(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-12
(45)【発行日】2025-09-24
(54)【発明の名称】ウイルス不活性化剤組成物およびウイルス不活性化効力増強方法、並びにウイルス不活性化方法
(51)【国際特許分類】
A01N 25/00 20060101AFI20250916BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20250916BHJP
A01N 43/40 20060101ALI20250916BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20250916BHJP
A01N 37/06 20060101ALI20250916BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20250916BHJP
A01N 37/04 20060101ALI20250916BHJP
A01N 31/04 20060101ALI20250916BHJP
【FI】
A01N25/00 101
A01P3/00
A01N43/40 101J
A01N33/12 101
A01N37/06
A01N37/02
A01N37/04
A01N31/04
(21)【出願番号】P 2022543335
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027348
(87)【国際公開番号】W WO2022038955
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2024-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2020139320
(32)【優先日】2020-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 裕之
(72)【発明者】
【氏名】市村 由美子
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-195782(JP,A)
【文献】特表2009-526060(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0232748(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第106577756(CN,A)
【文献】特開2021-169432(JP,A)
【文献】特開2020-199090(JP,A)
【文献】特開2018-090564(JP,A)
【文献】特表2019-532024(JP,A)
【文献】特表2017-528463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00
A01P 3/00
A01N 43/40
A01N 33/12
A01N 37/06
A01N 37/02
A01N 37/04
A01N 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%
の1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩
、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とするウイルス不活性化剤組成物。
【請求項2】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸
と、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物。
【請求項3】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、手指消毒剤を除く)。
【請求項4】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、(a)ウイルス不活性化成分として、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合した手指消毒剤を除く)。
【請求項5】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、手指消毒剤、ウェットシートを除く)。
【請求項6】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、(a)ウイルス不活性化成分として、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合した手指消毒剤、(a)ウイルス不活性化成分として、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種と、水と、を配合したウェットシートを除く)。
【請求項7】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、(c)エタノールと、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、手指消毒剤を除く)。
【請求項8】
(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、(c)エタノールと、水と、を配合したことを特徴とす
るウイルス不活性化剤組成物
(但し、(a)ウイルス不活性化成分として、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合した手指消毒剤を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス不活性化における速効性が優れるウイルス不活性化剤組成物およびウイルス不活性化効力増強方法、並びにウイルス不活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌O-157による食中毒事件の多発に始まり、その後、新型肺炎SARSが猛威を振い、ここ数年はノロウイルスによる食中毒が多発している。2009年の春には新型インフルエンザが発生してパンデミック寸前の状態になり、除菌衛生に対する関心は高まる一方である。大腸菌O-157による食中毒事件が多発した1996年以降、多くの家庭用品で抗菌性が付与されており、使用される薬剤としては、銀、銅などの金属化合物を利用したものが多い。例えば、銀ブロム又はヨード錯体の塩を含有する抗菌性繊維(特許文献1)が知られているが、その防カビ効果は小さく、ウイルスに対する効果も十分でない。
【0003】
一方、抗ウイルス剤もしくは抗ウイルス効果を謳った製品も、いくつか提案されている。例えば、少なくとも一箇所にフェノール性水酸基を有する、非水溶性の芳香族ヒドロキシ化合物を有効成分とする抗ウイルス剤を塗布あるいは混合させてなる繊維(特許文献2)、ポリオキシエチレン(ジメチルイミノ)エチレン(ジメチルイミノ)エチレンジクロライドを含有する繊維用抗ウイルス加工剤(特許文献3)、2-ピリジンチオール亜鉛-1-オキシド、2-ピリジンチオール銅-1-オキシド、又はこれらの両方を含む抗ウイルス剤で処理された抗ウイルス性繊維(特許文献4)等が知られている。
【0004】
さらに本出願人は、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドに着目し、この化合物がノロウイルスに対しても特異的に有効であることを見出した(特許文献5)。特許文献5のノロウイルス不活性化剤は優れたものであるが、ウイルス不活性化における速効性においては、性能を向上するための検討をする余地が残されていた。
【0005】
特に近年、新型コロナウイルス等の感染症の流行に伴い、日常的に消毒をする機会が増えている。そのため、ウイルス不活性化における速効性を向上させることは使用者が消毒に費やす時間の短縮にもつながるため、重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-338481号公報
【文献】特開2005-112748号公報
【文献】特開2008-115506号公報
【文献】特開2009-7736号公報
【文献】特許第5377098号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ウイルス不活性化における速効性が優れるウイルス不活性化剤組成物およびウイルス不活性化効力増強方法、並びにウイルス不活性化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したことを特徴とするウイルス不活性化剤組成物である。
【0009】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物において、前記(b)ウイルス不活性化効力増強成分が、フマル酸、リン酸から選択される1種又は2種であることを特徴としている。
【0010】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物において、前記(a)ウイルス不活性化成分が、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及びクロルヘキシジングルコン酸塩からなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴としている。
【0011】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物において、(c)エタノールを10質量%~80質量%を配合したことを特徴としている。
【0012】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物において、前記(c)エタノールの配合量は、35質量%~65質量%であることを特徴としている。
【0013】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物において、前記(a)ウイルス不活性化成分に対する前記(b)ウイルス不活性化効力増強成分の配合質量比(a)/(b)が、0.001≦(a)/(b)≦250であることを特徴としている。
【0015】
また本発明は、上記構成のウイルス不活性化剤組成物をノンエンベロープウイルスに対して接触させるノンエンベロープウイルスの非治療目的の不活性化方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の構成によれば、(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタン塩、ベンザルコニウム塩、ベンゼトニウム塩、クロルヘキシジン塩からなる群より選択される1種又は2種以上と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合することにより、皮膚に対するアルカリによる刺激のおそれがなく使用感に優れ、且つウイルス不活性化における速効性が優れたウイルス不活性化剤組成物となる。
【0017】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、フマル酸、リン酸から選択される1種又は2種を用いることにより、ウイルス不活性化における速効性をより効果的に向上させることができるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0018】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(a)ウイルス不活性化成分は、1,4-ビス(3,3' -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及びクロルヘキシジングルコン酸塩からなる群より選択される1種又は2種以上を用いることにより、ウイルス不活性化における速効性をより効果的に向上させることができるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0019】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1~第3のいずれか1の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(c)エタノールを10質量%~80質量%を配合することにより、ウイルス不活性化における速効性を向上させることができ、さらにウイルス不活性化剤組成物の揮散性も向上することから、速乾性に優れるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0020】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第4の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(c)エタノールの配合量は、35質量%~65質量%であることにより、ウイルス不活性化における速効性をより効果的に向上させることができ、使用時に皮膚刺激が出にくく、さらにウイルス不活性化剤組成物の揮散性も効果的に向上することから、速乾性に優れるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0021】
また、本発明の第6の構成によれば、上記第1~第5のいずれか1の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(a)ウイルス不活性化成分に対する(b)ウイルス不活性化効力増強成分の配合質量比(a)/(b)が、0.001≦(a)/(b)≦250であることにより、ウイルス不活性化における速効性をより向上させることができる。
【0022】
また、本発明の第7の構成によれば、上記第1~第6のいずれか1の構成のウイルス不活性化剤組成物において、(a)ウイルス不活性化成分の配合量を、0.01質量%~2.0質量%とすることにより、ウイルス不活性化剤組成物中のウイルス不活性化成分の配合量を必要十分な量とすることができる。
【0023】
また、本発明の第8の構成によれば、上記第1~第7のいずれか1の構成のウイルス不活性化剤組成物をノンエンベロープウイルスに対して接触させることにより、薬剤感受性が低く、不活性化が困難なノンエンベロープウイルスの効果的な非治療目的の不活性化方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のウイルス不活性化剤組成物について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や実施例に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0025】
本発明のウイルス不活性化剤組成物は、(a)ウイルス不活性化成分として、0.01質量%~5.0質量%のカチオン系ウイルス不活性化成分と、(b)ウイルス不活性化効力増強成分として、0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上と、水と、を配合したものである。
【0026】
本発明のウイルス不活性化剤組成物にウイルス不活性化成分として配合される(a)カチオン系ウイルス不活性化成分が、高いウイルス不活性化効果を有することは知られていたが、ウイルス不活性化における速効性においては検討の余地があった。今般、(a)カチオン系ウイルス不活性化成分と、フマル酸、リン酸、乳酸、及びクエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上とを併用することで、ウイルス不活性化における速効性を相乗的に向上させることができたことは、本発明者らによって初めて発見された知見である。
【0027】
本発明のウイルス不活性化剤組成物では、ウイルス不活性化における速効性を十分に向上させるために、(a)ウイルス不活性化成分として、カチオン系ウイルス不活性化成分はウイルス不活性化剤組成物全体に対して0.01質量%以上5.0質量%以下で配合される。ここで当該不活性化成分は、0.05質量%以上3.0質量%以下で配合されることが好ましく、0.10質量%以上1.0質量%以下で配合されることがより好ましい。
【0028】
本発明のウイルス不活性化剤組成物に(a)ウイルス不活性化成分として配合されるカチオン系ウイルス不活性化成分としては、例えば、4級アンモニウム塩等が挙げられる。4級アンモニウム塩のカウンターアニオンとしては、特に限定されないが、フッ化物イオン(フルオライド)、塩化物イオン(クロライド)、臭化物イオン(ブロマイド)、ヨウ化物イオン(アイオダイド)、メチル硫酸イオン(メトサルフェート)、炭酸イオン(カーボネート)、重炭酸イオン(ビカーボネート)、酢酸イオン(アセテート)、プロピオン酸イオン(プロピオネート)、グルコン酸イオン(グルコネート)等が挙げられる。4級アンモニウム塩の具体例としては、1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジブロマイド、1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジクロライド、1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタンジメトサルフェート等の1,4-ビス[3,3´-(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ]ブタン塩、塩化ベンザルコニウム、ベンザルコニウムメトサルフェート等のベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ベンゼトニウムメトサルフェート等のベンゼトニウム塩、塩化セチルピリジニウム、セチルピリジニウムメトサルフェート等のセチルピリジニウム塩、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、デシルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジデシルジメチルアンモニウム塩、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、ジラウリルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジラウリルジメチルアンモニウム塩、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、ジステアリルジメチルアンモニウムメトサルフェート等のジステアリルジメチルアンモニウム塩、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム等のジオクチルジメチルアンモニウム塩等のジアルキルジメチルアンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数8~20の直鎖飽和炭化水素を表す。)、N,N-ジデシル-N-メチルポリ(オキシエチレン)アンモニウムプロピオネート等のN,N-ジデシル-N-メチルポリ(オキシエチレン)アンモニウム塩、N,N-ジデシル-N,N-ジメチルアンモニウム炭酸塩/重炭酸塩、塩化N,N-ジデシル-N,N-ジメチルアンモニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン塩酸塩等のクロルヘキシジン塩、塩化オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ドデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ドデシルジイソプロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化テトラデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化テトラデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ペンタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ペンタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ヘキサデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ヘキサデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化オクタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム、塩化オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム等のトリアルキル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウム塩(但し、前記アルキル基は同一又は相異なり、炭素数1~18の直鎖飽和炭化水素を表わす。)等が挙げられる。これらのカチオン系ウイルス不活性化成分は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0029】
上記カチオン系ウイルス不活性化成分の中でも、ウイルス不活性化における速効性を向上させ得る観点から、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、クロルヘキシジングルコン酸塩及び塩化オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムを用いることが好ましく、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドを用いることがより好ましい。
【0030】
本発明のウイルス不活性化剤組成物に(b)ウイルス不活性化効力増強成分として配合される有機酸及び/又は無機酸としては、フマル酸、リン酸、乳酸、クエン酸からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられ、フマル酸、リン酸、乳酸からなる群より選択される1種又は2種以上が好ましく、フマル酸及び/又はリン酸が好ましい。これらの有機酸及び/又は無機酸を用いることで、ウイルス不活性化成分であるカチオン系ウイルス不活性化成分が低い配合量でも、ウイルス不活性化における速効性をより顕著に向上させることができる。これら有機酸及び/又は無機酸は単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
本発明のウイルス不活性化剤組成物のpHは1~6が望ましい。これにより、ウイルス不活性化剤組成物が酸性~弱酸性となり、アルカリ性のウイルス不活性化剤に比べて皮膚に対する腐食性もなく、使用感に優れたウイルス不活性化剤組成物となる。
【0032】
本発明のウイルス不活性化剤組成物における(b)ウイルス不活性化効力増強成分の配合量は、特に限定されないものの、配合量が少なすぎる場合は、カチオン系ウイルス不活性化成分のウイルス不活性化における速効性を十分に向上させる効果が得られない可能性がある。
【0033】
後述の実施例に示すように、ウイルス不活性化における速効性を十分に向上させるためには、(b)ウイルス不活性化効力増強成分である有機酸及び/又は無機酸はウイルス不活性化剤組成物に対して0.02質量%以上10.0質量%以下で配合され、0.03質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.10質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
本発明のウイルス不活性化剤組成物において、(a)ウイルス不活性化成分と(b)ウイルス不活性化効力増強成分の配合質量比(a)/(b)は、0.001≦(a)/(b)≦250であり、0.005≦(a)/(b)≦100であることが好ましく、0.01≦(a)/(b)≦50であることがより好ましく、これにより、ウイルス不活性化における速効性をより向上させることができるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0035】
本発明のウイルス不活性化剤組成物には、さらに(c)エタノールを10質量%~80質量%配合することが好ましい。(c)エタノールを10質量%~80質量%配合することにより、ウイルス不活性化における速効性を向上させることができる。また、ウイルス不活性化剤組成物の揮散性も向上することから、速乾性に優れるウイルス不活性化剤組成物となる。中でも、(c)エタノールを35質量%~65質量%配合することがより好ましく、(c)エタノール55質量%~65質量%配合することがさらに好ましい。これらの配合量とすることにより、ウイルス不活性化における速効性をより効果的に向上させることができ、使用時に皮膚刺激が出にくく、さらにウイルス不活性化剤組成物の揮散性も効果的に向上することから、速乾性に優れるウイルス不活性化剤組成物となる。
【0036】
本発明のウイルス不活性化剤組成物には、必要に応じて界面活性剤を配合することができる。例えば、界面活性剤には泡を発生する性質(泡立ち性)があるため、泡立ち性に優れた界面活性剤を使用すれば、本発明のウイルス不活性化剤組成物をトリガースプレー等で壁面にスプレーしたときの液ダレを抑制するとともに塗布領域も視認しやすくなるというメリットを有する。
【0037】
本発明のウイルス不活性化剤組成物に配合される界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも好適に用いられる。本発明のウイルス不活性化剤組成物中における界面活性剤の配合量は、特に限定されないものの、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。なお、本発明のウイルス不活性化剤組成物に配合されるカチオン系ウイルス不活性化成分は、本明細書中では界面活性剤には含めないこととする。
【0038】
アニオン界面活性剤の例としては、例えば脂肪酸石けん、アルキルベンゼンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、α―オレフィンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
【0039】
ノニオン界面活性剤の例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0040】
両性界面活性剤の例としては、ベタイン型界面活性剤が挙げられる。具体的には、ラウリル-N,N-ジメチル酢酸ベタイン、ラウリルアミドプロピル-N,N-ジメチル酢酸ベタイン、ヤシアルキルアミドプロピル-N,N-ジメチルヒドロキシプロピルスルホベタイン等が挙げられる。
【0041】
本発明のウイルス不活性化剤組成物は、水系タイプであり、溶媒としては主に水が用いられる。水としては、イオン交換水や逆浸透膜水等の精製水や、通常の水道水や工業用水、海洋深層水等が挙げられる。
【0042】
更に、本発明のウイルス不活性化剤組成物には、その他の成分として、必要に応じて、カチオン系ウイルス不活性化成分以外の抗菌、ウイルス不活性化剤、防藻剤、防錆剤、溶剤、キレート剤、香料、消臭成分、pH調整剤、保湿成分、増粘剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で配合することにより、抗菌効果、ウイルス不活性化効果、防藻効果、防錆効果、洗浄効果、芳香性、消臭性、保湿効果、増粘効果等を付与するようにしてもよい。
【0043】
他の抗菌、ウイルス不活性化剤の例としては、イソプロピルメチルフェノール(IPMP)、カルバクロール、チモール、トリクロサン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、4-クロロ-3,5-ジメチルフェノール、オルトフェニルフェノール、о-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、テブコナゾール、エニルコナゾール、グレープフルーツ種子抽出物、カキ種子抽出物、ブドウ種子抽出物、モノラウリン、モノカプリン、モノカプリリン、安息香酸、ソルビン酸、グリシン、アルキルジエチルアミノグリシン、ポリリジン、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、クロラミン、3-ヨード-2-プロピル-N-ブチルカルバメート(IPBC)、フェノキシエタノール、銀ゼオライト、ジンクピリチオン、チアミンラウリル硫酸塩、白子たんぱく質、ヒドロキシアルキルキトサン、キトサン等が挙げられる。
【0044】
防藻剤の例としては、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。防錆剤の例としては、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0045】
溶剤の例としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、流動パラフィン、ナフテン系炭化水素、ワセリン、スクワラン、α-オレフィンオリゴマー等の炭化水素系溶剤、1-プロパノール、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、2-ブタノール、ターシャリーブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、ベンジルアルコール、2-フェニルエタノール等のアルコール系溶剤、2-フェノキシエタノール(エチレングリコールモノフェニルエーテル)、エチレングリコール、プロピレングリコール、1-フェノキシ-2-プロパノール(プロピレングリコールフェニルエーテル)、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール系溶剤等が挙げられる。
【0046】
香料の例としては、d-リモネン等のリモネン、α-ピネン、β-ピネン等のピネン、p-シメン等のシメン、インデン、カリオフィレン等の炭化水素系香料、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、l-メントール等のメントール、エチルリナロール、ボルネオール、アニスアルコール、β-フェネチルアルコール、p-メンタン-3、8-ジオール、α-テルピネオール、γ-テルピネオール等のテルピネオール、1-ヘキセノール、シス-3-ヘキセン-1-オール、テトラヒドロゲラニオール、サンタリノール、シンナミルアルコール、セドロール等のアルコール系香料、ガラクソリド、β-ナフチルメチルエーテル、シネオール、アンブロキシド、p-クレジールメチルエーテル等のエーテル系香料、アネトール、オイゲノール、イソオイゲノール、バニリン、エチルバニリン等のフェノール系香料、オクタナール、ノナナール、ウンデシルアルデヒド、ウンデカナール、デシルアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、シトラール、シトロネラール、ベンズアルデヒド、シンナミックアルデヒド、アニスアルデヒド、クミンアルデヒド、アドキサール、アミルシンナミックアルデヒド、シクラメンアルデヒド等のアルデヒド系香料、ムスクケトン、カルボン、メントン、樟脳、カンファー、アセトフェノン、ブチロフェノン、トナリド、α-イオノン、β-イオノン、α-メチルイオノン、β-メチルイオノン、α-イソメチルイオノン、β-イソメチルイオノン、γ-メチルイオノン、γ-イソメチルイオノン、ダマスコン、α-ダマスコン、β-ダマスコン、アセチルセドレン、カシュメラン、シスジャスモン、ジヒドロジャスモン等のケトン系香料、γ-ブチルラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、クマリン、シネオール、アンブレットリッド、ジャスモラクトン等のラクトン系香料、ゲラニルフォーメート、オクチルアセテート、ゲラニルアセテート、ベンジルアセテート、シンナミルアセテート、テトラヒドロゲラニルアセテート、酢酸メンチル、酢酸リナリル、プロピオン酸ブチル、酢酸ベンジル、安息香酸メチル、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、アリルアミルグリコレート、アミルバレリアネート、アミルサリシレート、イソアミルアセテート、ブチルアセテート、エチルブチレート、アセチルオイゲノール、イソアミルサリシレート、アリルカプロエート、エチルカプロエート、エチルプロピオネート、エチルアセトアセテート、メチルサリシレート、シトロネリルアセテート、シトロネリルフォーメート、シンナミルアセテート、ステアリルアセテート、ステアリルプロピオネート、セドリルアセテート、ターピニルアセテート等のエステル系香料、アミルシンナミックアルデヒドジメチルアセタール、シトラールジメチルアセタール等アセタール系香料、インドール、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、アセトアルデヒドフェニルエチルプロピルアセテート、テサロン、オウランチオール、リナロールオキシド、ハッカ油、オレンジ油、レモン油、ラベンダー油、ペパーミント油、ユーカリ油、シトロネラ油、ライム油、ユズ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油、ネロリ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモングラス油、シナモン油、レモンユーカリ油、タイム油、ペリラ油、パイン油、ローズ油、ローズマリー油、しょう脳油、芳油、クラリーセージ油、サンダルウッド油、スペアミント油、スターアニス油、ラバンジン油、オークモス油、オコチア油、パチュリ油、トンカ豆チンキ、テレピン油、ワニラ豆チンキ、バジル油、ナツメグ油、クローブ油、ボアドローズ油、カナンガ油、カルダモン油、カシア油、シダーウッド油、マンダリン油、タンジェリン油、アニス油、ベイ油、コリアンダー油、エレミ油、フェンネル油、ガルバナム油、ヒバ油、ベチバー油、ベルガモット油、イランイラン油、グレープフルーツ油、アビエス油、アクジョン油、アルモンド油、アンゲリカルート油、ページル油、ミント油、パーチ油、ボアバローズ油、カヤブチ油、ガナンガ油、カプシカム油、キャラウェー油、セロリー油、コニャック油、クミン油、ジル油、エストゴラン油、ガーリック油、ジンジャー油、ホップ油、セージ油、テレピン油等が挙げられる。
【0047】
消臭成分の例としては、サトウキビエキス、緑茶抽出エキス、チャ乾留物、柿抽出エキス、グレープフルーツ抽出エキス、モウゾウチク抽出エキス、ユズ種子抽出エキス、レンギョウ抽出エキス等が挙げられるが、消臭効果に加えて、ノロウイルス不活性化作用を助長する観点から、サトウキビエキスが好適である。
【0048】
pH調整剤の例としては、酢酸、リンゴ酸、サリチル酸等の他の有機酸、塩酸等の他の無機酸、クエン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0049】
保湿成分の例としては、グリセリンやプロピレングリコール、1,3ーブチレングリコールなどのグリコール類、ソルビトールなどの多価アルコール類が挙げられる。
【0050】
増粘剤の例としては、架橋型ポリアクリル酸であるカルボキシビニルポリマーや、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプピルセルロースなどのセルロース誘導体、キサンタンガム、グアーガム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、エチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0051】
こうして得られた本発明のウイルス不活性化剤組成物を、ウイルス感染者が触れた場所、ウイルス感染者の嘔吐物を処理した場所、衣服等のウイルスで汚染された場所に塗布あるいはスプレーすることで、ウイルスを効果的に除去することができる。
【0052】
また、本発明のウイルス不活性化剤組成物を手指等に塗布あるいはスプレーすることで、手指等に付着したウイルスを効果的に除去し、手指の消毒をすることができる。
【0053】
また、本発明のウイルス不活性化組成物は、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ヘルペスウイルス等のエンベロープウイルスに加えて、ノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス等のノンエンベロープウイルスに対しても高い不活性化効果を有する。従って、従来のウイルス除去剤では不活性化が困難であったノロウイルスの不活性化にも好適に使用することができる。
【0054】
また、本発明のウイルス不活性化剤組成物は、ウイルス不活性化成分としての、カチオン系ウイルス不活性化成分と、ウイルス不活性化効力増強成分としての、特定の有機酸および/又は無機酸とを水に配合するだけで構成され、非常に単純な組成である。そのため、製造が簡便である。また、銀イオンによる変色の問題もないため、使用性にも優れている。
【0055】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。以下、実施例により本発明の効果について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制約されるものではない。
【実施例1】
【0056】
[試験液の調製]
(a)1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(ハイジェニアS-100、タマ化学工業株式会社製)、塩化ベンザルコニウム(カチオンF2-50R、日油株式会社製)、塩化ベンゼトニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)、塩化ジデシルジメチルアンモニウム(リポガード210-80E、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、20%クロルヘキシジングルコン酸塩水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)、(b)フマル酸、リン酸、乳酸、クエン酸一水和物(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)、(c)エタノールを表1、表3に示す配合割合(質量%)で配合し、精製水を加えて100質量%として試験液(本発明1~21)を得た。
【0057】
(a)1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド(ハイジェニアS-100、タマ化学工業株式会社製)、塩化ベンザルコニウム(カチオンF2-50R、日油株式会社製)、塩化ベンゼトニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)、塩化ジデシルジメチルアンモニウム(リポガード210-80E、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)、イソプロピルメチルフェノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)、(b)フマル酸、リン酸、乳酸(以上、富士フイルム和光純薬株式会社製)、(c)エタノールを表2、表4に示す配合割合(質量%)で配合し、精製水を加えて100質量%として試験液(比較例1~15)を得た。
【実施例2】
【0058】
[ウイルス不活性化効果の確認試験1(Feline calicivirus)]
(試験ウイルス液の調製)
MEM培地(ナカライテスク株式会社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JCRB細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。ネコカリシウイルスはノンエンベロープウイルスの一種であり、細胞培養できないノロウイルスの代替ウイルスとして広く使用されている。
【0059】
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpm/分で3分間遠心分離し、得られた上澄み液を限外ろ過して試験ウイルス液とした。
【0060】
実施例1で調製した本発明1~10、比較例1~6の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。1分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、リン酸緩衝生理食塩水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
【0061】
(ウイルス感染価の測定)
細胞増殖培地を用い、使用細胞を組織培養用マイクロプレート(96穴)内で単層培養した後、細胞増殖培地を除去して細胞維持培地を0.1mLずつ加えた。次に、作用液の10倍希釈系列0.1mLをそれぞれ4穴ずつに接種し、37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で4~7日間培養した。培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、Reed-Muench法により50%細胞培養感染量(TCID50)を算出して作用液1mL当たりの感染価に換算し、対照とした精製水の感染価と比較して、感染価対数減少値を算出した。
【0062】
ウイルス除去効果の評価基準は、感染価対数減少値が1未満の場合を×、1以上1.5未満の場合を△、1.5以上2未満の場合を○、2以上の場合を◎とした。ウイルス感染価の評価結果を試験液の配合、感染価対数減少値と併せて表1、表2に示す。
【0063】
【0064】
【0065】
表1に示すように、(a)0.01質量%~5.0質量%のカチオン系ウイルス不活性化成分である1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及びクロルヘキシジングルコン酸塩のいずれかと、(b)0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸のいずれかとを配合した本発明1~10では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が1.5以上となり、ウイルス不活性化効果を有することが確認された。
【0066】
特に、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.10質量%、フマル酸の配合量を0.2質量%とした本発明3、及び1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.10質量%、リン酸の配合量を0.2質量%とした本発明5では、感染価対数減少値が3より大きくなり、より一層優れたウイルス不活性化効果が得られることが確認された。
【0067】
これに対し、表2に示すように、(a)成分のみを配合した比較例5、6や、(b)成分のみを配合した比較例1~3では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が1.5より小さくなり、十分なウイルス不活性化効果が認められなかった。また、(a)成分をカチオン系ウイルス不活性化成分に代えて、他のウイルス不活性化成分であるイソプロピルメチルフェノールを用いた比較例4では、(b)成分を併用しても速効的なウイルス不活性化効果が得られず、(b)成分に増強効果が認められなかった。
【実施例3】
【0068】
[ウイルス不活性化効果の確認試験2(Feline calicivirus)]
(試験ウイルス液の調製)
MEM培地(ナカライテスク株式会社製)に牛胎仔血清を10%加えた細胞増殖培地を用いてCRFK細胞(JRBC細胞バンク)を組織培養シャーレ内に単層培養した。単層培養シャーレ内から細胞増殖培地を除去し、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus F-9 ATCC VR-782)を接種した。次に、MEM培地に牛胎仔血清を2%加えた細胞維持培地を加えて37±1℃の炭酸ガスインキュベーター(CO2濃度5%)内で1~5日間培養した。
【0069】
培養後、倒立位相差顕微鏡を用いて細胞の形態を観察し、細胞に形態変化(細胞変性効果)が起こっていることを確認した。次に、培養液を1000rpm/分で3分間遠心分離し、得られた上澄み液を限外ろ過して試験ウイルス液とした。
【0070】
実施例1で調製した本発明11~21、比較例7~15の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。20秒後に作用液をMEM培地で100倍希釈し、10倍希釈系列を作製した。なお、リン酸緩衝生理食塩水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
【0071】
ウイルス感染価の測定方法、評価基準は実施例2と同様とした。ウイルス感染価の評価結果を試験液の配合、感染価対数減少値と併せて表3、表4に示す。
【0072】
【0073】
【0074】
表3に示すように、(a)0.01質量%~5.0質量%のカチオン系ウイルス不活性化成分である1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、及びクロルヘキシジングルコン酸塩のいずれかと、(b)0.02質量%~10.0質量%のフマル酸、リン酸、乳酸、クエン酸一水和物のいずれかとを配合した本発明11~21では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が2.5以上となり、処理後20秒経過後においても十分なウイルス不活性化効果を示し、速効的なウイルス不活性化効果に優れることが確認された。
【0075】
特に、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.10質量%、フマル酸の配合量をそれぞれ0.04質量%、0.20質量%とした本発明11、及び本発明12、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.10質量%、リン酸の配合量をそれぞれ0.02質量%、0.03質量%、0.20質量%とした本発明13、本発明14、及び本発明15、1,4-ビス(3,3’ -(1-デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドの配合量を0.10質量%、クエン酸一水和物の配合量を0.20質量%とした本発明17では、感染価対数減少値が3.0よりも大きくなり、より一層速効的なウイルス不活性化効果が得られることが確認された。
【0076】
これに対し、表4に示すように、(a)成分のみを配合した比較例11~14や、(b)成分のみを配合した比較例7~9では、ネコカリシウイルス(Feline calicivirus)に対して感染価対数減少値が1.5より小さくなり、速効的なウイルス不活性化効果が十分には認められなかった。また、(a)成分をカチオン系ウイルス不活性化成分に代えて、他のウイルス不活性化成分であるイソプロピルメチルフェノールを用いた比較例10では、(b)成分を併用しても速効的なウイルス不活性化効果が得られず、(b)成分に増強効果が認められなかった。
【実施例4】
【0077】
[ウイルス不活性化効果の確認試験3(Feline enteric coronavirus)]
(試験ウイルス液の調製)
ネココロナウイルス(Feline enteric coronavirus)をネコ胎児由来細胞(fcwf-4:feline catus whole fetus)に感染させ、細胞培養面積の約90%以上が細胞変性効果を示したとき、-80℃の冷蔵庫に保存した。その後、凍結融解操作を行い、3500rpmで10分間遠心した上清を用いて限外濾過膜で濃縮したウイルス液を供試ウイルスとした。
【0078】
実施例1で調製した本発明12の試験液0.9mLに、試験ウイルス液0.1mLを添加混合し、作用液とした。3分後に作用液をMEM培地で100倍希釈し作用停止させたものを感染価測定用試料の原液としてウイルス感染価を測定した。なお、リン酸緩衝生理食塩水に試験ウイルス液を添加したものを対照として同様の操作を行った。
【0079】
試験の結果、本発明12のウイルス不活性化剤組成物を作用させた感染価測定用試料では、3分後にネココロナウイルス(Feline enteric coronavirus)が検出限界値未満となり、本発明12のウイルス不活性化剤組成物はネココロナウイルス(Feline enteric coronavirus)に対するウイルス不活性化効果を示すことが分かった。
【0080】
本発明は、ウイルス不活性化における速効性が優れるウイルス不活性化剤組成物およびウイルス不活性化効力増強方法、並びにウイルス不活性化方法であり、特にウイルスで汚染された場所等に直接スプレー等により塗布されるウイルス不活性化剤組成物として好適に用いられる。