(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】粒子回転方法及び粒子回転装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250925BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20250925BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20250925BHJP
B01J 19/10 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/26
B01J19/08 J
B01J19/10
(21)【出願番号】P 2021115505
(22)【出願日】2021-07-13
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 明彦
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195371(JP,A)
【文献】特開2013-243968(JP,A)
【文献】Nat. Commun.,2016年,vol.7, Article number.11085,pp.1-11,doi:10.1038/ncomms11085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
B01J 19/00-19/32
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡に振動を加えることによって液体に流れを生じさせて粒子を回転させる粒子回転方法
であって、
気泡の振動数は、100Hzから1KHzまでである粒子回転方法。
【請求項2】
気泡の半径は、0.05mmから0.3mmである請求項1に記載の粒子回転方法。
【請求項3】
気泡に振動を加えることによって液体に流れを生じさせて粒子を回転させる粒子回転装置であって、
上面に開口した複数の孔を形成しており、複数の粒子を含む純水に浸して前記孔内に気泡を発生させる構造体と、
前記構造体を振動させて、前記気泡を振動させる振動子と、
を備えている粒子回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子回転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は粒子分離用装置を開示している。この粒子分離用装置は、プレート、複数のピラー、及び駆動部を備えている。各ピラーはプレート上の等間隔に離れた位置に起立している。駆動部は、ピラーの周りを周回運動するようにプレートを駆動する。この粒子分離用装置は、プレート上に細胞を含んだ液体を供給し、駆動部を駆動してプレートを周回運動させると、各ピラーの周りの流体に振動誘起流れが生じる。この粒子分離用装置は、各ピラーの周りの流体の振動誘起流れによって、細胞の大きさに応じて移動方向を異ならせて、細胞を分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、人工授精の需要が増えているなど、手作業を上回る高速かつ正確に細胞を回転させて、細胞を正確に位置決めすることができる技術が求められている。特許文献1の粒子分離装置は、流体内の細胞を大きさに応じて分離することを目的とするため、細胞の回転を制御することについて特許文献1には開示も示唆もない。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、粒子を回転させることができる粒子回転方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粒子回転方法は、気泡に振動を加えることによって液体に流れを生じさせて粒子を回転させる。
【0007】
この粒子回転方法は、気泡が振動をすると、周りの液体が振動の影響を受けて、流れが生じる。液体内の粒子は、気泡の振動によって流れが生じた気泡周りの流体によって、回転する。この事象を利用することによって、粒子の三次元の位置決めをすることができる。
【0008】
したがって、本発明の粒子回転方法は、粒子を回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】(A)は実施例1の粒子回転方法を確認するために利用される構造体を示す平面視であり、(B)は(A)の矢視X-X断面を示す断面図である。
【
図2】周波数による回転数の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の粒子回転方法における気泡の半径は、0.05mmから0.3mmであり得る。この場合、牛の卵子と略同じ大きさである直径が約0.15mmの粒子を良好に回転させることができる。
【0012】
本発明の粒子回転方法における気泡の振動数は、100Hzから1KHzまでであり得る。この場合、牛の卵子と略同じ大きさである直径が約0.15mmの粒子を良好に回転させることができる。
【0013】
次に、本発明の粒子回転方法を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
<実施例1>
実施例1の粒子回転方法は、
図1に示す構造体10を利用して確認した。構造体10は、上方から見た平面視において、一辺が約5.0mmの正方形である。構造体10の厚さは、約1.0mmである。構造体10は、上面に開口した9個の孔11が形成されている。各孔11は、上方から見た平面視において、直径が約0.5mmの円形である。各孔11の深さは、約0.5mmである。構造体10を上方から見た平面視において、構造体10の一対の辺が縦方向に延び、残りの一対の辺が横方向に延びた状態に構造体10を配置すると、各孔11は縦横3個ずつ等間隔に配置されている。構造体10は、下方に配置した振動子20によって振動する。振動子20として、スマートフォンのスピーカを利用して振動させることが考えられる。この場合、スマートフォンの顕微鏡アプリケーションを併用すれば、粒子の回転を確認することができる装置を構成することができる。
【0015】
<粒子の回転方法>
構造体10を利用して、複数のマイクロビーズを含む純水内に気泡を発生させ、発生した気泡に振動を加えることによって純水に流れを生じさせてマイクロビーズを回転させる方法について説明する。まず、構造体10の各孔11の中に純水が入らないようにグリセリンを塗り、その後、構造体10を複数のマイクロビーズを含む純水に浸して振動子20によって構造体10を振動させる。各マイクロビーズの直径は、牛の卵子の直径と略同じ約0.15mmである。構造体10を振動させると、孔11内に発生した気泡が振動し、気泡周りの純水に流れが生じて、孔11内において気泡の付近でマイクロビーズが縦回転している様子が認められた。気泡の半径は、約0.08mmである。振動子20の振動の周波数を変化させると、
図2に示すように、周波数が低くなればマイクロビーズの回転数が増えたが、安定性は低くなった。
【0016】
<気泡の振動の仕方>
気泡の振動の仕方は、
図3に示すように、通常時、気泡の内部の圧力は一定であり球状である。振動子20を振動させて構造体10を振動させることによって、気泡に圧力が内側からかかって変形すると、気泡は元の状態である球状に戻ろうとする。また、振動子20を振動させて構造体10を振動させることによって、気泡に圧力が外側からかかって変形すると、気泡は元の状態である球状に戻ろうとする。これを繰り返すと、気泡は振動し、気泡の周りの液体も気泡の振動の影響を受けて流れを生じ、マイクロビーズが縦回転する。
【0017】
<振動による気泡周りの流れ発生>
気泡に作用する力と、気泡の変形について理論式より検討した。今回使用した振動子20の音圧レベルは30dBである。振動子20から発生する音圧を求める式を(1)式に示す。ここで、Lは音圧レベル、pは観測値、p0は基準値である。
【0018】
【0019】
基準値p0は2.0×10―5[Pa]であるので、観測値pは(2-2)式で示される。
【0020】
【0021】
ヤング率の式は(3)式で示される。ここで、εはひずみ、Eはヤング率、δは応力である。
【0022】
【0023】
求めた音圧を応力とし、ヤング率を水の表面張力とすると求めるひずみは(4)式で示される。
【0024】
【0025】
ひずみεは別式ε=ΔL/Lでも表せる。ここで、ΔLは変形量であり、Lは元の気泡の大きさである。よって、元の気泡の半径を0.1mmとすると(5)式が求められる。
【0026】
【0027】
気泡の運動は、ばねの運動と類似しているので、フックの法則の(6)式が適用される。ここで、kは、ばね乗数であり、気泡の表面張力が相当する。xは変位量である。
【0028】
【0029】
先ほど求めた変形量にするためには、(7)式となる。
【0030】
【0031】
よって、1.2×10-4N以上の力が働けば、1.7μmの振幅の振動が発生して、粒子を縦回転させる流れが発生すると考えられる。
【0032】
以上説明したように、実施例1の粒子回転方法は、気泡に振動を加えることによって純水に流れを生じさせてマイクロビーズを回転させる。この粒子回転方法は、気泡が振動をすると、周りの純水が振動の影響を受けて、流れが生じる。純水内のマイクロビーズは、気泡の振動によって流れが生じた気泡周りの純水によって、回転する。
【0033】
したがって、実施例1の粒子回転方法は、マイクロビーズを回転させることができる。
【0034】
実施例1の粒子回転方法における気泡の半径は、0.08mmである。この場合、牛の卵子と略同じ大きさである直径が約0.15mmのマイクロビーズを良好に回転させることができる。
【0035】
実施例1の粒子回転方法における気泡の振動数は、100Hzから1KHzまでである。この場合、牛の卵子と略同じ大きさである直径が約0.15mmのマイクロビーズを良好に回転させることができる。
【0036】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)構造体の外径及び寸法は適宜変更することができる。
(2)構造体に形成された孔の形状及び寸法は適宜変更することができる。
(3)構造体を振動させる振動子は、スマートフォンのスピーカ等を利用して構造体を振動させてもよい。
【符号の説明】
【0037】
10…構造体
11…孔
20…振動子