IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図1A
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図1B
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図2A
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図2B
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図3
  • 特許-フッ素樹脂被覆部材 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-11
(45)【発行日】2025-09-22
(54)【発明の名称】フッ素樹脂被覆部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20250912BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20250912BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250912BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20250912BHJP
【FI】
B32B27/30 D
B05D3/02
B05D7/24
C08L27/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021562562
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2020043213
(87)【国際公開番号】W WO2021111890
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019221571
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005050
【氏名又は名称】ダイキンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】松井 良平
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 弘子
(72)【発明者】
【氏名】堀園 拓磨
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-217993(JP,A)
【文献】特開2000-290595(JP,A)
【文献】国際公開第2003/006565(WO,A1)
【文献】特開平07-228821(JP,A)
【文献】特表2018-504506(JP,A)
【文献】国際公開第2011/129407(WO,A1)
【文献】特開2013-166859(JP,A)
【文献】特開2012-086401(JP,A)
【文献】特開2012-086400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
C08L 27/12
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、
前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成され、
前記第一のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、
前記第二のフッ素樹脂は、ポリクロロトリフルオロエチレンであり、
前記被覆層表面の水滴の接触角が135°以上であり、
前記被覆層の表面は、海島構造を有しており、
前記海島構造の島相は、前記第一のフッ素樹脂を主成分として構成されている、
フッ素樹脂被覆部材。
【請求項2】
前記フッ素樹脂混合物における前記第一のフッ素樹脂と前記第二のフッ素樹脂の混合比は、1:9~9:1である、請求項1に記載のフッ素樹脂被覆部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフッ素樹脂被覆部材を含む、半導体製造装置、液晶製造装置、太陽電池製造装置、医薬品製造装置又は化学薬品製造装置。
【請求項4】
少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を混合してフッ素樹脂混合物を得る混合工程と、
基材の少なくとも一部に、前記フッ素樹脂混合物を塗布してフッ素樹脂塗布部材を得る塗布工程と、
前記フッ素樹脂塗布部材を焼成して、フッ素樹脂被覆部材を得る焼成工程と、を備え、
前記焼成工程では、前記第一のフッ素樹脂の融点と前記第二のフッ素樹脂の融点との間の温度で焼成し、
前記第一のフッ素樹脂は、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体であり、
前記第二のフッ素樹脂は、ポリクロロトリフルオロエチレンである、
請求項1に記載のフッ素樹脂被覆部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂被覆部材に関し、さらに詳しくは、撥水機能を示すフッ素樹脂による被覆層を有する部材に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂の表面が撥水機能を有することは公知である。
例えば、特許文献1は、フッ素ガスで処理したポリテトラフルオロエチレン製水系洗浄用治具を開示する。ポリテトラフルオロエチレン製水系洗浄用治具は、その表面がフッ素ガス処理される結果、表面エネルギーが小さくなり優れた水切り作用を奏することを開示する(特許文献1[要約]、[0013]等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-142433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、未処理のポリテトラフルオロエチレン製の治具に比して、フッ素ガス処理により治具の水切れ性が向上したことを開示するので、フッ素ガス処理によって治具の撥水機能がある程度向上したと認められるが、比較的取扱いが難しいフッ素ガスで成型品を別途処理する必要があり、製造工程が煩雑になる恐れがある。
一方、近年更に撥水機能が高まった表面が求められている。
通常、撥水機能の強さは、フッ素樹脂の表面と水との接触角の大きさで評価される。接触角が大きいほど疎水性が大きいので、水と大きな接触角を示す表面は、撥水機能がより高いことを示す。フッ素樹脂の表面の水との接触角は、一般的に80~115°であるから、更に、その接触角を高めることが必要となる。
【0005】
本発明は、格別な撥水機能向上処理工程の必要なしに簡便に製造できる優れた撥水機能を有するフッ素樹脂被覆部材を提供することを目的とする。そのフッ素樹脂被覆部材は、優れた撥水機能を有するので、例えば、腐食性の薬液と接触する場合、耐腐食性がより向上し得、高温の薬液と接触する場合、断熱性がより向上し得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、融点の異なる2種類のフッ素樹脂の混合物で被覆した部材を、2種類のフッ素樹脂の融点の間の温度で焼成することで、水との接触角が更に大きなフッ素樹脂被覆部材を得ることができ、その部材が撥水機能に優れることを見出して、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本明細書は、以下の実施形態を含む。
1.基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成され、前記第一のフッ素樹脂の融点は、前記第二のフッ素樹脂の融点に比して高く、前記被覆層の表面は、海島構造を有しており、前記海島構造の島相は、前記第一のフッ素樹脂を主成分として構成されている、フッ素樹脂被覆部材。
2.基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成され、前記被覆層表面の水滴の接触角が120°以上である、フッ素樹脂被覆部材。
3.少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を混合してフッ素樹脂混合物を得る混合工程と、基材の少なくとも一部に、前記フッ素樹脂混合物を塗布してフッ素樹脂塗布部材を得る塗布工程と、前記フッ素樹脂塗布部材を焼成して、フッ素樹脂被覆部材を得る焼成工程と、を備え、前記焼成工程では、前記第一のフッ素樹脂の融点と前記第二のフッ素樹脂の融点との間の温度で焼成する、フッ素樹脂被覆部材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、フッ素樹脂被覆工程を経るだけで優れた撥水機能を有する。そのフッ素樹脂被覆部材は、優れた撥水機能を有するので、例えば、腐食性の薬液と接触する場合、耐腐食性がより向上し得、高温の薬液と接触する場合、断熱性がより向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A図1Aは、実施例4の被覆層のSEM画像(表面形状)を示す。
図1B図1Bは、実施例4の被覆層のSEM画像(塩素の元素マッピング)を示す。
図2A図2Aは、実施例6の被覆層のSEM画像(表面形状)を示す。
図2B図2Bは、実施例6の被覆層のSEM画像(塩素の元素マッピング)を示す。
図3図3は、実施例11のフッ素樹脂被覆部材、比較例4のフッ素樹脂被覆部材及び比較例5の部材(基材(A2)そのもの)に、熱水(80℃)及び水(20℃)の熱履歴(ヒートサイクル)を与えたときの温度変化を示す。
図4図4は、熱水(80℃)に浸漬した実施例11のフッ素樹脂被覆部材の写真を示す。被覆層の表面に空気層が形成されている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂(以下、「第一フッ素樹脂」という)と第二のフッ素樹脂(以下、「第二フッ素樹脂」という)を含むフッ素樹脂混合物で形成されている。
【0011】
本発明の実施形態において、「基材」とは、被覆層を支持することができ、耐熱性及び耐薬品性に優れることが好ましく、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材を得られることができる基材であれば、特に制限されることはない。
そのような基材として、例えば、アルミ、ステンレス、鉄その他の金属又はそれら金属の数種からなる合金等の金属、石英ガラス、セラミック等の無機化合物、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等のプラスチック等を例示することができ、金属及び無機化合物が好ましい。金属又は無機化合物を用いれば、耐熱性及び耐久性が高く、また清潔性(クリーン性)を確保しやすいことから、半導体製造装置等の精密機器製造装置の部材として好適に用いることができる。基材の形状、大きさ等は、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材を得られることができれば、特に制限されることはなく、例えば、板状、棒状、円柱状、円錐状、櫛刃状等の形状を例示でき、フッ素樹脂被覆部材の用途に応じて、適宜その形状および大きさを選択することができる。
【0012】
本発明の実施形態において、被覆層は、その基材の少なくとも一部を被覆する。その被覆層は、少なくとも第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成されている。
【0013】
本発明の実施形態において、「第一フッ素樹脂」及び「第二フッ素樹脂」とは、通常フッ素樹脂と理解される樹脂であって、「第一フッ素樹脂」の融点は、「第二フッ素樹脂」の融点より高く、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材を得られる限り、特に制限されることはない。なお、「第一」と「第二」は説明上の便宜のために付しているものであって、これらの表現に限定されず、いずれかのフッ素樹脂が他のフッ素樹脂に比して融点が高いこと(2種類のフッ素樹脂の融点が相違すること、第一フッ素樹脂の融点と第二フッ素樹脂の融点が相違すること)を意味する。
【0014】
第一フッ素樹脂及び第二フッ素樹脂を構成するフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(融点:約327℃)、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)(融点:約327℃)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)(融点:約310℃)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)(融点:約260~275℃)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)(融点:約270℃)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)(融点:約245℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)(融点:約210~220℃)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(融点:約156~178℃)およびポリフッ化ビニル(PVF)(融点:約203℃)等を例示することができる。
【0015】
本発明の実施形態において、フッ素樹脂は、粒子形態を有し、500μm以下の平均粒子径を有することが好ましく、1~250μmの平均粒子径を有することがより好ましく、3~50μmの平均粒子径を有することが更により好ましく、5~25μmの平均粒子径を有することが特に好ましい。
【0016】
本明細書において、粒子の平均粒子径とは、レーザー回折散乱式粒度分布装置(日機装製「MT3300II」)を用いて、粒度分布を測定して得られる、平均粒子径D50を(レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径)いう。
【0017】
フッ素樹脂は、フッ素樹脂被覆塗料として使用可能な通常の市販品を使用することができる。
【0018】
第一フッ素樹脂の融点と前記第二フッ素樹脂の融点の差が10℃以上であることが好ましく、12~150℃であることがより好ましく、15~120℃であることが更に好ましい。
第一フッ素樹脂の融点と前記第二フッ素樹脂の融点の差が10℃以上である場合、焼成工程の温度管理が容易となり、生産性が向上できるという有利な効果がある。
【0019】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の被覆層は、第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂が混合されていればよく、その混合比は特に限定されないが、1:9~9:1(第一フッ素樹脂:第二フッ素樹脂)の質量比で含むことが好ましく、2:8~9:1の質量比で含むことがより好ましい。
フッ素樹脂被覆部材の被覆層は、第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂が混合されていれば、その撥水機能がそれぞれ単体の撥水機能(接触角の大きさ)に比して向上するという有利な効果を奏する。
【0020】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の被覆層の表面は、相分離構造を有することが好ましい。
本開示において、相分離構造とは、前記第一フッ素樹脂を主成分とする第一相と、前記第二フッ素樹脂を主成分とする第二相が、溶けて完全に混ざり合うことなく、両方の相が混在する構造をいう。第一相と第二相のいずれかが融解して滑らかな相を形成していてよいが、少なくとも片方が、樹脂の粒状の形状を有することが好ましい。第一相は、上述の第一フッ素樹脂を、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましく、80質量%以上含むことが更により好ましい。第二相は、上述の第二フッ素樹脂を、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましく、80質量%以上含むことが更により好ましい。
【0021】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の被覆層の表面は、海島構造を有することが好ましい。
本開示において海島構造とは、なめらかでおよそ平坦な部分(「海」という)と、明確に凹凸を示す起伏のある部分(「島」という)の2種類の部分でできている構造をいう。島部分の凹凸を示す起伏は、粒子の重なりであってよい。海部分と島部分の存在比は、必ずしも海部分の方が多くなくてもよく、島部分が必ずしも海部分に囲まれていなくてもよく、島部分が海部分を囲んでいてもよい。なめらかで平坦な海部分は、例えば、溶けて島部分を基材に接着することができてよく、被覆層を基材に固定してよい。
【0022】
海島構造の島相(島部分)は、前記第一フッ素樹脂を主成分として構成されていることが好ましい。
島相は、上述の第一フッ素樹脂を、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましく、80質量%以上含むことが更により好ましい。
【0023】
海島構造の海相(海部分)は、前記第二のフッ素樹脂を主成分として構成されていることが好ましい。
海相は、上述の第二フッ素樹脂を、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことが更に好ましく、80質量%以上含むことが更により好ましい。
【0024】
第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂との組み合わせは、上述のフッ素樹脂において融点差のあるものの組み合わせであれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とテトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)との組み合わせ、PTFEとポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)との組み合わせ、PTFEとテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、PTFEとエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)との組み合わせ、変性ポリテトラフルオロエチレン(変性PTFE)とPFAとの組み合わせ、変性PTFEとPCTFEとの組み合わせ、変性PTFEとFEPとの組み合わせ、変性PTFEとETFEとの組み合わせ、PFAとPCTFEとの組み合わせ、PFAとFEPとの組み合わせ、PFAとETFEとの組み合わせ、を例示することができる。
第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂との組み合わせは、PTFEとPFAとの組み合わせ、PTFEとPTCFEとの組み合わせ、変性PTFEとPFAとの組み合わせ、変性PTFEとPTCFEとの組み合わせ、PFAとPCTFEとの組み合わせであることが好ましい。
【0025】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の被覆層表面での水滴の接触角は、120°以上であることが好ましく、120°~170°であることがより好ましく、135°~ 170°であることが更に好ましく、150°~170°であることが更により好ましい。
被覆層表面での水滴の接触角が、120°以上である場合、その撥水機能の向上により被覆表面と接触する液体の接触状態の持続を低減できるという有利な効果を奏する。
【0026】
従って、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、被覆層の表面が溶媒(例えば、水系溶媒)と接触する用途において、断熱性及び耐溶剤性に優れる。これは、被覆層の水等の溶媒(又は媒体)に対する濡れ性が低いから、溶媒との接触が抑えられ、その結果、断熱性及び耐溶剤性に優れると考えられる。
【0027】
本発明の実施形態において、
少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を混合してフッ素樹脂混合物(又はディスパージョン、分散物)を得る混合工程と、
基材の少なくとも一部に、前記フッ素樹脂混合物を塗布してフッ素樹脂塗布部材を得る塗布工程と、
前記フッ素樹脂塗布部材を焼成して、フッ素樹脂被覆部材を得る焼成工程と、を備え、
前記焼成工程では、前記第一のフッ素樹脂の融点と前記第二のフッ素樹脂の融点との間の温度で焼成する、フッ素樹脂被覆部材の製造方法を提供する。
【0028】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の製造方法は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を混合してフッ素樹脂混合物(又はディスパージョン、分散物)を得る混合工程を含む。
第一フッ素樹脂及び第二フッ素樹脂は、上述の第一フッ素樹脂及び第二フッ素樹脂の記載を参照することができる。
混合工程において、混合方法及び混合条件(混合温度、混合速度、分散溶媒、混合濃度)等は、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材を製造できる限り、適宜選択することができる。
【0029】
フッ素樹脂混合物は、第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂が混合されていればよく、その混合比は特に限定されないが、1:9~9:1(第一フッ素樹脂:第二フッ素樹脂)の質量比で含むことが好ましく、2:8~9:1の質量比で含むことがより好ましい。
フッ素樹脂被覆部材の被覆層は、第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂が混合されていれば、その撥水機能がそれぞれ単体の撥水機能(接触角の大きさ)に比して向上するという有利な効果を奏する。
【0030】
フッ素樹脂混合物における第一フッ素樹脂と第二フッ素樹脂の融点の差は、10℃以上であることが好ましく、12~150℃であることがより好ましく、15~120℃であることが更に好ましい。
第一フッ素樹脂の融点と前記第二フッ素樹脂の融点の差が10℃以上である場合、焼成工程の温度管理が容易となり、生産性が向上できるという有利な効果がある。
【0031】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材の製造方法は、基材の少なくとも一部に、前記フッ素樹脂混合物を塗布してフッ素樹脂塗布部材を得る塗布工程を含む。
基材について、上述の基材に関する記載を参照することができる。
塗布工程において、塗布方法及び塗布条件は、粉体塗装、スプレー塗装等における通常公知の条件を適宜選択することができる。
【0032】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、前記フッ素樹脂塗布部材を焼成して、フッ素樹脂被覆部材を得る焼成工程を含み、前記焼成工程では、前記第一のフッ素樹脂の融点と前記第二のフッ素樹脂の融点との間の温度で焼成することを含む。
焼成工程において、焼成方法及び焼成条件は、通常公知の条件を適宜選択することができる。
【0033】
焼成温度は、前記第一のフッ素樹脂の融点と前記第二のフッ素樹脂の融点との間の温度である。推測ではあるが、この温度範囲で焼成すれば、第二フッ素樹脂は溶融するが、第一フッ素樹脂は溶融しないことにより、被覆層が形成されるにもかかわらず、被覆層の表面に凹凸が好ましく形成され得るものと考えられる。
適度な凹凸が被覆層の表面に形成されるので、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、格別な撥水機能向上処理工程の必要なしに簡便に製造できるにもかかわらず、優れた撥水機能を発現し、且つ優れた断熱性、耐溶剤性等を示すことができる。尚、本発明の実施形態の部材は、上述のような理由によって優れた効果を奏すると考えられるが、このような理由によって、本発明は、制限されることはない。
【0034】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、従来からフッ素樹脂被覆部材が使用されていた用途に好適に用いることができる。更に、本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、耐熱性及び耐溶剤性が必要な用途に適宜使用することができる。
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、例えば、半導体製造装置、液晶製造装置、太陽電池製造装置、医薬品製造装置及び化学薬品製造装置等に好適に用いることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的かつ詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の一態様にすぎず、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0036】
本実施例で使用した成分を以下に示す。
(A)基材
(A1)厚さ2mmのアルミ板(100mm×50mm)(「(A1)アルミ基材」ともいう)
(A2)軸方向一方側の端部の中心に設けられた穴(Φ2mm×50mm)を備える円柱状のSUS304(Φ10mm×100mm)(「(A2)SUS基材」ともいう)
【0037】
(B)フッ素樹脂
(B1)テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(ダイキン工業株式会社製のネオフロン(登録商標)PFA ACX-34(商品名))、融点310℃、粒子径D50 25μm(「(B1)PFA」ともいう)
(B2)ポリクロロトリフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製のネオフロン(登録商標)PCTFE M-300H(商品名))、融点220℃、粒子径D50 9μm(「(B2)PCTFE」ともいう)
(B3)ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製のポリフロン(登録商標)PTFE ルブロン(登録商標)L-5(商品名))、融点327℃、粒子径D50 6μm(「(B3)PTFE」ともいう)
【0038】
粒子の平均粒子径(D50)の測定
フッ素樹脂の平均粒子径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布装置(日機装製「MT3300II」)を用いて、粒子の粒度分布を測定して、粒子の平均粒子径(D50)(レーザー回折散乱法によって求められる粒度分布における積算値50%での粒子径を意味するメジアン径)を得た。各粒子の平均粒子径(D50)は、上述の通りであった。
【0039】
実施例1のフッ素樹脂被覆部材の製造
(B1)PFAと(B2)PCTFEを、B1/B2=90/10(質量比)の割合で、エチレングリコールモノブチルエーテルに加えて混合して、ディスパージョンを作製した。そのディスパージョンを、(A1)アルミ基材にスプレー塗装して、(A1)アルミ基材上にフッ素樹脂粉末の被覆層を得た。この被覆層を280℃のオーブン中で60分間焼成して、実施例1のフッ素樹脂被覆部材を得た。被覆層は海島構造を呈しているため、その厚さは均一ではないが、凡そ25~50μmの範囲であった。
【0040】
実施例2~9のフッ素樹脂被覆部材の製造
表1に記載のフッ素樹脂を表1に記載の質量比で用いたこと以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、実施例2~9のフッ素樹脂被覆部材を得た。
【0041】
実施例10のフッ素樹脂被覆部材の製造
(B1)PFAに代えて(B3)PTFEを用い、焼成温度を280℃から320℃に変えたこと以外は、実施例5に記載の方法と同様の方法を用いて、実施例10のフッ素樹脂被覆部材を製造した。
【0042】
比較例1のフッ素樹脂被覆部材の製造
(B2)PCTFEを用いずに、焼成温度280℃から320℃に変えた以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、比較例1のフッ素樹脂被覆部材を製造した。
【0043】
比較例2のフッ素樹脂被覆部材の製造
(B1)PFAを用いなかった以外は、実施例1に記載の方法と同様の方法を用いて、比較例2のフッ素樹脂被覆部材を製造した。
【0044】
比較例3のフッ素樹脂被覆部材の製造
焼成温度を280℃から320℃に変えた以外は、実施例5に記載の方法と同様の方法を用いて、比較例3のフッ素樹脂被覆部材を製造した。
【0045】
接触角の測定方法
協和界面科学株式会社製接触角計「FACE CA-DT」(商品名)を用い、JIS R 3257に準じて測定を行った。具体的には、ディスペンサーで一定量の液滴(純水)を水平に置かれた試料表面上に滴下し、水滴が接する試料表面のいずれかの端点と水滴の頂点を結ぶ直線と試料表面との間の角度を求めた。これを2倍して、接触角θを算出した(θ/2法)。
【0046】
被覆層の表面形状観察及び元素分析
上述の実施例4及び6のフッ素樹脂被覆部材について、株式会社日立ハイテクノロジーズ製エネルギー分散型X線(EDX)分析装置付き走査電子顕微鏡(SEM)「FrexSEM 1000」(商品名)を用いて、被覆層の表面形状観察及び元素分析を行った。
加速電圧15.0kV、500倍で表面形状観察を行った後、塩素の元素マッピングを行った。実施例4の被覆層の表面形状の画像を図1Aに示し、塩素の元素マッピングの画像を図1Bに示す。実施例6の被覆層の表面形状の画像を図2Aに示し、塩素の元素マッピングの画像を図2Bに示す。
【0047】
断熱性
基材として(A2)SUS基材を使用した。
基材の表面全体に、実施例5の被覆層(膜厚150μm)を施して、実施例11のフッ素樹脂被覆部材を得た。
基材の表面全体に、比較例2の被覆層(膜厚150μm)を施して、比較例4のフッ素樹脂被覆部材を得た。
基材そのものを、比較例5の部材とした。
【0048】
各々の部材の(A2)SUS基材の軸方向一方側の端部に設けられた穴に熱電対を挿入し、熱水(80℃)に、15秒間、軸方向他方側の端部を80mm浸漬した。その後、冷水(20℃)に、15秒間、軸方向他方側の端部を80mm浸漬した。このヒートサイクルを5回繰り返した。
結果を図3に示した。実施例11のフッ素樹脂被覆部材は、昇温速度及び降温速度の両方とも、小さいので、断熱効果が高いことがわかる。更に、部材の温度変化が小さいので、フッ素樹脂被覆部材の熱によるストレスがより小さいことがわかる。
尚、熱水(80℃)に浸漬した実施例11のフッ素樹脂被覆部材の写真を図4に示す。被覆層の表面に空気層が形成させることが認められた。この空気層の形成も断熱効果に寄与することが期待される。
【0049】
【表1】


【0050】
【表2】


【0051】
実施例1~11のフッ素樹脂被覆部材は、(i)基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成され、前記第一のフッ素樹脂の融点は、前記第二のフッ素樹脂の融点に比して高く、前記被覆層の表面は、海島構造を有しており、前記海島構造の島相は、前記第一のフッ素樹脂を主成分として構成されている;又は(ii)基材と、前記基材の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、前記被覆層は、少なくとも第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂を含むフッ素樹脂混合物で形成され、前記被覆層表面の水滴の接触角が120°以上である。従って、実施例1~11のフッ素樹脂被覆部材は、撥水性に優れ、更に断熱性にも優れる。
【0052】
これに対し、比較例1~4のフッ素樹脂被覆部材は、上述の(i)又は(ii)を満たさないので、撥水性又は断熱性が必ずしも十分ではない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の実施形態のフッ素樹脂被覆部材は、フッ素樹脂被覆工程を経るだけで優れた撥水機能を有する。そのフッ素樹脂被覆部材は、優れた撥水機能を有するので、例えば、腐食性の薬液と接触する場合、耐腐食性がより向上し得、高温の薬液と接触する場合、断熱性がより向上し得る。
【0054】
関連出願
本出願は、2019年12月6日に日本国でされた出願番号2019-221571を基礎出願とするパリ条約第4条に基づく優先権を主張する。この基礎出願の内容は、参照することによって、本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4