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特許7746315情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 18/27 20230101AFI20250922BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20250922BHJP
【FI】
G06F18/27
G06N20/00 130
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023001781
(22)【出願日】2023-01-10
(65)【公開番号】P2024098333
(43)【公開日】2024-07-23
【審査請求日】2024-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智之
(72)【発明者】
【氏名】高田 正彬
【審査官】千葉 久博
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-167097(JP,A)
【文献】特開2022-167093(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0147671(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 18/00-18/40
G06N 3/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データに含まれる変数の時間微分値を算出する時間微分値算出部と、
前記変数の長期成分の変動を示す差分を、指定された時間サンプル間隔に基づいて算出する変動差分算出部と、
前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する推定部と
備える情報処理装置。
【請求項2】
前記変動差分算出部は、前記長期成分の変動を示す差分を、2種類以上の時間サンプル間隔に基づいて算出し、
前記推定部は、前記時間微分値と、2種類以上の前記長期成分の変動を示す差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記学習データに含まれる前記時間微分値の総和は、前記差分の総和よりも大きい、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記変数に基づいて、非線形関数を生成する非線形関数生成部と、
前記非線形関数を基底関数として、前記線形回帰式を生成する回帰式生成部と、
を更に備える請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記基底関数の候補を表示装置に表示し、前記基底関数の候補から、前記線形回帰式の生成に使用される基底関数の指定を受け付ける表示制御部、
を更に備える請求項4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記変数の値は、前記変数が示す物理量毎に統一された単位により表される、
請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項7】
情報処理装置が、時系列データに含まれる変数の時間微分値を算出するステップと、
前記情報処理装置が、前記変数の長期成分の変動を示す差分を、指定された時間サンプル間隔に基づいて算出するステップと、
前記情報処理装置が、前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定するステップと
含む情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータを、
時系列データに含まれる変数の時間微分値を算出する時間微分値算出部と、
前記変数の長期成分の変動を示す差分を、指定された時間サンプル間隔に基づいて算出する変動差分算出部と、
前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する推定部
して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
物理現象をモデル化する技術が従来から知られている。例えば、機械学習の一種である関数同定問題を応用し、時系列データから物理現象を記述する数理モデルを獲得する技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-167097号公報
【文献】特開2022-167093号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】S.L.Brunton,J.L.Proctor,J.N.Kutz,”Discovering governing equations from data by sparse identification of nonlinear dynamical systems”,Proc.Natl.Acad.Sci.,113 (2016),pp.3932-3937
【文献】Suzuki,T.,Kano,A.,Hirohata,K.(2021).Deriving Thermal Model From Data by Sparse Identification Based on Physical Laws, Proceedings of the ASME 2021 International Mechanical Engineering Congress and Exposition,IMECE2021,November 1-5, 2021,IMECE2021-70639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の情報処理装置は、時間微分値算出部と変動差分算出部と推定部と算出部と修正部とを備える。時系列データに含まれる変数の時間微分値を算出する。変動差分算出部は、前記変数の長期成分の変動を示す差分を、指定された時間サンプル間隔に基づいて算出する。推定部は、前記時間微分値と前記差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】時系列データから生成される温度予測式の例を示す図。
図2】長期先予測の際に誤差が蓄積する例について説明するための図。
図3】長期先予測の際に誤差が蓄積する例について説明するための図。
図4A】自然空冷されるパワエレ機器のCFD結果の例を示す図。
図4B図4Aのグラフの縦軸を対数軸で表した図。
図5】物理的に妥当な係数推定の例を示す図。
図6】実施形態の情報処理装置の機能構成の例を示す図。
図7】式(11)の誤差の分散共分散行列、及び、式(15)の誤差の分散共分散行列の例を示す図。
図8】長期成分を2つ混ぜた場合の例について説明するための図。
図9】長期成分を2つ混ぜる方法の例を示す図。
図10】長期成分を2つ混ぜた場合の誤差の分散共分散行列の例を示す図。
図11】長期成分を2つ混ぜた場合の効果の例1を示す図。
図12】長期成分を2つ混ぜた場合の効果の例2を示す図。
図13】実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャート。
図14】実施形態の情報処理装置のハードウェア構成の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、情報処理装置、情報処理方法及びプログラムの実施形態を詳細に説明する。
【0009】
複雑な製品・システムを複数の要素に分割し、要素ごとの関係性をモデル化することで、簡易的に現象をシミュレーションする方法がある。この方法は電気回路を解くための等価回路を、熱や流体の問題に応用したものである。例えば、熱の場合は熱回路網法と呼ばれ、各節点のエネルギー保存が、下記式(1)で表現される。
【0010】
【数1】
【0011】
ここで、Cは熱容量、Rは熱抵抗、Qは発熱量、Nは節点数である。上記式(1)を変形すると、下記式(2)に示す微分方程式が得られる。
【0012】
【数2】
【0013】
演繹的に上記式(2)を構築する場合は、実際の現象や構造を物理の視点で単純化して、熱抵抗や熱容量などが設定される。熱抵抗は形状や物性値の他、自身の温度や速度といった状態量にも依存する。理論式がない場合も多く、理論式がない場合は膨大な経験式の候補の中から、対象に適した式を設定する必要がある。
【0014】
関数同定問題を発展させた非線形力学のスパース同定(SINDy)では、真のモデルが非線形関数の線形結合で表現できるという仮定の下、変数ベクトルXの時間微分が下記式(3)の形で与えられる。
【0015】
【数3】
【0016】
ここで、Xはm×nの行列である。mは、時間サンプル数、nは変数Xの次元である。θ(X)は、ライブラリと呼ばれ、非線形関数の候補で構成される。Ξは、係数の疎なベクトルである。基底関数として選択されない非線形関数に対応する係数(Ξの成分)は0で表される。
【0017】
上記式(2)のいずれかの項に比例する形でライブラリが構成されれば、非線形力学のスパース同定(SINDy)の応用で、対象ごとに異なる温度予測式(上記式(2))が、時系列データから、下記式(4)により生成できる。
【0018】
【数4】
【0019】
図1は時系列データから生成される温度予測式の例を示す図である。例えば、時系列データTは、詳細シミュレーションBから得られたデータセットBに基づくデータである。時系列データTの行は、時間サンプルに対応する。時系列データTの列は、温度予測対象の節点に対応する。
【0020】
温度予測式の左辺は、温度予測対象の節点毎の時間微分を示す。θ(X)の各成分は、時間サンプルを特定する番号m、節点を特定する番号n、データセットを特定する番号l、及び、基底関数候補を特定する番号pにより表される。θ(X)に含まれる列ベクトルが、基底関数候補となる。Ξは、基底関数の係数を決定するベクトルである。
【0021】
しかし、時系列データから算出されたXの時間微分とθ(X)とから、非特許文献1で提案されたスパース推定方法であるSTLS(sequential thresholded least-squares algorithm)によって生成された上記式(2)からは、所望の式を得ることができない。この理由は、時系列データを、上記式(4)の常微分方程式の形に変えた場合に各データが独立扱いになるためであり、図2を用いてより詳細に説明する。
【0022】
図2及び図3は、長期先予測の際に誤差が蓄積する例について説明するための図である。図2は、離散値のデータを用いて、前進差分で作成された学習データとの最小二乗解を算出する場合の例を示す。この場合、誤差の正負を考慮することが困難であり、誤差の正負が偏る可能性があるため、生成された予測式で長期先予測する際に、例えば図3に示すように誤差が蓄積してしまう(課題1)。
【0023】
例えば、A:誤差1=50、誤差2=15、B:誤差1=60、誤差2=-20とすると、各々の二乗和誤差はAが2725、Bが4000となり、AのほうがBよりも優れた推定結果になる。しかしながら、累積誤差では、Aが65、Bが40となり、Bの方が有利である。誤差関数を工夫する方法もあり得るが、データの順番を考慮するため非常に複雑な処理になってしまい、学習時間の増加などの課題がある。
【0024】
また、工学の問題では,一部のデータの影響が非常に強くなる問題が起きやすい。図4A及び図4Bを用いてこの問題について説明する。
【0025】
図4Aは自然空冷されるパワエレ機器のCFD(Computational Fluid Dynamics)結果の例を示す図である。図4Bは、図4Aのグラフの縦軸を対数軸で表した図である。一般に、時間サンプルΔtは、温度変化が大きいほど小さく取られる。図4A及び図4Bに示すように、Δtが小さい時間帯ほど、温度変化が激しいため、一部のデータの影響が非常に強くなる(課題2)。データを適切に重みづけすることが求められるが、データの正規化(log化含む)や、誤差関数の工夫(相対誤差など)では、この問題の解決が困難である。
【0026】
課題2の解決には,誤差項同士の相関を考慮する必要があり、一般化最小二乗法(GLS:generalized least squares)のような考えの導入が求められる。GLSでは誤差項の分散共分散行列Ω(下記式(5))を仮定する。
【0027】
【数5】
【0028】
y=Xβ+ε、ε~N(0,σΩ)とすると推定量は、下記式(6)となる。
【0029】
【数6】
分散共分散行列Ωの対角成分が1で他が0、つまり単位行列の場合は最小二乗法となる。共分散成分を適切に与える必要がある。一般化最小二乗法を実施するには、分散共分散行列Ωがわかっている必要があるが、分散共分散行列Ωが事前にわかるケースは限られている。
ここで、温度を予測する場合は、例えば下記式(7)のようにする。
【0030】
【数7】
【0031】
状態更新量は、Tの時間微分とΔtとの積であり、Δtは一定ではないため、誤差を下記式(8)で考えると、長期先予測における誤差の蓄積を考える場合に不十分となる。
【0032】
【数8】
【0033】
そこで、特許文献1では、データの前処理方法を工夫することでデータの並びを考慮した学習を行う方法が提案されている。
【0034】
温度節点1の下記式(9)の右辺を、1次精度の前進差分で、下記式(10)によって離散化することを考える。
【0035】
【数9】
【0036】
【数10】
【0037】
上記式(10)は下記式(11)に変形できる。
【0038】
【数11】
【0039】
特許文献1では、上述の式(4)及び(11)の係数ベクトルΞ(式(11)のΞはΞの温度節点1の成分)が共通であることに注目し、時系列データから算出された上述の式(4)及び(11)が混合されたデータを用いて機械学習する方法が提案されている。
【0040】
上記式(11)の最小二乗解を考えると下記式(12)を導出することができる。下記式(12)には交互作用項があることがわかる。
【0041】
【数12】
【0042】
上記式(12)の交互作用項は、一般化最小二乗法のように、誤差項の分散共分散行列を前処理の工夫で組み込むことができることを示す。さらにこの方法は、交互作用を及ぼす誤差項同士をある程度選択することができる(データセット間をまたがない等)。そのため、物理的に妥当な係数推定が実現できる。
【0043】
図5は、物理的に妥当な係数推定の例を示す図である。短期成分は、最小二乗法の考えで1手先の予測精度を向上させる。長期成分は、一般化最小二乗法の考えで長期先の予測精度を向上させる。
【0044】
上記式(4)の短期成分と、上記式(11)の長期成分とを、下記式(13)のように正規化したうえで混合して学習することで効率の良い学習が可能になる。ここで、α1は節点nごとの異なる値を示すベクトルである。例えば、α1の第一成分は、節点1の値を示し、α1の第2成分は、節点2の値を示す。
【0045】
【数13】
【0046】
しかしながら、上述の式(12)を用いる特許文献2には、下記2つの課題3及び4がある。
【0047】
課題3は、(M-i+1)という重みである。この重みは、早い時間帯(サンプル時間が前の方)ほど誤差に大きな重み(M-i+1)が付くことを示す。ここで、Mは、データセットlのデータ数を示す。
【0048】
課題4は、遠く離れたサンプル時間同士の誤差の積もとってしまうことである。
【0049】
例題で考えると、分散共分散行列Ω-1は下記式(14)であり、行と列の番号が大きい(サンプル時間が後ろの方)ほど、重みが小さくなる点は課題3に相当する。また、行番号と列番号n差分が大きい要素にも重みが付いている(≠0)点は課題4に相当する。
【0050】
【数14】
【0051】
以下、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる実施形態の情報処理装置の動作例の詳細について説明する。
【0052】
[機能構成の例]
図6は実施形態の情報処理装置1の機能構成の例を示す図である。実施形態の情報処理装置1は、記憶部11と時間微分値算出部12と変動差分算出部13と非線形関数生成部14と回帰式生成部15と推定部16と出力制御部17と表示制御部18とを備える。
【0053】
記憶部11は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方を含む時系列データを記憶する。従属変数(目的変数)は、独立変数(説明変数)に依存して定まる変数である。独立変数は、従属変数の変化の要因を示す変数である。従属変数は、例えば電子部品及びヒートシンクなどの温度である。独立変数は、例えば、電子部品を冷却するファンの風の強さを示す風速、電子部品に流れる電流、及び、電子部品に入力される電圧等である。
【0054】
実施形態の情報処理装置1では、従属変数の値は、従属変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。例えば、物理量が重さであれば、kgにより表された従属変数と、gにより表された従属変数とを混在させずに、kg又はgに統一する。同様に、独立変数の値は、独立変数が示す物理量毎に統一された単位により表される。
【0055】
なお、記憶部11は、複数の種類の時系列データを記憶してもよい。複数の種類の時系列データは、初期条件及び境界条件の少なくとも一方が異なっていてもよい。
【0056】
時間微分値算出部12は、時系列データに含まれる変数(従属変数又は独立変数)の時間微分値を算出する。時系列データに含まれる変数の時間微分値は、上記式(4)の形で表された学習データとして用いられる。
【0057】
変動差分算出部13は、時系列データに含まれる変数の長期成分の変動を示す差分を算出する。具体的には、変動差分算出部13は、上記式(4)の左辺を1次精度、例えば前進微分で離散化して、上記式(10)を算出する。
【0058】
ここで、変動差分算出部13は、上記式(10)を下記式(15)に変形することによって、長期成分の変動を示す差分を算出する。なお、特許文献1では、上記式(10)を上記式(11)に変形することによって変数の初期値からの変動を示す差分が算出されている。
【0059】
【数15】
【0060】
上記式(15)の最小二乗解を考えると、下記式(16)を導出することができる。式(16)にも交互作用項があることがわかる。
【0061】
【数16】
【0062】
早い時間帯(サンプル時間が前の方)ほど誤差に大きな重みが付かないことがわかる(課題3の解決)。さらに、上記式(15)及び(16)のtにより交互作用項の影響範囲を制御することができる(課題4の解決)。
【0063】
図7は式(11)の誤差の分散共分散行列、及び、式(15)の誤差の分散共分散行列の例を示す図である。
【0064】
しかしながら,式(15)を単独で用いる方法には、tが小さいほど、下記の2点が成り立ち、二律背反の課題がある。
・交互作用項の割合(数)が少なくなる(1:(t-1)/2)。
・時間が近いサンプル点間の誤差を評価できる。
【0065】
=Mの場合、
= 2;主効果項: 2、交互作用項:tm=t(t-1)/2=1
= 4;主効果項: 4、交互作用項:6
=10;主効果項:10、交互作用項:45
=20;主効果項:20、交互作用項:190
=50;主効果項:50、交互作用項:1125
【0066】
そこで、実施形態の情報処理装置1は、上述の式(15)の長期成分の変動を示す差分を2種類以上混合して、学習する。すなわち、変動差分算出部13は、長期成分の変動を示す差分を、2種類以上の時間サンプル間隔に基づいて算出する。
【0067】
図8及び図9は、長期成分を2つ混ぜた場合の例について説明するための図である。長期成分を2つ混ぜた場合、分散共分散行列Ω-1において、時間の近いサンプル点同士の誤差にかかる重みが大きくなる。また、交互作用項の数が多くなり、主効果項の数と交互作用項の数との比が改善する。
【0068】
2つの長期成分は、例えば図9に示されるように、係数α及びαによって正規化して結合される。係数α及びαによって、学習データに含まれる時間微分値の総和が、長期成分の変動を示す差分の総和よりも大きくなるようにする。
【0069】
図10は、長期成分を2つ混ぜた場合の誤差の分散共分散行列Ω-1の例を示す図である。分散共分散行列Ω-1の列の領域N~Nは、詳細数値解析又は実験の各条件に対応するデータである。図10に示すように、誤差の分散共分散行列Ω-1は、対角成分付近が非ゼロの値を有する。
【0070】
図11は長期成分を2つ混ぜた場合の効果の例1を示す図である。図11は、接触熱抵抗が変化する強制空冷パワエレ機器に適用した場合の例を示す。縦軸は、境界条件や発熱条件などを変えてシミュレーションされた7種類の評価データに対する平均予測誤差を示す。
【0071】
横軸のデータ1は、長期成分無しの学習データを用いた場合を示す。横軸のデータ2は、特許文献1の学習方法(変数の初期値からの変動を示す差分を用いる方法)を用いた場合を示す。横軸のデータ3は、長期成分を1つ含む学習データを用いた場合を示す。横軸のデータ4は、長期成分を2つ含む学習データを用いた場合を示す。
【0072】
図11に示すように、長期成分を2つ含む学習データを用いた場合が、平均予測誤差を最も抑えることができる。
【0073】
図12は、長期成分を2つ混ぜた場合の効果の例2を示す図である。図12は、自然空冷パワエレ機器に適用した場合の例を示す。縦軸は、境界条件や発熱条件などを変えてシミュレーションされた7種類の評価データに対する平均予測誤差を示す。
【0074】
横軸のデータ1は、特許文献1の学習方法(変数の初期値からの変動を示す差分を用いる方法)を用いた場合を示す。横軸のデータ2は、長期成分を1つ含む学習データを用いた場合を示す。横軸のデータ3は、長期成分を2つ含む学習データを用いた場合を示す。
【0075】
図12に示すように、長期成分を2つ含む学習データを用いた場合が、平均予測誤差を最も抑えることができる。
【0076】
図6に戻り、非線形関数生成部14は、従属変数及び独立変数の少なくとも一方に基づいて、非線形関数を生成する。非線形関数生成部14は、例えば、位置iの温度Tと、位置jの温度Tとに基づいて、非線形関数を生成する。
【0077】
回帰式生成部15は、非線形関数生成部14により生成された非線形関数を基底関数とした線形回帰式を生成する。
【0078】
推定部16は、回帰式生成部15により生成された線形回帰式の係数を、時間微分値と、2種類以上の長期成分の変動を示す差分とを学習データとして用いる機械学習によって推定する。具体的には、推定部16は、上記式(4)の形で表された学習データ、及び、上述の式(15)の長期成分の変動を示す差分を2種類以上混合した学習データの両方を用いて、機械学習によって線形回帰式の係数を推定する。
【0079】
なお、仮に、短期成分しか考慮しない場合、モデルの長期先の予測精度が悪化する。逆に、仮に、長期成分しか考慮しない場合、モデルの短期先の予測精度が悪化し、短期先の予測が合わないので、モデルの長期先の予測精度も悪化する。
【0080】
なお、機械学習で用いられる最小二乗法は、重み調整を無視した加重和法なので、上述の図9のように、学習データを前処理することが、モデルの精度をより向上させるためには重要になる。
【0081】
また、実施形態の例では、候補の基底関数は、例えば変数同士の足し算引き算を含み、それらの演算結果が物理的な意味を持つため、変数(従属変数及び独立変数)を正規化していると不都合が生じる。そのため、推定部16は、変数の正規化を必要としない機械学習方法によって、線形回帰式の係数を推定する。なお,基底関数自体を正規化する方法もあり得る。その場合は、分散が大きい短期成分と長期成分とが入り混じった学習データであることを考慮する必要がある。
【0082】
出力制御部17は、所定の収束条件を満たした場合、修正された係数により表された線形回帰式を出力する。所定の収束条件は、例えば機械学習処理の繰り返し回数等である。
【0083】
表示制御部18は、表示情報を表示装置に表示する。例えば、表示制御部18は、出力制御部17により出力された線形回帰式を表示する。また例えば、表示制御部18は、基底関数の候補を表示装置に表示し、基底関数の候補から、線形回帰式の生成に使用される基底関数(例えば、上述の式(3)のライブラリθ(X)に含まれる列ベクトル)の指定を受け付ける。また例えば、表示制御部18は、変数の長期成分の変動を示す差分の算出に使用される時間サンプル間隔の指定を受け付ける表示情報を表示装置に表示する。
【0084】
[モデルの生成方法の例]
図13は実施形態のモデルの生成方法の例を示すフローチャートである。はじめに、時間微分値算出部12は、時系列データに含まれる変数(従属変数又は独立変数)の時間微分値、及び、基底関数の候補を算出する(ステップS1)。次に、変動差分算出部13は、長期成分の変動を示す差分を2種類以上、算出する(ステップS2)。
【0085】
次に、情報処理装置1は、モデルを機械学習する際に使用されるデータ(例えばハイパーパラメーター等)を初期化する(ステップS3)。
【0086】
次に、推定部16は、回帰式生成部15により生成された線形回帰式の係数を、ステップS1で算出された時間微分値と、ステップS2で算出された2種類以上の差分とを学習データとして用いる機械学習によって推定する(ステップS4)。具体的には、時系列データに含まれる変数の時間微分値は、上述の式(4)の形で学習データとして用いられ、時系列データに含まれる変数の長期成分の変動を示す差分は、上述の図9の形で学習データとして用いられる。
【0087】
ステップS4の推定処理に用いられる学習データは、例えば、学習データ全体の中から、ランダムに一部のデータが選択されてもよい。また例えば、ステップS4の推定処理に用いられる学習データは、学習データに含まれる未使用のデータから順番に選択されてもよい。
【0088】
次に、推定部16は、係数の推定処理の結果が、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS5)。収束条件は、例えば係数の推定処理の実行回数である。なお、ステップS5の処理は必須ではなく、ステップS5の処理はスキップされてもよい。
【0089】
収束条件を満たしていない場合(ステップS5,No)、処理はステップS4に戻る。収束条件を満たした場合(ステップS5,Yes)、出力制御部17が、モデルの性能評価指標を算出する(ステップS6)。例えば性能評価指標は、情報量基準のようなモデルを選択するための指標である。また、一般的には、性能評価指標は、モデルへの当てはまり度合いと、モデルのシンプルさとを天秤にかけるような指標である。
【0090】
次に、出力制御部17は、学習されたモデルが、収束条件を満たしたか否かを判定する(ステップS7)。収束条件は、例えばモデルの学習処理(ステップS4~S6)の実行回数である。また例えば、収束条件は、ステップS6の処理によって算出された性能評価指標が、所定の評価閾値より大きい場合である。収束条件を満たしていない場合(ステップS7,No)、ハイパーパラメーターを更新し(ステップS8)、ステップS4に戻る。
【0091】
収束条件を満たした場合(ステップS7,Yes)、出力制御部17が、モデルを出力する(ステップS9)。
【0092】
以上説明したように、実施形態の情報処理装置1では、記憶部11は、1以上の変数を含む時系列データを記憶する。時間微分値算出部12は、変数の時間微分値を算出する。変動差分算出部13は、変数の長期成分の変動を示す差分を、指定された時間サンプル間隔に基づいて算出する。推定部16は、時間微分値と差分とを学習データとして用いる機械学習によって、線形回帰式の係数を推定する。そして、出力制御部17は、線形回帰式を出力する。
【0093】
これにより実施形態の情報処理装置1によれば、物理現象のモデルの生成精度をより向上させることができる。
【0094】
なお、上述の実施形態では、情報処理装置1が、熱モデルの線形回帰式を生成する場合について述べたが、他の物理現象(例えば、電気抵抗、物理的な変形量)のモデルの線形回帰式を生成するようにしてもよい。
【0095】
最後に実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例について説明する。
【0096】
[ハードウェア構成の例]
図14は実施形態の情報処理装置1のハードウェア構成の例を示す図である。
【0097】
実施形態の情報処理装置1は、制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206を備える。制御装置201、主記憶装置202、補助記憶装置203、表示装置204、入力装置205及び通信装置206は、バス210を介して接続されている。
【0098】
制御装置201は、補助記憶装置203から主記憶装置202に読み出されたプログラムを実行する。主記憶装置202は、ROM及びRAM等のメモリである。補助記憶装置203は、HDD(Hard Disk Drive)及びメモリカード等である。
【0099】
表示装置204は、表示情報を表示する。表示装置204は、例えば液晶ディスプレイ等である。入力装置205は、情報処理装置1を操作するためのインタフェースである。入力装置205は、例えばキーボードやマウス等である。情報処理装置1がスマートフォン及びタブレット型端末等のスマートデバイスの場合、表示装置204及び入力装置205は、例えばタッチパネルである。
【0100】
通信装置206は、他の装置等と通信するためのインタフェースである。
【0101】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、メモリカード、CD-R及びDVD等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されてコンピュータ・プログラム・プロダクトとして提供される。
【0102】
また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムをダウンロードさせずにインターネット等のネットワーク経由で提供するように構成してもよい。
【0103】
また実施形態の情報処理装置1のプログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0104】
実施形態の情報処理装置1で実行されるプログラムは、上述した機能ブロック(図3)のうち、プログラムによっても実現可能な機能ブロックを含むモジュール構成となっている。当該各機能ブロックは、実際のハードウェアとしては、制御装置201が記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、上記各機能ブロックが主記憶装置202上にロードされる。すなわち上記各機能ブロックは主記憶装置202上に生成される。
【0105】
なお上述した各機能ブロックの一部又は全部をソフトウェアにより実現せずに、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよい。
【0106】
また複数のプロセッサを用いて各機能を実現する場合、各プロセッサは、各機能のうち1つを実現してもよいし、各機能のうち2以上を実現してもよい。
【0107】
また実施形態の情報処理装置1の動作形態は任意でよい。実施形態の情報処理装置1を、例えばネットワーク上のクラウドシステムとして動作させてもよい。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1 情報処理装置
11 記憶部
12 時間微分値算出部
13 変動差分算出部
14 非線形関数生成部
15 回帰式生成部
16 推定部
17 出力制御部
201 制御装置
202 主記憶装置
203 補助記憶装置
204 表示装置
205 入力装置
206 通信装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14