IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-塗装金属板 図1A
  • 特許-塗装金属板 図1B
  • 特許-塗装金属板 図1C
  • 特許-塗装金属板 図2A
  • 特許-塗装金属板 図2B
  • 特許-塗装金属板 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-09
(45)【発行日】2025-09-18
(54)【発明の名称】塗装金属板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/04 20060101AFI20250910BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250910BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20250910BHJP
   B01J 23/06 20060101ALI20250910BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20250910BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20250910BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20250910BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20250910BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20250910BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20250910BHJP
【FI】
B32B15/04 Z
B32B9/00 A
B01J35/39
B01J23/06 M
B01J23/30 M
B01J23/72 M
B01J23/745 M
B01J23/888 M
C23C26/00 A
C23C28/00 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2024148217
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2023529787の分割
【原出願日】2022-06-06
(65)【公開番号】P2024159944
(43)【公開日】2024-11-08
【審査請求日】2024-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2021105504
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】柴尾 史生
(72)【発明者】
【氏名】春田 恵利
(72)【発明者】
【氏名】西畑 三鶴
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆雄
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第98/058736(WO,A1)
【文献】特開平10-264299(JP,A)
【文献】特開2001-286766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B01J21/00- 38/74
C23C24/00- 30/00
A61L 2/00- 2/28
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも一方の面に皮膜層を有する塗装金属板であって、
前記皮膜層として、前記金属板の少なくとも一方の面において前記皮膜層の最表面に位置し、光触媒活性を有する化合物(ただし、前記光触媒活性を有する化合物がルチル型酸化チタンである場合、及び、前記光触媒活性を有する化合物が結晶質のチタン酸ジルコニウムである場合を除く。)を少なくとも含有する第1皮膜層と、前記第1皮膜層の下層に位置し、Si又はZrの少なくとも何れか1種以上の元素を有する無機系成分からなる第2皮膜層と、を有しており、
前記第1皮膜層の平均厚みは、0.05~5.00μmであり、
前記第2皮膜層の平均厚みは、0.10~5.00μmであり、
前記金属板の表面から前記皮膜層の最表面までの合計厚みは、15.00μm以下であり、
前記第2皮膜層は、更に、P又はVの少なくとも何れか1種の元素を有する無機系成分を含有し、
前記塗装金属板について、JIS Z8741:1997で規定される60°鏡面光沢度が、80%以上である、塗装金属板。
【請求項2】
前記第1皮膜層は、更に、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を含有し、
前記元素の合計濃度は、Siについてはシリカ換算、Zrについてはジルコニア換算で、5~50質量%である、請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記第1皮膜層の平均厚みに対する、前記第2皮膜層の平均厚みの比率は、0.3~12.0である、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記第2皮膜層は、Zrを含有する前記無機系成分として、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、又は、炭酸ジルコニウムアンモニウムの少なくとも何れかを含有する、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項5】
前記第2皮膜層は、Pを含有する前記無機系成分として、リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸及びそれらの塩、又は、リン酸二水素アンモニウムの少なくとも何れかを含有する、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項6】
前記第2皮膜層は、Vを含有する前記無機系成分として、メタバナジン酸アンモン(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、メタバナジン酸ソーダ(V)、又は、硫酸バナジル(IV)の少なくとも何れかを含有する、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項7】
前記金属板の表面から前記第1皮膜層の最表面までの合計厚みは、10.00μm以下である、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項8】
前記光触媒活性を有する化合物は、アナターゼ型酸化チタンである、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項9】
前記アナターゼ型酸化チタンは、Cu又はFeの少なくとも何れか一方の金属に担持された、金属担持型の酸化チタンである、請求項8に記載の塗装金属板。
【請求項10】
前記第1皮膜層における前記アナターゼ型酸化チタンの濃度は、チタニア換算で、50~95質量%である、請求項8に記載の塗装金属板。
【請求項11】
前記アナターゼ型酸化チタンの平均粒径は、5~200nmである、請求項8に記載の塗装金属板。
【請求項12】
前記金属板は、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛-鉄合金めっき鋼板、アルミニウム板、又は、ステンレス板である、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項13】
前記金属板の表面には、当該金属板の圧延方向に沿ったヘアラインが存在する、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項14】
前記金属板の表面には、スパングル模様が存在する、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
数年来の新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により、各種の物品への抗ウイルス特性の付与についてのニーズが高まっている現状にあり、抗ウイルス効果を有する薬剤を各種の物品の表面に塗布する事業が盛況となっている。抗ウイルス効果を有する薬剤の塗布は、既存の建造物への適用が可能となるが、塗布に要する人的コストが高く、また、薬剤の耐久性が十分ではないことから定期的な施工が必要となって、ランニングコストも高いという問題がある。
【0003】
他方、例えば以下の特許文献1のように、従来、鋼材に対して予め抗ウイルス機能を付与する技術が知られている。かかる技術は、塗装鋼材をベースとして、かかる塗装鋼材の上層に、保護層及び光触媒層を順に形成する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-131960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者による検討の結果、上記特許文献1に開示されているような光触媒を用いた技術において、光触媒層により実現される光触媒効果には、更なる改良の余地があることが判明した。
【0006】
かかる知見に基づき、本発明の目的とするところは、コストを抑制しつつ、光触媒効果をより向上させることが可能な、塗装金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討を行った結果、特許文献1に開示されているような従来の技術において、鋼材の表面に入射した光のうち、光触媒効果の発現に寄与しているのは、鋼材への入射光のみであることを知見した。かかる知見に基づき、更なる検討を行った結果、金属板の表面において入射光をより高効率に反射させて、反射光についても光触媒効果の発現に寄与させることが可能となれば、光触媒効果をより向上させることが可能であることに想到し、本発明を完成させるに至った。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0008】
(1)金属板の少なくとも一方の面に皮膜層を有する塗装金属板であって、前記皮膜層として、前記金属板の少なくとも一方の面において前記皮膜層の最表面に位置し、光触媒活性を有する化合物(ただし、前記光触媒活性を有する化合物がルチル型酸化チタンである場合、及び、前記光触媒活性を有する化合物が結晶質のチタン酸ジルコニウムである場合を除く。)を少なくとも含有する第1皮膜層と、前記第1皮膜層の下層に位置し、Si又はZrの少なくとも何れか1種以上の元素を有する無機系成分からなる第2皮膜層と、を有しており、前記第1皮膜層の平均厚みは、0.05~5.00μmであり、前記第2皮膜層の平均厚みは、0.10~5.00μmであり、前記金属板の表面から前記皮膜層の最表面までの合計厚みは、15.00μm以下であり、前記第2皮膜層は、更に、P又はVの少なくとも何れか1種の元素を有する無機系成分を含有し、前記塗装金属板について、JIS Z8741:1997で規定される60°鏡面光沢度が、80%以上である、塗装金属板。
(2)前記第1皮膜層は、更に、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を含有し、前記元素の合計濃度は、Siについてはシリカ換算、Zrについてはジルコニア換算で、5~50質量%である、(1)に記載の塗装金属板。
(3)前記第1皮膜層の平均厚みに対する、前記第2皮膜層の平均厚みの比率は、0.3~12.0である、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(4)前記第2皮膜層は、Zrを含有する前記無機系成分として、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、又は、炭酸ジルコニウムアンモニウムの少なくとも何れかを含有する、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(5)前記第2皮膜層は、Pを含有する前記無機系成分として、リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸及びそれらの塩、又は、リン酸二水素アンモニウムの少なくとも何れかを含有する、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(6)前記第2皮膜層は、Vを含有する前記無機系成分として、メタバナジン酸アンモン(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、メタバナジン酸ソーダ(V)、又は、硫酸バナジル(IV)の少なくとも何れかを含有する、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(7)前記金属板の表面から前記第1皮膜層の最表面までの合計厚みは、10.00μm以下である、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(8)前記光触媒活性を有する化合物は、アナターゼ型酸化チタンである、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(9)前記アナターゼ型酸化チタンは、Cu又はFeの少なくとも何れか一方の金属に担持された、金属担持型の酸化チタンである、(8)に記載の塗装金属板。
(10)前記第1皮膜層における前記アナターゼ型酸化チタンの濃度は、チタニア換算で、50~95質量%である、(8)に記載の塗装金属板。
(11)前記アナターゼ型酸化チタンの平均粒径は、5~200nmである、(8)に記載の塗装金属板。
(12)前記金属板は、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛-鉄合金めっき鋼板、アルミニウム板、又は、ステンレス板である、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(13)前記金属板の表面には、当該金属板の圧延方向に沿ったヘアラインが存在する、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(14)前記金属板の表面には、スパングル模様が存在する、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように本発明によれば、コストを抑制しつつ、光触媒効果をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の実施形態に係る塗装金属板の構造の一例を模式的に示した説明図である。
図1B】同実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。
図1C】同実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。
図2A】同実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。
図2B】同実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。
図3】同実施形態に係る塗装金属板について説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0012】
(塗装金属板について)
<塗装金属板の構造>
以下では、まず、図1A図2Bを参照しながら、本発明の実施形態に係る塗装金属板の構造について説明する。図1Aは、本実施形態に係る塗装金属板の構造の一例を模式的に示した説明図である。図1B図2Bは、本実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。
【0013】
図1Aに模式的に示したように、本発明の実施形態に係る塗装金属板1は、金属板の少なくとも一方の面に皮膜層を有しており、母材である金属板10と、皮膜層として、第1皮膜層の一例としての光触媒層20と、を少なくとも有している。なお、基材として金属板ではなく、メラミン樹脂等のような硬質な樹脂基材を用いることも一見考えられる。しかしながら、基材として、各種の加工を施すことが可能なものを用いることが重要であり、本実施形態では、金属板が基材として用いられる。
【0014】
[金属板10について]
本実施形態に係る塗装金属板1において、母材である金属板10としては、各種の金属板を用いることが可能である。このような金属板として、例えば、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛-鉄合金めっき鋼板、アルミニウム板、ステンレス板等を挙げることができる。
【0015】
上記のような金属板を用いることで、塗装金属板1に入射した光(特に、紫外~可視光帯域の光)を、金属板10の表面で効率良く反射させることが可能となる。これにより、本実施形態に係る塗装金属板1では、後述するように、金属板10の表面で反射した反射光を、光触媒反応に利用することが可能となる。上記金属板の中では、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき鋼板、ステンレス板、アルミニウムめっき鋼板、亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板などが、入射した光を効率よく反射することができるため、特に好適である。また、めっき表面にヘアラインやスパングル模様などの意匠を有するものは、外装部品としても使用することができるため、好適である。
【0016】
ここで、上記のような金属板10の厚みについては、特に限定されるものではなく、本実施形態に係る塗装金属板1に求められる機械的な強度(例えば、引張強度等)や加工性等に応じて、適宜設定すればよい。
【0017】
また、かかる金属板10の表面(金属板10として、各種のめっきが施された金属板を用いる場合には、めっきの表面)には、かかる金属板の圧延方向に沿ったヘアライン模様や、スパングル模様等の各種の模様が存在していてもよい。このような模様が設けられていることで、塗装金属板1の意匠性をより向上させることが可能となる。また、金属板10の表面に対するこのような模様を設けるための意匠加工自体が、以下で説明するような60°鏡面光沢度の更なる向上にも寄与することとなる。
【0018】
例えば、めっきの施された金属板10に着目する。一般的に、金属基材の表面にめっきを施す場合、電気めっき法や溶融めっき法を採用することができる。採用するめっき法によっては、めっき表面に微細粒子が生成される結果、めっきの施された金属板10の表面の光沢度(すなわち、めっき表面の光沢度)が低下することがある。しかしながら、このようなめっきの表面にヘアライン加工を施すことでめっき表面が削られる結果、めっき表面での光の反射率が向上して、表面の光沢度を向上させることが可能となる。また、スパングル模様を形成させるようにめっきを行う結果、光がより反射しやすいめっきの結晶方位が表面に現れるようになり、めっき表面での光の反射率が向上して、表面の光沢度を向上させることが可能となる。
【0019】
以下で詳述するように、塗装金属板1においては、第1皮膜層としての光触媒層20の厚み、及び、塗装金属板1における金属板10の表面から第1皮膜層としての光触媒層20の最表面までの合計厚みが特定の状態となるように制御される。その上で、更に上記のようなヘアライン模様やスパングル模様をはじめとする意匠加工が施されることで、かかる意匠加工が、以下で説明するような60°鏡面光沢度の更なる向上にも作用する。このような模様を形成するための方法については、公知の各種の加工法を適宜利用することが可能である。
【0020】
[光触媒層20について]
本実施形態に係る塗装金属板1において、第1皮膜層の一例としての光触媒層20は、図1Aに模式的に示したように、金属板10の少なくとも一方の面において、皮膜層の最表面に位置している層であり、光触媒活性を有する化合物(以下、「光触媒化合物」と略記することがある。)を少なくとも含有する。光触媒層20が光触媒活性を有する化合物を含有することで、かかる光触媒活性を有する化合物は、光触媒層20に入射した光(特に、紫外~可視光帯域の光)によって、光触媒反応を生じさせる。その結果、本実施形態に係る光触媒層20において、抗ウイルス効果や殺菌効果をはじめとする、各種の光触媒効果が発現する。これにより、本実施形態に係る塗装金属板1は、抗ウイルス効果や殺菌効果をはじめとする各種の特性を実現することができる。
【0021】
このような光触媒活性を有する化合物には、主に紫外光帯域の光と反応して(より詳細には、紫外光帯域の光によって励起されて)、光触媒活性を発現する化合物と、主に可視光帯域の光と反応して(より詳細には、可視光帯域の光によって励起されて)、光触媒活性を発現する化合物と、が存在する。
【0022】
紫外光帯域の光と反応して光触媒活性を発現させる化合物としては、例えば、酸化チタン(より詳細には、アナターゼ型酸化チタン)、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化スズ、酸化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化クロム、酸化モリブデン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化ルテニウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化マンガン、酸化ゲルマニウム、酸化鉛、酸化カドミウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ロジウム、酸化レニウム等の金属酸化物や、硫化カドミウム、硫化亜鉛等の金属硫化物や、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン化合物が挙げられる。なかでも、紫外光帯域の光と反応して光触媒活性を発現させる化合物として、アナターゼ型酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニオブ、チタン酸ストロンチウム等は、特に好適に用いられ、アナターゼ型酸化チタンは、更に好適に用いられる。
【0023】
また、可視光帯域の光と反応して光触媒活性を発現する化合物としては、例えば、Cu又はFeの少なくとも何れか一方の金属に担持された金属担持型の酸化チタン(より詳細には、アナターゼ型酸化チタン)、Cr、V、Mn、Ni、Ptに担持されたアナターゼ型酸化チタン、窒素や硫黄等の陰イオンがドーピングされたアナターゼ型酸化チタン、AgNbOとSrTiOの固溶体、等が挙げられる。なかでも、Cu又はFeの少なくとも何れか一方の金属に担持されたアナターゼ型酸化チタンは、特に好適に用いられる。
【0024】
かかる光触媒化合物のうち、アナターゼ型酸化チタン(金属担持された状態のものも含む。)の平均粒径(一次粒子径)は、5nm以上であることが好ましい。アナターゼ型酸化チタンの平均粒径(一次粒子径)が5nm以上となることで、光触媒層20中により均一にアナターゼ型酸化チタンを分散させることが可能となる。アナターゼ型酸化チタンの平均粒径(一次粒子径)は、より好ましくは20nm以上である。また、アナターゼ型酸化チタン(金属担持された状態のものも含む。)の平均粒径(一次粒子径)は、200nm以下であることが好ましい。アナターゼ型酸化チタンの平均粒径(一次粒子径)が200nm以下となることで、光触媒層20中におけるアナターゼ型酸化チタンの過度な凝集を抑制しながら、光触媒層20中により均一にアナターゼ型酸化チタンを分散させることが可能となる。アナターゼ型酸化チタンの平均粒径(一次粒子径)は、より好ましくは100nm以下である。
【0025】
ここで、上記のアナターゼ型酸化チタンの平均粒径は、例えば、レーザ光を使用した動的光散乱法により測定することが可能である。かかる方法は、精度の高い測定値を簡便に得ることが可能である。ただし、アナターゼ型酸化チタンの粒子がある程度凝集している場合には、凝集体の大きさ(凝集粒子径)を測定する可能性があるため、併せて透過型電子顕微鏡(TEM)により、直接、一次粒子径を確認することが好ましい。TEM観察の結果、凝集粒子の存在が確認された場合には、分散条件を変えて、動的光散乱法により再度測定を行うことが好ましい。また、完全に一次粒子のレベルまで分散させることが困難である場合には、TEMで観察・測定した一次粒子の大きさを、一次粒子径とすることも可能である。この場合、本発明者の経験では、任意に選択したおおよそ100個以上の粒子を測定対象とすることで、粒子の全体を代表する値が得られることが分かっている。
【0026】
また、既に光触媒層20が形成されている塗装金属板1について、光触媒層20に含まれるアナターゼ型酸化チタンの平均粒径を事後的に測定する際には、以下のようにすればよい。すなわち、光触媒層20を厚み方向に沿って切断した際の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察または分析することができる。TEMを用いることで、光触媒化合物の一次粒子径を測定することができる。また、TEMと合わせてEDS分析を行うことで、光触媒化合物に含まれる元素を測定できる。更には、電子線回折により、光触媒化合物の結晶構造(例えば、酸化チタンの場合アナターゼ型かルチル型か)を知ることができる。本発明者の経験では、任意に選択したおおよそ100個以上の粒子を測定対象とすることで、粒子の全体を代表する値が得られることが分かっている。
【0027】
ここで、光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタン(金属担持された状態のものも含む。)の濃度は、チタニア換算で、50質量%以上であることが好ましい。光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタンの濃度が50質量%以上となることで、抗ウイルス効果等をはじめとする各種の光触媒効果を確実に発現させることが可能となる。光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタンの濃度は、より好ましくは、チタニア換算で、60質量%以上である。また、光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタン(金属担持された状態のものも含む。)の濃度は、チタニア換算で、95質量%以下であることが好ましい。光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタンの濃度が95質量%以下となることで、製造コストの増加を抑制しつつ、抗ウイルス効果等をはじめとする各種の光触媒効果を発現させることが可能となる。光触媒層20におけるアナターゼ型酸化チタンの濃度は、より好ましくは、チタニア換算で、80質量%以下である。
【0028】
また、アナターゼ型酸化チタン以外の光触媒化合物についても、上記と同様に、5~200nmの平均粒径を有していることが好ましく、その濃度は、50~95質量%であることが好ましい。
【0029】
なお、上記のようなアナターゼ型酸化チタン等に代表される光触媒化合物は、粒子状態の物質はもちろんのこと、粒子状とはいえないようなゾル状物質、金属錯体を加熱して生成した物質等も、必要に応じて用いることが可能である。
【0030】
また、光触媒層20は、更に、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を含有し、かかる元素の合計濃度は、Siについてはシリカ換算、Zrについてはジルコニア換算で、5質量%以上であることが好ましい。換言すれば、光触媒層20は、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を含む三次元網目構造状の無機系成分の骨格と、場合によっては不純物と、を有する無機系皮膜であり、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素の合計濃度が、Siについてはシリカ換算、Zrについてはジルコニア換算で、5質量%以上であることが好ましい。Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を上記の濃度で含有することで、より耐食性に優れた光触媒層20を実現することが可能となる。Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素の合計含有量は、より好ましくは10質量%以上である。また、光触媒層20は、更に、Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を含有し、かかる元素の合計濃度は、Siについてはシリカ換算、Zrについてはジルコニア換算で、50質量%以下であることが好ましい。Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素を上記の濃度で含有することで、より耐食性に優れた光触媒層20を実現することが可能となる。Si又はZrの少なくとも何れか1種の元素の合計含有量は、より好ましくは40質量%以下である。ここで、含有するSi又はZrは、光透過性に優れることが好ましく、また、光触媒による分解等の影響を受けにくい無機系成分であることが好ましい。このようなSi、Zrを含有する無機系成分としては、例えば、シリカ、ジルコニアを挙げることができる。
【0031】
なお、上記の光触媒化合物を含有する光触媒層20は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、抗菌剤や、活性炭又はゼオライト等の吸着材を含有していてもよい。
【0032】
かかる光触媒層20の平均厚みd図1Aに示した層構成の場合、金属板10の表面から光触媒層20の最表面まで(皮膜層の最表面とも捉えることができる。)の合計厚みdでもある。)は、0.05μm以上である。光触媒層20の平均厚みdが0.05μm未満である場合には、上記のような光触媒層20を均一に成膜することが困難となり、得られる光触媒効果にムラが生じてしまうため、好ましくない。平均厚みdを0.05μm以上とすることで、所望の光触媒効果を、光触媒層20の全体にわたって均一に発現させることが可能となる。一方、かかる光触媒層20の平均厚みd図1Aに示した層構成の場合、金属板10の表面から光触媒層20の最表面までの合計厚みdでもある。)は、5.00μm以下である。光触媒層20の平均厚みdが5.00μmを超える場合には、得られる光触媒効果が飽和する一方で、製造コストが増加するため、好ましくない。また、光触媒層は無機系皮膜であることから、加工性が低下する。平均厚みdを5.00μm以下とすることで、製造コストの増加及び加工性の低下を抑制しつつ、所望の光触媒効果を、光触媒層20の全体にわたって均一に発現させることが可能となる。
【0033】
通常、光触媒層20を、光触媒化合物に当たらずに通過する光が、一定の確率で発生する。このような、光触媒化合物と作用しなかった光は、従来では、光触媒効果が得られない光となってしまう。本実施形態では、このような光を金属板10の表面で反射させることで、光触媒層20に入射した光が光触媒化合物に衝突する確率を増加させることが可能となる。これにより、本実施形態では、光触媒効果を更に向上させることができる。図1Aに示した層構成の場合、金属板10の表面から光触媒層20の最表面までの合計厚みdが当然ながら15.00μm以下となっている結果、入射した光が金属板10の表面(換言すれば、金属板10と光触媒層20との界面)で反射した反射光を、光触媒化合物による光触媒反応に利用することが可能となるため、コストを抑制しつつ、光触媒効果をより向上させることができる。
【0034】
かかる光触媒層20の平均厚みdは、好ましくは0.10μm以上であり、より好ましくは0.15μm以上である。また、かかる光触媒層20の平均厚みdは、好ましくは2.00μm以下であり、より好ましくは1.00μm以下である。
【0035】
[60°鏡面光沢度]
図1Aに示したような層構成を有する塗装金属板1では、金属板10による光の反射と、上記のような平均厚みdを有する光触媒層20とにより、塗装金属板1を光触媒層20が設けられた側から測定したJIS Z8741:1997で規定される60°鏡面光沢度が、80%以上となる。換言すれば、本実施形態に係る塗装金属板1は、上記のように60°鏡面光沢度が80%以上となることで、金属板10と光触媒層20との界面で生じる反射光を効果的に利用することが可能となり、優れた抗ウイルス性能を発現する。なお、光触媒と衝突した光は反射光として検出されないが、本発明の皮膜構成においては、このような光は全体のごく一部である。そのため、光触媒による減少を考慮しても、本発明で規定する60°鏡面光沢度が80%以上である旨を満足することで、優れた抗ウイルス性を有すると判断できる。本実施形態に係る塗装金属板1において、60°鏡面光沢度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは130%以上である。また、かかる60°鏡面光沢度の上限値は、特に規定するものではないが、200%を超えることは難しく、かかる値が実質的な上限と考えられる。なお、かかる60°鏡面光沢度は、上記JIS規格に則した光沢度計を用いて測定することが可能である。
【0036】
<変形例>
図1Aに示したような層構成を有する、本実施形態に係る塗装金属板1は、金属板10と光触媒層20との間に、化成処理皮膜層として機能する更なる皮膜層を有していてもよい。金属板10と光触媒層20との間に化成処理皮膜層を設けることで、金属板10と光触媒層20との間の密着性を更に向上させることが可能となる。更に、本実施形態に係る塗装金属板1の耐食性等を更に向上させることも可能となる。
【0037】
本実施形態に係る塗装金属板1において、化成処理皮膜層を更に設ける場合には、化成処理皮膜層を構成する化合物成分の種類に応じて、以下に示すような2種類の層構成を実現することが好ましい。以下、図1B図3を参照しながら、化成処理皮膜層を有する場合の塗装金属板の層構成について、詳細に説明する。
図1B図2は、本実施形態に係る塗装金属板の構造の他の一例を模式的に示した説明図である。図3は、本実施形態に係る塗装金属板について説明するための説明図である。
【0038】
[無機系化成処理皮膜層を設ける場合]
図1B及び図1Cは、化成処理皮膜層として無機系成分からなる無機系化成処理皮膜層を設ける場合の、塗装金属板1の層構成を模式的に示した模式図である。
かかる場合、本実施形態に係る塗装金属板1は、上記のような金属板10と光触媒層20との間に、第2皮膜層の一例としての無機系化成処理皮膜層30を有する。
【0039】
アナターゼ型酸化チタンに代表される光触媒化合物は、極めて優れた酸化性を有するが故に、光触媒化合物が存在する層よりも下層側に皮膜層を設ける場合には、かかる皮膜層を保護するための保護層を形成することが多い。しかしながら、以下で説明するように、化成処理皮膜層を無機系成分で構成することにより、保護層を設けることなく化成処理皮膜層を配置することが可能となる。
【0040】
かかる無機系化成処理皮膜層30は、金属板10の表面に付着した油分などの不純物及び表面酸化物を、公知の脱脂工程及び洗浄工程で取り除いた後、化成処理により形成される。この無機系化成処理皮膜層30は、Si又はZrの少なくとも何れか1種以上の元素を有する無機系成分からなることが好ましい。また、かかる無機系化成処理皮膜層30は、更に、P又はVの少なくとも何れか1種の元素を有する無機系成分を含有していてもよい。
【0041】
無機系化成処理皮膜層30が、上記のような元素を有する無機系成分を含有することで、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、金属板表面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0042】
ここで、Siを含有する無機系成分としては、例えば、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。また、Zrを含有する無機系成分としては、例えば、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモ二ウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等を挙げることができる。
【0043】
また、Pを含有する無機系成分としては、例えば、リン酸、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸などのリン酸類及びそれらの塩、リン酸二水素アンモニウム等を挙げることができる。Vを含有する無機系成分としては、例えば、メタバナジン酸アンモン(V)、メタバナジン酸カリウム(V)、メタバナジン酸ソーダ(V)、硫酸バナジル(IV)等を挙げることができる。
【0044】
本実施形態に係る無機系化成処理皮膜層30では、上記のような各種の無機系成分を、単独で、又は、組み合わせて利用することが可能である。また、上記のような各種の無機系成分の含有量についても、適宜調整すればよい。
【0045】
かかる無機系化成処理皮膜層30の平均厚みdは、0.10μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましい。これにより、無機系化成処理皮膜層30を金属板10の表面に均一に形成しつつ、上記のような化成処理皮膜層を設けることによる各種の効果を、安定して発現させることが可能となる。また、無機系化成処理皮膜層30の平均厚みdは、5.00μm以下であることが好ましく、1.00μm以下であることがより好ましい。これにより、無機系化成処理皮膜層30を金属板10の表面に均一に形成しつつ、上記のような化成処理皮膜層を設けることによる各種の効果を、安定して発現させることが可能となる。
【0046】
また、光触媒層20の平均厚みdに対する、無機系化成処理皮膜層30の平均厚みdの比率(d/d)は、0.3以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。これにより、加工密着性を更に向上させることが可能となる。また、光触媒層20の平均厚みdに対する、無機系化成処理皮膜層30の平均厚みdの比率(d/d)は、12.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましい。これにより、加工密着性を更に向上させることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る塗装金属板1は、図1Cに模式的に示したように、光触媒層20と、無機系化成処理皮膜層30と、の間に、例えば各種の着色顔料を含む着色層などをはじめとする、公知の各種の層を更に有していてもよい。
【0048】
ここで、図1B及び図1Cに示したような場合においても、金属板10の表面から皮膜層の最表面(光触媒層20の最表面でもある。)までの合計厚みd(=d+d+α)は、15.00μm以下とする。これにより、図3に模式的に示したように、入射した光が金属板10の表面(換言すれば、金属板10と光触媒層20との界面)で反射した反射光を、光触媒化合物による光触媒反応に利用することが可能となるため、コストの増加を抑制しつつ、光触媒効果をより向上させることができる。金属板10の表面から皮膜層の最表面までの合計厚みd(=d+d+α)は、好ましくは10.00μm以下であり、より好ましくは7.00μm以下である。
【0049】
また、図1B及び図1Cに示したような場合においても、塗装金属板1を光触媒層20が設けられた側から測定したJIS Z8741:1997で規定される60°鏡面光沢度は、80%以上となる。ここで、合計厚みdが15.00μm以下であり、かつ、60°鏡面光沢度が80%以上であれば、入射した光が金属板10の表面で反射した反射光を、光触媒化合物による光触媒反応に利用しているとみなすことができる。
【0050】
[有機系化成処理皮膜層を設ける場合]
図2A及び図2Bは、化成処理皮膜層として有機系成分を含む有機系化成処理皮膜層を設ける場合の、塗装金属板1の層構成を模式的に示した模式図である。
かかる場合、本実施形態に係る塗装金属板1は、上記のような金属板10と光触媒層20との間に、第3皮膜層の一例としての有機系化成処理皮膜層40と、第4皮膜層の一例としての保護層50と、を有する。
【0051】
≪有機系化成処理皮膜層40≫
有機系化成処理皮膜層40は、光触媒層20の下層(より詳細には、金属板10の表面)に位置する層であり、金属板10の表面に付着した油分などの不純物及び表面酸化物を、公知の脱脂工程及び洗浄工程で取り除いた後、化成処理により形成される。
【0052】
本実施形態に係る有機系化成処理皮膜層40には、例えば、樹脂、シランカップリング剤、ジルコニウム化合物、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、バナジウム化合物、並びに、タンニン又はタンニン酸からなる群より選択される何れか一つ以上を含有させてもよい。これら物質を含有することで、更に、化成処理液塗布後の成膜性、水分や腐食性イオン等の腐食因子に対する皮膜のバリア性(緻密性)、及び、金属板の表面への皮膜密着性などが向上し、皮膜の耐食性の底上げに寄与する。
【0053】
特に、有機系化成処理皮膜層40が、シランカップリング剤、又は、ジルコニウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、有機系化成処理皮膜層40内に架橋構造を形成し、金属板表面との結合についても強化するため、皮膜の密着性やバリア性を更に向上させることが可能となる。
【0054】
また、有機系化成処理皮膜層40が、シリカ、リン酸及びその塩、フッ化物、又は、バナジウム化合物の何れか一つ以上を含有すると、インヒビターとして機能し、金属板表面に沈殿皮膜や不動態皮膜を形成することで、耐食性を更に向上させることが可能となる。
【0055】
以下では、上記のような有機系化成処理皮膜層40が含みうる各構成成分の詳細について、例を挙げながら説明する。
【0056】
[樹脂]
樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂等といった、公知の有機樹脂を使用することができる。金属板との密着性を更に高めるためには、分子鎖中に強制部位や極性官能基をもつ樹脂(ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)の少なくとも一つを使用することが好ましい。樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
有機系化成処理皮膜層40における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。これにより、耐食性を向上させることができる。また、有機系化成処理皮膜層40における樹脂の含有量は、例えば、皮膜固形分に対して、85質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。樹脂の含有量を85質量%以下とすることで、耐食性以外の皮膜として求められる性能を担保しつつ、皮膜の耐食性を向上させることができる。
【0058】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、例えば、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ-アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アニリノプロピルトリエトキシシラン、γ-アニリノプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、オクタデシルジメチル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、オクタデシルジメチル[3-(メチルジエトキシシリル)プロピル]アンモニウムクロライド、γ-クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン等を挙げることができる。有機系化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシランカップリング剤の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。シランカップリング剤の添加量を2g/L以上とすることで、金属板表面との密着性を向上させて、塗膜の加工密着性を向上させることが可能となる。また、シランカップリング剤の添加量を80g/L以下とすることで、化成処理皮膜の凝集力を保持させて、塗膜の加工密着性を向上させることが可能となる。上記に例示したようなシランカップリング剤は、1種で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
[ジルコニウム化合物]
ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムノルマルプロピレート、ジルコニウムノルマルブチレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムビスアセチルアセトネート、ジルコニウムモノエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセチルアセトネートビスエチルアセトアセテート、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムモノステアレート、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウム等を挙げることができる。有機系化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のジルコニウム化合物の添加量は、例えば、2~80g/Lとすることができる。ジルコニウム化合物の添加量を2g/L以上とすることで、金属板表面との密着性を向上させて、塗膜の加工密着性を向上させることが可能となる。また、ジルコニウム化合物の添加量を80g/L以下とすることで、化成処理皮膜の凝集力を保持させて、塗膜の加工密着性を向上させることが可能となる。かかるジルコニウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
[シリカ]
シリカとしては、例えば、日産化学株式会社製の「スノーテックスN」、「スノーテックスC」、「スノーテックスUP」、「スノーテックスPS」、株式会社ADEKA製の「アデライトAT-20Q」等の市販のシリカゲル、又は、日本アエロジル株式会社製のアエロジル#300等の粉末シリカを用いることができる。シリカは、必要とされる塗装金属板の性能に応じて、適宜選択することができる。有機系化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のシリカの添加量は、1~40g/Lとすることが好ましい。シリカの添加量を1g/L以上とすることで、塗膜の加工密着性を向上させることが可能となる。また、シリカの添加量を40g/L以下とすることで、コストの増加を抑制しつつ、加工密着性及び耐食性の効果の両立を図ることが可能となる。
【0061】
[リン酸及びその塩]
リン酸及びその塩としては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等のリン酸類及びそれらの塩、リン酸三アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のアンモニウム塩、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸類及びそれらの塩、フィチン酸等の有機リン酸類及びそれらの塩等が挙げられる。なお、リン酸の塩として、アンモニウム塩以外の塩としては、Na、Mg、Al、K、Ca、Mn、Ni、Zn、Fe等との金属塩が挙げられる。リン酸及びその塩は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
なお、リン酸及びその塩の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、リン酸及びその塩の含有量は、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。リン酸及びその塩の含有量が20質量%以下となることで、皮膜の脆化を防止でき、塗装金属板を成形加工する際の皮膜の加工密着性の低下を防止することが可能となる。
【0063】
[フッ化物]
フッ化物としては、例えば、ジルコンフッ化アンモニウム、ケイフッ化アンモニウム、チタンフッ化アンモニウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、チタンフッ化水素酸、ジルコンフッ化水素酸等を挙げることができる。かかるフッ化物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
なお、フッ化物の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、フッ化物の含有量は、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。フッ化物の含有量が20質量%以下となることで、皮膜の脆化を防止でき、塗装金属板を成形加工する際の皮膜の加工密着性の低下を防止することが可能となる。
【0065】
[バナジウム化合物]
バナジウム化合物としては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2~4価に還元したバナジウム化合物、三酸化バナジウム、二酸化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、オキシ蓚酸バナジウム、バナジウムオキシアセチルアセトネート、バナジウムアセチルアセトネート、三塩化バナジウム、リンバナドモリブデン酸、硫酸バナジウム、二塩化バナジウム、酸化バナジウム等の酸化数4~2価のバナジウム化合物等を挙げることができる。かかるバナジウム化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
なお、バナジウム化合物の含有量は、皮膜固形分に対して、0質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、バナジウム化合物の含有量は、皮膜固形分に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。バナジウム化合物の含有量が20質量%以下となることで、皮膜の脆化を防止でき、塗装金属板を成形加工する際の皮膜の加工密着性の低下を防止することが可能となる。
【0067】
[タンニン又はタンニン酸]
タンニン又はタンニン酸は、加水分解できるタンニン、縮合タンニンのいずれも用いることができる。タンニン及びタンニン酸の例としては、ハマメタタンニン、五倍子タンニン、没食子タンニン、ミロバランのタンニン、ジビジビのタンニン、アルガロビラのタンニン、バロニアのタンニン、カテキン等を挙げることができる。有機系化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中のタンニン又はタンニン酸の添加量は、2~80g/Lとすることができる。タンニン又はタンニン酸の添加量を2g/L以上とすることで、金属板表面との密着性を向上させて、塗膜の加工密着性を向上させることができる。また、タンニン又はタンニン酸の添加量の添加量を80g/L以下とすることで、化成処理皮膜の凝集力を保持させて、塗膜の加工密着性を向上させることができる。
【0068】
また、有機系化成処理皮膜層40を形成するための化成処理剤中には、性能が損なわれない範囲内で、pH調整のために酸、アルカリ等を添加してもよい。
【0069】
かかる有機系化成処理皮膜層40の平均厚みdは、0.10μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましく、0.30μm以上であることが更に好ましい。これにより、有機系化成処理皮膜層40を金属板10の表面に均一に形成しつつ、上記のような化成処理皮膜層を設けることによる各種の効果を、安定して発現させることが可能となる。また、有機系化成処理皮膜層40の平均厚みdは、5.00μm以下であることが好ましく、4.00μm以下であることがより好ましく、3.00μm以下であることが更に好ましい。これにより、有機系化成処理皮膜層40を金属板10の表面に均一に形成しつつ、上記のような化成処理皮膜層を設けることによる各種の効果を、安定して発現させることが可能となる。
【0070】
また、光触媒層20の平均厚みdに対する、有機系化成処理皮膜層40の平均厚みdの比率(d/d)は、0.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。これにより、加工部密着性を更に向上させることが可能となる。また、光触媒層20の平均厚みdに対する、有機系化成処理皮膜層40の平均厚みdの比率(d/d)は、20.0以下であることが好ましく、10.0以下であることがより好ましい。これにより、加工部密着性を更に向上させることが可能となる。
【0071】
≪保護層50≫
保護層50は、光触媒層20と有機系化成処理皮膜層40との間(より好ましくは、光触媒層20の直下)に設けられる層であり、光触媒層20に含有される光触媒化合物の酸化力から、光触媒層20よりも下方に位置する層を保護するために設けられる。
【0072】
ここで、保護層50の具体的な成分については、公知の各種の成分を含有することが可能である。このような成分として、例えば、シリカ、ジルコニア等の無機系酸化物を挙げることができる。また、かかる成分の具体的な含有量についても、適宜調整すればよい。
【0073】
なお、保護層50についても、光触媒層20と同様に、光透過性に優れるものであることが好ましい。光透過性に優れる保護層50を実現するために、例えば、光触媒層20における光触媒化合物以外の成分と同一の成分を用いることが可能である。
【0074】
かかる保護層50の平均厚みdは、0.05μm以上であることが好ましく、0.20μm以上であることがより好ましい。これにより、加工性の低下を抑制しつつ、光触媒化合物の酸化力から、保護層50よりも下方に位置する層を確実に保護することが可能となる。また、保護層50の平均厚みdは、5.00μm以下であることが好ましく、0.60μm以下であることがより好ましい。これにより、加工性の低下を抑制しつつ、光触媒化合物の酸化力から、保護層50よりも下方に位置する層を確実に保護することが可能となる。
【0075】
また、光触媒層20の平均厚みdに対する、保護層50の平均厚みdの比率(d/d)は、0.3以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。これにより、光触媒層20による有機系化成処理皮膜層40の分解を確実に抑制することが可能となる。また、光触媒層20の平均厚みdに対する、保護層50の平均厚みdの比率(d/d)は、20.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。これにより、光触媒層20による有機系化成処理皮膜層40の分解を確実に抑制することが可能となる。
【0076】
また、本実施形態に係る塗装金属板1は、図2Bに模式的に示したように、光触媒層20及び保護層50と、有機系化成処理皮膜層40と、の間に、例えば各種の着色顔料を含む着色層などをはじめとする、公知の各種の層を更に有していてもよい。
【0077】
ここで、図2A及び図2Bに示したような場合においても、金属板10の表面から皮膜層の最表面(光触媒層20の最表面でもある。)までの合計厚みd(=d+d+d+α)は、15.00μm以下とする。これにより、図3に模式的に示したように、入射した光が金属板10の表面(換言すれば、金属板10と光触媒層20との界面)で反射した反射光を、光触媒化合物による光触媒反応に利用することが可能となるため、コストを抑制しつつ、光触媒効果をより向上させることができる。金属板10の表面から皮膜層の最表面までの合計厚みd(=d+d+d+α)は、好ましくは10.00μm以下であり、より好ましくは7.00μm以下である。
【0078】
また、図2A及び図2Bに示したような場合においても、光触媒層20が設けられた側から測定したJIS Z8741:1997で規定される60°鏡面光沢度は、80%以上となる。ここで、合計厚みdが15.00μm以下であり、かつ、60°鏡面光沢度が80%以上であれば、入射した光が金属板10の表面で反射した反射光を、光触媒化合物による光触媒反応に利用しているとみなすことができる。
【0079】
なお、図1A図3では、金属板10の片側の面上に、光触媒層20をはじめとする各層を設ける場合について図示しているが、光触媒層20をはじめとする各層は、金属板10の両面に設けてもよい。この場合、金属板10の表面から光触媒層20の表面までの合計厚みdは、塗装金属板1の各面で、15.00μm以下となるようにする。また、60°鏡面光沢度についても、塗装金属板1の各面で、80%以上となる。また、先だって説明した無機系化成処理皮膜層30を設けた際に、上記のような保護層50を形成してもよい。
【0080】
以上、図1A図3を参照しながら、本実施形態に係る塗装金属板について、詳細に説明した。
【0081】
<各層の平均厚みの測定方法について>
ここで、光触媒層をはじめとする各層の平均厚みは、着目する層を断面方向から顕微鏡で観察することで測定することが可能である。断面方向から観察する試料の作製方法としては、例えば、樹脂に埋め込み、観察面を研磨する方法、FIB加工する方法、ミクロトーム法など公知の方法を用いることができる。また、顕微鏡の種類としては、SEM、TEM等の公知の装置を用いることができる。
【0082】
(塗装金属板の製造方法について)
以上説明したような本実施形態に係る塗装金属板は、母材となる金属板の表面に対して、必要に応じて洗浄等の各種の前処理を施したうえで、光触媒層を形成するための光触媒処理剤や、化成処理皮膜層を形成するための化成処理剤や、保護層を形成するための保護処理剤を、所望の層構成となるように塗布した後、乾燥・焼き付けることで製造することができる。
【0083】
ここで、各種塗料の塗布は、一般に公知の塗布方法、例えば、ロールコート、カーテンフローコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬、バーコート、刷毛塗りなどで行うことができる。特に本製品の特徴である薄膜で安定的に塗装可能なロールコートが好ましい。
【0084】
また、乾燥・焼き付けの条件については、特に限定されるものではなく、用いる塗料等に応じて適宜設定すればよい。
【実施例
【0085】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る塗装金属板について具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る塗装金属板の一例にすぎず、本発明に係る塗装金属板が下記の例に限定されるものではない。
【0086】
母材となる金属板として、以下の表1に示した8種類の金属板を準備した。なお、表1において、SD、ZL、GI、GL、AL、GAと表した6種類の金属板は、鋼板を基材とする各種のめっき鋼板である。各金属板の板厚、並びに、各めっき鋼板のめっき組成及び付着量/規格は、以下の表1の通りである。
【0087】
【表1】
【0088】
光触媒活性を有する化合物(光触媒化合物)として、以下の表2に示した7種類の化合物を準備した。いずれの光触媒化合物も、市販されているものを用いた。担持金属及び平均粒径についても、表2に併記した。
【0089】
【表2】
【0090】
<無機系/有機系化成処理剤>
使用した無機系化成処理皮膜、有機系化成処理皮膜を形成するための水系塗料(化成処理剤)の原料、及び、乾燥皮膜中の濃度を、以下の表3に示した。各成分濃度が乾燥皮膜中で所定の濃度となるように、添加量を調整した。処理剤の固形分濃度は、無機系化成処理皮膜では10質量%となり、有機系化成処理皮膜では20質量%となるように、イオン交換水を加えて調整した。各処理剤を、以下の表4-1、表4-2に示す乾燥膜厚となるように、塗布した。その後、金属板到達温度が150℃となるように誘導加熱炉で乾燥させ、その後、スプレーで水冷処理した。
【0091】
【表3】
【0092】
<光触媒処理剤、保護処理剤>
使用した光触媒処理剤、及び、保護処理剤の作成方法について説明する。
保護処理剤は、貯蔵安定性を考慮して、固形分濃度が8質量%となるように調整した。濃度は、n-ブタノールで希釈することで、調整した。光触媒処理剤は、表2に示した化合物を、以下の保護処理剤に所定量加えることで、作製した。光触媒化合物の固形分濃度は、以下の表4-1、表4-2に示した通りである。
【0093】
(1)保護皮膜用処理剤(Si系):テトラエトキシシラン(22.5質量部)と、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(2.8質量部)と、n-ブタノール(26質量部)と、を混合し、60℃で2時間攪拌した。この混合物を攪拌した状態で、26質量%の塩酸(3質量部)とn-ブタノールの混合液(26質量部)を1滴/秒ずつ滴下した。その後、攪拌したまま60℃で2時間保持し、処理剤を得た。一連の操作は、窒素雰囲気中で実施した。
【0094】
(2)保護皮膜用処理剤(Zr系):ジルコニウムn-ブトキシド(34.5質量部)と、n-ブタノール(11.6質量部)と、1,5-ジアミノペンタン(0.5質量部)と、硝酸イットリウム(2.8質量部)と、を混合し、1時間攪拌した。その後、氷酢酸(4.8質量部)を加え、40時間攪拌した。その後、濃硝酸(0.6質量部)を1滴/秒ずつ滴下し、2時間攪拌して処理剤を得た。一連の操作は、窒素雰囲気中で実施した。
【0095】
以上示したような金属板及び光触媒化合物を用いて、以下の表4-1、表4-2に示したような構成を有する塗装金属板を、ロールコートにより製造した。なお、各層は、金属板の片面に形成した。また、一部の塗装金属板については、金属板の表面に意匠性加工を施し、ヘアライン模様を形成した。また、一部の塗装金属板については、Sbを0.1質量%、かつ、Alを0.2質量%含有した溶融亜鉛めっき浴を用い、溶融亜鉛めっきの凝固速度を調節することで、スパングル模様を形成しためっき鋼板を基材に用いた。
【0096】
なお、上記のような塗装金属板における各層の平均膜厚は、得られた塗装金属板を樹脂に埋め込み、断面を研磨することで得られた観察面を、顕微鏡により観察することで測定した。また、60°鏡面光沢度は、JIS Z8741:1997準拠した光沢度計(スガ試験機社製UGV-6P)により測定した。
【0097】
得られた塗装金属板について、抗ウイルス性、加工密着性、及び、耐食性の観点から評価を行った。詳細な評価方法は、以下の通りである。
【0098】
<抗ウイルス性>
抗ウイルス性については、抗菌製品技術協議会が規定する抗ウイルス基準に則り、以下のような抗ウイルス試験により、ウイルス感染価を測定することで検証した。より詳細には、各塗装金属板の評価面を上にしてシャーレに載置し、A型インフルエンザウイルスを含むウイルス懸濁液を、評価面上に滴下した。その後、塗装金属板上にフィルムをかぶせてウイルス懸濁液を評価面全面に密着させた後、シャーレの蓋をかぶせた。かかるシャーレを、一般的な事務所の室内を模擬して、1000ルクスの照度を有する25℃の室内で、24時間静置した。その後、フィルム表面と、評価面表面のウイルスを洗浄し、得られた洗浄液中のウイルス感染価(単位:PFU/cm、PFU:Plaque Forming Units)を、プラーク測定法により測定した。
【0099】
塗装金属板とは別個に、光触媒層を設けていない各金属板についても、同様に抗ウイルス試験を行い、光触媒層を設けていない金属板のウイルス感染価と比較して、塗装金属板のウイルス感染価がどの程度減少したかを、活性値として評価した。ウイルスが10以上減少していれば(換言すれば、活性値が1×10以上であれば)、抗菌製品技術協議会が規定する認定シールの使用が許可されることに鑑み、得られた活性値が1×10以上であったものを、合格と判断した。なお、以下の表5では、得られた活性値を対数で表した値を示している。
【0100】
<加工密着性>
供試材に0T曲げ(180°折り曲げ)加工を施し、折り曲げ部外側の被膜を粘着テープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標)テープ幅15mm)で剥離したのち、テープ側への被膜付着状況を観察した。そして、加工密着性を下記の評価基準で評価した。かかる密着性試験において、合格レベルは3以上とした。具体的には、評点が4以上の場合、密着性に優れ、3以上は許容できる(合格レベルである)と判断した。
【0101】
(評価基準)
5:テープ側に被膜付着無し
4:テープ側に数点の被膜剥離ある状態で、鋼板側の剥離長が、供試材の片面の加工部の総長に対して5%未満
3:テープ側に数点の被膜剥離ある状態で、鋼板側の剥離長が、供試材の片面の加工部の総長に対して5%以上、10%未満
2:テープ側に被膜剥離あり、鋼板側の剥離長が、供試材の片面の加工部の総長に対して10%以上、20%未満
1:テープ側に被膜剥離あり、鋼板側の剥離長が、供試材の片面の加工部の総長に対して20%以上
【0102】
<耐食性>
供試材の端面をテープシールしてJIS Z 2371に準拠した塩水噴霧試験(SST)を72時間行った。そして、平面部分の錆発生状況を試験終了後に観察し、下記の評価基準で耐食性を評価した。合格レベルは3以上とした。
【0103】
(評価基準)
5:白錆発生面積が供試材の片面の総面積に対して1%未満
4:白錆発生面積が供試材の片面の総面積に対して1%以上、5%未満
3:白錆発生面積が供試材の片面の総面積に対して5%以上、10%未満
2:白錆発生面積が供試材の片面の総面積に対して10%以上、30%未満
1:白錆発生面積が供試材の片面の総面積に対して30%以上
【0104】
【表4-1】
【0105】
【表4-2】
【0106】
得られた結果を、以下の表5にまとめて示した。
以下の表5から明らかなように、本発明の実施例に該当する塗装金属板は、優れた抗ウイルス性、加工密着性及び耐食性を示す一方で、本発明の比較例に該当する塗装金属板は、抗ウイルス性又は加工密着性の評価結果が不合格となった。
【0107】
【表5】
【0108】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0109】
1 塗装金属板
10 金属板
20 光触媒層(第1皮膜層)
30 無機系化成処理皮膜層(第2皮膜層)
40 有機系化成処理皮膜層(第3皮膜層)
50 保護層(第4皮膜層)
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3