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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-22
(45)【発行日】2025-10-01
(54)【発明の名称】回転すべり軸受及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 17/02 20060101AFI20250924BHJP
   F16C 3/14 20060101ALI20250924BHJP
   B24B 5/42 20060101ALI20250924BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20250924BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20250924BHJP
【FI】
F16C17/02 Z
F16C3/14
B24B5/42
B23K26/352
B23K26/00 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021082976
(22)【出願日】2021-05-17
(65)【公開番号】P2022176505
(43)【公開日】2022-11-30
【審査請求日】2024-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田井中 直也
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀信
(72)【発明者】
【氏名】フナル アウレル
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249127(JP,A)
【文献】特開2021-025653(JP,A)
【文献】特開2008-095721(JP,A)
【文献】特開2005-249194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26,33/00-33/28
F16C 3/14
B24B 5/42
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受部材と、当該軸受部材と潤滑油を介して摺接する軸部材とを有する回転すべり軸受において、
レーザー光を、前記軸部材の径方向に対し、前記軸部材の回転方向の前方側に傾斜して照射し、前記軸部材の外表面に複数の凹部を形成し、
前記凹部の、前記軸部材の回転方向に対して後方の内面の傾斜角を、前記軸部材の回転方向に対して前方の内面の傾斜角より大きく形成する回転すべり軸受の製造方法。
【請求項2】
前記軸部材の回転方向に対して後方の内面の傾斜角を、70度~90度に形成する請求項1に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項3】
前記凹部の、少なくとも前記軸部材の回転方向に対して後方の内面に、レーザー光を照射して前記凹部の開口端から底部に向かう縦筋状の凹凸面を形成する請求項1又は2に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項4】
前記軸部材の外表面に、パルスレーザースポット光を重ねながら照射することで、前記凹部及び前記凹凸面を同時に形成する請求項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項5】
前記複数の凹部を形成したのち、前記軸部材の外表面に、前記軸部材の回転方向に沿って研削又は研磨を施し、前記凹部の開口端に生じた溶融層を除去する請求項1~4のいずれか一項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項6】
前記研削又は研磨を施して溶融層を除去したのち、前記軸部材の外表面に、前記軸部材の回転方向に沿って研削又は研磨をさらに施し、前記軸部材の回転方向に対して前方の開口端の曲率を、前記軸部材の回転方向に対して後方の開口端の曲率より大きくする請求項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【請求項7】
前記軸部材は、自動車用エンジンのクランクシャフトのクランクジャーナル又はクランクピンである請求項1~6のいずれか一項に記載の回転すべり軸受の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転すべり軸受及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンのクランクシャフトを支持するメインベアリングや、クランクピンを支持するコンロッドベアリングの内面の摺接面に、径が0.01~1.0mm,深さが0.001~0.1mmの円形凹部からなるテクスチャーを形成し、クランクシャフトやクランクピンとの接触面積を減らすことで摩擦抵抗を小さくする軸受部材が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-207108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、摺接面に形成された凹部が深すぎると、凹部内に保持された潤滑油が円滑に排出されないため境界潤滑の状態となり、軸部材と軸受部材との間に十分な油膜を張ることができず、焼き付きの原因になるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、凹部に保持された潤滑油を円滑に排出させることで、耐焼き付け性に優れた回転すべり軸受及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、レーザー光を、軸部材の径方向に対し、前記軸部材の回転方向の前方側に傾斜して照射し、軸部材の外表面に複数の凹部を形成し、当該凹部の、軸部材の回転方向に対して後方の内面の傾斜角を、軸部材の回転方向に対して前方の内面の傾斜角より大きくすることによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、凹部に保持された潤滑油を円滑に排出させることができるので、耐焼き付き性に優れた回転すべり軸受及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の回転すべり軸受の一実施の形態を適用したクランクシャフトを示す正面図である。
図2図1のII部のクランクピンを拡大して示す図である。
図3】本発明に係る凹部の形成例を示す正面拡大図である。
図4】本発明に係る凹部及び凹部内面の凹凸面を示す拡大正面図、部分断面斜視図及び断面図である。
図5】(a)~(c)のそれぞれは、本発明に係る凹部の形状の一例を示す拡大断面図である。
図6】(a)は、本発明に係る凹部の作用効果を説明するための拡大断面図であり、(b)は、本発明の比較例に係る凹部の作用効果を説明するための拡大断面図である。
図7A】本発明に係る凹部の形成方法の一例を示す正面図である。
図7B】本発明に係る凹部の形成方法の一例を示す側面図である。
図7C図7BのVIIC部を示す拡大断面図である。
図7D図7Cの凹部を形成したのちのクランクピンの状態を示す拡大断面図である。
図8】(a)~(c)のぞれぞれは、図7Dの状態からクランクピンの摺接面に研削又は研磨を施す方法の一例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の回転すべり軸受の一実施の形態であるクランクシャフト1を示す正面図である。本発明の回転すべり軸受及びその製造方法は、特に限定はされないが、自動車用エンジンのクランクシャフト1のクランクジャーナル11やクランクピン12などの軸部材を含む回転すべり軸受に適用することができる。図示するクランクシャフト1は、4気筒エンジンのクランクシャフトであって、エンジン側の軸受部材に支持されるクランクジャーナル11と、ピストンのコネクティングロッドに連結されるクランクピン12と、クランクジャーナル11とクランクピン12とを繋ぐクランクアーム13と、ピストンの往復運動により生じる慣性力を軽減するためのバランスウェイト14と、を備える。
【0010】
本実施形態の回転すべり軸受を構成する軸部材としてのクランクジャーナル11は、図示しない半割状のメタルベアリングを介してエンジンブロックに支持されている。また、本実施形態の回転すべり軸受を構成する軸部材としてのクランクピン12は、図示しない半割状のメタルベアリングを介してピストンのコネクティングロッドに連結されている。これらのメタルベアリングが、本実施形態の回転すべり軸受の軸受部材を構成する。そして、クランクジャーナル11とメタルベアリング、クランクピン12とメタルベアリングとは、潤滑油を介して摺動自在とされている。
【0011】
図2は、図1のII部のクランクピン12を拡大して示す図である。符号CLは、クランクピン12の中心軸線を示す。以下、クランクピン12を本発明の回転すべり軸受の軸部材の一例として説明し、クランクピン12を軸部材2とも称する。ただし、本発明に係る軸部材は、クランクピン12のほか、クランクジャーナル11を同様の構成とすることにより、本発明を適用することができる。なお、クランクピン12は、コネクティングロッドとメタルベアリングに対し、中心軸線CLを回転中心にして矢印方向に回転するものとして説明する。
【0012】
図2に示すように、中実軸状の軸部材2であるクランクピン12にあっては、クランクピン12の外表面の全体が図示しないメタルベアリングとの摺接面21とされ、当該摺接面21には、全体にわたって均等乃至均一に、複数の凹部22が形成されている。図3は、本発明に係る凹部22の形成例を示す正面図であり、図面における左右方向がクランクピン12の中心軸線CLの延在方向である。図3には、3つの凹部22を示し、凹部22の開口端の寸法L1,L2と、3つの凹部22の開口端の位置関係に関する寸法M1,M2を示す。
【0013】
1つの凹部22の開口端の寸法は、特に限定されないが、たとえば図3に示すように、長辺L1が0.26mm±0.02mm(240~280μm)、短辺L2が0.025mm±0.015mm(10~40μm)の両端が半円でその間が長方形とされ、深さL3(図4参照)が0.01mm±0.005mm(5~15μm)とされている。また、図3に示すように、互いに隣接する2つの凹部の長辺方向に沿う間隔M1は1.3m±0.2mm、短辺方向に沿う間隔M2は2.6mm±0.5mmとされている。これらの寸法関係により、クランクピン12の摺接面21の面積に対する凹部22の開口端の面積の占有率は、0.26%±0.05%となり、潤滑油の濡れ性が良好になるので、潤滑油の保持性が高まる。
【0014】
なお、クランクピン12の中心軸線CL方向に沿う一つの列の凹部22と、その上下の列の凹部22とは、図3に示すように、開口端の位置が千鳥状に配置されてもよい。潤滑油を保持する凹部22の配置を均等にするためである。また、凹部22は、その他の公知の寸法や配置を用いて形成されてもよい。
【0015】
図4は、本発明に係る凹部22及び凹部内面の凹凸面の形成例を示す図であり、図4(A)は、図3と同じく凹部22の開口端を示す正面図、図4(B)はB-B線に沿う断面図、図4(C)はC-C線に沿う部分断面斜視図である。図4(B)に示すように、凹部22は、開口端の対向する一対の長辺からそれぞれ底部に向かう前方の内面23及び後方の内面24と、図4(C)に示すように、開口端の対向する一対の半円の円周からそれぞれ底部に向かう左方の側面25及び右方の側面25の4つの内面を含んで構成される。凹部22の前方、後方、左方、右方とは、クランクピン12の回転方向に対し、下流側を前方、上流側を後方といい、クランクピン12の回転方向に対する左側を左方、右側を右方という。たとえば、図4(A)においてクランクピン12は、紙面の上から下へ向かって回転するので、同図に示す凹部22も紙面の上から下へ向かって移動(回転)する。このとき、紙面の下側が前方、上側が後方、右側が左方、左側が右方となる。
【0016】
本発明に係る凹部22は、図4(B)及び図5(a)~(c)に示すように、クランクピン12の回転方向に対して後方の内面24の傾斜角θ2が、クランクピン12の回転方向に対して前方の内面23の傾斜角θ1より大きく形成される。なお、凹部22の内面の傾斜角とは、図5(a)~(c)に示すように、凹部22の開口端に平行で底部を通る直線との成す角度をいい、換言すれば凹部22の開口端の接線との成す角度でもある。クランクピン12が図5に示す右方向から左方向へ回転すると、潤滑油は相対的に左方向から凹部22の前方の内面23及び後方の内面24を通過して右方向へ流動する。より具体的には、凹部22の前方の摺接面21にある潤滑油が、前方の開口端231から前方の内面23に沿って流入し、凹部22の底部に保持されたのち、後方の内面24に沿って上昇し、後方の開口端241から凹部22の後方の摺接面21に排出される。
【0017】
潤滑油が凹部22に流入、保持、排出される際に、前方の内面23と、後方の内面24とが同等乃至同一の形状であると、潤滑油が凹部22の後方の摺接面21に排出され難くなる。すなわち、図6(b)に示す比較例のように、前方の開口端231から前方の内面23に沿って下方に向かう場合には(点線矢印)、潤滑油は円滑に流動する。一方で、後方の内面24に沿って上方にある後方の開口端241に向かう場合には、鉛直に作用する応力が小さいと、潤滑油が上昇する際に渦を巻き(実線矢印)、上方へ流動し難くなるためである。
【0018】
これに対して、本発明に係る凹部22は、図6(a)に示すように、後方の内面24の傾斜角θ2が、前方の内面23の傾斜角θ1より大きく形成されるので、後方の内面24の傾斜が前方の内面23より急峻になる。後方の内面24が急峻であると、前方の開口端231から前方の内面23に沿って流入する潤滑油(点線矢印)に対して後方の内面24が堰のようになり、潤滑油を鉛直方向に上昇させることができる(実線矢印)。このため、潤滑油は後方の内面24に沿って後方の開口端241まで流動しやすくなり、凹部22の後方の摺接面21に円滑に排出される。
【0019】
後方の内面24の傾斜角θ2は、図5(b)に示すように前方の内面23の傾斜角θ1より大きく形成されればよく(すなわち、θ2>45度)、特に限定されない。ただし、後方の内面24が凹部22の底部に対して垂直に近づくほど、潤滑油に鉛直に作用する応力が生じやすいため、傾斜角θ2は70度~90度に形成されるのが好ましい。このとき、凹部22の深さが深いほど傾斜角θ2を90度に近づけるなど、凹部22の深さに応じて傾斜角θ2を設定してもよい。これにより、凹部22に保持された潤滑油がさらに円滑に排出されやすくなる。凹部22の形状は、図5(c)に示すように、前方の内面23と後方の内面24を繋ぐ底面26を含む5つの内面により構成されてもよい。底面26は平坦な形状としてもよく、円弧状にして潤滑油の流速を維持する形状としてもよい。これにより、前方の内面23から流入した潤滑油の保持性を高めつつ、前方の内面23より急峻な後方の内面24によって潤滑油を円滑に排出することができる。
【0020】
また、本発明に係る凹部22は、図4(C)に示すように、凹部22を構成する4つの内面のうち、少なくとも後方の内面24は、凹部22の開口端から底部に向かう縦筋状の凹凸面とされる。この縦筋状の凹凸面が、潤滑油を排出する後方の内面24に形成されると、潤滑油の導出ガイドとなり、上方にある後方の開口端241に向かいやすくなるので、潤滑油がより円滑に排出される。ただし、縦筋状の凹凸面は本発明に必須の構成ではなく、必要に応じて省略されてもよい。
【0021】
図7Aは、本発明に係る凹部22の形成方法の一例を示す正面図であり、符号CLは、クランクピン12の中心軸線を示す。本発明に係る凹部22は、鍛造や転造などの塑性加工により形成することもできるが、ポンチなどの工具の交換頻度が大きくなることから、レーザー光を照射することにより凹部22を形成することが好ましい。レーザー光を用いることにより、凹部22の前方の内面23の傾斜角θ1を小さくする一方で、後方の内面24の傾斜角θ2を略垂直とする複雑な形状を、比較的容易に、かつ安定して形成することができる。また、レーザー光を照射することで凹部22を形成すると、レーザー光を照射した後の冷却に伴う焼き戻し効果によって、凹部22の開口端が軟らかくなり、耐久性が向上するという効果もある。
【0022】
レーザー光を照射することで凹部22を形成する場合、レーザー光とクランクピン12との相対的な微小オシレート動作により凹部22を形成してもよいが、加工時間を短縮するために、パルスレーザースポット光を重ねながら走査し、照射することが好ましい。たとえば、図7Aに示すレーザーマーキング装置3を用い、クランクピン12の摺接面21におけるレーザー光31のスポット光32のスポット径Dが0.025mm±0.015mmとなるように、パルスレーザースポット光を、クランクピン12の中心軸線CLに沿って走査する。
【0023】
クランクピン12の中心軸線CLに沿う一列に複数の凹部22を形成し終わるまでクランクピン12は中心軸線CLの周りに回転させず固定するが、一列の凹部22を形成し終わると、クランクピン12をその中心軸線CLを中心にして次の列まで僅かに回転させ、再びパルスレーザースポット光を、クランクピン12の中心軸線CLに沿って走査する。一つの凹部22を形成するには、図7Aの中図に示すように、パルスレーザースポット光が重なるように、パルスレーザースポット光をクランクピン12の中心軸線CLに沿って少しずつ走査する。これにより、同図の右図に示すように、一つの凹部22が形成されるが、レーザー加工は、金属溶解によりポケットを加工する工法であり、凹部22の後方の内面24は、溶解した金属が凝固した面となるため、特段の加工を施さなくてもレーザ痕により開口端から底部に向かう縦筋状の凹凸面が形成される。
【0024】
図7Bは、本発明に係る凹部22の形成方法の一例を示す側面図、図7Cは、図7BのVIIC部を示す拡大断面図である。パルスレーザースポット光により凹部22を形成する場合、図7Bに示すように、レーザーマーキング装置3をクランクピン12の中心軸線CLに対して角度αだけ傾斜させた状態で走査させる。より具体的には、図7Cに示すように、レーザー光の照射角を、クランクピン12の径方向に対し、クランクピン12の回転方向の前方側に角度αだけ傾斜して走査する。これにより、凹部22の後方の内面24の傾斜角が、前方の内面23の傾斜角より大きく形成され、前方の内面23はなだらかな斜面としつつ、後方の内面24を略垂直の斜面とすることができる。
【0025】
図7Dは、図7A図7Cに示す方法により凹部22を形成したのちのクランクピン12の状態を示す。本発明の回転すべり軸受の軸部材2は、図7A図7Cに示すような方法で凹部22を形成したまま軸受として使用してもよいが、必要に応じて以下の研削又は研磨処理を施してもよい。
【0026】
図7Dに示すように、レーザー光を照射して凹部22を形成すると、溶融した金属が凝固して凹部22に溶融層が生じるが、凹部22の開口端231,241に溶融層が隆起して、これがバリ28になることが少なくない。このバリ28は、完成品としてクランクピン12に残ると、メタルベアリングが損傷する。そのため、クランクピン12の摺接面21に研削又は研磨を施すことにより除去する。特に、レーザー加工により形成される凹部22の開口端231,241のバリ28は、硬度が低く脆弱になった溶融層であるため、研削又は研磨処理により容易に除去することができる。凹部22の開口端231,241に生じたバリ28を除去することで、メタルベアリングが損傷することを抑制でき、耐久性も向上する。
【0027】
図8(a)~(c)は、クランクピン12の外表面である摺接面21に研削又は研磨を施す方法の一例を示した拡大断面図である。図8(b)は、同図(a)に示す状態から研削又は研磨を施した状態を示し、図8(c)は同図(b)からさらに研削又は研磨を施した状態を示す。本実施形態に係るクランクピン12に複数の凹部22を形成したのち、図8(a)に示すように、クランクピン12の摺接面21に研磨紙などの研磨材4を当接し、クランクピン12側を回転させる。これにより、凹部22の開口端、とくに一対の長辺の開口端231,241に、研削又は研磨が施される。なお、クランクピン12の摺接面21と研磨材4は、クランクピン12側を固定し、研磨材4側を回転させてもよいし、クランクピン12と研磨材4の両方を反対方向に回転させてもよい。この工程における研削代又は研磨代は、摺接面21から隆起するバリ28が摺接面21と面一になる程度であることが好ましい。
【0028】
図8(b)は、前方の内面23の開口端231に生じたバリ28が、摺接面21と面一になるまで研削又は研磨を施した状態を示す。図7Dに示すように、レーザー光の照射角を、クランクピン12の回転方向の前方側に傾斜して走査すると、前方の開口端231に生じるバリ28よりも、後方の開口端241に生じるバリ28が大きくなる。そのため、摺接面21に研削又は研磨を施すと、前方の開口端231に生じたバリ28が、後方の開口端241に生じたバリ28よりも先に除去され摺接面21と面一になる。
【0029】
図8(c)は、前方の開口端231に生じたバリ28を除去したのち、後方の開口端241に生じたバリ28が、摺接面21と面一になるまで研削又は研磨を施した状態を示す。図8(c)に示すように、後方の開口端241に生じたバリ28が、摺接面21と面一になるまで研削又は研磨を施すと、前方の内面23は、開口端231の曲率が後方の開口端241の曲率に比べて大きく形成され、なだらかなスロープ形状とされる。このスロープ形状により、潤滑油が前方の開口端231から前方の内面23に沿って円滑に流入する。これに対して、後方の内面24は、開口端241の曲率が小さく形成されるので、潤滑油の堰としての効果は維持しつつ、後方の開口端241の僅かな曲率が、潤滑油を凹部22の後方の摺接面21へ円滑に排出させる。これにより凹部22は、潤滑油の流入性と排出性に優れた形状となる。
【0030】
以上のとおり、本実施形態の回転すべり軸受によれば、軸部材2は、その外表面に複数の凹部22を有し、凹部22の、軸部材2の回転方向に対して後方の内面24の傾斜角θ2が、軸部材2の回転方向に対して前方の内面23の傾斜角θ1より大きいので、凹部に保持された潤滑油を円滑に排出させることができる。その結果、耐焼き付け性に優れた回転すべり軸受を提供することができる。
【0031】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、軸部材2の回転方向に対して後方の内面24の傾斜角θ2は、70度~90度であるので、凹部に保持された潤滑油をさらに円滑に排出させることができる。
【0032】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22の、少なくとも軸部材2の回転方向に対して後方の内面24は、凹部22の開口端から底部に向かう縦筋状の凹凸面とされているので、凹凸面が潤滑油の導出ガイドとなり、上方にある後方の開口端241に向かいやすくなるので、潤滑油がより円滑に排出される。
【0033】
また本実施形態の回転すべり軸受によれば、凹部22の開口端231,241のうち、軸部材2の回転方向に対して前方の開口端231の曲率が、軸部材2の回転方向に対して後方の開口端241の曲率より大きいので、潤滑油が円滑に流入する。さらに、後方の内面24の潤滑油の堰としての効果は維持しつつ、後方の開口端241の僅かな曲率が、潤滑油を凹部22の後方の摺接面21へ円滑に排出させる。その結果、潤滑油の流入性と排出性に優れた凹部の形状となる。
【0034】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、レーザー光を、軸部材2の径方向に対し、軸部材2の回転方向の前方側に傾斜して照射し、軸部材2の外表面に複数の凹部22を形成するので、凹部22の前方の内面23の傾斜角θ1を小さくする一方で、後方の内面24の傾斜角θ2を略垂直とする複雑な形状を、比較的容易に、かつ安定して形成することができる。
【0035】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、凹部22の、少なくとも軸部材2の回転方向に対して後方の内面24に、レーザー光を照射して凹部22の開口端から底部に向かう縦筋状の凹凸面を形成するので、鍛造や転造による工具の交換を抑制することができる。また、凹凸面を容易に形成することができる。
【0036】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、軸部材2の外表面に、パルスレーザースポット光を重ねながら照射することで、凹部22及び凹凸面を同時に形成するので、加工時間(タクトタイム)を短縮させながら、容易に凹部22と凹凸面を形成することができる。
【0037】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、複数の凹部22を形成したのち、軸部材2の外表面に、軸部材2の回転方向に沿って研削又は研磨を施し、凹部22の開口端231,241に生じた溶融層(バリ28)を除去するので、メタルベアリングの損傷を抑制でき、耐久性も向上させることができる。
【0038】
また本実施形態の回転すべり軸受の製造方法によれば、研削又は研磨を施して溶融層(バリ28)を除去したのち、軸部材2の外表面に、軸部材2の回転方向に沿って研削又は研磨をさらに施し、軸部材2の回転方向に対して前方の開口端231の曲率を、軸部材2の回転方向に対して後方の開口端241の曲率より大きくする。これにより、潤滑油が円滑に流入し、さらに、後方の内面24の潤滑油の堰としての効果は維持しつつ、後方の開口端241の僅かな曲率が、潤滑油を凹部22の後方の摺接面21へ円滑に排出させるので、潤滑油の流入性と排出性に優れた凹部の形状となる。
【符号の説明】
【0039】
1…クランクシャフト
11…クランクジャーナル
12…クランクピン
13…クランクアーム
14…バランスウェイト
2…軸部材
21…摺接面
22…凹部
23…前方の内面
24…後方の内面
25…側面
26…底面
3…レーザーマーキング装置
31…レーザー光
32…スポット光
4…研磨材
CL…中心軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8