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特許7745303魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-18
(45)【発行日】2025-09-29
(54)【発明の名称】魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/015 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
A23B4/015
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2025075084
(22)【出願日】2025-04-30
【審査請求日】2025-04-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390003838
【氏名又は名称】株式会社マキシム
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】東 展男
(72)【発明者】
【氏名】井口 英雄
(72)【発明者】
【氏名】平木 重光
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-176674(JP,A)
【文献】国際公開第2020/230437(WO,A1)
【文献】特開2015-043753(JP,A)
【文献】特開2020-003084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
A23L
F25D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのコイルと、
上記コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置と、
を有し、
回転寿司店における搬送レーンの少なくとも一箇所の下方に上記コイルを配置し、
上記コイルに上記交流電流を流しながら上記搬送レーン上で魚介類または魚介類の派生物を搬送して上記魚介類または魚介類の派生物を上記コイルに接近させることにより上記魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持する魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム。
【請求項2】
少なくとも一つのコイルと、
上記コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置と、
を有し、
回転寿司店における搬送レーンの一部に設けられたトンネルの少なくとも一箇所の両側または下方に上記コイルを配置し、
上記コイルに上記交流電流を流しながら上記搬送レーン上で魚介類または魚介類の派生物を搬送して上記魚介類または魚介類の派生物を上記コイルに接近させることにより上記魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持する魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム。
【請求項3】
上記少なくとも一部の周波数領域は4.5kHz~8kHzの周波数領域に含まれる請求項1または2記載の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム。
【請求項4】
上記少なくとも一部の周波数領域は4.5kHz~8kHzである請求項1または2記載の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム。
【請求項5】
上記魚介類または魚介類の派生物は漁獲された魚介類、魚介類の切り身、さく、刺身、魚介類の生の加工品またはこれらを冷蔵もしくは冷凍したものである請求項1または2記載の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムおよび魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持方法に関し、漁獲された死後の魚介類または刺身などの魚介類の派生物の鮮度維持に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
鮮魚店やスーパーマーケットの鮮魚コーナーなどでは、漁獲され、市場などから仕入れた各種の魚介類、魚介類の切り身、さく、刺身などが提供されている。また、寿司屋では寿司ネタにするマグロなどのさくやタコなどがカウンター前の冷蔵スペースに保管されていることがある。さらに、回転寿司店では、酢飯の上に魚介類の具を載せた握り寿司が載せられた皿が搬送レーンにより搬送され、顧客に提供される。スーパーマーケットなどでも、握り寿司などが単品またはパックされた状態で提供されている。
【0003】
これらの店では、漁獲された死後の魚介類、魚介類の切り身、さく、刺身などの鮮度を維持することが重要である。
【0004】
これまで、漁獲された魚の鮮度を維持することを目的とする様々な技術が提案されている(例えば、特許文献1~3)。特許文献1には、漁船内の捕獲魚保存槽に脱塩用の電気透析装置と槽内塩水冷却用の冷凍機とを附属させた捕獲魚の鮮度維持装置が提案されている。特許文献2には、フィルターボックスと、このフィルターボックスに並列して設けられた殺菌灯ボックスより成り、両ボックスのそれぞれの内部に複数の仕切板を多段に取付け、各ボックス内の仕切板の一方の端部と、隣接する仕切板の他方の端部のそれぞれに連通口を形成し、前記フィルターボックスには、仕切板によって画されたろ過空間のそれぞれに円筒形フィルターを横長に取付け、最下位に位置するろ過空間の一方の端部に流入口を形成し、前記殺菌灯ボックスには、仕切板で画された殺菌空間のそれぞれに殺菌灯を取付け、最上位に位置する殺菌空間には流出口を形成し、また、最上位に位置するろ過空間と最下位に位置する殺菌空間との間に連通路を設けた生魚の鮮度維持装置が提案されている。特許文献3には、魚をオゾン氷で冷蔵保存するに際し、容器内にオゾン氷と魚を収容すると共にその容器を密閉し、その密閉した容器内の圧力を変化させて魚の内蔵内にオゾン水を浸透させ、その浸透させたオゾン水で魚の内蔵を殺菌・滅菌して冷蔵保存する魚の鮮度維持装置が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1~3に記載の鮮度維持装置では、装置が大掛かりなものとなるだけでなく、さくや刺身などの鮮度を維持することは困難である。
【0006】
なお、液体を流す管にソレノイド型のコイルを巻回し、このコイルにほぼ700~3000Hzの範囲の周波数領域で連続的に周波数の変化を反復する交流電流を流すことにより、管の内壁へのスケール生成防止や管の内壁に付着したスケールの除去を図るスケール生成および/またはスケール付着防止用液体処理装置が知られている(特許文献4)。また、水道管にソレノイド型のコイルを巻回し、このコイルに3.6~7.5kHzの範囲の周波数領域で連続的に周波数の変化を反復する交流電流を流すことにより水道管内壁へのスケール生成防止や水道管の内壁に付着したスケールの除去を図る水道水用水処理装置が知られており、既に実用化されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開昭53-34791号公報
【文献】実開昭55-52988号公報
【文献】特開2011-45298号公報
【文献】米国特許第5074998号明細書
【文献】実用新案登録第3224220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、漁獲された死後の魚介類や刺身などの魚介類の派生物の鮮度を簡単な手法で維持することができ、ひいては魚介類や魚介類の派生物の廃棄を防止することができる魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムおよび魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題の解決を図る技術の開発を目的として長年に亘り鋭意検討を行った結果、特許文献5記載の水道水用水処理装置で使用されているコイルと同様なコイルに類似の交流電流を流しながら魚または魚の派生物を接近した状態に保持し、あるいはコイルと魚または魚の派生物とを互いに接近させることにより、これらの魚または魚の派生物の鮮度を維持することができるという新たな効果が得られることを見出した。一方、後に詳述するように、魚または魚の派生物の鮮度はK値により評価することができるが、貝類、頭足類、甲殻類などの鮮度も同様にK値により評価することができることから、上記の手法により、魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持することができると合理的に結論することができる。これらの知見および考察を経てこの発明を案出するに至った。本発明者らの知る限り、このような効果が得られることはこれまで報告されていない。上記のような効果が得られる理由については現在解明中であるが、コイルに流れる電流により発生する特殊な変動電磁界の作用によるものと考えられる。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
少なくとも一つのコイルと、
上記コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置と、
を有し、
上記コイルに上記交流電流を流しながら上記コイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させることにより上記魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持する魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムである。
【0011】
上記の少なくとも一部の周波数領域は、典型的には、4.5kHz~8kHzの周波数領域に含まれ、例えば、4.5kHz~8kHzの周波数領域である。交流電流の周波数の増減は、典型的には直線的に行うが、これに限定されるものではなく、非直線的に行ってもよい。交流電流は、典型的には、上記の少なくとも一部の周波数領域内で1秒間に複数回、周波数の増減を反復する。交流電流は、例えば、100Hzから10kHzまで周波数をスイープする。交流電流の波形は、特に限定されず、必要に応じて選択されるが、典型的には、方形波が用いられる。交流電流の電流値は必要に応じて選択されるが、一般的には1mA~3A、典型的には100mA~3A、より典型的には1~3Aである。コイルは、一般的には、管や棒などの支持体(一般的には非磁性体からなる)の外周面の少なくとも一箇所に巻回されるが、必ずしも支持体を用いないでもよい。コイルは、管の外周面の少なくとも一箇所に巻回されれば足りるが、複数箇所に巻回されてもよい。コイルの巻き数は管の口径(直径)などに応じて適宜選択されるが、コイルに交流電流を流すことにより発生する変動電磁界の強さがある程度大きい方がより優れた効果が得られる傾向があるため、コイルの巻き数は一般的には10以上20以下に選ばれる。
【0012】
コイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させる方法としては、コイルを固定し、これに魚介類または魚介類の派生物を接近した状態に保持する方法、コイルを固定し、これに魚介類または魚介類の派生物を接近させる方法、魚介類または魚介類の派生物を固定し、これにコイルを接近させる方法などがある。具体的には、例えば、魚介類または魚介類の派生物を載せる台(例えば、スーパーマーケットの陳列台や寿司屋のカウンター前の冷蔵スペースなどの台など)の下方にコイルを配置する。あるいは、市場や各種の店舗などにおいて、魚介類または魚介類の派生物を載せて搬送する場合にはその搬送レーンの少なくとも一箇所の下方にコイルを配置する。回転寿司店においては、搬送レーンの少なくとも一箇所の下方にコイルを配置する。あるいは、回転寿司店における搬送レーンの一部にトンネルが設けられる場合は、このトンネルの少なくとも一箇所の両側または下方にコイルを配置する。
【0013】
コイルと魚介類または魚介類の派生物との間の距離は特に限定されないが、コイルに交流電流を流すことにより発生する変動電磁界の強さが大きい方が短時間で処理が済むため、一般的には30cm以内の距離、典型的には20cm以内の距離、より典型的には10cm以内の距離に接近させる。また、魚介類または魚介類の派生物を変動電磁界に十分に晒すため、一般的には、コイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近させた状態で1秒以上、典型的には5秒以上保持する。
【0014】
魚介類または魚介類の派生物が容器に収納されている場合は、コイルと魚介類または魚介類の派生物が収納された容器とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させる。あるいは、コイルが外周面の少なくとも一箇所に巻回された管の内部に魚介類または魚介類の派生物を通し、または挿入するようにしてもよい。
【0015】
魚介類は魚類、貝類、頭足類、甲殻類などである。魚類は特に限定されず、海水魚であると淡水魚であるとを問わず、種類も問わない。海水魚としては、例えば、マグロ、かつお、ぶり、ひらめ、さんまなどが挙げられる。一生を淡水で過ごす淡水魚としては、例えば、鯉、鮒などが挙げられる。また、ある時期に海に入るあゆ、うなぎ、さけなども挙げられる。貝類としては、例えば、帆立貝、はまぐり、さざえ、牡蠣、あさりなどが挙げられる。頭足類としては、例えば、いか、たこなどが挙げられる。甲殻類としては、例えば、カニ、エビなどが挙げられる。魚介類の派生物は、魚介類の切り身、さく、刺身、魚介類の生の加工品またはこれらを冷蔵もしくは冷凍したものである。魚介類の生の加工品は特に限定されず、種類を問わない。
【0016】
また、この発明は、
少なくとも一つのコイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流しながら上記コイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させることにより上記魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持する魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持方法である。
【0017】
この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持方法の発明においては、上記の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの発明に関連して説明した事項が成立する。
【0018】
魚介類または魚介類の派生物の鮮度は、魚介類の鮮度評価指標であるK値を用いて行うことができる。K値は、魚介類の死後、時間経過に伴って増加する、魚類筋肉中に含まれるエネルギー成分であるATP(アデノシン三リン酸)関連物質の含有量を測定して算出される。K値の計算式は下記の通りである。
【0019】
(1)魚類
K(%)
=(HxR+Hx)/(ATP+ADP+AMP+IMP+HxR+Hx)×100
ただし、ADPはアデノシン二リン酸、AMPはアデニル酸、IMPはイノシン酸、HxRはイノシン、Hxはヒポキサンチンである。K値は生食用の刺身では20%以下、煮魚や焼き魚は40%以下が目安である。
【0020】
(2)貝類、頭足類
K(%)
=(HxR+Hx)/(ATP+ADP+AMP+HxR+Hx)×100
【0021】
(3)甲殻類
K(%)
=(HxR+Hx)/(ATP+ADP+AMP+IMP+AdR+HxR+Hx)×100
ただし、AdRはアデノシンである。
【0022】
K値の測定用の試料の調製および測定は、一般的には次のように行われる。漁獲された魚介類の体側筋を採取した後、表皮、血合いを除き破砕して抽出用容器に入れる。この抽出用容器に氷冷した過塩素酸希釈液を添加し、ホモジナイザーでかき混ぜ、ATP関連物質を抽出し、pHを調整し、氷冷した後、フィルターでたんぱく質を除去し、高速液体クロマトグラフでATP関連物質の含有量を測定する。そして、測定したATP関連物質の含有量から試料のK値を算出する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流しながらコイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させることにより、魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示す斜視図である。
図1B】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの筐体の上部の内部の構成を示す平面図である。
図1C】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの筐体の内部の構成を示す側面図である。
図1D】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの筐体の下部の内部の構成を示す側面図である。
図1E】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの筐体の一つの側面を示す側面図である。
図2】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムをAC100Vのコンセントに接続するための電源ケーブルを示す斜視図である。
図3A】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の波形の一例を示す略線図である。
図3B】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の周波数スペクトルの一例を示す略線図である。
図3C】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムにおいて交流電流供給装置によりコイルに流す交流電流の周波数スペクトルの実測例を示す略線図である。
図4】この発明の第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法を説明するための斜視図である。
図5】この発明の第2の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示す略線図である。
図6】この発明の第2の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの処理スティックを示す断面図である。
図7】この発明の第2の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法を説明するための斜視図である。
図8A】この発明の第3の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを回転寿司店の搬送レーンに適用した例を示す斜視図である。
図8B】この発明の第3の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを回転寿司店の搬送レーンに適用した例を示す側面図である。
図9】実施例1、2においてK値測定試験に用いた簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示す図面代用写真である。
図10】実施例1、2においてK値測定試験に用いた簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」という)について説明する。
【0026】
〈第1の実施の形態〉
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム]
図1A図1Bおよび図1Cは第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示し、図1Aは斜視図、図1Bは筐体の上面を省略して筐体の上部の内部の構成を示す平面図、図1Cは筐体の一つの側面を省略して内部の構成を示す側面図である。図1A図1Bおよび図1Cに示すように、この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムにおいては、直方体状の筐体10の内部の空間が磁気シールド板11により上下の空間に分けられている。磁気シールド板11の上方の空間には、筐体10の一つの側面に平行に設けられた管20が、この管20の両端を支持する支持部材21、22を介して磁気シールド板11上に設置されている。管20の両端部を除く外周面にソレノイド型のコイル30が巻回されている。磁気シールド板11の下方の空間には、コイル30に交流電流を流すための交流電流供給装置40が筐体10の底面に設置されている。図1Dに筐体10の磁気シールド板11の下方の空間を示す。磁気シールド板11の材料は従来公知の材料を用いることができ、例えば、電磁軟鉄、珪素鋼、パーマロイ、アモルファス磁性体などである。
【0027】
管20の外周面に巻回されたコイル30は、磁気シールド板11に設けられた穴11a、11bを通してケーブル41により交流電流供給装置40の出力端子と接続されている。コイル30はケーブル41をらせん状に巻くことにより形成されている。交流電流供給装置40の電源ケーブル42は筐体10の側面に取り付けられたロッカースイッチ50を介して同じく筐体10の側面に取り付けられた電源コネクター60に接続されている。図1Eにロッカースイッチ50および電源コネクター60が取り付けられた筐体10の側面を示す。ロッカースイッチ50および電源コネクター60は筐体10の他の側面に取付けてもよい。電源コネクター60には、図2に示すように、AC100Vを供給するための電源ケーブル43の一端のプラグ44を接続することができるようになっている。魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用時には電源ケーブル43の他端のプラグ45をAC100Vのコンセントに差し込む。
【0028】
コイル30に流す交流電流は、100Hzから10kHzまで周波数をスイープし、波形は方形波である。この場合、4.5kHz~8kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域(f1 ~f2 の周波数領域とする)で1秒間に複数回、典型的には2~5回(例えば3.5回)直線的に周波数を増減し、これを反復する。f1 ~f2 の周波数領域は、典型的には4.5kHz~8kHzである。図3Aにこの交流電流の波形の一例を模式的に示す。図3Aに示すように、f1 ~f2 の周波数領域では、100Hzからf1 までの周波数領域およびf2 から10kHzまでの周波数領域に比べて最大電流値を高くしている。f1 ~f2 の周波数領域の最大電流値は、100Hzからf1 までの周波数領域およびf2 から10kHzまでの周波数領域の最大電流値に比べて例えば2~3倍大きくするが、これに限定されるものではない。こうしてコイル30に交流電流を流したときの周波数スペクトルの一例を図3Bに模式的に示す。図3Bに示すように、コイル30に流れる交流電流は、f1 ~f2 の周波数領域で最大電流値がほぼ同一である。図3Cに実測の周波数スペクトルの一例を示す。f1 ~f2 の周波数領域は4.5kHz~8kHzである。この周波数スペクトルの縦軸は、コイル30が巻回された管20の側面に音圧測定用のピックアップを取り付け、コイル30に交流電流が流れることにより発生する電磁騒音を測定した時の音圧を示し、交流電流の最大電流値に対応するものである。
【0029】
コイル30の上方の部分の筐体10の上面には処理部12が設けられている。処理部12の平面形状は例えば正方形であるが、これに限定されるものではなく、必要に応じて選択される。コイル30に上記の交流電流を流すことにより発生する電磁界は、主として処理部12およびその上方に存在する。鮮度を維持する魚介類または魚介類の派生物は処理部12の上に置いたり、処理部12の上方に保持したりする。魚介類または魚介類の派生物はそのまま処理部12の上に置いても良いが、ラップや紙皿などを介して置いてもよいし、容器に魚介類または魚介類の派生物を入れたものを処理部12の上に置いてもよい。
【0030】
処理部12は非磁性体、例えばプラスチックやアルミニウムなどにより構成される。処理部12以外の部分の筐体10は非磁性体により構成されてもよいし、磁性体により構成されてもよい。
【0031】
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法]
この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法について説明する。筐体10の電源コネクター60に図2に示す電源ケーブル43の一端のプラグ44を接続し、電源ケーブル43の他端のプラグ45をAC100Vのコンセントに差し込み、ロッカースイッチ50をオンとする。そして、交流電流供給装置40によりコイル30に上記の交流電流を流しながら、図4に示すように、鮮度を維持したい魚介類または魚介類の派生物70を処理部12の上にそのまま載せたり、あるいはコップや皿などの容器に入れて載せたり、あるいは処理部12に近づけたりする。例えば、コイル30と魚介類または魚介類の派生物70とを例えば10cm以内の距離まで互いに接近させ、一定時間、例えば1秒以上、典型的には10秒以上その状態を保持する。こうすることで、魚介類または魚介類の派生物70の鮮度を維持することができる。
【0032】
以上のように、この第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムによれば、管20に巻回されたコイル30に交流電流供給装置40により所定の交流電流を流しながら、処理部12においてコイル30と魚介類または魚介類の派生物70とを互いに接近させて変動電磁界で処理することにより、魚介類または魚介類の派生物70の鮮度を維持することができる。このため、鮮度が落ちた魚介類または魚介類の派生物70を廃棄しないで済むようになる。さらに、この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムは、管20に巻回されたコイル30、交流電流供給装置40などにより簡単に構成することができる。
【0033】
〈第2の実施の形態〉
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム]
図5は第2の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示す。図5に示すように、この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムは、交流電流供給装置40と使用者が手で握ることができる段付き円筒状のスティック80とを有する。交流電流供給装置40は第1の実施の形態で用いた交流電流供給装置40と同様である。交流電流供給装置40とスティック80とは電源ケーブル90により互いに接続されている。スティック80は前方の処理部81と後方の把持部82とを有する。把持部82の直径は処理部81の直径よりも小さくなっている。把持部82は使用者が手で握ることができる太さとなっている。
【0034】
スティック80の縦断面を図6に示す。図6に示すように、スティック80の処理部81の内部には、第1の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムと同様に、管20の外周面に巻回されたソレノイド型のコイル30が設置されている。管20の両端部は処理部81の内壁に設けられた支持部材(図示せず)により支持されている。コイル30はケーブル41をらせん状に巻くことにより形成されている。ケーブル41の両端は把持部82の上部の側面に取り付けられたロッカースイッチ50を介して電源ケーブル90を構成する2本の線にそれぞれ接続されている。
【0035】
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法]
この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法について説明する。交流電流供給装置40の電源コネクター60に図2に示す電源ケーブル43の一端のプラグ44を接続し、電源ケーブル43の他端のプラグ45をAC100Vのコンセントに差し込み、スティック80の把持部82の側面のロッカースイッチ50をオンとする。そして、交流電流供給装置40によりコイル30に交流電流を流しながら、図7に示すように、鮮度を維持したい魚介類または魚介類の派生物70に対してスティック80の処理部81の側面を近づける。例えば、処理部81と魚介類または魚介類の派生物70とを例えば10cm以内の距離まで互いに接近させ、一定時間、例えば1秒以上、典型的には10秒以上その状態を保持し、コイル30に交流電流を流すことにより発生する変動電磁界により魚介類または魚介類の派生物70を処理する。こうすることで、魚介類または魚介類の派生物70の鮮度を維持することができる。
【0036】
以上のように、この第2の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムによれば、スティック80の処理部81に内蔵されたコイル30に交流電流供給装置40により所定の交流電流を流しながら、スティック80の把持部82を使用者が手で握って処理部81の側面を魚介類または魚介類の派生物70に接近させることにより、魚介類または魚介類の派生物70の鮮度を維持することができる。このため、鮮度が落ちた魚介類または魚介類の派生物70を廃棄しないで済むようになる。また、この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムは、管20に巻回されたコイル30を内蔵するスティック80と交流電流供給装置40とにより構成することができるため、簡単に構成することができる。
【0037】
〈第3の実施の形態〉
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システム]
第3の実施の形態においては、回転寿司店の搬送レーンに魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを適用した場合について説明する。
【0038】
図8Aおよび図8Bに回転寿司店の搬送レーンに魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを適用した場合を示し、図8Aは搬送レーンを斜め上方から見た斜視図、図8Bは搬送レーンを横から見た側面図である。図8Aおよび図8Bに示すように、図示省略し搬送機構により矢印方向に搬送される搬送レーン100上に寿司101を載せた皿102が載せられて搬送されている。寿司101は酢飯101aの上に魚介類の具101bが載せられたものなどである。搬送レーン100の少なくとも一箇所の下方に管20の外周面に巻回されたソレノイド型のコイル30が搬送レーン100に平行に設置されている。図示は省略するが、コイル30に交流電流を流すための交流電流供給装置40は、例えば、搬送レーン100の下方の空間のスペースに設置される。
【0039】
[魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法]
この魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの使用方法について説明する。第1の実施の形態と同様に、交流電流供給装置40によりコイル30に交流電流を流す。そして、コイル30に交流電流を流すことにより発生する変動電磁界により皿102の上に載せられた寿司101を処理する。こうすることで、寿司101の魚介類の具101bの鮮度を維持することができる。
【0040】
以上のように、この第3の実施の形態による魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムによれば、回転寿司店において搬送レーン100の下方に設置されたコイル30に交流電流供給装置40により所定の交流電流を流しながら、搬送レーン100上を寿司101を載せた皿102を搬送することにより、寿司101の魚介類の具101bをコイル30に接近させることができ、それによって魚介類の具101bの鮮度を維持することができる。
【0041】
実施例について説明する。
【0042】
図9および図10は以下に説明する実施例1、2において使用した簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムを示し、図9は斜め上方から撮影した写真、図10は上方から撮影した写真である。図9および図10に示すように、この簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムにおいては、全体として幅約28cm、奥行約20cm、高さ約8cmの偏平な直方体状の半透明プラスチック製の容器の片側の底に交流電流供給装置40(容器の半透明の蓋を通して輪郭が見える)を設置し、容器の他の片側の部分に蓋に開けた穴を通して内径10cm、高さ約8.5cmの塩化ビニル管を立て、この塩化ビニル管の中央部の外周面にコイル30(容器の半透明の蓋を通して輪郭が見える)を約5.5cmの長さにわたって密に巻回し、ケーブル41により交流電流供給装置40を接続した。交流電流供給装置40としては、市販されている株式会社マキシム製ドールマンショック型番MS-STを用いた。コイル30の巻き数は15回、単位長さ当たりの巻き数は概ね3回/cm、コイル30に流す交流電流の波形は図3Aに示すものであり、f1 ~f2 の周波数領域は4.5kHz~8kHzである。この交流電流の周波数スペクトルは図3Cに示す通りである。f1 ~f2 の周波数領域における最大電流値は1.58Aである。交流電流供給装置40によりコイル20に交流電流を流して変動電磁界を発生させた。
【0043】
K値の測定を行う試料として、実施例1においてはめばちマグロの赤身のさくを用い、実施例2においては中とろのマグロのさくを用いた。K値の測定試験は、地方独立行政法人山口県産業技術センター(以下、単に「センター」という)において株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフ(型式Prominence)を用いて行った。
【0044】
めばちマグロの赤身のさくは、宮崎県宮崎市内の鮮魚店で冷蔵状態にあるものを某日の午後4時に購入した。鮮魚店は同日の午前3時にめばちマグロを市場から仕入れ、午前7時に店内でさくを作る処理を行った。同日に宮崎市内の測定担当者が自宅の冷蔵庫で保管した後、翌日午前6時に持ち出し、同日の午後2時にセンターに持ち込み、K値の測定を行った。持ち込むまでに一度も冷凍保存はしていない。
【0045】
中とろのマグロのさくは、山口県宇部市内の鮮魚店で冷蔵状態にあるものを某日の午後1時に購入した。鮮魚店は同日の午前3時にマグロを市場から仕入れ、午前7時に店内で中とろのさくを作る処理を行った。購入した中とろのマグロのさくを保冷袋に入れて保冷剤で冷却した状態で宇部市内に滞在していた測定担当者が同日の午後3時にセンターに持ち込み、測定を行った。持ち込むまでに一度も冷凍保存はしていない。
【0046】
(実施例1)
図9および図10に示すように、ビーカーの中に赤身のマグロのさくをカットしたものを入れた。このビーカーを図10に示すように簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの塩化ビニル管の内部に入れた。そして、交流電流供給装置40により塩化ビニル管の外周面に巻回されたコイル20に交流電流を流して変動電磁界を発生させ、この変動電磁界による処理(以下においては「DS処理」という。)を行った。処理時間は30秒とした。図9に見える塩化ビニル管の側面に電磁界測定装置を当ててコイル30の近傍の電磁界を測定したところ、電界の強さは352V/m、磁界の強さ(磁束密度)は7.48μTであった。比較のためにDS処理無しの試料も用意した。この後、既に述べた手順に従ってDS処理有り無しの試料の調製および測定を行った。
【0047】
DS処理有り無しの試料のK値の測定結果をATP関連物質の量とともに示すと下記の通りである。
【0048】
ATP関連物質(μmol/g) DS処理無し DS処理有り
ATP 0.00 0.02
ADP 0.07 0.02
AMP 0.01 0.02
IMP 6.09 11.1
HxR 0.35 0.35
Hx 0.09 0.29
K値(%) 6.7 5.4
【0049】
DS処理有りの方がDS処理無しよりK値は1.3小さかった。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様に、中とろのマグロのさくをカットしたものをビーカーの中に入れ、このビーカーを図10に示すように簡易構成の魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムの塩化ビニル管の内部に入れてDS処理を行った。処理時間は実施例1と同様に30秒とした。比較のためにDS処理無しの試料も用意した。この後、既に述べた手順に従ってDS処理有り無しの試料の調製および測定を行った。
【0051】
DS処理有り無しの試料のK値の測定結果をATP関連物質の量とともに示すと下記の通りである。
【0052】
ATP関連物質(μmol/g) DS処理無し DS処理有り
ATP 0.00 0.00
ADP 0.56 0.47
AMP 0.03 0.03
IMP 12.7 13.6
HxR 1.65 1.09
Hx 1.84 1.73
K値(%) 21 17
【0053】
DS処理有りの方がDS処理無しよりK値は4小さかった。
【0054】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0055】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構成、形状、材料、方法などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構成、形状、材料、方法などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…筐体、11…磁気シールド板、12…処理部、20…管、30…コイル、40…交流電流供給装置、41…ケーブル、42…電源ケーブル、43…電源ケーブル、50…ロッカースイッチ、60…電源コネクター、70…魚介類または魚介類の派生物、80…スティック、81…処理部、82…把持部、100…搬送レーン、101…寿司、101a…酢飯、101b…魚介類の具
【要約】
【課題】漁獲された死後の魚介類や刺身などの魚介類の派生物の鮮度を簡単な手法で維持することができ、ひいては魚介類や魚介類の派生物の廃棄を防止することができる魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムおよび魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持方法を提供する。
【解決手段】魚介類または魚介類の派生物の鮮度維持システムは、少なくとも一つのコイル(30)と、コイルに100Hz~10kHzの周波数領域の少なくとも一部の周波数領域で連続的に周波数の増減を反復する交流電流を流すための交流電流供給装置(40)とを有し、コイルに交流電流を流しながらコイルと魚介類または魚介類の派生物とを互いに接近した状態に保持し、または互いに接近させることにより魚介類または魚介類の派生物の鮮度を維持する。
【選択図】図1A
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10