(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-17
(45)【発行日】2025-09-26
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20250918BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250918BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20250918BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2022526857
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021017971
(87)【国際公開番号】W WO2021241214
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2020093111
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩見 安展
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-135154(JP,A)
【文献】特開2020-035682(JP,A)
【文献】特開2010-080297(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108258249(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及びセパレータを含む電極体と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体の少なくとも一方の面に形成された負極合剤層とを有し、
前記負極合剤層は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方と、ソルビン酸
系化合物とを含み、
ソルビン酸
系化合物の
合計含有量は、前記負極合剤層の質量に対して
0ppmより多く、1500ppm以下である、非水電解質二次電池。
【請求項2】
ソルビン酸
系化合物の
合計含有量は、前記負極合剤層の質量に対して100ppm以上1000ppm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
ソルビン酸系化合物は、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びソルビン酸カルシウムから選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
正極、負極、及びセパレータを含む電極体と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
前記負極の製造工程は、
負極活物質と、カルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方と、ソルビン酸
系化合物と、水とを含む負極合剤スラリーを調製する工程と、
負極芯体の少なくとも一方の面に前記負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥、圧縮して負極合剤層を形成する工程と、
を含
み、ソルビン酸系化合物の合計含有量が、前記負極合剤層の質量に対して0ppmより多く、1500ppm以下になるように前記負極合剤スラリーを調製する、非水電解質二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の負極は、一般的に、分散媒中に負極活物質と結着剤を含む負極合剤スラリーを負極芯体の表面に塗布し、塗膜を乾燥、圧縮することにより製造される(例えば、特許文献1参照)。従来、分散媒として水を含む負極合剤スラリーにおいて、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方(以下、これらを総称して「CMC系化合物」とする)が用いられている。
【0003】
また、特許文献2,3には、微生物による負極合剤スラリー中の結着剤の品質低下などを抑制するために、スラリーに防腐剤を添加することが提案されている。特許文献2,3には、防腐剤として、イソチアゾリン系化合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-342966号公報
【文献】国際公開第2012/026462号
【文献】特開2013-211246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非水電解質二次電池において、充放電に伴う容量低下を抑制してサイクル特性を向上させることは重要な課題である。本発明者による検討の結果、負極合剤層の添加成分がサイクル特性に大きく影響することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極、負極、及びセパレータを含む電極体と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池であって、前記負極は、負極芯体と、前記負極芯体の少なくとも一方の面に形成された負極合剤層とを有し、前記負極合剤層は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方と、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方とを含み、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方の含有量は、前記負極合剤層の質量に対して1500ppm以下であることを特徴とする。
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池の製造方法は、正極、負極、及びセパレータを含む電極体と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池の製造方法であって、前記負極の製造工程は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方と、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方と、水とを含む負極合剤スラリーを調製する工程と、負極芯体の少なくとも一方の面に前記負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥、圧縮して負極合剤層を形成する工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、サイクル特性に優れた非水電解質二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は実施形態の一例である非水電解質二次電池の斜視図である。
【
図2】
図2は実施形態の一例である電極体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者による検討の結果、CMC系化合物を含む負極合剤層に、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方を所定量添加することにより、非水電解質二次電池のサイクル特性が特異的に向上することが見出された。ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方は、CMC系化合物を含む負極合剤スラリーに添加され、負極合剤層中に1500ppm以下の量で含まれる。なお、添加量が1500ppmを超えると、サイクル特性がかえって低下する。1500ppm以下の濃度で添加されたソルビン酸又はその塩は、負極合剤層と負極芯体の密着性を向上させ、これがサイクル特性向上の主な要因であると推察される。ソルビン酸のカルボキシル基がCMCと相互作用し、高分子間の結合を増強していると考えられる。
【0011】
また、CMC系化合物を含む負極合剤スラリーは、経時的に粘度が低下するため、塗工の安定性に課題があった。スラリーの粘度低下は、水中に含まれるバクテリアが生成する酵素により、CMC系化合物の分子鎖が切断されることが原因であると考えられる。ソルビン酸及びその塩は、バクテリアの内部に侵入し、バクテリアの増殖を抑える効果があると考えられる。このため、負極合剤スラリーにソルビン酸又はその塩を添加することでCMC系化合物の分解が抑制されるため、スラリーの粘度低下が抑制され塗工性が改善される。
【0012】
負極合剤スラリーの粘度低下を抑制して良好な塗工性を確保することは、例えば、負極合剤層と負極芯体の密着性を向上させ、電池のサイクル特性の改善に寄与する。特に、負極合剤層における濃度が100ppm以上1000ppmとなるように、ソルビン酸又はその塩をスラリーに添加した場合、サイクル特性の改善効果が顕著である。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳説するが、本開示は以下で説明する実施形態に限定されない。以下では、非水電解質二次電池として、ラミネートシート11a、11bで構成された外装体11を備えるラミネート電池である非水電解質二次電池10を例示する。但し、本開示に係る非水電解質二次電池は、円筒形状の電池ケースを備えた円筒形電池、角形の電池ケースを備えた角形電池等であってもよく、電池の形態は特に限定されない。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の斜視図である。非水電解質二次電池10は、電極体14と、非水電解質とを備え、これらは外装体11の収容部12に収容されている。ラミネートシート11a、11bには、金属層と樹脂層が積層されてなるシートが用いられる。ラミネートシート11a、11bは、例えば金属層を挟む2つの樹脂層を有し、一方の樹脂層が熱圧着可能な樹脂で構成されている。金属層の例としては、アルミニウム層が挙げられる。
【0015】
外装体11は、例えば、平面視略矩形形状を有する。外装体11にはラミネートシート11a、11b同士を接合して封止部13が形成され、これにより電極体14が収容された収容部12が密閉されている。封止部13は、外装体11の端縁に沿って略同じ幅で枠状に形成されている。封止部13に囲まれた平面視略矩形状の部分が収容部12である。収容部12は、ラミネートシート11a、11bの少なくとも一方に電極体14を収容可能な窪みを形成することで設けられる。本実施形態では、当該窪みがラミネートシート11aに形成されている。
【0016】
非水電解質二次電池10は、電極体14に接続された一対の電極リード(正極リード15及び負極リード16)を備える。各電極リードは、外装体11の内部から外部に引き出されている。
図1に示す例では、各電極リードが外装体11の同じ端辺から互いに略平行に引き出されている。正極リード15及び負極リード16はいずれも導電性の薄板であり、例えば、正極リード15がアルミニウムを主成分とする金属で構成され、負極リード16が銅又はニッケルを主成分とする金属で構成される。
【0017】
図2は、電極体14の断面図である。
図2に示すように、電極体14は、正極20と、負極30と、正極20と負極30の間に介在するセパレータ40とを有する。電極体14は、例えば、正極20及び負極30がセパレータ40を介して巻回された巻回構造を有し、径方向にプレスされた扁平状の巻回型電極体である。負極30は、リチウムの析出を抑制するために、正極20よりも一回り大きな寸法で形成されている。なお、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して1枚ずつ交互に積層されてなる積層型であってもよい。
【0018】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。非水溶媒は、これら溶媒の水素原子の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。例えば、非水電解質の総質量に対して、0.5~5質量%のフルオロエチレンカーボネートが添加されてもよい。また、非水電解質の総質量に対して、1~5質量%のビニレンカーボネートが添加されてもよい。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF6等のリチウム塩が使用される。
【0019】
以下、電極体14を構成する正極20、負極30、セパレータ40について、特に、負極30について詳説する。
【0020】
[正極]
正極20は、正極芯体21と、正極芯体21の少なくとも一方の面に形成された正極合剤層22とを有する。正極芯体21には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極20の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層22は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極芯体21の両面に形成されることが好ましい。正極20は、正極芯体21上に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層22を正極芯体21の両面に形成することにより製造できる。
【0021】
正極活物質には、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられる。リチウム遷移金属複合酸化物に含有される元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。好適なリチウム遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mn、Alから選択される少なくとも1種を含有する複合酸化物である。なお、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面には、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機化合物粒子などが固着していてもよい。
【0022】
正極合剤層22に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層22に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CMCの塩、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。
【0023】
[負極]
負極30は、負極芯体31と、負極芯体31の少なくとも一方の面に形成された負極合剤層32とを有する。負極芯体31には、銅、銅合金など負極30の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層32は、負極活物質と、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びその塩の少なくとも一方(CMC系化合物)と、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方とを含み、負極芯体31の両面に形成されることが好ましい。負極30は、負極芯体31上に負極活物質等を含む負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合剤層32を負極芯体31の両面に形成することにより製造できる。
【0024】
負極活物質には、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出する炭素系活物質が用いられる。好適な炭素系活物質は、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛(MAG)、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ(MCMB)等の人造黒鉛などの黒鉛である。黒鉛の体積基準のメジアン径(50%粒径)は、例えば18~22μmである。また、負極活物質には、Siを含有するSi系活物質が用いられてもよく、炭素系活物質とSi系活物質が併用されてもよい。Si系活物質は、例えば、Siを含有する酸化物相にSi粒子が分散した構造を有する。酸化物相としては、酸化ケイ素(SiO2)相、Siと共にLi等の金属元素を含有する複合酸化物相が例示される。
【0025】
負極合剤層32に含まれるCMC系化合物は、負極合剤スラリーの増粘剤として機能し、また負極活物質の粒子同士、及び負極活物質と負極芯体31を結着する結着剤としても機能する。負極合剤層32は、CMCの塩を含むことが好ましい。CMCの塩は、例えばナトリウム塩、又はアンモニウム塩である。CMCの塩は、一般的に、カルボキシル基の一部が中和された部分中和型の塩である。負極合剤層32(負極合剤スラリー)には、CMCとCMCの塩の混合物が含まれていてもよく、CMC又はCMCの塩が単独で含まれていてもよい。CMC系化合物の重量平均分子量は、例えば20万~50万である。
【0026】
負極合剤層32は、CMC系化合物に加えて、結着剤としてゴム系結着剤を含むことが好ましい。CMC系化合物及びゴム系結着剤の含有量は、負極合剤層32の総質量に対して、それぞれ0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%がより好ましい。好適なゴム系結着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、又はその変性体である。SBRの変性体は、アクリロニトリル単位、アクリレート単位、アクリル酸単位、メタクリレート単位、及びメタクリル酸単位から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。SBR及びその変性体は、一般的に水を分散媒とするディスパージョンの形態で供給される。
【0027】
ソルビン酸又はその塩(以下、これらを総称して「ソルビン酸系化合物」とする)は、上述の通り、負極合剤スラリーの粘度低下を抑制してスラリーの塗工性を良好に維持し、負極芯体31と負極合剤層32の密着性を向上させ、ひいては電池のサイクル特性を向上させる。ソルビン酸は、分子式C6H8O2で表される不飽和脂肪酸である。ソルビン酸系化合物は、負極合剤スラリー中において水に溶解又は分散しており、バクテリアの増殖を抑えることで、CMC系化合物の分解を抑制すると考えられる。
【0028】
ソルビン酸系化合物の含有量は、負極合剤層32の質量に対して1500ppm以下である。ソルビン酸系化合物は少量の添加であっても、これを添加しない場合と比較してサイクル特性の改善効果が得られるが、濃度が1500ppmを超えると、かえってサイクル特性を低下させる。なお、ソルビン酸系化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーにより測定できる。
【0029】
ソルビン酸系化合物の含有量は、好ましくは100ppm以上1000ppm以下であり、より好ましくは150ppm以上750ppm以下、特に好ましくは200ppm以上500ppm以下である。この場合、負極合剤スラリーの粘度低下を効果的に抑制でき、スラリーの安定した塗工性を確保し易い。そして、負極芯体31と負極合剤層32の密着性がより向上し、サイクル特性の改善効果が顕著である。
【0030】
負極合剤層32(負極合剤スラリー)には、ソルビン酸とソルビン酸塩の混合物が含まれていてもよく、ソルビン酸又はソルビン酸塩が単独で含まれていてもよい。好適なソルビン酸系化合物としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸ナトリウム、及びソルビン酸カルシウムから選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、及びソルビン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0031】
負極30は、例えば、下記2つの工程を経て製造される。
(1)負極活物質と、カルボキシメチルセルロース及びその塩の少なくとも一方(CMC系化合物)と、ソルビン酸及びその塩の少なくとも一方(ソルビン酸系化合物)と、水とを含む負極合剤スラリーを調製する工程。
(2)負極芯体31の表面に負極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥、圧縮して負極合剤層32を形成する工程。
負極合剤スラリーの固形分濃度は、ハンドリング性、塗工性等の観点から、45~55質量%程度であることが好ましい。
【0032】
ソルビン酸系化合物は、CMC系化合物の質量に対して、例えば0.1~20質量%、0.5~15質量%、又は0.6~13質量%の量で添加される。負極合剤スラリーに含まれるソルビン酸系化合物は、CMC系化合物と共に負極合剤層32中に取り込まれる。このため、負極合剤層32におけるCMC系化合物とソルビン酸系化合物の質量比は、負極合剤スラリーの場合と実質的に同じである。
【0033】
[セパレータ]
セパレータ40には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ40は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ40の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、LiCo0.979Zr0.001Mg0.01Al0.01O2で表されるリチウム含有金属複合酸化物を用いた。正極活物質と、カーボンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、95:2.5:2.5の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を分散媒とする正極合剤スラリーを調製した。当該正極合剤スラリーを厚みが15μmのアルミニウム箔からなる長尺状の正極芯体の両面にドクターブレード法で塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーで塗膜を圧縮して、正極芯体の両面に正極合剤層を形成した。正極合剤層が形成された正極芯体を所定の電極サイズに切断して正極を作製した。
【0036】
[負極の作製]
負極活物質として、体積基準のメジアン径が22μmの黒鉛、及びSiを含有する酸化物相にSi粒子が分散したSi含有化合物(SiO)を用いた。黒鉛とSiOは95:5の質量比で混合した。SiOは、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合して減圧下で熱処理を行い、約1000℃に昇温してCVD法により粒子表面に炭素被膜を形成した後、解砕・分級することにより得た。
【0037】
負極活物質と、CMCのナトリウム塩(CMC-Na)と、SBRとを、97:1.5:1.0の固形分質量比で混合し、さらに固形分(負極活物質、CMC-Na、SBR)に対して50ppmの濃度となるようにソルビン酸を添加して、水(イオン交換水)を分散媒とする負極合剤スラリーを調製した。当該負極合剤スラリーを厚みが銅箔からなる長尺状の負極芯体の両面にドクターブレード法で塗布し、塗膜を乾燥させた後、ローラーで塗膜を圧縮して、負極芯体の両面に負極合剤層を形成した。負極合剤層が形成された負極芯体を所定の電極サイズに切断して負極を作製した。
【0038】
[非水電解液の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)とを、3:7の体積比(25℃、1気圧)で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度になるように添加し、さらにビニレンカーボネートを2質量%の濃度となるように添加して、非水電解液を調製した。
【0039】
[電池の作製]
上記正極及び上記負極にそれぞれ正極リード及び負極リードを取り付け、正極及び負極をポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して巻回した。巻回体の最外周面にポリプロピレン製のテープを貼着した後、巻回体を径方向にプレスして扁平形状の巻回型電極体を作製した。アルゴン雰囲気下において、ポリプロピレン層/接着剤層/アルミニウム合金層/接着剤層/ポリプロピレン層の5層構造を有するラミネートシートで構成された外装体のカップ状の収容部に電極体及び上記非水電解質を収容した。その後、外装体内部を減圧して電極体に電解液を含浸させ、外装体の開口部を封止して、高さ62mm、幅35mm、厚み3.6mmの非水電解質二次電池を作製した。
【0040】
<実施例2>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸の添加量を固形分に対して100ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0041】
<実施例3>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸の添加量を固形分に対して200ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0042】
<実施例4>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸の添加量を固形分に対して500ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0043】
<実施例5>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸の添加量を固形分に対して1000ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0044】
<実施例6>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸をソルビン酸カリウムに変更したこと以外は、実施例3と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0045】
<実施例7>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸をソルビン酸ナトリウムに変更したこと以外は、実施例3と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0046】
<実施例8>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸をソルビン酸カルシウムに変更したこと以外は、実施例3と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0047】
<比較例1>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0048】
<比較例2>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸の添加量を固形分に対して2000ppmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0049】
<比較例3>
負極合剤スラリーの調製において、ソルビン酸を1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンに変更したこと以外は、実施例3と同様にして非水電解質二次電池を作製した。
【0050】
[負極合剤スラリーの粘度測定]
実施例及び比較例の各負極合剤スラリーについて、調製直後及び調製から48時間経過後の粘度を、25℃において、B型粘度計(東機産業製、TVC10)を用いて測定し、調製直後の粘度に対する48時間経過後の粘度の比率(粘度維持率)を下記式により求めた。各負極合剤スラリーの粘度維持率を表1に示す。
48時間後の粘度維持率=(48時間後の粘度/調製直後の粘度)×100
【0051】
[密着性の評価(剥離強度の測定)]
実施例及び比較例の各負極(負極合剤層の密度1.6g/mL)について、特開2005-251481号公報に記載の方法により、負極合剤層の負極芯体に対する密着性を評価した。
(1)アクリル板(3.0×12cm)、両面テープ (2×9mm・ニチバン(株)製ナイスタックNW-20)、及び各負極を所定サイズに切り出した測定用の極板(2.5×16cm)を用意する。
(2)アクリル板に両面テープを端から長手方向に8.5cm貼り付ける(0.5cm余らせる)。
(3)アクリル板に貼り付けられた両面テープに測定用の極板を貼り付け、測定用の極板のうち両面テープが貼着されていない部分を引張試験機にて100mm/分の速度で負極合剤層が剥離されるまで引っ張ることにより、負極合剤層の剥離強度(密着強度)を測定した。剥離強度の測定結果を表1に示す。
【0052】
[容量維持率の測定]
実施例及び比較例の各電池を、25℃において、800mAの定電流で電池電圧が4.2Vになるまで充電した後、4.2Vの定電圧で電流が終止電流の40mAになるまで充電した。その後、800mAの定電流で電池電圧が2.75Vになるまで放電を行った。この充放電サイクルを150回繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する150サイクル目の放電容量の比率(容量維持率)を求めた。各電池の容量維持率を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1に示す結果から理解されるように、実施例の電池はいずれも、比較例の電池と比べて充放電サイクル後の容量維持率が高く、サイクル特性に優れる。また、実施例の負極は、比較例の負極と比べて、負極合剤層の剥離強度が高く、負極芯体と負極合剤層の密着性が高い。つまり、ソルビン酸又はその塩は、負極芯体と負極合剤層の密着性を向上させ、これがサイクル特性向上の主な要因であると考えられる。一方、比較例1,3のように、ソルビン酸系化合物を添加しない場合、また比較例2のように、ソルビン酸の濃度が1500ppmを超える場合は、剥離強度が低下して、サイクル特性も低下する。
【0055】
特に、ソルビン酸系化合物の添加量が100ppm以上1000ppm以下である場合(実施例2~8)、スラリーの粘度低下が抑制されて塗工性が向上することで、負極芯体と負極合剤層の密着性が向上し、サイクル特性の改善効果がより顕著になる。
【符号の説明】
【0056】
10 非水電解質二次電池、11 外装体、11a、11b ラミネートシート、12
収容部、13 封止部、14 電極体、15 正極リード、16 負極リード、20 正極、21 正極芯体、22 正極合剤層、30 負極、31 負極芯体、32 負極合剤層、40 セパレータ