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特許7748412二次電池の検査方法及び二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】二次電池の検査方法及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20250925BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20250925BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/058
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023060934
(22)【出願日】2023-04-04
(65)【公開番号】P2024148050
(43)【公開日】2024-10-17
【審査請求日】2024-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛葉 光洋
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-187925(JP,A)
【文献】特開2018-049775(JP,A)
【文献】特開2014-086384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/04
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/24-10/32
H01M 10/36-10/39
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと前記ケース内に収容された電極体とを備える二次電池の検査方法であって、
前記二次電池のSOCを検査開始SOCに調整するSOC調整工程と、
SOC0%~100%のSOC範囲の一部である、前記検査開始SOCから検査終了SOCまでの検査SOC範囲に亘り、前記二次電池に定電流充電又は定電流放電を行って検査容量を測定する検査容量測定工程と、
前記電極体の正極板と負極板との間に介在するガス量と相関を有するガス相関量を取得するガス相関量取得工程と、
予め得ておいた前記ガス相関量と容量補正値との関係に基づき、取得した前記ガス相関量に対応する前記容量補正値を得、測定した前記検査容量と前記容量補正値から補正後検査容量を得る補正工程と、
前記補正後検査容量を用いて、当該二次電池の良否を判定する判定工程と、を備える
二次電池の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池の検査方法であって、
前記ガス相関量取得工程は、
前記二次電池に照射され前記電極体を透過した超音波の透過強度により、前記ガス相関量を得る超音波照射工程である
二次電池の検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の二次電池の検査方法であって、
前記検査容量測定工程は、
20%以下の前記検査SOC範囲に亘り、5C以上の検査電流で定電流充電又は定電流放電を行って前記検査容量を測定する
二次電池の検査方法。
【請求項4】
前記検査容量が未検査の二次電池について、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の二次電池の検査方法により、検査を行う検査工程と、
前記判定工程で良と判定された前記二次電池を残す選別工程と、を備える
二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の検査方法及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の製造に当たっては、二次電池の良否を決めるにあたり、当該二次電池の容量の多寡を指標とするべく、容量検査を行う場合が有る。例えば、特許文献1には、初充電工程や高温エージング工程などの後に、容量検査工程を設けた二次電池の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-015745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二次電池の製造において、電極体のうちセパレータを介して対向する正極板と負極板の間に、初充電工程などで発生したガスが層状に溜まり、外部に十分抜けない状態となっている場合が有る。そして、このような電極体内にガス層を含んだ二次電池について、容量検査を行った場合には、得られた検査容量の値が、ガス層を含まない二次電池の検査容量に比して小さな値となる。このため、検査容量の大きさによる二次電池の良否の判定が適切に行えない場合が有ることが判ってきた。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、二次電池の検査容量を適切に検査できる二次電池の検査方法、及び、これを用いた二次電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、ケースと前記ケース内に収容された電極体とを備える二次電池の検査方法であって、前記二次電池のSOCを検査開始SOCに調整するSOC調整工程と、SOC0%~100%のSOC範囲の一部である、前記検査開始SOCから検査終了SOCまでの検査SOC範囲に亘り、前記二次電池に定電流充電又は定電流放電を行って検査容量を測定する検査容量測定工程と、前記電極体の正極板と負極板との間に介在するガス量と相関を有するガス相関量を取得するガス相関量取得工程と、予め得ておいた前記ガス相関量と容量補正値との関係に基づき、取得した前記ガス相関量に対応する前記容量補正値を得、測定した前記検査容量と前記容量補正値から補正後検査容量を得る補正工程と、前記補正後検査容量を用いて、当該二次電池の良否を判定する判定工程と、を備える二次電池の検査方法である。
【0007】
この二次電池の検査では、二次電池の検査容量を測定するほか、電極体内のガス量と相関を有するガス相関量を取得し、ガス相関量と容量補正値との関係に基づき容量補正値を得る。そして、検査容量と容量補正値から補正後検査容量を得て、得られた補正後検査容量を用いて当該二次電池の良否を判定する。かくして、電極体内のガス量が異なる二次電池について、それぞれ適切に検査容量を補正して、補正後検査容量に基づいて、適切に二次電池の良否を判定できる。
【0008】
なお、二次電池としては、リチウムイオン二次電池、ナトリウムイオン二次電池、カルシウムイオン二次電池等が挙げられる。また、二次電池の電極体としては、積層型電極体、円筒捲回型電極体及び扁平捲回型電極体が挙げられる。
【0009】
検査開始SOC、検査終了SOC及び検査SOC範囲は、SOC0~100%のSOC範囲内から選択すれば良い。但し、広い検査SOC範囲を選択すると、検査容量測定工程における定電流充電又は定電流放電によって充電或いは放電させる電気量が大きくなり、検査に掛かる時間も長くなる。このため、例えば、50%以下の検査SOC範囲、好ましくは20%以下の検査SOC範囲となるように、検査開始SOC及び検査終了SOCを選択すると良い。また、二次電池に定電流充電又は定電流放電で流す検査電流の大きさが大きいほど、短時間で定電流充電又は定電流放電を終えられるので、例えば、二次電池に流し得る最大電流以下で、1C以上、好ましくは5C以上の検査電流とすると良い。
【0010】
電極体内のガス量と相関を有するガス相関量としては、電極体内のガス量の多寡に応じて変化するガス相関量で有れば、適宜の物理量を用い得る。例えば、外部から照射し二次電池の電極体を透過した超音波の透過強度を、電極体の予め定めた各位置或いは電極体の予め定めた領域内全体について測定し、得られた透過強度値を積算した積算値や平均値などが挙げられる。また、積層型や扁平捲回型の電極体において、電極体の各位置における厚み方向の弾性値を測定し、得られた弾性値の積算値などを用いることもできる。
【0011】
(2)上述の(1)に記載蓄電デバイスであって、前記ガス相関量取得工程は、前記二次電池に照射され前記電極体を透過した超音波の透過強度により、前記ガス相関量を得る超音波照射工程である二次電池の検査方法とすると良い。
【0012】
外部から超音波を二次電池に照射し、電極体を透過した透過超音波の強度は、電極体のうちガス層の無い部分を透過した透過超音波の強度に比して、ガス層が存在する部分を透過した透過超音波の強度が低くなる。透過する超音波の一部がガス層で反射するためである。このため、超音波照射工程で超音波の透過強度により、ガス量と相関を有するガス相関量を得ると、ガス量に応じた検査容量の補正を適切に行うことができる。
【0013】
ガス相関量としては、前述したように、超音波の透過強度を、電極体の予め定めた各位置或いは電極体の予め定めた領域内全体について測定し、得られた強度値を積算した積算値や平均値などが挙げられる。
【0014】
(3)上述の(1)又は(2)に記載の二次電池の検査方法であって、前記検査容量測定工程は、20%以下の前記検査SOC範囲に亘り、5C以上の検査電流で定電流充電又は定電流放電を行って前記検査容量を測定する二次電池の検査方法とすると良い。
【0015】
この検査方法の検査容量測定工程では、20%以下の検査SOC範囲に亘り、5C以上の検査電流で定電流充電又は定電流放電を行って検査容量を測定する。このように、狭い検査SOC範囲に亘り、大きな検査電流で検査容量を測定することで、検査容量測定工程を短時間で終了できる。一方、このように狭い検査SOC範囲に亘り、大きな検査電流で検査容量を測定すると、電極体内のガス量の多寡により、得られる検査容量が変動しやすいことが判ってきた。正極板と負極板との間にガス層が存在する部位では、局部的に電池作用が生じにくい。このため、二次電池に対する短時間で大きな検査電流での充電あるいは放電に対して寄与しにくく、検査容量が小さな値となるためと考えられる。
これに対し、本発明では、補正工程で、ガス相関量に対応する容量補正値を得て、測定した検査容量と容量補正値から補正後検査容量を得るので、ガス層の存在による検査容量の低下を補正でき、判定工程で、二次電池の良否を適切に判定することができる。
【0016】
(4)他の解決手段は、前記検査容量が未検査の二次電池について、(1)~(3)のいずれか1項に記載の二次電池の検査方法により、検査を行う検査工程と、前記判定工程で良と判定された前記二次電池を残す選別工程と、を備える二次電池の製造方法である。
【0017】
この二次電池の製造方法では、検査容量が未検査の二次電池について、前述の検査方法で検査を行い、選別工程で良と判断された二次電池を残すので、検査容量を適切に検査され、この検査容量が良好な二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る電池の検査及び製造の手順を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係り、超音波照射工程において電池の透過超音波の強度を取得する様子を示す説明図である。
図3】得られた透過超音波の強度の積算値と、容量補正値との関係を示すグラフである。
図4】各試料電池の検査容量と補正後検査容量の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下単に電池ともいう)1、を、図1図4を参照しつつ説明する。この電池1は、角型で密閉型のリチウムイオン二次電池であり、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両や各種の機器に搭載される。
【0020】
本実施形態の電池1(図2参照)は、ケース5と、ケース5の内部に収容された電極体2と、ケース5に固設された正極端子6P及び負極端子6Nと、これらとケース5との間を絶縁する絶縁部材(図示しない)とから構成されている。このうちケース5は、金属(本実施形態ではアルミニウム)からなり、直方体箱状である。電極体2は、ケース5内で、図示しない袋状の絶縁フィルムに覆われている。またケース5内には、電解液3が収容されており、その一部は電極体2内に含浸され、一部はケース5の底部に溜まっている。なお、本実施形態では、図2において、上下方向を高さ方向HHとし、左右方向を厚さ方向THとし、紙面に直交する前後方向を幅方向WHとして説明を行う。
【0021】
ケース5内に収容された電極体2は、いわゆる扁平捲回型電極体であり、帯状の正極板2Pと帯状の負極板2Nとを一対の帯状のセパレータ2Sを介して捲回し、図2において厚さ方向TH(図中左右方向)に押圧されて扁平にされてなる。この電極体2は、軸線2Xが幅方向WHに一致する横倒しの姿勢として、ケース5内に収容されている。
【0022】
正極端子6Pは、アルミニウム板からなり、ケース5内で電極体2の正極集電部(図示しない)に接続すると共に、ケース5外に引き出されている。また、負極端子6Nは、銅板からなり、ケース5内で電極体2の負極集電部(図示しない)に接続すると共に、ケース5外に引き出されている。
【0023】
後述するように初充電工程S2を終えた後の電池1は、電極体2内の各所において、局所的に、セパレータ2Sを介した正極板2Pと負極板2Nとの間に水素などのガスが溜まったガス層GSが形成されている場合がある。初充電工程で発生したガスが、上手く電極体2外に抜け出られなかったためと考えられる。この場合には、正極板2Pと負極板2Nとの間のうち、ガス層GSが介在しているガス介在部2Gでは、局所的に電池反応が生じ難くなっていると考えられる。このため、ガス介在部2Gを有する電池1に、短時間だけ充電或いは放電を行わせた場合、特に、大きな充電電流或いは放電電流で、短時間だけ充電或いは放電を行い、小さなSOCの変化を生じさせた場合には、ガス介在部2Gが充電或いは放電に寄与しないため、見掛け上、電池1の容量が小さくなったように見える。
【0024】
但し、電池1の電極体2内にガス介在部2Gが生じていても、長時間に亘り充電或いは放電を行わせた場合、例えば、小さな充電電流或いは放電電流で、長時間に亘って充電或いは放電を行い、大きなSOCの変化(例えば、0-100%のSOCの全範囲の変化)を生じさせた場合には、ガス介在部2Gが存在しない電池1と、充電された電気量或いは放電した電気量の大きさに余り違いが生じない。ガス介在部2Gも、正極活物質層或いは負極活物質層内でのLiイオンの拡散などにより、ガス介在部2Gの周囲の部分を通じて充電或いは放電に寄与するためであると解される。
【0025】
ところで、製造した電池1の容量の良否などを検査し、良品の電池1のみ選別するに当たり、電池1の検査容量CPを測定する場合がある。この場合には、短時間で電池1の検査容量CPを測定し良否判別を行いたいため、検査電流Ichとして大きな充電電流或いは放電電流を流し、短時間だけ充電或いは放電を行い、小さなSOCの変化を生じさせることが行われる。しかるに、このような検査容量CPの測定に当たり、前述のように、電池1にガス介在部2Gが生じていた場合には、得られた検査容量CPが、ガス介在部2Gの存在の影響を受けて、見かけ上、小さな値として測定される。このため、本来は良品と判断されるべき電池1が不良品と判断されたり、本来は不良品と判断されるべき電池1が良品と判断される場合があり得た。
【0026】
そこで、下記する本実施形態の電池1の製造工程、及び、そのうちの検査工程S5において、検査容量CPの補正を行い、補正後検査容量CPpを用いて電池1の良否を判断する。本実施形態に係る電池1の製造について、以下に説明する(図1図2参照)。
【0027】
先ず、未充電電池の組付工程S1で、未充電の電池1を組み付ける。具体的には、電極体2を作製し、ケース蓋体5Lに固設された正極端子6P及び負極端子6Nと電極体2の正極集電部及び負極集電部(図示しない)とをそれぞれ接続する。電極体2に袋状の絶縁フィルム(図示しない)を被せ、ケース本体5B内に収容し、ケース蓋体5Lの周縁を全周に亘りケース本体5Bにレーザ溶接してケース5とする。さらに、ケース蓋体5Lに設けた注液孔(図示しない)を通じてケース5内に電解液3を注液し、電極体2内に電解液3を含浸する。
【0028】
その後、初充電工程S2において、電池1の初充電を行う。具体的には、SOC80%まで、定電流値が10CのCC充電を行う。これにより、負極板2Nの負極活物質粒子(図示しない)及び正極板2Pの正極活物質粒子(図示しない)の表面に、電解液3の一部が分解して生成されたSEI被膜が形成される。この初充電の際に発生する水素ガス等のガスの多くは、正極板2Pと負極板2Nの間を通じて電極体2の外部に放出される。しかし、電池1の中には、図2に示すように、電極体2の各所において、正極板2Pと負極板2Nの間にガスが溜まってガス層GSが形成された電池1が製造される場合がある。
【0029】
初充電工程S2の後には、封止工程S3では、注液孔に注液栓(図示しない)を溶接してケース5を気密に封止する。さらに、高温エージング工程S4において、電池1を60℃の環境下に20時間放置する。
【0030】
その後、検査工程S5において、検査容量CPによる電池1の良否を検査する。具体的には、まずSOC調整工程S51で、室温環境下で10CのCCCV充電(1時間打ち切り)により、電池1のSOCをSOC90%まで充電し、各電池1の検査開始SOCを90%に揃える。
【0031】
続いて、検査容量測定工程S52では、CC放電の検査電流Ichの大きさを5C以上の大きさ、具体的には10Cに定める。そして、電池1のSOCを、検査開始SOCから検査終了SOCまで20%以下の範囲、具体的にはSOC90%からSOC80%までの10%の検査SOC範囲に亘り、CC放電させる。この検査容量測定工程S52に要する時間は、概ね6分程度の短時間である。CC放電のみで放電を打ち切り、CV放電を行わないからである。そしてこの間に電池1から放電された電気量を検査容量CPとして得る。
【0032】
次いで超音波照射工程(ガス相関量取得工程の一種)S53において、図2に示すようにして、電極体2内のガス量GSAと相関を有する透過超音波強度IGの積算値SGを得る。具体的には、先ず、電池1を移動テーブルMT上に載置する。この移動テーブルMTは、載置した電池1を高さ方向HH(図2中、上下方向)及び幅方向WH(図2において紙面に垂直な方向)に移動可能なテーブルである。
【0033】
コントローラCTLに接続し、厚さ方向THに向けた超音波送信器USTから照射超音波US1を放射させ、移動テーブルMT上に載置した電池1に向けて照射する。すると、電池1に照射された照射超音波US1の一部が、通過超音波US2としてケース5及び電極体2を厚さ方向THに通過し、透過超音波US3として電池1から放射される。この透過超音波US3を超音波受信器USRで受信し、コントローラCTLにおいて透過超音波US3の強度である透過超音波強度IGの大きさを取得する。本実施形態では、超音波送信器UST及び超音波受信器USRを、電池1から離間させて用いたが、これらを電池1に接触させて用いても良い。
【0034】
なお、電極体2内にガス層GSが存在しており、通過超音波US2の通過経路上にガス層GSが存在していた場合、ガス層GSの音響インピーダンスと、電極体2をなす電解液3が含浸された正極板2P、負極板2N、セパレータ2Sなどの音響インピーダンスとは大きさが大きく違う。このため、ガス層GSと正極板2P等との界面で、通過超音波US2の一部が反射される。これにより、通過超音波US2の通過経路上にガス層GSが存在していなかった場合に比して、超音波受信器USRに届く透過超音波US3の透過超音波強度IGが低下する。そして、通過超音波US2の通過経路上に存在するガス層GSの層数、即ちガス量GSAが大きくなるほど、透過超音波強度IGの低下の度合いが大きくなると考えられる。即ち、透過超音波強度IGは、通過超音波US2が通過する領域におけるガス量GSAと相関を有する値である。
【0035】
また、ガス層GSは、電極体2内において局所的に存在すると考えられる。ガス層GSは、各々の正極板2P或いは負極板2NにおけるSEI被膜の生成に伴って発生したガスが、正極板2Pと負極板2Nとの間に溜まって形成されるからである。そこで、移動テーブルMTによって、電池1を高さ方向HH及び幅方向WHに移動させて、電池1のうち、厚さ方向THに電極体2の平坦部分が存在する複数箇所において、それぞれ透過超音波強度IGを測定する。たとえば、電池1を移動テーブルMTで移動させて、高さ方向HHに5段階、幅方向WHに10段階の合計50箇所について、透過超音波強度IGを得る。そしてこれらを合計した値を、透過超音波強度IGの積算値SGとする。この積算値SGは、電極体2の概ね全域におけるガス量GSAと相関を有する値である。この積算値SGを用いると、後述するように、ガス量GSAに応じた検査容量CPの補正を適切に行うことができる。
【0036】
ところで前述したように、電池1の電極体2内にガス介在部2Gが生じている場合でも、小さな充電電流或いは放電電流で、長時間に亘って充電或いは放電を行い、大きなSOCの変化(例えば、0-100%のSOCの全範囲)を生じさせた場合には、ガス介在部2Gが存在しない電池1と、充電された電気量或いは放電した電気量の大きさに余り違いが生じないことが判っている。
【0037】
そこで本実施形態では、予め、複数のサンプルの電池1について、前述の検査容量CP及び上述の透過超音波強度IGの積算値SGを得ておくほか、CC放電時の放電電流1/2Cとした、SOC100%から0%までCCCV放電(3時間打ち切り)により、電池1の放電容量を測定した。この放電容量の値は、上述のように、小さな放電電流(本実施形態では1/2C以下)で、100-0%の大きなSOC範囲に亘り、長時間放電を行っており、電池1の電極体2内のガス介在部2Gの有無の影響を受けにくい。そこで、複数のサンプルの電池1のうち、測定した放電容量の値がほぼ同じである複数(本実施形態では3個)の電池1を選択する。なお以下では、選択した3個の電池1をサンプル電池SP1~SP3とする。選択したサンプル電池SP1~SP3のうち、最も透過超音波強度IGの積算値SGが大きいサンプル電池SP1について得た検査容量CPを基準として、サンプル電池SP1とサンプル電池SP2の検査容量CPの差、及びサンプル電池SP1とサンプル電池SP3の検査容量CPの差をΔCPとして、各サンプル電池SP1~SP3の積算値SGと差ΔCPをプロットしたグラフが図3のグラフである。
【0038】
この図3は、サンプル電池SP1~SP3は、放電容量がほぼ同じ大きさであるにも拘わらず、ガス相関量である積算値SGが異なると、検査容量CPにも差異が生じることを示している。なお、サンプル電池SP1~SP3は、放電容量がほぼ同じ大きさであるので、もし、電極体2内に含まれるガス量GSAが互いに同程度であった場合には、得られる検査容量CPの値も互いにほぼ同じ値になっていたと推測される。従って、サンプル電池SP2,SP3については、得られた検査容量CPに前述の差ΔCPを加えることで、ガス量GSAが少ないサンプル電池SP1の検査容量CPと同じ大きさになるように補正できたことになる。即ち、図3において、差ΔCPは、積算値SGの大きさに応じて、得られた検査容量CPを、ガス量GSAが少ないサンプル電池SP1の検査容量CPと同じ大きさになるように補正する容量補正値として用い得ることが判る。
【0039】
そこで、本実施形態では、超音波照射工程S53で積算値SGを得た後、補正工程S54において、図3のグラフにより、積算値SGに応じた容量補正値ΔCPを得て、検査容量CPに加える補正を行い、補正後検査容量CPpを算出する(CPp=CP+ΔCP)。たとえば、図4では、サンプル電池SP1~SP4について得た、検査容量CP及び補正後検査容量CPpを示す。図4において、サンプル電池SP1の補正後検査容量CPpは、検査容量CPと等しい。また、サンプル電池SP2,SP3では、補正後検査容量CPpが、サンプル電池SP1の補正後検査容量CPpと概ね等しい値になることが判る。
【0040】
また、図4において、CPminは容量下限値を示し、CPmaxは容量上限値を示している。即ち、二本の一点鎖線で挟んだCPmin~CPmaxの範囲が、検査容量CP(補正後検査容量CPp)の合格範囲CPGである。そこで補正前の検査容量CPについて見ると、サンプル電池SP1,SP2は、検査容量CPも補正後検査容量CPpも合格範囲CPG内に入っている。しかし、サンプル電池SP3は、検査容量CPが合格範囲CPG外である。電極体2内に含まれるガス量GSAが多く、検査容量CPが小さな値となったためである。これに対し、サンプル電池SP3の補正後検査容量CPpは、合格範囲CPG内に含まれることが判る。このように、本実施形態によれば、補正後検査容量CPpの算出により、本来は良品とするべき電池1を、不良品と判断する不具合を防止できる。
【0041】
但し、サンプル電池SP4のように、検査容量CPは合格範囲CPG内であったが、補正後検査容量CPpは合格範囲CPG外となる場合もある。このように、本実施形態によれば、補正後検査容量CPpの算出により、本来は不良品とするべき電池1を、良品と判断する不具合をも防止できる。
【0042】
そこで、判定工程S55では、算出した補正後検査容量CPpを用いて、電池1の良否の判定を行う。具体的には、前述のように、補正後検査容量CPpが合格範囲CPG内に含まれるか否かを判断する。かくして、検査工程S5において、補正後検査容量CPpに基づいて、適切に電池1の良否を判定することができる。
【0043】
その後は、選別工程S6において、判定工程S55で良品(OK)と判断された電池1は残し、不良品(NG)と判断された電池1は不良品として除外する。かくして、補正後検査容量CPpが合格範囲CPGに含まれる良好な電池1を製造することができる。
【0044】
以上において、本発明を実施形態及び実施例1~6等に即して説明したが、本発明は実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態では、超音波照射工程S53において、透過超音波強度IGの積算値SGを得たが、これに代えて、透過超音波強度IGの平均値を算出し、これを用いて以降の工程を行うようにしても良い。
【符号の説明】
【0045】
1,SP1,SP2,SP3 電池(二次電池)
2 電極体
2X (電極体の)中心軸
2P 正極板
2N 負極板
2G ガス介在部
GS ガス層
GSA ガス量
US3 透過超音波
IG 透過超音波強度
SG (透過超音波強度の)積算値(ガス相関量)
S4 高温エージング工程
S5 検査工程
S51 SOC調整工程
S52 検査容量測定工程
S53 超音波照射工程(ガス相関量取得工程)
S54 補正工程
S55 判定工程
S6 選別工程
CP 検査容量
ΔCP 容量補正値
CPp 補正後検査容量
CPG 合格範囲
図1
図2
図3
図4