(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】忘れ物・不審物検知システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/40 20240101AFI20250922BHJP
【FI】
G06Q50/40
(21)【出願番号】P 2022028875
(22)【出願日】2022-02-28
【審査請求日】2024-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390010054
【氏名又は名称】コイト電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 務
【審査官】山崎 誠也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-133307(JP,A)
【文献】特開2001-285842(JP,A)
【文献】特開2021-157435(JP,A)
【文献】特開2020-004252(JP,A)
【文献】特開2020-135740(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0039259(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G08B 19/00-21/24
G08B 23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
旅客列車の指定席車両に設置された座席に置かれた忘れ物又は不審物を検知する忘れ物・不審物検知システムであって、
座席が空席か、人が着座しているか、物が置かれているかを検知する座席占有状況検知部と、
座席の発券情報を取得する発券情報取得部と、
座席の占有状況と座席の発券情報とに基いて、座席に置かれた物が忘れ物・不審物であるか否かを判定する判定部と、を備え
、
座席に物が置かれていることを検知し、かつ、前記座席又は隣の座席が発券情報有りの場合は、前記物が忘れ物・不審物ではないと判定する
ことを特徴とする忘れ物・不審物検知システム。
【請求項2】
発券情報無しの隣接する2つの座席のうちの一方が空席、他方に物が置かれていることを検知した際、検知した時点から所定時間内は前記物が忘れ物・不審物ではないと判定し、
前記所定時間が経過した時点で隣接する2つの座席の一方が空席、他方に物が置かれている状態が継続している場合は、前記物が忘れ物・不審物であると判定する
ことを特徴とする請求項
1に記載の忘れ物・不審物検知システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等の座席に置かれた忘れ物・不審物を検知する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、新幹線や特急列車においては、車掌が定期的に車内を巡回して発券情報に対する座席占有状況や不審な荷物の有無などを確認しており、これらの業務が車掌にとって大きな負担となっていた。前述した車掌の負担を軽減する技術として、特許文献1には、検札業務を自動で行うシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の検札システムは、座席を占有している乗客が座席指定券を所持しているか否か、即ち不正着座か否かを検知することはできるが、座席に置かれた忘れ物や不審物を検知することはできなかった。座席に物が置かれている場合、近くの座席に着座している乗客の手荷物であることがほとんどであるが、中にはそれが降車した乗客の忘れ物であったり、故意に置かれた危険物であることもある。このような忘れ物や不審物については、できるだけ早急に発見されることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、座席に置かれた忘れ物又は不審物を検知する技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、旅客列車の指定席車両に設置された座席に置かれた忘れ物又は不審物を検知する忘れ物・不審物検知システムであって、座席が空席か、人が着座しているか、物が置かれているかを検知する座席占有状況検知部と、座席の発券情報を取得する発券情報取得部と、座席の占有状況と座席の発券情報とに基いて、座席に置かれた物が忘れ物・不審物であるか否かを判定する判定部と、を備え、座席に物が置かれていることを検知し、かつ、前記座席又は隣の座席が発券情報有りの場合は、前記物が忘れ物・不審物ではないと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、人(乗務員等)が巡回することなく座席に置かれた忘れ物・不審物を検知することができ、業務を効率化できる。また、忘れ物や不審物を早期に発見することができ、サービス向上、安全性向上に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる忘れ物・不審物検知システムのブロック図である。
【
図2】
図1の測距センサ及びマイクロスイッチが設置された座席を示す図である。
【
図3】
図1の測距センサ及びマイクロスイッチが設置された座席を示す図である。
【
図4】
図2,3の座席の占有状況の判定アルゴリズムを示す図である。
【
図5】
図1の表示部に表示される情報の一例である。
【
図6】
図1の表示部に表示される情報の一例である。
【
図7】
図1の表示部に表示される情報の一例である。
【
図8】
図1の車上サーバが行う判定処理の一例を示すフローチャートである。
【0009】
本発明の一実施形態にかかる「忘れ物・不審物検知システム」を
図1~8を参照して説明する。
【0010】
図1に示す忘れ物・不審物検知システム100は、旅客列車の指定席車両に設置された各座席5(
図2,3参照)に置かれた忘れ物又は不審物を検知するシステムである。この忘れ物・不審物検知システム100は、列車に搭載された発券情報取得部101と、各座席5毎に設置された測距センサ6及びマイクロスイッチ7と、列車に搭載された車上サーバ102と、表示部103と、を備えている。
【0011】
発券情報取得部101は、駅舎等から送信された各座席5の発券情報(座席指定券等が購入されていることを意味する情報である)を受信する。
【0012】
表示部103は、例えば車掌が所持する携帯端末や車掌室に設置された端末である。
【0013】
車上サーバ102は、発券情報取得部101、測距センサ6、マイクロスイッチ7、表示部103と接続されている。車上サーバ102は、測距センサ6の検知結果とマイクロスイッチ7の検知結果とに基いて、座席5が空席か、人が着座しているか、物が置かれているかを判定し、判定結果即ち座席5の占有状況を表示部103に出力する(
図5~7参照)。また、車上サーバ102は、各座席5の占有状況と発券情報取得部101から取り込んだ各座席5の発券情報とに基いて、座席5に置かれた物が忘れ物・不審物であるか否かを判定し、判定結果を表示部103に出力する(
図5~7参照)。
【0014】
上述した測距センサ6、マイクロスイッチ7、車上サーバ102は、特許請求の範囲に記載した「座席占有状況検知部」に相当する。また、車上サーバ102は、特許請求の範囲に記載した「判定部」に相当する。
【0015】
本例の座席5は、二つの座席5が横並び配置されて一の台枠に支持された二人掛けタイプである。これら二つの座席5を支持した脚台にはペダルが取り付けられており、ペダルを踏むことで座席5の向きを180度変えることができる。各座席5は、
図2,3に示すように、座部2と、背凭れ3と、一対の肘掛け4a、4bと、を備えている。
【0016】
測距センサ6は、
図2,3に示すように、座席5の肘掛け4aに配置されており、座部2上に物体があることを検知する。
図2中の符号61は、測距センサ6の透光窓であり、符号62は投光素子であり、符号63は受光素子である。透光窓61は肘掛け4aの内側面に設けられている。投光素子62からの光は、透光窓61を透過して肘掛け4b側に投光される。座部2上に物体がある場合、投光素子62からの光が物体に反射して透光窓61を透過して受光素子63に受光される。これにより、座部2上に物体があることが検知される。
【0017】
さらに、本例においては、コストを抑えつつ検知範囲をできるだけ広くするために、
図3に示すように、測距センサ6を一つのみ用い、投光素子62から斜め後ろ方向に光Lが投光されるように測距センサ6を設置している。詳細には、単一の測距センサ6を片側の肘掛け4aの前端下部に配置し、投光素子62からの光Lが座部2の左前の角近傍から右後ろの角近傍に向かって対角上に投光されるようにしている。なお、前述した前後左右方向は、座席5の着座者からみた方向である。このような測距センサ6は、人が着座している場合は確実に検知することができ、
図3中に一点鎖線で示す鞄11や二点鎖線で示す鞄12が置かれている場合もほぼ検知することができる。
【0018】
マイクロスイッチ7は、
図2,3に示すように、座席5の背凭れ3内部に配置されており、当該背凭れ3が押圧されていることを検知する。本例のマイクロスイッチ7は、測距センサ6よりも高い位置に配置されている。このように配置することで、背凭れ3が人間の背中で押圧されている際に押圧状態を検知し、背凭れ3の低い位置に荷物が当たっている際にはマイクロスイッチ7が反応しないようにすることができる。マイクロスイッチ7は、ケース71と、ケース71内に設けられた接点部72と、ケース71から突出し、背凭れ3への押圧力を接点部72に伝達するアクチュエータ73と、を備えている。
【0019】
背凭れ3は、背枠31と、背枠31を覆ったクッション材32と、で構成されている。上記マイクロスイッチ7は、背枠31に固定されており、背凭れ3が人間の背中等で押圧されることでアクチュエータ73が変位して接点部72を開閉する。これにより、背凭れ3が押圧されていることを検知する。さらに、本例においては、マイクロスイッチ7の反応をよくするために、アクチュエータ73とクッション材32との間に板9を設けており、この板9でアクチュエータ73を押圧するようにしている。
【0020】
図4の表は、各座席5の占有状況の判定アルゴリズムを示している。車上サーバ102は、座部2上に物体があり(測距センサ○)、背凭れ3が押圧されている(マイクロスイッチ○)場合は座席5に人が着座していると判定する。また、座部2上に物体があり(測距センサ○)、背凭れ3が押圧されていない(マイクロスイッチ×)場合は座席5に物が置かれていると判定する。この判定の根拠は、通常、人は座席5に着座した直後に背凭れ3に凭れかかるが、物を座席5に置いた場合、重力で荷重は下向きにかかり、背凭れ3を後ろに押圧する力はかからないからである。また、座部2上に物体がなく(測距センサ×)、背凭れ3が押圧されていない(マイクロスイッチ×)場合は座席5が空席であると判定する。なお、座部2上に物体がない(測距センサ×)場合に背凭れ3が押圧されている(マイクロスイッチ○)ことは通常あり得ないので、実際には、座部2上に物体がなければ座席5が空席であると判定する。
【0021】
図5~7は、表示部103に表示される情報の一例であり、各座席5の発券情報及び占有状況、座席5に置かれた忘れ物・不審物情報の表示例である。これらは上述したように車上サーバ102から出力されたものである。
図5~7に示すように、表示部103には、座席を模ったマークで構成された座席表が表示される。各座席マークに付された符号51~56は座席番号である。
【0022】
図5中の座席51,53,55は、背凭れと肘掛けの部分が青色で表示されている。これはこの座席51,53,55に発券情報が有ることを意味している。
図5中の座席52,54,56は、背凭れと肘掛けの部分が白色(着色なし)で表示されている。これはこの座席52,54,56に発券情報がないことを意味している。
【0023】
図5中の座席51,56は、座部の部分が白色(マークの表示なし)で表示されている。これはこの座席51,56が空席であることを意味している。
図5中の座席53は、座部の部分に人のマークが青色で表示されている。これは、この座席53に人が着座しており、不正着座ではない正当な着座であることを意味している。発券情報がない座席に人が不正着座している場合は、座部の部分に人のマークが赤色で表示される。
【0024】
図5中の座席52,54,55は、座部の部分に鞄のマークが青色で表示されている。これはこの座席52,54,55に物が置かれており、忘れ物・不審物ではない物であることを意味している。座席に置かれた物が忘れ物・不審物である場合は、座部の部分に鞄のマークが赤色で表示される。ここでの忘れ物・不審物であるか否かの判定は、物が置かれている座席又はその隣の座席の発券情報の有無に基いている。
【0025】
例えば、
図5中の座席55は、発券情報が有る座席であるので、座席55に置かれた物は、この座席55の座席指定券を所持した乗客の手荷物である可能性が極めて高い。よって、座席55に置かれた物は忘れ物・不審物ではないと判定している。
【0026】
図5中の座席54は、発券情報がない座席であるが、その隣の座席53は発券情報が有り、人が着座しているので、座席54に置かれた物は、座席53に着座している乗客の手荷物である可能性が高い。よって、座席54に置かれた物は忘れ物・不審物ではないと判定している。
【0027】
図5中の座席52は、発券情報がない座席であるが、その隣の座席51は発券情報が有るので、座席52に置かれた物は、座席51の座席指定券を所持した乗客の手荷物である可能性が高い。また、座席51は空席であるが、着座している乗客がトイレや電話等で一時的に離席するのはよくあることである。よって、座席52に置かれた物は忘れ物・不審物ではないと判定している。
【0028】
図6は、
図5の状況から時間が経過して発券区間を過ぎた状況での表示例である。発券区間を過ぎたため、座席51,53,55は、背凭れと肘掛けの部分が青色から白色(着色なし)に表示が変わっている。
図5の状況で座席52,54,55に置かれていた物は、
図6の状況でも依然として置かれているが、座席52,54,55の鞄のマークは、発券区間を過ぎてから(即ち、座席51,53,55が発券情報無しになった時点から)所定時間(例えば3分)内は青色で表示される。
【0029】
そして、前記所定時間が経過した時点で、座席52,54,55に置かれた物を忘れ物・不審物であると判定し、
図7に示すように、座席52,54,55の鞄のマークが青色から赤色に変わる。車掌は、この赤色の鞄のマークが表示された場合は、実際に座席52,54,55に出向き、忘れ物・不審物であると判定された物の確認を行う。このように発券情報有りから無しに変わって所定時間が経過した後に忘れ物・不審物であると判定するのは、乗客が手荷物の置き忘れに気付いて取りに戻る可能性を想定しているからであり、やたらに忘れ物・不審物検知をして車掌業務を混乱させることを避けるためである。
【0030】
なお、図示は省略するが、もともと発券情報無しの隣接する2つの空席の何れかに物が置かれた場合も、それが乗客の手荷物の仮置きであることを想定して、所定時間(例えば3分)内は前記物を忘れ物・不審物ではないと判定し、所定時間が経過した後に前記物を忘れ物・不審物であると判定する。
【0031】
このように、本例の忘れ物・不審物検知システム100においては、座席52,54,55に物が置かれていることを検知し、かつ、座席52,54,55又は隣の座席51,53,56が発券情報有りの場合は、前記物が忘れ物・不審物ではないと判定する(
図5参照)。また、発券情報無しの隣接する2つの座席51~56のうちの一方51,53,56が空席、他方52,54,55に物が置かれていることを検知した際、検知した時点から所定時間内は前記物が忘れ物・不審物ではないと判定し(
図6参照)、前記所定時間が経過した時点で隣接する2つの座席51~56の一方51,53,56が空席、他方52,54,55に物が置かれている状態が継続している場合は、前記物が忘れ物・不審物であると判定する(
図7参照)。
【0032】
以下、
図8のフローチャートを参照して車上サーバ102が行う判定処理の流れを説明する。
【0033】
車上サーバ102は、
図8のフローチャートのステップS1において、各座席5毎に発券情報があるか否かを判定する。発券情報があると判定した場合は、ステップS2に進み、異常なし(忘れ物・不審物なし)と判定してステップS1に戻る。発券情報がないと判定した場合は、ステップS3に進む。
【0034】
ステップS3においては、座席5において測距センサ6が座部2上に物体を検知したか否か(空席か、それとも人・物か)を判定する。測距センサ6が座部2上に物体を検知しなかった場合は、ステップS4に進み、異常なし(座席5が空席であり、忘れ物・不審物なし)と判定してステップS1に戻る。測距センサ6が座部2上に物体を検知した場合は、ステップS5に進む。
【0035】
ステップS5においては、座席5においてマイクロスイッチ7が背凭れ3の押圧を検知したか否か(人か物か)を判定する。マイクロスイッチ7が背凭れ3の押圧を検知した場合は、ステップS6に進み、異常あり(発券情報がない座席5に人が不正着座している)と判定する。マイクロスイッチ7が背凭れ3の押圧を検知しなかった場合は、ステップS7に進む。
【0036】
ステップS7においては、物が置かれた座席5の隣の座席5に発券情報があるか否かを判定する。発券情報がある場合は、ステップS8に進み、異常なし(座席5に物が置かれているが、忘れ物・不審物ではない)と判定してステップS1に戻る。発券情報がないと判定した場合は、ステップS9に進む。
【0037】
ステップS9においては、ステップS5で座席5に物が置かれたことを検知してからn分経過したか否かを判定する。n分経過していない場合は、ステップS10に進み、異常なし(座席5に物が置かれているが、忘れ物・不審物ではない)と判定してステップS1に戻る。n分経過している場合は、ステップS11に進み、異常あり(座席5に置かれた物が忘れ物・不審物である)と判定する。
【0038】
また、車上サーバ102は、ステップS2,S4,S6,S8,S10,S11での判定結果を、表示部103に送信する。
【0039】
以上説明したように、本例の忘れ物・不審物検知システム100によれば、車掌が車内巡回することなく、表示部103を見ることによって座席5に置かれた忘れ物・不審物の存在を知ることができ、業務を効率化できる。また、忘れ物や不審物を早期に発見することができ、サービス向上、安全性向上に役立てることができる。
【0040】
上述した実施形態では、二人掛けの座席を例に説明したが、本発明の忘れ物・不審物検知システムは、三人掛けの座席にも適用することができる。また、上述した実施形態では、測距センサ6、マイクロスイッチ7、車上サーバ102で座席占有状況検知部が構成されていたが、本発明はこれに限らず、例えば、マイクロスイッチ7の代わりに感圧素子等を用いることもできる。
【0041】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。すなわち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
5 座席
100 忘れ物・不審物検知システム
101 発券情報取得部
102 車上サーバ(判定部)