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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】積層構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/12 20060101AFI20250925BHJP
   B32B 21/04 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
B32B3/12 Z
B32B21/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021193438
(22)【出願日】2021-11-29
(65)【公開番号】P2023079795
(43)【公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000010054
【氏名又は名称】岐阜プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 紘規
(72)【発明者】
【氏名】新海 達也
【審査官】宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-151325(JP,A)
【文献】特開2019-085799(JP,A)
【文献】特開平10-000711(JP,A)
【文献】特開2020-095283(JP,A)
【文献】国際公開第2019/138884(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/225706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に複数のセルが並設された中空板材と、
前記中空板材を間に挟んで積層されるとともに、前記中空板材に固定された第1木質板材及び第2木質板材と、
前記第1木質板材における前記中空板材に対向する面の反対側の面に固定された表材層とを備える積層構造体であって、
前記中空板材は、前記第1木質板材に重なる第1主面及び前記第2木質板材に重なる第2主面を備え、
前記第1木質板材は、前記中空板材の前記第1主面に一体に張り合わされるように接着されるとともに、前記第2木質板材は、前記中空板材の前記第2主面に一体に張り合わされるように接着されており、
前記第1主面には、前記中空板材の内部の空間に連通する複数の第1開口部が設けられており、
前記第2主面には、前記第1開口部に連通する第2開口部が設けられており、
前記第1開口部及び前記第2開口部は、前記中空板材を厚さ方向に貫通するとともに複数の前記セルに跨る貫通孔を形成しており、
前記貫通孔は、前記セルを区画する壁部が部分的に除かれた部分であり、
前記第1開口部は、前記第1木質板材の表面の一部を前記中空板材の内部空間に露出させるとともに、前記第2開口部は、前記第1木質板材の表面の一部を前記中空板材の内部空間に露出させていることを特徴とする積層構造体。
【請求項2】
前記第1開口部は全て、閉じた環状の開口部である請求項1に記載の積層構造体。
【請求項3】
前記第1開口部は、前記第1主面において千鳥状に配置されている請求項1又は請求項2に記載の積層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部に複数のセルが並設された板状の中空構造体が知られている。板状の中空構造体は、各種面材を組み合わせて積層した積層構造体として利用されている。例えば、特許文献1は、中空構造体の両面側に合板用単板からなる木質板材が積層された積層構造体を開示する。特許文献1に開示される積層構造体は、軽量なパネル材として、自動車、鉄道車両、船舶、航空機、建築物等に広く使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-174732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、中空構造体の両面側に合板用単板などの木質板材を積層した積層構造体は、一方の木質板材の表面に対して、意匠層などの別の層を更に積層して用いる場合がある。上記積層構造とした場合、積層構造体の耐熱性が低くなる。具体的には、一時的に高温環境に曝すことにより積層構造体に生じた反りが、積層構造体の温度を常温に戻した後も残りやすい。そのため、上記積層構造の積層構造体は、一時的に高温環境に曝される用途に適用することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する積層構造体は、内部に複数のセルが並設された中空板材と、前記中空板材を間に挟んで積層されるとともに、前記中空板材に固定された第1木質板材及び第2木質板材と、前記第1木質板材における前記中空板材に対向する面の反対側の面に固定された表材層とを備える積層構造体であって、前記中空板材は、前記第1木質板材に重なる第1主面を備え、前記第1主面には、前記中空板材の内部の空間に連通する複数の第1開口部が設けられている。
【0006】
上記構成によれば、高温状態から常温に戻した後の積層構造体に残る反りを抑制できる。
上記積層構造体において、前記第1開口部は全て、閉じた環状の開口部であることが好ましい。
【0007】
上記構成によれば、第1開口部を設けることによる積層構造体の縁部の強度の低下を抑制できる。そのため、上記構成の積層構造体は、縁部に凹みや欠けが生じ難い。
上記積層構造体において、前記中空板材は、前記第2木質板材に重なる第2主面を備え、前記第2主面には、前記第1開口部に連通する第2開口部が設けられていることが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、高温状態から常温に戻した後の積層構造体に残る反りを抑制できる効果がより顕著に得られる。
上記積層構造体において、前記第1開口部は、前記第1主面において千鳥状に配置されていることが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、中空板材の第1主面に対して、第1開口部が分散して配置される。そのため、第1開口部を設けることによる中空板材の局所的な強度の低下、特に、積層構造体の厚さ方向に加わる荷重に対する強度の低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温状態から常温に戻した後の積層構造体に残る反りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】積層構造体の平面図である。
図2図1の2-2線断面図である。
図3】中空板材の概略構成を示す斜視図。
図4図3におけるβ‐β線断面図。
図5図3におけるγ‐γ線断面図。
図6】(a)は、コア層を構成する凹凸シート材の斜視図、(b)は、凹凸シート材の折り畳み途中の状態を示す斜視図、(c)は、凹凸シート材を折り畳んだ状態を示す斜視図である。
図7】変更例の積層構造体の断面図である。
図8】耐熱試験の測定サンプルの形状及び測定点を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
<積層構造体>
積層構造体10は、軽量かつ強度を有するパネル材として、キャンピングカーなどの自動車、鉄道車両、船舶、航空機、建築物等に広く使用される。積層構造体10は、例えば、床パネル、テーブルの天板、棚板などの自動車の車内部品である。
【0013】
図1及び図2に示すように、積層構造体10は、中空板材11と、中空板材11を間に挟んで積層される第1木質板材12及び第2木質板材13と、第1木質板材12に積層される表材層14とを備える。
【0014】
中空板材11は、第1主面11a及び第2主面11bを有する板状部材である。第1木質板材12は、中空板材11の第1主面11aに対して重ねられるとともに接着剤により接着されている。第2木質板材13は、中空板材11の第2主面11bに対して重ねられるとともに接着剤により接着されている。表材層14は、第1木質板材12における中空板材11に対向する面の反対側の面に対して接着剤により接着されている。上記接着剤は、各層間を接着できるものであれば特に限定されるものではなく、2液混合エポキシ系接着剤などの公知の接着剤を用いることができる。
【0015】
<中空板材>
図3~5に示すように、中空板材11は、内部に複数のセルSが並設されている中空構造体である。中空板材11は、上壁部21と、下壁部22と、上壁部21及び下壁部22の間に立設されてセルSを六角柱形状に区画する側壁部23とを有している。上壁部21及び下壁部22は、1層構造と2層構造とが混在した構造をなしている。図3では、便宜上、中空板材11の上壁部21及び下壁部22を1層構造で示している。
【0016】
図3~5に示すように、中空板材11の内部に区画形成されるセルSには、構成の異なる第1セルS1と第2セルS2とが存在する。
図4に示すように、第1セルS1においては、側壁部23の上部に2層構造の上壁部21が設けられている。この2層構造の上壁部21の各層は互いに接合されている。
【0017】
図5に示すように、第2セルS2においては、側壁部23の上部に1層構造の上壁部21が設けられている。第2セルS2においては、側壁部23の下部に2層構造の下壁部22が設けられている。この2層構造の下壁部22の各層は互いに接合されている。
【0018】
図4及び図5に示すように、隣接する第1セルS1同士の間、及び隣接する第2セルS2同士の間は、それぞれ2層構造の側壁部23によって区画されている。この2層構造の側壁部23は、中空板材11の厚さ方向中央部に互いに熱溶着されていない部分を有する。したがって、中空板材11の各セルSの内部空間は、2層構造の側壁部23の間を介して他のセルSの内部空間に連通している。
【0019】
図3に示すように、第1セルS1は、X方向に沿って列をなすように並設されている。第2セルS2は、X方向に沿って列をなすように並設されている。第1セルS1の列及び第2セルS2の列は、X方向と直交するY方向において交互に配列されている。第1セルS1及び第2セルS2により、中空板材11は全体としてハニカム構造体をなしている。
【0020】
中空板材11は、例えば、熱可塑性樹脂が配合された材料によって構成されている。中空板材11に配合される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体樹脂、アクリル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられる。本実施形態において、中空板材11の素材である熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン樹脂である。
【0021】
図6に示すように、中空板材11は、凹凸シート材100を折り畳むことによって形成される。
図6(a)に示すように、凹凸シート材100は、1枚の熱可塑性樹脂製のシートを所定の形状に成形することにより形成されている。凹凸シート材100には、帯状をなす平面領域110及び膨出領域120が、凹凸シート材100の長手方向であるX方向に交互に配置されている。膨出領域120には、上面と一対の側面とからなる断面下向溝状をなす第1膨出部121が膨出領域120の延びる方向であるY方向の全体にわたって形成されている。なお、第1膨出部121の上面と側面とのなす角は90度であることが好ましく、その結果として、第1膨出部121の断面形状は下向C字状となる。また、第1膨出部121の幅である上面の短手方向の長さは平面領域110の幅と等しく、かつ第1膨出部121の膨出高さである側面の短手方向の長さの2倍の長さとなるように設定されている。
【0022】
膨出領域120には、その断面形状が正六角形を最も長い対角線で二分して得られる台形状をなす複数の第2膨出部122が、第1膨出部121に直交するように形成されている。第2膨出部122の膨出高さは第1膨出部121の膨出高さと等しくなるように設定されている。また、隣り合う第2膨出部122間の間隔は、第2膨出部122の上面の幅と等しくなっている。
【0023】
こうした第1膨出部121及び第2膨出部122は、シートの塑性を利用してシートを部分的に上方に膨出させることにより形成されている。また、凹凸シート材100は、真空成形法や収縮成形法等の周知の成形方法によって1枚の平坦シート材から成形することができる。
【0024】
図6(a)、図6(b)に示すように、上述のように構成された凹凸シート材100を、境界線P、Qに沿って折り畳むことで中空板材11が形成される。具体的には、凹凸シート材100を、平面領域110と膨出領域120との境界線Pにて谷折りするとともに、第1膨出部121の上面と側面との境界線Qにて山折りしてX方向に収縮する。図6(b)、図6(c)に示すように、第1膨出部121の上面と側面とが折り重なるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なることによって、一つの膨出領域120に対して一つのY方向に延びる角柱状の区画体130が形成される。こうした区画体130がX方向に連続して形成されていくことにより中空板材11が形成される。
【0025】
上記のように凹凸シート材100を収縮するとき、第1膨出部121の上面と側面とによって中空板材11の上壁部21が形成されるとともに、第2膨出部122の端面と平面領域110とによって中空板材11の下壁部22が形成される。なお、図6(c)に示すように、上壁部21における第1膨出部121の上面と側面とが折り重なって2層構造を形成する部分が重ね合わせ部131となる。また、下壁部22における第2膨出部122の端面と平面領域110とが折り重なって2層構造を形成する部分が重ね合わせ部131となる。
【0026】
第2膨出部122が折り畳まれて区画形成される六角柱形状の領域が第2セルS2となるとともに、隣り合う一対の区画体130間に区画形成される六角柱形状の領域が第1セルS1となる。本実施形態では、第2膨出部122の上面及び側面が第2セルS2の側壁部23を構成するとともに、第2膨出部122の側面と、膨出領域120における第2膨出部122間に位置する平面部分とが第1セルS1の側壁部23を構成する。そして、第2膨出部122の上面同士の当接部位、及び膨出領域120における上記平面部分同士の当接部位が2層構造をなす側壁部23となる。なお、こうした折り畳み工程を実施するに際して、凹凸シート材100を加熱処理して軟化させた状態としておくことが好ましい。
【0027】
<第1開口部及び第2開口部>
図1及び図2に示すように、中空板材11は、中空板材11を厚さ方向に貫通する複数の貫通孔30を備えている。貫通孔30における第1主面11a側の端部は、中空板材11の第1開口部31であり、貫通孔30における第2主面11b側の端部は、中空板材11の第2開口部32である。換言すると、中空板材11の第1主面11aには、中空板材11の内部の空間に連通する第1開口部31が設けられている。中空板材11の第2主面11bには、中空板材11の内部の空間を通じて第1開口部31に連通する第2開口部32が設けられている。
【0028】
第1開口部31は、第1主面11aにおいて、第1木質板材12の表面の一部を中空板材11の内部空間に露出させる部位である。同様に、第2開口部32は、第2主面11bにおいて、第2木質板材13の表面の一部を中空板材11の内部空間に露出させる部位である。
【0029】
図1に示すように、中空板材11の第1主面11aにおいて、第1開口部31は、千鳥状に配置されている。詳述すると、複数の第1開口部31が特定方向(紙面左右方向)に直線状に並ぶ開口列が設けられるとともに、その開口列が特定方向に直交する方向(紙面上下方向)に複数列、配置されている。各開口列は、隣り合う列に対して、特定方向(紙面左右方向)における第1開口部31の位置が異なっている。なお、中空板材11における貫通孔30の配置、及び中空板材11の第2主面11bにおける第2開口部32の配置も、第1開口部31と同様の千鳥状である。
【0030】
第1開口部31の外形及び第2開口部32の外形は、特に限定されるものではなく、例えば、円形状、長円形状、多角形状、不定形状などのいずれの形状であってもよい。第1開口部31の外形は全て同じ形状であってもよいし、一部又は全部が異なる形状であってもよい。図1では、一例として、全ての第1開口部31の外形が長方形状である場合を図示している。同様に、第2開口部32の外形は全て同じ形状であってもよいし、一部又は全部が異なる形状であってもよい。
【0031】
第1開口部31及び第2開口部32は全て、中空板材11の外周の縁部を含まないように配置されている。したがって、第1開口部31及び第2開口部32は全て閉じた環状の開口部である。閉じた環状の開口部とは、その内周縁が切れ目なく連続している開口部を意味するものであり、円形状、多角形状などの外形は限定されない。なお、中空板材11の縁部を含むように形成された開口部は、その内周縁が上記縁部において非連続である開いた環状の開口部になる。
【0032】
なお、最も外周側に位置する第1開口部31と中空板材11の外周との距離は、当該第1開口部31と中空板材11の外周との間に、セルSの列が少なくとも1列、介在する距離であることが好ましい。最も外周側に位置する第2開口部32と中空板材11の外周との距離も同様である。
【0033】
第1開口部31及び第2開口部32の大きさは特に限定されるものではないが、例えば、中空板材11の内部に形成される一つのセルSよりも大きいことが好ましい。なお、本実施形態においては、複数のセルSに跨るように貫通孔30を形成している。これにより、第1開口部31及び第2開口部32は、一つのセルSよりも大きく形成される。
【0034】
中空板材11の第1主面11aにおける第1開口部31の面積比率は、例えば、10%以上であり、好ましくは20%以上である。また、上記面積比率は、例えば、50%以下であり、好ましくは、40%以下である。
【0035】
<第1木質板材及び第2木質板材>
第1木質板材12及び第2木質板材13は、積層構造体10の強度を高めるための層である。第1木質板材12及び第2木質板材13としては、例えば、単板、合板、木質小片を用いた小片系板材、木質繊維を用いた繊維系板材、及びそれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0036】
小片系板材は、木質小片をバインダーで固めた板状の部材である。木質小片は、木材を小片化したものであり、チップ、フレーク、ウェファー、ストランド、その他の切削片、破砕片の総称である。小片系板材としては、例えば、パーティクルボード、オリエンテッドストランドボード(OSB)が挙げられる。
【0037】
繊維系板材は、木質繊維をバインダーで固めた板状の部材である。木質繊維は、木質小片を高温高圧蒸気で蒸煮し、リファイナー等によって解繊して繊維化したものである。繊維系板材としては、例えば、中密度繊維板(MDF:Medium Density Fiberboard)、インシュレーションボード、ハードボードが挙げられる。第1木質板材12及び第2木質板材13を構成する材料は、同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。なお、第1木質板材12及び第2木質板材13は、厚さ及び構成する材料が同じであることが好ましい。
【0038】
<表材層>
表材層14は、積層構造体10の表面に対して、意匠性や質感などの用途に応じた特性を付与するための層である。表材層14は特に限定されるものではなく、用途に応じた特性を有する板状又はシート状の部材を適用できる。表材層14としては、例えば、ポリ塩化ビニル等の合成樹脂製シートが挙げられる。なお、表材層14は、第1木質板材12よりも通気性が低いことが好ましい。この場合には、高温状態から常温に戻した後の積層構造体に残る反りが大きくなりやすいことから、積層構造体の反りを抑制する効果がより顕著に得られる。
【0039】
<積層構造体の製造方法>
積層構造体10の製造方法の一例を記載する。
第1開口部31及び第2開口部32が形成された中空板材11、表材層14が貼り合わされた第1木質板材12、及び第2木質板材13を用意する。表材層14が貼り合わされた第1木質板材12及び第2木質板材13は、中空板材11よりも平面形状が大きいものを用意する。
【0040】
中空板材11の第1開口部31及び第2開口部32は、例えば、エンドミル、トムソン刃などの加工具を用いて形成される。特に、第1開口部31及び第2開口部32は、エンドミルを用いて形成されることが好ましい。中空板材11は熱可塑性樹脂により形成されている。エンドミルを用いた場合、加工時に生じる熱によって、第1開口部31及び第2開口部32の周囲に位置する2層構造の側壁部23が互いに溶着することにより強固に接着される。
【0041】
これにより、第1開口部31及び第2開口部32を形成することによる中空板材11の剛性の低下を抑制できる。剛性が過度に低下した中空板材11は、他の部材と張り合わせる際に、自重で垂れ下がるように撓むなどの変形が生じやすいことから、張り合わせ作業が困難になる。そのため、中空板材11の剛性の低下を抑制することにより、張り合わせ作業の際の中空板材11の取り扱いが容易になり、その結果、張り合わせ作業の作業性が向上する。
【0042】
次に、第1開口部31及び第2開口部32が形成された中空板材11、表材層14が貼り合わされた第1木質板材12、及び第2木質板材13を張り合わせる張り合わせ工程を行う。
【0043】
張り合わせ工程では、まず、中空板材11の第1主面11aに接着剤を塗布する。接着剤が塗布された中空板材11の第1主面11aと上記第1木質板材12とを重ね合わせた状態として、積層方向に所定の圧力を付与することにより、中空板材11と上記第1木質板材12を接着する。接着剤の塗布方法は特に限定されるものではなく、少なくとも一方の表面に接着剤が塗布された二つのロール間に中空板材11を供給することにより接着剤を塗布するロールコート法などの公知の塗布方法を適用できる。
【0044】
ここで、熱可塑性樹脂により形成されている中空板材11の第1主面11aは、第1木質板材12の表面と比較して平滑性が高い。そのため、第1木質板材12の表面に接着剤を塗布する場合よりも、塗布面に対して均一に接着剤を塗布できる。また、第1開口部31の内周縁を通じて、中空板材11のセルSを区画する側壁部23の層間に接着剤が入り込むことにより、側壁部23が強固に接着される。その結果、中空板材11の曲げ強度や衝撃強度が向上する。
【0045】
接着剤は、例えば、0.2mm以上0.5mm以下の厚さで塗布する。接着剤の厚さを0.2mm以上とした場合には、第1木質板材12の表面に存在する細かな凹凸の間に接着剤が入り込みやすくなる。これにより、第1木質板材12と接着剤が接する部分の表面積を広く確保できる。そのため、中空板材11と第1木質板材12とを強固に接着できる。
【0046】
次に、上記第1木質板材12が接着された中空板材11の第2主面11bに接着剤を塗布する。接着剤が塗布された中空板材11の第2主面11bと第2木質板材13とを重ね合わせた状態として、積層方向に所定の圧力を付与することにより、中空板材11に第2木質板材13を接着する。これにより、中空板材11と、表材層14が貼り合わされた第1木質板材12と、第2木質板材13とが一体に張り合わされた中間積層体が得られる。なお、中空板材11の第2主面11bに対する接着剤の塗布方法は、上述した中空板材11の第1主面11aに対する接着剤の塗布方法と同様である。
【0047】
次に、上記中間積層体を所定の平面形状となるように裁断することにより、積層構造体10が得られる。上記の製造方法では、中空板材11と、中空板材11よりも大きい第1木質板材12及び第2木質板材13とを接着剤を用いて張り合わせた後に裁断している。これにより、裁断面である積層構造体10の外周面、特に中空板材11の外周面を、接着剤の垂れなどのない綺麗な表面にできる。
【0048】
なお、上記の製造方法において、中空板材11に対して第1木質板材12単体を貼り合わせた後に、第1木質板材12に表材層14を貼り合わせてもよい。また、中空板材11に対して第1木質板材12及び第2木質板材13を同時に貼り合わせてもよい。
【0049】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)積層構造体10は、内部に複数のセルSが並設された中空板材11と、中空板材11を間に挟んで積層されるとともに、中空板材11に接着された第1木質板材12及び第2木質板材13と、第1木質板材12における中空板材11に対向する面の反対側の面に接着された表材層14とを備える。中空板材11は、第1木質板材12に接着される第1主面11aを備える。第1主面11aには、中空板材11の内部の空間に連通する複数の第1開口部31が設けられている。
【0050】
上記構成によれば、積層構造体10を一時的に高温状態に曝した際に生じる反りを抑制できる。また、高温状態から常温に戻した後の積層構造体10に残る反りを抑制できる。つまり、上記構成の積層構造体10は、一時的に高温状態に曝されることにより、積層構造体10に反りが生じたとしても、常温にて放置することにより、元の形状に戻りやすい。この効果が得られるメカニズムは、第1木質板材12及び第2木質板材13に含まれる水分量の差に基づくと考えられる。
【0051】
つまり、積層構造体10を高温環境に曝した場合、積層構造体10の表面を構成する部位である第2木質板材13に含まれる水分は、蒸発し、第2木質板材13の表面を通じて第2木質板材13の外に排出される。一方、中空板材11及び表材層14によって両面が覆われている第1木質板材12に含まれる水分は、第1木質板材12の外に排出されることなく、第1木質板材12内に留まる。そのため、第1木質板材12及び第2木質板材13に含まれる水分量に差が生じる。この水分量の差に基づいて積層構造体10に大きな反りが生じ、積層構造体10に生じる反りが大きくなる結果、常温に戻した後も反りが残りやすくなる。
【0052】
ここで、中空板材11の第1主面11aに第1開口部31が設けられていると、第1開口部31を通じて、第1木質板材12に含まれる水分を中空板材11の内部空間に排出できる。これにより、第1木質板材12及び第2木質板材13に含まれる水分量の差が小さくなる。その結果、積層構造体10に生じる反りが小さくなり、常温に戻した後の積層構造体10に残る反りも小さくなる。
【0053】
(2)第1開口部31は全て、閉じた環状の開口部である。
積層構造体10の外周の縁部は、中央部分と比較して、他の物体との衝突しやすく、また衝突した際に凹みや欠けが生じやすい部位である。上記構成によれば、第1開口部31を設けることによる積層構造体10の縁部の強度の低下を抑制できる。そのため、上記構成の積層構造体10は、縁部に凹みや欠けが生じ難い。
【0054】
(3)中空板材11は、第2木質板材13に接着される第2主面11bを備える。第2主面11bには、第1開口部31に連通する第2開口部32が設けられている。
上記構成によれば、第1開口部31を通じて中空板材11の内部空間に排出された第1木質板材12に含まれる水分を、第2開口部32及び第2木質板材13を通じて積層構造体10外へ排出できる。そのため、第1木質板材12から効率的に水分を排出できる。その結果、上記(1)の効果がより顕著に得られる。
【0055】
(4)第1開口部31は、第1主面11aにおいて千鳥状に配置されている。
上記構成によれば、中空板材11の第1主面11aに対して、第1開口部31が分散して配置される。そのため、第1開口部31を設けることによる中空板材11の局所的な強度の低下、特に、積層構造体10の厚さ方向に加わる荷重に対する強度の低下を抑制できる。
【0056】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・中空板材11の第1主面11aにおける第1開口部31の配置は、千鳥状に限定されない。第1開口部31は、格子状に配置されていてもよいし、ランダムに配置されていてもよい。第2開口部32の配置についても同様である。
【0057】
・第1開口部31及び第2開口部32は、中空板材11に設けた貫通孔30の両端部に限定されない。例えば、第1開口部31は、中空板材11の上壁部21に設けられた孔であってもよい。同様に、第2開口部32は、中空板材11の下壁部22に設けられた孔であってもよい。
【0058】
・中空板材11は、第2開口部32が設けられていない構造であってもよい。
・第1開口部31として、中空板材11の縁部を含むように形成された開口部を含んでいてもよい。中空板材11の縁部を含む第1開口部31の開口の面積は、例えば、中空板材11の縁部を含まない他の第1開口部31の開口の面積の1/3以上又は2/3以上である。また、中空板材11の縁部を含む第1開口部31の開口の面積は、例えば、中空板材11の縁部を含まない他の第1開口部31の開口の面積の2/3以下又は1/3以下である。同様に、第2開口部32として、中空板材11の縁部を含むように形成された開口部を含んでいてもよい。
【0059】
・積層構造体10は、その端縁を被覆するエッジテープなどの端面被覆部を備えるものであってもよい。この場合、第1木質板材12の端縁を通じて、第1木質板材12内の水分を排出することができない。そのため、第1開口部31を設けることによる効果がより顕著に得られる。
【0060】
・中空板材11は、折り畳み工程を経て形成されるものでなく、塑性を有するシート材を膨出されることによって形成してもよい。例えば、塑性を有するシート材を真空成形して、多角柱形状や円柱形状のセルが複数膨出されたような形状のものを中空板材11としてもよい。あるいは、シート材を折り曲げることにより膨出領域と平面領域とが交互に形成されたものを中空板材11として使用してもよい。
【0061】
・1枚の熱可塑性樹脂製のシートを折り畳み成形して中空板材11を構成するものに限らず、複数枚のシートを使用して中空板材11を構成してもよい。例えば、帯状のシートを所定間隔毎に屈曲させるとともに、湾曲及び屈曲させた帯状のシートを複数向かい合わせて配置することにより中空板材11を構成してもよい。さらに、セルを形成したシートを複数積み重ねて中空板材11を構成してもよい。すなわち、上壁部21と下壁部22との間において、シートによって複数のセルが区画形成できるのであれば、中空板材11を構成するシートの枚数やその湾曲及び屈曲の態様はどのようなものであってもよい。
【0062】
・本実施形態では、中空板材11の内部に六角柱状のセルSが区画形成されていたが、セルSの形状は特に限定されるものでなく、例えば四角柱状、八角柱状等の多角柱状や円柱状としてもよい。その際、中空板材11の内部には異なる形状のセルSが混在していてもよい。また、各セルSは隣接していなくてもよく、セルSとセルSの間に隙間が存在していてもよい。
【0063】
・中空板材11は、柱形状のセルSが区画されたものに限らない。例えば、所定の凹凸形状を有するコア層の上下面の両方の面にシート層を接合したものであってもよい。このような構成のコア層としては、例えば特開2014-205341号公報に記載のものが挙げられる。また、断面がハーモニカ状のプラスチックダンボール等であってもよい。
【0064】
・本実施形態では、1枚の熱可塑性樹脂製のシートを折り畳み成形して、中空板材11の内部に六角形状のセルSが区画形成されたハニカム構造体としての中空板材11を形成したが、成形方法はこれに限定されない。例えば、特許第4368399号に記載されるように、断面台形状の凸部が複数列設された三次元構造体を順次折り畳んでいくことにより、ハニカム構造体としての中空板材11を形成してもよい。
【0065】
・中空板材11の素材には、必要に応じて、熱可塑性樹脂以外のその他成分が含まれていてもよい。その他成分としては、各種機能性樹脂が挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂に難燃性の樹脂を添加することにより、難燃性を高めることが可能である。
【0066】
・第1木質板材12の一部として、中空板材11に設けられた貫通孔30に挿入される挿入部を設け、挿入部を通じて、第1木質板材12に含まれる水分を中空板材11の内部空間に排出する構成としてもよい。
【0067】
・中空板材11と第1木質板材12及び第2木質板材13とを固定する方法は、接着剤を用いた方法に限定されない。ボルト等の締結具を用いて固定する方法を採用してもよい。
【0068】
・例えば、図7に示すように、第1開口部31及び第2開口部32は、支持部材などの他の部材に積層構造体10を取り付けるための取付部として機能するものであってもよい。図7に示す積層構造体10の中空板材11には、第1開口部31及び第2開口部32を有する貫通孔30が設けられるとともに、その貫通孔30内にナット40が配置されている。ナット40は、第1木質板材12及び第2木質板材13との間に中空板材11と共に挟み込まれることにより、中空板材11の貫通孔30内に支持されている。第2木質板材13におけるナット40のネジ孔に重なる部分には、ネジ孔にボルト41を挿入するための挿入孔13aが設けられている。この場合、中空板材11に収容されているナット40を利用することにより、支持部材などの他の部材と積層構造体10とをボルト41により固定できる。
【0069】
なお、上記構成の積層構造体10においては、ナット40のネジ孔の内側の空間が、第1開口部31に連通される中空板材11の内部の空間になる。そして、この積層構造体10を高温環境に曝した場合、第1木質板材12に含まれる水分は、ボルト41が締結されていないナット40のネジ孔の内側の空間へ排出される。様々な部材に対する取り付けを可能にするために、積層構造体10には、ナット40を収容する貫通孔30が複数、設けられる場合がある。この場合、ナット40を用いて他の部材に取り付けられた状態の積層構造体10であっても、少なくとも一つのナット40は、ボルト41が締結されていないナット40になる。また、保管時のように、他の部材に取り付けられていない状態の積層構造体10においては、全てのナット40が、ボルト41が締結されていないナット40になる。
【実施例
【0070】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
(実施例1、2及び比較例1、2)
表1に示す積層構造を有する実施例1、2及び比較例1、2の積層構造体を作製した。表材層には、厚さ2mmのポリ塩化ビニル製シートを用いた。第1木質板材及び第2木質板材には、厚さ2.5mmのMDF又は厚さ2.5mmの合板を用いた。中空板材には、厚さ7.7mmのポリプロピレン製中空板材(岐阜プラスチック工業株式会社製テクセル(登録商標))を用いた。実施例1、2及び比較例1、2の積層構造体を図8に示す形状に裁断し、これらを試験サンプルとした。
【0071】
実施例1、2に用いた中空板材には、第1開口部として、中空板材を厚さ方向に貫通する複数の貫通孔が設けられている。第1開口部は、縦12mm×横75mmの長方形状である。中空板材における第1開口部の配置は、図1に示す千鳥状であり、第1開口部を横方向に20mm間隔で配置した開口列を、縦方向に50mm間隔で配置した。一方、比較例1、2に用いた中空板材には、上記貫通孔は設けられていない。
【0072】
(耐熱性の評価)
加熱炉を用いて実施例1、2及び比較例1、2の試験サンプルを80℃にて、16時間加熱した後、加熱炉から試験サンプルを取り出し、常温にて24時間放置した。次に、平らな測定台の上に表材層を下向きにして試験サンプルを載置した状態として、図8に示す測定点A~Gにおける測定台からの浮き上がり高さを測定した。そして、測定された浮き上がり高さに基づいて試験サンプルの反りを下記の基準で評価した。その結果を表2に示す。
【0073】
「○」:浮き上がり高さが3mm以下である。
「△」:浮き上がり高さが3mmを超え5mm以下である。
「×」:浮き上がり高さが5mmを超える。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
表1及び表2に示すように、第1開口部を有する中空板材を用いた実施例1、2は、第1開口部を有さない中空板材を用いた比較例1、2と比較して、「△」及び「○」の評価が多い結果であった。この結果から、第1開口部を有する中空板材を用いることにより、高温状態から常温に戻した後の積層構造体に残る反りが抑制されることが分かる。
【0076】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)前記第1開口部の外形は、前記セルよりも大きい前記積層構造体。
(ロ)内部に複数のセルが並設された熱可塑性樹脂製の中空板材と、前記中空板材を間に挟んで積層されるとともに、前記中空板材に固定された第1木質板材及び第2木質板材と、前記第1木質板材における前記中空板材に対向する面の反対側の面に固定された表材層とを備え、前記中空板材は、前記第1木質板材に重なる第1主面を備え、前記第1主面には、前記中空板材の内部の空間に連通する複数の第1開口部が設けられている積層構造体の製造方法であって、前記第1開口部が設けられた前記中空板材と前記第1木質板材とを張り合わせる張り合わせ工程を備え、前記張り合わせ工程は、前記中空板材の前記第1主面に接着剤を塗布し、前記接着剤が塗布された前記中空板材の前記第1主面と前記第1木質板材とを重ね合わせる積層構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0077】
S…セル
10…積層構造体
11…中空板材
11a…第1主面
11b…第2主面
12…第1木質板材
13…第2木質板材
14…表材層
30…貫通孔
31…第1開口部
32…第2開口部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8