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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-10
(45)【発行日】2025-09-19
(54)【発明の名称】機械加工操作の状態を予測する方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20250911BHJP
   G05B 19/4155 20060101ALI20250911BHJP
   B23Q 17/09 20060101ALI20250911BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/4155 V
B23Q17/09 A
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021064672
(22)【出願日】2021-04-06
(65)【公開番号】P2021166045
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】20168413
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519198557
【氏名又は名称】ジー・エフ マシーニング ソリューションズ アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】GF Machining Solutions AG
【住所又は居所原語表記】Roger-Federer-Allee 7,2504 Biel,Switzerland
(73)【特許権者】
【識別番号】519198579
【氏名又は名称】インスパイア アー・ゲー フュア メヒャトロニッシェ プロドゥクツィオーンスズュステーメ ウント フェアティグングステヒニク
【氏名又は名称原語表記】inspire AG fuer mechatronische Produktionssysteme und Fertigungstechnik
【住所又は居所原語表記】Technoparkstrasse 1, 8005 Zuerich, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ポステル
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-010535(JP,A)
【文献】特開平04-034602(JP,A)
【文献】特開2020-189400(JP,A)
【文献】特開2018-094686(JP,A)
【文献】特開2016-143094(JP,A)
【文献】特開2015-168057(JP,A)
【文献】特開2012-187685(JP,A)
【文献】特開2000-010617(JP,A)
【文献】特開平10-249525(JP,A)
【文献】特開平09-011929(JP,A)
【文献】特開平04-113220(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0089886(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0387789(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0086485(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0026965(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0094844(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0164757(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0024642(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0318062(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0253708(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02614922(EP,A1)
【文献】Harish Cherukuri、外3名,"Machining Chatter Prediction Using a Data Learing Model",Journal of Manufacturing and Materials Processing,米国,2019年,vol.3, No.45,p.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
B23Q 17/00-23/00
B23Q 15/00-15/28
G05B 11/00-13/04
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械加工操作の状態であるびびりの発生を予測する方法であって、
a)事前学習段階および最終学習段階においてニューラルネットワークを訓練するステップであって、該ニューラルネットワークは、入力層と、少なくとも1つの隠れ層と、出力層と、複数の重みとを有しており、前記事前学習段階では、事前学習済みのニューラルネットワークを得るために、事前学習データセットが前記ニューラルネットワークに提供され、前記最終学習段階では、最終学習済みのニューラルネットワークを得るために、最終学習データセットが前記事前学習済みのニューラルネットワークに供給され、前記事前学習データセットはシミュレートされたデータを含んでおり、前記最終学習データセットは実験に基づくデータを含んでいる、ステップと、
b)前記最終学習済みのニューラルネットワークを利用して予測データを導出することによって予測を行うステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記事前学習段階の間に決定された、前記事前学習済みのニューラルネットワークの前記重みを、前記最終学習段階において、前記最終学習データセットを利用することによって適合させる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記事前学習データセットに含まれているデータの量は、前記最終学習データセットに含まれているデータの量より多い、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記事前学習データセットは、物理モデルを使用して作成された、シミュレートされたデータのみを含んでおり、かつ/または前記最終学習データセットは、実験に基づくデータのみを含んでいる、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記事前学習データセットは、少なくとも1つの入力の値および少なくとも1つの出力の値を含んでいる、複数のサンプルの集合であり、前記入力の値を、前記物理モデルに、入力データとして提供することによって前記出力の値を決定する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
少なくとも2つのニューラルネットワークを少なくとも2つの異なる事前学習データセットを使用して独立して訓練することによって、少なくとも2つの最終学習済みのニューラルネットワークを取得し、各事前学習データセットを、少なくとも1つの可変パラメータを変えることによって作成する、請求項4または5記載の方法。
【請求項7】
前記物理モデルは、工作機械における前記びびりの発生を定める安定モデルであって、前記入力は機械加工パラメータを含んでおり、前記出力は前記機械加工操作の安定状態である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記可変パラメータは、工具のヤング率、ホルダーのヤング率、前記工具の密度、前記工具の損失係数、前記ホルダーの損失係数、溝付き部分の円柱に相当する外径、並進工具とホルダーとの接触剛性、回転工具とホルダーとの接触剛性、回転工具とホルダーとの接触減衰、接線方向の切削係数および半径方向の切削係数のうちの1つまたは複数を含んでいる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
各最終学習済みのニューラルネットワークを使用して決定された前記予測データを平均化することによって、最適化された予測データを決定する、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、前記予測データおよび/または最適化された予測データから安定ローブ線図を決定することをさらに含んでいる、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法を実施するように構成されている予測ユニット。
【請求項12】
工作機械であって、当該工作機械をコントロールするように構成されているコントローラと、監視ユニットと、請求項11記載の予測ユニットとを備え、前記監視ユニットは、機械加工中のびびりの発生を検出し、特徴付けるように、かつ前記予測ユニットに供給される、実験に基づくデータを準備するように構成されている、工作機械。
【請求項13】
請求項12記載の工作機械を複数備えているシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工操作の状態、特にびびりの発生を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、予測は大半の技術分野において重要な役割を果たしている。たとえば、製造中の欠陥の発生を予測する方法、製造される製品の質を予測する方法ならびに機械加工操作の状態を予測する方法が広く展開されている。
【0003】
予測を行うために、過去にさまざまな技術が開発されてきた。しかし、予測精度は、十分には高くなく、特定の適用に対する要求は満たされない。したがって、予測精度の向上に対する要求がますます強くなっている。さらに、産業環境において予測が用いられる場合、予測を行うための労力は低くあるべきである。
【0004】
予測を行うための1つのアプローチは、分析モデルおよび数値モデル等の物理モデルをベースにしている。これはたとえば、システムの熱的挙動またはシステムの安定性をモデル化する、システムに作用する外力によって誘発される応力およびひずみに対するモデルである。正確な予測を提供するために、物理現象をよく理解する必要がある。特定の現象を理解して特徴付けを行う能力が限られている場合には、モデルのパラメータに関する大きな不確実性が原因で、誤った物理モデルまたは信頼できない予測が生じてしまう。
【0005】
最近の、予測を行うためのよく知られている別のアプローチは、機械学習である。しかし、正確な予測を得るために、大量の、実験に基づくデータが必要になる。産業分野においては、大量の、実験に基づくデータを収集するのは困難なタスクであり得る。
【0006】
米国特許出願公開第2020/0073343号明細書は、工作機械のモーターの回転をコントロールするモーターコントロール装置内に設けられているフィルターの係数を最適化する機械学習方法を開示している。
【0007】
機械加工産業では、製造の質の向上および生産性の向上のために、機械加工操作の状態を予測することがますます重要になってきている。たとえば、フライス加工プロセスでは、機械加工の不安定性、すなわちびびりが製造部品の質を低下させ、切削工具の摩耗を大幅に増加させ、さらには工作機械を損傷させてしまうことがある。さらに、安定した、びびりのない機械加工を保証するために、プロセスパラメータはしばしば、極めて保守的に選択される。したがって、びびり振動は、生産性を制限する最もクリチカルな現象に属する。
【0008】
びびりを予測する1つの既知のアプローチは、物理モデルを使用することである。予測結果を表すために、通常、安定ローブ線図が使用される。安定ローブ線図は、特定の切削状態のもとで機械加工操作が安定しているか、または不安定であるかを示す。安定ローブ線図から、安定した機械加工および最大の生産性のための最適なプロセスパラメータを選択することができる。典型的に、安定ローブ線図は、主軸速度の関数である安定した切削深さと不安定な切削深さとの間で領域を分ける。
【0009】
欧州特許出願公開第2916187号明細書は、中央のびびりデータベースを含むびびりデータベースシステムに関する。びびりデータベースシステムには、機械加工工具、特にフライス盤、旋盤、穴あけ機または中ぐり盤の機械加工およびびびり状態に対応するデータが供給される。この発明は、中央のびびりデータベースに供給されるデータが、びびりデータベースシステムに含まれる少なくとも2つの個別の機械加工工具から取得および収集されることを特徴とする。それによって、データは、データ接続を介して、有利には安全なネットワークを介して中央のびびりデータベースに送られ、実際に遭遇した状態に基づいてびびり安定マップが作られる。
【0010】
しかし、実験に基づく安定限界が理論的な安定限界と異なることがよくある。これは、一方では、理論的な安定限界をもたらす安定モデルが不正確であることによって、他方では、これらのモデルに必要な、切断操作中に正確には知ることができないことがあるパラメータによって起こる。安定モデルのパラメータの不確実性は、安定モデルの出力の信頼性に直接的に影響する。これらのモデルパラメータを取得するためのモデルベースの方法も、実験に基づく方法も、通常、集中的な準備および分析を必要とするので、近年では、安定限界の予測に機械学習技術を利用する試みも行われている。しかし、このアプローチは、安定ローブの形状を学習するために多数のサンプルを必要とする。これは、シミュレートされたデータのみが使用された理由の1つでもある。さらに、この方法は、規定された1つの工具長とワークピース材料とによる、1つの特定の工具ホルダー組み合わせに制限されてしまう。つまり、これらの規定された状態のもとで、すべての訓練ポイントを取得する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、精度および信頼性が改善された、機械加工操作の状態を予測する方法を提供することである。特に、課題は、産業環境において展開可能な、工作機械におけるびびりを予測する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、上述の課題は、独立請求項に記載された特徴によって解決される。さらに、従属請求項および明細書に、さらなる有利な実施形態が記載されている。
【0013】
本発明では、機械加工操作の状態、特にびびりの発生を予測する方法は、事前学習段階および最終学習段階においてニューラルネットワークを訓練することを含む。ニューラルネットワークは、入力層と、少なくとも1つの隠れ層と、出力層と、複数の重みとを有している。事前学習段階において、事前学習済みのニューラルネットワークを得るために、事前学習データセットがニューラルネットワークに提供される。最終学習段階において、最終学習済みのニューラルネットワークを得るために、最終学習データセットが事前学習済みのニューラルネットワークに供給される。事前学習データセットはシミュレートされたデータを含んでおり、最終学習データセットは実験に基づくデータを含んでいる。この方法はさらに、予測データを導出するために、最終学習済みのニューラルネットワークを利用することによって予測を行うことを含む。
【0014】
多層分類ニューラルネットワークは、最初に、事前学習段階において、物理モデルから作成された、シミュレートされたデータによって訓練される。特に、物理モデルは、機械加工操作の状態を表している。事前学習段階において、目標は、事前学習済みのニューラルネットワークに物理モデルの入力および出力の全般的な依存関係を学習させることである。
【0015】
次に、最終学習段階において、事前学習済みのネットワークに最終学習データセットが供給される。これは、実験に基づいて測定されたデータによって、事前学習済みのニューラルネットワークをファインチューニングし、その後のプロセスにおけるより正確な予測を可能にする、実験に基づくデータを含んでいる。この実験に基づくデータは、機械加工操作の状態に関連しており、機械加工状態において得られる。
【0016】
このようにして、予測精度を高めることができ、かつ測定の労力を最小限に抑えることができる。これらの利点は、この方法を産業分野において展開するために重要である。必要とされる、ファインチューニングのための実験に基づくデータは、通常の製造中に収集可能である。
【0017】
事前学習段階の後、事前学習済みのニューラルネットワークは、シミュレートされたデータを使用する事前学習の間に決定された重みを有している。事前学習済みのニューラルネットワークの重みは、最終学習段階の初期値として使用される。最終学習段階の間、事前学習済みのニューラルネットワークの重みを、特に、実験に基づくデータである最終学習データセットを供給することによって適合させる。
【0018】
有利な変形では、事前学習データセットに含まれているデータの量は、最終学習データセットに含まれているデータの量より格段に多く、特に事前学習データセットに含まれているデータの量は、最終学習データセットに含まれているデータの量より少なくとも10倍多い。
【0019】
ある有利な実施形態では、事前学習データセットは、物理モデルから作成された、シミュレートされたデータのみを含んでおり、かつ/または最終学習データセットは、実験に基づくデータのみを含んでいる。シミュレートされたデータは、製造環境外で個別に作成可能である。したがって、機械加工を実行する必要なく、大量のシミュレートされたデータを取得することができる。ニューラルネットワークの訓練の正確さは、大量の訓練データの賜物である。
【0020】
事前学習データセットは複数のサンプルの集合であり、これらの各々は、少なくとも1つの入力の値および少なくとも1つの出力の値を含んでおり、ここで、入力の値を、物理モデルに、入力データとして提供することによって出力の値が決定される。論理的に、ニューラルネットワークの入力層のノードの数は入力の数と同じであり、出力層のノードの数は出力の数と同じである。
【0021】
幾つかの適用では、他のパラメータが物理モデルの出力に影響を与え、それらは不確実性を伴って知られている。これらのパラメータは可変パラメータとして定められ、実験またはシミュレーションから導出される。可変パラメータの可変範囲を、基準値および標準偏差によって定めることができる。
【0022】
予測精度をさらに高めるために、特に可変パラメータの不確実性の影響を低減するために、少なくとも2つのニューラルネットワークを少なくとも2つの異なる事前学習データセットを使用して独立して訓練することによって、少なくとも2つの最終学習済みのニューラルネットワークが得られる。各事前学習データセットは、少なくとも1つの可変パラメータを、その不確実性の範囲に従って変えることによって作成される。各事前学習データセットは、同じタイプの物理モデルを使用して作成される。
【0023】
ニューラルネットワークの数は、可変パラメータの数とは無関係である。したがって、必要とされるニューラルネットワークの数は可変パラメータの数と同じであってもよいし、可変パラメータの総数より少なくてもよいし、または可変パラメータの総数より多くてもよい。
【0024】
たとえば、物理モデルは、Nint個の入力パラメータおよびM個の出力パラメータを含んでおり、ここで数NintおよびMは整数である。ニューラルネットワークは、Nint個の入力ノードを伴う入力層と、M個の出力ノードを伴う出力層とを有するように選択される。
【0025】
L個の可変パラメータが存在する場合、Lは整数である。Nnet個のニューラルネットワークが、Nnet個の最終学習済みのニューラルネットワークが得られるように訓練される。Nnet個のニューラルネットワークのそれぞれに対して、L個の可変パラメータのうちの少なくとも1つの可変パラメータの値を変えることによって、事前学習データセットが作成される。全体的に、Nnet個の事前学習データセットが作成されなければならない。事前学習段階では、Nnet個のニューラルネットワークが、Nnet個の事前学習データセットのうちの1つを供給することによって個別に訓練される。各事前学習データセットは複数のサンプルを含んでおり、これには、可変パラメータの特定の値を考慮して物理モデルから決定されたすべての入力と、対応する出力とが含まれる。異なるニューラルネットワークに対する異なる事前学習データセットは、L個の可変パラメータのうちの少なくとも1つの可変パラメータの値が変わるという点で互いに異なる。
【0026】
必要とされる、実験に基づくデータの量を低く抑えておくために、同じ最終学習データセットが、すべての事前学習済みのニューラルネットワークに供給されてよい。事前学習済みのニュートラルネットワークを訓練して精度をさらに高めるために、異なる最終学習データセットを提供することが考えられる。たとえば、複数の実験に基づくデータセットが異なる工作機械から、かつ/または異なる機械加工状態のもとで導出されてよい。
【0027】
事前学習済みのニューラルネットワークが、実験に基づくデータを使用して訓練された後、最終学習済みのニューラルネットワークは、利用可能な状態に準備されている。各最終学習済みのニューラルネットワークから予測データを決定することができ、これによってNnet個の予測データセットを、Nnet個の最終学習済みのニューラルネットワークから得ることができる。高い精度を有する最適化された予測データセットを、各Nnet個の最終学習済みのニューラルネットワークによって決定された予測データセットを平均化することによって決定することができる。
【0028】
複数の予測データセットの平均が計算される場合には、可変パラメータの不確実性によって生じる予測の不正確さを最小にすることができる。さらに、複数の予測結果から、最終的な予測への可変パラメータの不確実性の伝ぱんを推定することができ、これによって、予測の信頼性をさらに高めることができる。Nnet個の予測データセットのトリム平均を決定するのは有利である。
【0029】
本発明の方法は、物理モデルが充分な予測精度をもたらすことができない多くの産業適用に適しており、これはたとえば、機械の熱的挙動、コンポーネントの摩耗または機械の消費電力の予測である。
【0030】
ある特定の適用は、工作機械におけるびびりの発生の予測である。予測データは、特にフライス加工または旋削または研削のための工作機械におけるびびりの発生を定める。びびり振動は、工具の切削エッジと、機械加工されるワークピースの表面との相互作用によって生じる自励振動である。フライス加工プロセスにおけるびびりの発生は、切削係数、主軸速度、切削深さおよび切削幅および切削工具の工具中心点(Tool Center Point)でのダイナミクスに関連する。びびりの発生を予測する1つの既知の方法は、物理分析モデルの構築である。
【0031】
この変形では、シミュレートされたデータは、安定性を表す物理モデルから得られる。このような安定モデルは、4つの異なる入力を必要とする。すなわち、工具とワークピースとが接触する領域におけるダイナミクスと、係合状態等のプロセス情報と、工具の幾何学的形状に関する情報と、結果として生じる切削力による未切削のチップの厚さに関する切削係数とを必要とする。工具の幾何学的形状および係合状態は通常、十分な正確さを伴って知られているが、切削係数およびツールチップダイナミクスは、高い不確実性を伴う。
【0032】
幾つかの実施形態では、びびりは、ディープニューラルネットワーク(DNN)を用いて予測される。ディープニューラルネットワークは、入力層と、出力層と、入力層と出力層との間の複数の隠れ層とを有している。入力層は、1つまたは複数の入力ノードを含んでおり、出力層は1つまたは複数の出力ノードを含んでいる。特に、双曲線正接は隠れ層に対する活性化関数として使用され、かつ/またはソフトマックス関数が出力層の活性化関数として選択される。しかし、本発明の方法を実施するために、任意の適切なニューラルネットワークが使用されてよい。
【0033】
入力は機械加工パラメータ、たとえば軸位置、軸送り方向、切削深さ、主軸速度と、ワークピースパラメータとを含んでおり、出力は安定状態を含んでいる。予測データセットは、安定状態を含んでいる、工作機械におけるびびりの発生を表している。
【0034】
幾つかの可変パラメータは、工具とワークピースとが接触する領域におけるダイナミクス、たとえば工具のヤング率、ホルダーのヤング率、工具の密度、工具の損失係数、ホルダーの損失係数、溝付き部分の円柱に相当する外径、並進工具とホルダーとの接触剛性、回転工具とホルダーとの接触剛性、回転工具とホルダーとの接触減衰に関連している。
【0035】
付加的な可変パラメータは、接線方向の切削係数および半径方向の切削係数である。
【0036】
びびり予測の適用では、ニューラルネットワークの入力層における各入力は、切削プロセスを表す、正確に知られている入力の1つに相当し、これはたとえば主軸速度、切削深さ、進入角度、出口角度またはクランプ長さであり、出力層における各出力ノードは、安定モデルの1つの出力、すなわち安定またはびびりに相当する。
【0037】
本発明の方法は、必要とされる、実験に基づく訓練デーセットの数を約1桁減らすことができ、同時に、複数の動的構成からの学習およびこれに対する予測を可能にする。これは、ディープニューラルネットワーク(DNN)用の転移学習を利用することによって実現される。多層分類ネットワークは、工具およびホルダーの単純な動的モデルおよび安定モデルを使用して作成された人工的な安定データによって訓練される。これは、影響力があり、容易に測定可能な幾つかのパラメータに対する安定境界の全般的な依存関係をニューラルネットワークに学習させるために行われる。次に、事前学習済みのネットワークに、実験に基づいて測定された安定状態と任意の切削のプロセス状態とが供給され、これによって実際のデータでネットワークがファインチューニングされ、その後のプロセスにおいてより正確な安定予測が可能になる。提示されたアプローチの主要な目標の1つは、測定の労力を最小に抑えることであり、これによってこのアプローチは、産業界にとって有望なアプローチとなる。必要とされる、ファインチューニングのための実験に基づくデータは、通常の切削操作中に簡単に収集可能である。
【0038】
最終学習済みのニューラルネットワークおよび/または予測データからの安定ローブ線図の決定は、さまざまな切削状態に関連したびびりの発生の視覚的な表現を改善することができる。
【0039】
本発明では、本発明に開示された方法を実施するように、予測ユニットが構成されている。
【0040】
本発明では、工作機械は、コントローラと、監視ユニットと、予測ユニットとを備えている。監視ユニットは、コントローラおよび予測ユニットに接続されている。監視ユニットは、コントローラと潜在的な付加的なセンサーとによって提供されたデータに基づいて機械加工中のびびりの発生を検出し、特徴付けるように、かつ予測ユニットに供給される、実験に基づくデータを準備するように構成されている。
【0041】
本発明では、システムは、複数の工作機械と予測ユニットとを備えている。予測ユニットによって作成された予測データを、工作機械間で共有することができる。システム内に含まれている異なる工作機械から、実験に基づくデータを導出することもできる。これは、実験に基づくデータを効率的に収集できるという利点を有しており、収集された、実験に基づくデータは、さまざまな機械加工状態に対応することができる。
【0042】
本開示の利点および特徴を得ることができる様式を記述するために、以降では、これまでに簡単に記述した原理のより詳細な記述を、添付の図面に示される、その特定の実施形態を参照することによって行う。これらの図面は、本開示の実施例を示しているに過ぎず、したがって、その範囲を限定するものと見なされるべきではない。本開示の原理は、添付の図面を使用することによって、付加的な特異性および詳細とともに記述および説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】物理モデルを示す図である。
図2】ニューラルネットワークを示す図である。
図3】事前学習、最終学習および予測を示す図である。
図4】不確実なパラメータを必要とする物理モデルの例を示す図である。
図5】不確実なパラメータを必要とする物理モデルの例を示す図である。
図6】複数のニューラルネットワークを示す図である。
図7】安定予測のためのモデルを示す図である。
図8】安定予測のためのモデルを示す図である。
図9】安定ローブ線図を示す図である。
図10】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
図11a】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
図11b】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
図12】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
図13】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
図14】びびりの発生を予測する一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1図2および図3は、転移学習に基づく、本発明の一実施形態を示している。転移学習は、ある問題について訓練されたモデルが、わずかに異なるが関連する問題の開始点として使用される方法である。図1は、3つの入力x1、x2およびx3と、2つの出力y1およびy2とを含んでいる物理モデルの概略図を示している。しかし、入力および出力の数は、図1に示されているこれらの数に制限さない。事前学習データセットが、物理モデルから導出される。事前学習データセットは、たとえば1000~10000の範囲の大量のサンプルを含んでいる。異なるサンプルの場合には、入力の異なる値がセットされ、対応する出力が計算される。
【0045】
事前学習の間、事前学習データセットが、入力層と、幾つかの隠れ層と、出力層とを有している、図2に示されたニューラルネットワークに供給される。入力層は入力と同じノードの数を有しており、すなわち、この例では3つである。出力層は出力と同じ数を有しており、すなわち、この例では2つである。
【0046】
図3は、事前学習段階、最終学習段階および予測の概要を示している。事前学習段階では、ニューラルネットワークの重みが、物理モデルからシミュレートされたデータを利用することによって決定され、事前学習段階の終わりに、決定された重みを有する、事前学習済みのニューラルネットワークが得られる。したがって、この事前学習済みのニューラルネットワークは物理モデルのマッピングであり、物理モデルの主な影響要因と全般的な挙動とを認識している。
【0047】
決定された重みを有する、事前学習済みのニューラルネットワークはさらに、最終学習段階において訓練される。事前学習段階とは対照的に、この段階では、事前学習段階において決定された重みを調整して、学習精度をさらに高めるために、実験に基づくデータセットが提供される。
【0048】
最終学習の後、最終学習済みのニューラルネットワークは、予測のための展開に対して準備されている。
【0049】
図4図5および図6は実施形態を示しており、これらの実施形態は、複数のニューラルネットワークを独立して訓練することによって、予測精度をさらに高めることができる。図4は物理モデルの例を示しており、これは不確実性を有する可変パラメータを含んでいる。入力x1、x2およびx3に加えて、さらなる可変パラメータp1、p2およびp3が物理モデルの出力に影響を与える。これらのパラメータは、正確には知られていない。これらの可変パラメータの値はある範囲内で変動することがあり、これによって、出力に不確実性が導入され、予測精度が低下してしまう。予測精度への相当な不確実性の影響を最小にするために、複数のニューラルネットワークが適用される。図6に示されている3つのニューラルネットワークは、複数のニューラルネットワークが実装されることを明らかにしているだけであり、ニューラルネットワークの数は3つに限定されていない。
【0050】
事前学習を開始する前に、物理モデルを用いて、事前学習データセットが作成されなければならない。入力を変えることによってモデルの出力を計算するために、可変パラメータの値が事前に決定されていなければならない。可変パラメータは不確実であるので、可変パラメータの異なる値が、異なるニューラルネットワークに対して事前学習データセットを決定するために使用されるために選択される。このようにして、最終的な予測結果への可変パラメータの不確実性の負の影響を低減させることができる。図5に示されているように、可変パラメータp1、p2およびp3の値の3つのグループが決定される。NN1に対するシミュレートされたデータセットを作成するために、値v11、v21およびv31が使用される。同じ値v11、v21およびv31を使用して、かつ入力x1、x2およびx3の値を変えることによって、複数のサンプルが、NN1に対して作成される。NN2に対するシミュレートされたデータセットを作成するために、値v12、v22およびv32が使用される。同じ値v12、v22およびv32を使用して、かつ入力x1、x2およびx3の値を変えることによって、複数のサンプルが、NN2に対して作成される。NN3に対するシミュレートされたデータセットを作成するために、値v13、v23およびv33が使用される。同じ値v13、v23およびv33を使用して、かつ入力x1、x2およびx3の値を変えることによって、複数のサンプルが、NN3に対して作成される。
【0051】
事前学習段階の終わりに、3つの事前学習済みのニューラルネットワークが得られる。最終学習段階では、同じ、実験に基づくデータが、事前学習済みのニューラルネットワークに供給される。十分な、実験に基づくデータが利用可能である場合には、3つの異なる最終学習データセットはオプションであってもよい。3つの最終学習済みのニューラルネットワークが、予測を行うために個別に使用されてよい。最適化された予測データは、3つの最終学習済みのニューラルネットワークの各々から得られた予測データセットの平均を計算することによって決定される。
【0052】
図7図14は、びびり予測に対する、この方法の適用を明らかにしている。図7に示されている、工作機械のために、特にフライス加工のために使用される安定予測のための物理モデルは5つの入力、すなわち、クランプ長さ(Scl)である入力x1、主軸速度(n)である入力x2、切削深さ(a)である入力x3、進入角度(φst)である入力x4および出口角度(φex)である入力x5を含んでいる。モデルに提供される付加的な情報、すなわち可変パラメータp1~p13が図8に挙げられている。これらの可変パラメータには不確実性が伴う。この物理モデルの2つの出力パラメータは2つの状態を表している。すなわち、安定およびびびりである。この物理モデルは、所与の入力の下で、機械加工が安定して行われるか否かの予測を提供する。典型的に、主軸速度の関数である安定した切削深さと不安定な切削深さとを区別するために安定ローブ線図が使用される。
【0053】
各可変パラメータは推定された基準値を有している。しかし、この値は、標準偏差の値からの正規分布のために取ることができる所与の確率モデルに従って、ある範囲において変動し得る。図8に示された値は、単に例示のためのものである。
【0054】
第1のステップにおいて、可変パラメータを選択すること、サンプルの入力を準備すること、既存の安定モデルに、安定モデルの出力を導出することができるように、これらの入力を供給することによって、事前学習データセットが作成される。シミュレートされたデータセットの作成に対して、図7に要約されている可変パラメータに対してどの値がモデル化段階において仮定されるべきか直接的には明らかでない。ここでは、モデル化の不確実性を考慮に入れて、びびり予測の精度をさらに高めることができる、従来の転移学習のアイディアに対する延長が適用される。これは、複数のネットワークが訓練され、それらの個々の推定値が組み合わされて1つの予測が得られるアンサンブル学習のアイディアに基づいている。
【0055】
図10は、異なるニューラルネットワークに対して異なる事前学習データセットを準備するために使用される、選択される可変パラメータを示している。すべての可変パラメータは、図8において定められた自身の分布から20回サンプリングされる。なぜなら、20個のニューラルネットワークが適用されるからである。同時に、1000個のシミュレートされた切削サンプルが作られ、ここで主軸速度、切削深さ、進入角度および出口角度が、定められた範囲から均一にサンプリングされる。これらの範囲を、実験に基づくデータセットの範囲から導出することができる。たとえば、実験に基づくデータセットが6000rpm~15000rpmの間の主軸速度で得られた場合、シミュレートされたデータセットに対して同じ範囲を選択することができる。入力である主軸速度、切削深さ、進入角度および出口角度ならびにクランプ長さと、出力である安定/不安定とから成る、作成された事前学習データセットが、1つのネットワークの事前学習に使用される。図11aおよび図11bは、NN1およびNN20に対して事前学習データセットを準備する方法を示している。各事前学習データセットは1000個のサンプルを含んでいる。出力を決定するために、5つの入力の異なる値が物理モデルに供給され、また、NN1に対する同じ可変パラメータがすべてのサンプルに対して使用される。
【0056】
作成された事前学習データセットは次に、ニューラルネットワークの訓練のために使用され、この例では、20個のニューラルネットワークが適用される。しかし、ニューラルネットワークの数は単に例示の目的で用いられており、20個に限定されない。次に、事前学習済みのニューラルネットワークは、安定ローブへの主な影響を認識し、主軸速度で繰り返される安定ポケットの概念も学習している。それにもかかわらず、これらのネットワークは、その予測を、実際の、実験に基づいた安定状態と比較すると、低いパフォーマンスを有している場合がある。
【0057】
シミュレートされたデータが、ニューラルネットワークに、図9に示された安定ローブの全般的な形状およびその基本的な依存関係を認識させることを目的としているのに対して、ファインチューニングの目標は、事前学習段階において導入された可能性がある4つのエラー発生源を補償することである。すなわち、工具とワークピースとが接触する領域におけるダイナミクスのモデル化における不正確さと、切削係数に関する不確実性と、ダイナミクスおよび切削係数の潜在的な操作上の変化(たとえば主軸速度依存関係)と、使用される安定モデルの不確かさとを補償することである。この問題は、ファインチューニング段階で解決される。ここで、図13に示されている、たとえば50個である、格段に少量の、実験に基づくデータセットが事前学習済みのネットワークに供給される。その初期の重みは、事前学習段階からの最適化されたネットワークの重みに等しい。ここで、ネットワークの重みは、ニューラルネットワークの予測を、実験に基づいて観測された安定状態と一致させるために、わずかに順応するだろう。
【0058】
次のステップでは、ファインチューニング済みのネットワークを、新たな切削シナリオの安定予測のために使用することができ、格段に正確な安定予測が可能になる。図14は、予測のための複数のニューラルネットワークの利用を示している。
【0059】
新たなプロセス状態に対する安定グラフが予測されると、各ネットワークは予測を行う。たとえば、図14に示されている安定ローブは、種々の最終学習済みのニューラルネットワークからの結果である。極めて高い予測と極めて低い予測とが除外されるトリム平均アプローチを用いて、すべてのネットワーク予測が平均化される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
図12
図13
図14