(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】長時間作用性の低嗜癖性の化合物及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 229/60 20060101AFI20250925BHJP
A61P 23/00 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250925BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20250925BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20250925BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20250925BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20250925BHJP
C07C 227/12 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
C07C229/60 CSP
A61P23/00
A61P25/04
A61P25/28
A61P11/00
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/00
A61P25/02
A61P21/00
A61P25/16
A61P25/18
A61K31/216
C07C227/12
(21)【出願番号】P 2023509495
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 CN2020112360
(87)【国際公開番号】W WO2022041171
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】522474882
【氏名又は名称】深▲せん▼瑞健生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN RUIJIAN BIOTECHNOLOGY CO., LTD
【住所又は居所原語表記】No. 10, Gaoxin Zhongyi Road, Nanshan District, Shenzhen, Shenzhen hi tech Zone Incubator 1-312 Shenzhen, Guangdong 518057, China
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】李▲書▼▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】周▲強▼
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/041172(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/079693(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110559282(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110218157(CN,A)
【文献】特表2015-501302(JP,A)
【文献】特表2019-510768(JP,A)
【文献】C.G.WERMUTH編,『最新 創薬化学 上巻』,株式会社テクノミック,1998年08月15日,235-271頁,13章 等価置換に基づく分子の変換
【文献】野崎正勝 等,創薬化学,第1版,株式会社化学同人,1995年,pp.98-99
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IVに示す構造を有する化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化19】
IV
(式中、R
6及びR
7は、それぞれ独立にC
1-C
6アルキル基である)
【請求項2】
下記式に示す化合物であることを特徴とする
、化合物。
【化20】
【請求項3】
下記式に示す化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【化21】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体を含み、任意選択的には薬学的に許容可能な担体を更に含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項5】
下記の式に示す通りに、
化合物Gとp-ジメチルアミノベンゾイルクロライドとをTHF溶媒中に存在するトリエチルアミンと反応させて化合物H
5を得;
化合物H
5とHClガスをTHF溶媒中で反応させて化合物I
5を得る、ことを特徴とする、化合物I
5の調製方法。
【化26】
【請求項6】
麻酔、鎮痛、認知機能の改善、肺の保護、抗うつ病、不安及び外傷後ストレス症候群の改善、筋萎縮性側索硬化症、複合性局所疼痛症候群の予防または治療のための請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物、または請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記複合性局所疼痛は、慢性疼痛または神経障害性疼痛を含み、前記抗うつ病中のうつ病は、双極性うつ病、重度うつ病を含み、認知機能の改善は、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病の予防または治療を含む、請求項6に記載の化合物または医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、医薬品分野に関し、具体的には、複合局所疼痛症候群(CRPS)を含むうつ病を治療する長時間作用性の低嗜癖性の化合物及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケタミン(ketamine)は、臨床的に一般的に使用されるフェンシクリジン類静脈麻酔薬の代表的なものであり、近年臨床と基礎的研究の発展が比較的に早い麻酔剤の1つである。臨床実践において、迅速な誘導、短い作用時間、早い蘇生、呼吸と循環系への影響の軽さなどの特徴があるため、小児科、産婦人科、周術期や特殊疾患の患者の麻酔需要を満足させるために使用されている。
【0003】
ケタミンは、1962年に初めて合成され、1965年にヒトに使用され、1970年にFDAによって臨床使用が公式に承認された。その典型的な「解離性麻酔」と短期間で確実な鎮痛により一時的に人気を集めたが、その後、精神的副作用の発見や、他の静脈麻酔薬の急速な開発によりケタミンの臨床使用が大幅に減少した。ここ10年来、ケタミンの使用量に対する研究、及びその抗炎症、抗うつ、神経保護、鎮痛などの作用の発見に伴い、医学界におけるケタミンへの関心が再び高まっている。
【0004】
これまで、ケタミンの強力な鎮痛、忘却、自律呼吸と気道保護反射の同時維持、血流力学的安定性の維持などの作用により、病院前麻酔・鎮痛へのケタミンの作用は無視できなくなる。ケタミンは、神経毒性と神経保護の両方の作用を有する。
【0005】
ケタミンは、術後の認知機能に影響を与える。ある研究者が、ケタミン麻酔を受けた50例の患児を対象にテストを行った結果、ケタミン全麻は患児の術後6時間の認知機能を低下させることができるが、術後24時間の認知機能には影響を与えないことを見出した。Hudetzらは、全麻誘導のとき、0.5mg/kgのケタミンを投与すると、心臓手術後1週間の術後認知機能障害の発生率を低下させることを見出した。近年、多くの臨床実験により、術中の少量のケタミン単回投与は、術後の認知機能障害の発生率を低下させることが実証された。
【0006】
ケタミンは、鎮痛作用を有する。亜麻酔用量のケタミンは、一般的に、抗痛覚過敏、及び急性/慢性疼痛の治療に使用される。研究によれば、麻酔誘導前のケタミン塩水混合液によるうがいは、全麻での気管挿管による術後咽頭痛の発生率及び重症度を著しく低下させることが実証された。術中のオピオイド類薬物の使用は、術後のオピオイド類薬物の鎮痛への用量を増加させ、このような効果をオピオイド類薬物耐性と呼ぶ。一方、臨床では、ケタミンの使用は、オピオイド類薬物耐性を防止できるだけではなく、更に、モルヒネ耐性を逆転させ、モルヒネの鎮痛効果を高めることができることを発見した。更に、術における少量のケタミンの使用は、レフェンタニル誘導による術後痛覚過敏を防止できることが実証された研究もある。Caglaらは、膝関節鏡手術を受けた患者に対して術後にケタミン0.15mg/kgを静注することにより、ケタミンは、術後鎮痛の満足度を著しく高め、且つケタミン複合ミダゾラム群より鎮静スコアが低いことを発見した。
【0007】
ケタミンは、肺の保護作用を有する。近年、ケタミンは、顕著な肺の保護作用を有することが発見された。臨床実験により、胸部科手術における片肺の通気前の経静脈投与と噴霧化吸入は、血中炎症因子のレベルを低下させることができるが、噴霧化吸入は、心血管系と気道圧に対して更に有利であり、肺通気側の噴霧化効果は、二重肺での噴霧化効果より優れていることが実証された。臨床において、ケタミンは、通常治療が無効な致死性喘息発作の応急処置によく使われ、その使用は予後を改善することも公認されている。
【0008】
ケタミンは、抗うつの作用を有する。Bermanらは、2000年に亜麻酔用量のケタミン(0.5mg/kg)を単回静脈内注射した後、72h以内に50%を超える患者のハミルトンうつ病評価尺度の評点が50%以上低下したことを初めて報告した。近年、多くの動物と臨床研究は、ケタミンの抗うつ効果を更に実証した。ケタミンは、うつ病患者の電気ショック治療の麻酔にも使われる。
【0009】
出願番号がCN201280062294Xであり、発明の名称が、「うつ病及び神経障害性疼痛の治療における(2R,6R)-ヒドロキシノルケタミン、(S)-デヒドロノルケタミン及び他の(R,S)-ケタミンの立体異性デヒドロ及びヒドロキシル化代謝生成物の使用」である特許出願では、CNS(中枢神経系)副作用はNMDA受容体に対する(R,S)-ケタミンの活性と関係していることを開示し、当該出願では、ケタミンをベースとして、(2R,6R;2S,6S)-ヒドロキシノルケタミン(HNK)を研究し合成し、当該化合物はNMDA受容体に対して非活性であり、従ってこれらの副作用を回避し、同時に、当該化合物は、双極性うつ病、重度うつ病、アルツハイマー認知症、筋萎縮性側索硬化症、複合局所疼痛症候群(CRPS)、慢性疼痛、又は神経障害性疼痛を治療する作用があると報告されている。
【0010】
我々は、本実験研究で、(2R,6R;2S,6S)-ヒドロキシノルケタミン(HNK)は投与後、薬効持続時間が長くなく、1週間で活性が実質的になくなり、うつ病の治療に所期の長期的な効果を著しく制限していることを発見した。同時に、本研究では、HNKを応用する際に、ある程度の嗜癖性が生じ、患者の心身に悪影響を及ぼすことを発見した。よって、より長い薬効とより低い嗜癖性の薬物を得るように、いかに(2R,6R;2S,6S)-ヒドロキシノルケタミン(HNK)に構造修飾するかというのは、大きな治療潜在力を持つことである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、抗うつ、不安及び外傷後ストレス症候群の改善、麻酔、鎮痛、認知機能の改善、肺の保護、筋萎縮性側索硬化症の予防又は治療、又は複合局所疼痛症候群の予防又は治療という作用を有する化合物に関する。
【0012】
既存の公知のHNK類化合物と比較して、本願の化合物はより長い薬効期間を有し、具体的には、HNKは一週間内で代謝され、非活性であり、本願の化合物の薬効期間は、1週以上持続でき、具体的には、7日以上、10日以上、14日以上など持続できる。更に、本願の化合物は、嗜癖性を実質的に生じなく、その嗜癖性は、HNK類化合物より2倍、5倍、10倍、又は20倍低い。
【0013】
本願は、化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体を提供し、前記化合物は、式Iに示す構造を有する。
【化1】
式中、
mは、0~3の整数であり、nは、0~4の整数であり;
R
1及びR
2は、それぞれ独立に、H、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、置換若しくは無置換のC
1-C
6アルキル基、置換若しくは無置換のC
2-C
6アルケニル基、置換若しくは無置換のC
2-C
6アルキニル基、置換若しくは無置換のC
3-C
10シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2-C
10複素環基、置換若しくは無置換のC
1-C
6アルコキシ基、置換若しくは無置換のモノ-及びジ-C
1-C
6アルキルアミノ基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基から選択される1つ又は複数であり;
R
3は、ハロゲンであり;
R
4は、H、置換若しくは無置換のC
1-C
6アルキル基、置換若しくは無置換のC
1-C
8アシル基、置換若しくは無置換のアリールアシル基又は置換若しくは無置換のヘテロアリールアシル基から選択され;
R
5は、置換若しくは無置換のC
3-C
10シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2-C
10複素環基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基から選択され;
R
6及びR
7は、それぞれ独立に、H、置換若しくは無置換のC
1-C
6アルキル基、置換若しくは無置換のC
2-C
6アルケニル基、置換若しくは無置換のC
2-C
6アルキニル基、置換若しくは無置換のC
3-C
10シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2-C
10複素環基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、置換若しくは無置換のC
1-C
8アシル基、置換若しくは無置換のアリールアシル基又は置換若しくは無置換のヘテロアリールアシル基から選択され;
又はR
6及びR
7は、それらと結合するN原子とともに、置換若しくは無置換の3-10員単環式又は二環式構造を形成し;
前記置換は、OH;NH
2;C
1-C
10アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基;C
1-C
10アルキルアミン基;メルカプト基;C
1-C
10アルキルメルカプト基;C
1-C
20アルコキシ基;C
1-C
10カルボニル基;C
3-C
10シクロアルキル基;N、S、O、Pから選ばれる1つ以上のヘテロ原子を有する3-10員複素環基;C
6-C
20アリール基;C
2-C
20ヘテロアリール基;ニトロシアノ基;又はハロゲンによって置換されることを指す。
【0014】
好ましくは、式IIに示す構造であることを特徴とする、上記の化合物である。
【化2】
【0015】
好ましくは、式IIIに示す構造であることを特徴とする、上記の化合物である。
【化3】
【0016】
好ましくは、式IVに示す構造であることを特徴とする、上記の化合物である。
【化4】
【0017】
好ましくは、以下に示す化合物であることを特徴とする、上記の化合物である。
【化5】
【0018】
好ましくは、以下に示す化合物であることを特徴とする、上記の化合物である。
【化6】
【0019】
本願は更に、構造式が下記の通りである、化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体を提供する。
【化7】
ここで、R
8は、H又は保護基である。
【0020】
好ましくは、下記のような構造であることを特徴とする、上記の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体である。
【化8】
【0021】
好ましくは、下記のような構造であることを特徴とする、上記の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体である。
【化9】
又は
【化10】
【0022】
本願は更に、上記の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体を含み、任意選択的には、薬学的に許容可能な担体を更に含むことを特徴とする医薬組成物を提供する。
【0023】
本願は、下記のとおりであることを特徴する、化合物の調製方法を更に提供する。
【化11】
【0024】
麻酔、鎮痛、認知機能の改善、肺の保護、抗うつ、不安及び外傷後ストレス症候群、筋萎縮性側索硬化症、複合局所疼痛症候群の改善のための医薬の調製における上記の任意の1つの化合物の適用。
【0025】
ここで、前記疼痛は、慢性疼痛又は神経障害性疼痛を含み、前記うつ病は、双極性うつ病、重度うつ病を含み、不安及び外傷後ストレス症候群の改善、認知機能の改善は、アルツハイマー認知症、パーキンソン病などの予防又は治療を含む。
【0026】
上記のすべての疾患は、予防又は治療の作用も含む。
【0027】
上記のすべての化合物の立体異性体は、エナンチオマーと、ジアステレオマーとを含む。
【0028】
上記のすべての化合物は、化合物が異なる互変異性の形で存在する場合、本願は、具体的な互変異性体のいずれか1つに限定されなく、すべての互変異性体の形を含む。
【0029】
上記のすべての化合物は、化合物に存在する原子のすべての可能性のある同位体を有する化合物を含む。同位体は、同じ原子番号を有するが、異なる質量数を有する原子を含む。通常の例では、限定がない場合、水素の同位体は、トリチウム及びジュウテリウムを含み、炭素の同位体は、11C、13C及び14Cを含む。
【0030】
本願は更に、医薬組成物を提供し、本明細書に開示された化合物は、純粋な化学物質として投与されることができるが、好ましくは、医薬組成物として投与されることができる。よって、本発明は、少なくとも1つの医薬用担体と共に化合物又は医薬用塩を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、唯一の活性剤として化合物又は塩を含み得るが、好ましくは、少なくとも1つの他の活性剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、単位剤型に、約0.1mg~約1000mg、約1mg~約500mg、又は約10mg~約200mgの式Iの化合物と、選択可能な約0.1mg~約2000mg、約10mg~約1000mg、約100mg~約800mg、又は約200mg~約600mgの他の活性剤とを含む経口剤型である。
【0031】
本明細書で開示された化合物は、通常の医薬用担体を含む用量単位製剤で経口、局所、腸管外、吸入又は噴霧、舌下、経皮、口腔による投与、直腸投与、眼用溶液として、又は他の方式で投与することができる。医薬組成物を、エアゾール剤、クリーム剤、ゲル剤、ピル、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、経皮パッチ剤、又は点眼液などの任意の医薬用形態に調製することができる。錠剤やカプセル剤などのいくつかの剤型は、更に、所望の目的を達成するのに有効な量などの適切な量の活性成分を含む適切な用量の単位剤型に細分割されることができる。
【0032】
担体は、賦形剤及び希釈剤を含み、治療対象となる患者への投与に適合するように、十分に高い純度と、非常に低い毒性を有する必要がある。担体は、不活性であってもよく、又はそれ自体が医薬用の利点を有してもよい。
【0033】
担体の種類は、接着剤、緩衝剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、調味剤、助流剤、潤滑剤、保存剤、安定化剤、界面活性剤、錠剤化剤、及び湿潤剤を含むが、これらに限定されない。植物油が、いくつかの製剤で潤滑剤として使用され、他の製剤では希釈剤として使用されることができるように、いくつの担体は複数のカテゴリにリストされていてもよい。例示的な医薬用担体は、糖、デンプン、セルロース、トラガカント粉末(powdered tragacanth)、麦芽、ゼラチン、タルク及び植物油を含む。選択可能な活性剤は、本願の化合物の活性に影響をほとんど及ぼずに、医薬組成物に含まれることができる。
【0034】
本願の化合物又は塩は、投与される唯一の活性剤であってもよく、又は他の活性剤と共に投与されてもよい。例えば、本願の化合物は、以下のうちの任意の1つから選択される別の活性剤と共に投与されることができる。
【0035】
抗うつ剤:シュウ酸エスシタロプラム、フェロキシチン、パロキセチン、デュロキセチン、セルトラリン、シタロプラム、ブプロピオン、ベンラファキシン、デュロキセチン、ナルトレキソン、ミルタザピン、ベンラファキシン、アトモキセチン、ブプロピオン、ドキセピン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ノルトリプチリン、ブスピロン、アリピプラゾール、クロザピン、ロキサピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドン、カルバマゼピン、ガバペンチン、ラモトリジン、フェニトイン、プレガバリン、ドネペジル、ガランタミン、メマンチン、リバスチグミン、トラミプロセート(tramiprosate)、又はこれらの医薬活性塩又はプロドラッグ、又は上記の組み合わせ;
精神分裂病薬:アリピプラゾール、ルラシドン、アセナピン、クロザピン、ジプラシドン、リスペリドン、クエチアピン、トリフルオペラジン、オランザピン、ロクサピン、フルペンチキソール(flupentioxol)、パーフェナジン、ハロペリドール、クロルプロマジン、フルフェナジン、プロリクシン、パリペリドン;
アルツハイマー認知症薬:ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン;
ALS薬:リルゾール;
疼痛薬:アセトアミノフェン、アスピリン、NSAIDS(ジクロフェナク、ジフルオロベンゼンサリチル酸、エトドラク、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ケトロラク、メクロフェナム酸、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、ナプロキセン、オキサプロジン、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、Tolmetinopiods、セレコキシブなどのCox-2阻害剤を含む)、麻酔疼痛薬物(例えば、ブプレノルフィン、ブトルファノール、コデイン、ヒドロコドン、ヒドロモルフォン、レボルファノール、ペチジン、メタドン、モルヒネ、ナルブフィン、オキシコドン、オキシモルフォン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、中枢性鎮痛のトラマドール)。
【0036】
他の活性剤の上記のリストは、包括的ではなく、例示的である。以上のリストに含まれない他の活性剤は、式Iの化合物と組み合わせて投与されることができる。いくつかの実施形態では、他の活性剤は、一般に規定された用量未満で、場合によっては、最小承認用量未満で投与されるが、その承認された規定情報に従って他の活性剤を投与することができる。
【0037】
本願は、うつ病の治療方法、特に、双極性うつ病や重度うつ病の治療方法、特には、治療抵抗性うつ病(treatment-resistant depression)の治療方法を含み、ここで、化合物の有効量は、うつ病症状を軽減するのに有効な用量であり、ここで、うつ病症状の軽減とは、うつ病症状尺度で確認された50%又はそれ以上の症状の軽減、又はHRSD17で7以下、又はQID-SR16で5以下、又はMADRSで10以下に達することである。
【0038】
本願は、疼痛(又は鎮痛)症状を軽減するのに有効な量を提供し、ここで、疼痛症状の軽減とは、疼痛尺度で疼痛症状の50%又はそれ以上の軽減を達することである。
用語集:
【0039】
「立体異性体」は、同じ化学組成を有するが、空間における原子又は基の配置が異なる化合物である。
【0040】
「ジアステレオマー」は、2つ以上のキラル中心を有し、且つその分子は、互いの鏡像ではない立体異性体である。ジアステレオマーは、融点、沸点、スペクトル特性及び反応活性などの異なる物性を有する。分割剤又はクロマトグラフィーが存在する場合、キラルHPLCカラムなどを使用して、電気泳動、結晶化などの高分解能分析工程でジアステレオマーの混合物を分離できる。
【0041】
「エナンチオマー」は、互いに重ね合わす鏡像のない化合物の2つの立体異性体を指す。エナンチオマーの50:50の混合は、ラセミ混合物又はラセミ体と呼ばれ、これは、化学反応又は処理プロセス中に、立体選択性又は立体配向性がなくなった場合に発生する可能性がある。
【0042】
「アルキル基」は、分枝鎖と直鎖の飽和脂肪族炭化水素基の両方を含み、特定の数の炭素原子数、一般に1~約12個の炭素原子を有する。例えば、本明細書で使用されるC1-C6アルキル基という用語は、1~約6個の炭素原子を有するアルキル基を意味する。本明細書で、C0-Cnアルキル基が別の基と結合して使用される場合、(フェニル基)C0-C4アルキル基を例にとると、指定された基は、この場合、フェニル基は、単共有結合(C0)によって直接結合され、又は特定の炭素原子数(この場合、1~約4個の炭素原子)を有するアルキル鎖によって結合される。アルキル基の例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、3-メチルブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びsec-ペンチル基を含むが、これらに限定されない。
【0043】
「アルケニル基」は、1つ又は複数の不飽和炭素-炭素結合を含む直鎖及び分岐炭化水素鎖を指し、炭素-炭素結合は、鎖に沿った任意の安定点で生じ得る。本明細書に記載のアルケニル基は、通常2~約12個の炭素原子を有する。好ましくは、アルケニル基は、低級アルケニル基であり、C2-C8、C2-C6、及びC2-C4アルケニル基などのアルケニル基は、2~約8個の炭素原子を有する。アルケニル基の例は、ビニル基、プロペニル基、及びブテニル基を含む。
【0044】
「アルコキシ基」は、酸素架橋を介して結合された特定の数の炭素原子を有する、上記で定義されたアルキル基を意味する。アルコキシ基の例は、メトキシ基、エトキシ基、3-ヘキシルオキシ基、及び3-メチルペンチルオキシ基を含むが、これらに限定されない。
【0045】
ハロゲンは、当技術分野では周知のものであり、F、Cl、Br、Iが好ましい。
【0046】
「複素環」という用語は、5~8員の飽和環、部分不飽和環、又はN、O及びSから選択された1~約4個のヘテロ原子を含みかつ残りの環原子が炭素である芳香族環、又は7~11員の飽和環、部分不飽和環、又は芳香族複素環系及び10~15員の三環系を意味し、当該系は、N、O及びSから選択された多環系のうちの少なくとも1つのヘテロ原子を含み、多環系における各環は、独立に、N、O及びSから選択された最大約4個のヘテロ原子を含む。特に明記しない限り、複素環は、任意のヘテロ原子及び炭素原子で置換され、安定した構造を有する基に結合することができる。明記した場合、本明細書に記載の複素環は、得られた化合物が安定的なものである限り、炭素又は窒素原子で置換されてもよい。選択的に、複素環中の窒素原子を4級化することができる。好ましくは、複素環基中のヘテロ原子の総数は4以下であり、好ましくは、複素環基中のS及びO原子の総数は2以下であり、より好ましくは1以下である。複素環基の例は、ピリジル基、インドリル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基(pyridizinyl)、ピラジニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イソキサゾリル基、キノリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ベンゾ[b]チオフェニル基(benz[b]thiophenyl)、イソキノリル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、チエニル基、イソインドリル基、ジヒドロイソインドリル基、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン基、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、チエニル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ピロリジニル基、モルホリニル基、ピペラジニル基、ピペリジニル基、及びピロリジニル基を含む。
【0047】
「アリール基又はヘテロアリール基」は、N、O及びSから選択された1~4個、又は好ましくは1~3個のヘテロ原子を含み、且つ残りの環原子は炭素である安定した5員又は6員単環式又は多環式を意味する。ヘテロアリール基中のS及びO原子の総数が1を超える場合、これらのヘテロ原子は互いに隣接しない。好ましくは、ヘテロアリール基中のS及びO原子の総数は2以下である。特に好ましくは、ヘテロアリール基中のS及びO原子の総数は1以下である。選択的に、複素環中の窒素原子を4級化することができる。明記した場合、これらのヘテロアリール基は、炭素原子又は非炭素原子又は基で置換されることもできる。このような置換は、例えば、[1,3]ジオキサゾル[4,5-c]ピリジル基を形成するように、独立にN、O及びSから選択された1又は2個のヘテロ原子を選択可能に含む5~7員の飽和環基との縮合を含み得る。ヘテロアリール基の例は、ピリジル基、インドリル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラジニル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、フリル基、チオフェニル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イソキサゾリル基、キノリル基、ピロリル基、ピラゾリル基、ベンゾ[b]チオフェニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、キノキサリニル基、チエニル基、イソインドリル基、及び5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン基を含むが、これらに限定されない。アリール基は、フェニル基、ナフチル基などが好ましい。
【0048】
「うつ病」は、気分の落ち込み、行動への興味の低下、心理活動の緩み又は苛立ち、食欲の変化、集中力の欠如又は優柔不断、過度の罪悪感又は劣等感を含み、うつ病、双極性うつ病、及び他の疾患又は病状による情緒異常、物による情緒異常及び他の原因不明の情緒異常がある場合には、自殺念が発生する可能性があり、様々な他の精神的疾患(精神異常、認知障害、摂食障害、不安障害及び人格障害を含むが、これらに限定されない)と共存することができる。疾患の進行過程(longitudinal course)、病歴、症状類型及び病因は、感情性疾患の様々な形を互いに区別するのに役立つ。
【0049】
「化合物の塩」は、親化合物がその非毒性の酸又は塩基付加塩の調製によって修飾されている、開示された化合物の誘導体であり、これらの化合物及びこれらの塩の、水和物を含む医薬用溶媒化合物も指す。医薬用塩の例は、アミンなどの塩基性残基の無機酸付加塩又は有機酸付加塩、カルボン酸などの酸性残基の塩基付加塩又は有機付加塩などを含み、及び1つ又は複数の上記の塩の組み合わせを含むが、これらに限定されない。医薬用塩は、非毒性の無機又は有機酸などから形成される親化合物の非毒性塩及び4級アンモニウム塩を含む。例えば、非毒性の酸性塩は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導されるものを含み、他の許容可能な無機塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩などの金属塩と、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩とを含み、1つ又は複数の上記の塩の組み合わせを含む。
【0050】
化合物の有機塩は、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、2-アセトキシ安息香酸、フマル酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、シュウ酸、イセチオン酸、HOOC-(CH2)n-COOH(ここで、nは0~4である)などの有機酸によって調製された塩;トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩などの有機アミン塩;アルギニン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩などのシアノ基酸塩と、1つ又は複数の上記の塩の組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】異なる用量の薬物の7日以内の抗うつ作用である。
【
図6】I5はマウスに対して場所嗜好作用を有しない。
【発明を実施するための形態】
【0052】
実施例1:(2R,6R)-6-ヒドロキシノルケタミン(HNK)の合成
【化12】
【0053】
ステップ1:2口フラスコ又は3口フラスコに、マグネシウム粉末50gを加え、開始後、ブロモシクロペンタン119.2gとTHFの混合溶液をゆっくりと滴下し、滴下を完了した後、2~4h還流して、1.6mol/Lのシクロペンチルグリニャール試薬を得た。THFとo-クロロベンゾニトリル(50.0g)の混合液に840mgのCuBrを加え、氷浴条件下で、シクロペンチルグリニャール試薬(1.6mol/L,280ml)を滴下した。滴下を完了した後、1h還流し、室温まで冷却し、水100mlを加えた後、200mlの15%希硫酸溶液を加え、一晩攪拌し、THFをスピンドライし、EAで抽出し、乾燥し、シリカゲルカラムに通して、60gの化合物Aである2-クロロフェニルシクロペンチルメタノンを得、収率は80%であった。
【0054】
ステップ2:報告された方法(Bioorganic&Medicinal Chemistry 2013,12,5098)に従って、20g(96mmol)の化合物Aを400mlのEAに溶解し、溶解後、臭化銅(54g,242mmol)を加え、3時間の加熱還流した後、室温まで冷却し、珪藻土で固体の不溶物を濾過し、ジクロロメタンを加えて濾過残渣を洗浄した後、濾液を合わせて濃縮して、黄色油状物の化合物Bである2-クロロフェニル(1-ブロモシクロペンチル)メタノンを得た。シリカゲルカラムに通して22gの純粋な化合物Bを得、収率は80%であった。
【0055】
ステップ3:200mlアンモニア水に飽和するまでアンモニアガスを通し、化合物B(10g)を加え、24h攪拌して、化合物Cが沈殿され、濾過、乾燥して、茶色の固体化合物C(7g)を得て、直接に次のステップに進み、収率は70%であった。
【0056】
ステップ4:化合物C(5g)を、乾燥したTHFに溶解し、溶液のpHが1になるまでHClガスを通し、溶液をスピンドライして、固体塩酸塩を得た。固体塩酸塩を一口フラスコに入れ、窒素保護下で、190℃の油浴に約20min放置し、室温まで冷却し、炭酸水素ナトリウム飽和溶液を加えて中和し、DCMで抽出した後、濃縮、結晶化して2.9gの化合物DであるノルケタミンHNKラセミ体を得、収率は75%であった。1H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.67(dd,J=7.8,1.5Hz,1H),7.37-7.32(m,2H),7.25(m,1H),2.78-2.71(m,1H),2.61(m,1H),2.51-2.43(m,1H),2.08-2.0(m,1H),1.88-1.63(m,4H)。
【0057】
ステップ5:化合物D(1.11g,5mmol)を2mlメタノールに溶解し、L-酒石酸(2.5mmol)を加えて、1h攪拌し、10mlアセトンに滴下し、静置して結晶化させ、濾過してL-酒石酸塩の結晶を得た。L-酒石酸塩結晶を得た後、続いて3回再結晶化した後、結晶を炭酸水素ナトリウム溶液に加えて中和し、EAで抽出して、165mgの光学的純粋な化合物Eである(R)-ノルケタミンを得、キラルHPLC検出による光学純度は98.3%ee%であり、収率は15%であった。
【0058】
キラルHPLC検出のステップ:1mgの化合物Eと1mgの対照のラセミ体化合物Dを1mlエタノールに溶解し、Agilent1260-A高速液体クロマトグラフィーにかけて順相均質分析を行った。クロマトグラフィーカラム:Chiralcel-AD-H(4.6mm×250mm)、移動相A:(n-ヘキサン+0.1%ジエチルアミン)、移動相B:(エタノール+0.1%ジエチルアミン)、A:B=40:60、流速:1mL/min。化合物E:R体の異性体の保持時間は6.8minであり、対応するS体の異性体の保持時間は5.3minであった。
【0059】
ステップ6:化合物E(2.23g,10mmol)を60mlのTHFに加え、トリエチルアミン(2.7mL,20mmol)とBoc2O(3.3g,15mmol)を加え、6h還流して冷却させ、スピンドライし、シリカゲルカラムに通して、2.92gの化合物Fを得、収率は90%であった。1H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.81(d,J=8.1Hz,1H),7.40-7.28(m,2H),7.24-7.12(m,1H),6.57(s,1H),3.82(d,J=14.4Hz,1H),2.45-2.36(m,1H),2.28(m,1H),2.04(m,1H),1.89-1.56(m,4H),1.27(s,9H).13C NMR(100MHz,CDCl3):δ207.9,152.3,134.5,132.6,130.3,130.0,128.3,125.2,78.0,66.1,38.5,37.4,29.7,27.2,20.9。
【0060】
ステップ7:化合物F(2.91g,9mmol)を60mlの乾燥THFに加え、アルゴン保護下で、-78℃まで冷却し、5mlのHMPAを加えた後、2MのLDAのTHF溶液(12ml,24mmol)をゆっくりと滴下し、30~40min攪拌し、その後、-30℃までゆっくりと昇温して1h攪拌し、その後、再び-78℃まで冷却し、トリメチルクロロシランTMSCl(2.6g,24mmol)を加え、-50℃までゆっくりと昇温し、3h攪拌し、飽和塩化アンモニウム溶液を加え、室温に戻し、溶媒THFを濃縮し、EAを加えて抽出し、有機相に無水Na2SO4を加えて乾燥させ、溶媒をスピンドライし、真空乾燥させ、得られた油状物に100mlの無水DCMを加えて溶解させ、-15℃まで冷却し、アルゴン保護下で、mCPBA(2.5g,11mmol)を加え、1h攪拌した後室温まで昇温し、50mlのDCMを加えてさらに1h攪拌し、次いで、飽和チオ硫酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウム溶液(1:1)を注ぎ、DCMで抽出し、溶媒をスピンドライして真空乾燥させ、得られた油状物に100mlのTHFをさらに加えて溶解させ、その後-5℃まで冷却し、フッ化テトラブチルアンモニウム(3g,11.4mmol)を加えて、30min攪拌し、NaHCO3飽和溶液を加えて、EAで抽出し、溶媒をスピンドライして真空乾燥させ、シリカゲルカラムに通して、1.92gの化合物Gを得、収率は65%であった。1H NMR(400MHz,CDCl3):δ7.81(d,J=7.8Hz,1H),7.34(m,2H),7.24(m,1H),6.60(s,1H),4.12(dd,J=11.7,6.8Hz,1H),3.87(d,J=14.4Hz,1H),3.38(m,1H),2.36(m,1H),1.74(m,2H),1.68-1.57(m,1H),1.55-1.40(m,1H),1.30(s,9H).13C NMR(100MHz,CDCl3):209.8,153.2,134.1,133.6,131.3,130.8,129.5,126.2,79.3,72.2,66.5,40.3,38.7,28.1,19.4。
【0061】
ステップ8:化合物G(680mg)を5mLの乾燥THFに溶解し、室温下で、飽和するまでHClガスを通して4h攪拌し、20mLの乾燥エーテルを加え、結晶を析出させ、濾過して520mgの化合物Hである(2R,6R)-6-ヒドロキシノルケタミン(HNK)の塩酸塩を得、収率は95%であった。1H NMR(400MHz,CD3OD):δ7.85(m,1H),7.65-7.51(m,3H),4.28(m,1H),3.19(m,1H),2.30(m,1H),1.81-1.72(m,2H),1.64-1.51(m,2H)。
実施例2:化合物I5の合成
【0062】
化合物G(170mg,0.5mmol)を3mLの乾燥THFに溶解し、乾燥トリエチルアミン(0.28mL,2mmol)を加えた後、氷浴条件下で塩化トリエチルアミン(117μL,1mmol)を加え、その後、1時間内で室温までゆっくりと昇温し、一晩攪拌し、その後、炭酸水素ナトリウム溶液を加え、EAで抽出し、溶媒をスピンドライさせ、真空乾燥させ、シリカゲルカラムに通して、184mgの化合物H4N-Boc-(2R,6R)-6-ベンゾイルオキシノルケタミンを得、収率は85%である。1H NMR(400MHz,CDCl3):δ8.22-8.19(m、2H),7.91(m,1H),7.69-7.64(m,1H),7.56-7.45(m,4H),6.75(br,1H),5.54-5.50(m,1H),4.00(m,1H),2.54-2.52(m,1H),2.14-1.93(m,3H),1.86(m,1H),1.41(m,9H).13C NMR(100MHz,CDCl3):δ202.2,164.9,153.3,133.2,131.4,131.1,129.9,129.7,129.5,128.3,128.0,126.1,79.2,73.8,67.2,36.6,34.8,28.2,19.0。
【0063】
化合物H4(180mg)を3mLの乾燥THFに溶解し、室温下で飽和するまでHClガスを通し、4h攪拌し、15~20mLの乾燥エーテルを加えて、結晶を析出させ、真空濾過して128mgの化合物I4である(2R,6R)-6-ベンゾイルオキシノルケタミン塩酸塩を得、収率は83%である。1H NMR(400MHz,CD3OD):δ9.25-9.20(brs,3H),8.21-8.19(m,2H),7.90(m,1H),7.66-7.52(m,6H),5.57(m,1H),3.66(m,1H),2.58-2.43(m,2H),2.08-1.97(m,3H)13C NMR(100MHz,CD3OD):δ200.1,164.8,134.6,133.4,131.9,131.0,129.9,129.2,129.1,128.4,127.9,73.9,68.1,36.6,34.9,19.0。
【0064】
【化13】
化合物H(339mg,1mmol)を8mLの乾燥THFに溶解し、乾燥トリエチルアミン(0.56mL,4mmol)を加えた後、p-ジメチルアミノベンゾイルクロライド(275mg,1.5mmol)を加え、一晩還流し、溶媒をスピンドライし、その後、炭酸水素ナトリウム溶液を加え、EAで抽出し液体分離し、有機相の溶媒をスピンドライさせ、真空乾燥し、シリカゲルカラムに通して292mgの化合物H
5であるN-Boc-(2R,6R)-6-p-ジメチルアミノベンゾイルオキシノルケタミンを得、収率は60%であり、化合物H
5(292mg)を6mLの乾燥THFに溶解し、室温下で飽和するまでHClガスを通し、4h攪拌し、15~20mLの乾燥エーテルを加えて、結晶を析出させ、真空濾過して148mgの化合物I
5である(2R,6R)-6-p-ジメチルアミノベンゾイルオキシノルケタミンビス塩酸塩を得、収率は54%である。化合物I
5
1H NMR(400MHz,CD
3OD):δ8.00(br,2H),7.79(m,1H),7.44-7.15(m,5H),5.45(m,1H),3.59-3.56(m,6H),3.01-2.92(m,6H),2.38-2.35(m,1H),2.19-2.16(m,1H)1.96-1.93(m,3H).
13C NMR(100MHz,CD
3OD):δ200.8,164.5,150.6,134.4,132.4,132.1,131.0,129.4,128.5,115.8,74.1,67.8,43.7,37.0,35.3,19.2。
【0065】
実施例3:化合物CとDの合成
【化14】
以下の調製方法により、化合物CとDを調製し得る。
【化15】
【0066】
実施例4:活性テスト
1.強制水泳実験
強制水泳試験(FST)の1時間前に、マウスを実験室に移した。当該テストは、通常の照明条件下で行われ、デジタルカメラで監視される。テストプロセスにおいて、マウスをそれぞれ20cmの水(23±1℃)で満たされた透明なガラスシリンダー(高さ28.5cm、直径14cm)に入れた。1日目に、マウスを6分間訓練した後、シリンダーから取り出した。2日目に、マウスにsaline、HNK、I5、C、Dを投与し、異なる時間間隔の後、不動の時間をテストした。6分間の水泳テスト全体の最後の4分間内で、NoldusシステムのEthoVision XT(Noldus,オランダ)によって静止時間を記録し、当該時間を受動浮遊として定義し、動物の頭部を水面上に保つために必要な動作以外に、他の動きはない。2~3回の試験ごとに、瓶内の水を交換した。水泳テストの後、マウスを水から取り出し、赤外線ランプの下で乾燥させた。
【0067】
マウスにそれぞれ1mg(A)、10mg(B)と30mg(C)のHNK、I5を胃内投与により投与し、1時間と7日後、その不動の時間を測定する。不動の時間のパーセンテージを平均値±SEMとして表す。*p<0.05、**p<0.01、基礎テストとの比較。グループあたりN=8。saline、塩水群;I5、I5処理群;HNK:2R,6R-ヒドロキシノルケトンアミン処理群。
【0068】
2.嗜癖性研究
材料と方法
動物:8~12週齢のC57BL/6J雄マウスをランダムにグループに分け、各グループに体重が18~22gである10匹のマウスを、室温(22±1℃)で飼い、湿度(50±10)%であり、照明時間8:00~20:00であり、マウスを餌と水を自由に摂取させ、実験前に少なくとも2~3d間実験環境を順応させた。すべての実験は、8:00~16:00で行われた。
行動感作実験:
【0069】
1.1 小動物自発活動測定:動物自発活動赤外分析システムは、自発活動箱、赤外プローブ装置及びデータ収集システムによって構成される。自発活動箱のサイズは、40cm×40cm×65cmであり、遮光・遮音を行い、通気手段を有する。赤外線プローブで動物の活動状況を記録し、動物の自発活動回数を計算する。マウスの自発活動に対する薬物の影響を測定するために、マウスを、各10匹ずつの4群に無作為に分ける。グループ:vehicle、I5、C、D(5.0,10.0,30.0mg/kg)、mor(10mg/kg)。毎日の午前にそれぞれ1回、7日間連続して胃内投与し、その後、7日間休薬(無処理)する。15日目に、各グループのマウスにVeh、薬物(5.0、10.0、30.0mg/kg)を胃内投与して刺激を与えた。1日目、7日目、15日目の投与直後、1時間内でマウスの自発的活動を測定した。
【0070】
1.2 CPP実験:3室CPPシステムは、中央のボックス(10cm×25cm×30cm)によって離間された、左右の黒と白のボックス(25cm×25cm×30cm)を含み、実験中、中央のボックスからマウスを入れ、黒、白の2つのボックスに自由にシャトルできる。黒と白の2つのボックスと、中央のボックスとの間にそれぞれ1つのシャトルドアが設けれら、サイズは、5cm×5cmである。実験ではバイアスプログラムを採用しており、事前テスト、訓練、テストの3つの段階に分けられ、実験プロセス全体で、ボックス内の光、色調、匂いなどの環境条件を一致させる。
【0071】
事前テスト:1~3日目、ボックス内の仕切りを開け、すべてのマウスに生理食塩水を皮下注射した後、中央のボックスに入れ、ボックスの中で15min間自由に活動させ、1日1回で、3日間連続する。マウスが黒と白のボックスにおける滞留時間をそれぞれ記録し、マウスの自然嗜好の傾向を決定し、非自然嗜好箱を随伴薬物箱としてマウスを訓練する。
【0072】
訓練期間:4~9日目、シャトルドアを閉じて、マウスをランダムに10匹ずつグループに分け、Veh、mor、I5、C、D(5.0,10.0,30.0mg/kg)、mor(10mg/kg)を含む。奇数日の午前に、すべてのマウスに生理食塩水を先に胃内投与した直後、非随伴薬物箱(黒ボックス)に45分間入れ、奇数日の午後には、Veh、mor、I5、C、D(5.0,10.0,30.0mg/kg)をそれぞれ胃内投与し、その直後、随伴薬物箱(白ボックス)に45分間入れる。偶数日の訓練順序はその逆である。午前と午後の訓練間隔は6時間以上であり、毎日の訓練時間は固定しており、各グループ10匹を6日間連続に訓練する。
【0073】
テスト期間:10日目で仕切りを取り外し、マウスを中央のボックスに入れ、自由に動かし、その同時に、15分内にマウスの白ボックスにおける滞留時間を記録する。
【0074】
統計学的分析:実験データをX±SEMで表す。graphpadソフトウェアを採用して統計分析を行い、2グループ間の比較は、t検定を採用し、複数のグループ間の比較は、one-way ANOVA分析を採用し、その後、LSD法でペアワイズ比較を行う。
【0075】
3.場所嗜好性実験
場所嗜好性は、3室システムによってテストされ、非自然嗜好箱を随伴薬物箱としてマウスを訓練し、訓練期のマウスに生理食塩水(Veh)、モルヒネ(mor,10mg/kg)、I5、CとD(5.0,10.0,30.0mg/kg)をそれぞれ投与し、6日間連続して訓練した後テストして、15分間内にマウスの白ボックスにおける滞留時間を記録する。
【0076】
Vehグループと比較すると、*P<0.05(n=10)である。
【0077】
実施例5:実験結果
1.マウスのうつ病様行動のテスト結果:
1mgのHNK、I5はいずれも抗うつ作用がなく、10mgのHNK、I5は両方とも抗うつ作用があり、I5は長期的な作用を有し、薬効は、基本的に7日以内に減衰しないが、HNKは、7日以内に薬効が急速に減衰し、7日目には薬効が実質的にない。30mgのHNK、I5は両方とも抗うつ作用があり、I5は長期的な作用を有し、薬効は、実質的に7日以内に減衰しないが、HNKは、7日以内に薬効が急速に減衰し、7日目には薬効が実質的にない。
【0078】
化合物CとDは、30mgである場合に抗うつ効果がない。
【0079】
HNK処理群と比べて、I5処理群は、投与7日後も顕著な抗うつ効果があり、動物が強制水泳中に不動の時間が減少したことにより明らかになる。I5グループの不動の時間はより短い。10mgと30mgの処理群間には、顕著な違いはなく、30mgグループは、より強い減少傾向を示す。化合物C、Dはいずれも抗うつ効果がない。
【0080】
2.嗜癖性実験
異なる用量(5mg,10mg,30mg)のI5は、マウスに対して行動感作がない。
【0081】
異なる用量(5mg,10mg,30mg)のCとDは、マウスに対して行動感作がある。
【0082】
3.場所嗜好性実験
異なる用量(5mg,10mg,30mg)のI5は、マウスに対して場所嗜好性作用がない。
【0083】
異なる用量(5mg,10mg,30mg)のCとDは、マウスの場所嗜好性を誘導する。
【0084】
上記の実施例における様々な技術特徴は、任意に組み合わせることができ、説明の簡潔にために、前述した実施例における各技術的特徴のすべての可能な組み合わせを説明していないが、技術的特徴の間の組み合わせに矛盾がない限り、全て本明細書に記載の範囲と見なすべきである。
【0085】
上記の実施例は、本願のいくつかの実施形態のみを表し、その説明は、具体的で詳細であるが、本願の特許の範囲に対する制限として理解されるべきではない。なお、当業者にとって、本願の要旨から逸脱することなく、いくつかの変形及び改善を加えることもでき、これらは全て本願の保護範囲に含まれると見なされるべきである。したがって、本願の保護範囲は、添付の特許請求の範囲を基準とするべきである。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
式Iで表される構造を有する化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化16】
(式中、
mは、0~3の整数であり、nは、0~4の整数であり;
R
1
及びR
2
は、それぞれ独立に、H、ハロゲン、ヒドロキシ基、アミノ基、シアノ基、置換若しくは無置換のC
1
-C
6
アルキル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
6
アルケニル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
6
アルキニル基、置換若しくは無置換のC
3
-C
10
シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
10
複素環基、置換若しくは無置換のC
1
-C
6
アルコキシ基、置換若しくは無置換のモノ-及びジ-C
1
-C
6
アルキルアミノ基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基から選択される1つ又は複数であり;
R
3
は、ハロゲンであり;
R
4
は、H、置換若しくは無置換のC
1
-C
6
アルキル基、置換若しくは無置換のC
1
-C
8
アシル基、置換若しくは無置換のアリールアシル基又は置換若しくは無置換のヘテロアリールアシル基から選択され;
R
5
は、置換若しくは無置換のC
3
-C
10
シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
10
複素環基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基から選択され;
R
6
及びR
7
は、それぞれ独立に、H、置換若しくは無置換のC
1
-C
6
アルキル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
6
アルケニル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
6
アルキニル基、置換若しくは無置換のC
3
-C
10
シクロアルキル基、置換若しくは無置換のC
2
-C
10
複素環基、置換若しくは無置換のアリール基、置換若しくは無置換のヘテロアリール基、置換若しくは無置換のC
1
-C
8
アシル基、置換若しくは無置換のアリールアシル基又は置換若しくは無置換のヘテロアリールアシル基から選択され;
又はR
6
及びR
7
は、それらと結合するN原子とともに、置換若しくは無置換の3-10員単環式又は二環式構造を形成し;
前記置換は、OH;NH
2
;C
1
-C
10
アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基;C
1
-C
10
アルキルアミン基;メルカプト基;C
1
-C
10
アルキルメルカプト基;C
1
-C
20
アルコキシ基;C
1
-C
10
カルボニル基;C
3
-C
10
シクロアルキル基;N、S、O、Pから選ばれる1つ以上のヘテロ原子を有する3-10員複素環基;C
6
-C
20
アリール基;C
2
-C
20
ヘテロアリール基;ニトロシアノ基;又はハロゲンによって置換されることを指す。)
(項目2)
式IIに示す構造であることを特徴とする、項目1に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化17】
(項目3)
式IIIに示す構造であることを特徴とする、項目1に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化18】
(項目3)
式IVに示す構造であることを特徴とする、項目1に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化19】
(項目4)
下記に示すような化合物であることを特徴とする、項目1に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化20】
(項目5)
下記に示すような化合物であることを特徴とする、項目1に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化21】
(項目6)
構造式が下記の通りである化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化22】
(式中、R
8
は、H又は保護基である。)
(項目7)
下記のような構造であることを特徴とする、項目6に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化23】
(項目8)
下記のような構造であることを特徴とする、項目6又は7に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体。
【化24】
又は
【化25】
(項目9)
項目1ないし8のいずれか一項に記載の化合物、化合物の塩、立体異性体、又は互変異性体を含み、任意選択的には薬学的に許容可能な担体を更に含むことを特徴とする、医薬組成物。
(項目10)
下記のとおりであることを特徴する、化合物の調製方法。
【化26】