(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用負極、及び非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/133 20100101AFI20250925BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250925BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20250925BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250925BHJP
【FI】
H01M4/133
H01M4/36 D
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2023500722
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004496
(87)【国際公開番号】W WO2022176650
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2025-01-08
(31)【優先権主張番号】P 2021023988
(32)【優先日】2021-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田下 敬光
(72)【発明者】
【氏名】加藤木 晶大
(72)【発明者】
【氏名】水越 文一
(72)【発明者】
【氏名】中森 俊行
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089327(JP,A)
【文献】特開2017-062911(JP,A)
【文献】特開2009-176494(JP,A)
【文献】特開2009-164013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/133
H01M 4/36
H01M 4/38
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極芯体と、前記負極芯体上に形成された負極合剤層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、
前記負極合剤層は、負極活物質として黒鉛粒子を含むとともに、前記負極芯体側に形成された下層と前記負極合剤層の表面側に形成された上層とを有し、
前記黒鉛粒子は、円形度が0.92未満の第1黒鉛粒子と、円形度が前記第1黒鉛粒子よりも高い第2黒鉛粒子とを含み、
前記第2黒鉛粒子の破壊強度に対する前記第1黒鉛粒子の破壊強度の比が2~5であり、
前記上層における前記黒鉛粒子に対する前記第1黒鉛粒子の含有率は、30質量%以上であるとともに前記下層における前記黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子の含有率より高い、
非水電解質二次電池用負極。
【請求項2】
前記下層は、前記第2黒鉛粒子を主成分として含む、請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項3】
前記上層における前記黒鉛粒子に対する前記第1黒鉛粒子の含有率は50~100質量%である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項4】
前記上層の厚みは、前記負極合剤層の厚みの10~60%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項5】
前記負極合剤層は、前記負極活物質として、シリコン材料を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用負極と、正極と、非水電解質とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池用負極、及び当該負極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池は、車載用途、蓄電用途などに適用されている。車載、蓄電用途向けの非水電解質二次電池の要求性能としては、高いエネルギー密度、良好な充放電サイクル特性、急速充電性能などが挙げられる。電池の主要構成要素である負極は、これらの性能に大きく影響するため、負極について多くの検討が行われてきた。例えば、特許文献1には、粒子の破壊強度が異なる少なくとも2種の炭素粒子混合物からなる負極活物質を用いたリチウムイオン電池が開示されている。また、特許文献2には、円形度が0.85~0.90である負極活物質を用いたリチウムイオン電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-151087号公報
【文献】特開2011-175842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、負極芯体に対する負極合剤層の密着性、及び負極合剤層の電解液の浸透性は、電池のエネルギー密度、サイクル特性、急速充電性能等の電池性能を改善する上で重要な要素である。しかし、かかる密着性と浸透性の両立は容易ではなく、特許文献1,2を含む従来の技術は未だ改良の余地がある。
【0005】
本開示の目的は、負極芯体に対する負極合剤層の密着性が良好で、且つ電解液の浸透性に優れた非水電解質二次電池用負極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る非水電解質二次電池用負極は、負極芯体と、負極芯体上に形成された負極合剤層とを備える非水電解質二次電池用負極であって、負極合剤層は、負極活物質として黒鉛粒子を含むとともに、負極芯体側に形成された下層と負極合剤層の表面側に形成された上層とを有し、黒鉛粒子は、円形度が0.92未満の第1黒鉛粒子と、円形度が第1黒鉛粒子よりも高い第2黒鉛粒子とを含み、第2黒鉛粒子の破壊強度に対する第1黒鉛粒子の破壊強度の比が2~5であり、上層における黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子の含有率は、30質量%以上であるとともに下層における黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子の含有率より高いことを特徴とする。
【0007】
本開示に係る非水電解質二次電池は、上記負極と、正極と、非水電解質とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示に係る非水電解質二次電池用負極は、負極芯体に対する負極合剤層の密着性が良好で、且つ電解液の浸透性に優れる。本開示に係る負極を用いた非水電解質二次電池は、例えば、高いエネルギー密度、良好なサイクル特性、及び優れた急速充電性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である非水電解質二次電池の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上述のように、負極芯体に対する負極合剤層の密着性、及び負極合剤層の電解液の浸透性を向上させることは、電池のエネルギー密度、サイクル特性、急速充電性能等の電池性能を改善する上で重要な課題である。本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、負極合剤層を負極芯体側の下層と表面側の上層とを含む層構造とし、上層に円形度が0.92未満の第1黒鉛粒子を多く配置することにより、電解液の浸透性が大幅に向上することを見出した。これは、非球形の第1黒鉛粒子により負極合剤層の表面が適度に粗くなって電解液に対する接触角が小さくなり、負極合剤層への電解液の浸透が容易になったためと考えられる。
【0011】
また、負極合剤層の下層には、上層よりも第1黒鉛粒子を少なく配置し、第1黒鉛粒子に比べて円形度が高く柔らかい第2黒鉛粒子を多く配置することにより、負極合剤層と負極芯体との接触面積を大きくでき、負極芯体に対する負極合剤層の密着性が向上する。つまり、負極合剤層の密着性と電解液の浸透性について、負極合剤層を構成する黒鉛粒子の円形度と硬度(破壊強度)には最適なバランスが存在する。本開示に係る負極合剤層の構成によれば、かかる密着性と浸透性の両立を図ることができる。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示に係る非水電解質二次電池の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下で説明する複数の実施形態及び変形例を選択的に組み合わせることは本開示に含まれている。
【0013】
以下では、巻回型の電極体14が有底円筒形状の外装缶16に収容された円筒形電池を例示するが、電池の外装体は円筒形の外装缶に限定されず、例えば、角形の外装缶(角形電池)や、コイン形の外装缶(コイン形電池)であってもよく、金属層及び樹脂層を含むラミネートシートで構成された外装体(ラミネート電池)であってもよい。また、電極体は複数の正極と複数の負極がセパレータを介して交互に積層された積層型の電極体であってもよい。
【0014】
図1は、実施形態の一例である非水電解質二次電池10の断面を模式的に示す図である。
図1に示すように、非水電解質二次電池10は、巻回型の電極体14と、非水電解質と、電極体14及び非水電解質を収容する外装缶16とを備える。電極体14は、正極11、負極12、及びセパレータ13を有し、正極11と負極12がセパレータ13を介して渦巻き状に巻回された巻回構造を有する。外装缶16は、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器であって、外装缶16の開口は封口体17によって塞がれている。以下では、説明の便宜上、電池の封口体17側を上、外装缶16の底部側を下とする。
【0015】
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水溶媒には、例えばエステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等が用いられる。非水溶媒は、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン元素で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。非水溶媒の一例としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。電解質塩には、例えばLiPF6等のリチウム塩が使用される。なお、非水電解質は液体電解質に限定されず、固体電解質であってもよい。
【0016】
電極体14を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13は、いずれも帯状の長尺体であって、渦巻状に巻回されることで電極体14の径方向に交互に積層される。負極12は、リチウムの析出を防止するために、正極11よりも一回り大きな寸法で形成される。即ち、負極12は、正極11よりも長手方向及び幅方向(短手方向)に長く形成される。セパレータ13は、少なくとも正極11よりも一回り大きな寸法で形成され、正極11を挟むように2枚配置される。電極体14は、溶接等により正極11に接続された正極リード20と、溶接等により負極12に接続された負極リード21とを有する。
【0017】
電極体14の上下には、絶縁板18,19がそれぞれ配置されている。
図1に示す例では、正極リード20が絶縁板18の貫通孔を通って封口体17側に延び、負極リード21が絶縁板19の外側を通って外装缶16の底部側に延びている。正極リード20は封口体17の内部端子板23の下面に溶接等で接続され、内部端子板23と電気的に接続された封口体17の天板であるキャップ27が正極端子となる。負極リード21は外装缶16の底部内面に溶接等で接続され、外装缶16が負極端子となる。
【0018】
外装缶16は、上述の通り、軸方向一方側が開口した有底円筒形状の金属製容器である。外装缶16と封口体17の間にはガスケット28が設けられ、電池内部の密閉性及び外装缶16と封口体17の絶縁性が確保される。外装缶16には、側面部の一部が内側に張り出した、封口体17を支持する溝入部22が形成されている。溝入部22は、外装缶16の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体17を支持する。封口体17は、溝入部22と、封口体17に対して加締められた外装缶16の開口端部とにより、外装缶16の上部に固定される。
【0019】
封口体17は、電極体14側から順に、内部端子板23、下弁体24、絶縁部材25、上弁体26、及びキャップ27が積層された構造を有する。封口体17を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材25を除く各部材は互いに電気的に接続されている。下弁体24と上弁体26は各々の中央部で接続され、各々の周縁部の間には絶縁部材25が介在している。電池に異常が発生して内圧が上昇すると、下弁体24が上弁体26をキャップ27側に押し上げるように変形して破断することにより、下弁体24と上弁体26の間の電流経路が遮断される。さらに内圧が上昇すると、上弁体26が破断し、キャップ27の開口部からガスが排出される。
【0020】
以下、非水電解質二次電池10を構成する正極11、負極12、及びセパレータ13について、特に負極12について詳述する。
【0021】
[正極]
正極11は、正極芯体と、正極芯体上に形成された正極合剤層とを有する。正極芯体には、アルミニウム、アルミニウム合金など、正極11の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合剤層は、正極活物質、導電剤、及び結着剤を含み、正極リードが接続される部分である芯体露出部を除く正極芯体の両面に設けられることが好ましい。正極合剤層の厚みは、正極芯体の片側で、例えば50μm~150μmである。正極11は、正極芯体の表面に正極活物質、導電剤、及び結着剤等を含む正極合剤スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合剤層を正極芯体の両面に形成することにより作製できる。
【0022】
正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物を主成分として構成される。リチウム遷移金属複合酸化物に含有されるLi以外の元素としては、Ni、Co、Mn、Al、B、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W、Si、P等が挙げられる。好適なリチウム遷移金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物である。具体例としては、Ni、Co、Mnを含有するリチウム遷移金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0023】
正極合剤層に含まれる導電剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合剤層に含まれる結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィンなどが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)等が併用されてもよい。
【0024】
[負極]
図2は、負極12の断面の一部を示す図である。負極12は、負極芯体30と、負極芯体30上に形成された負極合剤層31とを有する。負極芯体30には、銅、銅合金など、負極12の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合剤層31は、負極リードが接続される部分である芯体露出部を除く負極芯体30の両面に設けられることが好ましい。負極合剤層31の厚みは、負極芯体30の片側で、例えば50μm~150μmである。
【0025】
負極合剤層31は、負極活物質として黒鉛粒子を含む。黒鉛粒子は、円形度が0.92未満の第1黒鉛粒子32Aと、円形度が第1黒鉛粒子32Aよりも高い第2黒鉛粒子32Bとを含む。詳しくは後述するが、第2黒鉛粒子32Bの破壊強度に対する第1黒鉛粒子32Aの破壊強度の比は2~5である。また、第2黒鉛粒子32Bの円形度は、0.94以上である。負極合剤層31は、負極芯体30側に形成された下層31Bと、下層31B上に形成された上層31Aとを有する。上層31Aにおける黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子32Aの含有率は30質量%以上である。さらに、上層31Aにおける黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子32Aの含有率は、下層31Bにおける黒鉛粒子に対する第2黒鉛粒子32Bより高い。負極合剤層31には、本開示の目的を損なわない範囲で、第1黒鉛粒子32A及び第2黒鉛粒子32B以外の黒鉛粒子、又は黒鉛以外の炭素材料が含まれていてもよい。その場合、第1黒鉛粒子32Aの含有率は、第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bの合計質量に対する第1黒鉛粒子32Aの質量の百分率で表される。第2黒鉛粒子32Bも同様である。
【0026】
負極合剤層31は、負極芯体30に密着する下層31Bと、下層31B上に直接形成され、負極合剤層31の表面を形成する上層31Aとを含む二層構造を有する。上層31Aと下層31Bでは、上述のように、層を構成する第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bの存在比率が異なる。第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bは、例えば人造黒鉛であるが、天然黒鉛を用いることも可能である。負極合剤層31がこのような二層構造を有することにより、負極芯体30に対する負極合剤層31の良好な密着性を確保しつつ、負極合剤層31の電解液の浸透性を向上させることができる。なお、本開示の目的を損なわない範囲で、例えば、上層31Aと下層31Bの間に第3の層が形成されてもよい。
【0027】
負極合剤層31は、負極活物質及び結着剤を含む。上層31Aと下層31Bには、例えば、同種の結着剤が実質的に同じ量で含まれていてもよい。負極活物質の含有量は、負極合剤層31の質量に対して、85~99.5質量%が好ましく、90~99質量%がより好ましい。結着剤の含有量は、負極合剤層31の質量に対して、0.5~15質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。なお、負極合剤層31には、導電剤、増粘剤など、負極活物質及び結着剤以外の材料が含まれていてもよい。
【0028】
負極合剤層31は、負極活物質として、Si、Sn等のLiと合金化する元素、及び当該元素を含有する化合物の少なくとも一方を含む活物質を含んでいてもよい。当該活物質の好適な一例は、シリコン材料である。負極活物質には、例えば、黒鉛などの炭素材料とシリコン材料が併用される。好適なシリコン材料の一例としては、酸化ケイ素相又はリチウムシリケート等のシリケート相中にSi微粒子が分散したシリコン材料が挙げられる。負極活物質として、炭素材料とシリコン材料を併用する場合、炭素材料とシリコン材料の混合比率は、80:20~98:2が好ましい。
【0029】
負極合剤層31に含まれる結着剤は、正極11の場合と同様に、フッ素樹脂、PAN、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリオレフィン等を用いることもできるが、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることが好ましい。負極合剤層31には、さらに、CMC又はその塩、ポリアクリル酸(PAA)又はその塩、ポリビニルアルコール(PVA)などが含まれていてもよい。負極合剤層31の結着剤には、SBRと、CMC又はその塩を併用することが好適である。
【0030】
上層31Aは、上述のように、30質量%以上の第1黒鉛粒子32Aを含む。本実施形態では、黒鉛粒子として、実質的に第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bのみが上層31Aに含まれている。上層31Aにおいて、黒鉛粒子に対する第1黒鉛粒子32Aの含有率は50質量%以上であることが好ましく、例えば50~100質量%である。この場合、電解液の浸透性がより効果的に改善される。上層31Aにおいて、黒鉛粒子に対する第2黒鉛粒子32Bの含有量は70質量%以下であり、好ましくは第1黒鉛粒子32Aの含有量以下である。
【0031】
下層31Bは、第2黒鉛粒子32Bを主成分として含むことが好ましい。ここで、主成分とは、下層31Bを構成する材料のうち最も質量比率が高い成分を意味する。下層31Bにおいて、黒鉛粒子に対する第2黒鉛粒子32Bの含有率は100質量%であってもよい。下層31Bには、第1黒鉛粒子32Aが含まれていてもよいが、第1黒鉛粒子32Aの含有量は30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。負極芯体30と接する下層31Bに第2黒鉛粒子32Bを多く配置することで、負極芯体30に対する負極合剤層31の密着性が向上する。
【0032】
上層31Aと下層31Bの厚み比は特に限定されないが、上層31Aの厚みの一例は、負極合剤層31の厚みの10~60%であり、好ましくは30~55%である。換言すると、下層31Bの厚みの一例は、負極合剤層31の厚みの45~70%が好ましい。上層31Aと下層31Bの厚みは、実質的に同じ(50:50)であってもよい。上層31Aの厚みが当該範囲内であれば、負極芯体30に対する負極合剤層31の良好な密着性等を確保しつつ、電解液の浸透性に優れた負極合剤層31となり、電池の急速充電性能がより効果的に改善される。
【0033】
第1黒鉛粒子32Aは、上述の通り、円形度が0.92未満の黒鉛粒子である。黒鉛粒子の円形度は、粒子の画像解析において、粒子周囲長に対する、粒子面積と等しい円の周囲長の割合(粒子面積と等しい円の周囲長/粒子周囲長)として求められる。粒子画像の形状が真円の場合、即ち粒子が真球状である場合、円形度は1.0となり、粒子形状が角ばった形状、扁平状、針状など、球状から離れた形状であると、円形度は低くなる。黒鉛粒子の円形度は、画像式粒度分布装置(シスメックス製、FPIA-3000)を用いて測定される。
【0034】
第1黒鉛粒子32Aの円形度は、0.87以上が好ましく、0.88以上がより好ましい。第1黒鉛粒子32Aの円形度が0.87以上、0.92未満であれば、上層31Aの
充填密度の低下を抑制しつつ、負極合剤層31の表面における電解液の接触角を十分に小さくすることができる。第2黒鉛粒子32Bの円形度は、0.94以上が好ましく、例えば0.94~0.98である。
図2に示すように、第1黒鉛粒子32Aは、第2黒鉛粒子32Bよりも角ばった、角が尖った粒子である。第2黒鉛粒子32Bは、第1黒鉛粒子32Aよりも丸く、球状に近い粒子である。
【0035】
第1黒鉛粒子32Aは、第2黒鉛粒子32Bよりも2~5倍の硬さを有する。粒子の硬さは、粒子破壊強度により評価される。一般的に、粒子破壊強度が高いほど、硬い粒子であることを意味する。第1黒鉛粒子32Aの破壊強度(StA)は、例えば12~100MPaであり、より好ましくは15~40MPaである。第2黒鉛粒子32Bの破壊強度(StB)は、例えば2~20MPaであり、より好ましくは5~12MPaである。そして、破壊強度比(StA/StB)が2~5であれば、負極芯体30に対する下層31Bの良好な密着性を確保しつつ、適度に荒れた上層31Aの表面形状を維持することが容易になる。また、下層31Bの第2黒鉛粒子32Bが、負極12の製造時に適度に潰れて高密度で充填されるので、エネルギー密度の向上にも寄与する。
【0036】
黒鉛粒子の破壊強度は、微小圧縮試験機(島津製作所製、MCT‐W201)を用いて、以下の方法により測定される。
(1)微小圧縮試験機において、試料を下部加圧板(SKS平板)上に散布する。
(2)光学顕微鏡を用いて、粒径が平均粒径に近い粒子を1つ選択する。
(上部加圧圧子(直径50μmのダイアモンド製フラット圧子)と下部加圧板間に1つの粒子が存在するように選択)
(3)上部加圧圧子をゆっくり下降させ、粒子に接触した時点(下降速度が変化時点)から一定の加速度で荷重を加えていく(粒子の変形量は自動で計測される)。
(4)粒子の変形量が急激に変化した点(荷重-変形量のプロファイルの変曲点)を破壊点とし、その時の荷重と粒子径から、以下の式に基づき破壊強度を算出する。破壊強度は、5回の測定値の平均値とした。
St=2.8P/πd2
St:破壊強度[N/mm2あるいはMPa]
P:荷重[N]
d:粒子径[mm]
【0037】
第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bの粒径は特に限定されないが、体積基準のメジアン径(D50)の一例は、1μm~30μmであり、好ましくは5μm~20μmである。D50は、体積基準の粒度分布において頻度の累積が粒径の小さい方から50%となる粒径を意味し、中位径とも呼ばれる。粒度分布は、レーザー回折式の粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000II)を用い、水を分散媒として測定できる。第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32BのBET比表面積は特に限定されないが、一例としては0.5~8.0m2/gである。黒鉛粒子のBET比表面積は、JIS R1626記載のBET法(窒素吸着法)に従って測定される。
【0038】
第1黒鉛粒子32Aと第2黒鉛粒子32Bは、例えば、出発原料として石油系又は石炭系のコークス材料を用いて製造される。黒鉛粒子の円形度は、コークスを粉砕する粉砕機(例えば、ジェットミル)の分級回転数により調整できる。例えば、分級回転数を大きくすると、粒子の円形度は小さくなり易い。粉砕したコークスをグラファイト製の鞘に充填し、アチソン炉を用いて高温加熱処理することで黒鉛粒子が得られる。第1黒鉛粒子32Aの製造過程では、例えば、第2黒鉛粒子32Bの製造過程よりも加熱処理の温度を低く設定する。第1黒鉛粒子32Aに人造黒鉛を用い、第2黒鉛粒子32Bに天然黒鉛を用いてもよい。
【0039】
負極合剤層31は、例えば、第1黒鉛粒子32A及び結着剤を含む第1の負極合剤スラリーと、第2黒鉛粒子32Bと結着剤を含む第2の負極合剤スラリーとを用いて形成できる。例えば、負極芯体30の表面に、第2の負極合剤スラリーを塗布して、一層目の塗膜を乾燥した後、この塗膜上に第1の負極合剤スラリーを塗布して、二層目の塗膜を乾燥し、2つの層をまとめて圧延ローラで圧縮することにより、二層構造の負極合剤層31を備えた負極12を製造できる。下層31Bとなる一層目の塗膜だけを圧縮してから、上層31Aとなる二層目の塗膜を形成することも可能である。
【0040】
[セパレータ]
セパレータ13には、イオン透過性および絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ13の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとαオレフィンの共重合体等のポリオレフィン、セルロース、ポリスチレン、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などが好適である。セパレータ13は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ13の表面には、無機粒子を含む耐熱層、アラミド樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等の耐熱性の高い樹脂で構成される耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
<実施例1>
[第1負極合剤スラリーの調製]
負極活物質として、粒子破壊強度が20MPa、円形度が0.90、D50が18μmの黒鉛A1と、粒子破壊強度が7MPa、円形度が0.95、D50が18μmの黒鉛B1と、SiOxで表されるシリコン材料とを、47:47:6の質量比(黒鉛Aと黒鉛Bの質量比は50:50)で混合したものを用いた。負極活物質と、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスパージョンと、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)とを、100:1:1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、第1負極合剤スラリーを調製した。黒鉛粒子の粒子破壊強度は微小圧縮試験機(島津製作所製、MCT-W201)を用いて、円形度は画像式粒度分布装置(シスメックス製、FPIA-3000)を用いて、D50はレーザー回折式の粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル製、MT3000II)を用いて、それぞれ測定された値である。
【0043】
[第2負極合剤スラリーの調製]
負極活物質として、黒鉛B1と、上記シリコン材料とを、94:6の質量比で混合したものを用いた。負極活物質と、SBRのディスパージョンと、CMC-Naとを、100:1:1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、第2負極合剤スラリーを調製した。
【0044】
[負極の作製]
ドクターブレード法により、第2負極合剤スラリーを厚みが8μmの銅箔からなる負極芯体の一方の面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、この塗膜上に第1負極合剤スラリーを塗布して塗膜を乾燥させることにより、上層/下層の二層構造を有する塗膜を形成した。このとき、上層と下層の厚みが同程度となるように、各合剤スラリーの塗布量を調整した。負極芯体の他方の面にも、同様の方法で二層構造の塗膜を形成した。ローラを用いて二層構造の塗膜を圧縮し、負極芯体を所定のサイズに裁断して、負極芯体の両面に負極合剤層が形成された負極を作製した。
【0045】
作製した負極について、下記の方法により、電解液浸透性試験及び剥離試験を行い、負極合剤層の構成とともに評価結果を表1に示した(後述の実施例、比較例についても同様)。
【0046】
[電解液の浸透性の評価]
負極合剤層の表面にポリエチレンカーボネート(PC)を3μm滴定し、PCが合剤層表面から内部に浸透して消失するまでの時間(浸透時間)を計測した。この浸透時間が短いほど、負極合剤層の電解液の浸透性に優れることを意味し、一般的に電池の急速充電性能が高くなる。
【0047】
[剥離強度の評価]
樹脂板に貼着した両面テープに負極合剤層を貼り付けた後、一定速度で負極を引き上げ、負極合剤層が芯体から剥離する際の負荷をロードセルにより剥離強度を測定した。剥離強度が大きいほど、負極芯体に対する負極合剤層の密着性が良好である。
【0048】
<実施例2~4>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1と黒鉛B1を表1に示す質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0049】
<実施例5>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛B1に代えて、粒子破壊強度が10MPa、円形度が0.90、D50が18μmの黒鉛B2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0050】
<実施例6>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が35MPa、円形度が0.90、D50が18μmの黒鉛A2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0051】
<実施例7>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が20MPa、円形度が0.91、D50が18μmの黒鉛A3を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0052】
<実施例8>
負極合剤層の下層を形成する第2負極合剤スラリーの調製において、黒鉛B1の一部に代えて黒鉛A1を用い、黒鉛A1と黒鉛B1を20:80の質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0053】
<比較例1>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が7MPa、円形度が0.95、D50が18μmの黒鉛A4を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0054】
<比較例2~4>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が20MPa、円形度が0.95、D50が18μmの黒鉛A5を用い、黒鉛A5と黒鉛B1を表1に示す質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0055】
<比較例5>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1と黒鉛B1を表1に示す質量比で混合したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0056】
<比較例6>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が45MPa、円形度が0.90、D50が18μmの黒鉛A6を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0057】
<比較例7>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が45MPa、円形度が0.95、D50が18μmの黒鉛A7を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0058】
<比較例8>
負極合剤層の上層を形成する第1負極合剤スラリーの調製において、黒鉛A1に代えて、粒子破壊強度が7MPa、円形度が0.90、D50が18μmの黒鉛A8を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極を作製し、上記性能評価を行った。
【0059】
<比較例9>
負極の作製において、第1負極合剤スラリーを用いて負極合剤層の下層を形成し、第2負極合剤スラリーを用いて負極合剤層の上層を形成したこと以外は、実施例1と同様の方法で負極及び電池を作製し、上記性能評価を行った。
【0060】
【0061】
表1に示すように、実施例の負極はいずれも、負極合剤層の剥離強度が高く、且つ電解液の浸透時間が短い。即ち、実施例の負極は、負極芯体に対する負極合剤層の密着性が良好で、且つ電解液の浸透性に優れる。これに対し、比較例の負極では、良好な負極合剤層の密着性と電解液の浸透性を両立することはできない。
【符号の説明】
【0062】
10 非水電解質二次電池、11 正極、12 負極、13 セパレータ、14 電極体、16 外装缶、17 封口体、18,19 絶縁板、20 正極リード、21 負極リード、22 溝入部、23 内部端子板、24 下弁体、25 絶縁部材、26 上弁体、27 キャップ、28 ガスケット、30 負極芯体、31 負極合剤層、31A 上層、31B 下層、32A 第1黒鉛粒子、32B 第2黒鉛粒子