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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-19
(45)【発行日】2025-09-30
(54)【発明の名称】耐食性に優れた導電性ポリマー粒子
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/00 20060101AFI20250922BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20250922BHJP
   B22F 1/18 20220101ALI20250922BHJP
   C08F 20/10 20060101ALN20250922BHJP
   C08F 8/12 20060101ALN20250922BHJP
【FI】
H01B5/00 C
H01B13/00 501Z
B22F1/18
C08F20/10
C08F8/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024521342
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(86)【国際出願番号】 KR2021013906
(87)【国際公開番号】W WO2023058796
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】524132092
【氏名又は名称】シーアンドシー マテリアルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】キム サン-ホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ スン-ウン
(72)【発明者】
【氏名】チョ ヒュン-グン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ユン-ホ
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/112475(WO,A1)
【文献】特開2014-029855(JP,A)
【文献】実開昭60-116699(JP,U)
【文献】特開昭53-145882(JP,A)
【文献】特表2019-512867(JP,A)
【文献】国際公開第2017/140574(WO,A1)
【文献】特表2016-515302(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181985(WO,A1)
【文献】特開平11-293307(JP,A)
【文献】特開2013-206823(JP,A)
【文献】特開2013-073919(JP,A)
【文献】特開2010-103080(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0188697(US,A1)
【文献】特開2018-049939(JP,A)
【文献】特開2016-130354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00
H01B 13/00
B22F 1/18
C08F 20/10
C08F 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、
前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、
前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、
を含む、
導電性ポリマー粒子。
【請求項2】
前記ポリマー粒子は、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、及びスチレン系樹脂からなる群から選択される1種以上であり、レーザ散乱方式の粒度分析機で分析するとき、D50が0.1~100μmの範囲の球状である、
請求項1に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項3】
前記第1層は、金属銀を更に含み、前記金属銀における銀元素に対する前記酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))が1~20の範囲である、
請求項1に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項4】
前記第1層は、錫を更に含む、
請求項1に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項5】
前記第層に含まれる銀の含量は、前記導電性ポリマー粒子の全体重量の10~1,000ppmである、
請求項1に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項6】
前記第3層は、前記ニッケルと共に燐を更に含む、
請求項1に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項7】
前記第3層は、0.1~13.0重量%の燐を含む、
請求項6に記載の導電性ポリマー粒子。
【請求項8】
(a)ポリマー粒子の表面を親水化させる親水化段階と、
(b)前記表面が親水化したポリマー粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、
(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、
(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、
を含む、
導電性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項9】
上記(a)段階と(b)段階との間に、錫層を形成する段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性ポリマー粒子の製造方法。
【請求項10】
上記(b)段階の後、上記(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液において、前記第1層が形成されたポリマー粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含む、
請求項8に記載の導電性ポリマー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属コート層を有する導電性ポリマー粒子に関し、特に、高価なパラジウム触媒層なしに銅金属層が表面に形成され、さらに銅金属層を保護するために、ニッケルまたは銀のコート層がさらに形成される、多層構造の耐食性に優れた導電性ポリマー粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粒子は、電子材料に非常に広く使用されている。そのうち、銅またはニッケルといった金属粒子は、高い導電性を有しており、価格競争力も高いことから、種々の電子部品における電気伝導性を要するフィルム、接着剤、コートスラリーなどに様々に活用されている。
【0003】
ところが、これらの金属粒子は、合成過程で様々なサイズの粒子を製造し難いし、粒子間の粒度均一性と球状を維持し難いため、導電性フィルムや接着剤を製造するとき、均一な厚さのフィルムまたは接着層を作りにくくなり、接触特性も均一に維持しにくくなる。また、良くない接触特性を補うために、金属粒子を大きな体積でフィルムまたは接着剤に投入することになるが、これらの金属粒子による大きな体積の割合は、フィルムまたは接着層を重くして、接着力を弱化させる問題を引き起こし得る。
【0004】
斯かる問題を克服するために、導電性フィルムの一種類である異方性導電フィルムには、サイズの様々な制御が可能であり、粒度が均一に維持できるポリマー粒子の表面に銅、ニッケル、銀、金などの導電性金属層を形成した導電性ポリマー粒子を適用している。
【0005】
異方性導電フィルムは、ディスプレイを駆動するためDDIチップと様々な形態のディスプレイとの間の安定的な接続を行わせるものであって、ここに使用される導電性ポリマー粒子である導電ボールは、kg当たり2~3千万ウォンの値段を形成するが、この原因の1つは、高価なパラジウム(Pd)が使用されるからである。これは、ポリマー粒子に導電性を付与するため金属コートの際、ポリマー粒子と金属層との堅固な結合のために、触媒層を形成するためパラジウムの使用が不可避だからである。したがって、これらの導電ボールは、高価な異方性導電フィルムのほかには使用されにくい。
【0006】
一方、ポリマー粒子の表面にコートされる金属層は、様々な金属からなり得るが、銅は、導電性が銀に近い程に優れており、酸化しやすいという問題があり、ニッケルは、耐食性には優れるため、長期信頼性などにおける長所はあるものの、電気伝導度が低いという問題がある。さらに他の金属である銀(Ag)は、導電性と耐食性にいずれも優れるものの、値段が高すぎるという問題がある。
【0007】
このように、ポリマー粒子の表面に形成される金属層もまた、所望の品質のいずれも満たすことは難しい点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、表面に、電気伝導性に優れるとともに、耐食性とポリマー粒子との結合力に優れた、金属層が形成された導電性ポリマー粒子を提供することを目的とする。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、導電性ポリマー粒子の表面に、電気伝導性に優れるとともに、耐食性とポリマー粒子との結合力に優れた金属層を安価に形成することができる導電性ポリマー粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のような目的を達成するために本発明では、ポリマー粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、を含む導電性ポリマー粒子を提供することができる。
【0011】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記ポリマー粒子は、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、及びスチレン系樹脂からなる群から選択される1種以上であり、レーザ散乱方式の粒度分析機で分析するとき、D50が0.1~100μmの範囲の球状であってもよい。
【0012】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第1層は、金属銀を更に含み、前記金属銀における銀元素に対する前記酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))が1~20の範囲であってもよい。
【0013】
本発明による導電性ポリマー粒子において、本発明による導電性ポリマー粒子における前記第1層は、錫を更に含んでいてもよい。
【0014】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記ポリマー粒子の表面に形成される錫層と、前記錫層上に形成された酸化銀層と、を含んでいてもよい。
【0015】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第1層に含まれる銀の含量は、前記導電性ポリマー粒子の全体重量の10~1,000ppmであってもよい。
【0016】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第1層は、前記ポリマー粒子の表面における不連続的な島状であってもよい。
【0017】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第2層における銅の含量は、90重量%以上であってもよい。
【0018】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第3層は、前記ニッケルと共に燐を更に含んでいてもよい。
【0019】
本発明による導電性ポリマー粒子において、前記第3層は、ニッケルと共に0.1~13.0重量%の燐を含んでいてもよい。
【0020】
本発明において、(a)ポリマー粒子の表面を親水化させる親水化段階と、(b)前記表面が親水化したポリマー粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、を含む導電性ポリマーの製造方法を提供することができる。
【0021】
また、本発明において、前記第1層の形成段階で上記酸化銀と共に錫をコートする導電性ポリマーの製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明による導電性ポリマーの製造方法は、上記(a)段階と(b)段階との間に、錫層を形成する段階を更に含んでいてもよい。
【0023】
また、本発明による導電性ポリマーの製造方法は、上記(b)段階の後、上記(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液において、前記第1層が形成されたポリマー粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明による導電性ポリマー粒子は、安価でありながら電気伝導度と耐食性に優れて、電気伝導度を要する種々の電子部品に適用可能であり、表面金属層の結合力に優れて、適用される部品の軽量化と、導電性及び信頼性の向上を達成することができるようになる。
【0025】
また、本発明で提供する導電性ポリマー粒子の製造方法により、安価の工程によって導電性及び信頼性に優れた導電性ポリマー粒子の大量生産が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による実施例と比較例による導電性ポリマー粒子の走査電子顕微鏡のイメージである。
図2】本発明による一実施例における導電性ポリマー粒子に対するX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)による分析結果を示す図である。
【0027】
発明を実施するための最良の形態
以下では、本発明の実施例について添付の図面を参照して、その構成及び作用を説明することとする。下記では、本発明を説明するにあたって、関連する公知の機能または構成に関する具体的な説明が本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。また、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に逆の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素を更に含んでいてもよいことを意味する。
【0028】
ポリマー粒子は、様々な形状とサイズの粒子を作ることができる。しかし、材料の特性上、電気伝導性は、ないか非常に低いことから、これを克服するために、表面に導電性金属層を形成すると、様々な形状とサイズのポリマー粒子に導電性を付与することができるようになる。
【0029】
しかし、ポリマーと金属は、異種の材料であって、その接着力が非常に低いため、金属層がポリマーの表面に形成されることは、非常に難しい。これを克服するために従来は、導電性を付与する金属層とポリマーとの間に接着を円滑にする中間層を形成する方法を用いていたが、これらの中間層としてパラジウムを含む触媒層を形成させていた。これらのパラジウム触媒層は、金属層である銅、ニッケル、銀などの円滑な形成を導いた。しかし、周知のように、パラジウムは、高価な貴金属であって、近年は、金より高いため、これを用いて作られる導電性ポリマー粒子は、非常に高価であるしかないという問題があった。
【0030】
斯かる問題を解決するために、本発明の発明者らは、パラジウムよりも安価であり、かつ、ポリマーの表面と十分な結合力を提供することができる中間層を検討した。酸化銀は、酸化物としてポリマーの表面に円滑に接着可能であるとともに、金属との結合力にも優れることが知られているため、これを中間層として形成した後、金属コート層を形成する開発を行った。
【0031】
その結果、酸化銀の単独、または酸化銀と金属銀とが複合化した中間層が形成された場合、その後に形成される金属層であるニッケル層がポリマー粒子と強く結合し得、従来のパラジウムを含む層を用いた場合に比べて同等であるか、それ以上の結合力を示し得ることが分かった。
【0032】
一方、ポリマー粒子の表面に形成される金属層の種類によって、導電性ポリマー粒子の特性が決定されるが、銅は、電気伝導性に優れる反面、酸化しやすくて、信頼性が問題となる。ニッケルは、逆に、耐食性には優れるものの、電気伝導性は、銅より低いという問題がある。銀は、耐食性と電気伝導度にいずれも優れるものの、高価であるという問題がある。このように、いずれか種類だけでは、産業で要求する特性のいずれも満たすことは難しい点がある。
【0033】
斯かる問題を克服するために、本発明の発明者らは、金属層を多層構造にして、先ず、銅金属層を形成し、これらの銅金属層を保護するために、ニッケルまたは銀金属層を銅金属層上に形成した、多層構造の金属層が表面に形成された導電性ポリマー粒子を発明することになった。
【0034】
これによって、本発明では、ポリマー粒子の表面に形成される酸化銀を含む第1層と、前記第1層上に形成されて、銅を含む第2層と、前記第2層上に形成されて、ニッケルまたは銀を含む第3層と、を含む導電性ポリマー粒子を提供することができる。
【0035】
導電性ポリマー粒子のコアを構成するポリマー粒子は、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、及びスチレン系樹脂からなる群から選択される1種以上であり、レーザ散乱方式の粒度分析機で分析するとき、D50が0.1~100μmの範囲の球状であってもよい。
【0036】
導電性ポリマー粒子は、密度が低い、かつ、様々な粒度の球状が可能であるほど、種々の電子部品に適用されるのに有利である。このため、コアを構成するポリマー粒子は、アクリル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂またはスチレン系樹脂であるのが好ましいが、これらは、いずれも様々な粒度の球状製品が常用化しており、これらを用いると、様々な球状の導電性ポリマー粒子の製品を作ることができるようになる。球状のポリマーは、充填性や流れ性が良く、様々な方向に電気伝導性を同一に維持できる長所を有するようになる。また、アクリル系、アクリロニトリル系またはスチレン系樹脂は、耐化学性に優れて、導電性コート層を形成する工程における変形がなく、適用される部品の環境を問わずに使用可能になる。
【0037】
特に、アクリル系樹脂であるPMMA(Ploy(methyl methacrylate))は、球状であり、かつ、非常に様々な粒度の製品が既に常用化しており、容易に入手可能であり、種々の分野における検証済みであり、様々な導電性ポリマー粒子に製品化することができるようになる。PS(Polystyrene)とPAN(Polyacrylonitrile)も同様、様々な粒度の製品と安定的な耐化学性を有しており、様々な導電性ポリマー粒子化が可能である。
【0038】
また、本発明におけるこれらのポリマー粒子は、レーザ散乱方式の粒度分析機で分析するとき、粒度がD50を基準に0.1~100μmであるが、ここで、D50は、粒子の累積百分率が50%に至るときの当該粒度を意味する。D50を基準にポリマー粒子の粒度が0.1μm未満であると、ポリマー粒子間の凝集が過度であり、取り扱いが難しく、増加する比表面積により表面金属層の形成が困難であるようになる。一方、100μmを超えると、比表面積が減り、表面に形成される金属層の占める含量が減り、所望の電気伝導度を得ることができないことがある。
【0039】
上述したように、ポリマー粒子の表面は、材料の特性上、容易に金属層と結合し難しい。斯かる表面特性を改質するために、触媒層の形成が必要となるが、本発明では、従来のパラジウムを含む触媒層ではなく、酸化銀を含む触媒層である第1層を先に形成することになる。酸化銀は、ポリマーだけでなく、金属との結合にも優れるため、コアを構成するポリマーと表面の金属層との間の結合が強く維持されるようにすることができる。
【0040】
本発明において、酸化銀を含む第1層は、錫を更に含んでいてもよいが、錫は、酸化銀が円滑にポリマー粒子の表面に付着するように導くために用いられる元素であって、水溶液でコーティング作業を行う場合、ポリマー粒子の表面に親水化を与えて、銀元素のポリマー粒子の表面への付着を助けるようになる。これらの錫は、酸化銀と共に第1層を構成することもでき、酸化銀を含む第1層とポリマー粒子の表面との間に形成されていてもよい。
【0041】
本発明における酸化銀を含む第1層は、酸化銀と共に金属銀を更に含んでいてもよいが、金属銀が更に含まれると、第2層に含まれる金属である銅との結合をよりさらに強化することができる。酸化銀は、ポリマーとの結合を強化し、金属銀は、これらの酸化銀と強く結合されるとともに、同じ金属である銅との強い結合を提供することで、結果として、銅を含む第2層とポリマー粒子との結合力を更に強化させる。
【0042】
このとき、第1層における金属銀の銀元素に対する酸化銀における銀元素のモル比(Agx+/Ag(0<x≦3))は、1~20の範囲であるのが好ましい。
【0043】
上述したように、金属銀を含むことが、酸化銀を含む第1層と銅を含む第2層との結合を強化するものの、酸化銀における銀元素に比べて、金属銀における銀元素の割合が高すぎると、その分、酸化銀による第1層のポリマー粒子の表面との結合力が低下するため、好ましくない。よって、酸化銀の銀元素に対する金属銀における銀元素のモル比は、酸化銀における銀元素の割合がさらに高いように、1~20であるのが好ましく、より好ましくは、1~10であり、さらに好ましくは、2~5である。これらのモル比の測定は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)で測定することができる。
【0044】
ここで、酸化銀における銀の酸化数は、+1~+3まで可能であり、非晶質相では、酸化数が定数でなくてもよいため、酸化銀における銀の酸化数は、0超かつ3以下であってもよい。
【0045】
また、第1層は、パラジウムを更に含んでいてもよいが、パラジウムを含むことで、ポリマー粒子の表面と酸化銀との結合かつ第2層の結合をさらに強化することができる。このとき、含まれるパラジウムは、酸化銀のない従来の導電性ポリマー粒子に含まれる量よりもさらに少なくなり得る。例えば、従来は、導電性ポリマー粒子に製造工程で用いられるパラジウムの量は、導電性ポリマー粒子を基準に、一般に100~1,000ppmの範囲であるが、本発明による導電性ポリマー粒子には、0超かつ50ppm以下で用いることができる。
【0046】
また、第1層に含まれる銀の含量は、前記導電性ポリマー粒子の全体重量の10~1,000ppmであってもよい。
【0047】
第1層に形成される金属銀または酸化銀は、一定含量以上であってこそ、第2層に満足できる程の結合力を提供することができ、多すぎると、工程コストが高くなるため、好ましくないからである。より好ましくは、10~500ppmであってもよい。
【0048】
また、本発明における第1層は、ポリマー粒子の表面に不連続的に形成される島状であってもよい。第1層は、電気伝導性を付与する第2層に、ポリマー粒子との結合力を強化させる層であって、不連続的な島状であるとしても、十分第2層に結合力を提供することができる。
【0049】
一方、第1層は、連続的なフィルム状であってもよいが、この場合、第1層は、ポリマー粒子の表面積の最小50%以上を占めることになる。連続的なフィルム状である場合も、少なくとも粒子表面積の50%以上であってこそ、十分な結合力を第2層に提供することができるからである。
【0050】
酸化銀を含む第1層上には、電気伝導性に優れた金属である銅を含む第2層が形成される。銅は、金属のうち、特に電気伝導性に優れた特性を有しており、導電性ポリマー粒子が優れた電気伝導性を有するようにする。
【0051】
これらの銅を含む第2層は、全体の導電性ポリマー粒子において、5~40重量%であってもよいが、5重量%未満であると、電気伝導性が落ち得、40重量%を超えると、全体の導電性ポリマー粒子の密度が高くなり、第2層の脱落リスクが増加するため、好ましくない。よって、導電性ポリマー粒子における第2層の含量は、好ましくは、10~30重量%、さらに好ましくは、10~20重量%である。
【0052】
一方、本発明において、銅を含む第2層における銅の含量は、90重量%以上であるが、90重量%未満であると、第2層の電気伝導性が落ちるからである。
【0053】
本発明においては、銅を含む第2層上には、さらにニッケルまたは銀を含む第3層が形成されていてもよい。
【0054】
これらのニッケルまたは銀を含む第3層は、第2層で形成された金属銅の酸化を防止するとともに、優れた電気伝導性を有するようになることで、最終的に導電性ポリマー粒子が電気伝導性と信頼性をいずれも確保できるようにする。
【0055】
第3層として、耐食性に優れたニッケルを含む金属層が形成されると、第2層を保護し、かつ、金属であるニッケルが形成されることによって、一定水準以上の伝導度を確保できるようになる。
【0056】
これらの第3層は、ニッケルだけでなく、燐を含んでいてもよいが、燐が含まれることで、電気伝導度は、やや低下するものの、耐化学性と耐酸化性とが向上するため、信頼性が重要とされる部品に用いられる場合は、第3層にニッケルと共に燐を含むのが好ましい。燐を含む場合、第3層における燐の含量は、0.1~13.0重量%であるのが好ましいが、低すぎると、所望の耐化学性と耐酸化性とが向上せず、13重量%を越える燐を含むと、十分な電気伝導性を得ることができないからである。より好ましくは、燐の含量は、0.5~6重量%である。
【0057】
一方、第3層は、ニッケルでない金属銀を含んでいてもよいが、銀は、耐食性と電気伝導性にいずれも優れた金属であって、特性の面からは理想的であるものの、高価であるという短所がある。したがって、電気伝導性の面からは、銀と同等水準である銅からなる第2層上に銅を保護しながら、優れた電気伝導性を有する銀を第3層として形成すると、高い銀の使用量を最小化しつつ信頼性を確保することができ、導電性ポリマー粒子の導電性を極大化できるようになる。
【0058】
また、本発明では、(a)ポリマー粒子の表面を親水化させる親水化段階と、(b)前記表面が親水化したポリマー粒子に酸化銀をコートする第1層の形成段階と、(c)前記第1層上に銅を無電解めっきする第2層の形成段階と、(d)前記第2層上にニッケルまたは銀を無電解めっきする第3層の形成段階と、を含む、導電性ポリマーの製造方法を提供することができる。
【0059】
導電性ポリマーを製造するためには、先ず、ポリマー粒子の表面を-OH、-COOH、-NH、NHなど、化学官能基を導入して親水化させる親水化段階が必要である。これらの親水化段階は、pH12以上の強アルカリ水溶液で行うことができる。強アルカリ溶液によってポリマーの表面のポリマー結合を一部切断することによって、ポリマー粒子の表面に化学官能基の付着が円滑になり得るからである。したがって、安定したポリマー粒子の表面を処理するためには、pH12以上の強アルカリ雰囲気が好ましい。
【0060】
一方、ポリマー粒子の親水化処理は、上述したように、強アルカリの水溶液上で行うことができるものの、プラズマ処理によってポリマー粒子の表面を改質することによって、乾式で親水化することもできる。
【0061】
親水化処理の後は、酸化銀を含む第1層を形成するが、酸化銀と共に錫を併せてコートすることができる。錫は、親水化したポリマー粒子の表面における酸化銀の結合力を高めることができるようになる。
【0062】
また、より精密な制御のため、親水化したポリマーの表面に錫層を先に形成した後、酸化銀を含む第1層を形成することができる。
【0063】
酸化銀を含む第1層の形成は、pH8以上のアルカリ水溶液で行うことができる。酸化銀は、pH8以上のアルカリ雰囲気で良く形成されるからである。より好ましくは、pH9~11の範囲の水溶液で行うことができる。
【0064】
また、導電性ポリマーの製造方法において、(b)段階の後、(c)段階の前に、pH8~14であり、温度20~80℃である水溶液において、前記第1層が形成されたポリマー粒子を撹拌して、前記酸化銀の量を調節する後処理段階を更に含んでいてもよい。
【0065】
水溶液中で第1層を形成する場合、水溶液中の銀イオンが還元して、酸化銀でない金属銀としてポリマーの表面に付着していてもよい。これらの金属銀の割合が高すぎると、ポリマー粒子及び第1層との結合力が低くなり得るため、好ましくない。よって、酸化銀の含量を所望の水準に高めるために、適宜な温度のアルカリ水溶液で処理することによって、酸化銀の量を調節することができる。
【0066】
このように酸化銀の量を調節した後、導電性を有する銅を含む第2層を形成することによって、導電性を付与する金属コート層とポリマーとの結合力に優れた導電性ポリマー粒子を提供することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下では、本発明を十分理解するために、本発明の好ましい実施例を添付の図面を参照して説明する。
【0068】
本発明の実施例は、当該技術分野における通常の知識を有する者にとって本発明をさらに完全に説明するために提供されるものであり、下記の実施例は、様々な異なる形態に変形し得、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるのではない。返って、これら実施例は、本開示をさらに充実かつ完全にして、本発明の思想を当業者に完全に伝達するために提供されるものである。
【0069】
[実施例1]
脱イオン水100gに水酸化ナトリウムを50g投入して、60℃に昇温した。ここに、D50が20μmである球状のPMMA(ソンジンケミカル社製)を10g投入して、撹拌しながら10時間維持し、PMMA粒子の表面を親水化した。その後、親水化したPMMA粒子を回収して、さらに脱イオン水100gで撹拌し、3回洗浄した後に回収した。
【0070】
回収したPMMA粒子を、脱イオン水100gに塩化第一錫(SnCl・2HO)1.5gと塩酸(HCl35%溶液)6mlとを溶かした水溶液に投入して、30分間撹拌し、錫層を形成した。水溶液の温度を35℃に維持した。
【0071】
錫層が形成されたPMMA粒子をフィルタリングして回収した後、脱イオン水100gに窒酸銀(AgNO)0.15gを溶解した窒酸銀は、溶液に投入して、撹拌した。このとき、28%濃度のアンモニア水を点滴方式で投入して、pHを9.8に調節した。
【0072】
温度は、40℃に維持して、1時間撹拌し、酸化銀層を形成した。1時間後、濾過回収した後、脱イオン水200gで撹拌し、3回洗浄した後に回収した。酸化銀層が形成された粉末を一部採取して、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy,XPS)による表面分析を施した。
【0073】
酸化銀層まで形成された粉末を回収し、無電解めっき法を用いて銅コート層を形成した。脱イオン水溶液300gに錯体として、EDTA(Ethylene-diamine-tetraacetic acid)40g、NaOH30g及び硫酸銅20gで硫酸銅錯体水溶液を製造して、酸化銀層が形成されたポリマー粒子を投入し、撹拌しながら、還元剤としてホルムアルデヒド(formaldehyde)溶液を点滴して、銅を含むコート層を形成した。
【0074】
銅コート層が形成されたポリマー粒子上に、さらにニッケルコート層を形成したが、このために、脱イオン水300gに塩化ニッケル(NiCl・6HO)20g、酢酸ナトリウム(sodium acetate)10g、マレイン酸(Maleic acid)5g、還元剤である次亜リン酸ナトリウム(sodium hypophosphite)30g、酢酸鉛(lead acetate)3mlを投入して組成したニッケルめっき液に、銅コート層まで形成された粉末を投入して撹拌しながら、70~90℃で、2時間維持して無電解めっきした。
【0075】
[実施例2]
銅コート層の形成までは実施例1と同様に行っており、その後、銀を含むコート層を無電解めっきで形成した。このために、脱イオン水300gにEDTA(Ethylene-diamine-tetraacetic acid)2g、28%濃度のアンモニア水2.5ml、窒酸銀(AgNO)3gで銀コーティング液を製造した後、ここに、銅コート層まで形成されたポリマー粒子を投入して撹拌しながら、脱イオン水50gにグルコース(glucose)10gと水酸化ナトリウム2gとを溶かした還元溶液を1時間点滴して、銀を含む第3層を形成した。
【0076】
[実施例3]
実施例1と同様、PMMA粒子の表面に酸化銀を含む第1層まで形成した後、アルカリ水溶液で後処理を施した。後処理のため、脱イオン水100gに28%濃度のアンモニア水を投入して、60℃に維持した後、第1層まで形成されたPMMA粒子を投入して、撹拌した。PMMA粒子を投入する前の水溶液のpHは、9.5であった。
【0077】
その後、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層の形成は、実施例1と同様に施した。
【0078】
[比較例1]
実施例1と同様、親水化処理と錫層を形成した。その後、酸化銀層を形成することなく、すぐに無電解めっきを施して、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層とを順次に形成した。銅とニッケルの無電解めっきは、実施例1と同様に行った。
【0079】
[比較例2]
実施例1と同様、PMMA粒子の表面に酸化銀を含む第1層まで形成した。その後、水溶液にアスコルビン酸(Ascorbic acid)を投入して、表面にある酸化銀のうち一部を金属銀の状態に作り、その後、無電解めっきを施して、銅を含む第2層とニッケルを含む第3層とを順次に形成した。銅とニッケルの無電解めっきは、実施例1と同様に行った。
【0080】
[比較例3]
実施例1と同様に銅コート層まで形成し、その後の工程を施していない。
【0081】
このように作られた導電性ポリマー粒子に対して、第1層を形成した後、酸化銀と金属銀との銀元素の割合の分析、銀元素の含量、ニッケルの含量、及び燐の含量の分析、そして走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)によるコーティング状態の観察を行った。銀元素の割合は、第1層を形成した後、サンプルを採取して、XPSによって分析した。銀元素の含量、ニッケルの含量、及び燐の含量は、誘導結合プラズマ質量分析法(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer,ICP)による分析を行った。
【0082】
信頼性は、実施例1~3と、比較例1及び2によって作られた導電性ポリマーをアクリルバインダーと一定量混合して、ポリイミドフィルム上に塗布し、乾燥した後、これを溶融した鉛上で30秒間維持した後、伝導度を測定するリフロー(reflow)テストによって評価した。
【0083】
その結果は、下記の表1に示した。ここで、Cuの含量は、全体の導電性ポリマーを基準に銅元素が占める重量%を示したものである。
【0084】
【表1】
【0085】
図1では、実施例による導電性ポリマー粒子の走査電子顕微鏡のイメージを示す。図1(a)は、実施例1、図1(b)は、実施例2、それから図1(c)は、比較例2によるサンプルの走査電子顕微鏡のイメージである。
【0086】
実施例1と2によるサンプルは、いずれも緻密なコート層が形成されたことを示すが、第1層における金属銀の含量が高い比較例2では、コート層が緻密でなく、結合が強くないことが分かる。
【0087】
図2は、実施例1によるサンプルにおける第1層の酸化銀と金属銀との銀元素の割合を測定した結果である。XPSの結果、還元した状態の銀の割合と、酸化状態の銀の割合とのピークの割合によって測定することができるようになる。実施例1におけるこれらモル比(Agx+/Ag)は、3.80であった。
【0088】
一方、表1に示したように、耐食性は、リフローテストによって評価しているが、実施例1~3では、リフローテストの後にも、導電性ポリマー粒子を用いたフィルムの抵抗は、100mΩ以下と良好であったが、コート層の形成が不安定な比較例2では、抵抗が大きく増加し、保護層である第3層が形成されていない比較例3のサンプルでは、抵抗が高すぎて、測定が不可能であった。
図1
図2