、コイル基材
120の横断面を示している。
図7に示すように、貫通孔121は、断面略四角形状に形成されても良い。
【0067】
例えば、貫通孔121は、長辺の長さ、即ち高さh1、が1(mm)程度の略矩形状の微細な孔で良い。このような形態によっても、
図6に示すコイル基材20から形成されたコイル14と同様の効果が得られる。また、蒸発器の伝熱面積を広く確保することができ、更に優れた冷却性能が得られる。その結果、優れた磁界発生能力が得られる。
なお、貫通孔121は、上記の形態に限定されるものではなく、例えば、その他の多角形状でも良い。
【0068】
図8は、本発明の他の実施形態に係るコイル14のコイル基材220を示す断面図である。即ち、
図8は、コイル基材220の横断面を示している。
図8に示すように、コイル基材220には、断面の長辺に略沿って複数の列状に貫通孔221が形成されている。
【0069】
具体的には、コイル基材220は、冷媒流路となる貫通孔221と、コイル基材220の外壁面と、の間に他の冷媒流路、即ち貫通孔221、が形成される構成である。このような構成によっても、
図6に示すコイル基材20と同様の効果を奏することができる。
【0070】
また更に、コイル基材220は、コイル基材20及び
図7に示すコイル基材120に比べて表面積を大きくできる。即ち、コイル基材220の貫通孔221は、複数列設けられる構成であるので、コイル基材20の貫通孔21(
図6参照)及びコイル基材120の貫通孔121(
図7参照)よりも合計の周面積が大きい。
【0071】
このように表面積が大きくなることにより、コイル14の磁界を発生させる性能を高めることができる。詳しくは、コイル基材220は、磁界を発生させるための高周波電流を流すための部材である。磁界を発生させる電流は、高周波電流の表皮効果によって、コイル基材220の表面に偏って流れるようになる。そのため、表面積が大きくなるように微細孔、即ち貫通孔221、が形成される構成は、高周波電流の流れを良好にし、強い電界を発生させるために有益である。
【0072】
言い換えれば、高周波電流が流れるコイル基材220からなるコイル14においては、微細孔として貫通孔221が多層に形成されることにより表面積が増えるので、コイル14のインピーダンスの直流抵抗成分の増加を効果的に抑えることができるメリットがある。
【0073】
なお、仮にコイル14が外部を冷却するものであれば、貫通孔221が複数の列状に形成される構成は、熱伝達の観点から不利益である。つまり、貫通孔221内部の熱をコイル基材220の外部に伝える必要があるので、冷媒流路となる貫通孔221と、被冷却面となるコイル基材220の外壁面と、の間に他の貫通孔221が存在する構成は採用できない。貫通孔221と、コイル基材220の外壁面と、の間に存在する他の貫通孔221によって熱伝達が阻害されるからである。
【0074】
これに対して本実施形態に係る冷凍回路1は、外部を冷却することを目的としておらず、磁界を発生して発熱するコイル14を冷却するものである。よって、前述のとおり、貫通孔221が複数の列状に形成されるコイル基材220の構成を採用することができ、それによって、優れた磁界発生性能が得られる。即ち、強い磁界を長時間安定的に発生することができるコンパクトな冷凍回路1が得られる。
なお、貫通孔221の配列は、略千鳥状であるが、その他の配列形式を採用することも可能である。
【0075】
図9は、本発明の他の実施形態に係るコイル基材320を示す断面図である。
図9は、コイル14のコイル基材320の横断面を示している。
図9に示すように、コイル基材320には、略三角形状の貫通孔321が複数の列状に形成されている。
【0076】
具体的には、略三角形状に形成された貫通孔321が、互いの辺部が略平行に接近するよう並べられて多数設けられている。コイル基材320は、貫通孔321と、コイル基材320の外壁面と、の間に他の貫通孔321が存在するような配列で形成されても良い。
【0077】
このような構成によっても、既に説明した
図8に示すコイル基材220と同様に、優れた磁界発生性能が得られる。また更に、コイル基材320の貫通孔321は、コイル基材220の貫通孔221よりも面積を大きくできる。よって、更に効率良く磁界を発生することができる高性能な冷凍回路1が得られる。
【0078】
なお、上記の例では、貫通孔321の断面形状は、略三角形状であるが、貫通孔321の断面形状及び配列はこれに限定されるものではない。貫通孔321の断面形状としては、正方形、長方形、台形その他四角形状、五角形、六角形、楕円形その他種々の形状を採用することができる。また、貫通孔321の配列数、配列形式についても種々の形態を採用可能である。
【0079】
図10は、本発明の他の実施形態に係るコイル14のコイル基材420を示す断面図である。
図10は、コイル基材420の横断面を示している。
図10に示すように、コイル基材420には、複数の円管部419が接合された形態である。
【0080】
具体的には、円管部419は、略円管状の形態をなし、それぞれの円管部419に略円形状の断面となる貫通孔421が形成されている。コイル基材420は、複数の円管部419が並列に接合されたような形態をなしている。即ち、貫通孔421は、コイル基材420の断面においてコイル14の巻き径方向に並んでいる。
【0081】
このような構成によっても、
図6から
図9を参照して既に説明したコイル基材20、120、220、320と同様に、コイル14の巻き軸方向の長さを短くすることができ、コンパクトで強い磁界を発生することができる高性能なコイル14が得られる。貫通孔421の断面は、略円形状であるので、二酸化炭素を冷媒として採用する際の高圧にも耐え得る。
【0082】
また、円管部419は、それぞれが円管状に加工された後に、ロー付け等によって互いに接合されても良い。これにより、コイル14の加工が容易になり、冷凍回路1の生産性が向上する。
【0083】
また、貫通孔421、即ち円管部419は、
図10に示すように一列に並んでいても良いし、図示を省略するが、複数列に並べられても良い。円管部419が複数列設けられることにより、貫通孔421の合計面積を大きくすることができる。よって、コイル14は、更に効率良く磁界を発生することができる。
なお、円管部419の断面は、円形の他、長円形、楕円形、角管状等その他の形状でも良い。
【0084】
以上説明のとおり、本実施形態は、以下の特徴を有する。
(1)狭い領域に冷却液を循環させることができる複数の微細孔としての貫通孔21、121、221、321、421が形成された断面形状のコイル14に電流と冷却液を流す構造。
【0085】
(2)前記(1)の冷却液をハイドロフルオロカーボン系あるいはハイドロフルオロオレフィン系の冷媒や、二酸化炭素の単一冷媒、または、それらの混合物を冷却液とした冷却方法。
【0086】
(3)前記(2)の冷媒を循環させる冷凍回路1の回路構成。
【0087】
(4)冷媒と電流を流すことができるコイル14と冷媒配管10との接続部25の構成。
【0088】
なお、図示を省略するが、コイル14は、円錐形状に巻かれた構成が採用されても良い。これにより、コイル14に流す電流に対して、円錐形状の内部に発生する磁界が大きくなる。よって、コイル14に流れる電流を相対的に小さくすることができ、コイル14を冷却する冷凍回路1の構成をより簡略化することができる。
【0089】
以上のとおり、本発明の実施形態によれば、冷凍回路1は、コイル14を直接冷媒で冷却できる構造及び回路構成である。よって、コイル14に大電流を流しても磁界発生に好適な冷却を効率的に行うことができ、安定的に所定の磁界を発生させることができる磁界発生装置が実現する。
【0090】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 冷凍回路
10 冷媒配管
11 圧縮機
12 凝縮器
13 膨張弁
14 コイル
20、120、220、320、420 コイル基材
21、121、221、321、421 貫通孔
22 入口側
23 出口側
24 絶縁材料
25 接続部
26 コイル側継手
27 コイル側フランジ
28 配管側継手
29 配管側フランジ
30 コイル側絶縁材
31 絶縁材
32 配管側絶縁材
33 支持部材
35 高周波電流発生器
36 電極
37 電極
38 配線
39 配線
419 円管部
d1 内径
t1 厚み
h1 高さ
T1 蒸発温度
T2 凝縮温度
S1 圧縮過程
S2 放熱過程
S3 膨張過程
S4 蒸発過程