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特許7742489積層圧電フィルム、デバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法
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  • 特許-積層圧電フィルム、デバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-10
(45)【発行日】2025-09-19
(54)【発明の名称】積層圧電フィルム、デバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/857 20230101AFI20250911BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20250911BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20250911BHJP
   H10N 30/85 20230101ALI20250911BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250911BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20250911BHJP
   B05D 3/04 20060101ALI20250911BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20250911BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250911BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20250911BHJP
【FI】
H10N30/857
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/85
B32B27/30 D
B32B7/025
B05D3/04 C
B05D3/06 102C
B05D7/24 301R
C08J7/046 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024520461
(86)(22)【出願日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2023017501
(87)【国際公開番号】W WO2023219090
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2022078219
(32)【優先日】2022-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
(72)【発明者】
【氏名】本村 百絵
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/091829(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/209080(WO,A1)
【文献】特開2007-134293(JP,A)
【文献】特開2019-066630(JP,A)
【文献】特開2021-075012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/857
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/85
B32B 27/30
B32B 7/025
B05D 3/04
B05D 3/06
B05D 7/24
C08J 7/046
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂を主成分として含有する圧電フィルムと、前記圧電フィルムの少なくとも一方の面に積層された熱硬化性ハードコート層と、を備え、
100℃で30分間熱処理したときの熱収縮率の絶対値が縦方向(MD)及び横方向(TD)のいずれも1.0%以下であり、
ASTM D3359に基づいて評価される前記圧電フィルムと前記熱硬化性ハードコート層との密着性が4B以上であり、
表色系におけるbが-0.7以上0.7以下である、積層圧電フィルム。
【請求項2】
前記熱硬化性ハードコート層とは反対側の前記圧電フィルムの面に紫外線硬化性ハードコート層を備える、請求項1に記載の積層圧電フィルム。
【請求項3】
前記積層圧電フィルムの圧電定数d33が10pC/N以上である、請求項1又は2に記載の積層圧電フィルム。
【請求項4】
全光線透過率が90%以上である、請求項1又は2に記載の積層圧電フィルム。
【請求項5】
前記熱硬化性ハードコート層が(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の積層圧電フィルム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の積層圧電フィルムを備えるデバイス。
【請求項7】
縦方向(MD)及び横方向(TD)の少なくとも一方の熱収縮率の絶対値が2.0%以上である圧電フィルムの、水接触角が75°以下である少なくとも一方の面に、熱硬化性ハードコート剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布された圧電フィルムを110℃以上140℃以下で15秒間以上80分間以下で熱処理する熱処理工程と、を含む、積層圧電フィルムの製造方法。
【請求項8】
熱硬化性ハードコート層とは反対側の圧電フィルムの面に紫外線硬化性ハードコート剤を塗布する塗布工程と、
前記塗布された圧電フィルムを40℃以上100℃以下で熱処理する熱処理工程と、
前記紫外線硬化性ハードコート剤の塗布面に紫外線を照射する紫外線硬化工程と、を含む、請求項7に記載の積層圧電フィルムの製造方法。
【請求項9】
水接触角を75°以下にする方法がコロナ処理である、請求項7又は8に記載の積層圧電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層圧電フィルム、積層圧電フィルムを備えるデバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットなどの電子機器にタッチセンサが導入され、直感的な操作を可能とするヒューマン-マシンインターフェースとして利用されている。タッチセンサは指やペンでタッチされた2次元の位置を検出するために用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また最近では、入力情報を増やし、操作性を向上させる目的で押圧力を検知するタッチセンサが開発されている。押圧力を検知する方法としては、たとえば、筐体がひずんだときの静電容量の変化や感圧ゴムを用いた抵抗値の変化などで検出する方法や圧電材料の電荷の変化を検出する方法などがある。押圧力(Z座標)が検出できるタッチパネルの圧電フィルムとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体を含有する圧電体が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-324203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような圧電フィルムには、タッチパネルの背面にあるディスプレイの視認性を維持するために透明性が求められる。また、耐擦傷性を付与するためにハードコート層を圧電フィルムに積層することがあるが、圧電フィルムとハードコート層の密着性が低いとこれらが剥離する虞があるため、密着性も兼ね備えている必要がある。
【0006】
さらに、圧電フィルムを用いたセンサはフィルム表面の所定の位置に精度よく電極を形成する必要がある。電極の形成には加熱を伴うことが多く、熱収縮率が高い圧電フィルムでは加熱を伴う処理において、熱収縮による電極位置のズレや外観に不良が生じないような熱安定性も求められる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、熱安定性、密着性及び透明性に優れた積層圧電フィルム、積層圧電フィルムを備えるデバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、フッ素系樹脂を主成分として含有する圧電フィルムの少なくとも一方の面に積層された熱硬化性ハードコート層を備え、所定の熱収縮率、密着性、及びbの各々が特定の範囲を満たす積層圧電フィルムにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものに関する。
【0009】
本発明は、フッ素系樹脂を主成分として含有する圧電フィルムと、前記圧電フィルムの少なくとも一方の面に積層された熱硬化性ハードコート層と、を備え、100℃で30分間熱処理したときの熱収縮率の絶対値が縦方向(MD)及び横方向(TD)のいずれも1.0%以下であり、ASTM D3359に基づいて評価される前記圧電フィルムと前記熱硬化性ハードコート層との密着性が4B以上であり、L表色系におけるbが-0.7以上0.7以下である、積層圧電フィルムに関する。
【0010】
前記積層圧電フィルムは、前記熱硬化性ハードコート層とは反対側の前記圧電フィルムの面に紫外線硬化性ハードコート層を備えることが好ましい。
前記積層圧電フィルムの圧電定数d33が10pC/N以上であることが好ましい。
前記積層圧電フィルムの全光線透過率は90%以上であることが好ましい。
前記熱硬化性ハードコート層は(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、及びウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の硬化物を含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記積層圧電フィルムを備えるデバイスに関する。
【0012】
さらに、本発明は、縦方向(MD)及び横方向(TD)の少なくとも一方の熱収縮率の絶対値が2.0%以上である圧電フィルムの、水接触角が75°以下である少なくとも一方の面に、熱硬化性ハードコート剤を塗布する塗布工程と、前記塗布された圧電フィルムを110℃以上140℃以下で15秒間以上80分間以下で熱処理する熱処理工程と、を含む、積層圧電フィルムの製造方法に関する。
【0013】
前記製造方法は、熱硬化性ハードコート層とは反対側の圧電フィルムの面に紫外線硬化性ハードコート剤を塗布する塗布工程と、前記塗布された圧電フィルムを40℃以上100℃以下で熱処理する熱処理工程と、前記紫外線硬化性ハードコート剤の塗布面に紫外線を照射する紫外線硬化工程と、を含むことが好ましい。
前記圧電フィルムの面の水接触角を75°以下にする方法としてはコロナ処理が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱安定性、密着性及び透過性に優れた積層圧電フィルム、積層圧電フィルムを備えるデバイス、及び積層圧電フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の積層圧電フィルムの一実施形態である積層圧電フィルム1を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0017】
なお、本明細書において、「積層」とは、各層が順番に積層されていればよく、各層の間に他の層が積層されていてもよい。
【0018】
≪積層圧電フィルム≫
本発明の実施形態に係る積層圧電フィルムは、フッ素系樹脂を主成分として含有する圧電フィルムと、圧電フィルムの少なくとも一方の面に積層された熱硬化性ハードコート層とを備え、100℃で30分間熱処理したときの熱収縮率の絶対値が縦方向(MD)及び横方向(TD)のいずれも1.0%以下であり、ASTM D3359に基づいて評価される圧電フィルムと熱硬化性ハードコート層との密着性が4B以上であり、L表色系におけるbが-0.7以上0.7以下である。
【0019】
<積層圧電フィルムの特性>
積層圧電フィルムは、100℃で30分間熱処理したときの熱収縮率の絶対値が縦方向(MD)及び横方向(TD)のいずれも1.0%以下であり、ASTM D3359に基づいて評価される圧電フィルムと熱硬化性ハードコート層との密着性が4B以上であり、L表色系におけるbが-0.7以上0.7以下である。
【0020】
積層圧電フィルムの上記熱収縮率の絶対値は、優れた熱安定性を得られやすいことから、縦方向(MD)及び横方向(TD)のいずれも0.5%以下であることが好ましい。下限値は特に限定されない。
本明細書において、上記熱収縮率は後述する実施例に記載された方法で測定される値である。
【0021】
本明細書において、上記密着性は後述する実施例に記載された方法で評価される。
【0022】
積層圧電フィルムのbは、優れた透明性を得られやすいことから、好ましくは-0.5以上0.5以下、より好ましくは-0.3以上0.3以下である。
本明細書において、bはJIS Z 8722に準拠して測定される。
【0023】
積層圧電フィルムの全光線透過率は、優れた透明性を得られやすいことから、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。全光線透過率の上限は特に限定されない。
本明細書において、全光線透過率は、JIS K 7361-1に準拠して測定される。
【0024】
積層圧電フィルムのヘイズ値は、優れた透明性を得られやすいことから、2.0%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、0.8%以下が更に好ましい。ヘイズ値の下限は特に限定されない。
本明細書において、ヘイズ値はJIS K 7136に準拠して測定される。
【0025】
積層圧電フィルムの厚みは、10μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下がより好ましく、30μm以上80μm以下が更に好ましい。10μm以上であると、機械的強度が十分となりやすい。また、200μm以下であると、透明性が十分となりやすく、光学用途に使用しやすい。
【0026】
次に、図面を参照しながら積層圧電フィルムの各層について説明する。
【0027】
図1は、積層圧電フィルムの一実施形態である積層圧電フィルム1を模式的に示す断面図である。積層圧電フィルム1は、圧電フィルム11の一方の面に、熱硬化性ハードコート層21が積層されている。
【0028】
<圧電フィルム>
圧電フィルム11は、圧電性(加えられた力を電圧に変換する性質、又は加えられた電圧を力に変換する性質)を有するフィルム(薄膜)であり、フッ素系樹脂を主成分として含有する。フッ素系樹脂を主成分として含有することで、ポリ乳酸などを主成分として含有する圧電フィルムと比べて、良好な圧電性や透明性が得られる。本明細書においてフッ素系樹脂を主成分として含有するとは、圧電フィルムの質量に対し、フッ素系樹脂の構成成分の質量が50質量%以上含まれていることを意味する。
【0029】
圧電フィルム11を形成する材料は高分子化合物であり、具体的には、一般に熱ポーリング処理と呼ばれる分極処理によって分子双極子を分極させることで圧電性を発現する分極化極性高分子化合物や、キラルな高分子化合物を延伸処理することで圧電性を発現する延伸キラル高分子化合物などが挙げられる。分極化極性高分子化合物としては、フッ素系樹脂;シアン化ビニリデン系重合体;酢酸ビニル系重合体;ナイロン9、ナイロン11などの奇数ナイロン;ポリウレアなどが挙げられる。延伸キラル高分子化合物としては、ポリ乳酸などのヘリカルキラル高分子化合物;ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸;セルロース系誘導体などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。圧電フィルム11はフッ素系樹脂を主成分として含有する高分子化合物であるが、高分子化合物はフッ素系樹脂であることが好ましい。
【0030】
フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン系共重合体(例えば、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体、パーフルオロビニルエーテル/フッ化ビニリデン共重合体、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレンオキシド/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデン共重合体);テトラフルオロエチレン系重合体;クロロトリフルオロエチレン系重合体などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。なかでも、得られる圧電性の高さ、耐候性、耐熱性などの観点で、ポリフッ化ビニリデン及び/又はフッ化ビニリデン系共重合体がより好ましい。
【0031】
圧電性が高くなり検出感度が高くなるので、積層圧電フィルム11の圧電定数d33は、10pC/N以上であることが好ましく、より好ましくは12pC/N以上、さらに好ましくは15pC/N以上である。なお、本明細書において、圧電定数d33は、後述する実施例に記載された方法で測定される値である。
【0032】
圧電フィルム11の厚みは、10μm以上200μm以下が好ましく、20μm以上100μm以下がより好ましく、30μm以上80μm以下がさらに好ましい。10μm以上であると、機械的強度が十分となりやすい。また、200μm以下であると、透明性が十分となりやすく、光学用途に使用しやすい。
【0033】
<熱硬化性ハードコート層>
積層圧電フィルム1は、圧電フィルム11の一方の面に積層された熱硬化性ハードコート層21を備える。
熱硬化性ハードコート層21を設けることによって、積層圧電フィルム1に発生する傷を抑制できるとともに、積層圧電フィルム1の透明性を向上させることができる。
【0034】
熱硬化性ハードコート層は、熱硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる熱硬化性樹脂の層である。熱硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂などの有機系の熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂などの無機系の熱硬化性樹脂が挙げられる。なかでも、比較的低温で硬化しやすく、圧電フィルムとの密着性が良好となりやすいことから、有機系の熱硬化性樹脂が好ましく、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂を含むことがより好ましく、(メタ)アクリル樹脂を含むことがさらに好ましい。
【0035】
熱硬化性樹脂組成物は、塗膜の強度を高めること、屈折率を調整すること、積層圧電フィルムの透明性を高めること、などの観点で、微粒子(有機微粒子及び/又は無機微粒子)を含んでもよい。有機微粒子としては、例えば、有機珪素微粒子、架橋アクリル微粒子、及び架橋ポリスチレン微粒子などが挙げられる。無機微粒子としては、例えば、合成シリカ粒子、タルク粒子、珪藻土粒子、炭酸カルシウム粒子、長石粒子、石英粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、酸化チタン微粒子、及び酸化鉄微粒子などが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0036】
熱硬化性ハードコート層が薄すぎると、熱硬化性ハードコート層が圧電フィルムの表面の微細な凹凸形状を十分に覆うことができないため、圧電フィルムのヘイズを低減する効果が十分に得られない虞がある。一方、熱硬化性ハードコート層が厚すぎると、圧電フィルムに外部からの応力が十分に伝わらないため、積層圧電フィルムの圧電性が不十分になることがある。したがって、熱硬化性ハードコート層の厚みは、圧電フィルムのヘイズを低減する観点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。また、熱硬化性ハードコート層の厚みは、圧電フィルムの圧電特性を十分に発現できる積層圧電フィルムを得る観点から、3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましい。熱硬化性ハードコート層の厚みが上記範囲であることにより、積層圧電フィルムにおいて、用途に応じた十分な圧電性と透明性とを両立しやすい。
【0037】
<紫外線硬化性ハードコート層>
本発明の別の実施形態に係る積層圧電フィルムは、上述の積層圧電フィルムにおいて、圧電フィルムの一方の面に熱硬化性ハードコート層が積層され、さらにもう一方の面に紫外線硬化性ハードコート層が積層される。これにより圧電フィルムの両面のハードコート層によって圧電フィルムの表面の微細な凹凸形状を覆い、さらにヘイズを低減できる。また、ハードコート層が熱収縮を抑制するため、寸法安定性が高まる。
【0038】
紫外線硬化性ハードコート層は、紫外線硬化型樹脂の層である。紫外線硬化型樹脂としては、ポリエステル系、(メタ)アクリル系、ウレタン系、アミド系、シリコーン系、エポキシ系等の各種のものがあげられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。また、紫外線硬化型樹脂には、紫外線重合開始剤が配合されている。十分な透明性ならびに材料種類の豊富さ、及び原料価格の低減の観点から、(メタ)アクリル樹脂が好ましい。
【0039】
紫外線硬化性ハードコート層の厚みは、耐擦傷性または透明性の観点から、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。また、紫外線硬化性ハードコート層の厚みは圧電特性の観点から、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。紫外線硬化性ハードコート層の厚みが上記範囲であることにより、ヘイズを低減しながら、耐擦傷性が十分なものとし、さらに、高い圧電特性が奏される。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。積層圧電フィルム1には、その機能が大きく損なわれない範囲で、上述の層以外に任意の位置に任意の層を設けてもよい。
【0041】
<積層圧電フィルムの用途>
本発明に係る積層圧電フィルムは、静電容量方式、抵抗膜方式などのタッチパネルを含む圧電パネル、圧力センサ、ハプティックデバイス用アクチュエータ、圧電振動発電装置及び平面スピーカーなどのデバイスに好適に用いられる。
上記圧電パネルは、上記積層圧電フィルムの下に、液晶ディスプレイ(LCD)などの一般的な表示パネルユニットをさらに備える。
上記デバイスは、携帯電話、スマートフォン、携帯情報端末、タブレットPC、ノートパソコン、FA機器、OA機器、医療機器、カーナビゲーションシステムなどに好適に用いられる。
【0042】
≪積層圧電フィルムの製造方法≫
本発明に係る積層圧電フィルムは、縦方向(MD)及び横方向(TD)の少なくとも一方の熱収縮率の絶対値が2.0%以上である圧電フィルムの、水接触角が75°以下である少なくとも一方の面に、熱硬化性ハードコート剤を塗布する塗布工程(塗布工程A)と、前記塗布された圧電フィルムを110℃以上140℃以下で、15秒間以上80分間以下で熱処理する熱処理工程(熱処理工程A)と、を含む方法などにより製造することができる。
【0043】
上記の通り、圧電フィルムでは、耐擦傷性を向上させるためにハードコート層を積層する。また、熱収縮による外観不良が生じないよう、加熱を伴う処理の前に圧電フィルムを加熱する予備加熱処理が行われるが、これはコストアップに繋がり、材料費や加工費が高価な圧電フィルムでは特に問題となる。
このような問題に対して、本発明者は、圧電フィルムの予備加熱処理をすることなく、前記圧電フィルムにハードコート層を形成する検討を進めたところ、水接触角が75°以下である圧電フィルムの面に熱硬化性ハードコート剤を塗布し、所定の温度及び時間で熱処理することにより、予備加熱処理することなしにハードコート層形成処理を行うことができ、低コストで熱安定性、密着性及び透明性に優れた積層圧電フィルムを提供できることを見出した。
【0044】
(塗布工程A)
熱硬化性ハードコート剤を塗布する圧電フィルムの面は、水接触角が75°以下である。このような圧電フィルムの面に熱硬化性ハードコート層を形成することにより、熱硬化性ハードコート層と圧電フィルムの密着性を改善することができる。
なお、本明細書において、水接触角とは、接触角計FACE CA-V(協和界面科学株式会社製)を用い、表面に純水液滴(2.0μL)を滴下して、滴下3秒後における接触角を10回測定し、それを算術平均した値である。
【0045】
水接触角を75°以下にする手法としては、熱硬化性ハードコート剤を塗布する圧電フィルムの面に、コロナ処理やプラズマ処理、火炎処理、紫外線照射処理などの表面改質処理を行う手法などが挙げられる。中でも、良好な密着性が得られやすいことから、コロナ処理が好ましい。
【0046】
熱硬化性ハードコート剤としては、上述した熱硬化性樹脂組成物が挙げられる。
熱硬化性ハードコート剤を塗布する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。塗布方法としては、例えば、エクストルージョンノズル法、ブレード法、ナイフ法、バーコート法、キスコート法、キスリバース法、グラビアロール法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、カーテン法、及びスクイズ法などが挙げられる。
【0047】
(熱処理工程A)
塗布工程Aの後に、塗布された圧電フィルムを110℃以上140℃以下で15秒間以上80分間以下で熱処理する熱処理工程Aが行われる。これにより、圧電フィルムの予備加熱処理を行うことなしに熱硬化性ハードコート層の形成処理を行うことができる。
【0048】
塗布された圧電フィルムの熱処理温度は、110℃以上140℃以下が好ましく、120℃以上130℃以下がより好ましい。また、熱処理時間は、15秒間以上80分間以下が好ましく、1分間以上40分間以下がより好ましい。熱処理温度や熱処理時間が下限超であると、良好な熱安定性を得られやすい。また、熱処理時間や熱処理時間が上限以下であると、圧電フィルムの劣化が起こりにくい。そのため、ヘイズ値、全光線透過率、bなどの光学特性や、圧電性が悪化しにくい。
【0049】
(紫外線硬化性ハードコート層形成工程)
熱処理工程Aの後に、任意で紫外線硬化性ハードコート層を形成するための工程を実施することができる。紫外線硬化性ハードコート層形成工程では、片面に熱硬化性ハードコート層が形成された圧電フィルムの、熱硬化性ハードコート層が形成されていない面に紫外線硬化性ハードコート剤を塗布する(塗布工程B)。塗布された圧電フィルムを熱処理し(熱処理工程B)、その後紫外線を照射する(紫外線硬化工程)。
【0050】
塗布工程Bにおいて、紫外線硬化性ハードコート剤を塗布する圧電フィルムの面は、熱硬化性ハードコート剤塗布面と同様の処理が施されてもよい。紫外線硬化性ハードコート剤としては、上述したアクリル樹脂が挙げられる。また、塗布方法は熱硬化性ハードコート剤について述べたものと同様の方法を用いることができ、熱硬化性ハードコート剤を塗布する方法と同じ方法でもよいし、異なる方法でもよい。
【0051】
次いで、熱処理工程Bにおいて、紫外線硬化性ハードコート剤が塗布された圧電フィルムを熱処理する。このときの温度は、圧電フィルムの劣化が起こりにくいという観点で、上述の熱処理工程Aの温度よりも低いことが好ましい。具体的には、40℃以上100℃以下が好ましい。また、熱処理の時間は、1分間以上60分間以下が好ましい。
【0052】
その後、紫外線硬化工程において、塗布面に紫外線を照射し、紫外線硬化性ハードコート層を形成する。紫外線の照射量は紫外線硬化性ハードコート剤の塗布厚みにもよるが、たとえば積算光量で100mJ/cm以上800mJ/cm以下が好ましい。紫外線の強度はとくに限定されないが、ハードコート層の耐擦傷性の観点から、200mW/cm以上500mW/cm以下が好ましい。
【実施例
【0053】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をさらに説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
本発明の積層圧電フィルムにおける特性は、以下の方法により測定し、結果を表1に示した。
【0054】
(熱硬化性ハードコート層の厚み)
実施例及び比較例の積層圧電フィルムのそれぞれをエポキシ樹脂に包埋し、積層圧電フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断した。露出した積層圧電フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(「SU3800」、株式会社日立ハイテク製)を用いて加速電圧3.0kV、倍率50,000倍の条件で観察し、積層圧電フィルム中の熱硬化性ハードコート層の厚みを測定した。
なお、2ヶ所の厚みを測定し、その算術平均値を各熱硬化性ハードコート層の厚みとした。また、上記の観察条件において各熱硬化性ハードコート層の界面はほぼ滑らかな線として観察され、厚みの測定では当該線間の距離を測定した。
【0055】
(熱収縮率)
JIS K 7133に準じた試験法にて、積層圧電フィルムを120mm×120mmの寸法に切り出し、切り出した試験片に縦方向及び横方向に印した二つの標線の試験前の標線間距離(L0及びT0)を測定した。なお、ハードコート剤塗工時のフィルムの流れ方向を縦方向とし、その直角方向を横方向とした。
次いで、所定の温度(100℃)に加熱した熱風乾燥炉で規定の時間(30分間)加熱後、少なくとも30分間、常温下で状態調節し、縦方向及び横方向の標線間距離(L及びT)を再度測定し、下記式(1)及び(2)にて、上記試験片について縦方向及び横方向の標線間距離の変化(ΔL及びΔT)を算出した。
ΔL=[(L-L0)/L0]×100(%) (1)
ΔT=[(T-T0)/T0]×100(%) (2)
そして、上記縦方向の標線間距離の変化(ΔL)を、フィルムの縦方向の熱収縮率とし、上記横方向の標線間距離の変化(ΔT)を、フィルムの横方向の熱収縮率とした。表中の「MD」は縦方向の熱収縮率を、「TD」は横方向の熱収縮率をそれぞれ表す。
【0056】
(密着性)
各積層圧電フィルムの密着性についてクロスカット法を用いて評価した。各積層圧電フィルムの熱硬化性ハードコート層において、1mm間隔のラインを縦横11本ずつカッターで引き、100個の碁盤目を作製した後、テープ(ニチバン株式会社製のセロテープ(登録商標)、粘着力4.01N/10mm)を貼って剥離することにより、積層圧電フィルムから剥離した熱硬化性ハードコート層の割合をASTM D3359に基づき、以下の評価基準で評価した。
0B:65%以上の剥離
1B:35%以上、65%未満の剥離
2B:15%以上、35%未満の剥離
3B:5%以上、15%未満の剥離
4B:5%未満の剥離
5B:剥離無し
【0057】
(ヘイズ値)
実施例及び比較例の積層圧電フィルムのそれぞれのヘイズ値を、ヘイズメータ(「NDH7000SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 7136に記載の方法に基づいて測定した。
【0058】
(全光線透過率)
実施例及び比較例の積層圧電フィルムのそれぞれの全光線透過率を、ヘイズメータ(「NDH7000SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 7361-1に記載の方法に基づいて測定した。
【0059】
(b値)
実施例及び比較例の積層圧電フィルムのそれぞれのL表色系におけるb値を、分光色彩計(「SD7000」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K 8722に準拠する方法により測定した。
【0060】
(圧電定数d33値)
実施例及び比較例における積層圧電フィルムのそれぞれの圧電定数d33を、圧電定数測定装置(「ピエゾメーターシステムPM300」、PIEZOTEST社製)を用いて、0.2Nでサンプルをクリップし、0.15N、110Hzの力を加えた際の発生電荷を読み取った。圧電定数d33の実測値は、測定されるフィルムの表裏によって、プラスの値、またはマイナスの値となるが、本明細書中においては絶対値を記載した。
【0061】
〔実施例1〕
インヘレント粘度が1.1dl/gであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)から成形された樹脂フィルム(厚さ120μm)を延伸倍率が4.2倍になるように一軸延伸した。延伸後、フィルムをグランド電極と針状電極の間に直流電圧を0kVから12.0kVへと増加させながら印加することで分極処理を行い、圧電フィルムを得た。この圧電フィルムを100℃で30分間熱処理したときの熱収縮率は、縦方向(MD)が-5.3%、横方向(TD)が1.5%であった。また、圧電フィルムの圧電定数d33は16.0pC/Nであり、表面の水接触角は80°であった。
水接触角が70°になるまで圧電フィルムの一方の面にコロナ処理を実施した。
コロナ処理を実施した圧電フィルムの面に、アクリレートDA105(荒川化学工業(株)製)10質量部と硬化剤としてイソシアネートCL102H(荒川化学工業(株)製)4質量部を配合し、メチルエチルケトン(MEK)で希釈した熱硬化性ハードコート剤を塗布し、TD方向のフィルム端部を固定したまま130℃で40秒間熱処理することで、表1に記載の熱硬化性ハードコート層の厚みを有する積層圧電フィルムを得た。
【0062】
〔実施例2、3及び4〕
熱処理時間を表1に記載の時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層圧電フィルムを得た。
【0063】
〔実施例5〕
実施例1で得られた積層圧電フィルムの熱硬化性ハードコート層とは反対側の圧電フィルムの面に、紫外線硬化性ハードコート剤BS CH271(荒川化学工業(株)製)を塗布し、80℃で2分間熱処理し、400mJ/cmの積算光量で紫外線を照射することにより厚みが1.0μmの紫外線硬化性ハードコート層を有する積層圧電フィルムを得た。
【0064】
〔実施例6〕
熱処理温度を表1に記載の温度に変更したこと以外は、実施例5と同様にして積層圧電フィルムを得た。
【0065】
〔実施例7〕
熱処理温度及び時間を表1に記載の温度及び時間に変更したこと以外は、実施例5と同様にして積層圧電フィルムを得た。
【0066】
〔比較例1及び2〕
熱処理時間を表1に記載の時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層圧電フィルムを得た。なお、比較例2の積層圧電フィルムはシワなどのフィルムの外観不良により、熱収縮率および圧電定数d33の評価ができなかった。
【0067】
〔比較例3及び4〕
熱処理温度及び時間を表1に記載の温度及び時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして積層圧電フィルムを得た。なお、比較例3の積層圧電フィルムはシワなどのフィルムの外観不良により、熱収縮率および圧電定数d33の評価ができなかった。
【0068】
〔比較例5〕
圧電フィルムにコロナ処理を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして積層圧電フィルムを得た。
【0069】
〔比較例6〕
アクリル系の熱硬化性ハードコート剤を非晶質シリカ含有紫外線硬化性樹脂組成物に変更し、熱処理後にUV照射装置CSOT-40(株式会社GSユアサ製)を用い、400mJ/cmの積算光量でUVを照射したこと以外は、実施例2と同様にして積層圧電フィルムを得た。得られた積層圧電フィルムのハードコート層が未硬化であったため、熱収縮率及び光学特性(ヘイズ値、全光線透過率、b値)は測定しなかった。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示される通り、実施例において、熱収縮率が低く、密着性が良好で、明度が高かった。よって、本発明により、熱安定性、密着性及び透明性に優れた積層圧電フィルムを得られることが確認された。
【符号の説明】
【0072】
1:積層圧電フィルム、11:圧電フィルム、21:熱硬化性ハードコート層
図1