(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-03
(45)【発行日】2025-09-11
(54)【発明の名称】ゴム組成物およびゴム製品
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20250904BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250904BHJP
C08K 5/357 20060101ALI20250904BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/013
C08K5/357
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021062743
(22)【出願日】2021-04-01
【審査請求日】2024-01-29
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513158760
【氏名又は名称】ザ・グッドイヤー・タイヤ・アンド・ラバー・カンパニー
(73)【特許権者】
【識別番号】515189922
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティチュート オブ サイエンス アンド テクノロジー(エルアイエスティー)
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100104374
【氏名又は名称】野矢 宏彰
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ベイデルト
(72)【発明者】
【氏名】スザンネ・ミヒェレ・バルコ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・プヒョト
(72)【発明者】
【氏名】アセリナ・トレホ・マヒン
(72)【発明者】
【氏名】ピエレ・フェルゲ
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-270016(JP,A)
【文献】特開2007-211088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0186976(US,A1)
【文献】特表2018-524438(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0017491(KR,A)
【文献】特開2011-231027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数のジエン系エラストマー100phr、
充填剤30phr~200phr、ならびに
i)2個のフェノール基および前記2個のフェノール基を共有結合で連結する橋かけを含むジフェノールと、ii)アルデヒド誘導体と、iii)アミンとの反応生成物であるベンゾキサジン
5phr~40phr
を含むゴム組成物であって、前記橋かけが、前記2個のフェノール基
と、各フェノール基のメタ位で連結している、ゴム組成物。
【請求項2】
前記アミンが第一級アミンであることを特徴とする、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記第一級アミンが、芳香族アミン、脂肪族アミン、脂環式アミンおよび複素環式アミンの群から選択され;かつ/または、
前記第一級アミンがエタノールアミン、アリルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソプロピルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、2-アミノフルオレン、アミノフェニルアセチレン、プロパルギルエーテルアニリン、4-アミノベンゾニトリル、フルフリルアミンおよびアニリンの群から選択されることを特徴とする、
請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記第一級アミンが脂肪族から選択され、そして前記脂肪族アミンは、18個未満の炭素原子の炭素鎖を含むことを特徴とする、請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記アルデヒド誘導体がホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、および式RCHO[式中、Rは、ヘテロ原子を有するかまたはヘテロ原子を有しない、置換または非置換の脂肪族C
1-C
20アルキル基である]を有するアルデヒドの群から選択されることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記橋かけが、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、複素環式基、ヘキサフルオロプロパン基、モノスルフィド、酸素基、スルホン基およびジスルフィドの1つを含むことを特徴とする、請求項1から
5のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記ジフェノールが3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドから選択されることを特徴とする、請求項1から
6のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記ベンゾキサジンが以下の構造:
【化1】
[式中、R
1およびR
2は芳香族基、脂肪族基、脂環式基および複素環式基から選択され、R
3は、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、複素環式基、ヘキサフルオロプロパン、モノスルフィドまたはジスルフィドである]
の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項9】
R
1およびR
2が、エタノール、アリル、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシル、フルオレン、フェニルアセチレン、プロパルギルエーテルベンジル、ベンゾニトリル、フルフリルおよびベンジル基から選択されることを特徴とし;かつ/または
R
3がジスルフィドであることを特徴とする、
請求項
8に記載のゴム組成物。
【請求項10】
硫黄供与体を含む硫黄加硫可能なゴム組成物であることを特徴とする、請求項1から
9のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記充填剤が、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、超高分子量ポリエチレンおよびシンジオタクチックポリブタジエンのうちの1種または複数を含むことを特徴とする
、
請求項1から
10のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
メチレン供与体2phr未満、およびメチレン受容体5phr未満を含む、硫黄加硫可能なゴム組成物であることを特徴とする、請求項1から
11のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項13】
フェノールおよび第一級アミンの反応に基づく少なくとも1種の第2のベンゾキサジンをさらに含み、前記第2のベンゾキサジンが、任意に一官能価ベンゾキサジンおよび主鎖ベンゾキサジンのうちの1種または複数であってよいことを特徴とする、請求項1から
12のいずれか一項に記載のゴム組成物。
【請求項14】
請求項1から
13のいずれか一項に記載のゴム組成物を含むことを特徴とする、ゴム製品。
【請求項15】
前記ゴム製品が、タイヤ(1)、動力伝達ベルト、ホース、トラック、空気スリーブおよびコンベヤーベルトから選択されることを特徴とするか、または
前記ゴム製品が、トレッド(10)、剪断バンド、ゴムスポーク、アンダートレッド、サイドウォール(2)、アペックス(5)、フリッパー、チッパー、チェーファー、カーカス、ベルト、オーバーレイから選択される1種または複数のゴムコンポーネントを含むタイヤ(1)であり、ゴムコンポーネントの1つまたは複数が前記ゴム組成物を含むことを特徴とする、
請求項
14に記載のゴム製品。
【請求項16】
ゴム組成物を製造する方法であって、
アルデヒド誘導体の存在下でジフェノールをアミンと反応させて、ベンゾキサジンを得るステップ、ここで前記ジフェノールが、ジフェノールの両方のフェノール基と連結する橋かけを含み、前記橋かけが、その各末端
で前記各フェノール基のメタ位
と連結する
、ならびに
前記ベンゾキサジンをエラストマーおよび充填剤と混合
して、ゴム組成物を得るステップ
、ここで前記ゴム組成物は、前記エラストマー100phr、前記充填剤30phr~200phr、および前記ベンゾキサジン5phr~40phrを含む、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤまたはタイヤコンポーネントなどのゴム製品用のゴム組成物または非加硫ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
補強用樹脂の使用は、過去数十年間にわたってタイヤ性能をさらに改善するのに役立っている。特に、メチレン供与体およびメチレン受容体に基づく反応性樹脂系は、ノボラック樹脂としても知られ、ゴム組成物を混合する間にインサイチューで反応させ、異なるゴム組成物の性質を高めるために使用されている」。しかしながら、そのような樹脂の使用は、ホルムアルデヒド供与体とも呼ばれるメチレン供与体、およびゴム混合プロセスでレゾルシノールの取り扱いを必要とし、環境、健康および/または安全の観点から望ましくない場合がある。さらに、特に限られた重量およびヒステリシスで、補強特性のさらなる改善に対する要求がなされている。したがって、ゴム組成物、特にタイヤで使用される補強用樹脂の分野にはかなり改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5,698,643号
【文献】米国特許第5,451,646号
【文献】米国特許第4,704,414号
【文献】米国特許第6,123,762号
【文献】米国特許第6,573,324号
【文献】米国特許第6,242,534号
【文献】米国特許第6,207,757号
【文献】米国特許第6,133,364号
【文献】米国特許第6,372,857号
【文献】米国特許第5,395,891号
【文献】米国特許第6,127,488号
【文献】米国特許第5,672,639号
【文献】米国特許第6,608,125号
【文献】米国特許出願公開第2003/0130535号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Journal of the American Chemical Society、60巻、304頁(1930年)
【文献】The Vanderbilt Rubber Handbook(1978年)、344~346頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の1つの目的は、補強特性が改善された先進的なゴム組成物を提供することであり得る。
本発明の別の目的は、良好な剛性を、場合により、限られたヒステリシスで有するゴム組成物を提供することであり得る。
【0006】
本発明の別の目的は、ゴム組成物の製造中に取り扱われるメチレン供与体の低減を可能にするゴム組成物を提供することであり得る。
本発明の別の目的は、既存の反応性樹脂系に対して費用効果的な代替法を提供することであり得る。
【0007】
本発明の保護の範囲は、独立請求項1によって定義される。さらなる好ましい実施形態は、従属請求項、ならびに以下の本明細書において要約および記載に提供される態様および実施形態に詳述される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の第1の態様において、本発明は、1種または複数の、好ましくはジエン系のエラストマー100phr、充填剤30~200phr、ならびにi)2個のフェノール基、およびこれら2個のフェノール基を共有結合で連結または相互連結する橋かけを含むジフェノールと、ii)アルデヒド誘導体と、iii)アミンとの反応に基づく(またはその反応生成物である)ベンゾキサジンを含むゴム組成物であって、橋かけが少なくとも1個のフェノール基と、前記少なくとも1個のフェノール基の(各)メタ位で連結している、ゴム組成物を対象とする。本発明者らは、そのようなベンゾキサジンの使用が優れた補強特性を提供することを見いだした。さらに、そのようなベンゾキサジンは、前もって製造し、次いで、ゴム組成物に添加し、それによってゴム組成物製造中の反応性樹脂反応体を扱う必要性を省略することができる。さらに、フェノール基の1つの少なくとも1つのメタ位で橋かけされたジフェノールに基づくベンゾキサジンを提供することによって、パラおよびオルト位が遮断されず、ゴム網目構造中で架橋に利用可能であるので、他の配置を上回る改善された補強特性を提供することが見いだされた。
【0009】
別の実施形態において、アミンは第一級アミン(すなわちアミノ基を有する分子)である。
別の実施形態において、アルデヒド誘導体は、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、および式RCHO[式中、Rは、ヘテロ原子を有するまたは有しない、置換または非置換の脂肪族C1-C20アルキル基である]を有するアルデヒドの群から選択される。特に、反応はホルムアルデヒドの存在下で起こり得る。ホルムアルデヒドがベンゾキサジンを形成するために反応に関与していても、ゴム組成物の製造時にはそのような反応は起こらず、前もって製造したベンゾキサジンをゴム組成物に添加することができる。
【0010】
なお別の実施形態において、アミンまたは第一級アミンは、芳香族アミン、脂肪族アミン、脂環式アミンおよび複素環式アミンの群から選択される。
なお別の実施形態において、アミンまたは第一級アミンは、エタノールアミン、アリルアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、イソプロピルアミン、ヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、2-アミノフルオレン、アミノフェニルアセチレン、プロパルギルエーテルアニリン、4-アミノベンゾニトリル、フルフリルアミン、アニリンの群から選択される。
【0011】
なお別の実施形態において、および脂肪族アミンの場合には、脂肪族アミンは、18個未満の炭素原子の炭素鎖を含む。特に、より長い鎖は、ゴム網目構造中の架橋を損なうことが判明した。
【0012】
なお別の実施形態において、橋かけは、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、複素環式基、ヘキサフルオロプロパン基、モノスルフィド、酸素基、スルホン基およびジスルフィドの1つを含む。特に、ジスルフィド基または橋かけは、硫黄加硫性ゴムにおいて、言いかえれば、硫黄架橋性ゴムにおいて、架橋にとって別の価値のある側面を加えるので、非常に興味深い。
【0013】
一実施形態において、ジフェノールは、3,4’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドおよび3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドから選択される。これらのジフェノールは、限られたコストで良好な補強特性を提供することが確認されてきた。
【0014】
なお別の実施形態において、ベンゾキサジンは以下の構造:
【0015】
【0016】
[式中、R1およびR2は、芳香族基、脂肪族基、脂環式基および複素環式基から選択され、R3は、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、複素環式基、ヘキサフルオロプロパン、モノスルフィド(S)またはジスルフィド(S-S)である]
の少なくとも1つを有する。上記の構造の図で見て明らかなように、R3がメタ位で結合している場合、オルト位およびパラ位が利用可能である]。これは、ゴム網目構造において架橋をさらに改善する。
【0017】
なお別の実施形態において、R1およびR2はエタノール、アリル、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ヘキシル、シクロヘキシル、フルオレン、フェニルアセチレン、プロパルギルエーテルベンジル、ベンゾニトリル、フルフリルおよびベンジル基から選択される。
【0018】
なお別の実施形態において、R3はジスルフィド(S-S)である。
なお別の実施形態において、ゴム組成物は硫黄供与体を含む硫黄加硫性ゴム組成物である。
【0019】
なお別の実施形態において、ゴム組成物は(硫黄)加硫ゴム組成物である。
なお別の実施形態において、充填剤は、シリカ、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、超高分子量ポリエチレンおよびシンジオタクチックポリブタジエンのうちの1種または複数を含む。好ましくは、充填剤の少なくとも50phrは、カーボンブラックおよび/またはシリカを含む。
【0020】
なお別の実施形態において、ゴム組成物は、2phr未満、好ましくは1phr未満、より一層好ましくは0.5phr未満のメチレン供与体および/または5phr未満のメチレン受容体(反応性樹脂系中に存在するような)を含む硫黄加硫可能(すなわち、非加硫または未硬化)ゴム組成物である。
【0021】
なお別の実施形態において、ゴム組成物はフェノールと第一級アミンの反応に基づくさらなるベンゾキサジンを含む。例えば、さらなるまたは第2のベンゾキサジンは、一官能価ベンゾキサジンおよび主鎖ベンゾキサジンのうちの1種または複数であり得る。特に、少なくとも1つの官能基を有するそのような第2のベンゾキサジン(例えば、シラン、長いアルキル鎖またはカルボン酸を有する)は、追加の機能を提供し、硬化ステップの後にベンゾキサジン網目構造に組み込むことができる。それらは、加工性、補強および/またはヒステリシスを改善し、および/または充填剤、ゴムとの相互作用および/または硬化パッケージを改善するのにさらに役立ち得る。
【0022】
なお別の実施形態において、ゴム組成物は、5phr~40phr、または5phr~9phr、または10phr~20phr、または、20phr~40phr、または10phr~40phrのベンゾキサジンを含む。
【0023】
実施形態において、ゴム組成物は、少なくとも1種のおよび/または追加の1種のジエン系ゴムを含んでもよい。代表的な合成高分子は、ブタジエンおよびその同族体および誘導体、例えばメチルブタジエン、ジメチルブタジエンおよびペンタジエンのホモ重合生成物、ならびにブタジエンまたはその同族体もしくは誘導体から形成されたものなどの、他の不飽和モノマーとのコポリマーであり得る。後者の中には、アセチレン、例えば、ビニルアセチレン;オレフィン、例えばイソプレンと共重合してブチルゴムを形成するイソブチレン;ビニル化合物、例えば、アクリル酸、アクリロニトリル(これはブタジエンと重合してNBRを形成する)、メタクリル酸およびスチレン、(後者化合物は、ブタジエンと重合してSBRを形成する)ならびにビニルエステルおよび様々な不飽和アルデヒド、ケトンおよびエーテル、例えばアクロレイン、メチルイソプロペニルケトンおよびビニルエチルエーテルであってもよい。合成ゴムの特定の例は、ネオプレン(ポリクロロプレン)、ポリブタジエン(cis-1,4-ポリブタジエンを含む)、ポリイソプレン(cis-1,4-ポリイソプレンを含む)、ブチルゴム、クロロブチルゴムまたはブロモブチルゴムなどのハロブチルゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、1,3-ブタジエンまたはイソプレンの、スチレン、アクリロニトリルおよびメタクリル酸メチルなどのモノマーとのコポリマー、ならびにエチレン/プロピレンターポリマー(エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)としても知られる)、特に、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエンターポリマーを含む。使用されてもよいゴムの追加の例は、アルコキシシリル末端官能化溶液重合ポリマー(SBR、PBR、IBRおよびSIBR)、シリコンカップリング・スズカップリング星形分岐ポリマーを含む。好ましいゴムまたはエラストマーは、一般に、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリブタジエンおよびSSBRを含むSBRであってもよい。
【0024】
別の実施形態において、組成物は少なくとも2種のジエン系のゴムを含んでもよい。例えば、2種以上のゴムの組合せは、例えばcis-1,4-イソプレンゴム(天然でも合成でもよいが天然が好ましい)、3,4-イソプレンゴム、スチレン/イソプレン/ブタジエンゴム、エマルジョンおよび溶液重合由来の、スチレン/ブタジエンゴム、cis-1,4-ポリブタジエンゴム、および、乳化重合調製のブタジエン/アクリロニトリルコポリマーが好ましい。
【0025】
別の実施形態において、結合スチレン20~28パーセントのスチレン含有率を有する、乳化重合由来のスチレン/ブタジエン(ESBR)、または一部の用途に対して、中程度から比較的高い結合スチレン含有率、すなわち30~45パーセントの結合スチレン含有率を有するESBRが使用されてもよい。多くの事例において、ESBRは、26パーセント~31パーセントの範囲内にある結合スチレン含有率を有する。乳化重合調製ESBRによって、スチレンおよび1,3-ブタジエンが水性乳剤として共重合されることを意味することができる。そのようなことは、当業者によく知られている。結合スチレン含有率は、例えば5から50パーセントに変動することができる。一態様において、ESBRは、また例えば、ターポリマー中に2~30重量パーセントの結合アクリロニトリルの量で、ESBARとしてターポリマーゴムを形成するために、アクリロニトリルを含有していてもよい。コポリマー中に2~40重量パーセントの結合アクリロニトリルを含有する乳化重合調製スチレン/ブタジエン/アクリロニトリルコポリマーゴムは、またジエン系ゴムとして企図されてもよい。
【0026】
別の実施形態において、溶液重合調製SBR(SSBR)が使用されてもよい。そのようなSSBRは、例えば5~50パーセント、好ましくは9~36、パーセント、最も好ましくは、26~31パーセントの結合スチレン含有率を有する。SSBRは好都合には、例えば不活性有機溶媒中で陰イオン重合によって調製することができる。とりわけSSBRは、炭化水素溶媒中で、開始剤として有機リチウム化合物を使用して、スチレンおよび1,3-ブタジエンモノマーを共重合することによって合成することができる。なお別の実施形態において、溶液スチレンブタジエンゴムは、スズカップリングポリマーである。なお別の実施形態において、SSBRは、シリカとの相溶性の改善のために官能化される。さらに、または代替として、SSBRはチオ官能化される。これは、化合物の剛性および/またはそのヒステリシス挙動を改善するのに役立つ。したがって、例えば、SSBRは、ブタジエンおよびスチレンのチオ官能化された、スズカップリング溶液重合コポリマーであり得る。
【0027】
一実施形態において、合成または天然のポリイソプレンゴムを使用することができる。合成のcis-1,4-ポリイソプレンおよび天然ゴムは、ゴム技術の当業者にそういうものとしてよく知られている。特に、シス-1,4-微細構造含有率は少なくとも90%、典型的には少なくとも95%、またははるかに高くてもよい。
【0028】
一実施形態において、cis-1,4-ポリブタジエンゴム(BRまたはPBD)が使用される。適切なポリブタジエンゴムは、例えば1,3-ブタジエンの有機溶液重合によって調製することができる。BRは好都合には、例えば少なくとも90パーセントのシス-1,4-微細構造含有率(「高シス」含有率)および-95~-110℃の範囲のガラス転移温度(Tg)を有することを特徴とすることができる。The Goodyear Tire & Rubber CompanyからBudene(登録商標)1207、Budene(登録商標)1208、Budene(登録商標)1223またはBudene(登録商標)1280などの適切なポリブタジエンゴムが市販されている。これらの高cis-1,4-ポリブタジエンゴムは、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,698,643号および米国特許第5,451,646号に記載のように(1)有機ニッケル化合物、(2)有機アルミニウム化合物および(3)フッ素含有化合物の混合物を含むニッケル触媒系を使用して合成することができる。
【0029】
本明細書において言及される、エラストマーまたはエラストマー組成物のガラス転移温度(Tg)は、その未硬化の状態、またはことによるとエラストマー組成物の場合、硬化状態における、それぞれのエラストマーまたはエラストマー組成物のガラス転移温度を表わす。Tgは、示差走査熱量計(DSC)によってASTM D3418に従って毎分10℃の温度上昇率でピーク中央値として適切に求めることができる。
【0030】
「phr」という用語は、本明細書において使用される場合、慣行的実務に従って、「ゴムまたはエラストマー100重量部当たりの各材料の重量部」を指す。一般に、この慣例を使用して、ゴム組成物は100重量部のゴム/エラストマーで構成される。特許請求の範囲に記載されるゴム/エラストマーのphr値が特許請求の範囲に記載されるphr範囲と一致し、かつ組成のすべてのゴム/エラストマーの量が合計100部のゴムに帰着する限り、特許請求の範囲に記載される組成は、特許請求の範囲に明示的に挙げられる以外のゴム/エラストマーを含んでもよい。例として、組成は、SBR、SSBR、ESBR、PBD/BR、NR、および/または合成ポリイソプレンなどの、1種または複数の追加のジエン系ゴムを、1phr~10phr、場合によって1~5phrさらに含んでもよい。別の例において、組成は、追加のジエン系ゴムを5phr未満、好ましくは3phr未満含んでもよく、または、そのような追加のジエン系ゴムを基本的に含まなくてもよい。用語「コンパウンド」および「組成物」および「調合物」は、本明細書において他の方法で示されなければ、交換して使用することができる。
【0031】
実施形態において、ゴム組成物はまた油、特にプロセスオイルを含んでもよい。典型的にはエラストマーを増量するために使用される増量油として、プロセスオイルがゴム組成物に含まれていてもよい。プロセスオイルはまた、ゴム配合時のオイルの直接添加によってゴム組成物に含まれていてもよい。使用されるプロセスオイルは、エラストマー中に存在する増量油、および配合時に加えられるプロセス油の両方に含まれていてもよい。適切なプロセス油は、芳香族、パラフィン、ナフテン、植物油、MES、TDAE、SRAEおよび重質ナフテン油などの低PCA油を含む、当業界で公知である様々なオイルを含む。適切な低PCA油は、IP346法によって求めて3重量パーセント未満の多環式芳香族含有率を有するものを含んでよい。IP346法の手順は、the Institute of Petroleum, United Kingdomによって発行された、Standard Methods for Analysis & Testing of Petroleum and Related Products and British Standard 2000 Parts、2003年、62版に見いだすことができる。使用することができる植物油の幾つかの代表的な例は、大豆油、ひまわり油、キャノーラ(菜種)油、トウモロコシ油、やし油、綿実油、オリーブ油、パーム油、落花生油、およびサフラワー油を含む。大豆油およびトウモロコシ油は典型的に好ましい植物油である。使用される場合、ゴム組成物はまた、70phrまでのプロセスオイル、好ましくは5から25phrの間の、または代替として10phr未満、好ましくは5phr未満の油を含んでもよい。
【0032】
実施形態において、ゴム組成物はシリカを含んでもよい。ゴム化合物中で使用されてもよい一般に用いられる珪質顔料は、例えば、従来の焼成および沈降珪質顔料(シリカ)を含む。一実施形態において、沈降シリカが使用される。従来の珪質顔料は、例えば可溶性ケイ酸塩、例えばケイ酸ナトリウムの酸性化によって得られるものなどの沈降シリカであり得る。そのような従来のシリカは、例えば窒素ガスを使用して測定されるBET表面積を有することを特徴とすることができよう。一実施形態において、BET表面積は、1グラム当たり40~600平方メートルの範囲にあってもよい。別の実施形態において、BET表面積は1グラム当たり50~300平方メートルの範囲にあってもよい。BET表面積は、適切にASTM D6556または等価物による求めることができ、Journal of the American Chemical Society、60巻、304頁(1930年)に記載されている。従来のシリカはまた、100cm3/100g~400cm3/100g、代替として150cm3/100g~300cm3/100gの範囲のフタル酸ジブチル(DBP)吸収値を有することを特徴とすることができ、適切にはASTM D 2414または等価物に従って求めることができる。従来のシリカは、例えば電子顕微鏡によって求めて0.01~0.05ミクロンの範囲の平均究極粒径を有すると予想することができるが、シリカ粒子は、寸法がさらに小さくてよく、またはことによるとより大きくてもよい。シリカ使用の範囲は、例えば5から120phrの間、好ましくは20から70phrの間または80~120phrにあってもよい。様々な市販されているシリカは、本明細書において、例のみとしてこれらに限定されないが、例えば、名称210、315G、EZ160Gなどを有するHi-Sil商標の下でPPG Industriesから市販されているシリカ;例えばZ1165MPおよびPremium200MPなどの名称を有するSolvayから入手可能なシリカ、および、例えば名称VN2、Ultrasil 6000GR、9100GRなどを有するEvonik AGから入手可能なシリカが使用されてもよい。
【0033】
なお別の実施形態において、ゴム組成物は、例えば、130m2/gから210m2/gの間、場合により130m2/gから150m2/gの間、および/または190m2/gから210m2/gの間、またはさらに195m2/gから205m2/gの間のCTAB吸着表面積を有していてもよいプレシラン化および沈降シリカを含んでもよい。シリカ表面積の測定のためのCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)法(ASTM D6845)は当業者に知られている。
【0034】
別の実施形態において、使用されるプレシラン化(または言いかえればプレ疎水化)沈降シリカは、ゴム組成物に対する添加の前に少なくとも1種のシランを用いる処理によって疎水化される。適切なシランは、アルキルシラン、アルコキシシラン、有機アルコキシシリルポリスルフィドおよびオルガノメルカプトアルコキシシランを含むがこれらに限定されない。
【0035】
任意のシリカ分散助剤は、使用される場合、シリカの重量を基準にして約0.1%~約25重量%の範囲の量で存在してよく、約0.5%~約20重量%が適切であり、またシリカの重量を基準にして約1%~約15重量%も適切である。様々な前処理された沈降シリカは、米国特許第4,704,414号、米国特許第6,123,762号および米国特許第6,573,324号に記載されている。米国特許第4,704,414号、米国特許第6,123,762号および米国特許第6,573,324号の教示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
本発明の実際の使用に適している、前処理されたシリカ(すなわちシランを用いてプレ表面処理されたシリカ)の幾つかの非限定的な例は、メルカプトシランを用いて前処理されたCiptane(登録商標)255 LDおよびCiptane(登録商標)LP(PPG Industries)シリカ、およびオルガノシランビス(トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド(Si69)とUltrasil(登録商標)VN3シリカの間の反応の生成物であるCoupsil(登録商標)8113(Degussa)、およびCoupsil(登録商標)6508、PPG IndustriesからのAgilon(登録商標)400シリカ、PPG IndustriesからのAgilon(登録商標)454シリカおよびPPG IndustriesからのAgilon(登録商標)458シリカを含むがこれらに限定されない。好ましいプレシラン化沈降シリカの幾つかの代表的な例は、PPG IndustriesからのAgilon(登録商標)400、Agilon(登録商標)454およびAgilon(登録商標)458を含む。
【0037】
ヒドロキシル基と反応性の、プレシラン化沈降シリカおよび沈降シリカの部分、ならびに前記エラストマーと相互作用する別の部分を有する代表的なシリカカップラー(シリカカップリング剤)は、例えば:(A)それが連結する橋かけ中に平均約2~約4、代替として約2~約2.6または約3.2~約3.8の範囲の硫黄原子を含有するビス(3-トリアルコキシシリルアルキル)ポリスルフィド、または(B)アルコキシオルガノメルカプトシラン、または(C)それらの組合せで構成されてもよい。そのようなビス(3-トリアルコキシシリルアルキル)ポリスルフィドの代表は、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドである。示したように、プレシラン化沈降シリカについて、シリカカップラーは望ましくはアルコキシオルガノメルカプトシランであり得る。非プレシラン化沈降シリカについて、シリカカップラーは、望ましくはビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドで構成されてもよい。
【0038】
一実施形態において、ゴム組成物は、ゴム組成物に対するシリカカップラーの添加を除外する(それによって、シリカカップラーを除外する)。
示すように、一実施形態において、ゴム組成物は、前記ゴム組成物に添加される追加の沈降シリカ(非プレシラン化沈降シリカ)と一緒に、ゴム組成物に添加される追加のシリカカップラー、特に、ポリスルフィド橋かけ中に平均約2~約4の連結硫黄原子を含有するビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドの組合せを含有していてもよく、この場合、プレシラン化沈降シリカと前記沈降シリカの比は、望ましくは少なくとも8/1、あるいは少なくとも10/1である。
【0039】
実施形態において、ゴム組成物はカーボンブラックを含んでもよい。そのようなカーボンブラックの代表的な例は、N110、N121、N134、N220、N231、N234、N242、N293、N299、N315、N326、N330、N332、N339、N343、N347、N351、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N683、N754、N762、N765、N774、N787、N907、N908、N990およびN991の等級を含む。これらのカーボンブラックは、9~145g/kgの範囲のヨウ素吸収、および34~150cm3/100gの範囲のDBP数を有する。ヨウ素吸収値は、ASTM D1510または等価物に従って適切に求めることができる。一般に用いられるカーボンブラックは、従来の充填剤として10~150phrの範囲の量で使用することができる。また別の実施形態において、20~80phrのカーボンブラックが使用されてもよい。
【0040】
別の実施形態において、ゴム組成物に使用されてもよい他の充填剤としては、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)を含む粒状充填剤、米国特許第6,242,534号;米国特許第6,207,757号;米国特許第6,133,364号;米国特許第6,372,857号;米国特許第5,395,891号および米国特許第6,127,488号に開示されているものを含むがこれらに限定されない架橋した粒状ポリマーゲル、ならびに米国特許第5,672,639号に開示されているものを含むがこれらに限定されない可塑化デンプン複合充填剤を含むがこれらに限定されない。他のそのような充填剤は、1~30phrの範囲の量で使用されてもよい。
【0041】
一実施形態において、ゴム組成物は従来の硫黄含有有機ケイ素化合物またはシランを含有してもよい。有機ケイ素化合物を含有する適切な硫黄の例は、式:
Z - Alk - Sn - Alk - Z I
[式中、Zは、
【0042】
【0043】
(式中、R1は、1~4個の炭素原子のアルキル基、シクロヘキシルまたはフェニルであり;R2は、1~8個の炭素原子のアルコキシ、または5~8個の炭素原子のシクロアルコキシである)
からなる群から選択され;Alkは1~18個の炭素原子の二価炭化水素であり、nは整数2~8である]
のものである。一実施形態において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3,3’-ビス(トリメトキシまたはトリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドである。一実施形態において、硫黄含有有機ケイ素化合物は3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドおよび/または3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。したがって、式Iについて、Zは、
【0044】
【0045】
[式中、R2は2~4個の炭素原子、代替として2個の炭素原子のアルコキシであり;Alkは、2~4個の炭素原子、代替として3個の炭素原子の二価炭化水素であり;nは整数2~5、代替として2または4である]
であってもよい。別の実施形態において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許第6,608,125号に開示されている化合物を含む。一実施形態において、硫黄含有有機ケイ素化合物は、3-(オクタノイルチオ)-1-プロピルトリエトキシシラン、CH3(CH2)6C(=O)-S-CH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3を含み、これはMomentive Performance MaterialsからNXT(商標)として市販されている。別の実施形態において、適切な硫黄含有有機ケイ素化合物は、米国特許出願公開第2003/0130535号に開示されているものを含む。一実施形態において、硫黄含有有機ケイ素化合物はDegussaからのSi-363である。ゴム組成物中の硫黄含有有機ケイ素化合物の量は、使用される他の添加剤の水準に依存して様々であってもよい。概して言えば、化合物の量は0.5~20phrの範囲である。一実施形態において、量は1~10phrの範囲である。
【0046】
別の実施形態において、ゴム組成物は0.1phr未満のコバルト塩または0phrのコバルト塩を含む。
例えば、硫黄供与体、硬化助剤、例えば、活性剤および遅延剤、ならびにオイルなどの加工添加剤、粘着性樹脂および可塑剤を含む樹脂、充填剤、顔料、脂肪酸、酸化亜鉛、ワックス、抗酸化剤、オゾン劣化防止剤および釈解薬などの様々な一般に使用される添加材料との、構成要素の様々な硫黄加硫可能ゴムの混合などのゴム配合技術において一般に公知の方法によって、ゴム組成物を配合することができることは、当業者によって容易に理解される。当業者に知られているように、硫黄加硫可能材料および硫黄加硫された材料(ゴム)の意図される使用に応じて、上記に挙げた添加剤が選択され、一般に従来の量で使用される。硫黄供与体の幾つかの代表的な例は、元素の硫黄(遊離の硫黄)、アミンジスルフィド、ポリマー状ポリスルフィドおよび硫黄オレフィン付加物を含む。一実施形態において、硫黄加硫剤は元素の硫黄である。硫黄加硫剤は、0.5phr~8phrの範囲、代替として1.5phr~6phrの範囲の量で使用されてもよい。典型的な量の粘着性付与樹脂は、使用される場合、例えば0.5phr~10phr、通常1phr~5phrを構成する。典型的な量の加工助剤は、使用される場合、例えば、1phr~50phrを構成する。(これは特に油を含んでもよい)。典型的な量の抗酸化剤は、使用される場合、例えば1phr~5phrを構成する。代表的な抗酸化剤は、例えばジフェニル-p-フェニレンジアミン他、例えば、The Vanderbilt Rubber Handbook(1978年)、344~346頁に開示されているものなどであってもよい。典型的な量のオゾン劣化防止剤は、使用される場合、例えば、1phr~5phrを構成してもよい。典型的な量の脂肪酸は、使用される場合、ステアリン酸を含むことができ、例えば0.5phr~3phrを構成してもよい。典型的な量のワックスは、使用される場合、例えば、1phr~5phrを構成してもよい。多くの場合微晶質のワックスが使用される。典型的な量の釈解剤は、使用される場合、例えば、0.1phr~1phrを構成してもよい。典型的な釈解剤は、例えば、ペンタクロロチオフェノールおよびジベンズアミドジフェニルジスルフィドであってもよい。
【0047】
促進剤は、加硫のために必要とされる時間および/または温度を制御し、加硫物の性質を改善するために使用することができるが、必ずしも必要ではない。一実施形態において、単一の促進剤系、すなわち一次促進剤が使用されてもよい。一次促進剤(複数可)は、0.5phr~4phr、代替として、0.8phr~1.5phrの範囲の合計量で使用されてもよい。別の実施形態において、一次および二次促進剤の組み合わせが使用されてもよく、二次促進剤は、加硫物の性質を活性化し改善するために約0.05~約3phrなどのより少ない量で使用される。これらの促進剤の組み合わせは、最終的な性質に相乗効果を生み出すと予想することができ、どちらかの促進剤の単独使用によって製造されたものより多少良好である。さらに、正常な加工温度に影響を受けないが、通常の加硫温度で満足すべき硬化を生ずる遅効性促進剤が使用されてもよい。加硫遅延剤も使用されてよい。本発明において使用されてもよい適切な種類の促進剤は、例えば、アミン、ジスルフィド、グアニジン、チオ尿素、チアゾール、チウラム、スルフェンアミド、ジチオカルバメートおよびザンセートである。一実施形態において、一次促進剤はスルフェンアミドである。第2の促進剤が使用される場合、二次促進剤は例えばグアニジン、ジチオカーバメートまたはチウラム化合物であってもよい。適切なグアニジンはジフェニルグアニジンなどを含む。適切なチウラムは、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、およびテトラベンジルチウラムジスルフィドを含む。
【0048】
ゴム組成物の混合は、ゴム混合技術の当業者に公知の方法によって遂行することができる。例えば、原料は、通常、少なくとも2つの段階、すなわち、少なくとも1つの非生産的な段階、続いて生産的混合段階において混合されてもよい。硫黄加硫剤を含む最終硬化薬は、通常、従来は「生産的」混合段階と呼ばれる最終段階において混合されてよく、ここで、典型的には、先行する非生産的混合段階(複数可)の混合温度(複数可)より低い、ある温度または最終温度で混合が行われる。「非生産的」および「生産的」混合段階という用語は、ゴム混合技術の当業者には周知されている。実施形態において、ゴム組成物は、熱力学的混合ステップにかけられてもよい。熱力学的混合ステップは、一般に、例えば140℃から190℃の間のゴム温度を生ずるのに適切な期間、混合機または押出機での機械式作業を含む。熱力学的作業の好適な継続時間は、運転条件ならびに成分の量および性質の関数として変動する。例えば、熱力学的作業は1~20分であってもよい。
【0049】
本発明の空気入りタイヤの加硫は、例えば100℃~200℃の範囲の従来の温度で実行することができる。一実施形態において、加硫は110℃~180℃の範囲の温度でを行われる。プレスまたは型中での加熱、過熱蒸気または熱風を用いる加熱などの通常の加硫方法のうちいずれが使用されてもよい。そのようなタイヤは、当業者に公知であり、容易に明白な様々な方法によって組み立て、付形、成形、硬化することができる。
【0050】
第2の態様において、本発明は、1種または複数の、好ましくはジエン系のエラストマー100phrと、充填剤30phr~200phrと、以下の構造:
【0051】
【0052】
[式中、R1およびR2は芳香族基、脂肪族基、脂環式基および複素環式基から選択され、R3は、芳香族基、脂肪族基、脂環式基、複素環式基、ヘキサフルオロプロパン、モノスルフィド、またはジスルフィドである]
の少なくとも1種を有するベンゾキサジンとを含むゴム組成物を対象とする。
【0053】
本明細書において挙げられる第2の態様およびまた他の態様は、他の態様の文脈において挙げられる実施形態、特に本発明の第1の態様と組み合わせることができる。
本発明の第3の態様において、ゴム製品は、上記の第1の態様による、またはその実施形態の1つまたは複数によるゴム組成物を含むゴム製品が提供される。
【0054】
一実施形態において、ゴム製品は、タイヤ、動力伝達ベルト、ホース、トラック、空気スリーブおよびコンベヤーベルトから選択される。タイヤは、例えば、空気入りのタイヤでも、または空気入りでないタイヤであってもよい。
【0055】
さらなる実施形態において、ゴム製品は、トレッド、ゴム剪断バンド、ゴムスポーク、アンダートレッド、サイドウォール、アペックス、フリッパー、チッパー、チェーファー、カーカス、ベルト、オーバーレイから選択される1つまたは複数のゴムコンポーネントを含むタイヤであり、ゴム組成物を含むゴムコンポーネントの1つまたは複数である。
【0056】
別の実施形態において、ゴム製品は、ゴム組成物を含むアペックスまたはトレッド溝補強を含むタイヤである。特に、アペックス組成物またはトレッド溝補強組成物は、本明細書において開示されるゴム組成物の補強特性から利益を得ることができる。
【0057】
本発明の実施形態によるタイヤは、例えば空気入りタイヤまたは非空気入りのタイヤ、レースタイヤ、乗用車タイヤ、航空機タイヤ、農耕用タイヤ、地ならし機タイヤ、オフロード(OTR)タイヤ、トラックタイヤまたはオートバイタイヤであってもよい。タイヤはまたラジアルまたはバイアスタイヤであってもよい。
【0058】
第4の態様において、本発明は、ゴム組成物を製造する方法であって、以下のステップ:
A.例えば第1のステップにおいて、(言いかえれば前もって反応させて)ジフェノールを、アミン、特に第一級アミンと、アルデヒド誘導体(好ましくはホルムアルデヒド)の存在下で反応させてベンゾキサジンを得るステップであり、ジフェノールが、ジフェノールの両フェノール基を結びつけるまたは連結する橋かけを含み、前記橋かけが、その各末端の少なくとも1つと各フェノール基のメタ位で連結する、ステップ、
B.ベンゾキサジンをエラストマーおよび充填剤と混合するステップ、
C.第2のステップにおいてエラストマーおよび充填剤を混合するステップ、
D.第3のステップにおいてベンゾキサジンを添加するステップ(ステップCにおいてベンゾキサジンを添加する間に、ステップBの混合を継続する選択肢を含む)、
E.ゴム組成物を硬化させるステップ
の1つまたは複数を含む、方法を対象とする。
【0059】
さらなるステップが、上に挙げたステップ間に追加されてもよい。
上記の態様の特色および/または実施形態は互いと組み合わせてもよい。
本発明の構造、操作および利点は、添付の図面と組み合わせて以下の記載を熟考すればより明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】本発明の実施形態によるゴム組成物を有するゴムコンポーネントを含むタイヤの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1は、本発明の実施形態によるタイヤ1の模式的な断面図である。タイヤ1は、トレッド10、インナーライナー13、4つのベルトプライ11を含むベルト、カーカスプライ9、2つのサイドウォール2、および2つのビード領域3、ビードフィラーアペックス5およびビード4などの複数のタイヤコンポーネントを有する。例示のタイヤ1は、例えば車両、例えばトラックまたは乗用車のリムに取付けるのに適切である。
図1に示すように、ベルトプライ11はオーバーレイプライ12によってカバーされてもよくおよび/または1つまたは複数のブレーカープライを含んでもよい。カーカスプライ9は1対の軸方向に向かい合う端部6を含み、そのそれぞれは、ビード4の1つずつと繋がっている。カーカスプライ9の軸方向端部6それぞれは、軸方向端部6それぞれを繋ぎ留める位置へ各ビード4のまわりに折り返すことができる。カーカスプライ9の折り返し部6は、2つのフリッパー8の軸方向外側表面、およびタイヤコンポーネントとも見なされる2つのチッパー7の軸方向内側表面と噛み合うことができる。
図1に示されるように、例示のトレッド10は周溝20を有し、各溝20は、トレッド10のU字型の開口部を基本的に画定することができる。トレッド10の主要部分は、1種または複数のトレッドコンパウンドから形成されてもよい。さらに、溝20、特に溝20の底部および/またはサイドウォールは、残りのトレッドコンパウンドより高度な硬度および/または剛性を有するゴムコンパウンドによって補強することができる。そのような補強は、本明細書において溝補強と称することができる。
【0062】
図1の実施形態が、例えば、アペックス5、チッパー7、フリッパー8およびオーバーレイ12を含む複数のタイヤコンポーネントを示唆しているが、そのようなさらなるコンポーネントは本発明に必須ではない。またカーカスプライ9の折り返し端は、本発明に必要ではなく、またはビード区域3の対向面を通過し、ビード4の軸方向外側の代わりにビード4の軸方向内側で終端するのでもよい。タイヤにはまた、例えば溝20と異なる数、例えば4個未満の溝があってもよい。
【0063】
上記のタイヤコンポーネントの1つまたは複数は、本発明の実施形態によるゴム組成物から製造され、これは、i)2個のフェノール基、および2個のフェノール基を共有結合で連結する橋かけを含むジフェノール、ii)アルデヒド誘導体、ならびにiii)アミンの反応に基づくベンゾキサジンを含み、ここで、橋かけは少なくとも1個のフェノール基と、前記少なくとも1個のフェノール基のメタ位で連結している。
【0064】
第1の実施形態において、そのようなゴム組成物は、以下の構造
【0065】
【0066】
を有する3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド-フルフリルアミンを含むことができる。
構造(I)によるこの分子において、ジスルフィド橋かけはメタ位で両方のフェニル基を結びつけ、各パラ位は空いている。
【0067】
別の好ましい実施形態において、ベンゾキサジンは、下記構造II
【0068】
【0069】
に示される3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドエタノールアミンである。
構造IIにおいて、硫黄橋かけは、同様にメタ位でフェニル基と連結する。
なお別の実施形態において、ベンゾキサジンは、下記構造IIIに示される通り、3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドアニリンである。
【0070】
【0071】
本発明者らの多数の試験によって、4,4’-ベンゾキサジン配置は、フェニル基のパラ位で橋かけを与えることによって、メタ位でフェニル基の少なくとも1つに橋かけを結びつける場合より弱い補強をもたらすことを示した。
【0072】
例えば、本発明者らは、本発明によるものではない以下の構造(IV)、(V)もまた試験した。
【0073】
【0074】
本発明によるものではない構造IVは、ビス(4-ヒドロキシフェニルジスルフィドフルフリルアミン)を表わし、ジスルフィドは、パラ位で両方のフェニル基を橋かけする。
【0075】
【0076】
構造Vは、また本発明によるものではないが、ビスフェノールAフルフリルアミンであり、橋かけ(すなわちジメチルメタン)はまたフェニル基のパラ位でカップリングされている。
【0077】
下記表1は、とりわけ構造I、II、III、IV、Vを含む、異なる補強剤を有するジエン系ゴム組成物の実施例を示す。対照試料1は、基本的にカーボンブラックのみによって補強される。対照試料2は、カーボンブラック、ならびにフェノール樹脂およびヘキサメチレンテトラミンを含む反応性樹脂系によって補強される。実施例1~3は、上に示した構造Iに対応する3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィド-フルフリルアミン(本明細書において3DPDS faとも称される)によって補強される。特に、実施例1は15phrの3DPDS fa(これは対照試料2中の樹脂含量と等モル量に対応する)を含み、実施例2は10phrの3DPDS faを含み、実施例3は20phrの3DPDS faを含む。
【0078】
【0079】
表2はさらに対照試料および本発明の試料を列挙する。特に、対照試料3は、本明細書において4DPDS faとも称されるビス(4-ヒドロキシフェニルジスルフィドフルフリルアミン)を用いて補強する。このベンゾキサジンは上記構造IVに相当し、両方のフェニル基にパラ位で橋かけする。対照試料4はビスフェノールAフルフリルアミンによって補強し(またBAfaとして本明細書に挙げる)、またフェニル基のパラ位で連結する橋かけを含む(また構造Vを参照)。対照的に、実施例4および5は、やはり各フェニル基のメタ位で橋かけしたベンゾキサジンを含み、この場合、実施例4は、3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドエタノールアミン(3DPDS ea、構造IIにも示す)を含み、実施例5は、3,3’-ジヒドロキシジフェニルジスルフィドアニリン(3DPDS、構造IIIに示す)を含む。
【0080】
【0081】
表3は、上記の表1および2に対応する対照試料1~4および実施例1~5について剛性の指標であるヤング率Eの測定値を示す。カーボンブラック補強のみを有する対照試料1は、最も低い剛性を有する。フェニル基がパラ位でカップリングしたベンゾキサジンを用いて補強した対照試料3および4は、対照試料1より高い剛性を示すが、(等モルの)反応性樹脂で補強した対照試料2より剛性が低い。さらに表3に示すように、実施例1~5はそれぞれ、どの対照試料より高い剛性を有し、例えば、対照試料2の反応性樹脂系に対する価値のある置き換えと見なされる。表3に示すヤング率は、75mmの長さのタイプS2ダンベル状試験片を使用して、INSTRON 5967電気機械式試験機でDIN 53504に従って求めた。ヤング率は1.5%の歪みまで求めた。
【0082】