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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-18
(45)【発行日】2025-09-29
(54)【発明の名称】エーテル結合含有化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/03 20060101AFI20250919BHJP
   C07C 43/178 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
C07C41/03
C07C43/178 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019152116
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021031428
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三谷 由起
(72)【発明者】
【氏名】西井 聖悦
【合議体】
【審判長】冨永 保
【審判官】松元 麻紀子
【審判官】阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-31295(JP,A)
【文献】特開2011-195836号公報(JP,A)
【文献】特開2017-214324号公報(JP,A)
【文献】N2高純度窒素,大陽日酸HP[オンライン],2015年09月07日,<URL:http://www.tn-denzaigas.jp/jp/etc/09.html>,[検索日:2023/07/31]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(一般式(1)中、Rは、直接結合、メチレン基、エチレン基のいずれかを表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表されるエーテル結合含有化合物を製造する方法であって、
該製造方法は、下記一般式(2);
【化2】
(一般式(2)中、R、Rは、一般式(1)と同様である。)で表されるエポキシ基含有化合物と下記一般式(3);
X-OH (3)
(一般式(3)中、Xは、一般式(1)と同様である。)で表されるアルコールとを反応させる工程と、
該反応工程後の反応溶液に含まれる上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する第一の精製工程と、
不活性ガスを含む気体を導入しながら留去を行うことで該第一の精製工程後の反応溶液から上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する第二の精製工程とを含み、
該第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素の総量は、上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モルに対して、0.20モル以下であり、
該第二の精製工程で用いる不活性ガスを含む気体中の酸素濃度が0.0001体積%~1.35体積%であることを特徴とするエーテル結合含有化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第二の精製工程を行う時間は、60~540分であることを特徴とする請求項1に記載のエーテル結合含有化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第二の精製工程は、反応溶液の温度が40~200℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエーテル結合含有化合物の製造方法。
【請求項4】
前記第二の精製工程に導入される不活性ガスを含む気体の流量は、下記一般式(2);
【化3】
(一般式(2)中、Rは、直接結合、メチレン基、エチレン基のいずれかを表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モル%に対して、1.0~10.0モル%毎時であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のエーテル結合含有化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エーテル結合含有化合物の製造方法に関する。より詳しくは、水処理剤、分散剤、洗剤・洗浄剤に有用な重合体の原料等として好適に用いることができるエーテル結合含有化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造中にエーテル結合を有する化合物には様々な構造のものが知られており、種々の用途に用いられている。近年、エチレン性不飽和基とエーテル結合とを有する特定の構造の化合物を含む組成物を原料として得られる重合体が、水処理剤やスケール防止剤として有用であることが見出されている(特許文献1参照)。
また特許文献2には、所定の構造で表されるエーテル結合含有化合物を製造する方法であって、該製造方法は、所定の構造で表されるエポキシ基含有化合物と所定の構造で表されるアルコールとを反応させる工程と、該反応工程後の反応溶液に含まれる上記アルコールを除去する第一の精製工程と、不活性ガスを導入しながら留去を行うことで該第一の精製工程後の反応溶液から上記アルコールを除去する第二の精製工程とを含み、該第二の精製工程に導入される不活性ガスの流量は、上記エポキシ基含有化合物の反応工程の仕込みモル数に対して、2.0~4.5モル%毎時であることを特徴とするエーテル結合含有化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-62176号公報
【文献】特開2017-214324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び2では、上記特定の構造を有するエーテル結合含有化合物の製造方法として、アリルグリシジルエーテルとブタノールとを、ブタノールが過剰の条件で反応させた後、反応溶液からブタノールを除去する方法が用いられている。反応溶液からブタノールを除去する方法として減圧蒸留を行った後、更に窒素ガスを導入して蒸留が行われている。これは、ブタノールの除去が進むにつれてブタノールが沸騰しにくくなって除去が難しくなるため、窒素ガスを導入することでブタノールの分圧が低くても系内の圧力が上がるようにしてブタノールの除去を進めるためである。ブタノールを除去する工程に時間がかかると反応生成物に着色が生じるおそれがあるため、ブタノールの除去はなるべく短時間で行うことが好ましく、そのためには、窒素ガス等の不活性ガスを多量に導入することが好ましい。エーテル結合含有化合物は、水処理剤やスケール防止剤の他にも、洗剤・洗浄剤等の用途にも用いられる。特に、高性能の洗剤・洗浄剤等はエーテル結合含有化合物を多く含むことから、これらの用途に用いられる原料であるエーテル結合含有化合物としては、より高いレベルで色調に優れることが求められる。さらに、アルコールの除去が不十分であると臭気の原因となることがあることから、よりアルコールの残存量が少ないことも望まれるため、上記の従来の製造方法では充分ではなく、改善する余地があった。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、アルコールの残存量が充分に抑制され、かつ、従来の方法で製造した場合よりも色調に優れるエーテル結合含有化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来よりも色調に優れるエーテル結合含有化合物を製造する方法について種々検討したところ、所定の構造のエポキシ基含有化合物とアルコールとを反応させてエーテル結合含有化合物を生成させる反応工程を行った後、反応溶液中のアルコールを除去するための第一の精製工程を行った後に、不活性ガスを含む気体を導入しながらアルコールを留去により除去する第二の精製工程とを行う方法によりエーテル結合含有化合物を製造し、第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素の総量を反応工程におけるエポキシ基含有化合物の仕込みモル数100モルに対して、0.20モル以下とすると、アルコールの残存量が充分に抑制され、かつ、着色のないエーテル結合含有化合物を製造することができることを見いだした。一般的に有機化合物は酸化により着色等が生じると考えられるため、これを抑制するために不活性ガスを導入することは一般的である。しかし、本発明者は、上記反応工程で得られる特定の構造のエーテル結合含有化合物は、他の有機化合物に比べて酸素による着色への影響が大きく、第二の精製工程において単に不活性ガスを含む気体を導入するのみでは、反応系内に混入する酸素の影響により着色が生じることを見出した。具体的には、着色は反応溶液に導入する不活性ガスの中に含まれる酸素の濃度、例えば、産業用窒素ガス等は製造方法の違いにより酸素の濃度が0.1ppm~数%と異なっており、当該酸素濃度の差がエーテル結合含有化合物の着色の進行に大きく影響することを見出した。本発明者は、第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素の総量を上記範囲とすることにより、着色のないエーテル結合含有化合物を製造することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【0008】
【化1】
【0009】
(一般式(1)中、Rは、直接結合、メチレン基、エチレン基のいずれかを表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。Xは、炭素数1~6のアルキル基を表す。)で表されるエーテル結合含有化合物を製造する方法であって、
上記製造方法は、下記一般式(2);
【0010】
【化2】
【0011】
(一般式(2)中、R、Rは、一般式(1)と同様である。)で表されるエポキシ基含有化合物と下記一般式(3);
X-OH (3)
(一般式(3)中、Xは、一般式(1)と同様である。)で表されるアルコールとを反応させる工程と、上記反応工程後の反応溶液に含まれる上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する第一の精製工程と、不活性ガスを含む気体を導入しながら留去を行うことで該第一の精製工程後の反応溶液から上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する第二の精製工程とを含み、上記第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素の総量は、上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モルに対して、0.20モル以下であることを特徴とするエーテル結合含有化合物の製造方法である。
【0012】
上記第二の精製工程で用いる不活性ガス中の酸素濃度は、0.0001~3.0体積%であることが好ましい。
【0013】
上記第二の精製工程を行う時間は、60~540分であることが好ましい。
上記第二の精製工程は、反応溶液の温度が40~200℃であることが好ましい。
【0014】
上記第二の精製工程に導入される不活性ガスを含む気体の流量は、下記一般式(2);
【化3】
【0015】
(一般式(2)中、Rは、直接結合、メチレン基、エチレン基のいずれかを表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モル%に対して、1.0~10.0モル%毎時であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法は、上述の構成よりなり、アルコールの残存量が充分に抑制され、かつ、従来よりも色調に優れるエーテル結合含有化合物が得られるため、得られたエーテル結合含有化合物は水処理剤や洗剤、洗浄剤用途等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。
【0018】
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法は、一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物と一般式(3)で表されるアルコールとを反応させる工程と、反応工程後の反応溶液に含まれる一般式(3)で表されるアルコールを除去する第一の精製工程と、不活性ガスを含む気体を導入しながら留去を行うことで該第一の精製工程後の反応溶液から上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する第二の精製工程とを含む。また、本発明の作用効果を損なわない限り、通常の製法で行われるような他の工程を更に含むものであってもよい。このような方法でエーテル結合含有化合物を製造することにより、着色のないエーテル結合含有化合物を製造することができる。
なお、本発明において、エーテル結合含有化合物に着色がないとは、実施例で行っている、エーテル結合含有化合物をメタノールで20倍に希釈した試料を用いた分光色差計による評価において、ハーゼン色数(APHA)の値が200以下であることを意味する。
【0019】
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法は精製工程に特徴を有するため、以下においては、まず、精製工程について説明し、次に反応工程について説明する。
<第一の精製工程>
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法における第一の精製工程は、反応工程によって得られた反応溶液に含まれる一般式(3)で表されるアルコールが除去される限り、アルコールを除去する方法は特に制限されないが、反応溶液を沸騰させながら蒸留することにより行われることが好ましい。
また、第一の精製工程は、12.0kPa以下の減圧雰囲気下で行われることが好ましい。減圧雰囲気下で行われることで、アルコールの除去をより効率的に行うことができるため、第二の精製工程で除去するアルコールの量を減らすことができ、第二の精製工程をより短時間で終わらせることが可能となるため、エーテル結合含有化合物の着色抑制、及び、使用する不活性ガス量の低減の点で好ましい。
上記第一の精製工程を減圧雰囲気下で行う場合、圧力を10.0kPa以下にして行うことがより好ましい。更に好ましくは、7.0kPa以下である。また、実施のしやすさや装置への負担を考えると、圧力は2.0kPa以上とすることが好ましい。
本発明における第一の精製工程は、通常は反応工程が終了した後に開始されるが、反応工程の終了前に開始してもよい。
【0020】
上記第一の精製工程は、反応溶液の温度を30~200℃にして行うことが好ましい。このような温度で行うことで、反応溶液が沸騰し、アルコールの蒸留除去をより効率的に行うことができ、また、副反応も抑制することができる。反応溶液の温度はより好ましくは、30~150℃であり、更に好ましくは、30~110℃である。
【0021】
上記第一の精製工程を行う時間は特に制限されないが、第一の精製工程、第二の精製工程を含めた精製工程全体を短時間で行う点から、第一の精製工程途中の反応溶液に対して、一般式(3)で表されるアルコールの濃度が8.0質量%以下になった時点で第一の精製工程を終了することが好ましい。より好ましくは、反応工程に使用した一般式(3)で表されるアルコールが、6.0質量%以下になった時点で第一の精製工程を終了することであり、更に好ましくは、5.0質量%以下になった時点で終了することである。
また、反応溶液の温度が上記30~200℃になるように反応溶液を加熱しながら第一の精製工程を行う場合には、一般式(3)で表されるアルコールの除去が進むにつれて反応溶液の温度が上昇してゆくことになるため、反応溶液の温度で第一の精製工程の終了時点を判断することも可能である。
【0022】
<第二の精製工程>
第二の精製工程は、不活性ガスを含む気体を導入しながら留去を行うことで該第一の精製工程後の反応溶液から上記一般式(3)で表されるアルコールを除去する工程であり、反応溶液に導入される酸素の総量が、上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モルに対して、0.20モル以下である。これにより、反応工程で得られたエーテル結合含有化合物に対する酸素の影響を充分に抑制することができるため、着色を充分に抑制することができる。
反応溶液に導入される酸素の総量は、第二の精製工程において不活性ガスを含む気体の導入開始から終了までに反応溶液に供給された酸素の量であり、実施例に記載の方法により測定することができる。
好ましくは0.15モル以下であり、より好ましくは0.1モル以下であり、更に好ましくは0.01モル以下である。
上記反応溶液に導入される酸素の総量を上記範囲に調整する方法は特に制限されないが、例えば後述する第二の精製工程の時間、不活性ガスを含む気体の流量、不活性ガスを含む気体中の酸素濃度等を好適な範囲とすることにより、酸素量をより充分に低減させることができる。また、配管等のジョイント部分等からの空気の漏れを防ぐことでも反応溶液に導入される酸素の量をより充分に抑制することができる。
【0023】
上記第二の精製工程を行う時間は、20~540分であることが好ましい。これにより、上記一般式(3)で表されるアルコールを充分に除去し、かつ、エーテル化合物含有化合物の着色をより充分に抑制することができる。より好ましくは30~450分であり、更に好ましくは50~360分である。
また、上記第二の精製工程は、製造されるエーテル結合含有化合物の臭気低減のため、反応溶液中のアルコール濃度が反応溶液全体の1質量%以下となるまで行うことが好ましい。したがって、精製工程を行う時間は、第二の精製工程において導入する不活性ガスを含む気体の量に応じて適宜調整して行うことが好ましい。
【0024】
上記第二の精製工程は、反応溶液を沸騰させながら蒸留によりアルコールの除去を行っても良いが、沸騰させない温度で不活性ガスを導入しながらアルコールを留去する方法がより好ましく、反応溶液の温度は40~200℃であることが好ましい。これにより、上記一般式(3)で表されるアルコールをより効率的に除去し、かつ、エーテル化合物含有化合物の着色をより充分に抑制することができる。より好ましくは60~150℃であり、更に好ましくは80~120℃である。
【0025】
上記第二の精製工程に導入される不活性ガスを含む気体の流量は、下記一般式(2);
【化4】
【0026】
(一般式(2)中、Rは、直接結合、メチレン基、エチレン基のいずれかを表す。Rは、水素原子又はメチル基を表す。)で表されるエポキシ基含有化合物の反応工程の仕込み量100モル%に対して、1.0~15.0モル%毎時であることが好ましい。これにより、上記一般式(3)で表されるアルコールを充分に除去し、かつ、エーテル化合物含有化合物の着色をより充分に抑制することができる。また、後述するように、第二の精製工程は減圧留去とすることが好ましいが、不活性ガスを含む気体の流量が15.0モル%毎時以下であれば、高出力の減圧ポンプを使用しなくても減圧状態とすることができる点でも有利である。より好ましくは2.0~14.0モル%毎時であり、更に好ましくは3.0~13.0モル%毎時であり、一層好ましくは4.0~12.0モル%毎時であり、特に好ましくは4.6~11.0モル%毎時である。
【0027】
上記第二の精製工程は、不活性ガスを含む気体中の酸素濃度が0.0001~3.0体積%であることが好ましい。これにより、反応溶液に導入される酸素の総量をより充分に低減させることができる。より好ましくは0.0001~1.0体積%であり、更に好ましくは0.0001~0.5体積%であり、特に好ましくは0.0001~0.1%である。酸素濃度が1.0体積%以下であると着色をより充分に抑制しつつ、一般式(3)で表されるアルコールの除去をより充分に行うことができる。また、酸素濃度が0.0001体積%以上であれば、不活性ガスのコストを抑えることができ、エーテル化合物含有化合物の製造コスト削減に繋がる。
【0028】
上記第二の精製工程で使用する不活性ガスは特に制限されず、ヘリウム、窒素、アルゴン等の一般に不活性ガスとして知られるいずれのガスを用いてもよいが、安価なことから窒素が好適に用いられる。またこれらのガスの1種又は2種以上を用いることができる。
【0029】
第二の精製工程は、不活性ガスを導入しながら留去する方法により行われればよいが、一般式(3)で表されるアルコールを充分に除去する点から、減圧留去することが好ましい。
減圧留去する場合、系内の圧力(気圧)を2.0~10.0kPaに減圧して行うことが好ましい。より好ましくは、4.0~8.0kPaであり、更に好ましくは、5.0~7.0kPaである。
【0030】
<反応工程>
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法における反応工程は、下記一般式(2);
【0031】
【化5】
【0032】
(一般式(2)中、R、Rは、一般式(1)と同様である。)で表されるエポキシ基含有化合物と下記一般式(3);
X-OH (3)
(一般式(3)中、Xは、一般式(1)と同様である。)で表されるアルコールとを反応させる工程である。
【0033】
上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物としては、ビニルグリシジルエーテル、イソプロペニルグリシジルエーテル、(メタ)アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、3-メチル-3-ブテニルグリシジルエーテルがあり、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの中でも、上記一般式(2)におけるRがメチレン基であり、Rが水素原子である化合物、すなわち、アリルグリシジルエーテルが好ましい。
【0034】
上記一般式(3)で表されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、シクロブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、n-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチルシクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
上記一般式(3)において、Xは、炭素数1~6のアルキル基を表す。このような炭素数のアルコールを用いると、得られるエーテル結合含有化合物が良好な重合性を有するものとなり、重合体の原料として好適な化合物となる。一般式(3)におけるXは、炭素数2~5のアルキル基が好ましい。より好ましくは、炭素数3又は4のアルキル基である。
【0036】
上記反応工程に用いる一般式(3)で表されるアルコールは、反応容器に添加する時点において、水分含有量(アルコールと水分との合計質量に対する水分の質量)が0~12質量%であることが好ましい。このような水分含有量のアルコールを用いることで、一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物と水とが反応する副反応の進行を充分に抑制することができる。一般式(3)で表されるアルコールの水分含有量は、好ましくは、0~10質量%であり、更に好ましくは、0~5質量%である。
なお、一般式(3)で表されるアルコールに水分が含まれる場合、第一の精製工程及び第二の精製工程では一般式(3)で表されるアルFコールとともに水分も除去されることになる。
【0037】
上記反応工程においては、一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物1モルに対して、一般式(3)で表されるアルコールを5~20モル用いて反応を行うことが好ましい。このように一般式(3)で表されるアルコールが大過剰な条件で反応を行うことで、反応の生成物である一般式(1)で表されるエーテル結合含有化合物と一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物との副反応を抑制することができる。また、エポキシ基含有化合物に対して20倍程度までのアルコール量であれば、精製工程において時間をかけ過ぎずに除去することが可能であり、生成物の着色をより充分に抑制することが可能である。
反応工程における一般式(3)で表されるアルコールの使用量は、一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物1モルに対して7~15モルであることが好ましい。より好ましくは、8~12モルである。
【0038】
上記反応工程において、一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物と一般式(3)で表されるアルコールの反応容器への添加方法は特に制限されず、一括添加であってもよく、いずれか一方又は両方を逐次添加してもよい。好ましくは、一般式(3)で表されるアルコールを反応容器に仕込み、そこに一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物を逐次添加しながら反応を行うことである。このようにすることで、反応生成物である一般式(1)で表されるエーテル結合含有化合物と一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物との副反応の進行を充分に抑制することができる。
一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物を逐次添加する場合、逐次添加にかける時間は、原料の量等によって適宜調整すればよいが、60~240分かけて行うことが好ましい。より好ましくは、90~210分かけて行うことである。
【0039】
上記反応工程における反応温度は、反応が進行する限り特に制限されないが、30~100℃であることが好ましい。より好ましくは、35~90℃であり、更に好ましくは、40~80℃である。
また、上記反応工程は、常圧、減圧、加圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0040】
上記反応工程は、触媒を用いて行ってもよい。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、アルカリ性イオン交換樹脂等のアルカリ化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
触媒を使用する場合の使用量は、反応に用いる一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物と触媒とのモル比(エポキシ基含有化合物/触媒)が15/1~1/15となる量であることが好ましい。より好ましくは、10/1~1/10となる量であり、更に好ましくは5/1~1/5となる量である。
【0041】
<その他の工程>
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法は、上記一般式(2)で表されるエポキシ基含有化合物と一般式(3)で表されるアルコールとを反応させる工程、第一の精製工程、及び、第二の精製工程を含む限り、その他の工程を含んでいてもよい。
その他の工程としては、反応工程の前に、一般式(3)で表されるアルコール中の水分含有量が上述した好ましい範囲となるように、一般式(3)で表されるアルコールから水分を除去する工程や、第一の精製工程、及び、第二の精製工程で除去したアルコールを回収し、水分を除去する工程等が挙げられる。これらの工程でアルコールから水分を除去する方法としては、蒸留や膜分離等を用いることができる。
【0042】
本発明のエーテル結合含有化合物の製造方法では、第一の精製工程、及び、第二の精製工程で除去したアルコールを回収し、水分を除去した後、当該アルコールを再度反応工程に用いてもよく、そのようにすることがアルコールの有効利用の点から好ましい。より好ましくは、反応工程で使用される一般式(3)で表されるアルコール100質量%に対して、再利用されるアルコールの割合が50質量%以上、90質量%以下であることであり、更に好ましくは、その割合が75質量%以上、90質量%以下であることであり、特に好ましくは、その割合が80質量%以上、90質量%以下であることである。
【実施例
【0043】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0044】
<第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素量の測定>
本発明において、第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素量の測定は、以下の装置を用いて行った。
装置名称:東レ株式会社 OXYGEN ANALYZER LC-850
【0045】
本発明において、エーテル結合含有化合物の着色具合の評価は、以下の方法により行った。
装置名称:日本電色工業株式会社 TZ6000
サンプル調製方法:メタノールで20倍に希釈
【0046】
<実施例1>
温度計、還流冷却管を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、工業用ブタノール(以下、「BuOH」と称する)684.2g、および48%水酸化ナトリウム水溶液15.6gを仕込み、マグネティックスターラーで撹拌しながら60℃まで昇温した。次に、撹拌下、60℃に保持された反応系中に、アリルグリシジルエーテル(以下、「AGE」と称する)100.0gを120分かけて等速で滴下した後、更に180分間、60℃に維持(熟成)して反応を終了した。
当該反応液を30℃まで冷却した後、上記フラスコから還流冷却管を取り外し、リービッヒ冷却管、1Lの受器、及び窒素投入管を取り付けた。上記反応系を4.0kPaまで減圧後、反応液を加熱し、液の温度が100℃になるまで未反応のBuOH及び水を留去した。第一の精製工程後の反応液中のBuOH濃度は4.5%であった。次に、反応液を100℃に維持しながら酸素濃度0.1体積%の窒素ガスを、反応に使用したAGEに対し5.2モル%毎時でフラスコ内の液相部に投入し未反応のBuOH及び水を留去する第二の精製工程を行った。第二の精製工程は150分間で終了した。第二の精製工程において、反応溶液の発泡、反応装置の振動や汚れはいずれも確認されなかった。
反応溶液に導入された酸素の総量は表1に示す通りであった、尚、酸素の総量はAGEの反応工程における仕込みの量100モルに対するモル数で表した。
このようにして、1-アリルオキシ-3-ブトキシプロパン-2-オール(以下、「A1B」と称する)を81.0%、BuOHを0.92%含む組成物を得た。第二の精製工程開始時点から30分毎に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表1に示す結果となった。
【0047】
【表1】
【0048】
<実施例2>
第二の精製工程にて投入する窒素ガスを、酸素濃度1.0体積%の窒素ガスに変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.2%、BuOHを0.95%含む組成物が得られ、実施例1の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から30分毎に組成物を採取して着色具合の測定の上記の方法により行ったところ、表2に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表2に示した。第二の精製工程の150分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0049】
【表2】
【0050】
<実施例3>
第二の精製工程にて投入する窒素ガス量を、反応に使用したAGEに対し10.0モル%毎時に変更し、さらに窒素ガス中の酸素濃度を1.35体積%に変更したこと、及び、第二の精製工程を75分間行ったこと以外は、実施例2と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.3%、BuOHを0.86%含む組成物が得られ、実施例2の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から15分毎に組成物を採取して着色具合の測定の上記の方法により行ったところ、表3に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表3に示した。
第二の精製工程の75分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0051】
【表3】
【0052】
<比較例1>
第二の精製工程にて投入する窒素ガス量を、反応に使用したAGEに対し5.2モル%毎時に変更し、窒素ガス中の酸素濃度を5体積%に変更したこと、及び、第二の精製工程を150分間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.3%、BuOHを0.96%含む組成物が得られた。
第二の精製工程開始時点から30分毎に組成物を採取して着色具合の測定の上記の方法により行ったところ、表4に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表4に示した。
第二の精製工程の60分後に得られた組成物のAPHAは既に200を超えており、ブタノール濃度も1質量%以上であった。第二の精製工程の150分後に得られた組成物中のブタノールの除去は充分であったが、実施例1で得られたものに比べて着色が非常に強いものとなった。
【0053】
【表4】
【0054】
<実施例4>
第二の精製工程にて投入する窒素ガス量を、反応に使用したAGEに対し3.0モル%毎時に変更し、窒素ガス中の酸素濃度を0.0001体積%に変更したこと、及び、第二の精製工程を240分間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.8%、BuOHを0.98%含む組成物が得られた。
第二の精製工程開始時点から60分毎に組成物を採取して着色具合の測定の上記の方法により行ったところ、表5に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表5に示した。
第二の精製工程の240分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0055】
【表5】
【0056】
<比較例2>
第二の精製工程にて投入する窒素ガス量を、反応に使用したAGEに対し10.0モル%毎時に変更し、窒素ガス中の酸素濃度を5体積%に変更したこと、及び、第二の精製工程を75分間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.5%、BuOHを0.92%含む組成物が得られた。
第二の精製工程開始時点から15分毎に組成物を採取して着色具合の測定の上記の方法により行ったところ、表6に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表6に示した。
第二の精製工程の60分後に得られた組成物のAPHAは既に200を超えており、第二の精製工程の75分後に得られた組成物中のブタノールの除去は充分であったが、実施例1で得られたものに比べて着色が非常に強いものとなった。
【0057】
【表6】
【0058】
<実施例5>
第二の精製工程にて投入する窒素ガスを、酸素濃度0.0001体積%の窒素ガスに変更したこと以外は、実施例3と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.5%、BuOHを0.88%含む組成物が得られ、実施例3の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から15分毎に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表7に示す結果となった。第二の精製工程開始からの反応溶液に導入された仕込みAGE100モルに対する酸素の総量も表7に示した。
第二の精製工程の75分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0059】
【表7】
【0060】
<実施例6>
第一の精製工程にて、BuOH及び水を留去するために反応液の温度を110℃までにしたこと、第二の精製工程にて反応液を110℃に維持したこと、第二の精製工程にて投入する窒素ガスを、酸素濃度0.1体積%の窒素ガスに変更したこと、及び、第二の精製工程を60分間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを80.9%、BuOHを0.88%含む組成物が得られ、実施例1の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から30分毎に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表8に示す結果となった。
第二の精製工程の60分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0061】
【表8】
【0062】
<実施例7>
第一の精製工程にて、BuOH及び水を留去するために反応液の温度を120℃までにしたこと、第二の精製工程にて反応液を120℃に維持したこと、第二の精製工程にて投入する窒素ガスを、酸素濃度0.5体積%の窒素ガスに変更したこと、及び、第二の精製工程を30分間行ったこと以外は、実施例6と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.2%、BuOHを0.75%含む組成物が得られ、実施例6の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から15分毎に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表9に示す結果となった。
第二の精製工程の30分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0063】
【表9】
【0064】
<実施例8>
第二の精製工程にて反応液の温度を80℃に維持したこと、投入する窒素ガス量を、反応に使用したAGEに対し10.0%毎時に変更したこと、及び、第二の精製工程を270分間行ったこと以外は、実施例1と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.7%、BuOHを0.87%含む組成物が得られ、実施例2の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から240分と270分後に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表10に示す結果となった。
第二の精製工程の270分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0065】
【表10】
【0066】
<実施例9>
第二の精製工程にて反応液の温度を75℃に維持したこと、投入する窒素ガスを、酸素濃度0.01体積%の窒素ガスに変更したこと、及び、第二の精製工程を300分間行ったこと以外は、実施例8と同様の方法により行った。その結果、A1Bを81.7%、BuOHを0.93%含む組成物が得られ、実施例8の組成物と同等のものであった。
第二の精製工程開始時点から240分と300分後に組成物を採取して着色具合の測定を上記の方法により行ったところ、表11に示す結果となった。
第二の精製工程の300分後に得られた組成物のAPHAも200以下であった。
【0067】
【表11】
【0068】
以上の実施例及び比較例の結果より、第二の精製工程において反応溶液に導入される酸素の総量が、AGEすなわちエポキシ基含有化合物の仕込みモル数100モルに対して0.20モル以下の範囲になるように第二の精製工程を施すことによりAPHAが200以下のエーテル結合含有化合物を製造できることが判明した。また、窒素ガス中に含まれる酸素の濃度は3.0体積%以下のものを用いるのが好ましいことが分かる。