(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】DMSOフリーの凍結保存液及びその調製方法と応用
(51)【国際特許分類】
A01N 1/122 20250101AFI20250925BHJP
【FI】
A01N1/122
(21)【出願番号】P 2021560653
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 CN2020077473
(87)【国際公開番号】W WO2020207151
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-11
【審判番号】
【審判請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】201910281978.2
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910281986.7
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】521445281
【氏名又は名称】北京大学第三医院(北京大学第三臨床医学院)
(73)【特許権者】
【識別番号】506281853
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】厳杰
(72)【発明者】
【氏名】喬杰
(72)【発明者】
【氏名】閻麗盈
(72)【発明者】
【氏名】李蓉
(72)【発明者】
【氏名】王健君
(72)【発明者】
【氏名】金晟琳
(72)【発明者】
【氏名】呂健勇
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】小石 真弓
【審判官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-261413号公報(JP,A)
【文献】特表2007-530052号公報(JP,A)
【文献】和田 理征他,高分子論文集,2012年,69(11),pp.623-630
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100 mL当たりの体積で計算すると、バイオニック氷制御材料0.01-50 g、ポリオール5.0-45 mL、水溶性糖類0.1-1.0 mol L
-1、血清0-30 mLを含有し、残量は緩衝液であり、前記バイオニック氷制御材料は、シンジオタクティシティが15%-60%であり、分子量が10-500kDaであり、かつ加水分解度が80%より高いアタクチックPVA、または、前記アタクチックPVAとアミノ
酸氷制御材料との組み合わせ、から選ばれ、
前記アミノ
酸氷制御材料は重合度≧2のポリアミノ酸、アミノ酸およびペプチド化合物のうちの1つ又は2つ以上から選ばれ、
前記ペプチド化合物はポリペプチド、糖ペプチド誘導体、又は式(I)で示される化合物であり、
【化1】
そのうち、Rは置換もしくは非置換のアルキル基から選ばれ、前記置換基は-OH、-NH
2、-COOH、-CONH
2から選ばれてもよく、nは1以上且つ1000以下の整数であり、
前記ポリペプチドはL-Thr-L-Arg、L-Thr-L-Pro、L-Arg-L-Thr、L-Pro-L-Thr、L-Thr-L-Arg-L-Thr、L-Thr-L-Pro-L-ThrおよびL-Ala-L-Ala-L-Thrのうちの1つ又は2つ以上から選ばれ、
前記糖ペプチド誘導体はGDL-L-Thr、GDL-L-Gln、GDL-L-Asn、GDL-L-Phe、GDL-L-Tyr、GDL-L-ValおよびGDL-L-Serのうちの少なくとも1つであることを特徴とする、DMSOフリーの凍結保存液。
【請求項2】
Rは置換もしくは非置換のC1-6アルキル基であることを特徴とする、請求項1に記載の凍結保存液。
【請求項3】
Rは-CH
3、-CH
2CH
3又は-CH
2CH
2COOHであることを特徴とする、請求項2に記載の凍結保存液。
【請求項4】
前記アタクチックPVAの含有量は0.1-6.0 gであり、
前記ポリオールはC
2-5のポリオールで
あり、
前記水溶性糖類は非還元二糖類、水溶性多糖類および配糖体のうちの少なくとも1つで
あり、
前記緩衝液はDPBS、hepes-buffered HTF緩衝液およびその他の細胞緩衝液のうちの少なくとも1つで
あり、
前記血清は、ヒト由来の凍結保存対象に対してヒト血清アルブミン又はその代替物を選
び、非ヒト由来の凍結保存物に対してウシ胎児血清又はウシ血清アルブミンを選
ぶことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の凍結保存液。
【請求項5】
前記ポリオールは、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびグリセロールのうちのいずれか1つであることを特徴とする、請求項4に記載の凍結保存液。
【請求項6】
前記水溶性糖類は、スクロース、水溶性セルロース、トレハロースおよびフィコールから選ばれることを特徴とする、請求項4に記載の凍結保存液。
【請求項7】
前記水溶性セルロースは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであることを特徴とする、請求項6に記載の凍結保存液。
【請求項8】
前記代替物は、ドデシルスルホン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項4に記載の凍結保存液。
【請求項9】
前記
バイオニック氷制御材料の含有量は0.01-50gであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の凍結保存液。
【請求項10】
前記
バイオニック氷制御材料は前記
アタクチックPVAと
前記アミノ酸及び/又は
前記ポリアミノ酸との組み合わせであることを特徴とする、請求項9に記載の凍結保存液。
【請求項11】
前記
バイオニック氷制御材料は、0.1-5.0 gの前記
アタクチックPVAと8.0-35 gの
前記アミノ酸及び/又は1.0-9.0 gの
前記ポリアミノ酸からなることを特徴とする、請求項10に記載の凍結保存液。
【請求項12】
前記
アタクチックPVAのシンジオタクティシティは50%-60%であり、
前記ポリアミノ酸はリジン、アルギニン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸およびグリシンのうちの少なくとも1つのホモポリマーから選ばれ、
前記ホモポリマーは、重合度≧2であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか1項に記載の凍結保存液。
【請求項13】
前記ポリオールの含有量は6.0-28 mLであることを特徴とする、請求項1~12のいずれか1項に記載の凍結保存液。
【請求項14】
前記血清の含有量は0であることを特徴とする、請求項13に記載の凍結保存液。
【請求項15】
前記水溶性糖類の含有量は0.1-1.0 mol L-1であることを特徴とする、請求項13に記載の凍結保存液。
【請求項16】
前記凍結保存液のpHは6.5-7.6であることを特徴とする、請求項13に記載の凍結保存液。
【請求項17】
前記バイオニック氷制御材料を緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、その他の成分を残りの緩衝液に溶解させ、冷却した後に混合するステップを含むことを特徴とする、請求項1~16のいずれか1項に記載の凍結保存液の調製方法。
【請求項18】
前記調製方法は、(1)
前記アタクチックPVAを一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液1を得るステップと、
(2)任意選択的に、
前記ポリアミノ酸又は
前記アミノ酸を一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液2を形成するステップと、
(3)
前記水溶性糖類を一部の緩衝液に溶解させ、
前記水溶性糖類が全て溶解した後に血清以外の他の成分を加え、溶液3を得るステップと、
(4)溶液1、任意選択的な溶液2、及び溶液3が室温に冷却した後に混合し、pHを調整し、緩衝液を用いて所定体積に定容し、前記凍結保存液を得るステップと、を含み、
任意選択的に、前記凍結保存液に血清を含有する場合、前記血清は、前記凍結保存液を使用する時に加えることを特徴とする、請求項17に記載の凍結保存液の調製方法。
【請求項19】
100 mL当たりで計算すると、アタクチックPVA
0.1-5.0 g、ポリオール5.0-45 mL、血清0-30 mL及び残量の緩衝液を含有し、
前記アタクチックPVAは、シンジオタクティシティが15%-60%であり、分子量が10-500 kDaであり、加水分解度が80%より高いことを特徴とする、DMSOフリーの凍結平衡液。
【請求項20】
前記
アタクチックPVAの含有量は0.1-4.0gであることを特徴とする、請求項19に記載のDMSOフリーの凍結平衡液。
【請求項21】
前記凍結平衡液は100 mL当たりで計算すると、
前記ポリオール7.5-15 mL、血清10-20 mL及び残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項19または20に記載の凍結平衡液。
【請求項22】
前記凍結平衡液は100 mL当たりで計算すると、前記アタクチックPVA 0.5-3.5 g、
前記ポリオール7.5-15 mL及び残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項21に記載の凍結平衡液。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか1項に記載の凍結保存液及び請求項19~22のいずれか1項に記載の凍結平衡液を含み、前記凍結保存液と前記凍結平衡液は独立して存在し、
前記アタクチックPVAは、シンジオタクティシティが15%-60%であり、分子量が10-500 kDaであり、かつ加水分解度が80%より高いことを特徴とする、DMSOフリーの凍結保存試薬。
【請求項24】
血清の含有量は0であり、前記凍結平衡液は100 mL当たりで計算すると、
前記アタクチックPVA 0.5-2.5 g、ポリオール7.5-15 mL及び残量の緩衝液を含有することを特徴とする、請求項23に記載のDMSOフリーの凍結保存試薬。
【請求項25】
請求項1~16のいずれか1項に記載の凍結保存液及び/又は請求項19~22いずれか1項に記載の凍結平衡液の、生体組織の凍結保存における
使用。
【請求項26】
前記生体組織は、卵母細胞、胚、幹細胞、器官および組織のうちの少なくとも1つから選ばれる、
請求項25に記載の
使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2019年4月9日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が201910281978.2で、発明名称が「DMSOフリーの凍結保存液及びその調製方法」である先行出願、及び、特許出願番号が201910281986.7で、発明名称が「ペプチド化合物及びこの化合物を含有する凍結保存液」である先行出願の優先権を主張する。上記2件の先行出願は、その全体が引用により本願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は医用生体材料の技術分野に属し、具体的に、DMSOフリーの凍結保存液及びその調製方法に関する。
【0003】
背景技術
凍結保存技術は登場して以来、自然科学分野で不可欠な研究方法の一つとなり、広く採用されている。生活水準の向上と医療技術の発展に伴って、ヒト生殖細胞(精子、卵母細胞)、生殖腺組織などの凍結保存は、生殖能力を保つための重要な手段となっている。また、世界の人口高齢化が激しくなるにつれて、寄付された再生医学及び臓器移植に用いることができるヒト由来細胞、組織又は器官の凍結保存に対する需要も急速に増加する。従って、いかに貴重な細胞、組織及び器官資源を効率的に凍結保存するかは、ライフサイエンス分野の重要な課題になっている。
【0004】
現在最も一般的に使用される凍結保存方法はガラス化凍結である。ガラス化凍結技術は、急速凍結過程において細胞内外の液体を直接ガラス状態にすることができ、凍結過程における氷晶の形成による損傷が回避される。しかしながら、温度回復過程において、従来の凍結保存試薬は氷晶の成長を効果的に制御することができず、それにより細胞を損傷する。ジメチルスルホキシド(DMSO)は、インビトロ細胞の培養でよく使用されているフラックス剤と浸透系細胞凍結保存保護剤であるが、DMSOは臨床患者試験において有害な副作用が発生されると共に、強い細胞毒性を有し、DMSO濃度に対して異なる種類の細胞の感度が異なっているため、DMSOを主な保護剤成分とする凍結保存試薬による細胞への毒性副作用に繋がり、その応用が制限されている。現在、ガラス化凍結方法においてよく使用されている高濃度(≧15%)のDMSOは、凍結保存対象の回復後の生存率、ひいては(子世代)安全性及び機能的発現に深刻な影響を及ぼす。要するに、現在使用されている凍結保存試薬は、復温過程において氷晶の成長を効果的に制御する能力を備えていないと共に、試薬の毒性が高いという問題がある。
【0005】
発明の概要
従来技術の上記欠陥を改善するために、本発明はDMSOフリーの凍結保存液及びその調製方法を提供する。
【0006】
本発明は以下の技術案を提供する。
【0007】
DMSOフリーの凍結保存液であって、100 mL当たりの体積で計算すると、バイオニック氷制御材料0.01-50.0 g、ポリオール5.0-45 mL、水溶性糖類0.1-1 mol L-1、血清0-30 mLを含有し、残量は緩衝液であり、前記バイオニック氷制御材料は、ポリビニルアルコールPVA及び/又はアミノ酸バイオニック氷制御材料から選ばれ、前記凍結保存液にはジメチルスルホキシド(DMSO)を含有しないDMSOフリーの凍結保存液である。
【0008】
本発明によれば、前記アミノ酸バイオニック氷制御材料はポリアミノ酸(重合度≧2、好ましい重合度は8~40、例えば、重合度は8、15、20などである)、アミノ酸、ペプチド化合物の1つ又は2つ以上から選ばれる。
【0009】
本発明によれば、前記ペプチド化合物は、ポリペプチド(好ましくは2-8個の異なるアミノ酸からなるペプチドであり、例えば、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチドである)、糖ペプチド誘導体、式(I)で示される化合物であり、
【0010】
【0011】
そのうちに、Rは置換もしくは非置換のアルキル基から選ばれ、前記置換基は-OH、-NH2、-COOH、-CONH2などから選ばれてもよく、例えば、Rは置換もしくは非置換のC1-6アルキル基であり、好ましくは、Rは-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2COOHであり、nは1以上且つ1000以下の整数であり、例えば1~100という範囲内の整数であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、nは整数2、3、4、5、6、7、8、9、10である。
【0012】
本発明によれば、前記ポリオールはC2-5のポリオールであってもよく、好ましくは、C2-C3のジオール、トリオールであり、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールのうちのいずれか1つである。
【0013】
本発明によれば、前記水溶性糖類は非還元二糖類、水溶性多糖類、水溶性セルロース、配糖体のうちの少なくとも1つであってもよく、例えば、スクロース、トレハロース、フィコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる。前記水溶性糖類は細胞膜を保護し細胞沈降を回避する役割を果たすことができる。
【0014】
本発明によれば、前記緩衝液はDPBS、hepes-buffered HTF緩衝液、その他の細胞緩衝液のうちの少なくとも1つであってもよい。
【0015】
本発明によれば、前記血清は、ヒト由来の凍結保存対象に対してヒト血清アルブミン又はその代替物、例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウムSDSを選ぶことができ、非ヒト由来の凍結保存対象に対してウシ胎児血清又はウシ血清アルブミンを選ぶことができる。
本発明にかかる凍結保存液によれば、前記バイオニック氷制御材料はPVAであってもよく、前記PVAの含有量は0.1-6.0 gであり、例えば0.5-5.0 g、具体的には、1.0 g、2.0 g、3.0 g、4.0 gであってもよい。
【0016】
本発明にかかる凍結保存液によれば、前記バイオニック氷制御材料はポリアミノ酸又はアミノ酸であってもよく、前記ポリアミノ酸又はアミノ酸の含有量は0.01-50 gであり、例えば1.5-50 g、具体的には、8.0 g、10 g、15 g、20 g、30 g、40 gであってもよい。
【0017】
本発明にかかる凍結保存液によれば、前記氷制御材料はPVAとポリアミノ酸との組み合わせであってもよく、例えば0.1-5.0 gのPVAと1.0-9.0 gのポリアミノ酸からなる。
【0018】
本発明にかかる凍結保存液によれば、前記氷制御材料はPVAとアミノ酸との組み合わせであってもよく、例えば0.1-5.0 gのPVAと8.0-35 gのアミノ酸からなる。
【0019】
本発明にかかる凍結保存液によれば、100 mL当たりで計算すると、前記ポリオールの含有量は6.0-28 mL、例えば7.0-20 mL、10-15 mLである。
【0020】
本発明にかかる凍結保存液によれば、100 mL当たりで計算すると、前記血清の含有量は0.1-30 mL、例えば5.0-20 mL、10-15 mLである。
【0021】
本発明にかかる凍結保存液によれば、前記凍結保存液は100 mL当たりで計算すると、好ましくい血清の含有量は0である。
【0022】
本発明にかかる凍結保存液によれば、100 mL当たりの凍結保存液において前記水溶性糖類の含有量は0.1-1.0 mol L-1、例えば0.1-0.8 mol L-1、0.2-0.6 mol L-1、具体的には、例えば0.25 mol L-1、0.5 mol L-1、1.0 mol L-1である。
【0023】
本発明にかかる凍結保存液によれば、そのpHは6.5-7.6、例えば6.9-7.2である。
【0024】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0025】
PVA 0.01-6.0 g
ポリオール 5.0-45 mL
血清 0.1-30 mL
水溶性糖類 0.1-1.0 mol L-1
緩衝液 残量。
【0026】
好ましくは、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0027】
PVA 1.0-6.0 g
エチレングリコール 5-30 mL
血清 0.1-20 mL
スクロース 0.2-0.8 mol L-1
DPBS 残量。
【0028】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0029】
PVA 1.0-5.0 g
ポリオール 10-45 mL
水溶性糖類 0.1-1.0 mol L-1
緩衝液 残量。
【0030】
好ましくは、100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0031】
PVA 1.0-5.0 g
エチレングリコール 10-30 mL
スクロース 0.2-0.8 mol L-1
DPBS 残量。
【0032】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0033】
アミノ酸 2.0-50 g
PVA 0.1-6 g
ポリオール 10-30 ml
水溶性糖類 0.1-1.0 mol L-1
血清 10-20 ml
緩衝液 残量。
【0034】
好ましくは、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0035】
L-Arg 5.0-18 g
L-Thr 3.0-12 g
PVA 1.0-6.0 g
エチレングリコール 10-20 ml
スクロース 0.2-0.8 mol L-1
血清 10-20ml
DPBS 残量。
【0036】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0037】
ポリアミノ酸 0.1-9.0 g
PVA 0.01-6.0 g
ポリオール 10-30ml
水溶性糖類 0.1-1.0 mol L-1
緩衝液 残量。
【0038】
好ましくは、前記凍結保存液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分からなる。
【0039】
ポリプロリン又はポリアルギニン 0.1-5.0 g
PVA 1.0-6.0 g
エチレングリコール 10-20ml
スクロース 0.2-0.8 mol L-1
DPBS 残量。
【0040】
本発明は、バイオニック氷制御材料をDPBSに溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、血清以外の他の成分を残りのDPBSに溶解させ、冷却した後に混合し、pHを再度確認又は調整し、残量の緩衝液を補足し、使用時に血清を加えるステップを含む前記凍結保存液の調製方法をさらに提供する。
【0041】
本発明の調製方法によれば、
(1)PVAを一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液1を得るステップと、
(2)任意選択的に、ポリアミノ酸又はアミノ酸を一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液2を形成するステップと、
(3)水溶性糖類を別の部分の緩衝液に溶解させ、水溶性糖類が全て溶解した後に血清以外の他の成分を加え、溶液3を得るステップと、
(4)溶液1、任意選択的な溶液2、及び溶液3が室温に冷却した後に混合し、pHを調整し、残量の緩衝液を所定体積に定容して補足し、前記凍結保存液を得るステップと、を含む。
【0042】
本発明の調製方法によれば、
(1)ポリアミノ酸又はアミノ酸を一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液1を形成するステップと、
(2)任意選択的に、PVAを一部の緩衝液に溶解させ、室温に冷却した後にpHを調整し、溶液2を得るステップと、
(3)水溶性糖類を別の部分の緩衝液に溶解させ、水溶性糖類が全て溶解した後に血清以外の他の成分を加え、溶液3を得るステップと、
(4)溶液1、任意選択的な溶液2、及び溶液3が室温に冷却した後に混合し、pHを調整し、残量の緩衝液を所定体積に定容して補足し、前記凍結保存液を得るステップと、を含む。
【0043】
本発明の調製方法によれば、前記凍結保存液に血清を含有する場合、前記血清は、前記凍結保存液を使用する時に加えられる。
【0044】
本発明の調製方法によれば、前記ステップ(1)において、PVAは油浴又は水浴加熱のような温浴加熱で溶解し、例えば水浴の温度は60-95℃、好ましくは80℃である。前記ステップ(1)において、前記溶解は撹拌ステップを含む。
【0045】
本発明の調製方法によれば、前記ステップ(2)において、前記溶解は超音波補助溶解である。
【0046】
100 mL当たりの体積で計算すると、PVA 0-5.0 g、ポリオール5.0-45mL、血清0-30 mL及び残量の緩衝液を含有するDMSOフリーの凍結平衡液である。
【0047】
本発明にかかる凍結平衡液によれば、前記PVAの含有量は0.1-5.0 g、例えば0.1 g、0.5 g、1.0 g、2.0 gである。
【0048】
本発明にかかる凍結平衡液によれば、前記ポリオールの含有量は6.0-28 mL、例えば7.0-20 mL、10-15 mLである。
【0049】
本発明にかかる凍結平衡液によれば、前記血清の含有量は0.1-30 mL、例えば5.0-20 mL、10-15 mLである。本発明の一実施形態として、前記血清の含有量は0である。
【0050】
本発明の一実施形態として、前記凍結平衡液は100 mL当たりの体積で計算すると、ポリオール7.5-15 mL、血清10-20 mL及び残量のDPBSを含有する。
【0051】
本発明の一実施形態として、前記凍結平衡液は100 mL当たりの体積で計算すると、PVA 1.0-5.0 g、ポリオール7.5-15 mL及び残量の緩衝液を含有する。
【0052】
本発明にかかる凍結平衡液において、前記PVA、ポリオール及び血清は凍結保存液の対応する成分の種類から選ばれることができる。
【0053】
本発明は、各成分を緩衝溶液に溶解させ、血清を個別に保存し、使用時に加えることを含む上記凍結平衡液の調製方法をさらに提供する。
【0054】
上記凍結平衡液と上記凍結保存液を含み、前記凍結平衡液と凍結保存液はそれぞれ独立して存在するDMSOフリーの凍結保存用試薬である。
【0055】
本発明にかかる凍結保存用試薬によれば、前記凍結保存液の血清の含有量は0であり、前記凍結平衡液は100 mL当たりの体積で計算すると、PVA 1.0-5.0 g、ポリオール7.5-15 mL及び残量の緩衝液を含有する。
【0056】
本発明にかかる凍結保存用試薬によれば、前記凍結平衡液は100 mL当たりの体積で計算すると、以下の成分を含む。
【0057】
PVA 0-5.0 g
ポリアミノ酸 0-15 g
ポリオール 5.0-45 mL
血清 0-30 mL
緩衝液 残量。
【0058】
前記凍結保存液は、総体積100 mLで計算すると、以下の成分を含む。
【0059】
PVA 0.01-6.0 g
アミノ酸又はポリアミノ酸 0-50 g
ポリオール 5.0-45 mL
血清 0-30 mL
水溶性糖類 0.1-1.0 mol L-1
緩衝液 残量。
【0060】
本発明によれば、前記PVAはアイソタクチックPVA、シンジオタクチックPVA及びアタクチックPVAの1つ又は2つ以上の組み合わせから選ばれ、例えば、前記PVAのシンジオタクティシティは15%-60%、好ましくは45%-60%、例えば50%-55%である。
【0061】
本発明によれば、前記PVAは、分子量10-500 kDa又はそれ以上の分子量のPVAから選ばれてもよく、例えば分子量は10-30 kDa、30-50 kDa、80-90 kDa、200-500 kDaである。
本発明によれば、前記PVAは、加水分解度が80%より高いPVAから選ばれてもよく、例えば加水分解度が80%-99%、82-87%、87%-89%、89%-99%、98%-99%である。
【0062】
本発明によれば、前記ポリアミノ酸はリジン、アルギニン、プロリン、スレオニン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシンなどのうちの少なくとも1つのホモポリマー(重合度≧2)から選ばれてもよい。
【0063】
本発明によれば、前記ペプチド化合物はポリペプチドであり、2つ以上のアミノ酸からなり、L-Thr-L-Arg(TR)、L-Thr-L-Pro(TP)、L-Arg-L-Thr(RT)、L-Pro-L-Thr(PT)、L-Thr-L-Arg-L-Thr(TRT)、L-Thr-L-Pro-L-Thr(TPT)、L-Ala-L-Ala-L-Thr(AAT)のうちの1つ又は2つ以上から選ばれてもよい。これらのポリペプチドは、この分野における既知のポリペプチド合成方法、例えば、固相合成法などにより合成することができる。
【0064】
本発明によれば、前記糖ペプチド誘導体は糖類とアミノ酸により合成され、例えばグルコラクトン(GDL)と親氷アミノ酸から化学結合によって構成された分子であり、例えば、GDL-L-Thr、GDL-L-Gln、GDL-L-Asn、GDL-L-Phe、GDL-L-Tyr、GDL-L-Thrなどである。前記糖ペプチド化合物は、この分野における既知の糖類とアミノ酸の反応方法により、例えば、固相合成法により、又は、糖類とアミノ酸とを有機溶媒において反応させることにより、調製することができる。
【0065】
本発明によれば、前記ペプチド化合物は、式(1)-式(8)で示される構造のいずれか1つを有する。
【0066】
【0067】
【0068】
本発明によれば、前記式(I)で示される化合物は、以下に示す構造のいずれか1つを有する。
【0069】
【0070】
本発明によれば、前記式(9)に示す化合物は以下の合成経路を採用して調製される。
【0071】
【0072】
本発明にかかる凍結保存液と凍結平衡液において、各成分の使用量はいずれも100 mLの溶液の総体積を基準とし、残量は緩衝液である。
【0073】
本発明は、卵母細胞、胚、様々な幹細胞、器官及び組織の凍結保存を含む、様々な細胞、器官及び組織の凍結保存における上記凍結保存液の応用をさらに提供する。ここで、器官及び組織は卵巣器官、卵巣組織を含むが、これらに限定されない。
【0074】
本発明はさらに、以下のステップを含む、細胞又は胚の凍結及び回復方法を提供する。
【0075】
(1)細胞又は胚を本発明の凍結保存液に置き、細胞懸濁液に調製し、凍結を行う。
【0076】
(2)凍結した細胞又は胚を融解液に入れて融解して回復する。
【0077】
本発明の前記凍結及び回復方法において、前記細胞又は胚を凍結保存液に置かれる前に、まず平衡液に入れて平衡化を行う。
【0078】
本発明は幹細胞を凍結保存する方法をさらに提供し、微滴法を採用し、例えば前記幹細胞を凍結保存する方法は以下のステップを含む。凍結保存液を幹細胞に添加し、吹き付けて分散させ、幹細胞懸濁液に調製し、幹細胞懸濁液を凍結キャリアシートに置き、液体窒素(-196℃)で凍結保存する。
【0079】
本発明の実施形態によれば、凍結保存された幹細胞の融解は幹細胞が置かれた凍結キャリアシートをa-MEM培地に置き、37℃で融解することを含む。
【0080】
本発明の実施形態によれば、前記幹細胞は本分野の既知の分化機能を有する様々な幹細胞であり、例えば全能性幹細胞、多能性幹細胞又は単能幹細胞であり、胚性幹細胞、各種間葉系幹細胞(例えば臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞など)、造血幹細胞などを含むが、それらに限定されない。
【0081】
本発明はさらに、以下のステップを含む、器官及び/又は組織の凍結保存方法を提供する。器官及び/又は組織を凍結平衡液中で平衡化し、次に器官及び/又は組織を凍結保存液に入れ、さらに器官及び/又は組織を凍結キャリアシートに置き、液体窒素で凍結保存する。
【0082】
一実施形態において、前記器官及び/又は組織は卵巣組織又は卵巣器官であり、卵巣組織切片又は完全な卵巣組織であってもよい。
【0083】
本発明における「凍存」と「凍結保存」は同じ意味を有し、交換して使用することができ、低温である物質又は細胞、組織、器官を保存することにより、それがその本来の物理化学及び/又は生物活性、生理生化学的機能を保持することを指す。
【0084】
本発明において、「幹細胞」の種類は特に限定されないが、本発明にかかる凍結保存液は、臍帯間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、造血幹細胞などを含むが、これらに限定されないこの分野における様々な幹細胞の凍結保存に用いることができる。
【0085】
本発明において、生体組織は、ヒトや霊長類のような温血哺乳動物;鳥類;ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマやブタのような家又は農場で飼いならされた動物;マウス、ラットやギニアピッグのような実験動物;魚;爬虫類;動物園の動物;野生動物などを含む動物に由来可能である。
【0086】
有益な効果
本発明により提供される凍結保存液と凍結平衡液はDMSOを含有せず、マウス卵母細胞、胚の凍結保存に用いられる場合に、市販の凍結保存液(体積濃度15%のDMSOを含有)と同等又はそれ以上の細胞、組織生存率及び機能的発現の安定性に達することができ、高い保存効率を有する。ここで、DMSOも血清もない凍結保存液は、現在の臨床で一般的に使用されている市販の凍結保存液における、血清を含有するため、安定性が低く、寄生性の生物汚染物質が持ち込まれやすいといった問題をさらに解決する。本発明にかかる凍結保存液は、構成がシンプルであり、且つ原料が容易に入手され、コストが低く、卵母細胞、細胞様細胞(例えば、胚など)、幹細胞、組織及び器官の凍結保存に広く適用できる。
【0087】
図面の簡単な説明
〔
図1〕3日齢のマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣器官の切片染色画像である。
【0088】
〔
図2〕比較例7の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0089】
〔
図3〕適用例14の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0090】
〔
図4〕適用例15の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0091】
〔
図5〕適用例16の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0092】
〔
図6〕性成熟したマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣組織の切片染色画像である。
【0093】
〔
図7〕比較例8の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【0094】
〔
図8〕適用例17の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【0095】
〔
図9〕適用例18の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【0096】
〔
図10〕適用例19の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【0097】
発明を実施するための形態
以下に具体的な実施例を参照しながら本発明の調製方法をさらに詳細に説明する。理解すべきことは、以下の実施例は本発明を例示的に説明して解釈するものに過ぎず、本発明の請求範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現された技術はいずれも本発明の請求を目的とする範囲内に含まれる。
【0098】
下記実施例に使用される実験方法は特別な説明がなければ、いずれも従来の方法である。下記実施例に使用される試薬、材料などは、特別な説明がなければ、いずれも商業的に入手することができる。
【0099】
本発明の実施例において使用されるPVAは、シンジオタクティシティが50%-55%、分子量が13-23 kDa、加水分解度が98%である。
【0100】
本発明の実施例において、凍結液に使用されるポリ-L-プロリンは、重合度が8又は15、分子量が795及び1475であり、ポリ-L-アルギニンは、重合度が8、分子量が1267である。融解液におけるポリ-L-プロリンは、重合度が8、分子量が795である。
本発明の実施例において、生存率は3-12回繰り返した実験の生存率の平均値である。
【0101】
実施例1. マウスの卵母細胞と胚の凍結保存
1. 凍結保存液の調製:以下の配合に従って凍結保存液を調製する
凍結保存液A:100ml当たりにおいて、以下の成分を含有する。
【0102】
【0103】
2.0 gのPVAを80℃の水浴に加熱し、磁気撹拌によって25 mLのDPBSに溶解させ、pHを7.0に調整し、溶液1とし、1.5 gのポリ-L-プロリンを別の20 mLのDPBSに超音波によって溶解させ、pHを7.0に調整し、溶液2とし、17 g(0.05 mol)のスクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度は0.5 mol L-1)を25 mLのDPBSに超音波によって溶解させ、スクロースが全て溶解した後に順に10 mLのエチレングリコールを加え、溶液3とし、溶液1、溶液2及び溶液3が室温に回復されると、3つの溶液を均一に混合し、pHを7.0に調整し、総体積が100 mLになるまでDPBSを用いて定容して残量を補足し、使用に備える。
【0104】
凍結保存液B:100 ml当たりにおいて、以下の成分を含有する。
【0105】
【0106】
凍結保存液の調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴において加熱し、磁気撹拌によって20 mLのDPBSに溶解させ、pHを7.1に調整し、溶液1とし、8.0 gのL-Argと4.0 gのL-Thrを20 mLのDPBSに溶解させ、pHを7.1に調整し、溶液2とし、17 g(0.05 mol)のスクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度は0.5 mol L-1)を20 mLのDPBSに超音波によって溶解させ、スクロースが全て溶解した後に10 mLのエチレングリコールを加え、溶液3とし、溶液1、溶液2及び溶液3が室温に回復されると、3つの溶液を均一に混合し、pHを7.1に調整し、総体積の80%になるまでDPBSを用いて定容して残量を補足し、使用時に20mLの血清を加える。
【0107】
凍結保存液C:100 ml当たりにおいて、以下の成分を含有する。
【0108】
【0109】
2.0 gのPVAを80℃の水浴において加熱し、磁気撹拌によって25 mLのDPBSに溶解させ、pHを6.9に調整し、溶液1とし、17 g(0.05 mol)のスクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度は0.5 mol L-1)を25 mLのDPBSに超音波によって溶解させ、スクロースが全て溶解した後に10 mLのエチレングリコールを加え、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に回復されると、2つの溶液を均一に混合し、pHを調整し、総体積の80%になるまで定容して残量を補足し、20 mLの血清を個別に保存し、保存液を使用する時に加える。
【0110】
凍結保存液D:100 ml当たりにおいて、以下の成分を含有する。
【0111】
【0112】
2.0 gのPVAを80℃の水浴において加熱し、磁気撹拌によって30 mLのDPBSに溶解させ、pHを7.0に調整し、溶液1とし、17 g(0.05 mol)のスクロース(凍結保存液におけるスクロースの最終濃度は0.5 mol L-1)を25 mLのDPBSに超音波によって溶解させ、スクロースが全て溶解した後に10 mLのエチレングリコールを加え、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に回復されると、2つの溶液を均一に混合し、pHを調整し、総体積が100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0113】
2. 凍結平衡液の調製:以下の配合に従って凍結平衡液を調製する
凍結平衡液a:2.0 gのPVAを80℃の水浴において加熱し、磁気撹拌によって50 mLのDPBSに溶解させ、PVAが全て溶解すると、pHを7.0に調整し、7.5 mLのエチレングリコールを加え、均一に混合し、DPBSを用いて100 mLに定容し、使用に備える。
【0114】
凍結平衡液b:総体積100 mLで、7.5 mLのエチレングリコールを72.5 mLのDPBSに溶解させ、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を加える。
【0115】
比較例1:
凍結平衡液1#:1 mL当たりに7.5%(v/v)のDMSO、7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0116】
凍結保存液1#:1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0117】
凍結平衡液b:1 mL当たりに7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0118】
凍結保存液2#:1 mL当たりに10%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0119】
本発明の実施例1と比較例1において使用される融解液の配合は以下の3つがある。
【0120】
融解液1#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20%の血清であり、残量はDPBSである)。
【0121】
融解液2#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20 mg mL-1のPVA、残量はDPBSである)。
【0122】
融解液3#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、10 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、5.0 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、2.5 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20 mg mL-1のPVAであり、残量はDPBSである)。
【0123】
適用例1:
上記実施例及び比較例の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表1と表2の方案に従ってそれぞれ卵母細胞と胚の凍結保存を行う。
【0124】
1. 卵母細胞の凍結保存
まず、マウス卵母細胞を凍結平衡液に置いて5分間平衡し、そして調製された凍結保存液に1分間置き、凍結保存液に平衡した後の卵母細胞を凍結キャリアレバーに置き、それから急速に液体窒素(-196℃)に入れ、キャリアレバーを密閉した後に引き続き保存し、融解時、凍結保存された卵母細胞を37℃の融解液Iに置いて5分間平衡し、さらに順に融解液II-IVにおいてそれぞれ3分間平衡し、融解完了後の卵母細胞を2時間培養した後に、生存する細胞の数を観察し、生存率を計算する(表1を参照)。
【0125】
2. 胚の凍結保存
まず、マウス胚を凍結平衡液に置いて5分間平衡し、そして調製された凍結保存液に50秒置き、凍結保存液に平衡した後の胚を凍結キャリアレバーに置き、それから急速に液体窒素(-196℃)に入れ、キャリアレバーを密閉した後に引き続き保存し、融解時、凍結保存された胚を37℃の融解液Iに置いて3分間平衡し、さらに順に融解液II- IVにそれぞれ3分間平衡し、融解完了後の胚を2時間培養した後に、生存する胚の数を観察し、生存率を計算する(表2を参照)。
【0126】
【0127】
【0128】
実施例1と比較例1の各例のデータから分かるように、本発明にかかるDMSOフリーの凍結保存液及び凍結平衡液は、各成分の相乗効果により、DMSOを加えない場合においても、卵母細胞と胚に使用される凍結保存は何れも良好な保存効果を有し、従来の凍存液における、高濃度のDMSOを加えるため、細胞又は胚に対して毒性が発生されるという欠陥が解決される。また、適用例2、6-8から分かるように、平衡液、凍結液及び融解液に同時に血清とDMSOを加えない場合においても、本発明におけるバイオニック氷制御材料と浸透性保護剤であるエチレングリコールの相乗効果により、従来の市販の凍結保存液よりも優れた卵母細胞と胚の凍結保存の生存率を達成することができ、現在の臨床で一般的に使用されている市販の凍結保存液における、血清を含有するため、保存期間が短く、寄生性の生物汚染物質が持ち込まれやすいといった問題がさらに解決される。
【0129】
実施例2:ヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存
1.凍結保存液の調製:以下の配合成分で凍結保存液を調製する
凍結保存液E:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、ポリL-アルギニン(重合度は8)4.0 g、PVA 1.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0130】
凍結保存液F:総体積100 mLで、エチレングリコール20 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、L-Arg 16g、L-Thr 8.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0131】
凍結保存液G:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、PVA 2.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0132】
凍結保存液H:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、TR 28 g及び残量のDPBSを含有する。
【0133】
凍結保存液I:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、PVA 2.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0134】
凍結保存液の調製方法は実施例1と同じである。
【0135】
ここで、TRの調製方法は以下の通りである。
【0136】
(1)2-クロロトリチルクロリド樹脂を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0137】
(2)溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0138】
(3)上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-Arg(Pbf)-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0139】
(4)溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0140】
(5)上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0141】
(6)上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0142】
(7)切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
(8)HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=4.8 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-1:4)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Thr-L-Arg(TR)を得る。収率は約80%である。質量分析による同定276.2は[M+H]+である。
【0143】
比較例2:
凍結保存液3#:1 mL当たりに10%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はa-MEM培地(USA,Invitrogen,C12571500BT)である。
【0144】
上記凍結保存液を用いて表3の方案に従ってそれぞれヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行う。使用されるヒト臍帯幹細胞の凍結保存方法は、具体的に、25%のパンクレアチンで培養皿におけるヒト臍帯間葉系幹細胞を2分間消化した後、等体積の培養液(10%のFBS+a-MEM培地)を加え、幹細胞が全て落ちるまで軽く吹き叩き、1.5 mlの遠心管に入れて、1000 rpmで5分間遠心し、上清を捨て、細胞と培地を分離させ、10 uLの凍結液を遠心管の底部に加え、軽く吹き叩いて幹細胞塊を分散させ、この10 uLの幹細胞を含有する凍結液を凍結キャリアシートに置き、液体窒素(-196セ氏度)に入れて凍結保存する微滴法である。融解時、細胞及び凍結液をもっている凍結キャリアシートをそのまま37℃のa-MEM培地に入れて融解する。融解した後、トリパンブルー染色でその生存率を観察し、かつ機器JIMBIO-FILを用いて細胞数をカウントし、生存率=生細胞数/細胞総数(表3参照)。
【0145】
【0146】
本発明にかかる凍結保存液は、ヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行う時、DMSOを使用しなくても幹細胞の生存率は92.4%に達することができ(適用例9)、さらにDMSOと血清を完全に加えない場合でも、生存率は77.1%に達することができ(適用例13)、この凍結用試薬は普通の凍結液による幹細胞への凍結の有効性を達成することができるだけでなく、現在一般的に使用されている10%のDMSOを含有する凍結保存液(比較例5)の凍結保存の回復率よりもはるかに高く、PVAに基づいた凍結保存効果がPVAを加えない比較例6よりも著しく優れていることが示されている。
【0147】
実施例3:完全な卵巣器官と卵巣組織切片の凍結保存
凍結保存液J:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、PVA 2.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0148】
凍結保存液K:総体積100 mLで、エチレングリコール10 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、PVA 1.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0149】
凍結保存液L:エチレングリコール10 mL、血清20 mL、スクロース17 g(0.5 mol L-1)、ポリ-L-アルギニン(重合度は8)4.0 g、PVA 1.0 g及び残量のDPBSを含有する。
【0150】
比較例3:凍結保存液1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)の血清、0.5 Mのスクロース及び残量のDPBSを含有する。
【0151】
凍結平衡液a:2.0 gのPVAを80℃の水浴において加熱し、磁気撹拌によって50 mLのDPBSに溶解させ、PVAが全て溶解すると、pHを7.0に調整し、7.5 mLのエチレングリコールを加え、均一に混合し、pHを調整し、100 mLになるまで定容して残量を補足し、使用に備える。
【0152】
凍結平衡液b:7.5 mLのエチレングリコールを72.5 mLのDPBSに加え、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を加える。
【0153】
比較例3:
凍結平衡液1#:1 mL当たりに7.5%(v/v)のDMSO、7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0154】
凍結保存液1#:1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 mol L-1のスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0155】
融解液1#:融解液I(1.0mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20%の血清、残量はDPBSである)。
【0156】
融解液2#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20 mg mL-1のPVA、残量はDPBSである)。
【0157】
上記凍結保存液及び比較例の凍結平衡液と凍結保存液を用いて、表4と表5の方案に従ってそれぞれ、3日齢以内のマウスの完全な卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織切片を凍結保存する。
【0158】
まず、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を平衡液に置いて室温で25分間平衡し、そして調製された凍結保存液に15分間置き、その後完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を凍結キャリアレバーに置き、液体窒素に入れて保存する。融解後、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を培養液(10%のFBS+a-MEM)に入れてから、37℃、5%のCO2インキュベータに入れて2時間回復させた後に、4%のパラホルムアルデヒドを用いて固定し、パラフィンで包埋し、HE染色を行って形態を観察し、結果は
図1-10に示す通りであり、
図1は新鮮で凍結されていない卵巣器官の切片写真であり、
図6は新鮮で凍結されていない卵巣組織の切片写真である。
【0159】
【0160】
【0161】
図1-5から分かるように、アミノ酸バイオニック氷制御材料を添加しない比較例7及び凍結されていない新鮮な卵巣器官の使用に比べると、実施例14-16の原始卵胞構造は相対的に完全、間葉構造は相対的に完全、細胞質は均質化、淡染は相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染は相対的に少ない;血管管壁構造が完全、血管内腔の崩壊は少なく、内皮細胞質は均質化、淡染は相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染は相対的に少ない。以上から分かるように、実施例14-16の卵巣器官の凍結保存効果がより優れている。
【0162】
図6-10から分かるように、実施例17-19の方法は比較例8及び凍結されていない新鮮な卵巣組織に比べると、胞状卵胞構造は相対的に完全、間葉構造は相対的に完全、細胞質は均質化、淡染は相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染は相対的に少ない。以上から分かるように、本発明にかかる卵巣組織を凍結保存するための凍結保存液は従来技術よりも優れた効果がある。
【0163】
以上、本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の精神及び原則内で、行われたいかなる修正、同等置換、改善などは、いずれも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【
図1】3日齢のマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣器官の切片染色画像である。
【
図2】比較例7の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図3】適用例14の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図4】適用例15の凍結保存された完全な卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図5】適用例16の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図6】性成熟したマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣組織の切片染色画像である。
【
図7】比較例8の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【
図8】適用例17の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【
図9】適用例18の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。
【
図10】適用例19の凍結保存された卵巣組織切片を融解した後の切片染色画像である。