(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】軌道車両のポジションを求める方法および監視システム
(51)【国際特許分類】
B61L 25/02 20060101AFI20250922BHJP
B61L 23/00 20060101ALI20250922BHJP
G01S 5/14 20060101ALI20250922BHJP
G01S 13/79 20060101ALI20250922BHJP
【FI】
B61L25/02 G
B61L23/00 A
G01S5/14
G01S13/79
(21)【出願番号】P 2022536851
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2020082791
(87)【国際公開番号】W WO2021121854
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-11-16
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524161173
【氏名又は名称】プロデス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング シュースター
(72)【発明者】
【氏名】ゴットフリート シュースター
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン アウアー
(72)【発明者】
【氏名】ベルンハルト アントニー
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107600116(CN,A)
【文献】特開2019-188968(JP,A)
【文献】米国特許第06084547(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0296562(US,A1)
【文献】特開2008-191841(JP,A)
【文献】特開2008-227877(JP,A)
【文献】特開2009-19860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 25/02
B61L 23/00
G01S 5/14
G01S 13/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステレオカメラシステム(11)と評価装置(12)とを含む光学測定システム(5)によって、線路(8)上で移動する軌道車両(1)のポジションを求める方法であって、
前記ステレオカメラシステム(11)によって、前記線路(8)の側方周辺における基準点(13)の画像ペアが撮影され、写真測量法によって、前記基準点(13)に対する前記軌道車両(1)のポジションが求められる、方法において、
付加的に、前記軌道車両(1)のポジションが、前記軌道車両(1)に取り付けられたアンカモジュール(15)と、
前記基準点(13)
のうち複数に取り付けられたトランスポンダ(16)と、伝播時間特定およ
び三辺測量によるリアルタイム位置特定のために設けられたコンピュータユニットとを用いて、リアルタイムに位置特定する無線ベースの測定システム(6)によって検出され、
両方の前記測定システム(5、6)のポジションデータが、システムセンタ(17)によって照合され、
前記軌道車両(1)のポジションを検出するための前記無線ベースの測定システムによって、前記線路(8、9)で作業しており個人に関連づけられたトランスポンダ(16)が装備されている人(10)の目下のポジションが検出され、
個人に関連づけられた前記トランスポンダ(16)が危険領域(22)内に存在しているか否かについて、継続的に評価され、危険な状況が発生している危険領域(22)内に前記人(10)が存在している場合、警報信号が送出されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アンカモジュール(15)と前記トランスポンダ(16)との間で、チャープスペクトラム拡散によりマルチラテレーション方式の信号伝送が実施される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
線路網内のポジションデータを特定するために、前記基準点(13)と共に検出された光学符号が評価される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記トランスポンダ(16)のうちの少なくとも1つは、線路網内のポジションデータを特定するためのディジタル符号を送信する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか1項記載の方法を実施する監視システム(4)であって、当該監視システム(4)は、線路(8)の側方周辺にポジショニングされた基準点(13)と、前記線路(8)上を走行可能な軌道車両(1)とを含み、該軌道車両(1)は、前記基準点(13)に対する該軌道車両(1)のポジションを検出する光学測定システム(5)を備えている、監視システム(4)において、
付加的に、前記軌道車両(1)に取り付けられたアンカモジュール(15)と、
前記基準点(13)
のうち複数に取り付けられたトランスポンダ(16)と、伝播時間特定およ
び三辺測量によるリアルタイム位置特定のために設けられたコンピュータユニットとによって、リアルタイムに位置特定する無線ベースの測定システム(6)が設けられており、
両方の測定システム(5、6)のポジションデータを照合するために、該両方の測定システム(5、6)にシステムセンタ(17)が結合されて
おり、
前記線路(8、9)で作業している人(10)にパーソナル警報機器(19)が装備されており、該パーソナル警報機器(19)は、個人に関連づけられたトランスポンダ(16)を含み、前記システムセンタ(17)は、前記個人に関連づけられたトランスポンダ(16)が危険領域(22)内に存在しているか否かを継続的に評価し、自動警報システム(23、24)が、危険な状況が発生している危険領域(22)内に前記人(10)が存在している場合に警報信号を送出することを特徴とする監視システム(4)。
【請求項6】
前記システムセンタ(17)は、危険時に強制制動をトリガするために、前記軌道車両(1)の機械制御部と結合されている、請求項
5記載の監視システム(4)。
【請求項7】
前記アンカモジュール(15)および前記トランスポンダ(16)は、チャープスペクトラム拡散を用いたマルチラテレーション方式の信号伝送のために設けられており、該信号伝送を評価するために少なくとも1つのコンピュータユニット(18)が設けられている、請求項
5または
6記載の監視システム(4)。
【請求項8】
各トランスポンダ(16)は、識別信号を周期的に送出するために設けられている、請求項
5から
7までのいずれか1項記載の監視システム(4)。
【請求項9】
両方の測定システム(5、6)のポジションデータを照合するために、冗長的なシステムセンタ(17)が設けられている、請求項
5から
8までのいずれか1項記載の監視システム(4)。
【請求項10】
1つの基準ユニット(38)が、1つの光学測定マーカと、前記トランスポンダ(16)のうちの1つとを含む、請求項
5から
9までのいずれか1項記載の監視システム(4)。
【請求項11】
前記軌道車両(1)は、少なくとも1つのGNSS受信装置(30、33、34)を備えている、請求項
5から1
0までのいずれか1項記載の監視システム(4)。
【請求項12】
前記軌道車両(1)は、少なくとも1つの移動無線モジュール(20)を備えている、 請求項
5から1
1までのいずれか1項記載の監視システム(4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステレオカメラシステムと評価装置とを含む光学測定システムによって、線路上で移動する軌道車両のポジションを求める方法に関し、その際にステレオカメラシステムによって、線路の側方周辺における基準点の画像ペアが撮影され、写真測量法によって、基準点に対する軌道車両のポジションが求められる。さらに本発明は、この方法を実施する監視システムにも関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道施設は、数多くの安全規則に従うことが義務づけられている。このことはとりわけ、線路施設の保守または線路工事作業に当てはまる。特に、危険な状況を早期に識別できるようにする目的で、線路工事機械として運行される軌道車両を継続的に位置特定しなければならない。この要求を満たすために、種々の装置および方法が公知である。これは、線路内に組み込まれたものからグローバルナビゲーション衛星システム(GNSS)の利用に至るまで多岐にわたる。独国特許出願公開第102015207223号明細書から、列車制御および列車保安システムにより軌道車両を位置特定する解決手段が公知である。
【0003】
オーストリア国特許出願公開第518579号明細書には、線路工事においてポジション特定する精密な測定システムが開示されている。この解決手段は一方では、目下の線路位置をミリメータ精度で検出するために用いられる。これによって他方では、測定システムが装備された軌道車両の位置特定が実施される。具体的には、この測定システムは、位置固定された基準システムにおいて、慣性測定ユニットおよび経路センサの測定を照合するために用いられる。この目的で、線路側方に位置する基準点がステレオカメラシステムによって撮影され、それらの位置が特定される。基準点として、電柱などの固定機構に取り付けられている慣用のマーキングボルトが用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の基礎とする課題は、冒頭で述べた形式の方法を、軌道車両を位置特定する際に高度な信頼性が得られるように改善することである。これに加えて、軌道車両の信頼性のあるロバストな位置特定を可能にする監視システムが提供されるようにしたい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、これらの課題は、請求項1記載の方法および請求項7記載の監視システムによって解決される。従属請求項には、本発明の有利な実施形態が記載されている。
【0006】
この場合、軌道車両のポジションが付加的に、軌道車両に取り付けられたアンカモジュールと、複数の基準点に取り付けられたトランスポンダとを用いて、リアルタイムに位置特定する無線ベースの測定システムによって検出され、その際に両方の測定システムのポジションデータが、システムセンタによって照合される。このようにして、ポジションデータを生成するために、2つの独立した測定システムが使用される。これらのポジションデータの照合によって、軌道車両のとりわけ信頼できる位置特定が保証される。たとえ一方のシステムが故障しても、軌道車両は位置特定できるように維持され、それによって高度な安全性要求が満たされている。
【0007】
本発明の有利な発展形態によって提案されるのは、アンカモジュールとトランスポンダとの間で、チャープスペクトラム拡散によりマルチラテレーション方式の信号伝送が実施される、ということである。いわゆるチャープパルスのスペクトラム拡散のために用いられる変調技術が、チャープスペクトラム拡散(Chirp Spread Spectrum,CSS)と呼ばれる。対応する変調方式は、標準IEEE802.15.4aにおいて規格化されている。チャープスペクトラム拡散を用いた信号変調によって、たとえばGNSS信号においてジャミングまたはスプーフィングによって引き起こされるかもしれない信号変造のリスクが回避される。
【0008】
さらなる改善によって提案されるのは、線路網内のポジションデータを特定するために、基準点と共に検出された光学符号が評価されるということである。これはたとえばQRコード(登録商標)であり、このコードは、線路網内の基準点のポジションに関する情報を含んでいる。そのロバスト性ゆえに、かかる光学符号は、線路工事での使用にとりわけ適している。
【0009】
これに加えて、トランスポンダのうちの少なくとも1つが、線路網内のポジションデータを特定するためのディジタル符号を送信すると、有利である。このようにして、無線ベースの測定システムによるだけで、線路網内の軌道車両を位置特定可能である。その際に好適であるのは、無線コネクションの障害時にシステム安全性を維持する目的で、様々な冗長性を用意することである。たとえば、障害のない位置特定の場合に必要とされるであろうものよりも多くの、ポジションデータを有するトランスポンダとアンカモジュールとが設置される。
【0010】
本発明の有利な拡張によれば、無線ベースの測定システムによって、線路で作業しており個人に関連づけられたトランスポンダが装備されている人の目下のポジションが検出される。かくして、線路上で作業している人のポジションは、いかなるときでも既知である。危険が発生したときに自動化された警報を発する目的で、対応するポジションデータが利用される。
【0011】
この場合、個人に関連づけられたトランスポンダが危険領域内に存在しているか否かについて、継続的に評価され、危険な状況が発生している危険領域内に人が存在している場合に警報信号が送出されると、有利である。かかる危険な状況はたとえば、作業線路に軌道車両が接近することから発生する。しかも、それらの人のポジションデータを隣接線路上で接近している軌道車両のポジションデータと照合することができる。接近が発生している場合、個人に関連する警報が発せられ、これによって、全体に働きかける聴覚的および視覚的な警報発生器による作業班警報システムの必要性がなくなる。
【0012】
既述の方法のうちの1つを実施する本発明による監視システムは、線路の側方周辺にポジショニングされた基準点と、線路上を走行可能な軌道車両とを含み、この軌道車両は、基準点に対するこの軌道車両のポジションを検出する光学測定システムを備えている。この場合、付加的に、軌道車両に取り付けられたアンカモジュールと、複数の基準点に取り付けられたトランスポンダとによって、リアルタイムに位置特定する無線ベースの測定システムが設けられており、その際、両方の測定システムのポジションデータを照合するために、これら両方の測定システムにシステムセンタが結合されている。
【0013】
有利な発展形態によれば、システムセンタは、危険時に強制制動をトリガするために、軌道車両の機械制御部と結合されている。この目的で、システムセンタは、他の軌道車両から、さらに線路上に存在する人から、ポジションデータを受信する。接近限界よりも近づいた場合、または規定された安全領域内に侵入した際に、強制制動がトリガされる。
【0014】
無線ベースの測定システムの1つの改善によって提案されるのは、アンカモジュールおよびトランスポンダは、チャープスペクトラム拡散を用いたマルチラテレーション方式の信号伝送のために設けられており、この信号伝送を評価するために少なくとも1つのコンピュータユニットが設けられている、ということである。この場合、故障に対するシステムの安全性を保証する目的で、冗長性が有用である。たとえば、複数のコンピュータユニットが相互に接続されて、ハイアベイラビリティのクラスタが形成されている。このようにして、1つのコンピュータユニットが故障したときに、無線ベースの測定システムによって引き続き信頼性のある位置特定を行うことができる。
【0015】
有利には、各トランスポンダは、識別信号を周期的に送出するために設けられている。この場合、周期期間は所定の要求に合わせられている。周期期間を短くすれば、構成要素の応答をいっそう迅速にすることができる。トランスポンダのエネルギー消費を僅かにするためには、いっそう長い周期期間が有利である。
【0016】
両方の測定システムのポジションデータを照合するために、冗長的なシステムセンタが設けられていると、故障に対する監視システムの安全性がさらに高められる。したがって、少なくとも2つのシステムセンタがハイアベイラビリティのクラスタを成し、これによって付加的に利用可能な光学測定システムと併せて、極めて高度な安全性要求段階(安全度水準、SIL)が達成される。
【0017】
システム構成要素のさらなる改善によれば、1つの基準ユニットが、1つの光学測定マーカと、トランスポンダのうちの1つとを有している。かかる基準ユニット内に、両方の測定システムの機能が組み込まれている。その際に好適には、個々の光学基準点と、対応するトランスポンダの基準点とが一致している。このようにすれば、結果として生じるポジションデータを著しく容易に照合することができる。
【0018】
線路で作業している人にパーソナル警報機器が装備されており、このパーソナル警報機器が、個人に関連づけられたトランスポンダと移動無線モジュールとを有していれば、監視システムが有利な態様で発展的に形成される。かくして、この機器は、ポジション特定機能もパーソナル警報機能も満たす。警報発生器としてたとえば、危険な状況において移動無線モジュールを介して起動される振動アームバンドが使用される。
【0019】
さらなる改善によって提案されるのは、軌道車両が少なくとも1つのGNSS受信装置を含むということである。これによって、監視システムの信頼性および故障に対する安全性を高めるさらなる位置特定システムが実現されている。
【0020】
軌道車両が少なくとも1つの移動無線モジュールを備えていると、軌道車両と外部の装置との効率的な通信のために有利である。これによってたとえば、自動警報システム(AWS)センタとのデータ通信を実施することができる。しかも、この移動無線モジュールによって、線路で作業している人のパーソナル警報機器へ警報を送信することができる。
【0021】
次に、添付の図面を参照しながら本発明について例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】線路施設上の軌道車両を概略的に示す図である。
【
図2】監視システムのブロック回路図を概略的に示す図である。
【
図3】無線ベースの測定システムの構成要素を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示されている軌道車両1は、線路施設2上で線路工事作業を実施するために用意されている。これはたとえば、様々な作業機器3を備えた突き固め機械である。リフティングおよびライニング装置、さらにタンピング機器ならびに弦測定システムの構成要素が示されている。他の線路工事機械、測定車、線路交換列車、材料運搬車なども、本発明の意図するところの軌道車両と見なされる。
【0024】
線路工事作業を監視するために監視システム4が設けられており、このシステムによって軌道車両1をいつでも位置特定可能である。この目的で監視システム4は、光学測定システム5と、無線ベースの測定システム6とを備えている。これに加えて、軌道車両1と信号扱所7との間には無線コネクションが形成されている。
【0025】
軌道車両1は作業線路8上を移動し、その隣には運行線路9が延在している。一方では、軌道車両1および移動中の作業機器3によって、線路8上で作業している人10が危険に晒されている。他方では、運行線路9が危険ゾーンを成しているが、それは線路工事作業中にこの線路上を他の軌道車両が往来するからである。
【0026】
光学測定システム5は、ステレオカメラシステム11と評価装置12とを備えており、これらは軌道車両1に配置されている。比較的高い速度のときの正確な検出のために、2つのハイスピードカメラが使用される。これらは特に赤外線領域で高感度であり、赤外線光が照射される線路8の側方周辺を検出する。たとえば、複数の赤外線放射器が、両方のカメラの光学系の周囲に配置されている。
【0027】
線路側方に光学基準点13が配置されている。これは再帰反射測定マーカであり、これには好ましくはQRコード(登録商標)が備え付けられている。各測定マーカは、自動パターン認識によって特定可能な点、たとえば円の中心点を有している。効率的なパターン認識のためには、冗長的な画素を有するマーカが有利である。
【0028】
これらの基準点13は、好ましくは架線施設の柱14に配置されている。この場合、線路長手方向における柱14と柱14の間隔は通例、60m~80mである。線路横断方向では、この間隔は、複線区間であれば約11mである。したがって、基準点13間の距離が短くなり、これにより位置固定された基準システムに対して両方の測定システム5、6の高い精度が得られる。
【0029】
無線ベースの測定システム6は、軌道車両1に配置されたアンカモジュール15と、線路施設2の複数の基準点13に取り付けられたトランスポンダ16とを含む。この場合、トランスポンダ16の基準点13が光学測定システム5の基準点13と一致していると有利である。これによって、システムセンタ17による測定データの照合が容易になる。
【0030】
個々のアンカモジュール15は、無線信号を送信および受信する送受信ユニットである。送信された信号は、トランスポンダ16によって受信され、フィルタリングされて送り返される。伝播時間特定(到来時間差、Time Difference of Arrival,TDOA)を介して、アンカモジュール15とトランスポンダ16との間の個々の距離が求められる。これに続き、三辺測量によってポジションが求められる。
【0031】
この場合、アンカモジュール15およびトランスポンダ16は、マルチラテレーション方式の信号伝送のために設けられている。その際に、チャープスペクトラム拡散による変調技術が利用されるが、これはいわゆるチャープパルスのスペクトラム拡散のために用いられる。コンピュータユニット18によって、信号伝送が制御および評価される。コンピュータユニット18は、伝播時間特定および三辺測量による位置特定のためにも設けられている。この場合、冗長的な第2のコンピュータユニット18によって、故障に対する安全性が高まる。
【0032】
チャープパルスは、周波数が時間の経過につれて連続的に上昇または下降する正弦波信号である。対応する信号推移が、チャープスペクトラム拡散による信号変調において、1つのシンボルを成す基本送信パルスとして用いられる。有利には、伝送すべき1つのデータストリームに対して、シンボルごとに1つのビットを用いた符号化が選択される。このようにして、とりわけロバストな信号伝送が保証される。
【0033】
アンカモジュール15とトランスポンダ16との間の信号伝送は、上昇および下降する一連のチャープパルスの時系列シーケンスとして行われる。その際に、チャープスペクトラム拡散は、個々のチャープパルスによって直接引き起こされる広い帯域幅を利用する。この変調方式は、ドップラー効果に起因する障害に対しとりわけロバストであるが、その理由は、チャープパルスの経時的な周波数変化だけが重要だからである。絶対周波数は、所定の範囲内であれば伝送のロバスト性に影響を及ぼさない。
【0034】
軌道車両1を位置特定するために、コンピュータユニット18にはトランスポンダ16のポジションデータが格納されている。マルチラテレーション方式の場合、複数のアンカモジュール15が位置特定信号を送信し、それらの信号が複数のトランスポンダ16によってフィルタリングされて送り返される。コンピュータユニット18は位置特定信号を評価し、それによってリアルタイムにcm精度で軌道車両1の目下のポジションを特定する。
【0035】
線路8上で作業している人10のいずれにも、パーソナル警報機器19が装備されている。この機器は、個人に関連づけられたトランスポンダ16と、アンテナを備えた移動無線モジュール20と、警報発生器21とを含む。マルチラテレーション方式によって、個人に関連づけられたこれらのトランスポンダ16も、リアルタイムにcm精度で位置特定可能である。監視システム4に格納されている危険領域22に接近すると、個々の人10にただちに警報が発せられ、さらに軌道車両1が場合によっては自動的に停止させられる。
【0036】
監視システム4の構成要素について、
図2を参照しながら詳しく説明する。鉄道インフラ事業者(EIU)の信号扱所7は、アンテナを備えた移動無線モジュール20を有する送受信装置23を備えている。かくして軌道車両1の無線リンクがたとえば、GSM-R(Global System for Mobile Communications-Railway)またはFRMCS(Future Railway Mobile Communication System)によって、LTE(Long Term Evolution)および5G(fifth-Generation)ベースで行われる。
【0037】
有利には、軌道車両1には、自動警報システム(AWS)24が装備されている。これは、警報機能および停止機能を備えた信号制御式警報システム(SCWS)である。信号扱所7内に配置されたAWSセンタ25は、運行線路9において他の軌道車両が接近したときに警報を発し、かつ/または停止機能を起動するために、軌道車両1の自動警報システム24と通信を行う。この目的で、AWSセンタ25は、鉄道保安施設(ESA)26と結合されている。
【0038】
これらに加え、信号扱所7内には、差分GNSS位置特定のためにテレマティクスリアルタイムポジショニングシステム(TEPOS)の構成要素が配置されている。その際に、TEPOSセンタ27は、地上無線基準ステーションネットワーク28のポジションデータを評価する。TEPOSは、GNSSデータを補正するために利用される。この場合、軌道車両1のGNSSポジションデータ29が最初に生成される。この目的で、軌道車両1には、GNSSアンテナ31を備えた第1のGNSS受信装置30が配置されている。GNSSポジションデータ29は、移動無線モジュール20を介してTEPOSセンタ27に伝達され、TEPOS補正データ32を用いて補正されて、軌道車両1に伝送されて戻される。
【0039】
これとは独立して、軌道車両1は第2のGNSS受信装置33を備えており、これは光学測定システム5と結合されている。この第2のGNSS受信装置33は、正確なGNSSポジション特定のために、GNSSアンテナ31と長手方向測定装置とシステムプロセッサとを有している。このようにして検出されたポジションデータは、光学測定システム5の測定結果と照合される。
【0040】
監視システム4の故障に対する安全性をさらに高める目的で有用であるのは、第3のGNSS受信装置34を配置することである。この場合、GNSSアンテナ31によって受信されたポジションデータが、いわゆるEuropean Geostationary Navigations Overlay Service(EGNOS)によって照合される。これは、欧州連合(GSA,European Global Navigation Satellite Systems Agency)によって運営されるDifferential Global Positioning System(DGPS)であり、このシステムは、ヨーロッパ、北アフリカおよび近東に数多くの地上局を有している。移動無線モジュール20およびインターネット接続を介して、補正信号が適時に受信され処理される。
【0041】
既述の冗長的に構成されたリアルタイム位置特定システム5、6、24、30、33、34によって検出されたデータは、システムセンタ17(中央位置特定、制御および監視ユニット)において処理される。システムセンタ17はたとえば、様々な周辺機器を備えた高性能産業用コンピュータとして構成されている。1つの好ましい実施形態によれば、極めて高度な安全性要求段階(安全度水準4、SIL4)を達成するために、冗長的なシステムセンタ17が配置されている。軌道車両1の側で保証されたSIL4の列車完全性を含め、SIL4として評価された位置特定システムを使用すれば、線路空き状態通報がもはや不要であり、さらにこれに付随するあらゆるインフラストラクチャ施設(車軸計数器、ポイントごとの列車制御、ブロック区間での列車走行など)が省略される。
【0042】
システムセンタ17によって、線路8、9の継続的な監視が行われる。その際に、冗長的なシステム5、6、24、30、33、34によって、軌道車両1および線路8、9上に存在している人10が高精度で位置特定される。線路工事作業には、線路に結合されたさらなる対象物35が関与する可能性もある。これはたとえば、さらなる線路工事機械、材料運搬車または測定車である。この対象物35にも、冗長的に構成されたリアルタイム位置特定システムが装備されている。対象物35または人10が危険領域22内で位置特定されるとただちに、自動警報システム23、24を介して警報が発せられる。その際、該当する人10に対して、パーソナル警報機器19によって警報が発せられる。場合によっては、軌道車両1または線路に結合された他の対象物35の強制制動も起動される。
【0043】
さらに、システムセンタ17は、3つの冗長的なGNSS受信装置30、33、34も継続的に監視する。1つのGNSS受信装置30、33、34が故障した場合、システムセンタ17から警報が自動的に送出される。2つのGNSS受信装置30、33、34が故障した場合、受領確認義務のある警報が自動的に送出される。3つのGNSS受信装置30、33、34すべてが故障した場合、受領確認義務のある持続アラームが発せられる。これに加え、軌道車両1が停止させられる。
【0044】
システムセンタ17のさらなる機能は、両方の測定システム5、6の継続的な監視にある。この場合、システムセンタ17は、両方の測定システム5、6のポジションデータを参照し、妥当性チェックを行う。場合によっては補正データが生成され、それらが3つの冗長的なGNSS受信装置30、33、34に伝達される。一方の測定システム5、6が故障した場合、受領確認義務のある警報がシステムセンタ17から自動的に送出される。両方の測定システム5、6が故障した場合、受領確認義務のある持続アラームが自動的に送出される。
【0045】
インタフェース36によって、システムセンタ17が操作員(技師、運転手、保安部署など)のための様々な入出力システムと接続される。これらの入出力システムによって以下の機能が満たされる。すなわち、
システムセンタ17のプログラミング、データ問い合わせ、パラメータ調整および操作のための入出力、
3つのGNSS受信装置の聴覚的および視覚的なアラームおよび警報、状態表示の入出力、
パーソナル警報機器19を含む自動警報システム24の状態表示、
軌道車両1のポジション表示、ならびに
パーソナル警報機器19を持つ人10のポジション表示。
【0046】
これに加えて、二重に実装されたシステムセンタ17ならびに様々な周辺機器の継続的な状態監視のために、ネットワーク端子(TCP/IP端子)が設けられている。このネットワーク端子37を介して、相応の権限があればリモートアクセスによっても、軌道車両1の既述の機能を呼び出すかまたは制御することができる。
【0047】
図3には、無線ベースの測定システム6の有利な構成が示されている。少なくとも8つのアンカモジュール15を軌道車両1上に図示のように配置することによって、故障に対する高度な安全性がもたらされる。つまり、このようにして、少なくとも2つのアンカモジュール15が、柱14に取り付けられたトランスポンダ16および人10が携行するトランスポンダ16を位置特定することが保証される。車両1の位置特定信号が薄い点線で暗示されている。太い点線によって、人10の位置特定信号が示されている。
【0048】
有利な発展形態によれば、各トランスポンダ16は識別信号としてディジタル符号を送信する。これらの符号はシステムセンタ17内に格納されており、線路網内の座標と結合されている。かくして、無線ベースの測定システム6によるだけで、線路網内の位置特定を行うことができる。
【0049】
これに加えて、または代替として、各基準点13は光学符号を有している。たとえば、基準点13として規定された測定マーカ内に、QRコード(登録商標)が組み込まれている。このようにした場合、ステレオカメラシステム11が、基準点13と共にQRコードを検出する。QRコードは、やはりシステムセンタ17内に格納されており、線路網内の座標と結合されている。
【0050】
有利には、各柱14に、統合された1つの基準ユニット38が配置されている。このユニットは、トランスポンダ16のうちの1つを含み、無線ベースの測定システム6のための基準点13を規定する。トランスポンダ16のハウジング上に光学マーカがQRコード(登録商標)と共に配置されており、その際に光学基準点13は、無線ベースの測定システム6の基準点13と一致している。
【0051】
個々のパーソナル警報機器19も、有用であるように統合されたユニットとして形成されている。1つの共通のハウジング内に、トランスポンダ16と移動無線モジュール20とが収容されている。これらに加えて、聴覚的、視覚的、および/または触覚的な警報発生器が配置されている。トランスポンダ16を介して、対応する人10が位置特定される。危険が発生した場合には、自動警報システム24、25が移動無線モジュール20を介して警報メッセージを送信し、警報発生器21が起動される。