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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-02
(45)【発行日】2025-09-10
(54)【発明の名称】信号処理方法及び信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20250903BHJP
【FI】
G01C3/06 120Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024046168
(22)【出願日】2024-03-22
【審査請求日】2024-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503249810
【氏名又は名称】株式会社OptoComb
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】興梠 元伸
(72)【発明者】
【氏名】今井 一宏
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/034085(WO,A1)
【文献】特開平03-266900(JP,A)
【文献】特開平10-143196(JP,A)
【文献】国際公開第2010/071161(WO,A1)
【文献】特許第5231883(JP,B2)
【文献】特開2017-138129(JP,A)
【文献】Boxuan Tang,Digital Frequency Spectrum Analysis based on Discrete Fourier Transform,International Conference on Network Communication and Information Secrity (ICNCIS 2022),米国,Proc. of SPIE,2022年11月28日,Vol. 12503,pp.125030F-1 - pp.125030F-13,https://doi.org/10.1117/12.265743,doi: 10.1117/12.2657431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00 - 9/10
G01C 3/00 - 3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、信号処理部を用いて、離散フーリエ変換(DFT: discrete Fourier transform)アルゴリズムを使用して、次の式(1)
【数1】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)を示す。)
にて示される周波数fが繰り返し周波数Δfで正規化された周波数である次の式(2)
【数2】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)
にて示される周波数領域のスペクトル成分を得る信号処理方法であって、
F(n)を正規化周波数p=Δfo+nの成分としたときに、離散信号S(v)からスペクトル成分F(n)を求めるための次の式(3)
【数3】
にて定義され、1波形区間(周期的な包絡線を有する信号の一周期)のサンプル数をNとした離散フーリエ変換(DFT)F(n)は、vは離散インデックス(0,1,2,3,…,N-1)とし、信号範囲をk倍(kは2以上の整数、離散インデックスvは0,1,2,3,…,kN-1)の波形区間に拡張し窓関数をかけた、次の式(4)
【数4】
(ここで、W’(v)はvがkN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にkN幅のオフセット周波数の項を乗じた次の式(5)
【数5】
である。)にて示されるDFTを次のNサンプル数のDFTの式(6)に変換し、
【数6】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
式(6)にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする信号処理方法。
【請求項2】
周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、F(n)を正規化周波数p=nの成分としたときに、次の式(7)
【数7】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする請求項1に記載の信号処理方法。
【請求項3】
高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用して、周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の信号処理方法。
【請求項4】
上記周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データは、2つの光コムの干渉光を電気信号に変換した時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる波形データであることを特徴とする請求項3に記載の信号処理方法。
【請求項5】
時間領域の周期的な包絡線を有するアナログ信号をデジタル化するAD変換部と、
上記AD変換部により得られる時系列の波形データから、離散フーリエ変換(DFT: discrete Fourier transform)アルゴリズムを使用して、次の式(1)
【数8】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)を示す。)
にて示される周波数fが繰り返し周波数Δfで正規化された周波数である次の式(2)
【数9】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)
にて示される周波数領域のスペクトル成分を得る信号処理部とを備え、
F(n)を正規化周波数p=Δfo+nの成分としたときに、上記信号処理部において、離散信号S(v)からスペクトル成分F(n)を求めるための次の式(3)
【数10】
にて定義され、1波形区間(周期的な包絡線を有する信号の一周期)のサンプル数をNとした離散フーリエ変換(DFT)F(n)を、vは離散インデックス(0,1,2,3,…,N-1)とし、信号範囲をk倍(kは2以上の整数、離散インデックスvは0,1,2,3,…,kN-1)の波形区間に拡張し窓関数をかけた、次の式(4)
【数11】
(ここで、W’(v)はvがkN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にkN幅のオフセット周波数の項を乗じた次の式(5)
【数12】
である。)にて示されるDFTを次のNサンプル数のDFTの式(6)に変換し、
【数13】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)式(6)にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする信号処理装置。
【請求項6】
上記信号処理部は、F(n)を正規化周波数p=nの成分としたときに、次の式(7)
【数14】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする請求項5に記載の信号処理装置。
【請求項7】
上記信号処理部は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用して、周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の信号処理装置。
【請求項8】
上記時間領域の周期的な包絡線を有するアナログ信号は2つの光コムの干渉光を電気信号に変換した時間領域の干渉信号であることを特徴とする請求項7に記載の信号処理装置。
【請求項9】
上記時間領域の周期的な包絡線を有するアナログ信号は2つの光コムの干渉光を電気信号に変換した時間領域の干渉信号であることを特徴とする請求項7に記載の信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期的な、または周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから周波数領域のスペクトル成分を得る信号処理方法及び信号処理装置に関し、例えば、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報及び振幅スペクトル情報に基づいて、計測を行う光干渉計測装置等に適用される。
【背景技術】
【0002】
2つの光コムを干渉させることで、光学的な干渉パターンが生成され、そのパターンは光周波数コムの周波数成分の違いによって形成され、干渉パターンの変化は、物理量(例:距離、屈折率の変化など)に依存し、光干渉計測装置では、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて、物理量を計測する。光干渉計測装置は、精密な距離測定、干渉フリンジの解析、ガス検知、屈折率の計測、精密な時間計測など多くの応用分野で使用されている。
【0003】
コヒーレントな計測光を計測対象に照射し、その反射光(戻り光)と参照光の干渉信号に基づいて、計測対象の距離、速度、振動などを計測する技術が知られている(例えば、特許文献1、2、3、4、5、6、7、8参照)。
【0004】
特許文献1には反射光(戻り光)と参照光の干渉信号に基づくOCTについて記載され、また、特許文献2には干渉計が記載されている。
【0005】
ある点から測定点までの絶対距離を高精度で測定する装置としてレーザー距離計が知られている。例えば、特許文献3、4には、測定光の干渉信号と基準光の干渉信号の時間差から距離を測定する距離計が記載されている。
【0006】
従来の絶対距離計では、長い距離を高精度で測れる実用的な絶対距離計を実現することが難しく、高い分解能を得るためにはレーザー変位計のように原点復帰が必要なため絶対距離測定に適さない方法しか手段がなかった。
【0007】
本件発明者等は、基準面に照射される基準光と測定面に照射される測定光との干渉光を基準光検出器により検出するとともに、上記基準面により反射された基準光と上記測定面により反射された測定光との干渉光を測定光検出器により検出して、上記基準光検出器と測定光検出器により得られる2つ干渉信号の時間差から、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を求めることにより、高精度で、しかも短時間に行うことの可能な距離計及び距離測定方法並びに光学的三次元形状測定機を先に提案している(例えば、特許文献4参照。)
【0008】
上記2つ干渉信号の時間差、すなわち、上記基準面までの距離と上記測定面までの距離の差を、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて算出するものとすることができる。
【0009】
また、繰り返し周波数がわずかに異なる二台のフェムト秒レーザーの干渉信号を活用して、高精度、かつ高速に分光計測を行う技術として、デュアルコム(Dual Comb)分光法が提案されている(特許文献9、10、非特許文献1、2参照) 。
【0010】
デュアルコム分光法を用いた計測によって、固体試料の物性を評価できる。デュアルコム分光法を用いた計測では、2つの光周波数コムのうち1つまたは両方の光周波数コムの進路上に固体、気体や液体等の試料を設置し、上記試料を通過した光周波数コムと通過しない光周波数コムとの干渉波形を取得する。リアルタイムで干渉波形の位相補正及びコヒーレント積算してフーリエ解析を行うことによって、固体試料の特性を含む振幅・位相スペクトル情報を検出できる。検出した振幅・位相スペクトル情報を解析することによって、上記試料の物性情報が得られる。
【0011】
また、本件出願人は、所定の周波数間隔のスペクトルであり、互いに位相同期され干渉性のある基準光と測定光との干渉光を検出して、上記基準光と測定光との位相差を求めることにより、測定対象の測定面の振動情報を解析する振動計において、測定光を周波数成分毎に分けて測定対象の測定面の複数点に照射する分光/合波ヘッドを用いることにより、上記測定面の複数点における振動情報を同時に測定可能とした振動計測装置及び振動計測方法を先に提案している(例えば、特許文献5-7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2017-046739号公報
【文献】特開2021-143995号公報
【文献】米国特許8558993号公報
【文献】特許第5231883号公報
【文献】特許第5336921号公報
【文献】特開2010-203860号公報
【文献】特許第5363231号公報
【文献】特開2021-056090号公報
【文献】米国特許9557219号公報
【文献】特開2017-138129号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】S. Schiller、 ”Spectrometry with frequency combs”, OPTICS LETTERS Vol.27, No.9,May 1, 2002.
【文献】Microresonator soliton dual-comb spectroscopy | Science
【文献】https://www.ni.com/docs/ja-JP/bundle/labwindows-cvi/page/advancedanalysisconcepts/lvac_low_sidelobe.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、2つの光コムの干渉信号を利用して計測を行う光干渉計測装置では、ADコンバータにより時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データについて、フーリエ変換を使用して、次の式(1)にて示される
【数1】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さい、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)を示す。)
に発生する干渉信号から、周波数領域のスペクトル成分を得るという方法が一般的に用いられている。
【0015】
フーリエ変換によりスペクトル成分を得るという計算方法として、離散フーリエ変換(DFT: Discrete Fourier Transform)を計算機上で高速に計算するアルゴリズムである高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムがあるが、それでもサンプル数が大きいと計算数が大きくなる問題があった。
【0016】
振動や移動する物体までの距離測定のように位相が時間的に変化する場合は光コムの各スペクトル情報の時間変化を測定する必要があり、この場合はいわゆる短時間フーリエ変換が用いられ、データをN個ずらしながらオーバーラップしたkN個のデータを無限に長いデータから抜き出して、短時間フーリエ変換をしている。一般的なFFT(高速フーリエ変換)アルゴリズムでは、例えば、図5の(A)に示すように、時系列に順次取得される干渉波形のk波形区間の幅のデータ(波形区間はkNなので1波形区間が2μsの場合kx2μsの時間幅のデータを用いる。)を抜き出し、図5の(B)に示すように、kNの幅の波形に窓関数(W()またはW’())をかけ次数kNのフーリエ変換を行う。次に抜き出す波形を1波形区間(N)ずつずらして、窓関数を掛ける範囲をずらしながらフーリエ変換して、振動や距離などの時間変化する信号の位相の変化を解析していく。すなわち、FFTの波形区間をk=4とした場合、参照用干渉信号の時系列に並ぶ波形データと同じ範囲(k=4)の測定用干渉信号の時系列に並ぶ波形データを取得し、時系列に並ぶ波形データの周波数分解能を犠牲にしてダイナミックレンジを改善し各周波数成分間のクロストークを改善するために窓関数を各データに適用し、周波数分解能を犠牲にしたのを改善するためにk倍に拡張された波形区間のkNのサンプル数の次数kNのFFT処理を行うことにより周波数領域のデータ列を得る。そして、周波数領域に変換された参照用干渉信号の実部のデータ列と虚部のデータ列、測定用干渉信号の実部のデータ列と虚部のデータ列から、複素数計算により、測定用干渉信号の周波数毎の位相差の実部のデータ列と虚部のデータ列を得て、θ=arctan(虚部/実部)により算出される参照用干渉信号と測定用干渉信号のΔf周波数毎の位相差データを出力し、また、参照用干渉信号と測定用干渉信号の位相共役の積や測定用干渉信号の参照用干渉信号による除算(Phasor product)などを出力し、例えば、除算を行うことにより参照信号の振幅スペクトルで校正された振幅・位相スペクトル情報が得られる。振動計の場合、連続して何時間、無限にデータをとることがありうるので、計算はリアルタイムで行う。そこで、計算はFPGAを利用するが、次数kNのFFTを行う場合、kが大きいほど計算は膨大となり、FPGAにも負荷がかかりFPGAの計算能力が追い付かなくなる。また、出力データも多いのでデータの転送にも支障をきたす可能性がある。
【0017】
図6は、横軸をk、縦軸を計算数として、FFTの計算アルゴリズム(窓関数在り)の計算数を示す図である。
【0018】
この図6に示すように、FFTにおける計算(かけ算)の数は、窓関数在りのFFTの場合、1波形区間N(ここでは、N=256を仮定)サンプルのデータ列に対し、そのk倍のkNサンプルの計算を行うにあたっての計算数は、2の累乗の時最小になりkNLog2(kN)+kNになる。ここで、+kNは窓関数と信号との掛け算があるため計算として追加した。
【0019】
また、 図7は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、一般的なFFTの計算アルゴリズム(最単純k=1、窓関数矩形)を用いて、1波形区間(1/Δf=2μs)、256サンプル(ADコンバータ128MS/s)を仮定して、40MHzにビート周波数、振動によるドップラー周波数50kHzを仮定し、1波形区間、矩形窓で次数256のFFTを行った場合の信号強度とクロストークを示す図である。
【0020】
この図7に示すように、kが小さい場合はクロストークが大きくなる。1波形区間だけでは振動計に使えない。
【0021】
さらに、図8は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、一般的なFFTの計算アルゴリズム(k=8、窓関数LowSidelobe)を用いて、1波形区間(1/Δf=2μs)、256サンプル(ADコンバータ128MS/s)を仮定して、40MHzにビート周波数,振動によるドップラー周波数50kHzを仮定し、k=8波形区間、2048サンプル(ADコンバータ128MS/s)を仮定して、をFFTの区間として、次数2048のFFTを行った場合の信号強度とクロストークを示す図である。必要な周波数は8間隔ごと、すなわち500kHz間隔としている。
【0022】
この図8に示すように、波形区間を大きくして、窓関数をかけるとクロストークが極めて小さい(この場合-120dB以下)ことが分かる。また、波形区間が広がったため、雑音帯域幅が小さくなりSNが向上する。しかしながら、1波形区間N=256サンプルとしてk=8波形区間のFFTを実行したとしても、必要な信号はk=8間隔に一個であり、信号として必要な周波数以外を余剰に計算していることになる。
【0023】
そこで、本発明の目的は、例えば、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される上記干渉信号の振幅・位相スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置等において、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、周波数領域のスペクトル成分を得るにあたり、計算の負担を軽減し、効率よく計測処理を行うことができるようにすることにある。
【0024】
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
すなわち、本発明は、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、信号処理部を用いて、離散フーリエ変換(DFT: discrete Fourier transform)アルゴリズムを使用して、上記式(1)にて示される周波数fが繰り返し周波数Δfで正規化された周波数である次の式(2)
【数2】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)
にて示される周波数領域のスペクトル成分を得る信号処理方法であって、F(n)を正規化周波数p=Δfo+nの成分としたときに、離散信号S(v)からスペクトル成分F(n)を求めるための次の式(3)
【数3】
にて定義され、1波形区間(周期的な包絡線を有する信号の一周期)のサンプル数をNとした離散フーリエ変換(DFT)F(n)を、vは離散インデックス(0,1,2,3,…,N-1)とし、信号範囲をk倍(kは2以上の整数、離散インデックスvは0,1,2,3,…,kN-1)の波形区間に拡張し窓関数をかけた、次の式(4)
【数4】
(ここで、W’(v)はvがkN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にkN幅のオフセット周波数の項を乗じた次の式(5)
【数5】
である。)
にて示されるDFTを次のNサンプル数のDFTの式(6)に変換し、
【数6】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
式(6)にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする。
【0026】
本発明に係る信号処理方法は、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、F(n)を正規化周波数p=nの成分としたときに、次の式(7)
【数7】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得るものとすることができる。
【0027】
また、本発明に係る信号処理方法は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用して、周波数領域のスペクトル成分を得るものとすることができる。
【0028】
さらに、本発明に係る信号処理方法において、上記周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データは、2つの光コムの干渉光を電気信号に変換した時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる波形データであるものとすることができる。
【0029】
本発明は、信号処理装置であって、時間領域の周期的な包絡線を有するアナログ信号をデジタル化するAD変換部と、上記AD変換部により得られる時系列の波形データから、離散フーリエ変換(DFT: discrete Fourier transform)アルゴリズムを使用して、次の式(1)
【数8】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さい、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)を示す。)
にて示される周波数fが繰り返し周波数Δfで正規化された周波数である次の式(2)
【数9】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)
にて示される周波数領域のスペクトル成分を得る信号処理部とを備え、F(n)を正規化周波数p=Δfo+nの成分としたときに、上記信号処理部において、離散信号S(v)からスペクトル成分F(n)を求めるための次の式(3)
【数10】
にて定義され、1波形区間(周期的な包絡線を有する信号の一周期)のサンプル数をNとした離散フーリエ変換(DFT)F(n)を、vは離散インデックス(0,1,2,3,…,N-1)とし、信号範囲をk倍(kは2以上の整数、離散インデックスvは0,1,2,3,…,kN-1)の波形区間に拡張し窓関数をかけた、次の式(4)
【数11】
(ここで、W’(v)はvがkN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にkN幅のオフセット周波数の項を乗じた次の式(5)
【数12】
である。)
にて示されるDFTを次のNサンプル数のDFTの式(6)に変換し、
【数13】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
式(6)にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることを特徴とする。

【0030】
本発明に係る信号処理装置において、上記信号処理部は、F(n)を正規化周波数p=nの成分としたときに、次の式(7)
【数14】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得るものとすることができる。
【0031】
また、本発明に係る信号処理装置において、上記信号処理部は、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用して、周波数領域のスペクトル成分を得るものとすることができる。
【0032】
さらに、本発明に係る信号処理装置は、上記時間領域の周期的な包絡線を有するアナログ信号は2つの光コムの干渉光を電気信号に変換した時間領域の干渉信号であるのとすることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明では、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、DFTアルゴリズムを使用して、次の式(1)
【数15】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さい、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)を示す。)
にて示される周波数fが繰り返し周波数Δfで正規化された周波数である次の式(2)
【数16】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)にて示される周波数領域のスペクトル成分を得るにあたり、F(n)を正規化周波数p=Δfo+nの成分としたときに、次の式(6)
【数17】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示される次数NのDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、上記周波数領域のスペクトル成分を得ることにより、DFT処理に必要な「掛け算」の数を1/kに減少させることができる。さらに、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)アルゴリズムを使用して、周波数領域のスペクトル成分を得ることにより、図9に示すようにFFT処理に必要な「掛け算」の数をNLog2(N)+kNに減少させることができる。
【0034】
したがって、本発明によれば、DFT処理に必要な「掛け算」の数を減少させることができ、例えば、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置等において、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、周波数分解能を犠牲にしてダイナミックレンジを改善し各周波数成分間のクロストークを改善するために窓関数を各データに適用し、周波数分解能を犠牲にしたのを改善するためにk倍に拡張された波形区間に拡張された信号から周波数領域のスペクトル成分を得るにあたり、計算の負担を軽減し、効率よく計測処理を行う信号処理方法及び信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、本発明を適用した2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、上記光干渉計測装置において、光源から出力される2つ光コムの変調状態の遷移を示す状態遷移図である。
図3図3の(A),(B)は、上記光干渉計測装置の信号処理部で使用される本発明に係る信号処理方法に従うFFTアルゴリズムをk=4とした計算例を模式的に示す図であり、(A)は参照用干渉信号の時系列に並ぶ波形データと同じ範囲(k=4)の測定用干渉信号の時系列に並ぶk波形区間の幅の波形データを抜き出す様子を示し、(B)は抜き出す波形を1波形区間(N)ずつずらして、周波数分解能を犠牲にしてダイナミックレンジを改善し各周波数成分間のクロストークを改善するために窓関数(W()またはW’())をkNの幅の各波形データに適用してFFT処理をして振動や距離などの時間変化する信号の位相の変化を解析していく様子を示している。
図4図4は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、k=8、窓関数ありの場合の上記FFTアルゴリズムによる計算結果を示す図である。
図5図5の(A),(B)は、光干渉計測装置の信号処理部で使用される一般的なFFT(高速フーリエ変換)アルゴリズムを模式的に示す図であり、(A)は時系列に順次取得される取得される干渉波形のk波形区間の幅のデータ)を抜き出す様子を示し、(B)は抜き出す波形を1波形区間(N)ずつずらして、窓関数を掛ける範囲をずらしながらフーリエ変換して、振動や距離などの時間変化する信号の位相の変化を解析していく様子を示している。
図6図6は、横軸をk、縦軸を計算数として、一般的なFFTの計算アルゴリズム(窓関数在り)の計算数を示す図である。
図7図7は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、一般的なFFTの計算アルゴリズム(最単純k=1、窓関数矩形)を用いて、FFTを行った場合の信号強度とクロストークを示す図である。
図8図8は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、一般的なFFTの計算アルゴリズム(k=8、窓関数LowSidelobe)を用いて、FFTを行った場合の信号強度とクロストークを示す図である。
図9図9は、横軸をk、縦軸を計算数として、1波形区間をN=256サンプルと仮定して、そのk倍のkNサンプルの次数kNのFFT計算を式(4)と次数NのFFT計算を式(6)により計算した場合の各計算(掛け算)数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0037】
本発明は、例えば図1に示す光干渉計測装置100により実施される。
【0038】
図1は、本発明を適用した2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置の構成を示す模式図である。
【0039】
この光干渉計測装置100は、光源10から出力される2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相情スペクトル報に基づいて測定対象物200までの距離を計測する光コム距離計であって、2つの光コムを出力する光源10と、上記2つの光コムのうちの一方を測定光Lとして測定対象物に200照射し、上記測定対象物200により反射されて戻ってくる測定光L’に上記2つの光コムのうちの他方を参照光Lとして干渉させる干渉光学系20と上記干渉光学系20により得られる測定用干渉光LRS’を受光して電気信号に変換する干渉光検出部30からなる光コム干渉計40と、上記光コム干渉計40により得られる電気信号に変換にされた時間領域の干渉信号に基づいて周波数領域のスペクトル成分から振幅・位相スペクトル情報を取得する信号処理部50とを備える。
【0040】
光源10は、単一周波数発振(発振波長1554.94nm)のレーザー光源11から出力される周波数νのレーザー光がスプリッタ12により分割されて入力される2台の光コム発生器13,14を備える。
【0041】
上記2台の光コム発生器13,14は、電気光学変調型光コム発生器(OFCG1,OFCG2)からなり、光コム発生器(OFCG2)14には上記ビームスプリッタ12により分割された周波数νのレーザー光が音響光学周波数シフタ15を介してf(=40MHz)だけ周波数シフトされて入力されており、変調周波数fの駆動信号により駆動される光コム発生器(OFCG1)13から出力する光コムを測定光Lとして光コム干渉計40に入力し、変調周波数f+Δfの駆動信号により駆動される光コム発生器(OFCG2)14から出力する光コムを参照光 Lとして光コム干渉計40に入力する。
【0042】
上記光コム干渉計40の干渉光学系20は、上記光源10から入力される測定光Lと参照光Lが通過する光路を共有する参照用干渉系21と測定用干渉系22からなり、また、干渉光検出部30は、上記参照用干渉系21により得られる参照用干渉光が入力される参照用干渉光検出器31と上記測定用干渉系22により得られる測定用干渉光が入力される測定用干渉光検出器32からなる。
【0043】
上記参照用干渉系21は、上記光源10から入力される測定光Lを通過光と反射光に分割するビームスプリッタ21Aと、上記光源10から入力される参照光Lを通過光と反射光に分割するビームスプリッタ21Bからなる。
【0044】
上記ビームスプリッタ21Aは、上記測定光Lを通過光として上記測定用干渉系22に入力させるとともに、上記測定光Lを反射光として上記ビームスプリッタ21Bに入力させる。
【0045】
そして、上記ビームスプリッタ21Bは、上記参照光Lを通過光として上記測定用干渉系22に入力させるとともに、上記ビームスプリッタ21Aによる反射光として入力される上記測定光Lを通過光とし、上記参照光Lを反射光として、上記参照光Lと上記測定光Lを重ね合わせて干渉させた参照用干渉光LRSを上記干渉光検出部30の参照用干渉光検出器31に入力させる。
【0046】
また、上記測定用干渉系22は、上記参照用干渉系21から入力される測定光Lを通過光と反射光に分割するビームスプリッタ22Aと、上記参照用干渉系21から入力される参照光Lを通過光と反射光に分割するビームスプリッタ22Bからなる。
【0047】
上記ビームスプリッタ22Aは、上記測定光Lを通過光として上記測定対象物200の測定面に入力させるとともに、上記測定対象物200の測定面により反射されて戻ってくる上記測定光L’を反射光として上記ビームスプリッタ22Bに入力させる。
【0048】
そして、上記ビームスプリッタ22Bは、上記ビームスプリッタ21Aによる反射光として入力される上記測定光L’を通過光とし、上記参照光Lを反射光として、上記参照光Lと上記測定光L’を重ね合わせて干渉させた測定用干渉光LRS’を上記干渉光検出部30の測定用干渉光検出器32に入力させる。
【0049】
ここで、光コムの時間波形は変調周波数の逆数に一致する周期のパルス列であり、測定区間を往復せず参照用干渉光検出器31で検出されるパルスと比較して、測定用干渉光検出器32で検出されるパルスには群遅延又は周期パルスの位相遅れが含まれる。
【0050】
直接検波では検出器や信号処理の帯域制限を受けるため短いパルス幅から期待される程の時間分解能は得られないが、この光コム干渉計40では、上記参照光Lと上記測定光Lを重ね合わせて干渉させた参照用干渉光LRSを上記参照用干渉光検出器31で検出するとともに、上記参照光Lと上記測定光L’を重ね合わせて干渉させた測定用干渉光LRS’を上記干渉光検出部30の測定用干渉光検出器32で検出し、群遅延を含む干渉信号を得ることで、帯域の問題を回避している。
【0051】
上記参照光Lと上記測定光Lはそれぞれ一定の繰り返し周波数を持つパルス列であるから、干渉信号も一定の周期で同じ波形を繰り返す。繰り返し周波数差Δfが大きすぎると光パルスが重なり合う時間が短くなるため干渉信号がとりにくくなる。上記参照光Lと上記測定光Lは、 それを避けるために、例えば、fが25GHzであるのに対し繰り返し周波数差Δfは500kHzとし、fと比べて桁違いに小さくΔf <<fに設定して、周波数間隔が僅かに異なっていることにより、周波数帯域を圧縮しながら多波長の位相を一括検出することができるようにしている。
【0052】
上記2台の光コム発生器13,14から出力された上記測定光Lと上記参照光Lが上記光コム干渉計40に入力されるまでの遅延時間差T12は、上記参照用干渉光検出器31と測定用干渉光検出器32で共通であり、上記測定用干渉光検出器32に入力される測定用干渉光LRS’には、その遅延時間差T12に加えて上記測定光Lが上記測定用干渉系22のビームスプリッタ22Aと上記測定対象物200の測定面との間を往復することによる群遅延時間Tが含まれる。
【0053】
すなわち、上記参照用干渉光検出器31で参照用干渉光LRSを検出することにより得られる参照用干渉信号Sと上記測定用干渉光検出器32で測定用干渉光LRS’を検出することにより得られる測定用干渉信号Sには、上記群遅延時間Tに相当する位相差がある。
【0054】
信号処理部50では、ADコンバータにより時間領域の参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sをデジタル化して得られる各時系列の波形データについて、フーリエ変換を使用して、実時間の信号処理により周波数解析して、後述するように、上記二つの干渉信号S,S間の位相差を求め、それを2πfTと読み替えることにより測定用干渉光LRS’の群遅延時間Tを求める。
【0055】
=25GHzの変調信号の半波長は約6mmであり、その距離は多義性距離(La=c/2f c:光速)と呼ばれ、一回の測定では、その範囲内の距離が得られるのみで、測定距離が変調周波数f の半波長を超えると物体光の周期性によりその半波長の整数倍の距離が不明となって一義的に距離を求められないので、例えば、表1に示す4通りの変調周波数に設定した基準光パルスと測定光パルスを用いて4回測定して、信号処理部50において、同じ処理を行うことにより得られる各位相差を用いて、半波長相当の多義性距離(La= c/2f c:光速)を超える距離を算出する。
【表1】
【0056】
表1は、#1~4 の設定における2台の光コム発生器13,14の駆動信号F A,FBの周波数の遷移状態と位相差を示しており、基本周波数をf 、距離判定に必要な基本周波数の偏移をΔf 、光コム干渉を生成するための駆動周波数差をΔfとして、例えば、Δf=500kHz、Δf =10MHz、f =F1(25000MHz)、f +Δf=F2(25010MHz)、f+Δf=F3 (25000.5MHz)、f+Δf+Δf=F4(25010.5MHz)となっている。
【0057】
図2は、この光干渉計測装置100において、上記光源10から出力される測定光LSと参照光LRの変調状態の遷移を示す状態遷移図であり、横軸は時間、縦軸は光コムの変調周波数が異なるが光コムの光コムの表1に示される設定#1から設定#4の選択状態を示している。
【0058】
すなわち、この光干渉計測装置100において、2台の光コム発生器13,14に供給される駆動信号FA,FBによる2台の光コム発生器13,14の駆動周波数は、次の表2に示すように遷移される。
【表2】
【0059】
ここで、光コム距離計測装置100では、原理的に周波数が異なる2種類の変調信号により駆動される2台の光コム発生器13,14からパルス出射される干渉性のある参照光と測定光を用いることにより、信号処理部50において、参照用干渉光検出器31により得られる干渉信号すなわち参照用干渉信号Sと測定用干渉光検出器32により得られる測定用干渉信号Sを取り込んで、上記状態信号に基づいて参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sについて周波数解析を行い、参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの同じ正規化周波数pのモード同士の位相差を計算して光コム発生器から基準点までの光コム生成、伝送過程の光位相差を相殺した後、周波数軸で次数1あたりの位相差の増分を計算して信号パルスの位相差を求めることにより、基準点から測定対象物面50までの距離を算出する。
【0060】
なお、測定距離が変調周波数f の半波長を超えると物体光の周期性によりその半波長の整数倍の距離が不明となって一義的に距離を求められないので、表1に示す4通りの変調周波数に設定した基準光と測定光を用いて4回測定して、上記信号処理部50において、基準光と測定光を取り込んで、同じ処理を行うことにより得られる各位相差を用いて、半波長相当の多義性距離(La=c/(2f )c:真空中の光速、n:大気の群屈折率)を超える距離を算出する。
【0061】
すなわち、上記表1に示す4通りの変調周波数に設定して測定して得られる参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差は、2台の光コム発生器13,14を駆動する変調信号の変調周波数がfとf +Δfである#1の設定では-2πfmTとなり、変調信号の変調周波数がf +Δf とf +Δf +Δfである#2の設定では-2π(f+Δf)Tとなり、変調信号の変調周波数がf +Δfとfである#3の設定では-2π(f + Δf)Tとなり、変調信号の変調周波数がf +Δf +Δfとf +Δfである#4の設定では-2π(f +Δf +Δf)Tとなる。なお、位相差の符号は2台の光コム発生器13,14を駆動する変調周波数の大小関係の逆転による符号反転を補正してある。
【0062】
多義性距離(La=c/(2f )よりも長い場合、参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差(-2πf T)は、βを整数としてφ+2βπの形であり、計算によりφの部分だけが求められるが、整数値β は不明である。
【0063】
一方、#1の設定での参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差-2πfTと#2の設定での参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差-2π(f+Δf )Tの差は2πΔfmTであり、また、#3の設定での参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差-2π(f +Δf)Tと#4の設定での参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの位相差-2π(f +Δf +Δf)Tの差は2πΔfTであり、1/Δf の波長に相当する距離(Δf =10MHzであればLaは15m)までならば、一義的に位相が決まる。
【0064】
ここで、f =25GHz、Δf=500kHz、Δf =10MHzとした場合、Δf=500kHzであるからLa=300mまでの距離計測を行うことができる。
【0065】
この光干渉計測装置100では、上記表1に示す4通りの変調周波数に設定して測定して得られる参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sを用いて絶対距離計測が行われる。すなわち、1つの状態を一定時間保持した後に他の状態に移り、一定の区間でその状態の信号位相計測を行い、#1,#2,#3,#4の設定状態の位相を使って、上記測定用干渉系22のビームスプリッタ22Aの位置を基準点として基準点から上記測定対象物50の測定面までの絶対距離Dの計算処理を実行する。
【0066】
この光干渉計測装置100における計測速度は、6mm以内の相対距離測定ではΔfに等しく500kHzであるのに対し、周波数の切り替えを要する絶対距離測定では、周波数の切り替え時間と絶対距離計算時間を含めたものとなるが、上記4種類の変調信号F1,F2,F3,F4を巡回的に切り替えて、2台の光コム発生器13,14の駆動状態を迅速に遷移させることができ、上記信号処理部50では、上記参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sを取り込み、上記参照用干渉信号Sと測定用干渉信号Sの波形の場所とその場所における光コムの周波数設定を明確に把握した状態で絶対距離計算を短時間で確実に行うことができる。
【0067】
上記信号処理部50は、例えば、上記干渉光検出部30の各光検出器31,32により得られた二つの干渉信号S,Sの各波形を同時刻にサンプリングしてデジタル信号に変換するADコンバータとフーリエ変換を使用して実時間の信号処理を行うFPGA(Field-Programmable Gate Array)からなるものとすることができる。
【0068】
上記信号処理部50では、上記干渉光検出部30の各光検出器31,32により得られた二つの干渉信号S,Sの各波形をADコンバータで同時刻にサンプリングしてデジタル信号に変換することにより取得される参照用干渉信号の時系列に並ぶ波形データと同じ範囲の測定用干渉信号の時系列に並ぶ波形データについて、図3の(A),(B)に示すFFTアルゴリズムを使用して、FFT処理を行う。
【0069】
図3の(A),(B)は、上記信号処理部50で使用される本発明に係る信号処理方法に従うFFTアルゴリズムによるk=4とした計算例を模式的に示す図である。
【0070】
すなわち、上記信号処理部50では、図3の(A)に示すように、FFTの波形区間をk=4とした場合、参照用干渉信号の時系列に並ぶ波形データと同じ範囲(k=4)の測定用干渉信号の時系列に並ぶk波形区間の幅の波形データを抜き出し、図3の(B)に示すように、周波数分解能を犠牲にしてダイナミックレンジを改善し各周波数成分間のクロストークを改善するために窓関数をkNの幅の各波形データに適用し、周波数分解能を犠牲にしたのを改善するためにk倍に拡張された波形区間をk分割して合計することにより得られる1波形区間(1/Δf)同じサンプル数の波形データとして、次数NのFFT処理を行うことにより1波形区間256サンプル毎の周波数領域のデータ列を得る。そして、周波数領域に変換された参照用干渉信号の実部のデータ列と虚部のデータ列、測定用干渉信号の実部のデータ列と虚部のデータ列から、複素数計算により、測定用干渉信号の周波数毎の位相差の実部のデータ列と虚部のデータ列を得て、θ=arctan(虚部/実部)により算出される参照用干渉信号と測定用干渉信号のΔf周波数毎の位相差データを出力し、また、参照用干渉信号と測定用干渉信号の位相共役の積や測定用干渉信号の参照用干渉信号による除算(Phasor product)などの演算結果を出力する。例えば、除算を行うことにより、参照信号の振幅スペクトルで校正された振幅・位相スペクトル情報が得られる。
【0071】
ここで、本発明では、上記窓関数として、矩形窓関数以外の窓関数を使用する。大きなダイナミックレンジが可能でクロストークを効率よく減らす目的に使用される窓関数として、kが8以上の場合に有効なのはブラックマンン系窓関数、例えば、ブラックマン・ハリス (Blackman-Harris ) 窓関数、ブラックマン-ナットール (Blackman-Nuttall ) 窓関数、7Term Blackman 窓関数、4Term Blackman窓関数があり、kが8以上で有効なのはブラックマンン系以外の窓関数では、ハリス (Harris ) 窓関数、ローサイドローブ(Low Sidelode) 窓関数、フラットトップ(Flat top) 窓関数があり、kが4の整数の場合に有効なのは窓関数としてはパーゼン(Parzen)窓関数がある(例えば、非特許文献3参照 )。
【0072】
上記信号処理部50で使用するFFTアルゴリズムにおいて、上記時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データ、すなわち、離散時間信号S(v)から、DFTアルゴリズムを使用して、次の式(1)
【数18】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さい(図1の場合では0になる。)、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号(0,1,2,…)または正規化周波数を示す。)にて示される周波数領域のスペクトル成分を得るにあたり、F(n)を正規化周波数p=nの成分としたときに、1波形区間のDFTは、次の式(8)のように定義され、
【数19】
exp(-i2πnv/N)にて示される各時間サンプル点vにおけるΔfに正規化された周波数成分pの成分の総和として与えられる。
【0073】
ここで、離散時間信号S(v)から周波数領域のスペクトル成分すなわち離散周波数信号F(n)を求めるための1波形区間のサンプル数がNのDFTを、vは1サンプル点で正規化、nは、Δfrに正規化された整数値0,1,2,~,N-1とし、1波形区間のサンプル数をNとして、nの定義をそのままに、信号範囲をk倍の波形区間に拡張し、kN幅の窓関数W(v)を掛けたkNサンプル数のDFTは、次の式(9)
【数20】
にて定義される。
【0074】
式(9)は、nが整数である限り、任意の値、たとえNより大きくなろうとも、また、負の値であろうとも、変数vの関数であるexp(-i2πnv/N)がNの幅で周期的になるので、上記式(7)に置き換えられる。
【数21】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
【0075】
kN幅の窓関数W(v)を掛けたkNサンプル数のDFTにFFTアルゴリズムを使用した場合の「掛け算」の数は、上記kN幅の窓関数W(v)が矩形窓関数以外であれば、式(9)ではkNLog2(kN)+kNであるのに対し、式(7)ではNLog2(N)+kNに減少する。
【0076】
そこで、上記信号処理部50では、上記式(7)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データである離散時間信号S(v)から、周波数領域のスペクトル成分すなわち離散周波数信号F(n)を得て、上記測定用干渉系22のビームスプリッタ22Aの位置を基準点として基準点から上記測定対象物50の測定面までの絶対距離Dを求める。
【0077】
上述の如く、上記信号処理部50では、エンベロープが周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データS(v)とし、S(v)から上記式(1)にて示されるfの周波数成分の振幅・位相スペクトル情報を得る信号処理が実行される。
【数22】
【0078】
ここで、fはn番目の周波数成分(nは0~∞であるが、図3図5の場合では有効な周波数成分を持つ範囲は0≦nminからnmax<N/2である。特許文献8及び非特許文献1ではnが負の周波数成分の場合の検出方法が示されている。本特許技術はnが負の場合にも適用が可能である。)、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さいn=0番目の成分(エンベロープが周期的であっても、各周期で位相が変化する場合を想定しているためである。)、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号または正規化周波数、Δfrは繰り返し周波数を示す。
【0079】
連続した大量の波形データからkNの幅で抜き出した波形データS(v)は、周期ごとのパルス(キャリアがある)で位相が線形的に変化する。光コムでいうキャリアエンベロープオフセット周波数と同じである。vは0~kN-1である。
【0080】
式(1)は、次の式(10)の計算を行うことにより、 Δfrで正規化される。
【数23】
【0081】
ここで、正規化オフセット周波数Δf=Δf/Δfrである。nはnΔfrの正規化周波数であり、上記式(1)~式(4)、式(6)~式(10)におけるnに相当し、Δfrで正規化された周波数成分pは上記式(2)にて示される。
【数24】
(ここで、Δfoは繰り返し周波数Δfで正規化されたオフセット周波数)
【0082】
波形データS(v)からfの周波数成分の振幅・位相スペクトル情報を得る信号処理では、サンプリング周波数が整数Nで一周期となるように設定されている。一般的には、エイリアスを防ぐため、Nは2nmax<Nと設定されている。エイリアスを許容するならばその限りではない。
【0083】
nの離散インデックスを持つ周波数成分の情報を得るには、上記式(3)にて示される少なくとも1波形区間(一周期)の計算を行う必要がある。
【数25】
【0084】
ここでの範囲は、0~N-1とする。
【0085】
式(3)は、波形区間を整数k倍に拡張し、kNの幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)をかけると、上記式(4)になる。
【数26】
ここで、W’(v)は、vがkN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にkN幅のオフセット周波数の項を乗じた上記式(5)、ここで離散インデックスvは0,1,2,3,…、kN-1)である。
【数27】
である。
【0086】
式(4)は、次のNサンプル数のDFTに変形すると上記式(6)になる。
【数28】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
【0087】
この式(6)のDFTの計算を行うアルゴリズムを使用して、信号をデジタル化した波形データから、周波数領域のスペクトル成分を得ることができる。
【0088】
また、上記式(4)において、exp(-i2πnv/N)は、nが整数であるので変数vの関数としてNの幅で周期的になり、上記式(4)は、上記式(6)ように表せられる。Δf=0の場合、Δf=0であるためexp(-i2πΔf(v+mN)/N)=1であるので、下記式(7)となる。
【数29】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
【0089】
したがって、上記信号処理部50では、上記式(7)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データである離散時間信号S(v)から、周波数領域のスペクトル成分すなわち離散周波数信号F(n)を得て、上記測定用干渉系22のビームスプリッタ22Aの位置を基準点として基準点から上記測定対象物50の測定面までの絶対距離Dを求めることができる。
【0090】
ここで、FFTアルゴリズムは演算の数を減らすDFTアルゴリズムであり、次数Nが2の累乗のときに O(NlogN)の計算量で得るアルゴリズムである。より一般的には、次数がN=Πnと素因数分解できるとき、O(NΣn)の計算量となる。次数が2の累乗のときが最も高速に計算でき、アルゴリズムも単純になるので、0詰めで次数を調整することもある。したがって、Nが2の累乗である必要はない。
【0091】
図4は、横軸を周波数、縦軸を信号強度として、k=8、窓関数ありの場合の上記FFTアルゴリズムによる計算結果を示す図である。
【0092】
図4は、図8の場合と同じ条件、すなわち、k=8、窓関数(LowSidelobe)を用いて、1波形区間(1/Δf=2μs)、256サンプル(ADコンバータ128MS/s)を仮定して、40MHzにビート周波数,振動によるドップラー周波数50kHzを仮定し、k=8波形区間をFFTの区間として、上記式(7)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、FFTを行った場合の信号強度とクロストークを示す図である。
【0093】
図8の場合に必要な信号はk=8間隔に一個であり、必要な信号以外の余剰な信号計算を行っていることになるが、図4では余剰な信号計算をしていない。
【0094】
このように、この光干渉計測装置100では、上記光源10の2台の光コム発生器13、14により、上記光コム干渉計40において得られる干渉信号としてnΔfに信号を発生するものとして、本発明に係る信号処理方法を実行し、上記信号処理部50において、上記式(7)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、時間領域の干渉信号をデジタル化した時系列の波形データから、周波数領域のスペクトル成分を得ることにより、FFT解析のための計算の負担を軽減し、絶対距離の計測処理を効率よく行うことができる。
【0095】
ここで、上記光源10の2台の光コム発生器13,14の構成によっては、上記光コム干渉計40において得られる干渉信号として、nΔfではなくΔf+nΔfの周波数に信号を生じる場合がある。
【0096】
例えば、上記光源10の2台の光コム発生器13,14にオクターブコムを用いた場合では光コムのキャリアエンベロープ周波数の設定により、また、光共振器内に電気光学変調器(EO変調器:Electro-optical Modulator)を配置したEOコムを上記光源10の2台の光コム発生器13,14に用いた場合は音響光学周波数シフタ15の設定により、上記光コム干渉計40において得られる干渉信号として、nΔfではなくΔf+nΔfの周波数に信号を生じる。
【0097】
上記光干渉計測装置100では、このように上記光コム干渉計40において得られる干渉信号として、nΔfではなくΔf+nΔfの周波数に信号を生じる場合に、上記信号処理部50において、上記時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データから周波数領域のスペクトル成分を得る計算処理に、上記式(4)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用することができない。
【0098】
この場合、上記信号処理部50は、上記kN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にオフセット周波数の項を加えた上記式(5)にて示される
【数30】
(ここで、Δfは正規化されたオフセット周波数)
窓関数W(v)’を用いて計算処理を行えばよい。これにより、Δf+nΔfの信号は、nΔfに移動するので、上記式(4)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを適用することができる。
【0099】
すなわち、上記光コム干渉計40において得られる干渉信号として、nΔfではなくΔf+nΔfに信号を生じる場合に、上記信号処理部50は、上記kN幅の矩形窓関数以外の窓関数W(v)にオフセット周波数の項を加えた窓関数W’(v)を使用した上記式(6)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化した波形データから、周波数領域のスペクトル成分を得るものとすることができる。
【数31】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
【0100】
上記光干渉計測装置100では、光源10から出力される2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて測定対象物200の測定面までの距離を計測する光コム距離計として機能するものであるが、本発明は光コム距離計のみに限定されるものでなく、光源10から出力される2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて、測定対象物200の測定面の速度計測や振動計測、また、干渉フリンジの解析、ガス検知、屈折率の計測、精密な時間計測など多くの応用分野で使用することができる。
【0101】
例えば、デュアルコム(Dual Comb)分光法を用いた計測では、2つの光周波数コムのうち1つの光周波数コムの進路上に固体試料を設置し、固体試料を通過した光周波数コムと通過しない光周波数コムとの干渉波形を取得する。リアルタイムで干渉波形の位相補正及びコヒーレント積算を行うことによって、固体試料の特性を含む振幅・位相スペクトル情報を検出できる。検出した振幅・位相スペクトル情報を解析することによって、固体試料の物性情報が得られる。
【0102】
非特許文献1の開示技術では、
【数32】
(ここで、fはn番目の周波数成分、Δfはオフセット周波数でありΔfより小さい、nは離散インデックスまたは周波数成分の番号または正規化周波数、Δfrは繰り返し周波数を示す。)
に発生する干渉信号について、時系列のデータである干渉信号をスペクトラムアナライザーやフーリエ変換により解析して、ガスの分析を行っている。
【0103】
上記デュアルコム(Dual Comb)分光法を用いた計測で用いられる2つの光周波数コムの干渉信号は、上記式(1)の周波数に発生する時間領域の干渉信号であるから、上記信号処理部50では、上記時間領域の干渉信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データから、FFTアルゴリズムを使用して、振幅・位相スペクトル情報を算出することができ、上記式(4)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用することにより、少ない「掛け算」の数で効率よく計算処理を行うことができる。
【0104】
ここで、以上の説明では、2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置100に本発明を適用したが、本発明は、光コムの干渉信号のフーリエ解析処理のみに限定されるものでなく、基本周波数およびそれに付随する高次の周波数成分から構成されている周期的な包絡線を有する信号のフーリエ解析処理に適用して、周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる時系列の波形データから、FFTアルゴリズムを使用して、位相スペクトル情報及び振幅スペクトル情報を算出することができ、上記式(4)にて示されるDFTを行うFFTアルゴリズムを使用することにより、少ない「掛け算」の数で効率よく計算処理を行うことができる。
【0105】
また、以上の説明では、信号処理部50において、FFTアルゴリズムを使用することにより、少ない「掛け算」の数で効率よく計算処理を行うことができるとしたが、FFTアルゴリズムは演算の数を減らすDFTアルゴリズムであり、FFTアルゴリズムを使用しなくでも、上記式(4)にて示されるDFTにより、DFT処理に必要な「掛け算」の数を1/kに減少させることができる。
【0106】
すなわち、信号処理部50において周期的な包絡線を有する信号をデジタル化することにより得られる波形データから、DFTアルゴリズムを使用して、
【数33】
に発生する信号から、周波数領域のスペクトル成分を得るにあたり、上記式(2)
【数34】
のように定義される1波形区間のDFTの信号範囲をk倍の波形区間に拡張した上記式(6)
【数35】
(ここで、mは波形をk分割した際のインデックス(0,1,2,・・・,k-1)を示す。)
にて示されるDFTの計算を行うことにより、図9に示すように、DFT処理に必要な「掛け算」の数を1/kに減少させることができる。
【0107】
ここで、図9に示す二つの曲線は、式(4)または式(9)を次数kNとしてkNは2の累乗としてFFT計算した場合の「掛け算」の数と式(6)または式(7)を次数NとしてNは2の累乗としてFFT計算した場合の「掛け算」の数である。なお、窓関数W()、W’()はあらかじめkN個の定数の数列として計算しておけばいいので「掛け算」の数には入らない。
【符号の説明】
【0108】
10 光源、11 レーザー光源、12 ビームスプリッタ、13,14 光コム発生器15 音響光学周波数シフタ、20 干渉光学系、21 参照用干渉系、21A,21B ビームスプリッタ、22 測定用干渉系、22A,22B ビームスプリッタ、30 干渉光検出部、31 参照用干渉光検出器、32 測定用干渉光検出器、40 光コム干渉計、50 信号処理部、100 光干渉計測装置、200 測定対象物
【要約】      (修正有)
【課題】2つの光コムの干渉信号からFFT解析により取得される位相スペクトル情報及び振幅スペクトル情報に基づいて計測を行う光干渉計測装置において、FFT解析のための計算の負担を軽減し、効率よく計測処理を行うことができるようにする。
【解決手段】

にて示されるkNのサンプル数のデータS(v)から次数NのDFTを行うFFTアルゴリズムを使用して、時間領域干渉信号をデジタル化した時系列の波形データから、周波数領域のスペクトル成分を得て、測定用干渉系22のビームスプリッタ22Aの位置を基準点として基準点から測定対象物50の測定面までの絶対距離Dを求める。
【選択図】図1
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図2
図3
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図9