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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-08
(45)【発行日】2025-09-17
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/08 20060101AFI20250909BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250909BHJP
【FI】
D06N3/08
B32B27/30 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021083910
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022013701
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2024-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2020111485
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 聖貴
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊介
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】福田 周平
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-338101(JP,A)
【文献】特開昭59-033344(JP,A)
【文献】特開平08-217938(JP,A)
【文献】特開2007-314919(JP,A)
【文献】特開2013-072141(JP,A)
【文献】特開2012-197547(JP,A)
【文献】特開平08-337700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 1/00 - 7/06
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層と基布と前記表皮層の、前記基布とは反対側の面に設けられた表面保護層とを備える合成皮革であって、
前記表皮層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含み、
前記可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、前記表皮層に含有される可塑剤100質量%において前記ポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下であり、
前記表皮層に含有される可塑剤の平均酸価(KOHmg/g)が0.1以上であり、
前記表面保護層は、ポリウレタン系樹脂および架橋剤を含み、
前記ポリウレタン系樹脂100質量部に対して配合される前記架橋剤の割合が2質量部以上20質量部以下であり、
前記架橋剤がイソシアネートを含むことを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記表皮層と前記基布との間に発泡層または発泡接着層が設けられており、
前記発泡層または前記発泡接着層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含み、
前記可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、前記発泡層または前記発泡接着層に含有される可塑剤100質量%において前記ポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下である請求項1に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を含む表皮を備える合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、特許文献1に示すように、基布と、その基布面上に積層された表皮層を備えて構成されている。上記表皮層は、ベース樹脂より構成される樹脂層である。上記ベース樹脂としては、塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。なかでも、塩化ビニル系樹脂は、安価性、加工容易性などの利点を有し、上記ベース樹脂として優れている。そのため、塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とした表皮層を備える合成皮革は、様々な産業分野において汎用されている。かかる塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とした表皮層は、良好な柔軟性を発揮させるために当該表皮層に可塑剤が含有されることが一般的である。
【0003】
たとえば、塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とした表皮層を備える合成皮革は、車両内装材、ソファ等の家具類、靴や衣服などの衣料品類、鞄などの袋小物、テントの天幕などのアウトドア製品など、様々な用途で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-228258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述するとおり塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とする表皮を備える合成皮革(以下、塩ビ系合成皮革または単に合成皮革ともいう)の用途が拡大するにつれて、塩ビ系合成皮革に対する物性のさらなる改善が求められるようになってきている。具体的には、低温環境下で塩ビ系合成皮革を使用した場合、少しの衝撃や曲げで表面がひび割れてしまう等の問題があった。そのため塩ビ系合成皮革は、耐寒性の改善が求められている。
【0006】
一方、塩ビ系合成皮革は、室温以上の温度環境では上述するような問題は発生し難く、良好な状態を維持可能であると理解されている。しかしながら、塩ビ系合成皮革は、使用状態においては、以下の問題を有していた。
即ち、上述のとおり様々な用途に利用される塩ビ系合成皮革は、人に接触する機会が多い。そのため、接触時に人の皮脂、化粧、および日焼けクリームなどの油性物が塩ビ系合成皮革に付着しやすい。油性物が付着した状態の塩ビ系合成皮革が室温あるいはそれ以上の比較的高い温度雰囲気下に長時間置かれた場合、表皮層に含まれていた可塑剤が合成皮革表面に浮き出るブリードアウト現象が生じる場合がある。この可塑剤のブリードアウト現象が生じると、表皮層が硬化してしまい、合成皮革の風合いが悪くなる上、合成皮革に衝撃や湾曲が生じただけで表皮に割れが生じやすくなる。つまり、塩ビ系合成皮革は、油性物等に起因する耐薬品性に関する問題があった。かかる問題は、表皮層の表面側に表面保護層などを形成した場合でも起こりうる。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、低温環境でも割れなどが生じ難く耐寒性が良好であるとともに、可塑剤のブリードアウト現象が抑制され耐薬品性が改善された塩ビ系合成皮革の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の合成皮革は、表皮層と基布と表皮層の、基布とは反対側の面に設けられた表面保護層とを備える合成皮革であって、表皮層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含み、可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、表皮層に含有される可塑剤100質量%においてポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下であり、表皮層に含有される可塑剤の平均酸価(KOHmg/g)が0.1以上であり、表面保護層は、ポリウレタン系樹脂および架橋剤を含み、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して配合される架橋剤の割合が2質量部以上20質量部以下であり、架橋剤がイソシアネートを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成を有する本発明の合成皮革は、上述する耐寒性および耐薬品性が改善されるため、実質的に、使用環境の温度条件が緩和される。そのため、本発明の合成皮革は、様々な用途に対し良好に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一実施態様の断面図である。
図2】本発明の第二実施態様の断面図である。
図3】本発明の第二実施態様の変形例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の合成皮革は、表皮層と基布とを備える。本発明において、表皮層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む。上記可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、表皮層に含有される可塑剤100質量%においてポリエステル系可塑剤は、10質量%以上80質量%以下の範囲で含有される。
本発明の合成皮革は、基布として不織布または特殊不織布を用いた人工皮革および基布に不織布または特殊不織布を用いないその他の合成皮革を包含する。ここで特殊不織布とは、ランダム三次元立体構造から構成された繊維層を有する部材をベースとして、当該部材にポリウレタンまたはそれに類する物質を含浸させた基布を指す。
【0012】
上述する構成を備える本発明の合成皮革は、良好な耐寒性を示すとともに、表面側に人の皮脂などの油性物が付着した状態で室温以上の比較的高い温度雰囲気に晒されても、可塑剤のブリードアウト現象が抑制される。そのため本発明の合成皮革は、車両内装材、衣料品類、アウトドア製品など、使用時の温度環境の幅が大きく人との接触が予想される用途分野においても、優れた品質を提供することが可能である。尚、本発明に関し、油性物が付着しても可塑剤のブリードアウト現象が抑制されることを、耐薬品性に優れると表現する場合がある。
以下に、本発明について実施形態を参照しながら、より詳細に説明する。
【0013】
<第一実施形態>
図1に本発明の第一実施形態である合成皮革110を厚み方向に切断してなる概略断面図を示す。合成皮革110は、表皮層10と基布20とを備える。本実施形態では、表皮層10と基布20とは、接着層40で接着されている。表皮層10の表面側には、表面保護層30が設けられている。
【0014】
(表皮層10)
表皮層10は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む。表皮層10は、合成皮革110における表面を構成する層であり、適宜、絞模様等が付与されて、皮革調の外観を呈してもよい。尚、ここでいう紋模様とは、部材の表面側に装飾された模様、図柄などを指す。本発明は、表皮層10が合成皮革110の最表面に配置される態様、および合成皮革110の最表面に近い位置に配置される態様のいずれも包含する。つまり、表皮層10よりもさらに表面側に任意の層が配置される態様を、本発明は包含する。本実施形態では具体的には、表皮層10の表面側に表面保護層30が設けられた態様を示す。塩化ビニル系樹脂を含む表皮層10を備える合成皮革110は、所謂、塩ビレザーと呼ばれる部材を包含する。
【0015】
塩化ビニル系樹脂:
表皮層10は、塩化ビニル系樹脂を含み、好ましくは、ベース樹脂として塩化ビニル系樹脂が含まれる。ここでベース樹脂とは、任意の層(たとえば表皮層10)を構成する樹脂100質量%において、50質量%を超えて含まれる樹脂を指す。
表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルに由来する構造単位を含む樹脂を指す。具体例としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニル系モノマーと、これに共重合可能な他のモノマーとを用いてなる共重合体、またはこれらの樹脂のブレンド等が使用される。
上記塩化ビニル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0016】
表皮層10は、塩化ビニル系樹脂およびこれ以外の樹脂を併用してもよいし、実質的に塩化ビニル系樹脂のみから構成されてもよい。表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂は、表皮層10を構成する樹脂100質量%において、50質量%を超えていることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。
【0017】
表皮層10の厚みは、特に限定されないが、10μm以上であることが好ましく、耐久性の観点から100μm以上であることがより好ましく、風合いや柔軟性の観点からは400μm以下の範囲であることが好ましい。
【0018】
可塑剤:
表皮層10には可塑剤が含まれる。当該可塑剤100質量%においてポリエステル系可塑剤は10質量%以上80質量%以下の比率で含まれる。かかるポリエステル系可塑剤としては、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤が選択される。このように、高分子可塑剤であるポリエステル系可塑剤を含むことにより、表皮層10は、天然皮革に似た柔軟性をより効果的に発揮することに加え、以下の優れた性質が発揮される。
【0019】
即ち、塩化ビニル系樹脂を用いて構成される表皮層10において、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤が所定の比率で含有されることによって、油性物が付着した状態の合成皮革110が室温以上の比較的高い温度雰囲気下に長時間置かれた場合であっても、表皮層10に含まれていた可塑剤が合成皮革110の表面に浮き出るブリードアウト現象が良好に抑制される。より良好に上記ブリードアウトを抑制するという観点からは、用いられるポリエステル系可塑剤の数平均分子量は、1200以上3000以下であることが好ましく、1500以上2000以下であることがさらに好ましい。
【0020】
上述する可塑剤の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用して、ゲルパーミュエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定したもので、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。
【0021】
また、表皮層10に含まれる可塑剤100質量%において、上記ポリエステル系可塑剤が10質量%以上含まれることによって、上述するブリードアウト現象を良好に抑制することができ、耐薬品性に優れた合成皮革110を提供することができる。特に表皮層10は、オレイン酸などの高級脂肪酸が付着した場合における耐薬品性に優れるため、皮脂、化粧品、または日焼け止めクリームなどが付着した場合であっても、上述するブリードアウト現象を良好に抑制することができる。耐薬品性の向上という観点からは、かかるポリエステル系可塑剤の含有率は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0022】
一方、表皮層10に含まれる可塑剤100質量%において、上記ポリエステル系可塑剤が80質量%以下の範囲で含まれることによって、良好な耐薬品性を維持しつつ、耐寒性に優れた合成皮革110を提供することができる。耐寒性の向上という観点からは、かかるポリエステル系可塑剤の含有率は、70質量%以下であることが好ましい。表皮層10を備える合成皮革110は、たとえば、-30℃以下の寒冷地等において衝撃や曲げを受けても破壊されにくく、耐寒性に優れる。
【0023】
表皮層10に含まれるポリエステル系可塑剤としては、たとえば、フタル酸系ポリエステル可塑剤、アジピン酸系ポリエステル可塑剤、セバシン酸系ポリエステル可塑剤、マレイン酸系ポリエステル可塑剤などが挙げられる。
即ち、本発明に用いられるポリエステル系可塑剤としては、フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、またはマレイン酸などの多価カルボン酸(ジカルボン酸)と、ポリアルコールとのエステルが挙げられる。
【0024】
表皮層10に含まれるポリエステル系可塑剤以外の可塑剤としては、トリメリット酸系可塑剤、フタル酸系可塑剤、直鎖状二塩基酸系可塑剤、リン酸系可塑剤などをあげることができる。汎用性という観点からは、フタル酸系可塑剤が好ましく、より具体的には、例えば、トリ-n-オクチルトリメリテート、トリ-(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート、トリイソデシルトリメリテート、ジ-n-オクチル-n-デシルトリメリレートなどのトリメリット酸系可塑剤、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジドデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸系可塑剤、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケートなどの直鎖状二塩基酸系可塑剤、トリブチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリクロルエチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェートなどのリン酸系可塑剤が挙げられる。
尚、本発明において、エステル結合を含む可塑剤であって、数平均分子量が800未満のものは、上述する本発明に用いられるポリエステル系可塑剤以外の可塑剤と認識される。
【0025】
表皮層10に含まれるポリエステル系可塑剤以外の可塑剤は、表皮層10に含まれる可塑剤100質量%において、20質量%以上90質量%以下であり、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0026】
表皮層10に含まれる全可塑剤の平均酸価(KOHmg/g)は、0.1以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。
尚、本発明に関し、酸価とは、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数を指し、可塑剤の平均酸価とは、表皮層に用いた各可塑剤の酸価に対し各可塑剤の配合比(全可塑剤100質量%における配合比)を乗じた値の和を指す。
【0027】
表皮層10における塩化ビニル系樹脂とポリエステル系可塑剤との比率:
表皮層10にベース樹脂として含まれる塩化ビニル系樹脂と、ポリエステル系可塑剤との配合比率は適宜決定することができる。たとえば、ベース樹脂として含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、可塑剤として数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を10質量部以上120質量部以下の範囲に調整することが好ましく、30質量部以上100質量部以下の範囲に調整することがより好ましい。特に、塩化ビニル系樹脂をベース樹脂として含む表皮層10に対し、可塑剤を上述の範囲で配合することによって、合成皮革110の弾力性と柔軟性を天然皮革の弾力性と柔軟性に近づけることができる。
ベース樹脂100質量部に対しポリエステル系可塑剤を10質量部未満で配合した場合、表皮層10の弾力性および柔軟性が十分に発揮されない虞があり、一方、120質量部を超えて配合した場合、表皮層10のさらなる弾力性および柔軟性の向上効果が見られなくなり、加えて強度の低下や作業性の悪化を引き起こす虞がある。
【0028】
その他の添加物:
表皮層10には、樹脂および可塑剤の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜添加物が添加されてもよい。上記添加物としては、例えば安定剤、充填剤、難燃剤、顔料などを挙げることができる。
【0029】
(基布20)
次に基布20について説明する。基布20は、表皮層10を支持するための層である。基布20は、一般的な合成皮革または人工皮革の基布として利用されているものであれば何れも使用できるが、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ナイロン等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、およびレーヨン、アセテート等の再生繊維から選択される単独の繊維あるいはこれらの混紡繊維よりなる編布、織布、不織布等などが挙げられる。図1では、基布20として、縦糸210および横糸220からなる編布を例示している。基布20は、起毛したものであっても、起毛していないものであっても良い。
【0030】
基布20の厚みは、特に限定されないが、例えば400μm以上1000μm以下の範囲のものが適当である。
【0031】
(表面保護層30)
本実施形態の合成皮革110は、表皮層10の、基布20とは反対側の面に、表面保護層30が設けられている。
表面保護層30は、適宜に選択された樹脂などから構成される。たとえば、表面保護層30は、ポリウレタン系樹脂および架橋剤を含んで構成される。表面保護層30は、表皮層10の表面を保護する層であって、合成皮革110の耐摩耗性などを向上させ得る。ポリウレタン系樹脂とは、分子内にウレタン結合を含む樹脂を指し、より具体的には主鎖の繰り返し単位においてウレタン結合を有する樹脂を指す。
【0032】
表面保護層30を構成するポリウレタン樹脂は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させてなり、合成皮革110の表面側を保護するのに適した層を構成し得るポリウレタン樹脂であればよい。たとえば、一例としては、水系ポリウレタン樹脂が挙げられる。水系ポリウレタン樹脂とは、親水性基を有し水に溶解または乳化可能なポリウレタン樹脂のことをいう。かかる水系ポリウレタン樹脂としては、たとえば分子内に親水基(アニオン性親水基、カチオン性親水基、またはノニオン性親水基)を有するポリウレタン、または親水性のセグメントが付与されたポリウレタンが挙げられる。水系ポリウレタン樹脂の中でも耐久性、耐摩耗性、および耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ポリウレタンは、たとえばポリカーボネート系ジオールおよびポリイソシアネートを用い重付加反応させることで得られる。
【0033】
上記架橋剤は、ポリウレタン樹脂を自己架橋または三次元架橋等させることによってポリウレタン樹脂の物性の向上を図り得るものであればよく、たとえば、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、またはオキサゾリン系架橋剤などを挙げることができる。
【0034】
表面保護層30を備える本実施形態におけるより好ましい態様の一つとして、表皮層10に含まれる可塑剤の平均酸価(KOHmg/g)が0.1以上であるとともに、ポリウレタン系樹脂から構成される表面保護層30において架橋剤としてイソシアネート系架橋剤を含む態様が挙げられる。
上記態様によれば、耐摩耗性に特に優れた合成皮革110を提供することができる。かかる耐摩耗性の向上の理由は明らかではないが、表皮層10に含まれる水酸基と、表面保護層30に含まれるイソシアネートとが、表面保護層30と表皮層10との界面付近において、互いに反応し表皮層10と表面保護層30との接着性を強めるものと推察される。上述する耐摩耗性の向上の観点から、上記態様において、表皮層10に含まれる可塑剤の平均酸価は0.15以上であることがより好ましい。たとえば、車両座席などに用いられる合成皮革は、使用者の肌や衣服によって繰り返し擦られるため、耐摩耗性が良好な本態様の合成皮革は、車両座席用に好適に使用することができる。もちろん、本態様の合成皮革は、他の様々な技術分野において好適に使用可能である。
【0035】
表面保護層30に含まれるポリウレタン系樹脂100質量部に対して配合される架橋剤の割合は特に限定されないが、たとえば、2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。上記架橋剤が2質量部未満であると耐摩耗性が不十分となる虞があり、20質量部を超えると表面保護層30が硬くなって風合いを損ねる虞がある。
【0036】
(接着層40)
上述する本実施形態の表皮層10および基布20は、接着層40によって接着されている。
接着層40は、基布20の一方側面に設けられる他の層(図1では表皮層10)を接着させる層である。接着層40を構成する樹脂としては、たとえばポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂などの、接着剤として使用可能な樹脂から選択するよい。とくに本実施形態では塩化ビニル系樹脂を含む表皮層10を基布20に接着させることから、接着層40も、塩化ビニル系樹脂を含む層であることが好ましい。
【0037】
尚、他の実施形態において接着層40は、適宜省略することもできる。たとえば基布20または表皮層10の一方の部材の表面に発泡層を形成し、当該発泡層が半硬化状態であるうちに、速やかに他方の部材を積層させることで両者を接着させることもできる。接着層を兼用する発泡層である発泡接着層については、後述する第二実施形態でさらに説明する。また別の態様として、離型紙にまず表皮層10を形成し、半硬化状態である表皮層10に対し基布20を積層させることによって、接着層40を割愛し、両者を接着させることも可能である。
【0038】
接着層40の厚みは、特に限定されないが、表皮10の柔軟性を損なわず、かつ充分な密着性を発揮させるという観点からは、50μm以上250μm以下の範囲であることが好ましい。
【0039】
<第二実施形態>
以下に、本発明の第二実施形態について説明する。
図2に第二実施形態である合成皮革120を厚み方向に切断してなる概略断面図を示す。また、図3に第二実施形態である合成皮革120の変形例である合成皮革130を厚み方向に切断してなる概略断面図を示す。
【0040】
合成皮革120は、表皮層10と基布20との間に発泡接着層50を備える。本実施形態では、表皮層10と基布20とは、この発泡接着層50で接着されており、また表皮層10の表面側には表面保護層30が設けられている。合成皮革120は、上述する合成皮革110における接着層40の替わりに発泡接着層50を備えること以外は、合成皮革110と同様に構成される。そのため、合成皮革120については、特に発泡接着層50について説明し、他の構成については適宜、第一実施形態に関する説明が参照される。
【0041】
発泡接着層50は、接着性を有する発泡樹脂層であって、表皮層10と基布20とを接着させるとともに、合成皮革120に対し衝撃吸収性や柔軟性を付与することが可能である。即ち、合成皮革120は、本発明の所期の課題である耐寒性および耐薬品性に優れる上、衝撃吸収性や柔軟性も備えるため、たとえば車両座席の表面部材などに非常に適している。
【0042】
発泡接着層50は、内部に多数の気泡を有する樹脂層である。気泡は、独立気泡であってもよいし、一部または全部が連続気泡を構成していてもよい。発泡接着層50を構成する樹脂は、特に限定されず、発泡可能な樹脂から適宜選択される。たとえば、発泡ポリウレタン系樹脂層または発泡塩化ビニル系樹脂層は、発泡接着層50として好適である。
【0043】
特に、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む表皮層10と基布20との間に設けられる発泡接着層50が、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含んで構成される態様は、好ましい。かかる態様において、発泡接着層50に含まれる可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、かつ、発泡接着層50に含有される可塑剤100質量%においてポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
このように、発泡接着層50とこれに隣り合う表皮層10とが、互いに塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含んで構成されることで、合成皮革120の耐寒性および耐薬品性をさらに向上させるとともに、衝撃吸収性や柔軟性により優れた合成皮革を提供することができる。
【0044】
尚、発泡接着層50に用いられうる塩化ビニル系樹脂および可塑剤の詳細については、適宜、第一実施形態における表皮層10に用いられる塩化ビニル系樹脂および可塑剤に関する記載が参照されるため、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0045】
発泡接着層50の形成方法は特に限定されない。発泡ポリウレタン系樹脂層である発泡接着層50を形成する場合には、たとえば、離型紙上に表皮層10を予め形成し、表皮層10上に発泡剤(水)とポリウレタン系樹脂形成用組成物とを含む塗工液を塗工する。そして適度な温度で加熱してポリウレタン系樹脂形成用組成物中のイソシアネート基と水とを反応させて二酸化炭素を発生させるとともに、イソシアネートとポリオールとを反応させて硬化させる。これによりウレタン系ポリマー中に二酸化炭素が取り込まれることで形成された気泡を備える発泡ポリウレタン系樹脂層を形成することができる。当該発泡ポリウレタン系樹脂層が未硬化の間に基布20を貼り付けることで、表皮層10、発泡ポリウレタン系樹脂層からなる発泡接着層50、基布20を備える積層体を形成することができる。当該積層体における表皮層10の表面側に表面保護層30を形成することにより合成皮革120を得ることができる。
【0046】
また、発泡塩化ビニル系樹脂層である発泡接着層50を形成する場合には、たとえば、離型紙上に表皮層10を予め形成し、表皮層10上に発泡剤と塩化ビニル系樹脂を含む塗工液を塗工し、その後、加熱して発泡剤を発泡させて微細な気泡を含む発泡塩化ビニル系樹脂層を形成することができる。当該発泡塩化ビニル系樹脂層が未硬化の間に基布20を貼り付けることで、表皮層10、発泡塩化ビニル系樹脂層からなる発泡接着層50、基布20を備える積層体を形成することができる。当該積層体における表皮層10の表面側に表面保護層30を形成することにより合成皮革120を得ることができる。
【0047】
発泡接着層50の厚みは、特に限定されないが、たとえば50μm以上500μm以下の範囲であることが好ましい。上記厚みが50μm未満である場合には、接着強度が劣る虞があり、500μmを超える場合には、風合いが悪化する虞がある。
【0048】
第二実施形態は、表皮層10と基布20との間に、発泡樹脂を含む層が設けられることを趣旨とする実施形態であって、図3に示すとおり、合成皮革120の発泡接着層50を、発泡層60および接着層40に置き換えた合成皮革130に変形することもできる。発泡層60は、発泡樹脂層であり、合成皮革130に対し衝撃吸収性と柔軟性を付与することが可能である。また接着層40は、発泡層60と基布20とを接着させることによって、結果として、表皮層10と基布20とを接着させる。このように、発泡層60と実質的に非発泡である接着層40とを別層として設けることにより、上述する合成皮革120に比べて、接着層40と基布20との当接面積を増大させることができる。その結果、合成皮革130は、合成皮革120よりもさらに良好な耐摩耗性を示し得る。
【0049】
発泡層60は、上述する発泡接着層50の形成方法と同様の方法で形成することができきる。発泡層60が形成された後、発泡層60の表面に接着層40を形成するための接着剤を塗布し、続いて基布20を貼り付けることで、合成皮革130を構成する積層体を形成することができる。当該積層体における表皮層10の表面側に表面保護層30を形成することにより合成皮革130を得ることができる。
【0050】
発泡層60の厚みは特に限定されないが、良好な衝撃吸収性または柔軟性を発揮させるという観点からは100μm以上であることが好ましく、コストの観点からは500μm以下であることが好ましい。
【0051】
合成皮革130における接着層40および表面保護層30は、第一実施形態で説明した合成皮革110における接着層40および表面保護層30と同様に構成することができるため、ここでは詳細な説明は割愛する。
尚、合成皮革130は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含んで構成された表皮層10および発泡塩化ビニル系樹脂で構成された発泡層60を備え、さらに塩化ビニル系樹脂を含む接着層40を備えることが好ましい。特には、表皮層10、発泡層60、および接着層40の各層に関し、これら各層を構成する樹脂100質量%において塩化ビニル系樹脂が90質量%以上の比率で含まれていることがより好ましい。これによって、表面保護層30を除く、合成皮革130の樹脂層部分が全て塩化ビニル系樹脂を含んで構成されるため、隣り合う層同士の接着性が良好となりさらに耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0052】
(合成皮革の製造方法)
以下に、合成皮革130の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に説明する製造方法は、本発明の合成皮革を何ら限定するものではなく、本発明の合成皮革は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜、他の製造方法で製造されてもよい。以下では、表皮層10、発泡層60、接着層40のいずれもが、塩化ビニル系樹脂を含む態様を例に説明する。
まず塩化ビニル系樹脂およびポリエステル系可塑剤を含む表皮層10形成用塗工液を調製し、これをドクターナイフコーター、コンマドクターコーター、その他通常の塗布手段で離型紙に塗工し、適宜加熱乾燥して表皮層10を得る。
その後、発泡剤、塩化ビニル系樹脂およびポリエステル系可塑剤を含む発泡層60形成用塗工液を、得られた表皮層10の露出面に上述と同様の塗工手段で塗布し、適宜加熱して発泡させ、発泡層60を形成する。
そして、得られた発泡層60の露出面に、塩化ビニル系樹脂を含む接着40形成用塗工液を、上述する塗工手段で塗布し、適宜加熱乾燥して接着層40を形成する。半硬化状態の接着層40に対し、基布20を構成するための繊維基材を積層させ、次いで、離型紙などを剥離して積層体を得る。その後、ポリウレタン樹脂形成用組成物およびイソシアネートなどの架橋剤を含む表面保護層30形成用の塗工液を、表皮層10の表面に塗工して適宜加熱などし、表面保護層30を形成することで合成皮革130を得ることができる。 尚、表面保護層30を形成する前に、表皮層10の表面に、皮革調の外観を呈するためにエンボス加工等を行ってもよい。
【0053】
上述において、第一実施形態および第二実施形態を用いて本発明を説明したが、これらは、本発明の態様の例示であって、本発明を何ら限定するものではない。また上述する製造方法は、本発明の合成皮革の製造方法を何ら限定するものではなく、たとえば、合成皮革110の製造は、上述する発泡接着層50を形成する工程を省略し、表皮層10の次に接着層40を形成すればよく、また、合成皮革120の製造は、上述する発泡層60と同様に発泡接着層50を形成し、かかる発泡接着層50が半硬化状態のうちに基布20を構成する繊維基材を積層させればよい。
【実施例
【0054】
以下に本発明の実施例について説明する。以下では、基布、接着層、表皮層、表面保護層を備える構成の合成皮革を例に実施例および比較例を示す。ただし以下に示す実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0055】
まず、各層を構成する材料を以下のとおり準備した。表1には表皮層および表面保護層を形成する塗工液に含まれる組成およびその配合比率を示す。
【0056】
<表皮層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂(ZEST PQHPN、新第一塩ビ(株)社製)
・ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系ポリエステル可塑剤、数平均分子量1500、酸価0.2KOHmg/g)
・非ポリエステル系可塑剤(フタル酸エステル可塑剤、数平均分子量450、酸価0.07KOHmg/g)
尚、塗工液中のポリエステル系可塑剤および非ポリエステル系可塑剤の配合量の和である全可塑剤100質量%において、ポリエステル系可塑剤の比率を算出し表1に示した。また、塗工液中の可塑剤の平均酸価は、各可塑剤の酸価に各配合比を乗じた値の和として算出し、表1に示した。
<発泡層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂(ZEST PQHPN、新第一塩ビ(株)社製)100質量部
・ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系ポリエステル可塑剤、数平均分子量1500、酸価0.2KOHmg/g)45質量部
・非ポリエステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、数平均分子量450、酸価0.07KOHmg/g)20質量部
・発泡剤(アゾジカルボンアミド)1質量部
<接着層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂(ZEST PQHPN、新第一塩ビ(株)社製)100質量部
・ポリエステル系可塑剤(アジピン酸系ポリエステル可塑剤、数平均分子量1500、酸価0.2KOHmg/g)45質量部
・非ポリエステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、数平均分子量450、酸価0.07KOHmg/g)20質量部
(基布)
・繊維基材(ポリエステル製ニット、有機質量=110g/m、密度=ウェル/コース=25/22)
<表面保護層形成用塗工液>
・水系ポリウレタン系樹脂用組成物(ポリカーボネート系ポリウレタン用組成物、固形分25質量%)
・架橋剤(カルボジイミド)
・架橋剤(イソシアネート)
尚、表1に示すポリカーボネート系ポリウレタン用組成物の配合比(質量部)は、溶媒を含む質量の配合比率である。
【0057】
(実施例1)
表1に示す組成比で調製した表皮層形成用塗工液を、離型紙(大日本印刷株式会社製、商品名「DE-73」)に、乾燥後の厚みが200μmとなるように塗布し、180℃のオーブンで1分間乾燥し、表皮層を得た。
次いで、得られた表皮層の露出側面に、上記のとおり調製した接着層形成用塗工液を乾燥後の厚みが100μmとなるように塗布し、基布を貼り合わせ、200℃で3分間乾燥し、離型紙を剥離して積層体を得た。
そして、上記積層体の表皮層露出面に、上述のとおり調製した表面保護層形成用塗工液を、付着量が30g/mで乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、120℃のオーブンで2分間乾燥し、表面保護層を形成し、これにより実施例1である合成皮革を得た。
【0058】
(実施例2~6、比較例1~3)
実施例2~4、6および比較例1~3は、表1に示す組成比に変更すること以外は、上述する実施例1と同様に合成皮革を製造した。
実施例5は、接着層と表皮層の間に厚み300μmの発泡層を設けた以外は、上述する実施例1と同様に合成皮革を製造した。
上述のとおり得られた各実施例および各比較例について、以下のとおり評価した。評価結果は、表1に示す。
【0059】
<耐薬品性評価(条件1)>
得られた合成皮革を210×297mm(ISO 216におけるA4のサイズ)に裁断したものを試験片として調製した。次に、パレットにガラス板を載せ、該ガラス板上に表面保護層が上となるように試験片を載せた。試験片の上に綿の白布(カナキン3号)を載せ、白布の上からオレイン酸15mlを白布に向けて滴下した。次に、白布上にガラス板を更に載せ、この状態で、試験片を80℃の環境下で、72時間乾燥した。乾燥後、ガラス板と白布を取り除き、紙タオルで試験片の表面を拭き取り、更に、室温雰囲気下で、24時間乾燥した。乾燥後、試験片の中央からφ130mm(直径130mmの円形)に試験片を裁断した。JIS K 5600-5-3に基づくデュポン式落下衝撃試験に準拠し、デュポン式衝撃試験機に、裁断されたφ130mmの試験片をセットし、落球試験を行った。落球試験は、室温雰囲気下で実施された。なお、落球用の球の荷重は800g、球の落下距離は15cmとした。そして、落球試験後、合成皮革の表面(表面保護層側)を目視にて観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
<耐薬品性評価(条件2)>
80℃の環境下での乾燥時間を120時間とした以外は、上記耐薬品性評価(条件1)と同様に試験し、以下の評価基準に基づき評価した。
[評価基準]
〇:試験片の表面に割れが認められなかった。
△:試験片の表面に微細な割れが認められた。
×:試験片の表面に割れが認められ、裏側の生地(基布)が露出した。
【0060】
<耐寒性評価(条件1)>
得られた合成皮革を用い、φ130mm(直径130mmの円形)に裁断し試験片を調整した。そして、試験片を-30℃の雰囲気下に載置し60分間放置して冷却した。冷却後、直ちに上記耐薬品性評価と同様の条件でJIS K 5600-5-3に基づくデュポン式落下衝撃試験を実施した。そして、落球試験後、合成皮革の表面(表面保護層側)を目視にて観察し、以下の評価基準に基づき評価した。
<耐寒性評価(条件2)>
試験片の載置雰囲気を-40℃とした以外は、上記耐寒性評価(条件1)と同様に試験し、以下の評価基準に基づき評価した。
[評価基準]
〇:試験片の表面に割れが認められなかった。
△:試験片の表面に微細な割れが認められた。
×:試験片の表面に割れが認められ、裏側の生地(基布)が露出した。
【0061】
<耐摩耗性評価>
得られた合成皮革を用い、以下のとおり耐摩耗性評価を行った。
即ち、JIS-L-0823(染色堅牢度試験用摩擦試験機)に規定されている学振型摩擦試験機を用い、JIS-L-0823の6号綿帆布を、幅30mm、長さ250mmに採取し、試験機の試料台上に皺が入らないようにクランプで固定した。得られた合成皮革を、幅20mm、長さ50mmに切って得た試験片を調製し、表面保護層側が外側に位置する向きで、当該試験片を摩擦子にしっかりと取りつけた。そして、摩擦子の押圧荷重を1000gf(9.8N)、ストロークを100mm、速度を30往復/分として摩擦子を試験台に設置された帆布に対し擦りつける試験を行った。そして、30000回往復時における試験片の表面状態を目視により観察し、以下の評価基準に基づき評価をした。
[評価基準]
○:表面保護層の破れが確認されなかった。
△:表面保護層の破れが僅かに確認された。
×:表面保護層が著しく破けていた。
【0062】
【表1】
【0063】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)表皮層と基布とを備える合成皮革であって、
前記表皮層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含み、
前記可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、
前記表皮層に含有される可塑剤100質量%において前記ポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下であることを特徴とする合成皮革。
(2)前記可塑剤の平均酸価(KOHmg/g)が0.1以上である上記(1)に記載の合成皮革。
(3)前記表皮層の、前記基布とは反対側の面に、表面保護層が設けられており、
前記表面保護層は、ポリウレタン系樹脂および架橋剤を含み、
前記架橋剤がイソシアネートを含む上記(1)または(2)に記載の合成皮革。
(4)前記表皮層と前記基布との間に発泡層または発泡接着層が設けられており、
前記発泡層または前記発泡接着層は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含み、
前記可塑剤は、数平均分子量が800以上4000以下のポリエステル系可塑剤を含み、
前記発泡層または前記発泡接着層に含有される可塑剤100質量%において前記ポリエステル系可塑剤が10質量%以上80質量%以下である上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の合成皮革。
【符号の説明】
【0064】
10・・・表皮
20・・・基布
30・・・表面保護層
40・・・接着層
50・・・発泡接着層
60・・・発泡層
110、120、130・・・合成皮革
210・・・縦糸
220・・・横糸
図1
図2
図3