(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】膠芽腫の治療および予防
(51)【国際特許分類】
A61K 31/138 20060101AFI20250922BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250922BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250922BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250922BHJP
【FI】
A61K31/138
A61P25/00
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021534294
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2019084822
(87)【国際公開番号】W WO2020120656
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-12
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593005895
【氏名又は名称】コンセホ・スペリオル・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス(セエセイセ)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
(73)【特許権者】
【識別番号】521258256
【氏名又は名称】アリアンサ、エスパニョーラ、デ、ファミリアス、デ、フォン、ヒッペル-リンダウ-ウベアチェエレ
【氏名又は名称原語表記】ALIANZA ESPANOLA DE FAMILIAS DE VON HIPPEL-LINDAU-VHL
(73)【特許権者】
【識別番号】522007451
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン バイオメディカ エン レッド
【住所又は居所原語表記】C.Monforte de Lemos 3-5.Pabellon 11,MADRID(ES)
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100219988
【氏名又は名称】中島 伸吾
(72)【発明者】
【氏名】ホセ、マリア、サンチェス-プエレス、ゴンザレス-カルバハル
(72)【発明者】
【氏名】ルイサ、マリア、ボテッラ、キュベルズ
(72)【発明者】
【氏名】タニア、アグアド、サンチェス
(72)【発明者】
【氏名】アンヘル、クエスタ、マルチネス
(72)【発明者】
【氏名】ビルヒニア、アルビニャーナ、ディアス
(72)【発明者】
【氏名】カリーナ、ビジャル、ゴメス-デ、ラス、エラス
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】Neuro Oncol,2016年,Vol.18 No.6,p.840-8,doi: 10.1093/neuonc/nov299.
【文献】ICI 118551 hydrochloride, beta2 adrenoreceptor antagonist ab120808 ,2012年, ,https ://www.abcam.com/ici-118551-hydrochloride-beta-2-adrenoreceptor-antagonist? ab 120808. html#top-0
【文献】Pharm Biol.,2014年,Vol.52 No.11,p.1374-1381
【文献】Molecular Pharmacology,1996年,Vol.49 No.5 ,p.927-937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61P 25/00
A61P 35/00
A61K 31/138
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経膠腫の治療および/または予防
における使用のための、β
2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤
であって
前記拮抗剤が、式:
【化1】
のアルカノールアミン誘導体またはその薬学上許容可能な酸付加塩を含んでなる、β
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項2】
前記神経膠腫が参照値に比べてβ
2-アドレナリン受容体の発現が上昇していたことを特徴とする、請求項1に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項3】
テモゾロミド、レプトマイシンB、カペシタビンおよびアルキル化剤、インターカレート剤またはDNA傷害剤から選択される抗腫瘍化合物とともに投与される、請求項1
または2に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項4】
前記抗腫瘍化合物がプロプラノロールである、請求項
3に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項5】
神経膠腫が癌幹細胞の亜集団を含んでなる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項6】
前記神経膠腫が高悪性度神経膠腫である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項7】
前記神経膠腫が非再発性神経膠腫である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項8】
前記神経膠腫が星状細胞腫である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項9】
前記星状細胞腫が膠芽腫である、請求項
8に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項10】
前記薬学上許容可能な酸付加塩が塩酸塩である、請求項
1~9のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項11】
前記アルカノールアミン誘導体またはその薬学上許容可能な酸付加塩が1mg/Kg体重/日~4,5mg/kg体重/日の用量で投与される、請求項
1~10のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項12】
前記アルカノールアミン誘導体またはその薬学上許容可能な酸付加塩が2mg/Kg体重/日~3mg/kg体重/日の用量で投与される、請求項
11に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項13】
前記アルカノールアミン誘導体またはその薬学上許容可能な酸付加塩が2.4mg/kg体重/日の用量で投与される、請求項
12に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【請求項14】
第一選択治療としてまたは第一選択治療の後に患者に投与される、請求項1~
13のいずれか一項に記載の
使用のためのβ
2
-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、神経膠腫の治療および予防の分野、より具体的には、膠芽腫の治療および予防に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
神経膠腫は脳または脊椎で始まる癌の一種である。それは神経膠細胞および/またはその前駆体から生じるので神経膠腫と呼ばれる。神経膠腫の最も多い部位は脳である。神経膠腫は、細胞種、悪性度、および場所により分類される。神経膠腫は、それらが最もよく似ている特定の細胞種に応じて呼称される。神経膠腫の主要なタイプは以下の通りである:
・脳室上衣細胞腫、すなわち、上衣細胞由来の神経膠腫、
・星状細胞腫、すなわち、星状細胞由来の神経膠腫;多形性膠芽腫(GBM)が最も多い星状細胞腫である、
・乏突起膠腫、すなわち、乏突起神経膠細胞由来の神経膠腫、
・異なるタイプの神経膠に由来する細胞を含む、乏突起星状細胞腫などの混合性神経膠腫。
【0003】
神経膠腫は、腫瘍の病理学的評価によって決定されるそれらの悪性度に応じてさらに分類される。よって、神経膠腫は、十分に分化し(未分化でない)、良性であり、患者にとってより良好な予後を意味する低悪性度神経膠腫と、未分化(undifferentiated or anaplastic)、悪性であり、不良な予後を持つ高悪性度神経膠腫とに識別することができる。
【0004】
使用中の多くの悪性度評価法のうち、最も一般的なものは星状細胞腫に関する世界保健機関(WHO)悪性度評価法である。
【0005】
脳神経膠腫の治療は場所、細胞種および悪性度によって異なる。多くの場合、治療は、手術、放射線療法、および化学療法を用いる併用アプローチである。放射線療法は外部照射療法または放射線外科を用いる定位的アプローチの形態である。脊髄腫瘍は、手術および放射線により治療することができる。テモゾロミドは、血液脳関門を効果的に通過することができ、療法に使用される化学療法薬である。これらのアプローチにもかかわらず、ほとんどの高悪性度神経膠腫患者は、それらの疾患に倒れる。患者集団における転帰を改善するためには、重要な標的に対する新たな治療介入が必要とされる。
【0006】
多形性膠芽腫(GBM、WHO悪性度IV)は、病歴および分子プロファイルが異なる2つのサブタイプのうちの一方を呈する侵襲性の高い脳腫瘍である。原発GBMは、急性的に高悪性度疾患を呈し、続発性GBMサブタイプは、低悪性度疾患の緩慢な進行から発症する(Dolecek TA et al. 2012. Neuro Oncol 14 (Suppl 5):v1-v49。
【0007】
GBMなどの悪性神経膠腫は、成人に見られる圧倒的に最も多い脳癌であり、最も治療が困難なものの1つである。手術、化学療法、放射線および小分子阻害剤などの侵襲的な単独処置およびマルチモーダル処置を用いたとしても、生存期間は過去30年にわたって不変のままであり、生存期間中央値は診断後1年より短い。従来の処置が奏効しない理由は、GBMの高い浸潤性/侵襲性、血液脳関門および神経実質を介する薬物送達の限界、ならびに利用可能な治療に対する内因性耐性および侵襲的耐性クローンの上昇をもたらす遺伝的ヘテロ性を含む多因子である。よって、新規な治療選択肢の必要がある。
【発明の概要】
【0008】
発明の簡単な説明
本発明の発明者らは、ICI 118,551は膠芽腫細胞株U-87の生存率を低下させ(
図1)、ヒト膠芽腫由来の癌幹細胞の亜集団の、認知されている培養手順下、グリオスフェア(gliospheres)の形成および増殖を阻害する(
図2)ことを見出した。加えて、本発明者らは、ICI 118,551は膠芽腫における幹細胞性のバイオマーカーの発現を低下させ、神経分化マーカーを上昇させ(
図3)、マウス異種移植モデルにおける腫瘍進行を遅延させる(
図4)ことを示した。
【0009】
よって、本発明は、神経膠腫の治療および/または予防における使用のためのβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤に関する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1 ICI 118,551は、幹細胞亜集団を含む膠芽腫細胞株において細胞生存率を低下させる抗腫瘍薬として有効である。A:ヒトβ
2アドレナリン受容体に対するモノクローナル抗体(アブカム)を用いて共焦点顕微鏡により示されるように、U-87細胞株はβ-アドレナリン受容体タイプ2を発現する。B:ICI-118551は、オンコスフェア(グリオスフェア、幹細胞)として液体懸濁液中でまたは接着させて増殖させた際に、ヒト膠芽腫細胞株U-87の生存率を低下させる。生存率は、PromegaからのATP-Gloキットを用いた発光により定量した。C.ヒト膠芽腫細胞株U87におけるβ
2-アドレナリン受容体発現は、グリオスフェアとしての三次元培養における定量的PCRによるmRNA発現により確認した(β
2-アドレナリン受容体発現の陽性対照としてのHUVEC)。
【
図2】
図2 ICI 118,551は、ヒト膠芽腫細胞株U-87由来のグリオスフェアの形成および増殖を阻害する。A:72時間の薬物処理後のグリオスフェア形成の写真。U-87細胞をグリオスフェア形成のための培地で培養し、ビヒクル(対照、左)またはICI 118,551、および10~100μMの異なる濃度のプロプラノロールで処理した。細胞をβ遮断剤で処理した場合、グリオスフェアの形成に段階的な阻害が見られ、これは10μM以上で明白である。B:種々の濃度のICI 118,551およびプロプラノロールの存在下でのオンコスフェア形成に関する限界希釈アッセイ実験(ELDA)。これらの線図から、対照に比べてICI118,551およびプロプラノロール処理の後に希釈倍率が高まることが明らかである。これはICI 118,551およびプロプラノロールに対するU-87幹細胞の幹細胞感受性結果である可能性が極めて高い。
【
図3】
図3 ICI 118,551およびプロプラノロールは、U-87膠芽腫細胞株において幹細胞性バイオマーカーの発現を低下させたが、神経分化マーカーを上昇させた。A:48時間のICI-118,551およびプロプラノロールでのU-87の処理は、GD3シンターゼ、ALDH1、プロミニン(CD133)、Sox2およびNanogなどの幹細胞性関連遺伝子の発現を低下させ、一方、B:神経細胞分化に関与する遺伝子(MAP2、GFAPおよびネスチン)の発現に有利である。対応するmRNAの発現をRT-qPCRにより測定した。
【
図4】
図4 ICI 118,551およびプロプラノロールは、NSG免疫抑制マウスにおいてU-87異種移植片の腫瘍進行を遅延させる。A U-87接着細胞を用いた異種移植:マウス(n=30)の側腹部に異種移植片として10
6細胞のU-87膠芽腫細胞株を接種した。腫瘍体積を3日毎に測定した。Aでは、腫瘍が100mm
3前後の体積に達した祭に、マウスを3群に分けた(n=9~10)。1群は10mg/Kg体重のプロプラノロールで、別の群は同じ用量のICI118,551で、第3の群はビヒクル(DMSO)単独で毎日処置した。薬物は腹膜内に注射した。有害作用は見られなかった。B U-87グリオスフェアを用いた異種移植:マウスに膠芽腫細胞株U-87由来の10
5個のスフェロイドを接種した。マウスを9~10個体の3群に分け、異種移植後すぐに3mg/Kg体重のプロプラノロール、またはICI 118,551、またはビヒクル単独のいずれかで5日連続処置した。腫瘍を計測に十分な大きさとなってから測定した。
【
図5】
図5 U87細胞をDMEM-10%FCSで培養し漸増量のICIおよびプロプラノロールとともに48時間インキュベートした。mRNA-21発現はICIとともにインキュベートした後に、プロプラノロールに比べて著しく低下する(左)。さらに、ICIは、PDCD4アポトーシス促進剤1(中央)およびPTEN-a膠芽腫抑制剤(右)などのmRNA-21標的の発現レベルを上昇させる。
【発明の具体的説明】
【0011】
発明の詳細な説明
本発明は、神経膠腫の治療および/または予防における使用のためのβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤に関する。
【0012】
あるいは、本発明は、神経膠腫の治療および/または予防のための薬剤の製造におけるβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤の使用に関する。
【0013】
あるいは、本発明は、患者における神経膠腫の治療および/または予防の方法であって、前記患者に治療上有効な量のβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤を投与することを含んでなる方法に関する。
【0014】
用語「β2-アドレナリン受容体」または「β2AR」は、本明細書において使用する場合、拡散性ホルモンおよび神経伝達物質に応答し、主として平滑筋に存在するクラスAのGタンパク質共役型受容体(GPCR)を指す。2つの主要なアドレナリン受容体αおよびβが存在し、いくつかのサブタイプがある:
・α受容体には、サブタイプα1(Gq共役受容体)およびα2(Gi共役受容体)がある。
・β受容体には、サブタイプβ1、β2およびβ3がある。3つは総てGsタンパク質に結合し、それらは次にアデニル酸シクラーゼに結合する。これらの受容体に結合する作動剤は、セカンドメッセンジャーcAMPの細胞内濃度に上昇をもたらす。
【0015】
β2-アドレナリン受容体に結合する作動剤は、平滑筋弛緩をもたらす。
【0016】
用語「β2-アドレナリン受容体拮抗剤」は、本明細書において使用する場合、β2-アドレナリン受容体と結合し、受容体それ自体を活性化する実質的な能力を欠いている化合物を指す。用語「β2-アドレナリン受容体拮抗剤」は、中性拮抗剤および逆作動剤の両方を含む。「中性拮抗剤」は、作動剤の作用を遮断するが固有のまたは自発的な受容体活性に対しては効果がない化合物である。「逆作動剤」は、受容体における作動剤の作用の遮断と受容体の構成的活性の減弱の両方が可能である。用語「拮抗剤」はまた、天然リガンドと同じ部位に結合する薬物である競合的拮抗剤;受容体上の、天然リガンドとは異なる部位に結合する非競合的拮抗剤;受容体-リガンド動態により決定される速度で受容体に結合するおよび結合解除する可逆的拮抗剤;ならびに活性部位に共有結合を形成することによって、または解離速度が効果的にはゼロであるように強固に結合しさえずれば、受容体に恒久的に結合する不可逆的拮抗剤も含む。
【0017】
用語「選択的β2-アドレナリン受容体拮抗剤」は、本明細書において使用する場合、β1-アドレナリン受容体よりもβ2-アドレナリン受容体に選択性のある拮抗剤を意味する。特定の実施形態において、選択的β2-アドレナリン受容体拮抗剤は、β1-アドレナリン受容体よりもβ2-アドレナリン受容体への結合に少なくとも10倍高い効力、すなわち、少なくとも10のβ2/β1選択性比を示す。より好ましくは、選択的β2受容体拮抗剤は、少なくとも50のβ2/β1選択性比を有する。いっそうより好ましくは、選択的β2受容体拮抗剤は、少なくとも123のβ2/β1選択性比を有する。β2-アドレナリン受容体およびβ1-アドレナリン受容体に対する種々の有効薬剤の親和性は、大部分のβ2受容体を含有する組織および/または細胞サブタイプ(例えば、ウサギ毛様体突起、ラット肝臓、ネコ脈絡膜叢または肺)、大部分のβ1受容体を含有する組織(例えば、ネコおよびモルモット心臓)、ならびに混合物を含有する組織(例えば、モルモット気管)を評価することによって決定することができる。これらの異なるタイプの組織に対する相対的結合選択性を決定する方法は、O'Donnell and Wanstall, Naunyn-Schmiedeberg's Arch.Pharmaco., 308, 183-190 (1979)、Nathanson, Science. 204, 843-844 (1979)、Nathanson, Life Sciences, 26, 1793-1799 (1980)、Minneman et al., Mol.Pharmacol., 15, 21-33 (1979a)、およびMinneman et al., Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics, 211, 502-508 (1979)に包括的に開示されている。
【0018】
本発明における使用に好適な選択的β
2-アドレナリン作動性拮抗剤活性を有するかなりの数の化合物が知られている。特定の実施形態において、選択的β
2-アドレナリン受容体拮抗剤は、式Iのアルカノールアミン誘導体:
【化1】
(式中、R
1は、α-炭素原子で分岐している最大6個の炭素原子のアルキル基であり、
R
2は、最大3個の炭素原子のアルキルであり、
R
3は、水素、ハロゲンまたは最大3個の炭素原子のアルキルであり、かつ、
nは1または2である)
またはその薬学上許容可能な酸付加塩である。
【0019】
用語「アルキル基」は、本明細書において使用する場合、アルカンから誘導でき、水素原子の除去により式--CnH2n+1を有する非環式直鎖および分岐基を指す。
【0020】
用語「ハロゲン」は、本明細書において使用する場合、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素から選択される原子を指す。
【0021】
R1は、例えば、イソプロピルまたはt-ブチルであり得る。特定の実施形態において、R1はイソプロピルである。
【0022】
R2は、例えば、メチルまたはエチルであり得る。特定の実施形態において、R2はメチルである。
【0023】
R3は、例えば、水素、塩素、臭素、メチルまたはエチルであり得る。特定の実施形態において、R3はメチルである。
【0024】
特定の実施形態において、nは1である。
【0025】
特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、R2はメチルである。特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、R3はメチルである。特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、nは1である。特定の実施形態において、R2はメチルであり、R3はメチルである。特定の実施形態において、R2はメチルであり、nは1である。特定の実施形態において、R3はメチルであり、nは1である。
【0026】
特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、R2およびR3はメチルである。別の特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、R2はメチルであり、nは1である。別の特定の実施形態において、R1はイソプロピルであり、R3はメチルであり、nは1である。特定の実施形態において、R2およびR3はメチルであり、nは1である。
【0027】
より具体的な実施形態において、R1はイソプロピルであり、R2および/またはR3はメチルであり、nは1である。
【0028】
さらにより具体的な実施形態において、アルカノールアミン誘導体は式IIを有する。
【化2】
【0029】
式IIのこの化合物はICI 118,551としても知られ、その化学名はエリトロ-D,L-1(メチリデン-4-イルオキシ)-3-イソプロピルアミノブタン-2-オールである。ICI 118,551は、Life Sciences, 27,671 (1980)およびBilski et al., J. Cardiovasc.Pharmacol., 5, 430-437 (1983)で決定および報告されているように少なくとも123のβ2/β1選択性比を有する。
【0030】
式Iのアルカノールアミン誘導体は2個の不斉炭素原子、すなわち、-CHOH-基および-CHR2-基のものを含み、従って、2つのラセミジアステレオ異性形、トレオ型とエリスロ型、および各ラセミ形の(+)異性体と(-)異性体の4つの光学的に活性な形態で存在し得ると見られる。本発明は上記に定義されるような選択的β2-アドレナリン受容体拮抗活性を有するこれらの異性形のうちいずれか1つを包含すると理解されるべきであり、特定の異性体をどのようにして単離すればよいか、およびそれが持ち得る選択的β2-アドレナリン受容体遮断活性をどのようにして測定すればよいかは周知の事実である。
【0031】
一般に、-CHOH-基の{S)-絶対配置を有する光学異性体は、{R)-絶対配置を有する対応する異性体よりもβ2アドレナリン作動性遮断剤として活性が高いと理解されるべきである。一般に、エリスロ異性体は対応するスレオ異性体よりもβ2選択性が高いが、本発明の化合物のスレオ異性体およびエリスロ異性体の両方が必要とされる選択性を有することも知られている。
【0032】
用語「薬学上許容可能な酸付加塩」は、レシピエントに投与した際に本明細書に記載されるような化合物を(直接または間接的に)提供し得る酸付加塩を指す。好ましくは、本明細書において使用する場合、用語「薬学上許容可能な塩」は、動物、より詳しくは、ヒトにおける使用に関して連邦政府もしくは州政府の規制当局により承認されていることまたは米国薬局方もしくは他の一般に認知されている薬局方に収載されていることを意味する。塩の調製は、当技術分野で公知の方法によって行うことができる。式Iのアルカノールアミン誘導体の薬学上許容可能な酸付加塩の例示的非限定例は、例えば、無機酸から誘導される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩もしく硫酸塩、または有機酸から誘導される塩、例えば、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、β-ナフトエ酸塩、アジピン酸塩もしくは1,1-メチレン-ビス(2-ヒドロキシ-3-ナフトエ酸塩)、または酸性合成樹脂から誘導される塩、例えば、スルホン化ポリスチレン樹脂である。特定の実施形態において、薬学上許容可能な酸付加塩は塩酸塩である。より具体的な実施形態において、β2アドレナリン受容体拮抗剤の選択的拮抗剤は、式IIの化合物の塩酸塩である。
【0033】
別の特定の実施形態において、選択的β
2-アドレナリン受容体拮抗剤は、以下の化合物を含んでなる一覧から選択される:
・化学名DL-エリスロ-α-(2,5-ジメトキシフェニル)-β-t-ブチルアミノプロパノール塩酸塩を有する化合物に相当するブトキサミン。ブトキサミンのβ
2選択性の決定は、O'Donnell and Wanstall, Naunyn-Schmiedeberg's Arch.Pharmaco., 308, 183-190 (1979)に報告され、これは少なくとも17のβ
2/β
1選択性比を報告している。
・1-(4’-メチルフェニル)-b 2,2-l-イソプロピルアミノプロパノールに相当するH35/25。
・構造式:
【化3】
を有するプレナルテロール。この選択的β
2-アドレナリン受容体拮抗活性は、Johansson and Waldeck, J. Pharm. Pharmacol., 1988, 32(9), 659-660により記載されている。
・Crooks et al, J. Med. Chem., 22(2), 210-214 (1979)により記載されているような種々の4-および5-[2-ヒドロキシ-3-(イソプロピルアミノ)プロポキシ]ベンズイミダゾール。
・Imbs et al, Br. J. Pharmacol. 60(3), 357-362 (1977)により記載されているような1-(t-ブチル-アミノ-3-オール-2-プロピル)オキシミノ-9フルオレン。
・Jain et al, J. Med. Chem., 21(1), 68-72 (1978) により記載されているような種々の2-(α-ヒドロキシアリールメチル)-3,3-ジメチルアジリジン。
【0034】
用語「治療」は、本明細書において使用する場合、ヒトを含む対象(または患者)に、その対象の病態を直接もしくは間接的に改善する、またはその対象の病態もしくは障害の進行を緩徐化する、または治療下の疾患もしくは障害の少なくとも1つの症状を緩和する目的で医療扶助が提供されるいずれかの方法、作用、適用、または療法などを指す。
【0035】
用語「予防」は、本明細書において使用する場合、疾患の初期もしくは早期における本発明の化合物の投与、またはその発症の回避を指す。
【0036】
用語「神経膠腫」は、本明細書において使用する場合、脳に起源する腫瘍の一般的タイプである。神経膠腫は、星状細胞、乏突起神経膠細胞および上衣細胞を含む脳のニューロンを取り巻き、支持する神経膠細胞に起源する。神経膠腫は、それらが組織学的特徴を共有する(必ずしもそれらが起源するものではない)特定の細胞種に従って分類され得る。主要なタイプの神経膠腫は以下の通りである:
・脳室上衣細胞腫:上衣細胞。
・星状細胞腫:星状細胞(多形性膠芽腫は悪性星状細胞腫であり、成人に最も多い原発脳腫瘍である)。
・乏突起膠腫:乏突起神経膠細胞。
・脳幹神経膠腫:脳幹で発生。
・視神経膠腫:視神経内または周囲で発生。
【0037】
乏突起星状細胞腫などの混合性神経膠腫は、異なるタイプの神経膠由来の細胞を含む。
【0038】
用語「神経膠腫」は、本明細書において使用する場合、脳室上衣細胞腫、星状細胞腫、乏突起膠腫、脳幹神経膠腫、視神経膠腫および乏突起星状細胞腫を含むあらゆるタイプの神経膠腫を包含する。特定の実施形態において、神経膠腫は、癌幹細胞の亜集団を含んでなる。本明細書に開示されるように、癌幹細胞(CSC)は、自己再生、分化、および腫瘍形成性の能力を有する腫瘍内の細胞の小さな亜集団である。CD-44、Gremlin1、Id-1、TGFb2、BMP、OLIG2、SOX-2、ZEB1、Wnt5a、Pax-6、miRNSA-451、GD3S、ALDH1などの種々のバイオマーカーがCSCを同定するために使用可能であることが当技術分野で公知である。
【0039】
特定の実施形態において、神経膠腫は、星状細胞腫である。用語「星状細胞腫」は、中枢神経系の腫瘍のWHO分類に従って悪性度I、II、IIIおよびIVの星状細胞腫を含む。より具体的な実施形態において、星状細胞腫は、「神経膠腫」または「多形性膠芽腫」としても知られる、悪性度IVの星状細胞腫である。
【0040】
神経膠腫はまた、腫瘍の病理学的評価によって決定されるそれらの悪性度に従ってさらに分類することもできる。脳腫瘍検体の神経病理学的評価および診断は、中枢神経系の腫瘍のWHO分類に従って行われる。それらの悪性度に応じて、それらは以下のように分類することができる:
・低悪性度神経膠腫[WHO悪性度II]はよく分化しており(未分化でない);これらは良性を示す傾向にあり、患者にとってより良好な予後を意味する。
・高悪性度[WHO悪性度III~IV]神経膠腫は、未分化(undifferentiated or anaplastic)であり、これらは悪性であり、不良な予後を持つ。
【0041】
特定の実施形態において、神経膠腫は、高悪性度神経膠腫である。
【0042】
神経膠腫は、原発腫瘍、または再発性腫瘍であり得る。用語「原発」または「非再発性」は、本明細書において使用する場合、対象において始めて出現する腫瘍、すなわち、それまでには検出および治療されていない腫瘍を指す。用語「再発性」は、本明細書において使用する場合、無病期間の後、治療の後、および癌が検出されなかった期間の後に現れた腫瘍を指す。特定の実施形態において、神経膠腫は、原発または非再発性神経膠腫である。
【0043】
好ましい実施形態において、神経膠腫は、β2-アドレナリン受容体の発現が参照値に比べて上昇していたことを特徴とする。
【0044】
「参照値」は、本明細書において使用する場合、サンプルから得られた値/データに対する参照として使用される検査値を指す。参照値(または参照レベル)は、絶対値、相対値、上限および/もしくは下限を有する値、一連の値、平均値(an average value)、中央値、平均値(a mean value)、または対照値もしくは参照値を参照することにより表される値であり得る。参照値は、例えば、試験サンプルから得られたものであるが従前の時点で得られた値などの個々のサンプルから得られた値に基づき得る。参照値は、サンプル集団において得られた、または供試サンプルを含むまたは除外したサンプルプールに基づく値など、多数のサンプルに基づいてもよい。特定の実施形態において、参照値は、健常対象におけるβ2-アドレナリン受容体の発現である。別の特定の実施形態において、参照値は、神経膠腫に罹患していない対象におけるβ2-アドレナリン受容体の発現である。
【0045】
β2-アドレナリン受容体の発現の上昇は、参照値の少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%であり得る。
【0046】
β2-アドレナリン受容体の発現を決定するために好適な方法としては、限定されるものではないが、qPCR、RT-PCR、RNAプロテクションアッセイ、ノーザンブロット、RNAドットブロット、in situハイブリダイゼーション、マイクロアレイ技術、SAGE法(serial analysis of gene expression)(LongSAGEおよびSuperSAGEなどの変法を含む)などのタグに基づく方法、マイクロアレイ、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)(Flow-FISH、qFISHおよびダブルフュージョンFISH(D-FISH)などの変法を含む)などの、mRNA発現レベルを決定するための標準的なアッセイが含まれる。
【0047】
用語「患者」または「対象」は、本明細書において使用する場合、動物、好ましくは、哺乳動物を指し、限定されるものではないが、飼育動物および農用動物、霊長類およびヒト、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、または齧歯類が含まれる。好ましい実施形態において、対象は、任意の年齢または人種のヒトである。本発明において、患者は、神経膠腫、より詳しくは、星状細胞腫、いっそうより詳しくは、膠芽腫に罹患している。
【0048】
用語「神経膠腫患者」は、本明細書において使用する場合、その患者が神経膠腫と診断されたことを意味する。神経膠腫の診断は以下の含み得る:
・病歴および身体検査、患者の症状、個人および家族の健康歴に関する問診を含む。
・神経学的検査:この検査は、視力、聴力、言語、力、感覚、バランス、協調、反射ならびに思考力および記憶力を調べる。これにはまた、眼と脳をつなぐ視神経の圧迫により生じた腫脹を探すための患者の眼の検査も含み得る。
・脳のスキャン:コンピューターを用いて脳の詳細画像を作り出す磁気共鳴画像法(MRI)およびコンピューター断層撮影法(CTまたはCATスキャン)は、脳腫瘍を診断するために用いられる最も一般的なスキャンである。
・生検:これは顕微鏡下での検査のために腫瘍の小サンプルを取り出すための手法である。腫瘍の場所によっては、生検と腫瘍の除去を同時に行える場合がある。
【0049】
患者へのその投与のために、本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、医薬組成物として処方することができる。
【0050】
用語「医薬組成物」は、本明細書において使用する場合、治療上有効な量の本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩と少なくとも1種類の薬学上許容可能な賦形剤または担体を含んでなる組成物を指す。
【0051】
用語「治療上有効な量」は、本明細書において使用する場合、所望の効果を提供するための化合物の十分な量を指し、一般に、とりわけ、原因、化合物それ自体の特徴および達成される治療効果によって決定される。それはまた治療される対象、前記対象が罹患している疾患の重症度、選択された投与形、投与経路などによっても異なる。このため、本明細書に述べられる用量は、単に当業者に対する指針と考えられるべきであり、当業者は上記の変数に応じて用量を調整しなければならない。
【0052】
個々の必要は様々であったとしても、本発明による使用のための化合物の治療上有効な量の最適な範囲の決定は、当業者の一般的な経験に属す。一般に、有効な治療を提供するために必要とされる用量は、当業者により調整可能であり、年齢、健康、フィットネス、性別、食事、体重、受容体の変化の程度、処置頻度、損傷の性質および状態、障害または疾病の性質および程度、対象の健康状態、投与経路、使用する特定の化合物の活性、有効性、薬物動態および毒性学プロファイルなどの薬理学的事項、全身薬物送達を使用するかどうか、および化合物が薬物の組合せの一部として投与されるかどうかによって異なる。対象における虚血/再潅流損傷の予防および/または治療において治療上有効な本発明による使用のための化合物の量は、従来の臨床技術により決定することができる(例えば、The Physician's Desk Reference, Medical Economics Company, Inc., Oradell, NJ, 1995, and Drug Facts and Comparisons, Inc., St. Louis, MO, 1993参照)。
【0053】
特定の実施形態において、治療上有効な量は、神経膠腫の1以上の症状の改善をもたらす。特定の実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、約0.2mg/kg/日~約5mg/kg/日、好ましくは約0.5mg/kg/日、約0.7mg/kg/日、約1mg/kg/日、約1.5mg/kg/日、約1.7mg/kg/日、約1.9mg/kg/日、約2.1mg/kg/日、約2.2mg/kg/日、約2.5mg/kg/日、約2.7mg/kg/日、約2.9mg/kg/日~約4.9mg/kg/日、約4.7mg/kg/日、約4.5mg/kg/日、約4.3mg/kg/日、約4.1mg/kg/日、約3.9mg/kg/日、約3.7mg/kg/日、約3.5mg/kg/日、約3.3mg/kg/日、3.1mg/kg/日、約3mg/kg/日の用量で投与される。より具体的な実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、2mg/kg体重/日~3mg/kg体重/日の用量で投与される。さらにより具体的な実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、2.4mg/kg体重/日の用量で投与される。
【0054】
本発明の化合物の用量は、体重kg当たりの拮抗剤のmgまたは体表平方メートル当たりの拮抗剤のmgで表され得る。当業者ならば、マウスにおいて実験的にアッセイされた用量から特定の動物のための用量、特に、ヒトのための用量をどのように決定すればよいかを知っている。例えば、Reagan-Shaw S. et al (Reagan-Shaw S. et al. “Dose translation from animal to human studies revisited”. FASEB J 2008, 22(3):659-661)の文献には、mg/kgをmg/m2に変換するために使用される標準的な変換式が示されている。
用量(mg/kg)×Km=用量(mg/m2)
【0055】
この文献はまた、この変換は第1の動物種における用量を第2の動物種における用量に変換(アロメトリー用量変換)するための基礎であることも説明している。よって、動物用量(AD)mg/kgは、下式を用いてヒト当量(HED)mg/kgに変換することができる。
【数1】
式中、各種のK
mは表1に示される(データは、Reagan-Shaw S. et al. “Dose translation from animal to human studies revisited”. FASEB J 2008, 22(3):659-661から抽出)。
【0056】
【0057】
従って、マウスにおいて30mg/kgの用量を用いた試験は、2.4mg/kgのヒトの全身用量に相当する。
【0058】
別の特定の実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、一定の用量でヒトに投与され、各投与は0.2mg/kg~5mg/kgの範囲、好ましくは、約0.2mg/kg/日、約0.25mg/kg/日、約0.3mg/kg/日、約0.35mg/kg/日、約0.4mg/kg/日、約0.45mg/kg/日、約0.50mg/kg/日、約0.55mg/kg/日、約0.6mg/kg/日、約0.65mg/kg/日、約0.7mg/kg/日、約0.75mg/kg/日、約0.8mg/kg/日、約0.85mg/kg/日、約0.90mg/kg/日、約0.95mg/kg/日、約1mg/kg/日、約1.2mg/kg/日、約1.4mg/kg/日、約1.6mg/kg/日、約1.8mg/kg/日、約2mg/kg/日、約2.2mg/kg/日、約2.4mg/kg/日、約2.6mg/kg/日、約2.8mg/kg/日、約3mg/kg/日、約3.2mg/kg/日~約3.4mg/kg/日、約3.6mg/kg/日、約3.8mg/kg/日、約4mg/kg/日、約4.5mg/kg/日、約5mg/kg/日である。より好ましい実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、2mg/kg体重/日および3mg/kg体重/日の用量で投与される。いっそうより好ましい実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、2.4mg/kg体重/日の用量で投与される。
【0059】
別の特定の実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、毎日、好ましくは、1日1回、1日2回、1日3回投与される。より好ましい実施形態において、それは1日1回投与される。別の特定の実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、2日、3日、4日、5日、7日、9日、10日、15日、20日、25日、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月間または12か月を超えて、好ましくは、5日間、いっそうより好ましくは、連続5日間投与される。
【0060】
用語「薬学上許容可能な賦形剤」または「薬学上許容可能な担体」は、使用する用量および濃度で対象に本質的に非毒性であり、かつ、医薬組成物のその他の成分と適合するいずれの化合物または化合物の組合せも指す。よって、賦形剤は、前記有効成分を含有する組成物を増量する目的で、医薬組成物の有効成分(すなわち、選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩)とともに処方される不活性物質である。増量は、投与形を作製する際に原薬の好都合かつ正確な分配を可能とする。賦形剤はまた、化合物(薬物)吸収もしくは溶解度の助長、または他の薬物動態的事項などの様々な治療増進目的を果たし得る。賦形剤はまた、粉末流動性または非粘着性を助長することによるなど、考慮する有効物質の取り扱いを補助するため、加えて、期待される保存期間中の変性の防止などのin vitro安定性を補助するために製造過程においても有用であり得る。適当な賦形剤の選択は、投与経路および投与形、ならびに有効成分およびその他の因子によって異なる。賦形剤は、任意の従来種の非毒性の固体、半固体もしくは液体増量剤、希釈剤、封入剤または処方助剤であり得る。賦形剤または担体の例示的、非限定的な例としては、水、塩(生理食塩水)溶液、アルコール、デキストロース、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘稠パラフィン、香油、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、ペトロエトラル脂肪酸エステル(fatty acid esters petroetrals)、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドンなどが含まれる。
【0061】
本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、限定されるものではないが、非経口、経口、局所、鼻腔、直腸、硝子体内経路などのいずれの好適な投与経路によって投与してもよい。特定の実施形態において、本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、腹膜内、静脈内、皮下、皮内、筋肉内または硝子体内に投与される。好ましい実施形態において、本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、経口的にまたは静脈内または硝子体内に投与される。より好ましい実施形態において、本発明の選択的β2アドレナリン受容体拮抗剤は、好ましくは、式Iのアルカノールアミン誘導体、より好ましくは、式IIのアルカノールアミン誘導体、またはその薬学上許容可能な酸付加塩は、腹膜内に投与される。
【0062】
好ましい実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、抗腫瘍化合物とともに投与される。用語「腫瘍」または「癌」は、本明細書において使用する場合、調節されない細胞増殖を含み、悪性新生物とも呼ばれる広範な疾患群を指す。この用語は、通常、制御されない細胞分裂(または生存またはアポトーシス耐性の増強)および他の隣接組織を侵襲し(浸潤)、それらの細胞がリンパ管および血管を介して、通常存在しない身体の他の領域へ拡散し(転移)、血流中に循環し、その後、身体の他所の正常組織を侵襲する前記細胞の能力を特徴とする疾患に適用される。特定の実施形態において、癌は、良性腫瘍、すなわち、浸潤または転移により拡散することができない腫瘍として見られ、すなわち、それらは局部的に増殖するだけである。別の特定の実施形態において、癌は、悪性腫瘍、すなわち、浸潤および転移により拡散する能力がある腫瘍として見られる。
【0063】
本明細書において使用する場合、用語「抗腫瘍薬」、「抗癌薬」または「抗悪性腫瘍薬」(本明細書では明瞭に区別して使用されない)は一般に、癌細胞の成長および増殖を阻害または抑制する物質を指す。抗腫瘍薬はまた、癌細胞を破壊するまたは細胞分裂を妨げる化合物、癌に関与するある種のホルモンを遮断する化合物、新しい血管の成長を阻害または抑制する化合物(例えば、血管新生阻害剤)、DNAを傷害する薬剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサロプラチン(oxaloplatin)などのアルキル化剤;代謝拮抗物質;ならびにトポイソメラーゼ阻害剤)、ならびに抗癌特性を有する化合物(例えば、タキサン、ビンカアルカロイド、および植物アルカロイド)も含み得る。用語「抗腫瘍薬」はまた、放射線療法も含む。抗腫瘍薬はまた、癌細胞の調節されないタンパク質に特異的な薬剤も含み得る。好ましい実施形態において、抗腫瘍化合物は、レプトマイシンB(LMB、CAS番号87081-35-4)、テモゾロミド(CAS番号85622-93-1)、カペシタビン(CAS番号154361-50-9)およびアルキル化剤、インターカレート剤またはDNA傷害剤から選択される。より好ましい実施形態において、抗腫瘍化合物はプロプラノロール(CAS番号:525-66-6)である。
【0064】
本明細書に開示される場合、「アルキル化剤」は、DNA分子のグアニン塩基にアルキル基を付加し、二重らせんの鎖が本来あるべき状態に連結しないようにし、DNA鎖の破断をもたらし、癌細胞の増幅能に影響を与える化合物である。
【0065】
本明細書に開示される場合、「インターカレート剤」は、それ自体を細胞のDNA構造中に挿入し、DNAに結合し、DNA損傷を引き起こす化合物である。癌治療において、DNAインターカレート剤は、癌細胞のDNAを傷害し、それらの分裂を停止させることによって癌細胞を死滅させることができる。
【0066】
本明細書に開示されるように、「DNA傷害薬」は、二重らせんの一次構造に影響を与える、すなわち、それらの塩基自体が化学的に修飾されることによってDNAを傷害する薬剤である。傷害薬の限定されない例としては、反応性酸素種、紫外線、X線およびγ線が含まれる。
【0067】
用語「抗腫瘍化合物とともに投与される」とは、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤が抗腫瘍化合物と同時にまたは逐次に投与され得ることを意味する。β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤と抗腫瘍化合物が同時に投与される場合、それらは単一の医薬組成物中に見られてもよいし、または異なる医薬組成物中に見られてもよい。β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤と抗腫瘍化合物が逐次に投与される場合は、それらはいずれの順序で投与することもでき、すなわち、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤の投与を抗腫瘍化合物の投与の前に始めることができ、または抗腫瘍化合物の投与をβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤の投与の前に始めることができる。
【0068】
好ましい実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、第一選択治療の後に、疾患の再発または重篤すぎる二次作用のために第一選択治療の継続をもはや許容できない患者に投与される。好ましい実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、第二選択治療として投与される。本明細書に開示される場合、「第二選択治療」は、「第一選択治療」として知られる第1の療法を従前に受けた患者に投与される治療を指す。第一選択治療は、多くの場合、手術とその後の化学療法および放射線などの標準的な一連の治療の一部である。また、誘導療法、一次療法、および一次治療とも呼ばれる。本発明に開示されるように、いずれの第一選択治療も使用可能である。神経膠腫の第一選択治療の限定されない例としては、最大外科的切除、個々に使用される放射線療法、またはテモゾロミド(TMZ)の併用処置および維持処置を伴う放射線療法が含まれる。神経膠腫の第一選択治療のその他の例としては、アルキル化剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、およびオキサロプラチン(oxaloplatin))などのDNAを傷害する薬剤;代謝尾拮抗物質;トポイソメラーゼ阻害剤、抗癌特性を有するその他の化合物(例えば、タキサン、ビンカアルカロイド、および植物アルカロイド)などの上記で定義されるような抗癌化合物が含まれる。好ましい実施形態において、抗腫瘍化合物は、レプトマイシンB(LMB、CAS番号87081-35-4)、テモゾロミド(CAS番号85622-93-1)、カペシタビン(CAS番号154361-50-9)およびアルキル化剤、インターカレート剤またはDNA傷害剤から選択される。より好ましい実施形態において、抗腫瘍化合物は、プロプラノロール(CAS番号:525-66-6)である。
【0069】
特定の実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、第一選択治療として、すなわち、神経膠腫の第1の治療として投与される。
【0070】
好ましい実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、無病期間中に投与される。用語「無病期間」は、本明細書において使用する場合、治療中および/または治療後の、患者が増悪しない疾患を有して生存している期間を指す。好ましい実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、第一選択治療による処置の後に生じる無病期間中に投与されるが、本発明はまた、異なる選択治療の後(第二選択治療(a second line or therapy)の後、第三選択治療またはさらなる選択治療の後)に患者が受け得る、その他の無病期間中にβ2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤の投与が行われることも企図する。別の実施形態において、β2-アドレナリン受容体の選択的拮抗剤は、疾患の再発または重篤すぎる二次作用のために患者がその選択治療の継続をもはや許容できない場合に、第二選択治療の後、第三選択治療の後、またはいずれの選択治療の後にも投与される。
【0071】
本発明を以下の実施例により説明するが、これらの実施例は単に例示であって、本発明の範囲の限定ではないと見なされるべきである。
【実施例】
【0072】
材料および方法
オンコスフェア培養およびエクストリーム限界希釈(ELDA)
他所に記載のプロトコール(Diaz-Guerra, E.; Lillo, M. A.; Santamaria, S.; Garcia-Sanz, J. A., Intrinsic cues and hormones control mouse mammary epithelial tree size. FASEB J 2012, 26 (9), 3844-53)に従う。細胞をプレートからトリプシン(Invitrogen)で剥離し、B27(Gibco)、10ng/ml上皮細胞増殖因子(EGF:Invitrogen)および10ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF:Millipore)を添加した完全培地(GlutaMAXを含むDMEM/F-12培地)に播種し、それらを37℃、5%CO2中で維持した。ELDAアッセイのために、細胞をトリプシンで解離させて単細胞とし、Ponti, D et al., (Cancer Res 2005, 65 (13), 5506-11)に記載の手順に従ってスフェア完全培地に、種々の希釈率(U-87細胞については100から10)で播種した。14日目にスフェアの最終数を定量し、最終的なデータおよび統計的有意性をELDAソフトウエア(http://bioinf.wehi.edu.au/software/limdil/index.htmlおよび(Hu, Y. et al J Immunol Methods 2009, 347 (1-2), 70-8)で得た。
【0073】
RNA抽出およびmiRNAおよびmRNAの比較定量
Direct-zol RNA MiniPrepキット(ZymoResearch)を用いてU-87細胞からRNAtを単離し、PBSで洗浄し、プレートから掻き取り、回転沈降させた。このペレットをTri Reagentで処理し、室温で5分間ホモジナイズした後、説明書に従ってMiniPrepキットを用いた。RNAtの質および濃度は、ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies、ウィルミントン、DE、USA)を用い、260、230および280nmで吸光度を測定することにより評価した。総ての場合で、純粋なRNAとして認知されている予測260/280(~2.0)および260/230(2.0~2.2)比値が得られた。2つの標的miRを検出するために、細胞から抽出された0.5μgのRNAtをハイブリダイゼーションに使用した後、デュアルアンペロメトリープラットフォームでの測定を行った。
【0074】
qScript microRNA定量システム(Quanta BioSciences、Inc.、ゲーサーズバーグ、MD、USA)を用いて、miR-21およびmiR-205の発現を評価した。簡単に述べると、PCR反応当たり10ngの初期RNAを用い、qScript microRNA cDNA合成キットを用いてcDNAを合成した。PCR条件は、LightCycler 480リアルタイムPCRシステム(Roche)にて、50℃で2分の初期活性化、次いで、95℃5秒および60℃30秒の40サイクルからなった。各プライマーのCt(閾値サイクル)値をRNU6の値に対して正規化した。遺伝子発現を評価するために、転写産物または第1鎖cDNA合成キット(Roche)を用い、以下のPCR条件:95℃10秒、60℃30秒および72℃30秒の40増幅サイクル下でcDNAを合成した。正規化のために参照遺伝子としてACTBを使用し、リアルタイムPCR反応は、miRNAに関してはPerfeCTa SYBR Green SuperMix(Quanta BioSciences)を、また遺伝子発現に関してはFastStart Universal SYBR Green Master(Roche)を用いて3反復で実施した。各遺伝子の発現レベルを相対標準曲線法により決定し、標的遺伝子のプライマー配列は、Universal ProbeLibrary Assay Design Center (https://qpcr.probefinder.com/organism.jsp)から得た。
【0075】
共焦点顕微鏡
細胞を播種し、P-24ウェルプレートの10%FBSを含有するDMEM中で増殖させた。成長後、少なくとも24時間、細胞を、カバーガラス内、0.2% Triton X-1003.5%PFA/PBS中、4℃で1時間固定した。次に、室温で30分間、細胞にPBSで透過処理を施す。その後、β2ヒトアドレナリン受容体に対するモノクローナルウサギ一次抗体(アブカム)を、PBS中で60分、1:50希釈でインキュベートした後、PBSで3回洗浄し、PBSに1:100希釈したAlexa-488抗ウサギ二次抗体とともに1時間インキュベートした。4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(Invitrogen)とともにProlong Goldを用いてカバーガラスを載せ、スペクトル共焦顕微鏡Leica TCS SP2(Leica Microsystems、Inc.、ヴェッツラー、ドイツ)で観察した。
【0076】
U-87膠芽腫細胞およびグリオスフェアの異種移植
雄7~8週齢NOD scidγ(NSG)マウスの背側側腹部に合計106細胞のU-87細胞株(A)または解離させたグリオスフェアから得た105細胞(B)のいずれかを注射した。Aの場合、腫瘍サイズが100mm3の体積に達した際に、マウスを無作為に各9/10個体の3群に分けた。1群は10mg/Kg体重のプロプラノロールを毎日、腹腔内注射により処置し、他群は同量のICI118,551で処置し、最後に、対照群にはビヒクルを注射した。腫瘍サイズは2~3日毎にカリパスで測定した。対照群の平均腫瘍体積が本発明者らの倫理手順で確立されたエンドポイントに達した際にマウスを犠牲にした。
【0077】
Bの場合、マウスを10個体の3群に分け、異種移植を確立した5日後に3mg/Kg体重のプロプラノロールもしくはICI118,551またはビヒクルの腹腔内注射によって処置した。マウスを腫瘍が出現し、サイズ測定が可能となるまで追跡調査した。この時点から、腫瘍サイズを2~3日毎に4週間測定し、その後、マウスを犠牲にした。
【0078】
統計分析
示されている値は平均±SEMまたは±SDであり、2つの群からのデータを、GraphPad Prism 5を用いるt検定で比較した。一元配置分散分析(ANOVA)を用いて多重ペアワイズ比較の平均の差を決定し、p<0.05を有意と見なした。
【0079】
結果
ICI 118,551はin vitroにおいてU-87細胞(ヒト膠芽腫)の生存率を低下させ、アポトーシスを増加させる
ICI 118,551は選択的β
2遮断剤であるので、最初に試験することは、U-87細胞株におけるβ-アドレナリン受容体タイプ2の発現であった。
図1Aに示されるように、ヒトβ
2アドレナリン受容体に対するモノクローナル抗体(アブカム)とともに共焦点顕微鏡を使用すると、U-87がこのタイプのアドレナリン受容体を発現し(
図1A、染色された細胞)、従って、膠芽腫のこの細胞モデルにおいてこの薬物がその作用機序を発揮し得ることが証明される。β
2アドレナリン受容体mRNAの発現もまた、グリオスフェアとしての三次元培養において定量的PCRにより確認した(
図1C)。
【0080】
ICI 118,551の機序がU-87において裏付けられたところで、細胞を種々の用量で処理し、この薬物が、オンコスフェア(グリオスフェア、幹細胞)として液体懸濁物でまたは接着して(
図1B)増殖させた場合に、PromegaからのATP-Gloキットを用いた発光により定量されるこのヒト膠芽腫細胞株モデルの生存率を低下されることが明らかであった。
図1Bから、結果は、ICI 118,551は、三次元グリオスフェアの供試液体培養物を接着増殖させた二次元U-87細胞と比べた場合に、U-87の生存率を種々の方法で低下されることを示す。薬物に対する種々の感受性が
図1Bに示され、懸濁液中に形成された三次元グリオスフェアよりも接着増殖させた細胞で感受性が高かった。このことはほとんどの抗癌薬の一般的挙動であるが、ICI 118,551は腫瘍性疾患の転移および再発過程の基礎にある低μM濃度の癌幹細胞の生存率に強い影響を与えるということが妥当である。
【0081】
ICI 118,551は、ヒト膠芽腫細胞株U-87において、癌幹細胞に対して十分に認知されている培養手順であるグリオスフェアの形成および増殖を阻害する
U-87グリオスフェアは、他所(Gupta, P. B. et al. 2009. Cell, 138, 645; Seymour, T. et al. 2015. Front. Oncol. 5:159. doi: 10.3389/fonc.2015. 00159; Penuelas et al. 2009. Cancer Cell 15, 315-327; - Lee, J. et al. 2006. Cancer Cell 9, 391-403)に記載の特定の条件下で培養した。
図2Aに示されるように、U-87は球形の成熟したグリオスフェアを形成し、十分に定義される構造を示す。U-87細胞をグリオスフェア形成用の培地で培養し、ビヒクル(対照、左)、10~100μMの異なる濃度のICI 118,551およびプロプラノロールのいずれかで処理した。細胞をβ遮断剤で処理した場合、グリオスフェアの形成に関して用量依存的阻害が見られ、それはプロプラノロールおよびICI-118,551の両薬物とも10μM以上で明白であった。B:種々の濃度のICI 118,551およびプロプラノロールの存在下でのオンコスフェア形成に関する限界希釈アッセイ試験(ELDA)。これらの線図から、対照に比べてICI-118,551およびプロプラノロールで処理した後に希釈倍率が上昇することが明らかである。これはICI 118,551およびプロプラノロールに対するU-87幹細胞の幹細胞感受性の結果である。
【0082】
ICI 118,551およびプロプラノロールは、U-87膠芽腫細胞株において幹細胞性バイオマーカー発現のmRNA発現を低下させた
U-87細胞をICI-118,551およびプロプラノロールで48時間処理した場合、幹細胞性に関連する遺伝子GD3シンターゼ、ALDH1、プロミニン(CD 133)、Sox2およびnanogの発現は有意に低下した(
図3A)。しかしながら、神経細胞分化に関与する、MAP2、GFAPおよびネスチンなどの遺伝子からのmRNA(
図3B)は発現が低下した(
図3B)。対応するmRNAの発現はRT-qPCRにより測定した。選択された幹細胞性のバイオマーカーの発現は低下しているが、細胞分化に関連するバイオマーカーは上昇しているという結論となり、その総てが用量依存的であり、総合的に見ると、細胞運命におけるICI-118,551の役割が示唆される。
【0083】
ICI 118,551およびプロプラノロールはNSG免疫抑制マウスにおいてU-87異種移植片の腫瘍進行を遅延させる
異種移植片はU-87接着細胞を用いて生成した:マウス(n=30)の側腹部に異種移植片として10
6細胞のU-87膠芽腫細胞株を接種した。腫瘍体積を3日毎に測定した。腫瘍が100mm
3前後の体積に達した際に、マウスを3群(n=9~10)に分けた。1群を毎日10mg/Kg体重のプロプラノロールで処置し、別の群を同じ用量のICI118,551で処置し、第3の群をビヒクル(DMSO)のみで処置した。薬物は腹膜内に注射した。有害作用は見られなかった。
図4Aに示されるように、10mg/Kg体重のプロプラノロールまたはICI118,551で処置したマウス群において腫瘍体積に30%前後の有意な減少が見られた。
【0084】
他方、U-87グリオスフェアを用いる異種移植片も使用した。これらのグリオスフェアはCSC(癌幹細胞)において高密度であった。マウスに膠芽腫細胞株U-87由来の10
5のスフェロイドを接種した。マウスを各9~10個体の3群に分け、異種移植直後に連続5日間、3mg/Kg体重のプロプラノロール、またはICI 118,551、またはビヒクルのみで処置した。腫瘍は、サイズ測定に十分な大きさになった時点から測定した。
図4Bで見て取れるように、最初の5日間に、処置マウスとビヒクル処置マウスの間で腫瘍成長速度に有意な遅延が見られた。
【0085】
ICI 118,551はU87膠芽腫細胞株のmRNA-21発現においてプロプラノロールより大きい低下を誘導する
とりわけ、実験的に実証されたのはこのmiRに対するごくわずかな標的に過ぎないために、腫瘍形成におけるmiR-21の影響の基礎にある機序はまだ明らかでない。oncomiR miR-21は、悪性細胞においてPDCD4に対する転写制御を発揮し、その内因性タンパク質はmiR-21阻害によって3.5倍上方調節されることが知られている。PDCD4の発現はいくつかの腫瘍種で下方調節または喪失されており、このことからそれは数種の癌の治療のための有望な分子標的となる(Frankel, L.B., et al.,. J Biol Chem, 2008. 283(2): p. 1026-33)。miR-21の再発現は、乳癌および膠芽腫において上皮間葉移行の獲得に関連付けられている(Zhou Q, Liu J, Quan J, Liu W, Tan H, Li W. Cancer Sci. 2018 Sep; 109(9):2651-2659)。
【0086】
U87細胞をDMEM-10%FCSで培養し、漸増量のICIおよびプロプラノロールとともに48時間インキュートした。mRNA-21の発現は、プロプラノロールに比べてICIとともにインキュベートした後に顕著に低下した(
図5左)。さらに、ICIは、PDCD4アポトーシス促進薬1(中央)およびPTEN-a膠芽腫抑制剤などのmRNA-21標的の発現レベルを上昇させる(右)。