(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 23/02 20060101AFI20250909BHJP
F02B 39/16 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
F02D23/02 L
F02B39/16 B
(21)【出願番号】P 2023002515
(22)【出願日】2023-01-11
【審査請求日】2024-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】波多野 高斗
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151254(JP,A)
【文献】特開2006-299827(JP,A)
【文献】特開2017-110550(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080600(WO,A1)
【文献】特開2020-002898(JP,A)
【文献】特開2011-247181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 23/02
F02B 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気路に配置されるタービンと、前記内燃機関の吸気路に配置され、前記タービンにより駆動されるコンプレッサとを備えた過給機の制御装置において、
前記吸気路内の前記過給機の過給圧が許容値以下になるように前記タービンを制御する制御部と、
前記コンプレッサのコンプレッサ効率の低下量を算出する第1算出部と、
前記吸気路の吸気量が一定値である場合、前記コンプレッサ効率の低下に伴って前記許容値が低下する相関関係に基づき、前記低下量
だけ低下した前記コンプレッサ効率における、前
記吸気量
に応じた前記許容値を算出する第2算出部とを有する、
制御装置。
【請求項2】
前記第1算出部は、時間間隔をおいて前記コンプレッサ効率を算出し、前記コンプレッサ効率の時間変化から前記低下量を算出する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1算出部は、前記吸気路内の前記コンプレッサの上流側及び下流側のそれぞれの圧力及び温度から前記低下量を算出する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1算出部は、前記タービンの制御量の変化から前記低下量を算出する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第2算出部は、
前記相関関係を示すデータに基づき、前記低下量
だけ低下した前記コンプレッサ効率における、前記吸気量
に応じた前記許容値を算出する、
請求項1または2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、エンジンの吸気路及び排気路にそれぞれ配置されるコンプレッサ及びタービンを備えた過給機に対し、タービンの回転数が過剰に大きいことによる破損を抑制するため、吸気路内の過給圧が、タービンの許容上限回転数に応じた許容過給圧以下になるようにアクチュエータを制御する点が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、例えばエンジンの排気系からオイルミストが吸気に混入してコンプレッサハウジングに付着しデポジットになると、コンプレッサの動作特性が経年変化し、許容過給圧が低下するため、過給圧が許容過給圧を超えるおそれがある。
【0005】
そこで本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、過給機の破損を抑制することができる制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の制御装置は、内燃機関の排気路に配置されるタービンと、前記内燃機関の吸気路に配置され、前記タービンにより駆動されるコンプレッサとを備えた過給機の制御装置において、前記吸気路内の前記過給機の過給圧が許容値以下になるように前記タービンを制御する制御部と、前記コンプレッサのコンプレッサ効率の低下量を算出する第1算出部と、前記吸気路の吸気量が一定値である場合、前記コンプレッサ効率の低下に伴って前記許容値が低下する相関関係に基づき、前記低下量だけ低下した前記コンプレッサ効率における、前記吸気量に応じた前記許容値を算出する第2算出部とを有する。
【0007】
上記の制御装置において、前記第1算出部は、時間間隔をおいて前記コンプレッサ効率を算出し、前記コンプレッサ効率の時間変化から前記低下量を算出してもよい。
【0008】
上記の制御装置において、前記第1算出部は、前記吸気路内の前記コンプレッサの上流側及び下流側のそれぞれの圧力及び温度から前記低下量を算出してもよい。
【0009】
上記の制御装置において、前記第1算出部は、前記タービンの制御量の変化から前記低下量を算出してもよい。
【0010】
上記の制御装置において、前記第2算出部は、前記相関関係を示すデータに基づき、前記低下量だけ低下した前記コンプレッサ効率における、前記吸気量に応じた前記許容値を算出してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、過給機の破損を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、車両のシステムの一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は、ECU(Electronic Control Unit)の一例を示す構成図である。
【
図3】
図3は、過給機の動作特性の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、タービンの制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、コンプレッサ効率の低下判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(車両システムの構成)
図1は、車両9のシステムの一例を示す構成図である。車両9は、一例としてガソリン車であるが、これに限定されず、ディーゼル車、ハイブリッド車、及び電気自動車などであってもよい。
【0014】
車両9は、ECU(Electronic Control Unit)1、エンジン2、過給機3、エアクリーナ60、インタークーラ61、スロットルバルブ62、触媒コンバータ63、吸気路20、排気路21、バイパス路22、EGR(Exhaust Gas Recirculation)流路23、ウェイストゲートバルブ(WGバルブ)50、及びアクチュエータ51を有する。なお、
図1において、破線の矢印は、ECU1の制御信号またはセンサ類の検知信号を示す。
【0015】
エンジン2は内燃機関の一例である。エンジン2は吸気路20からエアを吸気してガソリンと混合する。エンジン2は混合気を燃焼させて排気路21から排出する。EGR流路23は、吸気路20と排気路21との間を結び、排気の一部を吸気路20に還流させる。なお、エンジン2はガソリンエンジンであるが、ディーゼルエンジンであってもよい。
【0016】
吸気路20には、上流側から順にエアクリーナ60、インタークーラ61、及びスロットルバルブ62が設けられている。また、排気路21には触媒コンバータ63が設けられている。
【0017】
過給機3は、例えばターボチャージャーであり、タービンシャフト32を介して互いに接続されたコンプレッサ30及びタービン31を備える。コンプレッサ30は、吸気路20のエアクリーナ60の下流側、かつインタークーラ61の上流側に配置されている。タービン31は、触媒コンバータ63の上流側に配置される。
【0018】
タービン31は、排気路21を流れる排気により回転する。コンプレッサ30はタービン31の回転により駆動される。これにより、コンプレッサ30はエアを圧縮する。
【0019】
排気路21には、タービン31を迂回するバイパス路22が接続されている。バイパス路22には、エンジン2からバイパス路22に流れ込む排気の流量を調整するWGバルブ50が設けられている。アクチュエータ51はWGバルブ50の開度を調整する。WGバルブ50の開度に応じてバイパス路22に流れる排気の流量は変化するため、これに伴いタービン31に流れる排気も変化する。これによりタービン31の回転数が制御される。
【0020】
また、車両9には、入口圧力センサ40、入口温度センサ41、エアフロメータ42、出口圧力センサ43、出口温度センサ44、吸気圧センサ45、大気圧センサ46、アクセル開度センサ47、及びクランクポジションセンサ48を有する。ECU1は、入口圧力センサ40、入口温度センサ41、エアフロメータ42、出口圧力センサ43、出口温度センサ44、吸気圧センサ45、大気圧センサ46、アクセル開度センサ47、及びクランクポジションセンサ48の各検出値を例えば一定期間ごとに収集する。
【0021】
入口圧力センサ40、入口温度センサ41、及びエアフロメータ42は、コンプレッサ30の上流側の吸気路20に設けられている。入口圧力センサ40はコンプレッサ30の入口側のエアの圧力を検出し、入口温度センサ41はコンプレッサ30の入口側のエアの温度を検出する。エアフロメータ42は、コンプレッサ30の上流側の吸気路20を流れるエアの単位時間当たりの流量を検出する。
【0022】
出口圧力センサ43及び出口温度センサ44は、コンプレッサ30の下流側の吸気路20に設けられている。出口圧力センサ43はコンプレッサ30の出口側のエアの圧力を検出し、出口温度センサ44はコンプレッサ30の出口側のエアの温度を検出する。
【0023】
吸気圧センサ45は、スロットルバルブ62の下流側の吸気路20に設けられている。吸気圧センサ45は、エンジン2に吸気されるエアの過給圧を検出する。
【0024】
大気圧センサ46は車両9の周囲の大気圧を検出する。アクセル開度センサ47は、不図示のアクセルペダルの開度を検出する。クランクポジションセンサ48は、エンジン2のクランクシャフト(不図示)の回転角を検出する。
【0025】
また、ECU1は制御装置の一例である。ECU1は、例えばマイクロコントローラなどのコンピュータである。ECU1は、アクセル開度センサ47などに応じてエンジン2の目標トルクを決定し、目標トルクに基づいて、エンジン2の点火タイミング及び燃料噴射量やスロットルバルブ62の開度などを制御する。
【0026】
また、ECU1は、過給機3の過給圧が許容値以下になるようにタービン31を制御する。このため、タービン31の回転数が過剰に大きくなり過給機3が破損することが抑制される。
【0027】
(ECUの構成)
図2は、ECU1の一例を示す構成図である。ECU1は、CPU(Central Processing Unit)10、ROM(Read Only Memory)11、RAM(Random Access Memory)12、ストレージメモリ13、及び入出力ポート14を有する。CPU10は、互いに信号の入出力ができるように、ROM11、RAM12、ストレージメモリ13、及び入出力ポート14と、バス19を介して電気的に接続されている。
【0028】
ROM11は、CPU10を駆動するプログラムを格納している。RAM12は、CPU10のワーキングメモリとして機能する。入出力ポート14は、CPU10と、アクチュエータ51、入口圧力センサ40、入口温度センサ41、エアフロメータ42、出口圧力センサ43、出口温度センサ44、吸気圧センサ45、大気圧センサ46、アクセル開度センサ47、及びクランクポジションセンサ48などとの間の信号の入出力を処理する。
【0029】
CPU10は、ROM11からプログラムを読み込むと、機能として、動作制御部100、タービン制御部101、コンプレッサ効率算出部102、及び許容過給圧算出部103を形成する。動作制御部100は、所定のシーケンスに従ってタービン制御部101、コンプレッサ効率算出部102、及び許容過給圧算出部103に動作を指示する。また、ストレージメモリ13には、許容過給圧マップデータ130が保持されている。
【0030】
タービン制御部101は制御部の一例である。タービン制御部101は、過給機3の過給圧が許容値以下になるようにタービン31を制御する。具体的にはタービン制御部101は、例えばアクセル開度センサ47及びクランクポジションセンサ48の各検出値などに応じ、エンジン2の駆動状態に応じた要求過給圧を算出する。タービン制御部101は、要求過給圧と、タービン31の許容上限回転数に応じた許容過給圧とを比較し、その比較結果に応じて、制御目標とする目標過給圧を決定する。要求過給圧>許容過給圧の場合、目標過給圧は許容過給圧であり、要求過給圧≦許容過給圧の場合、目標過給圧は要求過給圧である。タービン制御部101は、目標過給圧と、吸気圧センサの検出値との差分に応じてアクチュエータ51を制御する。
【0031】
このように、タービン制御部101は、過給機3の過給圧に基づきアクチュエータ51の制御量を決定することによりタービン31を制御する。このため、タービン31の回転数を検出する回転数センサが不要となる。
【0032】
コンプレッサ効率算出部102は第1算出部の一例である。コンプレッサ効率算出部102はコンプレッサ30のコンプレッサ効率の低下量を算出する。例えばエンジン2の排気に含まれるオイルミストが吸気に混入してコンプレッサ30に付着しデポジットになると、コンプレッサ効率は低下する。なお、コンプレッサ効率の低下量の算出手段については後述する。
【0033】
また、許容過給圧算出部103は第2算出部の一例である。許容過給圧算出部103はコンプレッサ効率の低下量に応じて、吸気路20の修正吸気量から許容過給圧を算出する。なお、許容過給圧は、タービン31の回転数の上限値に応じた過給圧の許容値の一例である。
【0034】
例えば、許容過給圧算出部103は許容過給圧マップデータ130に基づき許容過給圧を算出する。許容過給圧マップデータ130は、一例としてコンプレッサ効率ごとに修正空気流量(kg/s)と許容過給圧(Pa)の相関関係を示す。許容過給圧算出部103が、修正空気流量に応じた許容過給圧を算出する。ここで、修正空気流量は、エアフロメータ42が検出したエアの流量を、入口温度センサ41が検出したエアの温度、及び大気圧センサ46が検出した大気圧により補正した値である。
【0035】
一例として、符号Gaは、コンプレッサ効率が大きい場合(「大」)の許容過給圧の変化特性を示し、符号Gbは、コンプレッサ効率が中程度である場合(「中」)の許容過給圧の変化特性を示し、符号Gcは、コンプレッサ効率が小さい場合(「小」)の許容過給圧の変化特性を示す。点線の矢印で示されるように、許容過給圧は、修正空気流量が一定値である場合、コンプレッサ効率が小さいほど、低下する。
【0036】
このため、仮に許容過給圧算出部103が、例えば、コンプレッサ効率「大」に対応する相関関係だけに基づき、修正空気流量に応じた許容過給圧を算出する場合、コンプレッサ効率が「中」または「小」まで低下すると、適切な値を上回る不適切な許容過給圧を算出する。このため、タービン制御部101は、過給圧が不適切な許容過給圧以下となるようにタービン31を制御するため、過給圧が許容過給圧を上回って過給機3が破損するおそれがある。
【0037】
そこで、許容過給圧算出部103は、コンプレッサ効率算出部102が算出したコンプレッサ効率の低下量に応じて、低下後のコンプレッサ効率に応じた相関関係に基づき適切な許容過給圧を算出する。例えば、コンプレッサ効率が「大」から「中」まで低下した場合、許容過給圧算出部103は、符号Gbの相関関係に基づき修正空気流量から許容過給圧を算出する。このため、ECU1は、適切な許容過給圧により過給機3の破損を抑制することができる。なお、修正吸気量は吸気路20の吸気量の一例である。
【0038】
また、許容過給圧算出部103は、コンプレッサ効率と許容過給圧の相関関係を示す許容過給圧マップデータ130に基づき、コンプレッサ効率の低下量に応じて許容過給圧を算出する。このため、例えば、コンプレッサ効率の低下量から所定の算出式により許容過給圧を算出する場合より許容過給圧の算出処理の負荷を低減することができる。
【0039】
(コンプレッサ効率の低下量の算出)
コンプレッサ効率算出部102は、時間間隔をおいてコンプレッサ効率を算出し、コンプレッサ効率の時間変化からその低下量を算出する。このため、コンプレッサ効率算出部102は、例えばマップデータを用いてコンプレッサ効率を算出する場合より、高精度にコンプレッサ効率の低下量を算出することができる。
【0040】
ηc=ψ/λ ・・・(1)
λ=Cp(Tout-Tin)/U2 ・・・(2)
ψ=Cp{(Pout/Pin)(κ―1)/κ-1}/U2 ・・・(3)
U=Ncrr・D・π/60 ・・・(4)
ηc=Tin{(Pout/Pin)(κ―1)/κ-1}/(Tout-Tin) ・・・(5)
【0041】
コンプレッサ効率ηc(%)は、例えばコンプレッサ30の仕事係数λ及び圧力係数ψから上記の式(1)により算出される。仕事係数λは、例えば定圧比熱Cp(J/Kg・K)と、吸気路20内の出口温度Tout(K)及び入口温度Tin(K)と、コンプレッサ30のインペラの周速U(m/s)とから上記の式(2)により算出される。出口温度Tout及び入口温度Tinは出口温度センサ44及び入口温度センサ41の各検出値からそれぞれ取得される。定圧比熱Cpは定数である。なお、出口温度Toutはコンプレッサ30の下流側の温度であり、入口温度Tinはコンプレッサ30の上流側の温度である。
【0042】
また、圧力係数ψは、例えば定圧比熱Cpと、吸気路20内の出口圧力Pout(Pa)及び入口圧力Pin(Pa)と、比熱比κと、コンプレッサ30のインペラの周速Uとから上記の式(3)により算出される。出口圧力Pout及び入口圧力Pinは出口圧力センサ43及び入口圧力センサ40の各検出値からそれぞれ取得される。比熱比κは定数である。なお、出口圧力Poutはコンプレッサ30の下流側の圧力であり、入口圧力Pinはコンプレッサ30の上流側の圧力である。
【0043】
周速Uは、例えばコンプレッサ30の修正回転数Ncrr(rpm)と、コンプレッサ30のインペラの直径D(m)と、円周率πとから上記の式(4)により算出される。修正回転数Ncrrは、例えばコンプレッサ30の回転数Nを基準温度Tref及び入口温度Tinにより補正した値(N×(Tref/Tin)1/2)により算出される。なお、基準温度Trefは設計に応じた定数である。
【0044】
コンプレッサ30の回転数Nは、例えば過給機3にターボスピードセンサが設けられている場合、ターボスピードセンサの検出値から取得される。この場合、コンプレッサ効率算出部102は、式(1)~(4)よりコンプレッサ効率ηcを算出することができる。
【0045】
しかし、過給機3にターボスピードセンサが設けられていない場合、コンプレッサ効率算出部102は、コンプレッサ30の回転数Nを取得することができない。このため、コンプレッサ効率算出部102は、吸気路20内の出口温度Tout、入口温度Tin、出口圧力Pout、及び入口圧力Pinと、比熱比κとから上記の式(5)によりコンプレッサ効率ηcを算出する。ここで式(5)は式(1)~(3)から得られる。
【0046】
コンプレッサ効率算出部102は、過給機3を動作させる動作点が同一であるときのコンプレッサ効率ηcの変化からその低下量を算出する。
【0047】
図3は、過給機3の動作特性の一例を示す図である。横軸は修正空気流量(kg/s)を示し、縦軸は圧力比を示す。修正空気流量は、エアフロメータ42が検出したエアの流量Mを入口温度Tin、入口圧力Pin、基準温度Tref、及び基準圧力Prefにより補正した値(M×(Pref/Pin)×(Tin/Tref)
1/2)である。なお、基準温度Tref及び基準圧力Prefは設計に応じた定数である。また、圧力比は、入口圧力Pinに対する出口圧力Poutの比(Pout/Pin)である。
【0048】
動作特性は、コンプレッサ30の修正回転数Ncrrごとに決まる。一例として、修正回転数NcrrがN1~N6である場合の動作特性を示す。ここで、N1~N6のうち、N1が最大であり、N6が最小である。修正回転数Ncrrが大きいほど、修正空気流量及び圧力比は高い特性を示す。
【0049】
また、実線はコンプレッサ効率の低下前の動作特性を示し、一点鎖線はコンプレッサ効率の低下後の動作特性を示す。コンプレッサ効率が低下すると、修正空気流量を維持した場合でも圧力比が低下する。例えば過給機3が、修正回転数Ncrr=N2に対応する動作点P1で動作していたとき、コンプレッサ効率ηcが低下すると、動作点P1より圧力比の低い動作点P2で動作する。このため、タービン制御部101は、コンプレッサ効率ηcの低下を補うようにアクチュエータ51を制御して、コンプレッサ30の回転数を増加させる。
【0050】
コンプレッサ効率算出部102は、吸気路20内の出口温度Tout、入口温度Tin、出口圧力Pout、及び入口圧力Pinからコンプレッサ効率ηcの低下量を算出する。具体的には、コンプレッサ効率算出部102は、ある動作点で算出したコンプレッサ効率ηcの時間変化を低下量として算出する。これにより、コンプレッサ効率算出部102は、吸気路20の状態に応じて高精度にコンプレッサ効率ηcの低下量を算出することができる。
【0051】
Lc=Cp×M×Tin×{(Pout/Pin)(κ―1)/κ-1}/ηc ・・・(6)
【0052】
ある動作点でコンプレッサ30を動作させるために必要なエネルギーLcは、例えば定圧比熱Cpと、上記の修正空気流量Mと、吸気路20内の入口温度Tinと、吸気路20内の出口圧力Pout及び入口圧力Pinと、コンプレッサ効率ηcと、比熱比κとから上記の式(6)で表される。したがって、コンプレッサ効率ηcが大きいほど、エネルギーLcは減少し、コンプレッサ効率ηcが小さいほど、エネルギーLcは増加する。
【0053】
このエネルギーLcは、タービン31を回転させる排気から回収される。このため、コンプレッサ効率ηcが低下した場合、ECU1は、タービン31に流れる排気量が増加するようにWGバルブ50の開度を減少させる。このため、コンプレッサ30をある動作点で動作させるときのアクチュエータ51の制御量はコンプレッサ効率ηcに応じて変化する。つまり、コンプレッサ効率ηcが低下するほど、大きなエネルギーLcが必要となるため、WGバルブ50の開度を小さくするようにアクチュエータ51の制御量は変化する。
【0054】
コンプレッサ効率算出部102は、上記を利用してアクチュエータ51の制御量からコンプレッサ効率ηcの低下量を算出してもよい。この場合、コンプレッサ効率算出部102は、例えば動作点ごとのアクチュエータ51の制御量(タービン31の制御量)とコンプレッサ効率ηcとの対応関係(マップデータや算出式)からコンプレッサ効率ηcの低下量を算出することができる。このように、コンプレッサ効率算出部102は、タービン31の制御量の変化からコンプレッサ効率ηcの低下量を算出する場合、入口圧力Pin及び出口圧力Poutと、入口温度Tin及び出口温度Toutとから算出する場合より算出処理の負荷を低減することができる。なお、コンプレッサ効率ηcの算出手段は、上記に限定されず、車両9のシステムに応じて様々な手法を用いることが可能である。
【0055】
(ECUの動作)
図4は、タービン31の制御処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、例えば一定の周期で実行される。まず、タービン制御部101は、アクセル開度センサ47及びクランクポジションセンサ48の各検出値を収集する(ステップSt1)。
【0056】
タービン制御部101は、各検出値などに応じ、エンジン2の駆動状態に応じた要求過給圧Prを算出する(ステップSt2)。次にコンプレッサ効率算出部102はコンプレッサ効率ηcが低下したか否かを判定する(ステップSt3)。なお、コンプレッサ効率ηcの低下判定処理は後述する。
【0057】
コンプレッサ効率ηcが低下している場合(ステップSt3のYes)、許容過給圧算出部103は、コンプレッサ効率算出部102が算出したコンプレッサ効率ηcが低下量に応じて、許容過給圧マップデータ130を変更する(ステップSt4)。具体的には、許容過給圧算出部103は、
図2を参照して述べたしたように、例えば符号Ga~Gcの許容過給圧の変化特性のうち、コンプレッサ効率ηcが低下量に応じた変化特性を選択する。次に許容過給圧算出部103は、修正空気流量を算出し、許容過給圧マップデータ130から修正空気流量に応じた許容過給圧Puを算出する(ステップSt5)。また、コンプレッサ効率ηcが低下していない場合(ステップSt3のNo)、許容過給圧マップデータ130は変更されず、ステップSt5の処理が実行される。
【0058】
次にタービン制御部101は許容過給圧Puを要求過給圧Prと比較する(ステップSt6)。Pr>Puが成立する場合(ステップSt6のYes)、タービン制御部101は許容過給圧Puを目標過給圧に設定する(ステップSt7)。また、Pr≦Puが成立する場合(ステップSt6のNo)、タービン制御部101は要求過給圧Prを目標過給圧に設定する(ステップSt8)。このため、目標過給圧が許容過給圧Pu以下に抑制される。
【0059】
次にタービン制御部101は吸気圧センサ45により過給圧を検出する(ステップSt9)。次にタービン制御部101は、検出した過給圧と目標過給圧との差分に応じてアクチュエータ51を制御することによりWGバルブ50の開度を調整する(ステップSt10)。これにより目標過給圧に応じた排気がタービン31を流れる。このようにしてタービン31の制御処理は実行される。
【0060】
図5は、コンプレッサ効率の低下判定処理の一例を示すフローチャートである。本処理は、例えば一定周期ごとに実行される。
【0061】
まず、コンプレッサ効率算出部102は、入口圧力センサ40、入口温度センサ41、出口圧力センサ43、及び出口温度センサ44から検出値を収集する(ステップSt21)。次にコンプレッサ効率算出部102は、上述した修正空気流量、圧力比、及び修正回転数のうち、2つのパラメータを算出することにより、上記のコンプレッサ30の動作特性における動作点を特定し、本処理を前回実行したときから動作点が変化しているか否かを判定する(ステップSt22)。動作点が変化している場合(ステップSt22のNo)、再びステップSt21の処理を実行する。
【0062】
また、動作点が変化していない場合(ステップSt22のYes)、コンプレッサ効率算出部102は、各検出値から上記の式(5)に従ってコンプレッサ効率ηcを算出する(ステップSt23)。なお、コンプレッサ効率算出部102は、過給機3にターボスピードセンサが設けられている場合、各検出値から上記の式(1)~(4)によりコンプレッサ効率ηcを算出してもよい。また、コンプレッサ効率算出部102は、上述したようにアクチュエータ51の制御量からコンプレッサ効率ηcを算出してもよい。次にコンプレッサ効率算出部102は、本処理を前回実行したときの算出値からのコンプレッサ効率ηcの変化量を算出する(ステップSt24)。つまり、コンプレッサ効率ηcの時間変化量が算出される。
【0063】
次にコンプレッサ効率算出部102は、コンプレッサ効率ηcの時間変化量と閾値THを比較する(ステップSt25)。時間変化量≦THが成立する場合(ステップSt25のNo)、コンプレッサ効率算出部102は、コンプレッサ効率ηcが低下していないと判定する(ステップSt27)。また、時間変化量>THが成立する場合(ステップSt25のYes)、コンプレッサ効率算出部102は、コンプレッサ効率ηcが低下していると判定する(ステップSt26)。この場合、コンプレッサ効率算出部102は、コンプレッサ効率ηcの時間変化量を低下量として許容過給圧算出部103に出力する。このようにしてコンプレッサ効率の低下判定処理は実行される。
【0064】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 ECU(制御装置)、2 エンジン(内燃機関)、3 過給機、20 吸気路、21 排気路、30 コンプレッサ、31 タービン、50 ウェイストゲートバルブ、51 アクチュエータ、101 タービン制御部(制御部)、102 コンプレッサ効率算出部(第1算出部)、103 許容過給圧算出部(第2算出部)、130 許容過給圧マップデータ(データ)