(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】受信用フェーズドアレイアンテナシステム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/185 20060101AFI20250925BHJP
H04L 27/00 20060101ALI20250925BHJP
H01Q 3/26 20060101ALN20250925BHJP
【FI】
H04B7/185
H04L27/00 Z
H01Q3/26 Z
(21)【出願番号】P 2025031674
(22)【出願日】2025-02-28
【審査請求日】2025-03-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 予稿集による公開、公開日:令和6年11月5日、掲載アドレス:https://smartconf.jp/content/ukaren68/ 学会における公開、学会名:第68回宇宙科学技術連合講演会、開催日:令和6年11月6日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和6年度、総務省「電波資源拡大のための研究開発」のうち「低軌道衛星と地上端末直接通信における周波数共用を可能とするナローマルチビーム形成技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521472025
【氏名又は名称】インターステラテクノロジズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】森岡 澄夫
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-526721(JP,A)
【文献】特開2024-012916(JP,A)
【文献】DIEGO TUZI et al.,Satellite Swarm-Based Antenna Arrays for 6G Direct-to-Cell Connectivity,IEEE Access [online],2023年,Volume 11,pp. 36907 - 36928,[取得日 2025年04月30日], 取得先<https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=10068542>,[DOI: 10.1109/ACCESS.2023.3257102]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/185
H04L 27/00
H01Q 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に配置される複数の第1飛行体と、第2飛行体と、を備える受信用フェーズドアレイアンテナシステムであって、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、
送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、
前記第1受信手段による前記第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、前記送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び前記第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、
前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、
前記変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を前記第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、
前記第2飛行体は、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される前記第2送信信号を受信する第2受信手段と、
前記第2受信手段による前記第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して前記変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える、受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項2】
前記変調手段は、前記変調処理として、前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって前記基準周波数信号を振幅変調する、請求項1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項3】
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、前記基準周波数信号を生成する基準周波数信号生成手段を、更に備える、
請求項1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項4】
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、前記基準周波数信号を受信するための第3受信手段を、更に備える、
請求項1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項5】
前記受信用フェーズドアレイアンテナシステムは、第3飛行体、を更に備え、
前記第3飛行体は、前記基準周波数信号を生成する基準周波数信号生成手段、を備える、
請求項4に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項6】
前記第2送信信号は、電波であり、
前記送信手段は、電波である前記第2送信信号を送信する送信用アンテナ部であり、
前記第2受信手段は、電波である前記第2送信信号を受信する受信用アンテナ部である、
請求項1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項7】
前記第2送信信号は、光信号であり、
前記送信手段は、光信号である前記第2送信信号を投光する投光部であり、
前記第2受信手段は、光信号である前記第2送信信号を受光する受光部である、
請求項1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
【請求項8】
受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備えるアレイ状に配置される複数の第1飛行体を構成する第1飛行体であって、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、
送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、
前記第1受信手段による前記第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、前記送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び前記受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備える第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、
前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、
前記変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を前記第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、
前記第2飛行体は、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される前記第2送信信号を受信する第2受信手段と、
前記第2受信手段による前記第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して前記変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える、
第1飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、受信用フェーズドアレイアンテナシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間に多数の小型衛星を配置して編隊飛行(フォーメーションフライト)させ,これら小型衛星間で無線通信を行わせることで、無結線のフェーズドアレイアンテナとして機能させることが提案されている。例えば、特許文献1には、複数の小型衛星がフェーズドアレイアンテナシステムを構成し、地上の通信装置同士の通信を中継することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したフェーズドアレイアンテナシステムを構成する小型衛星には、地上の装置から送信される信号のみならず、衛星間で送受信される信号もあり、これら信号の干渉や混信を防止することが望まれている。
【0005】
本開示の1つの目的は、複数の衛星により構成されるフェーズドアレイアンテナシステムの通信の品質を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る受信用フェーズドアレイアンテナシステムは、アレイ状に配置される複数の第1飛行体と、第2飛行体と、を備える受信用フェーズドアレイアンテナシステムであって、前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、第1受信手段による第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、移相手段によって位相が変化した第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、第2飛行体は、複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される第2送信信号を受信する第2受信手段と、第2受信手段による第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、複数の衛星により構成されるフェーズドアレイアンテナシステムの通信の品質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る衛星通信システムの概略構成を示す概念図である。
【
図2】フェーズドアレイアンテナシステムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】受信用フェーズドアレイアンテナシステムの構成を説明する図である。
【
図4】送信用フェーズドアレイアンテナシステムの構成を説明する図である。
【
図5】フェーズドアレイアンテナシステムの第1の変形例を示す図である。
【
図6】フェーズドアレイアンテナシステムの第2の変形例を示す図である。
【
図7】フェーズドアレイアンテナシステムの第3の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。
【0010】
(1)衛星通信システム1の概要
図1は、本実施形態に係る衛星通信システム1の概要を説明するための概念図である。衛星通信システム1は、フェーズドアレイアンテナシステム2、送信機3、及び受信機4を備える。
【0011】
フェーズドアレイアンテナシステム2は、複数のアレイ素子衛星10と、少なくとも1つの送受信衛星20とを備える。フェーズドアレイアンテナシステム2が備える複数のアレイ素子衛星10の少なくとも一部は、アレイ状に配置される。アレイ素子衛星10の配置の仕方は、特に限定されないが、例えば、直線状、平面状、格子状、及び同心円状等の配置であってもよい。送受信衛星20は、フェーズドアレイアンテナシステム2が備える少なくとも一部のアレイ素子衛星10と共にアレイ状に配置されてもよい。
【0012】
本実施形態では、アレイ素子衛星10及び/又は送受信衛星20として超小型の衛星が用いられる。アレイ素子衛星10及び送受信衛星20を総称して「衛星100」と称する場合がある。衛星100は、飛行体の一例である。例えば、1つの衛星100のサイズは数cm~数十cmである。フェーズドアレイアンテナシステム2を構成する衛星100の総数Nは、特に限定されない。衛星100の総数Nは、数百、数千、あるいは数万以上であってもよい。隣り合う衛星100間の距離は、例えば、数cm~数十cmである。隣り合う衛星100間の距離は、波長程度であってもよいし、波長より短くてもよい(例:想定周波数帯=0.8GHz~60GHz)。各衛星100の高度は、例えば、数百km~千km程度である。
【0013】
フェーズドアレイアンテナシステム2が備える複数の衛星100は、所定の周回軌道上を飛行することにより、GCO(General Circular Orbit)やレコード盤軌道上を飛行するフォーメーションフライト(編隊飛行)を行ってもよい。フェーズドアレイアンテナシステム2を構成する各衛星100は、フォーメーションフライトにおいて、互いの相対的な位置関係は変えずに、各衛星100の配置が仮想的な平面(自転面)において自転するように飛行してもよい。
【0014】
フェーズドアレイアンテナシステム2が備える少なくとも一部の衛星100は、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2R(
図3)を構成し、送信機3から送信される送信信号を受信してもよい。また、フェーズドアレイアンテナシステム2が備える少なくとも一部の衛星100は、送信用フェーズドアレイアンテナシステム2S(
図4)を構成し、受信機4に送信信号を送信してもよい。フェーズドアレイアンテナシステム2は、送信機3と受信機4との間の通信を中継してもよい。すなわち、送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sは、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rが送信機3からの送信信号を受信することにより生成される信号に基づいて送信信号を生成し、これを受信機4に送信してもよい。なお、フェーズドアレイアンテナシステム2は、複数の衛星100によって構成され得る複数の受信用フェーズドアレイアンテナシステム2R及び/又は複数の送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sを備えてもよい。これら複数の受信用フェーズドアレイアンテナシステム2R及び/又は複数の送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sは、各々が個別に地上局(送信機3及び/又は受信機4)との間で通信を行ってもよい。
【0015】
送信機3及び受信機4は、特に限定されない。例えば、送信機3及び受信機4は、スマートフォン等の移動局であってもよい。この場合、フェーズドアレイアンテナシステム2の少なくとも一部の衛星100は、当該移動局(送信機3及び/又は受信機4)との間でサービスリンクを構成してもよい。また、例えば、送信機3及び受信機4は、基地局であってもよい。この場合、フェーズドアレイアンテナシステム2の少なくとも一部の衛星100は、当該基地局(送信機3及び/又は受信機4)との間でフィーダリンク又はサービスリンクを構成してもよい。なお、送信機3及び受信機4は、1つの装置内に纏めて設けられてもよい。
【0016】
(2)フェーズドアレイアンテナシステム2の構成
図2は、衛星通信システム1が備えるフェーズドアレイアンテナシステム2の機能構成の一例を示すブロック図である。フェーズドアレイアンテナシステム2は、複数のアレイ素子衛星10と、送受信衛星20とを備える。
図2の例では、フェーズドアレイアンテナシステム2は、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rとしての機能と、送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sとしての機能とを有する。本開示では、個々のアレイ素子衛星10や、個々のアレイ素子衛星10が備える構成を区別する場合、「A」、「B」等の符号を付す場合がある。
【0017】
(2-1)アレイ素子衛星10
アレイ素子衛星10は、受信モジュール110、アンテナ111、アンテナ112、送信モジュール120、アンテナ121、アンテナ122、制御装置130、及び姿勢制御装置140を備える。
【0018】
アンテナ111は、送信機3から送信される送信信号(電波)を受信することにより受信信号を生成し、受信モジュール110に出力する。受信モジュール110は、制御装置130の制御下において、アンテナ111からの出力信号に対して、後述する所定の信号処理を行い、信号処理済みの信号をアンテナ112に出力する。アンテナ112は、受信モジュール110からの出力信号に基づいて、送信信号を送受信衛星20に向けて送信する。
【0019】
アンテナ121は、送受信衛星20から送信される送信信号(電波)を受信することにより受信信号を生成し、送信モジュール120に出力する。送信モジュール120は、制御装置130の制御下において、アンテナ121からの出力信号に対して所定の信号処理を行い、信号処理済みの信号をアンテナ122に出力する。アンテナ122は、送信モジュール120からの出力信号に基づいて、送信信号を受信機4に向けて送信する。
【0020】
アンテナ111、112、121、及び122は、それぞれ、パッチアンテナ、ホーンアンテナ、ダイポールアンテナ等、任意の構成を採用できるが、複数のアレイ素子衛星10が形成するフェーズドアレイアンテナとして高利得化を図るため、指向性の制御がしやすい形状(例:パッチアンテナのアレイやスロットアンテナのアレイ等)を用いることが望ましい。アンテナ111、112、121、及び122の少なくとも一部は、物理的又は機能的に一体化された1つのアンテナとして構成されてもよく、不図示のスイッチにより、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rの信号経路と送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sの信号経路とを切り換え可能に構成されてもよい。
【0021】
制御装置130は、アレイ素子衛星10全体の動作を制御する装置である。具体的には、制御装置130は、姿勢制御装置140を制御することによりアレイ素子衛星10の位置及び姿勢を制御する。また、制御装置130は、アレイ素子衛星10と他の装置(例えば、他のアレイ素子衛星10、送受信衛星20、他の衛星100、及び地上局等)との通信を制御する。更に、制御装置130は、各種の信号処理及び各種の情報処理を行う。
【0022】
制御装置130は、1つ又は複数のプロセッサ131(以下、単に「プロセッサ131」と呼ぶ)と1つ又は複数の記憶装置132(以下、単に「記憶装置132」と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ131は、CPU(Central Processing Unit)等を含み、各種の情報処理を行う。記憶装置132には、プロセッサ131による処理に必要な各種情報が格納される。記憶装置132には、制御プログラムが格納される。制御プログラムは、プロセッサ131によって実行されるコンピュータプログラムであり、プロセッサ131と記憶装置132との協働によって、制御装置130の機能が実現される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0023】
姿勢制御装置140は、アレイ素子衛星10の位置及び姿勢を調整するための機構である。フォーメーションフライトを行う超小型のアレイ素子衛星10の場合、姿勢制御装置140は、電磁石141を含んでいてもよい。電磁石141により、隣接する衛星100間の相対的な位置を磁力で調整し、所望のアレイ形状を保つように制御できる。
【0024】
(2-2)送受信衛星20
送受信衛星20は、受信モジュール210、アンテナ211、送信モジュール220、アンテナ221、制御装置230、及び姿勢制御装置240を備える。
【0025】
アンテナ211は、複数のアレイ素子衛星10の各々から送信される送信信号を受信することにより受信信号を生成し、受信モジュール210に出力する。受信モジュール210は、制御装置230の制御下において、アンテナ211が複数のアレイ素子衛星10から送信される送信信号(電波)を受信することにより生成される受信信号に対して所定の信号処理を行う。受信モジュール210が行う信号処理の内容は、特に限定されないが、例えば、送信機3等で行われた変調処理に対応する復調処理を含んでもよい。例えば、フェーズドアレイアンテナシステム2が送信機3と受信機4との間の通信を中継する場合等には、受信モジュール210は、信号処理済みの信号を、送信モジュール220に出力してもよい。
【0026】
送信モジュール220は、制御装置230の制御下において、所定の信号に対して所定の信号処理を行う。送信モジュール210は、信号処理済みの信号を、アンテナ221に出力する。アンテナ221は、送信モジュール220からの出力信号に基づいて、送信信号を複数のアレイ素子衛星10の各々に向けて送信する。
【0027】
アンテナ211、及び221は、それぞれ、パッチアンテナ、ホーンアンテナ、ダイポールアンテナ等、任意の構成を採用できるが、指向性の制御がしやすい形状(例:パッチアンテナのアレイやスロットアンテナのアレイ等)を用いてもよい。アンテナ211、及び221は、物理的又は機能的に一体化された1つのアンテナとして構成されてもよく、不図示のスイッチにより、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rの信号経路と送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sの信号経路とを切り換え可能に構成されてもよい。
【0028】
制御装置230は、送受信衛星20を制御する。具体的には、制御装置230は、姿勢制御装置240を制御することによって送受信衛星20の位置及び姿勢を制御する。また、制御装置230は、送受信衛星20と他の装置(アレイ素子衛星10や地上局など)との通信を制御する。更に、制御装置230は、各種の信号処理及び各種の情報処理を行う。
【0029】
制御装置230は、1つ又は複数のプロセッサ231(以下、単に「プロセッサ231」と呼ぶ)と1つ又は複数の記憶装置232(以下、単に「記憶装置232」と呼ぶ)を含んでいる。プロセッサ231は、CPU等を含み、各種の情報処理を行う。記憶装置232には、プロセッサ231による処理に必要な各種情報が格納される。記憶装置232には、制御プログラムが格納される。制御プログラムは、プロセッサ231によって実行されるコンピュータプログラムであり、プロセッサ231と記憶装置232との協働によって、制御装置230の機能が実現される。制御プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。
【0030】
姿勢制御装置240は、送受信衛星20の位置及び姿勢を調整するための機構である。フォーメーションフライトを行う超小型の送受信衛星20の場合、姿勢制御装置240は、電磁石241を含んでいてもよい。これにより、アレイ素子衛星10との相対位置を微調整し、全体としてのアレイ形成を補助することができる。
【0031】
(3)フェーズドアレイアンテナシステム2の機能
(3-1)受信用フェーズドアレイアンテナシステム2R
図3は、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rを説明するための図である。受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rは、例えば、複数のアレイ素子衛星10が備える受信モジュール110、アンテナ111、及びアンテナ112と、送受信衛星20が備える受信モジュール210、及びアンテナ211とを備える。
【0032】
複数のアレイ素子衛星10が備えるアンテナ111は、アレイ状に配置され、フェーズドアレイアンテナ11を構成する。フェーズドアレイアンテナ11の指向性は、各アンテナ111の励振ウェイトによって決定される。各アンテナ111の励振ウェイトは、受信モジュール110の信号処理によって決定される。各アレイ素子衛星10が備える制御装置130は、各アンテナ111の励振ウェイトが所望の値となるように、受信モジュール110における信号の位相や振幅を制御する。当該所望の値は、制御装置130が計算してもよいし、他の装置(他のアレイ素子衛星10、送受信衛星20、他の衛星100、地上の装置等)から取得してもよい。制御装置130は、例えば、複数のアレイ素子衛星10の間における、各アンテナ111の受信信号の位相差を補償するように、受信モジュール110を制御してもよい。制御装置130は、複数のアレイ素子衛星10の各々の位置の違いに起因する位相差のみならず、個体としてのアレイ素子衛星10のバラツキ(アレイ素子衛星10の打上げ前等に測定された情報を含む)に起因する位相差を補償するように、当該制御を行ってもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ11の指向性を送信機3の方向に制御することが可能となる。
【0033】
複数のアレイ素子衛星10が備えるアンテナ112は、アレイ状に配置され、フェーズドアレイアンテナ12を構成する。フェーズドアレイアンテナ12の指向性は、各アンテナ112の励振ウェイトによって決定される。各アンテナ112の励振ウェイトは、受信モジュール110の信号処理によって決定される。各アレイ素子衛星10が備える制御装置130は、各アンテナ112の励振ウェイトが所望の値となるように、受信モジュール110における信号の位相や振幅を制御する。当該所望の値は、制御装置130が計算してもよいし、他の装置(他のアレイ素子衛星10、送受信衛星20、他の衛星100、地上の装置等)から取得してもよい。制御装置130は、例えば、複数のアレイ素子衛星10の間における、各アンテナ112の受信信号の位相差を補償するように、受信モジュール110を制御してもよい。制御装置130は、複数のアレイ素子衛星10の各々の位置の違いに起因する位相差のみならず、個体としてのアレイ素子衛星10のバラツキ(アレイ素子衛星10の打上げ前等に測定された情報を含む)に起因する位相差を補償するように、当該制御を行ってもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ12の指向性を送受信衛星20の方向に制御することが可能となる。
【0034】
受信モジュール110は、受信部113、移相部114、変調部115、基準周波数信号生成部116、及び送信部117を備える。受信モジュール110が備えるこれら機能部は、制御装置130による制御下で、アンテナ111及びアンテナ112それぞれの励振ウェイトが所望の値となるように、受信モジュール110における信号の位相や振幅を制御する。
【0035】
受信部113は、アンテナ111からの出力信号に対して所定の信号処理を行う。受信部113は、例えば、低ノイズアンプにより構成され、アンテナ111からの出力信号の増幅を行ってもよい。
【0036】
移相部114は、受信部113からの出力信号の位相を変化させる移相処理を行う。
【0037】
移相部114は、例えば、移相処理として、送信機3及び該移相部114を備えるアレイ素子衛星10の間の距離に少なくとも基づいて、信号の位相を変化させてもよい。特に、移相部114は、例えば、送信機3と、複数のアレイ素子衛星10の各々との間の距離の差を補償するように、信号の位相を変化させてもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ11の指向性を、送信機3の方向を向くように制御することが可能となる。
【0038】
移相部114は、例えば、移相処理として、送受信衛星20及び該移相部114を備えるアレイ素子衛星10の間の距離に少なくとも基づいて、信号の位相を変化させてもよい。特に、移相部114は、例えば、送受信衛星20と、複数のアレイ素子衛星10の各々との間の距離の差を補償するように、信号の位相を変化させてもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ12の指向性を、送受信衛星20の方向を向くように制御することが可能となる。
【0039】
なお、送信機3及びアレイ素子衛星10の間の距離や、アレイ素子衛星10及び送受信衛星20の間の距離は、送信機3、アレイ素子衛星10、及び送受信衛星20の間の相対的な位置関係に基づいて計算されてもよい。当該計算においては、例えば、アレイ素子衛星10や送受信衛星20に測距センサを搭載し、測距センサを利用して計測した距離を用いてもよい。或いは、アレイ素子衛星10及び送受信衛星20の間で信号を送受信し、当該信号の強度を測定することにより、これらの間の相対的な位置が推定されてもよい。また、当該計算においては、送信機3、アレイ素子衛星10、及び送受信衛星20の絶対位置の情報を用いてもよい。例えば、アレイ素子衛星10、又は送受信衛星20は、周知の手法を用いて、絶対座標系における自身の位置及び姿勢の情報を取得してもよい。例えば、アレイ素子衛星10、又は送受信衛星20は、カメラを用いて太陽、月、地球、あるいは恒星を撮像することによって、絶対座標系における自身の位置及び姿勢の情報を取得してもよい。
【0040】
変調部115は、基準周波数信号生成部116が生成する基準周波数信号を、移相部114からの出力信号によって変調する変調処理を行う。基準周波数信号生成部116は、例えば、発振回路として構成されてもよい。なお、アレイ素子衛星10が、外部の装置(他の衛星100等)から基準周波数信号を生成するための情報(基準周波数の値等)を取得し、基準周波数信号生成部116が、当該情報に基づいて基準周波数信号を生成してもよい。変調処理の手法は、特に限定されず、例えば、振幅変調、周波数変調、及び位相変調であってもよい。なお、後述するように、複数のアレイ素子衛星10の各々が備える各アンテナ112から送信信号(電波)が放射される。そして、放射された送信信号は、空間で振幅が合算されるように合成され、送受信衛星20は当該合成された送信信号を受信する。そのため、変調部115が行う変調処理が振幅変調である場合、当該変調処理によりベースバンド情報(移相部114からの出力信号)が乗せられた信号の振幅の情報を、空間で合成された送信信号としてより効率良く送受信衛星20に伝達することが可能となる。基準周波数信号生成部116が生成する基準周波数信号は、送信機3から送信される送信信号の基準周波数より十分に高い(少なくとも2倍、例えば、数倍~数十倍程度)周波数であることが望ましい。
【0041】
送信部117は、パワーアンプ等により構成され、変調部115からの出力信号を増幅し、アンテナ112に出力する。なお、送信部117は、変調部115からの出力信号に、基準周波数信号生成部116が生成する基準周波数信号を重畳して、アンテナ112に出力してもよい。重畳された基準周波数信号は、送受信衛星20が備える受信モジュール210の復調部213による復調処理に用いられてもよい。
【0042】
アンテナ112は、送信部117からの出力信号に基づいた送信信号を電波として放射する。複数のアレイ素子衛星10が備える各アンテナ112から放射される送信信号(電波)は、空間で合成され、フェーズドアレイアンテナ12の指向性に基づいて、送受信衛星20に向けて伝搬する。
【0043】
なお、送信部117は、変調部115からの出力信号に対して、フェーズドアレイアンテナ12の指向性を送受信衛星20に向けるための信号処理を行ってもよい。送信部117は、例えば、送受信衛星20と、複数のアレイ素子衛星10の各々が備えるアレイ素子衛星10との間の距離の差を補償するように、変調部115からの出力信号の位相を変化させてもよい。また、送信部117は、例えば、送受信衛星20と、複数のアレイ素子衛星10の各々が備えるアレイ素子衛星10との間の距離の差を補償するように、変調部115からの出力信号に対して時間遅延処理を行ってもよい。
【0044】
送受信衛星20が備えるアンテナ211は、複数のアレイ素子衛星10の各アンテナ112から送信され、空間で合成された送信信号(電波)を受信する。
【0045】
受信モジュール210は、受信部212及び復調部213を含み、アンテナ211からの出力信号に対して所定の信号処理を行う。
【0046】
受信部212は、アンテナ211からの出力信号に対して所定の信号処理を行う。受信部212は、例えば、低ノイズアンプにより構成され、アンテナ211からの出力信号の増幅を行ってもよい。
【0047】
復調部213は、受信部212からの出力信号に対して、アレイ素子衛星10の変調部115で行われた変調処理(振幅変調、周波数変調、及び位相変調等)に対応する復調処理を行う。復調部213は、例えば、受信部212からの出力信号から、アレイ素子衛星10が備える受信モジュール110の送信部117により重畳された基準周波数信号を抽出した上で、当該基準周波数信号を復調処理に用いてもよい。或いは、送受信衛星20が、外部の装置(他の衛星100等)から基準周波数信号を生成するための情報(基準周波数の値等)を取得し、復調部213が、当該情報に基づいて基準周波数信号を生成した上で、当該基準周波数信号を復調処理に用いてもよい。
【0048】
受信モジュール210は、復調部213による復調処理により生成された信号に対して、更に所定の信号処理を行ってもよい。当該信号処理は、例えば、送信機3等の地上で行われた変調処理に対応する復調処理を含んでもよい。これにより、所望のベースバンド情報を取り出すことが可能となる。また、受信モジュール210は、復調部213による復調処理により生成された信号を、送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sが備える送信モジュール220に出力してもよい。
【0049】
受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rにおいて、複数のアレイ素子衛星10が備える変調部115により、受信した信号に基準周波数信号を重畳する変調処理が行われる。そのため、フェーズドアレイアンテナ11が送信機3から受信する信号の基準周波数信号と、フェーズドアレイアンテナ12が送受信衛星20に向けて送信する基準周波数信号とが異なることとなる。これにより、複数のアレイ素子衛星10の受信信号と送信信号とが異なる周波数帯域を持つことで、システム内での信号混信を防止することが可能となる。
【0050】
(3-2)送信用フェーズドアレイアンテナシステム2S
図4は、送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sを説明するための図である。送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sは、例えば、送受信衛星20が備える送信モジュール220、アンテナ212と、複数のアレイ素子衛星10が備える送信モジュール120、アンテナ121、及びアンテナ122とを備える。
【0051】
送受信衛星20が備える送信モジュール220は、変調部222、基準周波数信号生成部223、及び送信部224を備える。
【0052】
変調部222は、基準周波数信号生成部223が生成する基準周波数信号を、所定の信号(ベースバンド情報)によって変調する変調処理を行う。基準周波数信号生成部223は、例えば、発振回路として構成されてもよい。なお、送受信衛星20が、外部の装置(他の衛星100等)から基準周波数信号を生成するための情報(基準周波数の値等)を取得し、基準周波数信号生成部223が、当該情報に基づいて基準周波数信号を生成してもよい。変調処理の手法は、特に限定されず、例えば、振幅変調、周波数変調、及び位相変調であってもよい。基準周波数信号生成部223が生成する基準周波数信号は、所定の信号(ベースバンド情報)の基準周波数より十分に高い(例えば、2倍、又は数倍~数十倍程度)周波数であることが望ましい。
【0053】
変調部222による変調処理の対象となるベースバンド情報としての所定の信号は、例えば、受信用フェーズドアレイアンテナシステム2Rが備える受信モジュール210からの出力信号であってもよいし、制御装置230により生成された任意の信号であってもよい。また、当該所定の信号は、地上送信用の基準周波数信号をベースバンド情報により変調した信号であってもよい。基準周波数信号生成部223が生成する基準周波数信号は、当該所定の信号の基準周波数より十分に高い(例えば、2倍、又は数倍~数十倍程度)周波数であることが望ましい。
【0054】
送信部224は、パワーアンプ等により構成され、変調部222からの出力信号を増幅し、アンテナ221に出力する。なお、送信部224は、変調部222からの出力信号に、基準周波数信号生成部223が生成する基準周波数信号を重畳して、アンテナ221に出力してもよい。重畳された基準周波数信号は、アレイ素子衛星10が備える送信モジュール120の復調部124による復調処理に用いられてもよい。
【0055】
アンテナ221は、送信部224からの出力信号に基づいた送信信号を電波として放射する。アンテナ221から放射される送信信号(電波)は、アンテナ221の指向性に基づいて、複数のアレイ素子衛星10に向けて伝搬する。
【0056】
複数のアレイ素子衛星10が備えるアンテナ121は、アレイ状に配置され、フェーズドアレイアンテナ13を構成する。フェーズドアレイアンテナ13の指向性は、各アンテナ121の励振ウェイトによって決定される。各アンテナ121の励振ウェイトは、送信モジュール120の信号処理によって決定される。各アレイ素子衛星10が備える制御装置130は、各アンテナ121の励振ウェイトが所望の値となるように、送信モジュール120における信号の位相や振幅を制御する。当該所望の値は、制御装置130が計算してもよいし、他の装置(他のアレイ素子衛星10、送受信衛星20、他の衛星100、地上の装置等)から取得してもよい。制御装置130は、例えば、複数のアレイ素子衛星10の間における、各アンテナ121の受信信号の位相差を補償するように、送信モジュール120を制御してもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ13の指向性を送受信衛星20の方向に制御することが可能となる。
【0057】
複数のアレイ素子衛星10が備えるアンテナ122は、アレイ状に配置され、フェーズドアレイアンテナ14を構成する。フェーズドアレイアンテナ14の指向性は、各アンテナ122の励振ウェイトによって決定される。各アンテナ122の励振ウェイトは、送信モジュール120の信号処理によって決定される。各アレイ素子衛星10が備える制御装置130は、各アンテナ122の励振ウェイトが所望の値となるように、送信モジュール120における信号の位相や振幅を制御する。当該所望の値は、制御装置130が計算してもよいし、或いは、他の装置(他のアレイ素子衛星10、送受信衛星20、他の衛星100、地上の装置等)から取得してもよい。制御装置130は、例えば、複数のアレイ素子衛星10の間における、各アンテナ122の送信信号の位相差を補償するように、送信モジュール120を制御してもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ14の指向性を受信機4の方向に制御することが可能となる。
【0058】
送信モジュール120は、受信部123、復調部124、移相部125、及び送信部126を備える。送信モジュール120が備えるこれら機能部は、制御装置130による制御下で、アンテナ121及びアンテナ122それぞれの励振ウェイトが所望の値となるように、送信モジュール120における信号の位相や振幅を制御する。
【0059】
受信部123は、アンテナ121からの出力信号に対して所定の信号処理を行う。受信部123は、例えば、低ノイズアンプにより構成され、アンテナ121からの出力信号の増幅を行ってもよい。
【0060】
復調部124は、受信部123からの出力信号に対して、送受信衛星20の変調部222で行われた変調処理(振幅変調、周波数変調、及び位相変調等)に対応する復調処理を行う。復調部124は、例えば、受信部123からの出力信号から、送受信衛星20が備える送信モジュール220の送信部224により重畳された基準周波数信号を抽出した上で、当該基準周波数信号を復調処理に用いてもよい。或いは、アレイ素子衛星10が、外部の装置(他の衛星100等)から基準周波数信号を生成するための情報(基準周波数の値等)を取得し、復調部124が、当該情報に基づいて基準周波数信号を生成した上で、当該基準周波数信号を復調処理に用いてもよい。
【0061】
移相部125は、復調部124からの出力信号の位相を変化させる移相処理を行う。
【0062】
移相部125は、例えば、移相処理として、送受信衛星20及びアレイ素子衛星10の間の距離に少なくとも基づいて、信号の位相を変化させてもよい。特に、移相部125は、例えば、送受信衛星20と、複数のアレイ素子衛星10の各々との間の距離の差を補償するように、信号の位相を変化させてもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ13の指向性を、送受信衛星20の方向を向くように制御することが可能となる。
【0063】
移相部125は、例えば、移相処理として、受信機4及びアレイ素子衛星10の間の距離に少なくとも基づいて、信号の位相を変化させてもよい。特に、移相部125は、例えば、受信機4と、複数のアレイ素子衛星10の各々との間の距離の差を補償するように、信号の位相を変化させてもよい。これにより、フェーズドアレイアンテナ14の指向性を、受信機4の方向を向くように制御することが可能となる。
【0064】
なお、受信機4及びアレイ素子衛星10の間の距離や、アレイ素子衛星10及び送受信衛星20の間の距離は、受信機4、アレイ素子衛星10、及び送受信衛星20の間の相対的な位置関係に基づいて計算されてもよい。当該計算においては、例えば、アレイ素子衛星10や送受信衛星20に測距センサを搭載し、測距センサを利用して計測した距離を用いてもよい。或いは、アレイ素子衛星10及び送受信衛星20の間で信号を送受信し、当該信号の強度を測定することにより、これらの間の相対的な位置が推定されてもよい。また、当該計算においては、受信機4、アレイ素子衛星10、及び送受信衛星20の絶対位置の情報を用いてもよい。例えば、アレイ素子衛星10、又は送受信衛星20は、周知の手法を用いて、絶対座標系における自身の位置及び姿勢の情報を取得してもよい。例えば、アレイ素子衛星10、又は送受信衛星20は、カメラを用いて太陽、月、地球、あるいは恒星を撮像することによって、絶対座標系における自身の位置及び姿勢の情報を取得してもよい。
【0065】
送信部126は、パワーアンプ等により構成され、移相部125からの出力信号を増幅し、アンテナ122に出力する。
【0066】
アンテナ122は、送信部126からの出力信号に基づいた送信信号を電波として放射する。複数のアレイ素子衛星10が備える各アンテナ122から放射される送信信号(電波)は空間で合成され、フェーズドアレイアンテナ14の指向性に基づいて、受信機4に向けて伝搬する。
【0067】
送信用フェーズドアレイアンテナシステム2Sにおいては、送受信衛星20の変調部222によって、送信する基準周波数信号が変調され、その後、複数のアレイ素子衛星10の復調部124において復調処理が行われる。そのため、フェーズドアレイアンテナ13が送受信衛星20から受信する信号の基準周波数信号と、フェーズドアレイアンテナ14が受信機4に向けて送信する基準周波数信号とが異なることとなる。これにより、複数のアレイ素子衛星10の受信信号と送信信号とが異なる周波数帯域を持つことで、システム内での信号混信を防止することが可能となる。
【0068】
(4)変形例
(4-1)第1の変形例
図5は、フェーズドアレイアンテナシステム2の第1の変形例を説明するための図である。本変形例において、フェーズドアレイアンテナシステム2は、新たに第3衛星30を備える。第3衛星30は、フェーズドアレイアンテナシステム2が備える衛星100のいずれかであってよい。
【0069】
第3衛星30は、アンテナ31、及び基準周波数信号生成部32を備える。
【0070】
基準周波数信号生成部32は、アレイ素子衛星10が備える基準周波数信号生成部116を代替してもよい。すなわち、基準周波数信号生成部32は、アレイ素子衛星10の変調部115による変調処理に用いられる基準周波数信号を生成する機能を有する。第3衛星30は、基準周波数信号生成部32が生成した基準周波数信号を、アンテナ31を介してアレイ素子衛星10に送信してもよい。アレイ素子衛星10の任意のアンテナは、第3衛星30からの基準周波数信号を受信することが可能である。アレイ素子衛星10が備える送信モジュール120の変調部115は、受信された基準周波数信号を、移相部114からの出力信号により変調し、送信部117に出力してもよい。なお、アレイ素子衛星10は、変調部115を備えなくてもよい。
【0071】
基準周波数信号生成部32は、送受信衛星20が備える基準周波数信号生成部223を代替してもよい。すなわち、基準周波数信号生成部32は、送受信衛星20の変調部222による変調処理に用いられる基準周波数信号を生成する機能を有する。第3衛星30は、基準周波数信号生成部32が生成した基準周波数信号を、アンテナ31を介して送受信衛星20に送信してもよい。送受信衛星20の任意のアンテナは、第3衛星30からの基準周波数信号を受信することが可能である。送受信衛星20が備える送信モジュール220の変調部222は、変調処理として、受信された基準周波数信号を、所定の信号により変調し、送信部224に出力してもよい。なお、送受信衛星20は、変調部222を備えなくてもよい。
【0072】
本変形例によれば、第3衛星30が基準周波数信号を生成し、アレイ素子衛星10や送受信衛星20に提供することで、各衛星における基準周波数信号生成部の必要性を低減することができる。その結果、各衛星の設計が簡素化され、エネルギー消費を抑えることが可能となる。また、基準周波数信号の生成を一元化することで、フェーズドアレイアンテナシステム2全体の信号精度や同期精度を向上させることができる。
【0073】
(4-2)第2の変形例
図6は、フェーズドアレイアンテナシステム2の第2の変形例を説明するための図である。本変形例では、複数のアレイ素子衛星10から送受信衛星20への信号送信に電波ではなく、光(可視光またはレーザー)を使用する。
【0074】
変形例に係るフェーズドアレイアンテナシステム2では、アレイ素子衛星10は、従来のアンテナ112に代えて、投光部151(LiFi用LEDやレーザダイオード等)を備えることができる。これにより、アレイ素子衛星10は光信号を用いて送受信衛星20に情報を送信できる。送受信衛星20は、アンテナ211に代えて受光部251を備えることで、アレイ素子衛星10からの光信号を正確に受信する。
【0075】
さらに、本変形例では、送受信衛星20も、アンテナ221に代えて投光部261(LiFi用LEDやレーザダイオード等)を備えることができる。これにより、送受信衛星20は光信号を利用してアレイ素子衛星10にデータを送信できる。一方、アレイ素子衛星10は、アンテナ121の代わりに受光部152を備えることで、送受信衛星20からの光信号を受信する。
【0076】
本変形例では、光通信を採用することで、フェーズドアレイアンテナシステム2の信号の送受信が高速化される。光信号は、電波と比較して高い周波数を持ち、より多くのデータを伝送できるため、システム全体の通信容量を大幅に向上させることが可能となる。また、指向性の高いレーザー通信を利用することで、電波通信で生じる不要な干渉を低減し、より安定したデータ伝送が実現できる。
【0077】
このように、本変形例では光通信技術を活用し、従来の電波通信と比較してより高速で干渉の少ない通信環境を提供することが可能となる。
【0078】
(4-3)第3の変形例
図7は、フェーズドアレイアンテナシステム2の第3の変形例を説明するための図である。本変形例では、アレイ素子衛星10が備える受信モジュール210が、アンテナ111、受信部113、及び移相部114の組を複数備えるように構成される。
【0079】
本変形例において、受信モジュール210は、各組の後段且つ変調部115の前段に加算部118を備える。これにより、送信機3から送信される送信信号は、複数のアンテナ111の各々で受信され、それぞれ後段の受信部113、及び移相部114において信号処理が行われる。各組からの出力信号は、加算部118によって加算処理された上で、変調部115に出力される。
【0080】
この構成により、1つのアレイ素子衛星10の内部で、送信機3から送信される送信信号の増幅が可能となる。これにより、フェーズドアレイアンテナシステム2におけるアレイ素子衛星10の数を削減することが可能となる。従来の構成では、各アレイ素子衛星10が個別に送信信号を処理していたが、本変形例では、複数の受信信号を加算部118で統合することで、信号強度の向上と受信処理の効率化が図られる。
【0081】
また、加算部118による信号の統合により、受信した信号の位相が適切に調整された状態で変調部115に入力される。これにより、送受信の効率が向上し、通信品質の向上が期待される。本変形例により、より少ないアレイ素子衛星10でフェーズドアレイアンテナシステム2の機能を維持することが可能となり、全体のシステムコスト削減や運用効率の向上につながる。
【0082】
(4-4)その他
上述した実施形態では、フェーズドアレイアンテナシステム2は、飛行体の一例としての衛星100を含んで構成されるものした。しかしながら、フェーズドアレイアンテナシステム2は、宇宙空間を飛行する衛星100に限らず、大気圏内を飛行する任意の飛行体(飛行機やドローン等)によって構成されてもよい。
【0083】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【0084】
(付記1)
アレイ状に配置される複数の第1飛行体と、第2飛行体と、を備える受信用フェーズドアレイアンテナシステムであって、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、
送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、
前記第1受信手段による前記第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、前記送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び前記第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、
前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、
前記変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を前記第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、
前記第2飛行体は、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される前記第2送信信号を受信する第2受信手段と、
前記第2受信手段による前記第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して前記変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える、
受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記2)
前記変調手段は、前記変調処理として、前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって前記基準周波数信号を振幅変調する、
付記1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記3)
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、前記基準周波数信号を生成する基準周波数信号生成手段を、更に備える、
付記1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記4)
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、前記基準周波数信号を受信するための第3受信手段を、更に備える、
付記1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記5)
前記受信用フェーズドアレイアンテナシステムは、第3飛行体、を更に備え、
前記第3飛行体は、前記基準周波数信号を生成する基準周波数信号生成手段、を備える、
付記4に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記6)
前記第2送信信号は、電波であり、
前記送信手段は、電波である前記第2送信信号を送信する送信用アンテナ部であり、
前記第2受信手段は、電波である前記第2送信信号を受信する受信用アンテナ部である、
付記1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記7)
前記第2送信信号は、光信号であり、
前記送信手段は、光信号である前記第2送信信号を投光する投光部であり、
前記第2受信手段は、光信号である前記第2送信信号を受光する受光部である、
付記1に記載の受信用フェーズドアレイアンテナシステム。
(付記8)
受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備えるアレイ状に配置される複数の第1飛行体を構成する第1飛行体であって、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体は、
送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、
前記第1受信手段による前記第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、前記送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び前記受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備える第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、
前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、
前記変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を前記第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、
前記第2飛行体は、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される前記第2送信信号を受信する第2受信手段と、
前記第2受信手段による前記第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して前記変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える、
第1飛行体。
(付記9)
受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備える第2飛行体であって、
前記受信用フェーズドアレイアンテナシステムが備える複数の第1飛行体の各第1飛行体は、
送信機から送信される第1送信信号を受信する第1受信手段と、
前記第1受信手段による前記第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、前記送信機及び該第1飛行体の間の距離と、該第1飛行体及び前記第2飛行体の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相手段と、
前記移相手段によって位相が変化した前記第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調手段と、
前記変調手段からの出力に基づいて、第2送信信号を前記第2飛行体に向けて出力する送信手段と、を備え、
前記第2飛行体は、
前記複数の第1飛行体の各第1飛行体から送信される前記第2送信信号を受信する第2受信手段と、
前記第2受信手段による前記第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して前記変調処理に対応する復調処理を行う復調手段と、を備える、
第2飛行体。
【符号の説明】
【0085】
1…衛星通信システム、2…フェーズドアレイアンテナシステム、2R…受信用フェーズドアレイアンテナシステム、2S…送信用フェーズドアレイアンテナシステム、3…送信機、4…受信機、10…アレイ素子衛星、20…送受信衛星、100…衛星、110…受信モジュール、111…アンテナ、112…アンテナ、120…送信モジュール、121…アンテナ、122…アンテナ、130…制御装置、131…プロセッサ、132…記憶装置、140…姿勢制御装置、141…電磁石、210…受信モジュール、211…アンテナ、220…送信モジュール、221…アンテナ、230…制御装置、231…プロセッサ、232…記憶装置、240…姿勢制御装置、241…電磁石、31…アンテナ、32…基準周波数信号生成部、30…第3衛星、151…投光部、152…受光部、251…受光部、261…投光部、113…受信部、114…移相部、115…変調部、116…基準周波数信号生成部、117…送信部、123…受信部、124…復調部、125…移相部、126…送信部、212…受信部、213…復調部、222…変調部、223…基準周波数信号生成部、224…送信部
【要約】 (修正有)
【課題】複数の衛星により構成される受信用フェーズドアレイアンテナシステムの通信の品質を向上させる。
【解決手段】衛星通信システムにおいて、アレイ状に配置される複数の複数のアレイ素子衛星は、送信機3が送信する第1送信信号を受信する受信部、受信部による第1送信信号の受信に基づいて生成される第1受信信号の位相を、送信機及びアレイ素子衛星の間の距離と、アレイ素子衛星及び送受信衛星の間の距離と、に少なくとも基づいて変化させる移相部、移相部によって位相が変化した第1受信信号によって基準周波数信号を変調する変調処理を行う変調部及び変調部の出力に基づいて、第2送信信号を送受信衛星に向けて出力する送信部を備え、送受信衛星は、複数のアレイ素子衛星が送信する第2送信信号を受信する受信部及び受信部による第2送信信号の受信に基づいて生成される第2受信信号に対して変調処理に対応する復調処理を行う復調部を備える。
【選択図】
図3