(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】リン脂質
(51)【国際特許分類】
C07F 9/10 20060101AFI20250925BHJP
A23J 7/00 20060101ALI20250925BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20250925BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20250925BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20250925BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20250925BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250925BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20250925BHJP
【FI】
C07F9/10 B CSP
A23J7/00
A61K9/14
A61K31/713
A61K47/24
A61K47/28
A61K48/00
C12N15/113 Z
(21)【出願番号】P 2022567497
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022530
(87)【国際公開番号】W WO2022259958
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2025-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2021097190
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231497
【氏名又は名称】日本精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 康治
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄希
(72)【発明者】
【氏名】横内 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】朝山 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】深田 尚文
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/048868(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/055340(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/054955(WO,A1)
【文献】CAS REGISTRY NO. 2389048-38-6,DATABASE REGISTRY, online,2019年12月10日,[2022.06.24検索], Retrieved from: STN
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F9/00-19/00
C07H1/00-99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は下記一般式(i)又は(ii)を示す。)
【化2】
(式中、pは1又は2を示し、qは1又は2を示し、rは1~4の整数を示す。)
【化3】
(式中、sは1~3の整数を示す。R
2は水素原子又は炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質。
【請求項2】
前記mは13~21の自然数を示し、前記nは11~12の自然数を示す、請求項1に記載のリン脂質。
【請求項3】
下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
1は前記と同様である。)
で表される、請求項1に記載のリン脂質。
【請求項4】
請求項1に記載のリン脂質(リン脂質A)を含有する、脂質粒子。
【請求項5】
薬物を内包する、請求項4に記載の脂質粒子。
【請求項6】
前記薬物がポリヌクレオチドである、請求項5に記載の脂質粒子。
【請求項7】
ステロールを含有する、請求項4に記載の脂質粒子。
【請求項8】
更に、前記リン脂質A以外のリン脂質(リン脂質B)を含有する、請求項4に記載の脂質粒子。
【請求項9】
請求項1に記載のリン脂質を含有する、アルコール溶液。
【請求項10】
前記アルコール溶液中のアルコールがエタノールである、請求項9に記載のアルコール溶液。
【請求項11】
請求項9に記載のアルコール溶液と酸性水溶液とを混合する工程を含む、脂質粒子の製造方法。
【請求項12】
請求項4に記載の脂質粒子を含有する、医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、small interfering RNA(siRNA)を含有する医薬品やmessenger RNA(mRNA)を含有する遺伝子ワクチンの開発が行われている。外部から投与したRNAが生体内で本来の活性を示すには極めて高度なデリバリーシステムを必要とする。これは、RNAが速やかに酵素分解を受けることや細胞膜をほとんど通過しないことなどに起因する。そのため、RNAを含有する医薬品やワクチンの実用化には、必然的にデリバリーシステムの開発が伴う。
【0003】
RNA等の薬物のデリバリーシステムとしては、薬物を脂質粒子に封入した状態で投与することが知られている。ただ、負電荷を有する核酸を投与する場合、通常は、静電的相互作用を起こすべく正電荷を有する脂質が用いられるので、細胞毒性の懸念があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者はチャージリバーシブル性を有するリン脂質が、siRNA封入性及び生理的pHでの安全性を有することに着目した。また、当該チャージリバーシブル性を有するリン脂質が体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さない脂質粒子である場合に、細胞毒性を低減できることにも着目した。
【0006】
本発明は、チャージリバーシブル性を有し、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、低細胞毒性を示すリン脂質を提供することを目的とする。好ましくは、本発明は、さらに、薬物をより効率的に内封でき、且つ/或いは薬物のより効率的な送達に適したサイズを有する脂質粒子、及び該脂質粒子を形成するための脂質を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を進めた結果、特定の構造であるリン脂質であれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記のリン脂質等に関する。
1.一般式(1):
【化1】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は下記一般式(i)又は(ii)を示す。)
【化2】
(式中、pは1又は2を示し、qは1又は2を示し、rは1~4の整数を示す。)
【化3】
(式中、sは1~3の整数を示す。R
2は水素原子又は炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質。
2.前記mは13~21の自然数を示し、前記nは11~12の自然数を示す、項1に記載のリン脂質。
3.下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
1は前記と同様である。)
で表される、項1に記載のリン脂質。
4.項1に記載のリン脂質(リン脂質A)を含有する、脂質粒子。
5.薬物を内包する、項4に記載の脂質粒子。
6.前記薬物がポリヌクレオチドである、項5に記載の脂質粒子。
7.ステロールを含有する、項4に記載の脂質粒子。
8.更に、前記リン脂質A以外のリン脂質(リン脂質B)を含有する、項4に記載の脂質粒子。
9.項1に記載のリン脂質を含有する、アルコール溶液。
10.前記アルコール溶液中のアルコールがエタノールである、項9に記載のアルコール溶液。
11.項9に記載のアルコール溶液と酸性水溶液とを混合する工程を含む、脂質粒子の製造方法。
12.項4に記載の脂質粒子を含有する、医薬。
【0009】
また、本発明は、下記のリン脂質等に関する。
1.一般式(1):
【化5】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X
1、X
2、X
3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R
1は下記一般式(i)又は(ii)を示す。)
【化6】
(式中、pは1又は2を示し、qは1又は2を示し、rは1~4の整数を示す。)
【化7】
(式中、sは1~3の整数を示す。R
2は水素原子又は炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質。
2.前記mは13~21の自然数を示し、前記nは11~12の自然数を示す、項1に記載のリン脂質。
3.下記一般式(2)
【化8】
(式中、R
1は前記と同様である。)
で表される、項1又は2に記載のリン脂質。
4.項1~3のいずれかに記載のリン脂質(リン脂質A)を含有する、脂質粒子。
5.薬物を内包する、項4に記載の脂質粒子。
6.前記薬物がポリヌクレオチドである、項5に記載の脂質粒子。
7.ステロールを含有する、項4~6のいずれかに記載の脂質粒子。
8.更に、前記リン脂質A以外のリン脂質(リン脂質B)を含有する、項4~7のいずれかに記載の脂質粒子。
9.項1~3のいずれかに記載のリン脂質を含有する、アルコール溶液。
10.前記アルコール溶液中のアルコールがエタノールである、項9に記載のアルコール溶液。
11.項9又は10に記載のアルコール溶液と酸性水溶液とを混合する工程を含む、脂質粒子の製造方法。
12.項4~8のいずれかに記載の脂質粒子を含有する、医薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリン脂質は、チャージリバーシブル性を有し、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、低細胞毒性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で合成したDHSM-DEDAのNMRチャートを示す。
【
図2】実施例2で合成したDHSM-PPZのNMRチャートを示す。
【
図3】比較例1で合成したDOP-DEDAのNMRチャートを示す。
【
図4】試験例1-2で測定したζ-Potentialの測定結果を示す。凡例に、脂
質として使用したリン脂質
Aを示す。横軸に測定時のpHを示す。
【
図5】試験例2-2のLDH assayの結果を示す。
【
図6】試験例2-2のWST-8assayの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0013】
1.脂質含有組成物
本発明は、その一態様において、一般式(1):
【0014】
【0015】
(式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示し、X1、X2、X3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。R1は下記一般式(i)又は(ii)を示す。)
【0016】
【0017】
(式中、pは1又は2を示し、qは1又は2を示し、rは1~4の整数を示す。)
【0018】
【0019】
(式中、sは1~3の整数を示す。R2は水素原子又は炭化水素基を示す。)
で表されるリン脂質(本明細書において、「本発明のリン脂質」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0020】
上記一般式(1)において、式中、mは9~25の自然数を示し、nは10~15の自然数を示す。mは13~21の自然数であることが好ましく、14~18の自然数であることがより好ましく、15であることが更に好ましい。また、nは11~12の自然数であることが好ましく、12であることがより好ましい。また、mは13~21の自然数であり、且つ、nは11~12の自然数であることが更に好ましい。
【0021】
上記一般式(1)において、式中、X1、X2、X3は、同一又は異なって、H又はOHを示す。X1、X2、X3は、Hを示すことが好ましい。
【0022】
本発明のリン脂質は、下記一般式(2)で表わされる化合物であることが好ましい。
【化12】
【0023】
上記一般式(2)において、R1は上記一般式(1)のR1と同一である。
【0024】
上記一般式(1)及び(2)において、R1は下記一般式(i)又は(ii)を示す。
【0025】
【0026】
【0027】
上記一般式(i)中、pは1又は2を示し、qは1又は2を示す。pは2であることが好ましい。また、qは2であることが好ましい。また、p及びqは、共に2であることが好ましい。
【0028】
上記一般式(i)中、rは1~4の整数を示す。低細胞毒性により一層優れる観点から、rは1であることが好ましい。また、薬物の内封率がより一層向上する点で、rは2であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(ii)中、sは1~3の整数を示す。sは2であることが好ましい。
【0030】
上記一般式(ii)中、R2は水素原子又は炭化水素基を示す。R2で示される炭化水素基は、一価の炭化水素基である限り特に制限されない。当該炭化水素基は、好ましくは鎖式炭化水素基であり、より好ましくはアルキル基である。炭化水素基の炭素数は、特に制限されないが、例えば1~8、好ましくは1~6、より好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2、とりわけ好ましくは1である。
【0031】
R2は水素原子又はアルキル基である好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)のリン脂質には、塩の形態も包含される。塩は、該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩;並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; アンモニアとの塩;モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0033】
本発明のリン脂質は、様々な方法で合成することができる。本発明の化合物は、例えば以下の反応式:
【0034】
【0035】
(式中、m、n、X1、X2、X3、及びR1は前記に同じである。)
に従って又は準じて合成することができる。
【0036】
本反応では、一般式(A)で表される化合物と一般式(B)で表される化合物とを、ホスホリパーゼD等の公知の酵素の存在下で反応させることで、一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0037】
一般式(B)で表される化合物の使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、1モル以上が好ましく、2モル以上がより好ましく、4モル以上が更に好ましく、8モル以上が特に好ましい。また、一般式(B)で表される化合物の使用量は、収率等の観点から、一般式(A)で表される化合物1モルに対して、20モル以下が好ましく、16モル以下がより好ましく、14モル以下が更に好ましい。
【0038】
本反応は、溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、酵素の活性を発揮できる溶媒である限り特に制限されない。溶媒としては、各種緩衝液が好適に使用される。緩衝液としては、好ましくは酢酸緩衝液が挙げられる。溶媒のpHは、好ましくは4~7、より好ましくは5~6である。本反応系においては、上記水系溶媒の他にも、一般式(A)で表される化合物を溶解させるために各種有機溶媒(例えば、クロロホルム等)を含んでいてもよい。
【0039】
本反応は、典型的には、一般式(A)で表される化合物の有機溶媒溶液と一般式(B)で表される化合物の水系溶媒溶液とを混合し、酵素を添加することにより行われる。
【0040】
本反応においては、上記成分以外にも、反応の進行を著しく損なわない範囲で、適宜添加剤を使用することもできる。
【0041】
反応温度は、酵素の活性を発揮できる温度である限り特に制限されず、通常20~50℃、好ましくは35~45℃である。
【0042】
反応時間は、酵素の活性を発揮できる時間である限り特に制限されず、通常6時間~72時間、好ましくは12時間~24時間である。
【0043】
反応終了後、溶媒を留去し、生成物をクロマトグラフィー法、再結晶法等の通常の方法で単離し、精製することができる。また、生成物の構造は、元素分析、MS(FD-MS)分析、IR分析、1H-NMR、13C-NMR等により同定することができる。
【0044】
近年、脂質ナノ粒子の安全性を高めるため、イオナイザブル脂質が開発され、ナノ粒子化されている。イオナイザブル脂質は酸性で正に荷電するが、そのときの実効電荷の変化は0→+1である。一方、本発明のリン脂質(チャージリバーシブル脂質)の実効電荷の変化は、-1~+2の範囲であり得、着眼点が異なる。本発明のリン脂質は中性条件下でもイオン化はしており、イオナイザブル脂質とは物理化学的性質が異なり得る。本発明の脂質は、中性条件下でも両親媒性脂質としてふるまうことも可能であり、それ故により高い安定性とより高い安全性を期待できる。
【0045】
本発明のリン脂質を用いることにより、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さず、且つ内包する薬物のより効率的な効果発現が可能な脂質粒子を形成することができる。
【0046】
2.脂質粒子
本発明は、その一態様として、本発明のリン脂質(本明細書において、「リン脂質A」と示すこともある。)を含有する、脂質粒子(本明細書において、「本発明の脂質粒子」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0047】
本発明の脂質粒子は、粒子構成脂質として本発明のリン脂質が含まれる粒子である限り特に制限されない。脂質粒子に含まれる本発明のリン脂質は1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。本発明の脂質粒子としては、例えば本発明のリン脂質を含む両親媒性の脂質が外層を構成し、且つ該脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。該粒子としては、例えば外層が脂質一重膜からなる粒子、外層が脂質二重膜からなる粒子が挙げられ、好ましくは外層が脂質一重膜からなる粒子が挙げられ、より好ましくは外層の脂質一重膜において両親媒性脂質が親水性部分を外側に向けて並んでいる粒子が挙げられる。粒子の内層は、水相又は油相の均一な相からなるものでもよいが、1又は複数の逆ミセルを含むことが好ましい。
【0048】
本発明の脂質粒子の粒子径は、特に制限されない。該粒子径は、好ましくはナノサイズであり、具体的には例えば10~700 nm、好ましくは20~500 nm、より好ましくは40~200 nm、さらに好ましくは60~150 nmである。
【0049】
本発明の脂質粒子は、体液のpH(通常は、中性域)において正電荷を有さないことが好ましい。
【0050】
本発明の脂質粒子は、本発明のリン脂質以外に、粒子構成脂質として、他の脂質を含み得る。脂質の具体例としては、リン脂質、糖脂質、ステロール、飽和又は不飽和の脂肪酸等が例示される。
【0051】
リン脂質の具体例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリン等のホスファチジルコリン;ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジリノレオイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルパルミトイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルステアロイルホスファチジルグリセロール、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロール等のホスファチジルグリセロール;ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミン等のホスファチジルエタノールアミン;ホスファチジルセリン;ホスファチジン酸;ホスファチジルイノシトール;スフィンゴミエリン;カルジオリピン;卵黄レシチン;大豆レシチン;及びこれらの水素添加物等が例示される。これらは、PEG等の水溶性高分子で修飾されたものであってもよい。
【0052】
糖脂質の具体例としては、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等のグリセロ糖脂質;ガラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等のスフィンゴ糖脂質;ステアリルグルコシド、エステル化ステアリルグリコシド等が例示される。
【0053】
ステロールの具体例としては、コレステロール、コレステリルヘミスクシネート、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロール、フィトステロール、スチグマステロール、チモステロール、エルゴステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール等が例示される。特に、当該ステロールには、リポソーム膜を安定化させたり、リポソーム膜の流動性を調節したりする作用があるため、リポソーム膜の構成脂質として含まれていることが望ましい。
【0054】
飽和又は不飽和の脂肪酸の具体例としては、デカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、ドコサン酸等の炭素数10~22の飽和又は不飽和の脂肪酸が例示される。
【0055】
上記脂質は、1種単独で使用してもよいが、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本発明の脂質粒子は、好ましくは本発明のリン脂質以外のリン脂質(本明細書において、「リン脂質B」と示すこともある)及び/又はステロールを含み、より好ましくはリン脂質B及びステロールを含む。本発明のリン脂質が不飽和鎖式炭化水素基を有するリン脂質である場合、本発明の一態様において、リン脂質Bは飽和鎖式炭化水素基を有することが好ましい。リン脂質Bとしては、好ましくはホスファチジルコリンが挙げられ、特に好ましくはジパルミトイルホスファチジルコリンが挙げられる。また、リン脂質Bとしては、他にも、例えばジステアロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン等が挙げられる。ステロールとしては、好ましくはコレステロールが挙げられる。
【0057】
本発明の脂質粒子がリン脂質Bを含有する場合、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば15~100モル、好ましくは30~70モル、より好ましくは40~60モル、さらに好ましくは45~55モルである。或いは、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば5~70モル、好ましくは10~40モル、より好ましくは15~30モル、さらに好ましくは17~27モルである。或いは、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば400~500モル、好ましくは420~480モル、より好ましくは430~470モル、さらに好ましくは445~455モルである。
【0058】
本発明の脂質粒子がステロールを含有する場合、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば30~200モル、好ましくは60~140モル、より好ましくは80~120モル、さらに好ましくは90~110モル、よりさらに好ましくは95~105モルである。或いは、その含有量は、本発明のリン脂質100モルに対して、例えば250~600モル、好ましくは300~500モル、より好ましくは340~480モル、さらに好ましくは430~470モル、特に好ましくは445~455モルである。
【0059】
本発明の脂質粒子がリン脂質B及びステロールを含有する場合、リン脂質Bの含有量は、ステロール100モルに対して、例えば15~100モル、好ましくは30~70モル、より好ましくは40~60モル、さらに好ましくは45~55モルである。或いは、その含有量は、ステロール100モルに対して、例えば5~70モル、好ましくは10~40モル、より好ましくは15~30モル、さらに好ましくは17~27モルである。或いは、その含有量は、ステロール100モルに対して、例えば70~140モル、好ましくは80~130モル、より好ましくは90~120モル、さらに好ましくは95~105モルである。
【0060】
本発明のリン脂質と必要に応じて配合される他の脂質(好ましい態様においては、リン脂質B及びステロール)との合計含有量は、本発明の脂質粒子構成脂質100モル%に対して、例えば50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、よりさらに好ましくは99モル%以上である。
【0061】
本発明の脂質粒子においては、リン脂質の一部がPEG等の水溶性高分子で修飾されていることができる。PEG修飾されたリン脂質の含有量は、本発明の脂質粒子構成脂質100モル%に対して、例えば0~50モル%、好ましくは0~30モル%、より好ましくは0~20モル%、さらに好ましくは0~15モル%である。
【0062】
本発明の脂質粒子は、好ましくは薬物を内包する。薬物としては、特に制限されず、例えば、ポリヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、糖、低分子化合物等が挙げられる。薬物は、負電荷を有するものが好ましく、また水溶性のものが好ましい。このような薬物としては、ポリヌクレオチドを好適に採用できる。薬物の対象疾患としては、特に制限されないが、例えばがん(特に、固形がん)が挙げられる。
【0063】
ポリヌクレオチドとしては、薬物としての機能を発揮し得るものである限り特に制限されないが、例えばsiRNA、miRNA、アンチセンス核酸、mRNA、これらの発現ベクターや、タンパク質の発現ベクター、ゲノム編集用核酸(例えばガイドRNA、Casタンパク質発現ベクター、TALEN発現ベクター等)等が挙げられる。
【0064】
ポリヌクレオチドには、次に例示するように、公知の化学修飾が施されていてもよい。ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)を、例えば、ホスホロチオエート(PS)、メチルホスホネート、ホスホロジチオネート等の化学修飾リン酸残基に置換することができる。また、各リボヌクレオチドの糖(リボース)の2位の水酸基を、-OR(Rは、例えばCH3(2´-O-Me)、CH2CH2OCH3(2´-O-MOE)、CH2CH2NHC(NH)NH2、CH2CONHCH3、CH2CH2CN等を示す)に置換してもよい。さらに、塩基部分(ピリミジン、プリン)に化学修飾を施してもよく、例えば、ピリミジン塩基の5位へのメチル基やカチオン性官能基の導入、あるいは2位のカルボニル基のチオカルボニルへの置換などが挙げられる。さらには、リン酸部分やヒドロキシル部分が、例えば、ビオチン、アミノ基、低級アルキルアミン基、アセチル基等で修飾されたものなどを挙げることができるが、これに限定されない。また、ヌクレオチドの糖部の2´酸素と4´炭素を架橋することにより、糖部のコンフォーメーションをN型に固定したものであるBNA(LNA)等もまた、好ましく用いられ得る。
【0065】
薬物は、本発明の脂質粒子の内層に含まれることが好ましい。薬物がポリヌクレオチドである場合、薬物は、内層における逆ミセル内に含まれることが好ましい。
【0066】
本発明の脂質粒子構成脂質と薬物とのモル比(本発明の脂質粒子構成脂質/薬物、mol/mol)は、例えば薬物がsiRNA等のポリヌクレオチドである場合、例えば500以上、好ましくは1000以上、より好ましくは1500以上、さらに好ましくは1900以上、よりさらに好ましくは2500以上、特に好ましくは3200以上である。該モル比の上限は特に制限されず、例えば10000、7000、5000である。
【0067】
本発明の脂質粒子は、上記以外にも他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば膜安定化剤、荷電物質、抗酸化剤、膜タンパク質、ポリエチレングリコール(PEG)、抗体、ペプチド、糖鎖等が挙げられる。
【0068】
抗酸化剤は、膜の酸化防止のために含有させることができ、膜の構成成分として必要に応じて使用される。膜の構成成分として使用される抗酸化剤としては、例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、酢酸トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、ビタミンE、アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、エリソルビン酸、クエン酸等が例示される。
【0069】
膜タンパク質は、膜への機能付加又は膜の構造安定化を目的として含有させることができ、膜構成成分として必要に応じて使用される。膜タンパク質としては、例えば、膜表在性タンパク質、膜内在性タンパク質、アルブミン、組換えアルブミン等が挙げられる。
【0070】
他の成分の含有量は、本発明の脂質粒子100質量%に対して、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0071】
本発明の脂質粒子は、脂質粒子の公知の製造方法に従って又は準じて製造することができる。本発明の脂質粒子は、好適には、本発明のリン脂質を含有するアルコール溶液と酸性水溶液とを混合する工程(工程1)を含む方法によって、製造することができる。
【0072】
アルコール溶液の溶媒であるアルコールとしては、リン脂質を溶解可能なアルコールである限り特に制限されない。溶解性の観点から、アルコールとしては、好ましくはエタノール、2-プロパノール、t-ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、取扱い容易性、安全性等の観点から、エタノールが特に好ましく挙げられる。
【0073】
酸性水溶液は、溶媒である水の他に、通常は酸が含まれる。酸としては、例えば有機酸及び無機酸が挙げられ、好ましくは有機酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、マレイン酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、葉酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ケトグルタル酸、アジピン酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、オキサロ酢酸、リンゴ酸、イソクエン酸、クエン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、メロファン酸、プレーニト酸、ピロメリト酸、メリト酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、p-トルエンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸等が挙げられ、好ましくはクエン酸が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、ボロン酸、フッ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、クロム酸、過マンガン酸、アンバーリストが挙げられる。酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
酸性水溶液のpHは、好ましくは3~5である。
【0075】
酸性水溶液は水溶性薬物を含有することが好ましい。
【0076】
酸性水溶液とアルコール溶液との混合比(酸性水溶液/アルコール溶液、v/v)は、例えば1.5~10、好ましくは2~8、より好ましくは3~6である。
【0077】
混合は、脂質と薬物とが混合可能な態様である限り特に制限されないが、例えば、ボルテックス等で激しく撹拌する態様を採用することができる。混合時間は、混合態様によっても異なるが、例えば10秒間~2分間、好ましくは15秒間~1分間である。
【0078】
工程1は、例えば、常温で行うこともできるし、加温下で実行することもできる。工程1の温度は、例えば5℃~50℃、好ましくは15℃~45℃である。t-ブタノールを使用しない場合或いはその使用量が少ない場合、工程1の温度が比較的低くとも、脂質粒子の調製が可能である。当該温度は、例えば30℃未満、25℃以下である。
【0079】
工程1は、マイクロ流路を用いた反応系を用いて実施することも可能である。その場合、各種条件は、該反応系に応じて適宜調整することができる。
【0080】
工程1後は、透析によりアルコールを除去することが好ましい。透析溶媒は、通常は水を使用することができる。透析時間は、例えば4~48時間、好ましくは6~24時間、より好ましくは6~12時間である。透析中は、適宜、透析溶媒を交換することが好ましい。
【0081】
本発明の脂質粒子は、凍結物、凍結乾燥物等であることができる。
【0082】
3.脂質粒子の用途
本発明は、その一態様として、本発明の脂質粒子を含有する、医薬(本明細書において、「本発明の医薬」と示すこともある。)に関する。また、本発明の脂質粒子は、試薬としても利用することができる。
【0083】
本発明の脂質粒子は、細胞毒性をより低減しつつも、より効率的に薬物(例えば、siRNA等のポリヌクレオチド)の効果を発揮することができる。このため、本発明の脂質粒子は、薬物のキャリアとして好適に利用することができる。
【0084】
本発明の医薬中の有効成分(=薬物)の含有量は、対象とする疾患の種類、目的とする治療効果、投与方法、治療期間、患者の年齢、及び患者の体重等を考慮して適宜設定することができる。例えば、本発明の医薬中の有効成分の含量は、本発明の医薬全体を100重量部として0.0001重量部~100重量部程度をすることができる。
【0085】
本発明の医薬の投与形態は、所望の効果が得られる限り特に制限されず、経口投与、及び非経口投与(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、直腸投与、経皮投与、局所投与)のいずれかの投与経路でヒトを含む哺乳類に投与することができる。好ましい投与形態は非経口投与であり、より好ましくは静脈注射である。経口投与および非経口投与のための剤形ならびにその製造方法は当業者に周知であり、有効成分を、薬学的に許容される坦体等と混合等することにより、常法に従って製造することができる。
【0086】
非経口投与のための剤型は、注射用製剤(例えば、点滴注射剤、静脈注射剤、筋肉注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤)、外用剤(例えば、軟膏剤、パップ剤、ローション剤)、坐剤吸入剤、眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤等が挙げられる。例えば、注射用製剤は、本発明の脂質粒子を注射用蒸留水に溶解して調製し、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、及び安定化剤等を添加することができる。医薬は、用事調製用の凍結乾燥製剤とすることもできる。
【0087】
本発明の医薬は、疾患の治療又は予防に有効な他の薬剤を更に含有していてもよい。本発明の医薬は、必要に応じて殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、及びアミノ酸等の成分を配合することもできる。
【0088】
本発明の医薬の製剤化に用いる担体には、当該技術分野において通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤等を用いることができる。
【0089】
本発明の医薬の投与量は、例えば、投与経路、疾患の種類、症状の程度、患者の年齢、性別、体重、疾患の重篤度、薬物動態および毒物学的特徴等の薬理学的知見、薬物送達系の利用の有無、並びに他の薬物の組合せの一部として投与されるか、など様々な因子を元に、臨床医師により決定することができる。本発明の医薬の投与量は、例えば、一日当たりで、1μg/kg(体重)~10g/kg(体重)程度とすることができる。本発明の医薬の投与スケジュールも、その投与量と同様の要因を勘案して決定することができる。例えば、上記の1日当たりの投与量で、1日~1月に1回投与することできる。
【実施例】
【0090】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0091】
合成例1.DHSM-DEDA、及び、DHSM-PPZの合成
(2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl (2-(2’-aminoethylenamine)ethyl) phosphate(DHSM-DEDA:実施例1)、及び、(2S,3R)-3-hydroxy-2-stearamidooctadecyl (2-(piperazino)ethyl) phosphate(DHSM-PPZ:実施例2)を、以下のスキームに従って合成した。
【0092】
【0093】
3.00 g(4.1 mmol)のDHSMをクロロホルムに溶解した混合物に5.54 gの2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(53 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.5M酢酸緩衝液を加えて、50℃に加熱した。加熱後、ホスホリパーゼD(1,440 U)を加え、16時間撹拌した。DHSMの消費がTLC分析で確認されるまで撹拌した。なお、本明細書において、1ユニットは、至適条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1マイクロモル(μmol)の基質を変化されることができる酵素量(1マイクロモル毎分)と定義される。
【0094】
反応混合物をメタノールで希釈し、50℃に加温しながら20%食塩水で洗浄した。有機相を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。5.75 gの濃縮物が得られた。得られた反応粗製物のうち3.04 gをクロロホルム:メタノール:水=60:30:5(vol/vol)55.0 gに溶解させ、16 mLのEtOH/1.25M HClを滴下し、ろ液を氷冷しながら30分間撹拌した。撹拌した後に析出した白色結晶をろ過し、結晶をアセトンで3回懸濁洗浄した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、2.15 gの白色結晶を得た。得られた白色結晶全量にクロロホルム:メタノール=2:1(vol/vol) 21.5 gを添加し、60℃に昇温し溶解させた後、0.2 μmメンブレンろ過した。この後冷却し、室温で1時間撹拌した。撹拌後に析出した白色結晶をろ過し、結晶をクロロホルム:メタノール=2:1(vol/vol)で懸濁洗浄した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、1.25 gの白色結晶を得た(収率79%)NMRチャートを
図1に示す。
【0095】
(実施例2)DHSM-PPZの合成
2.80 g(3.82 mmol)のDHSMをクロロホルムに溶解させ、その溶液に6.90 gの1-(2-Hydroxyethyl) piperazine(53 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.5 M酢酸緩衝液を加えて、50℃に加温した。加温後、ホスホリパーゼD(1,440 U)を加え、40℃で撹拌した。17時間後、TLCにてDHSMの消失を確認した。なお、1ユニットは、至適条件下(温度30℃で、最も化学反応が進む酸性度)で毎分1マイクロモル(μmol)の基質を変化されることができる酵素量(1マイクロモル毎分)と定義される。
【0096】
反応混合物をメタノール:1-ブタノール=4:1で希釈し、45℃に加温しながら20%食塩水で洗浄した。抽出/水洗後、有機相を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。2.53 gの濃縮物が得られた。得られた反応粗製物をクロロホルム:メタノール:水=60:30:5(vol/vol)25.5 mLに溶解させ、0.2 μmメンブレンろ過した後、ろ液を氷冷しながら12.7 mLのEtOH/1.25M HClを滴下し、30分間撹拌した。撹拌後に析出した白色結晶をろ過し、結晶をアセトンで3回懸濁洗浄した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、1.90 gの白色結晶を得た(収率65%)。NMRチャートを
図2に示す。
【0097】
(比較例1)DOP-DEDAの合成(dioleoylphosphate - diethylenediamine conjugate)
DOP-DEDAを以下のスキームに従って合成した。
【0098】
【0099】
1.0 g(1.3 mmol)のDOPCを酢酸エチルに溶解した混合物に1.84 gの2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール(17.8 mmol)を溶解させたpH 5.5の0.5M酢酸緩衝液を加えて、40℃へ加熱した。加熱後、ホスホリパーゼD(600 U)を加え、48時間撹拌した。DOPCの消費がTLC分析で確認されるまで撹拌した。
【0100】
反応混合物をクロロホルム:メタノール=6:1で希釈し、1%塩酸、20%食塩水で洗浄した。反応混合物を減圧濃縮し、濃縮乾固させた。0.72 gの濃縮物が得られた。得られた反応粗製物のうち0.36 gをジオキサン4 mLに溶解させ、2 mLのジオキサン/4M HClを滴下し、室温で撹拌した。氷冷した後にアセトンを加え、1時間撹拌した後に析出した白色結晶をアセトンで懸濁洗浄を3回した。得られた結晶を一晩真空乾燥して、0.20 gの白色結晶を得た(収率40%)。NMRチャートを
図3に示す。
【0101】
試験例1.脂質粒子の製造及び各種物性値の測定
<試験例1-1.脂質粒子の製造>
siRNAを1mMクエン酸緩衝液(pH 4.0)に添加して、siRNA酸性水溶液を調製した(25℃、siRNA濃度:301.2 nM)。一方で、脂質をエタノールに添加して、リン脂質のアルコール溶液を調製した(25℃、脂質濃度:2.5 mM)。脂質のモル比は、(1)DHSM-DEDA:DHSM:コレステロール(Chol)=45:10:45、(2)DHSM-PPZ:DOPC:コレステロール(Chol)=45:10:60、(3)DOP-DEDA:DPPC:コレステロール(Chol)=45:10:45であった。リン脂質アルコール溶液に対して4.15倍容量のsiRNA酸性水溶液を使用し(siRNA/脂質モル比=1/7000)、マイクロ流路(KeyChem-Basic、ワイエムシィ社製)を用いて、脂質粒子を得た。最後にエタノールを透析によって除去した。
【0102】
<試験例1-2.各種物性値の測定>
脂質粒子をRNase free waterで50倍希釈した後、ゼータサイザーナノZS(Malvern社製)を用いて粒子径と多分散指数(PDI)を測定した。また、脂質粒子を緩衝液(pH=4.0、5.0、6.0、又は7.0)で50倍希釈した後、ζ-Potentialを測定した。
【0103】
さらに、次のようにしてsiRNA内包率を測定した。RNA定量試薬(RiboGreen試薬、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製)を用いて行った。具体的には次のようにして行った。脂質粒子溶液に対して2% Triton-X 100又はRNase free waterを添加した。得られた溶液、RNase free water、及びRiboGreen試薬を、96ウェルブラックプレートのウェル中で混合した。プレートを5分間振盪した後、各ウェルの蛍光強度を測定した。測定された蛍光強度に基づいて、次の式:内包率(%)=(全siRNAの蛍光強度-遊離のsiRNAの蛍光強度)/(全siRNAの蛍光強度) により、siRNAの脂質粒子中の内包率を算出した。
【0104】
【0105】
【0106】
試験例2.細胞毒性評価試験
<試験例2-1.脂質粒子の製造>
試験例1-1と同様にして脂質粒子を製造した。
【0107】
<試験例2-2.毒性評価試験>
MDA-MB-231ヒト乳がん細胞を96ウェルプレートに播種(7×10
3 cells/ウェル)し、37℃で24時間培養した。脂質粒子溶液(siRNA 0.6/2/6 pmolを含む)又は脂質複合体溶液(Lipofectamine(登録商標) 2000(Thermo Fisher Scientific製)を用いて調製した複合体、siRNA 0.6/2/6 pmolを含む)をウェルに滴下し、37℃で96時間培養した。脂質粒子及び脂質複合体の細胞毒性は、Viability/Cytotoxicity Multiplex Assay Kit(同仁化学研究所)を用いて評価した。陽性対照群用のウェルにはLysis buffer 20μLを滴下し、37℃で30分間インキュベートした。各ウェルの上清100μLを96ウェルクリアプレートに移した後、上清にキットのLDH assay reagent液を100μL添加し、室温で30分間インキュベートした。その後Stop solution 50μLを加え、吸光度(absorbance 450nm)を測定した。結果を
図5に示す。また、細胞が付着したプレートから培地を除去し、各ウェルにWST-8 assay reagent液(Cell Counting Kit: 培地 = 1:9)を120μL添加した。37℃で5時間インキュベートした後、吸光度(absorbance 450nm)を測定した。結果を
図6に示す。
【0108】
図5のLDH assayの結果を示す図では、縦軸にNegative controlを1に補正した際の損傷細胞の相対値を示し、カラム下方
に使用したリン脂質
Aを示す。
図5中、「Nega」はNegative controlを示し、脂質粒子を添加していないサンプルである。「Posi」はPositive controlを示し、Lysis bufferを添加したサンプルである。「LFA」は脂質粒子に代えてLipofectamine(登録商標) 2000を使用した脂質複合体を添加したサンプルである。また、サンプル毎に3カラムずつ示されているが、3カラムは評価系中のsiRNA濃度が異なり、左から評価系中のsiRNA濃度3 nM、10 nM、30 nMである。
【0109】
図6のWST-8assayの結果を示す図では、縦軸にNegative controlを1に補正した際の生細胞の相対値を示し、カラム下方
に使用したリン脂質
Aを示す。
図6中の「Nega」、「Posi」、「LFA」は上記
図5と同じである。また、サンプル毎に3カラムずつ示されているが、
図5と同様に、3カラムは評価系中のsiRNA濃度が異なり、左から評価系中のsiRNA濃度3 nM、10 nM、30 nMである。
【0110】
試験例3.薄層クロマトグラフィー(TLC)試験(反応特異性の検証)
<試験例3-1.DHSM-DEDAのTLC試験>
実施例1において、ホスホリパーゼ
D(1,440 U)を加えた後の撹拌時間を16時間に変更して、DHSM-DEDAを含有する反応混合物を得た。次いで、反応混合物を体積比でクロロホルム:メタノール=1:1の溶媒で3倍希釈し、希釈液を調製した。当該希釈液を3μLチャージして、TLC試験を行った。TLCプレートは、MERCK社製
TLC Silica gel 60F
254を使用した。展開溶媒は、体積比でクロロホルム:メタノール:水=60:30:5の混合溶媒を用いた。また、発色剤は、硫酸銅、ニンヒドリンを用いた。結果を
図7に示す。
【0111】
図7において、左側のTLCプレートは発色剤として硫酸銅を用いて発色させたTLCプレートであり、有機化合物が検出される。また、右側のTLCプレートは発色剤としてニンヒドリンを用いて発色させたTLCプレートであり、アミン化合物が検出される。また、
図7の各プレートにおいて、aは原料のDHSM50μg相当量のTLC試験結果を示し、bは反応混合物のTLC試験結果を示す。
【0112】
図7の結果から、DHSMを基質として用いた場合、右側のTLCプレートのbにおいてアミン化合物が検出されており、DHSM-DEDAが十分に生成していることが分かる。また、左側のTLCプレートのbにおいてDHSM-DEDA以外の有機化合物が殆どないことが示されており、不純物の生成が抑制されていることが分かる。以上より、
図7から、DHSMを基質として用いた場合、不純物の生成を抑制しながらDHSM-DEDAを生成しており、反応特異性に優れることが分かった。
【0113】
<試験例3-2.DOP-DEDAのTLC試験>
比較例1において、ホスホリパーゼ
D(600 U)を加えた後の撹拌時間を20時間に変更して、DOP-DEDAを含有する反応混合物を得た。次いで、反応混合物を体積比でクロロホルム:メタノール=1:1の溶媒で3倍希釈し、希釈液を調製した。当該希釈液を3μLチャージして、TLC試験を行った。TLCプレートは、MERCK社製
TLC Silica gel 60F
254を使用した。展開溶媒は、体積比でクロロホルム:メタノール:水=60:30:5の混合溶媒を用いた。また、発色剤は、硫酸銅、ニンヒドリンを用いた。結果を
図8に示す。
【0114】
図8において、左側のTLCプレートは発色剤として硫酸銅を用いて発色させたTLCプレートであり、有機化合物が検出される。また、右側のTLCプレートは発色剤としてニンヒドリンを用いて発色させたTLCプレートであり、アミンが検出される。また、
図8の各プレートにおいて、aは原料のDOPC50μg相当量のTLC試験結果を示し、bは反応混合物のTLC試験結果を示す。
【0115】
図8の結果から、DOPCを基質として用いた場合、右側のTLCプレートのbにおいてアミン化合物が検出されており、DOP-DEDAが十分に生成していることが分かる。一方、左側のTLCプレートのbにおいてDOP-DEDA以外の有機化合物も検出されており、不純物の生成が抑制されていないことが分かる。以上より、
図8から、DOPCを基質として用いた場合、DOP-DEDAの生成が十分でなく、不純物の生成が抑制されておらず、反応特異性に劣ることが分かった。