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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-04
(45)【発行日】2025-09-12
(54)【発明の名称】CYP2A6遺伝子多型の判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20250905BHJP
   C12Q 1/6837 20180101ALI20250905BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20250905BHJP
【FI】
C12Q1/6827 Z ZNA
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6883 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021123953
(22)【出願日】2021-07-29
(65)【公開番号】P2023019317
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】523261322
【氏名又は名称】メディフォード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 玄樹
【審査官】中根 知大
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107090517(CN,A)
【文献】国際公開第00/066775(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0305249(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CYP2A6のアリルであるCYP2A6*4又はCYP2A6*7の少なくとも一方の判定方法であって、
CYP2A6*4の判定を行う場合には、
(1)CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセットにより予備的増幅を行う工程;
(2)(a)前記工程(1)で得られた増幅産物を希釈した鋳型DNAと、
(b)CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、
(c)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*1を特徴づける配列を認識し、第1の蛍光色素で標識した第1のTaqMan(登録商標)プローブと、
(d)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*4を特徴づける配列を認識し、前記第1蛍光色素と異なる第2の蛍光色素で標識した第2のTaqManプローブと
を用いて、TaqMan法による増幅を行う工程;
(3)前記工程(2)の終了後に、及び/又は、前記工程(2)を実施しながら、第1蛍光色素に起因する蛍光強度と、第2蛍光色素に起因する蛍光強度とを測定する工程;
を含み、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号12の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号14の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号15の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号16の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブと、配列番号17の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブとの組合せを;
それぞれ、使用し、
CYP2A6*7の判定を行う場合には、
(1)CYP2A6*1及び*7を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセットにより予備的増幅を行う工程;
(2)(a)前記工程(1)で得られた増幅産物を希釈した鋳型DNAと、
(b)CYP2A6*1及び*7を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、
(c)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*1を特徴づける配列を認識し、第1の蛍光色素で標識した第1のTaqMan(登録商標)プローブと、
(d)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*7を特徴づける配列を認識し、前記第1蛍光色素と異なる第2の蛍光色素で標識した第2のTaqManプローブと
を用いて、TaqMan法による増幅を行う工程;
(3)前記工程(2)の終了後に、及び/又は、前記工程(2)を実施しながら、第1蛍光色素に起因する蛍光強度と、第2蛍光色素に起因する蛍光強度とを測定する工程;
を含み、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号12又は配列番号18の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号19の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号20の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号21の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブと、配列番号22の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブとの組合せを;
それぞれ、使用する、前記方法。
【請求項2】
CYP2A6*4の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号1の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号3の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号5の塩基配列からなるTaqManプローブと、配列番号6の塩基配列からなるTaqManプローブとの組合せを;
それぞれ、使用し、
CYP2A6*7の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号1又は配列番号7の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号8の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号9の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号10の塩基配列からなるTaqManプローブと、配列番号11の塩基配列からなるTaqManプローブとの組合せを;
それぞれ、使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CYP2A6*4及びCYP2A6*7を判定する、請求項1又は2に記載の方法であって、CYP2A6*4に関する前記工程(2)~工程(3)と、CYP2A6*7に関する前記工程(2)~工程(3)を、それぞれ、異なる反応容器で実施する、前記方法。
【請求項4】
配列番号1の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号3の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号4の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号5の塩基配列からなるTaqManプローブ、配列番号6の塩基配列からなるTaqManプローブを含む、CYP2A6*4の判定用キット。
【請求項5】
配列番号1又は配列番号7の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号8の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号9の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号10の塩基配列からなるTaqManプローブ、配列番号11の塩基配列からなるTaqManプローブを含む、CYP2A6*7の判定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CYP2A6遺伝子多型の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CYP2A6は体内のニコチン代謝に関与する酵素であり、またレトロゾール(アロマターゼ阻害剤/閉経後乳がん治療剤)の代謝にも関与している。
CYP2A6には多くのアリルが存在するが、日本人では遺伝子欠損型であるCYP2A6*4や、アミノ酸変異を伴う一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism;SNP)を有するCYP2A6*7やCYP2A6*10、またプロモータ領域にSNPを有するCYP2A6*9の変異型の遺伝子頻度が高く(2~20%)、これらの遺伝子型を組み合わせて2つ持つ時、ニコチン代謝の低代謝群(Poor Metabolizer;PM)となる(非特許文献1)。
日本人において、PMとなる遺伝子型を同定することは重要であるが、ヒトゲノムにはCYP2A6遺伝子座の近傍に、CYP2A6と塩基配列が酷似している別遺伝子(CYP2A7)が存在し、遺伝子型の判定を困難にしている。
なお、CYP2A6の遺伝子多型をメルティングカーブ解析により判定する方法が報告されている(特許文献1)。この方法では、目的遺伝子部位の増幅と変異部位の検出を一本のキャピラリー内で一度に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-194598号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】中島美紀. (2006). ニコチン代謝とCYP2A6の遺伝子多型. JPN.J.ELECTROCARDIOLOGY Vol.26 No.3, 26(3), 217‐222.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、CYP2A6*4及び/又はCYP2A6*7について、従来の方法よりも精度よく遺伝子型を判定する方法を開発し、測定系を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、新規に設計したPCRプライマー及び加水分解プローブを用い、別遺伝子であるCYP2A7を増幅せず、CYP2A6*1(野生型)、CYP2A6*4、CYP2A6*7を特徴づける領域のみを増幅する前処理を行うことにより、高い精度でCYP2A6*4及び/又はCYP2A6*7を判定できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する:
[1]CYP2A6のアリルであるCYP2A6*4又はCYP2A6*7の少なくとも一方の判定方法であって、
CYP2A6*4の判定を行う場合には、
(1)CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセットにより予備的増幅を行う工程;
(2)(a)前記工程(1)で得られた増幅産物を希釈した鋳型DNAと、
(b)CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、
(c)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*1を特徴づける配列を認識し、第1の蛍光色素で標識した第1のTaqMan(登録商標)プローブと、
(d)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*4を特徴づける配列を認識し、前記第1蛍光色素と異なる第2の蛍光色素で標識した第2のTaqManプローブと
を用いて、TaqMan法による増幅を行う工程;
(3)前記工程(2)の終了後に、及び/又は、前記工程(2)を実施しながら、第1蛍光色素に起因する蛍光強度と、第2蛍光色素に起因する蛍光強度とを測定する工程;
を含み、
前記工程(1)で用いるフォワードプライマーとして、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを、前記工程(1)で用いるリバースプライマーとして、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6特異的な配列にハイブリダイズするプライマーを;
前記工程(2)で用いるフォワードプライマーとして、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを、前記工程(2)で用いるリバースプライマーとして、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)として、主増幅で増幅された領域の中の、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7にはないCYP2A6特異的な遺伝子配列にハイブリダイズするプローブを、第2TaqManプローブ(d)として、主増幅で増幅された領域の中の、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7に特異的でありCYP2A6にはない遺伝子配列にハイブリダイズするプローブを;
それぞれ、使用し、
CYP2A6*7の判定を行う場合には、
(1)CYP2A6*1及び*7を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセットにより予備的増幅を行う工程;
(2)(a)前記工程(1)で得られた増幅産物を希釈した鋳型DNAと、
(b)CYP2A6*1及び*7を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、
(c)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*1を特徴づける配列を認識し、第1の蛍光色素で標識した第1のTaqMan(登録商標)プローブと、
(d)前記プライマーセット(b)で増幅された領域において、CYP2A6*7を特徴づける配列を認識し、前記第1蛍光色素と異なる第2の蛍光色素で標識した第2のTaqManプローブと
を用いて、TaqMan法による増幅を行う工程;
(3)前記工程(2)の終了後に、及び/又は、前記工程(2)を実施しながら、第1蛍光色素に起因する蛍光強度と、第2蛍光色素に起因する蛍光強度とを測定する工程;
を含み、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセットとして、CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)として、CYP2A6の471位のアミノ酸がイソロイシンである配列を含む領域にハイブリダイズするプローブを、第2TaqManプローブ(d)として、CYP2A6の471位のアミノ酸がスレオニンである配列を含む領域(典型的には10塩基から50塩基からなる領域であり、好ましくは10塩基から20塩基からなる領域)にハイブリダイズするプローブを;
それぞれ、使用する、前記方法。
[2]CYP2A6*4の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号12の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号14の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号15の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号16の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブと、配列番号17の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブとの組合せを;
それぞれ、使用し、
CYP2A6*7の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号12又は配列番号18の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号19の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号20の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号21の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブと、配列番号22の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブとの組合せを;
それぞれ、使用する、[1]の方法。
[3]CYP2A6*4の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号1の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号3の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号4の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号5の塩基配列からなるTaqManプローブと、配列番号6の塩基配列からなるTaqManプローブとの組合せを;
それぞれ、使用し、
CYP2A6*7の判定を行う場合には、
前記工程(1)で用いる前記プライマーセットとして、配列番号1又は配列番号7の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記プライマーセット(b)として、配列番号8の塩基配列からなるフォワードプライマーと、配列番号9の塩基配列からなるリバースプライマーとの組合せを;
前記工程(2)で用いる前記第1TaqManプローブ(c)及び第2TaqManプローブ(d)として、配列番号10の塩基配列からなるTaqManプローブと、配列番号11の塩基配列からなるTaqManプローブとの組合せを;
それぞれ、使用する、[1]又は[2]の方法。
[4]CYP2A6*4及びCYP2A6*7を判定する、[1]~[3]のいずれかの方法であって、CYP2A6*4に関する前記工程(2)~工程(3)と、CYP2A6*7に関する前記工程(2)~工程(3)を、それぞれ、異なる反応容器で実施する、前記方法。
[5]配列番号1の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号3の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号4の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号5の塩基配列からなるTaqManプローブ、配列番号6の塩基配列からなるTaqManプローブを含む、CYP2A6*4の判定用キット。
[6]配列番号1又は配列番号7の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号2の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号8の塩基配列からなるフォワードプライマー、配列番号9の塩基配列からなるリバースプライマー、配列番号10の塩基配列からなるTaqManプローブ、配列番号11の塩基配列からなるTaqManプローブを含む、CYP2A6*7の判定用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の判定方法を用いることにより、高い精度でCYP2A6*4及び/又はCYP2A6*7(好ましくはCYP2A6*4及びCYP2A6*7)を測定することができる。また、蛍光強度をリアルタイムで検出する必要がないので、使用装置やアッセイスケジュールを柔軟に変更することが可能となる。本発明により、日本人を含むアジア人集団において、CYP2A6のPMとなる大半の遺伝子型を容易に判定できることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明方法によるCYP2A6*4のクラスタリングの結果を示すグラフである。
図2】本発明方法によるCYP2A6*7のクラスタリングの結果を示すグラフである。
図3】比較例であるCYP2A6*4(前処理なし)のクラスタリングの結果を示すグラフである。
図4】比較例であるCYP2A6*7(前処理なし)のクラスタリングの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明方法では、予備的増幅(プレ増幅、プレPCR)を行った後、その増幅産物の一部を使用して主増幅(加水分解プローブ法、TaqManPCR)を行う。本発明方法における判定対象は、チトクロームP450(cytochrome P450: CYP)の一種であり、ニコチン代謝反応を触媒するCYP2A6の遺伝子多型であるCYP2A6*1(野生型)、CYP2A6*4、CYP2A6*7である(非特許文献1)。ヒトゲノムでは、CYP2A6遺伝子座の近傍に、CYP2A6(配列番号23;翻訳開始位置は22番塩基)と塩基配列が酷似している別遺伝子(CYP2A7:配列番号24;翻訳開始位置は38番塩基)が存在し、CYP2A6遺伝子多型の判定を困難にしている。
【0011】
CYP2A6*1は野生型であり、正常なニコチン代謝活性を示す。CYP2A6*4は、CYP2A6とCYP2A7との間の非相同組み換えの結果、CYP2A6遺伝子の大部分を欠損しており、酵素活性も欠損している。CYP2A6*7は、471位のイソロイシンがスレオニンに変異している一塩基多型(SNP)であり、酵素活性が低下している(以上、非特許文献1)。
本発明方法では、別遺伝子CYP2A7を増幅せず、CYP2A6*1、CYP2A6*4、CYP2A6*7を特徴づける領域のみを増幅し、かつそれらを明確に区別できる測定系が必要である。
【0012】
本発明方法に供する試料は、ゲノムDNAを含むものであれば特に限定されない。例としては、全血や細胞等を挙げることができる。これらの試料から、DNAの調製のための通常の方法によりDNAを得ることができる。
【0013】
(1)CYP2A6*4の判定
CYP2A6*4は、先述のとおり、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えに拠り、CYP2A6遺伝子の大部分を欠損し、機能を欠失しているアリルであり、CYP2A7の5’領域と、CYP2A6遺伝子の3’非翻訳領域の融合部分を有する。これを利用し、遺伝子の大部分を欠損したCYP2A6*4を特徴づける領域、及びCYP2A6*1を特徴づける領域を同時に増幅し、かつ別遺伝子CYP2A7を増幅しないプライマー配列を用いてプレ増幅する。
【0014】
更に、増幅された領域を鋳型として、CYP2A6*1、CYP2A6*4をそれぞれ特徴づける各領域に結合する加水分解プローブを設計し、TaqManPCRにて、CYP2A6*1の存在の有無、及びCYP2A6*4の存在の有無を、別々の蛍光値に変換する。これにより、CYP2A6の遺伝子型(*1/*1、*1/*4、*4/*4)がそれぞれ判定可能となる。
【0015】
本発明において「CYP2A6*4を特徴づける領域」とは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位を含み、且つ、その3’側の下流にCYP2A6特異配列を含み、その5’側である上流にCYP2A7特異配列を含む領域のことを指す。
【0016】
本発明において「CYP2A6*1を特徴づける領域」とは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位を含み、且つ、その5’側である上流にCYP2A6特異配列を含む領域のことを指す。
【0017】
CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位としては、CYP2A6遺伝子配列の翻訳開始位置から数えて6657bp~6831bpとCYP2A7遺伝子配列の翻訳開始位置から数えて7049bp~7222bpとの間、もしくは、CYP2A6遺伝子配列の6750bp~6831bpとCYP2A7遺伝子配列の7141bp~7222bpとの間において、高頻度に非相同組換えが生じることが報告されている(FEBS Letters 448(1999)105-110)。
【0018】
本発明において「CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセット」とは、組み換えが生じていないCYP2A6、およびCYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じたCYP2A6*4を同時に増幅することができ、且つ、組み換えが生じていないCYP2A7を増幅しないプライマーセットである。
【0019】
フォワードプライマーには、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを用い、リバースプライマーには、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6特異的な配列にハイブリダイズするプライマーを用いることにより、CYP2A7を増幅せずに、CYP2A6*1及びCYP2A6*4を同時に増幅することができる。好ましくは、CYP2A6*1を特徴づける領域とCYP2A6*4を特徴づける領域の増幅産物が、ほぼ同じサイズになるようにプライマーを設計するとよい。
【0020】
なお、CYP2A6*1には、CYP2A6遺伝子の3’非翻訳領域の一部がCYP2A7遺伝子に置換したアリルCYP2A6*1Bが含まれている。CYP2A6*1A(野生型)とCYP2A6*1Bとは酵素活性が変わらないため、本発明方法ではCYP2A6*1BとCYP2A6*4を区別できるよう、リバースプライマーは、置換が生じるCYP2A6遺伝子配列の翻訳開始位置から6679bp~6737bpや7073bp~7099bpの領域を避けて設定する必要がある。なお、CYP2A6*1AとCYP2A6*1Bは、表現型(酵素活性)が変わらないため、本明細書ではまとめてCYP2A6*1と記載する。
【0021】
それぞれのプライマーの長さは、ヒトゲノム中で標的とした配列を特異的に認識する長さを有していれば特に問わないが、一般的には10塩基から40塩基の範囲であり、好ましくは15塩基から30塩基であり、特に好ましくは16塩基から25塩基である。プライマー間の距離、すなわち増幅領域は、100塩基から5000塩基の範囲であれば特に問わないが、好ましくは100塩基から2000塩基である。主増幅に用いるプライマーおよびプローブの塩基配列を含む領域を増幅できるように設定する。
【0022】
本発明方法における予備的増幅は、前記プライマーを用いること以外は、常法に従って実施することができるが、増幅領域の長さに合わせて適切な伸長時間を設定することにより、組み換えが生じていないCYP2A7を増幅せずに、各アリルを特徴づける領域のみを増幅することができる。
【0023】
本発明方法では、プレ増幅反応で得られた増幅産物を適宜希釈し上で、主増幅反応の鋳型として用いる。一般的には、二段階PCRを実施する場合、得られたプレ増幅産物を、主検出工程の増幅を阻害しないヌクレアーゼフリーの溶媒、例えば滅菌処理された超純水にて100~10,000倍に希釈して、鋳型として使用する。
【0024】
本発明方法におけるTaqMan法による主増幅では、CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、当該増幅領域においてCYP2A6*1またはCYP2A6*4を特徴づける配列を認識する、異なる蛍光色素で標識された2種類のプローブを用いて、TaqMan法による増幅を行う。TaqManPCRでは、一般に、増幅される領域の塩基配列の一部とアニールする、標識を付したプローブが使用され、PCRの伸長反応の際にポリメラーゼの5’エキソヌクレアーゼ活性により遊離する標識を検出することにより、目的の増幅産物が検出される。
【0025】
主増幅に用いるプライマーセットは、プライマー間の距離が、TaqManプローブ使用時に一般的とされる約200bp以下となるように設定し、かつ、プローブの塩基配列を含む領域を増幅できるように設定すること以外は、プレ増幅に用いるプライマーセットと同様に設定することができる。
【0026】
主増幅用プライマーの配列は、プレ増幅用プライマーの配列と一部配列が重複していてもよいし、同一であってもよい。
例えば、後述する実施例に示すように、CYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーセットを使用することにより、非相同組換えが生じる部位の5’側上流が、CYP2A6由来の配列(すなわち、CYP2A6*1)であっても、CYP2A7由来の配列(すなわち、CYP2A6*4)であっても、1セットのプライマーセットで増幅することができる。より具体的には、フォワードプライマーには、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを用い、リバースプライマーには、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーを用いることができる。
【0027】
「CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブ」とは、主増幅で増幅された領域の中の、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7にはないCYP2A6特異的な遺伝子配列にハイブリダイズするプローブのことを指す。
【0028】
「CYP2A6*4を特徴づける配列を認識するプローブ」とは、主増幅で増幅された領域の中の、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7に特異的でありCYP2A6にはない遺伝子配列にハイブリダイズするプローブを指す。
【0029】
プローブの長さは、10塩基から50塩基であり、好ましくは10塩基から20塩基である。
【0030】
本発明方法におけるTaqMan法による主増幅に用いるプローブは、一の末端が蛍光色素により標識され、他の末端が前記蛍光色素を抑制するクエンチャーにより標識されている。
【0031】
本発明において蛍光色素とは、特定波長の励起光を吸収することで励起状態となり、元の基底状態に戻る際に蛍光を発する性質を有する物質を指す。標識に用いる蛍光物質は、プローブの末端に標識可能なものであれば、特に問わない。例えば、FAM、TET、HEX、Cy3、Cy5、Texas Red、TAMRA、FITC等いずれであってもよい。好ましくは、HEX(553nm)やFAM(520nm)が挙げられる。
本発明方法においては、CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブとCYP2A6*4を特徴づける配列を認識するプローブとで、異なる蛍光色素を組み合わせて用いる。使用する解析装置に合わせて、検出波長の異なる蛍光色素を選択することができる。
【0032】
本発明においてクエンチャーとは、蛍光色素の励起エネルギー吸収物質等をいう。使用する種類はBHQ1、BHQ2、Dabcyl等いずれであってもよい。ただし、当該抑制する色素の種類によって蛍光の抑制範囲が異なるため、一のプローブ上で組となる蛍光色素の発光を抑制できるクエンチャーの種類を選択する必要がある。発光を抑制できる選択範囲内では特に問わない。例えば、蛍光色素がFAMやTETの場合には、抑制範囲の波長がやや短波寄り(480nm~580nm)のBHQ1を、また蛍光物質がCy3やTexas redの場合には、抑制範囲の波長がやや長波寄り(550nm~650nm)のBHQ2を、選択してもよい。
【0033】
本発明において「標識され」とは、前記蛍光色素と前記クエンチャーのうち、いずれか一方は5’末端に、また他方は3’末端に化学的に結合されていることを意味する。通常5’末端に蛍光物質が結合していることが多いが、同様の効果が得られるのであれば3’末端に蛍光物質が結合していても、特に問わない。
【0034】
本発明方法における主増幅は、特定のプローブ及びプライマー対を使用する他は、通常のTaqManPCRの方法に従って行うことができる。PCRの条件は、当業者であれば適宜最適化することができる。
【0035】
本発明における判定方法は、前記蛍光色素から発する蛍光を利用する。例えば、5’末端が蛍光物質で標識されているプローブにおいて、当該プローブの上流にハイブリダイゼーションするプライマーと、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼとを遺伝子増幅用反応液に加え、PCR法によって遺伝子増幅反応を行うことで、DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によりプローブが分解され、蛍光色素がプローブから遊離することでクエンチャーによる抑制が解除される。
【0036】
本発明の方法では、CYP2A6*1およびCYP2A6*4が、2色の蛍光強度にそれぞれ対応して検出される。これにより、一般的な加水分解プローブによるSNP判定ソフトウェアが使用可能となる。目視による判定が不要となり、制限酵素処理や電気泳動など、従来法における誤判定や作業時間の問題が解消され、臨床の現場で遺伝子多型判定を短時間で行い、個人ごとの薬物処方設計を支援することが可能となる。また、Tm値の解析よりも、結果を容易に視覚的に確認することができる。
【0037】
蛍光色素に起因する蛍光強度の測定は、遺伝子増幅反応中にリアルタイムに行ってもよいし、反応終了後に行ってもよい。増幅反応中に測定する場合は、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCRの専用装置が必要となる。増幅反応終了後に測定する場合は、遺伝子増幅反応はサーマルサイクラーで行うことができ、解析規模に応じて柔軟に使用する装置を選択することが可能となる。
【0038】
本発明方法において、プレ増幅及び主増幅に用いるプライマーセット、及びプローブの設定は、融解温度(Tm値)が均一で、分子内相互作用を有さず、且つプライマー、プローブ間で分子間二量体を形成し得る相補的配列を避けるように留意するなど、PCRに用いる条件を考慮して当業者に公知の方法に従って行えばよい。プローブ及びプライマー対の設定は、適当なプライマー・プローブデザイン用のソフトウェアを用いてもよい。
【0039】
(2)CYP2A6*7の判定
CYP2A6*7は1塩基置換のアリル(SNP ID:rs5031016)であるが、当該SNPはCYP2A7と非常に相同性が高い領域(CYP2A6遺伝子の翻訳開始位置から6558番目)にあり、直接TaqManプローブで遺伝子型を決定することは困難である。そこで、CYP2A6*7については、CYP2A6*7を特徴づける領域、及びCYP2A6*1を特徴づける領域を同時に増幅し、かつ別遺伝子CYP2A7を増幅しないプライマー配列をもちいてプレ増幅する。これは、CYP2A6のみ特異的に増幅させることになる。
【0040】
更に、増幅された領域を鋳型として、CYP2A6*1、CYP2A6*7をそれぞれ特徴づける同一領域に結合する加水分解プローブを設計し、TaqManPCRにて、CYP2A6*1の存在の有無、CYP2A6*7の存在の有無を別々の蛍光値に変換する。これにより、CYP2A6の遺伝子型(*1/*1、*1/*7、*7/*7)がそれぞれ判定可能となる。
【0041】
本発明において「CYP2A6*1を特徴づける領域」及び「CYP2A6*7を特徴づける領域」とは、いずれも、CYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域のことを指す。
本発明において、「CYP2A6*1及びCYP2A6*7を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないプライマーセット」とは、CYP2A6特異的配列にハイブリダイズし、CYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させるプライマーセットである。「CYP2A6*1を特徴づける配列」とは、CYP2A6の471位のアミノ酸がイソロイシンである配列であり、「CYP2A6*7を特徴づける配列」とは、CYP2A6の471位のアミノ酸がスレオニンである配列のことを指す。
【0042】
CYP2A6*7のプレ増幅に用いるプライマーセットは、CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットである。CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、CYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることができるものであれば、CYP2A6*4のプレ増幅に用いるプライマーセットと、フォワードプライマーまたはリバースプライマーの一方、もしくは双方が同一であってもよい。同一のプライマーセットを用いることにより、CYP2A6*4及びCYP2A6*7判定のためのプレ増幅を、一つの反応容器で実施することができる。
【0043】
CYP2A6*7のTaqMan法による主増幅では、CYP2A6*1及びCYP2A6*7を特徴づける配列を含む200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーセットと、当該増幅領域においてCYP2A6*1またはCYP2A6*7を特徴づける配列を認識する、異なる蛍光色素で標識された2種類のプローブを用いて、TaqMan法による増幅を行う。
【0044】
主増幅に用いるプライマーセットは、CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットである。主増幅用プライマーの配列は、プレ増幅用プライマーの配列と一部配列が重複していてもよいし、同一であってもよい。
【0045】
「CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブ」とは、CYP2A6の471位のアミノ酸がイソロイシンである配列を含む領域(典型的には10塩基から50塩基からなる領域であり、好ましくは10塩基から20塩基からなる領域)にハイブリダイズするプローブのことを指す。
【0046】
「CYP2A6*7を特徴づける配列を認識するプローブ」とは、CYP2A6の471位のアミノ酸がスレオニンである配列を含む領域(典型的には10塩基から50塩基からなる領域であり、好ましくは10塩基から20塩基からなる領域)にハイブリダイズするプローブのことを指す。
【0047】
使用するプライマーおよびプローブ以外の要件や原理に関しては、CYP2A6*4の判定方法と同じである。
【0048】
本発明方法では、CYP2A6*1、CYP2A6*4、CYP2A6*7をそれぞれ特異的に検出するため、CYP2A6*4(及びCYP2A6*1)判定のために以下のプライマー、プローブ(1)~(3)を、CYP2A6*7(及びCYP2A6*1)判定のために以下のプライマー、プローブ(4)~(6)を設計し、用いることができる。また、その相補的塩基配列を有するプライマー、プローブでもよい。
【0049】
(1)プレ増幅用プライマー配列:後述する表1に記載のPCR-2A6st4-FW1(配列番号1)及びPCR-2A6-RW1(配列番号2)に代表される、CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないPCRプライマーペア。フォワードプライマーは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーであり、リバースプライマーは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6特異的な配列にハイブリダイズするプライマーである。このようなプライマーセットとしては、配列番号12の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せが挙げられる。
【0050】
(2)主増幅用プライマー配列:表1に記載のPrimer-2A6st4-FW1(配列番号3)及びPrimer-2A6st4-RV1(配列番号4)に代表される、CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーペア。フォワードプライマーは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーであり、リバースプライマーは、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より3’側である下流に位置するCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズするプライマーである。このようなプライマーセットとしては、配列番号14の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号15の塩基配列における連続する21塩基から27塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せが挙げられる。
【0051】
(3)加水分解プローブ配列:表1に記載のProbe-2A6st4(HEX)(配列番号5)及びProbe-2A7st4(FAM)(配列番号6)に代表される、(2)のプライマーペアで増幅された領域において、CYP2A6*1及びCYP2A6*4を特徴づける各配列を認識し、それぞれ別の蛍光として検出可能な加水分解プローブ。CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブは、主増幅で増幅された領域の中で、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7にはないCYP2A6特異的な遺伝子配列にハイブリダイズするプローブであり、CYP2A6*4を特徴づける配列を認識するプローブは、主増幅で増幅された領域の中で、CYP2A6とCYP2A7との非相同組換えが生じる部位より5’側である上流において、CYP2A7に特異的でありCYP2A6にはない遺伝子配列にハイブリダイズするプローブである。CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブとしては、配列番号16の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブが挙げられる。CYP2A6*4を特徴づける配列を認識するプローブとしては、配列番号17の塩基配列における連続する12塩基から18塩基からなる配列で表されるプローブが挙げられる。
【0052】
(4)プレ増幅用プライマー配列:後述する表3に記載のPCR-2A6st7-FW1(配列番号7)〔又はPCR-2A6st4-FW1(配列番号1)〕及びPCR-2A6-RW1(配列番号2)に代表される、CYP2A6*1及びCYP2A6*7を特徴づける領域を同時に増幅させ、かつCYP2A7遺伝子を増幅しないPCRプライマーペア。CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットである。このようなプライマーセットとしては、配列番号12又は配列番号18の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号13の塩基配列における連続する14塩基から20塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せが挙げられる。
【0053】
(5)主増幅用プライマー配列:表3に記載のPrimer-2A6st7-FW1(配列番号8)及びPrimer-2A6st7-RV1(配列番号9)に代表される、CYP2A6*1及びCYP2A6*7を特徴づける200bp以下の領域を同時に増幅できるプライマーペア。CYP2A6特異配列にハイブリダイズし、且つCYP2A6の471位のアミノ酸を含む領域を増幅させることのできるプライマーセットである。このようなプライマーセットとしては、配列番号19の塩基配列における連続する18塩基から24塩基からなる配列で表されるフォワードプライマーと、配列番号20の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるリバースプライマーとの組合せが挙げられる。
【0054】
(6)加水分解プローブ配列:表3に記載のProbe-2A6st1(HEX)(配列番号10)及びProbe-2A6st7(FAM)(配列番号11)に代表される、(5)のプライマーペアで増幅された領域において、CYP2A6*1及びCYP2A6*7を特徴づける配列を認識し、それぞれ別の蛍光として検出可能な加水分解プローブ。CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブは、CYP2A6の471位のアミノ酸がイソロイシンである配列を含む領域(典型的には10塩基から50塩基からなる領域であり、好ましくは10塩基から20塩基からなる領域)にハイブリダイズするプローブであり、CYP2A6*7を特徴づける配列を認識するプローブは、CYP2A6の471位のアミノ酸がスレオニンである配列を含む領域(典型的には10塩基から50塩基からなる領域であり、好ましくは10塩基から20塩基からなる領域)にハイブリダイズするプローブである。CYP2A6*1を特徴づける配列を認識するプローブとしては、配列番号21の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブが挙げられる。CYP2A6*7を特徴づける配列を認識するプローブとしては、配列番号22の塩基配列における連続する16塩基から22塩基からなる配列で表されるプローブが挙げられる。
【0055】
本発明の判定用キットは、本発明方法に用いることのできるキットであり、プレ増幅用プライマーセット、及び、主増幅用プライマーセットと2種のプローブを含むことを特徴とする。プローブ及びプライマーセットについては、本発明方法に関し、上記に説明した通りである。
本判定用キットにおいてプローブ及びプライマー対は、混合物とされていてもよいし、別個に収容されていてもよい。本発明キットは、プローブ及びプライマーセットの他に、PCRを行うのに必要とされる試薬類をさらに含んでいてもよい。
【0056】
本発明方法におけるプレ増幅および主増幅は、前記プローブ及びプライマーを用いること以外は、常法に従って実施することができ、より具体的には、例えば、後述の実施例に記載の手順に従って実施することができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
《実施例1:測定試料並びにプライマー及びプローブの調製》
測定試料となるゲノムDNAは、コリエル研究所(Coriell Institute)から購入したHapMap DNA(HAPMAP PT02)を市販のジエチルピロカーボネート(DEPC)処理水(DEPC-Treated Water;ライフテクノロジーズジャパン株式会社)でゲノムDNA濃度として2ng/μLに希釈したものを使用した。測定に使用したHapMap DNAを表11に示す。
【0059】
CYP2A6*4測定のために、表1に記載のプレPCR用プライマー、並びにTaqManPCR用プライマー及びプローブを調製した。FWプライマー(PCR-2A6st4-FW1;配列番号1)はCYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズし、RVプライマー(PCR-2A6-RW1;配列番号2)はCYP2A6特異的配列にハイブリダイズする。これにより、CYP2A7は増幅せずにCYP2A6*1及びアリルCYP2A6*4を特異的に増幅することができる。TaqManPCR用プライマー(Primer-2A6st4-FW1;配列番号3、Primer-2A6st4-RV1;配列番号4)は、CYP2A6及びCYP2A7の共通配列にハイブリダイズすることから、CYP2A6*1及びCYP2A6*4の双方を増幅することができる。Allele X用プローブ(Probe-2A6st4(HEX);配列番号5)はTaqManPCR増幅産物中でCYP2A6特異的配列、すなわちCYP2A6*1を特徴づける配列を認識する加水分解プローブであり、Allele Y用プローブ(Probe-2A7st4(FAM);配列番号6)は増幅産物中でCYP2A7、すなわちCYP2A6*4を特徴づける配列を認識する加水分解プローブである。
なお、各配列の説明(由来)を表2に示す。
【0060】
また、CYP2A6*7測定のために、表3に記載のプレPCR用プライマー、並びにTaqManPCR用プライマー及びプローブを調製した。Pre-PCR及びTaqManPCR用プライマーは、いずれもCYP2A6を特異的に増幅することができる。Allele X用プローブは増幅産物中でCYP2A6*1を特徴づける配列を認識する加水分解プローブであり、Allele Y用プローブは増幅産物中でCYP2A6*7を特徴づける配列を認識する加水分解プローブである。なお、TaqManPCR用プローブの各塩基配列において小文字で示す塩基は、CYP2A6*1又はCYP2A6*7を特徴付ける一塩基置換の位置を示す。
なお、各配列の説明(由来)を表4に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
《実施例2:プレPCR》
プレPCR用のフォワードプライマー(100μmol/L)及びリバースプライマー(100μmol/L)を2.5μLずつ、並びにDEPC-Treated Waterを95μL混和し、CYP2A6*4測定用及びCYP2A6*7測定用の各Pre-PCR Primer Mix (2.5 μmol/L)を調製した。次に、表5に記載の組成(1反応分)に従って、市販のPCR試薬(TaKaRa LA Taq with GC Buffer;タカラバイオ株式会社)に添付の各試薬、前記Pre-PCR Primer Mix (2.5 μmol/L)、及びDEPC-Treated Waterを混和・撹拌した後、スピンダウンしてpre-PCR Mixtureとした。
96ウェルプレートの各ウェルにpre-PCR Mixtureを12μLずつ分注した。続いて、各HapMap DNA溶液及び陰性対照としてDEPC-Treated Waterを3μLずつ添加した。96ウェルプレートにシールした後、タッピングにより混和した。
スピンダウンした後、96ウェルプレートをPCR System(GeneAmp PCR System 9700;ライフテクノロジーズジャパン株式会社)にセットして、表6に示す条件で反応させ、プレPCR反応産物とした。
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
《実施例3:TaqManPCR》
表7に記載の組成に従って、TaqMan MGB Probe&Primer Mix (10×)を調製した。次に、表8に記載の組成(1反応分)に従って、試験管ミキサーにより混合した後、スピンダウンして、PCR Reaction Mixを調製した。
384ウェルプレートの各ウェルに各PCR Reaction Mixを6.0μLずつ添加した。続いて、前記実施例2で得られたプレPCR反応産物をDEPC-Treated Waterで1024倍希釈したプレPCR反応産物希釈液、陰性対照としてDEPC-Treated Waterを4.0μLずつ添加した。なお、各試料に対して反応はデュープリケート(duplicate、2ウェルずつ)で実施した。384ウェルプレートにシールを貼り、スピンダウンした後、リアルタイムPCR装置(LightCycler 480 II;ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)にセットした。
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
リアルタイムPCRは、表9に示す条件で実施した。反応終了後、エンドポイントでの蛍光量を測定した。得られた測定データを表10に従って変換し、SNP判定とした。なお、測定不能の場合はN/Aと表記した。
【0072】
【表9】
【0073】
【表10】
【0074】
《実施例4:結果と考察》
CYP2A6*4の結果を表11に示す。また、CYP2A6*4のクラスタリングの結果を図1に示す。図1において、横軸はHEX(Allele X)の蛍光強度であり、縦軸はFAM(Allele Y)の蛍光強度である。
すべての測定試料において、デュープリケートの結果は同一であり、また、事前情報と一致した結果が得られた。なお、陰性対照(ゲノムDNAなし)は、HEX及びFAM共に非検出であり、Negativeであった。またクラスタリングは、Allele X & Allele Yのヘテロ接合体(Both Alleles;図1のグラフの右上ゾーン)、Allele Xのホモ接合体(Allele X;図1のグラフの右下ゾーン)、Allele Yのホモ接合体(Allele Y;図1のグラフの左上ゾーン)、陰性対照(Negative;図1のグラフの左下ゾーン)が明瞭に区別され、自動判定可能であった。*4/*4(0コピー)と判定された検体は2検体(NA18952、NA18973)であった。
【0075】
【表11】
【0076】
CYP2A6*7の結果を表12に示す。また、CYP2A6*7のクラスタリングの結果を図2に示す。表12における「*Allele X」は、低シグナル値での判定であることを示す。図2において、横軸はHEX(Allele X)の蛍光強度であり、縦軸はFAM(Allele Y)の蛍光強度である。
NA18952及びNA18973の結果の考察は後述するとして、これらを除くすべての測定試料において、デュープリケートの結果は同一であった。なお、陰性対照(ゲノムDNAなし)は、HEX及びFAM共に非検出であり、Negativeであった。またクラスタリングは、Allele X & Allele Yのヘテロ接合体(Both Alleles;図2のグラフの右上ゾーン)、Allele Xのホモ接合体(Allele X;図2のグラフの右下ゾーン)、Allele Yのホモ接合体(Allele Y;図2のグラフの左上ゾーン)、陰性対照(Negative;図2のグラフの左下ゾーン)が明瞭に区別され、自動判定可能であった。なお、プレPCR反応産物をシークエンスした結果、CYP2A6遺伝子のみが増幅されていたこと(すなわち、CYP2A7遺伝子が増幅されていないこと)を確認した。
NA18952及びNA18973の結果は低シグナルであり、NA18952及びNA18973が*4/*4(0コピー)であることを考慮すると、この結果は妥当であると判断された。
【0077】
【表12】
【0078】
《比較例:TaqManPCR(プレPCR不実施)》
実施例3と同様にして、PCR Reaction Mixを調製し、384ウェルプレートの各ウェルに各PCR Reaction Mixを6.0μLずつ添加した。続いて、プレPCR反応産物希釈液の代わりに各HapMap DNA溶液、及び陰性対照としてDEPC-Treated Waterを4.0μLずつ添加した。なお、各試料に対して反応はデュープリケート(duplicate、2ウェルずつ)で実施した。384ウェルプレートにシールを貼り、スピンダウンした後、リアルタイムPCR装置(LightCycler 480 II;ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)にセットし、表9に示す条件でリアルタイムPCRを実施した。
【0079】
CYP2A6*4及びCYP2A6*7のクラスタリングの結果を、それぞれ図3及び図4に示す。横軸はHEX(Allele X)の蛍光強度であり、縦軸はFAM(Allele Y)の蛍光強度である。どちらの図も、Allele X & Allele Yのヘテロ接合体、Allele Xのホモ接合体、Allele Yのホモ接合体、陰性対照が区別できなかった。一般的に、胚細胞由来の遺伝子多型検査では、末梢血から容易に高品質なゲノムDNAを得られるため、プレPCRを実施する必要はない。しかし、CYP2A6*4及びCYP2A6*7の測定では、前処理としてプレPCRを実施する必要があることが判明した。
【0080】
《調製例:プライマー及びプローブの設計》
本発明方法で用いることのできるプライマー及びプローブを表13、表14に示す。
【0081】
【表13】
【0082】
【表14】
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、CYP2A6の遺伝子多型の判定に使用することができ、例えば、ニコチン代謝や、それが関与する疾患の診断、治療、予防などの用途に利用できる。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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