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特許7743340圧延装置の監視制御装置、圧延設備、圧延装置の監視制御方法及び圧延装置の監視制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-12
(45)【発行日】2025-09-24
(54)【発明の名称】圧延装置の監視制御装置、圧延設備、圧延装置の監視制御方法及び圧延装置の監視制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 38/00 20060101AFI20250916BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20250916BHJP
   B21B 37/46 20060101ALI20250916BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20250916BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250916BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20250916BHJP
【FI】
B21B38/00 D
B21B1/22 K
B21B37/46 110Z
B21C51/00 D
G01H17/00 A
G01M99/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022047879
(22)【出願日】2022-03-24
(65)【公開番号】P2023141520
(43)【公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川村 一輝
(72)【発明者】
【氏名】川内 章央
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅司
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122979(JP,A)
【文献】国際公開第2021/024448(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/024447(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/209295(WO,A1)
【文献】特許第7103550(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延装置を監視または制御するための監視制御装置であって、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得するように構成された振動データ取得部と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するように構成された累積振動振幅取得部と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するように構成された第1指標取得部と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された評価部と、
を備える圧延装置の監視制御装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記多角形化指標と閾値との比較に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された
請求項1に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項3】
前記振動データから、前記金属板の前記圧延中における前記圧延ロールの振動レベルを示す振動レベル指標を取得するように構成された第2指標取得部を備え、
前記評価部は、前記多角形化指標及び前記振動レベル指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された
請求項1又は2に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項4】
前記評価部は、前記多角形化指標、及び、前記圧延ロールの振動と相関を有する少なくとも1つのパラメータで前記振動レベル指標を除して得られる補正振動レベル指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された
請求項3に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項5】
前記振動レベル指標は、前記圧延ロールの加速度の大きさを示す指標を含む
請求項3又は4に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項6】
前記振動レベル指標は、前記圧延ロールの変位の大きさを示す指標を含む
請求項3又は4に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項7】
前記振動データから取得される前記多角形化指標と前記振動レベル指標との相関を示す評価マップを表示するように構成された表示部を備える
請求項3乃至6の何れか一項に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項8】
前記多角形化指標が閾値を超えないように前記圧延装置の運転条件を決定するように構成された運転条件決定部を備える
請求項1乃至7の何れか一項に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項9】
前記振動データから、前記金属板の前記圧延中における前記圧延ロールの振動レベルを示す振動レベル指標を取得するように構成された第2指標取得部と、
前記振動レベル指標が閾値を超えないように前記圧延装置の運転条件を決定するように構成された運転条件決定部と、
を備える
請求項1乃至8の何れか一項に記載の圧延装置の監視制御装置。
【請求項10】
金属板を圧延するための圧延ロールを含む圧延装置と、
前記圧延ロールの状態を評価するように構成された請求項1乃至9の何れか一項に記載の監視制御装置と、
を備える圧延設備。
【請求項11】
圧延装置を監視または制御するための監視制御方法であって、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得するステップと、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するステップと、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するステップと、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するステップと、
を備える圧延装置の監視制御方法。
【請求項12】
圧延装置を監視または制御するための監視制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得する手順と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得する手順と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得する手順と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価する手順と、
を実行させるための圧延装置の監視制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧延装置の監視制御装置、圧延設備、圧延装置の監視制御方法及び圧延装置の監視制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧延ロールを含む圧延装置において金属板等の材料の圧延を続けると、ロールと被圧延材が接触しながら回転することによって摩耗が生じ、圧延ロールの断面形状が特定のN角形に近づくロールの多角形化が生じることがある。圧延ロールのN角形化が生じて成長すると、圧延ロールにより圧延された材料の表面に、圧延ロールのN角形に対応した凹凸が形成され、製品の品質上問題となることがある。また、ロールの交換頻度が増えることにつながり生産性が低下することがある。また、ロールの多角形化が生じると振動レベルが大きくなり、圧延設備自体が損傷することがある。そこで、圧延ロールのN角形化の成長傾向を適切に把握し、可能であれば多角形化を回避することが望まれる。
【0003】
特許文献1には、圧延ロールの回転数が一定での圧延中の圧延ロールの振動データから、圧延ロールの振動振幅の経時変化の指標を示す特性値σを算出し、該特性値σに基づいて圧延ロールのN角形化の成長傾向を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2021/024447号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される圧延装置の評価方法は、圧延ロール回転数が一定での圧延に適用されるものであり、圧延速度が変化する場合に適用することができない。また、特許文献1に記載される方法では、圧延ロールの多角形化を評価するために、圧延ロール回転数と特性値σの相関関係を示すデータベースを予め取得しておく必要がる。また、このデータベースは圧延条件(鋼種、温度、圧下率等)や圧延装置の劣化状態に応じたものであり、様々な条件に対応するデータベースを取得するのは容易ではない。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能な圧延装置の監視制御装置、圧延設備、圧延装置の監視制御方法及び圧延装置の監視制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の監視制御装置は、
圧延装置を監視または制御するための監視制御装置であって、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得するように構成された振動データ取得部と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するように構成された累積振動振幅取得部と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するように構成された第1指標取得部と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された評価部と、
を備える。
【0008】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備は、
金属板を圧延するための圧延ロールを含む圧延装置と、
前記圧延ロールの状態を評価するように構成された上述の監視制御装置と、
を備える。
【0009】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の監視制御方法は、
圧延装置を監視または制御するための監視制御方法であって、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得するステップと、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するステップと、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するステップと、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するステップと、
を備える。
【0010】
また、本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の監視制御プログラムは、
圧延装置を監視または制御するための監視制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記圧延装置での金属板の圧延中、前記圧延装置の圧延ロールの振動を示す振動データを取得する手順と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得する手順と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得する手順と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価する手順と、
を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能な圧延装置の監視制御装置、圧延設備、圧延装置の監視制御方法及び圧延装置の監視制御プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る圧延設備の模式図である。
図2】一実施形態に係る監視制御装置の概略構成図である
図3】一実施形態に係る圧延装置の監視制御方法の概略的なフローチャートである。
図4】圧延中に得られた圧延ロールの振動データの時間‐周波数分析結果の一例を示すチャートである。
図5】角形数N(次数)毎の振動レベルの大きさの時刻歴の分析結果の一例を示すグラフである。
図6】角形数N毎の累積振動振幅の例を示すグラフである。
図7】累積振動振幅の変動係数の例を示すグラフである。
図8】多角形化指標と振動レベル指標との相関を示す評価マップの一例である。
図9】多角形化指標及び振動レベル指標の時系列変化を説明するための図である。
図10A図9のマップ中のP1おける累積振動振幅を示すグラフである。
図10B図9のマップ中のP2おける累積振動振幅を示すグラフである。
図10C図9のマップ中のP3おける累積振動振幅を示すグラフである。
図10D図9のマップ中のP4おける累積振動振幅を示すグラフである。
図10E図9のマップ中のP5おける累積振動振幅を示すグラフである。
図11】振動レベル指標を用いる場合と補正振動レベル指標を用いる場合との差を示す図である。
図12】圧延ロールのN角形化が生じている圧延装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0014】
(圧延設備の構成)
図1は、幾つかの実施形態に係る監視制御装置及び監視制御方法が適用される圧延設備の模式図である。図1に示すように、一実施形態に係る圧延設備1は、金属板Sを圧延するように構成された圧延スタンド10を含む圧延装置2と、圧延装置2の状態を評価するように構成された監視制御装置50と、を備えている。また、圧延設備1は、圧延スタンド10を構成する圧延ロール3の振動を計測するための振動計測部90を備えている。
【0015】
圧延スタンド10は、金属板Sを圧延するための複数の圧延ロール3と、圧延ロール3に荷重を加えて金属板Sを圧下するための圧下装置8と、ハウジング(不図示)等を含む。圧下装置8は、油圧シリンダを含んでいてもよい。
【0016】
図1に示す圧延装置2では、圧延ロール3は、金属板Sを挟むように設けられる一対のワークロール4A,4Bと、一対のワークロール4A,4Bを挟んで金属板Sとは反対側に設けられ、一対のワークロール4A,4Bをそれぞれ支持するための一対のバックアップロール6A,6Bと、を含む。ワークロール4A,4Bは、それぞれ、ロールチョック(軸受)5A,5Bによって回転可能に支持されている。バックアップロール6A,6Bは、それぞれ、ロールチョック7A,7Bによって回転可能に支持されている。ロールチョック5A,5B及びロールチョック7A,7Bは、ハウジング(不図示)によって支持されている。
【0017】
図1に示す圧延設備1において、振動計測部90は、ロールチョック5A,5B,7A,7Bにそれぞれ取り付けられた加速度センサ91~94を含む。加速度センサ91~94は、それぞれ、ロールチョック5A,5B,7A,7Bの任意の方向(例えば、垂直方向、水平方向、及び/又は、圧延ロール3の回転軸方向)における振動、すなわち、ワークロール4A,4B及びバックアップロール6A,6Bの任意の方向における振動を検出するように構成されている。加速度センサ91~94で検出された、上述の振動を示す信号は、監視制御装置50に送られるようになっている。
【0018】
他の実施形態では、振動計測部90は、圧延ロール3の任意の方向における変位を計測するように構成された変位検出部を含んでいてもよい。この場合、変位検出部による計測結果に基づいて、圧延ロール3の振動を算出するようにしてもよい。変位検出部として、例えば、レーザ式又は渦電流式等の変位計を用いることができる。あるいは、変位検出部として撮像装置(カメラ等)を用いることができる。この場合、圧延ロール3の一部位を撮像装置で撮像し、得られた撮像データを画像処理することにより、圧延ロール3の振動を算出するようにしてもよい。
【0019】
図2は、一実施形態に係る監視制御装置50の概略構成図である。監視制御装置50は、詳しくは後述するように、圧延ロール3の多角形化(N角形化)の状態を評価するように構成される。
【0020】
監視制御装置50は、振動計測部90から圧延ロール3の振動を示す信号を受け取るとともに、回転数計測部96にて計測された圧延ロール3(ワークロール4A,4B等)の回転数を示す信号を受け取るように構成される。また、監視制御装置50は、このように受け取った信号を処理するように構成される。
【0021】
図2に示すように、監視制御装置50は、振動データ取得部52、累積振動振幅取得部54、第1指標取得部56、第2指標取得部58、評価部60、運転条件決定部62、制御部64を含む。また、監視制御装置50は、該監視制御装置50による計算結果や評価結果を出力するように構成された出力部66を含む。監視制御装置50による計算結果や評価結果は、出力部66を介して表示部68(ディスプレイ等)に出力されるようになっている。
【0022】
振動データ取得部52は、圧延装置2での金属板の圧延中、圧延装置2の圧延ロール3の振動を示す振動データを取得するように構成される。
【0023】
累積振動振幅取得部54は、圧延ロール3の複数の角形数Nの各々について、振動データ取得部52で取得された振動データから、圧延ロール3の回転回数毎の角形数Nに対応する周波数における振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するように構成される。
【0024】
第1指標取得部56は、複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するように構成される。
【0025】
第2指標取得部58は、振動データ取得部52で取得された振動データから、金属板Sの圧延中における圧延ロール3の振動レベルを示す振動レベル指標を取得するように構成される。
【0026】
評価部60は、上述の多角形化指標及び/又は振動レベル指標に基づいて、圧延ロール3の状態を評価するように構成される。
【0027】
運転条件決定部62は、例えば評価部60による評価結果に基づいて、圧延装置2の運転条件(例えば圧延ロール3の回転速度等)を決定するように構成される。
【0028】
制御部64は、運転条件決定部62で決定された運転条件を実現するように、圧延装置2を制御する。制御部64は、圧延ロール3の回転速度を制御するために、圧延ロール3を駆動するモータ70の電流値を調節するように構成されてもよい。
【0029】
監視制御装置50は、プロセッサ(CPU又はGPU等)、記憶装置(メモリデバイス;RAM等)、補助記憶部及びインターフェース等を備えた計算機を含む。監視制御装置50は、インターフェースを介して、各種計測器(上述の振動計測部90又は回転数計測部96等)からの信号を受け取るようになっている。プロセッサは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。これにより、後述の各機能部(振動データ取得部52、累積振動振幅取得部54、第1指標取得部56、第2指標取得部58、評価部60、運転条件決定部62及び制御部64等)の機能が実現される。
【0030】
監視制御装置50での処理内容は、プロセッサにより実行されるプログラムとして実装される。プログラムは、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムは記憶装置に展開される。プロセッサは、記憶装置からプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0031】
上述した圧延装置2で金属板Sの圧延を続けると、圧延ロール3の断面形状が特定のN角形に近づくN角形化が生じることがある。ここで、図12は、圧延ロール3のN角形化が生じている圧延装置の模式図である。図12に示す圧延装置2は、複数の圧延スタンド10A~10Cを含む。圧延ロール3の軸方向に直交する断面形状は、通常、圧延スタンド10A又は10Cの圧延ロール3のように円形形状を有するが、図12に示す圧延スタンド10Bの圧延ロール3(ワークロール4A,4B及びバックアップロール6A,6B)の断面形状はN角形(具体的には12角形)となっており、これらの圧延ロール3にはN角形化が生じている。
【0032】
圧延ロール3のN角形化が生じて成長すると、圧延ロール3により圧延された金属板Sの表面に、圧延ロール3のN角形に対応した凹凸が形成され、製品の品質上問題となることがある。そこで、圧延ロール3のN角形化の状態を適切に把握して、製品金属板の品質低下を抑制することが望まれる。
【0033】
なお、図12においては、各圧延ロール3において、12角形化(N=12)が生じた様子が模式的に示されているが、実際の圧延装置では、圧延ロール3の回転数等の運転条件にもよるが、Nが50程度あるいは100程度のN角形が圧延ロール3に生じることがある。
【0034】
また、圧延装置2の運転条件や仕様(固有振動数等)に応じて、特定の圧延スタンド10において圧延ロール3のN角形化が生じたり、1つの圧延スタンドを構成する複数の圧延ロール3のうち、特定の圧延ロール3(ワークロール4A,4B又はバックアップロール6A,6B)にてN角形化が生じたりすることがある。例えば、比較的高温で行う熱間圧延の場合、ワークロール4A,4BにおいてN角形化が比較的起きやすい。また、比較的低温で行う冷間圧延の場合、バックアップロール6A,6BにおいてN角形化が比較的起きやすい。
【0035】
(圧延装置の監視制御フロー)
次に、幾つかの実施形態に係る圧延装置2の監視制御方法について説明する。この監視制御方法では、圧延ロール3(ワークロール4A,4B又はバックアップロール6A,6Bの少なくとも何れか)の多角形化の状態を評価する。なお、以下においては、上述の監視制御装置50を用いて圧延装置2の状態を評価する方法について説明するが、幾つかの実施形態では、以下に説明する監視制御装置50による処理の一部又は全部を、他の装置を用いて又は手動で行ってもよい。
【0036】
図3は、一実施形態に係る圧延装置2の監視制御方法の概略的なフローチャートである。なお、図3のフローチャートに係る方法では、圧延装置2で圧延される金属板Sのコイル1つに対して1つの多角形化指標及び/又は1つの振動レベル指標を取得する。この場合、金属板Sのコイル1つにつき、後述する評価マップ上のプロットが1つ得られる。他の実施形態では、金属板Sの圧延中の既定時間毎に、1つの多角形化指標及び/又は1つの振動レベル指標を取得するようにしてもよい。
【0037】
図3のフローチャートに示す方法では、まず、圧延装置2を用いて、1つ目のコイル(金属板S)を圧延する(S2)。
【0038】
次に、コイルの圧延中に、振動計測部90により、圧延ロール3の振動を計測する。振動計測部90は、圧延ロール3の振動を示す量として、圧延ロール3の特定方向の加速度(例えば水平方向の加速度)を計測するように構成されてもよい。振動計測部90は、圧延中のコイルの圧延が終了するまで、圧延ロール3の振動を計測してもよい。振動データ取得部52は、振動計測部90で計測された圧延ロール3の振動を示す振動データを取得する(S4)。
【0039】
次に、累積振動振幅取得部54は、ステップS4で取得した振動データについて、時間‐周波数分析を行う(S6)。時間‐周波数分析には、例えば高速フーリエ変換(FFT)を用いることが出来るが、ウェーブレット変換などの別の手段を用いても良い。
【0040】
図4は、1つのコイルの圧延中に得られた圧延ロール3の振動データの時間‐周波数分析結果の一例を示すチャートである。図4のチャートの横軸は時間を表し、縦軸は振動数を表す。色の濃度は振動レベルの大きさを表しており、色が濃いほど振動が大きいことを示している。なお、図4は、約90秒の時間をかけて、圧延ロール3の回転速度を90rpmから150rpmの範囲で増加させながら、コイルの圧延を行ったときに得られた振動データを、既定期間毎(例えば1秒毎)の振動データに分割して、それぞれ周波数分析を行った結果を示すものである。
【0041】
なお、図4のグラフでは、圧延期間中の全時間帯において、約70~80Hzの振動数の振動(加速度)が強い。また、圧延ロール3の形状(N角形)に起因する振動の振動数は、圧延ロール3の回転数fとNとの積(f×N)に相当する。このことから、圧延開始直後の回転速度約90rpm(約1.5Hz)では、47~53角形(N=47~53)を示す振動が強く、圧延終了直前の回転数約150rpm(約2.5Hz)では、28~32角形(N=28~32)を示す振動が強く、それぞれの時間帯でそのN数に対応するロールの多角形化が生じていることが推定される。
【0042】
次に、累積振動振幅取得部54は、圧延ロール3の複数の角形数Nの各々について、圧延ロール3の振動を示す振動データに基づいて、1回の圧延の開始から終了までの(あるいはコイル1つの圧延開始から終了までの)、圧延ロール3の回転回数i毎の角形数Nに対応する周波数における振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得する(S8)。なお、Nを圧延ロール3の角形数、iを圧延ロール3の回転回数(圧延開始(i=1)から圧延終了までの回転回数)とした場合、角形数N(N角形)のi回目の回転における振動振幅をAN,iとすると、累積振動振幅はΣAN,iで表すことができる。
【0043】
ステップS8についてより具体的に説明する。
まず、振動計測部90で得られたデータに対して次数比分析(時間‐周波数分析の一種)を行い、角形数N(次数ともいう)毎の振動レベルの大きさ(例えば加速度の振動振幅)の時刻歴を分析する。ここで、図5は、角形数N(次数)毎の振動レベルの大きさの時刻歴の分析結果の一例を示すグラフである。
【0044】
次に、角形数N毎に、得られた振動レベルの大きさ(振動振幅)(図5参照)について時間で分析すると、各角形数Nに対応する累積振動振幅が得られる。図6は、幾つかのコイル(コイルA~F)についての、角形数N毎の累積振動振幅を示すグラフである。
【0045】
なお、累積振動振幅は、以下のように算出してもよい。即ち、圧延ロールの回転数のデータを積分して、圧延ロールの回転回数iの時刻歴を得る。回転回数iと時間は1対1対応なので、回転回数iと各次数(角形数N)毎の振動振幅のグラフが出来る。回転回数1回目から~最終回転数まで、各次数(角形数N)毎の振動振幅の総和を取ることで、次数(角形数Nごとに、累積振動振幅が得られる。
【0046】
次に、第1指標取得部56は、ステップS8で取得した複数の角形数Nにそれぞれ対応して得られる複数の累積振動振幅ΣAN,iのばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得する(S10)。多角形化指標は、上述の複数の累積振動振幅ΣAN,iの変動係数(標準偏差を平均値で除したもの)であってもよい。図7は、図6に累積振動振幅を示した各コイルについての累積振動振幅ΣAN,iの変動係数を示すグラフである。
【0047】
図7において累積振動振幅ΣAN,iの変動係数が比較的大きいコイルEについて、図6のグラフを見てみると、N=30(30角形)近傍に累積振動振幅のピークが存在し、その他の角形数Nの領域(例えば、Nが25以下又は35以上の範囲)では、累積振動振幅が比較的小さい。このことから、コイルEでの圧延時には、圧延装置2の圧延ロール3において30角形化の程度が大きくなっていることがわかる。また、累積振動振幅のばらつきを示す指標(例えば累積振動振幅の変動係数)を用いて、圧延ロール3の多角形化の状態を適切に評価できることがわかる。例えば、多角形化指標と閾値との比較により、多角形化が許容できない程度に進行しているか否かを判定することができる。
【0048】
ここまでに説明した実施形態によれば、圧延装置2の運転中の圧延ロール3の振動を示す振動データに基づき、複数の角形数Nの各々についての累積振動振幅を算出し、複数の角形数Nのそれぞれについての累積振動振幅から、該累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を得る。上述の多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。よって、この多角形化指標に基づいて、圧延ロールの多角形化の状態を適切に評価することができる。ここで、振動データを取得するときの圧延ロール3の回転速度は一定である必要はない。すなわち、上述の実施形態によれば、圧延中に圧延ロール3の回転速度が変化する場合であっても、あるいは、予めデータベースを準備しなくても、圧延時の振動データに基づいて圧延ロール3の多角形化を適切に評価することができる。よって、圧延ロール3の多角形化を簡易に評価可能である。
【0049】
フローチャートの続きについて説明する。
次に、第2指標取得部58は、ステップS4で取得した振動データに基づいて、コイル(金属板S)の圧延中における圧延ロール3の振動レベルを示す振動レベル指標を取得する(S12)。
【0050】
ステップS12で取得する振動レベル指標は、圧延ロール3の特定の方向(例えば水平方向)における加速度の大きさを示す指標であってもよく、例えば、特定の方向における加速度の二乗平均平方根(RMS値)であってもよい。あるいは、ステップS12で取得する振動レベル指標は、圧延ロール3の特定の方向(例えば水平方向)における変位の大きさを示す指標であってもよく、例えば、特定の方向における変位の二乗平均平方根(RMS値)であってもよい。
【0051】
振動レベル指標が大きければ、圧延ロール3の振動が大きくなっていると判断することができる。例えば、振動レベル指標と閾値との比較に基づき、圧延ロール3の振動レベルが許容範囲内であるか否かを判定することができる。
【0052】
次に、監視制御装置50は、ステップS10で取得された多角形化指標、及び、ステップS12で取得された振動レベル指標を、評価マップにプロットする(S14)。評価マップとは、多角形化指標と振動レベル指標との相関を示す評価マップである。この評価マップに基づいて、圧延ロール3の状態を評価することができる。
【0053】
図8は、多角形化指標(I)(縦軸)と振動レベル指標(I)(横軸)との相関を示す評価マップの一例である。なお、図8の評価マップ中の複数のプロットの各々は、1つのコイルの圧延中に計測された振動データに基づき取得された多角形化指標及び振動レベル指標の値を示すものである。なお、各コイルの圧延は、同一の圧延装置2及び同一の圧延ロール3を用いて行われたものである。
【0054】
図8のマップは、多角形化指標が閾値IP_th及び振動レベル指標が閾値Iv_thに基づいて、4つの領域(領域(a)~(d))に分けられている。
【0055】
領域(a)は、多角形化指標が閾値IP_th未満、かつ、振動レベル指標が閾値Iv_th未満の領域である。多角形化指標及び振動レベルのプロットが領域(a)に存在する場合、そのコイルの圧延時点では、圧延ロール3の多角形は許容できない程度に進行しておらず、また、振動も比較的小さいため、例えば、圧延装置2に問題なく、圧延ロール3の使用を続けることができると評価することができる。
【0056】
領域(b)は、多角形化指標が閾値IP_th未満、かつ、振動レベル指標が閾値Iv_th以上の領域である。多角形化指標及び振動レベルのプロットが領域(b)に存在する場合、そのコイルの圧延時点では、圧延ロール3の多角形は許容できない程度に進行していないが、振動が比較的大きいため、例えば、圧延ロール3の使用を続けることができるが、圧延装置2に問題が生じる恐れがあると評価することができる。
【0057】
領域(c)は、多角形化指標が閾値IP_th以上、かつ、振動レベル指標が閾値Iv_th未満の領域である。多角形化指標及び振動レベルのプロットが領域(c)に存在する場合、そのコイルの圧延時点では、振動は比較的小さいが、圧延ロール3の多角形が許容できない程度に進行しているため、例えば、圧延ロール3の使用を続けることができるが、多角形化による大振動に成長する可能性があると評価することができる。
【0058】
領域(d)は、多角形化指標が閾値IP_th以上、かつ、振動レベル指標が閾値Iv_th以上の領域である。多角形化指標及び振動レベルのプロットが領域(d)に存在する場合、そのコイルの圧延時点では、振動は比較的大きく、圧延ロール3の多角形が許容できない程度に進行しているため、例えば、圧延ロール3の交換が必要であると評価することができる。
【0059】
なお、ステップS14で取得される評価マップは、表示部68(ディスプレイ等)に表示されるようになっていてもよい。
【0060】
次に、運転条件決定部62は、ステップS10で取得された多角形化指標と閾値とを比較する(S16)。多角形化指標が閾値以上である場合(S16のNo)、多角形化指標が閾値を超えないように圧延装置2の運転条件を決定する。また、制御部64は、決定された運転条件を満たすように、圧延装置2の運転条件(例えば、圧延ロール3の回転数)を変更する。
【0061】
あるいは、運転条件決定部62は、ステップS12で取得された振動レベル指標と閾値とを比較する(S16)。振動レベル指標が閾値未満である場合(S16のYes)、運転条件を変更せずに、次のコイルの圧延を開始する(S20)。一方、振動レベル指標が閾値以上である場合(S16のNo)、振動レベル指標が閾値を超えないように圧延装置2の運転条件を決定する。そして、制御部64は、決定された運転条件を満たすように、圧延装置2の運転条件(例えば、圧延ロール3の回転数)を変更したうえで(S18)、次のコイルを圧延する(S20)。
【0062】
あるいは、運転条件決定部62は、ステップS10で取得された多角形化指標、及び、ステップS12で取得された振動レベル指標と、それぞれの閾値とを比較する(S16)。多角形化指標及び振動レベル指標の両方が閾値以上である場合(S16のNo)、多角形化指標が閾値を超えないように圧延装置2の運転条件を決定してもよい。また、制御部64は、決定された運転条件を満たすように、圧延装置2の運転条件(例えば、圧延ロール3の回転数)を変更してもよい。
【0063】
なお、ステップS16における多角形化指標及び/又は振動レベル指標と閾値との比較は、ステップS14で作成される評価マップを用いてもよい。
【0064】
図9は、ある圧延ロール3についての多角形化指標及び振動レベル指標の時系列変化を説明するための図である。図9は、図8に示す評価マップと同様のマップであり、マップ中のP1~P5は、それぞれ、異なる時点(あるいは、異なるコイル)における多角形化指標及び振動レベル指標を示す点である。図10A図10Eは、図9のマップ中のP1~P5における多角形化指標の算出過程で得られる、各角形数Nにおける累積振動振幅をそれぞれ示すグラフである。
【0065】
圧延設備1の一例において、多角形化指標及び振動レベル指標は、P1からP2、P2からP3、のように変化する。P1では多角形化指標及び振動レベル指標の両方が閾値未満であるが、P2では多角形化指標が閾値より大きくなり、P3では、多角形化指標及び振動レベル指標の両方が閾値を超えている。圧延設備1の運転条件を変更しなければ、通常、このように、多角形化指標及び振動レベル指標は徐々に大きくなる。また、図10A図10Cのグラフを参照すると、P1の時点からP3の時点までに、N=32(32角形)の累積振動振幅が顕著に大きくなっていることがわかる。
【0066】
仮に、P3の時点から、運転条件を変更せずに運転を継続すると、P4のように、多角形化指標及び振動レベル指標がさらに増大する。また、図10に示すように、N=32(32角形)の累積振動振幅がさらに大きくなり、圧延ロール3の32角形化が大きく進んでしまうおそれがある。
【0067】
そこで、一実施形態では、P3のように、多角形化指標及び振動レベル指標の両方が閾値を超えたら、多角形化指標及び振動レベル指標が減少するように、圧延装置2の運転条件を決定する。例えば、圧延ロール3の回転数を、P3までの回転数とは異なる回転数に変更するように決定する。なお、変更後の回転数は、P3までの回転数より大きくてもよく、あるいは小さくてもよい。制御部64は、決定された運転条件に基づき、運転条件を変更する。例えば、決定された圧延ロール3の回転数となるように、圧延ロール3を駆動するためのモータ電流値を変更する。これにより、例えばP5に示すように、多角形化指標及び振動レベル指標が小さくなる。P5の時点では、図10Eに示すように、P3の時点(図10C)に比べてN=32(32角形)の累積振動振幅が小さくなり、32角形化が退行していることがわかる。
【0068】
このように、多角形化指標及び/又は振動レベル指標に基づいて運転条件を決定及び変更することで、圧延ロール3の多角形化を効果的に抑制することができる。これにより、圧延ロール3をより長期にわたり使用可能となる。あるいは、振動に起因する機器の故障を抑制することができる。
【0069】
幾つかの実施形態では、ステップS12において得られる振動レベル指標に代えて、該振動レベルに基づき得られる補正振動レベル指標を用いて、圧延装置2の状態を評価するようにしてもよい(即ち、ステップS14、S16において、振動レベル指標の代わりに補正振動レベル指標を用いてもよい)。ここで、補正振動レベル指標は、圧延ロール3の振動と相関を有する少なくとも1つのパラメータで振動レベル指標を除したものである。
【0070】
補正振動レベル指標は、例えば、ステップS12で得られる振動レベル指標を圧延装置2における圧延荷重又は圧下率で除したものであってもよく、あるいは、ステップS12で得られる振動レベル指標を圧延荷重と圧下率の積で除したものであってもよい。より具体的に、補正振動レベル指標は、圧延ロールの加速度を圧延荷重と圧下率の積で除したもの(加速度/(圧延荷重×圧下率))であってもよい。
【0071】
圧延ロール3の振動レベルは圧延条件に影響を受け得る。例えば、より厳しい圧延条件では、圧延ロール3の振動レベルが大きくなる傾向がある。このため、圧延条件を考慮しない場合、例えば、振動レベル指標が大きくなっている原因が、圧延条件が厳しいからなのかそれとも設備が故障しているからなのか、判別がつかない場合がある等、圧延ロール3の状態を適切に評価できなるおそれがある。
【0072】
この点、上述の実施形態によれば、圧延ロール3の振動と相関を有するパラメータで振動レベル指標を除して得られる補正振動レベル指標を取得するようにしたので、多角形化指標と、該補正振動レベル指標とに基づいて、圧延条件が変化する場合であっても、圧延ロールの状態を適切に評価することができる。
【0073】
図11は、図8と同様の評価マップの一例を示す図であり、振動レベル指標(圧延条件に基づく補正がされていないもの)を用いる場合(例1)と、圧延条件に基づき補正された補正振動レベル指標を用いる場合(例2)との差を示すものである。
【0074】
図11のケース1では、振動レベル指標を用いた場合(例1)では横軸が小さい領域(c)に属していたが、これは、実際には圧延条件が楽だったためであり、補正振動レベル指標を用いることにより(例2)、横軸が大きい領域(d)に属することになり、同一条件のもとで想定される加速度に比べて大きい振動が生じていることを検出することができる。図11のケース2では、振動レベル指標を用いた場合(例1)では横軸が大きい領域(領域b)に属していたが、これは、実際には圧延条件が厳しかったためであり、補正振動レベル指標を用いることにより(例2)、横軸が小さい領域(a)に属することになり、設備としては問題がないことがわかる。
【0075】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0076】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置(2)の監視制御装置(50)は、
圧延装置を監視または制御するための監視制御装置であって、
前記圧延装置での金属板(S)の圧延中、前記圧延装置の圧延ロール(3)の振動を示す振動データを取得するように構成された振動データ取得部(52)と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するように構成された累積振動振幅取得部(54)と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するように構成された第1指標取得部(56)と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成された評価部(60)と、
を備える。
【0077】
上記(1)の構成によれば、圧延装置の運転中の圧延ロールの振動を示す振動データに基づき、複数の角形数Nの各々についての累積振動振幅を算出し、複数の角形数Nのそれぞれについての累積振動振幅から、該累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を得る。上述の多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。よって、この多角形化指標に基づいて、圧延ロールの多角形化の状態を適切に評価することができる。ここで、振動データを取得するときの圧延ロールの回転速度は一定である必要はない。すなわち、上記(1)の構成によれば、圧延中に圧延ロールの回転速度が変化する場合であっても、あるいは、予めデータベースを準備しなくても、圧延時の振動データに基づいて圧延ロールの多角形化を適切に評価することができる。よって、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能である。
【0078】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記評価部は、前記多角形化指標と閾値との比較に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成される。
【0079】
多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。上記(2)の構成によれば、多角形化指標と閾値との比較に基づいて、圧延装置の状態(圧延ロールの多角形化の状態)を容易かつ適切に評価することができる。
【0080】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記監視制御装置は、
前記振動データから、前記金属板の前記圧延中における前記圧延ロールの振動レベルを示す振動レベル指標を取得するように構成された第2指標取得部(58)
を備え、
前記評価部は、前記多角形化指標及び前記振動レベル指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成される。
【0081】
上記(3)の構成によれば、圧延ロールの振動データに基づいて、上記(1)で述べた多角形化指標に加え、圧延ロールの振動レベルを示す振動レベル指標を取得する。よって、多角形化指標及び振動レベル指標に基づいて、圧延ロールの状態を容易かつより詳細に評価することができる。
【0082】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)の構成において、
前記評価部は、前記多角形化指標、及び、前記圧延ロールの振動と相関を有する少なくとも1つのパラメータで前記振動レベル指標を除して得られる補正振動レベル指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するように構成される。
【0083】
圧延ロールの振動レベルは圧延条件に影響を受け得る。例えば、より厳しい圧延条件では、圧延ロールの振動レベルが大きくなる傾向がある。この点、上記(4)の構成によれば、圧延ロールの振動と相関を有するパラメータで振動レベル指標を除して得られる補正振動レベル指標を取得するようにしたので、多角形化指標と、該補正振動レベル指標とに基づいて、圧延条件が変化する場合であっても、圧延ロールの状態を適切に評価することができる。
【0084】
(5)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の構成において、
前記振動レベル指標は、前記圧延ロールの加速度の大きさを示す指標を含む。
【0085】
上記(5)の構成によれば、圧延ロールの振動データに基づいて、圧延ロールの加速度の大きさを示す振動レベル指標を取得する。よって、多角形化指標及び該振動レベル指標に基づいて、圧延ロールの状態を容易かつより詳細に評価することができる。
【0086】
(6)幾つかの実施形態では、上記(3)又は(4)の構成において、
前記振動レベル指標は、前記圧延ロールの変位の大きさを示す指標を含む。
【0087】
上記(6)の構成によれば、圧延ロールの振動データに基づいて、圧延ロールの変位の大きさを示す振動レベル指標を取得する。よって、多角形化指標及び該振動レベル指標に基づいて、圧延ロールの状態を容易かつより詳細に評価することができる。
【0088】
(7)幾つかの実施形態では、上記(3)乃至(6)の何れかの構成において、
前記監視制御装置は、
前記振動データから取得される前記多角形化指標と前記振動レベル指標との相関を示す評価マップを表示するように構成された表示部(68)を備える。
【0089】
上記(7)の構成によれば、振動データから取得される多角形化指標及と振動レベル指標とから、これらの相関を示すマップを表示するようにしたので、該マップに基づいて、圧延ロールの状態を容易に評価することができる。
【0090】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの構成において、
前記監視制御装置は、
前記多角形化指標が閾値を超えないように前記圧延装置の運転条件を決定するように構成された運転条件決定部(62)を備える。
【0091】
上記(8)の構成によれば、多角形化指標が閾値を超えないように圧延装置の運転条件を決定するようにしたので、圧延ロールの特定のN角形化の成長を抑制することができる。
【0092】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの構成において、
前記監視制御装置は、
前記振動データから、前記金属板の前記圧延中における前記圧延ロールの振動レベルを示す振動レベル指標を取得するように構成された第2指標取得部(58)と、
前記振動レベル指標が閾値を超えないように前記圧延装置の運転条件を決定するように構成された運転条件決定部(62)と、
を備える。
【0093】
上記(9)の構成によれば、振動レベル指標が閾値を超えないように圧延装置の運転条件を決定するようにしたので、圧延ロールの振動レベルが過大となることを抑制することができる。
【0094】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備(1)は、
金属板を圧延するための圧延ロールを含む圧延装置(2)と、
前記圧延ロールの状態を評価するように構成された上記(1)乃至(9)の何れか一項に記載の監視制御装置(50)と、
を備える。
【0095】
上記(10)の構成によれば、圧延装置の運転中の圧延ロールの振動を示す振動データに基づき、複数の角形数Nの各々についての累積振動振幅を算出し、複数の角形数Nのそれぞれについての累積振動振幅から、該累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を得る。上述の多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。よって、この多角形化指標に基づいて、圧延ロールの多角形化の状態を適切に評価することができる。ここで、振動データを取得するときの圧延ロールの回転速度は一定である必要はない。すなわち、上記(10)の構成によれば、圧延中に圧延ロールの回転速度が変化する場合であっても、あるいは、予めデータベースを準備しなくても、圧延時の振動データに基づいて圧延ロールの多角形化を適切に評価することができる。よって、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能である。
【0096】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の監視制御方法は、
圧延装置(1)を監視または制御するための監視制御方法であって、
前記圧延装置での金属板(S)の圧延中、前記圧延装置の圧延ロール(3)の振動を示す振動データを取得するステップ(S4)と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得するステップ(S6~S8)と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得するステップ(S10)と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価するステップ(S14~S16)と、
を備える。
【0097】
上記(11)の方法によれば、圧延装置の運転中の圧延ロールの振動を示す振動データに基づき、複数の角形数Nの各々についての累積振動振幅を算出し、複数の角形数Nのそれぞれについての累積振動振幅から、該累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を得る。上述の多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。よって、この多角形化指標に基づいて、圧延ロールの多角形化の状態を適切に評価することができる。ここで、振動データを取得するときの圧延ロールの回転速度は一定である必要はない。すなわち、上記(11)の方法によれば、圧延中に圧延ロールの回転速度が変化する場合であっても、あるいは、予めデータベースを準備しなくても、圧延時の振動データに基づいて圧延ロールの多角形化を適切に評価することができる。よって、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能である。
【0098】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の監視制御プログラムは、
圧延装置(2)を監視または制御するための監視制御プログラムであって、
コンピュータに、
前記圧延装置での金属板(S)の圧延中、前記圧延装置の圧延ロール(3)の振動を示す振動データを取得する手順と、
前記圧延ロールの複数の角形数Nの各々について、前記振動データから、前記圧延ロールの回転回数毎の前記角形数Nに対応する周波数における前記振動の振幅の総和である累積振動振幅を取得する手順と、
前記複数の角形数Nに対応してそれぞれ得られる前記累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を取得する手順と、
前記多角形化指標に基づいて、前記圧延装置の状態を評価する手順と、
を実行させる。
【0099】
上記(12)の構成によれば、圧延装置の運転中の圧延ロールの振動を示す振動データに基づき、複数の角形数Nの各々についての累積振動振幅を算出し、複数の角形数Nのそれぞれについての累積振動振幅から、該累積振動振幅のばらつきの大きさを示す多角形化指標を得る。上述の多角形化指標が大きいことは、圧延ロールの特定のN角形への形状変化が進んでいることを示す。よって、この多角形化指標に基づいて、圧延ロールの多角形化の状態を適切に評価することができる。ここで、振動データを取得するときの圧延ロールの回転速度は一定である必要はない。すなわち、上記(12)の構成によれば、圧延中に圧延ロールの回転速度が変化する場合であっても、あるいは、予めデータベースを準備しなくても、圧延時の振動データに基づいて圧延ロールの多角形化を適切に評価することができる。よって、圧延ロールの多角形化をより簡易に評価可能である。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0101】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0102】
1 圧延設備
2 圧延装置
3 圧延ロール
4A ワークロール
4B ワークロール
5A ロールチョック
5B ロールチョック
6A バックアップロール
6B バックアップロール
7A ロールチョック
7B ロールチョック
8 圧下装置
10,10A~10C 圧延スタンド
50 監視制御装置
52 振動データ取得部
54 累積振動振幅取得部
56 第1指標取得部
58 第2指標取得部
60 評価部
62 運転条件決定部
64 制御部
66 出力部
68 表示部
70 モータ
90 振動計測部
91~94 加速度センサ
96 回転数計測部
S 金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12