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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】ハニカムフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/20 20060101AFI20250925BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20250925BHJP
   B01D 46/00 20220101ALI20250925BHJP
   C04B 38/00 20060101ALN20250925BHJP
【FI】
B01D39/20 D
B01J35/57 E ZAB
B01J35/57 F
B01D46/00 302
C04B38/00 303Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2022052934
(22)【出願日】2022-03-29
(65)【公開番号】P2023145986
(43)【公開日】2023-10-12
【審査請求日】2024-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 文彦
(72)【発明者】
【氏名】栗本 雄大
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-254034(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132005(WO,A1)
【文献】特表2007-533910(JP,A)
【文献】国際公開第01/053232(WO,A1)
【文献】特開2002-326035(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0130381(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/00-41/04
46/00-46/90
53/02-53/12
53/73
53/86-53/90
53/94,53/96
B01J 20/00-20/28
20/30-20/34
21/00-38/74
C04B 38/00-38/10
A61L 9/00- 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側の端部又は前記流出端面側の端部のいずれか一方に配設された多孔質の目封止部と、を備え、
前記ハニカム構造体は、前記セルの延びる方向に直交する断面において、当該断面の重心Oを含む中央部と、当該中央部の外側に位置する外周部と、を含み、
前記中央部における前記隔壁の厚さT1が、0.20~0.28mmであり、
前記外周部における前記隔壁の厚さT2が、前記中央部における前記隔壁の厚さT1の73~90%であり、
前記外周部は、前記断面の外周縁を起点として、当該断面の前記重心Oから前記外周縁までの半径rに対して6~12%の範囲であり、
前記ハニカム構造体のセル密度が、31~38個/cm であり、
前記隔壁の気孔率が、52~60%である、ハニカムフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカムフィルタに関する。更に詳しくは、低圧力損失であるとともに、排ガス浄化触媒を担持した際に優れた浄化性能を実現することが可能なハニカムフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のエンジン等の内燃機関より排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタや、CO,HC,NOxなどの有毒なガス成分を浄化する装置として、ハニカム構造体を用いたハニカムフィルタが知られている(特許文献1参照)。ハニカム構造体は、コージェライトなどの多孔質セラミックスによって構成された隔壁を有し、この隔壁によって複数のセルが区画形成されたものである。ハニカムフィルタは、上述したハニカム構造体に対して、複数のセルの流入端面側の開口部と流出端面側の開口部とを交互に目封止するように目封止部を配設したものである。即ち、ハニカムフィルタは、流入端面側が開口し且つ流出端面側が目封止された流入セルと、流入端面側が目封止され且つ流出端面側が開口した流出セルとが、隔壁を挟んで交互に配置された構造となっている。そして、ハニカムフィルタにおいては、多孔質の隔壁が、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタの役目を果たしている。以下、排ガスに含まれる粒子状物質を、「PM」ということがある。「PM」は、「particulate matter」の略である。
【0003】
ハニカムフィルタによる排ガスの浄化は、以下のようにして行われる。まず、ハニカムフィルタは、その流入端面側が、排ガスが排出される排気系の上流側に位置するように配置される。排ガスは、ハニカムフィルタの流入端面側から、流入セルに流入する。そして、流入セルに流入した排ガスは、多孔質の隔壁を通過し、流出セルへと流れ、ハニカムフィルタの流出端面から排出される。多孔質の隔壁を通過する際に、排ガス中のPM等が捕集され除去される。また、このようなハニカムフィルタには、PMの酸化(燃焼)を促進するための酸化触媒や、NOxなどの有害成分を浄化する排ガス浄化触媒などが担持されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-149510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動車のエンジンから発生するPMを捕集除去するためにハニカムフィルタを配置すると圧力損失が高くなるという問題があった。
【0006】
また、ハニカムフィルタによって排ガス中のPMの除去を継続して行うと、ハニカムフィルタの内部にPMが堆積して、ハニカムフィルタの圧力損失が大きくなる。そこで、ハニカムフィルタを用いた浄化装置においては、自動又は手動操作により、ハニカムフィルタの内部に堆積したPMを燃焼させることで、ハニカムフィルタの圧力損失が過大になることを防いでいる。以下、ハニカムフィルタの内部に堆積したPMを燃焼させる操作を、ハニカムフィルタの「再生操作」ということがある。ハニカムフィルタの再生操作では、ハニカムフィルタの内部に堆積したPMを強制的に燃焼させるため、ハニカムフィルタの内部が高温状態となる。このため、ハニカムフィルタの熱容量が小さ過ぎると、再生操作時の発熱によりハニカムフィルタに破損が生じるという懸念があった。
【0007】
ハニカムフィルタの圧力損失を低減する方法として、隔壁の厚さを薄くする方法などが考えられる。一方で、ハニカムフィルタの熱容量を増加させる方法として、隔壁の厚さを厚くする方法などが考えられる。但し、隔壁の厚さを薄くすると、濾過材として機能する隔壁の厚さが薄くなるため、PMに対する捕集性能が低下してしまうという問題があった。一方で、隔壁の厚さを厚くすると、ハニカムフィルタの圧力損失が増加することや、排ガス浄化触媒などの各種触媒を担持した際に、重量増加により触媒の早期活性化が阻害され、触媒反応による十分な浄化性能が得られ難くなるといった問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明によれば、低圧力損失であるとともに、排ガス浄化触媒を担持した際に優れた浄化性能を実現することが可能なハニカムフィルタが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示す、ハニカムフィルタが提供される。
【0010】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを取り囲むように配置された多孔質の隔壁を有する柱状のハニカム構造体と、
前記セルの前記流入端面側の端部又は前記流出端面側の端部のいずれか一方に配設された多孔質の目封止部と、を備え、
前記ハニカム構造体は、前記セルの延びる方向に直交する断面において、当該断面の重心Oを含む中央部と、当該中央部の外側に位置する外周部と、を含み、
前記中央部における前記隔壁の厚さT1が、0.17~0.32mmであり、
前記外周部における前記隔壁の厚さT2が、前記中央部における前記隔壁の厚さT1の70~90%であり、
前記外周部は、前記断面の外周縁を起点として、当該断面の前記重心Oから前記外周縁までの半径rに対して6~12%の範囲である、ハニカムフィルタ。
【0011】
[2] 前記ハニカム構造体のセル密度が、30~63個/cmである、前記[1]に記載のハニカムフィルタ。
【0012】
[3] 前記隔壁の気孔率が、45~65%である、前記[1]又は[2]に記載のハニカムフィルタ。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハニカムフィルタは、低圧力損失であるとともに、排ガス浄化触媒を担持した際に優れた浄化性能を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。
図3図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。
図4図2のPで示す破線で囲われた範囲を拡大した拡大平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0016】
(1)ハニカムフィルタ:
本発明のハニカムフィルタの一の実施形態は、図1図4に示すようなハニカムフィルタ100である。ここで、図1は、本発明のハニカムフィルタの一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカムフィルタの流入端面側を示す平面図である。図3は、図2のA-A’断面を模式的に示す断面図である。図4は、図2のPで示す破線で囲われた範囲を拡大した拡大平面図である。
【0017】
図1図4に示すように、本実施形態のハニカムフィルタ100は、ハニカム構造体4と、目封止部5と、を備えている。ハニカム構造体4は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を取り囲むように配置された多孔質の隔壁1を有する柱状のものである。ハニカムフィルタ100において、ハニカム構造体4は、柱状を呈し、その外周側面に、外周壁3を更に有している。即ち、外周壁3は、格子状に配設された隔壁1を囲繞するように配設されている。
【0018】
目封止部5は、それぞれのセル2の流入端面11側又は流出端面12側の開口部に配設されている。図1図4に示すハニカムフィルタ100においては、所定のセル2の流入端面11側の端部の開口部、及び残余のセル2の流出端面12側の端部の開口部に、目封止部5がそれぞれ配設されている。流出端面12側の開口部に目封止部5が配設され、流入端面11側が開口したセル2を、流入セル2aとする。また、流入端面11側の開口部に目封止部5が配設され、流出端面12側が開口したセル2を、流出セル2bとする。流入セル2aと流出セル2bとは、隔壁1を隔てて交互に配設されていることが好ましい。そして、それによって、ハニカムフィルタ100の両端面に、目封止部5と「セル2の開口部」とにより、市松模様が形成されていることが好ましい。
【0019】
ハニカム構造体4は、セル2の延びる方向に直交する断面において、当該断面の重心Oを含む中央部15と、この中央部15の外側に位置する外周部16と、を含む。例えば、図2及び図3に示すように、ハニカム構造体4の上記断面の重心Oを含み、当該重心Oから外周までの一定の範囲が「中央部15」となり、この中央部15よりも外周側の範囲が「外周部16」となる。
【0020】
本実施形態のハニカムフィルタ100は、このような中央部15及び外周部16における隔壁1の構成において、特に主要な特性を有している。即ち、本実施形態のハニカムフィルタ100は、中央部15における隔壁1の厚さT1が、0.17~0.32mmであり、且つ、外周部16における隔壁1の厚さT2が、中央部15における隔壁1の厚さT1の70~90%である。そして、外周部16は、ハニカム構造体4の上記断面の外周縁を起点として、当該断面の重心Oから外周縁までの半径rに対して6~12%の範囲である。このように構成することによって、低圧力損失であるとともに、排ガス浄化触媒を担持した際に優れた浄化性能を実現することができる。即ち、外周部16における隔壁1の厚さT2を、中央部15における隔壁1の厚さT1よりも薄くすることで、ハニカムフィルタ100の重量が軽くなり、排ガス浄化触媒を担持した際に優れた浄化性能を実現することができる。更に、外周部16における隔壁1の厚さT2を薄くすることで、ハニカムフィルタ100におけるセル2の開口率が高くなり、圧力損失の低減も期待することができる。一方で、中央部15における隔壁1の厚さTを0.17~0.32mmとすることで、PMに対する捕集性能の低下を有効に抑制することができる。
【0021】
中央部15における隔壁1の厚さT1及び外周部16における隔壁1の厚さT2は、例えば、走査型電子顕微鏡又はマイクロスコープ(microscope)を用いて測定することができる。隔壁1の厚さT1,T2を測定する際は、セル2の形状が多角形の場合、当該多角形の一辺の中間点に相当する位置における隔壁1の厚さを測定することとする。具体的には、中央部15における隔壁1の厚さT1は、以下の方法によって求めることができる。まず、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向に直交する断面において、当該断面の外周縁を起点として、当該断面の重心Oから外周縁までの半径rに対して50~100%の範囲の隔壁1の厚さを、上記半径rの5%毎に計10点測定する。このように測定した10点の隔壁1の厚さの平均値を「中央部15における隔壁1の厚さT1」とする。次に、中央部15と外周部16との境界を以下のようにして規定する。まず、ハニカム構造体4の上記断面の外周縁から半径rの1%毎に隔壁1の厚さを測定し、隔壁1の厚さが上記T1の厚さの90%を初めて超えた箇所の1つ手前の測定点(測定位置)を「中央部15と外周部16との境界」とする。このようにして中央部15と外周部16との境界を定めた後、改めて、外周部16における隔壁1の厚さを上記断面の外周縁から半径rの1%毎に測定し、その平均値を「外周部16における隔壁1の厚さT2」とする。以下、外周部16における隔壁1を、「外周隔壁1b」ということがある。また、中央部15における隔壁1を、「中央隔壁1a」ということがある。外周隔壁1bの厚さT2は、外周部16内において略一定の厚さであることが好ましい。また、中央隔壁1aの厚さT1についても、中央部15内において略一定の厚さであることが好ましい。例えば、外周隔壁1bの厚さT2は、外周部16内において±0.012mm以内の厚さであることが好ましい。また、中央隔壁1aの厚さT1は、中央部15内において±0.012mm以内の厚さであることが好ましい。
【0022】
中央隔壁1aの厚さT1は、0.17~0.32mmであればよいが、例えば、0.20~0.30mmであることが好ましく、0.20~0.28mmであることが更に好ましい。例えば、中央隔壁1aの厚さT1が薄すぎると、PMに対する捕集性能が低下してしまうことがある。一方で、中央隔壁1aの厚さT1が厚すぎると、圧力損失が上昇してしまう。
【0023】
外周隔壁1bの厚さT2は、中央隔壁1aの厚さT1の70~90%であればよいが、73~90%であることが好ましく、75~90%であることが更に好ましい。外周隔壁1bの厚さT2が、中央隔壁1aの厚さT1の70%未満であると、中央隔壁1aの厚さT1が薄くなることで、排ガスが隔壁1を透過する際の触媒との接触面積が小さくなるため、浄化性能の改善効果が期待できない。一方で、外周隔壁1bの厚さT2が、中央隔壁1aの厚さT1の90%を超えると、ハニカムフィルタ100の重量が十分に低下せず、浄化性能の十分な改善効果が期待できない。また、ハニカムフィルタ100におけるセル2の開口率が低くなり、圧力損失も増大してしまう。
【0024】
外周部16は、ハニカム構造体4の断面の外周縁を起点として、当該断面の重心Oから外周縁までの半径rに対して6~12%の範囲である。外周部16の範囲が上記数値範囲以外であると、低圧力損失と高浄化性能の両立が困難となる。ここで、ハニカム構造体4の断面の「重心O」とは、当該断面の幾何学的な意味での重心(別言すれば、幾何中心)のことをいう。
【0025】
ハニカム構造体4のセル密度は、30~63個/cmであることが好ましく、30~62個/cmであることが更に好ましく、31~62個/cmであることが特に好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタ100を、自動車のエンジンから排出される排ガスを浄化するためのフィルタとして好適に利用することができる。なお、セル密度が小さ過ぎると、圧力損失が増大することがある。一方で、セル密度が大き過ぎると、浄化性能が低下することがある。
【0026】
隔壁1の気孔率は、45~65%であることが好ましく、46~63%であることが更に好ましく、46~61%であることが特に好ましい。このように構成することによって、ハニカムフィルタ100を、自動車のエンジンから排出される排ガスを浄化するためのフィルタとして好適に利用することができる。隔壁1の気孔率は、水銀圧入法によって測定された値である。隔壁1の気孔率の測定は、例えば、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて行うことができる。隔壁1の気孔率の測定は、ハニカム構造体4から隔壁1の一部を切り出して試料片とし、このようにして得られた試料片を用いて行うことができる。なお、隔壁1の気孔率は、ハニカム構造体4の全域において一定の値であることが好ましい。
【0027】
隔壁1によって区画されるセル2の形状については特に制限はない。例えば、セル2の延びる方向に直交する断面における、セル2の形状としては、多角形を挙げることができる。多角形としては、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等を挙げることができる。なお、セル2の形状は、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形であることが好ましく、四角形、八角形であることが更に好ましい。
【0028】
ハニカム構造体4の外周壁3は、隔壁1と一体的に構成されたものであってもよいし、隔壁1の外周側に外周コート材を塗工することによって形成した外周コート層であってもよい。例えば、図示は省略するが、外周コート層は、製造時において、隔壁と外周壁とを一体的に形成した後、形成された外周壁を、研削加工等の公知の方法によって除去した後、隔壁の外周側に設けることができる。
【0029】
ハニカム構造体4の形状については特に制限はない。ハニカム構造体4の形状としては、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、楕円形、多角形等の柱状を挙げることができる。
【0030】
ハニカム構造体4の大きさ、例えば、流入端面11から流出端面12までの長さや、ハニカム構造体4のセル2の延びる方向に直交する断面の大きさについては、特に制限はない。ハニカムフィルタ100を、排ガス浄化用のフィルタとして用いた際に、最適な浄化性能を得るように、各大きさを適宜選択すればよい。
【0031】
隔壁1の材料については特に制限はない。例えば、隔壁1の材料として、炭化珪素、コージェライト、珪素-炭化珪素複合材料、コージェライト-炭化珪素複合材料、窒化珪素、ムライト、アルミナ及びチタン酸アルミニウムから構成される群から選択される少なくとも1種を含む材料を挙げることができる。隔壁1を構成する材料は、上記群に列挙された材料を、90質量%以上含む材料であることが好ましく、92質量%以上含む材料であることが更に好ましく、95質量%以上含む材料であることが特に好ましい。なお、珪素-炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、珪素を結合材として形成された複合材料である。また、コージェライト-炭化珪素複合材料とは、炭化珪素を骨材とし、コージェライトを結合材として形成された複合材料である。
【0032】
目封止部5の材質は、隔壁1の材質として好ましいとされた材質であることが好ましい。目封止部5の材質と隔壁1の材質とは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0033】
ハニカムフィルタ100は、複数のセル2を区画形成する隔壁1に排ガス浄化用の触媒が担持されていることが好ましい。隔壁1に触媒を担持するとは、隔壁1の表面及び隔壁1に形成された細孔の内壁に、触媒がコーティングされることをいう。このように構成することによって、排ガス中のCOやNOxやHCなどを触媒反応によって無害な物質にすることができる。また、捕集した煤等のPMの酸化を促進させることができる。本実施形態のハニカムフィルタ100においては、多孔質の隔壁1の細孔の内部に触媒が担持されていることが特に好ましい。このように構成することによって、低触媒量時の触媒担持後において捕集性能の向上及び圧力損失の低減の両立を図ることができる。更に、触媒担持後において、ガスの流れが均一となることで、浄化性能の向上も期待することができる。
【0034】
隔壁1に担持する触媒については特に制限はない。例えば、白金族元素を含有する触媒であって、アルミニウム、ジルコニウム、及びセリウムのうちの少なくとも一種の元素の酸化物を含む触媒を挙げることができる。
【0035】
(2)ハニカムフィルタの製造方法:
本発明のハニカムフィルタを製造する方法については、特に制限はなく、例えば、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造体を作製するための可塑性の坏土を調製する。ハニカム構造体を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、造孔材、及び水を添加することによって調製することができる。
【0036】
次に、このようにして得られた坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及びこの隔壁を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を作製する。押出成形においては、押出成形用の口金として、坏土の押出面に、成形するハニカム成形体の反転形状となるスリットが設けられた口金を用いることができる。特に、押出成形用の口金として、中央隔壁1aの厚さT1が0.17~0.32mmとなり、且つ、外周隔壁1bの厚さT2が、中央隔壁1aの厚さT1の70~90%となるようなスリットが設けられた口金を用いることが好ましい。次に、得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥する。
【0037】
次に、乾燥したハニカム成形体のセルの開口部に目封止部を配設する。具体的には、例えば、まず、目封止部を形成するための原料を含む目封止材を調製する。次に、ハニカム成形体の流入端面に、流入セルが覆われるようにマスクを施す。次に、先に調製した目封止材を、ハニカム成形体の流入端面側のマスクが施されていない流出セルの開口部に充填する。その後、ハニカム成形体の流出端面についても、上記と同様の方法で、流入セルの開口部に目封止材を充填する。
【0038】
次に、セルのいずれか一方の開口部に目封止部を配設したハニカム成形体を焼成して、ハニカムフィルタを作製する。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、造孔材を2質量部、分散媒を2質量部、有機バインダを7質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては、水を使用した。有機バインダとしては、メチルセルロース(Methylcellulose)を使用した。分散剤としては、デキストリン(Dextrin)を使用した。造孔材としては、平均粒子径20μmの吸水性ポリマーを使用した。本実施例において、各原料の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)のことである。
【0041】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形状のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。
【0042】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0043】
次に、目封止部を形成するための目封止材を調製した。その後、目封止材を用いて、乾燥したハニカム成形体の流入端面側の所定のセルの開口部、及び流出端面側の残余のセルの開口部に目封止部を形成した。
【0044】
次に、各目封止部を形成したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカムフィルタを製造した。
【0045】
実施例1のハニカムフィルタは、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。流入端面及び流出端面の直径の大きさは、267mmであった。また、ハニカムフィルタのセルの延びる方向の長さは、178mmであった。実施例1のハニカムフィルタは、中央隔壁の厚さT1が0.26mmで、外周隔壁の厚さT2が0.19mmであった。各隔壁の厚さを、表1に示す。なお、「中央隔壁の厚さT1」及び「外周隔壁の厚さT2」は、これまでに説明した測定方法に準じて測定を行った。中央隔壁の厚さT1に対する外周隔壁の厚さT2の比(即ち、T2/T1×100%)は、73%であった。結果を、表1の「隔壁厚さ比(T2/T1×100%)」の欄に示す。外周隔壁の厚さT2が0.19mmとなる外周部は、ハニカム構造体の断面の外周縁を起点として、当該断面の重心Oから外周縁までの半径rに対して11%の範囲であった。結果を、表1の「外周部の半径rに対する存在範囲」の欄に示す。
【0046】
また、実施例1のハニカムフィルタは、ハニカム構造体を構成する隔壁の気孔率が52%であり、セル密度が47個/cmであった。表1に、各結果を示す。隔壁の気孔率は、Micromeritics社製のオートポア9500(商品名)を用いて測定した。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1のハニカムフィルタについて、以下の方法で、「圧力損失」及び「浄化性能」の評価を行った。表1に各結果を示す。
【0049】
[圧力損失]
ハニカムフィルタの流入端面側から、流量が20Nm/minとなるように空気を通気し、ハニカムフィルタの流入端面側と流出端面側との差圧を測定した。測定した差圧を、ハニカムフィルタの圧力損失とし、以下の下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。なお、下記評価基準において、「圧力損失比(%)」とは、比較例1のハニカムフィルタの圧力損失の値を100%とした場合における、各ハニカムフィルタの圧力損失の比率(%)のことである。
評価「優」:圧力損失比(%)が、80%以下である場合を「優」とする。
評価「良」:圧力損失比(%)が、80%を超え、90%以下である場合を「良」とする。
評価「可」:圧力損失比(%)が、90%を超え、100%以下である場合を「可」とする。
評価「不可」:圧力損失比(%)が、100%を超える場合を「不可」とする。
【0050】
[浄化性能]
まず、ハニカムフィルタに、NOxを含む試験用ガスを流した。その後、このハニカムフィルタから排出されたガスのNOx量をガス分析計で分析した。なお、ハニカムフィルタに流入させる試験用ガスの温度を200℃とした。ハニカムフィルタ及び試験用ガスは、ヒーターにより温度調整した。ヒーターは、赤外線イメージ炉を用いた。試験用ガスは、窒素に、二酸化炭素5体積%、酸素14体積%、一酸化窒素350ppm(体積基準)、アンモニア350ppm(体積基準)及び水10体積%を混合させたガスを用いた。この試験用ガスに関しては、水と、その他のガスを混合した混合ガスとを別々に準備しておき、試験を行う時に配管中でこれらを混合させて用いた。ガス分析計は、「HORIBA社製、MEXA9100EGR(商品名)」を用いた。また、試験用ガスがハニカムフィルタに流入するときの空間速度は、100,000(時間-1)とした。試験用ガスのNOx量と、ハニカムフィルタから排出されたガスのNOx量から、ハニカムフィルタのNOx浄化率を測定した。そして、各ハニカムフィルタの浄化性能比(%)を算出し、以下の下記評価基準に基づき、各実施例及び比較例のハニカムフィルタの評価を行った。なお、下記評価基準において、「浄化性能比(%)」とは、比較例1のハニカムフィルタのNOx浄化率の値を100%とした場合における、各ハニカムフィルタのNOx浄化率の比率(%)のことである。
評価「優」:浄化性能比(%)が、110%以上である場合を「優」とする。
評価「良」:浄化性能比(%)が、105%以上、110%未満である場合を「良」とする。
評価「可」:浄化性能比(%)が、100%以上、105%未満である場合を「可」とする。
評価「不可」:浄化性能比(%)が、100%未満の場合を「不可」とする。
【0051】
(実施例2~6及び比較例1~6)
ハニカムフィルタの構成を、表1に示すように変更した以外は、実施例1のハニカムフィルタと同様の方法でハニカムフィルタを作製した。
【0052】
実施例2~6及び比較例1~6のハニカムフィルタについても、実施例1と同様の方法で、「圧力損失」及び「浄化性能」の評価を行った。表1に各結果を示す。
【0053】
(結果)
実施例1~6のハニカムフィルタは、圧力損失、及び浄化性能の評価において、基準となる比較例1のハニカムフィルタの各性能を上回るものであることが確認できた。
【0054】
比較例2のハニカムフィルタは、隔壁厚さ比が92%であり、中央隔壁と外周隔壁の厚さの差が非常に小さいものであった。また、比較例2のハニカムフィルタは、外周部の存在範囲も5%と非常に狭いものであった。このような比較例2のハニカムフィルタは、圧力損失、及び浄化性能の両評価結果が「不可」であった。
【0055】
比較例3のハニカムフィルタは、外周部の存在範囲が13%と非常に広いものであった。このような比較例3のハニカムフィルタは、浄化性能の評価結果が「不可」であった。
【0056】
比較例4のハニカムフィルタは、隔壁厚さ比が69%であり、中央隔壁と外周隔壁の厚さの差が非常に大きいものであった。このような比較例4のハニカムフィルタは、浄化性能の評価結果が「不可」であった。
【0057】
比較例5のハニカムフィルタは、中央隔壁の厚さT1が0.33mmと厚くなり過ぎたため、圧力損失の評価結果が「不可」であった。
【0058】
比較例6のハニカムフィルタは、外周部の存在範囲が5%と非常に狭いものであった。このような比較例のハニカムフィルタは、圧力損失の評価結果が「不可」であった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のハニカムフィルタは、排ガス中の粒子状物質を捕集するフィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:隔壁、1a:中央隔壁、1b:外周隔壁、2:セル、2a:流入セル、2b:流出セル、3:外周壁、4:ハニカム構造体、5:目封止部、11:流入端面、12:流出端面、15:中央部、16:外周部、100:ハニカムフィルタ、T1:厚さ(中央隔壁の厚さ)、T2:厚さ(外周隔壁の厚さ)。
図1
図2
図3
図4