(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-12
(45)【発行日】2025-09-24
(54)【発明の名称】PSMAおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子の4-1BB共刺激と組み合わせての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20250916BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250916BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250916BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20250916BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250916BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20250916BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20250916BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20250916BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20250916BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250916BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20250916BHJP
C07K 16/30 20060101ALN20250916BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P13/08
A61K45/00
A61K47/68
A61K51/10 200
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/30
(21)【出願番号】P 2021571689
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 US2020038786
(87)【国際公開番号】W WO2020257681
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-06-12
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】カーシュナー, ジェシカ アール.
(72)【発明者】
【氏名】クロフォード, アリソン
(72)【発明者】
【氏名】チウ, ダニカ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/114754(WO,A1)
【文献】特表2018-524396(JP,A)
【文献】国際公開第2018/114748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSMA陽性癌の治療、またはPSMA陽性腫瘍の増殖の阻害を必要とする対象において、PSMA陽性癌を治療するための、またはPSMA陽性腫瘍の増殖を阻害するための組み合わせ物であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)4-1BBアゴニストを含み、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2の重鎖可変領域(HCVR-1)アミノ酸配列内の3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1)アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1の重鎖可変領域(HCVR-2)アミノ酸配列内の3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2)アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内の3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2およびLCDR3)アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組み合わせ物。
【請求項2】
前記癌が、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、および胃癌からなる群から選択される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項3】
前記癌が前立腺癌である、請求項2に記載の組み合わせ物。
【請求項4】
前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である、請求項3に記載の組み合わせ物。
【請求項5】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子および前記4-1BBアゴニストが、別々に投与される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項6】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子および前記4-1BBアゴニストが、同時投与される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項7】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、前記4-1BBアゴニストの前、同時、または後に投与される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項8】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、前記4-1BBアゴニストの前に投与される、請求項7に記載の組み合わせ物。
【請求項9】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、前記4-1BBアゴニストと同日に投与される、請求項7に記載の組み合わせ物。
【請求項10】
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、前記4-1BBアゴニストと組み合わせて投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項11】
前記4-1BBアゴニストが、ウレルマブおよびウトミルマブからなる群から選択される、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項12】
前記第一の抗原結合ドメインが、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項13】
前記第二の抗原結合ドメインが、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項14】
前記第一の抗原結合ドメインが、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含み、かつ、前記第二の抗原結合ドメインが、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む、請求項12または13のいずれかに記載の組み合わせ物。
【請求項15】
前記二重特異性抗原結合分子が、配列番号3のLCVRを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組み合わせ物。
【請求項16】
前記腫瘍の体積が、4-1BBアゴニストの非存在下での治療と比較して減少する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項17】
無腫瘍生存が、4-1BBアゴニストの非存在下での治療と比較して増大する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項18】
対象の前記腫瘍におけるTRAF1発現が、4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の前記腫瘍におけるTRAF1発現と比較して、少なくとも約4倍増加する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項19】
対象の前記腫瘍におけるBcl2発現が、4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の前記腫瘍におけるBcl2発現と比較して、少なくとも約2倍増加する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項20】
対象の前記腫瘍におけるBFL-1発現が、4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の前記腫瘍におけるBFL-1発現と比較して、少なくとも約3倍増加する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項21】
4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の前記腫瘍におけるCD8+T細胞と比較して、対象の前記腫瘍におけるCD8+T細胞の増殖が増加する、および/またはCD8+T細胞の生存が増大する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項22】
PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖の増加を必要とする対象において、PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖を増加させるための組み合わせ物であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)4-1BBアゴニストを含み、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組み合わせ物。
【請求項23】
抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子+4-1BBアゴニストで治療された対象の前記腫瘍組織におけるCD8+T細胞対Treg比が、4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子で治療された対象の前記腫瘍組織におけるCD8+T細胞対Treg比と比較して増加する、請求項22に記載の組み合わせ物。
【請求項24】
腫瘍細胞へのその後の曝露は、4-1BBアゴニストの存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子で治療された前記対象においてメモリー応答を誘発する、請求項1に記載の組み合わせ物。
【請求項25】
PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答の誘発および/または強化を必要とする対象において、PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答を誘発および/または強化するための組み合わせ物であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)4-1BBアゴニストを含み、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内の3つの軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインとを含む、組み合わせ物。
【請求項26】
PSMA陽性癌の治療、またはPSMA陽性腫瘍の増殖の阻害を必要とする対象において、PSMA陽性癌を治療するための、またはPSMA陽性腫瘍の増殖を阻害するための医薬組成物であって、
(a)(i)ヒトCD3に特異的に結合し、かつ配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含む第一の抗原結合ドメインと、(ii)ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む第二の抗原結合ドメインと、を含む二重特異性抗原結合分子、
(b)抗体である4-1BBアゴニスト、および
(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含
み、
部分(a)の前記二重特異性抗原結合分子の前記第一の抗原結合ドメインおよび前記第二の抗原結合ドメインが各々、配列番号3の共通LCVRアミノ酸を含む、医薬組成物。
【請求項27】
PSMA陽性癌を治療するための、またはPSMA陽性腫瘍の増殖を阻害するための組成物であって、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含み、前記組成物が4-1BBアゴニストと組み合わせて、PSMA陽性癌の治療、またはPSMA陽性腫瘍の増殖の阻害を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【請求項28】
PSMA陽性癌を治療するための、またはPSMA陽性腫瘍の増殖を阻害するための組成物であって、4-1BBアゴニストを含み、前記組成物が、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と組み合わせて、PSMA陽性癌の治療、またはPSMA陽性腫瘍の増殖の阻害を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【請求項29】
PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖を増加させるための組成物であって、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含み、前記組成物が、4-1BBアゴニストと組み合わせて、PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖の増加を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【請求項30】
PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖を増加させるための組成物であって、4-1BBアゴニストを含み、前記組成物が抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と組み合わせて、PSMA陽性腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖の増加を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【請求項31】
PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答を誘発および/または強化するための組成物であって、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含み、前記組成物が、4-1BBアゴニストと組み合わせて、PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答の誘発および/または強化を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【請求項32】
PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答を誘発および/または強化するための組成物であって、4-1BBアゴニストを含み、前記組成物が、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と組み合わせて、PSMA陽性腫瘍に対するT細胞応答の誘発および/または強化を必要とする対象に投与されることを特徴とし、前記4-1BBアゴニストが抗体であり、前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が、
第一の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合し、かつ、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列内のHCDR1-1、HCDR2-1およびHCDR3-1アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第一の抗原結合ドメインと、
第二の抗原結合ドメインであって、ヒトPSMAに特異的に結合し、かつ、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列内のHCDR1-2、HCDR2-2およびHCDR3-2アミノ酸配列と、配列番号3のLCVRアミノ酸配列内のLCDR1、LCDR2およびLCDR3アミノ酸配列とを含む、第二の抗原結合ドメインと
を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺特異的膜抗原(PSMA)およびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子と4-1BB共刺激との組み合わせ、ならびにその使用方法に関する。
【0002】
配列表の参照
配列表の公的な写しは、ASCIIフォーマットの配列表としてEFS-Webを介して電子的に本明細書と同時に提出され、当該写しのファイル名は「10595WO01_SEQ_LIST_ST25」であり、2020年6月19日が作成日であり、サイズはおよそ4,096バイトである。このASCIIフォーマット書面に含まれる配列表は、本明細書の一部であり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
葉酸ヒドロラーゼ1(FOLH1)としても知られる前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺上皮細胞において高度に発現し、前立腺癌の細胞表面マーカーである、内在性非脱落膜糖タンパク質である。その発現は、予後が悪く、治療選択肢が限られている去勢抵抗性前立腺癌で維持される。PSMAを標的化することによって前立腺癌を治療する方法が研究されている。例えば、イットリウム-90カプロマブは、PSMAの細胞内エピトープに対するモノクローナル抗体を含む放射線治療であり、PSMAの細胞外エピトープに対するモノクローナル抗体であるJ591は、放射線治療ルテチウム-177 J591の一部であり、メイタンシノイド1(DM1、抗微小管剤)がJ591にコンジュゲートされているMLN2704がある。これらの療法は毒性と関連している。PSMAはまた、膀胱、腎臓、胃、および結腸直腸癌などの他の腫瘍の新生血管構造内にも発現する。
【0004】
CD3は、T細胞受容体複合体(TCR)に関連してT細胞上に発現されるホモ二量体抗原またはヘテロ二量体抗原であり、T細胞活性化に必要である。機能的CD3は、エプシロン、ゼータ、デルタ、およびガンマの四つの異なる鎖のうちの二つの二量体会合から形成される。CD3二量体配置には、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン、およびゼータ/ゼータが含まれる。CD3に対する抗体は、T細胞上でCD3をクラスター化し、それによってペプチドを搭載したMHC分子によるTCRの関与と同様の方法でT細胞活性化を引き起こすことが示されている。したがって、抗CD3抗体は、T細胞の活性化を含む治療目的のために提案されている。さらに、CD3および標的抗原に結合することができる二重特異性抗体は、標的抗原を発現する組織および細胞に対するT細胞免疫反応を標的とすることを含む治療上の使用のために提案されている。
【0005】
T細胞の活性化では、TNF受容体スーパーファミリーを介した共刺激が、生存、エフェクター機能の獲得、およびメモリー分化の鍵となる。CD137としても知られる4-1BB(Tnfrsf9)は、TNF受容体スーパーファミリーのメンバーである。受容体の発現は、TCRを介したプライミング後のリンパ球の活性化によって誘導されるが、そのレベルは、CD28共刺激によって増強され得る。CD8+T細胞上のリガンドまたはアゴニスト性モノクローナル抗体(mAb)への曝露は、4-1BBを共刺激し、これは、Th1細胞応答を促進するためにT細胞のクローン増殖、生存、および発生、末梢単球の増殖誘発、NF-kappaBの活性化、TCR/CD3によって誘起された活性化によって誘発されたT細胞アポトーシスの増強、メモリー生成、およびCD28共刺激の調節に寄与する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において、対象における癌を治療するための方法が提供される。一部の態様では、本方法は、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体、および薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む医薬組成物を対象に投与することと、抗4-1BBアゴニストを対象にさらに投与することと、を含む。一部の態様では、本方法は、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体、抗4-1BBアゴニスト、および薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。一部の実施形態では、癌は、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、および胃癌からなる群から選択される。一部の事例では、癌は前立腺癌である。一部の事例では、前立腺癌は去勢抵抗性前立腺癌である。
【0007】
さらに、癌を治療する方法、または腫瘍の成長を阻害する方法が本明細書に提供される。一部の態様では、本方法は、(a)抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0008】
また、本明細書では、PSMAを発現する腫瘍細胞を標的化/殺傷するための治療方法が提供される。一部の態様では、治療方法は、治療有効量の抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体、および治療有効量の抗4-1BBアゴニストを、それを必要とする対象に投与することを含む。一部の態様では、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体、および抗4-1BBアゴニストは、別個に製剤化される。一部の態様では、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体、および抗4-1BBアゴニストは、同じ医薬組成物中に製剤化される。
【0009】
また本明細書では、PSMA発現細胞に関連するか、またはPSMA発現細胞によって引き起こされる疾患または障害の治療のための医薬品の製造における抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、または抗PSMA抗体と、抗4-1BBアゴニストとの使用が提供される。
【0010】
抗PSMA抗体またはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下の治療と比較して腫瘍体積を減少させることができる。
【0011】
抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下の治療と比較して、無腫瘍生存を増大することができる。
【0012】
抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるTRAF1発現と比較して、腫瘍中のTRAF1発現を少なくとも約4倍増加させることができる。
【0013】
抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるBcl2発現と比較して、腫瘍中のBcl2の発現を少なくとも約2倍増加させることができる。
【0014】
抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるBFL-1発現と比較して、腫瘍中のBFL-1の発現を少なくとも約3倍増加させることができる。
【0015】
抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することは、抗4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるCD8+ T細胞と比較して、腫瘍中のCD8+ T細胞の増殖および/またはCD8+ T細胞の生存の増大を高めることができる。
【0016】
抗4-1BBアゴニストは、4-1BBの小分子または生物学的アゴニストであってもよく、一部の態様では抗体である。例示的な抗4-1BBアゴニストとしては、例えば、抗マウス4-1BBなどの市販の抗体、およびウレルマブおよびウトミルマブなどの治療用抗体が挙げられる。
【0017】
本明細書に提供される方法によれば、抗PSMA抗体またはその抗原結合断片、ならびにヒトPSMAおよびヒトCD3に結合する二重特異性抗体およびその抗原結合断片が有用である。二重特異性抗体は、特に、CD3を発現するT細胞を標的化するために、およびT細胞の活性化を刺激するために、例えば、PSMAを発現する細胞のT細胞介在性殺傷が有益または望ましい状況下で有用である。例えば、二重特異性抗体は、CD3を介したT細胞の活性化を、前立腺腫瘍細胞などの特定のPSMA発現細胞に向けることができる。
【0018】
PSMAに結合する抗PSMA抗体またはその抗原結合断片は、PSMAを発現する腫瘍、特に、より大きなおよび/または治療がより困難な腫瘍に関連するか、またはそれによって引き起こされる疾患および障害を治療するために、抗4-1BBアゴニストと組み合わせることによって有用である。例示的な抗PSMA抗体およびその抗原結合断片は、米国特許第10,179,819号に詳細に記載される。一部の態様では、抗PSMA抗体は、米国特許第10,179,819号で言及される配列番号66のHCVRと、配列番号1386の共通軽鎖とを含む。一部の態様では、抗PSMA抗体は、米国特許第10,179,819号で言及されるH1H11810P抗体である。
【0019】
PSMAおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子(例えば、抗体)は、本明細書では、「抗PSMA/抗CD3二重特異性分子」、「抗CD3/抗PSMA二重特異性分子」、「PSMAxCD3 bsAbs」、または単に「PSMAxCD3」とも呼称される。抗PSMA/抗CD3二重特異性分子の抗PSMA部分は、PSMA(例えば、前立腺腫瘍)を発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)を標的化するのに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞を活性化するのに有用である。腫瘍細胞上のPSMAとT細胞上のCD3との同時結合は、活性化されたT細胞による標的化された腫瘍細胞の指向された殺傷(細胞溶解)を促進する。したがって、本明細書の有用な抗PSMA/抗CD3二重特異性分子は、特に、PSMA発現腫瘍(例えば、前立腺癌)に関連するか、またはそれによって引き起こされる疾患および障害の治療に有用である。抗PSMA/抗CD3二重特異性分子はまた、PSMAを発現する腫瘍、特に、より大きなおよび/または治療がより困難な腫瘍に関連するか、またはそれによって引き起こされる疾患および障害を治療するために、抗4-1BBアゴニストと組み合わせることによって有用である。
【0020】
二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインと、PSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインとを含む。
【0021】
本明細書に提供される方法による有用な二重特異性抗体の例は、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子であり、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、米国公開第2014/0088295号に記載のHCVRアミノ酸配列のいずれか、LCVRアミノ酸配列のいずれか、HCVR/LCVRアミノ酸配列対のいずれか、重鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれか、または軽鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む。
【0022】
本明細書に提供される方法によれば有用なのは、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子であり、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、米国特許第10,179,819号の表12、14、15、18、および20に記載されるように、HCVRアミノ酸配列のいずれかおよび/またはLCVRアミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。一部の態様では、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、配列番号2の重鎖可変領域(HCVR-1)アミノ酸配列を含む。
【0023】
本明細書に提供される方法によれば有用なのは、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子であり、PSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインは、米国特許第10,179,819号の表1に記載されるように、HCVRアミノ酸配列のいずれかおよび/またはLCVRアミノ酸配列のいずれか、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む。一部の態様では、PSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインは、配列番号1の重鎖可変領域(HCVR-2)アミノ酸配列を含む。
【0024】
本明細書に提供される方法によれば有用なのは、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子であり、CD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインは、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含み、PSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインは、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む。一部の態様では、抗CD3/抗PSMA二重特異性分子は、配列番号3の共通軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列を含む。
【0025】
一態様では、抗PSMA抗原結合分子または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容可能な担体または希釈剤とを含む医薬組成物が本明細書に提供される。一部の態様では、医薬組成物は、抗4-1BBアゴニストをさらに含む。
【0026】
本開示の方法によれば有用なのは、修飾されたグリコシル化パターンを有する抗PSMA抗体およびその抗原結合断片、ならびに抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子である。一部の適用では、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増大させるために、望ましくないグリコシル化部位を除去する修飾、または抗体がオリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠損していることが有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照されたい)。他の適用において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞傷害(CDC)を修飾するために行うことができる。
【0027】
一態様では、本開示は、本明細書に開示される抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、抗4-1BBアゴニスト、および薬学的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。関連の態様では、本開示は、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、抗4-1BBアゴニスト、および第三の治療剤の組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第三の治療剤は、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わされ得る例示的な薬剤については、本明細書の別の箇所で詳細に説明される。
【0028】
別の態様では、本明細書において、免疫PET撮像で使用するための放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートおよび抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートが提供される。コンジュゲートは、抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、キレート部分、および陽電子放出体を含む。
【0029】
本明細書において、該コンジュゲートおよびそのために有用な合成中間体を合成するためのプロセスが提供される。
【0030】
本明細書において、PSMAを発現する組織を撮像する方法が提供され、本方法は、本明細書に記載の放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを組織に投与することと、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。
【0031】
本明細書において、PSMA発現細胞を含む組織を撮像する方法が提供され、本方法は、本明細書に記載の放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを組織に投与することと、PET撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。
【0032】
本明細書において、組織内のPSMAを検出するための方法が提供され、本方法は、本明細書に記載の放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを組織に投与することと、PET撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。一実施形態では、組織は、ヒト対象に存在する。ある特定の実施形態では、対象は、非ヒト哺乳動物である。ある特定の実施形態では、対象は、癌、炎症性疾患、または感染などの疾患もしくは障害を有する。
【0033】
本明細書において、組織内のPSMAを検出する方法が提供され、本方法は、組織を本明細書に記載の蛍光分子にコンジュゲートされた抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子と接触させることと、蛍光撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。
【0034】
本明細書において、抗腫瘍療法に適している対象を同定するための方法が提供され、本方法は、固形腫瘍を有する対象を選択することと、本明細書に記載の放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを投与することと、PET撮像によって、腫瘍内に投与された放射性標識された抗体コンジュゲートを可視化することと、を含み、腫瘍における放射性標識された抗体コンジュゲートの存在が、抗腫瘍療法に適しているものとして上記対象を同定する。
【0035】
本明細書において、腫瘍を治療する方法が提供され、本方法は、固形腫瘍を有する対象を選択することと、固形腫瘍がPSMA陽性であると判定することと、抗腫瘍療法を、それを必要とする対象に施すことと、を含む。特定の実施形態では、抗腫瘍療法はPD-1/PD-L1シグナル伝達軸の阻害剤(例えば、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体)を含み、一例として、チェックポイント阻害剤療法である。ある特定の実施形態では、対象には本明細書に記載される放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートが投与され、放射性標識された抗体コンジュゲートの局在化を、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によって撮像し、腫瘍がPSMA陽性であるかどうかを判定する。ある特定の実施形態では、対象には放射性標識された抗PD-1抗体コンジュゲートがさらに投与され、放射性標識された抗体コンジュゲートの局在化を、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によって撮像し、腫瘍がPD-1陽性であるかどうかを判定する。
【0036】
本明細書において、対象の抗腫瘍療法の有効性を監視するための方法が提供され、本方法は、固形腫瘍を有する対象を選択することであって、対象が抗腫瘍療法で治療されている、選択することと、本明細書に記載される放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを対象に投与することと、PET撮像によって、腫瘍における投与された放射性標識されたコンジュゲートの局在化を撮像することと、腫瘍成長を判定することと、を含み、コンジュゲートまたは放射性標識されたシグナルの取り込みのベースラインからの減少が、抗腫瘍療法の有効性を示す。
【0037】
特定の実施形態では、抗腫瘍療法は、PD-1阻害剤(例えば、REGN2810、BGB-A317、ニボルマブ、ピジリズマブ、およびペンブロリズマブ)、PD-1阻害剤(例えば、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、MDX-1105、およびREGN3504、ならびに特許公開第US2015-0203580号に開示されるもの)、CTLA-4阻害剤(例えば、イピリムマブ)、TIM3阻害剤、BTLA阻害剤、TIGIT阻害剤、CD47阻害剤、GITR阻害剤、別のT細胞共阻害剤もしくはリガンドの拮抗薬(例えば、LAG3、CD-28、2B4、LY108、LAIR1、ICOS、CD160またはVISTAへの抗体)、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)阻害剤、血管内皮成長因子(VEGF)拮抗薬[例えば、アフリベルセプトもしくは米国特許第7,087,411号に記載されるVEGF阻害融合タンパク質などの「VEGF-トラップ」、または抗VEGF抗体もしくはその抗原結合断片(例えば、ベバシズマブ、またはラニビズマブ)またはVEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブ、またはパゾパニブ)]、Ang2阻害剤(例えば、ネスバクマブ)、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)阻害剤、上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤(例えば、エルロチニブ、セツキシマブ)、CD20阻害剤(例えば、リツキシマブなどの抗CD20抗体)、腫瘍特異抗原に対する抗体[例えば、CA9、CA125、黒色腫関連抗原3(MAGE3)、癌胎児性抗原(CEA)、ビメンチン、腫瘍-M2-PK、前立腺特異抗原(PSA)、ムチン-1、MART-1、およびCA19-9]、ワクチン(例えば、カルメット・ゲラン桿菌(Bacillus Calmette-Guerin)、癌ワクチン)、抗原提示を増加させるアジュバント(例えば、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子)、二重特異性抗体(例えば、CD3xCD20二重特異性抗体、またはPSMAxCD3二重特異性抗体)、細胞毒素、化学療法剤(例えば、ダカルバジン、テモゾロミド、シクロホスファミド、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、シスプラチン、カルボプラチン、ゲムシタビン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、およびビンクリスチン)、シクロホスファミド、放射線療法、IL-6R阻害剤(例えば、サリルマブ)、IL-4R阻害剤(例えば、デュピルマブ)、IL-10阻害剤、IL-2、IL-7、IL-21、およびIL-15などのサイトカイン、および抗体薬物コンジュゲート(ADC)(例えば、抗CD19-DM4 ADC、および抗DS6-DM4 ADC)を含む。
【0038】
本明細書において、腫瘍組織内のCD8+T細胞の増殖を増加させる方法が提供される。一部の態様では、本方法は、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0039】
本明細書において、腫瘍に対するT細胞応答を誘導および/または強化する方法が提供される。一部の態様では、本方法は、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0040】
一部の態様では、CD8+T細胞対Treg比は、抗4-1BBアゴニストの非存在下で、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍組織におけるCD8+T細胞対Treg比と比較して、腫瘍組織において増加する。一部の態様では、腫瘍細胞へのその後の曝露は、抗4-1BBアゴニストの存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子で処置された対象においてメモリー応答を誘発する。
【0041】
他の実施形態は、後に続く発明を実施するための形態の検討から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1-1】
図1A~1Gは、PSMAxCD3二重特異性抗体が低抗原発現細胞株および高抗原発現細胞株の両方に結合できることを示し、PSMAxCD3二重特異性抗体が標的依存性のCD3を介したT細胞活性化を誘導し、PSMA発現腫瘍細胞の殺傷をもたらすことを実証する。示されたデータは、二つのウェルを組み合わせたものであり、三つの独立した実験を代表するものである。
【0043】
【
図2】
図2A~2Bは、PSMAxCD3二重特異性抗体を用いた治療の結果としての異種腫瘍モデルにおけるヒト前立腺癌細胞の成長阻害を示す。
図2Aでは、NSGマウスに22Rv1細胞およびヒトPBMCを皮下に同時移植した。マウスに、0、3、および7日目に、0.1、1mg/kgのPSMAxCD3、または1mg/kgのCD3結合対照を投与した。
図2Bでは、NSGマウスにC4-2細胞およびヒトPBMCを皮下に同時移植した。マウスに、0、3、および7日目に、0.01、0.1mg/kgのPSMAxCD3、または0.1mg/kgのCD3結合対照を投与した。平均腫瘍体積は、SEMとして示されている(n=5、3回の反復)。****P<0.0001。統計的有意性は、CD3結合対照と比較して、二元配置ANOVAによって測定される。
【0044】
【
図3-1】
図3A~3Dは、HuTマウスおよび薬剤クリアランスのPSMA発現組織におけるPSMAxCD3二重特異性抗体のPSMA発現および蓄積を示す。
図3Aは、RT-PCRによるHuTマウスの組織における相対的なPSMA発現を示す。
図3Bおよび3Cは、6日目に測定されたex vivo組織生体内分布を示し、組織1グラム当たりの注入用量の割合(%ID/g)、および組織対血液の比率として表される。データは、平均
+SDとして示される。
図3Dは、1mg/kgのPSMAxCD3で処置されたマウスにおいて測定された、経時的なPSMAxCD3薬剤クリアランスを示す。
【0045】
【
図4】
図4A~4Cは、PSMAxCD3二重特異性抗体治療が、200mm
3未満の腫瘍において、ヒトPSMAを発現するマウス前立腺腺癌細胞株を移植したHuTマウスにおいて、腫瘍増殖の防止または増殖遅延をもたらしたことを示す。大きな腫瘍では、短期であるが一過性の抗腫瘍応答が観察された。
図4Aでは、マウスを、5mg/kgのCD3結合対照(丸)またはPSMAxCD3(正方形)で、0、4、7および11日目に処置した。5/5のマウスは腫瘍がなかった。平均腫瘍体積は、SEMとして示されている(n=7、3回の反復)。****P<0.0001。
図4Bでは、50mm
3の腫瘍を、5mg/kgのCD3結合対照(丸)またはPSMAxCD3(正方形)を用いて、8、12、15および19日目に処置した。2/5のマウスは腫瘍がなかった。平均腫瘍体積は、SEMとして示されている(n=5、3回の反復)。****P<0.0001。
図4Cでは、200mm
3の腫瘍を、5mg/kgのCD3結合対照(丸)またはPSMAxCD3(正方形)を用いて、9、12、16および19日目に処置した。0/5のマウスは腫瘍がなかった。平均腫瘍体積は、SEMとして示されている(n=5、3回の反復)。**P=0.0014。
【0046】
【
図5-1】
図5A~5Dは、対向する側腹部に二つの異なる大きさの腫瘍を有するHuTマウスのPSMAxCD3二重特異性抗体治療の結果を示す。データは、二重特異性抗体が、大きさに関係なく腫瘍を標的とするが、有効性はより小さな腫瘍に限定されることを示す。
図5Aは、小さな腫瘍の平均体積がSEMとして示されていることを示す(n=5、3回の反復)。***P<0.001。
図5Bは、SEMとして示されている大きな腫瘍の平均体積を示す(n=5、3回の反復)。*P=0.01。すべての統計的有意性は、CD3結合対照と比較して、二元配置ANOVAによって測定される。
図5Cおよび5Dは、小さな腫瘍および大きな腫瘍を有するマウスに、1mg/kgの
89Zr-PSMAxCD3または
89Zr-CD3結合対照を投与した後6日目に測定されたエクスビボ組織生体内分布を示し、組織1グラム当たりの注入用量の割合(%ID/g)および組織対血液の比率として表される。データは、平均
+SDとして示される。
【0047】
【
図6-1】
図6A~6Dは、大きなTRAMP-C2hPMSA腫瘍(200mm
3)における抗4-1BB共刺激をともなうPSMAxCD3二重特異性抗体の抗腫瘍有効性を示す。
図6Aは、5mg/kgのCD3結合対照またはPSMAxCD3の投与後48時間の腫瘍および脾臓のCD4およびCD8 T細胞における4-1BB発現の代表的なフロープロットおよびMFIを示す(n=5)。
図6Bは、定着した200mm
3のTRAMP-C2-hPMSA腫瘍が、5mg/kgのCD3結合対照(白丸)、2.5mg/kgの抗4-1BB(黒丸)、1mg/kgのPSMAxCD3(白三角)、5mg/kgのPSMAxCD3(黒三角)、1mg/kgのPSMA+2.5mg/kgの抗4-1BB(白四角)、または5mg/kgのPSMAxCD3+2.5mg/kgの抗4-1BB(黒四角)で9日目に一回処置されたことを示す。平均腫瘍体積は、SEMとして示されている(n=10、3回の反復)。****P<0.0001。統計的有意性は、CD3結合対照と比較して、二元配置ANOVAによって測定された。
図6Cは、2000mm
3を超える腫瘍を有するマウスの安楽死を示す無腫瘍生存曲線を提供する。有意性は、CD3結合対照と比較して、Gehan-Breslow-Wilcoxon検定によって測定される。****P<0.0001。腫瘍のない(TF)マウスの数は、CD3結合対照については0/10、5mg/kgのPSMAxCD3については0/10、1mg/kgのPSMAxCD3については1/10、抗4-1BB対照については2/10、1mg/kgのPSMA+2.5mg/kgの抗4-1BBについては6/10、および5mg/kgのPSMAxCD3+2.5mg/kgの抗4-1BBについては5/10である。
図6Dは、治療投与から72時間後の腫瘍における4-1BB経路遺伝子の相対的発現を提供する。(n=6)****P<0.0001、***P<0.009、*P<0.05。統計的有意性は、一元配置ANOVAによって測定される。
【0048】
【
図7】
図7A~7Bは、PSMAxCD3および抗4-1BBの併用療法後の腫瘍中のCD8 T細胞の増加、ならびに免疫学的メモリーを示す。
図7Bは、50mm
3の腫瘍を除去したマウスに、TRAMP-C2-hPSMA腫瘍細胞で再攻撃したところ、二次的な腫瘍から保護されたことから、腫瘍特異的免疫学的メモリーがCD3二重特異性抗体で誘導され得ることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明について記述する前に、本発明が本明細書に記述された特定の方法および実験条件に限定されず、それはこのような方法および条件が変化する場合があるからであることが理解されるべきである。本開示の範囲は添付の特許請求の範囲のみによって制限されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、制限することを意図しないことも理解されるべきである。
【0050】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書にて使用される場合、「約」という用語は、特定の言及される数値に関して使用される場合、値が言及された値から1%以下まで変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」という表現には、99および101、ならびに間のすべての値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)が含まれる。
【0051】
本明細書に記載されるものと類似または同等の任意の方法および材料が、本開示の実施または試験で使用され得るが、好ましい方法および材料をこれから記載する。本明細書で言及されるすべての特許、特許出願、および非特許出版物は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0052】
実施例に示されるように、PSMAxCD3の抗腫瘍有効性は、小さな腫瘍に対して観察されたが、抗腫瘍有効性は、より大きな腫瘍に対しては大幅に減少し、クリニックにおける固形腫瘍の治療の課題をより現実的に反映した。
【0053】
以下に示すように、PSMAxCD3二重特異性抗体は、CD8 T細胞浸潤、活性化、および増殖をもたらしたが、これは、より小さな腫瘍では有効であったが、より大きな腫瘍では有効ではなかった。発明者らは、抗4-1BBアゴニストを使用して共刺激シグナルを提供することによって、PSMAxCD3誘導T細胞活性を増強および延長することに努めた。4-1BBシグナル伝達経路は、T細胞の生存を促進し、T細胞のアネルギーを逆転させ、その後メモリーT細胞を生成して強力な抗腫瘍活性を促進することによって、T細胞応答の大きさおよび持続時間を増強することができる。
【0054】
本明細書で示されるように、PSMAxCD3二重特異性抗体を抗4-1BB共刺激と組み合わせることにより、CD8 T細胞浸潤、活性化、および増殖が増強され、より大きな腫瘍において単回投与で顕著な抗腫瘍有効性がもたらされる。この組み合わせはまた、腫瘍特異的T細胞メモリーを誘導し得る。
【0055】
抗PSMA抗体およびPSMAxCD3二重特異性抗体が腫瘍内T細胞を活性化する能力、ならびに顕著な抗腫瘍有効性をもたらすT細胞応答の大きさおよび持続時間を増強するための4-1BB共刺激の能力が本明細書に実証される。抗PSMA抗体とPSMAxCD3二重特異性抗体を4-1BB共刺激と組み合わせることは、定着した固形腫瘍を治療して、より良い全生存を達成する方法において有用である。
【0056】
抗原結合分子の治療上の使用
本開示は、それを必要とする対象に、抗PSMA抗体もしくはその抗原結合断片、またはCD3およびPSMAに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を、抗4-1BBアゴニストと共に投与することを含む方法を含む。本明細書の方法によると有用な治療用組成物は、抗PSMA抗体またはPSMAxCD3二重特異性抗原結合分子、および薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含み得る。本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という表現は、一つまたは複数の癌の症状または兆候を示すヒトまたは非ヒト動物(例えば、腫瘍を発現しているか、または以下に記載される癌のいずれかを患う対象)、またはそうでなければ、PSMA活性の阻害もしくは減少、またはPSMA+細胞(例えば、前立腺癌細胞)の枯渇から利益を得るであろう対象を意味する。
【0057】
本明細書に開示される抗体および二重特異性抗原結合分子(およびそれを含む治療用組成物)は、特に、免疫反応の刺激、活性化および/または標的化が有益である任意の疾患または障害を治療するための抗4-1BBアゴニストとの組み合わせが有用である。特に、抗PSMA抗体および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、PSMAの発現もしくは活性、またはPSMA+細胞の増殖と関連するか、またはそれらによって媒介される任意の疾患もしくは障害の治療、予防、および/または改善に使用され得る。本明細書に開示される治療方法が達成される作用機序には、エフェクター細胞の存在下でPSMAを発現する細胞を、例えば、CDC、アポトーシス、ADCC、食作用、またはこれらの機序のうちの二つ以上の組み合わせによって死滅させることが含まれる。抗体または二重特異性抗原結合分子を使用して阻害または死滅させることができるPSMAを発現する細胞には、例えば前立腺腫瘍細胞が含まれる。さらに、4-1BBの共刺激によって、T細胞のクローン増殖、生存、および発生、末梢単球における増殖誘発、NF-kappaBの活性化、TCR/CD3によって誘起された活性化によって誘発されるT細胞アポトーシスの増強、およびメモリー生成への寄与などの治療効果が達成される。
【0058】
抗PSMA抗体および抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を含む抗原結合分子を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて使用して、例えば、消化管、前立腺、腎臓、および/または膀胱に生じる原発性および/または転移性の腫瘍を治療することができる。特定の実施形態では、抗体または二重特異性抗原結合分子は、以下の癌:腎明細胞癌、嫌色素性腎細胞癌、(腎)オンコサイトーマ、(腎)移行上皮癌、前立腺癌、結腸直腸癌、胃癌、尿路上皮癌、(膀胱)腺癌、または(膀胱)小細胞癌のうちの一つまたは複数を治療するために使用される。本開示の特定の実施形態によれば、抗PSMA抗体および抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせると、去勢抵抗性前立腺癌に罹患した患者の治療に有用である。本明細書に開示される他の関連する実施形態によれば、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を抗4-1BBアゴニストと組み合わせて、去勢抵抗性前立腺癌に罹患している患者に投与することを含む方法が提供される。
【0059】
本開示はまた、対象において定着した腫瘍を治療するための方法を含み、定着したとは、測定可能な腫瘍、すなわち、所与の癌に対して適切な方法で測定可能な腫瘍として定義される。
【0060】
本開示はまた、対象において残存癌を治療するための方法を含む。本明細書で使用される場合、「残存癌」という用語は、抗癌療法による治療後の対象における一つまたは複数の癌細胞の存在または持続を意味する。
【0061】
特定の態様によれば、本開示は、対象が前立腺癌(例えば、去勢抵抗性前立腺癌)を有すると決定された後、他の場所に記載されるの一つまたは複数の二重特異性抗原結合分子を、抗4-1BBアゴニストと組み合わせて対象に投与することを含む、PSMA発現(例えば、前立腺癌)に関連する疾患または障害を治療するための方法を提供する。例えば、本開示は、対象がホルモン療法(例えば、抗アンドロゲン療法)を受けてから1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、または4週間、2ヶ月、4ヶ月、6ヶ月、8ヶ月、1年後、またはそれよりも後に抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を、患者に投与することを含む、前立腺癌を治療するための方法を含む。
【0062】
用語の定義
本明細書で使用される場合、「CD3」という表現は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上に発現され、四つの受容体鎖:CD3-エプシロン、CD3-デルタ、CD3-ゼータ、およびCD3-ガンマのうちの二つの会合から形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体からなる抗原を指す。本明細書における、タンパク質、ポリペプチド、およびタンパク質断片への全ての参照は、非ヒト種からと明示的に指定されていない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質断片のヒトバージョンを指すことが意図されている。したがって、「CD3」という表現は、例えば、「マウスCD3」、「サルCD3」など、非ヒト種からであると特定されていない限り、ヒトCD3を意味する。
【0063】
本明細書において使用される場合、「CD3に結合する抗体」または「抗CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、エプシロン、デルタ、ガンマ、またはゼータ)を特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片、ならびに二つのCD3サブユニット(例えば、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)の二量体複合体を特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片を含む。本明細書に有用な抗体および抗原結合断片は、可溶性CD3および/または細胞表面発現CD3に結合し得る。可溶性CD3には、天然CD3タンパク質、ならびに例えば単量体および二量体のCD3構築物など、膜貫通ドメインを欠くか、またはそうでなければ細胞膜と結合していない組み換えCD3タンパク質バリアントが含まれる。
【0064】
本明細書において使用される場合、「細胞表面発現CD3」という表現は、CD3タンパク質の少なくとも一部が、細胞膜の細胞外側に曝露され、抗体の抗原結合部分にアクセス可能であるように、インビトロまたはインビボにおいて細胞の表面上に発現される、一つまたは複数のCD3タンパク質を意味する。「細胞表面発現CD3」は、細胞膜の機能的T細胞受容体に関連して含まれるCD3タンパク質を含む。「細胞表面発現CD3」という表現は、細胞の表面上のホモ二量体またはヘテロ二量体の一部として発現されるCD3タンパク質(例えば、ガンマ/エプシロン、デルタ/エプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)を含む。「細胞表面発現CD3」という表現はまた、細胞の表面上で、他のCD3鎖型なしで、それ自体で発現されるCD3鎖(例えば、CD3-エプシロン、CD3-デルタまたはCD3-ガンマ)を含む。「細胞表面発現CD3」は、通常CD3タンパク質を発現する細胞の表面上で発現されるCD3タンパク質を含むか、またはそれからなり得る。あるいは、「細胞表面発現CD3」は、通常はその表面上にヒトCD3を発現せず、その表面上にCD3を発現するように人為的に操作されている、細胞の表面上で発現されるCD3タンパク質を含むか、またはそれからなりうる。
【0065】
本明細書で使用される場合、「PSMA」という表現は、葉酸ヒドロラーゼ1(FOLH1)としても知られる、前立腺特異的膜抗原を指す。PSMAは、前立腺上皮細胞において高度に発現し、前立腺癌の細胞表面マーカーである、内在性非脱落膜糖タンパク質である。PSMAは、後期悪性疾患にとって魅力的な細胞表面標的である。また、腎明細胞癌、膀胱癌、結腸癌、および乳癌の新生血管構造にも発現する。
【0066】
本明細書で使用される場合、CD137としても知られる「4-1BB」という表現は、活性化によって誘発される共刺激分子を指す。4-1BBは免疫反応の重要な調節因子であり、TNF受容体スーパーファミリーのメンバーである。「抗4-1BBアゴニスト」という表現は、4-1BBに結合し、受容体を活性化する任意のリガンドである。例示的な抗4-1BBアゴニストとしては、ウレルマブ(BMS-663513)、およびウトミルマブ(PF-05082566)、ならびに市販の抗マウス4-1BB抗体が挙げられる。さらに、「4-1BBアゴニスト」という用語は、4-1BBの生物学的活性を部分的または完全に促進、誘導、増加、および/または活性化する任意の分子を指す。好適なアゴニスト分子は、アゴニスト抗体または抗体断片を特異的に含み、例えば、免疫細胞上の4-1BBに結合する一方のアームと、例えば、腫瘍標的上の抗原に結合する他方のアームとを含む二重特異性抗体などを含む。用語はまた、天然ポリペプチド、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、小有機分子などの断片またはアミノ酸配列バリアントも含む。一部の実施形態では、アゴニストの存在下での活性化は、用量依存的に観察される。一部の実施形態では、測定されたシグナル(例えば、生物学的活性)が、同等の条件下で陰性対照で測定されるシグナルよりも、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約100%高い。アゴニストの有効性は、例えば、ポリペプチドの機能を活性化または促進するアゴニストの能力などの機能的アッセイを使用しても決定することができる。例えば、機能的アッセイは、ポリペプチドを候補アゴニスト分子と接触させることと、ポリペプチドと通常関連する一つまたは複数の生物学的活性の検出可能な変化を測定することと、を含み得る。アゴニストの効力は通常、そのEC50値(アゴニスト応答の50%を活性化するために必要な濃度)によって定義される。EC50値が低いほど、アゴニストの効力が高くなり、最大生物学的応答を活性化するために必要な濃度が低くなる。4-1BBアゴニストはまた、4-1BB-リガンドまたは4-1BB-リガンドの断片を含有する分子、例えば、4-1BBLもしくはその断片を含有する一方のアームと、例えば、腫瘍上の抗原に結合する他方のアームとを含む、二重特異性分子を含んでもよい。これらの断片は、Fc領域を含んでもよい。
【0067】
「抗原結合分子」という用語は、例えば、二重特異性抗体を含む、抗体および抗体の抗原結合断片を含む。
【0068】
「抗体」という用語は、本明細書にて使用される場合、特定の抗原(例えば、PSMAまたはCD3)と特異的に結合する、または相互作用する少なくとも一つの相補性決定領域(CDR)を含む、あらゆる抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語には、四つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互接続した二つの重(H)鎖および二つの軽(L)鎖、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む、免疫グロブリン分子が包含される。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと省略される)と重鎖定常領域とを含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2、およびCH3の3つのドメインを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと省略される)と軽鎖定常領域とを含む。軽鎖定常領域は、一つのドメイン(CL1)を含む。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域へとさらに細分され得る。各VHおよびVLは、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に配置された三つのCDRと四つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本明細書に開示された異なる実施形態では、抗PSMA抗体または抗CD3抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または自然にもしくは人為的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、二つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0069】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、完全抗体分子の抗原結合断片も含む。本明細書で使用される場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得ることができる、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび必要に応じた定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う、タンパク質分解性消化または組み換え遺伝子工学技術などの、あらゆる好適な標準的方法を使用する、完全抗体分子に由来してもよい。そのようなDNAは公知であり、かつ/または例えば、市販の供給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ抗体ライブラリを含む)から容易に入手可能であるか、もしくは合成され得る。DNAを配列決定し、化学的にまたは分子生物学技法を使用することによって操作して、例えば、一つまたは複数の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な構成に配置するか、またはコドンを導入する、システイン残基を作成する、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失させるなどが可能である。
【0070】
抗原結合断片の非限定例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、または拘束FR3‐CDR3‐FR4ペプチドが挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失した抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫薬(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子もまた、本明細書で使用される場合、「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0071】
抗体の抗原結合断片は、典型的に、少なくとも一つの可変ドメインを含む。可変ドメインはあらゆる大きさであってもよいか、またはアミノ酸組成であってもよく、一般的に一つまたは複数のフレームワーク配列に隣接するか、またはフレーム内にある少なくとも一つのCDRを含み得る。VLドメインと結合したVHドメインを有する抗原結合断片において、VHドメインおよびVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して配置され得る。例えば、可変領域は、二量体であってもよく、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含有してもよい。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のVHまたはVLドメインを含有してもよい。
【0072】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも一つの定常ドメインに共有結合された少なくとも一つの可変ドメインを含有してもよい。本明細書で有用な抗体の抗原結合断片内で見られ得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な構成には、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CLが挙げられる。上で列挙された例示的な構成のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインのいずれの構成において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接結合されてもよいか、または完全もしくは部分ヒンジまたはリンカー領域により結合されてもよい。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子における隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性連鎖をもたらす、少なくとも2個(例えば、5、10、15、20、40、60個以上)のアミノ酸からなってもよい。さらに、本明細書で有用な抗体の抗原結合断片は、互いにおよび/または一つまたは複数の単量体VHもしくはVLドメインと(例えば、ジスルフィド結合により)非共有結合的会合で、上で列挙された可変ドメイン構成および定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(もしくは他の多量体)を含んでもよい。
【0073】
完全抗体分子と同様に、抗原結合断片は単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であってもよい。抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的に、少なくとも二つの異なる可変ドメインを含み、各々の可変ドメインは、別個の抗原、または同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多重特異性抗体フォーマットは、当該技術分野で利用可能な常套的な技術を使用して、本明細書で有用な抗体の抗原結合断片に関連した使用のために適合され得る。
【0074】
本明細書で有用な抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を介して機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下での本明細書で開示される抗体による抗原発現細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が、標的細胞上の結合抗体を認識し、それによって標的細胞の溶解をもたらす、細胞媒介性反応を指す。CDCおよびADCCは、当該技術分野で公知かつ利用可能であるアッセイを使用して測定され得る。(例えば、米国特許第5,500,362号および同第5,821,337号、ならびにClynes et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:652-656を参照されたい)。抗体の定常領域は、抗体が補体を固定し、細胞依存性細胞傷害を媒介する能力において重要である。したがって、抗体のアイソタイプは、抗体が細胞傷害を媒介することが望ましいかどうかに基づいて選択され得る。
【0075】
特定の実施形態では、本明細書で有用な抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体である。「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒト抗体は、例えばCDRにおいて、特にCDR3において、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基を含み得る(例えば、インビトロでの無作為もしくは部位特異的な突然変異誘発により、またはインビボでの体細胞変異により導入された変異)。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、マウスなどの別の哺乳類種の生殖系列由来のCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植されている抗体を含むようには意図されていない。
【0076】
本明細書に開示される方法による有用な抗体は、一部の実施形態では、組み換えヒト抗体であってもよい。「組み換えヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、組み換え手段によって、調製される、発現する、作成される、または単離されるすべてのヒト抗体、例えば、宿主細胞(以下で詳述する)中にトランスフェクトされた組み換え発現ベクターを用いて発現した抗体、組み換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリ(以下で詳述する)から単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照されたい)、または抗体ヒト免疫グロブリン遺伝子配列から他のDNA配列へスプライスすることを含むあらゆるその他の手段によって調製される、発現する、作成される、もしくは単離される抗体などを含むように意図される。その様な組み換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変領域および定常領域を有する。ある特定の実施形態では、しかしながら、その様な組み換えヒト抗体はインビトロでの突然変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニックな動物を使用する場合、インビボでの体細胞の突然変異誘発)に供されるため、組み換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH配列およびVL配列に由来し、関連する配列である一方で、インビボでのヒト抗体生殖系列レパートリー中には自然に存在し得ない。
【0077】
ヒト抗体は、ヒンジ不均一性に関連する二つの形態で存在し得る。一形態では、免疫グロブリン分子は、およそ150~160kDaの安定した四つの鎖構築物を含み、二量体は、鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持される。第二の形態では、二量体は、鎖間ジスルフィド結合を介して結合されず、約75~80kDaの分子は、共有結合した軽鎖および重鎖(半抗体)から構成される。これらの形態は、親和性精製後であっても、分離が非常に困難であった。
【0078】
様々なインタクトなIgGアイソタイプにおける第二の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造的差異によるが、これに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、第二の形態の出現を、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルまで著しく低減し得る(Angal et al.(1993)Molecular Immunology 30:105)。本開示は、ヒンジ、CH2領域またはCH3領域において一つまたは複数の変異を有する抗体を包含し、それら変異は、例えば、産生において、所望の抗体型の収率を改善するために望ましいものであり得る。
【0079】
本明細書で有用な抗体は、単離抗体であってもよい。本明細書において使用される場合、「単離抗体」とは、その天然環境の少なくとも一つの構成要素から特定され、および分離され、および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも一つの構成要素から、または当該抗体が自然に存在するか、もしくは自然に産生される組織もしくは細胞から分離された、または取り出された抗体は、本開示の目的で「単離抗体」である。単離抗体はまた、組み換え細胞内のインサイチュでの抗体を含む。単離抗体は、少なくとも一つの精製工程または単離工程を受けた抗体である。ある特定の実施形態によると、単離抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0080】
本明細書に開示される方法によれば有用な抗PSMA抗体および抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖の可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。そのような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認され得る。本開示は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、およびこれらの抗原結合断片を含み、一つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の一つまたは複数のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異する(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖細胞系変異」と称される)。当業者であれば、本明細書に開示される重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から開始して、一つまたは複数の個々の生殖系列変異またはそれらの組み合わせを含む、多くの抗体および抗原結合断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態では、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基の全てが、抗体が由来する元の生殖系列配列に見られる残基に復帰変異される。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8個のアミノ酸内、もしくはFR4の最後の8個のアミノ酸内に見られる変異残基のみ、またはCDR1、CDR2、もしくはCDR3内に見られる変異残基のみが、元の生殖系列配列に復帰変異される。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基のうちの一つまたは複数は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基に変異する。さらに、本明細書で有用な抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に二つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基が、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異する一方で、元の生殖系列配列とは異なる、ある特定の他の残基が維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異する。いったん得られれば、一つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合断片は、結合特異性の改善、結合アフィニティの増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または強化(場合により得る)、免疫原性の低減などの一つまたは複数の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られた抗体および抗原結合断片は、本開示に包含される。
【0081】
本明細書に提供される本方法によれば有用なのは、一つまたは複数の保存的置換を有する、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRのアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含有する抗PSMA/抗CD3抗体である。例えば、本開示は、本明細書の表1に記載されるHCVRアミノ酸配列、またはLCVRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗PSMA/抗CD3抗体を含む。
【0082】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域中の特定の抗原結合部位と相互作用する抗原性決定基を指す。単一の抗原は、二つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域に結合してもよく、異なる生物学的効果を有してもよい。エピトープは、立体構造的または直線状のいずれであってもよい。立体構造的エピトープは、直線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって生成される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接するアミノ酸残基によって生成されるエピトープである。ある特定の状況では、エピトープは、抗原上の糖、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0083】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはその断片を指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入または欠失と最適に整列した場合、以下で説明するように、FASTA、BLAST、またはGapなど、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定したときに、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似したアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしてもよい。
【0084】
ポリペプチドに適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、二つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを用いてプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なっている。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させない。二つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、配列同一性の百分率または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)含硫側鎖はシステインおよびメチオニンである、が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度行列において負以外の値を有する何らかの変化である。
【0085】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼称され、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を判定するための既定パラメータとともに使用することができるGapおよびBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間の最良重複の領域の整列および配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上述)。本明細書に開示された配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410、およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0086】
配列バリアント
本明細書で有用な二重特異性抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域における一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含む。
【0087】
本明細書でさらに有用なのは、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、およびその抗原結合断片であり、一つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の一つまたは複数のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基、または対応する生殖系列残基の保存的アミノ酸置換に変異し(そのような配列変化は、本明細書において集合的に「生殖系列変異」と称される)、抗原結合は弱いか、または検出できない。
【0088】
さらに、本明細書で有用な抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に二つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基が、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異する一方で、元の生殖系列配列とは異なる、ある特定の他の残基が維持されるか、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異する。いったん得られれば、一つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体および抗原結合断片は、結合特異性の改善、結合親和性が弱いまたは低下、薬物動態学的特性の改善または亢進、免疫原性の低下などの一つまたは複数の所望の特性について試験することができる。本開示のガイダンスを考慮してこの一般的な様式で得られた抗体および抗原結合断片は、本発明に包含される。
【0089】
本開示によれば有用なのは、一つまたは複数の保存的置換を有する、本明細書に提供されるHCVRアミノ酸配列またはLCVRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む二重特異性抗体である。本明細書で有用な抗体および二重特異性抗原結合分子は、所望の抗原結合特性を維持または改善しながら、個々の抗原結合ドメインが由来する対応する生殖系列配列と比較して、HCVRおよびLCVRのフレームワークおよび/またはCDR領域における一つまたは複数のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含む。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能特性を実質的に変化させない。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)含硫側鎖はシステインおよびメチオニンである、が挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、Gonnet et al、(1992) Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度行列において負以外の値を有する何らかの変化である。
【0090】
本開示はまた、所望の抗原親和性を維持または改善しながら、本明細書に開示されるHCVRアミノ酸配列および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一であるHCVRアミノ酸配列および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子も含む。「実質的な同一性」または「実質的に同一」という用語は、二つのアミノ酸配列が、既定のギャップ重みを使用したプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なっている。二つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、配列同一性の百分率または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照のこと。
【0091】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼称され、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似性の尺度を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を判定するための既定パラメータとともに使用することができるGapおよびBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間の最良重複の領域の整列および配列同一性パーセントを提供する(Pearson(2000)上述)。本明細書に開示された配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを用いるコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410、およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照のこと。
【0092】
いったん取得されると、一つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗原結合ドメインを、一つまたは複数のインビトロアッセイを利用して、結合親和性の減少について試験した。特定の抗原を認識する抗体は、典型的には、抗原に対する高い(すなわち、強い)結合親和性を試験することによってその目的のためにスクリーニングされるが、本明細書で有用な抗体は、弱い結合を示すか、または検出可能な結合を示さない。この一般的な様式で取得された一つまたは複数の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子も、本開示に包含され、結合力によって駆動された腫瘍療法として有利であることが見出された。
【0093】
予想外の利益、例えば、改善された薬物動態学的特性および患者への低毒性は、本明細書に記載される方法から実現され得る。
【0094】
抗体の結合特性
本明細書で使用される場合、抗体、免疫グロブリン、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質が、例えば、細胞表面タンパク質またはその断片などの所定の抗原のいずれかに結合するという関連において、「結合」という用語は、典型的には、抗体-抗原相互作用などの少なくとも二つの実体または分子構造間の相互作用または会合を指す。
【0095】
例えば、結合親和性は、典型的には、例えば、抗原をリガンドとし、抗体、Ig、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質を分析物(または抗リガンド)として用いるBIAcore 3000装置で表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって測定した場合、約10-7M以下、約10-8M以下、約10-9M以下などのKD値に相当する。蛍光活性化セルソーティング(FACS)結合アッセイなどの細胞ベースの結合戦略も日常的に使用され、FACSデータは、放射性リガンド競合結合およびSPRなどの他の方法とよく相関している(Benedict、CA、J Immunol Methods.1997、201(2):223-31;Geuijen、CA、et al.J Immunol Methods.2005,302(1-2):68-77)。
【0096】
したがって、本明細書に開示される抗体または抗原結合タンパク質は、非特異的抗原(例えば、BSA、カゼイン)への結合に対するその親和性の多くとも1/10であるKD値に対応する親和性を有する所定の抗原または細胞表面分子(受容体)に結合する。本開示によれば、非特異的抗原よりも10倍以下のKD値に相当する抗体の親和性は、検出不能結合とみなされ得るが、かかる抗体は、本明細書に開示される二重特異性抗体の産生のための第二の抗原結合アームとペアリングされ得る。
【0097】
「KD」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体もしくは抗体結合断片の解離平衡定数を指す。KDと結合親和性の間に逆関係があり、したがって、KD値が小さいほど、親和性が高い、すなわち、より強い。したがって、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、相互作用を形成するより高い能力、したがって、より小さなKD値に関し、逆に、「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、相互作用を形成するより低い能力、したがって、より大きなKD値に関する。一部の状況では、特定の分子(例えば、抗体)の相互作用パートナー分子(例えば、抗原X)に対する結合親和性(またはKD)が、その分子(例えば、抗体)の別の相互作用パートナー分子(例えば、抗原Y)に対する結合親和性と比較して高い場合、より大きなKD値(より低い、またはより弱い、親和性)を、より小さなKD値(より高い、またはより強い、親和性)で割ることによって決定される結合比で表すことができ、例えば、5倍または10倍高い結合親和性として表すことができる場合がある。
【0098】
「kd」(sec -1または1/s)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の解離速度定数を指す。この値は、koff値とも呼ばれている。
【0099】
「ka」(M-1 x sec -1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合速度定数を指す。
【0100】
「KA」(M-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合平衡定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kaをkdで割ることによって得られる。
【0101】
「EC50」または「EC50」という用語は、指定された曝露時間後にベースラインと最大値との中間の反応を誘発する抗体の濃度を含む、半最大有効濃度を指す。EC50は基本的に、その最大効果の50%が観察される抗体の濃度を表す。特定の実施形態では、EC50値は、例えば、FACS結合アッセイによって決定される、CD3または腫瘍関連抗原を発現する細胞への半最大結合を付与する、本明細書に開示される抗体の濃度と等しい。したがって、EC50または半最大有効濃度値が大きくなると、結合の低下または弱化が観察される。
【0102】
一実施形態では、結合の減少は、最大量の半分の標的細胞への結合を可能にするEC50抗体濃度の増加として定義することができる。
【0103】
別の実施形態では、EC50値は、T細胞の細胞傷害活性による標的細胞の最大の半分の枯渇を誘発する抗体の濃度を表す。したがって、細胞傷害活性の増加(例えば、T細胞媒介腫瘍細胞殺傷)は、EC50、または半最大有効濃度値の減少と共に観察される。
【0104】
二重特異性抗原結合分子
本明細書で有用な抗体は、単一特異性、二重特異性、または多特異性であってもよい。多重特異性抗体は、一つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であってもよく、または複数の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有してもよい。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69;Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。本明細書で有用な抗PSMA/抗CD3二重特異性抗体は、別の機能的分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質と連結または共発現することができる。例えば、抗体またはその断片は、例えば別の抗体または抗体断片などの、一つまたは複数の他の分子実体に、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、または非共有結合的会合、またはその逆により)機能的に連結して、第二のまたは追加の結合特異性を有する二重特異性、または多特異性の抗体を産生することができる。
【0105】
本明細書における「抗CD3抗体」または「抗PSMA抗体」という表現の使用は、単一特異性抗CD3抗体または抗PSMA抗体、ならびにCD3結合アームおよびPSMA結合アームを含む二重特異性抗体の両方を含むことが意図される。したがって、本開示は、例えば、米国特許第10,179,819号に記載される抗PSMA抗体など、PSMAに結合する単一特異性抗体を含む。例示的な抗PSMA抗体としては、米国特許第10,179,819号に開示されているH1H11810P抗体、およびH1H11810抗体内のCDRを含む抗体が挙げられる。さらに、本開示は、免疫グロブリンの一つのアームはヒトCD3に結合し、免疫グロブリンの他方のアームがヒトPSMAに特異的である、二重特異性抗体を含む。本明細書に提供される方法による有用な二重特異性抗体の例示的な配列を表1に示す。
【0106】
特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に結合し、ヒトT細胞活性化を誘発する。特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、ヒトT細胞活性化を誘発する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、二重特異性抗体または多重特異性抗体との関連で、腫瘍関連抗原発現細胞の死滅を誘発する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトおよびカニクイザル(サル)CD3と弱く結合または会合するが、結合相互作用は、当該技術分野で公知のインビトロアッセイでは検出できない。
【0107】
ある特定の例示的な実施形態によると、本開示は、CD3およびPSMAに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。そのような分子は、本明細書では、例えば、「抗CD3/抗PSMA」、または「抗CD3xPSMA」、または「CD3xPSMA」二重特異性分子、または他の類似の用語(例えば、抗PSMA/抗CD3)で呼んでもよい。
【0108】
本明細書で使用される場合、「PSMA」という用語は、非ヒト種(例えば、「マウスPSMA」、「サルPSMA」など)由来であると指定されない限り、ヒトPSMAタンパク質を指す。
【0109】
CD3およびPSMAに特異的に結合する前述の二重特異性抗原結合分子は、インビトロ親和性結合アッセイによって測定された場合、約40nMを超えるKDを呈するなど、弱い結合親和性でCD3に結合する抗CD3抗原結合分子を含んでもよい。
【0110】
本明細書で使用される場合、「抗原結合分子」という表現は、単独で、または一つまたは複数の追加のCDRおよび/またはフレームワーク領域(FR)との組み合わせで、特定の抗原に特異的に結合する、少なくとも一つの相補性決定領域(CDR)を含むか、またはそれからなる、タンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。特定の実施形態では、抗原結合分子は、抗体または抗体の断片であり、それらの用語は本明細書の他の場所で定義される。
【0111】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗原結合分子」という表現は、少なくとも第一の抗原結合ドメインと第二の抗原結合ドメインとを含むタンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、または一つまたは複数の追加のCDRおよび/またはFRとの組み合わせで、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも一つのCDRを含む。本開示の文脈において、第一の抗原結合ドメインは、第一の抗原(例えば、CD3)に特異的に結合し、第二の抗原結合ドメインは、第二の別個の抗原(例えば、PSMA)に特異的に結合する。
【0112】
ある特定の例示的な実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)および軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第一および第二の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)の文脈において、第一の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A1」を伴って示され得、第二の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A2」を伴って示され得る。したがって、第一の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書ではA1-HCDR1、A1-HCDR2、およびA1-HCDR3と称され得、第二の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書ではA2-HCDR1、A2-HCDR2、およびA2-HCDR3と称され得る。
【0113】
第一の抗原結合ドメインおよび第二の抗原結合ドメインは、互いに直接的または間接的に接続されて、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子を形成し得る。あるいは、第一の抗原結合ドメインおよび第二の抗原結合ドメインは、各々別個の多量体形成ドメイン(multimerizing domain)に接続されてもよい。一つの多量体形成ドメインと別の多量体形成ドメインとの会合は、二つの抗原結合ドメイン間の会合を促進し、それによって二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書で使用される場合、「多量体形成ドメイン」は、同じかまたは同様の構造または構成の第二の多量体形成ドメインと会合する能力を有する、任意の巨大分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。例えば、多量体形成ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってもよい。多量体形成成分の非限定的な例は、(CH2~CH3ドメインを含む)免疫グロブリンのFc部分、例えば、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびに各アイソタイプ群内の任意のアロタイプから選択されるIgGのFcドメインである。
【0114】
本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子は、典型的には、二つの多量体形成ドメイン、例えば、別個の抗体重鎖の各々個々の部分である二つのFcドメインを含むであろう。第一および第二の多量体形成ドメインは、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などの同じIgGアイソタイプのものであってもよい。あるいは、第一および第二の多量体形成ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4などの異なるIgGアイソタイプのものであってもよい。
【0115】
ある特定の実施形態では、多量体形成ドメインは、Fc断片、または少なくとも一つのシステイン残基を含有する1~約200のアミノ酸長のアミノ酸配列である。他の実施形態では、多量体形成ドメインは、システイン残基、または短いシステイン含有ペプチドである。その他の多量体形成ドメインとして、ロイシンジッパー、ヘリックス・ループ・モチーフ、またはコイルドコイル・モチーフを含むか、またはこれらからなるペプチドまたはポリペプチドが挙げられる。
【0116】
本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子を作製するために、任意の二重特異性抗体フォーマットまたは技術を使用してもよい。例えば、第一の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片は、第二の結合特異性を有する別の抗体または抗体断片などの一つまたは複数の他の分子実体に、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、または非共有結合的会合、またはその他の方法により)機能的に連結して、二重特異性抗原結合分子を生成することができる。本開示の文脈で使用され得る特定の例示的な二重特異性フォーマットとしては、非限定的に、例えば、scFvベースまたはダイアボディ二重特異性フォーマット(diabody bispecific format)、IgG-scFv融合体、二重可変領域(DVD)-Ig、クアドローマ(Quadroma)、ノブ・イントゥ・ホール(knobs-into-holes)、共通軽鎖(例えば、ノブ・イントゥ・ホールを有する共通軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、デュオボディ(Duobody)、IgG1/IgG2、二重作用Fab(DAF)-IgG、およびMab2二重特異性フォーマット(例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、およびそこで引用される参考文献を、前述のフォーマットの考察のために参照されたい)が挙げられる。
【0117】
本明細書に有用な二重特異性抗原結合分子に関連して、多量体形成ドメイン、例えば、Fcドメインは、野生型であるFcドメインの天然に存在するバージョンと比較して、一つまたは複数のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失または置換)を含み得る。例えば本開示は、FcとFcRnとの間の修飾された結合相互作用(例えば、強化または減少)を有する修飾されたFcドメインをもたらす、Fcドメイン中に一つまたは複数の修飾を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、CH2領域またはCH3領域に修飾を含み、この修飾は、酸性環境(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソーム)においてFcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのようなFc修飾の非限定的な例には、例えば、250位(例えば、EもしくはQ)、250位および428位(例えば、LもしくはF)、252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254位(例えば、SもしくはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)における修飾、または428位および/もしくは433位(例えば、L/R/S/P/QもしくはK)および/もしくは434位(例えば、H/FもしくはY)における修飾、または250位および/もしくは428位における修飾、または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位における修飾が含まれる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)修飾、250Qおよび428L修飾(例えば、T250QおよびM428L)、ならびに307および/または308修飾(例えば、308Fおよび/または308P)を含む。
【0118】
本開示はまた、第一のIg CH3ドメインおよび第二のIg CH3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第一および第二のIg CH3ドメインが、少なくとも一つのアミノ酸で互いに異なり、少なくとも一つのアミノ酸の差異が、アミノ酸の差異を欠く二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を減少させる。一実施形態では、第一のIg CH3ドメインはプロテインAに結合し、第二のIg CH3ドメインは、例えばH95R(IMGTエクソンナンバリングによる;EUナンバリングではH435R)修飾などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第二のCH3はさらに、Y96F修飾(IMGTによる、EUではY436F)を含んでもよい。例えば、米国特許第8,586,713号を参照されたい。第二のCH3に見られ得るさらなる修飾としては、以下が挙げられる:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる、EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGT、EUではN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる、EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)。
【0119】
ある特定の実施形態では、Fcドメインは、二つ以上の免疫グロブリンアイソタイプに由来するFc配列を組み合わせたキメラであってもよい。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4 CH2領域に由来するCH2配列の一部またはすべて、およびヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4に由来するCH3配列の一部またはすべてを含み得る。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域を含有し得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列と組み合わせられたヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」配列を含み得る。本明細書に表される抗原結合分子のうちのいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの特定の例は、N-末端からC末端に向かって [IgG4 CH1]-[IgG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG4 CH3]を含む。本明細書に表される抗原結合分子のうちのいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N-末端からC末端に向かって [IgG1 CH1]-[IgG1上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4 CH2]-[IgG1 CH3]を含む。本明細書に有用な抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれらおよび他の例は、2014年8月28日に公開された米国特許出願第2014/0243504号に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。これらの一般的な構造的配置を有するキメラFcドメインおよびそのバリアントは、変化したFc受容体結合を有し得、その結果Fcエフェクター機能に影響を与える。
【0120】
pH依存的結合
本開示は、pH依存的結合特性を有する、抗PSMA抗体および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子の抗PSMAアームは、中性pHと比較して酸性pHでPSMAへの結合の減少を示し得る。あるいは、本明細書で有用な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、中性pHと比較して酸性pHでPSMAへの結合の強化を示し得る。「酸性pH」という表現には、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5.9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0またはそれ未満のpH値が含まれる。本明細書で使用される場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現には、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値が含まれる。
【0121】
ある特定の例では、「中性pHと比較して酸性pHで……への結合の減少」は、酸性pHでその抗原に結合する抗体のKD値と、中性pHでその抗原に結合する抗体のKD値との比(またはその逆)で表される。例えば、抗体またはその抗原結合断片は、抗体またはその抗原結合断片が、約3.0以上の酸性/中性KD比を呈する場合、本開示の目的のために、「中性pHと比較して酸性pHでPSMAへの結合の減少」を示すとみなされ得る。特定の例示的な実施形態では、抗体または抗原結合断片に対する酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0またはそれを超えたものとすることができる。
【0122】
pH依存的結合特性を有する抗体は、例えば、中性pHと比べて酸性のpHにおいて、特定の抗原との結合減少(または結合増大)に対して抗体の集合をスクリーニングすることによって得ることができる。加えて、アミノ酸レベルにおける抗原結合ドメインの修飾は、pH依存的特性を有する抗体を産生し得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えば、CDR内)の一つまたは複数のアミノ酸をヒスチジン残基によって置換することによって、中性pHと比べ酸性pHにおいて減少した抗原結合を有する抗体を得ることができる。
【0123】
Fcバリアントを含む抗体
本明細書で有用な特定の実施形態によると、例えば、中性pHと比較して酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を強化する、または減少させる一つまたは複数の変異を含むFcドメインを含む、抗PSMA抗体および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が提供される。例えば、本開示は、FcドメインのCH2またはCH3領域に変異を含む抗体を含み、変異は、酸性環境において(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソームにおいて)FcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる。そのような変異は、動物に投与されたときに抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。そのようなFc修飾の非限定的な例には、例えば、250位(例えば、EもしくはQ)、250位および428位(例えば、LもしくはF)、252位(例えば、L/Y/F/WもしくはT)、254位(例えば、SもしくはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DもしくはT)における修飾、または428位および/もしくは433位(例えば、H/L/R/S/P/QもしくはK)および/もしくは434位(例えば、H/FもしくはY)における修飾、または250位および/もしくは428位における修飾、または307位もしくは308位(例えば、308F、V308F)、および434位における修飾が含まれる。一実施形態では、修飾は、428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)修飾、250Qおよび428L修飾(例えば、T250QおよびM428L)、ならびに307および/または308修飾(例えば、308Fおよび/または308P)を含む。
【0124】
例えば、本開示は、以下からなる群から選択される変異の一つまたは複数の対または群を含むFcドメインを含む、抗PSMA抗体および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む:250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L);252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E);428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S);ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)。前述のFcドメイン変異、および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異の全ての可能な組み合わせが、本開示の範囲内であることが企図される。
【0125】
抗体および二重特異性抗原結合分子の生物学的特徴
本開示によれば有用なのは、CD3発現ヒトT細胞および/またはヒトPSMAと高い親和性(例えば、ナノモル濃度以下のKD値)で結合する単一特異性および二重特異性抗体ならびにその抗原結合断片である。かかる抗体およびその特性は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第10,179,819号に開示されている。かかる二重特異性抗体は、腫瘍の治療において抗4-1BBアゴニストとの組み合わせで特に有用である。
【0126】
本明細書で有用なのは、抗PSMA抗体および抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子であり、これらは、以下からなる群から選択される一つまたは複数の特徴を呈する:(a)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫不全マウスにおける腫瘍増殖を阻害すること、(b)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫能力のあるマウスにおける腫瘍増殖を阻害すること、(c)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫不全マウスにおける腫瘍増殖を抑制すること、および(d)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫能力のあるマウスにおける定着腫瘍の腫瘍増殖を減少させること(例えば、米国特許第10,179,819号、実施例8を参照のこと)。
【0127】
本明細書で有用なのは、治療状況および所望の特定の標的化特性に応じて、ヒトCD3に中程度または低い親和性で結合する抗体およびその抗原結合断片である。例えば、一方のアームがCD3に結合し、他方のアームが標的抗原(例えば、PSMA)に結合する二重特異性抗原結合分子に関連して、標的抗原結合アームが高い親和性で標的抗原に結合する一方で、抗CD3アームが中程度または低い親和性のみでCD3に結合することが望ましい場合がある。このように、標的抗原を発現する細胞に対する抗原結合分子の優先的標的化は、一般的/非標的化CD3結合およびそれに関連する結果として生じる有害な副作用を回避しながら達成され得る。
【0128】
本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)は、ヒトCD3およびヒトPSMAに同時に結合することができる。CD3を発現する細胞と相互作用する結合アームは、適切なインビトロ結合アッセイで測定した場合、検出可能な結合が弱いか、まったくない場合がある。二重特異性抗原結合分子がCD3および/またはPSMAを発現する細胞に結合する程度は、米国特許第10,179,819号、実施例5に示されるように、蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって評価することができる。
【0129】
例えば、本明細書で有用なのは、CD3を発現するが、PSMAを発現しないヒトT細胞株(例えば、Jurkat)、霊長類T細胞(例えば、カニクイザル末梢血単核細胞[PBMC])、および/またはPSMA発現細胞に特異的に結合する、その二重特異性抗体である。本明細書で有用なのは、米国特許第10,179,819号、実施例5に記載されるFACS結合アッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定される場合、約1.8x10-8(18nM)~約2.1x10-7(210nM)またはそれより高いEC50値(すなわち、より弱い親和性)または検出不可能なEC50で、前述のT細胞およびT細胞株のいずれかに結合する二重特異性抗原結合分子である。また、本明細書で有用なのは、米国特許第10,179,819号、実施例5に記載されるFACS結合アッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定される場合、5.6nM(5.6×10-9)以下のEC50値で、PSMA発現細胞および細胞株に結合する二重特異性抗体である。
【0130】
一部の態様では、二重特異性抗体は、弱い(すなわち、低い)、または検出不可能な親和性でさえもヒトCD3に結合する。ある特定の実施形態によると、本開示は、表面プラズモン共鳴によって測定される場合、約11nMを超えるKDでヒトCD3(例えば、37℃)に結合する抗体および抗体の抗原結合断片を含む。
【0131】
一部の態様では、二重特異性抗体は、弱い(すなわち、低い)、または検出不可能な親和性でさえもサル(すなわち、カニクイザル)CD3に結合する。
【0132】
一部の態様では、二重特異性抗体は、ヒトCD3に結合し、T細胞活性化を誘発する。例えば、特定の抗CD3抗体は、インビトロのT細胞活性化アッセイで測定する場合、約113pM未満のEC50値でヒトT細胞活性化を誘発する。
【0133】
本明細書で有用な二重特異性抗体は、ヒトCD3に結合し、T細胞媒介腫瘍抗原発現細胞殺傷を誘導することができる。例えば、本開示は、インビトロのT細胞媒介腫瘍細胞殺傷アッセイで測定される場合、約1.3nM未満のEC50でT細胞媒介腫瘍細胞殺傷を誘導する二重特異性抗体を含む。
【0134】
本明細書で有用な二重特異性抗体は、25℃または37℃で表面プラズモン共鳴によって測定されるとき、約10分未満の解離半減期(t1/2)でCD3に結合することができる。
【0135】
本明細書で有用な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、(a)インビトロでPBMCの増殖を誘導すること、(b)ヒト全血中でIFN-ガンマ放出およびCD25アップレギュレーションの誘導を介してT細胞を活性化すること、および(c)抗PSMA耐性細胞株に対してT細胞媒介細胞傷害を誘導することからなる群から選択される一つまたは複数の特徴をさらに示し得る。
【0136】
本開示は、対象において腫瘍抗原発現細胞を枯渇させることができる抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む(例えば、米国特許第10,179,819号、実施例8を参照)。例えば特定の実施形態によれば、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子が提供され、患者当たり1μg、または10μg、または100μg、または1mg、3mg、5mg、10mg、30mg、50mg、100mg、300mg、または500mgの二重特異性抗原結合分子の対象への単回投与は(例えば、約5mg/kg、約2.5mg/kg、約1mg/kg、約0.1mg/kg、約0.08mg/kg、約0.06mg/kg、約0.04mg/kg、約0.02mg/kg、約0.01mg/kgまたはそれ未満の用量で)、対象(例えば、対象において腫瘍増殖が抑制または阻害されている)におけるPSMA発現細胞の数を検出可能なレベル未満に減少させる。特定の実施形態では、約0.4mg/kgの用量での抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、対象への二重特異性抗原結合分子の投与後、約7日目、約6日目、約5日目、約4日目、約3日目、約2日目、または約1日目までに、対象における腫瘍増殖を検出可能なレベル未満に減少させる。特定の実施形態によれば、少なくとも約0.01mg/kgの用量での本明細書に開示される抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子の単回投与は、投与後少なくとも約7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日またはそれより長い期間まで、PSMA発現腫瘍細胞の数を検出可能なレベル未満にとどまらせる。本明細書で使用される場合、「検出可能なレベル未満」という表現は、例えば、本明細書の米国特許第10,179,819号、実施例8に記載されるような標準的なキャリパー測定方法を使用して、対象において皮下に増殖する腫瘍細胞を直接的にも間接的にも検出できないことを意味する。
【0137】
また、本明細書に提供された方法によれば有用なのは、抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子であり、これらは、以下からなる群から選択される一つまたは複数の特徴を呈する:(a)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫不全マウスにおける腫瘍増殖を阻害すること、(b)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫能力のあるマウスにおける腫瘍増殖を阻害すること、(c)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫不全マウスにおける腫瘍の腫瘍増殖を抑制すること、および(d)ヒト前立腺癌異種移植片を有する免疫能力のあるマウスにおける定着腫瘍の腫瘍増殖を減少させること(例えば、米国特許第10,179,819号、実施例8を参照のこと)。例示的な抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子は、さらに、(a)循環サイトカインの一過性の用量依存的な増加の誘導、および(b)循環T細胞における一過性の減少の誘導からなる群から選択される一つまたは複数の特徴を呈することができる。
【0138】
エピトープマッピングおよび関連技術
本明細書で有用な抗原結合分子が結合するCD3および/またはPSMAエピトープは、CD3またはPSMAタンパク質の3個以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれより多く)のアミノ酸の単一連続配列からなる場合もある。あるいは、エピトープは、CD3またはPSMAの複数の非連続的アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなる場合もある。本明細書に開示される方法によれば有用な抗体は、単一のCD3鎖(例えば、CD3-エプシロン、CD3-デルタ、またはCD3-ガンマ)内に含有されるアミノ酸と相互作用するか、または二つ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用し得る。本明細書で使用する場合、「エピトープ」という用語は、パラトープとして知られる抗体分子の可変領域中の特定の抗原結合部位と相互作用する抗原性決定基を指す。単一の抗原は、二つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域に結合してもよく、異なる生物学的効果を有してもよい。エピトープは、立体構造的または直線状のいずれであってもよい。立体構造的エピトープは、直線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって生成される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖内の隣接するアミノ酸残基によって生成されるエピトープである。ある特定の状況では、エピトープは、抗原上の糖、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0139】
当業者にとって公知の様々な技法を使用して、抗体の抗原結合ドメインが、ポリペプチドまたはタンパク質内の「一つまたは複数のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies、Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harb.、NY)に記載されているような常套的な交差遮断アッセイ、アラニンスキャニング変異解析、ペプチドブロット解析(Reineke、2004、Methods Mol Biol 248:443-463)、およびペプチド切断解析などが挙げられる。さらに、抗原のエピトープ切り出し、エピトープ抽出、および化学修飾などの方法を用いることができる(Tomer、2000、Protein Science 9:487~496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために使用することができる別の方法は、質量分析により検出される水素/重水素交換である。一般的な用語において、水素/重水素交換方法は、対象タンパク質を重水素で標識すること、続いて重水素で標識したタンパク質に抗体を結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体は水に移され、抗体によって保護された残基(重水素標識のまま残る)を除く全ての残基で、水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質はプロテアーゼ切断および質量分析解析を受け、抗体が相互作用する特異的なアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical Biochemistry 267(2):252-259;Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A~265Aを参照されたい。抗原/抗体複合体のX線結晶構造解析も、エピトープマッピングの目的に使用され得る。
【0140】
本明細書で有用な例示的な二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3および/またはカニクイザルCD3に低いまたは検出可能な結合親和性で特異的に結合する第一の抗原結合ドメインと、ヒトPSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインとを含むことができ、第一の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じCD3上のエピトープに結合し、および/または第二の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的なPSMA特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じPSMA上のエピトープに結合する。
【0141】
同様に、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3に特異的に結合する第一の抗原結合ドメインと、ヒトPSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインとを含むことができ、第一の抗原結合ドメインは、本明細書の表1に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかとCD3への結合に関して競合し、および/または第二の抗原結合ドメインは、本明細書の表1に記載の特定の例示的なPSMA特異的抗原結合ドメインのいずれかとPSMAへの結合に関して競合する。
【0142】
特定の抗原結合分子(例えば、抗体)またはその抗原結合ドメインが、本開示の参照抗原結合分子と同じエピトープに結合するか、または結合について競合するかどうかは、当業者に公知の日常的な方法を使用することにより、容易に決定することができる。例えば、試験抗体が、本開示の参照二重特異性抗原結合分子と同じPSMA(またはCD3)上のエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照二重特異性分子は、最初にPSMAタンパク質(またはCD3タンパク質)に結合させられる。次に、PSMA(またはCD3)分子に結合する試験抗体の能力が評価される。参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合後に試験抗体がPSMA(またはCD3)に結合できる場合、試験抗体は、参照二重特異性抗原結合分子とは異なるPSMA(またはCD3)のエピトープに結合すると結論付けることができる。一方で、参照二重特異性抗原結合分子との飽和結合後に試験抗体がPSMA(またはCD3)分子に結合できない場合、試験抗体は、参照二重特異性抗原結合分子により結合されるエピトープと同じPSMA(またはCD3)のエピトープに結合する可能性がある。追加の日常的な実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実施して、観察された試験抗体の結合の欠落が実際に、参照二重特異性抗原結合分子と同じエピトープに結合することが原因であるのか、または立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠落の原因であるのかを確認することができる。この種類の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、または当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的または定性的抗体結合アッセイを使用して実施することができる。本開示の特定の実施形態によると、もしも、例えば、1、5、10、20、または100倍過剰な一方の抗原結合タンパク質が、競合結合アッセイで測定されるように、少なくとも50%、しかし好ましくは75%、90%、またはさらには99%だけ他方の結合を阻害する場合、二つの抗原結合タンパク質は同一(または重複)エピトープに結合する(例えば、Junghans et al.、Cancer Res.1990:50:1495~1502を参照されたい)。別の方法として、一方の抗原結合タンパク質の結合を減少または除去する抗原中の本質的に全てのアミノ酸突然変異が、他方の結合を減少または除去する場合、二つの抗原結合タンパク質は同一エピトープに結合するとみなされる。一方の抗原結合タンパク質の結合を減少または除去するアミノ酸変異のサブセットのみが、他方の結合を減少または除去する場合、二つの抗原結合タンパク質は「重複エピトープ」を有すると見なされる。
【0143】
抗体またはその抗原結合ドメインが、参照抗抗原結合分子と結合に関して競合するかどうかを決定するために、以下の二つの方向性で上述の結合技法が実施される:第一の方向性では、参照抗原結合分子は、飽和条件下でPSMAタンパク質(またはCD3タンパク質)に結合し、その後、PSMA(またはCD3)分子への試験抗体の結合を評価することができる。第二の方向性では、試験抗体は、飽和条件下でPSMA(またはCD3)分子に結合し、その後、PSMA(またはCD3)分子への参照抗原結合分子の結合を評価することができる。両方の方向性で、第一の(飽和)抗原結合分子のみがPSMA(またはCD3)分子に結合することができた場合、試験抗体および参照抗原結合分子は、PSMA(またはCD3)への結合について競合すると結論付けられる。当分野の当業者によって理解されるように、参照抗原結合分子への結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同じエピトープに結合しなくてよく、重複したエピトープまたは隣接するエピトープを結合することによって参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
【0144】
抗原結合ドメインの調製および二重特異性分子の構築
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当技術分野で公知の任意の抗体生成技術によって調製され得る。いったん取得すると、二つの異なる抗原(例えば、CD3およびPSMA)に特異的な二つの異なる抗原結合ドメインを互いに適切に配置して、日常的な方法を使用して二重特異性抗原結合分子を産生することができる。(本開示の二重特異性抗原結合分子を構築するために使用できる例示的な二重特異性抗体フォーマットの考察が、本明細書の他の場所に提供されている)。特定の実施形態では、多重特異性抗原結合分子の個々の成分(例えば、重鎖および軽鎖)のうちの一つまたは複数は、キメラ抗体、ヒト化抗体、または完全ヒト抗体に由来する。そのような抗体を作製する方法は、当技術分野で周知である。例えば、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子の重鎖および/または軽鎖のうちの一つまたは複数を、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製することができる。VELOCIMMUNE(商標)技術(例えば、米国特許第6,596,541号、Regeneron Pharmaceuticals、VELOCIMMUNE(登録商標)または他の任意のヒト抗体生成技術を参照)を使用して、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有する特定の抗原(例えば、CD3またはPSMA)に対する高親和性キメラ抗体が、最初に単離される。抗体は、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けられ、選択される。マウス定常領域は、所望のヒト定常領域と置換されて、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子に組み込むことができる完全ヒト重鎖および/または軽鎖を生成する。
【0145】
遺伝子操作された動物を使用して、ヒト二重特異性抗原結合分子を作製してもよい。例えば、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再配列および発現することができない遺伝子改変マウスを使用してもよく、このマウスは、内因性マウスカッパ座位でマウスカッパ定常遺伝子に動作可能に連結されたヒト免疫グロブリン配列によってコードされる一つまたは二つのヒト軽鎖可変ドメインのみを発現する。かかる遺伝子改変マウスを使用して、二つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの一つに由来する可変ドメインを含む、同一の軽鎖と会合する二つの異なる重鎖を含む、完全ヒト二重特異性抗原結合分子を産生することができる。(例えば、かかる操作されたマウスおよび二重特異性抗原結合分子を作製するためのその使用に関する詳細な考察については、米国特許第10,143,186号を参照のこと)。
【0146】
生物学的等価物
本開示の方法は、本明細書に開示される例示的な分子のものとは異なるが、CD3および/またはPSMAに結合する能力を保持するアミノ酸配列を有する抗原結合分子の使用を企図する。このようなバリアント分子は、親配列と比較してアミノ酸の一つまたは複数の付加、欠失、または置換を含み得るが、記載された二重特異性抗原結合分子の生物学的活性とは本質的に等価である生物学的活性を呈する。
【0147】
本明細書で有用なのは、本明細書の表1に記載される例示的な抗原結合分子のいずれかと生物学的に等価である抗原結合分子である。二つの抗原結合タンパク質、または抗体は、例えば類似の実験条件下、同じモル用量で、単一用量または複数用量のいずれかで投与されたとき、吸収の速度および程度が著しい差異を示さない薬学的等価物または薬学的代替物である場合、生物学的に等価であるとみなされる。一部の抗原結合タンパク質は、これらの吸収の程度は同等であるがこれらの吸収速度は同等ではない場合、等価物または薬学的代替物とみなされ、さらに、吸収速度のこのような差異が、意図的であり、標識に反映されており、例えば、慢性使用において有効身体薬物濃度の獲得に不可欠ではなく、研究した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないとみなされるため、生物学的に等価であるとみなされ得る。
【0148】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、または有効性において臨床的に有意性のある差がない場合、生物学的に等価である。
【0149】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、参照製品と生物学的製品の間での一回以上の切り替えを行わない持続的療法と比較して、免疫原性の臨床的に有意な変化を含む有害作用のリスクの予想される上昇または有効性の減退が生じずに、患者がそのような切り替えを行うことができる場合、生物学的に等価である。
【0150】
一実施形態では、二つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、一つまたは複数の使用条件について、一つまたは複数の共通の作用機序によって、このような機序が公知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0151】
生物学的等価性は、インビボおよびインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性測定法には、例えば、(a)抗体またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボでの試験、(b)ヒトのインビボでの生物学的利用能データと相関し、このデータを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、および(d)抗原結合タンパク質の安全性、有効性、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0152】
本明細書に記載される例示的な二重特異性抗原結合分子の生物学的に等価なバリアントは、例えば、残基もしくは配列の様々な置換を生じること、または生物学的活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の文脈では、生物学的に等価の抗原結合タンパク質には、分子のグリコシル化特性を修飾するアミノ酸変化、例えば、グリコシル化を排除または除去する変異を含む、本明細書に記載される例示的な二重特異性抗原結合分子のバリアントが含まれ得る。
【0153】
種選択性および種交差反応性
特定の実施形態によれば、本明細書で有用な二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3には結合するが、他の種由来のCD3には結合しない。また本明細書で有用なのは、ヒトPSMAには結合するが、他の種由来のPSMAには結合しない抗原結合分子である。本開示の方法はまた、ヒトCD3および一つまたは複数の非ヒト種由来のCD3に結合する二重特異性抗原結合分子、および/またはヒトPSMAおよび一つまたは複数の非ヒト種由来のPSMAに結合する二重特異性抗原結合分子の使用を企図するものである。
【0154】
特定の例示的な実施形態によれば、本明細書で有用な抗原結合分子は、ヒトCD3および/またはヒトPSMAに結合し、場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、またはチンパンジーCD3および/またはPSMAのうちの一つまたは複数に結合したりしなかったりする場合がある。例えば、本開示の特定の例示的な実施形態では、ヒトCD3およびカニクイザルCD3に結合する第一の抗原結合ドメイン、およびヒトPSMAに特異的に結合する第二の抗原結合ドメインを含む、二重特異性抗原結合分子が提供される。
【0155】
免疫PET撮像用の抗PSMA/抗CD3抗原結合分子の放射性標識された免疫コンジュゲート
本明細書では、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3抗原結合分子に結合する放射性標識された抗原結合タンパク質が提供される。一部の実施形態では、放射性標識された抗原結合タンパク質は、陽電子放出体に共有結合した抗原結合タンパク質を含む。一部の実施形態では、放射性標識された抗原結合タンパク質は、一つまたは複数のキレート部分に共有結合した抗原結合タンパク質を含み、キレート部分は、陽電子放出体をキレート化することができる化学部分である。
【0156】
好適な放射性標識された抗原結合タンパク質、例えば、放射性標識された抗体には、放射性標識された抗原結合タンパク質への曝露時に、T細胞機能を損なわないか、または実質的に損なわないものが含まれる。一部の実施形態では、抗PSMA/抗CD3抗原結合分子に結合する放射性標識された抗原結合タンパク質は、CD3のT細胞機能の弱いブロッカーであり、すなわち、放射性標識された抗体への曝露時に、T細胞機能が損なわれないか、または実質的に損なわれない。本明細書に提供される方法によるCD3媒介T細胞機能に対する最小限の影響を有する放射性標識された抗CD3結合タンパク質の使用は、この分子で処置された対象が、そのT細胞が感染を一掃できないことによって不利益にならないことを確実にする。
【0157】
一部の実施形態では、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3抗原結合分子、例えば、二重特異性抗体が提供され、該抗原結合タンパク質は、以下の構造を有する一つまたは複数の部分に共有結合されており、
-L-MZ
式中、Lはキレート部分であり、Mは陽電子放出体であり、zは各出現において独立して0または1であり、zのうちの少なくとも一つは1である。
【0158】
一部の実施形態では、放射性標識された抗原結合タンパク質は、式(I)の化合物であり、
M-L-A-[L-MZ]k
(I)
Aは、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3抗原結合分子であり、Lはキレート部分であり、Mは陽電子放出体であり、zは0または1であり、kは0~30の整数である。一部の実施形態では、kは1である。一部の実施形態では、kは2である。
【0159】
特定の実施形態では、放射性標識された抗原結合タンパク質は、式(II)の化合物であり、
A-[L-M]k
(II)
式中、Aは抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3抗原結合分子であり、Lはキレート部分であり、Mは陽電子放出体であり、kは1~30の整数である。
【0160】
一部の実施形態では、以下の構造を有するコンジュゲートを含む組成物が本明細書に提供されており、
A-Lk
式中、Aは、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3抗原結合分子であり、Lはキレート部分であり、kは1~30の整数であり、このコンジュゲートは、臨床的なPET撮像に好適な比放射能を提供するのに十分な量の陽電子放出体でキレート化されている。
【0161】
適切なキレート部分、および陽電子放出体は、以下に提供されている。
【0162】
陽電子放出体およびキレート部分
好適な陽電子放出体としては、キレート部分と安定した複合体を形成し、免疫PET撮像の目的に適切な物理的半減期を有するものが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な陽電子放出体には、89Zr、68Ga、64Cu、44Sc、および86Yが挙げられるが、これらに限定されない。適切な陽電子放出体にはまた、76Brおよびに124Iなどを含むが、これらに限定されない抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子と直接結合するもの、ならびに補欠分子族、例えば、18Fを介して導入されるものが挙げられる。
【0163】
本明細書に記載のキレート部分は、抗PSMA/抗CD3抗原結合分子に共有結合された化学的部分であり、陽電子放出体とキレート化することができ、すなわち陽電子放出体と反応して、配位キレート錯体を形成することができる部分を含む。適切な部分には、特定の金属の効率的な負荷を可能にし、診断上の使用のために、インビボで、例えば、免疫PET撮像に、十分に安定した金属キレート剤錯体を形成するものが含まれる。例示的キレート部分には、陽電子放出体の解離および骨ミネラル、血漿タンパク質、ならびに/または骨髄沈着における蓄積を、診断上の使用に適した程度に最小化するものが含まれる。
【0164】
キレート部分の例としては、陽電子放出体89Zr、68Ga、64Cu、44Sc、および86Yと安定な錯体を形成するものが挙げられるが、これらに限定されない。例示的キレート部分には、それらの全体が参照により組み込まれている、Nature Protocols,5(4):739,2010;Bioconjugate Chem.,26(12):2579(2015);Chem Commun(Camb),51(12):2301(2015);Mol.Pharmaceutics,12:2142(2015);Mol.Imaging Biol.,18:344(2015);Eur.J.Nucl.Med.Mol.Imaging,37:250(2010);Eur.J.Nucl.Med.Mol.Imaging(2016).doi:10.1007/s00259-016-3499-x;Bioconjugate Chem.,26(12):2579(2015);WO2015/140212A1;および米国特許第5,639,879号に記載されるものが挙げられるが、これに限定されない。
【0165】
例示的キレート部分には、デスフェリオキサミン(DFO)、1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、ジエチレンエトリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ(メチレンホスホン)酸(DOTP)、1R,4R,7R,10R)-α’α’’α’’’-テトラメチル-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTMA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、H4オクテーパ、H6ホスパ、H2デドパ、H5デカパ、H2アザパ、HOPO、DO2A、1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(DOTAM)、1,4,7-トリアザシクロノナン-N,N’,N’’-三酢酸(NOTA)、1,4,7,10-テトラキス(カルバモイルメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(DOTAM)、1,4,8,11-テトラアザシクロ[6.6.2]ヘキサデカン-4,11-二酢酸(CB-TE2A)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(Cyclen)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(Cyclam)、オクタデンテートキレート剤、オクタンデンテート二官能性キレート剤、例えば、DFO*、ヘキサデンテートキレート剤、ホスホネートベースのキレート剤、大環状キレート剤、大環状テレフタルアミド配位子を含むキレート剤、二官能性キレート剤、フサリニンCならびにフサリニンC誘導体キレート剤、トリアセチルフサリニンC(TAFC)、フェリオキサミンE(FOXE)、フェリオキサミンB(FOXB)、フェリクロームA(FCHA)なども挙げられるが、これらに限定されない。
【0166】
一部の実施形態では、キレート部分は、キレート部分のキレート部を結合タンパク質に共有結合しているリンカー部分を介して、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子に共有結合している。一部の実施形態では、これらのリンカー部分は、二重特異性抗原結合分子の反応性部分、例えば、抗体のシステインまたはリジンと、キレート剤に結合した反応性部分、例えば、p-イソチオシアナトベニル基および下記のコンジュゲーション方法に提供される反応性部分との間の反応から形成される。加えて、こうしたリンカー部分は、極性、溶解度、立体相互作用、剛性、および/またはキレート部分と抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子との間の長さを調節する目的で使用される化学基を任意に含む。
【0167】
放射性標識された抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートの調製
放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートおよび抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートは、(1)抗原結合分子を、陽電子放出体キレート剤と、二重特異性結合タンパク質の所望のコンジュゲーション部位に対して反応性の部分とを含む分子と反応させることと、(2)所望の陽電子放出体をロードすることと、によって調製することができる。
【0168】
適切なコンジュゲーション部位には、限定されないが、リシンおよびシステインが挙げられ、その両方が例えば、天然または操作されたものであり得、例えば、抗体の重鎖または軽鎖上に存在することができる。システインコンジュゲーション部位には、抗体ジスルフィド結合の変異、挿入、または還元から得られるものが含まれるが、これらに限定されない。システイン操作された抗体を作製する方法には、WO2011/056983に開示されているものが含まれるが、これらに限定されない。部位特異的コンジュゲーション方法はまた、抗体の特異的部位へのコンジュゲーション反応を指示するために、所望の化学量論を達成するために、および/または所望のキレート剤対抗体比を達成するために使用することもできる。このようなコンジュゲーション方法は当業者に公知であり、グルタミンコンジュゲーション、Q295コンジュゲーション、およびトランスグルタミナーゼ媒介コンジュゲーション、ならびにその全体が参照により本明細書に組み込まれる、J.Clin.Immunol.,36:100(2016)に記載されているものが挙げられるが、これらに限定されないシステイン操作および酵素的および化学酵素的方法が挙げられるが、これらに限定されない。所望のコンジュゲーション部位に反応性の適切な部分は一般的に、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子、例えば、二重特異性抗体と、陽電子放出体キレート剤との効率的かつ容易なカップリングを可能にする。リジンおよびシステイン部位に対して反応性の部分は、当業者に公知である求電子基を含む。ある特定の態様では、所望のコンジュゲーション部位がリジンである場合、反応性部分はイソチオシアネート、例えば、p-イソチオシアナトベニル基または反応性エステルである。ある特定の態様では、所望のコンジュゲーション部位がシステインである場合、反応性部分はマレイミドである。
【0169】
キレート剤がデスフェリオキサミン(DFO)である場合、好適な反応性部分としては、イソチオシアナトベンジル基、n-ヒドロキシスクシンイミドエステル、2,3,5,6テトラフルオロフェノールエステル、n-スクシンイミジル-S-アセチルチオアセテート、およびその全体が参照により本明細書に組み込まれる、BioMed Research International,Vol 2014,Article ID 203601に記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、陽電子放出体キレート剤と、コンジュゲーション部位に反応する部分とを含む分子は、p-イソチオシアナトベンジル-デスフェリオキサミン(p-SCN-Bn-DFO)である。
【化1】
【0170】
陽電子放出体の負荷は、例えば、本明細書に提供される実施例に記載した方法、または実質的に類似した方法を実施することによって、陽電子放出体のキレート剤への配位を可能にするのに十分な時間、該陽電子放出体と抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子キレート剤コンジュゲートをインキュベートすることによって達成される。
【0171】
コンジュゲートの例示的実施形態
抗PSMA抗体、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子、および陽電子放出体を含む、放射性標識された抗体コンジュゲートが、本開示に含まれる。さらに、抗PSMA抗体、または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子、キレート部分、および陽電子放出体を含む、放射性標識された抗体コンジュゲートが、本開示に含まれる。
【0172】
一部の実施形態では、キレート部分は、89Zrと錯体を形成することができるキレート剤を含む。ある特定の実施形態では、キレート部分は、デスフェリオキサミンを含む。ある特定の実施形態では、キレート部分は、p-イソチオシアナトベンジル-デスフェリオキサミンである。
【0173】
一部の実施形態では、陽電子放出体は、89Zrである。一部の実施形態では、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の1.0%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.9%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.8%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.7%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.6%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.5%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.4%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.3%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.2%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされ、または抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の0.1%未満が、陽電子放出体とコンジュゲートされる。
【0174】
一部の実施形態では、コンジュゲートのキレート部分対抗体比は、1.0~2.0である。本明細書で使用される場合、「キレート部分対抗体比」は、平均キレート部分対抗体比であり、抗体あたりのキレート剤負荷の尺度である。この比は、「DAR」、すなわち、抗体薬物コンジュゲート(ADC)についての抗体当たりの薬物負荷を測定するために、当業者によって使用されている薬物-抗体比と類似しており、iPET撮像に関する本明細書に記載のコンジュゲートの場合、キレート部分対抗体比は、本明細書に記載される方法およびDARの決定のための当該技術分野において公知の他の方法、例えば、Wang et al.,Antibody-Drug Conjugates,The 21st Century Magic Bullets for Cancer(2015)に記載されているものを使用して確認することができる。一部の実施形態では、キレート部分対抗体比は、約1.7である。一部の実施形態では、キレート部分対抗体比は、1.0~2.0である。一部の実施形態では、キレート部分対抗体比は、約1.7である。
【0175】
特定の実施形態では、キレート部分は、p-イソチオシアナトベンジル-デスフェラリオキサミンであり、陽電子放出体は、89Zrである。別の特定の実施形態では、キレート部分は、p-イソチオシアナトベンジル-デスフェラリオキサミンであり、陽電子放出体は、89Zrであり、コンジュゲートのキレート部分対抗体比は、1~2である。
【0176】
一部の実施形態では、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子が本明細書に提供され、当該抗原結合分子は、以下の構造を有する一つまたは複数の部分に共有結合している:
-L-MZ
式中、Lはキレート部分であり、Mは陽電子放出体であり、zは各出現において独立して0または1であり、zのうちの少なくとも一つは1である。特定の実施形態では、放射性標識された抗原結合タンパク質は、式(I)の化合物であり、
M-L-A-[L-MZ]k
(I)
Aは、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子であり、Lはキレート部分であり、Mは陽電子放出体であり、zは0または1であり、kは0~30の整数である。一部の実施形態では、kは1である。一部の実施形態では、kは2である。
【0177】
【0178】
一部の実施形態では、Mは89Zrである。
【0179】
一部の実施形態では、kは1~2の整数である。一部の実施形態では、kは1である。一部の実施形態では、kは2である。
【0180】
一部の実施形態では、-L-Mは下記である。
【化3】
【0181】
また、本開示に含まれるのは、式(III)の化合物:
【化4】
を
89Zrと接触させることを含む、放射性標識された抗体コンジュゲートを合成する方法であり、式中、Aは、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子である。ある特定の実施形態では、式(III)の化合物は、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子を、p-SCN-Bn-DFOと接触させることによって合成される。
【0182】
式(III)の化合物と89Zrとの間の反応の生成物も本明細書に提供されている。
【0183】
式(III)の化合物が本明細書に提供されており、
【化5】
式中、Aは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子であり、kは1~30の整数である。一部の実施形態では、kは1または2である。
【0184】
(i)抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子と、(ii)一つまたは複数のキレート部分とを含む抗体コンジュゲートが本明細書において提供される。
【0185】
一部の実施形態では、キレート部分は、下記を含み、
【化6】
【化7】
は、抗体またはその抗原結合断片への共有結合である。
【0186】
一部の態様では、抗体コンジュゲートは、約1.0~約2.0のキレート部分対抗体比を有する。一部の態様では、抗体コンジュゲートは、約1.7のキレート部分対抗体比を有する。
【0187】
一部の実施形態では、以下の構造を有するコンジュゲートを含む組成物が本明細書に提供されており、
A-Lk
式中、Aは、抗PSMA抗体または抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子であり、Lはキレート部分であり、kは1~30の整数であり、このコンジュゲートは、臨床的なPET撮像に好適な比放射能を提供するのに十分な量の陽電子放出体でキレート化されている。一部の実施形態では、キレート化陽電子放出体の量は、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の1~50mgあたり約1~約50mCiの比放射能を提供するのに十分な量である。
【0188】
一部の実施形態では、キレート化陽電子放出体の量は、抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子の1~50mg当たり、最大50mCi、最大45mCi、最大40mCi、最大35mCi、最大30mCi、最大25mCi、または最大10mCi、例えば約5~約50mCi、約10~約40mCi、約15~約30mCi、約7~約25mCi、約20~約50mCi、または約5~約10mCiの範囲の比放射能を提供するのに十分な量である。
【0189】
放射性標識された免疫コンジュゲートを使用する方法
ある特定の態様では、本開示は、本開示の放射性標識された抗体コンジュゲートを使用する診断および治療方法を提供する。
【0190】
一態様によれば、本開示は、組織内のPSMAを検出する方法を提供し、本方法は、本明細書に提供される放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを組織に投与することと、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。ある特定の実施形態では、組織は、細胞または細胞株を含む。ある特定の実施形態では、組織は対象の身体内に存在し、この対象は哺乳類である。ある特定の実施形態では、対象はヒト対象である。特定の実施形態では、対象は、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、および胃癌などのPSMA抗原を発現する癌からなる群から選択される疾患または障害を有する。一実施形態では、対象は前立腺癌を有する。
【0191】
一態様によれば、本開示は、PSMAを発現する組織を撮像する方法を提供し、本方法は、本開示の放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを組織に投与することと、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によって、PSMA発現を可視化することと、を含む。一実施形態では、組織は、腫瘍内に含まれる。一実施形態では、組織は、腫瘍細胞培養または腫瘍細胞株内に含まれる。一実施形態では、組織は、対象の腫瘍病変内に含まれる。一実施形態では、組織は、組織内の腫瘍内リンパ球である。一実施形態では、組織は、PSMA発現細胞を含む。
【0192】
一態様によれば、本開示は、腫瘍を有する対象が抗腫瘍療法に適しているかどうかを判定するための方法を提供し、本方法は、本開示の放射性標識された抗体コンジュゲートを投与することと、PET撮像によって、投与された放射性標識された抗体コンジュゲートを腫瘍内に局在化させることと、を含み、腫瘍内における放射性標識された抗体コンジュゲートの存在は、抗腫瘍療法に適しているものとして上記対象を同定する。
【0193】
一態様によれば、本開示は、固形腫瘍を有する対象の抗腫瘍療法に対する応答を予測するための方法を提供し、本方法は、腫瘍がPSMA陽性であるかどうかを判定することを含み、腫瘍がPSMA陽性である場合に、対象の陽性応答が予測される。ある特定の実施形態では、本開示の放射性標識された抗体コンジュゲートを投与し、PET撮像によって、放射性標識された抗体コンジュゲートを腫瘍内に局在化させることによって、腫瘍は陽性であると決定され、腫瘍における放射性標識された抗体コンジュゲートの存在は、腫瘍がPSMA陽性であることを示す。
【0194】
一態様によれば、本開示は、対象のPSMA陽性腫瘍を検出するための方法を提供する。本態様による方法は、本開示の放射性標識された抗体コンジュゲートを対象に投与することと、PET撮像により放射性標識された抗体コンジュゲートの局在化を判定することと、を含み、腫瘍における放射性標識された抗体コンジュゲートの存在は、腫瘍がPSMA陽性であることを示す。
【0195】
放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートを対象に投与して、固形腫瘍におけるPSMA陽性細胞の存在を判定することを含む、抗腫瘍療法に対する陽性応答を予測する方法が、本明細書に提供される。PSMA陽性細胞の存在は、抗腫瘍療法に対する陽性応答を予測する。
【0196】
本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という表現は、癌の一つまたは複数の症状または徴候を示すヒトまたは非ヒト哺乳動物、および/または固形腫瘍を含む癌と診断され、かつ癌の治療を必要とするヒトまたは非ヒト哺乳動物を意味する。多くの実施形態では、「対象」という用語は、用語「患者」と互換的に使用されてもよい。例えば、ヒト対象は、原発性腫瘍または転移性腫瘍を有し、および/もしくは、原因不明の体重減少、全身の衰弱、持続的疲労、食欲不振、発熱、ねあせ、骨痛、息切れ、腹部膨満、胸痛/胸部圧迫感、脾臓肥大、および癌関連バイオマーカー(例えば、CA125)のレベルの上昇が挙げられるが、これらに限定されない一つまたは複数の症状または徴候を有すると診断され得る。この表現には、原発性腫瘍または定着腫瘍を有する対象が含まれる。特定の実施形態では、この表現には、固形腫瘍、例えば、結腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、皮膚癌、肝臓癌、骨癌、卵巣癌、子宮頸部癌、膵臓癌、頭頸部癌、および脳癌を有する、および/またはそれらの治療を必要とするヒト対象が含まれる。この用語には、原発性または転移性腫瘍(進行性悪性疾患)を有する対象が含まれる。ある特定の実施形態では、「それを必要とする対象」という表現には、以前の療法(例えば、抗癌剤での治療)に抵抗性もしくは難治性であるか、または以前の治療によっては適切に制御されない固形腫瘍を有する対象が含まれる。例えば、この表現には、化学療法での治療(例えば、カルボプラチンまたはドセタキセル)などの、一つまたは複数の系統の以前の療法で治療された対象が含まれる。ある特定の実施形態では、「それを必要する対象」という表現には、一つまたは複数の系統の以前の療法で治療されたが、その後再発または転移した固形腫瘍を有する対象が含まれる。ある特定の実施形態では、本開示の方法は、固形腫瘍を有する対象で使用される。「腫瘍」、「癌」および「悪性疾患」という用語は、本明細書では互換的に使用される。本明細書で使用される場合、「固形腫瘍」という用語は、通常は嚢胞または液体領域を含有しない異常な組織の塊を指す。固形腫瘍は良性(癌ではない)または悪性(癌)であり得る。本開示の目的のために、「固形腫瘍」という用語は、悪性固形腫瘍を意味する。この用語には、それらを形成する細胞型、すなわち、肉腫、癌腫およびリンパ腫と名付けられた異なる種類の固形腫瘍が含まれる。
【0197】
ある特定の実施形態では、癌または腫瘍は、星状細胞腫、肛門癌、膀胱癌、血液癌、血液癌、骨癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、腎明細胞癌、結腸直腸癌、マイクロサテライトが中程度の結腸直腸癌、皮膚扁平上皮癌、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、子宮内膜癌、食道癌、線維肉腫、胃癌、神経膠芽腫、多形神経膠芽腫、頭頸部扁平上皮癌、肝細胞癌、白血病、肝臓癌、平滑筋肉腫、肺癌、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、ミエローマ、鼻咽頭癌、非小細胞肺癌、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、原発および/または再発性の癌、前立腺癌、腎細胞癌、横紋筋肉腫、唾液腺癌、皮膚癌、小細胞肺癌、扁平上皮癌、胃癌、滑膜肉腫、精巣癌、甲状腺癌、トリプルネガティブ乳癌、子宮癌、ならびにウィルムス腫瘍からなる群から選択される。一部の態様では、癌は、原発癌である。一部の態様では、癌は、転移性および/または再発性の癌である。
【0198】
特定の実施形態では、癌または腫瘍は、前立腺上皮、十二指腸粘膜、近位尿細管、または結腸クリプト神経内分泌細胞に由来する腫瘍などのPSMA陽性腫瘍から選択される。一部の態様では、癌は、膀胱癌、腎臓癌、胃癌、または結腸直腸癌である。一部の態様では、癌は前立腺癌である。一部の態様では、癌は、原発性前立腺腫瘍に由来する転移性癌である。
【0199】
本明細書で使用される場合、「治療する」、「治療すること」などという用語は、症状を緩和すること、症状の原因を一時的もしくは永続的のいずれかで排除すること、腫瘍の成長を遅らせるかもしくは阻害すること、腫瘍細胞負荷もしくは腫瘍量を低減させること、腫瘍退縮を促進すること、腫瘍の収縮、壊死および/または消失を引き起こすこと、腫瘍の再発を防止すること、転移を防止もしくは阻害すること、転移性腫瘍の成長を阻害すること、および/または対象の生存期間を延ばすことを意味する。
【0200】
特定の実施形態では、放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートは、対象の静脈内または皮下に投与される。ある特定の実施形態では、放射性標識された抗体コンジュゲートは、腫瘍内に投与される。投与時に、放射性標識された抗体コンジュゲートは、腫瘍内で局在化される。局在化された放射性標識された抗体コンジュゲートは、PET撮像により撮像され、腫瘍による放射性標識された抗体コンジュゲートの取り込みが、当技術分野において公知の方法によって測定される。ある特定の実施形態では、撮像は、放射性標識されたコンジュゲートの投与の1、2、3、4、5、6、または7日後に実施される。ある特定の実施形態では、撮像は、放射性標識された抗体コンジュゲートの投与と同日に実施される。
【0201】
ある特定の実施形態では、放射性標識された抗PSMA抗体コンジュゲートまたは抗PSMA/抗CD3二重特異性抗原結合分子コンジュゲートは、対象の体重1kgあたり約0.1mg~体重1kgあたり約100mg、例えば、体重1kgあたり約0.1mg~約50mg、または約0.5mg~約25mg、または約0.1mg~約1.0mgの用量で投与することができる。
【0202】
治療用の製剤および投与
本明細書で有用な抗原結合分子を含む医薬組成物が、本開示により有用である。一部の態様では、医薬組成物は、抗4-1BBアゴニストをさらに含む。この医薬組成物は、好適な担体、賦形剤、および輸送、送達、忍容性などの改善をもたらす他の薬剤と共に製剤化される。数多くの適切な製剤が、すべての薬剤師に公知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PAにおいて見出され得る。これらの製剤としては、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、小胞を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)(例えば、LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies社、Carlsbad,CA)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油および油中水乳剤、乳剤カルボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカルボワックスを含有する半固体混合物が挙げられる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0203】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢およびサイズ、標的の疾患、状態、投与経路などに応じて変化し得る。好ましい用量は、典型的には体重または体表面積に従い計算される。二重特異性抗原結合分子が、成人患者において治療目的のために使用される場合、通常、約0.01~約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、または約0.05~約3mg/kg体重の単回用量で、二重特異性抗原結合分子を静脈内投与することが有利であり得る。一部の態様では、通常、約50mg、または約75mg、または約100mg、または約150mg、または約200mg、または約250mg、または約300mg、または約350mg、または約400mgの単回用量で、二重特異性抗原結合分子を静脈内投与することが有利であり得る。状態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整できる。二重特異性抗原結合分子を投与するための効果的な投与量およびスケジュールは、経験的に決定され得るが、例えば、患者の進行は、定期的な評価によってモニタリングされ得、それに応じて用量が調整される。さらに投与量の種間スケーリングは、当分野に公知の方法を使用して実施することができる(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0204】
患者に投与される抗4-1BBアゴニストの用量は、患者の年齢およびサイズ、標的の疾患、状態、投与経路などに応じて変化し得る。好ましい用量は、典型的には体重または体表面積に従い計算される。成人患者に治療目的で抗4-1BBアゴニストが使用される場合、アゴニストを、通常、約0.01~約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5、または約0.05~約3mg/kg、または約2.5mg/kg体重の単回用量で静脈内投与することが有益であり得る。
【0205】
例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、変異ウイルスを発現することができる組み換え細胞、受容体介在性エンドサイトーシスなど、様々な送達系が公知であり、本明細書で有用な医薬組成物を投与するために使用され得る(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法としては限定されないが、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が挙げられる。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入もしくはボーラス注射によって、上皮もしくは粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜および腸粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、かつ他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身性または局所性であってもよい。
【0206】
本明細書で有用な医薬組成物は、標準的な針およびシリンジで皮下または静脈内に送達され得る。加えて、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本明細書で有用な医薬組成物の送達において、容易に適用を有する。そのようなペン型送達デバイスは、再利用可能であるか、または使い捨てであり得る。再利用可能なペン型送達デバイスは、概して、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内部の医薬組成物のすべてが投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは、容易に廃棄することができ、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換され得る。次に、ペン型送達デバイスは再利用することができる。使い捨てペン型送達デバイスでは、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内部のリザーバ内に保持された医薬組成物で事前に充填されている。いったんリザーバの医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0207】
多数の再利用可能なペン型および自動注入装置送達デバイスは、本明細書で有用な医薬組成物の皮下送達において適用を有する。例としては限定されないが、いくつか例を挙げると、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.、英国、ウッドストック)、DISETRONIC(商標)ペン(Disetronic Medical Systems社、スイス、バーグドーフ)、HUMALOG MIX 75/25(商標)ペン、HUMALOG(商標)ペン、HUMALIN 70/30(商標)ペン(Eli Lilly and Co.、インディアナ州インディアナポリス)、NOVOPEN(商標)I、II、およびIII(Novo Nordisk社、デンマーク、コペンハーゲン)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk社、デンマーク、コペンハーゲン)、BD(商標)ペン(Becton Dickinson社、ニュージャージー州フランクリンレイク)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis社、ドイツ、フランクフルト)が挙げられる。本明細書で有用な医薬組成物の皮下送達における適用を有する使い捨てペン送達デバイスの例としては限定されないが、SOLOSTAR(商標)ペン(sanofi-aventis社)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk社)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly社)、SURECLICK(商標)Autoinjector(Amgen社、カリフォルニア州サウザンドオークス)、PENLET(商標)(Haselmeier社、ドイツ、シュトゥットガルド)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)Pen(Abbott Labs社、イリノイ州アボットパーク)が挙げられる。
【0208】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出系で送達され得る。一実施形態では、ポンプを使用してもよい(上記のLanger;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、多量体性材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態では、制御放出系を組成物の標的の近傍に配置することができ、したがって全身用量のほんの一部しか必要としない(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release、上記、vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の制御放出系は、Langer,1990,Science 249:1527-1533によるレビューにおいて検討されている。
【0209】
注入可能な調製物は、静脈内、皮下、皮内、および筋肉内注射、点滴などのための剤形を含み得る。これらの注射可能な調製物は、公知の方法によって調製されてもよい。例えば、注入可能な調製物は、例えば、注入に従来使用される無菌水性媒体または油性媒体に、上述される抗体またはその塩を溶解、懸濁、または乳化させることによって調製され得る。注射用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース、および他の助剤を含有する等張性溶液などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用され得る。油性媒体としては、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが採用され、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用され得る。このようにして調製した注射液は、好ましくは、適切なアンプル中に充填される。
【0210】
有利に、上述の経口または非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量を適合させるのに適した単位用量で剤形に調製される。単位用量におけるこのような剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。含有される前述の抗体の量は、一般的に単位用量で剤形当たり約0.5~約500mgであり、特に注射の形態では、上記の抗体は約5~約100mgに含有されることが好ましく、およびその他の剤形に対しては約10~約250mgに含有されることが好ましい。
【0211】
併用療法および製剤
本開示は、本明細書に記載される例示的な単一特異性または二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む医薬組成物を、抗4-1BBアゴニスト、および一つまたは複数の追加の治療剤と組み合わせて投与することを含む、方法を提供する。本明細書で有用な抗4-1BBアゴニストおよび二重特異性抗原結合分子と組み合わせ得る、または組み合わせて投与され得る、例示的な追加の治療剤には、例えば、EGFR拮抗薬(例えば、抗EGFR抗体[例えば、セツキシマブまたはパニツムマブ]またはEGFRの低分子阻害剤[例えば、ゲフィチニブまたはエルロチニブ])、Her2/ErbB2、ErbB3またはErbB4などの別のEGFRファミリーメンバーの拮抗薬(例えば、抗ErbB2、抗ErbB3もしくは抗ErbB4抗体、またはErbB2、ErbB3またはErbB4活性の小分子阻害剤)、EGFRvIIIの拮抗薬(例えば、EGFRvIIIに特異的に結合する抗体)、cMETアナゴニスト(例えば、抗cMET抗体)、IGF1R拮抗薬(例えば、抗IGF1R抗体)、B-raf阻害剤(例えば、ベムラフェニブ、ソラフェニブ、GDC-0879、PLX-4720)、PDGFR-α阻害剤(例えば、抗PDGFR-α抗体)、PDGFR-β阻害剤(例えば、抗PDGFR-β抗体)、VEGF拮抗薬(例えば、VEGF-トラップ、例えば、米国特許第7,087,411号を参照のこと(本明細書では、「VEGF阻害融合タンパク質」とも呼称される)、抗VEGF抗体(例えば、ベバシズマブ)、VEGF受容体の小分子キナーゼ阻害剤(例えば、スニチニブ、ソラフェニブまたはパゾパニブ))、DLL4拮抗薬(例えば、REGN421などの米国特許第2009/0142354号に開示されている抗DLL4抗体)、Ang2拮抗薬(例えば、H1H685Pなどの米国特許第2011/0027286号に開示されている抗Ang2抗体)、FOLH1(PSMA)拮抗薬、PRLR拮抗薬(例えば、抗PRLR抗体)、STEAP1またはSTEAP2拮抗薬(例えば、抗STEAP1抗体または抗STEAP2抗体)、TMPRSS2拮抗薬(例えば、抗TMPRSS2抗体)、MSLN拮抗薬(例えば、抗MSLN抗体)、CA9拮抗薬(例えば、抗CA9抗体)、ウロプラキン拮抗薬(例えば、抗ウロプラキン抗体)等が挙げられる。本明細書に提供される組成物と組み合わせて有益に投与され得る他の薬剤には、低分子サイトカイン阻害剤、ならびにIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18などのサイトカインまたはそのそれぞれの受容体に結合する抗体を含むサイトカイン阻害剤が含まれる。本明細書で有用な医薬組成物(例えば、本明細書に開示される抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物)は、抗4-1BBアゴニストと、「ICE」:イホスファミド(例えば、Ifex(登録商標))、カルボプラチン(例えば、Paraplatin(登録商標))、エトポシド(例えば、Etopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePeid(登録商標)、VP-16);「DHAP」:デキサメタゾン(例えば、Decadron(登録商標))、シタラビン(例えば、Cytosar-U(登録商標)、シトシンアラビノシド、ara-C)、シスプラチン(例えば、Platinol(登録商標)-AQ);および「ESHAP」:エトポシド(例えば、Etopophos(登録商標)、Toposar(登録商標)、VePeid(登録商標)、VP-16)、メチルプレドニゾロン(例えば、Medrol(登録商標))、高用量シタラビン、シスプラチン(例えば、Platinol(登録商標)-AQ)から選択される一つまたは複数の治療の組み合わせを含む、治療レジメンの一部としても投与され得る。
【0212】
本開示はまた、本明細書に記載される抗原結合分子のいずれかと、VEGF、Ang2、DLL4、EGFR、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EGFRvIII、cMet、IGF1R、B-raf、PDGFR-α、PDGFR-β、PRLR、STEAP1、STEAP2、TMPRSS2、MSLN、CA9、ウロプラキン、または前述のサイトカインのいずれかのうちの一つまたは複数の阻害剤とを含む、治療の組み合わせも含み、阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ、ナノボディまたは抗体断片(例えば、Fab断片;F(ab’)2断片;Fd断片;Fv断片;scFv;dAb断片;またはダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、および最小認識単位などの他の操作された分子)である。本明細書に開示される抗原結合分子はまた、抗ウイルス剤、抗生物質、鎮痛剤、コルチコステロイド、および/またはNSAIDと組み合わせて投与および/または共製剤化されてもよい。本明細書に開示される抗原結合分子はまた、放射線療法および/または従来の化学療法も含む治療レジメンの一部として投与されてもよい。
【0213】
追加的治療活性成分は、本明細書で有用な抗原結合分子の投与の直前に、それと同時に、またはその直後に投与されてもよい;(本開示の目的のために、かかる投与レジメンは、追加的治療活性成分と「組み合わせて」、抗原結合分子の投与とみなされる)。
【0214】
本開示は、本明細書で有用な抗原結合分子が、本明細書の別の箇所に記載される追加の治療上活性な成分のうちの一つまたは複数と共製剤化される医薬組成物を含む。
【0215】
投与レジメン
本開示の特定の実施形態によると、抗原結合分子(例えば、抗PSMA抗体または抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子)の複数回用量は、定義された時間経過にわたって対象に投与されてもよい。さらに、抗4-1BBアゴニストの複数回用量は、定義された時間経過にわたって対象に投与されてもよい。この態様による方法は、各治療薬の一回または複数回の用量、すなわち、抗原結合分子の一回または複数回の用量および抗4-1BBアゴニストの一回または複数回の用量を対象に順次投与することを含む。本明細書で使用される場合、「逐次的に投与する」とは、治療薬、例えば、抗原結合分子の各用量が、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日、数週間または数か月)をあけた異なる日など、異なる時点で対象に投与されることを意味する。本開示は、負荷用量と呼ばれる抗原結合分子の単回初回用量を、次に抗原結合分子の一つまたは複数の二次用量を、そして必要に応じて、その後に抗原結合分子の一つまたは複数の三次用量を、患者に逐次的に投与することを含む方法を含む。本開示は、負荷用量と呼ばれる抗4-1BBアゴニストの単回初回用量を、次に抗4-1BBアゴニストの一つまたは複数の二次用量を、そして必要に応じて、その後に抗4-1BBアゴニストの一つまたは複数の三次用量を、患者に逐次的に投与することを含む方法を含む。
【0216】
「初回用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本明細書で有用な抗原結合分子および/または抗4-1BBアゴニストの投与の時間的順序を指す。したがって、「初回用量」は、治療レジメンの開始時に投与される用量である(また「ベースライン用量」とも呼称される)、「二次用量」は初回用量の後に投与される用量であり、「三次用量」は二次用量の後に投与される用量である。初回用量、二次用量および三次用量はすべて、同じ量の抗原結合分子(または抗4-1BBアゴニスト)を含有するが、投与頻度に関しては一般的に互いに異なっていてもよい。しかしながら、特定の実施形態では、初回用量、二次用量および/または三次用量に含有される抗原結合分子(または抗4-1BBアゴニスト)の量は、治療過程の間、互いに異なる(例えば、適宜調整して加減する)。ある特定の実施形態では、二つ以上(例えば、2、3、4、または5)の用量が、治療レジメンの開始時に「負荷用量」として投与され、その後に続く用量が、より低い頻度ベースで投与される(例えば、「維持用量」)。
【0217】
本開示の例示的な一実施形態では、各二次用量および/または三次用量は、直前の用量の1~26週間後(例えば、1週間後、1週間半後、2週間後、2週間半後、3週間後、3週間半後、4週間後、4週間半後、5週間後、5週間半後、6週間後、6週間半後、7週間後、7週間半後、8週間後、8週間半後、9週間後、9週間半後、10週間後、10週間半後、11週間後、11週間半後、12週間後、12週間半後、13週間後、13週間半後、14週間後、14週間半後、15週間後、15週間半後、16週間後、16週間半後、17週間後、17週間半後、18週間後、18週間半後、19週間後、19週間半後、20週間後、20週間半後、21週間後、21週間半後、22週間後、22週間半後、23週間後、23週間半後、24週間後、24週間半後、25週間後、25週間半後、26週間後、26週間半後、またはそれより長い期間の後)に投与される。本明細書で使用される場合、「直前の用量」という句は、複数回投与の順序において、間に用量を挟まずに、順序におけるすぐ次の用量の投与前に患者に投与される、抗原結合分子(または抗4-1BBアゴニスト)の用量を意味する。
【0218】
本開示のこの態様による方法は、抗4-1BBアゴニスト、抗PSMA抗体、またはPSMAおよびCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子の任意の数の二次用量および/または三次用量を、患者に投与することを含み得る。例えば、ある特定の実施形態では、患者に単一の二次用量のみが投与される。他の実施形態では、二つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれより多く)の二次用量を患者に投与する。同様に、ある特定の実施形態では、患者に単一の三次用量のみが投与される。他の実施形態では、二つ以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、またはそれより多く)の三次用量を患者に投与する。
【0219】
複数の二次用量を含む実施形態では、各二次用量は、他の二次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各二次用量は、直前の用量の1~2週間後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の三次用量を含む実施形態では、各三次用量は、他の三次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各三次用量は、直前の用量の2~4週間後に患者に投与されてもよい。あるいは、二次用量および/または三次用量が患者に投与される頻度は、治療レジメンの過程で変化する可能性がある。投与の頻度は、臨床検査後の個々の患者のニーズに応じて、医師による治療過程の間に、調節され得る。
【0220】
抗体の診断上の使用
本開示の二重特異性抗体は、例えば、診断目的のために、試料中のPSMAまたはPSMA発現細胞を検出および/または測定するためにも使用され得る。例えば、抗PSMA抗体またはその断片を使用して、PSMAの異常発現(例えば過剰発現、過小発現、発現の欠如など)を特徴とする状態または疾患を診断してもよい。PSMAに対する例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を、抗PSMAxCD3二重特異性抗体と接触させることを含むことができ、この二重特異性抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識されている。あるいは、標識されていない抗PSMAxCD3二重特異性抗体は、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて、診断適用に使用され得る。検出可能な標識またはレポーター分子は、例えば3H、14C、32P、35S、もしくは125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。本明細書で有用な抗PSMAxCD3二重特異性抗体の別の例示的な診断的使用は、対象(例えば、陽電子放出断層撮影(PET)撮像)における腫瘍細胞の非侵襲的識別および追跡を目的とした、89Zr-デスフェリオキサミン標識抗体などの89Zr標識抗体を含む。(例えば、Tavare,R.et al.Cancer Res.2016 Jan 1;76(1):73-82;およびAzad,BB.et al.Oncotarget.2016 Mar 15;7(11):12344-58を参照のこと)試料中のPSMAを検出または測定するために使用することのできる具体的な例示的アッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光標識細胞分取(FACS)が含まれる。
【0221】
本開示によるPSMA診断アッセイで使用できるサンプルとしては、正常な状態または病理学的状態下で、検出可能な量のPSMAタンパク質またはその断片を含有する、患者から取得可能な任意の組織または液体サンプルが挙げられる。概して、健常な患者(例えばPSMAのレベルまたは活性の異常と関連した疾患または状態に罹患していない患者)から取得された特定のサンプル中のPSMAレベルが、基準または標準的なPSMAレベルを最初に確立するために測定される。次に、このPSMAの基準レベルを、PSMA関連の疾患(例えば、PSMA発現細胞を含有する腫瘍)または状態を有すると疑われる個体から得られたサンプルにおいて測定されたPSMAレベルと比較してもよい。
【実施例】
【0222】
以下の実施例は、本明細書で有用な方法および組成物をどのように作製し使用するかを当業者へ完全に開示するために提供されており、発明者がその発明としてみなすものの範囲を限定することを意図していない。使用した数字(例えば、量、温度など)に対する正確さを確保するために努力がなされているが、ある程度の実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。別途示さない限り、部は重量部、分子量は平均分子量、温度は摂氏、圧力は大気圧または大気圧付近である。
【0223】
実施例1:前立腺特異的膜抗原(PSMA)およびCD3に結合する二重特異性抗体の生成
本開示は、本明細書に開示される方法によれば有用な抗PSMA抗体を提供する。抗体は、米国特許第10,179,819号に提示される開示に従って作製された。本明細書で有用な抗体の例には、H1H11810P抗体、およびこの抗体に包含されるCDR、HCVR、およびLCVR配列が含まれる。したがって、例示的な抗PSMA抗体またはその抗原結合断片は、米国特許第10,179,819号に開示されている配列番号66のHCVRおよび配列番号1386のLCVRを含む。
【0224】
本開示はまた、CD3および前立腺特異的膜抗原(PSMA)に結合する二重特異性抗原結合分子も提供する。かかる二重特異性抗原結合分子は、本明細書では「抗PSMA/抗CD3二重特異性分子」とも呼称される。抗PSMA/抗CD3二重特異性分子の抗PSMA部分は、PSMAを発現する腫瘍細胞を標的化するのに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞を活性化するのに有用である。腫瘍細胞上のPSMAとT細胞上のCD3との同時結合は、活性化されたT細胞による標的化された腫瘍細胞の指向された殺傷(細胞溶解)を促進する。
【0225】
抗PSMA特異的結合ドメインおよび抗CD3特異的結合ドメインを含む二重特異性抗体は、標準的な方法論を使用して構築され、抗PSMA抗原結合ドメインおよび抗CD3抗原結合ドメインはそれぞれ、共通のLCVRと対の異なる別個のHCVRを含む。一部の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体由来の重鎖、抗PSMA抗体由来の重鎖、および共通軽鎖を利用して構築された。他の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体由来の重鎖、抗PSMA抗体由来の重鎖、および抗CD3抗体由来の軽鎖を利用して構築された。一部の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体由来のHCVR、抗PSMA抗体由来のHCVR、および共通LCVRを利用して構築された。他の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体由来のHCVR、抗PSMA抗体由来のHCVR、および抗CD3抗体由来のLCVRを利用して構築された。
【0226】
例示的な抗PSMAxCD3二重特異性抗体構築物の構成要素部分の概要を表1に記載する。
【表1】
【0227】
実施例2:PSMA標的化CD3二重特異性は、4-1BB共刺激によって増強される抗腫瘍応答を誘発する
前立腺癌腫瘍抗原PSMAを標的とするPSMAxCD3二重特異性抗体を、数種の前臨床固形腫瘍モデルで評価した。CD3およびPSMAについてヒト化したマウスを開発し、無傷の免疫系および正常な組織におけるPSMA発現の存在下での抗腫瘍有効性を検討した。免疫PET撮像は、PSMAxCD3がPSMA発現組織および腫瘍に蓄積することを示し、有意な抗腫瘍有効性と関連した。しかし、PSMAxCD3は、腫瘍量が増加すると有効性を失った。腫瘍量のより多いマウスでの有効性を高めるために、PSMAxCD3と抗4-1BB(InVivoPlusの抗マウス4-1bb、アイソタイプラットIgG1、カタログ番号BP0169)共刺激とを組み合わせることで、T細胞の活性化、サイトカインの産生、増殖およびメモリーが見事に達成され、有効性の強化および持続的な抗腫瘍応答が得られた。本実施例は、抗4-1BB共刺激と組み合わせたCD3二重特異性抗体が、固形腫瘍に対する実行可能な治療の組み合わせであることを示す。
【0228】
本実施例のすべての研究において、無関連な標的化アームを有するCD3二重特異性(CD3結合対照)を対照として使用した。インビボ有効性を、異種マウスモデルおよび同系マウスモデルの両方で評価した。異種モデルでは、NSGマウスに、ヒトPBMCおよびC4-2または22Rv1細胞を移植した(サンプルサイズはグループ当たり5匹のマウス)。同系モデルについては(サンプルサイズはグループ当たり5~10匹のマウス)、HuTマウスにTRAMP-C2-hPSMA細胞を移植した。すべての動物試験は、NIHの実験動物の世話および使用に関するガイドに従って実施された。
【0229】
PSMAxCD3は、標的依存性T細胞活性化および腫瘍細胞細胞傷害を誘導する
PSMAxCD3二重特異性抗原結合分子は、VelocImmune(登録商標)マウスをヒトPSMAおよびCD3で免疫化することによって生成された。得られたPSMAxCD3二重特異性抗体は、ヒンジで安定化され、エフェクターが最小化された、IgG4アイソタイプである。
【0230】
フローサイトメトリー分析を利用して、PSMAxCD3のJURKATおよび予め活性化したヒトT細胞への結合を決定し、続いてPE-抗ヒトIgG抗体で検出した。ヒトT細胞を抗CD3/CD28で6日間、予め活性化した。活性化後、2×105個の活性化ヒトT細胞またはJURKAT細胞/ウェルを、10ug/mlのPSMAxCD3と共に4℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を冷たいPBS(1%FBS)で二回洗浄した。洗浄後、PE-抗ヒト二次抗体を細胞に添加し、さらに30分間インキュベートした。抗体を含有しない、または二次抗体のみのウェルを対照として使用した。インキュベーション後、細胞を、BD FACS Canto IIでフローサイトメトリーにより分析した。
【0231】
フローサイトメトリー分析を使用して、PSMAxCD3のPSMA発現細胞株への結合も決定した。C4-2、22Rv1、またはTRAMP-C2-hPSMA細胞(2×106細胞/ウェル)を、PSMAxCD3(10ug/ml)と共に4℃で15分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を冷たいPBS(2%FBS)で二回洗浄し、氷上でさらに20分間、APC-抗ヒト二次抗体を添加した。染色なし、または二次抗体のみの染色を対照として含めた。試料をBD LSRFortessa細胞分析装置で分析した。
【0232】
簡潔に述べると、PSMA発現細胞株(22Rv1およびC4-2細胞)を1uMのViolet Cell Trackerで標識し、37℃で一晩播種した。これとは別に、ヒトPBMCを、1×106細胞/mLで補充されたRPMI培地に播種し、付着マクロファージ、樹状細胞、および一部の単球を枯渇させることによってリンパ球を濃縮するために、37℃で一晩インキュベートした。翌日、標的細胞を、付着細胞が枯渇したナイーブPBMC(エフェクター/標的細胞4:1)、およびPSMAxCD3またはCD3結合対照のいずれかの連続希釈物で、37℃で48時間共インキュベートした。酵素を含まない解離緩衝液を使用して、培養プレートから細胞を除去し、フローサイトメトリーにより分析した。FACS分析については、細胞を、死滅/生存遠赤色セルトラッカー(Invitrogen社)で染色した。殺傷の特異性を評価するために、細胞を、バイオレットセルトラッカーで標識された集団でゲーティングした。調整された生存率を計算するために、生きている標的細胞の割合が、以下のように報告された:調整生存率=(R1/R2)*100、式中、R1=抗体の存在下での生きた標的細胞の割合、およびR2=試験抗体の非存在下での生きた標的細胞の割合。T細胞活性化は、CD2、CD69、およびCD25に対するコンジュゲートされた抗体と細胞を直接インキュベートし、全T細胞(CD2+)のうち活性化(CD69+)T細胞または(CD25+)T細胞の割合を報告することによって評価された。
【0233】
フローサイトメトリー解析は、PSMAxCD3がJurkat T細胞およびヒトPBMC上のCD3に特異的に結合することを示した(
図1A)。さらに、PSMAxCD3は、22Rv1およびC4-2、異なるレベルのPSMAを発現するヒト腫瘍細胞株に特異的に結合し、PSMAxCD3が低抗原発現細胞株および高抗原発現細胞株の両方に結合できることを示している(
図1B)。PSMAxCD3の細胞傷害の可能性を評価するために、インビトロのフローサイトメトリーベースの細胞殺傷アッセイを実施した。PSMAxCD3は、22Rv1(EC50 1.79x10
-11)細胞およびC4-2(EC50 2.23x10
-11)細胞の殺傷を誘導したが、CD3結合対照は誘導しなかった(
図1C)。PSMAxCD3に応答して、T細胞上で早期活性化マーカーCD69(
図1D)および後期活性化マーカーCD25(
図1E)が上昇した。PSMAxCD3はまた、T細胞がC4-2または22Rv1腫瘍細胞とインキュベートされたときにサイトカイン放出(IFNγおよびTNFα)を誘導した(
図1F、G)。
【0234】
まとめると、これらの結果は、PSMAxCD3が標的依存性のCD3を介したT細胞活性化を誘導し、その結果、PSMA発現腫瘍細胞を殺傷することができることが示された。
【0235】
PSMAxCD3は、異種腫瘍モデルにおけるヒト前立腺癌細胞の増殖を阻害する
22Rv1およびC4-2ヒト腫瘍細胞株を使用して、二つの皮下腫瘍異種移植マウスモデルを構築した。ヒトPBMCを、腫瘍移植時にNSGマウスのヒトCD3 T細胞の供給源として送達し、マウスをCD3結合対照またはPSMAxCD3で直ちに処置した。22Rv1腫瘍細胞を移植したマウスは、0.1mg/kgおよび1mg/kgのPSMAxCD3で腫瘍増殖阻害を示し(
図2A)、C4-2腫瘍細胞を移植したマウスは、0.01mg/kgという低いPSMAxCD3で有意な腫瘍増殖阻害を示した(
図2B)。
【0236】
同系腫瘍試験
VelociGene(登録商標)技術を使用して、ヒトCD3およびヒトPSMAの一部を発現するように遺伝子改変されたマウスにおいて、同系試験を実施した。マウス(5~7匹/群、8~16週齢)に、5×106個のTRAMP-C2-hPSMA細胞を皮下(SC)に注射した。マウスに、5mg/kgのPSMAxCD3またはCD3結合対照を週に二回投与し、合計で4回の治療を行った。腫瘍増殖を、キャリパーを使用して測定した。キャリパー測定値に基づく腫瘍体積は、式:体積=(長さx幅2)/2によって計算された。PSMAxCD3+抗4-1BB(LOB12.3、BioXcell)を用いた試験については、CD3結合対照群をラット-IgGアイソタイプ対照で処理し、抗4-1BB群をCD3結合対照で処理した。腫瘍メモリー試験のために、治療に応答して腫瘍が除去されたマウスを、反対側の脇腹に腫瘍を注射してから35日後に1×107個のTRAMP-C2-hPSMA細胞で再攻撃した。
【0237】
免疫コンジュゲートの調製および小動物PET
予め較正したSofie Biosciences G8 PET/CT 装置(Sofie Biosciences社(Culver city、CA)およびPerkin Elmer社)を用いて、PET/およびCT画像を撮影した。エネルギー窓は、視野の中央で1.4 mmの再構成された解像度で、150~650keVの範囲であった。投与後6日目に、マウスは、イソフルランを使用して導入麻酔を受け、10分間の静的PET撮影とそれに続くCT撮影の間、イソフルランの連続的フロー下に置かれた。減衰補正されたPETデータおよびCTデータは、VivoQuantソフトウェア(inviCRO Imaging Services)を使用して、%ID/gとして表される、体積当たりの注入用量の0~15%の信号範囲を示すように較正されたカラースケールで、偽色の同時登録されたPET-CT最大強度投影に処理された。エクスビボ生体内分布解析のために、PET/CT撮影後にマウスを安楽死させた。次いで、血液、正常組織、および腫瘍を採取し、計数管に入れた。次いで、全試料のγ放出放射能を自動ガンマカウンター(AMG、Hidex)で計数し、結果を1分当たりの正規化計数(cpm)で報告した。各試料の%IDは、元の注入材料から調製された線量標準計数に対する試料計数を使用して決定された。その後、個々の%ID/g値は、%IDを適切な血液、組織、または腫瘍サンプルのそれぞれの重量で割ることによって導出した。
【0238】
免疫PET撮像は、HuTマウスにおけるPSMAxCD3のインビボでの生体内分布を示す
異種モデルは、成熟B細胞、T細胞、およびNK細胞を欠く免疫不全マウスを使用する。免疫能力のあるマウスモデルにおけるPSMAxCD3の有効性を調べるために、ヒト標的マウス(HuT)は、マウス配列を欠失し、ヒトCD3およびPSMAのオルソロガス領域と置換することによって、ヒトPSMAおよびCD3を発現するように遺伝子操作された。ヒトPSMA転写物の発現は、脊髄、脳、肝臓、腎臓、精巣、および唾液腺で検出されたが、前立腺ではごくわずかな発現しか見られなかった(
図3A)。さらに、PSMAタンパク質の発現も免疫組織化学により確認され、類似の発現パターンを示した(データは示さず、Skokosら、提出済)。PSMA抗原のインビボでの生物学的利用能と、HuTマウスにおけるPSMAxCD3の分布を決定するために、免疫PET(iPET)撮像を使用して抗体の局在化を追跡した。HuTマウスに、
89Zr-抗PSMA(PSMAxCD3を生成するために使用される二価抗体)、
89Zr-PSMAxCD3または
89Zr-CD3結合対照を注射して、組織分布を評価した。
89Zr-CD3結合対照を注射したマウスに特異的な標的化はなかった。
89Zr-抗PSMAを注射したマウスは、肝臓、腎臓、精巣上体、涙腺、唾液腺、および流入領域リンパ節に特異的な取り込みを示した。注目すべきことに、脳および精巣はPSMA発現組織として同定されたが、iPETは、おそらく血液脳関門および抗原へのアクセス不能により標的化を示さない。
89Zr-PSMAxCD3を注射したマウスは、腎臓での取込みの減少および脾臓での取込みの増加を除いて、二価の
89Zr-抗PSMAと類似の分布プロファイルを示し、PSMAxCD3の分布が、主にPSMA結合アームによるものであることを示した(
図3Bおよび3C)。これを確認するために、CD3単独またはPSMAを加えてヒト化したマウスの血清薬物濃度のクリアランスを調べた。HuT(CD3)マウスの血清薬物濃度はWTマウスと類似していたが、HuT(PSMAおよびCD3)マウスは血清中の薬剤クリアランスがより速いことを示した(
図3D)。
【0239】
最後に、これらのマウスのヒト化は、T細胞受容体(TCR)Vβ使用によって決定されるように、脾臓CD8およびCD4T細胞のポリクローナルの発生を変化させなかった。HuTマウスは、WTマウスと比較して、同様の総T細胞数、ならびにCD4、CD8、および制御性T細胞(Tregs)の相対的割合も有する(データは示さず、Crawfordら、Sci.Transl.Med.11、eaau7534(2019))
【0240】
まとめると、これらのデータは、PSMAxCD3分布がPSMA結合アームによって駆動され、HuTマウスの抗原発現組織を選択するために局在化することを示した。
【0241】
PSMAxCD3は、HuTマウスの小さな定着腫瘍に対して有効である
HuTマウスに、ヒトPSMA(TRAMP-C2-hPSMA)を発現するマウス前立腺腺癌細胞株を皮下移植した。腫瘍移植の日に開始されたPSMAxCD3治療は、CD3結合対照を受けたマウスと比較して、腫瘍増殖を完全に防止した(
図4A)。腫瘍が約50mm
3であったときに開始されたPSMAxCD3治療(
図4B)も、有意な抗腫瘍有効性を示した。しかしながら、これらの治療レジメンで誘発された有意な有効性にもかかわらず、腫瘍がおよそ200mm
3になるまで治療を遅らせると、抗腫瘍有効性は低下し、短いが一過性の抗腫瘍応答を示した(
図4C)。フローサイトメトリーにより、PSMA標的発現がTRAMP-C2-hPSMA腫瘍で依然として維持されていることが確認され、有効性の欠如が標的の不在によるものではないことを示している。さらに、20mg/kgでの高用量のPSMAxCD3は、PSMA標的発現が維持された場合でも、200mm
3の腫瘍を制御するには依然として不十分であった(データは示さず)。
【0242】
PSMAxCD3は大きさに関係なく腫瘍を標的とするが、有効性はより小さな腫瘍に限定される
抗腫瘍有効性が、局所腫瘍環境またはマウスの総腫瘍量によって決定されるかどうかを判定するために、各マウスが対向する脇腹に大小の腫瘍を有するように、両側腫瘍モデルを構築した。HuTマウスに、1×107(左脇腹)および1.25×106(右脇腹)TRAMP-C2-hPSMA細胞を皮下(SC)に注射した。腫瘍が約150mm3(左脇腹)および50mm3(右脇腹)の大きさになった12日目に、5mg/kgのPSMAxCD3またはCD3結合対照を、週に二回、計4回の治療でマウスに投与した。
【0243】
PSMAxCD3は、より小さな腫瘍の腫瘍進行を遅らせることができたが(
図5A)、同じ動物の対向する脇腹のより大きな腫瘍には影響を及ぼさなかった(
図5B)。これらの所見は、PSMAxCD3の有効性が、総腫瘍量でも全身性T細胞機能不全でもなく、腫瘍内在性因子によって決定されることを示唆した。続いて、PSMAxCD3が大きな腫瘍に浸透できるかどうかを判定するために、
89Zr-PSMAxCD3または
89Zr-CD3結合対照を、両側腫瘍を有するHuTマウスに注射した。注射されたマウスは、末梢組織および腫瘍における
89Zr-PSMAxCD3の特異的取り込みを示した。対照的に、マウスは、腫瘍または組織における
89Zr-CD3結合対照の特異的取込みを示さなかった。さらに、エクスビボ生体内分布解析により、腫瘍の大きさに関わらず、PSMAxCD3の類似の取り込みがあることが確認されたため、応答の欠如はPSMAxCD3標的化の欠如によるものではない(
図5Cおよび5D)。
【0244】
エクスビボフローサイトメトリー:
フローサイトメトリーを使用して、循環中のT細胞を検出し、治療48時間後または96時間後に腫瘍内T細胞の活性化状態を調べるか、または腫瘍細胞上のPSMA標的維持を調べた。腫瘍を機械的に破壊し、コラゲナーゼII(175単位/mL;Worthington)、コラゲナーゼIV(200単位/mL;Gibco)、およびDNase 1(400単位/mL;Sigma)の存在下で、42℃で9分間消化した。次いで、消化された材料を細胞ストレーナーに通した。T細胞を検出するために、CD45(30-F11、Biolegend)、CD90.2(30-H12、Biolegend)、CD8(53-6.7 BD Pharmingen)、CD4(GK1.5、BD Pharmingen)、およびFOXP3(FJK-165、EBiosciences)の組み合わせを使用した。グランザイムB(GB11、BD Pharmingen)、Ki67(16A8、Biolegend)および4-1BB(IAH2、BD Pharmingen)に対する抗体を使用して、T細胞活性化を調べた。染色は、Ebioscience FoxP3染色緩衝液セットを使用して行った。T細胞を、CD45+、CD90.2+、CD8+、CD4+、またはCD4+ FOXP3+として同定した。
【0245】
PSMAxCD3は、大小の腫瘍においてT細胞浸潤および活性化を誘導する
腫瘍内T細胞の頻度および空間分布を評価するために、腫瘍を免疫組織化学により分析した。Ventana Discovery XT(Ventana;Tucson,AZ)を使用したIHCにより、組織または腫瘍の5μmのパラフィン切片を、抗PSMA(ERP6253、ABCAM)、抗CD3(A045229、DAKO)、抗CD4(Ab183685、ABCAM)、抗CD8(4SM15、eBiosciences)、および抗FOXP3(12653、Cell Signaling Technologies)のいずれかで染色した。Ventana DAB Map検出キットを使用して、Discovery XT Automated IHC染色システムで免疫組織化学染色を行った。スライドを、ヘマトキシリンで手動で対比染色し(2分)、脱水し、カバーガラスで覆った。画像はAperio AT 2スライドスキャナ(Leica Biosystems、Buffalo Grove、IL)で取得し、Indica HALOソフトウェア(Indica Labs、Corrales、NM)を使用して分析した。H&E染色は、Histoserv,Inc(Germantown、MD、USA)によって実施された。
【0246】
大小の腫瘍の両方に、治療を行わないベースラインでは、CD4+およびCD8+ T細胞が浸潤している。次いで、PSMAxCD3またはCD3結合対照で治療した後に腫瘍を調べた。PSMAxCD3治療は、50mm3および200mm3の両方の腫瘍におけるCD8+T細胞の頻度の増加を促進した。対照的に、CD4+T細胞の頻度に有意な効果はなかった。さらに、FOXP3+免疫抑制Treg細胞の頻度は、すべての群にわたって類似していた(データは示さず)。T細胞は、大小の腫瘍のどちらにも存在するため、PSMAxCD3またはCD3結合対照を投与した後のこれらのT細胞の活性を確認した。
【0247】
フローサイトメトリー解析により、PSMAxCD3治療後の大小両方の腫瘍におけるCD8+およびCD4+T細胞が、細胞溶解マーカーであるグランザイムBおよび増殖マーカーであるKi67を上方制御したことが判明した(データは示さず)。さらに、PSMAxCD3投与後にIFN-γ、IL-2、およびTNF-αの血清サイトカイン濃度を調べて、T細胞活性化を示した。PSMAxCD3で処置した腫瘍を有するHuTマウスは、4時間で全身サイトカイン産生を誘発したが、72時間までにサイトカイン放出はベースライン濃度に戻り、強力ではあるが一過性のT細胞応答を示した(データは示さず)。対照的に、抗4-1BBと組み合わせたPSMAxCD3は、治療後96時間でサイトカイン放出の増加をもたらし、持続的なT細胞応答を示唆した。これらの結果は、初期応答は、すでに48時間までにサイズが縮小された小さい腫瘍を除去するのに十分であり得るが、T細胞は急速に成長する大きな腫瘍を克服できないことを示唆している。したがって、腫瘍特異的T細胞の増殖および拡大を促進するための追加の共刺激は、大きな腫瘍の抗腫瘍応答に必要であり得る。
【0248】
PSMAxCD3と4-1BBの共刺激は、より大きな腫瘍に対して非常に有効である
より大きな腫瘍由来のT細胞を、4-1BB発現について調べた。フローサイトメトリー解析は、PSMAxCD3が、脾臓T細胞では発現が観察されないため、腫瘍内T細胞に限定された活性化依存性の4-1BB表面発現を誘導することを示した(
図6A)。次に、4-1BB経路の共刺激が、より多い腫瘍量を有するマウスで、抗腫瘍有効性を高めることができるかどうかを判定した。PSMAxCD3または抗4-1BBの単独では腫瘍増殖のある程度の遅延を示したが、PSMAxCD3を抗4-1BBと組み合わせて単回投与で処置したマウスでは、顕著な抗腫瘍有効性が得られ(
図6B)、60日目までに50~60%の腫瘍が完全に除去された(
図6C)。特に、抗4-1BBと組み合わせたPSMAxCD3を投与されたマウスは、抗4-1BBと組み合わせたより高用量のPSMAxCD3を投与された場合、一過性の体重減少を経験した。この一過性の体重減少は、全体的な抗腫瘍有効性に影響を与えることなく、抗4-1BBと組み合わせてPSMAxCD3の用量を5mg/kgから1mg/kgに減少させることによって、軽減することができる(データは示さず)。さらに、PSMAxCD3を抗4-1BBと組み合わせて処置されたマウスは、4-1BBが誘導する活性化経路に必須である、TRAF1アダプタータンパク質の転写物発現の上昇、ならびに生存遺伝子Bcl2、Bcl-XL(Bcl2l1)、およびBFL-1(Bcl2a1a)の上方制御を示した(
図6D)。
【0249】
PSMAxCD3と4-1BBの共刺激はCD8 T細胞の増殖を拡大させ、生存を延長する
T細胞活性化の指標としての血清サイトカイン放出を評価したところ、PSMAxCD3のみで治療したマウスでは、サイトカイン濃度がベースラインレベルに戻っていたが、PSMAxCD3を抗4-1BBと組み合わせて処置したマウスでは、処置後96時間経っても、サイトカイン誘導の増強と持続を示した(データは示さず)。生存遺伝子は4-1BB経路を介して上方制御されるため、治療後96時間で腫瘍浸潤性CD8およびCD4 T細胞を調べた。実際に、CD3結合対照、抗4-1BB、またはPSMAxCD3単独と比較して、併用療法で処置されたマウスでは、CD8 T細胞区画の顕著な拡大が観察された(
図7A)。さらに、PSMAxCD3は抗4-1BBとの組み合わせが、グランザイムB+(データは示さず)およびKi67+(データは示さず)CD8 T細胞の割合および総数が増加したことから、併用療法が、細胞傷害活性を有し、継続的な増殖が可能な腫瘍浸潤性T細胞の増殖を誘導することを示唆している。Treg細胞の総数は治療群間で類似していたが、併用療法を受けたマウスのCD8+T細胞の増殖により、CD8対Tregの比率は有意に向上した(データは示さず)。大きな腫瘍を除去したマウスを、反対側の脇腹にTRAMP-C2-hPSMA細胞で再攻撃した。併用療法を受けたマウスは、ナイーブマウスと比較して、二次的な腫瘍攻撃を制御することができ、腫瘍特異的免疫学的メモリーの生成を示している(
図7Bおよび表2)。
【表2】
【0250】
全体的に、データは、PSMAxCD3が短期的にT細胞の活性化、サイトカイン産生および増殖を誘導できる一方で、抗マウス4-1BBとの組み合わせにより、これらの効果を延長および強化して、定着腫瘍においても抗腫瘍有効性を達成できることを示した。さらに、PSMAxCD3またはPSMAxCD3+抗4-1BBで処置されたマウスは、二次的な腫瘍攻撃から保護された。
【0251】
結論
腫瘍抗原PSMA(PSMAxCD3)を標的とするCD3二重特異性抗体は、複数のマウスモデルにおいて前臨床有効性を示す。PSMAxCD3を抗4-1BBと組み合わせると、持続的な抗腫瘍活性を達成し、マウスの長期生存をもたらし、共刺激が進行性固形腫瘍に対するCD3二重特異性抗体の効力を高め得ることを示している。
【0252】
本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態による範囲に限定されるものではない。実際には、本明細書に記載されたものに加えて本発明の種々の変更が、上記の記述から当業者に明らかとなるであろう。そのような変更は、添付される特許請求の範囲の範囲内にあることが意図される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
癌を治療する方法または腫瘍の増殖を阻害する方法であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目2)
前記癌が、前立腺癌、腎臓癌、膀胱癌、結腸直腸癌、および胃癌からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記癌が前立腺癌である、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記前立腺癌が去勢抵抗性前立腺癌である、項目3に記載の方法。
(項目5)
抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体および前記抗4-1BBアゴニストが、別々に投与される、項目1に記載の方法。
(項目6)
抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体および前記抗4-1BBアゴニストが、同時投与される、項目1に記載の方法。
(項目7)
抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体が、前記抗4-1BBアゴニストの前、同時、または後に投与される、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体が、前記抗4-1BBアゴニストの前に投与される、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体が、前記抗4-1BBアゴニストと同日に投与される、項目7に記載の方法。
(項目10)
前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗体が、前記抗4-1BBアゴニストと組み合わせて投与される、項目1~9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記抗4-1BBアゴニストが、小分子または抗体から選択される、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記抗4-1BBアゴニストが、ウレルマブおよびウトミルマブからなる群から選択される抗体である、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記二重特異性抗原結合分子が、第一の抗原結合ドメインを含み、前記第一の抗原結合ドメインが、ヒトCD3に特異的に結合し、配列番号2の重鎖可変領域(HCVR-1)アミノ酸配列を含む、項目1~12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記二重特異性抗原結合分子が、第二の抗原結合ドメインを含み、前記第二の抗原結合ドメインが、ヒトPSMAに特異的に結合し、配列番号1の重鎖可変領域(HCVR-2)アミノ酸配列を含む、項目1~13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
前記二重特異性抗原結合分子が、CD3に特異的に結合し、かつ配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含む第一の抗原結合ドメインと、PSMAに特異的に結合し、かつ配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む第二の抗原結合ドメインとを含む、項目13または14のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記二重特異性抗原結合分子が、配列番号3の共通LCVRを含む、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記腫瘍の体積が、抗4-1BBアゴニストの非存在下での治療と比較して減少する、項目1に記載の方法。
(項目18)
無腫瘍生存が、抗4-1BBアゴニストの非存在下での治療と比較して増大する、項目1に記載の方法。
(項目19)
対象の前記腫瘍におけるTRAF1発現が、抗4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるTRAF1発現と比較して、少なくとも約4倍増加する、項目1に記載の方法。
(項目20)
対象の前記腫瘍におけるBcl2発現が、抗4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるBcl2発現と比較して、少なくとも約2倍増加する、項目1に記載の方法。
(項目21)
対象の前記腫瘍におけるBFL-1発現が、抗4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるBFL-1発現と比較して、少なくとも約3倍増加する、項目1に記載の方法。
(項目22)
対象の前記腫瘍におけるCD8+T細胞の増殖および/またはCD8+T細胞の生存が、抗4-1BBアゴニストの非存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子を投与された対象の腫瘍におけるCD8+T細胞と比較して、増大する、項目1に記載の方法。
(項目23)
腫瘍組織におけるCD8+ T細胞の増殖を増加させる方法であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目24)
抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子+抗4-1BBアゴニストで処置された対象の前記腫瘍組織におけるCD8+T細胞対Treg比が、抗4-1BBアゴニストの非存在下で抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子で処置された対象の腫瘍組織におけるCD8+T細胞対Treg比と比較して増加する、項目23に記載の方法。
(項目25)
腫瘍細胞へのその後の曝露は、抗4-1BBアゴニストの存在下で前記抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子で処置された前記対象においてメモリー応答を誘発する、項目1に記載の方法。
(項目26)
腫瘍に対するT細胞応答を誘発および/または強化する方法であって、(a)抗CD3/抗PSMA二重特異性抗原結合分子、および(b)抗4-1BBアゴニストの各々の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
(項目27)
医薬組成物であって、
(a)(i)ヒトCD3に特異的に結合し、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含む第一の抗原結合ドメインと、(ii)ヒトPSMAに特異的に結合し、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む第二の抗原結合ドメインと、を含む二重特異性抗原結合分子、
(b)抗4-1BBアゴニスト、および
(c)薬学的に許容可能な担体または希釈剤を含む、医薬組成物。
(項目28)
部分(a)の前記二重特異性抗原結合分子が、配列番号3の共通LCVRアミノ酸を含む、項目27に記載の医薬組成物。
(項目29)
PSMAおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子、キレート部分、および陽電子放出体を含む、放射性標識された二重特異性抗体コンジュゲート。
(項目30)
前記二重特異性抗原結合分子が、式(A):
-L-M
Z
(A)の前記キレート部分Lに共有結合しており、
式中、Mが、前記陽電子放出体であり、zが、各出現において独立して、0または1であり、zのうちの少なくとも一つが1である、項目29に記載のコンジュゲート。
(項目31)
前記キレート部分が、デスフェリオキサミンを含む、項目29または30に記載のコンジュゲート。
(項目32)
前記陽電子放出体が、
89
Zrである、項目29~31のいずれかに記載のコンジュゲート。
(項目33)
-L-Mが、
【化8】
であり、前記陽電子放出体Zrが
89
Zrである、項目29~32のいずれかに記載のコンジュゲート。
(項目34)
前記二重特異性抗原結合分子が、式(A)の一つ、二つ、または三つの部分に共有結合する、項目29~33のいずれかに記載のコンジュゲート。
(項目35)
前記二重特異性抗原結合分子が、CD3に特異的に結合し、配列番号2のHCVR-1アミノ酸配列を含む第一の抗原結合ドメインと、PSMAに特異的に結合し、配列番号1のHCVR-2アミノ酸配列を含む第二の抗原結合ドメインとを含む、項目29~34のいずれかに記載のコンジュゲート。
(項目36)
PSMAを発現する組織の撮像方法であって、項目29~35のいずれか一項に記載の放射性標識された二重特異性抗体コンジュゲートを前記組織に投与することと、陽電子放出断層撮影(PET)撮像によりPSMA発現を可視化することと、を含む、方法。
【配列表】