(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-10
(45)【発行日】2025-09-19
(54)【発明の名称】光学式化学分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/552 20140101AFI20250911BHJP
【FI】
G01N21/552
(21)【出願番号】P 2021130934
(22)【出願日】2021-08-10
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020160120
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴明
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏郎
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-056685(JP,A)
【文献】特開2010-237183(JP,A)
【文献】特開2020-095035(JP,A)
【文献】特開2005-300212(JP,A)
【文献】特開平08-334643(JP,A)
【文献】特開平08-240484(JP,A)
【文献】特開平05-217851(JP,A)
【文献】特表2019-518994(JP,A)
【文献】再公表特許第2019/107133(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/958
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、前記光伝搬部と光学的に接続する回折格子部と、を含むコア層を有する光導波路と、
前記回折格子部に前記光を入射可能なインコヒーレント光を発する光源と、を備え、
前記回折格子部は、前記光源からの光を導入するための光取込領域をさらに有し、
前記光源は、前記光取込領域までの最も短い光学距離Labと、前記光取込領域までの最も長い光学距離Lacの差が、前記光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有
し、
前記コア層から染み出たエバネッセント波を被測定物質に吸収させる、光学式化学分析装置。
【請求項2】
前記光源は、前記光学距離Labと前記光学距離Lacの差が前記光の真空中での波長の4分の1より小さくなる位置に発光点を有する請求項1に記載の光学式化学分析装置。
【請求項3】
前記光源は、前記光学距離Labと前記光学距離Lacの差が2.13μmより小さくなる位置に発光点を有する請求項1又は2に記載の光学式化学分析装置。
【請求項4】
前記光源の半分以上の発光点は、前記光学距離Labと前記光学距離Lacの差が前記光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置される請求項1から3のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項5】
前記回折格子部は複数の前記光取込領域を有し、平面視において、前記光源の発光点を覆う最小の凸多角形の面積は、一つの前記光取込領域の面積よりも大きく、前記光源から発せられた光が複数の前記光取込領域に取り込まれる請求項1から4のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項6】
前記光取込領域の平面視における面積Sは、下記式(1)を満たす請求項1から
5のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【数1】
ここで、hはプランク定数、pはコア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値をλとした時に、p=h/λで求まる光の運動量である。
【請求項7】
前記光伝搬部は、前記光伝搬部の延在方向と直交する幅方向に幅を有し、前記延在方向及び前記幅方向に直交する高さ方向に高さを有し、前記光伝搬部の少なくとも一部は、前記幅方向と前記高さ方向の少なくとも一つにおいて、前記光がシングルモードで伝搬する幅又は高さを有する、請求項1から
6のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項8】
前記光伝搬部の少なくとも一部の幅又は高さは1μmより小さい、請求項
7に記載の光学式化学分析装置。
【請求項9】
前記光伝搬部の少なくとも一部は、前記幅方向と前記高さ方向の両方において、前記光がシングルモードで伝搬する幅及び高さを有する、請求項
7又は
8に記載の光学式化学分析装置。
【請求項10】
前記光伝搬部の少なくとも一部における延在方向に垂直な面の断面積は1μm
2より小さい、請求項
7から
9のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項11】
前記光源は基板の一方の主面上に形成されたLEDであり、前記発光点はLEDの発光層内にあり、前記LEDの発光層から発せられる光は、前記基板の一方の主面と対向する他方の主面から出射される、請求項1から
10のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項12】
前記回折格子部は、前記光源と近接配置される、請求項1から
11のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項13】
前記光源は、複数の前記発光点を有する発光層と、前記発光層と前記光取込領域との間に配置され前記発光層からの光を屈折させて前記光取込領域に導く高屈折材料層とを備える、請求項1から
12のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【請求項14】
前記回折格子部は、前記光伝搬部と光学的に接続する複数の接続部分を有する、請求項1から13のいずれかに記載の光学式化学分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式化学分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶などで形成された薄膜などの構造体の中を伝搬する光は、構造体を形成する材料の屈折率が、構造体の外部の材料の屈折率よりも大きい場合、構造体の外部との界面で全反射を繰り返しながら進行していく。構造体を伝搬する光は、この界面で全反射するとき、屈折率の小さい外部側に染み出している。この染み出しは、エバネッセント波(
図9参照)と呼ばれている。エバネッセント波EWは、光Lが伝搬していく過程で構造体51に隣接している物質52により吸収されうる。このため、構造体51を伝搬している光Lの強度変化から、構造体51に接している物質52の検出及び同定などが可能になる。上記のエバネッセント波EWの原理を利用した分析法は、全反射吸収分光法(ATR:Attenuated Total Reflection法)と呼ばれ、物質52の化学組成や濃度の分析などに利用されている。伝搬させる光としては赤外線を用いることが一般的である。物質には特定の波長の赤外線を選択的に吸収する特性があるため、被測定物質の吸収スペクトルに合わせた赤外線を伝搬させることで、物質の分析及びセンシングを行うことができる。
【0003】
特許文献1には、ATR法をセンサに応用した光導波路型センサが提案されている。この光導波路型センサは、基板の上にコア層を形成して光を通し、エバネッセント波を利用してコア層に接する物質を検出するようになっている。
【0004】
ところで、ATR法を利用したセンサでは、光源からの光を光導波路のコア層に導入する箇所と、光導波路のコア層から光検出器に向けて取り出す箇所が必要になる。そのため、光源と光導波路の間、光検出器と光導波路との間のそれぞれには、光の光軸を曲げるために回折格子(グレーティング)が設けられることが多い。また、一般的には、レーザー光などの指向性の高いコヒーレント光を回折格子に照射し、コア層に光を導入することが多い。その際、回折格子での光の損失が少ないほど、光検出器で検出される信号の強度が大きく取れてセンサとしては感度が上がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光導波路を利用したデバイスに用いる光源には、LEDやヒータなどの指向性の低いインコヒーレント光源が用いられることが増えてきており、また、光源の発光面積が100μm×100μm以上の比較的大きい面積となることも多い。このような指向性の低いインコヒーレント光であっても、効率良く光導波路のコア層に導入するための技術が必要となる。
【0007】
本発明は、光源から発せられるインコヒーレント光と光導波路とを高効率で結合させることが可能な光学式化学分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による光学式化学分析装置は、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、前記光伝搬部と光学的に接続する回折格子部と、を含むコア層を有する光導波路と、
前記回折格子部に前記光を入射可能なインコヒーレント光を発する光源と、を備え、
前記回折格子部は、前記光源からの光を導入するための光取込領域をさらに有し、
前記光源は、前記光取込領域までの最も短い光学距離Labと、前記光取込領域までの最も長い光学距離Lacの差が、前記光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有する。
【0009】
本発明の一態様による光学式化学分析装置は、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、前記光伝搬部に光学的に接続する回折格子部と、を含むコア層を有する光導波路と、
前記回折格子部に前記光を入射可能なインコヒーレント光を発する光源と、を備え、
前記回折格子部は、前記光源からの光を導入するための光取込領域をさらに有し、
前記回折格子部は、前記光伝搬部と光学的に接続する複数の接続部分を有し、
前記光源は、平面視において前記複数の接続部分の任意の2つの接続部分を結んだ線分の中点にある回折格子部の点Mまでの光学距離Lamと、前記2つの接続部分のいずれか近い方までの光学距離Laiの差が、前記光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有する。
【0010】
本発明の一態様による光学式化学分析装置は、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、前記光伝搬部と光学的に接続する回折格子部と、を含むコア層を有する光導波路と、
前記回折格子部に前記光を入射可能なインコヒーレント光を発する光源と、を備え、
前記回折格子部は、前記光源からの光を導入するための光取込領域をさらに有し、
前記光源は、前記光取込領域までの最も短い光学距離Labと前記光取込領域のある地点までの光学距離Ladとの差ΔLと、前記光の真空中での波数(2π/真空中での波長)との積である位相差ΔPについて、|sin(ΔP)|<0.1になる条件の光取込領域の面積が、光取込領域の全面積の50%以上になる位置に発光点を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光源から発せられるインコヒーレント光と光導波路とを高効率で結合させることが可能な光学式化学分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の光学式化学分析装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)及び
図2(b)は、第1回折格子部の周辺構造を説明する図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る光学式化学分析装置の光源と回折格子部との関係を示す図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、第2実施形態に係る光学式化学分析装置の光源と回折格子部との関係を示す図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、第3実施形態に係る光学式化学分析装置の光源と回折格子部との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る光学式化学分析装置の光源と回折格子部との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、伝送モードについて説明するための図である。
【
図8】
図8は、近接配置を説明するための図である。
【
図9】
図9は、光導波路を伝搬する光のエバネッセント波を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
本発明の一実施形態に係る光学式化学分析装置は、延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、光伝搬部と光学的に接続する回折格子部と、を含むコア層を有する光導波路を備える。また、光学式化学分析装置は、コア層の一部である回折格子部に光を入射可能なインコヒーレント光を発する光源を備え、回折格子部は、光源からの光を導入するための光取込領域をさらに有し、光源は、光取込領域までの最も短い光学距離Labと、光取込領域までの最も長い光学距離Lacの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有する。本明細書において、上記の回折格子部は第1回折格子部と称され、後述する第2回折格子部(光検出器に光を出力する回折格子部)と区別される。
【0015】
本実施形態に係る光学式化学分析装置によれば、光源が、光取込領域までの最も短い光学距離Labと、光取込領域までの最も長い光学距離Lacの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有することにより、本実施形態に係る光学式化学分析装置は、光源から発せられるインコヒーレント光と光導波路とを高効率で結合させることができる。具体的には、光源の有する一つの発光点から発せられた光が、同心球状に広がりながら第1回折格子部の有する光取込領域の各点に到達する際、当該各点までのそれぞれの光学距離の差が光の波長の半分未満であれば、インコヒーレント光源から発せられた光であっても、それらは光取込領域上で同位相とみなすことができる。光取込領域では、光の波長と、光取込領域を形成する構造体の周期とを干渉させることで光をコア層に取込むため、光取込領域は、光取込領域に到達する光を、光取込領域上で同位相とみなせる単位で取込んでいく。ここで、光源が、光取込領域までの最も短い光学距離Labと、光取込領域までの最も長い光学距離Lacの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有することで、当該発光点から発せられた光は、光取込領域全域で光導波路と単一モードで結合することになり、インコヒーレント光と光導波路とを高効率で結合させることができる。ここで、光学距離Lacは、発光点から、当該発光点から最も光学的に遠い位置にある光取込領域上の点までの、最短の光学距離である。
【0016】
ここで、本発明の原理をより詳細に説明する。インコヒーレント光源から発せられる光は、仮に単一波長のみを取出したとしても、位相の異なる多くの光を含んでいる。しかしながら、インコヒーレント光源であっても、同じ時刻に、同じ点から出発した光が形成する光波面においては、位相は揃っている。すなわち、インコヒーレント光であっても、位相が揃っている成分ごとに第1回折格子部(光取込領域)は動作し、当該位相が揃っている成分を一つの伝搬モードとしてコア層に光を取込むことが出来る。同じ時刻に、同じ点から出発した光は、同位相面が同心球状に広がっていく。ここで、光取込領域の表面は球面ではなく、平面上に凹凸が形成されることが一般的であるため、光取込領域に到達した光は、光取込領域の表面において位相がずれる。ただし、逆位相にならない程度の少しの位相ずれ(光学距離の差が光の波長の半分未満に相当)は同位相と扱うことができる。しかしながら、光取込領域の面積が大きいと、光取込領域全ての位置において同位相とみなすことが出来ず、光取込領域内に複数の同位相群が形成される。したがって、光取込領域の面積が大きいと、同じ時刻に同じ点から出発した光に対しても、複数の伝搬モードが形成されてしまう。一方、光伝搬部においては、複数の伝搬モードの光を伝搬させるためには、延在方向に垂直な光伝搬部の断面積(幅、高さ)が、伝搬モード数に応じた大きさとなる必要がある。しかし、一般的には、光伝搬部の断面積は非常に小さいため、光取込領域の面積が大きい第1回折格子部の場合、光伝搬部では、第1回折格子部で複数発生した伝搬モード全てを伝搬することができない。したがって、第1回折格子部の光取込領域で形成される同位相群の数は、光伝搬部で伝搬することが可能な伝搬モードの数以下であることが好ましい。また、光伝搬部において光を効率よく伝搬する観点から、光伝搬部は、単一モードを伝搬する、いわゆるシングルモード光導波路であることが好ましい。これらを考慮すると、第1回折格子部が1つの光取込領域で取込んだ光を、1つの光伝搬部に導出する場合、第1回折格子部は、光取込領域で形成される同位相群の数が1つとなるように構成されることが好ましい。すなわち、第1回折格子部は、面積の小さい光取込領域を備えることが好ましい。
【0017】
また、本実施形態において、光源は、光学距離Labと光学距離Lacの差が光の真空中での波長の4分の1より小さくなる位置に発光点を有することが好ましい。発光点と光取込領域とがこのような関係を満たす場合に、光源から光取込領域に入射する光をより同位相とみなすことができ、光をコア層に効率的に取り込むことができる。
【0018】
また、本実施形態において、光源は、光学距離Labと光学距離Lacの差が2.13μmより小さくなる位置に発光点を有することが好ましい。例えば環境中に浮遊する代表的な気体であるCO2を分析するための光学式化学分析装置では、コア層を伝搬する光として、真空中における中心波長が4.26μm程度の赤外線を用いることが一般的であり、このとき、光の真空中での波長の半分は2.13μmとなる。
【0019】
また、本実施形態において、光源の半分以上の発光点は、光学距離Labと光学距離Lacの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることが好ましく、光源のすべての発光点は、光学距離Labと光学距離Lacの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることがより好ましい。発光点と光取込領域とがこのような関係を満たす場合に、光源にある半分以上の発光点から発せられた光を、光取込領域上の全ての点において同位相とみなすことができ、光をコア層に効率的に取り込むことができる。
【0020】
また、第1回折格子部は複数の光取込領域を含み得る。また、平面視で、光源の外形は、発光点を覆う最小の凸多角形であり得る。例えば、光源の外形は、凸多角形として正方形又は長方形であり得る。光源は、平面視において、光源の発光点を覆う最小の凸多角形(外形)の面積が、一つの光取込領域の面積よりも大きく、光源から発せられた光が複数の光取込領域に取り込まれることが好ましい。
【0021】
光源の発光面積が大きい(すなわち、発光点を覆う凸多角形の面積が大きい)場合、第1回折格子部が複数の光取込領域を含み、光源から発せられた光が複数の光取込領域に取り込まれることによって、光学式化学分析装置は、効率的に光源から発せられた光をコア層に取り込むことが可能である。
【0022】
また、第1回折格子部は、複数の光取込領域が連結しており、光取込領域を一つずつ区別できない構成であり得る。このとき、光伝搬部との接続部分の数が実質的な光取込領域の数を表し、接続部分が全体的な光取込領域の端部を近似的に示すため、接続部分を用いて第1回折格子部のサイズを規定することができる。
【0023】
一実施形態において、光源は、平面視において複数の接続部分の任意の2つの接続部分を結んだ線分の中点にある第1回折格子部の点Mまでの光学距離Lamと、2つの接続部分のいずれか近い方までの光学距離Laiの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有する。
【0024】
第1回折格子部が複数の光取込領域が連結した形態で構成されている場合に、このような関係が満たされることによって、少なくとも1つの発光点において、当該発光点から発せられる光が光取込領域上で形成する同位相群の数が、接続部分の数以下となる。したがって、光取込領域上で形成される全ての同位相群を、複数の接続部分を介して複数の光伝搬部に導出することができ、光学式化学分析装置は、効率的に光源から発せられた光をコア層に取り込むことが可能である。
【0025】
また、本実施形態において、光源は、光学距離Lamと光学距離Laiの差が、光の真空中での波長の4分の1より小さくなる位置に発光点を有することが好ましい。発光点と光取込領域とがこのような関係を満たす場合に、光源から光取込領域に入射する光をより同位相とみなすことができ、光をコア層に効率的に取り込むことができる。
【0026】
また、本実施形態において、光源は、光学距離Lamと光学距離Laiの差が2.13μmより小さくなる位置に発光点を有することが好ましい。例えば環境中に浮遊する代表的な気体であるCO2を分析するための光学式化学分析装置では、コア層を伝搬する光として、真空中における中心波長が4.26μm程度の赤外線を用いることが一般的であり、このとき、光の真空中での波長の半分は2.13μmとなる。
【0027】
また、本実施形態において、光源の半分以上の発光点が光学距離Lamと光学距離Laiの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることを満たすことが好ましく、光源のすべての発光点が、光学距離Lamと光学距離Laiの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることを満たすことがより好ましい。発光点と光取込領域とがこのような関係を満たす場合に、光源にある半分以上の発光点から発せられた光を、光取込領域上の全ての点において同位相とみなすことができ、光をコア層に効率的に取り込むことができる。
【0028】
また、これまで言及してきたように、光源の発光点から第1回折格子部の光取込領域に到達した光は、少しの位相ずれであれば同位相と扱うことができる。光学距離の差に代えて、位相ずれを用いて、光源の発光点と第1回折格子部の光取込領域との関係を定めることができる。
【0029】
一実施形態において、光源は、光取込領域までの最も短い光学距離Labと光取込領域のある地点までの光学距離Ladとの差ΔLと、光の真空中での波数(2π/真空中での波長)との積である位相差ΔPについて、|sin(ΔP)|<0.1になる条件の光取込領域の面積が、光取込領域の全面積の50%以上である発光点を有する。
【0030】
このような光の位相についての関係が満たされることによって、少なくとも1つの発光点において、当該発光点から光取込領域全域に入射する光の多くを同位相とみなすことができるため、光学式化学分析装置は、効率的に光源から発せられた光をコア層に取り込むことが可能である。ここで、真空中での波長をλ0とすると、位相差ΔPは「ΔL×2π/λ0」で表される。なお、右辺の0.1という数値は、位相差ΔPが非常に小さい範囲であることを示している。光学系において、θが小さい場合、Sinθ≒θと近似して議論することが多く、上記の場合、|sin(ΔP)|≒ΔPと近似できるような領域である。
【0031】
以下、具体例を挙げて、光学式化学分析装置を構成する各構成要件が説明される。
【0032】
<光導波路>
光導波路は、被測定物質(気体、液体など)の化学組成や濃度を分析する光学式化学分析装置に用いられる光導波路である。光導波路は、延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、を有するコア層を備える。また、光導波路は、基板を備える。
【0033】
ここで、延在方向とは、少なくとも1方向に沿って延びるように存在している方向である。例えば、三次元構造物において、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて三次元構造物に触れながら最短距離で進む経路は延在方向となる。あるいは、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて断面積の変化量が最も小さくなるように進行する方向も延在方向となる。延在方向は、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。
【0034】
第1回折格子部が光伝搬部へ光を導出する(換言すれば、光伝搬部が第1回折格子部から光を導入する)、また、後述のように光伝搬部が第2回折格子部へ光を導出する(換言すれば、第2回折格子部が光伝搬部から光を導入する)とは、第1回折格子部の光取込領域、第2回折格子部の光取出領域と、光伝搬部との間で光が伝搬可能であれば、それぞれの接続形態は限定されず、例えば、それぞれが同一材料(結晶状態も同一)で途切れることなく連続して接続する場合の他、それぞれが光学的に連続する場合も含む。それぞれが光学的に連続する場合とは、それぞれが、材料が異なる(同一元素でも結晶状態が異なる場合も含む)ことで不連続になっていても、相互に同一軸線上に位置することで、それぞれが光学的に連続する場合、それぞれが相互に同一軸線上に位置せず不連続になっていても(それぞれが途切れている)、例えば方向性結合器の様にエバネッセント波によって結合している場合が挙げられる。ここで、方向性結合器とは、エバネッセント波を利用して、光が一方から他方に遷移する際に、その遷移の前後で、光の進行方向が変わらないような光学的な結合状態を指す。また、以下、本明細書においては、第1回折格子部、第2回折格子部と光伝搬部との間で光が導出、導入可能である状態を、単に、第1回折格子部、第2回折格子部と光伝搬部とが接続しているとも称す。
【0035】
第1回折格子部は、光源の発光面と対向して近接配置される。第1回折格子部は、1つ以上の光取込領域を有し、光取込領域が光源から発せられた光を受ける。ここで、光源の発光面は、光源の光が出射される面のうち、被測定物質に接する面である。近接配置については後述する。
【0036】
さらに、光導波路は、光伝搬部から光を導入して光検出器に光を出力する第2回折格子部をさらに備え、第2回折格子部が少なくとも1つの光取出領域を有することが好ましい。
【0037】
<<コア層>>
コア層は、延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、を有する。また、コア層は、光伝搬部から光を導入して光検出器に光を出力する第2回折格子部をさらに有することができる。
【0038】
コア層の材料は、特に限定されない。例えば、単結晶シリコン及び多結晶シリコン、アモルファスシリコン、窒化シリコン、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、ガリウムひ素、インジウムリン、インジウムアンチモン、インジウムガリウムひ素、インジウムガリウムリン、フッ化インジウム、ダイヤモンド、サファイア、ニオブ酸リチウム、カルコゲナイドガラス等を含んだコア層が挙げられる。また、コア層は単層の膜でなく、多層膜で構成されていてよい。
【0039】
また、第1回折格子部及び光伝搬部は異なる材料で形成されていてよい。その場合、光伝搬部を形成する材料が単結晶シリコンであり、第1回折格子部を形成する材料が多結晶シリコン又はアモルファスシリコンを含んでいることが好ましい。シリコンは最も一般的な材料であり、このような構成にすることにより、光伝搬部での伝搬ロスを小さくし、且つ容易に第1回折格子部の加工自由度を向上することができる。
【0040】
さらに、コア層の延在方向に沿った任意の位置における延在方向に垂直な断面は、例えば、断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってよい。
【0041】
また、コア層の少なくとも一部は、露出し、又は、薄膜により被覆されていてよい。これにより、露出し又は被覆されたコア層の一部は、被測定物質と直接接触可能、又は、薄膜を介して被測定物質と接触可能となり、エバネッセント波と被測定物質を相互作用させ、被測定物質の化学組成や濃度を分析することが可能となる。被膜は、コア層を伝搬する光の真空中における波長の1/4よりも薄いことが好ましい。
【0042】
また、コア層を伝搬する光はアナログ信号としての赤外線であってよい。ここでアナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)及び1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、光導波路をセンサ及び分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空中における波長は2μm以上12μm未満であってよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊する気体(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6O等)が吸収する波長帯である。これにより光導波路をガスセンサとして利用することができる。
【0043】
また、コア層は曲線状に延びる部分を含んでよい。これにより、コア層全体を平面視した際の、コア層の輪郭のアスペクト比を1に近づけ得るので、光導波路及び光学式化学分析装置が小型化され得る。
【0044】
<<<光伝搬部>>>
光伝搬部は、第1回折格子部が受けた光を導入して伝搬し、第2回折格子部へ光を導出する。光伝搬部は、延在方向に光が伝搬可能であり、延在方向と直交する幅方向に幅を有し、延在方向に沿ったコア層の幅が変わらない部分を指す。光伝搬部は、延在方向に沿った任意の位置における延在方向に垂直な断面が、例えば、断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってよい。
【0045】
光伝搬部は、延在方向に膜厚(すなわち光伝搬部の高さ)を均一とすることができ、均一な膜厚とは、例えば膜厚の高低差が200nm以下である。
【0046】
また、光伝搬部は、光を効率よく伝搬する観点から、単一モードを伝搬する、いわゆるシングルモード光導波路であることが好ましい。すなわち、光伝搬部の少なくとも一部において、光伝搬部は、光がシングルモードで伝搬する幅又は高さ(膜厚)を有することが好ましく、より好ましくは、光がシングルモードで伝搬する幅及び高さを有する。すなわち、光伝搬部は、延在方向に垂直な断面において、光がシングルモードで伝搬する断面積を有することが好ましい。
【0047】
また、光伝搬部の少なくとも一部の幅又は高さは1μmより小さいことが好ましく、光伝搬部の少なくとも一部の延在方向に垂直な面の断面積は1μm2より小さいことが好ましい。1μmより小さい幅又は高さ、及び1μm2より小さい断面積という値は、本実施形態において光源から発せられる光(真空中における波長が2μm以上12μm未満の赤外線)に対して、シングルモード又はシングルモードに近いモード数で伝搬可能な光伝搬部の寸法である。
【0048】
<<<第1回折格子部、第2回折格子部>>>
第1回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する。また、第1回折格子部は、1つ以上の光取込領域を有し、少なくとも1つの光取込領域が光源から発せられた光を受ける。コア層は、第2回折格子部を有することができる。第2回折格子部は、光伝搬部から光を導入して光検出器に光を出力する、少なくとも1つの光取出領域を有する。
【0049】
光取込領域及び光取出領域は、表面に特定の周期(周期が複数であっても可)で凹凸が形成されている部分であってよく、凹凸又は、凹部と凸部を含む平面で光導波路を断面視した場合に、凹凸の凹部の溝が深くなり、コア層を切り離す構成であってよい。そのような構成において、凸部は不連続で島状に形成されていることになる。
【0050】
光取込領域及び光取出領域は、平面視において、それぞれ平行に凹凸を形成するパターンが直線状又は円弧状に延びるように設けることができる。凹凸の延在の形状は任意にすることができる。
【0051】
また、第1回折格子部及び第2回折格子部の平面視での形状は任意にすることができるが、例えば、第1回折格子部及び第2回折格子部の光伝搬部への接続側の接続部分付近を頂点とする、接続側から末端側に向かって幅が広がる部分を有する形状とすることができる。具体的には、第1回折格子部及び第2回折格子部の光伝搬部への接続部分付近を中心とする扇形の他、第1回折格子部及び第2回折格子部の光伝搬部への接続部分付近を中心とする三角形(例えば二等辺三角形)、光伝搬部への接続部分付近を頂点とし、光伝搬部への接続部分から光取込領域、光取出領域に向かって幅が広がる部分と、当該部分に続く任意の形状、例えば矩形状の部分とを有する形状、とすることができる。光取込領域、光取出領域の形状としては、接続側から末端側に向かう方向に沿う任意の仮想線に対して線対称の形状が好ましい。
【0052】
ここで、上記のように、光伝搬部は延在方向にコア層の幅が変わらない部分を指す。接続部分とは、第1回折格子部又は第2回折格子部と、幅が変わらずに延在している部分(光伝搬部)との接続箇所をいう。第1回折格子部又は第2回折格子部は、光伝搬部と光学的に接続する複数の接続部分を有することができる。
【0053】
次に光学式化学分析装置を伝搬する光の、波長分散性(伝搬光の波長幅)について説明する。光学式化学分析装置では、被測定物質の吸収スペクトルに合った光が光伝搬部を伝搬することで被測定物質を分析するため、第1回折格子部では、被測定物質の吸収スペクトルと同程度の波長帯の光をコア層に取込むことが好ましい。一般的に、物質の有する光の吸収波長範囲は、中心波長に対して±0.1μm程度の幅を持っていることもあり、厳密な単一波長であることはない。例えば、環境に浮遊するガスであるCO2の代表的な吸収波長は約4.20~4.35μmと0.15μmの幅を有している。このとき、厳密な単一波長にまで光を過剰選択してしまうと、分析に有効な波長領域を捨てることになるので、光学式化学分析装置としては好ましくない。特に、本実施形態における光学式化学分析装置では、光源として、LED等のインコヒーレント光源を用いており、インコヒーレント光源からの一定の波長範囲(波長帯)を持った光を有効に利用する観点から、第1回折格子領域で選択される波長帯も一定の幅(中心波長に対して±0.1μm程度)を有していることが好ましい。
【0054】
第1回折格子領域で選択される波長帯の幅は、不確定性原理を用いて説明することが出来る。第1回折格子部で光源からの光をコア層に取込む際、光取込領域のどの部分に光が当たったかを区別することができない。すなわち光取込領域の1次元の大きさがΔxであるとき、光はΔxの位置の不確定性を有している。したがって運動量pの不確定性Δpは、式(1)で表される不確定性原理より、式(2)と表すことができる。
【数1】
ここでhはプランク定数(6.626×10-34 kgm
2/s)である。
【0055】
また、光の波長λは式(3)で表せることから、波長の不確定性Δλは式(4)で表すことができる。
【数2】
【0056】
式(2)と式(4)より式(5)が導かれる。すなわち、波長の不確定性Δλをもたせるためには、位置の不確定性Δxは式(5)を満たさなければならない。
【数3】
【0057】
ここで、光学式化学分析装置に適した波長の分散性を0.1μmとすると、光取込領域における波長の不確定性Δλは0.1μmあればよいことになるため、式(5)にΔλ=0.1を代入し、式(6)が導かれる。
【数4】
【0058】
光取込領域の1次元の大きさはΔx、その面積SはΔx
2であることから、光取込領域の面積Sが式(7)を満たす時、光取込領域で取込む光の波長に0.1μm程度の分散性を持たせることが出来る。すなわち、光取込領域の面積Sは、式(7)を満たすことが好ましい。
【数5】
【0059】
ここで、本発明の光学式化学分析装置を用いてCO2を分析する場合は、コア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値を4.26μmとして、式(3)を用いて、式(6)、式(7)を計算すると、Δx≧14.1μm、S≧198.9μm2を満たす必要がある。
【0060】
また、本実施形態における、光学距離Labと光学距離Lacの差、及び光学距離Lamと光学距離Laiの差の下限値は、式(6)又は式(7)で示される光取込領域のサイズの下限値より一意に求まることから、光取込領域のサイズの下限値を規定することに留める。
【0061】
また、第2回折格子部の構造は第1回折格子部の構造と同じ、又は、第1回折格子部の構造から変換したものとすることができる。第1回折格子部の構造から変換したものとは、第2回折格子部の形状及び構成、配置等が、第1回折格子部の形状及び構成、配置等に対して、回転した形態、拡大した形態、縮小した形態、平行移動した形態、線対称である形態、点対称である形態になっていることを意味する。第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造と同じ、又は第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造から変換したものとすることで、第1回折格子部における波長選択性と第2回折格子部における波長選択性を略等しくすることができるため、第1回折格子部と第2回折格子部で波長選択性が異なる場合に発生する光損失を避けることができる。
【0062】
<<基板>>
基板は、基板上にコア層を形成可能であれば特に制限されず、基板上に後述の支持層を形成することもできる。具体的には、基板は、シリコン基板及びGaAs基板等が挙げられる。
【0063】
<<支持層>>
支持層は任意に設けられる。支持層は、基板の少なくとも一部とコア層の少なくとも一部とを接続する。支持層は、基板及びコア層を接合可能であれば特に制限されないが、好ましくは任意の波長の光又はコア層を伝搬する光に対してコア層よりも屈折率が小さい材料である。一例として、支持層の形成材料として、SiO2などが挙げられる。本発明において、支持層は必須の構成ではない。コア層は支持層によって基板と接合されてよく、基板上に直接コア層が形成されていてよい。また、支持層が部分的に存在してよく、コア層の少なくとも一部は、支持層に接合されておらず浮遊していてよい。すなわち、このような構成の光導波路では、支持層が設けられた領域を除き、基板及びコア層の間には空間が形成されている。コア層の一部を浮遊させることで、エバネッセント波と被測定物質を相互作用させる量を多くさせることができ、センサ感度を向上させることができる。
【0064】
支持層の形成方法の一例としては、SOI(Silicon On Insulator)基板の埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide)層(SiO2層)をエッチングすることで、コア層(Si層)と基板(Si層)をBOX層で支持する構造を形成することができる。
【0065】
<光源>
光源は、コア層に光を入射可能であれば特に制限されない。気体の分析に赤外線を用いる場合には光源として、白熱電球及びセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータ及び赤外線LED(Light Emitting Diode)などを用いることができる。すなわち、光源は、インコヒーレント光源であってよい。光源は光導波路と光接続可能な形態であればどのような配置でよい。例えば、光源は、光導波路と同じ個体内に光導波路に隣接して配置してよいし、別の個体として光導波路から一定の距離を置いて配置してよい。また、気体の分析に紫外線を用いる場合には光源として、水銀ランプ及び紫外線LEDなどを用いることができる。光源は、例えば100μm×100μm以上の面積の発光面を有する。
【0066】
一実施形態において、光源は、複数の発光点を有する発光層と、発光層からの光を屈折させてコア層に導く高屈折材料層と、を備えてよい。高屈折材料層は、一部が被測定物質と接しており、発光層と被測定物質との間に位置する。ここで、複数の発光点はそれぞれが光を発する発光体である。発光層において、複数の発光体は例えば積層方向に垂直な方向に等間隔で配置されるが、これに限定されない。高屈折材料層は、例えばSi(シリコン)やGaAs(ガリウムひ素)で構成されるが、これに限定されない。例えば、光源はGaAs基板の一方の主面上に形成されたLEDである。発光点がLEDの発光層内にあり、LEDの発光層から発せられる光は、GaAs基板の一方の主面と対向する他方の主面から出射されてよい。この場合、GaAs基板が高屈折材料層となる。高屈折材料としては、発光層からの光を屈折させてコア層(光取込領域)に導くことができれば限定されないが、発光層よりも屈折率が高いことが好ましい。また、測定対象ガスよりも屈折率が高いことが好ましい。高屈折材料層を備えることで、光学距離Labと光学距離Lacの差を光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有するようにすることが容易となる。同様に光学距離Lamと、光学距離Laiの差を光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点を有するようにすることが容易となる。同様に光学距離Labと光学距離Ladとの差ΔLと、位相差ΔPについて、|sin(ΔP)|<0.1になる条件の光取込領域の面積が、光取込領域の全面積の50%以上になる位置に発光点を有するようにすることが可能となる。
【0067】
光学式化学分析装置に備えられる光導波路のコア層を伝搬する光は、アナログ信号としての赤外線であってよい。ここで、アナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)及び1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。また、赤外線の真空中における波長は2μm以上12μm未満であってよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊する気体(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6Oなど)が吸収する波長帯である。これにより、これらの気体を分析する光学式化学分析装置を実現することができる。
【0068】
光源の発光面は、第1回折格子部に対向して近接配置することができる。これにより、光源から第1回折格子部に向けて出力された光の、第1回折格子部に到達する割合が大きくなる(光源から第1回折格子部を見たときに、第1回折格子部が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光導波路に光を導入することができる。
【0069】
ここで、近接とは、光源の発光面の面積をSsとしたときに、1mm以下又は√Ss以下の長さを指し、好ましくは500μm以下又は0.5×√Ss以下、より好ましくは200μm以下又は0.2×√Ss以下の長さを指す。また、長さとは、光源の発光面の光導波路側の下端から、光導波路の厚さ方向(高さ方向)で、最も光源の発光面側に位置する第1回折格子部までを、厚さ方向に沿って測った長さを指す。光源の発光面と第1回折格子部までの間には、レンズ、光ファイバー等の他の部材を存在させず、発光面から出力された光は、僅かな空間を経て直接第1回折格子部に到達することが好ましい。こうすることにより、安価に光学式化学分析装置を実現することができる。
【0070】
<光検出器>
光検出器は、光導波路のコア層を伝搬した光を受光可能であれば特に制限されない。気体の分析に赤外線を用いる場合には光検出器として、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile)あるいはボロメータ(Bolometer)などの熱型赤外線センサ、ダイオードあるいはフォトトランジスタなどの量子型赤外線センサなどを用いることができる。また、気体の分析に紫外線を用いる場合には光検出器として、ダイオード、フォトトランジスタ等の量子型紫外線センサなどを用いることができる。
【0071】
光検出器は第2回折格子部に対向して近接配置することができる。換言すれば、第2回折格子部は、光検出器と対向して近接配置することができる。これにより、第2回折格子部から光検出器に向けて出力された光の、光検出器に到達する割合が大きくなる(第2回折格子部から光検出器を見たときに、光検出器が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光検出器に光を導入することができる。ここで、近接は、光源と第1回折格子部との近接配置で説明した長さと同じであってよい。第2回折格子部と光検出器までの間には、レンズ、光ファイバー等の他の部材を存在させず、第2回折格子部から出力された光は、僅かな空間を経て直接光検出器に到達することが好ましい。こうすることにより、安価に光学式化学分析装置を実現することができる。
【0072】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る光学式化学分析装置14の概略構成を示す図であるとともに、光導波路15を利用したATR法の概念図でもある。
図1に示すように、光学式化学分析装置14は、分析(検出を含む)する気体が存在する外部空間16に設置されて使用される。被測定気体は、例えば空気であって、空気中に含まれる気体が分析される。光学式化学分析装置14は、光導波路15と、光導波路15に備えられたコア層12に光を入射可能な光源17と、コア層12を伝搬した光を受光可能な光検出器18とを備えている。本実施形態において、光は赤外線IRである。
【0073】
より詳細には、光学式化学分析装置14は、光導波路15を製造し、さらに、
図1に示すように、光導波路15の第1回折格子部11(一例としてグレーティングカプラ)に赤外線IRを入射できるように光源17を設置し、光導波路15の第2回折格子部13(一例としてグレーティングカプラ)から出射する赤外線IRを受光できるように光検出器18を配置することにより得られる。
【0074】
光導波路15は、基板19と、赤外線IRが伝搬可能なコア層12と、基板19の少なくとも一部とコア層12の少なくとも一部を接続し基板19に対してコア層12を支持する支持層20とを備えている。コア層12及び基板19は例えばシリコン(Si)で形成される。支持層20は例えば二酸化ケイ素(SiO
2)で形成される。基板19及び支持層20は例えば板状を有している。支持層20は、コア層12の少なくとも一部を支持してよいが、コア層12の全部を支持するものであってよい。
図1の例では、支持層20が、第1回折格子部11及び第2回折格子部13の全部と、光伝搬部10の一部を延在方向において断続的に支持する。その結果、光導波路15は、光伝搬部10が、延在方向で断続的に支持層20に接続され、支持層20が設けられた領域を除いて、光伝搬部10及び基板19の間にクラッド層などの所定の層を有さずに空隙21を有する。
【0075】
コア層12は、延在方向の一端に形成された第1回折格子部11、及び他端に形成された第2回折格子部13を有している。また、コア層12は、延在方向の両端の第1回折格子部11及び第2回折格子部13の間に光伝搬部10を有している。光導波路15において、光伝搬部10の膜厚は均一であってよい。また、光導波路15において、光伝搬部10の幅は均一であってよい。ここで、幅方向とは、延在方向及び膜厚方向に垂直な方向である。また、膜厚方向とは、基板19、支持層20、及び、コア層12を積層させた積層方向に平行な方向である。
【0076】
第1回折格子部11は、光源17の出射方向に配置されている。光導波路15は、基板19の主面が鉛直方向(積層の方向)と直交するように設置されている。基板19の主面とは、基板19の板厚方向に垂直な表面であって、換言すると、基板19を形成する6面の中で、面積が最大である面である。すなわち、光源17の出射方向とは、このように光導波路15が設置された状態における、光源17の鉛直下方である。第1回折格子部11は、光源17から入射する赤外線IRをコア層12に結合するようになっている。したがって、第1回折格子部11の膜厚方向から、コア層12を伝搬する光が入力される。第2回折格子部13は、光検出器18に対向する方向に配置されている。ここで、光検出器18に対向する方向とは、上記のように光導波路15が設置された状態における、光検出器18の鉛直下方である。第2回折格子部13は、コア層12を伝搬する赤外線IRを取出して光検出器18に向けて出射するようになっている。したがって、第2回折格子部13の膜厚方向に、コア層12を伝搬する光が出力される。
【0077】
このように、光源17側(光入射側)に配置されるコア層12は、第1回折格子部11を有している。また、光検出器18側(光出射側)に配置されるコア層12は、第2回折格子部13を有している。また、コア層12は延在方向の中央から両端までの間に、第1回折格子部11から入射して第2回折格子部13から出射される赤外線IRが伝搬する光伝搬部10を有している。コア層12から染出すエバネッセント波EWは主に、光伝搬部10において外部空間16に存在する被測定物質に吸収される。
【0078】
光学式化学分析装置14では、第1回折格子部11が光源17の発光面と対向して近接配置されている。具体的には、光源17の発光面の光導波路15側の下端から、光導波路15の厚さ方向で、最も光源17の発光面側に位置する第1回折格子部11までを、厚さ方向に沿って測った長さが1mm以下、又は光源17の発光面の面積Ssに対し、√Ss以下である。また、長さは好ましくは500μm以下又は0.5×√Ss以下であり、より好ましくは200μm以下又は0.2×√Ss以下である。このように、長さを1mm以下又は√Ss以下とすることにより、光源17から第1回折格子部11に向けて出力された光の、第1回折格子部11に到達する割合が大きくなる(光源17から第1回折格子部11を見たときに、第1回折格子部11が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光導波路15に光を導入することができる。また、上記の長さは、第2回折格子部13と光検出器18の受光面に対しても同様に成り立ち、効率よく光検出器18に光を導入することができる。
【0079】
また、上記の観点からは長さの下限値は限定されず、光源17の発光面と第1回折格子部11が接触していても構わない。ただし、光学式化学分析装置14を適切に製造する観点から、長さは3μm以上が好ましい。光源17の発光面と第1回折格子部11までの間には、レンズ、光ファイバーなどを存在させず、発光面から出力された光は、長さの僅かな空間を経て直接に第1回折格子部11へ到達させている。こうすることにより、安価に光学式化学分析装置14を実現することができる。
【0080】
ここで、
図8は、光学シミュレーションにより近接配置の長さを変化させた際の光の到達割合の数値計算結果を示す。
図8は、ランバーシアン光源の発光面の形状を一辺の長さがAの正方形と仮定し、長さをDとしたときに、光源の発光面から発せられた光が第1回折格子部11に到達する割合をD/Aの関数として示している。長さがAの正方形であるため、発光面の面積はAの2乗である。ここでは光源から発せられた光を受ける第1回折格子部11の面積が、光源の発光面の面積と同じであると仮定している。
図8に示されるように、D/A>1の領域(すなわちD>Aとなる遠方に光源を配置した場合)では、光の第1回折格子部11への到達割合は、長さDに対して逆2乗の法則で近似される。これは遠方においては、光が第1回折格子部11へ到達した際に、その到達光の作る投影面積が、長さDの2乗に比例して大きくなり、それにしたがって、放射照度が減衰することによる。一方、D/A<1の領域(すなわちD<Aとなる近傍に光源を配置した場合)では、D/Aが小さくなるほど、到達光の割合が最大値で飽和傾向を示していく。つまり長さDをA(発光面の面積の平方根)以下、好ましくは0.5A以下、より好ましくは0.2A以下とすることで効率よく光導波路15に光を導入することができる。本原理は、第2回折格子部13と光検出器18の受光面に対しても同様に成り立つ。その際、第2回折格子部13の面積が上記の光源の発光面の面積に相当し、光検出器18の受光面の面積が上記の第1回折格子部11の面積に相当する。また、光源の発光面の面積と光検出器18の受光面の面積は1mm
2又はそれ以上の大きさを有することもある。
【0081】
光学式化学分析装置14では、光源17は波長が2μm以上12μm未満の赤外線をコア層12に入射している。上記の赤外線をコア層12に入射することにより、コア層12から染出すエバネッセント波EWが外部空間16に存在する被測定物質、例えばCO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6Oなどの気体に吸収され、被測定物質を分析することができる。
【0082】
図2(a)及び
図2(b)は、第1回折格子部11の周辺構造を説明する図である。
図2(a)は、第1回折格子部11の周辺構造を平面視したものである。また、
図2(b)は、第1回折格子部11の周辺構造を断面視したものである。コア層12は、延在方向に光が伝搬可能である伝搬路を有する光伝搬部10と、光源17より光を受けて、光伝搬部10へ光を導出する第1回折格子部11と、を有する。
図2(a)に示すように、第1回折格子部11は光源17からの光を導入するための光取込領域113を有する。本実施形態において、第1回折格子部11は、接続部分112付近を頂点として接続側から末端側に向かって幅が広がる形状(扇形)を有する。接続部分112は、上記のとおり、第1回折格子部11と、幅が変わらずに延在している部分(光伝搬部10)との接続箇所である。
【0083】
図3は、本実施形態に係る光学式化学分析装置14の光源17と第1回折格子部11との関係を示す断面図である。光源17は基板の一方の主面上に形成されたLEDである。発光点171がLEDの発光層172内にあり、LEDの発光層172から発せられる光は、高屈折材料層173を通って、基板の一方の主面と対向する他方の主面から出射される。
【0084】
図3に示すように、点Aは1つの発光点171の位置である。また、点B及び点Cは、当該1つの発光点171(すなわち点A)から発せられた光が到達した光取込領域113の2つの位置である。点Aから点Bまでの光の経路に沿った距離が光学距離Labである。また、点Aから点Cまでの光の経路に沿った距離が光学距離Lac及び光学距離Lac´である。ここで、点Bは点Aの直下に位置している。つまり、光学距離Labは、点Aから光取込領域113までの最も短い光学的な距離である。また、点Cは点Aから遠い方の光取込領域113の端部に位置している。つまり、光学距離Lacは、点Aから光取込領域113までの最も長い光学的な距離である。ここで、光学距離Lac´は、点Aから点Cに至る途中で、迂回した経路を通っており、2点間を結ぶ最短の光学距離になっていない。そのため、本実施形態に係る光学式化学分析装置14において、光学距離Lac´は、点Aから光取込領域113までの最も長い光学的な距離から除外される。
【0085】
本実施形態において、光源17は、光取込領域113までの最も短い光学距離Labと、光取込領域113までの最も長い光学距離Lacの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点171を有する。つまり、光学距離Labと光学距離Lacとの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点171を有する場合に、少なくとも1つの発光点171において、当該発光点171から光取込領域113全域に入射する光を同位相とみなすことができるため、光をコア層12に効率的に取り込むことができる。
【0086】
また、光源17からの光がコア層12にさらに効率的に取り込まれるように、光源17は、光学距離Labと光学距離Lacの差が光の真空中での波長の4分の1より小さくなる位置に発光点171を有することが好ましい。また、光源17は、光学距離Labと光学距離Lacの差が2.13μmより小さくなる位置に発光点171を有することが好ましい。さらに、光源17の半分以上の発光点171は、光学距離Labと光学距離Lacの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることが好ましい。
【0087】
〔第2実施形態〕
図4(a)及び
図4(b)は、第2実施形態に係る光学式化学分析装置14の光源17と第1回折格子部11との関係を示す図である。本実施形態において、第1回折格子部11は複数(
図4(a)の例では4つ)の光取込領域113を含む。光学式化学分析装置14の他の構成は、第1実施形態と同じである。また、
図4(a)及び
図4(b)において
図1~
図3と同じ要素には同じ符号が付されており、重複説明を回避するため、それらの説明を省略する。
【0088】
光源17の外形は、平面視で、発光点171を覆う最小の凸多角形であり得る。凸多角形は例えば三角形、四角形、八角形などを含む。本実施形態において、光源17の外形は長方形である。本実施形態において、第1回折格子部11は複数の光取込領域113を有し、光源17は、平面視において、光源17の外形である長方形の面積が、一つの光取込領域113の面積よりも大きく、光源17から発せられた光が複数の光取込領域113(4つの光取込領域113)に取り込まれる。
【0089】
光源17の発光面積が大きい(すなわち、発光点171を覆う凸多角形の面積が大きい)場合、第1回折格子部11が複数の光取込領域113を含み、光源17から発せられた光が複数の光取込領域113に取り込まれることによって、光学式化学分析装置14は、効率的に光源17から発せられた光をコア層12に取り込むことが可能である。
【0090】
〔第3実施形態〕
図5(a)及び
図5(b)は、第3実施形態に係る光学式化学分析装置14の光源17と第1回折格子部11との関係を示す図である。本実施形態において、第1回折格子部11は連結した複数(
図5(a)の例では4つ)の光取込領域113を含む。光学式化学分析装置14の他の構成は、第1実施形態と同じである。また、
図5(a)及び
図5(b)において
図1~
図3と同じ要素には同じ符号が付されており、重複説明を回避するため、それらの説明を省略する。
【0091】
第1回折格子部11は、複数の光取込領域113が連結しており、光取込領域113を一つずつ区別できない構成となっている。このとき、光伝搬部10との接続部分112の数が実質的な光取込領域113の数を表し、接続部分112が全体的な光取込領域113の端部を近似的に示すため、接続部分112を用いて第1回折格子部11のサイズを規定することができる。
【0092】
図5(a)の例では、下側の2つの接続部分112を結んだ線分の中点にある第1回折格子部11の点Mが示されている。
図5(b)に示すように、点Aは1つの発光点171の位置である。点Aから点Mまでの光の経路に沿った距離が光学距離Lamである。また、
図5(b)の例では、点Aから近い方の右側の接続部分112までの光の経路に沿った距離が光学距離Laiである。本実施形態において、光源17は、平面視において複数の接続部分112の任意の2つの接続部分112を結んだ線分の中点にある第1回折格子部11の点Mまでの光学距離Lamと、2つの接続部分112のいずれか近い方までの光学距離Laiの差が、光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に発光点171を有する。第1回折格子部11が複数の光取込領域113が連結した形態で構成されている場合に、このような関係が満たされることによって、少なくとも1つの発光点171において、当該発光点171から発せられる光が光取込領域113上で形成する同位相群の数が、接続部分112の数以下となる。したがって、光取込領域113上で形成される全ての同位相群を、複数の接続部分112を介して複数の光伝搬部に導出することができ、光学式化学分析装置14は、効率的に光源17から発せられた光をコア層12に取り込むことが可能である。
【0093】
また、光源17からの光がコア層12にさらに効率的に取り込まれるように、光源17は、光学距離Lamと光学距離Laiの差が、光の真空中での波長の4分の1より小さくなる位置に発光点171を有することが好ましい。また、光源17は、光学距離Lamと光学距離Laiの差が2.13μmより小さくなる位置に発光点171を有することが好ましい。さらに、光源17の半分以上の発光点171は、光学距離Lamと光学距離Laiの差が光の真空中での波長の半分より小さくなる位置に配置されることが好ましい。
【0094】
〔第4実施形態〕
図6は、第4実施形態に係る光学式化学分析装置14の光源17と第1回折格子部11との関係を示す図である。光学式化学分析装置14の構成は、第1実施形態と同じである。また、
図6において
図1~
図3と同じ要素には同じ符号が付されており、重複説明を回避するため、それらの説明を省略する。
【0095】
光源17の発光点171から第1回折格子部11の光取込領域113に到達した光は、少しの位相ずれであれば同位相と扱うことができる。発光点171から発せられた光が同位相と扱うことができるか否かによって、光をコア層12に取り込む効率が異なってくる。本実施形態において、光学距離の差に代えて、位相ずれを用いて、光源17の発光点171と第1回折格子部11の光取込領域113との関係が定められる。
【0096】
図6において、点Aは1つの発光点171の位置である。また、点B及び点Dは、当該1つの発光点171(すなわち点A)から発せられた光が到達した光取込領域113の2つの位置である。点Aから点Bまでの光の経路に沿った距離が光学距離Labである。また、点Aから点Dまでの光の経路に沿った距離が光学距離Ladである。光学距離Labは第1実施形態と同じく、点Aから光取込領域113までの最も短い光学的な距離である。光学距離Ladは、光学距離Labと異なる(すなわち最短でない)光学的な距離である。
【0097】
本実施形態において、光源17は、光取込領域113までの最も短い光学距離Labと光取込領域113のある地点までの光学距離Ladとの差ΔLと、光の真空中での波数(2π/真空中での波長)との積で求められる位相差ΔPについて、|sin(ΔP)|<0.1になる条件の光取込領域113の面積が、光取込領域113の全面積の50%以上である発光点171を有する。このような光の位相についての関係が満たされることによって、少なくとも1つの発光点171において、当該発光点171から光取込領域113全域に入射する光の多くを同位相とみなすことができるため、光学式化学分析装置14は、効率的に光源17から発せられた光をコア層12に取り込むことが可能である。ここで、真空中での波長をλ0とすると、位相差ΔPは「ΔL×2π/λ0」で表される。
【0098】
次に、
図7を参照して、好ましい伝搬モードが説明される。本実施形態において、光源17はインコヒーレント光源である。インコヒーレント光源から発せられる光は、位相の異なる多くの光を含んでいる。しかしながら、インコヒーレント光源であっても、同じ時刻に、光源17の同じ点(例えば一つの発光点171)から出発した光が形成する光波面においては、位相は揃っている。すなわち、インコヒーレント光であっても、位相が揃っている成分ごとに第1回折格子部11(光取込領域113)は動作し、当該位相が揃っている成分を一つの伝搬モードとしてコア層12に光を取込むことが出来る。同じ時刻に、同じ点から出発した光は、同位相面が同心球状に広がっていく。ここで、光取込領域113の表面は、球面ではない平面上に凹凸が形成されたものであるため、光取込領域113に到達した光は、光取込領域113の表面において位相がずれる。
【0099】
図7に示すように、第1回折格子部11の光取込領域113の面積が大きいと、光取込領域113の内部に複数の同位相群(S1~S6)が形成される。したがって、光取込領域113が大きいと、同じ時刻に同じ点から出発した光に対しても、複数の伝搬モードが形成されてしまう。光伝搬部10において複数の伝搬モードの光を伝搬させるためには、延在方向に垂直な光伝搬部10の断面積(幅、高さ)が、伝搬モード数に応じた大きさとなる必要がある。したがって、本実施形態のような断面積の非常に小さい光伝搬部10では、第1回折格子部11で複数発生した伝搬モード全てを伝搬することができない。さらに、光を効率よく伝搬する観点から、光伝搬部10は、単一モードを伝搬するシングルモード光導波路が好ましい。これらを考慮すると、第1回折格子部11が1つの光取込領域113で取込んだ光を、1つの光伝搬部10に導出する場合、第1回折格子部11は、光取込領域113で形成される同位相群の数が1つとなるように構成されることが好ましい。すなわち、第1回折格子部11は、光取込領域113で形成される伝搬モードの数が1つとなるような大きさの光取込領域113を備えることが好ましい。また、光伝搬部10は、光がシングルモードで伝搬する断面積を有することが好ましい。
【0100】
光源17からの光がコア層12にさらに効率的に取り込まれて、効率的に伝搬されるように、光伝搬部10は、光伝搬部10の延在方向と直交する幅方向に幅を有し、延在方向及び幅方向に直交する高さ方向に高さを有し、光伝搬部10の少なくとも一部が、幅方向と高さ方向の少なくとも一つにおいて、光源17からの光がシングルモードで伝搬する幅又は高さを有することが好ましい。ここで、光伝搬部10の少なくとも一部は、幅方向と高さ方向の両方において、光がシングルモードで伝搬する幅及び高さを有してよい。また、光伝搬部10の少なくとも一部の幅又は高さは1μmより小さいことが好ましい。また、光伝搬部10の少なくとも一部における延在方向に垂直な面の断面積は1μm2より小さくてよい。1μmより小さい幅又は高さ、及び1μm2より小さい断面積という値は、本実施形態において光源17から発せられる光(真空中における波長が2μm以上12μm未満の赤外線)に対して、シングルモード又はシングルモードに近いモード数で伝搬可能な光伝搬部10の寸法である。
【0101】
光伝搬部10が光をシングルモード(又はシングルモードに近いモード数)で伝搬させる断面積を有することが好ましいことを本実施形態において説明したが、このことは、上記の第1~第3実施形態においても当てはまる。
【0102】
本発明に係る実施形態について、図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本発明に基づき種々の変形又は修正を行うことが容易であることに注意されたい。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが解決手段に必須であるとは限らない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、光源から発せられるインコヒーレント光と光導波路とを高効率で結合させることが可能な光学式化学分析装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:光伝搬部
11:第1回折格子部
12:コア層
13:第2回折格子部
14:光学式化学分析装置
15:光導波路
16:外部空間
17:光源
18:光検出器
19:基板
20:支持層
21:空隙
112:接続部分
113:光取込領域
171:発光点
172:発光層
173:高屈折材料層