(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-09-24
(45)【発行日】2025-10-02
(54)【発明の名称】スピーカ取付部材、スピーカ取付構造及び移動体用内装体取付構造
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20250925BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20250925BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20250925BHJP
【FI】
H04R1/02 101F
H04R1/02 101A
H04R1/02 102B
H04R1/28 310B
H04R1/28 310D
B60R11/02 S
(21)【出願番号】P 2025517826
(86)(22)【出願日】2024-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2024038402
(87)【国際公開番号】W WO2025094905
(87)【国際公開日】2025-05-08
【審査請求日】2025-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023188833
(32)【優先日】2023-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000112565
【氏名又は名称】フォスター電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】左 亦根
(72)【発明者】
【氏名】笹島 学
(72)【発明者】
【氏名】胡 月
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-192493(JP,A)
【文献】特開2018-034535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0086444(US,A1)
【文献】特開2017-094926(JP,A)
【文献】特開2006-232159(JP,A)
【文献】特開2007-129539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
H04R 1/28
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピーカ装置が取り付けられる基盤部と、
前記基盤部の少なくとも一面に前記基盤部の板厚方向に隆起し、前記基盤部の共振モードにおける共振部分を囲み、さらに、前記共振部分を横切るように形成された隆起部と、
を備え
、
前記共振部分は、前記共振モードにおける変位振幅の腹とされると共に、
前記隆起部は、前記基盤部の1次共振モード及び2次共振モードにおける前記共振部分を囲むように形成されている、
スピーカ取付部材。
【請求項2】
前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部を備え、
前記隆起部は、前記開口部を囲むように形成されている
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項3】
前記隆起部は、
前記共振部分の一部を構成している、
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項4】
前記隆起部は、前記基盤部における前記共振部分を囲む部分及び当該共振部分を横切る部分のみに形成されている、
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項5】
車両用ドアの厚さ方向において、当該車両用ドアの外側の面を構成するアウターパネルと、当該車両用ドアの内側の面を構成するドアトリムと、の間に位置するインナーパネルとされている、
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項6】
前記スピーカ装置は、前記隆起部に取り付けられる
請求項2に記載のスピーカ取付部材。
【請求項7】
前記隆起部には、溝が形成されている
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項8】
前記基盤部の前面に形成された前記隆起部と、前記基盤部の背面に形成された前記隆起部とは、前記基盤部の板厚方向から見て、略同じ位置に設けられている
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項9】
前記隆起部は、前記基盤部の一の剛性部から他の剛性部へ接続されている
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項10】
繊維強化樹脂を含む材質からなる
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項11】
前記繊維強化樹脂には、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向されている
請求項
10に記載のスピーカ取付部材。
【請求項12】
前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部を備え、
前記開口部は、前記スピーカ装置の背面側の少なくとも一部を収容する有底箱状に形成されたスピーカボックスの開口とされる
請求項1に記載のスピーカ取付部材。
【請求項13】
前記スピーカボックスは、前記スピーカ装置に向かった反射音を抑制する反射抑制形状を有する
請求項
12に記載のスピーカ取付部材。
【請求項14】
請求項1から請求項
13のいずれか1項に記載のスピーカ取付部材と、
前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部に取り付けられたスピーカ装置と、を備え、
前記スピーカ取付部材は、移動体のボディパネル、前記ボディパネルに取り付けられた中間部材、又は、前記ボディパネル及び前記中間部材とされる
スピーカ取付構造。
【請求項15】
前記スピーカ装置の背面側を支持する支持体を備える
請求項
14に記載のスピーカ取付構造。
【請求項16】
前記スピーカ装置の背面側には、背面側へ放音されて反射された反射音が、スピーカ装置に戻るのを抑制するディフューザを備える
請求項
14に記載のスピーカ取付構造。
【請求項17】
請求項
14に記載のスピーカ取付構造を含み、
前記スピーカ取付部材は、移動体用内装体を取り付ける取付パネルである
移動体用内装体取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スピーカ取付部材、スピーカ取付構造及び移動体用内装体取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
実登2599532号公報には、スピーカドライバユニットが取り付けられた鉄板製のブラケットが、自動車のインナボディに、ブチル樹脂等の独立気泡の樹脂を介して取り付けられている技術が開示されている。
【0003】
ところで、スピーカ取付部材では、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することが好ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、上記事実を考慮し、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第1態様のスピーカ取付部材は、スピーカ装置が取り付けられる基盤部と、前記基盤部の少なくとも一面に前記基盤部の板厚方向に隆起し、前記基盤部の共振モードにおける共振部分を囲み、さらに、前記共振部分を横切るように形成された隆起部と、を備える。
【0006】
本開示の第2態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様のスピーカ取付部材において、前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部を備え、前記隆起部は、前記開口部を囲むように形成されている。
【0007】
本開示の第3態様のスピーカ取付部材では、本開示の第2態様のスピーカ取付部材であって、前記スピーカ装置は、前記隆起部に取り付けられる。
【0008】
本開示の第4態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様から第3態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、前記隆起部は、前記基盤部の1次共振モード及び2次共振モードにおける共振部分を囲むように形成されている。
【0009】
本開示の第5態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様から第4態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、前記隆起部には、溝が形成されている。
【0010】
本開示の第6態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様から第5態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、前記基盤部の前面に形成された前記隆起部と、前記基盤部の背面に形成された前記隆起部とは、前記基盤部の板厚方向から見て、略同じ位置に設けられている。
【0011】
本開示の第7態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様から第6態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、前記隆起部は、前記基盤部の一の剛性部から他の剛性部へ接続されている。
【0012】
本開示の第8態様のスピーカ取付部材は、本開示の第1態様から第7態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、繊維強化樹脂を含む材質からなる。
【0013】
本開示の第9態様のスピーカ取付部材では、本開示の第8態様のスピーカ取付部材であって、前記繊維強化樹脂には、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向されている。
【0014】
本開示の第10態様のスピーカ取付部材では、本開示の第1態様から第9態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材であって、前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部を備え、前記開口部は、前記スピーカ装置の背面側の少なくとも一部を収容する有底箱状に形成されたスピーカボックスの開口とされる。
【0015】
本開示の第11態様のスピーカ取付部材では、本開示の第10態様のスピーカ取付部材であって、前記スピーカボックスは、前記スピーカ装置に向かった反射音を抑制する反射抑制形状を有する。
【0016】
本開示の第12態様のスピーカ取付構造は、本開示の第1態様から第11態様のいずれか1態様のスピーカ取付部材と、前記基盤部に形成された、前記スピーカ装置の少なくとも一部が挿入される開口部に取り付けられたスピーカ装置と、を備え、前記スピーカ取付部材は、移動体のボディパネル、前記ボディパネルに取り付けられた中間部材、又は、前記ボディパネル及び前記中間部材とされる。
【0017】
本開示の第13態様のスピーカ取付構造では、本開示の第12態様のスピーカ取付構造であって、前記スピーカ装置の背面側を支持する支持体を備える。
【0018】
本開示の第14態様のスピーカ取付構造では、本開示の第12態様又は第13態様のスピーカ取付構造であって、前記スピーカ装置の背面側には、背面側へ放音されて反射された反射音が、スピーカ装置に戻るのを抑制するディフューザを備える。
【0019】
本開示の第15態様の移動体用内装体取付構造は、本開示の第12態様から第14態様のいずれか1態様のスピーカ取付構造を含み、前記スピーカ取付部材は、移動体用内装体を取り付ける取付パネルである。
【0020】
本開示の第1態様のスピーカ取付部材では、隆起部が、基盤部の共振モードにおける共振部分を囲み、さらに、共振部分を横切るように形成されていることで、共振モードにおける共振部分の振動が抑制される。そのため、スピーカ取付部材の共振によるスピーカ装置への影響が低減される。その結果、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【0021】
本開示の第2態様のスピーカ取付部材では、隆起部は、開口部を囲むように形成されていることで、スピーカ装置から基盤部に振動が伝達される基部に隆起部が形成される。そのため、スピーカ装置の振動によって、基盤部が振動することが抑制される。その結果、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【0022】
本開示の第3態様のスピーカ取付部材では、スピーカ装置は、隆起部に取り付けられていることで、スピーカ装置が、剛性の高い部分で保持される。そのため、スピーカ装置の振動によって、基盤部が振動することが抑制される。
【0023】
本開示の第4態様のスピーカ取付部材では、隆起部は、基盤部の1次共振モード及び2次共振モードにおける共振部分を囲むように形成されていることで、基盤部の振幅が大きい共振モードにおける振動が抑制される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【0024】
本開示の第5態様のスピーカ取付部材では、隆起部には、溝が形成されていることで、重量が低減される。そのため、軽量化をはかりつつ、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【0025】
本開示の第6態様のスピーカ取付部材では、基盤部の前面に形成された隆起部と、基盤部の背面に形成された隆起部とは、基盤部の板厚方向から見て、略同じ位置に設けられていることで、隆起部による基盤部の補強が強化される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能をより向上することができる。
【0026】
本開示の第7態様のスピーカ取付部材では、隆起部は、基盤部の一の剛性部から他の剛性部へ接続されていることで、スピーカ装置からスピーカ取付部材に伝達された振動が効果的に抑制される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能をより向上することができる。
【0027】
本開示の第8態様のスピーカ取付部材では、スピーカ取付部材が、繊維強化樹脂を含む材質からなることで、金属と比較して軽い材料により、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。また、スピーカ取付部材を、繊維強化樹脂の流動性を利用して、一体で成形することができる。
【0028】
本開示の第9態様のスピーカ取付部材では、繊維強化樹脂には、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向されていることで、強化繊維の偏りや絡まりによる物性のバラツキが生じにくい成形体とすることができる。
【0029】
本開示の第10態様のスピーカ取付部材では、開口部は、スピーカ装置の背面側の少なくとも一部を収容する有底箱状に形成されたスピーカボックスの開口とされることで、スピーカ装置の背面側がスピーカボックスによって覆われる。そのため、スピーカ装置の背面側に放音された音が外部に漏れることが抑制される。その結果、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【0030】
本開示の第11態様のスピーカ取付部材では、スピーカボックスは、スピーカ装置の背面に対向する底壁が反射抑制形状を有することで、スピーカ装置の背面側に放音されて反射された反射音が、スピーカ装置に戻ることが抑制される。そのため、スピーカ装置の音響性能をより向上することができる。
【0031】
本開示の第12態様のスピーカ取付構造では、スピーカ取付部材は、移動体のボディパネル、ボディパネルに取り付けられた中間部材、又は、ボディパネル及び中間部材であることで、スピーカ装置の音響性能を向上させたスピーカ取付構造とすることができる。
【0032】
本開示の第13態様のスピーカ取付構造では、スピーカ装置の背面側を支持する支持体を備えることで、スピーカ装置の磁気回路が支持される。そのため、スピーカ装置の駆動時の磁気回路の振動が抑制される。その結果、スピーカ装置の音響性能を向上させることができる。
【0033】
本開示の第14態様のスピーカ取付構造では、スピーカ装置の背面側には、背面側へ放音されて反射された反射音が、スピーカ装置に戻るのを抑制するディフューザを備えることで、スピーカ装置の背面側に放音された音が、スピーカ装置に戻ることが抑制される。そのため、スピーカ装置の音響性能を向上させることができる。
【0034】
本開示の第15態様の移動体用内装体取付構造では、スピーカ取付部材は、移動体用内装体を取り付ける取付パネルであることで、スピーカ取付部材は、スピーカ装置が取り付けられる部材とされるとともに、移動体用内装体が取り付けられる部材とされる。そのため、スピーカ取付部材は、2つの機能を有する部材とされ、簡易な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本開示によれば、簡易な構成で、スピーカ装置の音響性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】第1実施形態に係る車両用ドア構造を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るスピーカ装置取付構造を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るインナーパネルを模式的に示す正面図である。
【
図4】第1実施形態に係るインナーパネルを示す断面図であり、
図3のA-A断面を示す。
【
図5A】基盤部の解析モデルに対して、共振モードにおける周波数応答解析の結果を示すグラフであり、1次共振モードの解析結果を示している。
【
図5B】基盤部の解析モデルに対して、共振モードにおける周波数応答解析の結果を示すグラフであり、2次共振モードの解析結果を示している。
【
図5C】基盤部の解析モデルに対して、共振モードにおける周波数応答解析の結果を示すグラフであり、3次共振モードの解析結果を示している。
【
図6】基盤部の解析モデルに対して実施した応答解析の結果を、周波数と加速度の関係で示すグラフである。
【
図7】実施例と比較例に対して実施した音圧周波数測定の結果を示すグラフである。
【
図8A】インパルス応答をFFT解析した結果をウォーターフォール分析したグラフであり、比較例のグラフを示している。
【
図8B】インパルス応答をFFT解析した結果をウォーターフォール分析したグラフであり、実施例のグラフを示している。
【
図9】第2実施形態に係るインナーパネルを示す断面図である。
【
図10】第3実施形態に係るスピーカ取付構造を示す断面図である。
【
図11】第4実施形態に係るスピーカ取付構造を示す断面図である。
【
図12】第5実施形態に係るスピーカ取付構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係るスピーカ取付部材及びスピーカ取付構造7について、図面を参照して説明する。第1実施形態では、スピーカ取付部材を、車両としての自動車(移動体の一例)のドアのインナーパネル(ボディパネルの一例)とする例を説明する。なお、各図において、矢印FRは、車両前後方向の前方側を示し、矢印UPは、車両上下方向の上方側を示し、矢印OUTは、車両幅方向の外側を示している。また、スピーカ装置10から放音される放音側を前方とし、放音側とは反対方向の背面側を後方とする。
【0038】
[ドア1の構成]
図1に示すように、ドア1は、アウターパネル2と、インナーパネル20と、インナーパネル20に取り付けられたスピーカ装置10と、ドアトリム(移動体用内装体の一例)4と、を備えている。
【0039】
アウターパネル2は、金属(例えば、鋼板やアルミニウム合金)で板状に形成され、インナーパネル20の車両幅方向外側に設けられている。ドアトリム4は、樹脂等で板状に形成され、インナーパネル20の車両幅方向内側に設けられ、インナーパネル20に取り付けられている。
【0040】
インナーパネル20とアウターパネル2との車両幅方向の間には、下降したドアウィンド6が収容されるようになっている。インナーパネル20は、ドアトリム4が取り付けられる取付パネルを構成する。
【0041】
[スピーカ装置10の構成]
図2に示すように、スピーカ装置10は、ビスSによって、インナーパネル20に取り付けられている。スピーカ装置10は、磁気回路14と、コーン状の振動板17と、鉢形状のフレーム18と、を有している。
【0042】
振動板17の内縁部には、ボイスコイル15Aが巻かれたボビン15が接続され、ボビン15の振動が伝達されるようになっている。振動板17の外縁部は、フレーム18のフランジ部18Aに取り付けられている。
【0043】
フレーム18の底部18Bには、磁気回路14が取り付けられている。磁気回路14は、ヨーク11と、円板状のマグネット12と、円板状のポールピース13と、を備えている。磁気回路14の磁気ギャップGには、ボイスコイル15Aが配置されている。
【0044】
このように構成されたスピーカ装置10では、オーディオアンプ(図示せず)から出力された音声信号に基づいて、ボイスコイル15Aに駆動電流が与えられる。磁気回路14が形成する磁束をボイスコイル15Aが横断することで、磁束と駆動電流とで励起される電磁力により、ボビン15を介して、振動板17が振動し、振動板17の前方及び後方に音が放射される。
【0045】
[インナーパネル20の構成]
インナーパネル20は、例えば、樹脂で形成することができる。インナーパネル20を形成する樹脂は、熱可塑性樹脂を主成分とするものでも、熱硬化性樹脂を主成分とするものでも、難燃剤や強化繊維など任意の成分も含むものであってもよい。
【0046】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)、ポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルニトリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ポリベンゾイミダゾール樹脂等を挙げることができる。
【0047】
インナーパネル20を形成する樹脂は、強化繊維を含む繊維強化樹脂を含むことが、機械物性の観点から好ましい。
【0048】
強化繊維の種類は、特に限定されるものではなく、無機繊維及び有機繊維のいずれであってもよい。
【0049】
無機繊維としては、例えば、炭素繊維、活性炭繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、タングステンカーバイド繊維、シリコンカーバイド繊維(炭化ケイ素繊維)、セラミックス繊維、アルミナ繊維、天然鉱物繊維(玄武岩繊維など)、ボロン繊維、窒化ホウ素繊維、炭化ホウ素繊維、及び金属繊維等を挙げることができる。有機繊維としては、例えば、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート等からなる繊維を挙げることができる。強化繊維は、連続繊維でも、特定の長さの不連続繊維でもよい。連続繊維としては、織物、編物、又は複数の強化繊維糸条を一方向に配置した形態のものなどが例示される。
【0050】
インナーパネル20を形成する樹脂は、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向して樹脂成分(マトリクス樹脂)中に存在している繊維強化樹脂を含む材質からなると、インナーパネル20の製造における樹脂材料を成形する段階の製造効率が高く好ましい。
【0051】
強化繊維のランダム配向については、国際公開2007/020910号又は国際公開2012/165418号に記載の方法で得られる成形体のように、その面内方向において強化繊維が特定方向に配列していないが、厚み方向を向いているものが極めて少ない、いわゆる2次元ランダム配向であると、物性に優れ、且つ不要時に再利用(再成形)し易く好ましい。
【0052】
繊維強化樹脂の成形材料や成形体に含まれる強化繊維が2次元ランダム配向であることについて、特に数値的に定義したい場合は、特開2012-246428号に示されているように、強化繊維に関して、面配向度σ=100×(1-(面配向角γが10°以上の強化繊維本数)/(全強化繊維本数))で定義される面配向度σが90%以上である状態を好ましい2次元ランダム配向としてもよい。
【0053】
重量平均繊維長が100mm以下の強化繊維であると、強化繊維の偏りや絡まりによる物性のバラツキが生じにくい成形体となり好ましい。重量平均繊維長は、1~100mmであるとより好ましく、3~80mmであると更に好ましく、5~60mmであると特に好ましい。
【0054】
図1に示すように、インナーパネル20は、基盤部30と、剛性部21と、スピーカボックス22と、を有している。
【0055】
(基盤部30)
基盤部30は、車両幅方向を板厚方向とした板状に形成されている。
図2及び
図3に示すように、基盤部30は、車両前後方向を長軸方向とし、車両上下方向を短軸方向とした矩形の板状に形成されている。基盤部30の板厚は、例えば、1.5mmとすることができる。基盤部30に形成された開口部38Aには、スピーカ装置10の背面側が挿入されて取り付けられている。スピーカ装置10は、振動板17が車両幅方向内側を向いた姿勢で、配置されている。スピーカ装置10の背面側は、後述するスピーカボックス22に収容されている。なお、基盤部30には、サービスホール等の開口を設けてもよい。
【0056】
図3及び
図4に示すように、基盤部30は、基盤部30の前面(車両幅方向内側面)から基盤部30の板厚方向に略矩形に隆起した隆起部32が形成されている。隆起部32の高さは、例えば、1mmとすることができる。なお、隆起部32は、基盤部30の前面から基盤部30の板厚方向に略円形に隆起して形成してもよいし、断面略U字のビード状に形成されてもよい。
【0057】
隆起部32は、第1隆起部33と、第2隆起部34と、第3隆起部35と、第4隆起部36と、を備えている。
【0058】
第1隆起部33は、基盤部30の外周縁付近に形成されている。第1隆起部33は、基盤部30の短軸方向に延在して形成されたものと、基盤部30の長軸方向に延在して形成されたものと、を備えている。基盤部30の短軸方向に延在して形成された第1隆起部33は、基盤部30の上下に形成された後述する剛性部21(
図1参照)に接続されている。
【0059】
第2隆起部34は、基盤部30の短軸方向に延在した第1隆起部33の間を接続するように形成されている。第2隆起部34は、基盤部30の長軸方向に延在した第1隆起部33の間を接続するように形成されている。第2隆起部は、基盤部30の共振モードにおける共振部分Rを囲むように形成されている。共振部分Rとは、共振モードにおける基盤部30に生じる振幅の腹と節のうち、振幅の腹の部分とされる。すなわち、共振部分Rは、共振モードにおける振幅が大きく表れる変位振幅の腹であり、基盤部30の板厚方向の振幅の大きい部分とされる。第2隆起部34は、基盤部30の1次共振モードにおける共振部分R1と、基盤部30の2次共振モードにおける共振部分R2と、を囲むように略矩形に形成されると、剛性を維持しつつ、第2隆起部34の体積を低減することができる。なお、第2隆起部34は、基盤部30の1次共振モードにおける共振部分R1と、基盤部30の2次共振モードにおける共振部分R2と、を囲むように略円形に形成されてもよい。
【0060】
第3隆起部35は、基盤部30の短軸方向に延在した第1隆起部33の間を接続するように形成されている。第3隆起部35は、共振部分Rを基盤部30の短軸方向に横切るように形成されている。
【0061】
第4隆起部36は、開口部38Aを囲むように円形に形成されている。スピーカ装置10は、第4隆起部36にフレーム18のフランジ部18Aが接触して、基盤部30に取り付けられてもよい。
【0062】
(剛性部21)
図1に示すように、剛性部21は、基盤部30の上端と下端に形成されている。剛性部21とは、インナーパネル20のうち、基盤部30の板厚方向の曲げ剛性と比較して、形状的に曲げ剛性が高い部分とされる。第1実施形態では、剛性部21と基盤部30との境界を屈曲の起点としている。剛性部21としては、インナーパネル20の屈曲部や、インナーパネル20に対して補強構造が設けられた部分とされる。
【0063】
基盤部30の上端に形成された剛性部21は、車両幅方向外側に湾曲するように形成されている。基盤部30の下端に形成された剛性部21は、車両幅方向外側に屈曲するように形成されている。隆起部32は、基盤部30の上端に形成された剛性部21と、基盤部30の下端に形成された剛性部21と、を接続されるように形成されている。
【0064】
(スピーカボックス22)
図2に示すように、スピーカボックス22は、側壁24と、底壁23とで、車両幅方向内側面が開放した有底箱状に形成されている。スピーカボックス22は、スピーカ装置10の背面側を収容するように箱状に形成されている。スピーカボックス22は、スピーカ装置10の振動板17の一部と、磁気回路14を収容している。スピーカ装置10の背面側を収容するスピーカボックスの開口は、基盤部30の開口部38Aとされる。
【0065】
側壁24は、車両幅方向に延在した筒状に形成されている。底壁23は、側壁24の車両幅方向外側の端部を塞ぐ板状に形成されている。なお、側壁24は、円筒状に形成されてもよいが、径方向の共鳴を抑制する観点から矩形の筒状とすることが好ましい。
【0066】
スピーカボックス22は、反射抑制形状を有してもよい。反射抑制形状とは、スピーカ装置10の背面側に放音された音が、スピーカボックス22において、スピーカ装置10に向かう方向への反射が抑制される形状とされる。反射抑制形状は、例えば、底壁23が車両上下方向に対して、傾斜した形状とされる。
【0067】
なお、反射抑制形状としては、底壁23が車両前後方向に対して、傾斜した形状としてもよいし、底壁23や側壁24に凹凸形状を設けてもよいし、底壁23を球状やラグビーボール状を含むラウンド形状としてもよい。また、反射抑制形状としては、側壁24を車両幅方向に対して傾斜した形状としてもよいし、スピーカボックスを円錐体状に形成してもよい。
【0068】
[インナーパネル20の製造方法]
インナーパネル20は、例えば、プレス成型で形成された基盤部30、剛性部21及びスピーカボックス22に対して、射出成型により隆起部32を形成することで製造することができる。なお、インナーパネル20の製造方法は、この態様に限定されるものではなく、プレス成型で形成されてもよいし、射出成型で形成されてもよいし、公知の方法で形成されてもよい。
【0069】
[隆起部32の形状決定方法]
隆起部32は、周波数応答解析を実施して、共振モードの共振部分Rを把握してから、トポロジー解析により、共振部分Rの振動を抑えるために必要な、トポロジー解析により定まる形状として、形成される。さらに、隆起部32は、過度の応力集中がかからず、射出成型で隆起部を形成する場合に、樹脂の流動性が容易となる滑らかな形状を有するものとして形成される。隆起部が滑らかな形状とされることで、応力集中が緩和され、共振部分Rの振動がより抑制され、成型時の樹脂の流動性も向上するといった効果をもたらす。
【0070】
基盤部30に対して、スピーカ装置10の質量を質点M(
図5A参照)として付加して解析モデル化した基盤部モデル30Aに対して、共振モードにおける周波数応答解析を実施した。質点Mは、スピーカ装置10のZ軸に対する質量の点であり、この質点Mに対してスピーカ装置10の重さが入力され、開口部38Aの縁に剛体要素で接続されている。
【0071】
図5Aに示すように、基盤部モデル30Aの1次共振モードでは、スピーカ装置10を取り付けた開口部38A寄りの共振部分R1が形成されている。
【0072】
図5Bに示すように、基盤部モデル30Aの2次共振モードでは、基盤部モデル30Aの左右(主に、スピーカ装置10が取り付けられていない右側)に共振部分R2が形成された。
【0073】
図5Cに示すように、基盤部モデル30Aの3次共振モードでは、基盤部モデル30Aの対角線に沿うように、斜めに傾斜した共振部分R3が形成された。
【0074】
ここで、
図6に示すように、3次共振モードの共振部分R3の加速度T3は、1次共振モードの共振部分R1の加速度T1及び2次共振モードの共振部分R2の加速度T2と比較して、小さい傾向にある。言い換えると、3次共振モードの共振部分R3における振幅は、1次共振モードの共振部分R1の振幅及び2次共振モードの共振部分R2の振幅と比較して、小さい傾向にある。すなわち、3次共振モード以上の共振部分における振幅は、スピーカ装置10の音響性能に大きな影響を与えないことが分かる。
【0075】
このことから、第1実施形態では、基盤部30の1次共振モードにおける共振部分R1と、基盤部30の2次共振モードにおける共振部分R2と、を抑えるように、トポロジー解析により、隆起部32の形状を決定した。トポロジー解析では、隆起部32は、基盤部30の1次共振モード及び2次共振モードの共振部分Rを囲むように形成されることが好ましいことが分かった。また、隆起部32は、1次共振モード及び2次共振モードの共振部分Rを短軸方向に横切るように形成されることが好ましいことが分かった。さらに、隆起部32は、開口部38Aを囲むように形成されることが好ましいことが分かった。
【0076】
[効果確認実験]
第1実施形態のインナーパネル20の効果を確認するために実験を行った。実験では、実施例として、隆起部32を形成した基盤部30を模擬した実施例モデルと、比較例として、隆起部32を形成しない比較例モデルと、を用意した。
【0077】
実施例モデルは、基盤部30を模擬した繊維強化樹脂製の板とした。実施例モデルは、厚さ1.5[mm]の矩形の板とした。実施例モデルの隆起部の高さは、1.0[mm]とした。実施例モデルの開口部には、スピーカ装置10を取り付けた。
【0078】
比較例モデルは、厚さ1.0[mm]のアルミニウム製の矩形の板とした。比較例モデルの開口部には、スピーカ装置10を取り付けた。
【0079】
実験では、無響室において、実施例モデル及び比較例モデルの夫々に対して、周縁を固定して配置し、スピーカ装置10に対して、入力パワーを1[W]として、スイープサインの入力信号を入力した。そして、実施例モデル又は比較例モデルから1[m]離れた場所において、マイクロフォンにより集音した。測定機器としては、エタニ電機製のオーディオサウンドアナライザ(ASA-10mkII)を使用した。
【0080】
図7に示すように、比較例モデルには、200[Hz]以下の周波数帯域において、大きいディップが生じた。一方、実施例モデルには、特性上のディップは見られなかった。
【0081】
さらに、
図8A及び
図8Bは、インパルス応答をFFT(Fast Fourier Transform)解析した結果をウォーターフォール分析したグラフである。
図8Aに示す比較例モデルは、
図8Bに示す実施例モデルと比較して、音が長い時間残っていることが分かった。
【0082】
[作用]
第1実施形態のインナーパネル20は、スピーカ装置10が取り付けられる基盤部30と、基盤部30の少なくとも一面に、基盤部30の板厚方向に隆起して形成された隆起部32であって、基盤部30の共振モードにおける共振部分Rを囲むように形成され、さらに、共振部分Rを横切るように形成された隆起部32と、を備える(
図3参照)。
【0083】
隆起部32が、基盤部30の共振モードにおける共振部分Rを囲むように形成され、さらに、共振部分Rを横切るように形成されていることで、共振モードにおける共振部分Rの振動が抑制される。そのため、インナーパネル20の共振によるスピーカ装置10への影響が低減される。その結果、簡易な構成で、スピーカ装置10の音響性能を向上することができる。
【0084】
しかも、所定の位置に隆起部32を設けることで、共振モードにおける共振部分Rの振動が抑制されることから、基盤部30の板厚を薄くすることができる。そのため、インナーパネル20の軽量化を図ることもできる。
【0085】
第1実施形態のインナーパネル20では、基盤部30に形成された、スピーカ装置10の少なくとも一部が挿入される開口部38Aを備え、隆起部32は、開口部38Aを囲むように形成されている(
図3参照)。
【0086】
隆起部32は、開口部38Aを囲むように形成されていることで、スピーカ装置10の振動が基盤部30に伝達される基部に隆起部32が形成される。そのため、スピーカ装置10の振動によって、基盤部30が振動することが抑制される。その結果、簡易な構成で、スピーカ装置10の音響性能を向上することができる。
【0087】
第1実施形態のインナーパネル20では、スピーカ装置10は、隆起部32に取り付けられている(
図3参照)。
【0088】
スピーカ装置10は、隆起部32に取り付けられていることで、スピーカ装置10が、剛性の高い部分で保持される。そのため、スピーカ装置10の振動によって、基盤部30が振動することがより抑制される。また、スピーカ装置10の取付部位を補強することができる。
【0089】
ところで、基盤部30の3次共振モード以上においては、基盤部30の振動の影響が少なくなる。
【0090】
第1実施形態のインナーパネル20では、隆起部32は、基盤部30の1次共振モード及び2次共振モードにおける共振部分Rを囲むように形成されている(
図3参照)。
【0091】
隆起部32は、基盤部30の1次共振モード及び2次共振モードにおける共振部分Rを囲むように形成されていることで、基盤部30の振幅が大きい共振モードにおける振動が抑制される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置10の音響性能を向上することができる。
【0092】
第1実施形態のインナーパネル20では、隆起部32は、基盤部30の一の剛性部21から他の剛性部21へ接続されている(
図1参照)。
【0093】
隆起部32は、基盤部30の一の剛性部21から他の剛性部21へ接続されていることで、スピーカ装置10からインナーパネル20に伝達された振動が効果的に抑制される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置10の音響性能をより向上することができる。
【0094】
第1実施形態のインナーパネル20は、繊維強化樹脂を含む材質からなる。
【0095】
インナーパネル20が、繊維強化樹脂を含む材質からなることで、金属と比較して軽い材料により、スピーカ装置10の音響性能をより向上することができる。また、インナーパネル20を、繊維強化樹脂の流動性を利用して、一体で成形することができる。
【0096】
第1実施形態のインナーパネル20は、繊維強化樹脂には、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向されている。
【0097】
繊維強化樹脂には、重量平均繊維長100mm以下の強化繊維がランダム配向されていることで、強化繊維の偏りや絡まりによる物性のバラツキが生じにくい成形体とすることができる。
【0098】
第1実施形態のインナーパネル20では、開口部38Aは、スピーカ装置10の背面側の少なくとも一部を収容する有底箱状に形成されたスピーカボックス22の開口とされる(
図2参照)。
【0099】
開口部38Aは、スピーカ装置10の背面側の少なくとも一部を収容する有底箱状に形成されたスピーカボックス22の開口とされることで、スピーカ装置10の背面側がスピーカボックス22によって覆われる。そのため、スピーカ装置10の背面側に放音された音が外部に漏れることが抑制される。その結果、スピーカ装置10の音響性能をより向上することができる。しかも、スピーカ装置10の背面側がスピーカボックス22によって覆われるため、スピーカ装置10の背面側に放音された音圧の制御が可能となる。
【0100】
第1実施形態のインナーパネル20では、スピーカボックス22は、スピーカ装置10の背面側に放音された音の、スピーカ装置10に向かった反射を抑制する反射抑制形状を有する(
図2参照)。
【0101】
スピーカボックス22は、スピーカ装置10の背面側に放音された音の、スピーカ装置10に向かった反射を抑制する反射抑制形状を有することで、スピーカ装置10の背面側に放音された音が、スピーカボックス22において反射され、スピーカ装置10に戻ることが抑制される。そのため、スピーカ装置10の音響性能をより向上することができる。ところで、スピーカボックス22にスピーカ装置10の振動板17の振動方向に直交した平面(スピーカ装置10から等距離の平面)がある場合、定在波が生じ、スピーカボックス22の中で共鳴が生じる可能性がある。これに対し、スピーカボックス22が反射抑制形状を有することで、振動板17の動きを邪魔しないように、同じ周波数の波が同じ距離で反射しないようにして、スピーカボックス22の中の共鳴を防ぐことができる。
【0102】
第1実施形態の移動体用内装体取付構造では、インナーパネル20は、ドアトリム4を取り付ける取付パネルである(
図1参照)。
【0103】
インナーパネル20は、ドアトリム4を取り付ける取付パネルであることで、インナーパネル20は、スピーカ装置10が取り付けられる部材とされるとともに、ドアトリム4が取り付けられる部材とされる。そのため、インナーパネル20は、2つの機能を有する部材とされ、簡易な構成とすることができる。
【0104】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のスピーカ取付部材は、隆起部の構成が異なる点で、第1実施形態のスピーカ取付部材と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。
【0105】
[構成]
図9に示すように、隆起部132は、基盤部30の前面から基盤部30の板厚方向に隆起して形成されるとともに、基盤部30の背面から基盤部30の板厚方向に隆起して形成されている。言い換えると、隆起部132は、基盤部30の前面側と、基盤部30の背面側と、に形成されている。基盤部30の前面側に形成された隆起部132と、基盤部30の背面側に形成された隆起部132とは、基盤部30の板厚方向から見て、略同じ位置に設けられている。
【0106】
隆起部132の先端面には、隆起部132の延在方向に沿って形成された断面矩形の溝132Aが形成されている。溝の形状は、この態様に限定されず、例えば、隆起部132の延在方向に沿って形成された断面円形の溝とされてもよい。
【0107】
[作用]
隆起部132には、溝が形成されていることで、重量が低減される。そのため、軽量化をはかりつつ、スピーカ装置10の音響性能を向上することができる。
【0108】
また、基盤部30の前面に形成された隆起部132と、基盤部30の背面に形成された隆起部132とは、基盤部30の板厚方向から見て、略同じ位置に設けられていることで、隆起部132による基盤部30の補強が強化される。そのため、簡易な構成で、スピーカ装置10の音響性能をより向上することができる。
【0109】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0110】
〔第3実施形態〕
第3実施形態のスピーカ取付構造7は、スピーカ装置の取付構造が異なる点で、第1実施形態のスピーカ取付部材と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。
【0111】
[構成]
図10に示すように、スピーカ装置10の背面側には、スピーカ装置10の磁気回路14を支持する支持体41を備えている。支持体41は、例えば、弾性体や粘弾性体で形成することができる。粘弾性体により支持体41を形成した場合、磁気回路から生じる衝撃を粘弾性体で吸収できる。なお、支持体は、この態様に限定されず、スピーカ装置10の重心位置を支持し、スピーカ装置10の背面側に放音された音の、スピーカ装置10に向かった反射を抑制する反射抑制形状を備える構造であってもよい。また、支持体は、例えば、底壁23をスピーカ装置側に突出させた円錐台形やその傾斜面を曲面で形成した形状としてもよい。
【0112】
[作用]
スピーカ装置10の背面側を支持する支持体41を備えることで、スピーカ装置10の磁気回路が支持される。そのため、スピーカ装置10の駆動時の磁気回路の振動が抑制される。その結果、スピーカ装置10の音響性能を向上させることができる。
【0113】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0114】
〔第4実施形態〕
第4実施形態のスピーカ取付構造7は、スピーカ装置の取付構造が異なる点で、第1実施形態のスピーカ取付部材と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。
【0115】
[構成]
図11に示すように、スピーカ装置10の背面側には、そのスピーカ装置10の背面側へ放音されてスピーカボックス22の底壁23で反射された反射音が、スピーカ装置10に戻るのを抑制するディフューザ42を備えている。ディフューザ42は、窪みを有する略椀状に形成され、ボトム部42Aがフレーム18の底部18Bに取り付けられている。
【0116】
[作用]
スピーカ装置10の背面側には、背面側へ放音されて反射された反射音が、スピーカ装置10に戻るのを抑制するディフューザ42を備えることで、スピーカ装置10の背面側に放音された音が、スピーカ装置10に戻ることが抑制される。そのため、スピーカ装置10の音響性能を向上させることができる。
【0117】
なお、インナーパネル20は、スピーカボックス22を有さなくてもよい。例えば、インナーパネル20には、板厚方向に貫通する貫通孔としての開口部が形成されてもよいし、筒状に形成された側壁が形成されてもよい。このような場合、スピーカ装置10の背面側に放音された音は、アウターパネル2で反射されることになる。ここで、スピーカ装置10にディフューザ42を取り付けることが好ましい。これにより、アウターパネル2から反射された反射音が、スピーカ装置10に戻るのが抑制され、スピーカ装置10の音響性能を向上させることができる。また、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0118】
〔第5実施形態〕
第5実施形態のスピーカ取付構造7は、スピーカ装置の取付構造が異なる点で、第1実施形態のスピーカ取付部材と相違する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同様の用語又は同様の符号を用いて説明する。
【0119】
図12に示すように、スピーカ取付部材は、インナーパネル20に取り付けられた中間部材130と、インナーパネル20とされる。中間部材130は、板状に形成され、スピーカボックス22を覆うように取り付けられている。中間部材130に形成された開口部138Aには、スピーカ装置10の背面側が挿入されて取り付けられている。中間部材130は、ビスSによって、インナーパネル20に取り付けられている。なお、インナーパネル20を金属製にして、スピーカ取付部材を中間部材130としてもよいし、中間部材130を金属製にして、スピーカ取付部材をインナーパネル20としてもよい。このような構成であっても、上記第1実施形態と略同様の作用効果を有する。
【0120】
以上、本開示を、第1実施形態から第5実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。
【0121】
第1実施形態から第5実施形態では、スピーカ取付部材の材質は、樹脂で形成されている例を示した。しかし、スピーカ取付部材の材質は、この態様に限定されるものではなく、例えば、鉄やアルミニウム等の金属とすることもできる。
【0122】
第1実施形態から第5実施形態では、隆起部32,132は、基盤部30に設けられる例を示した。しかし、隆起部は、スピーカボックスにも設けられてよい。
【0123】
第1実施形態から第5実施形態では、隆起部32,132は、共振部分Rを基盤部30の短軸方向に横切るように形成される例を示した。しかし、隆起部は、共振部分Rを基盤部30の長軸方向に横切るように形成されてもよいし、共振部分Rを基盤部30の長軸方向に対して傾斜した方向に横切るように形成されてもよい。
【0124】
第1実施形態から第5実施形態では、隆起部32は、開口部38Aを囲むように形成されている例を示した。しかし、隆起部は、開口部38Aを囲まないようにしてもよい。
【0125】
第1実施形態から第5実施形態では、隆起部の高さを一定とする例を示した。しかし、隆起部の高さは、一定でなくてもよい。例えば、隆起部の高さは、基盤部の中央に近付く程、低くすることで、軽量化と剛性確保の両方を確保できる。
【0126】
第1実施形態から第5実施形態では、スピーカボックス22は、基盤部30と一体で設けられる例を示した。しかし、スピーカボックスは、基盤部と別体で設けられてもよい。この場合、スピーカボックスを基盤部とは異なる材料で形成してもよい。また、スピーカボックスは、基盤部に設けられなくてもよい。この場合、インナーパネルには、例えば、板厚方向に貫通する貫通孔としての開口部が形成されてもよいし、筒状に形成された側壁が形成されてもよい。
【0127】
第1実施形態から第5実施形態では、隆起部32は、基盤部30の1次共振モードにおける共振部分R1と、基盤部30の2次共振モードにおける共振部分R2と、を囲むように形成される例を示した。しかし、隆起部は、基盤部30の3次共振モード以上における共振部分も囲むように形成されてもよい。
【0128】
第1実施形態では、スピーカボックス22は、反射抑制形状を有し、第3実施形態では、スピーカ装置10の背面側には、支持体41を備え、第4実施形態では、スピーカ装置10の背面側には、ディフューザ42を備える例を示した。しかし、スピーカ取付構造は、反射抑制形状、ディフューザ及び支持体41を備えなくてもよいし、反射抑制形状、ディフューザ及び支持体41の少なくとも1つを備えていてもよい。
【0129】
第1実施形態から第5実施形態では、基盤部及び中間部材は、スピーカ装置10の背面側が挿入されて取り付けられる開口部を備える例を示した。しかし、基盤部及び中間部材は、開口部を備えなくてもよい。
【0130】
第1実施形態から第5実施形態では、スピーカ取付部材が移動体としての自動車のドアに取り付けられる例を示した。しかし、スピーカ取付部材は、自動車の内装体(例えば、ピラーやヘッドライニング)に取り付けられてもよいし、他の移動体の移動体用内装体に取り付けられてもよい。他の移動体としては、電車や小型モビリティーといった自動車以外の車両、船舶、航空機等としてもよい。
【0131】
2023年11月2日に出願された日本国特許出願2023-188833号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。