(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-05
(45)【発行日】2025-09-16
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー樹脂の再生方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/50 20060101AFI20250908BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20250908BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20250908BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20250908BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20250908BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250908BHJP
C07K 14/52 20060101ALI20250908BHJP
C07K 14/54 20060101ALI20250908BHJP
C07K 14/575 20060101ALI20250908BHJP
B01D 15/20 20060101ALI20250908BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20250908BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20250908BHJP
B01J 20/24 20060101ALI20250908BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20250908BHJP
【FI】
G01N30/50
C07K1/22
C07K1/16
C07K16/00
C07K16/46
C07K19/00
C07K14/52
C07K14/54
C07K14/575
B01D15/20
B01D15/38
B01J20/22 D
B01J20/24 C
G01N30/26 A
B01J20/281 R
(21)【出願番号】P 2021561637
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 US2020028480
(87)【国際公開番号】W WO2020214792
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-13
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】アンジェロ,ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】シュー,シュアンクオ
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0301429(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0093800(US,A1)
【文献】国際公開第2015/034566(WO,A1)
【文献】特表2016-530533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0214587(US,A1)
【文献】特開2012-244993(JP,A)
【文献】特表2016-538320(JP,A)
【文献】特開平10-221323(JP,A)
【文献】Tianyi Zhou et al ,An enhanced regeneration strategy to improve microbial control and prolong resin lifetime for Protein A resin in large-scale monoclonal antibody (mAb) purification,Journal of Biotechnology,2019年01月10日,289,P118-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
C07K 1/16 - 19/00
B01D 15/20 - 15/38
B01J 20/24 - 20/281
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフィー樹脂を、第1の緩衝液と第2の緩衝液をその順で接触させる工程を含むクロマトグラフィー樹脂を洗浄する方法であって、第1の緩衝液が酢酸およびベンジルアルコールを含み、リン酸を含まず、第2の緩衝液が水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびベンジルアルコールを含み、クロマトグラフィー樹脂が動的なフロー条件下で第1の緩衝液中に約15分以下の間保持され、クロマトグラフィー樹脂が動的なフロー条件下で第2の緩衝液中に約15分以下の間保持され
、第1の緩衝液の後と第2の緩衝液の前に、中和緩衝液をクロマトグラフィー樹脂に通すことを特徴とする、方法。
【請求項2】
第1の緩衝液が、約150~200mM酢酸および約1~3%(v/v)ベンジルアルコールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の緩衝液が、約100~300mM水酸化ナトリウム、約100~300mMクエン酸ナトリウムおよび約0.5~1.5%(v/v)ベンジルアルコールを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の緩衝液が、約167mMの酢酸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第1の緩衝液が、約2%(v/v)のベンジルアルコールを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
第2の緩衝液が、約200mM水酸化ナトリウムを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第2の緩衝液が、約200mMクエン酸ナトリウムを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
第2の緩衝液が、約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第1の緩衝液が、約167mMの酢酸および約2%(v/v)のベンジルアルコールを含み、第2の緩衝液が、約200mMの水酸化ナトリウム、約200mMのクエン酸ナトリウムおよび約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
第1の緩衝液が、約167mMの酢酸および約2%(v/v)のベンジルアルコールを含み、第2の緩衝液が、約100mMの水酸化ナトリウム、約200mMのクエン酸ナトリウムおよび約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
洗浄した日に再使用できる、請求項1~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
クロマトグラフィー樹脂が、クロマトグラフィーカラム内に存在する、請求項1~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
クロマトグラフィー樹脂が、アフィニティー樹脂である、請求項1~
12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
クロマトグラフィー樹脂が、支持体に結合したアフィニティーリガンドを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
アフィニティーリガンドが、StaphylococcusのプロテインA、あるいはその一部または誘導体である、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
アフィニティーリガンドが、StaphylococcusのプロテインG、あるいはその一部または誘導体である、請求項
14に記載の方法。
【請求項17】
樹脂または支持体が、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドおよびポリカーボネートからなる群から選択されるポリマーを含む、請求項
12~
16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ポリペプチドをクロマトグラフィー樹脂に適用する工程、および請求項1~
17のいずれか1項に記載の方法を使用してクロマトグラフィー樹脂を洗浄する工程を含む、ポリペプチドの精製方法。
【請求項19】
クロマトグラフィー樹脂の結合容量が、50回以上、100回以上、150回以上または200回以上クロマトグラフィー樹脂を洗浄した後も保持されている、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
クロマトグラフィー樹脂の圧力が、50回以上、100回以上、150回以上または200回以上クロマトグラフィー樹脂を洗浄している間に上昇しない、請求項
18に記載の方法。
【請求項21】
ポリペプチドが、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む免疫グロブリンである、請求項
18に記載の方法。
【請求項22】
ポリペプチドが、抗体またはその抗原結合フラグメントである、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
抗体が、IgGモノクローナル抗体である、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
IgGモノクローナル抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である、請求項
23に記載の方法。
【請求項25】
ポリペプチドが、酵素、ホルモン、融合タンパク質、免疫コンジュゲート、サイトカインまたはインターロイキンである、請求項
18に記載の方法。
【請求項26】
1回以上の洗浄サイクルによりクロマトグラフィー樹脂を洗浄する工程を特徴とする、クロマトグラフィー樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムを洗浄する方法であって、各洗浄サイクルが、クロマトグラフィー樹脂を、酢酸およびベンジルアルコールを含む第1の溶液に動的なフロー条件下で約15分以下の間接触させ、続いてクロマトグラフィー樹脂を、水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびベンジルアルコールを含む第2の溶液に動的なフロー条件下で約15分以下の間接触させる工程を含み、第1の溶液がリン酸を含ま
ず、第1の緩衝液の後と第2の緩衝液の前に、中和緩衝液をクロマトグラフィー樹脂に通すことを特徴とする、方法。
【請求項27】
微生物殺菌力が増大する、請求項1~
26のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
宿主細胞タンパク質のファウリングを低下させる、請求項1~
26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
収率低下を減らす、請求項1~
26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2019年4月17日に提出した米国仮出願番号第62/835,049号の優先権の利益を求めるものであり、出典明示によりその全てが本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明の目的は、広義に、クロマトグラフィーおよびクロマトグラフィー樹脂の洗浄に関する。
【背景技術】
【0003】
クロマトグラフィー樹脂は、試料溶液中のその他の不純物質から目的のタンパク質を精製する際に使用される。クロマトグラフィー樹脂は、バイオ医薬品、例えば、モノクローナル抗体(Mab)およびその他のFc含有タンパク質をアフィニティークロマトグラフィーにより精製するために頻繁に使用される。アフィニティークロマトグラフィーは、目的のタンパク質に特異的に結合するリガンドを樹脂に結合させることで、タンパク質とリガンドの相互作用を利用するものであり、例えば、抗体のFc領域と結合できるリガンドであるプロテインAが挙げられる。プロテインAアフィニティークロマトグラフィーは、非常に有効なタンパク質精製方法であるが、プロテインA樹脂のコストは高く、MAb製造における原料樹脂コストのかなりの部分を占める(Fahrner, R. L., et al., Biotechnol. Appl. Biochem. 1999, 30, 121-128; Kelley, B., Biotechnol. Prog. 2007, 23:995-1008)。プロテインA樹脂のコストの問題は、わずか数回の精製サイクルの後に全体的な性能および結合容量が急速に低下するために、一般的に樹脂のライフサイクルが短いことが問題をさらに悪化させている。このため、大規模なタンパク質の精製事業では、新しいプロテインAを、かなり頻繁に購入して使用する必要があり、タンパク質精製の全体的なコストがさらに高額となる。樹脂の性能および結合容量の低下は、生成物および処理の両方による不純物が樹脂に付着堆積することによる樹脂のファウリングが原因であることが多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、クロマトグラフィー樹脂の全体的な性能および結合容量を長期間維持することにより、例えば、樹脂の完全性を維持しながらクロマトグラフィー樹脂を再生および/または洗浄することにより、クロマトグラフィー樹脂のライフサイクルを延ばす方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、クロマトグラフィー樹脂を洗浄および/または再生する方法を提供する。クロマトグラフィー樹脂は、同一生成物に使用するために、または異なる生成物に使用するために、洗浄および/または再生されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0006】
一実施形態では、本発明は、クロマトグラフィー樹脂を、酢酸およびベンジルアルコールを含む第1の緩衝液、ならびに水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびベンジルアルコールを含む第2の緩衝液と接触させることを特徴とする、クロマトグラフィー樹脂を洗浄する方法を提供する。一実施形態では、第1の緩衝液は、リン酸を含まない。一実施形態では、第1の緩衝液は、約150~200mMの酢酸および約1~3%(v/v)のベンジルアルコールを含む。一実施形態では、第2の緩衝液は、約100~300mMの水酸化ナトリウム、約100~300mMのクエン酸ナトリウムおよび約0.5~1.5%(v/v)のベンジルアルコールを含む。一実施形態では、第1の緩衝液は、約167mMの酢酸を含む。一実施形態では、第1の緩衝液は、約2%(v/v)のベンジルアルコールを含む。一実施形態では、第2の緩衝液は、約200mMの水酸化ナトリウムを含む。一実施形態では、第2の緩衝液は、約200mMのクエン酸ナトリウムを含む。一実施形態では、第2の緩衝液は、約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む。一実施形態では、第1の緩衝液は、約167mMの酢酸および約2%(v/v)のベンジルアルコールを含み、第2の緩衝液は、約200mMの水酸化ナトリウム、約200mMのクエン酸ナトリウムおよび約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む。
【0007】
一実施形態では、第1の緩衝液は、約167mMの酢酸および約2%(v/v)のベンジルアルコールを含み、第2の緩衝液は、約100mMの水酸化ナトリウム、約200mMのクエン酸ナトリウムおよび約1%(v/v)のベンジルアルコールを含む。
【0008】
一実施形態では、中和緩衝液は、第1緩衝液の後と第2緩衝液の前にクロマトグラフィー樹脂に通される。
【0009】
一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、第1の緩衝液中で約15分以下の間保持される。一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、第2の緩衝液中で約15分以下の間保持される。一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、第2の緩衝液中で約45分以下の間保持される。一実施形態では、再使用は、洗浄と同日に行われる。
【0010】
一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、クロマトグラフィーカラムに存在している。
【0011】
一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、アフィニティー樹脂である。一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、支持体に結合したアフィニティーリガンドを含む。一実施形態では、アフィニティーリガンドは、スタフィロコッカスのプロテインAまたはその一部もしくは誘導体である。一実施形態では、アフィニティーリガンドは、スタフィロコッカスのプロテインGまたはその一部もしくは誘導体である。一実施形態では、樹脂または支持体は、多糖類、アガロース、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドおよびポリカーボネートまたはそれらの混合物からなる群から選択されるポリマーを含む。
【0012】
本発明は、ポリペプチドをクロマトグラフィー樹脂に適用する工程、および本明細書に記載の方法を用いてクロマトグラフィー樹脂を洗浄する工程を特徴とする、ポリペプチドを精製する方法も提供する。
【0013】
一実施形態では、洗浄済のクロマトグラフィー樹脂の結合容量は、本明細書に記載の方法を用いてクロマトグラフィー樹脂を洗浄した後に保持されている。一実施形態では、結合容量は、50回以上、100回以上、150回以上または200回以上の洗浄後でも維持されている。
【0014】
一実施形態では、本明細書に記載の方法を用いるクロマトグラフィー樹脂を洗浄している過程で、クロマトグラフィー樹脂の圧力は上昇しない。一実施形態では、クロマトグラフィー樹脂の圧力は、50回以上、100回以上、150回以上または200回以上の洗浄の後も上昇しない。
【0015】
一実施形態では、ポリペプチドとは、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含むイムノグロブリンである。一実施形態では、ポリペプチドは、抗体またはその抗原結合フラグメントである。一実施形態では、抗体は、IgGモノクローナル抗体である。一実施形態では、IgGモノクローナル抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体である。一実施形態では、ポリペプチドは、酵素、ホルモン、融合タンパク質、免疫コンジュゲート、サイトカインまたはインターロイキンである。
【0016】
本発明はまた、クロマトグラフィー樹脂を含むアフィニティークロマトグラフィーカラムを洗浄する方法を提供するものであって、前記方法は、クロマトグラフィー樹脂を、1つ以上の洗浄サイクルで洗浄する工程を特徴とし、各洗浄サイクルは、クロマトグラフィー樹脂を、酢酸およびベンジルアルコールを含む第1の溶液と約15分以下の間接触させる工程、ならびに水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびベンジルアルコールを含む第2の溶液と約15分以下または約45分以下の間接触させる工程を特徴とする。一実施形態では、第1の溶液は、リン酸を含まない。一実施形態では、本方法は、微生物殺菌力を向上させる。一実施形態では、本方法は、宿主細胞タンパク質のファウリングを低下させる。一実施形態では、本方法は、収率低下を減らす。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、洗浄プロトコール1(-1-)、洗浄プロトコール2(-2-)、洗浄プロトコール3(-3-)および洗浄プロトコール6(-4-)についての精製サイクル数増加時のプロテインAの工程収率を示す。
【
図2】
図2は、洗浄プロトコル9(-1-)、洗浄プロトコル10(-2-)および洗浄プロトコル11(-3-)についての精製サイクル数増加時のプロテインAの工程収率を示す。
【
図3】
図3は、洗浄プロトコル2(-1-)、洗浄プロトコル4(-2-)、洗浄プロトコル5(-3-)および洗浄プロトコル7(-4-)についての精製サイクル数増加時のプロテインAの工程収率を示す。
【
図4】
図4は、洗浄プロトコル1(-1-)、洗浄プロトコル7(-2-)および洗浄プロトコル8(-3-)についての精製サイクル数増加時の、デルタカラム圧を示す。
【
図5】
図5は、洗浄プロトコル10(-1-)および洗浄プロトコル11(-2-)についての精製サイクル数増加時の溶出画分中の残留プロテインA(ppm)を示す。
【
図6】
図6は、洗浄プロトコル9および洗浄プロトコル11についての、サイクル171における洗浄液(洗液1、洗液2および洗液3)、溶出液、CIPおよび中和画分中の残留プロテインA(ng/mL)を示す。
【
図7】
図7は、様々な時点で適用された様々な洗浄液の微生物殺菌力を示す。
【
図8】
図8は、洗浄プロトコル12について、CIP2接触時間が20分の場合およびCIP2接触時間が45分の場合におけるプロテインAの工程収率を示す。
【
図9】
図9は、洗浄プロトコル12について、CIP2接触時間が20分の場合(左)およびCIP2接触時間が45分の場合(右)の、100サイクル全体のプロテインAのDBC曲線を示す。
【発明の詳細な説明】
【0018】
本明細書では、クロマトグラフィー樹脂を洗浄または再生するための方法を提供する。本発明の方法は、小規模および大規模(例えば、製造規模)のクロマトグラフィー樹脂の再生に使用することができる。現在、認識されているクロマトグラフィー樹脂を洗浄する工程には、リン酸を用いた酸性ストリップス工程が含まれる。本発明は、リン酸のような強い剤(harsh agent)を使用せずにクロマトグラフィー樹脂を洗浄することができるという驚くべき予想外の発見に基づいている。リン酸は、シリカ系固定相またはメタクリル系固定相の系内の付着汚れを洗浄することはできる(アガロース系固定相はできない)が、リン酸を使用すると、流路閉塞による圧力上昇を招き、収率低下に至る可能性が有る。
【0019】
(定義)
本明細書において使用される「クロマトグラフィー」とは、目的タンパク質(例えば、イムノグロブリンまたは別のFc含有タンパク質など)の標的分子を、混合物中のその他の分子から分けて、標的分子を単離することができる動的分離技術を意味する。一般的に、クロマトグラフィー法では、液体移動相が、目的とする標的分子を含む試料を移動させて、固定相(通常は固体)に通すか、または通過させる。固定相への分配係数または親和性の違いにより、選択された分子が固定相に一時的に結合する一方で、移動相は、様々な分子を異なるタイミングで移動させる。
【0020】
本明細書において使用される「アフィニティークロマトグラフィー」とは、分離したい標的分子(例えば、Fc含有タンパク質などのタンパク質分子)が、クロマトグラフィー樹脂に固定された分子(プロテインA系のリガンドなど)と、「鍵と鍵穴」作用により相互作用することにより分離されるクロマトグラフィー様式のことである。この特異的な相互作用により、目的の分子は結合し、望ましくない分子は流れ出る。その後、移動相の温度、pHまたはイオン強度を変えることで、標的分子が高純度で溶出される。本明細書に記載されている様々な実施形態において、アフィニティークロマトグラフィーは、標的分子(例えば、イムノグロブリンまたは他のFc含有タンパク質)を含む試料を、プロテインAのCドメイン(または、場合により、改変Bドメイン)を基にしたリガンドを担持する固体支持体(プロテインAアフィニティークロマトグラフィー媒体または樹脂という)に加えることを含む。アフィニティークロマトグラフィーに使用されるその他のリガンドには、イムノグロブリンのFc領域に結合するレンサ球菌属(Steptococci)由来のプロテインGがある。
【0021】
本明細書において使用される「プロテインAアフィニティークロマトグラフィー」とは、細菌である黄色ブドウ球菌(Staphylococcous aureus)の細胞壁に存在しているタンパク質であり、イムノグロブリンのFc領域に結合可能なタンパク質であるプロテインAを用いて、物質を分離または単離することをいう。プロテインAは、固体支持体に固定されており、目的のタンパク質と接触される。
【0022】
「固体支持体」という用語は、一般に、リガンドが結合しているあらゆる樹脂(多孔質または非多孔質)を指す。リガンドの固体支持体への結合は、グラフト化の場合のような共有結合(エーテル、チオエーテル、炭素-炭素結合または他の結合を介して)またはコーティング、接着、吸着および同様のメカニズムのいずれかである。本明細書に記載の方法で使用される例示的な固体支持体には、多糖類、アガロース、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドおよびポリカーボネートなどがある。
【0023】
当分野で知られているプロテインAアフィニティークロマトグラフィー樹脂の例としては、プロテインAを制御された孔のあるガラス骨格に固定化したもの、例えばPROSEPTM媒体/樹脂(EMD MILLIPORE社製);プロテインAを、ポリスチレン固体支持体に固定したもの、例えばPOROSTM MabCaptureTMA媒体/樹脂(APPLIED BIOSYSTEMS INC, POROSTM MabCaptureTM media/resin (APPLIED BIOSYSTEMS.INC.);およびアガロース固体支持体にプロテインAを固定したもの、例えばrPROTEIN A SEPHAROSE FAST FLOWTMまたはMABSELECTTM媒体または樹脂(GE HEALTHCARE)が挙げられる。
【0024】
本明細書で互換的に使用される「アフィニティー樹脂」または「アフィニティークロマトグラフィー樹脂」または「アフィニティー媒体」という用語は、例えば、本明細書に記載されているような固体支持体に結合したアフィニティークロマトグラフィーリガンド(例えば、プロテインAをベースとする)をいう(例えば、プロテインAアフィニティー樹脂またはプロテインA樹脂が得られる)。一般的に、「アフィニティー樹脂」および「アフィニティー媒体」という用語は、本明細書において互換的に使用される。アフィニティークロマトグラフィー樹脂のその他の例には、イムノグロブリンのFc領域に結合することができる連鎖球菌(Streptococci)由来のプロテインGを有する樹脂が含まれる。また、カッパ軽鎖を介してイムノグロブリンと結合するプロテインLを有するアフィニティー樹脂も含まれる。これらのタンパク質は、アフィニティークロマトグラフィーに使用することで、これらのアフィニティー樹脂に特異的に結合するイムノグロブリンまたは他のタンパク質を精製することができる。
【0025】
本明細書において使用される「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸重合体を指す。重合体は、直鎖状でも分岐していてもよく、修飾されたアミノ酸を含んでいても、アミノ酸では無いものが介在していてもよい。また、この用語には、天然に修飾されたか、または介在によって修飾されたアミノ酸の重合体も含まれる。例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または標識成分とのコンジュゲーションなどのその他の操作または修飾が挙げられる。また、この定義には、例えば、1つ以上のアミノ酸のアナログ(例えば、非天然アミノ酸)を含むポリペプチドに加えて、当技術分野においては既知の別の修飾も含まれる。本明細書で使用される「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、特に、抗体およびFcドメイン含有ポリペプチド(例えば、イムノアドヘシン類)を包含する。
【0026】
本明細書で互換的に使用される「標的タンパク質」または「目的タンパク質」という用語は、アフィニティー樹脂を使用して精製することができるあらゆるタンパク質、例えばプロテインAのFc含有分子を意味する。様々な実施形態において、標的タンパク質は、Fc含有タンパク質、例えばイムノグロブリンまたはFc融合タンパク質である。
【0027】
「イムノグロブリン」、「Ig」または「抗体」(本明細書では、互換的に使用される)とは、ジスルフィド結合で相互に連結された少なくとも2本の重鎖(H)と2本の軽鎖(L)を含んでいるタンパク質をいう。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域(本明細書ではCHと略す)を含む。特定の抗体、例えば、天然に存在するIgG抗体では、重鎖定常領域は、ヒンジと、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインから構成されている。特定の抗体、例えば、天然に存在するIgG抗体では、各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(本明細書ではCLと略す)を含んでいる。VH領域およびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域と、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存性の高い領域(FR)にさらに分けられ得る。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRを含んでおり、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的な補体系の第一成分(C1q)を含む宿主組織または因子へのイムノグロブリンの結合を媒介することができる。重鎖は、C末端のリジンを有していても、有していなくてもよい。本明細書では、別段の記載が無い限り、可変領域のアミノ酸は、Kabatの番号付けシステムを用いて番号が付けられ、定常領域のアミノ酸は、EU体系を用いて番号付けされる。「抗体」には、例えば、天然由来の抗体および非天然由来の抗体の両方、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体、ヒト抗体および非ヒト抗体ならびに全合成抗体が含まれる。
【0028】
イムノグロブリンまたは抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであってもよく、また、例えば、単量体または重合体の形態(例えば、5量体で存在するIgM抗体および/または単量体、2量体または多量体で存在するIgA抗体)で存在してもよい。本明細書では、「抗体」と組み合わせて使用される用語「フラグメント」は、無傷または完全な抗体または抗体鎖よりも少ないアミノ酸残基を含んでいる抗体または抗体鎖の一部または部分を意味する。フラグメントは、無傷または完全な抗体または抗体鎖を、化学的または酵素的に処理して得ることができる。フラグメントは、組換え手段により得ることもできる。フラグメントの例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、Fcおよび/またはFvフラグメントが挙げられる。精製される抗体またはフラグメントは、ヒト、ヒト化またはキメラであり得る。
【0029】
本明細書に記載の方法を用いて精製される標的タンパク質は、Fc領域を含んでいるため、Steptococci由来のプロテインAまたはプロテインGにより精製できることが理解される。本明細書で使用される用語「Fc領域」または「Fc」は、プロテインAと相互作用するイムノグロブリン分子のアミノ酸残基をいう。Fc領域は、抗体の結晶化可能な尾部領域であり、Fc受容体と呼ばれる細胞表面受容体と相互作用する。
【0030】
本明細書では「Fc-結合」、「Fc部分に結合する」または「Fc部分に結合すること」という用語は、抗体の定常ドメイン(Fc)に結合する本明細書に記載のアフィニティーリガンドの能力をいう。ある実施形態では、本発明のリガンドは、少なくとも10-7Mまたは少なくとも10-8Mまたは少なくとも10-9Mの親和性を有する抗体(例えば、ヒトIgG1、IgG2またはIgG4)のFc部分である。
【0031】
本明細書では「フラグメント」という用語は、例えばイムノグロブリンなどの全長のFc含有タンパク質の一部分を指すこともある。フラグメントの例としては、Fabフラグメント、一本鎖抗体分子、ダイアボディ、線形抗体および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられる。
【0032】
本明細書において値またはパラメータに「約」を引用することは、その値またはパラメータ自体に関するバリエーションを含む(および記述するものである)。また「約X」に言及する記述は、「X」の記述を含む。
【0033】
本明細書および添付の特許請求の範囲に使用されている通り、単数形の冠詞「a」、「or」および「the」は、文脈が明らかに別のものを指示しない限り、複数の関連語を含む。本明細書に記載された本発明の態様および変形には、態様および変形を「含む」、「含有する」および/または「主にから構成する」ことを含むと理解される。
【0034】
(本発明の方法)
クロマトグラフィー樹脂の洗浄
本発明は、アフィニティークロマトグラフィー樹脂を効率的に再生または洗浄する方法を提供するものである。本発明の方法を使用すると、より効率的な洗浄工程が得られ、その結果、樹脂材料のライフサイクルが延びる。本発明のより効率的な洗浄方法は、タンパク質生成物の大規模生産に使用されるアフィニティー樹脂の性能を長期化させることができる。
【0035】
本明細書では、「洗浄」という用語は、標的タンパク質(例えば、イムノグロブリンまたは他のFc含有タンパク質)の精製方法において、アフィニティークロマトグラフィー樹脂(例えば、プロテインAカラム)に残留する不純物および夾雑物を除去し、樹脂の性能を維持するための工程を意味する。洗浄することにより、樹脂から不純物が取り除かれるが、理想的には、結合容量(樹脂が、純度を保つことができる標的タンパク質の量)および分離能(樹脂が、標的タンパク質と望ましくない物質を分離する能力)を用いて測定される樹脂の完全性への影響は最小限でなければならない。多くの場合、市販のアフィニティークロマトグラフィー樹脂、例えばスタフィロコッカスプロテインAまたはその誘導体を用いた樹脂は、リン酸を含む溶液またはNaOHを用いたアルカリ溶液、例えば、MabSelect SuReTMを用いて洗浄される。プロテインAカラムは、希釈したNaOHで洗浄する。一方で、ProsepTM プロテインAカラムは、一般的にリン酸を用いて洗浄される。
【0036】
「結合容量」とは、所定の条件下において、カラムのラン中(分析処理中)に、充填した樹脂または媒体の規定容量と結合する分子の量を意味する。結合容量は、静的結合容量または動的結合容量として測定できる。静的結合容量の場合は、分子と樹脂を制限なく接触させたときに、規定された容量の樹脂に結合する分子の量を実測する。静的結合容量とは、樹脂が結合できる標的分子の最大量を実測した値である。実際には、この値は、過剰量の標的分子を樹脂と、最小の流速またはフロー無しで4時間以上接触させることにより得られることが多い。一方で、動的結合容量は、設定した流速で樹脂の体積あたりに樹脂が結合できる標的分子の量である。いかなる樹脂であっても、動的結合容量は、実施条件によって大きく変化する。一般的には、流速が低いほど動的結合容量は大きくなる。流速がゼロに近づくと、結合容量は利用可能な最大容量である静的結合容量に近似する。適切な洗浄および殺菌を行わなければ、アフィニティー樹脂の結合容量は、結合および溶出を何度も繰り返している間に、通常、初期値よりも低下する。このように結合容量が、ある一定の値を下回ると、不純物を含むフロースルー画分と共に溶出し、生成物の損失につながる可能性がある。適切な化学物質を用いて適切に洗浄を行うことで、樹脂の結合容量を長期間維持することができる。
【0037】
プロテインAアフィニティー樹脂の洗浄は、樹脂のライフサイクルを通じて安定した精製を行うために、言い換えれば樹脂の結合容量を維持するために、各サイクルの後に行われるのが一般的である。プロテインAアフィニティークロマトグラフィー樹脂の洗浄は、以下の2つ:(1)プロテインA樹脂は、イオン交換樹脂または疎水性相互作用(HIC)樹脂に比べて初期コストが高いこと;および(2)プロテインAクロマトグラフィー樹脂は、不純物を多く含む清浄化細胞培養培地に供されることが多いという理由から、特に重要である。そのため、一部の残留不純物がプロテインA樹脂に結合することにより、樹脂の再使用時に、結合容量の低下または溶出プールの不純物の増加をもたらす。これは、生産性の低下または生成物純度の低下(結合容量の低下を理由とする)につながるため、製造現場では非常に好ましくない。従って、プロテインAの結合と溶出の各サイクル後に定期的に洗浄を行うことは、樹脂の性能を一定に保つためには非常に重要であり、これにより生成物の純度および工程のスループットを一定に保つことができる。
【0038】
本明細書で使用される「サイクル」、「アフィニティーサイクル」または「プロテインAアフィニティークロマトグラフィー精製サイクル」という用語は、アフィニティー樹脂を用いたクロマトグラフィーカラムを中性緩衝液で平衡化することから始まり、その後、清澄化した細胞培養供給物(清澄化した細胞培養培地には、精製すべき標的タンパク質が含まれている)をカラムにロードすることによる多段階工程を意味する。プロテインAアフィニティー樹脂の場合、標的タンパク質は、精製すべきFc含有タンパク質(例えば、モノクローナル抗体)であって、1つ以上(多くの場合3つ)の異なる緩衝液でカラムを洗浄した後、標的タンパク質とリガンド(または、例えばFc含有タンパク質とプロテインA樹脂)との結合には干渉しない緩く結合した不純物を除去する;続いて、溶出緩衝液(例えば、pH2.5~4.5)を用いて、標的タンパク質をアフィニティー樹脂から、例えばプロテインA樹脂からFc含有タンパク質を溶出する。この平衡化、ロード、洗浄および溶出という多段階工程は、1サイクルまたは結合および溶出のサイクルを構成する。1サイクルの後には、通常、カラムにある微量レベルの不純物を除去するための洗浄工程の後に、次のサイクルに進める。
【0039】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、樹脂の洗浄は、酢酸およびベンジルアルコールを含む第1の洗浄緩衝液、ならびに水酸化ナトリウム、クエン酸ナトリウムおよびベンジルアルコールを含む第2の洗浄緩衝液を用いて行われる。本明細書で洗浄に関連して使用される「洗浄緩衝液」という用語は、標的タンパク質の溶出後に固体支持体(例えば、固定されたプロテインAを含む)を通過させる緩衝液をいう。
【0040】
いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、各サイクルの後に第1の緩衝液および第2の緩衝液の両方と接触させる。他の実施形態では、クロマトグラフィー樹脂を、1サイクル後に第1の緩衝液または第2の緩衝液のいずれかと接触させ、第1の緩衝液および第2の緩衝液は、精製処理を通じて交互に使用するようにする。いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、第2の緩衝液と接触させた後、第1の緩衝液と接触させる。
【0041】
本発明は、本発明の方法で使用するための緩衝液を提供するものである。本発明の第1の緩衝液は、リン酸を含まない。一実施形態では、第1の緩衝液は、例えば、約100~300mMの酢酸または約125~250mMの酢酸または約150~200mMの酢酸または約167mMの酢酸を含んでいてもよい。また、第1の緩衝液は、約2~4%(v/v)のベンジルアルコールまたは約2.5~3.5%(v/v)のベンジルアルコールまたは約2~3%(v/v)のベンジルアルコールまたは約1.5~2.5%(v/v)のベンジルアルコールまたは約1~2%(v/v)のベンジルアルコールまたは約2%(v/v)のベンジルアルコールを含んでいてもよい。一実施形態では、第1の緩衝液は、167mMの酢酸と約2%(v/v)のベンジルアルコールを含む。
【0042】
別の実施形態では、本発明は、微生物汚染の負担を軽減し、また適宜樹脂を保存するために使用できる第2の緩衝液を提供する。本発明の第2の緩衝液は、例えば、約50~400mMまたは約100~350mMまたは約150~300mMまたは約100~300mMまたは約200mMの水酸化ナトリウムを含んでもよい。また、第2の緩衝液は、約50~400mMまたは約100~350mMまたは約150~300mMまたは約100~300mMまたは約200mMのクエン酸ナトリウムを含んでいてもよい。また、第2の緩衝液は、約0.5~3%(v/v)または約0.5~1.5%(v/v)または約1~2%(v/v)または約1.5~2.5%(v/v)または約1%(v/v)のベンジルアルコールを含んでいてもよい。第2の緩衝剤の非限定的な例は、約200mMの水酸化ナトリウム、約200mMのクエン酸ナトリウムおよび1%(v/v)のベンジルアルコールである。
【0043】
ある実施形態では、クロマトグラフィー樹脂は、クロマトグラフィーカラム内に存在している。いくつかの実施形態では、カラムは、少なくとも2、3、4または5カラム容量にて洗浄される。いくつかの実施形態では、カラムは、不純物がカラムからさらに溶出しないか、または実質的に溶出しなくなるまで、第1の緩衝液および第2の緩衝液で洗浄される。
【0044】
本明細書に記載のいずれかの方法に関するいくつかの実施形態では、流速は、約50材料容積(material volumes)/hr、約40材料容積/hrまたは約30材料容積/hrのいずれかよりも少ない。流速は、5材料容積/時間~50材料容積/時間、10材料容積/時間~40材料容積/時間または18材料容積/時間~36材料容積/時間のいずれかであってもよい。いくつかの実施形態では、流速は、約9材料容積/時間、約18材料容積/時間、約25材料容積/時間、約30材料容積/時間、約36材料容積/時間または約40材料容積/時間のいずれかである。
【0045】
いくつかの実施形態では、流速は、約90カラム容量(CV)/時間、約80CV/時間、約70CV/時間、約60CV/時間、約50CV/時間、約40CV/時間または約30CV/時間未満のいずれかである。流速は、約5CV/hr~約50CV/hr、約10CV/hr~約40CV/hrまたは約18CV/hr~約36CV/hrのいずれかであってもよい。いくつかの実施形態では、流速は、約9CV/hr、約18CV/hr、約25CV/hr、約30CV/hr、約36CV/hrまたは約40CV/hrのいずれかである。本明細書に記載のいずれかの方法に関するいくつかの実施形態では、流速は、100cm/hr未満、75cm/hr未満または50cm/hr未満のいずれかである。流速は、約25cm/hr~約150cm/hr、約25cm/hr~約100cm/hr、約50cm/hr~約100cm/hrまたは約65cm/hr~約85cm/hrのいずれかであってもよい。
【0046】
さらに、本発明の方法では、カラムの再生に必要な時間が短縮される。いくつかの実施形態では、洗浄緩衝液との接触時間は、通常、75分~30分、さらには約9分に短縮され、短時間で同一樹脂を使用する複数の追加精製が可能となる。
【0047】
夾雑物
本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、少なくとも1つの夾雑物質とは、宿主細胞材料、溶出したプロテインA、核酸、目的のポリペプチドのバリアント、フラグメント、凝集物または誘導体、別のポリペプチド、エンドトキシン、ウイルス汚染物質、細胞培養培地成分、カルボキシペプチダーゼB、ゲンタマイシンなどのいずれか1以上のものであり得る。いくつかの例では、夾雑物質とは、例えば、大腸菌細胞などの細菌細胞、昆虫細胞、原核細胞、真核細胞、酵母細胞、哺乳類細胞、鳥類細胞、真菌細胞由来の宿主細胞タンパク質(HCP)であり得るが、これらに限定されない。
【0048】
溶出したプロテインAとは、プロテインAが結合している固相から脱離または洗浄されたものである。例えば、溶出したプロテインAは、プロテインAのクロマトグラフィー材料から溶出され得る。プロテインAの量は、例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA)を用いて測定することができる。本明細書に記載の方法のいずれかに関するいくつかの実施形態では、溶出したプロテインAの量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%または約90%のうちのいずれかの値よりも大きく減少する。溶出したプロテインAの量は、約10%~99%、約30%~95%、約30%~99%、約50%~95%、約50%~99%、約75%~99%または約85%~99%のうちのいずれかの程度減少され得る。いくつかの実施形態では、溶出したタンパク質Aの量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%のうちのいずれかにまで減少する。いくつかの実施形態では、この減少は、精製工程(複数可)から回収された組成物中の溶出したプロテインAの量を、精製工程(複数可)前の組成物中の溶出したプロテインAの量と比較することにより決定される。
【0049】
宿主細胞タンパク質(HCP)は、ポリペプチドを産生した細胞に由来するタンパク質である。HCPの量は、ELISAまたはMeso Scale Discovery(「MSO」)により測定することができる。本明細書に記載の方法いずれかのいくつかの実施形態では、溶出液中のHCPの量は、モック溶出において最小である。いくつかの実施形態では、モック溶出から得た溶出液中の宿主細胞タンパク質のレベルを、洗浄方法の有無または洗浄方法の前後で比較する。
【0050】
DNA、例えば宿主細胞DNAを測定する方法は、当業者には既知である。本明細書に記載の方法のいくつかの実施形態では、DNAの量は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%のうちのいずれかよりも大きく減少する。DNAの量は、約10%~99%、約30%~95%、約30%~99%、約50%~95%、約50%~99%、約75%~99%または約85%~99%のうちのいずれかの値まで減少され得る。DNAの量は、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%のいずれかの値まで減少され得る。いくつかの実施形態では、この減少は、精製工程(複数可)から回収された組成物中のDNAの量を、精製工程(複数可)前の組成物中のDNAの量と比較することにより決定される。
【0051】
フラグメントポリペプチドは、低分子量(LMW)タンパク質であり得る。いくつかの実施形態では、フラグメント化ポリペプチドは、目的のポリペプチドのフラグメントである。LMWタンパク質の例としては、Fab(フラグメント抗原結合)領域、Fc(フラグメント、結晶化可能)領域またはその両方の組み合わせ、または目的の抗体の任意のランダムなフラグメント化された部分が挙げられるが、これらに限定されない。フラグメント化されたタンパク質(例えば、LMWタンパク質)を測定する方法は、当技術分野では知られており、実施例の欄に記載されている。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態では、LMWタンパク質の量は、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%のうちのいずれかよりも大きく減少する。LMWタンパク質の量は、約10%~99%、約30%~95%、約30%~99%、約50%~95%、約50%~99%、約75%~99%または約85%~99%のうちのいずれかの程度減少され得る。LMWタンパク質の量は、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%のいずれかの値まで減少され得る。いくつかの実施形態では、この減少は、精製工程(複数可)から回収された組成物中のフラグメント化タンパク質(例えば、LMWタンパク質)の量を、精製工程(複数可)前の組成物中のフラグメント化タンパク質(例えば、LMWタンパク質)の量と比較することにより決定される。
【0052】
凝集ポリペプチドは、高分子量(HMW)のタンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、凝集ポリペプチドとは、目的のポリペプチドの多量体である。HMWタンパク質は、目的のポリペプチドの2量体、8倍までの単量体、またはそれ以上の単量体であってもよい。凝集タンパク質(例えば、HMWタンパク質)を測定する方法は、当技術分野で知られている。いくつかの実施形態では、モック溶出液中のHMWのレベルは最小であり、例えば、約5ppm未満、約4ppm未満、約3ppm未満、約2ppm未満または約1ppm未満である。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態では、凝集タンパク質の量は、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%のうちのいずれかの値よりも大きく減少する。凝集タンパク質の量は、約10%~99%、約30%~95%、約30%~99%、約50%~95%、約50%~99%、約75%~99%または約85%~99%のうちのいずれかの程度減少され得る。凝集タンパク質の量は、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%または約95%のうちのいずれかの値まで減少され得る。いくつかの実施形態では、この減少は、精製工程(複数可)から回収された組成物中の凝集タンパク質(例えば、HMWタンパク質)の量を、精製工程(複数可)前の組成物中の凝集タンパク質(例えば、HMWタンパク質)の量と比較することにより決定される。
【0053】
細胞培養培地成分とは、細胞培養培地中に存在する成分をいう。細胞培養培地とは、細胞を収集する際の細胞培養培地であってもよい。いくつかの実施形態では、細胞培養培地成分はゲンタマイシンである。ゲンタマイシンの量は、ELISAによって測定されてもよい。本明細書に記載の方法のいずれかのいくつかの実施形態では、細胞培養培地成分の量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%または約90%のうちのいずれかの値よりも大きく減少する。細胞培養培地成分の量は、約10%~99%、約30%~95%、約30%~99%、約50%~95%、約50%~99%、約75%~99%または約85%~99%のいずれかの程度減少され得る。いくつかの実施形態では、細胞培養培地成分の量は、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約98%のうちのいずれかの値まで減少する。いくつかの実施形態では、この減少は、精製工程(複数可)から回収された組成物中の細胞培養培地成分の量を、精製工程(複数可)前の組成物中の細胞培養培地成分の量と比較することにより決定される。
【0054】
ポリペプチド
本発明の方法は、複数のポリペプチド調製物の精製に使用されるクロマトグラフィー材料を洗浄するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー材料は、抗体またはそのフラグメントなどのポリペプチドの大規模生産;例えば、製造規模の生産に使用される。いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー材料は、第1のポリペプチド(例えば、第1の抗体)の精製に使用され、次いで、材料は、本発明の方法により洗浄され、クロマトグラフィー材料は、第2のポリペプチド(例えば、第2の抗体)の精製に使用することができる。いくつかの実施形態では、この洗浄は、第2の精製ポリペプチドを含む調製物が、第1のポリペプチドを実質的に含まないようにするために有効である。いくつかの実施形態では、第2の精製ポリペプチド(例えば、第2の抗体)を含む調製物は、1ppm未満の第1のポリペプチド(例えば、第1の抗体)を含む。いくつかの実施形態では、第2の精製ポリペプチドは、1ppm未満、2ppm未満、3ppm未満、4ppm未満、5ppm未満、10ppm未満、20ppm未満、30ppm未満、40ppm未満、50ppm未満または100ppm未満のいずれかの第1のポリペプチドを含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、治療用ポリペプチドを精製するために使用されるクロマトグラフィー材料を再利用するために使用される。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、アゴニストである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、抗体である。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、エピトープタグである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、生物学的および/または免疫学的活性を保持している。いくつかの実施形態では、ポリペプチドはアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、補体依存性の細胞毒性を開始させる。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、抗体またはイムノアドヘシンである。
【0056】
本明細書に記載の方法により洗浄された再生済クロマトグラフィー材料を用いて精製されるポリペプチドは、一般に、組換え技術を用いて製造される。組換えタンパク質を製造する方法は、例えば、米国特許第5,534,615号および第4,816,567号に記載されており、特に参照により本明細書に組み込まれる。
【0057】
ポリペプチドは、真核細胞または原核細胞において、組換え的に産生することができる。タンパク質は、遺伝子操作された植物、トランスジェニック動物から得ることができるか、または細胞培養中で増殖するように適合された産生細胞によって分泌され得る。産生細胞は、細菌(例えば、大腸菌、ストレプトミセス属およびバチルス属)、真菌(例えば、アスペルギルス属)、無脊椎動物由来のもの(例えば、昆虫)または哺乳類が可能である。当技術分野において一般的に使用されている哺乳類細胞の例としては、CHO、VERO、BHK、HeLa、CV1(Cosを含む)、MDCK、293、3T3、骨髄腫細胞株(特に、マウス)、PC12およびW138細胞が挙げられる。特に好ましい宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であり、これは、いくつかの複雑な組換えタンパク質(例えば、サイトカイン類、凝固因子および抗体)を産生するために広く使用されている(Brasel et al, 1996, Blood 88:2004-2012; Kaufman et al., 1988, J. Biol Chem 263: 6352-6362; McKinnon et al., 1991, J Mol Endocrinol 6: 231-239; Wood et al., 1990, J. Immunol 145: 3011-3016)。ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)欠損変異細胞株(Urlaub et al., 1980, Proc Natl Acad Sci USA 77:4216-4220)であるDXB11およびDG-44は、好まれるCHO宿主細胞株である。これは、効率的なDHFR選択可能な遺伝子発現系および増幅可能な遺伝子発現系により、この細胞において組換えタンパク質が高レベルで発現され得るためである(Kaufman R. J., 1990, Meth Enzymol 185:527-566)。さらに、これらの細胞は、接着培養または懸濁培養として操作することが容易であり、比較的良好な遺伝的安定性を示す。CHO細胞およびCHO細胞で発現させた組換えタンパク質は、広範な特性が明らかにされており、規制当局により臨床的製造に使用することが承認されている。
【0058】
本明細書に記載の方法で洗浄した再生済クロマトグラフィー材料を用いて精製されるポリペプチドは、培養液または宿主細胞溶解物から回収することができる。ポリペプチドの発現に用いた細胞は、凍結融解サイクル、超音波処理、機械的破壊または細胞溶解剤などの様々な物理的または化学的手段により破砕することができる。ポリペプチドが細胞内で産生される場合、最初の工程として、宿主細胞または溶解したフラグメントのいずれかである粒子状の破砕物が、例えば、遠心分離または限外濾過によって除去される。Carter et. al., Bio/Technology 10: 163-167 (1992)には、大腸菌のペリプラスム空間に分泌されるポリペプチドを単離する方法が記載されている。要するに、細胞ペーストを、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTAおよびフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)の存在下で、約30分かけて解凍する。細胞破砕物は、遠心分離により除去することができる。ポリペプチドが培地中に分泌される場合、そのような発現系から得た上清は、一般的に、市販のポリペプチド濃縮フィルター(例えば、Amicon またはMillipore Pelliconの限外濾過装置)を用いて先ずは濃縮される。前記のいずれかの工程に、PMSFなどのプロテアーゼ阻害剤を含めて、タンパク質分解を阻害してもよく、また抗生物質を含めて、外来の夾雑物質の増殖を防止してもよい。
【0059】
本明細書に記載の方法で洗浄した再利用可能なクロマトグラフィー材料を用いて精製することができるポリペプチドの例としては、免疫グロブリン、イムノアドヘシン、抗体、融合タンパク質、Fe含有タンパク質および免疫コンジュゲートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
その後、得られた発現ポリペプチドは、本発明の方法と公知の方法を組み合わせて用いて、そのような培養物または成分(例えば、培養培地または細胞抽出物または体液)から精製するか、または部分精製することができる。「部分精製された」とは、何らかの分画方法または手順を実施したが、目的のタンパク質よりも多くのポリペプチド種(少なくとも10%)が存在することを意味する。「精製された」とは、タンパク質が実質的に均質であること、すなわち、夾雑タンパク質の存在が1%未満であることを意味する。分画方法には、ろ過、遠心分離、沈殿、相分離、アフィニティー精製、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC:フェニルエーテル、ブチルエーテル、プロピルエーテルなどの樹脂を使用する)またはHPLCの1以上の工程、あるいはこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。上記のクロマトグラフィー樹脂のいずれも、本発明の方法を用いて洗浄および再生することができる。
【0061】
最終的にどの程度の純度を目的とするかは、ポリペプチドの使用目的により異なる。例えば、ポリペプチドをインビボで投与する場合には、比較的高い純度が望まれる。このような場合、ポリペプチドは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)による分析時に、別のポリペプチドに対応するポリペプチドバンドが検出されないように精製される。関連分野の当業者であれば、そのポリペプチドに対応する複数のバンドが、SDS-PAGEによって認められ得る場合、これらは、異なるグリコシル化、異なる翻訳後プロセスなどに起因することが理解されるであろう。最も好ましくは、本発明のポリペプチドは、SDS-PAGEによる分析時に、単一のポリペプチドバンドにより示されるように、実質的に均質物にまで精製される。このポリペプチドバンドは、銀染色、クーマシーブルー染色または(ポリペプチドが放射性標識されている場合は)オートラジオグラフィーによって可視化することができる。
【0062】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、限定的に解釈されるべきではない。本出願中に引用された全ての文献の内容は、参照により本明細書に出典明示により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0063】
mAb精製用のプロテインAカラムのライフサイクルを適切に長く保持するためには、樹脂洗浄が重要な要素である。またプロテインA樹脂は、下流工程で使用される最も高価な消耗品の一つであるため、効率的な樹脂洗浄は、持続可能な材料コストを維持するためにも重要である。
【0064】
ファウリングの影響は、空間的な制限により結合容量が低下すること、および全体的な粒子間空隙率が低下することにより、カラムのライフサイクルに影響を与え、ファウリングの濃度増加に伴い、mAbが更に吸着しにくくなる。水酸化ナトリウム溶液の濃度を高くすると、付着堆積したファウリング物質が除去されることは判ったが、リガンドの加水分解が増加するために容量が損なわれる。水酸化ナトリウム溶液中の添加物質は、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、硫酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどは、リガンドの加水分解速度を低下させるのに僅かながら効果があることが判った。
【0065】
次世代型水酸化ナトリウム安定性プロテインA樹脂を用いて、全体的な生産性と有効性を向上させるような洗浄液の新規処方が求められている。
【0066】
【0067】
樹脂およびロード材料
実験に使用したプロテインAカラムは、内径0.8cm×ベッド高5.0cmで、MiniChromハードウェア(Repligen, Waltham, MA)にMabselect SuRe LX樹脂(GE Healthcare, Uppsala, Sweden)を充填したものである。洗浄試験の実験は、ロード物質として4.1~4.6g/L力価の清澄化した細胞培養物の収集物を用いて、AEKTA Avant 150 System(GE Healthcare)で行った。別の実験は、同じ樹脂を、内径1cm×ベッド高10cmのOmnifitガラスカラム(Kinesis社)に充填して行い、ロード物質として4.1~4.6g/L力価の清澄化した細胞培養物を用いて、同じくAEKTA Avant 150 System(GE Healthcare社)で行った。
【0068】
分析
捕捉ランのための生成物の濃度は、DropSense96 UV-Vis Spectrophotometer(Trinean, Gentbrugge, Belgium)を用いて280nmのUV吸光度で決定した。残留CHO-HCPおよびrProAを定量化するためにELISAを、Tecan Liquid Handling System(Morrisville, NC)を用いてハイスループットで行った。製造者のプロトコルに従って、HCPレベルは、CHO HCP 3rd Generation Kit(Cygnus Technologies, Southport, NC)を用いて定量化し、rProAは、Repligen Protein-A ELISA kit(Repligen Corporation, Waltham, MA)を用いて定量化した。サンプル中の残留CHO DNA(rDNA)は、リアルタイム定量PCR(RT-qPCR)を用いて測定した。Waters社のAcquity H-Class Bio UPLCを用いてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行い、生成物プール中のモノマーおよび凝集体の含有量を測定した。モノマー、低分子種および高分子種の定量化は、Empower Software(Waters Corp.)を用いて行った。
【0069】
クロマトグラフィー法
MabSelect SuRe LX プロテインAカラムは、結合-溶出モード(bind-and-elute mode)を選択した。各洗浄プロトコルにおいて、終了の基準を満たすまでプロテインAのサイクルを複数回実施した。終了の基準とは、収率(80%未満)およびデルタカラム圧力(3.00MPa以上)である。MabSelect SuRe LXのプロテインA のクロマトグラフィー操作に必要な工程、滞留時間、緩衝液のカラム容量(CV)の概要を表2に示す。
【表2】
【0070】
プロテインAカラムを、3CVの20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウムの緩衝液(pH7.2)で平衡化した。その後、1M塩化ナトリウムをカラムに入れて、20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウムの緩衝液(pH7.2)を用いて平衡化を2CVにて続けた。平衡化後、清澄化したバルクを、45g/L樹脂のローディングターゲットを用いて2℃~8℃でカラムにロードした。その後、カラムを、2CVの20mMリン酸ナトリウムおよび150mM塩化ナトリウムの緩衝液(pH7.2)で洗浄し、その後5CVの50mM炭酸塩、100mM塩化ナトリウムおよび0.5%ポリソルベート-80の緩衝液(pH10.0)を用いて洗浄し、次いで5CVの20mMクエン酸リン酸緩衝液(pH5.1)を用いて洗浄した。このカラムを、20mMクエン酸リン酸緩衝液(pH3.4)で溶出した。5CV全ての溶出液を回収し、各サイクルの溶出液を、別々の容器に回収した。溶出後に、プロテインAカラムを3CVのCIP1緩衝液を用いてその場で洗浄し、2CVの20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.2)で中和した後、3CVのCIP2緩衝液で殺菌(sanitize)した。所定の洗浄プロトコルにCIP1が無い場合、そのクロマトグラフィー法ではCIP1と中和1を行なわなかった。同様に、所定の洗浄プロトコルにCIP2がない場合、そのクロマトグラフィー法ではCIP2および中和2の両方を省いている。プロテインAカラムを、再度サイクルに供するため、3CVの20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウムの緩衝液(pH7.2)を使用して2回目の再平衡化を行った後に、ローディング、溶出までに至るその後の工程、定置洗浄および殺菌を行った。最終サイクルのCIP工程の後、3CVの20mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウムの緩衝液(pH7.2)を用いて平衡化工程を行い、その後3CVの2%(v/v)ベンジルアルコールを用いてカラムを保存した。
【0071】
プロテインAの工程の収量を計算するための式:
【数1】
【0072】
デルタカラム圧または示差カラム圧とは、カラムの充填層を通過する圧力損失のことで、即ちカラム入口の圧力[MPa]-カラム出口の圧力[MPa]のことである。
【0073】
【表3】
内径1cm×ベッド高10cmのMabSelect SuRe LXカラムを用いて、表3の洗浄プロトコル12を用いる追加の反復試験を行った。この洗浄方法では、各CIP工程(CIP1およびCIP2)の滞留時間を、3分ではなく5分として、動的なフロー条件下で、各CIP溶液の接触時間を15分とした。CIP2工程の後に5分または30分の静止時間を設け、CIP2溶液の累積接触時間を各々20分および45分とし、2つの反復試験を並行して行った。
【0074】
結果および考察
本試験の結果、ファウリング物質の除去が不十分であることに加え、リン酸などの不適切な溶液成分が、収量およびデルタカラム圧に影響を与えて、ファウリングの程度を悪化させ、デルタカラム圧に影響を与えることが判明した。この相互作用のメカニズムは完全には解明されていない。
図1は、洗浄プロトコル1、2、3および6について、表示された精製サイクル中の工程収率を示している。コントロールケースを示す洗浄プロトコル1では、緩やかな収率低下を示しながら、サイクル65付近で急激に収率が低下している。このケースでは、CIP1工程でリン酸を使用し、CIP2工程では低濃度の水酸化ナトリウムを使用しているため、ファウリング物質の除去が不十分であり、カラムの劣化に至ることが推察される。このケースは、カラムの過加圧のために終了したが、これはおそらくCIP1条件において与えられた低いpH環境が理由であろう。CIP2工程を省略した場合(洗浄プロトコル2)は、CIP2洗浄が完全に省かれて、またCIP1のリン酸/酢酸の条件以外にカラム洗浄が行われないため、処理性能が悪化し、同様にサイクル60付近で収率の急激な低下が見られる。洗浄プロトコル3では、洗浄プロトコル1で使用したCIP溶液にはベンジルアルコールが除かれているため、サイクル120付近で収率が大幅に低下するまでは、より持続的な処理性能を示している。このことから、ベンジルアルコールもまた、カラムの洗浄効率および全体的な収率に悪影響を及ぼす可能性があると考えられる。有機溶液は、ペプチド、タンパク質および核酸などを沈殿させる作用があることが知られており、除去が不十分なためにタンパク質を含むファウリング物質が残留しているカラムには、この作用が影響していると考えられる。洗浄プロトコル6では、収率が徐々に低下しているが、170サイクルを実施しても急激な低下は見られない。ここで使用したCIP溶液にはベンジルアルコールが残っていたが、リン酸を除去し、水酸化ナトリウムの含有量を20mMから200mMに増加させたことで、工程収率により大きな効果があることが判った。高濃度の水酸化物によるファウリング物質の洗浄は、処理性能を維持する上で重要である。
【0075】
CIP1工程として、167mMの酢酸、2%(v/v)のベンジルアルコール、CIP2工程として100mMの水酸化ナトリウム、200mMのクエン酸ナトリウム、1%(v/v)のベンジルアルコールを用いる別の洗浄プロトコル(表3の洗浄プロトコル12)も、内径1cm×ベッド高10cmのMabSelect SuRe LXカラムを用いて評価した。この処方では、リガンド分解の影響を抑えつつ、固定相の十分な洗浄を行うために、中濃度の水酸化ナトリウム(100mM)を使用した。この洗浄手法による樹脂洗浄とリガンド分解の程度を評価するために、CIP2溶液の累積接触時間を20分と45分に設定したサイクル試験を実施した。
【0076】
図8は、プロテインAの91サイクルで実施したクリーニングプロトコル12の収率の傾向を示している。全体的な傾向としては、接触時間が20分の場合と45分の場合の両方で、ほぼ直線的に減少している。これらのケースは、CIP2溶液と全体的な接触時間が、各CIP溶液との全体的な接触時間が9分しかないクリーニングプロトコル1~11(すなわち、3つのカラム容量に対して3分の滞留時間=9分)よりも、長いことに留意すべきである。この直線的な減少は、過酷な洗浄液への曝露による固定相上のリガンドの分解に関連があると考えられる。しかし、100mMの水酸化ナトリウムを使用することで、十分な洗浄が可能となり、タンパク質を含むファウリング物質を除去することができる。
【0077】
図9は、洗浄プロトコル12の試験に使用したカラムで別途実施した動的結合容量(DBC)曲線を示す。これらの曲線は、処理工程の中間体から事前に精製したmAbを使用し、カラムへの重層が100g/L樹脂を超えるようにロードした。これら通過液の曲線の一般的な左へのシフトは、結合容量の減少を示しており、これはリガンドの分解と関連している可能性があり、そのためmAb生成物への親和性が低下していることを示している。接触時間20分の場合の曲線の特徴的な形態は、このカラムでより多くのファウリングが発生していることを示すが、観察された収率への影響は、接触時間が20分と45分両方の場合について、全体の工程収率と比較すると無視できる程度である。
【0078】
洗浄プロトコル6では、9分間の接触時間で十分処理されるという事実を示したが、製造現場では、洗浄試薬の殺菌および防カビ効果を十分に発揮させるために、より長時間の接触時間を必要とするのが一般的である。洗浄プロトコル12のケースで検討された長い接触時間は、この点でより現実的であり、プロテインAのリガンドを分解する水酸化ナトリウム溶液の影響を軽減するために、中間値として100mM水酸化ナトリウムが選択された理由である。
【0079】
様々な時間(接触時間)で適用した異なる溶液の微生物殺菌力(LRV)を、実測した(
図7)。167mM酢酸、2%(v/v)ベンジルアルコール(CIP1緩衝液)および200mM水酸化ナトリウム、200mMクエン酸ナトリウム、1%(v/v)ベンジルアルコール(CIP2緩衝液)が、好ましい接触時間である15分で試験した溶液の中で最も有効であることが判った。
【0080】
(結論)
評価した全ての洗浄プロトコルの中で、洗浄プロトコル6の条件が、最も良好であると判断された。洗浄プロトコル6では、170サイクルに達しながらも、高い収率(92.9%)を維持することができた(
図1)。これは、大きな圧力上昇がなく、有意なファウリングやプロテインAの溶出がなく、十分な洗浄が行われたことを示している。一方、洗浄プロトコル1では、重大な問題が発生する前に69サイクルしか達成できなかった。69サイクルの時点で、収率は84.1%に低下し(
図1)、デルタカラム圧は、0.3MPaに上昇し、洗浄が不十分であることが示された(
図4)。洗浄条件の一つとしてリン酸を用いたその他の洗浄プロトコルでは、CIP2に高濃度の水酸化ナトリウムが存在する場合(洗浄プロトコル8;
図4)を除いて、いずれも収率の大幅な低下またはデルタカラム圧の大幅な上昇が見られた(
図1および4)。また、CIP2(水酸化ナトリウム溶液)条件を設定しなかったランは、CIP2条件を設定したランよりも早くファウリングする傾向が見られた(
図3)。これらのランは、いずれも100サイクルに達しなかったのに対し、CIP2条件を用いた7つのランの内の6つは100サイクルに達することができた(
図1、2、4)。洗浄プロトコル10および11は、溶出プールについて10サイクルごとにリガンドの加水分解を試験した(
図5)。洗浄プロトコル9および11の最終サイクルでは、回収および再生工程の全てについて、リガンドの加水分解の試験を行った(
図6)。溶出プール中の残留プロテインAレベルは、両方のランにおいて通常の範囲内であった(
図5)。しかし、両方のランの最終サイクルのCIPおよび中和工程では、残留プロテインAのレベルが明らかに高かった(
図6)。残留プロテインAのレベルが高く、収量が大幅に低下したことから、リガンドの加水分解はCIP2条件における高い水酸化ナトリウム濃度が原因であることが判った。