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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20250909BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
B60C11/03 100C
B60C11/03 Z
B60C11/12 A
B60C11/12 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2025108910
(22)【出願日】2025-06-27
【審査請求日】2025-06-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】福田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】大澤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚岐
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-35130(JP,A)
【文献】特開2022-170431(JP,A)
【文献】特開2022-166705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
一対のビード部とを含み、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に直線状で連続して延びる4本の周方向溝と、前記4本の周方向溝で区分された5つのリブとを備えたパターンを備えており、
前記パターンは、ランド比が0.70~0.85の範囲であり、
前記5つのリブは、タイヤ赤道を含むクラウンリブ、一対のミドルリブ及び一対のショルダーリブを含み、
各リブには、単位模様であるピッチが繰り返し形成され、
各ショルダーリブの1ピッチの前後剛性Ksは、各ミドルリブの1ピッチの前後剛性Km及び前記クラウンリブの1ピッチの前後剛性Kcよりも大きく、
前記クラウンリブ及び前記一対のミドルリブのそれぞれには、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した複数のサイプが形成されており、
前記複数のサイプは、いずれも、各リブをタイヤ軸方向に完全には横切っておらず、
前記複数のサイプのそれぞれは、サイプ壁とトレッド接地面との間に面取りが設けられていない、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記複数のサイプは、セミオープンサイプである、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数のサイプは、タイヤ周方向に対して30~85°の角度で傾斜している、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダーリブの前記前後剛性Ksは、前記クラウンリブの前記前後剛性Kcの1.10~1.20倍である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ショルダーリブの前記前後剛性Ksは、前記ミドルリブの前記前後剛性Kmの1.10~1.20倍である、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記クラウンリブの前記前後剛性Kcは、各ミドルリブの前記前後剛性Kmの0.97~1.03倍である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤから生じる騒音を減らす取り組みが種々検討されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-40966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでの騒音試験では問題とされなかったトレッドパターンであっても、近年の車両の高性能化や電動化に伴い、加速走行時には騒音が顕在化するという新たな課題が浮上している。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出なされたもので、加速走行時の騒音を抑制することが可能な空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、一対のビード部とを含み、前記トレッド部は、タイヤ周方向に直線状で連続して延びる4本の周方向溝と、前記4本の周方向溝で区分された5つのリブとを備えたパターンを備えており、前記パターンは、ランド比が0.70~0.85の範囲であり、前記5つのリブは、タイヤ赤道を含むクラウンリブ、一対のミドルリブ及び一対のショルダーリブを含み、各リブには、単位模様であるピッチが繰り返し形成され、各ショルダーリブの1ピッチの前後剛性Ksは、各ミドルリブの1ピッチの前後剛性Km及び前記クラウンリブの1ピッチの前後剛性Kcよりも大きく、前記クラウンリブ及び前記一対のミドルリブのそれぞれには、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した複数のサイプが形成されており、前記複数のサイプは、いずれも、各リブをタイヤ軸方向に完全には横切っておらず、前記複数のサイプのそれぞれは、サイプ壁とトレッド接地面との間のコーナ部に面取りが設けられていない、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことにより、加速走行時の騒音を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤの断面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す空気入りタイヤのトレッド部の展開図である。
図3図2のトレッド部の部分拡大図である。
図4】各リブの1ピッチを示す線図である。
図5】前後剛性を説明する模式的なブロックの斜視図である。
図6】ショルダーリブの1ピッチを示す平面図である。
図7A】1ピッチのタイヤ半径方向内側の境界を説明するトレッド部の要部断面図である。
図7B】剛性測定装置の一例を示す側面図である。
図7C】第1ショルダーリブの1ピッチのサンプル片を示す斜視図である。
図8】クラウンサイプの断面図である。
図9図2のVIII-VIII線断面図である。
図10図2のIX-IX線断面図である。
図11】ショルダーリブの部分拡大平面図である。
図12図6のXII-XII線断面図である。
図13】比較例のトレッド部の展開図である。
図14】他の実施例のトレッド部の展開図である。
図15】実施例1及び比較例2について、加速走行時の車外騒音の周波数と音圧レベルとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図面は、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれる場合がある。また、複数の実施形態がある場合、明細書を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
[空気入りタイヤの構造]
図1は、本発明の一実施形態の空気入りタイヤ1の断面図を示す。図1に示されるように、空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、それぞれにビードコア5が埋設された一対のビード部4とを含む。図1には、本発明を適用した乗用車用の空気入りタイヤ1が示されている。乗用車用の空気入りタイヤ1は、JATMAのYEAR BOOKのA章の「乗用車用タイヤ」に列挙されたサイズのタイヤを少なくとも含む。
【0011】
本実施形態のトレッド部2は、第1トレッド端Te1と、第2トレッド端Te2とを有する。これらの間のタイヤ軸方向の距離は、トレッド幅TWとされる。また、本実施形態の空気入りタイヤ1は、車両への装着の向きが指定されており、第1トレッド端Te1は、車両装着時に車両の外側へ、また、第2トレッド端Te2は、車両装着時に車両の内側に向けられることが意図されている。車両への装着の向きは、例えば、サイドウォール部3に表示される。
【0012】
本明細書において、第1トレッド端Te1及び第2トレッド端Te2は、正規状態の空気入りタイヤ1に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときのトレッド接地面のタイヤ軸方向の最も外側の縁を意味する。ここで、各用語の定義は次のとおりである。
【0013】
空気入りタイヤ1の「正規状態」とは、空気入りタイヤ1が、正規内圧で正規リムに装着された無負荷の状態を意味する。空気入りタイヤ1の各部の寸法は、特にタイヤの状態が特定されていない場合、正規状態で測定された値が意図されている。
【0014】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0015】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0016】
「正規荷重」とは、空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系がある場合、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。空気入りタイヤ1が基づいている規格を含む規格体系が無い場合、「正規荷重」は、タイヤを使用する上で適用可能な最大の荷重としてメーカー等がタイヤ毎に定める荷重とされる。
【0017】
空気入りタイヤ1はまた、一対のビード部4、4間を延びるトロイド状のカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側、かつ、トレッド部2の内方に配されたベルト層7とを備える。
【0018】
カーカス6は、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aを含む。本実施形態では、カーカス6が2枚のカーカスプライ6A及び6Bを用いて構成されている。カーカスプライ6A、6Bは、カーカスコードの配列体をトッピングゴムで被覆したゴム・コード複合体で形成されている。カーカスコードは、例えば、有機繊維コードが用いられ、とりわけポリエステルコードが望ましい。カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90°の範囲、好ましくは90°の範囲で配向されている。したがって、本実施形態のカーカス6は、ラジアル構造として構成されている。
【0019】
各カーカスプライ6Aは、一対のビードコア5、5間をトロイド状に延びる本体部6aと、それぞれのビードコア5でタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを含むターンナッププライである。本実施形態では、2枚のカーカスプライ6A、6Bがターンナッププライである。好ましい態様では、少なくとも1枚のカーカスプライの折返し部6bは、タイヤ断面高さHの50%位置よりもタイヤ半径方向外側に位置するいわゆるハイターンナップ構造を備える。ここで、「タイヤ断面高さ」は、空気入りタイヤ1の正規状態において、ビードベースラインBLからタイヤ半径方向の最も外側までのタイヤ半径方向距離である。
【0020】
各ビード部4において、カーカスプライ6Aの本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードエーペックスゴム8が配されている。ビードエーペックスゴム8は、例えば、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にテーパ状に延びている。ビードエーペックスゴム8は、トレッドゴムやサイドウォールゴムに比して硬いゴム組成物からなる。このようなビードエーペックスゴム8は、ビード部4の曲げ剛性を高め、操縦安定性を向上するのに役立つ。
【0021】
ベルト層7は、例えば、2枚以上のベルトプライ7A、7Bを用いて構成されている。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードの配列体をトッピングゴムで被覆したゴム・コード複合体である。ベルトコードは、例えば、スチールコードであって、タイヤ赤道Cに対して、例えば15~35°の角度で配向されている。また、ベルトプライ7A、7Bは、それぞれのスチールコードが互いに交差するように重ねられる。各ベルトプライ7A及び7Bは、トレッド幅TWよりも大きいタイヤ軸方向の幅を有する。
【0022】
本実施形態の空気入りタイヤ1は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側に、バンド層9が配されている。バンド層9は、1又は複数のバンドプライで構成される。バンドプライは、バンドコードの配列体をトッピングゴムで被覆したゴム・コード複合体である。本実施形態のバンドコードは、例えば、有機繊維コードであって、タイヤ赤道Cに対して、例えば5°以下の角度で配向される。特に好ましい態様では、バンドプライは、1本又は複数本のバンドコードを並列したリボン状のプライをタイヤ周方向に沿って螺旋状に巻きつけることにより形成されたいわゆるジョイントレスプライで形成される。このようなバンド層9は、高速走行時のベルト層7のリフティングやトレッド部2の変形を抑制し、高速走行時の騒音特性を改善するのに役立つ。
【0023】
本実施形態のバンド層9は、ベルト層7のタイヤ軸方向の全幅を覆うフルバンド9Aと、ベルト層7のタイヤ軸方向の両端部のみを覆う一対のエッジバンド9Bとを含む。フルバンド9Aは、ベルトプライ7A、7Bよりも大きいタイヤ軸方向の幅を有する。エッジバンド9Bは、フルバンド9Aの両端部に重ねられている。エッジバンド9Bのタイヤ軸方向の内端は、ショルダーリブ内に位置している。
【0024】
[トレッド部のパターン]
図2は、本発明の一実施形態のトレッド部2の平面展開図である。図2に示されるように、トレッド部2には、タイヤ周方向に直線状で連続して延びる4本の周方向溝10が設けられる。これにより、トレッド部2は、4本の周方向溝10で区分された5つのリブ11を備えたパターン(リブパターン)で構成される。
【0025】
本明細書において、「リブ」とは、タイヤ1周に亘って連続するトレッド部2の陸部分を意味する。ここで、「連続する」とは、少なくとも部分的にタイヤ周方向に連続していれば良い。したがって、リブには、タイヤ軸方向の一方及び/又は両方の側縁に、一端がリブ内で途切れるサイプ、横溝、凹部等が設けられていても良い。
【0026】
本明細書において、「サイプ」とは、トレッド部2の陸部に形成された幅の小さい切込みを意味する。サイプは、空気入りタイヤ1の正規荷重下での接地領域内において、対向する一対のサイプ壁面の少なくとも一部が互いに接触する。このようなサイプは、例えば、サイプ長さ方向と直交する向きの幅(サイプ幅)が1.5mm以下、好ましくは1.0mm以下、0.8mm以下の部分を有する。
【0027】
本明細書において、「溝」とは、サイプよりも大きい溝幅を有し、空気入りタイヤ1の正規荷重下でのトレッド接地面において、対向する一対の溝壁は互いに接触しない。溝は、通常、1.5mmよりも大きい溝幅を備える。
【0028】
4本の周方向溝10は、第1クラウン周方向溝10A、第2クラウン周方向溝10B、第1ショルダー周方向溝10C及び第2ショルダー周方向溝10Dを含む。
【0029】
第1クラウン周方向溝10Aは、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間に配置されている。第2クラウン周方向溝10Bは、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間に配置されている。第1ショルダー周方向溝10Cは、第1クラウン周方向溝10Aと第1トレッド端Te1との間に配置されている。第2ショルダー周方向溝10Dは、第2クラウン周方向溝10Bと第2トレッド端Te2との間に配置されている。
【0030】
4本の周方向溝10は、いずれも直線状でタイヤ周方向に連続している。これにより、ウエット路面上で効果的な排水性能が得られる。また、本実施形態の周方向溝10は、実質的に一定の溝幅でタイヤ周方向に延びている。「実質的に」とは、空気入りタイヤ1というゴム製品の製造時に不可避的に生じる公差を許容する趣旨である。このような周方向溝10は、ジグザグ等の振幅を有しないため、走行時にピッチ音といった周期的な騒音も発生し難い。これは、加速走行時の騒音抑制にも役立つ。
【0031】
周方向溝10の溝幅は特に制限されない。本実施形態のような乗用車用の空気入りタイヤ1の場合、周方向溝10の溝幅は、十分な排水性能を発揮させるために、例えば、5mm以上が望ましく、さらには6mm以上が望ましい。他方、周方向溝10の溝幅は、十分なドライグリップ性能を発揮させるために、例えば、20mm以下が望ましい。
【0032】
本明細書において、「溝幅」とは、トレッド接地面2aにおける一対の溝縁間の距離であり、溝の長手方向と直交する方向に測定される。ただし、溝壁のトレッド接地面側に面取りが設けられている場合、溝幅は、面取りを除外して測定される。より具体的には、面取りがないとした溝壁の仮想延長線と、トレッド接地面の仮想延長線との交点を溝縁とみなして溝幅が測定される。
【0033】
本実施形態において、第1クラウン周方向溝10A及び第2クラウン周方向溝10Bの溝幅は、例えば、第1ショルダー周方向溝10C及び第2ショルダー周方向溝10Dの溝幅よりも大きい。各クラウン周方向溝10A及び10Bは、走行時の接地圧が相対的に大きいトレッド中央域に位置するので、これらの溝幅を相対的に大きくすることにより、ドライグリップ性能を損ねずにウエット性能が向上する。一つの態様では、クラウン周方向溝10A及び10Bの溝幅は、第1ショルダー周方向溝10Cの溝幅の13%以上、さらには15%以上、さらに好ましくは20%以上大きいことが望ましい。
【0034】
本実施形態において、第1ショルダー周方向溝10Cの溝幅は、第2ショルダー周方向溝10Dの溝幅よりも小さい。この構成により、車両外側に位置する第1ショルダー周方向溝10C付近の陸部剛性が相対的に高められ、コーナリング時に第1ショルダーリブ141の変形が抑制され、横方向のグリップ力を向上させる。この結果、コーナリング時の操縦安定性が改善される。さらに、乗用車には、サスペンションにネガティブキャンバー角がつけられることが多いため、車両内側に位置する相対的に溝幅が大きい第2ショルダー周方向溝10Dによって良好な排水効果が得られる。
【0035】
本実施形態において、周方向溝10の溝深さは特に制限されないが、十分な排水性能を発揮させるために、例えば、5mm以上が望ましく、さらには6mm以上が望ましい。他方、周方向溝10の溝深さは、各リブの横剛性などを維持するために、例えば、13mm以下が望ましい。
【0036】
トレッド部2は、5つのリブ11として、クラウンリブ12と、一対のミドルリブ13と、一対のショルダーリブ14とを含む。
【0037】
クラウンリブ12は、第1クラウン周方向溝10Aと第2クラウン周方向溝10Bとの間に位置する。したがって、クラウンリブ12は、タイヤ赤道C上に設けられる。
【0038】
ミドルリブ13は、第1クラウン周方向溝10Aと第1ショルダー周方向溝10Cとの間に位置する第1ミドルリブ131と、第2クラウン周方向溝10Bと第2ショルダー周方向溝10Dとの間に位置する第2ミドルリブ132とを含む。ただし、第1ミドルリブ131と第2ミドルリブ132とを特に区別する必要がない場合、単に、ミドルリブ13と表現されることがある。
【0039】
ショルダーリブ14は、第1ショルダー周方向溝10Cのタイヤ軸方向外側に位置する第1ショルダーリブ141と、第2ショルダー周方向溝10Dのタイヤ軸方向外側に位置する第2ショルダーリブ142とを含む。ただし、第1ショルダーリブ141と第2ショルダーリブ142とを特に区別する必要がない場合、単に、ショルダーリブ14と表現されることがある。
【0040】
本実施形態では、クラウンリブ12、第1ミドルリブ131及び第2ミドルリブ132のそれぞれには、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した複数のサイプ20が形成されている。サイプ20は、空気入りタイヤ1のウエットグリップ性能や耐摩耗性を向上させる。また、サイプ20は、クラウンリブ12やミドルリブ13等の剛性分布を最適化することにより、加速走行時の騒音性能を改善するのに役立つ。これについては後述する。
【0041】
図3は、図2のトレッド部2の部分拡大図を示す。図3に示されるように、本実施形態のクラウンリブ12には、複数のクラウンサイプ21、22が設けられている。各クラウンサイプ21、22は、クラウンリブ12をタイヤ軸方向に完全には横切っていない。また、各クラウンサイプ21、22は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜している。この実施形態では、クラウンサイプ21、22は、全長さに亘って直線状に延びている。
【0042】
クラウンサイプ21は、一つの周方向溝10(第1クラウン周方向溝10A)から延び、かつ、クラウンリブ12内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。クラウンサイプ21は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(途切れ端)21Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端21B(開放端)とを有する。
【0043】
クラウンサイプ22は、一つの周方向溝10(第2クラウン周方向溝10B)から延び、かつ、クラウンリブ12内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。クラウンサイプ22は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(開放端)22Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端(途切れ端)22Bとを有する。
【0044】
第1ミドルリブ131には、複数の第1ミドルサイプ23、24が設けられている。各第1ミドルサイプ23、24は、第1ミドルリブ131をタイヤ軸方向に完全には横切っていない。また、各第1ミドルサイプ23、24は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜している。この実施形態では、第1ミドルサイプ23、24は、全長さに亘って直線状に延びている。
【0045】
第1ミドルサイプ23は、一つの周方向溝10(第1ショルダー周方向溝10C)から延び、かつ、第1ミドルリブ131内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。第1ミドルサイプ23は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(途切れ端)23Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端23B(開放端)とを有する。
【0046】
第1ミドルサイプ24は、一つの周方向溝10(第1クラウン周方向溝10A)から延び、かつ、第1ミドルリブ131内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。第1ミドルサイプ24は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(開放端)24Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端24B(途切れ端)とを有する。
【0047】
第2ミドルリブ132には、複数の第2ミドルサイプ25、26が設けられている。各第2ミドルサイプ25、26は、第2ミドルリブ132をタイヤ軸方向に完全には横切っていない。また、各第2ミドルサイプ25、26は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜している。この実施形態では、第2ミドルサイプ25、26は、全長さに亘って直線状に延びている。
【0048】
第2ミドルサイプ25は、一つの周方向溝10(第2クラウン周方向溝10B)から延び、かつ、第2ミドルリブ132内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。第2ミドルサイプ25は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(途切れ端)25Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端25B(開放端)とを有する。
【0049】
第2ミドルサイプ26は、一つの周方向溝10(第2ショルダー周方向溝10D)から延び、かつ、第2ミドルリブ132内で途切れる、いわゆるセミオープンサイプである。第2ミドルサイプ26は、タイヤ周方向の第1の側CD1の第1端(開放端)26Aと、タイヤ周方向の第2の側CD2の第2端26B(途切れ端)とを有する。
【0050】
本実施形態において、クラウンリブ12及びミドルリブ13には、サイプ20のみが形成されており、横溝は設けられていない。トレッド中央域に位置するこれらのリブ12及び13は、高い接地圧に晒され、加速走行時に騒音を発生させやすい。しかし、これらのリブ12及び13に横溝を設けないことで、加速走行時の横溝の変形に伴う騒音の発生を抑制するのに役立つ。
【0051】
図2を参照すると、ショルダーリブ14には、タイヤ周方向に間隔をあけて配された複数のショルダー横溝27が形成されている。ショルダー横溝27は、第1ショルダーリブ141に設けられた第1ショルダー横溝28と、第2ショルダーリブ142に設けられた第2ショルダー横溝29とを含む。
【0052】
第1ショルダー横溝28は、第1トレッド端Te1と交差している。より詳細には、第1ショルダー横溝28は、第1トレッド端Te1よりもタイヤ軸方向の外側に位置するタイヤ軸方向の外端28Aと、第1ショルダーリブ141内で途切れるタイヤ軸方向の内端28Bとを有する。したがって、第1ショルダー横溝28の内端28Bは、第1ショルダー周方向溝10Cには連通していない。また、第1ショルダー横溝28の内端28Bは、他のサイプ等に接続されておらず、間接的にも第1ショルダー周方向溝10Cには連通していない。このような第1ショルダー横溝28は、排水性を維持しながら、第1ショルダーリブ141の前後剛性を高く維持することができる。
【0053】
第2ショルダー横溝29は、第2トレッド端Te2と交差している。より詳細には、第2ショルダー横溝29は、第2トレッド端Te2よりもタイヤ軸方向の外側に位置するタイヤ軸方向の外端29Aと、第2ショルダーリブ142内で途切れるタイヤ軸方向の内端29Bとを有する。したがって、第2ショルダー横溝29の内端29Bは、第2ショルダー周方向溝10Dには連通していない。また、第2ショルダー横溝29の内端29Bは、他のサイプ等に接続されておらず、間接的にも第2ショルダー周方向溝10Dには連通していない。このような第2ショルダー横溝29は、排水性を維持しながら、第2ショルダーリブ142の前後剛性を高く維持することができる。
【0054】
ショルダーリブ14には、タイヤ周方向に間隔をあけて配された複数のショルダーサイプ40が形成されている。ショルダーサイプ40は、第1ショルダーリブ141に設けられた第1ショルダーサイプ41と、第2ショルダーリブ142に設けられた第2ショルダーサイプ42とを含む。
【0055】
各第1ショルダーサイプ41は、第1ショルダーリブ141をタイヤ軸方向に完全には横切っていない。本実施形態の第1ショルダーサイプ41は、タイヤ軸方向の内端41Bが第1ショルダー周方向溝10Cに連通し、かつ、タイヤ軸方向の外端41Aが、第1ショルダーリブ141内で途切れている。また、各第1ショルダーサイプ41は、第1ショルダー横溝28にも連通していない。
【0056】
各第2ショルダーサイプ42は、第2ショルダーリブ142をタイヤ軸方向に完全には横切っていない。本実施形態の第2ショルダーサイプ42は、タイヤ軸方向の内端42Bが第2ショルダー周方向溝10Dに連通し、かつ、タイヤ軸方向の外端42Aが、第2ショルダーリブ142内で途切れている。また、各第2ショルダーサイプ42は、第2ショルダー横溝29にも連通していない。
【0057】
トレッド部2には、上述のサイプ及び横溝により、パターンが形成される。パターンは、単位模様である「ピッチ」がタイヤ周方向に繰り返し形成されている。
【0058】
さて、車両が加速走行する際にタイヤから生じる騒音(以下、「加速騒音」ということがある。)については、種々研究がなされているが、これまでのところ、単位時間あたりのトレッドブロックのすべりによる体積速度の影響を受けると考えられている。より詳細には、加速騒音の大きさは、一つのブロック当たりのすべりによる体積速度と、単位時間当たりに路面から離脱するブロック数との積に一定の相関があると考えられている。このため、加速騒音を低減させるための一つの方法は、加速走行時のトレッド部2のブロックのすべり量を小さくすることである。なお、リブパターンの場合、上記「ブロック」は、各リブの「ピッチ」に読み替えることができる。
【0059】
発明者らは、このような知見を踏まえ、加速騒音を低減するために、以下のように、特定範囲のランド比、各リブの1ピッチの前後剛性、及び、サイプのエッジ形状に着目した。
【0060】
[ランド比]
本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2のパターンのランド比が一定範囲に特定される。具体的には、パターンのランド比は、0.70~0.85の範囲とされる。本明細書において、「ランド比」とは、トレッド部2の仮想接地面の面積Saに対する、実際の接地面の面積Scの割合を意味する。トレッド部2の仮想接地面の面積Saは、空気入りタイヤ1を正規内圧で正規リムに装着し、ロードインデックスLIの70%の荷重を負荷して、キャンバー角0°で平面に接地させた正規荷重状態での接地面の輪郭形状から特定される面積である。したがって、仮想接地面は、実際の接地部分の他、溝やサイプも含む。一方、トレッド部2の実際の接地面の面積Scは、正規荷重状態において、実際に地面に接地する部分の面積である。このようなランド比を0.70~0.85の範囲に設定することにより、排水性を損なわずに、トレッド部2の基本的なパターン剛性を維持することができる。
【0061】
[リブの1ピッチの前後剛性]
次に、発明者らは、クラウンリブ12、ミドルリブ13及びショルダーリブ14の1ピッチの前後剛性に着目した。図4には、トレッド部2のパターンを構成する各リブの一つのピッチが例示される。図4では、クラウンリブ12の1ピッチPc、第1ミドルリブ131の1ピッチPm1、第2ミドルリブ132の1ピッチPm2、第1ショルダーリブ141の1ピッチPs1及び第2ショルダーリブ142の1ピッチPs2がそれぞれ示される。各リブの1ピッチは、トレッドゴム部分を対象としており、図7Aに示されるように、1ピッチのタイヤ半径方向の内側の境界は、周方向溝10の溝底を通ってトレッド接地面2aと平行なプロファイル面TPとされる。したがって、図7Aのハッチング部は、各リブ12、13及び14の1ピッチの断面を示している。また、ショルダーリブ14の1ピッチのタイヤ軸方向の外側の境界は、空気入りタイヤ1を正規リムにリム組みし、内圧を240kPaに調整し、6.16kNの縦荷重を負荷して水平面に押し付けたときの接地外端14eとして定義される。この接地外端14eに立てたトレッド法線でショルダーリブ14の1ピッチが画定される。
【0062】
本実施形態の空気入りタイヤ1では、上述のランド比を前提として、第1ショルダーリブ141及び第2ショルダーリブ142の1ピッチの前後剛性Ksは、第1ミドルリブ131及び第2ミドルリブ132の1ピッチの前後剛性Km及び前記クラウンリブ12の1ピッチの前後剛性Kcよりも大きく構成される。
【0063】
ショルダーリブ14は、クラウンリブ12及びミドルリブ13に比べると直進走行時の接地圧が相対的に低く、他のリブに比べると、加速走行時に路面に対するすべり量が大きくなる傾向がある。また、加速走行時の各リブのすべり量は、各リブの1ピッチのタイヤ周方向のせん断変形量と相関があることがわかった。そこで、本実施形態では、各ショルダー横溝27を、ショルダー周方向溝10C、10Dに連通させることなくショルダーリブ14内で途切れさせる構成を前提としつつ、トレッド部2のパターンのランド比を0.70~0.85の範囲に制限して基本的なパターン剛性を十分に確保し、さらに、クラウンリブ12、ミドルリブ13及びショルダーリブ14の1ピッチの前後剛性を、Ks>Km、かつ、Ks>Kcとした。これにより、加速走行時のショルダーリブ14のタイヤ周方向のせん断変形量が抑制され、そのすべり量も効果的に抑制される。
【0064】
各リブの1ピッチの前後剛性Kは、図5に模式的に示されるように、1ピッチに前後方向(タイヤ周方向X)の荷重Pが作用したときに単位たわみを発生させる力で表される。本明細書において、各リブの1ピッチの前後剛性は、図7Bに示されるような剛性測定装置100により計測することができる。剛性測定装置100は、第1固定台101と、第1固定台101の上をX方向にスムーズに移動可能な移動台102と、移動台102のX方向の移動距離を測定するための距離測定器103と、移動台102に負荷される横荷重fを測定するための横荷重測定器104と、移動台102の上方に位置する上下移動可能な第2固定台105と、第2固定台105に垂直下向きの縦荷重を負荷する縦荷重負荷器106と、移動台102に水平な横荷重fを付加するための横荷重負荷器107とを含む。
【0065】
剛性測定装置100の移動台102と第2固定台105との間には、空気入りタイヤ1のトレッド部2から切り出された各リブの1ピッチに相当するサンプル片200が配置される。サンプル片200は、図7Aで示したように、周方向溝10の溝底を通ってトレッド接地面2aと平行なプロファイル面TPで確定されたトレッドゴムの1ピッチ部分である。図7Cには、第1ショルダーリブの1ピッチ(Ps1)のサンプル片200を示す。サンプル片200の上面(トレッド接地面2a側)は、第2固定台105の下面に接着剤、両面テープ等の固定手段により固着される。サンプル片200の下面は、移動台102の上面に前記固定手段により固着される。さらに、サンプル片200のタイヤ周方向は、剛性測定装置100のX方向に揃えられる。
【0066】
サンプル片200には、まず、縦荷重負荷器106により縦荷重F0が負荷され、次に、横荷重負荷器により横荷重fが負荷される。これにより、図7Aに仮想線で示すように、サンプル片200は、X方向にせん断変形し、そのときのX方向せん断変位量tが距離測定器103により測定される。そして、各リブの1ピッチの前後剛性は、前記横荷重fと、X方向の変位量tとから次式で示される。
1ピッチの前後剛性=f/t (単位:N/mm)
ここで、縦荷重F0は、サンプル片200のトレッド接地面の面積(単位:cm)をAとした時、F0=25×A(単位:N)で特定される。横荷重fは任意に定められる。
【0067】
各ピッチの前後剛性は、リブ幅、サイプの長さ、及び/又は、サイプの深さを調整することで、所望の値に調整することが可能である。いくつかの例では、リブ幅は広く、サイプの長さが小さい、及び、サイプの深さが小さいとすると、リブの前後剛性を大きく設定することができる。
【0068】
好ましい態様では、ショルダーリブ14の前後剛性Ksは、クラウンリブ12の前後剛性Kcの1.10~1.20倍とされる。同様に、好ましい態様では、ショルダーリブ14の前後剛性Ksは、ミドルリブ13の前後剛性Kmの1.10~1.20倍とされる。他方、クラウンリブ12の前後剛性Kcと、各ミドルリブ13の前後剛性Kmとは、同一又は近似することが望ましい。より具体的には、クラウンリブ12の前後剛性Kcは、各ミドルリブ13の前後剛性Kmの0.97~1.03倍が望ましく、さらには、0.99~1.02倍が望ましい。このような態様の空気入りタイヤ1は、接地圧の高いトレッド中央領域において、加速走行時、クラウンリブ12とミドルリブ13との剛性差に起因するリブ間の相対的なすべりについても抑制することができる。この結果、本実施形態の空気入りタイヤ1は、加速騒音のさらなる低減を図ることができる。
【0069】
[1ピッチのタイヤ周方向の長さ]
図4に示されるように、トレッド部2のパターンにおいて、1ピッチのタイヤ周方向の長さLPを特定することも有効である。好ましい態様では、1ピッチは、25~35mmのタイヤ周方向の長さLPを有する。1ピッチの長さLPが特定されることにより、各ピッチの前後剛性がさらに最適化され、加速走行時のすべり量が効果的に抑制される。なお、1ピッチのタイヤ周方向の長さLPは、タイヤ1周に亘って一定でも良いし、可変であっていても良い。後者の態様は、いわゆるバリアブルピッチと呼ばれる。パリアブルピッチでは、加速走行時にピッチノイズがさらに低減される点で望ましい。また、バリアブルピッチが採用されたパターンでは、各リブ内において、1ピッチの前後剛性が異なる。このような場合、各リブの1ピッチの前後剛性は、最も大きい前後剛性が採用される。
【0070】
また、図2に示されるように、本実施形態では、好ましい態様として、クラウンリブ12、第1ミドルリブ131及び第2ミドルリブ132の接地面のプロファイル長さLは、実質的に同一とされている。接地面のプロファイル長さLは、リブの側縁間の接地面に沿った長さである。リブの側縁は、周方向溝10に関して説明された「溝縁」と同義である。クラウンリブ12、第1ミドルリブ131及び第2ミドルリブ132の接地面のプロファイル長さLを実質的に同一とし、これらの接地幅も互いに等しくすることで、それぞれのリブ剛性をより一層近似させることができる。したがって、本実施形態の空気入りタイヤ1は、個々のリブ12及び13のすべりを抑制するとともに、接地圧の高いトレッド中央領域において、各リブ12及び13の剛性差に起因するリブ間の相対的なすべりをも抑制することができる。この結果、本実施形態の空気入りタイヤ1は、加速騒音のさらなる低減を図ることができる。
【0071】
[サイプのエッジ形状]
図8は、クラウンリブ12及びミドルリブ13に設けられたサイプ20の代表例として、クラウンサイプ21の断面図を示す。これ以外のクラウンサイプ22、第1ミドルサイプ23、24、第2ミドルサイプ25、26も同様の断面形状を有する。図8に示されるように、本実施形態のサイプ20は、実質的に一定のサイプ幅で、トレッド接地面2aからタイヤ半径方向内側に、例えば、真っ直ぐに延びている。また、本実施形態のサイプ20は、一対のサイプ壁面20aとトレッド接地面2aとの間のコーナ部に面取りは設けられていない。すなわち、サイプ20のトレッド接地面2aとサイプ壁との間のコーナ部は、その全範囲において、鋭い角部で形成されている。具体的には、サイプ20のコーナ部の曲率半径は、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下とされる。
【0072】
一般に、車両の加速走行時、空気入りタイヤ1は、滑りながら路面を蹴り出す動作が強まる。このため、加速騒音は、トレッド部2に形成されたサイプのエッジ形状によって変わる。例えば、サイプのエッジ部分に面取りが形成されていると、路面に対するサイプの摩擦が低下し、面取りが形成されていないサイプに比べると、路面に対して滑りやすくなる。また、そのような滑りに伴い、サイプが接地面から出る際に大きく開く傾向がある。したがって、接地圧が相対的に高いクラウンリブ12及びミドルリブ13に面取りを備えたサイプ20を設けた場合、加速走行時には、これらのサイプに起因するタイヤ騒音が生じることが分かった。
【0073】
本発明では、上述のようなランド比と各リブの1ピッチあたりの前後剛性の関係性を前提として、接地圧が相対的に高まりやすいクラウンリブ12及びミドルリブ13に面取りを備えないサイプ20を配置することとした。これにより、加速走行時において、クラウンリブ12及びミドルリブ13のサイプ付近での滑りや、それに伴うサイプの大きな開きが抑制される。すなわち、本発明の空気入りタイヤ1は、加速走行時のサイプ変位が抑制され、加速騒音が効果的に抑制され得る。また、面取りが設けられていないサイプ20は、面取りが設けられているサイプに比べてサイプ容積が小さく、加速走行中における接地時のサイプ内の空気変位が抑制され、ひいては、パターンノイズが低減する。また、面取りが設けられていないサイプ20は、タイヤ走行時、接地面内に入った際の接触圧が低減され、インパクトノイズも低減する。したがって、本実施形態の空気入りタイヤ1は、加速騒音がさらに抑制され得る。
【0074】
[サイプのシームレス配置]
上で述べたとおり、加速騒音は、単位時間当たりに路面から離脱するブロック数にも関連しているため、そのようなブロック数を減らすことも有効である。この点に関連して、本実施形態のパターンでは、より好ましい態様として、図3に示されるように、複数のサイプがタイヤ1周に亘って、シームレス配置で並べられた第1のサイプグループG1を備える。
【0075】
本実施形態において、第1のサイプグループG1は、タイヤ赤道Cと第1トレッド端Te1との間に形成されている。詳細には、第1のサイプグループG1は、クラウンリブ12のタイヤ赤道Cよりも第1トレッド端Te1側の部分と、第1ミドルリブ131とに亘って形成されている。より詳細には、本実施形態の第1のサイプグループG1は、クラウンサイプ21及び第1ミドルサイプ23、24を含む。
【0076】
シームレス配置とされた第1のサイプグループG1のサイプは、空気入りタイヤ1が回転するに際して、一つずつ順番に、かつ、実質的に連続するように接地する。より具体的には、タイヤ周方向で隣接する一対のサイプのペアSP1、SP2及びSP3のそれぞれにおいて、タイヤ周方向の第2の側CD2に位置するサイプの第1端が、第1の側CD1に位置するサイプの第2端と、タイヤ周方向で同じ位置に設けられる(条件a)。また、本実施形態のシームレス配置では、ペアSP1、SP2及びSP3のうちの少なくとも1つのペアは、ペアを構成するサイプが互いに異なるリブに形成される(条件b)。このようなサイプのシームレス配置は、サイプの重複接地を防止できることから、単位時間当たりに路面から離脱するサイプ20の数を減らすことができる。
【0077】
図3の例において、例えば、サイプのペアSP1が特定される。ペアSP1は、サイプ23及び24からなる。ペアSP1において、タイヤ周方向の第2の側CD2に位置するサイプ23の第1端23Aは、タイヤ周方向の第1の側CD1に位置するサイプ24の第2端24Bとタイヤ周方向で同じ位置にある。ここで、2つのサイプの第1端と第2端とが、タイヤ周方向で同じ位置にあるか否かは、それらのサイプ中心線を用いて判断される。すなわち、ペアを構成する2つのサイプの第1端と第2端は、それぞれ、サイプ中心線の端で特定される。サイプ中心線は、サイプの一対の縁間の中心線である。サイプの縁に面取り部が設けられている場合(本実施形態では、面取りが設けられていないが)、サイプの縁は、面取り部を除外して特定される。より具体的には、面取りがないとしたサイプ壁の仮想延長線と、トレッド接地面の仮想延長線との交点をサイプの縁とみなす。
【0078】
ただし、タイヤという加硫ゴム製品の特性を鑑み、製造上の公差を許容しうるように、前記「同じ位置」には、2つの端部がタイヤ周方向に非常に小さな距離でずれる態様が含まれる。この場合、距離は、サイプのペアに属する2つのサイプの中心線のタイヤ周方向の長さの和の5%以下とされ、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下とされる。最も好ましくは、2つの端部がタイヤ周方向でずれていない。まとめると、ペアSP1は、条件aを満たすが、2つのサイプが同一のリブ(第1ミドルリブ131)に形成されているため、条件bは満たさない。
【0079】
次に、サイプのペアSP2が特定される。ペアSP2は、ペアSP1の第2の側CD2に隣接するサイプのペアである。このペアSP2は、ペアSP1の第2の側CD2に位置するサイプ23と、クラウンリブ12に設けられたサイプ21とからなる。ペアSP2において、タイヤ周方向の第2の側CD2に位置するサイプ21の第1端21Aは、タイヤ周方向の第1の側CD1に位置するサイプ23の第2端23Bとタイヤ周方向で同じ位置にある。したがって、ペアSP2は、条件aを満たす。また、ペアSP2において、サイプ23は、第1ミドルリブ131に形成されるのに対して、サイプ21は、クラウンリブ12に形成されている。したがって、ペアSP2の2つのサイプ23及び21は、互いに異なるリブに形成されており、条件bも満たす。
【0080】
次に、サイプのペアSP3が特定される。ペアSP3は、サイプ21及び24からなる。すなわち、ペアSP3は、ペアSP2の第2の側CD2のサイプ21と、ペアSP1の第1の側CD1に位置するサイプ24を含む。ペアSP3も、タイヤ周方向の第2の側CD2に位置するサイプ24の第1端24Aは、タイヤ周方向の第1の側CD1に位置するサイプ21の第2端21Bとタイヤ周方向で同じ位置にある。したがって、ペアSP3は、条件aを満たす。また、ペアSP3において、サイプ21は、クラウンリブ12に形成されるのに対して、サイプ24は、第1ミドルリブ131に形成されている。したがって、ペアSP3の2つのサイプ21及び24は、互いに異なるリブに形成されており、条件bも満たす。
【0081】
タイヤ走行時のノイズとして、ピッチ音が知られている。例えば、サイプが形成されたリブが路面に接触する度にインパクト力が生じる。このインパクト力は、トレッド部2やサイドウォール部3を周期的に振動させることで、ピッチ音を生じさせる。また、ピッチ音は、車両の加速走行に伴って大きくなる傾向がある。しかし、本実施形態のようなシームレス配置で並べられた第1のサイプグループG1は、タイヤ走行時、サイプが交互に、かつ、絶え間なく連続的に接地することから、インパクト力の変動を小さくし、リブの接地に伴うピッチ音を低減することでも、加速騒音をさらに低減することができる。
【0082】
本実施形態の空気入りタイヤ1はまた、複数のサイプがタイヤ1周に亘って、シームレス配置で並べられた第2のサイプグループG2を含む。
【0083】
本実施形態において、第2のサイプグループG2は、タイヤ赤道Cと第2トレッド端Te2との間に形成されている。より詳細には、第2のサイプグループG2は、タイヤ赤道Cと第2ショルダー周方向溝10Dとの間、すなわち、クラウンリブ12のタイヤ赤道Cよりも第2トレッド端Te2側の部分と、第2ミドルリブ132とに亘って形成されている。そして、本実施形態の第2のサイプグループG2は、クラウンサイプ22及び第2ミドルサイプ25、26で構成される。
【0084】
第2のサイプグループG2は、サイプのペアSP4、SP5及びSP6を含み、これらは、それぞれ、第1のサイプグループG1のサイプのペアSP1、SP2及びSP3に対応しているため、詳細な説明は省略される。第2のサイプグループG2も、タイヤ走行時、サイプが交互に、かつ、絶え間なく連続的に接地することから、インパクト力の変動を小さくし、リブの接地に伴うピッチ音を低減することにより、加速騒音を低減しうる。
【0085】
より好ましい態様として、本実施形態のクラウンリブ12及びミドルリブ13には、サイプとして、シームレス配置とされた第1のサイプグループG1及び第2のサイプグループG2のみが形成されている。このようなトレッド部2は、接地圧が高いトレッド中央域で生じる加速騒音の低減に役立つ。
【0086】
また、本実施形態では、第1のサイプグループG1に属するサイプは、タイヤ赤道C上の任意の点を中心として180°回転させた際、第2のサイプグループG2に属する各サイプと実質的に重なる。すなわち、第2のサイプグループG2は、第1のサイプグループG1の点対称な配置を取る。これにより、タイヤ周方向に隣接するサイプ26、25、22、21、24及び23が、この順にタイヤ周方向の第1の側CD1から第2の側CD2に向かってシームレスに接地する。このようなサイプの配列は、加速騒音をさらに低減する効果をもたらす。
【0087】
クラウンリブ12及びミドルリブ13に形成された複数のサイプは、タイヤ周方向に対して互いに同じ向きに傾斜している。この実施形態では、各サイプは、図において、右上がりに傾斜している。
【0088】
[サイプの実施形態]
クラウンサイプ21、22のタイヤ周方向に対する角度βは特に制限されないが、例えば30~85°の範囲で設定することができる。一方、タイヤ周方向に対して比較的小さい角度を有するサイプは、タイヤ軸方向のエッジ成分を減らす。このような観点から、クラウンサイプ21、22のタイヤ周方向に対する角度βは、好ましくは30~85°、より好ましくは30~60°、さらに好ましくは30~55°の範囲であるのが望ましい。
【0089】
セミオープンサイプであるクラウンサイプ21、22は、クラウンリブ12をタイヤ軸方向に完全には分断しないため、リブの前後剛性を高く維持し、加速走行時でもクラウンリブ12の各ピッチの接地時のすべりを抑制することができる。また、セミオープンサイプであるクラウンサイプ21、22に、上述のタイヤ周方向に対する比較的小さい角度を適用することで、クラウンサイプ21、22の横エッジ成分は小さくなる。したがって、サイプ21、22が接地面から接地面外に出ていく際に、サイプの開き量やすべり量がより小さく抑えられる。これにより、クラウンリブ12での加速騒音が低減される。特に好ましい態様では、クラウンサイプ21、22のタイヤ軸方向の長さLcは、例えば、クラウンリブ12の接地面のタイヤ軸方向の幅Wcの20%~45%の範囲であるのが望ましい。
【0090】
第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26のタイヤ周方向に対するそれぞれの角度γ及びδは特に制限されないが、例えば、30~85°の範囲で設定することができる。一方、クラウンサイプ21、22と同様、タイヤ軸方向のエッジ成分を減らして加速騒音を低減させる観点から、第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26のタイヤ周方向に対するそれぞれの角度γ及びδは、好ましくは30~85°、より好ましくは30~60°、さらに好ましくは30~55°の範囲であるのが望ましい。第1ミドルサイプ23、24のタイヤ軸方向の長さLm1は、第1ミドルリブ131の接地面のタイヤ軸方向の幅Wm1の20%~45%の範囲であるのが望ましい。同様に、第2ミドルサイプ25、26のタイヤ軸方向の長さLm2は、第2ミドルリブ132の接地面のタイヤ軸方向の幅Wm2の20%~45%の範囲であるのが望ましい。
【0091】
クラウンサイプ21、22、第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26において、これらのタイヤ周方向に対する角度の差は、好ましくは50°以下、より好ましくは40°以下、さらに好ましくは30°以下とされる。ここで、前記「角度の差」は、2つのサイプのタイヤ周方向に対する角度の差を意味する。より具体的には、まず、各サイプについて、タイヤ周方向に対する角度がそれぞれ特定され、次いで、クラウンサイプ21、22、第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26の中から、タイヤ周方向に対する角度が最も大きいサイプと、タイヤ周方向に対する角度が最も小さいサイプとが特定され、それらの角度差が計算される。なお、各サイプが曲線状やジグザグ状のような場合、サイプのタイヤ周方向に対する角度β、γ及びδは、サイプの両端を結ぶ直線のタイヤ周方向に対する角度として定義される。
【0092】
本実施形態では、クラウンサイプ21、22のタイヤ周方向に対する角度βは約33°である。また、第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26のそれぞれのタイヤ周方向に対する角度γ及びδも約33°である。したがって、クラウンサイプ21、22、第1ミドルサイプ23、24及び第2ミドルサイプ25、26は、互いに平行に延びており、これらのサイプのタイヤ周方向に対する角度の差は実質的に零である。このような態様は、加速騒音をより一層低減するのに役立つ。
【0093】
図9には、図2のIX-IX線断面図が示される。図9に示されるように、本実施形態のクラウンサイプ21は、実質的に一定の深さD1を有する基部21mと、深さが第1端21Aに向かって漸減する副部21sとを備える。基部21mの深さD1は、例えば、第1クラウン周方向溝10Aの深さDの70%~90%とされ、本実施形態では約85%とされる。また、副部21sは、クラウンサイプ21の第1端21Aに立てたトレッド法線に対して角度θ1で傾斜する端部を有する。角度θ1は、例えば、クラウンリブ12のリブ壁の角度θ2よりも大きくするのが望ましく、これにより、クラウンリブ12の剛性変化を極力小さくすることが加速騒音の低減の観点で望ましい。より詳細には、角度θ1は、15°以上、さらに好ましくは18°~25°が望ましい。
【0094】
本実施形態のクラウンサイプ22も、実質的に一定の深さD1を有する基部22mと、深さが途切れ端22Bに向かって漸減する副部22sとを備える。これらの基部22m及び副部22sの構成は、クラウンサイプ21の基部21m及び副部21sと同一の構成を備える(タイヤ赤道Cに対して、実質的に対称構造を備える。)。
【0095】
図10には、図2のX-X線断面図が示される。図10に示されるように、本実施形態の第1ミドルサイプ23も、実質的に一定の深さD1を有する基部23mと、深さが第1端23Aに向かって漸減する副部23sとを備える。基部23mの深さD1は、例えば、第1ショルダー周方向溝10Cの深さDの70%~90%とされ、本実施形態では約85%とされる。また、副部23sは、第1ミドルサイプ23の第1端23Aに立てたトレッド法線に対して角度θ1で傾斜する端底部を有する。角度θ1は、例えば、第1ミドルリブ131のリブ壁の角度θ2よりも大きいことが望ましく、これにより、第1ミドルリブ131の剛性変化を極力小さくすることが加速騒音の低減の観点で望ましい。より詳細には、角度θ1は、15°以上、さらに好ましくは18°~25°が望ましい。
【0096】
本実施形態の第1ミドルサイプ24も、実質的に一定の深さD1を有する基部24mと、深さが第2端24Bに向かって漸減する副部24sとを備える。これらの基部24m及び副部24sの構成は、第1ミドルサイプ23の基部23m及び副部23sと同一の構成を備える(リブの中心線に対して、実質的に対称構造を備える。)。また、第2ミドルサイプ25及び26も、第1ミドルサイプ23及び24と同一の構造を備える。
【0097】
[周方向サイプ]
図2に示されるように、クラウンリブ12、第1ミドルリブ131及び第2ミドルリブ132の少なくとも1つには、それぞれ、タイヤ周方向と平行に延びる周方向サイプ50が設けられている。本実施形態では、クラウンリブ12及びミドルリブ13に周方向サイプ50が設けられている。周方向サイプ50は、傾斜したサイプ20に比べると、各リブの前後剛性を低下させるという懸念は小さい。むしろ、周方向サイプ50は、リブの接地時の接地圧分布を均一化し、トレッド部2からの入力を緩和して加速走行時のオーバーオールの音圧を低下させるという点で好ましい。
【0098】
周方向サイプ50は、例えば、各リブのタイヤ軸方向の中央領域に設けられている。リブのタイヤ軸方向の中央領域は、リブの接地面のタイヤ軸方向の最大幅の30%の領域であって、そのタイヤ軸方向の中心はリブのタイヤ軸方向の中心と一致する。本実施形態の周方向サイプ50は、各リブのタイヤ軸方向の中心位置に設けられており、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に傾斜したサイプ20とは離隔している。また、本実施形態の周方向サイプ50は、タイヤ周方向に沿って直線状に延びており、かつ、タイヤ周方向に連続している。
【0099】
周方向サイプ50の深さは、特に制限されないが、例えば、リブの接地性を効果的に改善するためには、1.0mm以上が好ましい。他方、リブの前後剛性の低下を抑制するためには、周方向サイプ50の深さは、例えば、5.5mm以下が望ましい。とりわけ、周方向サイプ50の深さは、リブに設けられたタイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜したサイプ20の深さよりも小さいことが望ましく、さらには、周方向サイプ50の深さは、傾斜したサイプ20の深さの50%以下であるのが好ましい。
【0100】
[第1、第2ショルダー横溝]
本実施形態において、第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝は29、直線状に延びており、好ましい態様として、全範囲に亘って直線状に延びている。また、第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29は、例えば、タイヤ周方向に対して60~90°、より好ましくは70~90°、さらに好ましくは75~90°の角度α(図6)を有する。すなわち、本実施形態の第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29は、タイヤ軸方向により近い角度で延びている。このような第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29は、ショルダーリブ14の接地面の輪郭と一致しにくくなることから、溝内で圧縮された空気が一気に接地面外方に排出されることが抑制される。これは、ピッチノイズの低減に役立つ。
【0101】
図6に示されるように、各ショルダーリブ14において、トレッド端からショルダー横溝27のタイヤ軸方向の長さLsは、例えば、ショルダーリブ14の接地面のタイヤ軸方向の長さWsの40%~60%、好ましくは45%~55%の範囲が望ましい。また、好ましい態様では、図1に示されるように、第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29は、エッジバンド9Bの配置領域を覆うように設けられている。より詳細には、第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29のタイヤ軸方向の内端28B及び29Bは、いずれも、一対のエッジバンド9Bのタイヤ軸方向の内端とタイヤ軸方向において実質的に同じ位置にある。第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29のタイヤ軸方向の外端28A及び29Aは、一対のエッジバンド9Bのタイヤ軸方向の外端をタイヤ軸方向外側に超えた位置にある。ショルダーリブ14のエッジバンド9Bの配置領域は、フルバンド9Aと重なることによって局所的に高い剛性を備えるが、第1ショルダー横溝28及び第2ショルダー横溝29をエッジバンド9Bの配置領域を覆うように配置することで、ショルダーリブ14の前後剛性がタイヤ軸方向で均一化し、加速走行時のショルダーリブ14の接地圧分布が均一化することから、ショルダーリブ14のすべり量が抑制される。したがって、加速騒音がさらに低減される。
【0102】
[ショルダーサイプ]
第1ショルダーサイプ41及び第2ショルダーサイプ42は、実質的に同一の構成を備える。本実施形態では、第2ショルダーサイプ42は、第1ショルダーサイプ41の点対称構造を備える。同様に、第2ショルダー横溝29も、第1ショルダー横溝28の点対称構造を備える。以下、第1ショルダーサイプ41及び第1ショルダー横溝28を例に挙げて、それらの構成が説明されるが、それらの構成は、第2ショルダーサイプ42及び第2ショルダー横溝29にも適用される。
【0103】
第1ショルダーサイプ41は、タイヤ周方向に隣接する第1ショルダー横溝28の間に一つ設けられている。図11には、第1ショルダーサイプの拡大平面図が示される。図11に示されるように、第1ショルダーサイプ41は、湾曲部411を含む。このような湾曲部411を有する第1ショルダーサイプ41は、ショルダーリブ14の接地面の輪郭と一致しにくくなることから、サイプ内で圧縮された空気が一気に接地面外方に排出されることが抑制される。これは、ピッチノイズの低減に役立つ。このような作用を得るために、 湾曲部411は、例えば、15~25mmの曲率半径Rを有するのが望ましい。
【0104】
本実施形態の第1ショルダーサイプ41は、湾曲部411と、そのタイヤ軸方向外側に位置する外側直線部412と、湾曲部411のタイヤ軸方向内側に位置する内側直線部413とを備える。外側直線部412は、内側直線部413よりも長く形成されている。また、外側直線部412は、例えば、第1ショルダー横溝28と平行に延びている。外側直線部412は、第1ショルダーサイプ41のタイヤ軸方向の外端41Aを構成しており、この外端41Aは、タイヤ軸方向において、第1ショルダー横溝28のタイヤ軸方向の内端28Bと同じ位置にあるか、それよりもタイヤ軸方向内側に位置する。本実施形態では、前者の態様が示される。すなわち、本実施形態の第1ショルダーサイプ41は、第1ショルダー横溝28と第1ショルダー周方向溝10Cとの間に設けられている。このような配置は、第1ショルダーサイプ41と第1ショルダー横溝28とのタイヤ軸方向の重複によるショルダーリブ14の局所的な剛性低下部分をなくす。これは、加速走行時のショルダーリブ14の接地圧分布を均一化し、加速走行時のすべりをさらに抑制するのに役立つ。
【0105】
図12は、図6のXII-XII線断面図であり、ショルダーサイプ40(この例では第1ショルダーサイプ41)のサイプ面に沿った断面図である。図12に示されるように、ショルダーサイプ40は、サイプ本体部401と、タイバー部402とを含む。
【0106】
タイバー部402は、サイプ底が局所的に隆起させた部分である。本実施形態では、タイバー部402は、ショルダーサイプ40のタイヤ軸方向の内端41Bを含む部分、すなわち、第1ショルダー周方向溝10Cに連通するように設けられている。このようなタイバー部402を含むショルダーサイプ40は、排水性や摩耗性能などを維持しながら、ショルダーリブ14の前後剛性の低下を抑制し、ひいては、加速走行時のショルダーリブ14のすべり量を効果的に抑制することができる。
【0107】
上述の作用効果を十分に発揮させるために、タイバー部402は、第1ショルダー周方向溝10Cの溝深さの30%以下、より好ましくは10~25%以下の深さを有するのが望ましい。本実施形態では、第1ショルダー周方向溝10Cの溝深さが7.0mmであり、タイバー部402の深さが1.4mm(第1ショルダー周方向溝10Cの溝深さ対比で20%)とされている。また、タイバー部402の長さは、ショルダーサイプ40の長さの、例えば5%~20%が望ましい。本実施形態では、ショルダーサイプ40の長さが28.7mmであり、タイバー部402の長さが2.0mm(ショルダーサイプの全長さ対比で約7%)とされており、上述の内側直線部413の範囲内にある。ここで、タイバー部402やサイプの「長さ」は、サイプ平面視において、サイプに沿って測定されるペリフェリ長さを意味する。
【0108】
サイプ本体部401は、タイバー部402のタイヤ軸方向の外側部分を構成している。サイプ本体部401は、タイバー部402よりも大きい深さを有する。このようなサイプ本体部401は、ショルダーリブ14の接地圧を均一化し、その摩耗性能を改善するほか、加速走行時のすべりをさらに抑制するのに役立つ。
【0109】
本実施形態のサイプ本体部401は、ショルダーリブ14の接地面に沿って延びる底部405と、底部405とショルダーサイプ40の外端(この例では、第1ショルダーサイプ41の外端41A)とをつなぐ外側の傾斜面部403と、底部405とタイバー部402とをつなぐ内側の傾斜面部404とを含む。外側の傾斜面部403と内側の傾斜面部404とは、底部405に対して折れ曲がっている。外側の傾斜面部403は、ショルダーサイプ40のタイヤ軸方向の外端に立てた接地面の法線に対して、角度λoで傾いている。その傾きは、タイヤ半径方向の内側に向かって、タイヤ軸方向の内側に向かう。また、内側の傾斜面部404は、タイバー部402と内側の傾斜面部404との接続部を通る接地面の法線に対して、角度λiで傾いている。その傾きは、タイヤ半径方向の内側に向かって、タイヤ軸方向の外側に向かう。
【0110】
本実施形態では、ショルダーサイプ40の好ましい態様として、内側の傾斜面部404の角度λiは、外側の傾斜面部403の角度λoよりも大きく構成されている。ショルダーリブ14のタイヤ軸方向内側は、周方向溝10に隣接していることから、ショルダーリブ14のトレッド端側に比べて剛性が小さいので、上述のように角度の関係をλi>λoとすることにより、ショルダーリブ14の前後剛性をタイヤ軸方向で均一化することができる。これは、ショルダーリブ14の接地圧を均一化し、その摩耗性能を改善するほか、加速走行時のすべりをさらに抑制することができる。好ましくは、角度λiは25~35°の範囲、角度λoは、15~25°の範囲が望ましい。また、角度λiと角度λoとの差は5°以上、より好ましくは8°以上が望ましい。
【0111】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な開示に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、種々変更して実施することができる。
【実施例
【0112】
以下、本発明のより具体的かつ非限定的な実施例が説明される。
表1の仕様に基づいて、各空気入りタイヤ(タイヤサイズ:235/55R19)が試作され、それらの性能がテストされた。実施例1及び2は、図2に示したパターンを有する。比較例1は、図13に示したパターンを有する。比較例2は、図2のパターンを基調とするが、クラウンサイプ及びミドルサイプの各エッジの全長さにわたって面取り(C面取りで面取り幅及び深さが1.5mm)が設けられたものである。比較例3は、図14に示したパターンを有する。なお、表1の1ピッチあたりの前後剛性において、一対のミドルリブは、互いに同じ前後剛性を有し、一対のショルダーリブも互いに同じ前後剛性を有する。
テスト方法は、次のとおりである。
【0113】
[接地面内変位量の最大値]
各テストタイヤが正規リムにリム組みされ、内圧240kPaに調整された後、各リブの表面に、単点測定用のマーカーが塗布された。そして、キャンバー角0°、スリップ角0°、縦荷重5.01kN、駆動力1kNの条件で、多点式の台上摩耗エネルギー評価試験機上を転動させ、各マーカーの接地開始から接地終了までの間の最大の変位量(すべり量)が測定された。変位量が小さいほど、接地中の各リブのすべり量が小さく、良好であることを示す。
【0114】
[加速騒音テスト]
国連欧州経済委員会(UNECE) が定める車外騒音規制の試験方法(R51-03条件)に基づいて、加速試験が行われた。具体的には、テストタイヤを装着したハイブリッドSUV車両を試験路に20km/h以下の低速で進入させ、ギアを適切に選択して測定エリアの手前でアクセルを全開にし、速度50km/hに到達するまで加速走行させた。そして、加速走行中のテスト車両が測定マイク(車両から7.5m側方に設置)を通過する際の最大の騒音レベル(dB(A))が測定された。テストタイヤの内圧は240kPa、タイヤ1輪あたりの縦荷重は6.16kNである。
【0115】
[乗り心地テスト]
テストタイヤを装着したテスト車両を走行させたときの乗り心地が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1の乗り心地を100とする評点であり、数値が大きい程、優れた乗り心地性能を発揮していることを示す。
【0116】
[ピッチノイズテスト]
各供試タイヤを装着したテスト車両が、速度50km/hで走行しているときのタイヤのパターンノイズが計測され、その波形を解析することで音圧が算出された。結果は、比較例1の音圧レベルを100とする評点であり、数値が大きい程、ピッチノイズに優れていることを示す。
【0117】
[摩耗性能テスト]
台上摩耗エネルギー評価試験機を用いて、各試作タイヤの摩耗エネルギーが計測された。結果は、比較例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど摩耗エネルギーが小さく、耐摩耗性能が優れていることを示す。
テストの結果は、表1に示される。
【0118】
【表1】
【0119】
実施例1及び2の空気入りタイヤは、接地面内の変位量(すべり量に相当)の最大値の平均が小さく抑えられていること、より具体的にはリブの平均値が0.32mm以下に抑制されていることが確認できた。加えて、実施例1及び2の空気入りタイヤは、乗り心地を高めながらピッチノイズや摩耗性能の悪化が抑えられていることも確認できた。
【0120】
実施例1と比較例2との加速騒音のオーバーオールの差は0.8dBであるが、この数値は決して小さいものではなく、十分な効果が期待できる結果である。また、図15には、実施例1及び比較例2について、加速走行時の車外騒音の周波数と音圧レベルとの関係を示す。図15から明らかなように、実施例1は、比較例2に比べて、ピッチ音(1次)の音圧レベルが低下したことで、加速騒音が良化したと推測される。
【0121】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0122】
[本発明1]
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
一対のビード部とを含み、
前記トレッド部は、タイヤ周方向に直線状で連続して延びる4本の周方向溝と、前記4本の周方向溝で区分された5つのリブとを備えたパターンを備えており、
前記パターンは、ランド比が0.70~0.85の範囲であり、
前記5つのリブは、タイヤ赤道を含むクラウンリブ、一対のミドルリブ及び一対のショルダーリブを含み、
各リブには、単位模様であるピッチが繰り返し形成され、
各ショルダーリブの1ピッチの前後剛性Ksは、各ミドルリブの1ピッチの前後剛性Km及び前記クラウンリブの1ピッチの前後剛性Kcよりも大きく、
前記クラウンリブ及び前記一対のミドルリブのそれぞれには、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した複数のサイプが形成されており、
前記複数のサイプは、いずれも、各リブをタイヤ軸方向に完全には横切っておらず、
前記複数のサイプのそれぞれは、サイプ壁とトレッド接地面との間に面取りが設けられていない、
空気入りタイヤ。
[本発明2]
前記複数のサイプは、セミオープンサイプである、本発明1に記載の空気入りタイヤ。
[本発明3]
前記複数のサイプは、タイヤ周方向に対して30~85°の角度で傾斜している、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明4]
前記ショルダーリブの前記前後剛性Ksは、前記クラウンリブの前記前後剛性Kcの1.10~1.20倍である、本発明1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明5]
前記ショルダーリブの前記前後剛性Ksは、前記ミドルリブの前記前後剛性Kmの1.10~1.20倍である、本発明1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
[本発明6]
前記クラウンリブの前記前後剛性Kcは、各ミドルリブの前記前後剛性Kmの0.97~1.03倍である、本発明1ないし5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0123】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
10 周方向溝
11 リブ
12 クラウンリブ
13 ミドルリブ
131 第1ミドルリブ
132 第2ミドルリブ
14 ショルダーリブ
141 第1ショルダーリブ
142 第2ショルダーリブ
20 サイプ
21、22 クラウンサイプ
23、24 第1ミドルサイプ
25、26 第2ミドルサイプ
【要約】
【課題】 加速走行時の騒音を抑制する。
【解決手段】 空気入りタイヤ1であって、トレッド部2には、4本の周方向溝10と、5つのリブとを備えたパターンを備える。パターンのランド比は0.70~0.85である。リブは、タイヤ赤道を含むクラウンリブ12、一対のミドルリブ13及び一対のショルダーリブ14を含む。各リブには、単位模様であるピッチが繰り返し形成され、一対のショルダーリブ14の1ピッチの前後剛性Ksは、一対のミドルリブ13の1ピッチの前後剛性Km及びクラウンリブ12の1ピッチの前後剛性Kcよりも大きい。クラウンリブ12及びミドルリブ13のそれぞれには、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対して傾斜した複数のサイプ20が形成されている。複数のサイプ20は、いずれも、各リブをタイヤ軸方向に完全には横切っていない。複数のサイプ20のそれぞれは、サイプ壁とトレッド接地面との間に面取りが設けられていない。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15