(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】シナリオ生成装置およびシナリオ生成方法
(51)【国際特許分類】
B60W 40/02 20060101AFI20250909BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20250909BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20250909BHJP
【FI】
B60W40/02
G08G1/16 A
B60W60/00
(21)【出願番号】P 2021160455
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2024-08-06
(73)【特許権者】
【識別番号】519373914
【氏名又は名称】株式会社J-QuAD DYNAMICS
(73)【特許権者】
【識別番号】598088871
【氏名又は名称】株式会社NTTデータオートモビリジェンス研究所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】石川 裕司
(72)【発明者】
【氏名】田村 政和
【審査官】横山 幸弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/130718(WO,A1)
【文献】特表2022-505759(JP,A)
【文献】特開2020-123351(JP,A)
【文献】特表2024-504812(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00- 1/16
G01M 17/00-17/10
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実車両の走行データを記憶した走行データベースから、実環境において生じるシーンである実環境シーンを取得する実環境シーン取得部(22)と、
前記実環境シーンを示す走行データを含んでいる分析対象データの頻度分析結果をもとに、候補シナリオをフィルタリングするフィルタを生成するフィルタ生成部(23、223)と、
前記フィルタ生成部が生成したフィルタを用い、数理モデルに基づき網羅的に生成された前記候補シナリオをフィルタリングして評価シナリオを決定する評価シナリオ決定部(24)とを備える、シナリオ生成装置。
【請求項2】
前記候補シナリオは、数理モデルにより表現された認識性能、交通外乱および車両運動性能に基づいて決定されたシナリオである、請求項1に記載のシナリオ生成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシナリオ生成装置であって、
前記実環境シーン取得部は、車両制御機能別に定められた抽出ロジックを用いて、前記走行データベースから前記実環境シーンを抽出する、シナリオ生成装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のシナリオ生成装置であって、
前記走行データベースに記憶されている前記走行データを入力として、前記実環境シーン取得部が取得した前記実環境シーンにより学習されている生成器により、走行シーンを示す走行データを生成するシーン生成部(226)を備え、
前記フィルタ生成部(223)は、前記実環境シーンを示す走行データに加え、前記シーン生成部が生成した前記走行データも前記分析対象データとする、シナリオ生成装置。
【請求項5】
少なくとも1つのプロセッサまたは回路が、
実車両の走行データを記憶した走行データベースから、実環境において生じるシーンである実環境シーンを取得し、
前記実環境シーンを示す走行データを含んでいる分析対象データの頻度分析結果をもとに、候補シナリオをフィルタリングするフィルタを生成し、
前記フィルタを用い、数理モデルに基づき網羅的に生成された前記候補シナリオをフィルタリングして評価シナリオを決定する、シナリオ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両制御機能を評価するシナリオを生成するシナリオ生成装置およびシナリオ生成方法に関し、特にシナリオの数を効果的に少なくする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両制御機能を評価するシナリオを生成する装置および方法が知られている。特許文献1では、実環境で起きたクリティカルイベントを条件として利用して、実環境で得た交通ログを、クリティカルイベントのイベント走行環境に対応するようにすることで、交通シナリオを増強させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術によりシナリオ数を増強させることはできる。しかし、実環境で得た交通ログを、クリティカルイベントを条件として増強させる手法では、シナリオに偏りが生じる恐れがある。よって、特許文献1に開示された手法では、評価すべきシナリオを網羅できるとは限らない。実環境からシナリオを得るのではなく、数理モデルに基づいてシナリオを生成すれば網羅性は向上する。しかし、シナリオ数が膨大になる恐れがある。
【0005】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、シナリオ数を抑制しつつ、実環境で生じるシナリオの網羅性を高くできるシナリオ生成装置およびシナリオ生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的態様との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するためのシナリオ生成装置に係る1つの開示は、
実車両の走行データを記憶した走行データベースから、実環境において生じるシーンである実環境シーンを取得する実環境シーン取得部(22)と、
実環境シーンを示す走行データを含んでいる分析対象データの頻度分析結果をもとに、候補シナリオをフィルタリングするフィルタを生成するフィルタ生成部(23、223)と、
フィルタ生成部が生成したフィルタを用い、数理モデルに基づき網羅的に生成された候補シナリオをフィルタリングして評価シナリオを決定する評価シナリオ決定部(24)とを備える、シナリオ生成装置である。
【0008】
候補シナリオは数理モデルに基づいて生成されているので、網羅的なシナリオとすることができる。ただし、数理モデルに基づいて網羅的にシナリオを作成するので、候補シナリオの数は膨大になる。そこで、シナリオ生成装置は、候補シナリオをフィルタリングすることで評価シナリオを決定する。これにより、シナリオ数を抑制できる。
【0009】
フィルタ生成部は、フィルタリングに使うフィルタを、実環境シーンを示す走行データを含む分析対象データの頻度分析結果をもとに生成している。このフィルタを用いてフィルタリングすることで、候補シナリオから、実環境では生じない、あるいは、実環境では生じにくいシーンに関連するシナリオを除外することができる。よって、シナリオ数を抑制しつつ、実環境で生じるシナリオの網羅性を高くできる。
【0010】
上記目的を達成するためのシナリオ生成方法に係る1つの開示は、
少なくとも1つのプロセッサまたは回路が、
実車両の走行データを記憶した走行データベースから、実環境において生じるシーンである実環境シーンを取得し、
実環境シーンを示す走行データを含んでいる分析対象データの頻度分析結果をもとに、候補シナリオをフィルタリングするフィルタを生成し、
フィルタを用い、数理モデルに基づき網羅的に生成された候補シナリオをフィルタリングして評価シナリオを決定する、シナリオ生成方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態のシナリオ生成装置10の構成を示す図。
【
図2】交通外乱を定義する数理モデルのパラメータを示す図。
【
図4】他車両の減速を示す数理モデルを導出するまでの式を示す図。
【
図5】実環境シーンを示す走行データから抽出した自車両の速度の頻度分布を示す図。
【
図6】実環境シーンを示す走行データから抽出した他車両の速度の頻度分布を示す図。
【
図7】評価シナリオ決定部24が実行するフィルタリングを説明する図。
【
図8】第2実施形態のシナリオ生成装置200の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、第1実施形態のシナリオ生成装置10の構成を示す図である。シナリオ生成装置10は、車両の走行を制御する車両制御機能の性能を評価するための評価シナリオを生成する装置である。以下、車両制御機能を評価する車両を自車両とする。
【0013】
車両制御機能は、自車両を自動走行させる機能に限らず、ドライバの運転を支援するために自車両の走行を制御する機能も含まれる。シナリオは、自車両の一連の挙動の最初から最後までを意味する。一連の挙動の開始と終了は任意に設定できる。たとえば、シナリオを、自車両の前方に他車両がカットインするシナリオとする。この場合のシナリオの開始は他車両が横移動を開始した時点とし、シナリオの終了は、他車両の横移動が終了した時点とすることができる。評価シナリオは、上記一連の挙動を表現する具体的な数値が規定されたものである。評価シナリオは、具体的な数値が規定されているので、仮想環境評価装置50あるいは現実世界の車両において評価できる。
【0014】
シナリオ生成装置10は、制御部20と、評価シナリオ記憶部30とを備えた構成である。制御部20は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。たとえば、制御部20は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータを制御部20として作動させるためのシナリオ生成プログラムが格納されている。プロセッサが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを実行することで、制御部20は、候補シナリオ生成部21、実環境シーン取得部22、フィルタ生成部23、評価シナリオ決定部24として作動する。これらの作動が実行されることは、シナリオ生成プログラムに対応するシナリオ生成方法が実行されることを意味する。
【0015】
候補シナリオ生成部21は、評価シナリオの候補となる候補シナリオを生成する。候補シナリオは、理論的にあり得るシナリオを、できるだけ網羅するように生成する。網羅性を高めるためには、基本となる車両動作に対する交通外乱シナリオに対して、認識性能と車両運動性能の一方または両方を考慮した候補シナリオを生成する。
【0016】
基本となる車両動作は、車線維持、車線変更などである。評価シナリオは、基本となる車両動作に対して交通外乱が生じたときの安全性を評価するシナリオである。交通外乱は、道路構造、自車両の挙動、周辺車両の位置と動きの組み合わせとして生じる危険性がある交通状況を意味する。
【0017】
認識性能は、車両制御を3つの要素、認知、判断、操作に分けたときの認知に関する性能である。認識性能は、自車両に搭載された認識に関するセンサシステムの性能である。センサシステムは、カメラ、ミリ波レーダ、Lidarなどのセンサを1つ以上備える。認識性能を具体的に説明する。たとえば、ミリ波レーダであれば、最大検知距離、検知範囲、分解能などである。最大検知距離、検知範囲、分解能などは、基本性能あるいは静的性能である。認識性能は、認識外乱により動的に変化する。
【0018】
認識外乱は、認知プロセスにおける外乱を意味する。認識外乱は、上記センサシステムが、認識すべき情報を認識できない状態を意味する。認識外乱の一例は、カメラ、ミリ波、Lidarなどにおいて、周辺車両により遮蔽されて、その周辺車両よりも遠方が認識できない状態である。センサの汚れなどによる認識低下も認識外乱の一例である。認識外乱には、センサの死角、通信外乱も含まれる。
【0019】
車両運動性能は、車両制御を3つの要素、認知、判断、操作に分けたときの操作に関する性能である。車両運動性能は、減速性能、加速性能、操舵性能を含む。車両運動性能は、車両運動外乱により動的に変化する。
【0020】
車両運動外乱は、車両を、制御すべき状態に制御できない可能性がある状況を意味する。車両運動外乱には、車両内部の要因と車両外部の要因がある。車両内部の要因は、たとえば、車両総重量、重量バランスによるものがある。車両外部の要因は、路面の不規則性、路面の傾斜、風などがある。
【0021】
評価シナリオは、車両が、周辺の交通参加者あるいは構造物と衝突するしてしまうかどうかを評価するためシナリオである。これを評価するために、まず、交通外乱シナリオを考える。評価シナリオは、交通外乱シナリオをベースとして、認識外乱と車両外乱が加わっても、衝突が生じないかを評価するシナリオである。
【0022】
そこで、交通外乱シナリオを説明する。自車両に対する他車両の交通外乱シナリオは、「道路形状」、「自車両動作」および「他車両動作」の3つの要素の組み合わせで定義できる。自車両動作については、「車線維持」と「車線変更」に分けることができる。他車両動作は、「減速」と「カットイン」と「カットアウト」に分けることができる。自車両と他車両の要素を組み合わせると、3×2=6通りのシナリオが得られる。
【0023】
「減速」は、自車両と同一車線にいる前方他車両が近づく動きをすることである。「カットイン」は、自車両と別車線にいる他車両が、自車両と同一車線に移動する動きである。「カットアウト」は、自車両と同一車線を走行する前方他車両が、別車線に移動する動きである。
【0024】
自車両と他車両の動作は、数理モデルにより表すことができる。つまり、交通外乱は数理モデルにより表すことができる。数理モデルは、式を用いた表現を意味する。一例として、他車両の「減速」を表す数理モデルを説明する。
【0025】
他車両の「減速」は、たとえば、
図2に示すパラメータにより表現できる。
図2に示すパラメータの座標系を
図3に示す。
図2に示すパラメータを用いると、他車両動作の「減速」は
図4に示す式1と式2をもとにして表すことができる。
【0026】
他車両が減速している状態では、以下の2つの条件を満たしていると考えることができる。条件1は、他車両と自車両前後方向に接近していることである。条件2は、他車両と自車両が同一車線上を走行していることである。条件1を満たす場合、ta≦t≦tbで、相対速度(Vrx=Vox-Vex)が負の値で続いていることになる。そのため、f(Vrx(i)、0)の平均値は1になる。このことから、式3、式4が得られる。
【0027】
条件2を満たす場合、他車両から見た左レーンマーカまでの距離は負の値、右レーンマーカまでの距離は正の値となる。よって、Dy(i)-Dll(i)<0とDy(i)-Dlr(i)>0が継続する。この2つの積を求める関数cpを定義する。関数cpを式5に示す。
【0028】
関数cpが1の場合、自車両と他車両が同一車線を走行している。関数cpが0の場合、自車両と他車両は別車線を走行している。ta≦t≦tbで関数cpの平均が1であれば、条件2を満たす。このことを示す式が式6、式7である。式4と式7のANDをとった結果が1になると、すなわち、式8を満たすと、他車両は減速行動をしていることになる。
【0029】
他車両の減速以外の自車両の動作と他車両の動作については、数理モデルの説明は省略するが、他車両の減速以外の自車両の動作と他車両の動作も、数理モデルで表現できる。したがって、交通外乱は数理モデルにより表現できる。
【0030】
次に、認識性能の数理モデルを具体的に説明する。前述したように、認識性能は、最大検知距離などによりパラメータとして表現できる。認識性能は、認識外乱を考慮したモデルとすることが好ましい。認識外乱として、ミリ波レーダにおいて受信感度低下を例示できる。受信感度低下により、最大検知距離が低下する。よって、受信感度低下と最大検知距離との関係は数理モデルにより表現できる。
【0031】
次に、車両運動性能の数理モデルについて説明する。車両運動性能は、減速性能、加速性能、操舵性能などであるため、モデル化できる。たとえば、減速性能は、減速開始速度、車両重量、ブレーキ油圧などをパラメータとしてモデル化できる。車両運動性能も、車両運動外乱を考慮したモデルとすることが好ましい。車両運動外乱として、路面摩擦抵抗を例示できる。路面摩擦抵抗が小さいほど最短停止距離は長くなる。よって、最短停止距離は、路面摩擦抵抗を含むモデルにより表現できる。
【0032】
候補シナリオ生成部21は、交通外乱シナリオをベースとして、認識性能、車両運動性能を考慮して、網羅的に候補シナリオを生成する。数理モデルで表現したシナリオにおいてパラメータに入れる具体的な値を種々変化させることで、そのシナリオにおいてパラメータ変化範囲を網羅した具体的な候補シナリオを生成できる。パラメータに入れる具体的な値をどの程度のピッチで変化させるかは、必要となる評価精度に基づき、適宜、決定できる。
【0033】
多数の数理モデルそれぞれについて、パラメータに入れる具体的な値を種々変化させることで候補シナリオを生成するので、網羅性は確保できる。しかし、候補シナリオの数は膨大になる。そこで、このシナリオ生成装置10は、実環境シーンを統計処理して生成したフィルタ25により候補シナリオを絞り込み、評価シナリオを決定する。
【0034】
実環境シーン取得部22は、統計処理する実環境シーンを走行データ記憶部40から抽出する。シーンは、シナリオに類似する概念であり、シナリオと同様、自車両およびその周辺の交通参加者の一連の挙動を意味する。シナリオは想定される挙動であるのに対して、実環境で観測される挙動には、主としてシーンを使うという区別をすることもできる。ただし、シーンを、シナリオの一部分という意味で使うこともできる。そこで、実環境であることを明確にする場合は実環境シーンとする。なお、シーンはシナリオの全部でもよい。
【0035】
走行データ記憶部40には、実車両である計測車により計測された走行データが蓄積された走行データベースが記憶されている。計測車により計測された走行データには、計測車の車速、加速度、位置など、計測車の外部に現れるデータに加えて、アクセル開度、ブレーキ油圧、操舵角など、車両内のアクチュエータの制御量を示すデータを含ませることができる。また、走行データベースに、計測車により計測された走行データに加えて、観測点で観測された走行データが含まれていてもよい。
【0036】
走行データ記憶部40は、シナリオ生成装置10が備えている必要はない。シナリオ生成装置10は、走行データ記憶部40から走行データを読み出し可能になっていればよい。走行データ記憶部40は、シナリオ生成装置10と有線あるいは無線ネットワークによりつながっていればよい。
【0037】
実環境シーン取得部22は、事前に設定されている抽出ロジックに基づいて、走行データ記憶部40から、実環境シーンを示す走行データを取得する。実環境シーンは、実環境において生じている走行シーンを意味する。抽出ロジックは、車両制御機能別に決定することができる。車両制御機能としては、アダプティブクルーズコントロール、衝突被害軽減ブレーキシステムを例示できる。ただし、車両制御機能にはこれらに限られない。車両制御機能別に抽出ロジックを決定する理由は、車両制御機能によって、評価する必要があるシーンが異なるからである。
【0038】
たとえば、衝突被害軽減ブレーキシステムであれば、他車両がカットインするシーン、他車両が減速するシーンは抽出する必要があるが、他車両がカットアウトするシーン、他車両が加速するシーンは不要である。一方、アダプティブクルーズコントロールでは、他車両が加速するシーンも抽出する必要がある。
【0039】
抽出ロジックは、車両制御機能別に定まる必要なシーンを抽出できるロジックであればよい。抽出されるシーンには、車両制御機能により安全に走行できているシーン、換言すれば、標準的なシーンと、危険なシーンとが含まれることが好ましい。
【0040】
これらのシーンが抽出できればよいので、実環境シーン取得部22は、手作業によりシーンを取得してもよい。また、ユーザの手作業により取得するシーンをもとに機械学習により抽出ロジックを生成してもよい。また、抽出するロジックとして、車両制御機能の評価に必要な交通外乱シナリオを用いてもよい。
【0041】
フィルタ生成部23は、実環境シーン取得部22が取得した実環境シーンを示す走行データを分析対象データとして頻度分析をする。
図5、
図6に頻度分析結果を例示する。
図5は、実環境シーン取得部22が抽出した実環境シーンを示す走行データから自車両その速度を抽出し、その頻度分布を示した図である。
図6は、
図5と同じ走行データから、他車両の速度を抽出し、その頻度分布を示した図である。
図5,
図6の横軸は速度(km/h)、縦軸は度数である。
【0042】
図5、
図6において、破線は、事前に設定した抽出閾値である。抽出閾値は、現実世界で生じ得るシーンの抽出漏れがないように小さな値に設定されることが好ましい。なお、抽出閾値は、パラメータによらず同じでもよいし、パラメータ別に異なっていてもよい。
図5では、40km/hから60km/hまでの範囲で、度数が連続して抽出閾値を超えている。
図6でも、40km/hから60km/hまでの範囲で、度数が連続して抽出閾値を超えている。この
図5、
図6に示す頻度分析結果に基づいて生成されるフィルタ25の一例は、自車両の速度と他車両の速度ともに、40km/hから60km/hまでの範囲を抽出するというフィルタ25である。
【0043】
なお、フィルタ生成部23が生成するフィルタ25は、3種類以上のパラメータについて抽出範囲を定めるものでもよい。また、1種類のパラメータのみについて抽出範囲を定めるものでもよい。
【0044】
評価シナリオ決定部24は、フィルタ生成部23が生成したフィルタ25により、候補シナリオ生成部21が生成した網羅的な候補シナリオをフィルタリングする。評価シナリオ決定部24は、フィルタリングした後のシナリオを評価シナリオとして評価シナリオ記憶部30に記憶する。
【0045】
図7を用いて、評価シナリオ決定部24が実行するフィルタリングを具体的に説明する。なお、
図7は、フィルタリングの概念的に説明する図であり、パラメータにはわかりやすい数値を用いている。
図7において、領域R1は、候補シナリオが存在する領域である。境界線L1およびL2は、候補シナリオを生成する際に用いた数理モデルにより定まる線である。領域R1は、境界線L1、L2と、他車両の速度が0km/hであることを示す線と、自車両の速度が100km/hであることを示す線により囲まれる領域である。候補シナリオは、領域R1にムラなく存在する。なお、特許文献1のように、実環境で得たシナリオでは、領域R1において、シナリオが多い部分とシナリオが少ない部分が存在する。領域R2は、フィルタ25により抽出される領域である。
【0046】
評価シナリオ決定部24は、候補シナリオ生成部21が生成した候補シナリオ、すなわち、領域R1にある候補シナリオから、フィルタ25により、領域R2にある候補シナリオを抽出する。
【0047】
なお、
図7の例では、領域R2は、完全に領域R1に含まれる領域であった。しかし、実環境シーン取得部22が実環境シーンを抽出する際に使う抽出ロジックは、種々のロジックが可能である。具体的な抽出ロジックによっては、領域R2の一部が領域R1の外にあることもある。
【0048】
評価シナリオ記憶部30は、書き込み可能な記憶部である。評価シナリオ記憶部30には、評価シナリオ決定部24により決定された評価シナリオが記憶される。
【0049】
仮想環境評価装置50は、評価シナリオ記憶部30に記憶されている評価シナリオを仮想環境にて評価する装置である。仮想環境評価装置50は、仮想車両を、仮想環境にて走行させるシミュレーション装置であり、コンピュータがシミュレーションプログラムを動作させることで実現する。仮想車両は、センサ、車両を制御するアクチュエータ、車両制御アプリケーションなどを仮想的に備える。仮想環境には、天候、昼夜、交通参加者などを仮想的に設定できる。仮想環境評価装置50により、個々の評価シナリオを評価する。
【0050】
仮想環境評価装置50で評価シナリオを評価すると、その評価シナリオでは事故が生じたなどのシミュレーション結果が得られることがある。評価結果は、車両制御アプリケーションのアルゴリズムおよびパラメータの一方または両方の修正などにフィードバックできる。
【0051】
〔第1実施形態のまとめ〕
以上、説明した第1実施形態のシナリオ生成装置10では、候補シナリオ生成部21が候補シナリオを数理モデルに基づいて生成する。よって、網羅的に候補シナリオを生成できる。また、評価シナリオ決定部24は、候補シナリオをフィルタリングすることで評価シナリオを決定する。これにより、評価シナリオの数を抑制できる。
【0052】
フィルタ生成部23は、フィルタリングに使うフィルタ25を、実環境シーンの頻度分析結果をもとに生成している。このフィルタ25を用いてフィルタリングすることで、候補シナリオから、実環境では生じない、あるいは、実環境では生じにくいシーンに関連するシナリオを除外することができる。よって、シナリオ数を抑制しつつ、実環境で生じ得るシナリオの網羅性を高くできる。
【0053】
候補シナリオは、数理モデルにより表現された認識性能と交通外乱と車両運動性能とに基づいて決定されている。このようにすることで、候補シナリオの網羅性を高くすることができる。
【0054】
実環境シーン取得部22は、実環境シーンを、車両制御機能別に定まる抽出ロジックにより抽出する。これにより、フィルタ生成部23が生成するフィルタ25を、具体的な車両制御に適したものにすることができ、その結果、フィルタ25により抽出する評価シナリオの妥当性を高くすることができる。
【0055】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態を説明する。この第2実施形態以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0056】
図8に、第2実施形態のシナリオ生成装置200を示す。シナリオ生成装置200は、制御部220が実行する処理が、第1実施形態の制御部20と相違する。制御部220は、フィルタ生成部223の処理がフィルタ生成部23の処理と一部相違し、かつ、シーン生成部226を備えている点で、第1実施形態の制御部20と相違する。
【0057】
シーン生成部226は、走行データ記憶部40に記憶されている走行データを入力として、走行シーンを生成する。シーン生成部226は、機械学習により学習された生成器を備えており、この生成器に走行データ記憶部40に記憶されている少なくとも1つの走行シーンを示す走行データを入力する。
【0058】
生成器は、実環境シーン取得部22が抽出する実環境シーンの一部または全部を使って学習される。実環境シーンの一部は、たとえば、車両制御機能別に事前に設定されている危険シーンである。
【0059】
走行シーンを学習することで、学習した走行シーンよりも短い走行データから、走行シーン全体を予測する技術が知られている。この技術は、危険予測などに使われる。本実施形態では、上記のようにして学習した生成器を用い、学習に使用しなかった走行データを入力として、走行シーンを生成する。このようにして生成した走行シーンは、生成器の学習に用いた実環境シーンに類似した走行シーンを示す。
【0060】
シーン生成部226は、好ましくは、学習に用いた走行データに含まれる1つ以上のパラメータを選択し、選択したパラメータについて、学習に用いた走行データを頻度分析する。この頻度分析結果をもとに、入力する走行データとして、学習に用いた走行データに近い走行データを選択する。たとえば、頻度分析の結果、パラメータαが、α1~α2(α1<α2)であったとする。この場合、入力する走行データとして、パラメータαが、α1-Δβ~α1、または、α2+Δβの範囲にある走行データを選択する。このようにすることで、生成する走行シーンが、学習に用いた実環境シーンと大きく異なってしまうことを抑制できる。
【0061】
フィルタ生成部223は、頻度分析対象データに、実環境シーン取得部22が取得した実環境シーンを示す走行データだけでなく、シーン生成部226が生成した走行データも加える。この点以外は、フィルタ生成部223が実行する処理はフィルタ生成部23と同じである。
【0062】
〔第2実施形態のまとめ〕
この第2実施形態のシナリオ生成装置200は、シーン生成部226を備える。シーン生成部226は、実環境シーン取得部22が抽出する実環境シーンの一部または全部を使って学習される生成器を備えている。このシーン生成部226により、実環境シーン取得部22が抽出しなかった走行データから、実環境シーン取得部22が抽出する実環境シーンに類似する走行シーンを示す走行データを生成できる。
【0063】
そして、フィルタ生成部223は、実環境シーンを示す走行データだけでなく、シーン生成部226が生成した走行データも加えて統計処理する。このようにすることで、走行データ記憶部40に記憶されている走行データが少なくても、フィルタ生成部223が頻度分析する走行シーンを増やすことができる。その結果、走行データ記憶部40に記憶されている走行データが少なくても、頻度分析結果に基づいて生成するフィルタ25の品質を向上させることができる。
【0064】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。
【0065】
<変形例1>
実施形態のシナリオ生成装置10は、候補シナリオを生成する候補シナリオ生成部21を備えていた。しかし、候補シナリオは実環境とは無関係に作成できるシナリオである。したがって、候補シナリオは一度作成してしまえばよく、都度、作成する必要はない。したがって、シナリオ生成装置10は、候補シナリオを外部から取得する、あるいは、事前に記憶しておけば、候補シナリオ生成部21を備える必要はない。
【0066】
<変形例2>
シーン生成部226は、学習に用いた走行シーンに含まれる走行データを入力データとして走行シーンを生成してもよい。学習に用いた走行シーンに含まれる走行データを入力データとしても、学習に用いた走行シーンに一致する走行シーンが生成されるとは限らない。よって、このようにしても、走行シーンを増やすことができる。
【0067】
また、シーン生成部226が生成した複数の走行シーンを、実環境シーン取得部22が走行データ記憶部40から走行データを抽出する条件と同じ条件で絞り込んで、分析対象データとしてもよい。
【0068】
<変形例3>
実施形態では、評価シナリオを仮想環境評価装置50で評価していた。しかし、評価シナリオは、実車両で評価してもよい。また、評価シナリオは、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた評価装置であるHILS(Hardware In the Loop Simulator/Hardware In the Loop System)により評価してもよい。
【0069】
<変形例4>
本開示に記載の制御部20、220およびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部20、220およびその手法は、専用ハードウエア論理回路により、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部20、220およびその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。ハードウエア論理回路は、たとえば、ASIC、FPGAである。
【0070】
また、コンピュータプログラムを記憶する記憶媒体はROMに限られず、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていればよい。たとえば、フラッシュメモリに上記プログラムが記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10:シナリオ生成装置 20:制御部 21:候補シナリオ生成部 22:実環境シーン取得部 23:フィルタ生成部 24:評価シナリオ決定部 25:フィルタ 30:評価シナリオ記憶部 40:走行データ記憶部 50:仮想環境評価装置 200:シナリオ生成装置 220:制御部 223:フィルタ生成部 226:シーン生成部