(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-17
(45)【発行日】2025-09-26
(54)【発明の名称】ポリメラーゼ応答性を備えた触媒活性を有する核酸ナノ構造体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20250918BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250918BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20250918BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20250918BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALI20250918BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12M1/00 A
C12Q1/48 Z
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6876 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2022561392
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 SG2021050194
(87)【国際公開番号】W WO2021206635
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2024-04-02
(31)【優先権主張番号】10202003188S
(32)【優先日】2020-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(73)【特許権者】
【識別番号】310008860
【氏名又は名称】エイジェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ
【住所又は居所原語表記】1 Fusionolopolis Way,#20-10 Connexis North Tower,Singapore 138632 Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】100188499
【氏名又は名称】勝又 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100127568
【氏名又は名称】酒井 善典
(74)【代理人】
【識別番号】100171402
【氏名又は名称】上田 ▲茂▼
(74)【代理人】
【識別番号】100213779
【氏名又は名称】小川 有佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,フイリン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】スンダー,ノア リアンディプトラ
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ルイ ユアン ニコラス
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】Analytica Chimica Acta,2019年,Vol.1079,pp.207-211
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/11
C12M 1/00
C12Q 1/48
C12Q 1/6816
C12Q 1/6876
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グアニン四重鎖ヘミンDNAザイムと
、内部ヘアピン構造を有しポリメラーゼの存在下で伸長するポリメラーゼ応答エレメントとを含む触媒活性を有する核酸ナノ構造体
であって、
前記伸長によりグアニン四重鎖ヘミンDNAザイムの触媒活性が阻害される、触媒活性を有する核酸ナノ構造体。
【請求項2】
前記グアニン四重鎖ヘミンDNAザイムが、配列番号1に示される核酸配列を含む、請求項1に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体。
【請求項3】
前記ポリメラーゼ応答エレメントが、配列番号10に示される核酸配列を含む、請求項1または2に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体。
【請求項4】
配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8または配列番号9に示される核酸配列を含む、請求項3に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体。
【請求項5】
グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質の活性が、以下に限定されないが、比色分析手法、蛍光手法、電気化学手法および発光手法を含む様々な方式により検出される、請求項
1~4のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体。
【請求項6】
試験サンプル中のポリメラーゼ活性を検出する方法であって、
(a)試験サンプルを提供する工程;
(b)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を含む組成物を提供する工程;
(c)
グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質の存在下
で、a)のサンプルをb)の組成物と接触させる工程;および
(d)シグナル発現を検出することにより、シグナル強度と反比例の関係にある、前記サンプル中のポリメラーゼ活性レベルが示される工程
を含む方法。
【請求項7】
サンプル中の標的分子を検出する方法であって、
(a)試験サンプルを提供する工程;
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、前記サンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物を提供するか、
(c)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記可変配列の二本鎖領域よりも高い親和性で前記サンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物を提供する工程;
(d)前記試験サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、
(i)標的分子が(b)のアプタマーの認識配列領域に結合した場合は、安定したアプタマー-DNAポリメラーゼ酵素複合体の形成が促進されてDNAポリメラーゼ酵素活性が阻害され、
(ii)標的分子が(c)のインバーターオリゴヌクレオチドに結合した場合は、前記認識ナノ構造体の不安定化により、前記DNAアプタマーによるDNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を提供する工程;
(f)
グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質の存在下
で、前記ナノ構造体を工程(b)または(c)の産物と接触させる工程;および
(g)シグナル発現を検出することにより、
(i)組成物(b)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的分子が存在することが示され、
(ii)組成物(c)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的分子が存在しないことが示される工程
を含む方法。
【請求項8】
サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、前記サンプル中の標的核酸と相補的な少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含む組成物を提供するか、
(c)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、該インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、アプタマー-インバーター二本鎖より少なくとも1ヌクレオチド分長く、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記サンプル中の標的核酸と相補的なヌクレオチドを10ヌクレオチドより多く有する組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、
(i)標的核酸が(b)のアプタマーの可変配列領域に結合した場合は、安定したアプタマー-DNAポリメラーゼ酵素複合体の形成が促進されてDNAポリメラーゼ酵素活性が阻害され、
(ii)標的核酸が(c)のインバーターオリゴヌクレオチドに結合した場合は、前記認識ナノ構造体の不安定化により、前記DNAアプタマーによるDNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を提供する工程;
(f)
グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質の存在下
で、前記ナノ構造体を工程(d)の産物と接触させる工程;および
(g)シグナル発現を検出することにより、
(i)組成物(b)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的核酸が存在することが示され、
(ii)組成物(c)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的核酸が存在しないことが示される工程
を含む方法。
【請求項9】
表面に固相化された請求項1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を含むデバイス。
【請求項10】
(i)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む、請求項
8に記載の
(b)の組成物または
(c)の組成物を第1の位置に含み;
(ii)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体が第2の位置に取り付けられており;
(iii)前記
触媒活性を有する核酸ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成された中間ステージを含む、
請求項
9に記載のデバイス。
【請求項11】
マイクロ流体デバイスおよびラテラルフローデバイスを含む群から選択される、請求項
9または
10に記載のデバイス。
【請求項12】
電極を含む、請求項
9~
11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
核酸検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、標的核酸と相補的な少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含む組成物;および/または
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、該インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、アプタマー-インバーター二本鎖より少なくとも1ヌクレオチド分長く、該インバーターオリゴヌクレオチドが、標的核酸と相補的なヌクレオチドを10ヌクレオチドより多く有する組成物
を含み
、
(c)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体をさらに含
む、キット。
【請求項14】
分子検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記可変配列の二本鎖領域よりも高い親和性でサンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物;および
(b)請求項
1~
5のいずれか1項に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体
を含
む、キット。
【請求項15】
前記工程(c)が、グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質およびシグナル発現試薬の存在下で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(f)が、グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質およびシグナル発現試薬の存在下で行われる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項17】
(d)グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質および/または(e)シグナル発現試薬をさらに含む、請求項13に記載の核酸検出キット。
【請求項18】
(c)グアニン四重鎖ヘミンDNAザイム基質および/または(d)シグナル発現試薬をさらに含む、請求項14に記載の分子検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ活性応答性を備えた触媒活性を有するシグナル生成核酸ナノ構造体、その使用方法、ならびに該構造体を含むデバイスおよびキットに関する。より具体的には、本発明は、DNAザイム/RNAザイムと刺激応答エレメントとを含む、高感度かつ触媒活性を有するシグナル生成ナノ構造体を提供し、この構造体は単独で、または、分子シグナルをポリメラーゼ活性に変換できる標的認識ナノ構造体と組み合わせて構成された集積回路として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
核酸検出は、幅広く利用されており、例えば、診断などに利用されている。臨床検査施設では核酸技術を用いて感染症などに関する未知の分子情報を提供する機会が増えている[Niemz, A., Ferguson, T. M. & Boyle, D. S. Trends Biotechnol 29: 240-250 (2011); Nong, R. Y., et al., Expert Rev Proteomics 9: 21-32 (2012); Zumla, A. et al. Lancet Infect Dis 14: 1123-1135 (2014)]。
【0003】
現在、病原体の核酸検出は、大規模集中型の臨床検査施設での実施にほぼ限られている。このように適用が限られている原因としては、慣用技術が非常に複雑でコストがかかることが挙げられる。市販の検査では、主にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して、特定のDNA標的を増幅し検出する。このような評価系では、PCRの熱サイクルや蛍光測定を行うために、大型の専用装置が必要なだけでなく、そのような操作を行う熟練した作業者も必要である。現在、熱サイクル用装置の必要性を軽減するために、改良された等温増幅法による検査が開発されているが、この検査には制限もある。例えば、ループ介在等温増幅法(LAMP)は、厳しい配列要件があり、一般化が難しい[Zhao, Y., et al., Chem Rev 115: 12491-12545 (2015)]。さらに、LAMPは、他の核酸増幅方法と同様に、(例えば、プライマーダイマー形成による)偽陽性が生じやすいことも重要な点として挙げられる。また、配列特異的なシグナル生成プローブ(例えば、蛍光性のTaqmanレポーター)を用いて検出精度を高めることは可能であるが、このようなプローブは高価であり、また実際に使用するには複雑さが伴う[Gardner, S. N., et al., J Clin Microbiol 41: 2417-2427 (2003)]。さらに、DNA標的ごとに、標的増幅時にDNA標的に結合してシグナルを生成する専用の配列特異的なプローブが必要であるため、このような方法で多種同時解析や複雑な演算を行うとなれば、さらに費用がかさみ困難である[Juskowiak, B. Anal Bioanal Chem 399: 3157-3176 (2011)]。
【0004】
核酸やその他の標的分子をモジュール方式で迅速かつ視覚的に検出することができる分子プラットフォームの改善が求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、応答性および触媒活性を有する核酸ナノ構造体に関する。この構造体は、ポリメラーゼ活性やその他の様々な刺激や標的に応答させることが可能である。この構造体のコアには、特定の化学反応を触媒する核酸であるDNAザイム/RNAザイムと、様々な刺激に応答するエレメントとが含まれている。一例として、本発明者らは、グアニン四重鎖ヘミンDNAザイムとポリメラーゼ応答エレメントとを組み込んだナノ構造体を設計・開発し、該構造体が多様な測定方式に適合して性能を発揮することを実証している。このシステムは、分子シグナルをポリメラーゼ活性に変換できる独立した応答エレメントを組み込むことにより、様々な分子標的および/またはその組み合わせの測定に使用することができ、様々な環境条件下で堅牢な性能を発揮する。本発明は、感度、結果が出るまでの速度、および堅牢性が向上した、シグナル生成用の触媒活性を有するナノ構造体を新たに提供する。
【0006】
第1の態様において、DNAザイム/RNAザイムと刺激応答エレメントとを含む触媒活性を有する核酸ナノ構造体が提供される。本発明においてシグナル生成に使用できる既知のDNAザイム/RNAザイムが複数存在することは理解されるであろう。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記DNAザイム/RNAザイムは、
リボヌクレアーゼ8-17、リボヌクレアーゼ10-23またはDz10-66デオキシリボザイムなどのリボヌクレアーゼ;
10MD5デオキシリボザイムまたは9NL27デオキシリボザイムなどのデオキシリボヌクレアーゼ;
グアニン四重鎖ヘミンなどのペルオキシダーゼ;
E47デオキシリボザイムなどのライゲーション活性を有する酵素;
14WM9デオキシリボザイムなどのホスファターゼ;
AmideAm1デオキシリボザイムなどのアミド加水分解酵素;および
9F7デオキシリボザイムまたは7S11デオキシリボザイムなどのRNA分岐酵素
を含む群から選択することができる。
【0008】
好ましい一実施形態において、前記DNAザイム/RNAザイムは、グアニン(G)四重鎖ヘミンDNAザイムであり、該G四重鎖ヘミンDNAザイムは、好ましくは、5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGA-3'(配列番号1)のヌクレオチド配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記刺激応答エレメントは、ポリメラーゼの存在下でDNAザイム/RNAザイム活性を阻害するポリメラーゼ応答エレメントを含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ポリメラーゼ応答エレメントは、ヘアピン構造を有していない。好ましい一実施形態において、前記ポリメラーゼ応答エレメントは、配列番号2および配列番号3に示されるヌクレオチド配列:5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGC-3'(配列番号2)および5'-GCTATCGACAATGCGTT-3'(配列番号3)を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記ポリメラーゼ応答エレメントは、内部ヘアピン構造を有する。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記シグナル生成ナノ構造体の前記ポリメラーゼ応答エレメントまたはセルフプライミング部分は、5'-AACGCATTGTCGATAGCTCAGCTGTCTGAGCTATCGACAATGCGTT-3'(配列番号10)の核酸配列を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、本発明の触媒活性を有する核酸ナノ構造体は、G四重鎖ヘミンDNAザイムを含み、
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTT-3'(配列番号4);
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTTAGCAT-3'(配列番号5);
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTTAGCATCCC-3'(配列番号6);
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTTAGCATCCCTCCC-3'(配列番号7);
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTTAGCATCCCTCCCTCCC-3'(配列番号8);および
5'-CTGGGAGGGAGGGAGGGAATGCTAACGCATTGTCGATAGCTCTGTCGCTATCGACAATGCGTTAGCATCCCTCCCTCCCTCCCAG-3'(配列番号9)
を含む群から選択される核酸配列を含む。
【0014】
配列番号4~9内の中間(部分)配列も、本発明の範囲に含まれることは理解されるであろう。
【0015】
いくつかの実施形態において、内部ヘアピン構造が存在する場合、ポリメラーゼ応答エレメントのポリメラーゼによる伸長により触媒活性が消失する。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記DNAザイム/RNAザイム活性は、ペルオキシダーゼ活性である。
【0017】
いくつかの実施形態において、ペルオキシダーゼ基質の活性は、以下に限定されないが、比色分析手法、蛍光手法、電気化学手法および発光手法を含む様々な方式により検出される。
【0018】
本発明の別の一態様において、試験サンプル中のポリメラーゼ活性を検出する方法であって、
(a)試験サンプルを提供する工程;
(b)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を含む組成物を提供する工程;
(c)DNAザイム/RNAザイム基質の存在下、任意でシグナル発現試薬をさらに加えて、a)のサンプルをb)の組成物と接触させる工程;および
(d)シグナル発現を検出することにより、シグナル強度と反比例の関係にある、前記サンプル中のポリメラーゼ活性レベルが示される工程
を含む方法が提供される。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記試験サンプルは、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼを含む。
【0020】
本発明の別の一態様において、サンプル中の標的分子を検出する方法であって、
(a)試験サンプルを提供する工程;
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、前記サンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物を提供するか、
(c)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記可変配列の二本鎖領域よりも高い親和性で前記サンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物を提供する工程;
(d)前記試験サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、
(i)標的分子が(b)のアプタマーの認識配列領域に結合した場合は、安定したアプタマー-DNAポリメラーゼ酵素複合体の形成が促進されてDNAポリメラーゼ酵素活性が阻害され、
(ii)標的分子が(c)のインバーターオリゴヌクレオチドに結合した場合は、前記認識ナノ構造体の不安定化により、前記DNAアプタマーによるDNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を提供する工程;
(f)DNAザイム/RNAザイム基質の存在下、任意でシグナル発現試薬をさらに加えて、前記ナノ構造体を工程(b)または(c)の産物と接触させる工程;および
(g)シグナル発現を検出することにより、
(i)組成物(b)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的分子が存在することが示され、
(ii)組成物(c)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的分子が存在しないことが示される工程
を含む方法が提供される。
【0021】
好適な認識ナノ構造体については、WO2020/009660として公開されたPCT特許出願PCT/SG2019/050328に記載され、定義されており、その内容は、参照により本明細書に援用される。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記認識ナノ構造体におけるDNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーの保存配列領域は、5'-CAATGTACAGTATTG-3'(配列番号18)の核酸配列を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記インバーターオリゴヌクレオチドは、前記アプタマーの二本鎖領域より少なくとも1ヌクレオチド分長い。好ましくは、前記インバーターオリゴヌクレオチドは、前記アプタマーの二本鎖領域の約2倍の長さである。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記インバーターオリゴヌクレオチドの長さの約半分の領域が、アプタマー-インバーター二本鎖を形成し、残りの約半分の領域が突出末端部分を形成する。
【0025】
いくつかの実施形態において、本発明のいずれかの態様に記載の方法は、2種同時検出用に、前記サンプル中の第1の認識ナノ構造体の標的核酸とは異なる標的核酸と相補的な第2の認識ナノ構造体を提供することをさらに含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、強力な配列特異性を付与するために、前記可変配列領域の二本鎖領域にミスマッチが導入されており、ウイルスのサブタイプ判定など、密接な関係にある複数の標的核酸の多種同時検出に有用である。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記標的は、DNA、RNA、PNAおよびその他の核酸アナログを含む群から選択される少なくとも1種の核酸である。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記標的は、ヒト以外もしくはヒトの疾患、遺伝子異型、法医学、株同定、環境汚染および/または食品汚染に関連する少なくとも1つの核酸である。
【0029】
いくつかの実施形態において、前記標的は病原体である。いくつかの実施形態において、前記病原体はウイルスである。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記試験サンプルは、DNA、RNA、PNA、タンパク質、脂質、低分子ならびにこれらの代謝物および修飾物を含む群から選択される標的分子を含む。
【0031】
本発明の別の一態様において、サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、前記サンプル中の標的核酸と相補的な少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含む組成物を提供するか、
(c)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、該インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、アプタマー-インバーター二本鎖より少なくとも1ヌクレオチド分長く、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記サンプル中の標的核酸と相補的なヌクレオチドを10ヌクレオチドより多く有する組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、
(i)標的核酸が(b)のアプタマーの可変配列領域に結合した場合は、安定したアプタマー-DNAポリメラーゼ酵素複合体の形成が促進されてDNAポリメラーゼ酵素活性が阻害され、
(ii)標的核酸が(c)のインバーターオリゴヌクレオチドに結合した場合は、前記認識ナノ構造体の不安定化により、前記DNAアプタマーによるDNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を提供する工程;
(f)DNAザイム/RNAザイム基質の存在下、任意でシグナル発現試薬をさらに加えて、前記ナノ構造体を工程(d)の産物と接触させる工程;および
(g)シグナル発現を検出することにより、
(i)組成物(b)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的核酸が存在することが示され、
(ii)組成物(c)を用いた場合は、シグナル強度から、前記サンプル中に標的核酸が存在しないことが示される工程
を含む方法が提供される。
【0032】
本発明の別の一態様において、表面に固相化された、本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体を含むデバイスが提供される。
【0033】
いくつかの実施形態において、前記デバイスは、
(i)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む、請求項10に記載の組成物b)または組成物c)を第1の位置に含み;
(ii)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体が第2の位置に取り付けられており;
(iii)前記検出ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成された中間ステージを含むこと
を特徴とする。
【0034】
いくつかの実施形態において、前記デバイスは、マイクロ流体デバイスおよびラテラルフローデバイスを含む群から選択される。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記デバイスは、電極を含む。
【0036】
本発明の別の一態様において、核酸検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、標的核酸と相補的な少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含む組成物;および/または
(b)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、該インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、アプタマー-インバーター二本鎖より少なくとも1ヌクレオチド分長く、該インバーターオリゴヌクレオチドが、標的核酸と相補的なヌクレオチドを10ヌクレオチドより多く有する組成物
を含み、
任意で(c)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体をさらに含んでいてもよく、
任意で(d)DNAザイム/RNAザイム基質をさらに含んでいてもよく、
任意で(e)シグナル発現試薬をさらに含んでいてもよい、
キットが提供される。
【0037】
本発明の別の一態様において、分子検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物であって、該認識ナノ構造体が、該DNAポリメラーゼ酵素に特異的なDNAアプタマーを含み、該DNAアプタマーが、保存配列領域と可変配列領域とを有し、該可変配列領域が、インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的な二本鎖を形成する少なくとも10ヌクレオチドの突出末端部分を含み、該インバーターオリゴヌクレオチドが、前記可変配列の二本鎖領域よりも高い親和性でサンプル中の標的分子を認識するように構成されている組成物;および
(b)本発明のいずれかの態様に記載の触媒活性を有する核酸ナノ構造体
を含み、
任意で(c)DNAザイム/RNAザイム基質をさらに含んでいてもよく、
任意で(d)シグナル発現試薬をさらに含んでいてもよい、
キットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】様々なシグナル生成エレメントを有するDNAザイムナノ構造体の活性を示した図である。インキュベーション前(a)、DNAポリメラーゼ存在下で30分間インキュベーションした後(b)、およびDNAポリメラーゼ非存在下で30分間インキュベーションした後(c)のDNAザイムナノ構造体の活性を示す。実験は、N=3で行い、有意性はt検定とボンフェローニ補正を用いて算出した。n.s.;補正後のp値>0.05、**;補正後のp値<0.005、****;補正後のp値<0.00005。
【0039】
【
図2】特定のヌクレオチド(配列番号4~9)を伸長した場合のDNAザイムシグナル生成ナノ構造体の応答性を示した図である。実験は、N=3で行った。
【0040】
【
図3】シグナル生成ナノ構造体の測定方式の種類を示した図である。各グラフは、シグナル生成ナノ構造体の存在下(黒)と、シグナル生成ナノ構造体の非存在下(白)で基質により生成されたシグナルを示す。測定方式の種類については、表2に詳述している。電気化学測定は表面に固相化されたナノ構造体を用いて行い、その他の測定は溶液中でナノ構造体を用いて行った。実験は、N=3で行った。
【0041】
【
図4a-4b】シグナル生成ナノ構造体を用いて様々なポリメラーゼアッセイ条件で測定を行った結果である。a)希釈倍率の異なるDNAポリメラーゼ(1×、10×、100×、ポリメラーゼ非添加)の存在下で測定したシグナルの経時変化。b)酵素活性を阻害する夾雑物(HCl)を様々な濃度で加えて、DNAポリメラーゼと30分間インキュベーションした後のシグナル生成ナノ構造体からのシグナル。実験は、N=3で行った。
【0042】
【
図5】様々な基質に対する認識ナノ構造体の構成条件である。異なる標的に対するシグナル生成ナノ構造体の構成。DNA/RNA(左と中央)の認識には、塩基対の形成により相補的な配列にハイブリダイズする標的認識エレメントが必要である。タンパク質や低分子の認識には、折り畳まれて標的に結合するアプタマーが必要である(右)。下段のグラフは、シグナル生成ナノ構造体と組み合わせたアッセイにおいて、標的の量を変えて測定したシグナルを示す。実験は、N=3で行った。
【0043】
【
図6a-6b】測定の感度と速度を示した図である。a)シグナル生成ナノ構造体と組み合わせたアッセイにおいて、特異的標的またはスクランブル配列を用いて得られた滴定曲線。b)10
10コピーの特異的標的またはスクランブル標的を用いた実験におけるシグナルの経時変化。実験は、N=3で行った。
【0044】
【
図7】固相化されたナノ構造体の機能性が保持されていることを示した図である。固相化されていない認識ナノ構造体(左)と表面に固相化された認識ナノ構造体(中央の2つ、それぞれ構成は異なる)では、いずれも特異性と感度という特性が保持されている(左、標的なし=シグナルなし、右、標的あり=高シグナル)。表面のみのコントロール(右)では、この特性は確認されない(標的の有無にかかわらず高シグナルである)ことから、この特性は認識ナノ構造体の特性であり、表面の特性ではないことがわかる。実験は、N=3で行った。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本明細書に記載の参考文献は、便宜上、実施例の末尾に参考文献一覧として記した。
このような参考文献の内容は、その全体が参考により本明細書に援用される。
【0046】
定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0047】
本明細書および添付の請求項において、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の解釈がなされる場合を除き、複数についての言及も含むことに留意されたい。したがって、例えば、「1つの標的配列(a target sequence)」についての言及は、複数のこのような標的配列を包含するものであり、「1つの酵素(an enzyme)」についての言及は、1つ以上の酵素および当業者に公知のその等価物についての言及である。
【0048】
本明細書において、「アプタマー」という用語は、一本鎖のDNA分子または一本鎖のRNA分子を表す。アプタマーは、高い親和性および高い特異性でDNA、タンパク質、低分子など様々な分子に結合する。例えば、本明細書において、アプタマーは、標的DNA、標的タンパク質または標的低分子の非存在下において、ポリメラーゼと強く結合してポリメラーゼ活性を阻害する。
【0049】
「核酸」または「核酸配列」という用語は、本明細書において、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドもしくはこれらのフラグメント;一本鎖、二本鎖のいずれであってもよく、センス鎖、アンチセンス鎖のいずれであってもよい、ゲノムDNA、ゲノムRNA、合成DNAもしくは合成RNA;ペプチド核酸(PNA);またはDNA様の物質もしくはRNA様の物質を表す。
【0050】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、少なくとも約6~60個のヌクレオチド、好ましくは約15~30個のヌクレオチド、最も好ましくは約20~25個のヌクレオチドからなる核酸配列を表し、PCR増幅、ハイブリダイゼーションアッセイまたはマイクロアレイに使用可能な核酸配列を表す。本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、「アンプリマー」、「プライマー」、「オリゴマー」および「プローブ」と実質的に同義であり、これらの用語は、一般に当技術分野で定義されている用語である。本明細書において、認識ナノ構造体は、インバーターオリゴヌクレオチドを含んでいてもよい。
【0051】
本明細書において、「インバーター配列」または「インバーターオリゴヌクレオチド」という用語は、標的核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドであって、一部が二本鎖を形成し、別の一部が突出末端を構成するオリゴヌクレオチドを表す。本明細書において、二本鎖配列および突出末端配列を構成する20個のヌクレオチドより長い配列が、DNAポリメラーゼ酵素と結合するアプタマーを安定化することにより、DNAポリメラーゼに対して強力な抑制作用を発揮することが示されている。この抑制作用は、環境温度で相補的な標的を存在させることで消失させることが可能である。インバーター配列の存在の有無により、認識エレメントの機能的状態(例えば、オン状態またはオフ状態)が決まる。インバーター配列の存在下では、標的によってポリメラーゼ活性はオン状態になり、インバーター配列の非存在下では、標的によってポリメラーゼ活性はオフ状態になりうる。
【0052】
本明細書において、「可変配列領域」という用語は、認識ナノ構造体において、標的配列に対する配列特異性を決定する領域(すなわち、認識されうる標的配列を定める領域)を表す。インバーター配列、およびアプタマー配列の一部は、この可変配列領域に含まれる。この領域は、新たな標的を検出できるように変更することができる。インバーター配列を使用しない場合、「可変配列領域」は、標的核酸と相補的なアプタマーの突出末端部分を表す。
【0053】
「サンプル」という用語は、本明細書において、最も広い定義で使用される。例えば、以下に限定されないが、ヒトパピローマウイルス(HPV) 6、HPV 16、HPV 18、HPV 31、HPV 33およびHPV 5などのHPVのゲノム配列の存在が疑われる生物学的サンプルとしては、体液;細胞抽出物、細胞から単離された染色体、細胞小器官もしくは膜;細胞;ゲノムDNA、RNAまたはcDNA(溶液中に含まれるもの、または固体担体と結合した状態のもの);組織;組織印刷物(tissue print)などが含まれる。
【0054】
本発明で使用されるオリゴヌクレオチドは、構造的修飾および/または化学的修飾が施されていてもよく、例えば、本発明の方法を実施する際に、ヌクレアーゼが含まれている可能性があるサンプル中で当該オリゴヌクレオチドの活性が長く持続するように修飾を施してもよく、キットの保存期間が長くなるように修飾を施してもよいことは理解されるであろう。したがって、本発明で使用されるアプタマー、インバーター、シグナル生成ナノ構造体、または任意のオリゴヌクレオチドプライマーもしくはプローブは、化学的に修飾されていてもよい。いくつかの実施形態において、前記構造的修飾および/または化学的修飾には、合成時における、蛍光性タグ、放射性タグ、ビオチン、5'テールなどのタグの付加、ホスホロチオエート(PS)結合の付加、2'-O-メチル化、および/またはホスホロアミダイトC3スペーサーの付加などが含まれる。
【0055】
本明細書において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、これらの用語によって示される本明細書に記載の特徴、整数、工程または成分(エレメント)の存在を明記するものであると解釈されるが、1つ以上の特徴、整数、工程もしくは成分(エレメント)またはこれらの群の存在または付加を除外するものではない。また、本開示の文脈において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含する。したがって、「comprise」や「comprises」などの「含む(comprising)」という用語のバリエーション、および「include」や「includes」などの「含む(including)」という用語のバリエーションも同様に広い意味を有する。
【実施例】
【0056】
具体的な記載のない当技術分野で公知の標準的な分子生物学手法については、概してGreen and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, New York (2012)の記載に従って実施した。
【0057】
実施例1
応答性および触媒活性を有する核酸ナノ構造体の設計
本発明者らは、触媒活性を有する核酸ナノ構造体を設計・開発し、この構造体に刺激応答エレメントを組み込むことにより、この触媒活性に応答性を付与することに成功した。具体的には、まず、特定の化学反応を触媒する核酸であるDNAザイム/RNAザイムを含むコア構造を作製し[Li, W. et al., Nucleic Acids Research 44: 7373-7384 (2016)]、次いで、これに刺激応答エレメントを組み込んだ。一例を挙げると、本発明者らは、ペルオキシダーゼ活性を有するG四重鎖ヘミンDNAザイム(配列番号1)を含む三次元DNA構造体を作製した。
【0058】
そして、本発明者らは、このナノ構造体にポリメラーゼ活性応答エレメントを組み込むことを考案し、最適化した(配列番号4~9)。このようにして作製されたナノ構造体は、ポリメラーゼ活性の発現に必要な結合部位と、本質的な触媒ドメインの両方(配列番号2および3、配列番号4~9)を含み、ポリメラーゼ活性に応答するとペルオキシダーゼ触媒活性が変化するように構成されている。具体的には、応答エレメントがポリメラーゼ活性の基質を提供することにより、折り畳み構造がほどけて、触媒活性が消失する。二次およびそれより高次のDNA構造はポリメラーゼ活性を阻害することが知られているが[Nelms, B. L. and Labosky, P. A. Scientific Reports 1: 106 (2011)]、設計したナノ構造体は、ポリメラーゼ活性応答エレメントが組み込まれていない状態でポリメラーゼ活性を阻害しないことを確認している。ポリメラーゼ活性応答エレメントが組み込まれたナノ構造体は、ポリメラーゼ活性の非存在下では触媒活性が保持されているが、ポリメラーゼ活性の存在下では、その触媒活性が失われる(
図1)。試験したいくつかのポリメラーゼ応答エレメントのうち、最も優れた設計のエレメントは内部ヘアピン構造を有するものであった。この結果から、本発明者らは、内部ヘアピン構造はセルフプライミング(配列番号10)によってポリメラーゼ応答エレメントの安定性を向上させることができると考えた(
図1)。本発明者らは、応答エレメントの設計と触媒ドメインに対する位置をさらに最適化した。具体的には、ナノ構造体がポリメラーゼ活性に対して高い応答性を示すように、応答エレメントの5'突出末端部分の長さを調整した。最適化した設計(配列番号4)では、ポリメラーゼによるわずか数塩基の伸長により、触媒活性が完全に消失した。触媒活性の低下によりシグナルが指数関数的に減少すれば、この設計のナノ構造体の、ポリメラーゼ活性に対する感度は高くなる(
図2)。ナノ構造体配列と標的配列の一覧を表1に示す。
【表1】
【0059】
実施例2
様々な測定方式による触媒活性の測定
作製したナノ構造体の触媒活性は、シグナル生成エレメントとして、様々な基質を用いて測定することができ、常温での高速検出が可能である。また、触媒活性は、以下に限定されないが、比色測定、蛍光測定、電気化学測定、発光測定などの様々な測定方式に適合させることができる(表2、
図3)。
【0060】
【0061】
比色測定は、携帯性に優れるという利点がある。作製したナノ構造体を電極に固相化することにより、高感度で携帯性に優れた測定が可能である。
【0062】
実施例3
ポリメラーゼの量および/または活性の検出
設計したナノ構造体(配列番号4)の触媒活性を利用することにより、ポリメラーゼ量を直接測定することができる。ナノ構造体を含む溶液とそれぞれ異なる量のポリメラーゼを混合し、一定時間ごとに反応液を一定量採取してDNAザイム活性を測定した。反応液中のポリメラーゼ量が少ないほど、DNAザイム活性は経時的にゆるやかに低下した。これは、少ない酵素量ではDNAザイムの構造を十分に崩壊させることができないためである(
図4a)。このことを利用すれば、DNAポリメラーゼの量を検出することができる。例えば、精製した組換え酵素の収量を求める場合などに利用できる。また、このシステムを利用して、ポリメラーゼ活性(活性化または阻害)を調べることもできる(
図4b)。例えば、異なる量の化学添加物を加えて、一定量の酵素の活性に及ぼす影響を調べることができる。
【0063】
実施例4
様々な刺激の検出
上記の触媒活性を有するナノ構造体を、他の応答性ナノ構造体や、DNAポリメラーゼの可用化および/または活性化を制御する他の機構と組み合わせることにより、様々な異なる溶液環境(例えば、細胞溶解液、化学緩衝液など)において、DNA、RNA、タンパク質、脂質、低分子、代謝物や修飾物など(これらに限定されない)の他の様々な刺激や標的分子に応答してこれらを特異的に測定するシステムを構築できる。このことを実証するために、特定の核酸標的(配列番号13および14、ヒトアクチンβのDNAおよびRNA)に応答してDNAポリメラーゼを活性化/不活性化することに特化して設計された認識ナノ構造体(配列番号11および12)[PCT特許公開番号WO 2020/009660、この文献は、参照により本明細書に援用される;Ho, N. R. Y. et al., Nature Communications 9: 3238 (2018)]を利用し、これを前述の触媒活性を有する核酸ナノ構造体の上流に配置したシステムを構築した。この融合システムにより、DNA標的とRNA標的を同等の効率で検出することができた。また、このシステムは、認識ナノ構造体を特定のタンパク質標的に対するアプタマーと適合させることにより、タンパク質標的または低分子標的の検出にも使用することができる。本発明者らは、EPCAMタンパク質に対するアプタマーをインバーター配列に組み込む(配列番号16および17)ことによって、EPCAMタンパク質に応答する認識ナノ構造体を設計した。このタンパク質を発現する細胞数の増加に伴い、ポリメラーゼ活性が増大することが確認された(
図5)。応答性DNAザイムナノ構造体を電極表面に固相化した場合は、DNAザイム活性により生じた電子が電極で素早く往復移動することで、測定可能な電流が発生した。この電気化学的測定により、DNAザイム活性の微小な変化を検出することができた。これを認識ナノ構造体と組み合わせることで、わずか10
1コピーの特異的標的を検出することができた。一方、スクランブル配列(配列番号15)では、10
11コピーが存在してもシグナルは生成されなかった(
図6a)。このシグナルは数分でスクランブル標的との識別を可能にし、わずか20分で飽和状態に達した(
図6b)。
【0064】
実施例5
機能性制御のための固相化ナノ構造体
様々なナノ構造体を表面に固相化することにより、その機能性を様々な環境下で制御することができ、また機能性の順列も制御することができる。具体的には、本明細書に記載のナノ構造体は、金、ポリスチレンおよびシリカなどの様々な種類の表面に固相化して使用することができる。これらの表面は、カルボジイミド架橋反応、スクシンイミド架橋反応、ジチオール架橋反応、金-チオール反応、アビジン-ビオチン反応などの一般的なバイオコンジュゲーション反応により機能化される。また、リンカーや表面処理基(例えば、ポリ(エチレングリコール)またはポリ(エチレンオキシド))を付加することにより、表面密度や分子構成を最適化して機能性の制御や表面のパターン加工を行うことができる。例えば、ヒトβアクチンの遺伝子を認識する実施例4に記載の認識ナノ構造体(配列番号11および12)を固相化して、当該認識ナノ構造体の、DNAポリメラーゼに結合して阻害する機能に固相化が影響を与えないことを実証する実験を行った。ナノ構造体が固相化されていない表面では、ポリメラーゼが不活性化されず、ポリメラーゼの不活性化は、認識ナノ構造体の特性であることが確認された。重要なことは、固相化された認識ナノ構造体が、プログラムされた標的核酸配列に結合して、固相化されていないものと同等に、ポリメラーゼを活性化したことである(
図7)。また、ナノ構造体は様々な分子構成で固相化することができるため(
図7)、機能性の順列化(情報の流れ)も可能である。このような固相化により、様々な標的を検出するためのアレイ型パターン化が可能であり[Yeh, E. C. et al., Sci Adv 3: e1501645 (2017)]、他の方法ではナノ構造体の機能性が阻害されるような様々な環境下(例えば、溶解バッファー、洗浄剤、エチレンジアミン四酢酸、またはIgG、ヘモグロビン、プロテアーゼ、ヘパリンなどの生物学的サンプルの成分)においても高い分析性能を実現できる[Zumla, A. et al., Lancet Infect Dis 14: 1123-1135 (2014)]。したがって、このようなシステムにより、大がかりな精製工程を得ることなく、サンプルからの直接検出が可能である。
【0065】
要約
本発明の利点は以下の通りである。
1. 触媒活性を有していないナノ構造体よりも速度と感度が優れている。
2. 様々な環境下で、様々な測定方式により高い性能を実現でき、携帯性に優れている。
3. 他の方法ではナノ構造体の機能が阻害されるような様々な環境下においても高い分析性能を実現できる。
【0066】
参考文献
1. Gardner, S. N., Kuczmarski, T. A., Vitalis, E. A. & Slezak, T. R. Limitations of TaqMan PCR for detecting divergent viral pathogens illustrated by hepatitis A, B, C, and E viruses and human immunodeficiency virus. J Clin Microbiol 41, 2417-2427 (2003).
2. Ho, N. R. Y. et al. Visual and modular detection of pathogen nucleic acids with enzyme-DNA molecular complexes. Nature Communications 9, 3238 (2018).
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4. Li, W. et al. Insight into G-quadruplex-hemin DNAzyme/RNAzyme: adjacent adenine as the intramolecular species for remarkable enhancement of enzymatic activity. Nucleic acids research 44, 7373-7384 (2016).
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8. Yeh, E. C. et al. Self-powered integrated microfluidic point-of-care low-cost enabling (SIMPLE) chip. Sci Adv 3, e1501645 (2017).
9. Zhao, Y., Chen, F., Li, Q., Wang, L. & Fan, C. Isothermal Amplification of Nucleic Acids. Chem Rev 115, 12491-12545 (2015).
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【配列表】