(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-17
(45)【発行日】2025-09-26
(54)【発明の名称】マグロ漁獲器、マグロ漁獲方法、マグロ流通方法及びマグロ流通システム
(51)【国際特許分類】
A01K 93/00 20060101AFI20250918BHJP
【FI】
A01K93/00 Z
(21)【出願番号】P 2025083639
(22)【出願日】2025-05-19
【審査請求日】2025-06-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518245652
【氏名又は名称】三屋 俊行
(73)【特許権者】
【識別番号】525190833
【氏名又は名称】有限会社丸哲
(73)【特許権者】
【識別番号】525191069
【氏名又は名称】竹内 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】三屋 俊行
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-152432(JP,A)
【文献】特開2014-117277(JP,A)
【文献】特開平11-346617(JP,A)
【文献】特開2003-225048(JP,A)
【文献】特開2006-030083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 93/00
A23B 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1浮きと、
略円筒状を有する第2浮きと、
一端に釣針を有する釣糸と、を備え、
前記第2浮きは、軸方向中央部に周方向全周に亘って設けられる凹溝部と、径方向中央部に軸方向に沿って設けられる貫通孔とを有し、
前記釣糸は、前記第2浮きの前記凹溝部に巻き付けられてから、前記第2浮きの前記貫通孔を通過して前記第1浮きに取り付けられることを特徴とするマグロ漁獲器。
【請求項2】
請求項1に記載のマグロ漁獲器を使用してマグロを捕獲するマグロ漁獲方法であって、
前記第1浮き及び前記第2浮きを所定距離だけ離間させた状態で水面に浮かべ、
前記釣針にマグロが掛かり、マグロが前記釣糸を引っ張ると、前記第2浮きの前記凹溝部に巻き付いている前記釣糸が延び、且つ、前記第2浮きが前記第1浮きに接するとともに、前記第2浮きが水中に沈み、
前記第2浮きが水中に沈んでいる間はマグロを泳がせ、
マグロの引きが弱まり、前記第2浮きが水面に上がってくると、マグロを船舶の上に引き上げることを特徴とするマグロ漁獲方法。
【請求項3】
マグロを船舶の上に引き上げる前に、水中で神経締めを行うことを特徴とする請求項2に記載のマグロ漁獲方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のマグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロを流通させるマグロ流通方法であって、
捕獲したマグロを解体して柵に加工する加工工程と、
前記加工工程で加工された柵のグレードを判別するグレード判別工程と、
前記グレード判別工程で仕分けされた柵の写真を撮影する写真撮影工程と、
前記写真撮影工程で写真が撮影された柵を真空パックして瞬間冷凍する冷凍工程と、
前記写真撮影工程で撮影された写真を確認できる状態で、前記冷凍工程で冷凍された柵を流通させる流通工程と、を備えることを特徴とするマグロ流通方法。
【請求項5】
前記加工工程の前に、
捕獲したマグロの鰓及び内蔵を除去する内臓処理工程と、
鰓及び内蔵を除去したマグロを氷温冷却する冷却工程と、をさらに備えることを特徴とする
請求項4に記載のマグロ流通方法。
【請求項6】
請求項2又は3に記載のマグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロを流通させるマグロ流通システムであって、
捕獲したマグロを解体して柵状に加工されたマグロの柵の写真を撮影する撮像装置と、
写真が撮影され、且つ、真空パックされた柵を瞬間冷凍する冷凍装置と、
前記撮像装置で撮影された写真の情報を含むシールを作成する印刷装置と、
処理装置と、を備え、
前記処理装置は、
前記撮像装置で撮影された写真の画像データを取得する写真取得部と、
前記写真取得部で取得された写真の画像データを画像処理して柵のグレードを判別するグレード判別部と、
前記撮像装置で撮影された写真の画像データを確認可能な印字情報を作成する印字情報作成部と、を有し、
前記印刷装置は、前記印字情報作成部で作成された印字情報をシール用紙に印刷してシールを作成し、
前記冷凍装置で冷凍された柵に、前記印刷装置で作成されたシールを付して流通させることを特徴とするマグロ流通システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグロ漁獲器、マグロ漁獲器を利用したマグロ漁獲方法、並びに、マグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロを流通させるマグロ流通方法及びマグロ流通システムに関する。
【背景技術】
【0002】
マグロ漁において、釣針に掛かったマグロを船上に釣り上げるとき、マグロは釣針から逃れようと激しく動き回る。マグロが激しく動くと、マグロ自身の体温及び乳酸値が上昇し、釣り上げられたマグロに「焼け」が生じてしまうという問題があった。「焼け」が生じると、マグロの肉本来の赤色が失われ、身の色が白くなり、食感がパサついたり酸味が強くなったりして、商品価値が落ちるという問題があった。
【0003】
この問題を解決するために、電動の駆動モータを用いてマグロを釣り上げる一本釣り機では、駆動モータと釣糸を巻き上げる回転ドラムとの間に電磁クラッチを設け、負荷が伝達トルクに達するまでは回転ドラムを巻取方向に正転させ、負荷が伝達トルクを超えると回転ドラムを繰出方向に逆転させる装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電動の駆動モータを用いずに釣り上げる場合、漁師は釣糸が切られる前にマグロを釣り上げようとし、それに反発したマグロが激しく動き回り、「焼け」が生じてしまうという問題が依然として残っていた。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、手でマグロを釣り上げる場合でも「焼け」を生じさせずに高品質のマグロを釣り上げることができるマグロ漁獲器、及び、当該マグロ漁獲器を利用したマグロ漁獲方法を提供することを目的とする。また、本発明は、当該マグロ漁獲方法を用いて高品質な状態で捕獲したマグロを高品質のまま流通させるマグロ流通方法及びマグロ流通システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.第1浮きと、
略円筒状を有する第2浮きと、
一端に釣針を有する釣糸と、を備え、
前記第2浮きは、軸方向中央部に周方向全周に亘って設けられる凹溝部と、径方向中央部に軸方向に沿って設けられる貫通孔とを有し、
前記釣糸は、前記第2浮きの前記凹溝部に巻き付けられてから、前記第2浮きの前記貫通孔を通過して前記第1浮きに取り付けられることを特徴とするマグロ漁獲器。
【0008】
項2.項1に記載のマグロ漁獲器を使用してマグロを捕獲するマグロ漁獲方法であって、
前記第1浮き及び前記第2浮きを所定距離だけ離間させた状態で水面に浮かべ、
前記釣針にマグロが掛かり、マグロが前記釣糸を引っ張ると、前記第2浮きの前記凹溝部に巻き付いている前記釣糸が延び、且つ、前記第2浮きが前記第1浮きに接するとともに、前記第2浮きが水中に沈み、
前記第2浮きが水中に沈んでいる間はマグロを泳がせ、
マグロの引きが弱まり、前記第2浮きが水面に上がってくると、マグロを船舶の上に引き上げることを特徴とするマグロ漁獲方法。
【0009】
項3.マグロを船舶の上に引き上げる前に、水中で神経締めを行うことを特徴とする項2に記載のマグロ漁獲方法。
【0010】
項4.項2又は3に記載のマグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロを流通させるマグロ流通方法であって、
捕獲したマグロを解体して柵に加工する加工工程と、
前記加工工程で加工された柵のグレードを判別するグレード判別工程と、
前記グレード判別工程で仕分けされた柵の写真を撮影する写真撮影工程と、
前記写真撮影工程で写真が撮影された柵を真空パックして瞬間冷凍する冷凍工程と、
前記写真撮影工程で撮影された写真を確認できる状態で、前記冷凍工程で冷凍された柵を流通させる流通工程と、を備えることを特徴とするマグロ流通方法。
【0011】
項5.前記加工工程の前に、
捕獲したマグロの鰓及び内蔵を除去する内臓処理工程と、
鰓及び内蔵を除去したマグロを氷温冷却する冷却工程と、をさらに備えることを特徴とする項3に記載のマグロ流通方法。
【0012】
項6.項2又は3に記載のマグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロを流通させるマグロ流通システムであって、
捕獲したマグロを解体して柵状に加工されたマグロの柵の写真を撮影する撮像装置と、
写真が撮影され、且つ、真空パックされた柵を瞬間冷凍する冷凍装置と、
前記撮像装置で撮影された写真の情報を含むシールを作成する印刷装置と、
処理装置と、を備え、
前記処理装置は、
前記撮像装置で撮影された写真の画像データを取得する写真取得部と、
前記写真取得部で取得された写真の画像データを画像処理して柵のグレードを判別するグレード判別部と、
前記撮像装置で撮影された写真の画像データを確認可能な印字情報を作成する印字情報作成部と、を有し、
前記印刷装置は、前記印字情報作成部で作成された印字情報をシール用紙に印刷してシールを作成し、
前記冷凍装置で冷凍された柵に、前記印刷装置で作成されたシールを付して流通させることを特徴とするマグロ流通システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマグロ漁獲器及びマグロ漁獲方法によれば、手でマグロを釣り上げる場合でも「焼け」を生じさせずに高品質のマグロを釣り上げることができる。また、本発明のマグロ流通方法及びマグロ流通システムによれば、高品質な状態で捕獲したマグロを高品質のまま流通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るマグロ漁獲器の正面図である。
【
図3】
図1のマグロ漁獲器を利用した漁獲方法の一例を示す模式図である。
【
図4】
図1のマグロ漁獲器を利用した漁獲方法の一例を示す模式図である。
【
図5】
図1のマグロ漁獲器を利用した漁獲方法におけるマグロの動きを示すイメージ図である。
【
図6】本発明のマグロ漁獲器で捕獲されたマグロの柵の一例を示す正面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るマグロ流通システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
[マグロ漁獲器]
まず、
図1及び
図2を参照して、本実施形態のマグロTを釣るためのマグロ漁獲器1について説明する。
図1は、本実施形態に係るマグロ漁獲器1の正面図である。
図2は、本実施形態のマグロ漁獲器1の縦断面図である。
【0017】
図1及び
図2に示すように、本実施形態のマグロ漁獲器1は、第1浮き11と、第2浮き12と、一端に釣針14を有する釣糸13とを備える。釣糸13及び釣針14は、一般にマグロTを釣るときに使用される釣糸及び釣針である。
【0018】
第1浮き11は、一般にマグロTの延縄漁で使用される浮きと同様の浮きである。第1浮き11には、夜間に第1浮き11の位置が確認できるように、LED(Light Emitting Diode)15を取り付けていることが好ましい。
【0019】
第2浮き12は、一般にマグロTの延縄漁で使用される浮きに使用される素材により形成され、略円筒状を有する。第2浮き12は、軸方向中央部に周方向全周に亘って設けられる凹溝部121と、径方向中央部に軸方向に沿って設けられる貫通孔122とを有している。
【0020】
釣糸13は、一端に釣針14が取り付けられ、他端にスナップサルカン16が取り付けられている。釣針14から伸びる釣糸13は、第2浮き12の凹溝部121に巻き付けられてから、第2浮き12の貫通孔122を通過し、第1浮き11と一定の距離を開けてスナップサルカン16によって第1浮き11に取り付けられる。
【0021】
[マグロ漁獲方法]
次に、
図3~
図5も参照して、マグロ漁獲器1を使用してマグロTを捕獲するマグロ漁獲方法について説明する。
図3及び
図4は、本実施形態のマグロ漁獲器1を利用した漁獲方法の一例を示す模式図である。
図3は、マグロTが釣針14にかかった直後の状態を示し、
図4は、マグロTが釣針14にかかってから一定時間経過した状態を示す。
図5は、本実施形態のマグロ漁獲器1を利用した漁獲方法におけるマグロTの動きを示すイメージ図である。
【0022】
マグロTを捕獲する際、最初は、
図1に示すように、第1浮き11及び第2浮き12を所定距離だけ離間させた状態で水面に浮かべる。このとき、釣糸13は、第2浮き12の凹溝部121に一定の長さ分だけ巻かれた状態で、釣針14を有する一端が、第1浮き11及び第2浮き12が水面に浮いたときに一般にマグロTが泳ぐ水深に位置し、且つ、釣針14を有さない一端が、第2浮き12の貫通孔122を通過して、第1浮き11と所定距離だけ離間して第1浮き11に取り付けられるようにセットされている。以下では、1個のマグロ漁獲器1を使用して説明するが、水面には、複数個のマグロ漁獲器1が、互いに所定距離だけ離間して、上記した状態で水面に浮かべられてもよい。
【0023】
この状態で、釣針14にマグロTが掛かるのを待つ。
図3に示すように、釣針14にマグロTが掛かると、マグロTは一気に第2浮き12に巻いた釣糸13を引っ張る。これにより、第2浮き12の凹溝部121に巻き付いている釣糸13が伸び、且つ、第2浮き12が第1浮き11に接するとともに、少なくとも第2浮き12が水中に沈む。第2浮き12が水中に沈んでいる間は、マグロTが元気に逃げているため、マグロTを自由に泳がせる。このとき、
図5に示すように、マグロTは、釣糸13の長さをlとすると、釣糸13が水中に伸びる起点となる第2浮き12から、高さh及び半径rが例えばr:h:l=3:4:5となる円錐の中を自由に泳ぎ回ることができる。
【0024】
釣針14に掛かったまま自由に泳いでいるマグロTは、第1浮き11及び第2浮き12の浮力に負けて、次第に泳ぎ疲れてくる。マグロTが泳ぎ疲れて、マグロTの釣糸13の引きが弱まると、第2浮き12が水面に浮いたり水中に沈んだりを繰り返し、次第に第2浮き12が水中に沈む力が弱くなり、完全に水面に浮き上がる。
図4に示すように、マグロTが疲れて第2浮き12が完全に水面に上がってくると、マグロTを船舶Sの上に引き上げる。このとき、マグロTを船舶Sの上に引き上げる前に、水中で神経締めを行うことが好ましい。具体的には、マグロTの頭だけを水面に出し、マグロTの体が水中にある状態で、マグロTの顎骨に手鉤を打ち込み、マグロTの頭の中心から脊髄に沿ってワイヤーを通して、脊髄の中にある神経を破壊することにより、水中で神経締めを行う。
【0025】
[マグロ流通方法]
次に、
図6を参照して、マグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロTを流通させるマグロ流通方法について説明する。
図6は、本実施形態のマグロ漁獲器1で捕獲されたマグロTの柵TPの一例を示す正面図である。
【0026】
上記マグロ漁獲方法を用いて捕獲され、船舶Sに釣り上げられたマグロTは、血抜きをした後、鰓及び内臓を除去する内臓処理工程を行う。そして、船舶Sに備えられている生け簀に氷海水を満たし、当該生け簀に内蔵処理を行ったマグロTを入れる。捕獲されたマグロTは、この状態で、捕獲された当日中に水揚げされる。
【0027】
水揚げされたマグロTは、即座にオゾン水で殺菌洗浄される。殺菌洗浄に用いるオゾン水は、1ppm~1.5ppmの濃度が好ましい。その後、冷却室で、鰓及び内臓を除去したマグロTを氷温冷却する冷却工程を行う。このとき、冷却室の室温は0℃で、マグロTの芯温度が-1.5℃になるまで約30時間冷却することが好ましい。冷却室の室温を0℃とすることで、マグロTを冷却する冷却水の温度が上昇せず、約30時間で確実にマグロTの芯温度を-1.5℃とすることができる。
【0028】
マグロTを水揚げした日から日を改めてから、マグロTを流通させるために、捕獲して冷却室で冷却したマグロTを、柵TPに加工する加工工程を行う。柵TPへの加工方法は、従来の既知の方法と同様である。その後、加工工程で加工された柵TPのグレードを判別するグレード判別工程を行う。グレードは、例えば、マグロTの部位、マグロTの身の色、「筋」の割合、及び、「焼け」の有無等の商品としての身質の良し悪しに基づいて定められる。
【0029】
次いで、グレード判別工程で仕分けされた柵TPの写真を撮影する写真撮影工程を行う。それから、写真撮影工程で写真が撮影された柵TPを、
図6に示すように、柵TPごとに真空パックVPして瞬間冷凍する冷凍工程を行う。瞬間冷凍は、アルコールを-30℃以下に冷却したプールに付け込んで、冷却水の熱伝導で瞬時に冷凍するアルコールブライン冷凍が好ましい。このような方法で瞬間冷凍することで、解凍後にドリップして、マグロTの旨み及び栄養分が流出して、品質が落ちることを防止することができる。
【0030】
それから、写真撮影工程で撮影された写真を確認できる状態で、冷凍工程で冷凍された柵TPを流通させる流通工程を行う。具体的には、写真撮影工程で撮影された写真をQRコード(登録商標)にし、当該QRコード(登録商標)を印刷したシール17を作成する。そして、シール17を真空パックVPに貼り付けて流通させる。
【0031】
マグロTの柵TPを購入する者は、QRコード(登録商標)を読み取ることで解凍後のマグロTの状態(身の色、「筋」の入り方、「焼け」の有無等)を確認することができ、解凍後のマグロTの状態を確認してマグロTを購入する。
【0032】
[マグロ流通システム]
次に、
図7を参照して、マグロ流通方法を実現可能なマグロ流通システム2の一例について説明する。
図7は、本実施形態に係るマグロ流通システム2の構成を示すブロック図である。本実施形態のマグロ流通システム2は、上記マグロ漁獲方法を用いて捕獲したマグロTを流通させるマグロ流通システム2である。なお、上記マグロ流通方法は、以下で説明するマグロ流通システム2を用いずに実施してもよい。
【0033】
マグロ流通システム2は、撮像装置21と、冷凍装置22と、印刷装置23と、処理装置30とを備える。撮像装置21、印刷装置23、及び、処理装置30は、インターネット、又は、WAN(Wide Area Network)などのコンピュータネットワークを介して接続されて構成される。
【0034】
撮像装置21は、捕獲したマグロTを解体して柵状に加工されたマグロTの柵TPの写真を撮影する装置である。撮像装置21は、例えば、デジタルカメラである。
【0035】
冷凍装置22は、写真が撮影され、且つ、真空パックVPされた柵TPを瞬間冷凍する装置である。冷凍装置22は、例えば、-30℃以下に冷却したアルコールを貯蔵する水槽である。
【0036】
処理装置30は、写真取得部31と、グレード判別部32と、印字情報作成部33と、記憶部34と、制御部35とを備える。
【0037】
写真取得部31は、撮像装置21で撮影された写真を取得する。取得した写真の画像データは、グレード判別部32及び印字情報作成部33に伝達される。
【0038】
グレード判別部32は、写真取得部31で取得された写真の画像データを画像処理して柵TPのグレードを判別する。具体的には、グレード判別部32は、画像解析によりマグロTの部位、マグロTの身の色、「筋」の割合、及び、「焼け」の有無等を解析し、解析した各状態に基づいて定められているグレード基準に基づいて、グレードを判別する。判別されたグレード情報は、印字情報作成部33に伝達される。
【0039】
印字情報作成部33は、撮像装置21で撮影された写真の画像データを確認可能な印字情報を作成する。具体的には、写真取得部31で取得した写真の画像データをQRコード(登録商標)にし、QRコード(登録商標)を印字情報として作成する。このとき、印字情報には、グレード判別部32で判別されたマグロTのグレード情報を含んでもよい。
【0040】
記憶部34は、種々の情報及び画像データなどを記憶する。具体的には、記憶部34は、写真取得部31で取得した写真の画像データ、グレード判別部32で判別したグレード情報、印字情報作成部33で作成した印字情報などを記憶する。記憶部34は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。
【0041】
制御部35は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部35は、プログラムを実行することによって、写真取得部31、グレード判別部32、印字情報作成部33、及び、記憶部34の動作を制御する。
【0042】
印刷装置23は、撮像装置21で撮影された写真の情報を含むシール17を作成する装置である。印刷装置23は、印字情報作成部33で作成された印字情報をシール用紙に印刷してシール17を作成する。具体的には、印刷装置23は、印字情報作成部33で作成されたQRコード(登録商標)を印刷する。印刷装置23は、例えば、プリンタ、複合機である。
【0043】
次に、本実施形態のマグロ流通システム2を用いてマグロTを流通させる方法について説明する。
【0044】
まず、上記マグロ流通方法と同様に、船上での内臓処理工程を経て水揚げされたマグロTは、殺菌洗浄され、冷却工程を経て、加工工程で柵TPに加工される。この加工された柵TPを撮像装置21で撮影する。撮影された写真の画像データは、写真取得部31により取得され、グレード判別部32及び印字情報作成部33に伝達される。
【0045】
グレード判別部32は、写真取得部31で取得した写真の画像データを画像処理し、マグロTのグレードを判別する。判別されたグレードは、印字情報作成部33及びユーザに伝達される。ユーザは、判別されたグレードに応じてマグロTの柵TPを分類する。そして、ユーザは、マグロTの柵TPをグレード分けした状態で、冷凍装置22で冷凍する。
【0046】
印字情報作成部33は、写真取得部31で取得した写真の画像データを確認可能な印字情報(例えば、QRコード(登録商標))を作成する。このとき、グレード判別部32で判別したグレード情報を印字情報に含んでもよい。
【0047】
印字情報作成部33で作成された印字情報は、印刷装置23に伝達され、印刷装置23でシール用紙に印刷される。これにより、シール17が作成される。ユーザは、グレードに分類され、冷凍装置22で冷凍された柵TPに、印刷装置23で作成されたシール17を付して流通させる。
【実施例】
【0048】
次に、上記実施形態に係るマグロ漁獲方法について、実施例を挙げて具体的に説明する。本実施例では、上記実施形態に係るマグロ漁獲方法を用いた場合と、従来の一本釣り漁においてマグロTを釣り上げた場合とで、マグロTの身質の良し悪しについて比較する。
【0049】
実施例では、上記実施形態に係るマグロ漁獲器1を用い、上記実施形態に係るマグロ漁獲方法によってマグロTを捕獲した。すなわち、マグロTが釣針14に掛かってから5分~10分間、マグロTを自由に泳がせた後、第1浮き11及び第2浮き12の位置が
図4に示す安定した状態になってからゆっくりとマグロTを船舶Sに釣り上げた。
従来例では、マグロTの一本釣り漁用の竿を用い、マグロTが釣針に掛かったらすぐにマグロTを船舶Sに釣り上げた。
実施例及び比較例では、10本のマグロTを釣った。
【0050】
マグロTの身質の良し悪しは、マグロTの釣り方の影響を受けないマグロTの「部位」、「身の色」及び「筋の割合」等のマグロTが本来有している特性に加えて、マグロTの釣り方が影響するマグロTを釣り上げた直後のマグロTの体温(血の温度)によって決定される。すなわち、マグロTを釣り上げた際にマグロTの体温が高温(例えば、35℃~40℃)であると、マグロTの身に「焼け」が生じて身質が悪くなる。そのため、船上での血抜き及び内臓処理工程の際に、マグロTの血の温度を計測することでマグロTの身質の良し悪しについて評価する。具体的には、鰓の下から2枚目にある太い血管を切ると、心臓がポンプ代わりとなり自然に血が抜ける。この血の温度を計測する。実施例及び比較例で釣り上げた10本のマグロTの体温を測定した結果、次のとおりであった。計測した結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1から分かるとおり、実施例では、10本のマグロTの体温は全て、25℃~27℃の範囲であった。一方、比較例では、10本のマグロTの体温は、1本が28℃であったのを除くと、概ね30℃以上で、半数は35℃~38℃の範囲であった。すなわち、比較例で釣り上げたマグロTは、実施例で釣り上げたマグロTよりも高温となっていることが分かる。そして、実際に実施例及び比較例で釣り上げたマグロTを解体すると、比較例で釣り上げたマグロTは、釣り上げたときの体温が高温であったため、マグロTの身に「焼け」が生じており、身質が悪くなっていた。一方、実施例で釣り上げたマグロTは、釣り上げたときに通常泳いでいるときの体温から上昇しておらず、マグロTの身にも「焼け」は生じていなかった。このことから、本発明のマグロ漁獲方法を用いることで、マグロTの品質を落とさずにマグロTを釣り上げられることが分かる。
【0053】
以上のように、本発明のマグロ漁獲器1では、第1浮き11と第2浮き12とが設けられており、第2浮き12には釣糸13が巻かれている。そして、本発明のマグロ漁獲器1を利用した本発明のマグロ漁獲方法では、第2浮き12の動きによりマグロTの状態を判断して、マグロTを釣り上げている。すなわち、第2浮き12が水中に沈んでいる間はマグロTを自由に泳がせ、第2浮き12が水面に浮かんできたタイミングでマグロTを釣り上げている。
【0054】
従来のマグロTの捕獲では、マグロTが釣針14に掛かると、漁師は力で釣糸13を巻き取り、マグロTを釣り上げている。このとき、マグロTは激しく泳ぎ回る。その結果、マグロTの体温が上昇し、マグロTの肉に乳酸菌がたまり、釣り上げられたマグロTの身に「焼け」が生じてしまう。
【0055】
本発明では、第2浮き12の動きを見て、第2浮き12が水面に浮き上がってからマグロTを釣り上げている。すなわち、マグロTが釣針14に掛かったとき、第2浮き12に巻き付けられている釣糸13が伸び、マグロTは、釣糸13によって制限を受けつつも、
図5に示す円錐の範囲内を比較的自由に泳ぎ回ることができる。このとき、
図5に示す円錐の範囲はマグロTが泳ぐのに十分な領域であるため、マグロTは通常の水中を泳いでいる感覚に近く、体温上昇は生じない。その後、本発明では、マグロ漁獲器1が第1浮き11と第2浮き12とを備えるために浮力が大きくなっており、釣針14に掛かっても自由に泳ぎまわっているマグロTは、第1浮き11及び第2浮き12の浮力により疲れてくる。そして、第2浮き12が水面に完全に浮き上がってきたときは、マグロTは、釣り上げられることに抵抗する力が弱くなっており、釣り上げられている違和感を覚えない。これにより、マグロTに負荷がかからず、マグロTの体温が上昇しないため、マグロTの肉に「焼け」が生じてマグロTの品質を落とすことを防止することができる。
【0056】
また、本発明のマグロ漁獲方法では、水中で神経締めを行ってから、マグロTを船舶Sの上に引き上げている。船舶Sの上でマグロTの神経締めを行うと、マグロTが暴れ、船体に体をぶつけて、マグロTの血が身に沁み出る飛び血が生じる。しかしながら、本発明のように水中で神経締めを行うと、神経締めを行う際にはマグロTの体は水中にあり、マグロTが暴れても体をぶつける対象物がないため、飛び血が生じることを防止することができ、この点においても、マグロTの品質を落とすことを防止することができる。
【0057】
また、本発明のマグロ流通方法及びマグロ流通システム2では、マグロTを柵TPに加工し、柵TPをグレード別に仕分けした後、瞬間冷凍する前に、柵TPの写真を撮影している。そして、柵TPの写真を確認できる状態で、真空パックVPしたマグロTを流通させている。これにより、写真を確認することで、瞬間冷凍されて真空パックVPされている状態のままで、購入前に、解凍した後のマグロTの身の色、「筋」の入り方、「焼け」の有無等を確認することができる。
【0058】
従来のマグロ流通方法では、釣り上げたマグロTを船舶で冷凍し、冷凍されたマグロをバンドソー等のカッターにより柵TPに加工して流通させている。冷凍された柵TPでは、「焼け」のあるマグロなのか、「筋」はどのように入っているのかが分からない。そのため、マグロTを購入し、解凍した後に、「焼け」があり商品にならない、身の色が悪く、また、「筋」が多く商品価値が落ちる等の問題が生じていた。
【0059】
本発明のマグロ流通方法及びマグロ流通システム2では、写真を確認することで、解凍後のマグロTの品質を確認することができ、解凍後の商品価値を考慮した価格でマグロTを流通させることができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、写真を確認できる状態として、撮影された写真をQRコード(登録商標)にする方法をとっているが、必ずしもこの構成に限られない。例えば、写真を任意のサーバにデジタル画像として保管するようにし、シール17には、写真の保管場所を示すURL(Uniform Resource Locator)を表示したり、当該URLにリンク可能なQRコード(登録商標)等を表示したりしてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、撮像装置21と冷凍装置22との間のマグロTの移動は手動で行っているが、必ずしもこの構成に限られない。例えば、撮像装置21と冷凍装置22との間に、真空パックVPを自動で行う真空包装機を配置し、撮像装置21から真空包装機を経て冷凍装置22まで、コンベア等でマグロTを自動に移動可能に構成してもよい。このとき、グレード判別部32で判別されたグレードによってマグロTの移動先を異ならせると好ましい。さらに、冷凍装置22の下流側にシール17を自動で貼り付ける自動ラベル貼付機を配置し、冷凍装置22で冷凍されたマグロTに、印刷装置23で印刷されたシール17を自動で貼り付ける構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のマグロ漁獲器、マグロ漁獲方法、マグロ流通方法、及び、マグロ流通システムは、一般家庭等で食されるマグロを高品質な状態で提供するものであり、マグロを捕獲して一般家庭等へ流通する過程に携わる者に利用されるものであるから、産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0064】
1 マグロ漁獲器
2 マグロ流通システム
11 第1浮き
12 第2浮き
121 凹溝部
122 貫通孔
13 釣糸
14 釣針
17 シール
21 撮像装置
22 冷凍装置
23 印刷装置
30 処理装置
31 写真取得部
32 グレード判別部
33 印字情報作成部
S 船舶
T マグロ
TP マグロの柵
VP 真空パック
【要約】
【課題】 「焼け」を生じさせずに高品質のマグロを釣り上げることができるマグロ漁獲方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、第1浮き11と、略円筒状で、軸方向中央部に周方向全周に亘って設けられ凹溝部121及び径方向中央部に軸方向に沿って設けられる貫通孔122を有する第2浮き12と、一端に釣針14を有する釣糸13とを備え、釣糸13は、第2浮き12の凹溝部121に巻き付けられてから、第2浮き12の貫通孔122を通過して第1浮き11に取り付けられるマグロ漁獲器1を使用してマグロTを捕獲するマグロ漁獲方法である。マグロ漁獲方法は、第1浮き11及び第2浮き12を所定距離だけ離間させた状態で水面に浮かべ、釣針14にマグロTが掛かると、第2浮き12が水中に沈み、第2浮き12が水中に沈んでいる間はマグロTを泳がせ、第2浮き12が水面に上がってくると、マグロTを船舶Sの上に引き上げる。
【選択図】
図1