(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20250909BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20250909BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
H01M8/0228
C23C14/14 D
C23C14/06 F
(21)【出願番号】P 2023003650
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2024-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷野 仁
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-129141(JP,A)
【文献】特開2012-224878(JP,A)
【文献】特開2011-52266(JP,A)
【文献】特開2017-21907(JP,A)
【文献】特開2016-8307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00
C23C 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置内に配置した複数のセパレータ基材の両面に、物理気相成長法により導電膜が成膜された燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記セパレータの製造方法は、
前記複数のセパレータ基材のうち、複数の第1セパレータ基材を、第1仮想平面上に一定の間隔を空けて、前記成膜装置内に配置し、
前記複数のセパレータ基材のうち、複数の第2セパレータ基材を、前記第1仮想平面に対して一定の距離で離間した第2仮想平面上に、一定の間隔を空けて、前記成膜装置内に、配置する配置工程を含み、
前記配置工程において、前記第1仮想平面に対して直交方向の一方側から視て、前記第1セパレータ基材同士の間に、前記第2セパレータ基材の表面の一部が露出し、前記直交方向の他方側から視て、前記第2セパレータ基材同士の間に、前記第1セパレータ基材の表面の一部が露出するように、前記第1セパレータ基材と前記第2セパレータ基材を配置し、
前記第1仮想平面および前記第2仮想平面を挟むように、前記成膜装置内に配置された一対の蒸着源により、前記第1セパレータ基材と前記第2セパレータ基材の両面に、前記導電膜を成膜することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1には、燃料電池用セパレータを製造する方法が提案されている。この方法では、物理気相成長法により、セパレータ基材に導電膜を成膜することで、燃料電池用セパレータが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示す物理気相成長法により、複数のセパレータ基材の両面に対して、導電膜を同時に成膜しようとした場合、たとえば、以下の方法を採用することが想定される。具体的には、同一平面上に複数のセパレータ基材を配置し、この平面を挟むように配置された一対の蒸着源で、セパレータ基材の両面に導電膜を成膜する。しかし、上記のように成膜したとしても、物理気相成長法により、一回あたりに処理できるセパレータ基材の枚数が限られる。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、物理気相成長法により、導電膜を成膜する際、1回あたりに成膜できるセパレータ基材の数を増やすことができる燃料電池用セパレータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を鑑みて、本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、成膜装置内に配置した複数のセパレータ基材の両面に、物理気相成長法により導電膜を成膜する燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記セパレータの製造方法は、複数のセパレータ基材のうち、複数の第1セパレータ基材を、第1仮想平面上に一定の間隔を空けて、成膜装置内に配置し、複数のセパレータ基材のうち、複数の第2セパレータ基材を、第1仮想平面に対して一定の距離で離間した第2仮想平面上に、一定の間隔を空けて、成膜装置内に、配置する配置工程を含み、配置工程において、第1仮想平面に対して直交方向の一方側から視て、第1セパレータ基材同士の間に、第2セパレータ基材の表面の一部が露出し、直交方向の他方側から視て、第2セパレータ基材同士の間に、第1セパレータ基材の表面の一部が露出するように、第1セパレータ基材と第2セパレータ基材を配置し、第1仮想平面および第2仮想平面を挟むように、成膜装置内に配置された一対の蒸着源により、第1セパレータ基材と第2セパレータ基材の両面に、導電膜を成膜する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物理気相成長法により、導電膜を成膜する際、1回あたりに成膜できるセパレータ基材の数を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る成膜装置を示した図である。
【
図2】(a)は、
図1のA-A線に沿った断面における、成膜処理部内の第1セパレータ基材および第2セパレータ基材の配置状態を説明するための模式図であり、(b)は、第1仮想平面に対して直交方向の一方側から視た第1セパレータ基材と第2セパレータ基材との配置関係を示した図であり、(c)は、第1仮想平面に対して直交方向の他方側から視た第2セパレータ基材と第1セパレータ基材との配置関係を示した図である。
【
図3】(a)は、燃料電池用セパレータの短辺方向に沿った断面図であり、(b)は、本実施形態に係る製造方法で製造したセパレータの短辺方向に沿った膜厚を表したグラフであり、(c)は、従来に係る製造方法で製造したセパレータの短辺方向に沿った膜厚を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係る燃料電池用セパレータ9の製造方法について説明する。
【0010】
1.燃料電池用セパレータ9について
図示はしないが、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ(以下、「セパレータ」という)9は、ガス拡散層が膜電極接合体の両面に積層された膜電極ガス拡散層接合体(Membrane Electrode Gas Diffusion Layer Assembly:MEGA)同士を区画する部材である。燃料電池の単セル(図示せず)は、一対のセパレータ9により膜電極ガス拡散層接合体(Membrane Electrode Gas Diffusion Layer Assembly:MEGA)を挟むことにより、構成される。セパレータ9の一方側の面は、MEGAに当接する。セパレータ9の一方側の面は、燃料ガスまたは酸化剤ガスのガス流路が形成されたガス面である。セパレータ9の他方側の面は、セルが積層されることにより、隣接する燃料電池セルのセパレータに当接する。セパレータ9の他方側の面は、冷却水流路が形成された冷却水面である。
【0011】
セパレータ9は、セパレータ基材10と、セパレータ基材10の両面に成膜された炭素膜などの導電膜11(11C、11D)と、を有する。導電膜11のうち一方側の導電膜11Cは、均一な膜厚を有している。したがって、導電膜11Cは、発電性能に直接的に影響があるガス面側に用いることができる。一方、導電膜11のうち他方側の導電膜11Dは、導電膜11Cの膜厚よりも膜厚が薄く、膜厚は均一ではない。導電膜11Dは、発電性能による影響が低い冷却水面側に用いることができる。このように、セパレータ基材10の両面に成膜された導電膜11(11C、11D)は、同じ厚さである必要がない。このような着想から、発明者は、以下の製造方法を見出した。
【0012】
2.燃料電池用セパレータ9の製造方法について
複数のセパレータ基材10に対して、以下に示す配置工程が行われる。その後、セパレータ基材10は、
図1に示す成膜装置1を用いて、表面処理工程から真空処理工程までの一連の工程を経る。セパレータ基材10が、これらの工程を経ることで、セパレータ9は製造される。
【0013】
2-1.配置工程について
配置工程では、複数のセパレータ基材10、10、…は、2つのフレーム5、5のそれぞれに配置される。まず、複数のセパレータ基材10を配置するフレーム5等の装置構成について説明する。
【0014】
各フレーム5は、門型の形状であり、移動台6に固定されている。移動台6は、成膜装置1内において、後述する表面処理部2から真空処理部4まで、フレーム5とともに移動する。本実施形態では、2つのフレーム5は、移動台6の移動方向と直交する方向に、対向して配置されている。フレーム5には、フレーム5の両端をつなぐように、セパレータ基材10を取り付ける取り付け部12が、上下方向に間隔を空けて設けられている。2つのフレーム5のうち、一方のフレーム5の内部には、第1仮想平面P1が形成され、他方のフレーム5の内部には第2仮想平面P2が形成される。第1仮想平面P1と第2仮想平面P2とは、一定の距離Pで離間している。
【0015】
複数のセパレータ基材10は、複数の第1セパレータ基材10Aと、複数の第2セパレータ基材10Bとで構成される。各第1セパレータ基材10Aは、ガス面側の表面10Acと冷却水面側の表面10Adとを有する。各第2セパレータ基材10Bは、ガス面側の表面10Bcと冷却水面側の表面10Bdを有する。複数の第1セパレータ基材10Aは、第1仮想平面P1上に一定の間隔Dを空けて配置されている。複数の第2セパレータ基材10Bは、第2仮想平面P2上に一定の間隔Dを空けて配置されている。本実施形態では、第1仮想平面P1上に配置される複数の第1セパレータ基材10A同士の間隔Dと、第2仮想平面P2上に配置される複数の第2セパレータ基材10B同士の間隔Dと、は略同じである。第1および第2仮想平面P1、P2内に、複数の第1および第2セパレータ基材10A、10Bを保持する複数のマスクジグが配置されてもよい。複数のマスクジグは、複数の第1および第2セパレータ基材10A、10Bの両縁を保持する。なお、
図2(b)、(c)は、説明の便宜上、第1セパレータ基材10Aの群と、第2セパレータ基材10Bの群とは、全体的に上下方向にずらして示している。本実施形態では、第1セパレータ基材10Aの群と、第2セパレータ基材10Bの群とは、全体的に上下方向に一致している。
【0016】
図2(b)に示すように、第1仮想平面P1に対して直交方向の一方側Q1から第1セパレータ基材10Aと第2セパレータ基材10Bを視る。そうすると、第1セパレータ基材10A同士の間に、露出している第2セパレータ基材10Bの冷却水面側の表面10Bdの少なくとも片縁以外の部分が視えるように、第1セパレータ基材10Aと第2セパレータ基材10Bとが配置されている。同様に、
図2(c)に示すように、第1仮想平面P1に対して直交方向の他方側Q2から第1セパレータ基材10Aと第2セパレータ基材10Bを視る。そうすると、第2セパレータ基材10B同士の間に、露出している第1セパレータ基材10Aの冷却水面側の表面10Adの少なくとも片縁以外の部分が視えるように、第1セパレータ基材10Aと第2セパレータ基材10Bとが配置されている。その他には、一方側Q1から視た際の第2セパレータ基材10Bと、他方側Q2から視た際の第1セパレータ基材10Aとは、少なくとも片縁以外の部分が露出するように配置されることの他に、中央部分を露出するように配置されてもよい。複数の第1および第2セパレータ基材10A、10Bは、配置工程により各フレーム5に配置された状態で、移動台6とともに、表面処理部2から真空処理部4までを移動する。
【0017】
2-2.表面処理工程について
まず、本実施形態では、表面処理工程は、表面処理部2で、第1および第2セパレータ基材10A、10Bの表面10Ac、10Ad、10Bc、10Bdに対して行われる。表面処理は、たとえば、第1および第2セパレータ基材10A、10Bの表面10Ac、10Ad、10Bc、10Bdの粗化であり、例えばエッチング等である。表面処理は、
図1に示すように、一対のプラズマイオンソース7が用いられる。表面処理部2が真空状態にされた後、一対のプラズマイオンソース7は、第1および第2セパレータ基材10A、10Bを挟む位置から、第1および第2セパレータ基材10A、10Bの表面10Ac、10Ad、10Bc、10Bdに対して、プラズマを照射する。これにより、次の工程の成膜処理部3で、成膜された導電膜11(11C、11D)に対するアンカー効果を発現し、第1および第2セパレータ基材10A、10Bに対する導電膜11(11C、11D)の密着性を高めることができる。
【0018】
2-3.成膜処理工程について
成膜処理は、成膜処理部3で、物理気相成長法により行われる。粗化処理された第1および第2セパレータ基材10A、10Bは、表面処理部2を通過した後、移動台6とともに、成膜処理部3に移動する。成膜処理は、成膜処理部3の内壁面のうち、移動台6の移動方向に沿って対向する壁面に配置された一対の蒸着源8、8を用いて行われる。蒸着源8の材料は、炭素材料またはチタン材料であり、第1および第2セパレータ基材10A、10Bの材料よりも、高い耐食性と高い導電性との性質を持つ材料である方が好ましい。第1および第2セパレータ基材10A、10Bは、成膜処理部3を真空にした後、1対の蒸着源8より、物理気相成長法による成膜処理で成膜される。なお、蒸着源8の材料は、比較的直線的に放出される。
【0019】
本実施形態によれば、第1仮想平面P1に対して直交方向の一方側Q1から視て、第1セパレータ基材10A同士の間に、第2セパレータ基材10Bの冷却水面側の表面10Bdの一部が露出するように、第1および第2セパレータ基材10A、10Bは配置される。一方側Q1に向いている第1セパレータ基材10Aのガス面側の表面10Acには、一方側Q1の蒸着源8により、導電膜11Cが成膜される。それと同時に、第1セパレータ基材10A同士の間を、一方側Q1の蒸着源8からの材料が通過し、第2セパレータ基材10Bの冷却水面側の表面10Bdに、導電膜11Dが成膜される。一部の一方側Q1の蒸着源8の材料は、第1仮想平面P1を回り込み、第2セパレータ基材10Bの冷却水面側の表面10Bdに、導電膜11Dが成膜されることに、寄与する。
【0020】
同様に、直交方向の他方側Q2から視て、第2セパレータ基材10B同士の間に、第1セパレータ基材10Aの冷却水面側の表面10Adの一部が露出するように、第1および第2セパレータ基材10A、10Bは配置される。他方側Q2に向いている第2セパレータ基材10Bのガス面側の表面10Bcには、他方側Q2の蒸着源8により、導電膜11Cが成膜される。それと同時に、第2セパレータ基材10B同士の間を、他方側Q2の蒸着源8からの材料が通過し、第1セパレータ基材10Aの冷却水面側の表面10Adに、導電膜11Dが成膜される。一部の他方側Q2の蒸着源8の材料は、第2仮想平面P2を回り込み、第1セパレータ基材10Aの冷却水面側の表面10Adに、導電膜11Dが成膜されることに、寄与する。
【0021】
このように、一対の蒸着源8を挟んで、第1および第2仮想平面P1、P2上のそれぞれに配置した複数の第1および第2セパレータ基材10A、10Bの両面に、導電膜11(11C、11D)を成膜することができる。この結果、物理気相成長法により、導電膜11(11C、11D)を成膜する際、1回あたりに成膜できる第1および第2セパレータ基材10A、10Bの数を増やすことができる。
【0022】
このようにして、第1仮想平面P1に対して直交方向の一方側Q1を向いている第1セパレータ基材10Aのガス面側の表面10Acには、
図3(a)および(b)に示すように、面全体に均一な導電膜11Cが成膜される。第1仮想平面P1に対して直交方向の他方側Q2を向いている第1セパレータ基材10Aの冷却水面側の表面10Adには、導電膜11Cに比べて膜厚が薄く、膜厚が均一ではない導電膜11Dが成膜される。ただし、導電膜11Dの膜厚は、
図3(a)および(b)に示すように、中央では略均一で、両端に進むにしたがって薄くなっている。第2セパレータ基材10Bに成膜された導電膜11C、11Dも同様である。なお、第1および第2セパレータ基材10A、10Bに成膜された導電膜11Dは、冷却水面側に用いられるので、燃料電池の発電特性に影響を及ぼすことがほとんどない。
【0023】
2-4.真空処理について
成膜処理された第1および第2セパレータ基材10A、10B(セパレータ9)は、成膜処理部3を通過した後、移動台6とともに、真空処理部4に移動する。真空処理部4内に移動した第1および第2セパレータ基材10A、10Bに付着している導電膜11(11C、11D)以外の粒子等は、真空処理部4で、真空にするときに除去される。
【符号の説明】
【0024】
1:成膜装置、2:表面処理部、3:成膜処理部、4:真空処理部、5:フレーム、6:移動台、7:プラズマイオンソース、8:蒸着源、9:燃料電池用セパレータ、10:セパレータ基材、10A:第1セパレータ基材、10B:第2セパレータ基材、11:導電膜、12:取り付け部