IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本発條株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図1
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図2
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図3
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図4
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図5
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図6
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図7
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図8
  • 特許-屈曲構造体及びその半製品 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-09
(45)【発行日】2025-09-18
(54)【発明の名称】屈曲構造体及びその半製品
(51)【国際特許分類】
   B25J 18/06 20060101AFI20250910BHJP
   A61B 17/29 20060101ALI20250910BHJP
【FI】
B25J18/06
A61B17/29
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021192500
(22)【出願日】2021-11-26
(65)【公開番号】P2023079073
(43)【公開日】2023-06-07
【審査請求日】2024-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】平田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】保戸田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】早川 悠暉
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-026019(JP,A)
【文献】特開2004-033525(JP,A)
【文献】実公昭49-44311(JP,Y1)
【文献】特開2012-081011(JP,A)
【文献】特開2002-369791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 18/06
A61B 17/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重可撓体が伸展状態から屈曲状態へ屈曲可能な屈曲構造体であって、
前記多重可撓体を構成する外コイルばねと、
前記外コイルばねの内側に配置され素線が前記外コイルばねの素線間でコイル径方向に重なって前記多重可撓体を構成する内コイルばねと、
前記多重可撓体の一側を受ける一側受部材と、
前記多重可撓体の他側を受ける他側受部材と、
前記一側受部材に一側が固定され他側が前記他側受部材を通して配策され前記多重可撓体の屈曲状態への変位を操作するための複数の索状部材と、
前記索状部材の他側に設けられ前記複数の索状部材間での相対的な引き及び引き戻し操作により前記多重可撓体の伸展状態及び屈曲状態間の変位を操作する操作部と
前記操作部の操作によらず前記複数の索状部材を前記他側受部材側へ引き、前記一側受部材と前記他側受部材との間隔を調整し前記多重可撓体の伸展状態で前記内コイルばね及び前記外コイルばねの素線間の密接状態設定密接設定部と
を備えた屈曲構造体。
【請求項2】
請求項1の屈曲構造体であって、
前記密接状態設定では、前記多重可撓体の前記屈曲状態から前記伸展状態へ戻る復元力に対し前記素線間の摩擦力を小さくする、
屈曲構造体。
【請求項3】
請求項の屈曲構造体であって、
前記操作部を、前記多重可撓体の伸展状態の方向へ位置を調節可能に支持し、
前記密接状態は、前記多重可撓体の伸展状態で前記操作部の位置を調節することにより設定する
屈曲構造体。
【請求項4】
請求項3の屈曲構造体であって、
前記操作部は、前記他側受部材側に支持され前記索状部材を前記一側受部材に対して掛け回す回転操作可能及び移動調節可能なプーリーを備え、
前記密接設定部は、前記プーリーの位置を調節するテンショナーを備えた、
屈曲構造体。
【請求項5】
請求項の屈曲構造体であって、
前記密接設定部は、前記索状部材の他側に設けられた受部と、前記他側受部材及び前記受部間に介設され前記一側受部材に対し前記複数の索状部材に前記多重可撓体の伸展状態で張力を付与する弾性体とを備え、
前記密接状態は、前記弾性体による前記張力の付与により設定する、
屈曲構造体。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項の屈曲構造体であって、
前記一側受部材に一端部が結合され前記内コイルばね及び前記外コイルばねを内包して前記内コイルばね及び前記外コイルばねと共に前記多重可撓体を構成する可撓チューブと、
前記可撓チューブの他端部に結合され前記可撓チューブと共に前記内コイルばね及び前記外コイルばねを貫通する取付基部と、
を備え、
前記他側受部材は、中空のシャフトの端部内に固定され、
前記密接設定部は、前記取付基部を前記中空のシャフトの端部に結合して移動させ前記他側受部材が前記内コイルばね及び前記外コイルばねの他端を受けることで前記密接状態を設定する、
屈曲構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットやマニピュレーター等に供される屈曲構造体及びその半製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット、マニピュレーター、或はアクチュエータ等には、屈曲・伸展を可能とする屈曲構造体を備えたものがある。このような屈曲構造体としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1の屈曲構造体は、二重コイル構造を有し、屈曲伸展が可能となっている。かかる屈曲構造体は、外コイル部を引き延ばした状態で内コイル部を外コイル部の内周にねじ込むことで形成され、外コイル部及び内コイル部の素線間が密接している。
【0004】
これにより、屈曲構造体は、初張力(無荷重時でも常時コイル素線同士を互いに密着させようとする力)が付与された状態となっている。この初張力は、外コイル部及び内コイル部の構造に依存することになるため、異なる初張力を設定するには、外コイル部及び内コイル部の構造を変更する必要があり、煩雑となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-26021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、異なる初張力の設定が煩雑であった点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、多重可撓体が伸展状態から屈曲状態へ屈曲可能な屈曲構造体であって、前記多重可撓体を構成する外コイルばねと、前記外コイルばねの内側に配置され素線が前記外コイルばねの素線間でコイル径方向に重なって前記多重可撓体を構成する内コイルばねと、前記多重可撓体の一側を受ける一側受部材と、前記多重可撓体の他側を受ける他側受部材と、前記一側受部材に一側が固定され他側が前記他側受部材を通して配策され前記多重可撓体の屈曲状態への変位を操作するための複数の索状部材と、前記索状部材の他側に設けられ前記複数の索状部材間での相対的な引き及び引き戻し操作により前記多重可撓体の伸展状態及び屈曲状態間の変位を操作する操作部と前記操作部の操作によらず前記複数の索状部材を前記他側受部材側へ引っ張り、前記一側受部材と前記他側受部材との間隔を調整し前記多重可撓体の伸展状態で前記内コイルばね及び前記外コイルばねの素線間の密接状態設定密接設定部とを備えた屈曲構造体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、一側受部材と他側受部材との間隔に応じ、内コイルばね及び外コイルばねの素線間の密接状態を設定して異なる初張力を容易に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施例1に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターの要部を示す斜視図である。
図2図2は、図1のマニピュレーターの断面図である。
図3図3は、図2の要部を示す概略図である。
図4図4(A)及び(B)は、図1のマニピュレーターの概念図であり、図4(A)は、初張力負荷前の状態、図4(B)は、初張力負荷後の状態を示す。
図5図5(A)及び(B)は、図1のマニピュレーターの概念図であり、図5(A)は、伸展状態、図5(B)は屈曲状態を示す。
図6図6(A)及び(B)は、屈曲構造体の屈曲状態から伸展状態への戻り特性の比較例との比較であり、図6(A)は、全体的な変化を示すグラフ、図6(B)は、図6(A)の原点付近を拡大したグラフである。
図7図7(A)及び(B)は、本発明の実施例2に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターの概念図であり、図7(A)は、伸展状態、図7(B)は屈曲状態を示す。
図8図8は、本発明の実施例3に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターを示す概念図である。
図9図9は、本発明の実施例4に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、異なる初張力を容易に設定するという目的を、一側受部材と他側受部材との間隔に応じて内コイルばね及び外コイルばねの素線間の密接状態を設定することにより実現した。
【0012】
すなわち、屈曲構造体1は、多重可撓体15が伸展状態から屈曲状態へ屈曲可能であって、外コイルばね23と、内コイルばね25と、一側受部材13と、他側受部材14とを備える。
【0013】
外コイルばね23及び内コイルばね25は、多重可撓体15を構成する。内コイルばね25は、外コイルばね23の内側に配置され、素線が外コイルばね23の素線間でコイル径方向に重なる。一側受部材13は、多重可撓体15の一端を受け、他側受部材14は、多重可撓体15の他端を受ける。多重可撓体15は、一側受部材13と他側受部材14との間隔に応じ内外コイルばね23の素線間の密接状態が設定される。
【0014】
密接状態の設定では、多重可撓体15の屈曲状態から伸展状態へ戻る復元力に対し素線間の摩擦力を零又は限りなく小さくしてもよい。
【0015】
屈曲構造体1は、一側受部材13と他側受部材14との間隔を調整し、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線間の密接状態を設定する密接設定部21を備えてもよい。
【0016】
密接設定部21は、内外コイルばね23の素線間の密接状態を設定できればよく、その構造は適用対象等に応じて自由に設定し実現することができる。
【0017】
屈曲構造体1は、一側受部材13に一側が固定され他側が他側受部材14を通して配策され多重可撓体15の屈曲状態への変位を操作するための複数の索状部材19を備え、密接設定部21は、索状部材19を密接状態の設定に共用してもよい。
【0018】
また、屈曲構造体1は、索状部材19の他側に設けられ複数の索状部材19間での相対的な引き及び引き戻し操作により多重可撓体15の伸展状態及び屈曲状態間の変位を操作する操作部22を備え、密接設定部21は、操作部22を、多重可撓体15の伸展状態の方向へ位置を調節可能に支持し、密接状態は、多重可撓体15の伸展状態で操作部22の位置を調節することにより設定してもよい。
【0019】
操作部22は、他側受部材14側に支持され索状部材19を一側受部材13に対して掛け回す回転操作可能及び移動調節可能なプーリー29を備え、密接設定部21は、プーリー29の位置を調節するテンショナー31を備えてもよい。
【0020】
密接設定部21は、索状部材19の他側に設けられた受部33と、他側受部材14及び受部33間に介設され一側受部材13に対し複数の索状部材19に多重可撓体15の伸展状態で張力を付与する弾性体35とを備え、密接状態は、弾性体35による張力の付与により設定してもよい。
【実施例1】
【0021】
[マニピュレーター]
図1は、本発明の実施例1に係るマニピュレーターの要部を示す斜視図、図2は、同断面図、図3は、図2の要部を示す概略図である。
【0022】
本実施例では、屈曲構造体1を用いたマニピュレーター3を例に説明する。マニピュレーター3は、医療用の鉗子であり、手術ロボットに取り付ける鉗子の他、手術ロボットに取り付けない内視鏡カメラや手動鉗子等として用いられるものである。なお、屈曲構造体1は、ロボット、マニピュレーター、或はアクチュエータ等に適用でき、屈曲を必要とするものであれば適用可能である。
【0023】
マニピュレーター3は、シャフト5、屈曲構造体1、エンドエフェクタ7によって構成されている。
【0024】
シャフト5は、例えば円筒形状の部材である。このシャフト5の先端側には、屈曲構造体1を介してエンドエフェクタ7が支持されている。屈曲構造体1については後述する。
【0025】
エンドエフェクタ7は、医療用の鉗子であり、後述する屈曲構造体1の可動部13に対して一対の把持部7aが開閉可能に軸支されている。エンドエフェクタ7には、シャフト5及び屈曲構造体1の中心部に通されたプッシュプルケーブル9が接続されている。このプッシュプルケーブル9の軸方向移動(進退動作)により、把持部7aが開閉するように構成されている。なお、単に軸方向というときは、屈曲構造体1の軸心に沿った方向を意味し、厳密に軸心に平行な方向の他、僅かに傾斜した方向も含まれる。
【0026】
なお、把持部7aの駆動は、エアー等によって行ってもよい。また、エンドエフェクタ7は、例えば、鋏、把持レトラクタ、及び針ドライバ等のように、鉗子以外のものとすることも可能である。
【0027】
[屈曲構造体]
屈曲構造体1は、取付基部11と、可動部13と、固定受体14と、多重可撓体15と、駆動ワイヤー19と、密接設定部21とを備えている。この屈曲構造体1は、伸展状態と屈曲状態との間で屈曲可能な構成である。なお、本実施例では、可動部13を一側受部材、固定受体14を他側受け部材としている。
【0028】
取付基部11は、多重可撓体15を構成する多重コイルばねとしての二重コイルばね16を貫通し、且つ可撓チューブ17の一端を受ける構成である。この取付基部11は、嵌合部11aとヘッド部11bとを備え、樹脂や金属等によって形成された柱状体、特に段付き状の円柱体である。取付基部11の嵌合部11aは、シャフト5の端部先端に嵌合して取り付けられ、ヘッド部11bは、シャフト5の端縁に突き当たっている。
【0029】
取付基部11は、可撓チューブ17の一端を受け、シャフト5の端部に結合できればよく、屈曲構造体1が適用される機器に応じて材質、形状、構造は自由に設定できる。
【0030】
固定受体14は、二重コイルばね16の他側を受けるものであり、シャフト5の端部内に嵌合して固定されている。固定受体14の固定は、シャフト5への溶接等の他の手法であってもよい。
【0031】
固定受体14は、シャフト5内で、取付基部11の嵌合部11aに軸方向で付き当てられている。なお、固定受体14は、嵌合11aに対して軸方向の隙間を有して配置してもよい。固定受体14は、シャフト5に一体に設けることもできる。
【0032】
可動部13は、樹脂や金属等によって形成された柱状体、特に円柱体である。可動部13には、エンドエフェクタ7が取り付けられる。
【0033】
なお、可動部13は、柱状体に限られず、板状体等としてもよく、エンドエフェクタ7を取付け可能な部材であればよい。また、可動部13は、屈曲構造体1が適用される機器に応じて適宜の形態とすることが可能である。
【0034】
かかる可動部13は、取付基部11に対し多重可撓体15によって結合されている。これにより、可動部13は、多重可撓体15の一側を受ける一側受部材を構成する。すなわち、可動部13には、可撓チューブ17の他端が取り付けられ、二重コイルばね16の一側が受けられる。
【0035】
多重可撓体15は、本実施例において取付基部11及び固定受体14と可動部13との間に配置されている。多重可撓体15は、軸方向に対して屈曲状態及び伸展状態間で屈曲可能な構成である。
【0036】
この多重可撓体15によって可動部13は、取付基部11に対し屈曲位置及び伸展位置に変位可能となる。屈曲位置とは、可動部13の軸が軸方向と交差し、屈曲構造体1の屈曲が最大となる位置である。伸展位置とは、可動部13の軸が軸方向に沿った位置である。伸展位置において、可動部13の軸が軸方向に厳密に沿っている必要はなく、僅かにずれた場合も含まれる。
【0037】
本実施例の多重可撓体15は、二重コイルばね16と可撓チューブ17とで構成されている。ただし、可撓チューブ17は省略することもできる。また、二重コイルばね16に代えて、三重以上の多重コイルばねを用いてもよい。
【0038】
二重コイルばね16は、軸方向に対して屈曲自在な二重コイルであり、外コイルばね23と、内コイルばね25とを備えている。
【0039】
外コイルばね23及び内コイルばね25は、それぞれ所定の素線間の隙間(ピッチ)を有する圧縮コイルばねである。これら外コイルばね23及び内コイルばね25は、内コイルばね25が外コイルばね23の内側に位置した状態で取付基部11と固定受体14との間で圧縮されている。
【0040】
これにより、内コイルばね25が外コイルばね23の内側に螺合した状態となっている。つまり、外コイルばね23及び内コイルばね25は、取付基部11と固定受体14との間隔に応じ、多重可撓体15の伸展状態で素線間の密接状態が設定される。なお、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線は、自由状態において非接触となる(図4(A)参照)。
【0041】
かかる圧縮により、二重コイルばね16は圧接力が付与される。圧接力は、内外コイルばね25、23の素線同士を常時互いに密着させようとする力である。
【0042】
本実施例では、多重可撓体15の屈曲状態から伸展状態へ戻る復元力に対し、素線間の摩擦力が小さくなるように密接状態による初張力を設定する。特に、本実施例では、密接状態で素線間の摩擦力が零に近くなるように設定されている。
【0043】
なお、本実施例では、多重可撓体15の復元力と素線間の摩擦力との設定により、屈曲構造体1が屈曲状態から伸展状態へと復元することを可能とする。この限りにおいて、摩擦力を零にする必要はない。
【0044】
ただし、初張力は、屈曲構造体1が適用される機器に応じて、密接設定部21によって適宜設定可能である。
【0045】
内コイルばね25は、外コイルばね23よりもコイル径が小さく、外コイルばね23内側に螺合して配置されている。外コイルばね23及び内コイルばね25のコイル径は、軸方向の一端から他端に至るまで一定となっている。ただし、この外コイルばね23のコイル径は、軸方向で変化させることも可能である。
【0046】
外コイルばね23は、軸方向で隣接する巻部間を軸方向で離間させた複数の隙間を有している。この複数の隙間には、内コイルばね25の巻部が内側から嵌合している。この嵌合により内コイルばね25の素線は、その外周部が外コイルばね23の素線間でコイル径方向に重なっている。
【0047】
なお、外コイルばね23及び内コイルばね25の材質は、いずれも金属や樹脂等とすることが可能である。また、外コイルばね23及び内コイルばね25の素線の断面形状は、円形となっている。ただし、外コイルばね23及び内コイルばね25の断面形状は、円形に限られるものではなく、矩形や楕円等としてもよい。また、外コイルばね23及び内コイルばね25の線径は、異なっていてもよい。
【0048】
可撓チューブ17は、多重可撓体15の外周部を構成している。従って、可撓チューブ17は、二重コイルばね16を内包している。可撓チューブ17の一端部は、可動部13に結合され、可撓チューブ17の他端部に取付基部11が結合されている。
【0049】
本実施例の可撓チューブ17は、蛇腹状のベローズからなる。ただし、可撓チューブ17は、複数のウェーブワッシャーを積層して溶接等により相互間を結合した構成や、コイルばね、その他の筒体等を用いることも可能である。つまり、可撓チューブ17は、弾性を有するチューブ状を呈していれば、特に限定されるものではない。
【0050】
本実施例の多重可撓体15は、可撓チューブ17及び二重コイルばね16の協働した弾性により屈曲状態から伸展状態への復元力を有している。可撓チューブ17が省略されるとき、復元力は、二重コイルばね16の弾性による。なお、可撓チューブ17を設ける場合、二重コイルばね16は、多重可撓体15としての復元力を生じさせない構成も可能である。
【0051】
かかる多重可撓体15の屈曲は、駆動ワイヤー19によって行われる。駆動ワイヤー19は、金属等からなる索状部材であり、本実施例において屈曲構造体1の周方向の4か所に90度毎に設けられている。屈曲構造体1の径方向に対向する駆動ワイヤー19は対をなしている。従って、本実施例では、二対の駆動ワイヤー19を備えている。
【0052】
ただし、一方の対の駆動ワイヤー19を省略することも可能であり、また、屈曲構造体1は、複数の駆動ワイヤー19を備えていればよい。例えば、駆動ワイヤー19は、三本設けてもよい。この場合、駆動ワイヤー19は、周方向に120度毎に配置するのが好ましい。この駆動ワイヤー19は、索状部材であれば、撚り線、NiTi(ニッケルチタン)単線、ピアノ線、多関節ロッド、鎖、紐、糸、縄等とすることが可能である。
【0053】
これら駆動ワイヤー19は、軸方向に引かれることによって屈曲構造体1を屈曲させるものであり、直接又は間接的に図示しない操作機構に接続され、軸方向に操作されるようになっている。
【0054】
なお、軸方向に操作とは、軸方向で一対の駆動ワイヤー19を相対的な引き及び引き戻すことを意味する。本実施例において、一対の駆動ワイヤー19の何れか一方が可動部13に対して取付基部11方向に引かれると、他方が可動部13方向へ引き戻される。なお、駆動ワイヤー19は、それぞれ独立して引かれる構成にしてもよい。
【0055】
一対の各駆動ワイヤー19の一側は、可動部13に固定された固定部27となっている。なお、固定部27に適用する固定手段は問わない。
【0056】
各駆動ワイヤー19は、固定部27から軸方向に沿って伸び、可撓チューブ17及び取付基部11、固定受体14を挿通し、他側がシャフト5の内部を通って配索されている。
【0057】
一対の各駆動ワイヤー19は、プーリー29を介して連続している。
【0058】
プーリー29は、固定受体14側であるシャフト5内に支持されている。このプーリー29は、図示しない操作機構に連動され、操作可能となっている。プーリー29の操作により駆動ワイヤー19の引き及び引き戻し操作が行われる。プーリー29は、シャフト5外で操作機構等に支持させることもできる。なお、プーリー29を省略して各駆動ワイヤー19を操作機構に結合することも可能である。
【0059】
密接設定部21は、可動部13と固定受体14との間隔を多重可撓体15の伸展状態で調整し、二重コイルばね16を圧縮して内外コイルばね25、23の素線間の密接状態を設定するものである。これにより、二重コイルばね16の初張力が調整又は設定される。
【0060】
また、本実施例では、基本的に、二重コイルばね16が取付基部11をシャフト5に取り付けるのみで初張力を設定することが可能である。従って、可動部13と固定受体14との間隔を調整不要な場合は、密接設定部21を省略することも可能である。この場合の省略は、後述のテンショナー31を省略することである。
【0061】
本実施例の密接設定部21は、複数の索状部材としての駆動ワイヤー19とプーリー29とを含む。駆動ワイヤー19は、上記のように、可動部13に一側が固定され、他側が固定受体14を通して配策され、多重可撓体15の屈曲状態への変位を操作するための構成である。なお、固定受体14は、凹部又は貫通孔によって駆動ワイヤー19の他側を通せばよい。
【0062】
密接設定部21は、この駆動ワイヤー19を内外コイルばね25、23の素線間の密接状態の設定に共用する。従って、構造を簡単にすることができる。
【0063】
プーリー29は、多重可撓体15の伸展状態の軸方向へ位置を調節可能に支持されている。この操作部22のプーリー29の位置を多重可撓体15の伸展状態で調節することにより、内外コイルばね25、23の素線間の密接状態が設定される。
【0064】
プーリー29の位置を調節したときは、プーリー29と操作機構との関係も調整することになる。プーリー29が操作機構に支持されている構造では、操作機構の位置が調節可能に支持されてもよい。プーリー29を省略して各駆動ワイヤー19を操作機構に結合する場合は、操作機構の位置が調節可能であってもよい。
【0065】
密接設定部21は、プーリー29の位置を調整するテンショナー31を備えている。テンショナー31は、プーリー29の位置を調節して内外コイルばね25、23の素線間の密接状態の設定を行わせる。
【0066】
[密接状態の設定]
図4(A)及び(B)は、図1のマニピュレーターの概念図であり、図4(A)は、初張力負荷前の状態、図4(B)は、初張力負荷後の状態を示す。
【0067】
図4(A)及び図4(B)のように、初張力付加前の屈曲構造体1の半製品をシャフト5の端部に取り付け、二重コイルばね16に初張力を付与する。
【0068】
屈曲構造体1の半製品は、図4(A)のように、外コイルばね23と、内コイルばね25と、可動部13と、を備える。この屈曲構造体1の半製品において、二重コイルばね16の内コイルばね25及び外コイルばね23は、疎であり軸方向で素線間に隙間が存在する。
【0069】
つまり、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線は、非密接状態で内コイルばね25の素線が外コイルばね23のコイル径方向に重なっている。なお、屈曲構造体1の半製品において、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線が密接していてもよい。
【0070】
この状態で、取付基部11を貫通する二重コイルばね16の端部を固定受体14に当接させ、シャフト5の端部に取付基部11の嵌合部11aを結合する。これにより、可動部13と固定受14との間隔が縮まり、二重コイルばね16が圧縮される。
【0071】
結果として、図4(B)のように、二重コイルばね16が可動部13と固定受体14間の間隔に応じて圧縮され、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線が相互に密接する。この結果、二重コイルばね16は初張力が付与される。
【0072】
なお、屈曲構造体1の半製品において、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線が密接している場合は、可動部13と固定受体14間の間隔に応じた二重コイルばね16の圧縮により、初張力が付加されて調整される。
【0073】
この状態でさらに初張力の調整が必要な場合、密接設定部21により固定受体14と可動部13との間の間隔が二重コイルばね16の伸展状態で調整される。つまり、プーリー29をテンショナー31により引き付けることで、可動部13の位置を調整する。この調整により二重コイルばね16がさらに圧縮され、内外コイルばね25、23の素線間の密接状態が調整される。
【0074】
従って、本実施例では、精度の高い二重コイルばね16への初張力の付与が可能となる。密接設定部21の設定可能範囲を超えて初張力を調整したい場合は、固定受体14の位置を変更すればよい。
【0075】
なお、取付基部11が固定受体14に当接したとき内外コイルばね25、23の素線間が密接直前となり、この状態からプーリー29の位置をさらに調整して密接状態を設定することもできる。
【0076】
また、取付基部14と固定受体14との間に隙間があり、プーリー29の位置を調整して内外コイルばね25、23の素線間を密接させてもよい。
【0077】
このように、本実施例では、可動部13と固定受体14間の間隔に応じて、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線間の密接状態を設定し、異なる初張力を容易に設定することができる。
【0078】
[動作]
図5(A)及び(B)は、図1のマニピュレーターの概念図であり、図5(A)は、伸展状態、図5(B)は、屈曲状態を示す。
【0079】
医師等の操作者がマニピュレーター3を操作する際は、何れか一つの駆動ワイヤー19が引かれることにより屈曲構造体1が屈曲する。そして、屈曲構造体1は、異なる対の駆動ワイヤー19を組み合わせて引かれることにより、360度全方位に屈曲することが可能となる。これにより、エンドエフェクタ7を所望の方向に指向させることができる。
【0080】
屈曲構造体1を屈曲させた後は、内コイルばね25及び外コイルばね23の素線間の摩擦力が二重コイルばね16の復元力よりも小さく設定されているため、屈曲構造体1を確実に復元させることができる。
【0081】
図6(A)及び(B)は、屈曲構造体の屈曲状態から伸展状態への戻り特性の比較例との比較であり、図6(A)は、全体的な変化を示すグラフ、図6(B)は、図6(A)の原点付近を拡大したグラフである。
【0082】
図6において実施例(1N)とは、図4(A)のように素線間に隙間のある実施例の二重コイルばね16に対して駆動ワイヤー19一本あたり1Nの荷重を軸方向に掛け、素線間の密接荷重がほぼ零で密接状態となる例である。同実施例(3N)とは、駆動ワイヤー19一本あたり1Nの荷重を軸方向に掛けたときに、素線間の密接荷重がほぼ零で密接状態となる実施例の二重コイルばね16に、駆動ワイヤー19一本あたり3Nの荷重を軸方向に掛けて密接状態とした例である。
【0083】
図6において比較例(1N)とは、素線間に隙間の無い引張コイルからなる内コイルばねと外コイルばねを螺合した二重コイルばねに、駆動ワイヤー一本あたり1Nの荷重を軸方向に掛けている例である。比較例(3N)とは、引張コイルからなる内コイルばねと外コイルばねを螺合した二重コイルばねに、駆動ワイヤー一本あたり3Nの荷重を軸方向に掛けている例である。
【0084】
これらの例のばねをφ5鉗子に取り付け、曲げ荷重を掛けて伸展状態から屈曲状態へ変位させ、荷重を除去して伸展状態の原点に戻るか否かを比較した。
【0085】
図6において、縦軸はエンドエフェクタの変位、横軸は屈曲構造体1の屈曲角度である。同じばねにおいて上下2本表示されているのは、上が伸展状態から屈曲状態への変化データ、下が屈曲状態から伸展状態への復元データである。
【0086】
図6(B)のように、比較例(1N)及び比較例(3N)では、曲げ荷重を除去しても伸展状態へ戻る途中で線間摩擦が復元力を上回り、屈曲角度が何れも原点の零には戻らなかった。
【0087】
これに対し、実施例(1N)及び実施例(3N)では、何れも伸展状態へ戻るまで線間摩擦が復元力を下回り屈曲角度が原点の零に戻った。
【0088】
従って、本実施例では、多重可撓体15の屈曲状態から伸展状態へ戻る復元力に対し素線間の摩擦力が小さく対抗するように密接状態を設定することで、屈曲状態となった多重可撓体15を伸展状態の原点へ確実に復元させることができる。
【0089】
また、復元時以外にも初期荷重分を無視できるので、二重コイルばね16の耐圧縮性に寄与する。
【実施例2】
【0090】
図7(A)及び(B)は、本発明の実施例2に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターの概念図であり、図7(A)は、伸展状態、図7(B)は屈曲状態を示す。なお、実施例2では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0091】
本実施例2の密接設定部21は、駆動ワイヤー19の他側に設けられた受部33と固定受体14及び受部33間に介設した弾性体として圧縮コイルばね35を備えている。受部33は、駆動ワイヤー19にカシメ結合されている。
【0092】
圧縮コイルばね35は、複数の駆動ワイヤー19のそれぞれに嵌合して備えられている。各圧縮コイルばね35は、可動部13に対し複数の駆動ワイヤー19に多重可撓体15の伸展状態で張力を付与する。
【0093】
従って、圧縮コイルばね35の荷重設定により複数の駆動ワイヤー19に張力を付与し、内外コイルばね25、23の密接状態を設定することができる。
【0094】
なお、弾性体としての圧縮コイルばね35は、金属や樹脂等によって構成することができ、弾性係数等に応じて適宜の形状を採用することが可能である。弾性体がゴム等の場合は、柱状や筒状等としても良い。
【0095】
圧縮コイルばね35は、軸方向に弾性力を働かせるように、駆動ワイヤー19に対し並列に配置された構成となっている。ここでの並列とは、軸方向と弾性力が作用する方向とを平行になるように圧縮コイルばね35を配置することをいう。ただし、両方向の厳密な平行は必要なく、両方向の一方が他方に対してわずかに傾斜する場合も並列に含まれる。
【0096】
各圧縮コイルばね35は、自由状態の軸方向寸法が受部33と取付基部11との間の軸方向寸法よりも大きく設定されている。このため、各圧縮コイルばね35は、受部33と取付基部11との間で、寸法差に応じて圧縮されている。この圧縮により、各圧縮コイルばね35に荷重が付加され、駆動ワイヤー19に荷重に応じた張力が付与される。
【0097】
従って、本実施例2においても、圧縮コイルばね35の荷重設定により内外コイルばね25、23の密接状態を設定することができ、実施例1と同様な作用効果を得ることができる。
【0098】
なお、外ワイヤー19と同軸の圧縮コイルばね35を圧縮する操作力は、内ワイヤー19と同軸の圧縮コイルばね35が伸びる弾性力によって補助できる。このため、屈曲構造体1を屈曲させるための全体としての操作力の増加を抑制し、屈曲構造体1の屈曲を容易に行わせることができる。
【実施例3】
【0099】
図8は、本発明の実施例3に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターを示す概念図である。なお、実施例3では、実施例2と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0100】
本実施例3の密接設定部21は、屈曲構造体1の対となる駆動ワイヤー19に対して単一の弾性体である圧縮コイルばね21が用いられている。具体的には、対となる駆動ワイヤー19の受部33間にわたる支持部材37を備え、弾性体21が支持部材37と固定受体14との間に介設されている。その他は実施例2と同一である。
【0101】
支持部材37は、対となる駆動ワイヤー19の受部33間にわたって設けられた板状体である。支持部材37には、駆動ワイヤー19が挿通している。この支持部材37は、圧縮コイルばね21によって受部33に押し付けられている。支持部材37は、受部33と一体に形成することもできる。
【0102】
実施例3においても、実施例2と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例4】
【0103】
図9は、本発明の実施例4に係る屈曲構造体を適用したマニピュレーターを示す概念図である。なお、実施例4では、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0104】
実施例4では、弾性体を引張コイルばね21とし、シャフト5の支持部39と駆動ワイヤー19の受部33との間に設けられている。具体的には、軸方向において各駆動ワイヤー19の受部33を挟んで対向位置する支持部39を、シャフト5が備えている。固定受体14は、シャフト5に固定されているため、支持部39は、固定受体14が備えた構成でもある。引張コイルばね21は、支持部39と受部33との間に介設されている。
【0105】
実施例4では、プーリー29が省略され、受部33が操作機構に結合されている。
【0106】
従って、引張コイルばね21の荷重設定により駆動ワイヤー19の張力を設定することができる。この張力により内外コイルばね25、23の密接状態を設定することができ、実施例1と同様な作用効果を得ることができる。
【0107】
ただし、実施例1と同様にプーリー29を備えてもよい。その他は、実施例1と同一である。
【0108】
支持部39は、シャフト5の端部やシャフト5内に設けることができる。支持部39の形状は、引張コイルばね21を支持可能なものであれば良い。
【符号の説明】
【0109】
1 屈曲構造体
5 シャフト
11 取付基部
13 可動部(一側受部材)
14 固定受体(他側受部材)
15 多重可撓体
16 二重コイルばね
17 可撓チューブ
19 駆動ワイヤー(索状部材)
21 密接設定部
22 操作部
23 外コイルばね
25 内コイルばね
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9