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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】積層シート、及び容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20250922BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20250922BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250922BHJP
   B65D 1/30 20060101ALI20250922BHJP
   B65D 1/26 20060101ALI20250922BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/32 E
B65D65/40 D
B65D1/30
B65D1/26 120
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024184909
(22)【出願日】2024-10-21
(62)【分割の表示】P 2024181859の分割
【原出願日】2024-10-17
【審査請求日】2024-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2024080866
(32)【優先日】2024-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大森 望
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-183894(JP,A)
【文献】特許第7324959(JP,B2)
【文献】特開2023-128224(JP,A)
【文献】特開2023-168430(JP,A)
【文献】特開2018-125317(JP,A)
【文献】特開昭59-120454(JP,A)
【文献】特開2001-114838(JP,A)
【文献】特開2022-033917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/40
B65D 1/00-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3層以上の積層シートであって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記積層シートの樹脂成分が、熱可塑性樹脂のみからなり
前記内層が、無機物質粉末を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の混合物のみからなり
前記混合物において、ポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂(質量比)が、85以上:15以下であり、
前記熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が230000以上330000以下であり、
前記熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積が、前記GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下である、
積層シート。
【請求項2】
前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、30.0質量以上80.0質量%以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記炭酸カルシウムの最大粒径が、30μm以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレンを含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂のみからなる、請求項1に記載の積層シート。
【請求項6】
第1の外層及び第2の外層の熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレン樹脂を含む、請求項1に記載の積層シート。
【請求項7】
前記炭酸カルシウムにおける、JIS M-8511:2014に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項8】
真空成形品に用いられる、請求項1からの何れかに記載の積層シート。
【請求項9】
食品包装容器に用いられる、請求項8に記載の積層シート。
【請求項10】
容器であって、
前記容器が、3層以上の積層シートからなり、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記積層シートの樹脂成分が、熱可塑性樹脂のみからなり
前記内層が、無機物質粉末を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂、又は、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂の混合物のみからなり
前記混合物において、ポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂(質量比)が、85以上:15以下であり、
前記熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が230000以上330000以下であり、
前記熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積が、前記GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下である、
容器。
【請求項11】
前記容器が、凹状に形成され、物品を収容可能な収容部を有し、
前記収容部が、底部と、底部の外周部に沿って形成された側部と、を有し、
前記収容部が、前記底部及び前記側部の内面に対して間隔をおいて前記物品を支持可能な複数の支持部を有し、
複数の前記支持部が、それぞれ、前記底部の周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、前記底部の外周側から前記側部の底部側にわたって内側に突出し、
前記側部の内面側に、周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、前記収容部の深さ方向に延在する複数の溝が形成された、
請求項10に記載の容器。
【請求項12】
前記容器が、所定の応力を作用させることによってそれぞれの前記収容部に分離可能に、複数の前記収容部を一体に連結する連結部を有している、
請求項11に記載の容器。
【請求項13】
前記側部は、前記支持部に対して間隔をおいて設けられ、底部側に対して外周側に張り出させることによって形成される段差部を有している、
請求項11に記載の容器。
【請求項14】
前記底部に、複数の前記支持部に対して間隔をおいて設けられ、内側に突出する凸部が形成されている、
請求項11に記載の容器。
【請求項15】
前記容器が、真空成形品である、請求項10から14の何れかに記載の容器。
【請求項16】
前記容器が、食品包装用である、請求項15に記載の容器。
【請求項17】
前記容器が、冷凍食品包装用である、請求項16に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、各種樹脂成形品における樹脂成分含有量を低減するための試みが行われている。
このような試みとして、樹脂成形品における炭酸カルシウム等の無機物質粉末を配合することが挙げられる(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6857428号公報
【文献】特許第7113579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
他方で、無機物質粉末が配合された樹脂成形品は環境負荷が低いものの、樹脂成形品の用途に応じた強度等の調整には未だ課題がある。
特に、耐寒性、及び耐熱性を両立して備える樹脂成形品に対するニーズがある。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、耐寒性、及び耐熱性に優れる、無機物質粉末含有積層シートや容器の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の要件を満たす熱可塑性樹脂を材料として使用することで、上記課題を解決出来る点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 3層以上の積層シートであって、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記積層シートが、熱可塑性樹脂を含み、
前記内層が、無機物質粉末を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が230000以上330000以下であり、
前記熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積が、前記GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下である、
積層シート。
【0008】
(2) 前記無機物質粉末の含有量が、前記積層シートに対して、30.0質量以上80.0質量%以下である、(1)に記載の積層シート。
【0009】
(3) 前記炭酸カルシウムの最大粒径が、30μm以下である、(1)に記載の積層シート。
【0010】
(4) 前記熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレンを含む、(1)に記載の積層シート。
【0011】
(5) 前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂のみからなる、(1)に記載の積層シート。
【0012】
(6) 第1の外層及び第2の外層の熱可塑性樹脂が、高密度ポリエチレン樹脂を含む、(1)に記載の積層シート。
【0013】
(7) 前記炭酸カルシウムにおける、JIS M-8511:2014に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、(1)に記載の積層シート。
【0014】
(8) 真空成形品に用いられる、(1)から(7)の何れかに記載の積層シート。
【0015】
(9) 食品包装容器に用いられる、(1)から(7)の何れかに記載の積層シート。
【0016】
(10) 容器であって、
前記容器が、3層以上の積層シートからなり、
前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、
前記積層シートが、熱可塑性樹脂を含み、
前記内層が、無機物質粉末を含み、
前記第1の外層及び前記第2の外層の厚さの比率が、前記積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下であり、
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂を含み、
前記熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が230000以上330000以下であり、
前記熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積が、前記GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下である、
容器。
【0017】
(11) 前記容器が、凹状に形成され、物品を収容可能な収容部を有し、
前記収容部が、底部と、底部の外周部に沿って形成された側部と、を有し、
前記収容部が、前記底部及び前記側部の内面に対して間隔をおいて前記物品を支持可能な複数の支持部を有し、
複数の前記支持部が、それぞれ、前記底部の周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、前記底部の外周側から前記側部の底部側にわたって内側に突出し、
前記側部の内面側に、周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、前記収容部の深さ方向に延在する複数の溝が形成された、
(10)に記載の容器。
【0018】
(12) 前記容器が、所定の応力を作用させることによってそれぞれの前記収容部に分離可能に、複数の前記収容部を一体に連結する連結部を有している、
(11)に記載の容器。
【0019】
(13) 前記側部は、前記支持部に対して間隔をおいて設けられ、底部側に対して外周側に張り出させることによって形成される段差部を有している、
(11)に記載の容器。
【0020】
(14) 前記底部に、複数の前記支持部に対して間隔をおいて設けられ、内側に突出する凸部が形成されている、
(11)に記載の容器。
【0021】
(15) 前記容器が、真空成形品である、(10)から(14)の何れかに記載の容器。
【0022】
(16) 前記容器が、食品包装用である、(10)から(14)の何れかに記載の容器。
【0023】
(17) 前記容器が、冷凍食品包装用である、(10)から(14)の何れかに記載の容器。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐寒性、及び耐熱性に優れる、無機物質粉末含有積層シートや容器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る容器の平面図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る図1のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0027】
<積層シート>
本発明の一形態に係る積層シートは、積層シートであり、かつ、3層(すなわち、内層と、内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層)以上の構造を有し、以下の要件を全て満たす。
・積層シートが、熱可塑性樹脂を含む。
・内層が、無機物質粉末を含む。
・第1の外層及び第2の外層の厚さの比率が、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。
・無機物質粉末が、炭酸カルシウムを含む。
・熱可塑性樹脂が、ポリエチレン系樹脂を含む。
・熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が230000以上330000以下である。
・熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積が、GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下である。
【0028】
無機物質粉末が高配合された積層シートでは、環境負荷が低いというメリットを有する反面、無機物質粉末の分布不均一等に起因して、冷却や加熱による変形が生じる可能性がある。
上記のような事情のもと、本発明者らによる検討の結果、意外にも、配合される熱可塑性樹脂の分子量特性が、得られる積層シートや容器の耐寒性、及び耐熱性に影響することを見出した。
【0029】
本発明において、「耐寒性」とは、冷蔵条件(例えば、4℃以下)や、冷凍条件(例えば、-4℃以下)のもとでも積層シートや容器に割れ等が生じ難いことを包含する。
耐寒性は、実施例に示した方法で評価出来る。
【0030】
本発明において、「耐熱性」とは、加熱を行っても積層シートや容器に変形等が生じ難いことを包含する。
加熱処理としては、電子レンジ加熱が挙げられる。本発明において、「電子レンジ加熱」とは、マイクロ波による加熱処理を包含し、例えば、500~1500Wでの加熱を包含する。なお、本発明の一態様において、「電子レンジ」は、日本国消費者庁が定める定義を満たすものを包含する。電子レンジによる加熱時間は、ワット数や、食品の種類及び大きさ等によって適宜調整され、例えば数秒~20分であり得る。
耐熱性は、実施例に示した方法で評価出来る。
【0031】
本発明において、「成分Aからなる」とは、成分A以外の成分を実質的に含まないことを意味する。
【0032】
本発明において、「成分Bを実質的に含まない」とは、成分Bの含有量が、その配合対象全体(例えば、積層シート)に対して、0.1質量%未満である態様、より好ましくは0.01質量%以下である態様、更に好ましくは成分Bを全く含まない態様を包含する。
【0033】
以下、本発明の積層シートの構成について詳述する。
【0034】
(1)積層シートに含まれる無機物質粉末
無機物質粉末は、炭酸カルシウムが含まれる点以外は特に限定されない。
【0035】
(1-1)炭酸カルシウム
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び、軽質炭酸カルシウムの何れも包含する。
「重質炭酸カルシウム」とは、CaCOを主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0036】
炭酸カルシウムの含有量は、無機物質粉末全体に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0037】
積層シート中の無機物質粉末に炭酸カルシウムが含まれているかどうかや、その含有量は、積層シートを焼成し、その灰分分析(JIS K 7250-1:2006)によって特定出来る。
【0038】
重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの違いは、例えば、SEM画像の分析に基づき算出された真円度から特定出来る。
重質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、0.50以上0.95以下の範囲である。軽質炭酸カルシウム粉末の真円度は、例えば、ほぼ1.00である。
【0039】
本発明において「真円度」とは、下式で表される値であり、粒子の不定形性度合いの指標である。真円度が「1」(最大値)に近いほど真円に近いことを意味し、数値が低いほど不定形の度合いが高いことを意味する。
「真円度」=(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)
【0040】
材料として用いる重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム(つまり、積層シートや容器に加工していない状態の無機物質粉末)の、JIS M-8511:2014に準じた空気透過法に基づく平均粒子径は、所望の最大粒径を実現し易いという観点から、好ましくは0.7μm以上6.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上5.5μm以下である。
【0041】
本発明の一態様において、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムの最大粒径は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。
最大粒径が30μm以下である重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムを使用すると、樹脂中に均一分散し易く、混錬による剪断発熱が局所的に発生し、本発明で規定される分子量特性を満たし易くなる。
最大粒径が20μm以下である重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムを使用すると、特に加熱時における積層シート及び容器の変形が抑制し易い。
更に、最大粒径がより小さい重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムを使用すると、上記効果に加え、容器の分離がより容易となり得る。このような効果は、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムの最大粒径が20μm以下であると、安定的に奏され得る。
したがって、本発明の一態様において、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムの最大粒径は、30μm以下であり、好ましくは20μm以下である。
【0042】
本発明において、「最大粒径」は、材料としての無機物質粉末の粒径ではなく、最終製品(積層シート又は容器)に含まれる無機物質粉末の最大粒径を意味し、以下の方法で特定される。
まず、電子顕微鏡を用い、最終製品の内層の断面から無作為に選択された5箇所、好ましくは20箇所(視野:100μm×100μm)において、無機物質粉末の粒径(長径)を測定する。
次いで、各視野内で測定された無機物質粉末の粒径の最大値を、無機物質粉末の最大粒径とする。
【0043】
(1-2)積層シート中の無機物質粉末の種類
積層シートには、炭酸カルシウム以外の無機物質粉末を含んでいても良く、含んでいなくても良い。
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては特に限定されず、通常の樹脂製品等に含まれるものであっても良い。無機物質粉末は、1種類の物質を単独で、又は2種類以上の物質を組み合わせて用いても良い。
【0044】
積層シートにおける各層に含まれる無機物質粉末は、全て同一の物質であっても良く、異なる物質であっても良い。
ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、積層シートにおける各層に含まれる無機物質粉末は、全て同一の物質であることが好ましい。本発明の効果が特に奏され易いという観点から、無機物質粉末は、内層のみに含まれることが好ましい。
【0045】
炭酸カルシウム以外の無機物質粉末としては、例えば、以下のものが挙げられる。
金属(マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、又はホウ酸塩;
金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の酸化物;
上記塩又は酸化物の水和物等。
【0046】
無機物質粉末としては、例えば、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
【0047】
無機物質粉末は合成のものであっても良く、天然鉱物由来のものであっても良い。
【0048】
無機物質粉末の分散性や反応性を高めるために、無機物質粉末の表面を、常法に従い、予め表面改質しても良く、しなくても良い。
表面改質法としては、物理的処理方法(プラズマ処理等)、化学的処理方法(カップリング剤や界面活性剤を使用した方法)等が挙げられる。
【0049】
無機物質粉末の形状は、特に限定されず、粒子状(球形、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。
【0050】
(1-3)積層シート中の無機物質粉末の配合量
無機物質粉末の含有量は、大きな温度変化下でも変形等を生じ難く、混錬による剪断発熱が局所的に発生し、本発明で規定される分子量特性を満たし易くなるという観点から、積層シートに対して、好ましくは30.0質量以上、より好ましくは35.0質量以上、更に好ましくは40.0質量%以上である。
【0051】
無機物質粉末の含有量は、充分な表面平滑性等を付与するほどの熱可塑性樹脂を配合する観点から、積層シートに対して、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70.0質量以下、更に好ましくは65.0質量以下、更により好ましくは60.0質量%以下である。
【0052】
(2)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂を含み、かつ、所定の分子量特性を満たす。
本発明の一態様において、積層シートの樹脂成分は、熱可塑性樹脂からなる。
【0053】
本発明において使用される熱可塑性樹脂は、本発明で規定される分子量特性を満たし易くなるという観点から、その全体において、ガラス転移点(Tg)が、好ましくは-130℃以上5℃以下の範囲にある。
ガラス転移点は、JISK7121:2012に基づき特定される。
【0054】
(2-1)ポリエチレン系樹脂
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位を主成分とする樹脂を使用し得る。ポリエチレン系樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分単位が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、最も好ましくは80質量%以上の樹脂を包含する。
【0055】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0056】
なお、「高密度ポリエチレン(HDPE)」とは、0.942g/cm以上の密度を有するポリエチレンである。
「中密度ポリエチレン(MDPE)」とは、0.930g/cm以上0.942g/cm未満の密度を有するポリエチレンである。
「低密度ポリエチレン(LDPE)」とは、0.910g/cm以上0.930g/cm未満の密度を有するポリエチレンである。
「超低密度ポリエチレン(ULDPE)」とは、0.910g/cm未満の密度を有するポリエチレンである。
「直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)」とは、0.911g/cm以上0.940g/cm未満の密度(好ましくは0.912g/cm以上0.928g/cm未満の密度)を有するポリエチレンである。
【0057】
ポリエチレン系樹脂としては、本発明の効果が奏され易いという観点から、高密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンを含む樹脂が好ましく、高密度ポリエチレンのみからなる樹脂がより好ましい。
【0058】
(2-2)ポリエチレン系樹脂以外の樹脂
熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂以外の樹脂を含んでいても良く、含んでいなくても良い。
【0059】
本発明の好ましい一態様において、熱可塑性樹脂は、耐寒性が優れているという観点から、ポリエチレン系樹脂のみからなる。
【0060】
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂と、ポリプロピレン系樹脂とを含む。かかる場合、ポリエチレン系樹脂:ポリプロピレン系樹脂(質量比)が、好ましくは99:1~50:50、より好ましくは99:1~70:30である。
【0061】
ポリエチレン系樹脂以外の樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂が挙げられる。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンホモポリマー(プロピレン単独重合体)、ブロックポリプロピレンコポリマー、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
【0062】
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂がポリエチレン系樹脂以外の樹脂を含む場合、ポリエチレン系樹脂の含有量が、熱可塑性樹脂に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上となる量で配合する。
【0063】
(2-3)分子量特性
本発明の一態様において、熱可塑性樹脂は、下記の分子量特性を満たすことを要する。
【0064】
(2-3-1)重量平均分子量
熱可塑性樹脂の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)が230000以上330000以下である。
本発明において、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)」とは、ポリスチレン換算のMwである。
熱可塑性樹脂のMwがかかる範囲にあると、得られる樹脂製品の衝撃耐性を高め易い。
【0065】
「GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)」とは、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィーとしても知られ、サイズ(体積)に応じて分子を分離出来る技術である。
この方法では、まず、重量平均分子量が既知である標準物質(ポリスチレン)と、高分子量成分を先に溶出する分析ゲルカラムを用いて、溶出時間と重量平均分子量から検量線を作成する。
次いで、得られた検量線に基づき、測定対象である樹脂の重量平均分子量(Mw)を求める。この算出の際に得られる曲線を「GPC溶出曲線」という。
【0066】
(2-3-2)ピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積
熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積(以下、「20%エリア面積」ともいう。)の割合は、該GPC溶出曲線の全エリア面積に対して、20%以上33%以下、好ましくは24%以上30%以下である。
【0067】
熱可塑性樹脂が、そのMwが230000以上330000以下である前提で、上記要件を満たすことで、意外にも耐寒性、及び耐熱性の何れもが良好となる。
熱可塑性樹脂において、20%エリア面積の割合が20%未満であると、耐寒性に劣り得る。他方で、20%エリア面積の割合が33%超であると、耐熱性に劣り得る。
【0068】
本発明において、「ピークトップ分子量(Mp)」とは、GPC溶出曲線においてピークを示す重量分子量を意味する。
GPC溶出曲線が複数のピークを有する場合、存在量が最も多い重量分子量が示すピークにおける分子量を、ピークトップ分子量(Mp)に設定する。
【0069】
本発明において、「熱可塑性樹脂のGPC溶出曲線から特定されるピークトップ分子量(Mp)の1/5以下の分子量のエリア面積(20%エリア面積)」とは、GPC溶出曲線の全エリア面積を100%とした場合の、「Mp」の1/5(20%)以下の分子量を有する成分に相当するエリア面積を意味する。
したがって、20%エリア面積は、熱可塑性樹脂に占める、「Mp」の1/5以下の分子量を有する成分の割合(%)に相当する。
【0070】
所望の20%エリア面積の割合を有する熱可塑性樹脂の調製方法は特に限定されないが、例えば、上述の無機物質粉末とともに、重量平均分子量や分子量分布の異なる複数の熱可塑性樹脂(高密度ポリエチレン樹脂等)をブレンドする方法等が挙げられる。
【0071】
(3)内層
本発明において、少なくとも内層が無機物質粉末を含む。
【0072】
(3-1)内層に配合される無機物質粉末
内層に配合される無機物質粉末は、積層シートに含まれる無機物質粉末に関する上述の要件を満たせば特に限定されない。
【0073】
(3-2)内層に配合される熱可塑性樹脂
本発明の一態様において、内層には熱可塑性樹脂が配合され得る。熱可塑性樹脂としては、上述の任意の熱可塑性樹脂を使用出来る。
【0074】
内層に含まれる熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリエチレン系樹脂を含む。ポリエチレン系樹脂に加え、ポリプロピレン系樹脂を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0075】
(3-3)内層に配合されるその他の成分
内層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、無機物質粉末、及び熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0076】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0077】
本発明の好ましい態様は、内層が、重質炭酸カルシウム粒子、及び熱可塑性樹脂、潤滑剤、酸化防止剤のみからなる積層シートを包含する。
【0078】
(3-4)内層に配合される成分の割合
内層に配合される成分の含有量は特に限定されない。
【0079】
本発明の効果が奏され易いという観点から、内層には充分量の無機物質粉末が含まれていることが好ましいため、無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは40.0質量%以上、より好ましくは45.0質量%以上、更に好ましくは50.0質量%以上である。
【0080】
積層シートに充分な成形加工性を付与する観点から、無機物質粉末の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは80.0質量%以下、より好ましくは75.0質量%以下、更に好ましくは70.0質量%以下である。
【0081】
内層の無機物質粉末の含有量は、以下の方法で特定された数字であり得る。以下の方法で特定された数字は、上記で挙げた内層に対する無機物質粉末の含有量の例と重複し得る。
(1)工程1
まず、積層シートの任意の5箇所において、積層シート断面のSEM画像を取得する。
該積層シートについて、総質量も記録する。
得られた5箇所のSEM画像に基づき、積層シートの断面全体に対する無機物質粉末の占有面積(面積1)、及び、積層シートの断面のうち内層に対する無機物質粉末の占有面積(面積2)を特定する。
(2)工程2
次いで、積層シートを焼成し、灰分(乾燥粉末)を得る。
得られた灰分に基づき、無機物質粉末の種類や質量を特定する。
(3)工程3
下記式に基づき、内層の無機物質粉末の含有量(質量%)を特定する。
内層の無機物質粉末の含有量(質量%)=「無機物質粉末の質量」×「面積2/面積1」÷「積層シート総質量」
【0082】
工程1において、「面積2/面積1」の下限は、好ましくは0.7以上、より好ましくは1.0である。
【0083】
熱可塑性樹脂の含有量は、無機物質粉末の含有量に応じて調整出来る。
無機物質粉末の含有量の下限は、内層に対して、好ましくは20.0質量%以上、より好ましくは25.0質量%以上、更に好ましくは30.0質量%以上である。
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、内層に対して、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは55.0質量%以下、更に好ましくは50.0質量%以下である。
【0084】
(4)外層
外層は、内層の2つの表面に積層される1対の層である(つまり、本発明の積層シートにおいて、外層は、内層を挟むように2層形成される。)。
本発明において、該1対の層を、第1の外層及び第2の外層と称する。
【0085】
第1の外層及び第2の外層の構成は同一であっても良く、異なっていても良い。ただし、第1の外層及び第2の外層は、それぞれ、熱可塑性樹脂を含む。
【0086】
本発明の好ましい態様は、第1の外層及び第2の外層の構成(組成、厚さ、形状等)が全て同一である態様を包含する。
【0087】
(4-1)外層に配合される熱可塑性樹脂
外層に配合される熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂(好ましくは高密度ポリエチレン樹脂)を含み得る。ポリエチレン系樹脂は、1種類の物質を単独で、又は2種類以上の物質を組み合わせて用いても良い。
【0088】
積層シートにおいて、外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とは同一であっても良く、異なっていても良い。
【0089】
本発明の好ましい態様は、以下の態様を全て包含する。
(態様1)外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て同一である態様
(態様2)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂と、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂と、内層に配合される熱可塑性樹脂とが全て異なる態様
(態様3)第1の外層に配合される熱可塑性樹脂、第2の外層に配合される熱可塑性樹脂、及び内層に配合される熱可塑性樹脂のうち2種のみが同一である態様
【0090】
(4-2)外層に配合されるその他の成分
外層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、熱可塑性樹脂以外のその他の成分を配合しても良く、配合しなくても良い。
【0091】
その他の成分としては、樹脂シートに通常配合され得る任意の成分を採用出来る。
このような成分として、上述の無機物質粉末、潤滑剤、分散剤、静電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
これらの成分の種類や量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定出来る。
【0092】
(4-3)外層に配合される成分の割合
外層に配合される熱可塑性樹脂等の含有量は、特に限定されない。
【0093】
外層に配合される熱可塑性樹脂の割合は、樹脂シートを成形出来る範囲であれば、特に限定されない。
【0094】
熱可塑性樹脂の含有量の下限は、外層に対して、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは90.0質量%以上、更に好ましくは99.0質量%以上である。
【0095】
熱可塑性樹脂の含有量の上限は、外層に対して、好ましくは100.0質量%である。
【0096】
本発明の好ましい態様において、外層に無機物質粉末が配合される場合、内層の無機物質粉末の割合(つまり、内層全体に対する無機物質粉末の割合)が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合(つまり、第1の外層及び第2の外層の全体に対する無機物質粉末の割合)よりも多く配合される。
このように調整することで、大きな温度変化にさらされる食品(電子レンジ加熱される食品等)と接触していても変形を生じ難い積層シートが得られ易くなる。
【0097】
内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合よりも多いかどうかは、積層シート断面のSEM画像の分析に基づき特定出来る。
具体的には、積層シートの断面画像において、内層における無機物質粉末が占める面積割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の面積割合の合計よりも多ければ、内層の無機物質粉末の割合が、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の総量の割合よりも多いと判断出来る。
【0098】
内層の無機物質粉末の含有量に対する、第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の含有量の総量の比率(第1の外層及び第2の外層における無機物質粉末の含有量の総量/内層の無機物質粉末の含有量)は、1.0未満であれば良いが、該比率が小さいほど本発明の効果が得られ易い。
最も好ましい態様では、第1の外層及び第2の外層には無機物質粉末が含まれない。
【0099】
本発明の好ましい態様は、外層が、それぞれ熱可塑性樹脂のみからなる積層シートを包含する。
【0100】
(5)積層シートの各層の厚さ等
本発明の積層シートにおいて、第1の外層及び第2の外層における厚さの比率は、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上20.0%以下である。つまり、本発明の積層シートにおいて、外層の総厚さ(第1の外層及び第2の外層における厚さの合計値)は、積層シートの全体厚さに対して、4.0%以上40.0%以下である。
本発明の積層シートは、内層の厚さに対して外層の厚さを薄くすることで、電子レンジ加熱時の変形を抑制出来るだけでなく、成形加工性等も向上させることが出来る。
【0101】
第1の外層及び第2の外層における厚さの比率の下限は、外観が良好となり易いという観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、2.0%以上、好ましくは2.5%以上、より好ましくは3.0%以上である。
【0102】
第1の外層及び第2の外層における厚さの比率の上限は、本発明の効果が奏し易くなるという観点から、積層シートの全体厚さに対して、それぞれ、20.0%以下、好ましくは18.0%以下、より好ましくは16.0%以下、最も好ましくは10.0%以下である。
【0103】
本発明の積層シートにおいて、内層の厚さの比率は、外層の厚さに応じて調整され、積層シートの全体厚さに対して、60.0%以上96.0%以下である。
【0104】
第1の外層及び第2の外層における厚さの下限は、良好な外観が得られ易いという観点から、それぞれ、好ましくは5.0μm以上、より好ましくは10.0μm以上である。
【0105】
第1の外層及び第2の外層における厚さの上限は、良好な成形性等を実現し易い等の観点から、それぞれ、好ましくは50.0μm以下、より好ましくは45.0μm以下である。
【0106】
内層の厚さの下限は、良好な機械的特性が得られ易い等の観点から、好ましくは50.0μm以上、より好ましくは100.0μm以上である。
【0107】
内層の厚さの上限は、良好な成形性等の観点から、好ましくは950.0μm以下、より好ましくは900.0μm以下である。
【0108】
積層シートの全体厚さの下限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは100.0μm以上、より好ましくは150.0μm以上である。
【0109】
積層シートの全体厚さの上限は、外層や内層の厚さに応じて調整され、好ましくは990.0μm以下、より好ましくは700.0μm以下である。
【0110】
積層シートの密度は、特に限定されない。
【0111】
積層シートは、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートであっても良く、外層の外側(最外層)にその他の層が設けられた4層以上のシートであっても良い。
上記その他の層としては、本発明の効果を阻害しない範囲で任意の層(印刷層等)が選択され得る。
ただし、本発明の一態様は、積層シートが、内層、第1の外層、及び第2の外層からなる3層シートである態様を包含する。
【0112】
(6)積層シートの製造方法
本発明の積層シートの製造方法は特に限定されず、従来知られる多層シートや積層体の製造方法を採用出来る。
【0113】
積層シートの製造方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。
・シート状に成形した内層及び外層をカレンダーロールで積層する方法
・内層及び外層を共押出する方法
・多層Tダイ方式の二軸押出成形機を用いて、内層用原材料の溶融混練と内外層の共押出成形とを同一工程で行う方法
・複数の環状ダイスを用いた、押出インフレーション方式による方法
【0114】
積層シートは、必要に応じて延伸を行っても良い。
【0115】
積層シートの製造条件は特に限定されない。
混練温度は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上であれば良く、例えば、160~200℃の範囲である。
【0116】
(7)積層シートの用途
本発明の積層シートは、任意の容器の材料として使用される。該容器は、冷凍庫や冷蔵庫での保管や、加熱処理(電子レンジ加熱等)に供され得る。
【0117】
容器の構成としては、従来知られる任意の構成を採用出来る。好ましい構成としては、「(8)容器」の項に挙げた構成が挙げられる。
【0118】
本発明の積層シートを、任意の成形方法に供することで容器(例えば、食品包装容器)が得られる。
このような成形方法としては、特に限定されず、真空成形、圧空成形、マッチモールド成形等が挙げられる。
これらのうち、成形容易性という観点から、真空成形が好ましい。したがって、本発明の積層シートは、真空成形用積層シートである態様を包含する。
【0119】
(8)容器
本発明の一態様は、下記の構造を有する、本発明の積層シートからなる容器も包含する。
【0120】
容器は、凹状に形成され、物品を収容可能な収容部を有している。収容部は、底部と、底部の外周部に沿って形成された側部と、を有している。収容部は、底部及び側部の内面に対して間隔をおいて物品を支持可能な複数の支持部を有している。複数の支持部は、それぞれ、底部の周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、底部の外周側から側部の底部側にわたって内側に突出している。側部の内面側には、周方向に間隔をおいて設けられ、かつ、収容部の深さ方向に延在する複数の溝が形成されている。
【0121】
上記容器は、所定の応力を作用させることによってそれぞれの収容部に分離可能に、複数の収容部を一体に連結する連結部を有していても良い。
【0122】
上記容器における側部は、支持部に対して間隔をおいて設けられ、底部側に対して外周側に張り出させることによって形成される段差部を有していても良い。
【0123】
上記容器における底部は、複数の支持部に対して間隔をおいて設けられ、内側に突出する凸部が形成されていても良い。
【0124】
図1及び2に示される容器は、本発明の積層シートからなる容器の好ましい一例である。
【0125】
容器における物品の配置は特に限定されないが、一の収容部に対して、一の物品(例えば、冷凍食品)を、底部及び側部の内面に対して間隔をおいた状態で収容することで、物品の加熱によって生じた液体と物品との接触を抑制するとともに、物品の加熱によって生じた物品等に由来する蒸気を側部の内面と物品との間を通過させるようにすることが好ましい。
【0126】
本発明の容器の成形方法としては、特に限定されず、真空成形、圧空成形、マッチモールド成形等が挙げられる。
これらのうち、成形容易性という観点から、真空成形が好ましい。したがって、本発明の容器は、真空成形品である態様を包含する。
【実施例
【0127】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0128】
<試験1:積層シート及び容器の作製及び評価-1>
以下の方法で積層シート及び容器を作製し、その評価を行った。
【0129】
(1)材料の準備
各層の材料を以下の通り準備した。
【0130】
(1-1)無機物質粉末
無機物質粉末として、平均粒子径:4.9μmの重質炭酸カルシウム粒子(Ca-1)を使用した。ただし、実施例7のみ平均粒子径:9.8μmの重質炭酸カルシウム粒子(Ca-2)を使用した。
【0131】
(1-1-1)平均粒子径
無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511:2014に準じた空気透過法に基づき特定した。平均粒子径は、材料として用いる無機物質粉末(つまり、積層シートや容器に加工していない状態の無機物質粉末)について測定を行った。
【0132】
(1-1-2)最大粒径の測定方法
積層シート又は容器における無機物質粉末の最大粒径を、下記の手順で特定した。
まず、電子顕微鏡を用い、内層の断面から無作為に選択された5箇所(視野:100μm×100μm)において、炭酸カルシウム粒子の粒径(長径)を測定した。
次いで、各視野内で測定された炭酸カルシウム粒子の粒径の最大値を、炭酸カルシウム粒子の最大粒径とした。
その結果、Ca-1を使った何れの例でも、最大粒径が21.4~26.7μmだった。また、Ca-2を使った実施例7では、最大粒径が36.2μmだった。
【0133】
(1-2)熱可塑性樹脂
重量平均分子量の異なる複数の高密度ポリエチレン樹脂(PE)と、ブロックポリプロピレンコポリマー(PP)と、を準備した。
これらの樹脂を、高密度ポリエチレン樹脂:ブロックポリプロピレンコポリマー(質量比)=85:15で混合したものも準備した。
後述するように積層シートを作製した後、各熱可塑性樹脂の分子量特性を評価したところ、表1の通りだった。
【0134】
(1-2-1)重量平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、積層シートに含まれる熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw、ポリスチレン換算量)を測定した。
更に、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の比率(多分散度(Mw/Mn))を算出した。
【0135】
(1-2-2)分子量分布
積層シートに含まれる熱可塑性樹脂について、GPCを用いて、分子量分布測定を行った。その結果、縦軸に「微分分布値」、横軸に「分子量の対数(Log M)」を示したGPC溶出曲線を得た。
GPC溶出曲線は、何れの樹脂においても単一ピークだった。
【0136】
GPC溶出曲線に基づき、以下をそれぞれ特定した。
・Mp:GPC溶出曲線のピークトップ分子量
・20%エリア面積:GPC溶出曲線の全エリア面積に対する、「Mp」の1/5以下の分子量のエリア面積(20%エリア面積)の割合
【0137】
(2)積層シートの作製
表2に示す材料を用いて、180℃の条件で、多層Tダイ法により、3層の積層シートを作製した。
積層シートの全体厚さは、400μmに設定した。
内層の厚さは、360μm(積層シートの全体厚さに対して90%)に設定した。
内層の両面に外層(第1の外層及び第2の外層)を設け、それぞれの外層の厚さは、20μm(積層シートの全体厚さに対して、それぞれ5%)に設定した。
【0138】
(3)容器の作製
上記で得られた各積層シートについて、遠赤外線ヒーターで予熱した後、真空成形機によって容器に成形した。
容器の形状の概要は図1及び図2に示す通りである。
【0139】
この容器1は、凹状に形成され、食品を収容可能な複数の収容部10を有している。容器1は、所定の応力を作用させることによってそれぞれの収容部10に分離可能に、複数の収容部10を一体に連結する連結部2を有している。容器1を構成するそれぞれの収容部10には、1つの略球形状の食品が収容される。図に示す容器1は、2つの収容部10を有している。容器1は、平面視における長手方向寸法が200mm、短手方向寸法が100mmであり、高さ寸法が50mmである。また、収容部10は、径方向寸法が80mm、深さ寸法が50mmである。
【0140】
収容部10は、底部11と、底部11の外周部に沿って形成された側部12と、底部11及び側部12の内面に対して間隔をおいて食品を支持する複数の支持部13と、を有している。
【0141】
底部11は、外径寸法が75mmの円板状に形成されている。底部11の径方向の中心部側には、複数の支持部13に対して10mmの間隔をおいて設けられ、内側に突出する凸部11aが形成されている。凸部11aは、基端側の一辺が15mm、先端側の一辺が9.5mm、高さが6.5mmの四角錐台形状に形成され、収容部10に収容された食品に対して底部11側から当接する。これにより、収容部10に収容された食品と底部11の内面と間には、隙間が形成される。収容部10に収容された食品は、加熱にともなう蒸発等によっての液体(水又は油等)が食品の外側に生じた場合に、液体が底部11の内面側における凸部11aと支持部13との間に溜まり、加熱中又は加熱後の食品と液体との接触が抑制される。
【0142】
側部12は、円筒状に形成されている。側部12の内周面側には、それぞれ周方向に間隔をおいて設けられ、収容部10の深さ方向に延在する溝12aが形成されている。溝12aは、幅寸法が3mm、深さ寸法が1.5mmの横断面半円形状に形成されている。収容部10に収容された食品は、加熱によって生じた水又は油等の蒸気が溝12aに沿って収容部10の厚さ方向に流通する。また、側部12は、複数の支持部13に対して収容部10の深さ方向に間隔をおいて設けられ、底部11側に対して外周側に張り出させることによって形成される段差部12bを有している。段差部12bは、側部12を、底部11側に対して4mm径方向外側に張り出させることによって形成されている。収容部10に収容された食品は、複数の支持部13及び段差部12bの角部分によって安定的に支持される。
【0143】
複数の支持部13は、底部11の周方向に10mmの間隔をおいて設けられ、底部11の外周側から側部12の底部11側にわたって内側に突出している。複数の支持部13は、それぞれ、底部11の周方向において、底部11側の長さ寸法が19mm、側部12側の長さ寸法が30mm、高さ寸法が6.5mmである。図に示す容器1の収容部10は、4つの支持部13を有している。また、複数の支持部13には、それぞれ、収容部10の深さ方向に延在し、食品の加熱によって生じる蒸気が流通可能な溝13aが形成されている。溝13aは、幅寸法が3mm、深さ寸法が1.5mmの横断面半円形状に形成されている。
【0144】
(4)容器の評価
以下の方法で、容器の耐寒性及び耐熱性を評価した。その結果を表2及び3に示す。
【0145】
(4-1)耐寒性
各容器を冷凍庫(-18℃)に入れ、100時間静置した後に3mの高さから地面に落下させた。
次いで、容器の割れの有無や程度を目視観察し、以下の基準で評価した。
【0146】
[耐寒性の評価基準]
A:容器の割れが全く認められなかった。
B:容器の割れが少々認められた。
C:容器の割れが明確に認められた。
【0147】
(4-2)耐熱性
各容器に、サラダ油を等量ずつ入れ、電子レンジで加熱(600W、80秒)した。
次いで、容器の変形の有無や程度を目視観察し、以下の基準で評価した。
【0148】
[耐熱性の評価基準]
A:容器の変形が全く認められなかった。
B:容器の変形が少々認められた。
C:容器の変形が明確に認められた。
【0149】
【表1】
【0150】
【表2】
【0151】
【表3】
【0152】
表に示される通り、本発明の要件を満たす熱可塑性樹脂を用いることで、耐寒性、及び耐熱性の何れもが良好だった。
【0153】
他方で、同種の熱可塑性樹脂であっても、本発明の分子量特性を満たさなければ、耐寒性、及び耐熱性の何れかが劣る点はきわめて以外な知見だった。
【0154】
本例では、熱可塑性樹脂として、ポリエチレン系樹脂とともに、ポリプロピレン系樹脂(ブロックポリプロピレンコポリマー等)を用いたが、ポリエチレン系樹脂のみを用いた場合等も上記と同様の傾向だった。
【0155】
表中、「実施例-6」及び「参考例」は、「実施例-5」と同様の材料を用いつつ、内層の炭酸カルシウムの割合を変化させた例である。
これらの結果から、無機物質粉末の含有量が、積層シートに対して、30.0質量以上であると、良好な耐寒性及び耐熱性を実現し易いことがわかった。
【0156】
表中、「実施例-7」は、「実施例-5」と同様の熱可塑性樹脂、及び同様の成分比率に設定しつつ、最大粒径が異なる炭酸カルシウムを用いた例である。
これらの結果から、炭酸カルシウムの最大粒径が30μm以下であると、良好な耐寒性及び耐熱性を実現し易いことがわかった。
【0157】
<試験2:積層シート及び容器の作製及び評価-2>
上記試験1のとおり、本発明の要件を満たす熱可塑性樹脂を用いることで、耐寒性、及び耐熱性の何れもが良好となることがわかった。
そこで、本例は、熱可塑性樹脂の構成を変えて、試験1同様の試験を行い、試験1同様の効果が得られるかを確認した。
以下、特段の記載がない限り、試験1と同様の条件で、各種分析や、積層シート及び容器の作製を行った。
【0158】
本例では、熱可塑性樹脂として、重量平均分子量の異なる複数の高密度ポリエチレン樹脂(PE)を準備し、適宜これらを混合して用いた(他の種類の熱可塑性樹脂は含んでいない)。
試験1と同様に積層シートを作製した後、各熱可塑性樹脂の分子量特性を評価したところ、表4の通りだった。
また、本例では、全ての例において、熱可塑性樹脂として、PEのみを用いた。以下、本例における各試験の名称は、試験1と対応している。例えば、試験2における「実施例-1PE」は、試験1における「試験-1」について、熱可塑性樹脂をPEに変えた点以外は、「試験-1」と同様の条件で試料の作製や評価を行った。
【0159】
また、容器の耐寒性及び耐熱性の評価結果を表5及び6に示す。
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
表4~6に示されるとおり、熱可塑性樹脂の構成を変えても、試験1同様の傾向となることを確認した。
【0164】
また、本例では、熱可塑性樹脂としてポリエチレン系樹脂のみを用いたが、かかる態様は、耐寒性の観点から試験1の実施例よりも優れる傾向にあった。
【0165】
表中、「実施例-6PE」及び「参考例PE」は、「実施例-5PE」と同様の材料を用いつつ、内層の炭酸カルシウムの割合を変化させた例である。
これらの結果から、無機物質粉末の含有量が、積層シートに対して、30.0質量以上であると、良好な耐寒性及び耐熱性を実現し易いことがわかった。
【0166】
表中、「実施例-7PE」は、「実施例-5PE」と同様の熱可塑性樹脂、及び同様の成分比率に設定しつつ、最大粒径が異なる炭酸カルシウムを用いた例である。
これらの結果から、炭酸カルシウムの最大粒径が30μm以下であると、良好な耐寒性及び耐熱性を実現し易いことがわかった。

【要約】
【課題】本発明の課題は、耐寒性、及び耐熱性に優れる、無機物質粉末含有積層シートや容器を提供することである。
【解決手段】本発明は、3層以上の積層シートであって、前記積層シートが、内層と、前記内層の表面に積層された第1の外層及び第2の外層とを少なくとも備え、前記積層シートが、所定の要件を満たす熱可塑性樹脂を含む、積層シート等を提供する。
【選択図】なし
図1
図2