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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-18
(45)【発行日】2025-09-29
(54)【発明の名称】接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 125/08 20060101AFI20250919BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20250919BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20250919BHJP
   C09J 7/35 20180101ALI20250919BHJP
   C09J 153/00 20060101ALI20250919BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250919BHJP
【FI】
C09J125/08
C09J163/00
C09J11/06
C09J7/35
C09J153/00
H05K1/03 650
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021565340
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039263
(87)【国際公開番号】W WO2021124668
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019230539
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 航
(72)【発明者】
【氏名】門間 栞
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/029917(WO,A1)
【文献】特開2010-001479(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017473(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
27/38
15/08
C09J 7/35
11/06
109/06
125/08
153/00
163/00
163/04
H05K 1/02
1/03
3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとカルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂とを含有する接着剤組成物において、
前記カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの含有量が、前記接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部未満であり、
前記カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーの含有量が、前記接着剤組成物の固形分100質量部に対して30質量部~70質量部であり、
前記エポキシ樹脂の含有量が、前記接着剤組成物の固形分100質量部に対して1~20質量部である、接着剤組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂の軟化点又は融点が90℃以下である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
有機過酸化物をさらに含有する、請求項1~2のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層であって、前記接着剤層の硬化前の120℃における貯蔵弾性率が、5×10Pa以下である、接着剤層。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層であって、前記接着剤層を150℃で60分間加熱硬化処理してなる硬化後接着剤フィルムより測定された前記接着剤層の硬化後の25℃における貯蔵弾性率が、8×10Pa以上である、接着剤層。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層であって、前記接着剤層を150℃で60分間加熱硬化処理してなる硬化後接着剤フィルムより測定された前記接着剤層の周波数28GHzにおける比誘電率が3.5以下であり、かつ誘電正接が0.01以下である、接着剤層。
【請求項7】
基材フィルムと、
請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物からなる接着剤層、又は請求項4~6のいずれか一項に記載の接着剤層と、を有する積層体。
【請求項8】
前記基材フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を含有する、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の積層体を含む接着剤層付きカバーレイフィルム。
【請求項10】
請求項7又は8に記載の積層体を含む銅張積層板。
【請求項11】
請求項7又は8に記載の積層体を含むプリント配線板。
【請求項12】
請求項7又は8に記載の積層体を含むシールドフィルム。
【請求項13】
請求項7又は8に記載の積層体を含むシールドフィルム付きプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関する。詳しくは、電子部品等の接着用途に使用することができる接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化等に伴い、電子部品等の接着用途は多様化し、接着剤層付き積層体の需要は増大している。
また、電子部品の1つであるフレキシブルプリント配線板(以下、FPCともいう)では、大量のデータを高速で処理する必要があり、高周波数への対応が進んでいる。FPCの高周波数化には構成要素の低誘電化が必要であり、低誘電の基材フィルムや低誘電の接着剤の開発が行われている。
【0003】
しかし、低誘電の接着剤は、分子の極性が低いため基材フィルムや金属層、電子部品関連の他の構成要素との密着性(接着性)が発現しづらく、また低誘電の基材フィルムも同様に接着剤との密着性(接着性)が悪いことがある。
そこで、良好な電気特性(低比誘電率、及び低誘電正接)を有しつつ、高い接着性に応えるため、カルボキシ基含有スチレン系エラストマー(A)と、エポキシ樹脂(B)とを含有する接着剤組成物を用い、該接着剤組成物からなる接着剤層と基材フィルムとからなる積層体についての提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/017473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の接着剤組成物は、加熱硬化後に高い密着性(接着性)を発現するものの、例えば、積層体の製造工程において、加熱時間の短いラミネート工程に供する場合などには、基材フィルムや電子部品関連の他の構成要素に対して十分に粘着しない場合があることがわかった。
ラミネート工程において、接着剤組成物が、基材フィルムや電子部品関連の他の構成要素に対し十分に粘着していないと、積層体の製造において、熱圧着にて積層する際の仮固定や、ロールtoロールでの作業中に、層の剥離や浮きが生じる。それにより、積層不良が発生したり、層間に生じた微細の凹凸により隙間があることで、以降の加熱工程において、層の膨れが発生したりと、積層体における各種不具合が発生する。
【0006】
そこで、本発明は、優れた電気特性を有し、かつ加熱硬化後における密着性(接着性)に優れた接着剤層を形成できる接着剤組成物であって、さらにラミネート工程における密着性(接着性)を改善でき、仮固定や、ロールtoロールでの作業中における層の剥離や浮きを防止することができる、接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとカルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂との少なくとも3成分を含有する接着剤組成物が、加熱硬化後に基材フィルムに対して高い密着性(接着性)を示すだけでなく、ラミネート工程において、基材フィルムに対して十分な密着性(接着性)を示すことができ、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとカルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂とを含有する接着剤組成物。
[2]前記エポキシ樹脂の含有量が、前記接着剤組成物100質量部に対して1~20質量部である、[1]に記載の接着剤組成物。
[3]前記カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの含有量が、前記接着剤組成物100質量部に対して50質量部未満である、[1]又は[2]に記載の接着剤組成物。
[4]前記エポキシ樹脂の軟化点又は融点が90℃以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[5]有機過酸化物をさらに含有する、[1]~[4]のいずれかに記載の接着剤組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層であって、前記接着剤層の硬化前の120℃における貯蔵弾性率が、5×10Pa以下である、接着剤層。
[7][1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層であって、前記接着剤層の硬化後の25℃における貯蔵弾性率が、8×10Pa以上である、接着剤層。
[8][1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物を硬化させてなる接着剤層に対し、周波数28GHzで測定した前記接着剤層の比誘電率が3.5以下であり、かつ誘電正接が0.01以下である、接着剤層。
[9]基材フィルムと、
[1]~[5]のいずれかに記載の接着剤組成物からなる接着剤層、又は[6]~[8]のいずれかに記載の接着剤層と、を有する積層体。
[10]前記基材フィルムが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂を含有する、[9]に記載の積層体。
[11][9]又は[10]に記載の積層体を含む接着剤層付きカバーレイフィルム。
[12][9]又は[10]に記載の積層体を含む銅張積層板。
[13][9]又は[10]に記載の積層体を含むプリント配線板。
[14][9]又は[10]に記載の積層体を含むシールドフィルム。
[15][9]又は[10]に記載の積層体を含むシールドフィルム付きプリント配線板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた電気特性を有し、かつ加熱硬化後における密着性(接着性)に優れた接着剤層を形成できる接着剤組成物であって、さらにラミネート工程における密着性(接着性)を改善でき、仮固定や、ロールtoロールでの作業中における層の剥離や浮きを防止することができる、接着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の接着剤組成物、該接着剤組成物からなる接着剤層を含む積層体、及び該積層体を含む電子部品関連の構成部材について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0011】
(接着剤組成物)
本発明の接着剤組成物は、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーと、カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーと、エポキシ樹脂とを含有する。本発明の接着剤組成物は、必要に応じて、その他の成分を含有してもよい。
【0012】
<カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー>
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーは、接着性や硬化物の柔軟性に加えて、電気特性を与える成分として有効である。
接着剤組成物中にカルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーが含有されていることで、電気特性が良く極性が低い基材フィルムであっても、基材フィルムの表面に柔軟な接着剤組成物が十分に追従できることで、極性の低い骨格が密着性を発現でき、金属層であっても、極性の高いカルボキシ基が密着性を発現できるため、接着剤層の密着性が向上する。また、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーは反応性があるため、エポキシ硬化により接着剤層の耐熱性や耐薬品性も向上する。
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック及びランダム構造を主体とする共重合体、並びにその水素添加物を、不飽和カルボン酸で変性したものである。
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等を挙げることができる。
【0013】
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの変性は、例えば、スチレン系エラストマーの重合時に、不飽和カルボン酸を共重合させることにより行うことができる。また、スチレン系エラストマーと不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うこともできる。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等を挙げることができる。
不飽和カルボン酸による変性量は、0.1~10質量%であることが好ましい。
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの酸価は、0.1~30mgKOH/gであることが好ましく、0.5~25mgKOH/gであることがより好ましい。この酸価が0.1mgKOH/g以上であると、接着剤組成物の硬化が十分であり、良好な接着性、及び耐熱性が得られる。一方、前記酸価が25mgKOH/g以下であると、接着剤組成物の凝集力が抑えられるため粘着性に優れ、電気特性にも優れる。
【0014】
また、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの重量平均分子量は、1~50万であることが好ましく、3~30万であることがより好ましく、5~20万であることが更に好ましい。重量平均分子量が上記下限以上であれば、優れた接着性を発現することができ、溶媒に溶解させて塗工する際の塗工性もよくなる。重量平均分子量が上記上限以下であれば、エポキシ樹脂との相溶性がよくなる。
重量平均分子量は、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」ともいう)により測定した分子量をポリスチレン換算した値である。
【0015】
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体等を、不飽和カルボン酸で変性したものが挙げられる。
これらのカルボキシ基含有スチレン系エラストマーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記共重合体の中でも、接着性及び電気特性の観点から、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体及びスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体が好ましい。また、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体におけるスチレン/エチレンブチレンの質量比、及びスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体におけるスチレン/エチレンプロピレンの質量比は、10/90~50/50であることが好ましく、20/80~40/60であることがより好ましい。当該質量比がこの範囲内であれば、優れた接着特性を有する接着剤組成物とすることができる。
【0016】
カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して50質量部未満であることが好ましい。カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーの含有量が多いと、ラミネート工程における密着性(粘着性)の改善を図ることができない。
【0017】
<カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマー>
カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーは、上記カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーに比べて、カルボキシ基の相互作用がない分、凝集力が小さく、ガラス転移点より高温領域での弾性率が低い。そのため、接着剤組成物中にカルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーが含有されていることで、接着剤層の密着性が向上し、特にラミネート工程における密着性(粘着性)の改善を図ることができる。
カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーとは、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのブロック及びランダム構造を主体とする共重合体、並びにその水素添加物である。係るエラストマーは、不飽和カルボン酸で変性されていない。
スチレン系エラストマーを構成する芳香族ビニル化合物や共役ジエン化合物の種類、又はスチレン系エラストマーの具体例としては、上記<カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー>の欄で述べたとおりである。
【0018】
カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーの含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して30質量部~70質量部であることが好ましい。カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーの含有量が上記下限値以上であれば、ラミネートにおける密着性(粘着性)が改善する。一方、上記上限値以下であれば、硬化する成分を十分に配合することができ、耐熱性を確保できる。
【0019】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂は、上記カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー中のカルボキシ基と反応し、被着体に対する高い接着性や、接着剤硬化物の耐熱性を発現させる成分である。
【0020】
エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、又はそれらに水素添加したもの;フタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、p-ヒドロキシ安息香酸グリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、コハク酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、トリメリット酸トリグリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、テトラフェニルグリシジルエーテルエタン、トリフェニルグリシジルエーテルエタン、ソルビトールのポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールのポリグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらに限定するものではない。また、キシレン構造含有ノボラックエポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、o-クレゾールノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂も用いることができる。
【0021】
更に、エポキシ樹脂の例として臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、リン含有エポキシ樹脂、フッ素含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、ターシャリーブチルカテコール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらのエポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記エポキシ樹脂の中でも、電気特性に優れた接着剤組成物が得られ、スチレン系エラストマーとの相溶性が良好なことから、水酸基を有しないエポキシ樹脂が好ましい。特に、ノボラックエポキシ樹脂や下記構造のようなエポキシ樹脂は、適度に柔軟骨格を有するエポキシ樹脂のため、硬化物が脆性破壊を起こしづらくなり、接着剤組成物の硬化物の長期使用に対する性能の安定性が向上し、官能基数も高いため、耐熱性も向上するため、より好ましい。
【0022】
【化1】

(Rはメチレン-アリール-メチレンを含む構造、あるいは炭素数が6以上の脂肪族炭化水素構造を含む構造であり、アリールとしてはベンゼン、キシレン、ナフタレン、ビフェニル等が挙げられ、脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。)
ノボラック型のエポキシ樹脂の具体例としては、例えば、三菱ケミカル株式会社製の「YX7700」(キシレン構造含有ノボラック型エポキシ樹脂)、日本化薬株式会社製の「NC7000L」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社社製の「ESN485」(ナフトールノボラック型エポキシ樹脂)、DIC株式会社製の「N-690」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)、DIC株式会社製の「N-695」(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0023】
また、アミノ基を有するエポキシ樹脂は、アミノ基の触媒作用により硬化時間を短くしたり、硬化温度を下げることができるため、作業性を向上できる。また、アミン基を含むため金属層との密着性が向上する。
特にエポキシ樹脂がグリシジルアミン型エポキシ樹脂であるとより好ましい。グリシジルアミン型エポキシ樹脂は、多官能であるため、少量で硬化が可能であり、分子骨格にアミンを含むため、アミノ基含有スチレン系エラストマーとの相溶性が良く、また反応促進効果もある。また、アミン基を含むため金属層との密着性を向上できる。
グリシジルアミン型のエポキシ樹脂の具体例としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンとして、三菱ケミカル株式会社製の「jER604」、住友化学株式会社製の「スミエポキシELM434」、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ株式会社製の「アラルダイトMY720」、「アラルダイトMY721」、「アラルダイトMY9512」、「アラルダイトMY9612」、「アラルダイトMY9634」、「アラルダイトMY9663」、三菱ガス化学株式会社製「TETRAD-X」、「TETRAD-C」等が挙げられる。
【0024】
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。カルボキシ基含有スチレン系エラストマーとの反応で架橋構造を形成し、高い耐熱性を発現させることができるからである。また、エポキシ基が2個以上のエポキシ樹脂を用いた場合、カルボキシ基含有スチレン系エラストマーとの架橋度が十分であり、十分な耐熱性が得られる。
【0025】
上記エポキシ樹脂の含有量は、接着剤組成物の固形分100質量部に対して1~20質量部であることが好ましい。上記エポキシ樹脂の含有量が上記下限値以上であれば、接着剤組成物は十分硬化し、良好な耐熱性や耐薬品性を担保することができる。一方、エポキシ樹脂の含有量が多いと密着性が低下するため、上記上限値以下であれば、良好な密着性を担保できる。エポキシ樹脂の含有量が多いと、ラミネート工程における密着性(粘着性)の改善を図ることができない。
【0026】
上記エポキシ樹脂の軟化点又は融点は、90℃以下であることが好ましい。エポキシ樹脂の軟化点又は融点が90℃以下であると、硬化前の接着剤組成物の高温域での弾性率を下げ、硬化後の接着剤組成物の常温域(室温)での弾性率を上げることができる。
【0027】
<その他の成分>
接着剤組成物には、上述したカルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー、カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマー、及びエポキシ樹脂に加えて、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー及びカルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマー以外の他の熱可塑性樹脂、粘着付与剤、難燃剤、硬化剤、硬化促進剤、カップリング剤、熱老化防止剤、レベリング剤、消泡剤、無機充填剤、顔料、及び溶媒等を、接着剤組成物の機能に影響を与えない程度に含有することができる。
【0028】
その他の成分を含有する接着剤組成物のより好ましい実施態様として、例えば、有機過酸化物を含有する接着剤組成物が挙げられる。これにより、カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマーも架橋が可能であり、より接着剤層の耐熱性や耐薬品性を向上させることができる。
有機過酸化物としては、ラジカル重合開始剤として一般的に知られるものが使用でき、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルパーオキシエチルヘキサノエイト、1,1’-ビス-(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が挙げられる。
【0029】
上記その他の成分のうち、上記他の熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂及びポリビニル系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記粘着付与剤としては、例えば、クマロン-インデン樹脂、テルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、p-t-ブチルフェノール-アセチレン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド樹脂、石油系炭化水素樹脂、水素添加炭化水素樹脂、テレピン系樹脂等を挙げることができる。これらの粘着付与剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記難燃剤は、有機系難燃剤及び無機系難燃剤のいずれでもよい。有機系難燃剤としては、例えば、リン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸グアニジン、ポリリン酸グアニジン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸アミドアンモニウム、ポリリン酸アミドアンモニウム、リン酸カルバメート、ポリリン酸カルバメート、トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスメチルエチルホスフィン酸アルミニウム、トリスジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ビスジエチルホスフィン酸亜鉛、ビスメチルエチルホスフィン酸亜鉛、ビスジフェニルホスフィン酸亜鉛、ビスジエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスジエチルホスフィン酸チタン、ビスメチルエチルホスフィン酸チタニル、テトラキスメチルエチルホスフィン酸チタン、ビスジフェニルホスフィン酸チタニル、テトラキスジフェニルホスフィン酸チタン等のリン系難燃剤; メラミン、メラム、メラミンシアヌレート等のトリアジン系化合物や、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール化合物、ジアゾ化合物、尿素等の窒素系難燃剤;シリコーン化合物、シラン化合物等のケイ素系難燃剤等が挙げられる。また、無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ニッケル等の金属酸化物;炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、ホウ酸亜鉛、水和ガラス等が挙げられる。これらの難燃剤は、2種以上を併用することができる。
【0032】
上記硬化剤としては、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。アミン系硬化剤としては、例えば、メチル化メラミン樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等のメラミン樹脂、ジシアンジアミド、4,4’-ジフェニルジアミノスルホン等が挙げられる。また、酸無水物としては、芳香族系酸無水物、及び脂肪族系酸無水物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
硬化剤の含有量は、接着剤組成物100質量部に対して、0.5~100質量部であることが好ましく、5~70質量部であることがより好ましい。
【0033】
上記硬化促進剤は、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂との反応を促進させる目的で使用するものであり、第三級アミン系硬化促進剤、第三級アミン塩系硬化促進剤及びイミダゾール系硬化促進剤等を使用することができる。
【0034】
第三級アミン系硬化促進剤としては、ベンジルジメチルアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、テトラメチルグアニジン、トリエタノールアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等が挙げられる。
【0035】
第三級アミン塩系硬化促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩又はフェノールノボラック樹脂塩や、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノネンの、ギ酸塩、オクチル酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、o-フタル酸塩、フェノール塩又はフェノールノボラック樹脂塩等が挙げられる。
【0036】
イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]エチル-s-トリアジンイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
接着剤組成物が硬化促進剤を含有する場合、硬化促進剤の含有量は、接着剤組成物100質量部に対して、0.05~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましい。硬化促進剤の含有量が上記範囲内であれば、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマーとエポキシ樹脂との反応や、エポキシ樹脂同士の反応を容易に進行でき、接着性及び耐熱性を確保しやすい。
【0038】
また、上記カップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトシキシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネ-トプロピルトリエトキシシラン、イミダゾールシラン等のシラン系カップリング剤;チタネ-ト系カップリング剤;アルミネ-ト系カップリング剤;ジルコニウム系カップリング剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上記熱老化防止剤としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノ-ル、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネ-ト〕メタン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノ-ル系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネ-ト、ジミリスチル-3,3’-ジチオプロピオネ-ト等のイオウ系酸化防止剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記無機充填剤としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、カ-ボンブラック、シリカ、タルク、銅、及び銀等からなる粉体が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
(接着剤層)
本発明の接着剤層は、上記本発明の接着剤組成物からなる。
接着剤層を形成する接着剤組成物は、硬化させることができる。
硬化方法としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱硬化等が挙げられる。
接着剤層の厚みは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、3~100μmであることが好ましく、5~70μmであることがより好ましく、10~50μmであることが更に好ましい。
【0042】
<接着剤層の製造方法>
上記接着剤組成物を成膜することで接着剤層を製造することができる。
上記接着剤組成物は、カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー、カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマー、エポキシ樹脂及びその他成分を混合することにより製造することができる。混合方法は特に限定されず、接着剤組成物が均一になればよい。接着剤組成物は、溶液又は分散液の状態で好ましく用いられることから、通常は、溶媒も使用される。
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、イソブチルアルコール、n-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジアセトンアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテ-ト、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
接着剤組成物が溶媒を含む溶液又は分散液(樹脂ワニス)であると、基材フィルムへの塗工及び接着剤層の形成を円滑に行うことができ、所望の厚さの接着剤層を容易に得ることができる。
接着剤組成物が溶媒を含む場合、接着剤層の形成を含む作業性等の観点から、固形分濃度は、好ましくは3~80質量%、より好ましくは10~50質量%の範囲である。固形分濃度が80質量%以下であると、溶液の粘度が適度であり、均一に塗工し易い。
接着剤層の製造方法のより具体的な実施態様としては、上記接着剤組成物及び溶媒を含有する樹脂ワニスを、基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成した後、該樹脂ワニス層から溶媒を除去することにより、Bステージ状の接着剤層を形成することができる。ここで、接着剤層がBステージ状であるとは、接着剤組成物が未硬化状態あるいは一部が硬化し始めた半硬化状態をいい、加熱等により、接着剤組成物の硬化が更に進行する状態をいう。
ここで、基材フィルム上に樹脂ワニスを塗布する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップ法、ロールコート法、ブレードコート法、ドクターロール法、ドクターブレード法、カーテンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、ディスペンス法等が挙げられる。
上記Bステージ状の接着剤層は、さらに加熱等を施し、硬化した接着剤層を形成することができる。
【0043】
<接着剤層の特性>
本発明の接着剤層は、硬化前の120℃における貯蔵弾性率が、1×10Pa以上5×10Pa以下であることが好ましい。
貯蔵弾性率が5×10Pa以下であると、ラミネート工程時の温度において、貯蔵弾性率が低いため、接着剤層は、基材フィルムや電子部品関連の他の構成要素と粘着しやすくなる。
【0044】
[貯蔵弾性率(Pa)]
接着剤層の貯蔵弾性率は、例えば、接着剤層からなる試料について、厚さ100μmの接着剤フィルムを作製し、粘弾性測定装置(TA Instruments社製RSA-G2を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/minの条件下でJIS K7244に従い、測定することにより求める。
【0045】
本発明の接着剤層は、硬化後の25℃における貯蔵弾性率が、8×10Pa以上5×10Pa以下であることが好ましい。
貯蔵弾性率が8×10Pa以上であると、室温での貯蔵弾性率が高いため、接着剤層は、基材フィルムや電子部品関連の他の構成要素との密着力を保持できる。
【0046】
接着剤組成物を硬化させてなる本発明の接着剤層は、周波数28GHzで測定した接着剤層の比誘電率(εr)が3.5以下であり、かつ誘電正接(tanδ)が0.01以下であることが好ましい。
比誘電率が3.5以下であり、かつ、誘電正接が0.01以下であれば、電気特性の要求が厳しいFPC関連製品にも好適に用いることができる。
【0047】
[比誘電率及び誘電正接]
接着剤層の比誘電率及び誘電正接は、ネットワークアナライザーMS46122B(Anritsu社製)と開放型共振器ファブリペローDPS-03(KEYCOM社製)とを使用し、開放型共振器法で、温度23℃、周波数28GHzの条件で測定することができる。
【0048】
(積層体)
本発明の積層体は、基材フィルムと、該基材フィルムの少なくとも一方の表面に上記接着剤層とを備える。
【0049】
<基材フィルム>
本発明に用いる基材フィルムは、積層体の用途により選択することができる。例えば、積層体をカバーレイフィルムや銅張積層板(CCL)として用いる場合は、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、アラミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、及び液晶ポリマーフィルム等が挙げられる。これらの中でも、接着性及び電気特性の観点から、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、及び液晶ポリマーフィルムが好ましい。
【0050】
また、本発明の積層体をボンディングシートとして用いる場合には、基材フィルムは離型性フィルムである必要があり、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シリコーン離型処理紙、ポリオレフィン樹脂コート紙、TPX(ポリメチルペンテン)フィルム、及びフッ素系樹脂フィルム等が挙げられる。
【0051】
本発明の積層体をシールドフィルムとして用いる場合には、基材フィルムは電磁波遮蔽能を有するフィルムである必要があり、例えば、保護絶縁層と金属箔の積層体等が挙げられる。
【0052】
(カバーレイフィルム)
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、カバーレイフィルムが挙げられる。
FPCを製造する場合、配線部分を保護するために、通常、「カバーレイフィルム」と呼ばれる接着剤層を有する積層体が用いられる。このカバーレイフィルムは、絶縁樹脂層と、その表面に形成された接着剤層とを備えている。
例えば、カバーレイフィルムは、上記基材フィルムの少なくとも一方の表面に上記接着剤層が形成されており、基材フィルムと接着剤層の剥離が一般に困難な積層体である。
カバーレイフィルムに含まれる基材フィルムの厚さは、5~100μmであることが好ましく、5~50μmであることがより好ましく、5~30μmであることが更に好ましい。基材フィルムの厚さが上記上限以下であれば、カバーレイフィルムを薄膜化することができる。基材フィルムの厚さが上記下限以上であれば、プリント配線板の設計が容易にでき、ハンドリングもよい。
カバーレイフィルムを製造する方法としては、例えば、上記接着剤組成物及び溶媒を含有する樹脂ワニスを、上記基材フィルムの表面に塗布して樹脂ワニス層を形成した後、該樹脂ワニス層から溶媒を除去することにより、Bステージ状の接着剤層が形成されたカバーレイフィルムを製造することができる。
溶媒を除去するときの乾燥温度は、40~250℃であることが好ましく、70~170℃であることがより好ましい。
乾燥は、接着剤組成物が塗布された積層体を、熱風乾燥、遠赤外線加熱、及び高周波誘導加熱等がなされる炉の中を通過させることにより行われる。
なお、必要に応じて、接着剤層の表面には、保管等のため、離型性フィルムを積層してもよい。離型性フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、シリコーン離型処理紙、ポリオレフィン樹脂コート紙、TPXフィルム、フッ素系樹脂フィルム等の公知のものが用いられる。
本発明に係るカバーレイフィルムは、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送が可能であり、さらに電子機器との接着安定性にも優れたものとなる。
【0053】
(ボンディングシート)
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、ボンディングシートが挙げられる。
ボンディングシートは、離型性フィルム(基材フィルム)の表面に上記接着剤層が形成されているものである。また、ボンディングシートは、2枚の離型性フィルムの間に接着剤層を備える態様であってもよい。ボンディングシートを使用するときに、離型性フィルムをはく離して使用する。離型性フィルムは、上記(カバーレイフィルム)の欄で記載したものと同様なものを用いることができる。
ボンディングシートに含まれる基材フィルムの厚さは、5~100μmであることが好ましく、25~75μmであることがより好ましく、38~50μmであることが更に好ましい。基材フィルムの厚さが上記範囲内であれば、ボンディングシートの製造が容易であり、ハンドリングもよい。
ボンディングシートを製造する方法としては、例えば、離型性フィルムの表面に上記接着剤組成物及び溶媒を含有する樹脂ワニスを塗布し、上記カバーレイフィルムの場合と同様にして乾燥する方法がある。
本発明に係るボンディングシートは、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送が可能であり、さらに電子機器との接着安定性にも優れたものとなる。
【0054】
(銅張積層板(CCL))
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、本発明の積層体中の接着剤層に、銅箔を貼り合せてなる銅張積層板が挙げられる。
銅張積層板は、上記積層体用いて、銅箔が貼り合わされており、例えば、基材フィルム、接着剤層及び銅箔の順に構成されている。なお、接着剤層及び銅箔は、基材フィルムの両面に形成されていてもよい。
本発明で用いる接着剤組成物は、銅を含む物品との接着性にも優れている。
本発明に係る銅張積層板は、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送を可能とし、かつ接着安定性に優れたものとなる。
【0055】
銅張積層板を製造する方法としては、例えば、上記積層体の接着剤層と銅箔とを面接触させ、80℃~150℃で熱ラミネートを行い、更にアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、不活性ガスの雰囲気下で100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。なお、上記銅箔は、特に限定されず、電解銅箔、圧延銅箔等を用いることができる。
【0056】
(プリント配線板)
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、本発明の積層体中の接着剤層に、銅配線を貼り合せてなるプリント配線板が挙げられる。
プリント配線板は、上記銅張積層板に電子回路を形成することにより得られる。
プリント配線板は、上記積層体用いて、基材フィルムと銅配線とが貼り合わされており、基材フィルム、接着層及び銅配線の順に構成されている。なお、接着層及び銅配線は、基材フィルムの両面に形成されていてもよい。
例えば、熱プレス等を利用して、配線部分を有する面に、接着剤層を介してカバーレイフィルムを貼り付けることにより、プリント配線板が製造される。
本発明に係るプリント配線板は、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送を可能とし、かつ接着安定性に優れたものとなる。
本発明に係るプリント配線板を製造する方法としては、例えば、上記積層体の接着剤層と銅配線とを接触させ、80℃~150℃で熱ラミネートを行い、更にアフターキュアにより接着剤層を硬化する方法がある。アフターキュアの条件は、例えば、100℃~200℃、30分~4時間とすることができる。上記銅配線の形状は、特に限定されず、所望に応じ、適宜形状等を選択すればよい。
【0057】
(シールドフィルム)
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、シールドフィルムが挙げられる。
シールドフィルムは、コンピュータや携帯電話や分析機器等の各種電子機器に影響し誤作動の原因となる電磁波ノイズをカットするために、各種電子機器にシールドするためのフィルムである。電磁波シールドフィルムともいう。
電磁波シールドフィルムは、例えば、絶縁樹脂層、金属層、及び本発明の接着層をこの順で積層してなる。
本発明に係るシールドフィルムは、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送が可能であり、さらに電子機器との接着安定性にも優れたものとなる。
【0058】
(シールドフィルム付プリント配線板)
本発明に係る積層体の好ましい一実施態様として、シールドフィルム付プリント配線板が挙げられる。
シールドフィルム付プリント配線板は、基板の少なくとも片面にプリント回路が設けられたプリント配線板上に、上記電磁波シールドフィルムが貼付されたものである。
シールドフィルム付プリント配線板は、例えば、プリント配線板と、プリント配線板のプリント回路が設けられた側の面に隣接する絶縁フィルムと、上記電磁波シールドフィルムとを有する。
本発明に係るシールドフィルム付プリント配線板は、低誘電な本発明の接着剤組成物を使用しているため、電子機器の高速伝送を可能とし、かつ接着安定性に優れたものとなる。
【実施例
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0060】
(カルボキシ基を含有するスチレン系エラストマー)
旭化成株式会社製の商品名「タフテックM1911」(マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体)を用いた。この共重合体の酸価は2mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は69,000である。
(カルボキシ基を含有しないスチレン系エラストマー)
旭化成株式会社製の商品名「タフテックP1500」(水添スチレン系エラストマー)を用いた。この共重合体の酸価は0mgKOH/gであり、スチレン/エチレンブチレン比は30/70であり、重量平均分子量は67,000である。
(エポキシ樹脂)
三菱ケミカル株式会社製の商品名「YX7700」(エポキシ樹脂、軟化点65℃)を用いた。
(パーブチルE)
有機過酸化物として、日油株式会社製のパーオキシエステルである商品名「パーブチルE」を用いた。
(溶剤)
トルエン及びメチルエチルケトンからなる混合溶媒(質量比=90:10)を用いた。
(基材フィルム)
基材フィルムとして、信越ポリマー社製の「Shin-Etsu Sepla Film PEEK」(ポリエーテルエーテルケトン、厚さ50μm)を用いた。
(電解銅箔)
電解銅箔として、三井金属鉱業製の「TQ-M7-VSP」(電解銅箔、厚さ12μm、光沢面Rz1.27μm、光沢面Ra0.197μm、光沢面Rsm12.95μm)を用いた。光沢面の表面粗さは、レーザー顕微鏡を用いて粗さ曲線を測定し、この粗さ曲線から、JIS B 0601:2013(ISO 4287:1997 Amd.1:2009)に基づいて求めた値である。
(離型フィルム)
離型フィルムとして、パナック社製NP75SA(シリコーン離型PETフィルム、50μm)を用いた。
【0061】
(実施例1)
表1に示す接着剤層を構成する各成分を表1に示す割合で含有し、これら成分を溶剤に溶かし、固形分濃度が20質量%の樹脂ワニスを作製した。
基材フィルムの表面にコロナ処理を行った。
該樹脂ワニスを基材フィルムの表面に塗布し、110℃のオーブンで4分間乾燥させ、トルエンを揮発させることで接着剤層を形成し、接着剤付き基材フィルムを得た。接着剤積層体の接着剤層が電解銅箔の光沢面と接する様に重ね、120℃で熱ラミネートを行い、硬化前接着剤積層体を得た。硬化前接着剤積層体を更に150℃で、60分間、アフターキュアを行うことにより接着剤層を硬化し、硬化後接着剤積層体を得た。
実施例1の硬化前接着剤積層体と硬化後接着剤積層体の電解銅箔と基材フィルムとの密着力(N/cm)を測定した。
【0062】
[密着力(N/cm)]
密着力は、硬化前接着剤積層体と硬化後接着剤積層体をカットして幅25mmの試験体とし、JIS Z0237:2009(粘着テープ・粘着シート試験方法)に準拠して、剥離速度0.3m/分、剥離角180°にて支持体に固定した接着剤付き基材フィルムから電解銅箔を剥がす際の剥離強度を測定することにより、密着力を測定した。
【0063】
さらに、実施例1の接着剤層の硬化前の120℃における貯蔵弾性率(Pa)、及び硬化後の25℃における貯蔵弾性率(Pa)も測定した。
【0064】
[貯蔵弾性率(Pa)]
接着剤層の貯蔵弾性率は、接着剤層からなる試料について、厚さ100μmの接着剤フィルムを作製し、粘弾性測定装置(TA Instruments社製RSA-G2を用い、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/minの条件下でJIS K7244に従い、測定した。測定試料は、離型フィルム上に樹脂ワニスを、ロ-ル塗布し、次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、110℃で4分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ50μm)を形成した。次に、この接着剤層を接着面同士が接する様に120℃で熱ラミネートして硬化前接着剤フィルム(厚さ100μm)を形成した。この硬化前接着剤フィルム(厚さ100μm)をオーブン内に静置して、150℃で60分間加熱硬化処理をして、硬化後接着剤フィルム(100mm×100mm)を作製した。接着剤フィルムから離型フィルムを剥離して接着剤層の貯蔵弾性率(Pa)を測定した。
【0065】
実施例1の積層体中の接着剤層の周波数28GHzにおける比誘電率、及び誘電正接も測定した。
【0066】
[比誘電率及び誘電正接]
接着剤層の比誘電率及び誘電正接は、ネットワークアナライザーMS46122B(Anritsu社製)と開放型共振器ファブリペローDPS-03(KEYCOM社製)とを使用し、開放型共振器法で、温度23℃、周波数28GHzの条件で測定した。測定試料は、離型フィルム上に樹脂ワニスを、ロ-ル塗布し、次いで、この塗膜付きフィルムをオーブン内に静置して、110℃で4分間乾燥させてBステージ状の接着剤層(厚さ50μm)を形成した。次に、この接着剤層を接着面同士が接する様に120℃で熱ラミネートして硬化前接着剤フィルム(厚さ100μm)を形成した。この硬化前接着剤フィルム(厚さ100μm)をオーブン内に静置して、150℃で60分間加熱硬化処理をして、硬化後接着剤フィルム(100mm×100mm)を作製した。硬化後接着剤フィルムから離型フィルムを剥離して接着剤層の比誘電率及び誘電正接を測定した。
【0067】
各測定結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2~実施例5)
実施例1において、接着剤層を構成する成分の種類及び配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例5の積層体を作製した。
作製した積層体に対して、実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1~比較例4)
実施例1において、接着剤層を構成する成分の種類及び配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1~比較例4の積層体を作製した。
作製した積層体に対して、実施例1と同様の評価を行った。
結果を表1に示す。
【0070】
【表1】

実施例1~5で示されるように、本発明の接着剤組成物からなる接着剤層は、加熱硬化後における密着性(接着性)に優れているとともに、ラミネート工程における密着性(接着性)にも優れている。
【0071】
本出願は、2019年12月20日に出願された日本特許出願である特願2019-230539号に基づく優先権を主張し、当該日本特許出願のすべての記載内容を援用する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の接着剤組成物からなる接着剤層を有する積層体は、スマートフォン、携帯電話、光モジュール、デジタルカメラ、ゲーム機、ノートパソコン、医療器具等の電子機器用のFPC関連製品の製造に好適に用いられ得る。