(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】直接空気回収装置のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/04 20060101AFI20250909BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20250909BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
B01D53/04 220
B01J20/26 A
B01J20/34 H
(21)【出願番号】P 2023068431
(22)【出願日】2023-04-19
【審査請求日】2024-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真祈
(72)【発明者】
【氏名】長田 さつき
(72)【発明者】
【氏名】坂野 充
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/013332(WO,A1)
【文献】特開2002-153718(JP,A)
【文献】特開平04-200742(JP,A)
【文献】CHEMICAL ENGINEERING JOURNAL,2017, 308, 1021-1033
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/02-53/18
B01D53/34-53/96
B01J20/00-20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体を
、ハニカム構造を有する基材上に備える直接空気回収装置のリサイクル方法であって、
前記多孔質担体は、
シリカゲル粉末と無機バインダーとの混練材を前記基材上にコーティングすることによって形成されたコーティング膜であり、
前記二酸化炭素吸収剤は、
アミン系ポリマーであり、
前記直接空気回収装置を所定温度に加熱して、使用済みの二酸化炭素吸収剤を前記多孔
質担体から除去した後、当該多孔質担体上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させる、
直接空気回収装置のリサイクル方法。
【請求項2】
前記基材が、セラミックから構成されている、
請求項
1に記載の直接空気回収装置のリサイクル方法。
【請求項3】
前記所定温度が、500℃以上である、
請求項
1又は2に記載の直接空気回収装置のリサイクル方法。
【請求項4】
使用済みの二酸化炭素吸収剤を前記多孔質担体から除去した後、当該多孔質担体上に新
たな二酸化炭素吸収剤を担持させる前に、
前記多孔質担体を水蒸気雰囲気下に保持する、
請求項
1又は2に記載の直接空気回収装置のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は直接空気回収装置のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスである二酸化炭素を削減するため、空気中の二酸化炭素を直接回収する直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)装置が知られている。直接空気回収装置では、多孔質担体に二酸化炭素吸収剤が担持されている。
二酸化炭素吸収剤としては、例えば特許文献1に開示されているように、アミンを含有する二酸化炭素吸収剤が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
直接空気回収装置では、二酸化炭素吸収剤が使用によって劣化するため、定期的に直接空気回収装置すなわち二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体ごと交換している。
これに対し、発明者らは、多孔質担体から使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去し、多孔質担体を再利用する直接空気回収装置のリサイクルを検討している。
【0005】
本開示は、このような事情に鑑みなされたものであって、多孔質担体から使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去し、多孔質担体を再利用可能な直接空気回収装置のリサイクル方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る直接空気回収装置のリサイクル方法は、
二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体を備える直接空気回収装置のリサイクル方法であって、
前記多孔質担体は、水酸基を有する無機材料から構成されており、
前記二酸化炭素吸収剤は、親水性ポリマーであり、
前記直接空気回収装置を所定温度に加熱して、使用済みの二酸化炭素吸収剤を前記多孔質担体から除去した後、当該多孔質担体上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させるものである。
【0007】
本開示の一態様では、多孔質担体は、水酸基を有する無機材料から構成されており、二酸化炭素吸収剤は、親水性ポリマーであり、直接空気回収装置を所定温度に加熱して、使用済みの二酸化炭素吸収剤を前記多孔質担体から除去した後、当該多孔質担体上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させる。このような構成によって、多孔質担体から使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去し、多孔質担体を再利用できる。
【0008】
ハニカム構造を有する基材をさらに備え、前記多孔質担体が、前記基材上に形成されたコーティング膜でもよい。このような構成によって、多孔質担体の使用量を削減できる。
前記基材が、セラミックから構成されていてもよい。
【0009】
前記多孔質担体が、ハニカム構造を有する基材でもよい。このような構成によって、基材上に多孔質担体のコーティング膜を別途形成する必要がない。
【0010】
前記多孔質担体が、シリカゲルから構成されていてもよい。
また、前記親水性ポリマーが、アミン系ポリマーでもよい。
さらに、前記所定温度が、500℃以上でもよい。
【0011】
使用済みの二酸化炭素吸収剤を前記多孔質担体から除去した後、当該多孔質担体上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させる前に、前記多孔質担体を水蒸気雰囲気下に保持してもよい。このような構成によって、多孔質担体12から失われた水酸基を回復させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、多孔質担体から使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去し、多孔質担体を再利用可能な直接空気回収装置のリサイクル方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る直接空気回収装置の斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に係る直接空気回収装置の拡大横断面図である。
【
図3】第1の実施形態の変形例に係る直接空気回収装置の拡大横断面図である。
【
図4】ポリエチレンイミンを担持させる前後におけるビーズ状のシリカゲルのマクロ写真である。
【
図5】ポリエチレンイミンを除去するために各温度に加熱した後のシリカゲルのマクロ写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本開示が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0015】
(第1の実施形態)
<直接空気回収装置の構成>
まず、
図1、
図2を参照して、第1の実施形態に係る直接空気回収装置の構成について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る直接空気回収装置の斜視図である。
図2は、第1の実施形態に係る直接空気回収装置の拡大横断面図である。
なお、当然のことながら、図面に示した右手系xyz座標は、構成要素の位置関係を説明するための便宜的なものである。各図面におけるxyz座標は共通であって、y軸方向が多孔質担体12の軸方向である。
【0016】
図2に示すように、直接空気回収装置10は、基材11及び多孔質担体12を備えている。そして、
図1に示すように、直接空気回収装置10は、二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体12を空気に接触させ、空気中の二酸化炭素を二酸化炭素吸収剤に吸着させて回収する装置である。
【0017】
図1に示すように、基材11は、例えば外形が略円柱形状である。
図2に示すように、基材11は、y軸方向に延設された複数の流路13から構成されたハニカム構造を有している。
図2に示すように、各流路13の内周面には二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体12がコーティングされている。
【0018】
図1に白抜き矢印で示すように、多孔質担体12がコーティングされた各流路13の内部を空気が軸方向(y軸方向)に通過し、多孔質担体12に担持された二酸化炭素吸収剤によって、空気中の二酸化炭素が吸収される。
なお、
図2では、流路13の断面形状が正方形状であるが、六角形状等でもよい。また、基材11の外形は、限定されず、例えば角柱状などでもよい。
【0019】
基材11は、例えば無機材料からなり、具体的には、例えばコージェライトや導電性を有するSiC(炭化珪素)等のセラミックからなる。
なお、基材11は、金属製でもよい。
【0020】
多孔質担体12は、例えば2~100nm程度の微細な孔に二酸化炭素吸収剤を担持している。多孔質担体12は、水酸基を有する無機材料から構成されており、例えばシリカゲルである。また、多孔質担体12は、多孔質であるため、担持された二酸化炭素吸収剤が空気と接触する表面積が大きくなり、二酸化炭素を高効率に吸着できる。
【0021】
本実施形態では、多孔質担体12は、基材11上に形成されたコーティング膜である。例えば水酸基を有する無機材料(例えばシリカゲル)の粉末と水ガラス等の無機バインダーとの混練材を基材11上に塗布することによって、多孔質担体12を形成できる。
本実施形態では、多孔質担体12がコーティング膜であるため、後述する変形例に比べ多孔質担体12の使用量を削減できる。
【0022】
二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素吸収剤は、親水性ポリマーである。具体的には、二酸化炭素吸収剤は、例えばポリエチレンイミンや、1級アミン、2級アミン、2級アルカノールアミン等のアミン系ポリマーである。
【0023】
二酸化炭素の回収では、常温において直接空気回収装置10に空気を通過させて二酸化炭素を吸着する工程(
図1参照)と、直接空気回収装置10を例えば100℃程度に加熱して二酸化炭素を脱離させる工程(不図示)とを繰り返す。この吸着工程と脱離工程とを繰り返すと、二酸化炭素吸収剤が劣化する。
【0024】
そのため、従来の直接空気回収装置では、定期的に直接空気回収装置すなわち二酸化炭素吸収剤が担持された多孔質担体ごと交換していた。
これに対し、本実施形態に係る直接空気回収装置10では、多孔質担体12から使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去し、基材11及び多孔質担体12を再利用する。本実施形態に係る直接空気回収装置10のリサイクル方法については後述する。
なお、離脱工程において、基材11を通電加熱してもよい。
【0025】
<変形例>
ここで、
図3を参照して、第1の実施形態の変形例に係る直接空気回収装置の構成について説明する。
図3は、第1の実施形態の変形例に係る直接空気回収装置の拡大横断面図である。
図3は、
図2に対応する。
【0026】
図3に示すように、変形例に係る直接空気回収装置10では、多孔質担体12がハニカム構造を有する基材である。すなわち、多孔質担体12が、y軸方向に延設された複数の流路13から構成されたハニカム構造を有していてもよい。
図3に示す直接空気回収装置10では、多孔質担体12が基材であるため、
図2に示す直接空気回収装置10に比べ、多孔質担体のコーティング膜を基材上に別途形成する必要がない。
【0027】
図3に示す各流路13の内周面には二酸化炭素吸収剤が担持されている。変形例に係る直接空気回収装置10でも、多孔質担体12は、例えば2~100nm程度の微細な孔に二酸化炭素吸収剤を担持している。多孔質担体12は、水酸基を有する無機材料から構成されており、例えばシリカゲルである。
【0028】
<直接空気回収装置のリサイクル方法>
次に、本実施形態に係る直接空気回収装置のリサイクル方法について説明する。
まず、
図1、
図2に示す直接空気回収装置10を所定温度に加熱して、使用済みの二酸化炭素吸収剤を多孔質担体12から除去する。使用済みの二酸化炭素吸収剤を除去するための加熱温度は、離脱工程における加熱温度よりも高く、具体的には、例えば500℃以上である。
当該加熱は、離脱工程と同様に、基材11を通電加熱してもよい。
【0029】
二酸化炭素吸収剤を除去するための加熱によって、親水性ポリマーからなる二酸化炭素吸収剤が分解する。その際、多孔質担体12の水酸基が失われる。そのため、多孔質担体12から二酸化炭素吸収剤を除去した直接空気回収装置10を例えば水蒸気雰囲気下に保持し、多孔質担体12から失われた水酸基を回復させてもよい。具体的には、直接空気回収装置10を例えば80℃において飽和水蒸気雰囲気下に保持する。
【0030】
次に、使用済みの二酸化炭素吸収剤が除去された多孔質担体12上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させる。このように、多孔質担体12のみを交換し、基材11及び多孔質担体12を再利用するため、二酸化炭素回収コストを低減できる。
【0031】
以上に説明したように、本実施形態に係る直接空気回収装置10のリサイクル方法では、直接空気回収装置10を所定温度に加熱して、使用済みの二酸化炭素吸収剤を多孔質担体12から除去した後、当該多孔質担体12上に新たな二酸化炭素吸収剤を担持させる。すなわち、多孔質担体12のみを交換し、基材11及び多孔質担体12を再利用するため、二酸化炭素回収コストを低減できる。
【実施例】
【0032】
以下に、第1の実施形態に係る直接空気回収装置10のリサイクル方法について、実施例を挙げて詳細に説明する。しかしながら、第1の実施形態に係る直接空気回収装置10のリサイクル方法は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
<試験条件>
二酸化炭素吸収剤として平均分子量600の分枝状ポリエチレンイミン(富士フィルムWAKO製)を用いた。このポリエチレンイミン6gにエタノール24gを添加し、20質量%のポリエチレンイミン溶液を調整した。このポリエチレンイミン溶液に、多孔質担体としてビーズ状のシリカゲル(富士シリシア化学製CARiACT Q-10)を投入し、密閉容器内において撹拌した。その後、減圧下においてエタノールを除去した後、80℃において乾燥させた。ここで、シリカゲルは水酸基を有する無機材料であり、ポリエチレンイミンは親水性ポリマーである。
【0034】
以上の工程によって、多孔質担体であるシリカゲルの表面に二酸化炭素吸収剤であるポリエチレンイミンが担持された。この多孔質担体は、
図2における多孔質担体12に対応する。このシリカゲルは、細孔分布1.1mL/gのメソ細孔を有し、当該メソ細孔内にポリエチレンイミンが担持される。
【0035】
ここで、
図4は、ポリエチレンイミンを担持させる前後におけるビーズ状のシリカゲルのマクロ写真である。
図4に示すように、ポリエチレンイミン担持前、シリカゲルは透明であるが、ポリエチレンイミン担持後、メソ細孔内にポリエチレンイミンが担持されると、シリカゲルは白濁する。
【0036】
次に、シリカゲルに担持されたポリエチレンイミンを除去するため、ポリエチレンイミンが担持されたシリカゲルを所定温度に加熱し、2L/分の大気を流しながら6時間保持した。
加熱温度を変化させ、二酸化炭素吸収剤であるポリエチレンイミンの除去状況を観察すると共に細孔分布を測定した。加熱温度は、400℃、450℃、500℃とした。
【0037】
<試験結果>
図5は、ポリエチレンイミンを除去するために各温度に加熱した後のシリカゲルのマクロ写真である。ポリエチレンイミンを所定の温度以上に加熱すると、ポリエチレンイミンが酸化して、二酸化炭素や二酸化窒素が発生し、ポリエチレンイミンは消失する。
【0038】
図5に示すように、加熱温度400℃、450℃では、ポリエチレンイミンが一部除去しきれず残留し、シリカゲルが黒化した。加熱温度400℃、450℃での細孔分布は、それぞれ0.91mL/g、0.97mL/gであった。
図5に示すように、加熱温度500℃では、ポリエチレンイミンが充分に除去され、シリカゲルが再び透明になった。加熱温度500℃での細孔分布は、1.2mL/gであり、使用前の1.1mL/gを上回るまで回復した。
【0039】
以上の実施例の結果から、水酸基を有する無機材料からなる多孔質担体に親水性ポリマーである二酸化炭素吸収剤を担持した直接空気回収装置を500℃以上に加熱すると、二酸化炭素吸収剤が充分に除去され、多孔質担体を再利用できることが分かった。
【0040】
なお、本開示は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
また、本開示は、カーボンニュートラル、脱炭素、持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)に貢献するものである。
【符号の説明】
【0041】
10 直接空気回収装置
11 基材
12 多孔質担体
13 流路