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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250909BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250909BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023127463
(22)【出願日】2023-08-04
(65)【公開番号】P2025023390
(43)【公開日】2025-02-17
【審査請求日】2025-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】志村 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2022-0097693(KR,A)
【文献】中国実用新案第209786075(CN,U)
【文献】特開2019-29256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/84
H01M 10/00 -10/39
H01M 6/00 - 6/48
H01G 11/00 -11/86
H01G 13/00 -13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向を有する集電シートと、前記集電シートの第1面に配置された塗工部と、を有する塗工シートを準備する、準備工程と、
前記塗工シートを前記長手方向に搬送しながら、前記長手方向に配置された複数のレーザヘッドから照射されたレーザにより前記塗工部を乾燥する、乾燥工程と、を有し、
前記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、
前記乾燥工程は、
前記塗工部の水分率を、放射温度計を用いて算出する、算出処理と、
前記水分率に基づき、前記複数のレーザヘッドそれぞれについて、前記レーザの照射幅を下記(i)および(ii)に従って調整して、前記乾燥を行う、乾燥処理と、を有する電極の製造方法。
(i)前記水分率が閾値以上であった場合、前記レーザの照射幅を、前記塗工部の幅と同一とする。
(ii)前記水分率が閾値未満であった場合、前記レーザの照射幅を、前記塗工部の幅よりも狭くする。
【請求項2】
前記閾値が、20%以上、40%以下である、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記(ii)において、前記レーザの照射幅を、下記式(1)を満たす長さとする、請求項1または請求項2に記載の電極の製造方法。
レーザの照射幅=Pe(Q(100-R))+塗工部の幅・・・・(1)
(式(1)中、Pは-0.03≦P≦-0.01を満たす数であり、Qは0.06≦Q≦0.08を満たす数であり、Rは塗工部における水分率(%)を意味し、eはネイピア数を意味する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の電池の製造に用いられる電極シートの製造方法に関する技術として、搬送される集電体シートに対し、電極材料を塗布して塗工部を形成し、塗工部を乾燥して電極層を得る方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、搬送される長尺金属箔に対して活物質合剤を塗布し、活物質合剤の塗工部を形成する塗布工程と、塗布工程よりも前に実行され、長尺金属箔の短手方向に沿った合剤塗布場所の両端部よりも長尺金属箔の搬送方向上流側に位置する長尺金属箔の照射位置に対してレーザを照射する第1照射工程と、第1照射工程の後に実行され、塗布工程によって形成された塗工部において短手方向の両縁部にレーザを照射する第2照射工程と、第2照射工程よりも後に実行され、塗工部を乾燥する乾燥工程と、を備えていることを特徴とする電極の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-029256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗工シートにおいて、塗工部における主面部および側面部を含む部分である塗工部の端部は、主面部を含む部分である中央部分と比べて表面積が大きい。また、端部は中央部分よりも目付量が小さくなることが想定される。そのため、塗工部の端部がより乾燥されやすくなり、塗工部の端部を中央部分と同様に乾燥させた場合、端部が過乾燥となる恐れがある。過乾燥となった端部は剥離強度が低下する恐れがあり、製造される電極において剥がれが生じる恐れがある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、塗工部の端部における過乾燥を抑制できる、電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]
長手方向を有する集電シートと、上記集電シートの第1面に配置された塗工部と、を有する塗工シートを準備する、準備工程と、上記塗工シートを上記長手方向に搬送しながら、上記長手方向に配置された複数のレーザヘッドから照射されたレーザにより上記塗工部を乾燥する、乾燥工程と、を有し、上記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、上記乾燥工程は、上記塗工部の水分率を、放射温度計を用いて算出する、算出処理と、上記水分率に基づき、上記複数のレーザヘッドそれぞれについて、上記レーザの照射幅を調整して、上記乾燥を行う、乾燥処理と、を有し、上記乾燥処理において、上記レーザの照射幅の上記調整を、下記(i)および(ii)に従って行い、上記乾燥を行う、電極の製造方法。
(i)上記水分率が閾値以上であった場合、上記レーザの照射幅を、上記塗工部の幅と同一とする。
(ii)上記水分率が閾値未満であった場合、上記レーザの照射幅を、上記塗工部の幅よりも狭くする。
【0008】
[2]
上記閾値が、20%以上、40%以下である、[1]に記載の電極の製造方法。
【0009】
[3]
上記(ii)において、上記レーザの照射幅を、下記式(1)を満たす長さとする、[1]または[2]に記載の電極の製造方法。
レーザの照射幅=Pe(Q(100-R))+塗工部の幅・・・・(1)
(式(1)中、Pは-0.03≦P≦-0.01を満たす数であり、Qは0.06≦Q≦0.08を満たす数であり、Rは塗工部における水分率(%)を意味し、eはネイピア数を意味する。)
【発明の効果】
【0010】
本開示においては、塗工部の端部の過乾燥を抑制して電極を製造できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示における塗工シートを例示する概略平面図および概略断面図である。
図2】本開示における乾燥工程を例示する概略側面図である。
図3】本開示における乾燥工程を例示する概略平面図である。
図4】乾燥工程における水分率の測定位置を例示する概略平面図である。
図5】本開示における電極を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示における電極の製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものであり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張している。また、本開示において「幅」とは、長手方向と直交する短手方向における長さをいう。
【0013】
図1(a)は、準備工程において準備する塗工シートを例示する概略平面図であり、図1(b)は、図1(a)のA-A断面図である。図2(a)~(c)は、乾燥工程を短手方向から見た概略側面図である。図3(a)~(c)は、乾燥工程における塗工シートを塗工部側から見た概略平面図である。なお、図3(a)~(c)は、図2(a)~(c)とそれぞれ対応している。
【0014】
図1(a)および(b)に示すように、本開示における電極の製造方法では、まず、長手方向D1を有する集電シート1と、集電シート1の第1面S1に配置された塗工部2と、を有する塗工シート10を準備する(準備工程)。塗工部2は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。次いで、図2(a)~(c)に示すように、塗工シート10を長手方向D1に搬送しながら、長手方向D1に配置された複数のレーザヘッド20(20A~20C)から照射されたレーザL(L1~L3)により塗工部2を乾燥する(乾燥工程)。また、乾燥工程は、塗工部2の水分率を、放射温度計30(30A~30C)を用いて算出する算出処理を有する。さらに、図3(a)~(c)に示すように、乾燥工程は、上記水分率に基づき、複数のレーザヘッド20それぞれについて、レーザLの照射幅を所定の条件に従い調整して、上記乾燥を行う、乾燥処理を有する。
【0015】
本開示によれば、塗工部の水分率に基づき、レーザの照射幅を調整して塗工部の乾燥を行うため、塗工部の端部の過乾燥を抑制することができる。
【0016】
例えば、複数のレーザヘッドの上流側(乾燥初期)と下流側(乾燥後期)において、レーザ照射幅を一定とした場合、乾燥工程において塗工部全体を均一に乾燥することとなる。一方、上述のように、塗工部の端部は表面積および目付量の点で、中央部よりも乾燥されやすいため、端部が過乾燥となる恐れある。これに対して、本開示における電極の製造方法においては、塗工部の水分率に基づきレーザの照射幅を調整する。つまり、塗工部の中央部分など、乾燥がいまだ不十分で水分率の多い部分に優先的にレーザを照射でき、塗工部の端部など、乾燥が十分で水分率の低い部分のレーザ照射を抑制できる。その結果、端部が過乾燥となることを抑制できる。また、本開示における電極の製造方法であれば、過乾燥が抑制できるため、電極剥がれを抑制するために添加するバインダーの量を少なくすることができる。その結果、本開示における電極の製造方法は、電極における活物質の量を多くすることができるという利点も有する。
【0017】
1.準備工程
本開示における準備工程は、長手方向集電シートと、集電シートの第1面に配置された塗工部と、を有する塗工シートを準備する工程である。
【0018】
図1(a)に示すように、集電シート1は、長手方向D1を有する。また、集電シート1は、通常短手方向D2を有する。また、図1(b)に示すように、集電シート1は、厚み方向における一方の面である第1面S1を有し、通常、第1面S1の裏面である第2面S2を有している。集電シートの材料は、負極集電体、正極集電体、バイポーラ集電体等の集電体として用いられる材料であることが好ましい。集電シートの材料としては、例えば、アルミニウム、銅、SUS、ニッケル等の金属が挙げられる。集電シートの厚さは、例えば0.1μm以上、100μm以下である。
【0019】
塗工部は、集電シートの第1面に配置され、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。塗工部は、後述する乾燥工程を経て電極層となる部分である。塗工部は、集電シートの第1面のみに配置されていてもよく、集電シートの第1面および第2面に配置されていてもよい。
【0020】
塗工部は、集電シートの長手方向に沿って配置されていることが好ましい。また、塗工部は、図1(a)に示されるように、集電シート1の長手方向D1に沿って間欠的に配置されていてもよい。一方、特に図示しないが、塗工部は、集電シートの長手方向に沿って連続的に配置されていてもよい。
【0021】
塗工部の幅は、例えば300mm以上、1500mm以下である。
【0022】
塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。また、電極材料は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有してもよい。
【0023】
活物質は正極活物質であってもよい。正極活物質としては、例えば酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0024】
活物質は負極活物質であってもよい。負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質および金属活物質を挙げることができる。カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えば、Nb、LiTi12およびSiOを挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSnを挙げることができる。
【0025】
電解質としては、例えば、硫化物固体電解質および酸化物固体電解質などの無機固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。
【0026】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B、Li1.3Al0.3Ti0.7(PO、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4、LiSiO、LiPO、LiPO4-3/2x(x≦1)が挙げられる。
【0027】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)およびケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料;炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダー、ブタジエンゴム等のゴム系バインダーおよびアクリル系バインダーが挙げられる。
【0028】
また、塗工シートは、通常、集電シートの第1面に配置され、かつ、電極材料を含有しない未塗工部を有する。なお、未塗工部は、塗工シートにおいて集電シートが露出した部分と捉えることができる。また、図1(a)に示すように、未塗工部3は、集電シート1の短手方向D2における塗工部2の端部(両端部)に配置されている。また、図1(a)、(b)に示すように、長手方向D1において塗工部2が間欠的に配置されている場合、未塗工部3は、長手方向D1における塗工部2の端部(両端部)にも配置される。言い換えると、未塗工部3は、塗工部2の外縁の全周に配置されている。
【0029】
塗工シートは、上述した電極材料を水などの溶媒とともに混合して調製した、電極スラリーを、集電シートの第1面に塗布して準備することができる。
【0030】
2.乾燥工程
本開示における乾燥工程は、上記塗工シートを上記長手方向に搬送しながら、上記長手方向に配置された複数のレーザヘッドから照射されたレーザにより上記塗工部を乾燥する工程である。また、本開示における乾燥工程は、所定の算出処理および乾燥処理を有する。
【0031】
レーザヘッドの数は、2以上であり、3以上であってもよく、5以上であってもよい。図2(a)~(c)に示すように、通常、レーザヘッドは、長手方向D1において最上流に位置する第1レーザヘッド20Aおよび最下流に位置する第2レーザヘッド20Bを含む。また、レーザヘッドは、長手方向D1において、第1レーザヘッド20Aおよび第2レーザヘッド20Bの間に配置された第3レーザヘッド20Cを含んでいてもよい。第3レーザヘッドの数は特に限定されず、1であってもよく、2以上であってもよい。
【0032】
また、特に図示しないが、長手方向において、複数のレーザヘッド同士の間に、温風を塗工部に送風する、温風装置が設けられていてもよい。
【0033】
(1)算出処理
算出処理では、上記塗工部の水分率を、放射温度計を用いて算出する。ここで、「塗工部の水分率」とは、複数のレーザヘッドそれぞれに対応する塗工部の部分、つまり、複数のレーザヘッドそれぞれがレーザを照射する塗工部の部分における水分率を意味する。
【0034】
塗工部の水分率は、例えば予備実験から作成したマップと、放射温度計により測定した塗工部表面の温度に基づき算出することができる。まず、一般的に、乾燥工程における乾燥温度には、予熱区間、定率区間および減率区間が存在する。水分の蒸発速度は、蒸発潜熱と顕熱がつりあう区間である定率区間における電極温度で決まるため、電極温度と蒸発速度の関係について、事前の予備実験を行いマップ化する。そして、実際の乾燥工程において、放射温度計で電極表面の温度を測定し、かつ、この温度が維持されている時間(秒)を測定し、これらをマップに当てはめて塗工部の水分率を求めることができる。
【0035】
図2(a)~(c)に示すように、複数のレーザヘッド20A~Cそれぞれに対応するように、放射温度計30A~Cが設けられていてもよい。これにより、複数のレーザヘッドを通過する塗工部の水分率を、それぞれ直接的に求めることができる。一方、図示しないが、1つの放射温度計を用いてもよい。この場合、1つの放射温度計は、最上流のレーザヘッド(第1レーザヘッド)に対応するように設けられる。第1レーザヘッドに対応して設けられた放射温度計が算出した水分率に基づき、下流のレーザヘッド(第2レーザヘッドおよび第3レーザヘッド)を通過する塗工部の水分率を間接的に求めることができる。例えば、レーザのエネルギー密度および搬送速度などの乾燥条件に基づき、上流で算出された水分率から、下流の水分率を算出してもよい。
【0036】
放射温度計の測定位置は特に限定されない。例えば、図4に示すように、塗工部2の幅をWaとし、端部Eから測定位置Pまでの短手方向における最短の長さをWbとした場合、測定位置Pは、Wb/Waが、例えば、0.07以上、0.3以下となる位置である。なお、Wbは、例えば、50mm以上、150mm以下である。
【0037】
(2)乾燥処理
乾燥処理では、上記水分率に基づき、上記複数のレーザヘッドそれぞれについて、上記レーザの照射幅を所定の条件に従って調整され、上記乾燥を行う。ここで、「レーザの照射幅」とは、図4に示すように、レーザが照射された塗工部の領域(網掛け部分)の幅をいう。
【0038】
上記レーザの照射幅は下記(i)に従って調整される。
(i)上記水分率が閾値以上であった場合、上記レーザの照射幅を、上記塗工部の幅と同一とする。
【0039】
水分率の閾値については、適宜設定することができる。閾値の範囲は、例えば、20%以上であり、30%以上であってもよい。一方、閾値の範囲は、例えば40%以下である。
【0040】
例えば図3図4においては、放射温度計30Aを用いて算出された水分率が閾値以上であったため、第1レーザヘッド20AによるレーザL1の照射幅は、塗工部の幅と同じに調整されている。また、放射温度計30Bおよび30Cを用いて算出された水分率が閾値未満であったため、第2レーザヘッド20BによるレーザL2の照射幅および第3レーザヘッド20CによるレーザL3の照射幅は、塗工部の幅よりも狭く調整されている。
【0041】
また、上記レーザの照射幅は下記(ii)に従って調整される。
(ii)上記水分率が閾値未満であった場合、上記レーザの照射幅を、上記塗工部の幅よりも狭くする。
【0042】
上記(ii)の場合、図3および図4に示されるように、レーザが照射される塗工部の領域には、短手方向における塗工部の両端部が含まれていないことが好ましい。塗工部の両端部において過乾燥を抑制することができるからである。一方、特に図示しないが、レーザが照射される塗工部の領域には、短手方向における塗工部の一方の端部が含まれていてもよい。
【0043】
また、上記(ii)の場合において、レーザの照射幅を、下記式(1)を満たす長さとすることが好ましい。
レーザの照射幅=Pe(Q(100-R))+塗工部の幅・・・・(1)
式(1)中、Pは-0.03≦P≦-0.01を満たす数であり、Qは0.06≦Q≦0.08を満たす数であり、Rは塗工部における水分率(%)を意味し、eはネイピア数を意味する。
Pは、-0.025以上であってもよく、-0.020以上であってもよい。一方、Pは、-0.015以下であってもよい。Qは、0.065以上であってもよく、0.070以上であってもよい。一方、Qは、0.075以下であってもよい。
【0044】
上記式(1)によれば、水分率が少ないほどレーザ照射幅を狭く調整できるため、より端部の過乾燥を抑制することができる。
【0045】
ここで、上記(i)および(ii)に従って調整された、各レーザの照射幅の関係について説明する。例えば、レーザヘッドの数をN(N≧3)とした場合、上流からM番目(2≦M≦N)のレーザヘッドにおけるレーザの照射幅は、M-1番目のレーザヘッドの照射幅と異なっていてもよく、同じであってもよい。言い換えると、レーザ照射幅は、上流から下流に向けて連続的に狭くなっていってもよく、断続的に狭くなっていってもよい。例えば、図2(c)においては、上流から1番目のレーザヘッド(第1レーザヘッド20A)から、最下流のレーザヘッド(第2レーザヘッド20B)に向けて、レーザの照射幅は連続的に狭くなっている。なお、第3レーザヘッド20Cにおけるレーザ照射幅が、第1レーザヘッド20Aまたは第2レーザヘッド20Bのいずれかにおけるレーザ照射幅と等しい場合、レーザの照射幅は断続的に狭くなっていると捉えられる。
【0046】
レーザのエネルギー密度は特に限定されず、適宜調整することができる。レーザのエネルギー密度は、例えば、例えば、0.1W/cm以上、1.0W/cm以下である。乾燥工程における塗工シートの搬送速度は特に限定されず、適宜調整することができる。
【0047】
3.電極
図5は本開示において製造される電極の一例を示す概略断面図である。図5に示すように、電極は、集電シート101と、集電シート101の第1面S1に形成された電極層102と、を有する。図5においては、電極層102は間欠的に形成されている。特に図示しないが、電極層102は、集電シートの第1面S1および第2面S2に形成されていてもよい。また、電極の形状は、通常、長手方向および短手方向を有するシート状である。
【0048】
このような電極(電極シート)は、通常、電池の製造に用いられる。電極シートは、正極シートであってもよく、負極シートであってもよい。本開示における電極シートが正極シートの場合、負極シートおよびセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。同様に、本開示における電極シートが負極シートの場合、正極シートおよびセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。また、図5に示す電極層102は、正極活物質層であってもよく、負極活物質層であってもよい。
【0049】
電極層は、正極活物質および負極活物質の一方を含有する。また、電極層は、さらに、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも1つを含有していてもよい。これらの材料については、上記のとおりである。
【0050】
電極が用いられる電池の種類は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池が挙げられる。電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0051】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0052】
[実施例1]
負極活物質(人工黒鉛)、増粘剤(カルボキシメチルセルロース:CMC)およびバインダー(スチレンブタジエンゴム:SBR)を水に添加して混合し、負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを、集電シート(銅箔)に塗工することで、集電シートおよび塗工部を有する塗工シートを得た。なお、塗工部の幅は500mmとした。
【0053】
得られた塗工シートを、図2(a)~(c)に示すように、複数の放射温度計を用いて水分率を算出した。また、水分率に基づき、上記(i)および(ii)に従ってレーザ照射幅を調整して塗工部を乾燥させた。具体的には、水分率の閾値は30%とし、水分率が30%以上の場合、レーザ照射幅を塗工部の幅(500mm)と同一とし、水分率が30%未満の場合は、レーザ照射幅を、上記式(1)を満たす長さとした。なお、レーザヘッドおよび放射温度計はそれぞれ4つ用いた。また、放射温度計の測定位置は、それぞれ、塗工部の端部から内側100mmの位置とした。また、式(1)においては、P=-0.02とし、Q=0.07とした。
【0054】
[比較例1および2]
塗工部の幅を変更したこと、レーザ照射幅の調整を上記(i)および(ii)に従わなかったこと以外は、実施例1と同様にして塗工シートを作製して乾燥させた。
【0055】
[評価]
乾燥後の塗工部端部の乾燥状態について目視で確認した。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示すように、水分率に基づき、所定の(i)および(ii)に従ってレーザ照射幅を調整することで、塗工部の端部の過乾燥が抑制でき、かつ、十分に乾燥させることができた。
【符号の説明】
【0058】
1 …集電シート
2 …塗工部
3 …未塗工部
10 …塗工シート
20 …レーザヘッド
30 …放射温度計
40 …乾燥炉
L …レーザ
図1
図2
図3
図4
図5