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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-10
(45)【発行日】2025-09-19
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20250911BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20250911BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20250911BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20250911BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250911BHJP
【FI】
G02C7/02
G02C7/00
G02B1/10
B32B27/20 Z
B32B27/30 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023511719
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016606
(87)【国際公開番号】W WO2022211043
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2021061663
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 周作
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-094468(JP,A)
【文献】特表2000-503050(JP,A)
【文献】特表平10-510576(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113583493(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/02
G02C 7/00
G02B 1/10
B32B 27/20
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、防曇層とを有する眼鏡レンズであって、
前記防曇層は、樹脂及び金属酸化物粒子を含み、
前記防曇層が、下記の成分(A)~(D)を含む塗布組成物の硬化物であり、
前記防曇層中における前記金属酸化物粒子の含有量が5~50質量%であり、前記防曇層中における前記樹脂の含有量が50~95質量%であり、
前記塗布組成物は、少なくとも1個の親水基と少なくとも1個の疎水基を含む界面活性剤であって、
(1)前記親水基が、
(i)ピロリドンと、
(ii)5原子を超えない距離だけ離れた少なくとも2個のヒドロキシル基を含み、そのヒドロキシル基の総数が界面活性剤分子内に存在する疎水基の総数を超えるか、またはそれと同数であるポリヒドロキシル基とからなる群より選択され、
(2)前記疎水基が、少なくとも4個の炭素原子を含む炭化水素鎖、または少なくとも3個の炭素原子を含む過フルオロ化ラジカルである
界面活性剤を含まず、
前記塗布組成物は、少なくとも1つの疎水性基および少なくとも1つの親水性アニオン基を含む界面活性剤であって、
(i)前記親水性アニオン基は、-OSO 、-SO 、-CO 、(-O) P(O)O ,-OP(O)(O 、-P(O)(O 、-P(O 、-OP(O 、(-SO 、-SO N(R) 、(-SO H、および-N (R) (CH L’から成る群から選択されるアニオンを含み、Rは水素、未置換のアルキル基または、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から成る群から,独立に選択される原子で置換されるアルキル基、または、アルキレンカルボキシル基であり、アルキル基またはアルキレンカルボキシル基は、約1乃至10個の炭素原子を含み、xは1乃至4であり、L’は、-OSO 、-SO 、(-O) P(O)O 、-OP(O)(O 、-P(O)(O および-CO から成る群から選択され、各アニオン基は、少なくとも1つのカチオンと会合または共有結合され、カチオンは、H 、Na 、K 、Li 、Ca +2 、Mg +2 、Sr +2 、Al +3 、およびR”A から成る群から選択され、R’’はRまたはR’であり、Rは水素または約1乃至10個の炭素原子を含むアルキル基またはシクロアルキル基であり、R’は界面活性剤分子に共有結合され、かつ、炭素原子1乃至10個を含むアルキル架橋基であり、A はN 、酸素原子、硫黄原子もしくは窒素原子で任意に置換されるグアニジニウムイオン、または、N Bであり、Bは、窒素含有複素環式環を完成する炭素原子、窒素原子、硫黄原子および酸素原子から成る群から選択される3乃至7個の原子を含み、R基またはR’基は、いずれも置換されていなくても、酸素原子、窒素原子または硫黄原子から成る群から独立に選択される原子で置換されていても良く、前記カチオンは、前記界面活性剤の実効電荷が中性になるように選択され、
(ii)前記疎水性基は、少なくとも4個の炭素原子を含む炭化水素鎖または少なくとも3個の炭素原子を含むペルフルオリネート化基を含む
界面活性剤を含まない、眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
成分(D):金属酸化物コロイド粒子(D)
【化1】

[一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R及びRは同一でも、異なっていてもよい。]
【化2】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1~5の整数である。]
【化3】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【請求項2】
前記金属酸化物粒子がシリカ粒子である、請求項1に記載の眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記基材と前記防曇層とが直接に積層されている、請求項1または2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記防曇層が最外層である、請求項1~3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズ。
【請求項5】
基材上において、硬化性樹脂及び金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物を硬化させる硬化工程を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの曇り防止(防曇)のために、レンズ基材の表面に防曇層を形成する技術は従来知られている。
例えば、レンズ基材の表面に、界面活性剤を被覆する技術が知られている。
また、レンズ記載の表面に吸水性樹脂層及び撥水層を形成する技術も知られている。例えば、特許文献1には、ガラス又はプラスチック基材の表面に、特定のポリオキシエチレン鎖を有するウレタン又はアクリル樹脂を主成分とする吸水層を形成し、同吸水層の表面にアミノ変性シリコーン又はメルカプト変性シリコーンの少なくとも一方を主成分とする撥水層を形成する防曇性光学物品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2013/005710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズ基材の表面に界面活性剤からなる防曇層を形成してなる眼鏡レンズは、界面活性剤を水で拭くと当該界面活性剤が容易にレンズ表面から剥離してしまうため、耐擦傷性が不十分であった。
また、特許文献1に記載の防曇層も、界面活性剤からなる防曇層よりは耐擦傷性に優れているが、依然として十分ではなかった。
本開示の一実施形態は、防曇性を有し、耐擦傷性に優れる眼鏡レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態は、以下の[1]~[9]に関する。
[1]基材と、防曇層とを有する眼鏡レンズであって、前記防曇層は、樹脂及び金属酸化物粒子を含む、眼鏡レンズ。
[2]前記防曇層は、樹脂及び金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物から形成された層である、上記[1]に記載の眼鏡レンズ。
[3]前記防曇層を構成する樹脂が、(メタ)アクリル系樹脂を含む、上記[1]又は[2]に記載の眼鏡レンズ。
【0006】
[4]前記防曇層が、下記の成分(A)~(D)を含む塗布組成物の硬化物である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
成分(D):金属酸化物コロイド粒子(D)
【0007】
【化1】

[一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R及びRは同一でも、異なっていてもよい。]
【0008】
【化2】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1~5の整数である。]
【0009】
【化3】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【0010】
[5]前記金属酸化物粒子がシリカ粒子である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[6]前記基材と前記防曇層とが直接に積層されている、上記[1]~[4]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[7]前記防曇層が最外層である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の眼鏡レンズ。
[8]基材上において、硬化性樹脂及び金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物を硬化させる硬化工程を有する、上記[1]~[7]のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法。
【0011】
[9]前記塗布組成物は、下記の成分(A)~(D)を含む、上記[8]に記載の眼鏡レンズの製造方法。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
成分(D):金属酸化物コロイド粒子(D)
【0012】
【化4】

[一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基であり、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、R及びRは同一でも、異なっていてもよい。]
【0013】
【化5】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1~5の整数である。]
【0014】
【化6】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【発明の効果】
【0015】
本開示の一実施形態によれば、防曇性を有し、耐擦傷性に優れる眼鏡レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態及び実施例について説明する。同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。以下に説明する実施の形態及び実施例において、個数、量等に言及する場合、特に記載がある場合を除き、本開示の範囲は必ずしもその個数、量等に限定されない。以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本開示の実施の形態及び実施例にとって必ずしも必須のものではない。
【0017】
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含する。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)、及び、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)を包含する。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタアクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書中、モノマー(a-1)に由来する構成単位を「構成単位(a-1)」、モノマー(a-2)に由来する構成単位を「構成単位(a-2)」、モノマー(a-3)に由来する構成単位を「構成単位(a-3)」、モノマー(a-4)に由来する構成単位を「構成単位(a-4)」と称することがある。
【0018】
塗布組成物における「固形分量」とは、溶媒以外の成分の量を意味する。
置換基を有する基についての「炭素数」とは、該置換基を除く部分の炭素数をいうものとする。
【0019】
[眼鏡レンズ]
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズは、基材と、防曇層とを有する眼鏡レンズであって、前記防曇層は、樹脂及び金属酸化物粒子を含むものである。
本開示の実施形態に係る眼鏡レンズは、防曇層が金属酸化物粒子を含んでいるため、耐擦傷性に優れている。
【0020】
<基材>
基材としては、様々な種類の原料からなる樹脂を用いることができる。
基材を形成する樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ウレタンウレア樹脂、(チオ)ウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルアリル樹脂等が挙げられる。(チオ)ウレタン樹脂とは、チオウレタン樹脂、及びウレタン樹脂から選ばれる少なくとも1種を意味する。これらの中でも(チオ)ウレタン樹脂、ポリスルフィド樹脂が好ましい。
【0021】
また、本実施形態の眼鏡レンズに用いる基材は、屈折率1.50以上であることが好ましく、屈折率1.60以上のプラスチック製基材であることがより好ましい。
好ましいプラスチック製基材の市販品としては、アリルポリカーボネート系プラスチックレンズ「HILUX1.50」(HOYA株式会社製、屈折率1.50)、チオウレタン系プラスチックレンズ「MERIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYAS」(HOYA株式会社製、屈折率1.60)、チオウレタン系プラスチックレンズ「EYNOA」(HOYA株式会社製、屈折率1.67)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYRY」(HOYA株式会社製、屈折率1.70)、ポリスルフィド系プラスチックレンズ「EYVIA」(HOYA株式会社製、屈折率1.74)等が挙げられる。
【0022】
基材の厚さ及び直径は、特に限定されるものではないが、厚さは通常0.5~30mm例えば1~30mm程度、直径は通常50~100mm程度である。
基材としては、フィニッシュレンズ、セミフィニッシュレンズのいずれであってもよい。
基材の表面形状は特に限定されず、平面、凸面、凹面等のいずれであってもよい。
本開示の眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等のいずれであってもよい。累進屈折力レンズについては、通常、近用部領域(近用部)及び累進部領域(中間領域)が、前述の下方領域に含まれ、遠用部領域(遠用部)が上方領域に含まれる。
【0023】
<防曇層>
本開示の眼鏡レンズにおいて、防曇層は、樹脂及び金属酸化物粒子を含む。このように防曇層が金属酸化物粒子を含んでいるため、防曇層が耐擦傷性に優れている。
防曇層は、防曇性に優れる眼鏡レンズを得る観点から、吸水性を有することが好ましい。ここで吸水性とは、材料が水分を取り込む特性を示す。防曇層を有する眼鏡レンズの吸水性の有無は、湿潤雰囲気に晒されてから曇り始めるまでの所要時間が、防曇層を有しない眼鏡レンズと比べて長いか否かによっても判断することができる。
防曇層は、防曇性を十分に発揮する観点から、眼鏡レンズの最外層として設けられることが好ましい。
防曇層はいずれか一方の主面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
本実施形態に係る一態様として、防曇耐久性の観点から、防曇層は、基材上に直接設けられることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る眼鏡レンズは、基材上に直接防曇層を有することが好ましい。
【0024】
防曇層の厚さは、製造容易性の観点から、好ましくは1~100μm、より好ましくは3~60μm、さらに好ましくは6~50μm、よりさらに好ましくは8~40μm、よりさらに好ましくは10~30μmである。
【0025】
前記防曇層の厚さは、防曇性向上の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは6μm以上、よりさらに好ましくは8μm以上、よりさらに好ましくは10μm以上であり、製造容易性の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは30μm以下、よりさらに好ましくは20μm以下、よりさらに好ましくは15μm以下である。
【0026】
防曇層は、撥水性能を有することが好ましい。これにより、防曇性能がより向上する。
防曇層を構成する樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂を含むことが好ましい。これにより、防曇性がより向上する。
【0027】
金属酸化物粒子の種類は、耐擦傷性を向上させるものであれば特に限定は無いが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸鉄、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化銀、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニッケル等が挙げられ、好ましくはシリカ、ジルコニアであり、より好ましくはシリカである。
金属酸化物の平均一次粒子径は、好ましくは5~300nmである。
【0028】
防曇層中における金属酸化物粒子の含有量は、防曇性と耐擦傷性とを両立させる観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、更に好ましくは15~35質量%である。
防曇層中における樹脂の含有量は、防曇性と耐擦傷性とを両立させる観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは65~85質量%である。防曇層中における(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、同様の観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは65~85質量%である。
【0029】
<<塗布組成物>>
防曇層は、樹脂及び金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物から形成された層であることが好ましい。このように金属酸化物が粒子径の小さいコロイド粒子であることにより、金属酸化物が防曇層内に良好に分散する結果、耐擦傷性が向上する。
【0030】
防曇層は、シロキサン化合物に由来する構成単位及びアクリルアミドに由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂、並びに金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物の硬化膜であることが好ましい。
防曇層が金属酸化物コロイド粒子に由来する金属酸化物粒子を含んでいるため、耐擦傷性に優れる。防曇層がシロキサン化合物に由来するシロキサン結合を有することにより、防曇層の滑り性が向上し、その結果、防曇層の耐擦傷性がより向上する。防曇層がアクリルアミドに由来するアミド基を有することにより、防曇層の親水性が大きくなり、これにより吸水性能が向上し、その結果、防曇性が向上する。
【0031】
上記防曇層は、好ましくは下記の成分(A)~(D)を含む塗布組成物の硬化膜からなる。
成分(A):下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル系樹脂(A)
成分(B):ポリオール化合物(B)
成分(C):多官能イソシアネート化合物(C)
成分(D):金属酸化物コロイド粒子(D)
【0032】
【化7】

[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~3の直鎖もしくは分岐のアルキル基である。]
【0033】
【化8】

[一般式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、nは1~5の整数である。]
【0034】
【化9】

[一般式(3)中、Rは水素原子又はメチル基であり、Rは2価の有機基であり、nは0又は1以上の整数である。]
【0035】
成分(A)((メタ)アクリル系樹脂とも言う。)に含まれる構成単位(a-1)はアミド基を有しており、親水性が大きく、水分を抱え込みやすい。このため、塗布組成物を硬化することにより得られる防曇層の表面に付着した水分は、硬化内部へと吸収されやすくなると考えられる。また、ポリオール化合物(B)を配合することで、防曇層として必要な架橋密度を保ちつつ、水分が十分に吸収されるような隙間を存在させることができると考えられる。これらの理由で、防曇性が付与されると考えられる。
【0036】
また、成分(A)に含まれる構成単位(a-2)はポリカプロラクトン構造を有する構成単位であり、その柔軟な化学骨格により防曇層の柔軟性及び弾力性の向上に寄与する。加えて、構成単位(a-2)よりも剛直な構成単位(a-3)を含むことにより、柔軟性と弾力のバランスが確保される。一方で、構成単位(a-4)が有するポリジメチルシロキサン鎖は、防曇層に対して滑り性の向上に寄与する。このため、防曇層に外力が加わった際には、防曇層の柔軟性・弾力性によって外力を吸収しつつ、滑り性によって外力を防曇層外へ逃がすという、上記の2つの効果が相乗的に発現し、結果として防曇層には傷が付きにくくなると考えられる。
【0037】
塗布組成物は、成分(A)を構成する全構成単位100質量%に対し、モノマー(a-1)に由来する構成単位の割合が20質量%以上65質量%以下、モノマー(a-2)に由来する構成単位の割合が10質量%以上40質量%以下、モノマー(a-4)に由来する構成単位の割合が1質量%以上10質量%以下、であり、成分(C)に含まれるイソシアネート基の数(NCO)と、成分(A)に含まれる水酸基の数及び成分(B)に含まれる水酸基の数を足し合わせた総量(OH)との比(NCO)/(OH)が、0.15以上0.55以下であることが好ましい。
塗布組成物の組成をこのようにすると、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)のバランス(量比)を取りつつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、摩擦抵抗が向上する程度にまで防曇層の硬さを高めることができると考えられる。加えて、成分(A)中の、水酸基を有する構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)の構成バランスを取りつつ、かつ、当量比(NCO/OH)が1よりも小さい特定の範囲に設定され、防曇層の架橋密度が高くなり、防曇層の耐溶剤性が向上すると考えられる。
【0038】
本実施形態の塗布組成物の含有成分について、以下説明する。
(成分(A):(メタ)アクリル系樹脂)
本実施形態の塗布組成物は、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂、すなわち、下記一般式(1)で表されるモノマー(a-1)に由来する構成単位、下記一般式(2)で表されるモノマー(a-2)に由来する構成単位、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(a-3)に由来する構成単位、及び、下記一般式(3)で表されるモノマー(a-4)に由来する構成単位を有する(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0039】
前述したように、構成単位(a-1)が主として水(湿気)の吸収に関与しているものと考えられる。
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には、モノマー(a-1)、モノマー(a-2)、モノマー(a-3)及びモノマー(a-4)を重合させることで得ることができる。重合方法の詳細については後に述べる。
【0040】
なお、本実施形態においては、(メタ)アクリル系樹脂を構成する構成単位の100%が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位でなくてもよい。すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系ではないモノマーに由来する構成単位を一部(全部ではない)含んでいてもよい。
(メタ)アクリル構造に由来する効果を十二分に得るためには、(メタ)アクリル系樹脂は、全構成単位中の50質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位であることが好ましい。より好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位中の80質量%以上が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。更に好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂の全て(100%)の構成単位が、(メタ)アクリル系のモノマーに由来する構成単位である。
【0041】
モノマー(a-1)は、前述の一般式(1)の構造を持つものであれば特に限定されない。具体的には、(メタ)アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0042】
モノマー(a-1)は、少なくとも1種を用いればよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
【0043】
モノマー(a-1)は、防曇性能向上の観点から、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドを含むことが特に好ましい。
【0044】
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-1)に由来する構成単位は、当該成分の全構成単位に対して、20~65質量%含むことが好ましい。より好ましくは35~60質量%、更に好ましくは40~55質量%である。モノマー(a-1)に由来する構成単位が20質量%以上であれば、実用に適した防曇性能を発揮する防曇層を形成しやすくなり、65質量%以下であれば、相対的に他のモノマーに由来する構成単位の比率が低下することが回避され、組成物全体としてのバランスを保ちやすくなる。
【0045】
モノマー(a-2)は、前述の一般式(2)の構造を持つものであれば特に限定されない。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する構成単位を、当該樹脂の全構成単位に対して、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~38質量%、更に好ましくは25~35質量%含む。
【0046】
モノマー(a-2)に由来する構成単位が10質量%以上であれば、防曇層の柔軟性が確保されやすくなり、40質量%を以下であれば、防曇層の弾力性を確保しやすくなる。
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。
【0047】
モノマー(a-3)はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートである。この具体例としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。本実施形態においては、これらの中でもヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-3)に由来する構成単位は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは3~15質量%含まれる。
【0048】
なお、モノマー(a-3)は、モノマー(a-2)と同様に水酸基を有し、後述する多官能イソシアネート化合物と架橋反応を起こし、防曇層を形成する。
本実施形態においては、モノマー(a-2)だけで架橋反応を生じさせ、防曇層を形成するのではなく、モノマー(a-3)とともに多官能イソシアネート化合物と架橋反応を生じさせることで種々の物性を兼ね備えた防曇層とすることができる。
【0049】
前述したように、(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-2)及びモノマー(a-3)に由来する構成単位を含むため、全体として水酸基を有する、すなわち水酸基価を有する樹脂である。このため、後述のポリオール化合物とともに、後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、架橋構造を形成することができる。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は、40~150mgKOH/gであることが好ましく、70~140mgKOH/gであることがより好ましく、90~130mgKOH/gであることが更に好ましい。
この数値範囲とすることで、ポリオール化合物(後述)とともに、多官能イソシアネート化合物(後述)と反応し、架橋構造が適切に制御されやすくなる。そのため、防曇層の柔軟性・弾力性を維持しつつ、防曇層を硬くすることが可能となる。よって、防曇層の耐擦傷性、摩擦抵抗の低減、及び耐溶剤性とのより高度な両立を図りやすくなる。
なお、水酸基価とは、試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を意味する。
【0051】
モノマー(a-4)は、前述の一般式(3)の構造を持つものであれば特に限定されない。
【0052】
(メタ)アクリル系樹脂は、モノマー(a-4)に由来する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記に挙げたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
本実施形態において、(メタ)アクリル系樹脂中のモノマー(a-4)に由来する構成単位は、当該成分(A)の全構成単位に対して、好ましくは1~10質量%、より好ましくは2~8質量%、更に好ましくは3~7質量%含まれる。
【0053】
モノマー(a-4)に由来する構成単位が1質量%以上であれば、耐擦傷性を満足する防曇層を得やすくなる。10質量%以下であれば、均質な(メタ)アクリル系樹脂を合成しやすくなる。
【0054】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-1)、構成単位(a-2)、構成単位(a-3)、及び構成単位(a-4)以外の任意の構成単位(構成単位(a-5))を含んでもよいし、含まなくてもよい。構成単位(a-5)としては、例えば、以下で表されるモノマーに由来する構成単位が挙げられる。(メタ)アクリル系樹脂にこのような構成単位を含めることで、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度や、防曇層の物性(防曇層の硬さ、柔らかさ等)の調整・最適化をすることができる。
【0055】
構成単位(a-5)としては、一般式CH=CR-COO-R’において、Rが水素原子又はメチル基であり、R’が、アルキル基、単環又は多環のシクロアルキル基、アリール基、又はアラルキル基であるモノマー由来の構成単位であることが挙げられる。
このモノマーの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中でも、R’が炭素数1~8のアルキル基であるものが好ましく、R’が1~6のアルキル基であるものがより好ましく、R’が1~4のアルキル基であるものが更に好ましい。
【0056】
(メタ)アクリル系樹脂は、構成単位(a-5)に該当する繰り返し単位を複数種含んでいてもよい。例えば、上記で具体例として挙げられたモノマーのうち2種以上を用いて重合反応を行うことで(メタ)アクリル系樹脂を得てもよい。
(メタ)アクリル系樹脂が構成単位(a-5)を含む場合、その含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の全構成単位に対して、好ましくは1~40質量%、より好ましくは3~30質量%、更に好ましくは5~20質量%である。
【0057】
(メタ)アクリル系樹脂の質量平均分子量(Mw)は、特に限定はされないが、10,000~100,000であることが好ましく、20,000~70,000であることがより好ましく、30,000~60,000であることが更に好ましい。質量平均分子量が10,000以上であれば得たい防曇性能を得られやすく、100,000以下であれば眼鏡レンズ等の被塗物に塗装する際の塗装適性に優れる傾向がある。
(メタ)アクリル系樹脂の多分散度(Mw/Mn)は、特に限定はされないが、1.0~6.0であることが好ましく、2.0~5.0であることがより好ましく、3.0~4.0であることが更に好ましい。
なお、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準物質としてポリスチレンを用いることで求めることができる。
【0058】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~110℃、更に好ましくは35~100℃である。なお、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は、種々の方法で求めることが可能であるが、例えば以下のフォックス(Fox)の式に基づいて求めることができる。
1/Tg=(W/Tg)+(W/Tg)+(W/Tg)+・・・+(W/Tg
〔式中、Tgは、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(K)、W、W、W・・・Wは、それぞれのモノマーの質量分率、Tg、Tg、Tg・・・Tgは、それぞれ各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示す。〕
【0059】
本明細書において、(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(防曇層のガラス転移温度ではなく、(メタ)アクリル系樹脂単独のガラス転移温度)は、上記式に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。なお、特殊モノマー、多官能モノマー等のようにガラス転移温度が不明のモノマーについては、ガラス転移温度が判明しているモノマーのみを用いてガラス転移温度が求められる。
【0060】
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には重合反応により得ることができる。重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の各種方法であればよく、この中でもラジカル重合が好ましい。また、重合は、溶液重合、懸濁重合、及び乳化重合等のいずれであってもよい。これらのうち、重合の精密な制御等の観点から、溶液重合が好ましい。
【0061】
ラジカル重合の重合開始剤としては、公知のものを用いることができる。例えば、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、及び2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシオクタノエート、ジイソブチルパーオキサイド、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシピバレート、デカノイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、及びt-ブチルパーオキシベンゾエート等の過酸化物系開始剤、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等、酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤等が挙げられる。これらは、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の配合量は、特に限定されないが、重合するモノマーの混合液全体を100質量部とした場合に0.001~10質量部とすることが好ましい。
【0062】
また、重合反応に際しては、適宜、公知の連鎖移動剤、重合禁止剤、分子量調整剤等を用いてもよい。更に、重合反応は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。重合反応の温度は特に限定されないが、典型的には50℃~200℃、好ましくは80℃~150℃の範囲内である。
【0063】
(成分(B):ポリオール化合物)
本実施形態の塗布組成物は、ポリオール化合物を含むことが好ましい。ポリオール化合物を含むことにより、(メタ)アクリル系樹脂とともに後述の多官能イソシアネート化合物と反応し、より防曇耐久性に優れた防曇層を形成することが可能となる。ポリオール化合物が1分子中に有する水酸基の個数は2以上で、好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
【0064】
ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールからなる群より選択される少なくとも1種以上のポリオール化合物を含むことが好ましい。これらの化学構造は、適度に柔軟で、かつ弾力性を有している。このため、硬化膜の柔軟性・弾力性をより高めることができる。
【0065】
ポリカプロラクトンポリオールは、一分子中に、カプロラクトンの開環構造及び2以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である
【0066】
ポリカーボネートポリオールは、一分子中に、-O-(C=O)-O-で表されるカーボネート基及び2以上の水酸基を有する化合物であれば、特に制限なく使用可能である。ポリカーボネートポリオールは、1種以上のポリオール原料(多価アルコール)と、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得ることができる。
ポリオール原料としては、特に制限されないが、例えば、脂肪族ポリオール、脂環構造を有するポリオール、芳香族ポリオール等が挙げられる。本実施形態においては、硬化膜の柔軟性の観点から、脂環構脂を有しない脂肪族ポリオールが好ましい。
炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル、ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルが挙げられる。中でも、入手や製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
【0067】
ポリエーテルポリオールは、一分子中に、エーテル結合(-O-)及び2個以上の水酸基を有する化合物であれば特に制限なく使用可能である。
具体的な化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、3,3-ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン-1,4-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、ビス(β-ヒドロキシエチル)ベンゼン、キシリレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の低分子ポリオール類、又はエチレンジアミン、プロピレンジアミン、トルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、キシリレンジアミン等の低分子ポリアミン類等のような活性水素基を2個以上、好ましくは2~3個有する化合物を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のようなアルキレンオキサイド類を付加重合させることによって得られるポリエーテルポリオール、或いはメチルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル類、フェニルグリシジルエーテル等のアリールグリシジルエーテル類、テトラヒドロフラン等の環状エーテルモノマーを開環重合することで得られるポリエーテルポリオールを挙げることができる。
【0068】
なお、本実施形態において、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数に該当する化合物であってもよい。例えば、ポリオール化合物は、エーテル結合とエステル結合とを有するポリエーテルポリエステルポリオール等であってもよい。
また、ポリオール化合物は、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、複数種を含んでいてもよい。
【0069】
ポリオール化合物の水酸基価は、好ましくは50~500mgKOH/g、より好ましくは100~350mgKOH/g、更に好ましくは150~250mgKOH/gである。適度な水酸基の量とすることで、下記の多官能イソシアネート化合物との反応による架橋構造が制御され、硬化膜の柔軟性・弾力性等を一層高めやすくなる。
【0070】
本実施形態において、ポリオール化合物の質量平均分子量(Mw)としては、好ましくは450~2,500、より好ましくは、500~1,500、更に好ましくは500~700である。適度な分子量とすることで、柔軟性・弾力性向上による硬化膜の外観変化の抑制と、ガソリン耐性等の硬化膜の耐久性とのより高度に両立しやすくなる。
【0071】
塗布組成物中のポリオール化合物の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは5~200質量部、より好ましくは15~180質量部、更に好ましくは20~150質量部、より更に好ましくは20~100質量部、より、更に好ましくは20~50質量部、より、更に好ましくは20~40質量部である。この数値範囲とすることで、ポリオール化合物に由来する性能を得やすくなり、他成分とのバランスを取りやすくなる。
【0072】
本実施形態において、ポリオール化合物としては、前述したポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、及びポリエーテルポリオールのうち、ポリカプロラクトンポリオールを含むことが好ましく、ポリカプロラクトンポリオールの中でもポリカプロラクトンジオール(カプロラクトン構造を持ち、かつ、2つの水酸基を持つ化合物)を含むことが特に好ましい。
これは、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂が前述の一般式(2)の構造、すなわちカプロラクトン構造を持つため、ポリオール化合物としては当該樹脂との相溶性が良好となりやすい傾向があるということと、架橋密度を上げ過ぎずに防曇性能を向上させやすい傾向があるためである。
【0073】
(成分(C):多官能イソシアネート化合物)
本実施形態の塗布組成物は、成分(C)として、多官能イソシアネート化合物を含むことが好ましい。塗布組成物が、多官能イソシアネート化合物を含むことにより、成分(A)である(メタ)アクリル系樹脂に含まれる構成単位(a-2)及び構成単位(a-3)が有する水酸基、並びに成分(B)であるポリオール化合物の水酸基と多官能イソシアネート化合物が架橋反応を起こし、防曇耐久性に優れる防曇層となる。
多官能イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基(脱離性基で保護されたイソシアネート基を含む)を有する化合物である。好ましくは、多官能イソシアネート化合物は、その官能基数は、より好ましくは1分子あたり2~6個、更に好ましくは1分子あたり2~4個である。
【0074】
多官能イソシアネート化合物としては、リジンイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート及びトリメチルヘキサンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,4-(又は2,6)-ジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)及び1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等の環状脂肪族ジイソシアネート、並びに、リジントリイソシアネート等の3官能以上のイソシアネートが挙げられる。
【0075】
成分(C)である多官能イソシアネート化合物は、上記のものに加え、その多量体である、ビウレット型、イソシアヌレート型、アダクト型等のものを用いてもよい。中でも、適度な剛直性を有するビウレット型の多官能イソシアネート化合物が好ましい。
【0076】
本実施形態において、塗布組成物中における多官能イソシアネート化合物の含有量は、後述する当量比(NCO)/(OH)に従って配合されれば特に制限はないが、通常、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して5~100質量部、好ましくは7~75質量部、より好ましくは10~60質量部、更に好ましくは10~50質量部、より更に好ましくは15~40質量部、より更に好ましくは20~30質量部である。この数値範囲とすることで、硬化膜内で必要十分な架橋がなされると考えられる。
【0077】
(メタ)アクリル系樹脂およびポリオール化合物が有する水酸基に対する、多官能イソシアネート化合物が含有するイソシアネート基(ブロックイソシアネート基を含む)のモル量(すなわち、当量比(NCO)/(OH))は、好ましくは0.15~0.55の範囲である。当量比(NCO)/(OH)が当該範囲内であると、架橋密度が十分に高くなり、その結果、硬化膜としての防曇性や耐溶剤性などの機能が十分なものとなる。
当該観点から、当該当量比(NCO)/(OH)は、好ましくは0.25~0.50、より好ましくは0.35~0.45である。
【0078】
塗布組成物中の多官能イソシアネート化合物の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量部に対して、好ましくは5~200質量部、より好ましくは15~180質量部、更に好ましくは20~150質量部、より更に好ましくは20~100質量部、より、更に好ましくは20~30質量部、より、更に好ましくは20~25質量部である。この数値範囲とすることで、多官能イソシアネート化合物に由来する性能を得やすくなり、他成分とのバランスを取りやすくなる。
【0079】
(成分(D):金属酸化物コロイド粒子(D))
金属酸化物コロイド粒子の種類は、耐擦傷性を向上させるものであれば特に限定は無いが、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化鉄、酸化タングステン、チタン酸鉄、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化銀、酸化銅、酸化コバルト、酸化ニッケル等が挙げられ、好ましくはシリカである。
【0080】
金属酸化物の平均一次粒子径は、耐擦傷性を向上させる観点及び表面の平滑性を向上させる観点から、好ましくは5~300nmであり、より好ましくは5~100nm、更に好ましくは10~80nm、より更に好ましくは10~50nm、より更に好ましくは10~20nmである。
一次粒子径は、窒素ガス吸着法(BET法)によって測定された比表面積Sm/gと、金属酸化物コロイド粒子の密度ρとから、下記式によって計算される一次粒子径である。
一次粒子径=6/(ρ・S)
【0081】
金属酸化物コロイド粒子(D)は、表面処理されたものであってもよい。
金属酸化物コロイド粒子(D)は、(メタ)アクリロイルオキシ基で表面修飾されていることが好ましい。これにより、耐擦傷性がより向上する。その理由は不明であるが、当該(メタ)アクリロイルオキシ基で表面修飾された金属酸化物コロイド粒子(D)は、(メタ)アクリル系樹脂(A)との相溶性が高くなり、その結果耐擦傷性が向上するものと推測される。
前記表面修飾されたシリカ粒子を含むゾルとして、例えば、MEK-AC-2140Z、MEK-AC-4130Y、MEK-AC-5140Z、PGM-AC-2140Y、PGM-AC-4130Y、MIBK-AC-2140Z、MIBK-SD-L(以上、日産化学(株)製)、及びELCOM(登録商標)V-8802、同V-8804(以上、日揮触媒化成(株)製)を採用することができる。
【0082】
金属酸化物コロイド粒子(D)は、有機溶媒に分散させたゾルとして用意することができる。
有機溶媒としては、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
これらの中でも、イソシアネートとの反応性が低く、溶解性及び乾燥性等の観点から、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0083】
塗布組成物100質量%中における、金属酸化物コロイド粒子(D)の含有量は、好ましくは1~40質量%、より好ましくは2~30質量%、更に好ましくは3~25質量%、より更に好ましくは5~20質量%である。
【0084】
(塗布組成物の形態)
本実施形態の塗布組成物は、1液型、すなわち、溶剤以外の全成分が、溶剤に実質的に均一に混合(溶解又は分散)された状態であってよい。多官能イソシアネート化合物がブロックイソシアネートである場合には、1液型が好ましい。
また、別の態様として、本実施形態の塗布組成物は、2液型であってもよい。2液型にすることで、塗布組成物の保存性を高めることができる。
例えば、本実施形態の塗布組成物は、(1)(メタ)アクリル系樹脂及び/又はポリオール化合物を含み、多官能イソシアネート化合物を含まないA液と、(2)多官能イソシアネート化合物を含み、(メタ)アクリル系樹脂及びポリオール化合物を含まないB液とから構成され、A液とB液は別々の容器で保存され、使用(塗工)直前にA液とB液を混合する形態であってもよい。なお、金属酸化物粒子は、A液及びB液のいずれに添加しても良く、またC液としてゾルの形態で良いし、使用(塗工)直前にA液及びB液と混合する形態であってもよい。
この場合、(メタ)アクリル系樹脂、ポリオール化合物、多官能イソシアネート化合物及び金属酸化物粒子以外の成分(添加剤等)は、A液に含まれていても、B液に含まれていても、あるいはその他の容器で準備されていてもよい。
特に、多官能イソシアネート化合物が、ブロックイソシアネートではない場合(すなわち、系中でイソシアネート基が-NCOの形で存在している場合)には、塗布組成物は2液型であることが好ましい。
【0085】
(溶剤)
本実施形態の塗布組成物は、溶剤を含んでもよい。溶剤を用いることにより、塗布組成物の粘度及び固形分量の調整が容易となる。
溶剤としては、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、t-ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、及び酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
これらの中でも、イソシアネートとの反応性が低く、溶解性及び乾燥性等の観点から、t-ブタノール、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
【0086】
塗布組成物中の溶剤の含有量は、防曇層の膜厚を制御する観点から、好ましくは40~90質量%、より好ましくは50~85質量%、さらに好ましくは55~80質量%である。
【0087】
塗布組成物の固形分は、耐擦傷性に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上であり、防曇性に優れる眼鏡レンズを得る観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。塗布組成物の固形分の含有量は、当該観点から、好ましくは10~60質量%、より好ましくは15~50質量%、更に好ましくは20~45質量%である。
塗布組成物の固形分中における、成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の合計含有量は、防曇性及び耐擦傷性を向上させる観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上であり、好ましくは100質量%以下であり、例えば100質量%である。
【0088】
塗布組成物の固形分中における成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、防曇性と耐擦傷性とを両立させる観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは65~85質量%である。防曇層中における(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、同様の観点から、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、更に好ましくは65~85質量%である。
防曇層中における成分(D)の含有量は、防曇性と耐擦傷性とを両立させる観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、更に好ましくは15~35質量%である。
【0089】
(その他の添加剤)
塗布組成物は、必要に応じて、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を含んでもよい。
添加剤の含有量は、例えば、塗布組成物の全質量に対して、好ましくは0.001~5質量%、より好ましくは0.01~4質量%、更に好ましくは0.1~3質量%である。
【0090】
塗布組成物は、必要に応じて用いられる上記各成分を、溶媒に溶解又は分散させることにより調製することができる。
各成分は、同時に、又は、任意の順序で順次、溶媒に溶解又は分散させることすることができる。具体的な溶解又は分散させる方法には、特に制限はなく、公知の方法を何ら制限なく採用することができる。
【0091】
<他の層>
眼鏡レンズには、防曇層以外の機能層が設けられていてもよい。
上記機能層としては、ハードコート層、反射防止層、プライマー層等が挙げられる。
上記機能層は、レンズ基材の第1主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第2主面上に設けられていてもよいし、レンズ基材の第1主面及び第2主面の両方の上に設けられていてもよい。また、レンズ基材上に上記機能層を設けた後、上記機能層上に防曇層を設けてもよく、レンズ基材上に防曇層を設けた後に、上記機能層を設けてもよい。
【0092】
[眼鏡レンズの製造方法]
本実施形態に係る眼鏡レンズの製造方法は、基材上において、硬化性樹脂及び金属酸化物コロイド粒子を含む塗布組成物を硬化させる硬化工程を有する。当該製造方法により本実施形態に係る眼鏡レンズを容易に製造することができる。
一態様において、まず、必要に応じて用いられる上記各成分を、溶媒に溶解又は分散させることにより、塗布用塗布組成物を調製する。
続いて、得られた塗布組成物1を用いて、防曇層を形成する(硬化工程)。硬化工程は、塗布組成物を基材もしくは基材上に形成された他の層上に塗工し、続いて、好ましくは70~120℃、より好ましくは75~110℃、さらに好ましくは80~100℃で、好ましくは10~60分、より好ましくは15~50分、さらに好ましくは20~40分、プレキュアを行うことが好ましい。
【0093】
防曇層の塗工方法は特に限定されず、例えばエアスプレー法、エアレススプレー法、静電塗装法、ロールコーター法、フローコーター法、スピンコート法、ディッピング法等が挙げられる。生産性の観点から、ディッピング法が好ましい。
塗工方法としてディッピング法を用いる場合、通常、ディッピング槽(塗布組成物槽)から、先に引き上げられた部分の膜厚は薄くなり、最も遅くディッピング槽から引き上げられた部分の膜厚は厚くなる。したがって、塗布組成物2を塗工する際には、塗布組成物1を塗工する際とは、基材の上下方向を180℃回転させてディッピングすることが好ましい。このようにすることで、防曇層の膜厚が均一な眼鏡レンズを得られ易くなる。
【0094】
防曇層を形成後、20~160℃で10~140分間、好ましくは60~130℃で20~150分間乾燥・硬化することが好ましい。なお、乾燥・硬化の温度や時間は、溶剤の種類やレンズ基材の耐熱性等を考慮して適宜調整すればよい。
また、必要に応じて、上述した機能層(ハードコート層、プライマー層、反射防止層等)を、レンズ基材上に設けた後、機能層上に防曇層を設けてもよく、レンズ基材上に防曇層を設けた後、防曇層上に機能層を設けてもよい。
【0095】
本発明は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成に調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に発明を実施することができる。
【0096】
本発明は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成に調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に発明を実施することができる。
【実施例
【0097】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0098】
<測定評価>
以下の実施例及び比較例で得られた塗布組成物と眼鏡レンズについて、以下の項目の測定評価を行った。これらの測定評価結果を表1に示す。
【0099】
(水酸基価)
JIS K 0070:1992「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」の、「7.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
なお、水酸基価の算出に用いる酸価の値は、上記JIS規格の「3.1 中和滴定法」に規定された方法に準じて測定及び算出した。
【0100】
(数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)、多分散度(Mw/Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、算出した。用いた装置、条件等は以下の通りである。
・使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
使用カラム:TSKgel SuperHZM-M、TSKgel GMHXL-H、TSKgel G2500HXL、TSKgel G5000HXL(株式会社東ソー製)
・カラム温度:40℃
・標準物質:TSKgel 標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
・検出器:RI(示差屈折)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/min
【0101】
(防曇層の膜厚測定)
得られた眼鏡レンズの防曇層の膜厚は株式会社システムロード製 非接触膜厚測定システムFF8を用いて測定した。
【0102】
(防曇性評価)
室温25℃、湿度40%の条件下で、得られた眼鏡レンズの防曇層表面に、10秒間呼気を吹きかけた。呼気を吹きかけ始めから、吹きかけ終わるまでの防曇層の状態について目視観察を行い、以下の評価基準に従って評価を行なった。
A:曇りが全く認められない(防曇性に優れる)
B:曇りが認められ、曇りが解消されるのに10秒以上かかる(防曇性に劣る)
(耐擦傷性評価)
スチールウール#0000(日本スチールウール株式会社製)により荷重500g重で、表面を20往復摩擦して、傷の付き難さを目視にて判定した。基準は下記の通りとした。
5:ほとんど傷がつかない
4:1~10本の傷が入る
3:11本~30本の傷が入る
2:表面が曇る
1:ハードコート層が剥離する
【0103】
((メタ)アクリル系樹脂の合成)
撹拌器、温度計、コンデンサーおよび窒素ガス同入管を備えた500ml形のフラスコにプロピレングリコールモノメチルアセテート(PGMAC)150質量部を仕込み、110℃まで昇温した。
これとは別に、ジメチルアクリルアミド(DMAA)25質量部、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート(株式会社ダイセル製、プラクセルFA2D)35質量部、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート(HEMA)10質量部、片末端メタクリレート変性ポリジメチルシロキサン(JNC株式会社製、サイラプレーンFM-0721、分子量5000)5質量部、メタクリル酸メチル25質量部、及び、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(和光純薬工業株式会社製、V-40)1質量部を混合した。この混合モノマーを撹拌しながら2時間かけて、上記の500ml形のフラスコに滴下し、5時間反応させた。
加熱を止めて室温まで冷却し、(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂溶液(固形分比率:40質量%)を得た。
得られた(メタ)アクリル系樹脂の水酸基価は57mgKOH/gであり、数平均分子量(Mn)は12,000であり、質量平均分子量(Mw)は44,000であり、多分散度(Mw/Mn)は3.67であった。また、前述のフォックス(Fox)の式に基づいて、使用したモノマーの配合比から計算した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は32.8℃であった。
【0104】
(樹脂組成物1の調製)
下記成分を混合して、樹脂組成物1を調製した。
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート:29質量%
ジアセトンアルコール:18質量%
メチルエチルケトン :13質量%
t-ブタノール :8質量%
酢酸エチル :8質量%
樹脂 :24質量%
上記樹脂は、下記組成を有する。
上記で得た(メタ)アクリル系樹脂:100質量部
ポリカプロラクトンジオール(株式会社ダイセル製、プラクセル205U、分子量530、水酸基価207~217mgKOH/g)30質量部
多官能イソシアネート化合物(旭化成株式会社製、24A-100、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプ、イソシアネート基含有率23.5質量%、固形分100質量%):23.5質量部
なお、(メタ)アクリル系樹脂の量は、樹脂溶液(固形分量:質量%)としての量ではなく、樹脂溶液中に含まれる樹脂(固形分)の量を表し、多官能イソシアネート化合物の量も固形分としての量を表している。
また、上記(メタ)アクリル系樹脂とポリオール化合物とを、上記の量で均一に混合したときの混合物の水酸基価の測定値は93mgKOH/gであった。
【0105】
(塗布組成物1の調製)
当該樹脂組成物1に対して、オルガノシリカゾル「PGM-AC-2140Y」(日産化学株式会社製、固形分濃度42質量%、平均一次粒子径12nm)を添加して、塗布組成物1を得た。
この際、塗布組成物1の総量100質量%中におけるシリカ粒子の含有量が5質量%となるように、当該樹脂組成物1に対して当該オルガノシリカゾルを添加した。
塗布組成物1中における樹脂組成物1の含有量は、表1に示すとおりである。
【0106】
(塗布組成物2の調製)
当該樹脂組成物1に対して、オルガノシリカゾル「PGM-AC-2140Y」(日産化学株式会社製、固形分濃度42質量%、平均一次粒子径12nm)を添加して、塗布組成物2を得た。
この際、塗布組成物1の総量100質量%中におけるシリカ粒子の含有量が、10質量%(塗布組成物2)となるように、当該樹脂組成物1に対して当該オルガノシリカゾルを添加した。
塗布組成物2中における樹脂組成物1の含有量は、表1に示すとおりである。
【0107】
(塗布組成物3の調製)
上記樹脂組成物1を、塗布組成物3として用いた。
【0108】
[実施例1]
チオウレタン系プラスチックレンズMERIA(屈折率1.60、度数S-4.00D、厚さ1.0mm、直径75mm)を基材として用い、得られた塗布組成物1をこの基材上にディッピング法(引き上げ速度:5mm/秒)を用いて塗布した後、温度83℃で20分加熱し、その後に放冷した。
その後、120℃で120分加熱し、上記基材上に防曇層を有する眼鏡レンズを製造した。得られた眼鏡レンズの評価結果を表1に示す。
【0109】
[実施例2]
実施例1において、塗布組成物1に代えて、各々塗布組成物2に変更したこと以外は同様の操作により、眼鏡レンズを製造した。得られた眼鏡レンズの評価結果を表1に示す。
【0110】
[比較例1]
実施例1において、塗布組成物1に代えて、塗布組成物3に変更したこと以外は同様の操作により、眼鏡レンズを製造した。得られた眼鏡レンズの評価結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
以上、実施例及び比較例の結果から、実施例に係る眼鏡レンズは、防曇性及び耐擦傷性に優れることが分かる。
【0113】
最後に、本開示の実施の形態を総括する。
本開示の実施の形態である眼鏡レンズは、基材と、防曇層とを有する眼鏡レンズであって、前記防曇層は、樹脂及び金属酸化物粒子を含む、眼鏡レンズである。
上述した実施の態様によれば防曇性を有し、耐擦傷性に優れる眼鏡レンズを提供することができる。
【0114】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
本開示は、上記各成分の例、含有量、各種物性については、発明の詳細な説明に例示又は好ましい範囲として記載された事項を任意に組み合わせてもよい。
また、実施例に記載した組成に対し、発明の詳細な説明に記載した組成となるように調整を行えば、クレームした組成範囲全域にわたって実施例と同様に開示の実施の形態を実施することができる。