(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/60 20060101AFI20250922BHJP
C07C 211/50 20060101ALI20250922BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250922BHJP
【FI】
C07C209/60
C07C211/50
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022036440
(22)【出願日】2022-03-09
【審査請求日】2024-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000187046
【氏名又は名称】東レ・ファインケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】中谷 仁郎
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-516434(JP,A)
【文献】特開2011-084502(JP,A)
【文献】特開平02-261524(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104926667(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0278948(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9-フルオレノンと該9-フルオレノンに対して7.5モル倍以上12.5モル倍以下の2-フルオロアニリンを芳香族スルホン酸の存在下で縮合反応させて、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含む反応液を得る工程を含む、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項2】
前記芳香族スルホン酸がp-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸のいずれか、またはその水和物、またはそれらの混合物である、請求項1に記載の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法。
【請求項3】
前記縮合反応において、前記芳香族スルホン酸を前記9-フルオレノンに対して1.0モル倍以上3.0モル倍以下使用する、請求項1または2に記載の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンは、構造中に電子求引性のフッ素原子を有しているため、この化合物を出発物質に含むポリイミド、ポリアミド、エポキシ樹脂は誘電率の低下や耐熱性の向上が期待でき、電子情報材料、複合材料など、工業用途として多岐にわたる分野で使用可能である。
【0003】
9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンは9-フルオレノンと2-フルオロアニリンを縮合して得られる。しかしながら得られる9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンは着色しやすいという問題があった。
【0004】
特に、液晶ディスプレイ基板やフレキシブルディスプレイ基盤などの透明性が求められる光学用途で用いられるためには、着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが必要である。
【0005】
特許文献1では9-フルオレノンと2-フルオロアニリンの反応において、9-フルオレノンに対し7.0モル倍の2-フルオロアニリンと1.3モル倍のトリフルオロメタンスルホン酸を用いて縮合反応を行っている。
【0006】
特許文献2では、9-フルオレノンと2-フルオロアニリンの反応において、9-フルオレノンに対し15モル倍の2-フルオロアニリン存在下、9-フルオレノンに対し、0.9モル倍の塩酸または2-フルオロアニリン塩酸塩を用いて縮合反応を行い、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを活性炭の使用によって脱色している。
【0007】
特許文献3では、9-フルオレノンと2-フルオロアニリンの反応において、9-フルオレノンに対し8.0モル倍の2-フルオロアニリンとチタン系固体酸触媒を用いて縮合反応を行っている。
【0008】
特許文献1では、酸触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸を用いて9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを製造する方法が記載されている。しかし、収率は45%と低く、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの着色に関する記載がない。またトリフルオロメタンスルホン酸は揮発性の液体であるため、設備を腐食する懸念がある。
【0009】
特許文献2では、酸触媒として塩酸を用いて9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを製造する方法が記載されている。塩酸は2-フルオロアニリンと塩を形成し、一部は縮合反応中に析出してしまうため、攪拌しづらい状態に陥る。また、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの脱色に活性炭を用いることは製造工程が煩雑になるという問題がある上、その脱色工程に関する実施例の記載がない。
【0010】
特許文献3の反応では、酸触媒としてチタン系固体超強酸を用いている。このチタン系酸触媒から微量の金属が溶けだし、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンに金属が残存し、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを使用したポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂等の物性に悪影響を及ぼす懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平2-261524号公報
【文献】特開2011-84502号公報
【文献】中国特許第104926667号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを高収率で生産できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法は、9-フルオレノンと該9-フルオレノンに対して7.5モル倍以上12.5モル倍以下の2-フルオロアニリンを芳香族スルホン酸の存在下で縮合反応させて9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含む反応液を得る工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法によれば、9-フルオレノンと特定量の2-フルオロアニリンを芳香族スルホン酸の存在下で縮合反応させて9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含む反応液を得る工程を含むことで着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが高収率で得られる。9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含む反応液を得た後、一般的な精製工程である中和処理と冷却晶析をするだけで着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが高収率で得られる工業的に優れた製造方法である。本発明の製造方法により得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンは10mg/mLテトラヒドロフラン溶液を調製したとき、波長400~900nmのすべての範囲における光線透過率が97%以上と着色の少ないものであり、電子情報材料、光学材料、複合材料などで使用することができる。なお、光線透過率の上限は理論上100%となるため、特に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例において、縮合反応に用いる酸触媒の種類を変化させて合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンのテトラヒドロフラン溶液の光線透過率を比較した図である。
【
図2】実施例において、2-フルオロアニリンの使用量を変化させて合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンのテトラヒドロフラン溶液の光線透過率を比較した図である。
【
図3】実施例において、p-トルエンスルホン酸の使用量を変化させて合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンのテトラヒドロフラン溶液の光線透過率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の詳細を記載する。
本発明で製造する9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンは、9-フルオレノンと2-フルオロアニリンを縮合反応させることにより製造される。
【0017】
本発明の縮合反応で用いる2-フルオロアニリンの量は、9-フルオレノンのモル数に対し、7.5モル倍以上12.5モル倍以下である。2-フルオロアニリンを7.5モル倍以上、12.5モル倍以下使用することにより、着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン化合物を製造することができる。特に、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの10mg/mLテトラヒドロフラン溶液を調製したとき、波長400~900nmのすべての範囲において、光線透過率が97%以上であり着色が少ない。
【0018】
9-フルオレノンおよび2-フルオロアニリンの縮合反応は、芳香族スルホン酸の存在下で行われる。芳香族スルホン酸は2-フルオロアニリンに可溶な酸触媒であり、また芳香族スルホン酸と2-フルオロアニリンの塩も2-フルオロアニリンに溶解するため、本発明の縮合反応中に塩が析出することがなく、攪拌に支障をきたすことがない。一方、メタンスルホン酸やトリフルオロメタンスルホン酸などの液体で揮発性のあるスルホン酸を用いると、設備を腐食する懸念があり扱いづらい。さらに、芳香族スルホン酸は、縮合反応中に2-フルオロアニリンを酸化しづらいため、着色成分が生じにくい。酸化力のある酸触媒、例えばリンタングステン酸やケイタングステン酸などのヘテロポリ酸を用いると、反応液が赤紫色に着色する。これは、2-フルオロアニリンが酸触媒に酸化されて着色成分を生じているためと考えられる。その結果、芳香族スルホン酸を使用することにより、得られる9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの着色が少なくなる利点が生じる。
【0019】
芳香族スルホン酸としてp-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、m-キシレン-4-スルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、2-ナフタレンスルホン酸またはそれらの水和物が例示される。これらの芳香族スルホン酸は混合して用いてもよい。より好ましくはp-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸一水和物、ベンゼンスルホン酸である。
【0020】
芳香族スルホン酸の量は、9-フルオレノンのモル数に対し、好ましくは0.1モル倍以上5.0モル倍以下であり、より好ましくは、1.0モル倍以上3.0モル倍以下である。芳香族スルホン酸を0.1モル倍以上使用することにより、縮合反応を効率的に進めることができる。また、芳香族スルホン酸を3.0モル倍以下使用することにより、高価な芳香族スルホン酸を効率的に使用することができる。
【0021】
9-フルオレノンおよび2-フルオロアニリンの縮合反応において、水が生成するが、これを除去しながら反応させることが好ましい。この目的で反応系内に不活性ガスを通気しながら、これに生成水を同伴させる、あるいは共沸溶媒を共存させて、連続的に生成水を除去する方法が用いられる。不活性ガスとしては、窒素が好ましく用いられる。共沸溶媒としては、反応系に不活性な溶媒が用いられ、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。好ましくは、トルエンまたはキシレンが用いられる。この共沸溶媒の使用量は、9-フルオレノンの質量に対し、0.5~10質量倍が好ましい。
【0022】
縮合反応は、酸素を含まない不活性雰囲気下で行うことが好ましい。具体的には、実質的に酸素を含まない窒素ガスを反応系内に通気させることで行うことができる。酸素存在下で行うと、2-フルオロアニリンが酸化され、着色物質が生成し、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを着色させてしまうことがある。
【0023】
反応温度は、好ましくは80~170℃、より好ましくは、120~160℃である。反応温度が80℃より低いと反応完結に長時間を要することになり、170℃よりも高いと、2-フルオロアニリンの沸点を上回るため、水とともに2-フルオロアニリンも系外へ排出されてしまう。また、未反応の2-フルオロアニリンの回収・再利用は、製造コスト低減のため重要であるが、2-フルオロアニリンが系外へ排出されると2-フルオロアニリンの回収率が低下し、原単位悪化や廃棄物の増大を招いてしまう。
【0024】
反応時間は、反応温度に依存するが、好ましくは3~100時間、より好ましくは5~80時間である。反応終点は反応液の液体クロマトグラフィー分析で、好ましくは、9-フルオレノンと中間体である9-フルオレノンに2-フルオロアニリン1分子が縮合したイミン体のピーク面積の合計が、全体のピーク面積から2-フルオロアニリンと芳香族スルホン酸のピーク面積の合計を除いたピーク面積の好ましくは5.0面積%以下、より好ましくは、2.0面積%以下となる時点と設定できる。
【0025】
反応完結後の反応液は、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンに加え、過剰の2-フルオロアニリンと芳香族スルホン酸、不純物を含んでいる。この反応液にアルカリ水溶液を加えて洗浄する操作により芳香族スルホン酸を除去することができる。これにより晶析操作により取得した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン中の芳香族スルホン酸含有量を低減できる。すなわち、晶析した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン中の芳香族スルホン酸含有量を30ppm以下に実質的に低減することができる。
【0026】
反応完結後の反応液は2-フルオロアニリンを加えて希釈することが好ましい。9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの2-フルオロアニリンに対する溶解度は100℃において17質量%であるため、それ以下の濃度であれば、アルカリ水溶液を加えて洗浄する操作中に9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが析出することを避けることができる。実質的に反応液を希釈する際の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの濃度の下限はないが、例えば9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの濃度を5質量%に希釈すると、用いる2-フルオロアニリンが増えることと、その後の晶析操作における9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの晶析率が低下することから生産性が低下する。そのため、反応液中の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの濃度は11~17質量%が好ましい。
【0027】
アルカリ性水溶液としては、アルカリ金属水酸化物水溶液、アルカリ金属炭酸塩水溶液、アルカリ金属水素炭酸塩水溶液、アルカリ金属亜硫酸塩水溶液を使用してもよい。アルカリ金属水酸化物水溶液としては、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液が、アルカリ金属炭酸塩水溶液としては炭酸ナトリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸カリウム水溶液が、アルカリ金属炭酸水素塩水溶液としては炭酸水素ナトリウム水溶液が、アルカリ金属亜硫酸塩水溶液としては亜硫酸ナトリウム水溶液が例示される。
【0028】
アルカリ性水溶液中の塩基のモル量は、反応で用いた芳香族スルホン酸のモル量に対して過剰であることが好ましい。より好ましくは、芳香族スルホン酸のモル量に対して1.1~2.0モル倍である。
【0029】
アルカリ性水溶液の質量は、反応液質量に対して好ましくは0.25倍~4倍、より好ましくは0.5倍~2倍である。アルカリ性水溶液の質量を0.5倍以上にすることにより、有機相と水層の分離性が向上する。また、アルカリ性水溶液の質量を2倍以下にすることにより廃水量を減らすことができる。
【0030】
アルカリ性水溶液による洗浄後の溶液にはアルカリ金属イオンが若干残留しているため、水で洗浄することで残存しているアルカリ金属イオンを除くことが好ましい。水の質量は、アルカリ性水溶液による洗浄後の溶液の質量に対して好ましくは0.25倍~4倍、より好ましくは0.5倍~2倍である。
【0031】
アルカリ性水溶液、またはアルカリ性水溶液および水による洗浄後の有機相は0~10℃まで冷却することで9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが析出する。これをろ過し、貧溶媒をかけてリンス洗浄することで着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを高収率で取得できる。
【0032】
洗浄に使用する貧溶媒はアルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒またはアミド系溶媒を使用してもよいが、リンス洗浄の溶媒として、好ましくはアルコール系溶媒が用いられる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が例示される。
洗浄に使用する貧溶媒の質量は9-フルオレノンの質量に対し、好ましくは0.1~10倍である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例のみに制限されるものではない。なお、本明細書において得られる9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの分析値は、次の方法により測定した。
【0034】
(転化率、反応収率、化学純度)
以下の条件の液体クロマトグラフィー(島津製作所社製LC-20A)により測定された、全体のピーク面積から2-フルオロアニリンとp-トルエンスルホン酸のピーク面積を除いた面積に対する、9-フルオレノンのピーク面積の分率(HPLC 面積%)を測定し、100%からその値を引いた値を9-フルオレノン転化率(%)とした。同様に9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンのピーク面積の分率(HPLC 面積%)を測定し、これを反応収率(%)とした。
【0035】
また、精製後得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを以下の条件の液体クロマトグラフィー(島津製作所社製LC-20A)により測定し、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンのピーク面積の分率を化学純度(LC面積%)とした。
・カラム: YMC―Pack ODS-AM 4.6φ×250mm
・カラム温度: 40℃
・移動相: 0.1%(v/v)リン酸水溶液を組成(A)、アセトニトリルを組成(B)とし、下記のグラジエントに示した組成(A/B)で変化させた。
・グラジエント
時間(分) 組成(A/B)
0 60/40
10 45/55
15 20/80
25 20/80
30 10/90
40 10/90
45 40/60
60 40/60
・流量: 1ml/min
・注入量: 10μl
・検出: UV 254nm
・分析時間: 45分
・分析サンプル調製:サンプル0.02gを秤量し、アセトニトリル約40mlに希釈
ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0036】
(p-トルエンスルホン酸含有量)
得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン中のp-トルエンスルホン酸含有量は上記条件の液体クロマトグラフィー(島津製作所社製LC-20A)で検出UV波長を225nmに変更して測定した。
【0037】
p-トルエンスルホン酸含有量の定量方法は内部標準法を用いた。p-トルエンスルホン酸の標品にはp-トルエンスルホン酸一水和物(ナカライテスク社製 一級)を、内部標準物質にはジフェニルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)を用いた。ジフェニルエーテルの濃度は134mg/Lで固定し、p-トルエンスルホン酸一水和物濃度をそれぞれ0.2、0.6、1.0mg/Lとしたアセトニトリル溶液を調製し、検量線を作成した。
【0038】
p-トルエンスルホン酸測定サンプルには、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの4mg/mLアセトニトリル溶液を調製して測定に用いた。ただし、上記の分析条件に基づく分析結果と同じ結果が得られる限り、この分析条件に限定されるものではない。
【0039】
(光線透過率測定)
光線透過率測定サンプルには、得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの10mg/mLテトラヒドロフラン溶液を調製し、以下の条件の紫外可視分光光度計(島津製作所社製UV-1900)で測定した。
・測定波長 400-900nm
・測定セル 石英セル(光路長1.0cm)
・スキャンスピード 中速
・サンプリングピッチ 1.0nm
・測光値の種類 透過率
・ベースライン測定 テトラヒドロフランでベースライン測定
【0040】
(実施例1)
温度計、冷却管および攪拌機を取り付けた300mL四つ口フラスコに、9-フルオレノン6.3g(35ミリモル)、2-フルオロアニリン38.9g(10モル倍/9-フルオレノン)、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)を仕込んだ。窒素雰囲気攪拌下、液温150℃に昇温し、反応を開始した。反応中、水を留去しながら、19時間熟成することにより縮合反応を行った。反応終了後の9-フルオレノンの転化率は、100%(LC面積%)、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの反応収率は、93.7%であった。
【0041】
得られた反応液に2-フルオロアニリン77.8g(20モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)を加えた。その後5質量%炭酸ナトリウム水溶液124.2g(1.7モル倍/p-トルエンスルホン酸一水和物)を加えて90℃で洗浄した。水層を払い出し、純水124.2gを加えて90℃で洗浄した。水層を払い出し、洗浄後の有機層を放冷することで9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含むスラリー液を得た。このスラリー液をろ過することでケークを得た。このケークを60℃、減圧度 0.01kPa以下で一晩真空乾燥し、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.1g(単離収率 75.1質量%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、98.9%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、2-フルオロアニリン38.9g(10モル倍/9-フルオレノン)を2-フルオロアニリン29.2g(7.5モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は10時間で完結し、反応収率は93.5%であった。精製は実施例1において2-フルオロアニリン77.8g(20モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)を2-フルオロアニリン87.5g(23モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)に変更した以外は、実施例1と同様に精製を実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.2g(単離収率 76.0%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.0%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、2-フルオロアニリン38.9g(10モル倍/9-フルオレノン)を2-フルオロアニリン48.6g(12.5モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は20時間で完結し、精製は実施例1おいて2-フルオロアニリン77.8g(20モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)を2-フルオロアニリン68.1g(18モル倍/9-フルオレノン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)に変更した以外は、実施例1と同様に精製を実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.6g(単離収率 78.9%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、98.9%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0044】
(実施例4)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)をp-トルエンスルホン酸一水和物10.0g(1.5モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は10時間で完結し、反応収率は94.3%であった。精製は実施例1と同様に実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.7g(単離収率 79.2%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.2%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0045】
(実施例5)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)をp-トルエンスルホン酸一水和物20.0g(3.0モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は8時間で完結し、反応収率は92.5%であった。精製は実施例1おいて5質量%炭酸ナトリウム水溶液124.2g(1.7モル倍/p-トルエンスルホン酸一水和物)を10質量%炭酸ナトリウム水溶液124.2g(1.1モル倍/p-トルエンスルホン酸一水和物)に変更した以外は、実施例1と同様に精製を実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン9.3g(単離収率 69.4%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.2%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)を35%塩酸3.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は47時間経過しても完結しなかったが、その時点で反応を終了した。精製は実施例1と同様に実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを薄紫色固体として7.2g得た。この固体を温度計、冷却管および攪拌機を取り付けた300mL四つ口フラスコに仕込み、トルエン120.0gを加えて加熱還流した後放冷することで9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを再晶析した。これをろ過してケークを得た。このケークを60℃、減圧度 0.01kPa以下で一晩真空乾燥し、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン5.6g(単離収率 41.8%/9-フルオレノン基準)を薄紫色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.4%(LC面積%)であった。
【0047】
(比較例2)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)を硫酸3.4g(1.0モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は75時間経過しても完結しなかったが、その時点で反応を終了した。精製は実施例1と同様に実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン6.8g(単離収率 50.5%/9-フルオレノン基準)を薄紫色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、98.1%(LC面積%)であった。
【0048】
(比較例3)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)をリンタングステン酸水和物1.2g(0.01モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。リンタングステン酸水和物を仕込んだ直後、反応液は赤紫色に着色した。反応は24時間で完結し、精製は実施例1と同様に実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.2g(単離収率 76.1%/9-フルオレノン基準)を薄紫色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.4%(LC面積%)であった。
【0049】
(比較例4)
実施例1において、p-トルエンスルホン酸一水和物6.7g(1.0モル倍/9-フルオレノン)をケイタングステン酸水和物1.2g(0.01モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。ケイタングステン酸水和物を仕込んだ直後、反応液は赤紫色に着色した。反応は24時間で完結し、精製は実施例1と同様に実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン9.7g(単離収率 71.8%/9-フルオレノン基準)を薄紫色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.4%(LC面積%)であった。
【0050】
(比較例5)
実施例1において、2-フルオロアニリン38.9g(10モル倍/9-フルオレノン)を2-フルオロアニリン19.4g(5.0モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は7時間で完結し、反応収率は91.4%であった。精製は実施例1おいて2-フルオロアニリン77.8g(20モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)を2-フルオロアニリン97.2g(25モル倍/9-フルオレノン、希釈後の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)に変更した以外は、実施例1と同様に精製を実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.0g(単離収率 74.5%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、99.1%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0051】
(比較例6)
実施例1において、2-フルオロアニリン38.9g(10モル倍/9-フルオレノン)を2-フルオロアニリン58.3g(15.0モル倍/9-フルオレノン)に変更した以外は、実施例1と同様に反応を実施した。反応は21時間で完結し、反応収率は93.1%であった。精製は実施例1おいて2-フルオロアニリン77.8g(20モル倍/9-フルオレノン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)を2-フルオロアニリン58.3g(15モル倍/9-フルオレノン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン濃度11質量%)に変更した以外は、実施例1と同様に精製を実施した。その結果、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン10.1g(単離収率 75.3%/9-フルオレノン基準)を白色固体として取得した。液体クロマトグラフィー分析による化学純度は、98.8%(LC面積%)、液体クロマトグラフィー内部標準法によるp-トルエンスルホン酸含有量は30ppm未満であった。
【0052】
上述した実施例1~5の概要を表1に、比較例1~6の概要を表2に記載する。光線透過率に関して、測定結果が波長400~900nmのすべての範囲で透過率が97%以上であるものを〇、そうでないものを×と表記する。また、実施例1~5と比較例1~6における光線透過率測定の結果を
図1~3に記載する。
【0053】
図1は、2-フルオロアニリンを9-フルオレノンに対して10モル倍、各種酸触媒を使用して合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの10mg/mLテトラヒドロフラン溶液の波長400~900nmにおける光線透過率を比較した図である。
【0054】
図2は、p-トルエンスルホン酸を9-フルオレノンに対して1.0モル倍、2-フルオロアニリンを9-フルオレノンに対して5.0~15モル倍使用して合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの10mg/mLテトラヒドロフラン溶液の波長400~900nmにおける光線透過率を比較した図である。
【0055】
図3は、2-フルオロアニリンを9-フルオレノンに対して10モル倍、p-トルエンスルホン酸を9-フルオレノンに対して1.0~3.0モル倍使用して合成した9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの10mg/mLテトラヒドロフラン溶液の波長400~900nmにおける光線透過率を比較した図である。
【0056】
酸化力のないp-トルエンスルホン酸を用いたところ、透過率97%以上の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンが高収率で得られた。一方で、塩酸、硫酸を用いると透過率と収率は低下した。また、酸化力を有するリンタングステン酸、ケイタングステン酸では収率は高いが、透過率は97%未満となった。
【0057】
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法によれば、9-フルオレノンと2-フルオロアニリンを芳香族スルホン酸の存在下で縮合反応させて9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを含む反応液を得た後、一般的な精製工程である中和処理と冷却晶析をすることで着色の少ない9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンを高収率で得られる。本発明の9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレンの製造方法は工業的に優れた製造方法である。
【0060】
本発明の製造方法により得られた9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン化合物は、電子情報材料、光学材料、複合材料などで使用することができる。