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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-18
(45)【発行日】2025-09-29
(54)【発明の名称】樹脂組成物および樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   A63K 3/00 20060101AFI20250919BHJP
   E04H 4/14 20060101ALI20250919BHJP
   C08L 31/04 20060101ALI20250919BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20250919BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
A63K3/00
E04H4/14
C08L31/04 A
C08K5/29
C08K5/13
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021144570
(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公開番号】P2023037790
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2024-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伏屋 篤史
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/147830(WO,A1)
【文献】特開平04-216851(JP,A)
【文献】特開平10-192565(JP,A)
【文献】特開2006-044155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 31/04
C08K 3/00- 13/08
A63K 3/00- 3/04
E04H 4/00- 4/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物から作製され、塩素を含む水中で使用するための樹脂成形品であって、前記樹脂組成物が、
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂と、
顔料と、
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂の加水分解を抑制する、カルボジイミド化合物からなる加水分解抑制剤と、
からなり、前記加水分解抑制剤の含有量が0.1~1.0質量%である有色の樹脂組成物である、樹脂成形品
【請求項2】
前記樹脂組成物がフェノール系酸化防止剤をさらに含む、請求項に記載の樹脂成形品
【請求項3】
プールのレーンロープ用フロートである、請求項1又は2に記載の樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関する。また、本発明は、当該樹脂組成物から作製された樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(以下、「EVA樹脂」と表記することがある。)は、エチレンと酢酸ビニルとを共重合させた樹脂であり、例えば、水泳プールのコースロープ用フロートの主原料として使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平06-043109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EVA樹脂の自然色は無色透明であるため、EVA樹脂を使用してプールのレーンロープ用フロートを製造する際には、EVA樹脂を着色することが行われている。着色されたレーンロープ用フロートは、塩素を含む水中(例えば、水温が約29℃~31℃である室内温水プール内)で長期にわたって使用されると、退色することがあった。
【0005】
本発明は、退色が抑制された樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該樹脂組成物から作製された樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に掲げる態様の発明を提供する。
(項目1)
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂と、
顔料と、
エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂の加水分解を抑制する加水分解抑制剤と、
を含む有色の樹脂組成物。
【0007】
(項目2)
前記加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物を含む、
項目1に記載の樹脂組成物。
【0008】
(項目3)
塩素を含む水中での退色が防止されている、
項目1または2に記載の樹脂組成物。
【0009】
(項目4)
フェノール系酸化防止剤をさらに含む、
項目1から3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【0010】
(項目5)
項目1から4のいずれか1項に記載の樹脂組成物から作製された樹脂成形品。
【0011】
(項目6)
プールのレーンロープ用フロートである、
項目5に記載の樹脂成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、退色が抑制された樹脂組成物および樹脂成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂組成物および樹脂成形品について説明する。
【0014】
樹脂組成物は、EVA樹脂と、顔料と、EVA樹脂の加水分解を抑制する加水分解抑制剤と、を含む。
【0015】
EVA樹脂は、1種単独で使用してもよく、特性の異なる二種以上を併用してもよい。EVA樹脂は、酢酸ビニルの質量割合が増えると、柔軟性が高くなることが知られている。したがって、例えば、酢酸ビニルの質量割合が異なる二種以上のEVA樹脂を併用することにより、樹脂組成物の柔軟性を調整してもよい。
【0016】
顔料は、例えば赤色、青色、黄色などに、EVA樹脂を着色するために使用される。顔料は、EVA樹脂を着色可能であれば特に限定されず、無機顔料であっても、有機顔料であってもよい。顔料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、顔料として、無機顔料と有機顔料を混合したものを使用してもよい。
【0017】
加水分解抑制剤は、EVA樹脂の加水分解を抑制可能な物質であれば特に限定されない。EVA樹脂の加水分解が抑制されることにより、EVA樹脂の劣化を抑えることができ、その結果、樹脂組成物の退色を抑制できると考えられる。加水分解抑制剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物を含むことが好ましい。カルボジイミド化合物とは、官能基-N=C=N-を有する化合物を意味する。カルボジイミド化合物は、EVA樹脂の加水分解を抑制可能である限り特に限定されず、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。カルボジイミド化合物の配合割合は、0.1~1.0質量%であることが好ましく、0.4~0.6質量%であることがより好ましい。
【0018】
樹脂組成物は、フェノール系酸化防止剤をさらに含んでいてもよい。フェノール系酸化防止剤は、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤である。樹脂組成物がフェノール系酸化防止剤を含むことにより、より長期にわたって樹脂組成物の退色を抑制できる。
【0019】
樹脂組成物は、例えば、上記の各材料を乾式混合し、加熱溶融することによって作製できる。
【0020】
樹脂成形品は、樹脂組成物を成形することにより作製できる。樹脂成形品は、例えば、プールのレーンロープ用フロートである。フロートは、例えば、室内温水プール(例えば、水温は約29℃~31℃)用である。樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、例えば射出成形、ブロー成形、または発泡成形を利用できる。
【0021】
フロートの退色を抑制するためには、フロートの同じ部位が長時間水に浸かることがないよう、フロートが水面で回転することが好ましい。一例として、フロートは、筒状部と、複数の翼板と、壁面部と、を備える。筒状部は、フロートの中心に配置されており、複数のフロートを連結するためのロープが挿入される部分である。各翼板は、筒状部の側面から放射状に延びている。壁面部は、翼板の側端部に連結され、翼板を覆っている。フロートの内部には、翼板および壁面部によって囲まれる開口部が形成されている。開口部内に水が侵入し翼板に衝突すると、その水の力によって、フロートはロープを中心として回転する。これにより、同じ部位が長時間水に浸かることがないため、フロートの退色を一層抑制できる。
【0022】
フロートの曲げ弾性率は、JIS K 6924-2に準拠した試験方法により測定した値で、10~200MPaであることが好ましく、30~120MPaであることがより好ましい。また、デュロメータタイプAによるフロートの硬度は、JIS K6253-3に準拠した試験方法により測定した値で、75~95であることが好ましく、89~91であることがより好ましい。フロートの曲げ弾性率や硬度が上記範囲内にあることにより、射出成形時にフロートが型から上手く離れないという製造上の問題や、成形後のフロートの保管時に形崩れが起こる等の管理上の問題をより効果的に防ぐことができる。さらに、フロートが弾性変形し易く、フロートに泳者の身体の一部が衝突しても、怪我を効果的に防ぐことができる。
【実施例
【0023】
以下では、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。表1に、実施例1、実施例2および比較例で使用した各原料の配合割合および試験結果を示す。
【0024】
<樹脂組成物の調製>
以下に示す各原料を乾式混合し、混合物を作製した。混合物を射出成型機に投入し、200℃で混合物を溶融した後、射出成形により厚さ約1mmのプレート状成形品を作製した。
各原料として、以下のものを使用した。
(A)EVA樹脂
(B)顔料
(C)カルボジイミド化合物
(D)フェノール系酸化防止剤
【0025】
<試験方法>
(1)プレート状成形品から、20mm×25mmの長方形の試料を切り出した。
(2)試料を、温度50℃・塩素濃度1200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液に入れ、水温を50℃に維持し、温度および塩素濃度について加速試験を行った。試験は、遮光した状態で行った。
(3)所定の日数が経過した後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液中から試料を取り出し、試料の表面に付いた水分を拭き取り、評価試験に供した。
【0026】
<評価試験>
(1)色彩色差計を使用して、各試料について、L表色系における色差ΔEを測定した。ΔEは初期状態(新品状態)の製品(基準サンプル)の色(赤色)に対する色差である。
測定器名:CR-400(コニカミノルタジャパン株式会社製)
計測光源:C光源
計測部:φ5mm
(2)各試料について任意の三か所を測定し、その算術平均値をΔEとして採用した。
(3)所定の日数が経過した後のΔEが0日目のΔEからどれだけ変化したかを分かりやすくするために、所定の経過日数におけるΔEから0日目のΔEを引いた値を、「ΔEの変化」と定義した。例えば、0日目のΔEをΔE 、経過日数3日目のΔEをΔE としたとき、「経過日数3日目のΔEの変化」は、「ΔE -ΔE 」で算出される。なお、「0日目のΔE」は、試料を作製したその日に、試料を塩素水中に浸漬していない状態で測定した色差のことである。
(4)比較例の試料については、経過日数15日目で「ΔEの変化」が23.7となり、実施例1および2の試料と比較して明らかに退色が進行していたため、そこで試験を中止した。
【0027】
【0028】
<結果>
表1から明らかなように、カルボジイミド化合物を含む実施例1および2の試料はいずれも、カルボジイミド化合物を含まない比較例の試料と比較して、ΔEの変化が抑えられており、塩素水中での退色が抑制されていることが分かる。また、フェノール系酸化防止剤を含む実施例2の試料は、フェノール系酸化防止剤を含まない実施例1の試料と比較して、長期に渡って退色を抑制できることが分かる。
【0029】
樹脂組成物がカルボジイミド化合物を含むことにより、EVA樹脂の加水分解が抑制され、EVA樹脂の劣化が抑えられた結果、試料中への塩素の侵入が抑制され、塩素による顔料の損傷を防止でき、退色を抑制できたと考えられる。